説明

エポキシ樹脂組成物

【課題】有機溶媒への溶解性に優れ、かつ速硬化性を示す硬化促進剤を有効成分として含有するエポキシ樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】硬化性エポキシ樹脂と、該エポキシ樹脂用硬化剤と、下記の一般式(1)で表されるアルキル(又はアリル)トリフェニルホスホニウムチオシアネートとを含有することを特徴とするエポキシ樹脂組成物。


(式中、Rは、炭素数1〜16の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキル基またはアリル基を示す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電気電子部品用絶縁材料(高信頼性半導体封止材料等)及び積層板(プリント配線板、ビルドアップ基板等)や炭素繊維強化プラスチック(CFRP)を始めとする各種複合材料、接着剤、塗料など、中でも特に積層板等の用途に有効である硬化性樹脂組成物を与えるエポキシ樹脂用硬化促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂組成物は作業性及びその硬化物の優れた電気特性、耐熱性、接着性、耐湿性(耐水性)等により電気・電子部品、構造用材料、接着剤、塗料等の分野で幅広く用いられている。
しかし、近年、電気・電子分野においては、その発展に伴い、樹脂組成物の高純度化をはじめ耐湿性、密着性、誘電特性、フィラーを高充填させるための低粘度化、成形サイクルを短くするための反応性アップ等の一層の向上が求められている。
特に積層板等の用途に有効である硬化性樹脂組成物にあっては、硬化物の優れた電気特性、耐熱性、接着性、耐湿性(耐水性)等はもとより、初期硬化時において、低粘度時間の長期化および一定温度に加熱後は急速に硬化する(以下、「鍋底型粘度曲線」と呼ぶ)といった性質も求められている。
このような樹脂組成物を得るためには、次式(2)で表されるテトラフェニルホスホニウムチオシアネート(以下、TPP−SCNと略す)が硬化促進剤として有効だということが開示されている(非特許文献1)。
【化1】

【0003】
しかし、樹脂組成物をメチルエチルケトン(MEK)などの溶媒に溶解(ワニス化)して用いる際、硬化促進剤としてTPP−SCNを用いると、TPP−SCNは溶媒への溶解度が低いため、結晶として析出してしまうという問題があった。硬化促進剤が析出すると沈降し、樹脂組成物が不均一となり、硬化が不十分になるなどの問題点が挙げられる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】「エポキシ樹脂の配合設計と高機能化」、サイエンス&テクノロジー発行、2008年、「第2章 第5節 リン系硬化促進剤の特性と使い方」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、有機溶媒への溶解性に優れ、かつ速硬化性を示す硬化促進剤を有効成分として含有し、硬化時に鍋底型粘度曲線を示すエポキシ樹脂組成物、および該エポキシ樹脂組成物を溶剤に溶解しても均一であるワニスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の課題を解決するために検討を重ねた結果、次の知見を得た。
下記一般式(1)
【化2】

(式中、Rは、炭素数1〜16の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキル基またはアリル基を示す。)で表されるアルキル(又はアリル)トリフェニルホスホニウムチオシアネートが有機溶媒に対する溶解度が高く、かつ硬化促進剤としてTPP−SCNと同等の速硬化性を示すことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明の要旨は、次のとおりに要約される。
〔1〕(a)エポキシ樹脂、(b)エポキシ樹脂用硬化剤、(c)硬化促進剤として、上記一般式(1)で表されるアルキル(又はアリル)トリフェニルホスホニウムチオシアネートとを含有することを特徴とする、エポキシ樹脂組成物。
〔2〕〔1〕記載のエポキシ樹脂組成物を溶剤に溶解してなるワニス。
【発明の効果】
【0008】
本発明に含まれる硬化促進剤は、速硬化性を有しながら有機溶媒への溶解性に優れ、極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】後述する実施例及び比較例で得たレオメーター測定の図である。
【図2】後述する実施例及び比較例で得た熱時硬度測定の図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明のエポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂と、硬化剤と、前記一般式(1)で表される化合物からなる硬化促進剤とを含む組成物である。
【0011】
<エポキシ樹脂>
エポキシ樹脂としては、エポキシ基を分子中に2個以上含有するエポキシ樹脂を制限なく使用することができる。例えば、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、および脂環式エポキシ樹脂などが挙げられる。
エポキシ樹脂は単独で、又は2種類以上を混合して使用することができる。
【0012】
<硬化剤>
硬化剤としては、フェノール樹脂、酸無水物、アミン系硬化剤などを挙げることができる。
本発明のエポキシ樹脂組成物において硬化剤の使用量は、エポキシ樹脂のエポキシ基1当量に対して0.8〜1.2当量程度とするのが好ましい。上記範囲であれば硬化反応が十分に進行する。
【0013】
<硬化促進剤>
本発明のエポキシ樹脂組成物は前記一般式(1)で表される化合物が硬化促進剤として含まれる。本発明のエポキシ樹脂組成物は、使用される硬化促進剤が有機溶媒への溶解性に優れ、かつ速硬化性のため、硬化時の鍋底型粘度曲線特性に優れ、該エポキシ樹脂組成物を溶剤に溶解して得られるワニスの均一性に優れる。
一般式(1)で表される化合物は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
一般式(1)で表される化合物の含有量は、エポキシ樹脂100重量部に対して、0.1〜10重量部程度とするのが好ましい。上記範囲であれば、十分な硬化速度が得られる。
なお、上記硬化促進剤は公知物質であり、該ホスホニウムハライドとチオシアン酸塩を原料とするホスホニウムチオシアネートであり、公知の方法で簡便に合成することが出来る。
【0014】
<その他の成分>
本発明においては、膨張係数を小さくするために、公知の各種無機充填剤を使用することができる。例えば、溶融シリカ、結晶シリカ、アルミナ、窒化アルミニウム等を挙げることができる。またそれらは、シランカップリング剤などのカップリング剤で表面処理してもよい。その他、エポキシ樹脂系組成物に添加される公知の添加剤が含まれていてもよい。添加剤としては、イオントラップ剤、離型剤、カーボンブラックなどの顔料などが挙げられる。
【0015】
<エポキシ樹脂組成物>
本発明のエポキシ樹脂組成物は、上記各成分を均一に混合することにより得られる。そして、本発明のエポキシ樹脂組成物は従来知られる方法と同様の方法で容易にその硬化物とすることができる。例えば、エポキシ樹脂、硬化剤、硬化促進剤、並びに無機充填剤、配合剤、各種硬化性樹脂などとを必要に応じて押出機、ニーダ、ロール等を用いて均一になるまで十分に混合することにより本発明の硬化性樹脂組成物を得て、その硬化性樹脂組成物を溶融注型法あるいはトランスファー成型法、圧縮成型法などによって成型し、さらに80〜200℃で2〜10時間加熱することにより硬化物を得ることが出来る。
【0016】
また、本発明のエポキシ樹脂組成物は場合により溶剤を含んでいてもよい。溶剤を含むエポキシ樹脂組成物(ワニス)はガラス繊維、カーボン繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、アルミナ繊維、紙などの基材に含浸させ加熱乾燥して得たプリプレグを熱プレス成形することにより、本発明のエポキシ樹脂組成物の硬化物とすることが出来る。この硬化性樹脂組成物の溶媒含有量は、本発明のエポキシ樹脂組成物と該溶剤の総量に対して通常10〜70重量%、好ましくは15〜70重量%程度である。また、上記ワニスに使用できる該溶剤としては例えばγ−ブチロラクトン類、アミド系溶剤であるN−メチルピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルイミダゾリジノン等、スルフォン類であるテトラメチレンスルフォン等、エーテル系溶剤であるジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルモノアセテート、プロピレングリコールモノブチルエーテル等、好ましくは低級アルキレングリコールモノ又はジ低級アルキルエーテル、ケトン系溶剤であるメチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)等、好ましくは2つのアルキル基が同一でも異なってもよいジ低級アルキルケトン、芳香族系溶剤であるトルエン、キシレン等が挙げられる。これらは単独であっても、また2以上の混合溶媒であってもよい。
【0017】
また、剥離フィルム上に上記ワニスを塗布し加熱下で溶剤を除去、Bステージ化を行うことによりシート状の接着剤を得ることができる。このシート状接着剤は多層基板などにおける層間絶縁層として使用することができる。
【0018】
本発明を構成する前記一般式(1)の化合物についての製造方法の合成例を示す。また、これを用いた本発明の樹脂組成物の実施例を示し、本発明の有用性について具体的に説明する。ただし、本発明の範囲はこれらの合成例、実施例により限定されるものではない。
【実施例】
【0019】
[合成例1]
<メチルトリフェニルホスホニウムチオシアネートの合成>
攪拌装置、還流冷却管、および温度計を装備した3Lの四つ口フラスコにメチルトリフェニルホスホニウムブロマイド178.6g(0.5モル)を投入し、メタノール360ml/水80mlに溶解させた。これに水80mlに溶解させたチオシアン酸カリウム48.6g(0.5モル)を添加し、室温で1時間攪拌し、反応を進行させた。反応終了後、減圧下濃縮によりメタノールを除去し、水層を分液により除去した。抽出溶媒として2−ブタノールを100g加え、純水100gで洗浄を3回行った。減圧下濃縮により2−ブタノールを除去し、得られたオイル状の粗生成物をテトラヒドロフラン400ml中に投入し、氷冷下晶析させた。得られた白色粉末を乾燥させると、目的とするメチルトリフェニルホスホニウムチオシアネート(以下、TPPM−SCNと略す)の白色粉末を101.6g(収率60.6%)得られた。得られた粉末の融点は109〜111℃であった。
【0020】
[合成例2]
<ブチルトリフェニルホスホニウムチオシアネートの合成>
攪拌装置、還流冷却管、および温度計を装備した3Lの四つ口フラスコにブチルトリフェニルホスホニウムブロマイド199.7g(0.5モル)を投入し、メタノール400ml/水100mlに溶解させた。これに水100mlに溶解させたチオシアン酸カリウム48.6g(0.5モル)を添加し、室温で1時間攪拌し、反応を進行させた。反応終了後、減圧下濃縮によりメタノールを除去し、水層を分液により除去した。抽出溶媒として2−ブタノールを100g加え、純水100gで洗浄を3回行った。洗浄後、減圧下濃縮により2−ブタノールを除去し、白色固体状生成物を得た。これをメタノール100ml/純水500mlで再結晶精製を行い、そして得られた白色粉末を乾燥させると、目的とするブチルトリフェニルホスホニウムチオシアネート(以下、TPPB−SCNと略す)の白色粉末を134.7g(収率71.4%)得られた。得られた粉末の融点は111〜113℃であった。
【0021】
[参考合成例]
<TPP−SCNの合成>
攪拌装置、還流冷却管、および温度計を装備した5Lの四つ口フラスコにテトラフェニルホスホニウムブロマイド209.6g(0.5モル)を投入し、メタノール1000ml/水333mlに溶解させた。これに水667mlに溶解させたチオシアン酸カリウム48.6g(0.5モル)を添加し、室温で1時間攪拌し、反応を進行させた。反応終了後、析出した生成物を濾取し、純水1000mlで洗浄を2回行い、白色粉末状生成物を得た。これを純水875ml/メタノール875mlで再結晶精製を行い、さらに純水1000mlで洗浄を2回行った。得られた白色結晶を乾燥させると、目的とするTPP−SCNの白色結晶を160.9g(収率81.0%)得られた。得られた結晶の融点は300℃以上であった。
【0022】
〔実施例1〕
エポキシ樹脂用硬化剤のMEH−7851M(水酸基当量214、明和化成社製)21.8重量部(エポキシ樹脂中のエポキシ当量に対して硬化剤中の水酸基当量の当量比を1.0とする)に、硬化促進剤として合成例1で得られたTPPM−SCNを0.3重量部加え、150℃で5分加熱下に攪拌・混合した後、室温まで冷却した。これにエポキシ樹脂のNC−3000(エポキシ当量190、日本化薬社製)28.0重量部を加え、130℃で90秒加熱下に攪拌・混合した後、室温まで冷却しエポキシ樹脂組成物を得た。
【0023】
〔実施例2〕
硬化促進剤のTPPM−SCNに代えて、合成例2で得られたTPPB−SCNを使用した以外は、実施例1と同様にしてエポキシ樹脂組成物を得た。
【0024】
〔実施例3〕
実施例1で得られたエポキシ樹脂組成物について、メチルエチルケトン25重量部を加え、80℃まで加熱して均一に溶解させた後、室温まで冷却し、樹脂組成物の均一なワニスを得た。
本ワニスを厚さ約100μmのガラス布に含浸後、160℃で10分乾燥してプリプレグを得た。このプリプレグを4枚、その両側に12μmの銅箔を重ね、170℃、90分、4.0MPaのプレス条件で、厚さ、約0.4mmの銅張積層板を作製した。さらに、銅張積層板を銅エッチング液に浸漬することにより銅箔を取り除いた5mm角の評価基板を作製した。
【0025】
〔実施例4〕
実施例2で得られたエポキシ樹脂組成物について、実施例3と同様にして均一なワニスおよび評価基板を作製した。
【0026】
〔比較例1〕
硬化促進剤のTPPM−SCNに代えて、比較合成例で得られたTPP−SCNを使用した以外は、実施例1と同様にしてエポキシ樹脂組成物を得た。
【0027】
〔比較例2〕
比較例1で得られたエポキシ樹脂組成物について、実施例3と同様にしてワニスを得たが、結晶が析出したため、評価基板の作製は出来なかった。
【0028】
[評価方法]
<溶解度試験>
硬化促進剤を10.0g精秤し、溶媒(メチルエチルケトン、アセトン、メタノール)50mlに懸濁させ、20℃で30分攪拌した。溶け残ったサンプルを濾取、乾燥させて、重量を量り、溶解度を算出した。なお、完全にサンプルが溶解した場合は、サンプルを10.0gずつ追加し、溶け残りが生じた時点で同様に後処理を行い、溶解度を算出した。またサンプルを計50.0gになるまで添加しても完全に溶解した場合は、そこで試験を終了し、溶解度は100wt/vol%以上とした。
【0029】
<ゲル化時間測定>
エポキシ樹脂組成物のゲル化時間を175℃で熱板法により測定した。
なお、ゲル化試験器は日新科学社製GT−Dを使用した。
【0030】
<レオメーター測定>
エポキシ樹脂組成物の175℃での、レオメーターによる粘度(Pa・s)測定を実施した。
なお、レオメーターはレオテック社製コーンプレート型レオメーターRC20−CPSを使用し、コーンプレートはC25−2を用い、回転速度6.67rpm、剪断速度20(1/s)で、樹脂組成物を175℃熱板上で測定した。
【0031】
<熱時硬度測定>
エポキシ樹脂組成物の175℃での、デュロメーターによる熱時硬度測定を実施した。デュロメーターはテクロック社製デュロメーターGS−720G(JIS K6253準拠、タイプD)を使用し、樹脂組成物を175℃熱板上で測定した。
【0032】
<ガラス転移温度測定>
積層板のガラス転移温度(Tg)を熱機械分析(TMA)装置により、測定した。熱機械分析装置はマックサイエンス社製TMA−4000を使用し、昇温速度2℃/minで測定した。
【0033】
合成例1で得られたTPPM−SCN、合成例2で得られたTPPB−SCN、比較合成例で得られたTPP−SCNの、種々溶媒に対する溶解度試験を行った。結果を以下の表1に示す。
【表1】

【0034】
実施例1、2、比較例1のエポキシ樹脂組成物のゲル化時間測定、レオメーター測定、熱時硬度測定試験を行った。結果をそれぞれ表2、添付図の図1、図2に示す。
【表2】

【0035】
実施例3、4、比較例2の評価基板のガラス転移温度(Tg)の測定を行った。結果を以下の表3に示す。
【表3】

【0036】
以上の結果から、本発明の硬化促進剤を使用したエポキシ樹脂組成物は、TPP−SCNを硬化促進剤として使用したエポキシ樹脂組成物と比較して、硬化性を損なうことがなく、また硬化促進剤自体は溶媒への溶解性に優れており、有用といえる。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明のエポキシ樹脂組成物に含有される硬化促進剤は、有機溶媒への溶解性に優れ、かつ硬化性にも優れている。よって本発明のエポキシ樹脂組成物は各種の小型の電気・電子部品や半導体部品の微妙な樹脂封止はもとより、積層板等の用途に対しても有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)エポキシ樹脂、
(b)エポキシ樹脂用硬化剤、
(c)硬化促進剤として、下記一般式(1)
【化3】

(式中、Rは、炭素数1〜16の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキル基またはアリル基を示す。)で表されるアルキル(又はアリル)トリフェニルホスホニウムチオシアネートとを含有することを特徴とする、エポキシ樹脂組成物。
【請求項2】
請求項1記載のエポキシ樹脂組成物を溶剤に溶解してなるワニス。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−209150(P2010−209150A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−53948(P2009−53948)
【出願日】平成21年3月6日(2009.3.6)
【出願人】(000242002)北興化学工業株式会社 (182)
【Fターム(参考)】