説明

エマルションインク

【課題】耐擦性の優れた油中水型エマルションインクの提供
【解決手段】油中水型エマルションインクであって、油相には、粘度が約1000〜約10000センチポアズ(cP)の液状樹脂をインク総量に対して約0.1〜約10重量%含む。前記水性相には色素を含み、色素がカーボンブラックの場合、インク中に含まれる全てのカーボンブラック色素のpHが少なくとも約5である。また、前記油中水滴エマルションインクは前記水性相を前記油相に加える工程を経て製造される。当該インクは孔版印刷、特にはデジタル印刷における特定の用途に使用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、孔版印刷方法、及び、特にはデジタル印刷方法に使用する油中水滴(w/o)エマルションインクに関する。より詳しくは、本発明は、転移性及び保持性に優れた当該インクに関する。
【背景技術】
【0002】
インクの転移性及び保持性、及び、特にはインクの定着性は、孔版印刷用インクにとって重要である。印刷汚れは、先に印刷された紙のシートがプリンターに再度供給されたときに、インクの定着が悪い場合に起こり得る。例えば、二色目が印刷される場合に、印刷物はプリンターに再供給され、プリンター供給ホイールが一色目による汚れの原因となり得る。このように、既に印刷された印刷物の第二面を印刷する必要がある場合に、印刷物はプリンターに再供給され、これがインク汚れを引き起こし得るのである。
【0003】
孔版印刷物に通常起こり得る別の問題として、擦れ落ちが挙げられる。印刷物の耐擦性は、テキストへの書き込みにシャープペンシルや消しゴムが通常使用される小中学校、高校、大学のような教育機関において特に重要である。消しゴムを孔版印刷物に使用する場合、印刷画像の最表面がしばしば剥がれる。従って、そのような印刷物が、消しゴムの使用による印刷画像の剥がれに耐性があることが望ましい。
【0004】
欧州公開特許第0995779号には、遊離のカルボン酸基を有する樹脂成分、又は、高級脂肪酸を油相に含む油中水滴エマルションインクが記載されている。当該文献に記載された発明の意図は、孔版用インクの粘性、ひいては、経時的な安定性を維持することである。これは、前記樹脂成分又は高級脂肪酸と、インクの水性相に存在する一価の金属塩、及びその後の二価又は三価の金属塩との段階的な反応によって形成される、水性相と油相の界面に亘る金属石鹸の層によって達成される。
【0005】
イギリス公開特許第2408049号には、孔版印刷方法、及び、特にデジタル印刷方法に使用される、水性相に樹脂及び色素を含む油中水滴エマルションインクが記載されている。その目的は、インクの画像復元性能の最適化、即ち、プリンターがしばらく使用されていなかった場合の完全な印刷品質の回復方法である。当該文献に記載されたインクは、大まかに類似で一貫したレオロジーを示すにも関わらず、そのレオロジーを容易に制御でき、異なる色のインクを製造できるものである。
【0006】
イギリス公開特許第2420562号には、異なる二種のカーボンブラック、具体的にはpHが6未満のカーボンブラックとpHが6よりも大きいカーボンブラックの混合物を使用することによって、レオロジーの制御、及び、これに起因する孔版印刷用インクの安定性の更なる改良が記載されている。当該文献に記載されたインクは、長期的なレオロジーの効果的な制御を実現し、また一貫した静電特性をも示す。
【0007】
従って、孔版印刷用の新しいエマルションインクを設計する場合の更なる検討事項は、例えば静電特性のような当該インクの他の特性を保持、好ましくは増強することである。より詳しくは、油中水滴エマルションインクは非伝導静電特性を有し、それ自体は連続油相の特性を示す。この特性は、電気容量測定でインクドラム内のインクレベルをモニターする孔版印刷機構造において特に有効である。従って、せん断、温度、インクの経時状態のある範囲において安定した測定が提供されるように、インクの静電特性が一貫していることが重要である。
【0008】
よって、優れた画像転移性及び保持性、具体的には、優れた汚れ及び擦れ落ち特性を示しつつも、同時に、既存のインクの静電性能が保持又は改良された、孔版印刷方法、特にはデジタル印刷方法用のエマルションインクを提供することが望ましい。
【0009】
当該技術分野において望まれる他の目的は、成分に関してだけでなく製造方法に関しても費用効率が高く安価なインクを提供することである。例えば、酸性カーボン色素のような、先行技術のエマルションインクに含まれる成分のいくつかは高価であるため、可能であればインクの性能を落とさずに、この類の成分の使用を最小限にするか完全に避けることが望ましい。
【0010】
また、近年の多くの技術分野の共通の目的として、現在入手できるインクよりも環境に優しいインクを提供することが望まれている。これは、例えば、インクに含まれる環境に悪い成分を減量するか、出来れば、全く使用しないことによって実現できると考えらえる。
【発明の概要】
【0011】
本発明の第一の面は、油相と水性相とを含む油中水滴エマルションインクであって、前記油相が、粘度が約1000〜約10000センチポアズ(cP)の液状樹脂をインク総量に対して約0.1〜約10重量%含み、前記水性相が色素を含み、かつ、前記色素がカーボンブラックを含む場合、インク中に含まれる全てのカーボンブラック色素のpHが少なくとも約5である油中水滴エマルションインクを提供することにある。
【0012】
本発明の第二の面は、水性相を油相に加える工程を含む油中水滴エマルションインクの製造方法であって、前記油相が、インクの製造工程において粘度約1000〜約10000センチボアスの液状で油相に加えられる樹脂を含み、インクが、製造工程において水性相に加えられる色素を含む油中水滴エマルションインクの製造方法を提供することにある。前記色素がカーボンブラックを含む場合、全てのカーボンブラック色素のpHが少なくとも約5である。
【0013】
本発明の第三の面は、水性相を油相に加える工程を含む油中水滴エマルションインクの製造方法であって、前記水性相と前記油相が上記に定められたものである油中水滴エマルションインクの製造方法を提供するものである。
【0014】
本発明の更なる面は、前記製造方法によって入手できるインク、当該インクの孔版印刷方法及び特にはデジタル印刷方法への使用、及び、当該インクを含む孔版印刷用インクカートリッジを提供するものである。
【0015】
本発明の更なる面は、孔版印刷用インクの耐擦性の改善する上記に定める液体樹脂の使用に関する。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のインクは、油相内に分散した水性相又は水相を含む油中水滴エマルションインクである。
【0017】
好ましくは、水性相と油相がそれぞれ独立に、インク総量のうち約10〜約90重量%を占める。より好ましくは、水性相がインク総量のうち約20〜約85重量%、更に好ましくは、約50〜約80重量%を占める。油相は、より好ましくはインク総量のうち約15〜約80重量%、更に好ましくは、約20〜約50重量%を占める。
【0018】
一般的なエマルションインクと同じように、本発明のインクの水性相は、代表的には、水、通常は水と一以上の下記の水性相添加物を一般的に含むものである。
【0019】
当該技術分野で知られているように、インクの油相は、印刷される紙へのインクの浸透を促進する。ほとんどの市販紙の表面には紙の濡れ強さを向上する防水剤が塗布されているため、表面は水をはじき、油を吸収する傾向にある。吸収は乾燥工程を促進するため、当該吸収工程が孔版印刷用インクの機能の重要な点である。
【0020】
本発明のインクの油相は、この類のインクに使用される公知および適した何れの種類のインクも含むことができる。代表的には、芳香族炭素原子、ナフテン系炭素原子、及び/又は、パラフィン系炭素原子を含む市販のミネラルオイルのような炭化水素油が1以上使用される。本発明の使用に適した好適な油の種類は、ナフテン系及びパラフィン系油であり、特にナフテン系油が好ましい。
【0021】
インク一般内の環境に優しい環境保全型成分の含有に関する近年の風潮を考慮すると、野菜油のような環境保全型資源由来のオイルを油相に一以上含むことが有益であり好ましい。野菜油は一般的に脂肪酸グリセリドの混合物であり、通常、種や豆から機械的に抽出されたものである。本発明の使用に適した野菜油として、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、及び、リノール酸のグリセリドを主に含んでいる大豆油、オレイン酸、リノール酸、及び、エルカ酸を主に含んでいるなたね油、並びに、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、及び、リノール酸を主に含んでいるひまわり油が挙げられる。本発明のインクの使用には、エステル化植物油、及び、特にメチルエステル化植物油が特に好ましい。大豆油、なたね油、及び、ひまわり油のメチルエステルが最も好ましい。
【0022】
植物油を含める場合には、通常、インク総量に対して、約5〜約20重量%、より好ましくは6〜10重量%で本発明のインクの油相中に植物油を含める。
【0023】
エマルションインクの油相は、インクの処理を容易にするため、及び、孔版印刷装置内での使用を最適化するため、代表的かつ好ましくは約50〜約160センチポアズ(cP;ブルックフィールド粘度計を用いて19〜21℃で測定)の範囲、より好ましくは約110〜約150cPの範囲の粘度を有する。更に詳しくは、油相の粘度が低すぎる場合には、インクが紙に印刷されたときに、例えば、裏移りや印刷されたインクの乾燥の点で問題が生じ得る。しかしながら、油相の粘度が高すぎる場合には、十分なインクが紙に供給されずに、インクの印刷ムラが生じ得る。
【0024】
従って、適切な粘度の油相を得るためには、例えば化学的及び/又は粘性的性質の点で、異なる種類の油の混合物を使用することが望ましいと考えられる。例えば、本発明のインクにおいて、高い粘度(例えば、41〜44センチストークス、cSt又はmm/s、油における常法で40℃で測定)のオイルと低い粘度(例えば、11〜16cSt又はmm/s、40℃で測定)のオイルとを油相内に含むことが有益であり得る。更により好ましくは、高い及び低い粘度のナフテン系油の混合物が使用される。所望の粘度範囲の油相を得るための油の混合は、当業者が常法で容易に為せるものであると考えられる。
【0025】
ブルックフィールド粘度計を用いて従来法により室温下(例えば19〜21℃)で測定された粘度が約1000〜約10000センチポアズ(cP)の範囲に含まれる液体樹脂の少なくとも一つが本発明のインクの油相内に含まれる。より好適には、樹脂の粘度が約2000〜約8000cP、更に好ましくは約3000〜約7000cPの範囲に含まれる。より更に好ましくは、樹脂の粘度が約40000〜約6000cPの範囲に含まれる。最も好ましくは、樹脂の粘度が約4500〜4900cP、例えば約4600〜約4800cPの範囲に含まれ、更に最も好ましいのは約4700cPである。油相への混合を促進するために原料樹脂を加熱したり、適当な疎水性溶媒で樹脂を希釈したりすることにより、上記範囲内に粘度が減少し得る場合には、より高粘度の樹脂材料を本発明のインクに配合することができる。このことを考慮し、かつ、インクの油相の所望の粘度に関する上記を考慮すると、油相に含まれる液体樹脂の粘度が油相の全体の粘度に消極的な影響を与えないことが重要である。例えば、樹脂が高粘性、即ち粘性が10000cPよりも高い場合、型版が塞がったり、本発明の油中水滴エマルションインクを製造する際に製造が困難になるリスクがある。
【0026】
本発明のインクの油相内にこの種の液体樹脂を含有することにより、印刷されたインクの耐擦性が改善されることがわかった。より詳しくは、理論により限定されることを意図するものではないが、前記樹脂は本発明のインクに含まれる色素粒子のバインダーとしても働く二重の役割を有しているのかもしれないと考えられる。従って、紙上の印刷されたインクの乾燥において、樹脂が紙上に色素粒子をより効率的に保持し、それによって、印刷物の使用中のインクの擦れ落ちが減少しているのかもしれないと考えられる。
【0027】
また、この類の液状樹脂の含有によって、インクの乾燥を著しく制御できることがわかった。当該分野で良く知られているように、孔版印刷用インクにおいて、インクの乾燥制御は重要事項であり、インクの乾燥が早すぎる場合には型版の塞がりが起こるだろうし、インクの乾燥が遅すぎる場合には最終印刷物からのインクの転移が起こり得る。
【0028】
本発明の使用に適した樹脂は“液状”樹脂であり、これは、本発明の範囲内において、孔版印刷装置が稼働する温度、例えば約10〜30℃の室温で、樹脂が一般に液状であることを意味する。また、樹脂が相溶性、即ち実質的に油相に、より好ましくはナフテン系油に混和できることが好ましい。混和性は、混合物が透明又は半透明であるか及び二層に分離していないかで視覚的に評価することができる。
【0029】
本発明の使用に適した好適な樹脂として、イーストマン・ケミカル・カンパニー(Eastman Chemical Company)から販売されている商品名ピッコラスティック(Piccolastic)A5のようなポリスチレン誘導体;例としてバイエル・マテリアルサイエンス(Bayer MaterialScience)から販売されている商品名デスモフェン(Desmophen)1140及び1155が挙げられるエステル及び/又はエーテル基を有する分岐鎖ポリアルコール等の分岐鎖ポリアルコール;例としてバイエル・マテリアルサイエンス(Bayer MaterialScience)から販売されている商品名デスモフェン(Desmophen)850が挙げられるポリエステルポリオール等のポリエステル誘導体;及び、例としてバイエル・マテリアルサイエンス(Bayer MaterialScience)から販売されている商品名1990U及び1915Uが挙げられるポリエーテルポリオール等のポリエーテル誘導体;及び、これらの混合物が挙げられる。
【0030】
より好ましくは、インクの油相が、ポリエステル由来樹脂又はポリスチレン由来樹脂を少なくとも一つを含む。本発明の使用に適した更に好ましい樹脂は、アルキドポリエステル誘導体である。かかるアルキド樹脂は、低コストであり、かつ、乾燥率、粘着性、及び、他のインク成分との相溶性の性質において多用途であるため特に好ましい。アルキド樹脂は一般的に“乾燥”及び“非乾燥”で分類され、こららの用語は当該技術分野では通常の意味として捉えられており、以下に述べる。
【0031】
最も好ましくは、前記樹脂が大豆油変性アルキド樹脂である。特に好ましい樹脂は、99重量%よりも多い大豆アルキド樹脂及び1重量%より少ないキシレンとn−ブタノールの夫々を含み、ブルックフィールド粘度計を用いて19〜21℃で測定した粘度が約4700cPである大豆樹脂である。大豆油変性樹脂は、周囲条件下で空気に曝されると部分的に固化する油を意味するものであると当該分野では理解されている、いわゆる“半乾燥”油に大豆油が分類されるため、特に好ましい。これは、空気に曝すと完全に固化する“乾燥”油、又は、全く固化しない非乾燥油と比較される。これらの用語を理解する別の方法として、油のヨード数が参照される。約110〜約130の範囲のヨード数の油が半乾燥油だと考えられ、大豆油誘導体は一般的に約110〜約125のヨード数を有し、本発明の使用において約115〜約125のヨード数の誘導体が特に好ましい。
【0032】
よって、樹脂の特性を改善するための大豆油の使用は、孔版印刷機内のつまりの原因となるであろう過剰な乾燥を引き起こすこと無しに、そのインクの定着性の向上を実現するものである。
【0033】
液状樹脂は、インク総量に対して約0.1〜約10重量%、好ましくは約0.2〜約8重量%で油相に存在する。より好ましくはインク総量に対して樹脂が約0.3〜約6重量%、更により好ましくは約0.4〜約3重量%、最も好ましくは約0.5〜約1重量%を占める。液体樹脂を、インクの全体的なコストを最低限に保つために、前記のように比較的少量でインクの油相中に含めることができ、更に同時に、上記のような擦れ落ちや乾燥の点で特に本発明のインクの明確な利点を実現できることは明らかに有益である。
【0034】
一般的なエマルションインクと同様に、通常、本発明のインクの油相は乳化剤を含み、乳化剤は選定された油及び水性相を併せて油中水滴エマルションを形成できる何れの材料でもよい。従って、この種の油中水滴エマルションインクに一般的に使用される何れの乳化剤も本発明の使用に適している。理論に縛られることを望むものではないが、乳化剤は一般的に油相と水性相との境界に凝集するものであり、このことは当該技術分野においては、水性相、即ち水滴が乳化剤のかなり薄い層で覆われることを一般的に意味するものと理解されている。適した乳化剤として、ソルビタンモノオレエート(sorbitan mono-oleate)やソルビタンセスキオレエート(sorbitansesquioleate)のようなソルビタンエステル、大豆レシチンのような脂質、及び、当該分野で一般に使用される高分子乳化剤が挙げられるが、これらに限定されるものではない。乳化剤は、一種の乳化剤単独でも異なる乳化剤の混合物でもよく、ソルビタンモノオレエートが好ましい。
【0035】
乳化剤は代表的には、全インク総量に対して約0.1〜約10重量%、好ましくは約1〜約8重量%、更に好ましくは約2〜約7重量%の量で本発明のインク中に含めることができる。
【0036】
エマルションインクは一般的に着色剤(colorant)又は色素(pigment)を含み、当該技術分野において知られるように、色素は有機又は無機の何れかの性質の着色された粉体であり、基質を着色するために使用されている。液体インク成分が適切に分散した場合は、色素は鮮やかな色彩、不透明性、抵抗特性を印刷物に付与する。本発明の範囲内においては、“着色剤”と“色素”は同じ意味で使用される。
【0037】
本発明のインクは色素を含み、色素はインクの製造中に水性相に添加される。色素がカーボンブラックを含む場合は、全てのカーボンブラックが約5以上のpHを有し、好ましくは約6以上のpHを有する。つまり、本発明のインクは何れの“酸性カーボン”も含まない。この用語は当該技術分野で十分に理解されている。一般的に表面処理を含む製造上の特質に起因して、酸性カーボンは比較的に高価な成分であり、その使用を回避することが望ましいため、インクが酸性カーボンを含まないことはコスト面で有益である。
【0038】
本発明のインクに含まれる色素自身が、上記の、即ちpHが少なくとも約5であるカーボンブラックを含み、好ましくは前記カーボンブラックから本質的になり、特に好ましくは前記カーボンブラックからなることが好ましい。しかしながら、下記のように、インクが、カーボンブラック以外の一以上の色素を、その代わりに又はそれと一緒に含むことができる。
【0039】
本発明の範囲内において、カーボンブラック色素のpHは、水に抽出した後にカーボンブラックの酸性度を測定する標準試験法ASTM D 1512に従って測定することができる。より好ましくは、本発明のインク中のカーボンブラックのpHは約5〜約10であり、更により好ましくは約6〜約8である。
【0040】
本発明のインクに配合する場合、カーボンブラック色素は、pHの要件を満たす限り、通常入手できるカーボンブラックや一般的にインクに使用されるカーボンブラックの何れの種類からも選択することができる。また、本発明において、かかるカーボンブラック色素を単独で使用しても又は混合物として使用することができる。
【0041】
本発明のインク中にカーボンブラック色素が存在する場合は、一般的に、本発明のインク中のカーボンブラック色素のレーザー回折で測定した粒度は約10μm未満であり、好ましくは約5μm未満、より好ましくは約2μm未満、最も好ましくは約1μm未満である。
【0042】
一般的に、本発明のインク中のカーボンブラック色素の総濃度は、インクの総量に対して約1〜約20重量%、好ましくは約2〜約15重量%、より好ましくは約3〜約9重量%の範囲に含まれ得る。
【0043】
前記カーボンブラックに代えて又は前記カーボンブラックと共に、本発明のインクの水性相が、エマルションインクに一般に使用されるものから選ばれた一以上の無機又は有機の着色剤又は色素を含むことができる。例えば、有用な有機色素として、多くの他の公知の色素の中でも、フタロシアニン、キナクリドン、ジアリライド、リソール塩、カルバゾール、金属錯体色素、及び、インダンスレン化合物が挙げられる。
【0044】
有用な無機色素として、多くの他の公知の色素の中でも、カルシウムカルボネート、マグネシウムシリケート、及び、酸化チタンが挙げられる。
【0045】
本発明のインクに含まれるカーボンブラック色素を含む色素の総量は、代表的には、インク総量に対して約1〜約20重量%、好ましくは約2〜約15重量%、より好ましくは約3〜約9重量%の範囲に含まれる。
【0046】
一般的な油中水滴エマルションインクと同様に、本発明のインクは、水性相中の色素の分散を促進する一以上の水溶性樹脂を含むことができる。水溶性樹脂がインクに使用される場合は、水相は何れの界面活性剤も実質的に含まないことが好ましく、全く含まないことが最も好ましい。この点において、注目すべきは、エマルション樹脂は界面活性剤を含むことが多いため、エマルション樹脂の使用は一般的に避けるべきである。本発明の範囲内において、“実質的に含まない”とは、インクの電気容量特性及びこれに起因するインク感知特性に悪影響を及ぼさず、かつ、水相中の色素の分散剤として機能しない程度の少量の任意の界面活性剤しか存在しないことを意味する。
【0047】
本発明の使用に適した水溶性樹脂として、ビニルアルコール、エチレンオキサイド、ビニルピロリドン、ビニルメチルエーテル、及び、アクリルアミドの重合体、共重合体、又は、より複雑な重合体配列が挙げられるが、これらに限定されるものではない。上記モノマーと、スチレン、酢酸ビニル、及び、アクリル酸エステルのような他のモノマーとを、水溶性が付与される比率で併用したものに由来する重合体もまた適している。N−ビニルピロリドンの重合体、及び、共重合体が好ましい。
【0048】
水溶性樹脂が含有される場合は、本発明のインク中の水溶性樹脂の量は、インクの総量に対して約0.5〜約30重量%、好ましくは約1〜約10重量%である。
【0049】
有利な点として、水溶性樹脂が存在することによって本発明のインクの汚れ性能に良い影響を与えることがわかった。これは、水溶性樹脂が乾燥したインク塗膜の色素粒子と、紙の繊維及び乾燥した塗膜内の他の粒子とを結び付けるためであると考えられる。
【0050】
水性相は、耐凍剤又は保湿剤、分散剤、安定剤、及び、殺生物剤などの別の従来のインク成分を更に一以上含むことができる。
【0051】
例えば、耐凍剤又は保湿剤は、凍結後や解凍後にインクが不安定になるのを防ぐために添加することができる。これらは“遅い”乾燥にする遅延剤としての役割も持つ。これは、印刷した時点で乾くインクが望ましいのは明らかであるが、孔版印刷方法において型版上でインクが乾燥した場合には、型版の開口域が乾燥したインクで塞がれるため印刷像が不鮮明になることの妥協的な解決策に繋がるものである。
【0052】
耐凍剤又は保湿剤は、エマルションインクに一般的に使用される適切な化合物の範囲から広く選択することができる。水溶性アルコール又はポリオールが好ましく、エチレングリコール、ソルビトール、ポリエチレングリコール、グリセロール、及び、これらの混合物が特に好ましい。より好ましくは、(当該技術分野の常法で測定された)沸点が197℃よりも高いポリオールが使用され、グリセロールが本発明に使用される最も好ましい当該成分である。
【0053】
耐凍剤又は保湿剤が含有される場合は、本発明のインク中の耐凍剤又は保湿剤の量は、インクの総量に対して約2〜約30重量%、好ましくは約3〜約20重量%、更により好ましくは約4〜約12重量%である。
【0054】
前記の水溶性樹脂に加えて、色素粉の分散を促進させるために分散剤を添加することができる。分散剤は、色素粉の粒度の減少も促進することができる。小さな粒子、例えば約1μm未満の粒度の粒子が、印刷における良好な隠ぺい性、即ち、良好な印刷密度を得るために望ましい。孔版印刷においては、型版の開口域が塞がれるリスクを減らすために、色素の粒度が小さいこともまた望ましい。
【0055】
分散剤は色素粒子の長期間に亘る分散の維持も促進する。分散が不安定であれば、粒子は凝集して粒子の集合体となり得、そのような凝集は潜在的に悪い隠ぺい特性及びインク不安定性の潜在的な原因となる。
【0056】
好適な分散剤の例として、当該技術分野で公知の分散剤の中でも、前記の水溶性樹脂の他に、アセチレンジオール(acetylenicdiol)誘導体が挙げられる。分散剤を混合して使用することもできる。分散剤が含有される場合、分散剤の本発明のインク中の量は、インクの総量に対して約0.5〜約30重量%、好ましくは約1〜約10重量%である。
【0057】
マグネシウムサルフェート等の無機塩、及び、アクリル酸共重合体等の有機ゲル化剤等の安定剤は、一、二年後も使用中に問題が生じることがなく使用できるように、インクの長期保存安定性を改善するために添加することができる。安定剤が含有される場合は、安定剤の本発明のインク中の量は、インクの総量に対して約0.01〜約10重量%、好ましくは約0.02〜約8重量%である。
【0058】
殺生物剤は、バクテリア、酵母又はカビによりインクが悪化するのを防ぐために添加することができる。これらは、“カンの中”、即ち保存容器の中、及び、“湿った状態”、即ちインクの薄い塗膜が空気に曝されるであろうプリンター上でのインクの使用中の両方で効果がある。一般的な活性成分は、塩化ベンザルコニウム、ブロノポール、ホルムアルデヒド供与材、及び、イソチアゾリノン誘導体である。最も好ましいのは、ベンズイソチアゾリノン、メチルイソチアゾリノン、及び、オクチルイソチアゾリノンである。殺生物剤が含有される場合は、殺生物剤の本発明のインク中の量は、インクの総量に対して約0.1〜約5重量%、好ましくは約0.2〜約2重量%である。
【0059】
また、本発明のインクは、充填剤、抗酸化剤、pH調製剤、安定剤、並びに、水相及び油相ゲル等の当該分野で公知の他の標準的なインク成分を含むことができる。
【0060】
上記のように、本発明のインクは、水性相を油相に加える工程を含む方法によって製造することができる。水性相及び油相は前述の通りである。
【0061】
また、本発明は、水性相を油相に加える工程を含む油中水滴エマルションインクの製造方法であって、前記油相が、インクの製造工程において粘度約1000〜約10000センチボアスの液状で油相に加えられる樹脂を含む油中水滴エマルションインクの製造方法に関するものである。当該方法の使用に適した樹脂を与える好ましい液体の種類は上記の通りである。当該方法で製造されたインクは、製造工程において水性相に加えられる色素を含む。色素がカーボンブラックを含む場合、当該カーボンブラックはpHが少なくとも約5であるカーボンブラックからなる。換言すれば、上記のように、本方法に使用され、その結果インク中に含まれるカーボンブラックには、何れの“酸性カーボン”も含まれない。
【0062】
以下の実施例を参照することにより、本発明を更に説明する。
【実施例】
【0063】
下記の三つの工程により、本発明のインク(実施例4及び5)及び比較用のインク(比較例1〜3)を製造した。インク成分及び試験結果を表1に示す。別途記載がない限り、全ての成分の含有量は重量部(pbw)で示す。
【0064】
工程1:基剤の調製
水、分散剤、樹脂、及び、殺生物剤を前もって混合し、その後、色素粉を添加し、高速撹拌機で撹拌した。当該前混合物を、小さな粒度になるまで、水平型ビーズミル(horizontal bead mill)に再循環した。
【0065】
工程2:水相の調製
工程1の基剤を、更に水、添加する場合は耐凍剤及び他の成分と混合して水相とし、当該混合物が均一になるまで低速撹拌機で撹拌した。
【0066】
工程3:インクの乳化
油相成分(例えば、ミネラルオイル、乳化剤、樹脂、及び、他の油相成分)をまず前混合した。次に、油中水滴エマルションが形成されるように調節した比率で、撹拌する油相に工程2の水相を添加した。水相の添加が完了したとき、高速でインクを撹拌して、油相に分散した小さな水滴を含んだ油中水滴エマルションを得た。
【0067】
【表1】

【0068】
表1及び試験結果の説明
a:1.4〜1.5重量%水溶液で使用されたアンモニア
b:10重量%水溶液として添加された0.01重量部の固体水酸化ナトリウム
c:99重量%よりも多い大豆アルキド樹脂及び1重量%より少ないキシレンとn−ブタノールのそれぞれが含まれ、ブルックフィールド粘度計を用いて19〜21℃で測定した粘度が約4700cPである大豆油変性アルキド樹脂
d:動粘性率41.5〜43.4mm/s
e:動粘性率11.9〜15.5mm/s
(d及びeはそれぞれ40℃で測定した。)
【0069】
f:期待されるインク感知信号の範囲は基準信号から+/−5μsである。当該信号が基準信号よりも5μsを超えて小さい場合は、孔版印刷システムが、印刷が薄くなるのを防ぐためにインクをドラムに供給するよう指示する。当該信号が基準信号よりも5μsを超えて大きい場合は、当該システムは、ドラムが溢れるのを防ぐために、ポンプがインクを供給するのを停止するよう指示する。
【0070】
表1に示す結果から、本発明のインクは限定されたインク感知信号の変化、及び、これに起因する良好な静電特性を有することがわかった。これによって、本発明のインクは、インクレベルが低くなり過ぎたり、高くなり過ぎたりするリスクが極めて低く、プリンター内での信頼性が良好であることが確かめられた。
【0071】
g:擦れ落ちは、元の印刷密度と比較した際の、擦り落とした後の元の印刷密度の百分率の大きさである。60%の擦れ落ちでは、その差は裸眼で分かるが、その印刷をまだ容易に判読できる。50%未満の擦れ落ちでは、印刷の細部の詳細の判読性が低い。つまり、100%の擦れ落ち値は、試験中に印刷物からインクが落ちないことを意味する。試験では、常法に従い、擦り落としは摩擦試験機(Crockmeter)で行い、その擦れ落ち効果はMacbethTM密度計で測定した。
【0072】
表1に示す擦れ落ちの結果は、本発明の夫々のインクが優れた耐擦性を発揮することを示している。
【0073】
h:汚れ度は2〜5で評価し、2が悪く、5が優れている。インクの汚れ性として要求される標準レベルは、3.25よりも高い値である。
【0074】
表1に示す汚れの結果は、本発明の夫々のインクが優れた汚れ耐性を発揮することを示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油相と水性相とを含む油中水滴エマルションインクであって、前記油相が、粘度が約1000〜約10000センチポアズ(cP)の液状樹脂をインク総量に対して約0.1〜約10重量%含み、前記水性相が色素を含み、かつ、前記色素がカーボンブラックを含む場合、インク中に含まれる全てのカーボンブラック色素のpHが少なくとも約5である油中水滴エマルションインク。
【請求項2】
前記樹脂の粘度が、約2000〜約8000cP、より好ましくは約3000〜約7000cP、さらにより好ましくは約40000〜約6000cPである請求項1記載のインク。
【請求項3】
前記樹脂の粘度が、約4500〜4900cP、より好ましくは約4600〜約4800cP、特に好ましくは約4700である請求項2記載のインク。
【請求項4】
前記樹脂が、ポリエステル由来樹脂またはポリスチレン由来樹脂である請求項1〜3のいずれか一項記載のインク。
【請求項5】
前記樹脂がアルキド樹脂である請求項4記載のインク。
【請求項6】
前記アルキド樹脂が大豆油変性ポリエステル樹脂である請求項5記載のインク。
【請求項7】
前記樹脂がインク総量に対して、約0.2〜約8重量%、より好ましくは約0.3〜約6重量%、特に好ましくは約0.5〜約1重量%含まれる請求項1〜6のいずれか一項記載のインク。
【請求項8】
前記色素がカーボンブラックを含み、より好ましくはカーボンブラックから本質的になり、特に好ましくはカーボンブラックからなり、インク中に含まれる全てのカーボンブラックのpHが少なくとも約5である請求項1〜7のいずれか一項記載のインク。
【請求項9】
前記油相が植物油を含む請求項1〜8のいずれか一項記載のインク。
【請求項10】
前記植物油がエステル化植物油である請求項9記載のインク。
【請求項11】
水性相を油相に加える工程を含む油中水滴エマルションインクの製造方法であって、前記油相が、インクの製造工程において粘度約1000〜約10000センチボアスの液状で前記油相に加えられる樹脂を含み、インクが、製造工程において前記水性相に加えられる色素を含み、かつ、前記色素がカーボンブラックを含む場合、全てのカーボンブラック色素のpHが少なくとも約5である油中水滴エマルションインクの製造方法。
【請求項12】
前記樹脂が、請求項2〜7のいずれか一項に記載されたものである請求項11のインクの製造方法。
【請求項13】
水性相を油相に加える工程を含む油中水滴エマルションインクの製造方法であって、前記水性相および前記油相が、請求項1〜10のいずれか一項に記載されたものであるインクの製造方法。
【請求項14】
請求項11〜13のいずれか一項記載の製造方法により製造されるインク。
【請求項15】
孔版印刷方法における、請求項1〜10および14のいずれか一項記載のインクの使用。
【請求項16】
前記孔版印刷方法がデジタル印刷方法である請求項15記載のインクの使用。
【請求項17】
請求項1〜10および14のいずれか一項記載のインクを孔版印刷装置に供給する工程を含む孔版印刷方法。
【請求項18】
前記孔版印刷装置が、デジタル印刷装置である請求項17記載の孔版印刷方法。
【請求項19】
請求項1〜10および14のいずれか一項記載のインクを含む孔版印刷用インクカートリッジ
【請求項20】
孔版印刷用インクの耐擦性の改善の為の請求項1〜6のいずれか一項記載の液状樹脂の使用。

【公開番号】特開2011−105938(P2011−105938A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−255256(P2010−255256)
【出願日】平成22年11月15日(2010.11.15)
【出願人】(504275971)ジーアール アドバンスト マテリアルズ リミテッド (4)
【Fターム(参考)】