説明

エラストマセンサと該エラストマセンサを用いた振動検出方法。

【課題】 広い測定範囲に亘って入力された応力や歪み,振動等を、高精度に且つ安定して測定することを可能としたエラストマセンサを、容易な製作性と低コストをもって提供すること。
【解決手段】 エラストマ材料に粒状又は線状の単純形状を有する微小フィラーを混合して散在した状態で成形したセンサ本体を採用し、このセンサ本体に対して、検出用の交流電圧を印加するための複数の検出用電極を装着することによってエラストマセンサを構成した。そこにおいて、検出用電極に対する周波数1kHzの検出用の交流電圧の印加状態で検出されるインピーダンス:Zを、100Ω≦Z≦100MΩとした。また、検出条件下での検出用の交流電圧と検出されたインピーダンスとの位相角:θが、1度≦|θ|≦90度となるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定部材における応力や加速度,振動,変形等を検出するのに好適に用いることの出来るエラストマセンサと、それを用いた振動検出方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、部材に作用せしめられる外力や、それに起因する部材の変形、或いは応力などを検出するセンサとしては、ピエゾセラミックに代表される無機系のセンサ材料を用いた無機系歪センサが利用されている。
【0003】
しかしながら、このような無機系歪センサは、一般的に剛性の高い材料で形成されていることから、加工形状の自由度に制限がある。また、検出対象部材に予測される歪み等の検出範囲に応じて、センサ材料を決定して調整する必要があり、広い測定レンジに亘って外力や変形等を検出できる歪センサの実現が困難であった。
【0004】
このような事情に鑑み、感圧導電性エラストマを利用した有機系センサであるエラストマセンサも提案されている(特許文献1)。かかるエラストマセンサは、エラストマに導電性粒子を混合した複合材料によって得られるものであり、圧縮変形に伴って導電性粒子間の接触状態が変化することに基づいて、圧縮変形量を直流電流抵抗値として検出するようになっている。
【0005】
かくの如きエラストマセンサは、加工が容易であることから形状を高い自由度で選択できる利点がある。しかし、単に直流電流の抵抗値変化で圧縮変形量を検出するに過ぎない従来構造のエラストマセンサでは、歪と検出値の特性にばらつきが大きく、安定した測定結果を得ることが困難であった。歪と検出値の特性のばらつきは、センサ個体間だけでなく、一つのセンサでも変形方向が異なったりすると大きなばらつきが発生する傾向がある。そのために、測定結果の信頼性が低く、産業界で要求される程の精度を得ることが出来ない場合が多かった。
【0006】
加えて、従来構造のエラストマセンサでは、エラストマ材料に対する導電性粒子の混合割合によって検出感度が顕著に異なる。そのために、目的とする感度等の測定特性を付与することが難しく、設計や製造が非常に困難であった。
【0007】
さらに、従来構造のエラストマセンサでは、単に直流電流の抵抗値変化で圧縮変形量を検出していることから、混合された導電性粒子がある程度の接触状態となった後は、検出値が殆ど変化しなくなってしまう。それ故、外力や応力の検出レンジが小さいという問題もあったのである。
【0008】
なお、特許文献2(特開2005−49332号公報)には、微小螺旋状のコイル形状を有する特別な炭素繊維を採用し、このコイル状炭素繊維を、ゴム等の媒体中に散在せしめた構造の触覚センサが提案されている。
【0009】
しかしながら、かかる触覚センサでは、極めて特殊なコイル状炭素繊維を必須とするものであるが故に、製造が極めて困難であり、特殊な用途以外には実用的であるとは言い難い。また、コイル形状の炭素繊維自体が有するインダクタンス成分とキャパシタンス成分と抵抗成分を利用するものであるが故に、接触センサ自体の特性が、炭素繊維自体の構造や性能に大きく異存する。しかも、そのようなコイル状炭素繊維自体が未だ安定供給体勢にあると言い難い現状を鑑みれば、高度な信頼性や性能安定性を望むことが困難であると予想される。
【0010】
また、その検出特性は、コイル形状の炭素繊維自体におけるインダクタンス成分等に由来するが、微小な炭素繊維自体の変形量がそれ程大きいとは考え難い。それ故、かかる触覚センサにおいては、それ程に高感度な測定特性を得ることが難しかったり、広い測定レンジを確保することも難しいと考えられる。
【0011】
【特許文献1】特開平03−93109号公報
【特許文献2】特開2005−49332号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ここにおいて、本発明は、上述の如き事情を背景として為されたものであって、その解決課題とするところは、広い測定範囲(測定レンジ)に亘って歪み量を測定できると共に、高精度な測定を安定して実現できる、製造が容易で新規な構造のエラストマセンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
以下、このような課題を解決するために為された本発明の態様を記載する。なお、以下に記載の各態様において採用される構成要素は、可能な限り任意な組み合わせで採用可能である。また、本発明の態様乃至は技術的特徴は、以下に記載のものに限定されることなく、明細書全体および図面に記載されたもの、或いはそれらの記載から当業者が把握することの出来る発明思想に基づいて認識されるものであることが理解されるべきである。
【0014】
すなわち、本発明におけるエラストマセンサに関する第一の態様は、エラストマに導電性フィラーを混合せしめたセンサ本体と、該センサ本体のインピーダンスを検出するための検出用電極とを備えたエラストマセンサであって、前記センサ本体における前記導電性フィラーとして粒状又は線状の微小フィラーが採用されており、前記検出用電極に対する周波数1kHzの検出用の交流電圧の印加状態で検出されるインピーダンス:Zが100Ω≦Z≦100MΩとされていると共に、検出する荷重の作用状態下での検出用の交流電圧と検出されたインピーダンスとの位相角:θが1度≦|θ|≦90度とされていることを、特徴とする。
【0015】
このような本態様に従う構造とされたエラストマセンサにおいては、前述の特許文献1に記載されている感圧導電性エラストマーにおける直流抵抗値の変化に基づいて外力等を検出することに代えて、インピーダンス:Zの変化に基づいて外力等が検出されることとなる。
【0016】
しかも、周波数1kHzの交流電圧の印加状態でのインピーダンス:Zの値が、100Ω≦Z≦100MΩとされた特定のセンサ本体を採用したことにより、充分に広い測定レンジを確保することができるのである。
【0017】
さらに、検出荷重が作用せしめられて所定量だけ弾性変形せしめられた状態下において、検出用の印加交流電圧と、検出されたインピーダンスとの位相角θの値が、1度≦|θ|≦90度とされた特定のばね特性および電気特性のセンサ本体を採用したことにより、優れた測定精度を、広い測定レンジに亘って一層有利に確保することが可能となるのである。
【0018】
けだし、このような位相角:θを有するセンサ本体を採用することにより、検出されるインピーダンスへの寄与として、誘導リアクタンス:Lや容量リアクタンス:Cだけでなく、抵抗:Rも考慮することが出来る。従って、例えば入力振動の周波数が異なる場合や変化する場合においても、静的荷重に対して有効な検出値と、動的荷重に対して有効な検出値とによって、入力荷重を精度良く検出することが可能となるのである。
【0019】
加えて、本発明においては、特に、前述の特許文献2に示されているような特殊な混合材を必要とすることない。すなわち、本態様において採用される導電性フィラーとしての微小フィラーは、粒状又は線状のものであって、特許文献2において必須とされるカーボンマイクロコイル(コイル状炭素繊維)等という特殊な材料は必要ない。
【0020】
すなわち、特許文献2においては、極めて特殊なコイル状炭素繊維を採用することにより、該コイル状炭素繊維そのものが有する通電コイルとしての特性自体を利用してLCR共振回路を構成した触覚センサが開示されている。これに対して、本発明者は、研究の結果、そのようなコイル状炭素繊維を採用することなく、インダクタンスの変化に基づいて外力を検出することのできるセンサの実用化が可能であることを、初めて見い出したのであり、かかる知見に基づいて、本願発明が完成されたのである。
【0021】
なお、本願発明に従うエラストマセンサの技術的解明は未だ完全でないが、後述する実施例からも明白なように、粒状や線状の単純形状の導電性フィラー(微小フィラー)を媒体としてのゴム弾性体等のエラストマ中に散在させることで、全体としてインダクタンスによる変形状態の検出が可能になることに疑いはない。このことは、エラストマ中に散在する導電性フィラーが、相互に近接するもの同志が電気的に相互作用することで全体としてコイルやコンデンサ,抵抗器などとして機能し得るものと推定される。なお、微小フィラーは、全てが分離独立して散在している必要はなく、多数の微小フィラー同士が相互に接触したり絡み合ったりした状態で存在していても良く、その存在の状態はエラストマーに対する配合量や混合する微小フィラーの粒径や長さ、細長比等によって、目的とする性能を考慮して適宜に設定することが出来る。そして、センサ本体に弾性変形が及ぼされると、エラストマ中に散在する導電性フィラー同志の相互位置関係が変化することから、それら導電性フィラーによって構成されていたコイルやコンデンサ,抵抗器などの仮想的な電気素子の特性が変化し、その結果がインピーダンスの変化として検出されるものと考えられるのである。
【0022】
しかも、特に注目すべきところは、後述の実施例の結果からも明白なように、導電性粒子自体が、特許文献2に記載のコイル状炭素繊維の如く特殊な電気特性(L成分)を有するものでないが故に、センサ本体全体の弾性変形が検出インピーダンスの値の変化として素直に且つ効率的に反映されることとなるのである。従って、本発明に従う構造とされたエラストマセンサにおいては、比較的に広い測定レンジに亘って、安定した検出精度をもって、充分に満足できる精度で、外力を検出することが可能となるのである。
【0023】
勿論、本発明に従う構造とされたエラストマセンサにおいては、特許文献2に記載の触覚センサに必要とされるコイル状炭素繊維のように極めて特殊な材料が必要とされることがなく、従来から市場に提供されているカーボンブラック等の炭素粒子や、炭素繊維、カーボンナノチューブ等の単純形状の導電性フィラーを、微小粒子として採用することによって構成されることから、製造が容易で、製造コストも安いという、産業上での実施に際して極めて有利な効果が発揮されるのである。
【0024】
また、本発明におけるエラストマセンサに関する第二の態様は、前記第一の態様に係るエラストマセンサにおいて、前記センサ本体において互いに異なる場所に固着された複数の電極によって前記検出用電極が構成されていることを、特徴とする。
【0025】
本態様に従い、検出用の交流電圧を印加するための電極を、充分に離隔させて設けることにより、より広い範囲の電気特性を検出することが可能となり、それによって、検出精度の更なる向上が図られ得る。
【0026】
また、採用する電極は、一対である必要はなく、三つ以上、或いは二対以上設けても良い。そのように多数の電極を設けることにより、それらの電極間での電気特性(インピーダンス)の変化を、例えば平均値等として求めることで一層高精度に検出したり、また、例えば合計値等として求めることで一層高感度に検出したりすることも可能となるのである。
【0027】
さらに、本発明におけるエラストマセンサに関する第三の態様は、前記第一又は第二の態様に係るエラストマセンサにおいて、前記センサ本体における動的な歪と検出される前記インピーダンス:Zとが線形性を有する領域が、該センサ本体における歪み率(ε)の範囲:ε(1)〜ε(2)の領域に亘っており、|ε(1)−ε(2)|≧5(%)とされていることを、特徴とする。
【0028】
このような本態様に従う構造とされたエラストマセンサにおいては、充分な広い測定レンジに亘って、荷重−歪特性、すなわち外力−検出値特性を、略線形性とすることで、検出回路の簡略化や、検出精度の更なる向上が実現可能となるのである。
【0029】
また、本発明における振動検出方法に関する第一の態様は、前記第一乃至第三の何れか一つの態様に記載のエラストマセンサを振動体に装着せしめて、該振動体の振動に伴う該エラストマセンサの前記センサ本体における動的な弾性変形を、該センサ本体のインピーダンス変化として前記検出手段で検出することによって該振動体の振動状態を検出することを、特徴とする。
【0030】
このような本態様に従う構造とされたエラストマセンサにおいては、振動体の振動状態、すなわち動的な状態変化や力変化などを、高精度に検出することが可能となる。特に、エラストマセンサの弾性変形が各種方向に発生した場合に、その変形方向にかかわらず、弾性変形をインピーダンス変化としてとらえて検出することが可能となる。それ故、従来のセラミック系材料による荷重センサ等に比して、検出データの多様化が図られ得ると共に、センサを装着して測定する条件の緩和による設計自由度の向上などが達成され得るのである。
【発明の効果】
【0031】
上述の説明から明らかなように、本発明に従う構造とされたエラストマセンサは、従来にない新規な構造を備えており、しかも一般に市場に提供されており容易に入手できる材料で製造することが出来る。加えて、入力される外力等を、複数の入力方向において、大きな測定範囲に亘って、且つ良好な精度で検出することが可能となる。
【0032】
それ故、かかるセンサによって、静的外力や動的外力を、大きな自由度と良好な精度で検出することが、容易に且つ低コストに実現可能となるのであり、そこに、産業上の大きな利益が存するのである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の実施例について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
【0034】
先ず、エラストマとして液状シリコンゴムと液状シリコンゲルを用い、そのエラストマ材料に対して、導電性フィラー(微小フィラー)としてカーボンナノチューブを混合することでセンサ成形材料を得た。なお、本実施例におけるカーボンナノチューブの混合量は、エラストマ材料の95重量%に対して、5重量%とした。
【0035】
本実施例におけるエラストマ材料としては、信越化学工業株式会社製の二液硬化型シリコンゴムである品番:KE103(触媒cat−103を5%混合)と、同信越化学工業株式会社製の一液型シリコンゲルである品番:KE1151を重量比で1:2となるように混合した後、攪拌したものを使用した。また、エラストマ材料に混合されるカーボンナノチューブとしては、Shenzhen Nanotech Port Co.,LTD.,から販売されている単層カーボンナノチューブを使用した。なお、使用したカーボンナノチューブは、直径:2nm以上,チューブ長:0.5〜500μm,純度:90%以上,灰分:2wt%以下,比表面積:600m2 /g以上,非晶性カーボンの割合:3%以下とされている。
【0036】
そして、このカーボンナノチューブを混入したエラストマ材料を十分に混合し、エラストマ材料におけるカーボンナノチューブの分散性の均一化を行った後、10mm(幅)×10mm(奥行)×5mm(高さ)の矩形ブロック形状の空間を内部に有する成形金型にエラストマ材料を注入して、150℃で1時間加熱して硬化させた後に脱型することにより、10mm(幅)×10mm(奥行)×5mm(高さ)の矩形ブロック形状に成形して、ブロック形状の成形体からなるセンサ本体10を得た(図1参照)。また、かかるセンサ本体10の成形に際しては、成形金型の高さ方向で対向する内部空間壁面に対して上下一対の銅板12,14をセットした状態でエラストマ材料を注入して成形することにより、センサ本体10の高さ方向両側端面に対してかかる一対の銅板12,14を、電極として固着せしめた。なお、本実施例において銅板12,14は、12mm(幅)×12mm(奥行)×0.2mm(高さ)の薄肉矩形板形状とされている。
【0037】
また、センサ本体10に固着された一対の銅板12,14に対してそれぞれ給電用リード線16が接続されている。さらに、これらの給電用リード線16を通じて、交流の検出電流給電装置18を接続することで、センサ本体10を含んで電気回路を構成した。また、かかる電気回路上には、交流電流や電圧の大きさに基づいて当該電気回路におけるインピーダンスの値を測定するインピーダンス検出装置20を接続した。これにより、本実施例における検出手段が、センサ本体10に固着された一対の銅板12,14と、一対の銅板12,14に接続された給電用リード線16と、給電用リード線16を通じてそれら銅板12,14に対して交流電圧を印加する検出電流給電装置18と、検出電流給電装置18で交流電圧を印加したことによるセンサ本体10のインピーダンスを検出するインピーダンス検出装置20とを含んで構成されている。
【0038】
なお、センサ本体10では、導電性フィラーとしてのカーボンナノチューブをエラストマ材料に混合して散在せしめることにより、多数のカーボンナノチューブが全体として誘導リアクタンス:Lと容量リアクタンス:Cを有している。また、検出電流給電装置18によってセンサ本体10に周波数:1kHzの交流電圧が印加された状態で、インピーダンス検出装置20において検出されるインピーダンス:Zの値が100Ω≦Z≦100MΩとなるようにセンサ本体10の材料や形状等が設定されている。また、好適には、周波数:1kHzの電圧が印加された状態において、検出されるインピーダンス:Zの値が1kΩ≦Z≦1MΩとなるようにされる。
【0039】
このような構造とされたエラストマセンサ22を用いて、入力される歪み等に対応するインピーダンス変化の検出を有利に行うためには、検出されるインピーダンス:Zに対して抵抗:Rと誘導リアクタンス:Lと容量リアクタンス:Cが複合的に影響していることが望ましい。蓋し、抵抗:Rが支配的であって、誘導リアクタンス:L及び容量リアクタンス:Cの影響が殆どない場合には、インピーダンス変化の測定によって歪みを測定することによる測定可能な入力歪み領域の拡大といった優れた効果が十分に発揮されない。
【0040】
また、誘導リアクタンスと容量リアクタンスは、何れも印加電圧の周波数に応じて増減する。それ故、印加電圧の周波数を適宜に設定することにより、インピーダンスにおける抵抗と誘導リアクタンス及び容量リアクタンスの割合を適切に調節することが出来る。
【0041】
このようなインピーダンスの測定に好適な印加電圧の周波数は、センサ本体10に対して外力が作用せしめられていない定常状態における印加電圧の周波数変化に対するインピーダンスの変化を実測する実験を行うことにより、容易に得ることが出来る。そこで、先ず、定常状態で振幅:±3.0Vの印加電圧をセンサ本体10に印加して、印加電圧の周波数を変化させることによるインピーダンス値の変化を実測する実験を行った。図2は、かかる定常状態におけるインピーダンスの周波数依存性の実測データの一例である。なお、本実施例においては、かかる実験に用いるインピーダンス検出装置20として、ヒューレットパッカードカンパニー製の誘電体テスト電極治具(品番:HP−16451B)とヒューレットパッカードカンパニー製のインピーダンスアナライザ(品番:HP−4194A)を採用した。
【0042】
図2に示された実験結果によれば、100kHz未満の周波数領域(A)においては、インピーダンスに抵抗が支配的に作用しており、誘導リアクタンスおよび容量リアクタンスは実質的にインピーダンスに影響を与えていない。一方、1MHzより高い周波数領域(C)においては、インピーダンスに対して誘導リアクタンスおよび容量リアクタンスが支配的に作用しており、抵抗が影響を及ぼしていない。また、100kHz以上1MHz以下の周波数領域(B)においては、インピーダンスに対して抵抗と誘導リアクタンスと容量リアクタンスが総合的に作用せしめられていることを確認することが出来る。それ故、周波数領域(A)と周波数領域(C)の移行領域である周波数領域(B)の周波数を印加電圧の周波数として採用することにより、インピーダンス:Zに対してR,L,Cが複合的に影響する好適な周波数に調節された印加電圧を実現できて、インピーダンス変化の測定を有利に行うことが出来るのである。なお、図2からも明らかなように、本実施例においては、100kHz以上且つ1MHz以下程度の周波数領域において、インピーダンス:Zに対してR,L,C成分が複合的に影響している。特に、実測結果によれば500kHz程度の周波数がインピーダンスの測定に好適な印加電圧の周波数であることから、本実施例では、以下の実験において、特に説明がない限り、振幅:±3.0V、周波数:500kHzの印加電圧を検出電流給電装置18によってセンサ本体10に対して印加するものとする。
【0043】
このような印加電圧の印加状態において、本実施例のセンサ本体10では、抵抗に対応するインピーダンスの実数項と誘導リアクタンスと容量リアクタンスの合計であるリアクタンスに対応するインピーダンスの虚数項の相対割合を示すtanθにおける位相角:θの絶対値|θ|が1≦|θ|≦π/2となっている。即ち、インピーダンスに対して抵抗とリアクタンスが何れも影響を及ぼすようにされているのである。なお、検出されるインピーダンスにおける抵抗とリアクタンスの相対割合を示すtanθにおいて、位相角:θの絶対値|θ|は、π/9≦θ≦π/3となっていることがより望ましい。
【0044】
次に、センサ本体10に対して振幅:±3.0V、周波数:500kHzの交流電圧を印加せしめて、同一の条件下でインピーダンス値の実測を10回行った。図3には、かかるインピーダンス値の実測データの一例が示されている。なお、比較対象として、同一条件下で電圧をL、C成分を有していない直流抵抗に印加して、抵抗値の実測を10回行った結果を図3に実測データとして示す。
【0045】
図3に示された実測データによれば、センサ本体10におけるインピーダンスの実測結果は、直流抵抗の実測結果に比べて、略同一条件下での複数回の測定において測定値のばらつきが小さいことが明らかである。即ち、10回の測定を行った結果において、インピーダンス値を測定した場合には標準偏差:σが0.037であるのに対して、直流抵抗値を測定した場合には、標準偏差:σが0.1457であり、インピーダンス値を測定した場合の方がより平均値に近いデータを安定して得ることが出来ていることが実測データにより証明されている。また、測定値の最大値と最小値の差は、インピーダンス値を測定した測定結果では0.11546であるのに対して、直流抵抗値を測定した測定結果では0.45であり、最大値と最小値のばらつきにも、顕著な差が見られる。蓋し、このような実測結果の傾向は、抵抗:Rと誘導リアクタンス:Lと容量リアクタンス:Cによって構成されるインピーダンス:Zを測定することにより、抵抗:Rのみで構成された直流抵抗:Rを検出する場合に比して、安定した測定結果を得ることが出来るものと考えられる。
【0046】
次に、センサ本体10に対して振幅:±3.0Vの交流電圧を印加せしめた状態で、センサ本体10に対して一対の銅板12,14の対向方向に静的な圧縮歪みを加えて、センサ本体10の弾性変形に伴うインピーダンス変化を実測する実験を行った。図4には、本実験における実測データの一例が示されている。なお、この実験においては、印加電圧の周波数がそれぞれ1kHz、10kHz、500kHzとされた3つのパターンに対して実験を行い、歪み−インピーダンス特性をそれぞれ実測した。
【0047】
図4に示された実測データでは、測定されるインピーダンス値とセンサ本体10に入力される圧縮歪みの大きさとの間に直線的な関連性があることがわかる。即ち、入力歪みの大きさに対して測定されるインピーダンス値が略比例していることが図4のグラフより明らかである。このような歪み−インピーダンス特性によれば、測定されるインピーダンス変化から入力された静的歪みの大きさを精度良く検出することが可能である。
【0048】
なお、前記センサ本体における静的な歪と検出される前記インピーダンス:Zとが線形性を有する領域が、該センサ本体における歪み率(ε)の範囲:ε(1)〜ε(2)の領域に亘っており、|ε(1)−ε(2)|≧5(%)とされていることが望ましい。
【0049】
なお、本実施例においては、少なくともセンサ本体の歪み率が5%以内となる変形範囲で入力歪みとそれに対応するインピーダンス変化が線形性を有するようになっている。また、センサ本体の歪み率が20%以内となる変形範囲で歪みとインピーダンス変化が線形性を有することが望ましく、センサ本体の歪み率が50%以内となる変形範囲で歪みとインピーダンス変化が線形性を有することがより望ましい。
【0050】
また、図4の実測結果を示すグラフでは、印加電圧の周波数が小さくなると、同じ歪みに対するインピーダンスの値が大きくなっている。従って、予測される入力歪みの大きさに応じて図2における周波数領域(B)の範囲で印加電圧の周波数を調節することにより、測定の感度を容易に調節することが出来る。
【0051】
次に、センサ本体10に対して振幅:±3.0V、周波数:500kHzの交流電圧を印加せしめた状態で、センサ本体14に対して一対の銅板12,14の対向方向に動的な圧縮歪みを加えて、センサ本体10の弾性変形に伴うインピーダンス変化に対応する出力電圧(mV)(インピーダンスに換算していない値を示す。)として計測した。図5には、かかる動的な入力歪みに対するインピーダンス変化の実測データの一例が示されている。
【0052】
図5に示された実測データにおいて、実測値は直線的関連性の度合いが大きく、入力歪みが正弦的な動的歪みの場合においても、入力歪みに対応するインピーダンス変化を測定することによって入力歪みの大きさを精度良く測定可能であることが明らかである。即ち、例えば、振動体としてのエンジンの振動等といった動的な歪みの入力に対しても、本実施例のセンサ本体10を用いたインピーダンス変化の測定によって、高精度なセンシングを実現することが出来るのである。
【0053】
また、図5中に示されているように、本実施例では、前記センサ本体における動的な歪みと検出される前記インピーダンス:Zとが、歪み率(ε)の範囲:ε(1)〜ε(2)の領域において線形性を有しており、かかる歪み率の範囲においてより高精度な検出を好適に実現することが可能とされているのである。なお、図5からも明らかなように、本実施例では、ε(1)は歪み量が0μmの場合の歪み率であり、ε(2)は歪み量がおよそ300μmの場合の歪み率とされている。
【0054】
なお、入力歪みによるセンサ本体10の歪み率が5%以下となる変形範囲において入力される動的歪みの振幅とかかる入力歪みに対応するインピーダンス変化に対応する出力電圧が線形性を有していることが望ましい。また、センサ本体10の材料を適当に調製すること等により、より好適には、入力歪みによるセンサ本体10の歪み率が20%以下となる変形範囲において入力される動的歪みの振幅とかかる入力歪みに対応するインピーダンス変化に対応する出力電圧が線形性を有するようにされており、更に好適には、センサ本体10の歪み率が50%以下となる変形範囲において、入力される動的歪みの振幅とかかる入力歪みに対応するインピーダンス変化に対応する出力電圧が線形性を有するようにされている。
【0055】
このような本実施例に従う構造とされたエラストマセンサ22においては、周波数:1kHzの印加電圧を印加した場合にインピーダンス:Zが100Ω≦Z≦100MΩとなるようにセンサ本体10が構成されていると共に、印加電圧の周波数が適当に設定されること等により、インピーダンス:Zにおける抵抗:Rとリアクタンスとの相対割合を示すtanθにおける位相角:θの絶対値|θ|が1≦|θ|≦π/2とされている。これにより、抵抗:Rと誘導リアクタンス:Lと容量リアクタンス:Cが総合的に影響したインピーダンス:Zの変化によって入力歪み等を測定することが出来て、幅広い大きさの歪み入力に対して、高精度な検出を安定して実現することが出来る。
【0056】
特に、本実施例のエラストマセンサ22では、R,L,Cが適当な割合で含まれていることから、導電性フィラー(カーボンナノチューブ)の混合量が比較的多く、ある程度の歪み入力時に抵抗が略0となる場合において、それ以上の大きさの歪みが入力された場合であっても、誘導リアクタンスと容量リアクタンスが変化することによってインピーダンスが変化せしめられて、歪みが測定されるようになっている。また一方、導電性フィラーの混合量が比較的少なく、微小な歪みの入力時に抵抗の変化が生じない場合においても、誘導リアクタンスや容量リアクタンスの変化によってインピーダンスの変化が測定されるようになっているのである。
【0057】
さらに、抵抗,誘導リアクタンス,容量リアクタンスをバランス良く含んだインピーダンスの変化を測定することにより、直流抵抗の変化を測定する場合に比して、測定結果のばらつきが抑えられて、より高精度な測定結果を得ることが可能となる。
【0058】
さらに、エラストマ材料に混合された多数のカーボンナノチューブの全体によって誘導リアクタンスと容量リアクタンスを有するようにされていることから、エラストマ材料に混合されるカーボンナノチューブ等の導電性フィラーとしてコイル状のカーボンマイクロコイル等の特殊な導電性フィラーを採用することなく、R,L,Cを含んだインピーダンスの変化の測定を容易に実現することが出来る。それ故、特殊な材料を使用しないことによる生産性の向上や製造コストの低減を実現することが出来る。
【0059】
また、本実施例のエラストマセンサ22におけるセンサ本体10は、エラストマ材料にカーボンナノチューブを混合して形成されていることから、形状や材料物性を比較的自由に設定可能であり、加工形状の設計自由度を大きく得ることが出来る。
【0060】
次に、図6には、本発明の第二の実施例としてのエラストマセンサ24が示されている。なお、以下の説明において、前記第一の実施例と実質的に同一の部材乃至部位については、図中に同一の符号を付すことにより説明を省略する。
【0061】
すなわち、本実施例におけるエラストマセンサ24では、前記第一の実施例に示されたエラストマ材料と同じエラストマ材料に対して、微細な炭素繊維を導電性フィラーとして混合したセンサ本体26が採用されている。かかる炭素繊維としては、任意の炭素繊維が採用可能であるが、好適には繊維径が10μm以下であると共に、繊維長が1mm以下であることが望ましい。蓋し、繊維径が大きい、若しくは、繊維長が長い炭素繊維では、エラストマ材料に混合された状態において十分に分散せしめることが困難となるおそれがある。なお、特に本実施例では、炭素繊維として、昭和電工株式会社が販売している微細炭素繊維(登録商標:VGCF)を採用しており、繊維径:150nm,繊維長:9μm,抵抗率:0.013Ω・cmとされている。
【0062】
このようなエラストマセンサ24を用いて、前記第一の実施例と略同様な実測を行った実測データを、図7〜図9に示す。これらの実測データによれば、本実施例におけるエラストマセンサ24によっても、前記第一の実施例と同様に、印加電圧の好適な周波数の選定を容易に実現できて、かかる周波数の印加電圧を用いてインピーダンス:Zの変化を測定することにより、静的及び動的な入力歪み等を有利に測定することが可能である。要するに、エラストマ材料に混合される導電性フィラーとして、微細な炭素繊維を採用したセンサ本体26によっても、精度良くインピーダンス変化の測定を実現することが出来るのである。
【0063】
以上、本発明の幾つかの実施例について説明してきたが、これはあくまでも例示であって、本発明は、かかる実施例における具体的な記載によって、何等、限定的に解釈されるものではない。
【0064】
例えば、前記第一,第二の実施例では、導電性フィラーとしてカーボンナノチューブや微細な炭素繊維を採用した例を示したが、導電性フィラーは、これらカーボンナノチューブや炭素繊維に限定されるものではない。具体的には、例えば、導電性フィラーとしてカーボンブラック(例えば、ライオン株式会社から販売されているケッチェンブラック等)を採用することも可能である。また、導電性フィラーは、カーボンナノチューブ等の中空炭素繊維や、微細炭素繊維や、カーボンブラック等の粒子状炭素のような炭素系材料に限定されるものではなく、ナノ金属粒子等を含む金属粒子や導電性高分子,イオン性化合物なども導電性フィラーとして採用され得る。
【0065】
また、導電性フィラーは、必ずしも一種類の材料によって構成されている必要はなく、複数種類の材料を混合して採用することも可能であって、より有効な導電性や分散性を実現することも可能となり得る。
【0066】
また、前記第一の実施例に示されているように、導電性フィラーとしてカーボンナノチューブを採用する場合においても、その直径やチューブ長、或いは、形状等は、前記実施例における具体的な記載によって何等限定されるものではない。なお、カーボンナノチューブの直径やチューブ長は、エラストマ材料内での導電性フィラーの分散性やセンサ本体10の導電性を良好に得るために、小径でチューブ長が短いカーボンナノチューブが望ましい。
【0067】
また、前記第一,第二の実施例では、二液硬化型シリコンゴムと一液型シリコンゲルを重量比で1:2となるように混合・攪拌してエラストマ材料を構成していたが、かかるエラストマ材料は前記実施例に記載のものに何ら限定されることはなく、他の任意の汎用エラストマも採用することが可能である。なお、エラストマ材料に混合される導電性フィラーの良好な分散性を実現するために、好適には、粘度の低い液状ポリマーが採用される。
【0068】
また、例えば、エンジンマウント等にエラストマセンサ22,24を用いる場合であって、エラストマセンサ22,24に対して初期荷重が作用せしめられる場合には、かかる初期荷重が作用せしめられた状態において、周波数1kHzの印加電圧での測定でインピーダンス:Zが100Ω≦Z≦100MΩとなるようにされている。
【0069】
その他、一々列挙はしないが、本発明は、当業者の知識に基づいて種々なる変更,修正,改良等を加えた態様において実施され得るものであり、また、そのような実施態様が、本発明の趣旨を逸脱しない限り、何れも、本発明の範囲内に含まれるものであることは、言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の第一の実施例としてのエラストマセンサを実験装置にセットした状態を示す説明図。
【図2】図1に示された実験装置で実施例としてのエラストマセンサの印加電圧の周波数変化に対するインピーダンスの変化を実測した実験結果を示すグラフである。
【図3】図1に示された実験装置で実施例としてのエラストマセンサの出力を実測した実験結果を示す表である。
【図4】図1に示された実験装置で実施例としてのエラストマセンサの静的圧縮力作用時における印加電圧の周波数別での歪み−インピーダンス特性を示すグラフである。
【図5】図1に示された実験装置で実施例としてのエラストマセンサの動的圧縮力作用時における歪み−インピーダンス特性を示すグラフである。
【図6】本発明の第二の実施例としてのエラストマセンサを実験装置にセットした状態を示す説明図。
【図7】図6に示された実験装置で実施例としてのエラストマセンサの印加電圧の周波数変化に対するインピーダンスの変化を実測した実験結果を示すグラフである。
【図8】図6に示された実験装置で実施例としてのエラストマセンサの静的圧縮力作用時における印加電圧の周波数別での歪み−インピーダンス特性を示すグラフである。
【図9】図6に示された実験装置で実施例としてのエラストマセンサの動的圧縮力作用時における歪み−インピーダンス特性を示すグラフである。
【符号の説明】
【0071】
10 センサ本体
12 銅板
14 銅板
18 給電用リード
20 検出電流給電装置
22 インピーダンス検出装置
24 エラストマセンサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エラストマに導電性フィラーを混合せしめたセンサ本体と、該センサ本体のインピーダンスを検出するための検出用電極とを備えたエラストマセンサにおいて、
前記センサ本体における前記導電性フィラーとして粒状又は線状の微小フィラーが採用されており、前記検出用電極に対する周波数1kHzの検出用の交流電圧の印加状態で検出されるインピーダンス:Zが100Ω≦Z≦100MΩとされていると共に、検出する荷重の作用状態下での検出用の交流電圧と検出されたインピーダンスとの位相角:θが1度≦|θ|≦90度とされていることを特徴とするエラストマセンサ。
【請求項2】
前記センサ本体において互いに異なる場所に固着された複数の電極によって前記検出用電極が構成されている請求項1に記載のエラストマセンサ。
【請求項3】
前記センサ本体における動的な歪と検出される前記インピーダンス:Zとが線形性を有する領域が、該センサ本体における歪み率(ε)の範囲:ε(1)〜ε(2)の領域に亘っており、|ε(1)−ε(2)|≧5(%)とされている請求項1又は2に記載のエラストマセンサ。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか一項に記載のエラストマセンサを振動体に装着せしめて、該振動体の振動に伴う該エラストマセンサの前記センサ本体における動的な弾性変形を、該センサ本体のインピーダンス変化として前記検出手段で検出することによって該振動体の振動状態を検出することを特徴とする振動検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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