説明

エラストマートランスデューサーおよび導電性ゴム組成物ならびに誘電性ゴム組成物

【課題】ひずみなどの繰り返し応力に対して優れた耐久性を発揮できる新規なエラストマートランスデューサーおよび導電性ゴム組成物ならびに誘電性ゴム組成物の提供。
【解決手段】一対の電極層10,10間に誘電性の中間層20を介装してなるエラストマートランスデューサー100であって、前記電極層10,10を、ベースゴムに導電性フィラーを含有した導電性ゴム組成物で構成すると共に、前記中間層20を、ベースゴムに誘電性フィラーを含有する誘電性ゴム組成物で構成する。これによって、ひずみなどの繰り返し応力に対して優れた耐久性を発揮できるため、電極層10のひび割れや剥離、中間層20のひび割れや亀裂、破断などを未然に防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気エネルギーと機械エネルギーを相互に変換するためのトランスデューサ
ー(変換器)に係り、特に誘電性ゴム組成物を用いたエラストマートランスデューサーお
よびこれを構成する導電性ゴム組成物ならびに誘電性ゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
電気エネルギーと機械エネルギーを相互に変換するためのトランスデューサー(変換器)は、例えばモバイル機器、エンジン、人工筋肉などの電源(ジェネレータ)や、ポンプ、スピーカーなどのアクチュエータなどとして多種多様の分野への応用が検討されている。また、トランスデューサー(変換器)を構成する誘電性ゴム組成物は、アンテナコンデンサーなどに応用が検討されている。
このようなトランスデューサー(変換器)は、以下の特許文献1〜5などに示すような構成をした誘電性エラストマー積層体からなるものが殆どとなっている。例えば、以下の特許文献1には、ポリマー(誘電性ゴム)を中間層としてその両端を一対の電極層で挟んだ構造の誘電性エラストマー積層体が開示されており、また、以下の特許文献2には、その中間層に誘電性セラミックスを添加した誘電性エラストマー積層体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2003−505865号公報
【特許文献2】特開2006−290939号公報
【特許文献3】特表2003−506858号公報
【特許文献4】特表2003−526213号公報
【特許文献5】特表2007−510285号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、これら特許文献1〜5などに開示されているような従来の誘電性エラストマー積層体は、電極層として金または白金の蒸着膜や導電性フィラーを含有したゴム膜を用いている。
そのため、この誘電性エラストマー積層体に対してひずみを繰り返し加えると、電極層にひび割れが生じたり、電極層が誘電層から剥離することがある。
そこで、本発明は前記のような問題点を解決するために案出されたものであり、その目的は、ひずみなどの繰り返し応力に対して優れた耐久性を発揮できる新規なエラストマートランスデューサーおよび導電性ゴム組成物ならびに誘電性ゴム組成物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するために第1の発明は、
一対の電極層間に誘電性ゴム組成物で構成された中間層を介装してなるエラストマートランスデューサーであって、前記電極層がベースゴムに導電性フィラーを含有した導電性ゴム組成物で構成されることを特徴とするエラストマートランスデューサーである。
また、第2の発明は、
第1の発明において、前記導電性ゴム組成物のベースゴムが、シリコーン系樹脂、変性シリコーン系樹脂、アクリル系樹脂、クロロプレン系樹脂、ポリサルファイド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリイソブチル系樹脂、フロロシリコーン系樹脂の少なくとも1つからなることを特徴とするエラストマートランスデューサーである。
【0006】
また、第3の発明は、
第1または第2の発明において、前記導電性ゴム組成物の導電性フィラーが、
ケッチェンブラック、アセチレンブラック、黒鉛、炭素繊維、カーボンナノファイバー(CNF)、カーボンナノチューブ(CNT)のいずれかの炭素材料、
または、金、銀、白金のいずれかの金属材料、
または、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリパラフェニレン、ポリパラフェニレンビニレンのいずれかの誘導体、
または、これら誘導体にアニオンまたはカチオンに代表されるドーパントを添加した導電性高分子材料、または、イオン性液体のうちのいずれか1つ以上であることを特徴とするエラストマートランスデューサーである。
【0007】
また、第4の発明は、
第1または第2の発明において、前記導電性ゴム組成物は、体積抵抗率が1×10Ω・cm以下の導電性フィラーを含み、かつ前記導電性ゴム組成物自身の体積抵抗率が1×10Ω・cm以下であることを特徴とするエラストマートランスデューサーである。
また、第5の発明は、
第1〜第4のいずれかの発明において、前記誘電性ゴム組成物は、シリコーン系樹脂、変成シリコーン系樹脂、アクリル系樹脂、クロロプレン系樹脂、ポリサルファイド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリイソブチル系樹脂、フロロシリコーン系樹脂の少なくとも1つからなるベースゴムに、高誘電セラミックス粉末、イオン性液体、チオカルボニル基を有する有機化合物のいずれかの誘電性フィラーを含むことを特徴とするエラストマートランスデューサーである。
【0008】
また、第6の発明は、
第1〜第5のいずれかの発明において、前記誘電性ゴム組成物のベースゴムと導電性ゴム組成物のベースゴムとが同一樹脂であることを特徴とするエラストマートランスデューサーである。
また、第7の発明は、
第1〜第6のいずれかの発明において、前記中間層の厚さが10μm以上1mm以下であり、かつ前記各電極層の厚さが0.05μm以上100μm以下であることを特徴とするエラストマートランスデューサーである。
【0009】
また、第8の発明は、
第1〜第7のいずれかの発明において、前記一対の電極層間に前記中間層を介装した後、前記電極層間に生ずる電位差を放電させてから開回路状態で所定時間保存してなることを特徴とするエラストマートランスデューサーである。
また、第9の発明は、
第1〜第7のいずれかの発明において、前記一対の電極層間に前記中間層を介装した後、前記電極層間に所定の電圧を印加してから前記電極層間に生ずる電位差を放電させ、その後、開回路状態で所定時間保存してなることを特徴とするエラストマートランスデューサーである。
【0010】
また、第10の発明は、
ベースゴムに導電性フィラーを含有した導電性ゴム組成物であって、
前記ベースゴムが、
シリコーン系樹脂、変性シリコーン系樹脂、アクリル系樹脂、クロロプレン系樹脂、ポリサルファイド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリイソブチル系樹脂、フロロシリコーン系樹脂の少なくとも1つからなると共に、
前記導電性フィラーが、
ケッチェンブラック、アセチレンブラック、黒鉛、炭素繊維、カーボンナノファイバー(CNF)、カーボンナノチューブ(CNT)のいずれかの炭素材料、
または、金、銀、白金のいずれかの金属材料、
または、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリパラフェニレン、ポリパラフェニレンビニレンのいずれかの誘導体、
または、これら誘導体にアニオンまたはカチオンに代表されるドーパントを添加した導電性高分子材料、または、イオン性液体のうちのいずれか1つ以上からなることを特徴とする誘電性ゴム組成物である。
【0011】
また、第11の発明は、
ベースゴムに誘電性フィラーを含有した誘電性ゴム組成物であって、
前記誘電性ゴム組成物のベースゴムが、シリコーン系樹脂、変性シリコーン系樹脂、アクリル系樹脂、クロロプレン系樹脂、ポリサルファイド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリイソブチル系樹脂、フロロシリコーン系樹脂の少なくとも1つからなると共に、
前記誘電性フィラーが、高誘電セラミックス粉末、イオン性液体、チオカルボニル基を有する有機化合物のいずれか1つ以上からなることを特徴とする誘電性ゴム組成物である。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る導電性ゴム組成物および誘電性ゴム組成物を、それぞれ電極層および誘電層として用いたエラストマートランスデューサーにおいては、各電極層および中間層が優れた変形能を有し、互いの変形に追随して変形するため、ひずみなどの繰り返し応力に対して優れた耐久性を発揮できる。
これによって、ひずみなどの応力が繰り返されても電極層のひび割れや剥離、中間層のひび割れや亀裂、破断などを未然に防止することができる。
また、作製段階において電極層間に所定の電圧を印可したり、両電極層の電位差をなくしてから所定時間以上保存することでさらに優れた発電能を発揮できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係るエラストマートランスデューサー100の実施の一形態を示す構成図である。
【図2】電極層10,10と中間層20との接合(架橋)方法の一例を示す概念図である。
【図3】電圧作動確認方法の一例を示す概念図である。
【図4】発電確認テストを示す概略図である。
【図5】電圧の回復度を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、本発明の実施の一形態を添付図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明に係るエラストマートランスデューサー100の実施の一形態を示したものである。
図示するようにこのエラストマートランスデューサー100は、一対の電極層10,10間に誘電性の中間層20を介装(積層)して構成されている。
そして、この電極層10,10は、ベースゴムに導電性フィラーを含有した導電性ゴム組成物で構成されると共に、中間層20は、ベースゴムに誘電性フィラーを含有する誘電性ゴム組成物で構成されている。
【0015】
ここで、電極層10,10を構成する導電性ゴム組成物のベースゴムとしては、中間層20を構成する誘電性ゴム組成物のベースゴムと同じものを用いることが好ましい。
この導電性ゴム組成物のベースゴムとして好適なベースゴムとしては、例えば、シリコーン系樹脂、変性シリコーン系樹脂、アクリル系樹脂、クロロプレン系樹脂、ポリサルファイド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリイソブチル系樹脂、フロロシリコーン系樹脂などを用いることができる。
【0016】
また、このベースゴムに配合される導電性フィラーとして好適な導電性フィラーは、体積抵抗率が1×10Ω・cmを超えると導電性が低いため全体の応答性が低下することから、少なくとも体積抵抗率が1×10Ω・cm以下の導電性フィラーを用いることが望ましく、好ましくは1×10−3Ω・cm以下である。これにより、電極層10,10を構成する導電性ゴム組成物自身の体積抵抗率を1×10Ω・cm以下にすることができる。体積固有抵抗率が1×10Ω・cm以上であると誘電層ゴム積層体の応答性が良くない。 このような条件を満たす導電性フィラーとしては、例えば以下の表1に示すように導電性カーボンブラックの1種である、ケッチェンブラックやアセチレンブラック、または黒鉛、炭素繊維、カーボンナノファイバー(CNF)、カーボンナノチューブ(CNT)のいずれかの炭素材料、または、金、銀、白金のいずれかの金属材料、または、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリパラフェニレン、ポリパラフェニレンビニレンのいずれかの誘導体、または、これら誘導体にアニオンまたはカチオンに代表されるドーパントを添加した導電性高分子材料、または、極性の大きい有機フィラーであるイオン性液体などのうちのいずれか1つ以上を用いることが好ましい。
【0017】
【表1】

【0018】
また、これらの導電性フィラーのベースゴムに対する配合比率としては、導電性フィラーの種類によって異なってくるが、例えばカーボンナノファイバー(CNF)の場合ではベースゴム100重量部に対して5重量部〜70重量部の範囲が好ましい。すなわち、この範囲外では電極層10,10の導電性が低下したり全体のレスポンスが低下するからであり、好ましい導電性フィラーの組成比率は、ベースゴム100重量部に対して10重量部〜50重量部の範囲である。
【0019】
一方、中間層20を構成する誘電性ゴム組成物のベースゴムとしては、シリコーン系樹脂、変成シリコーン系樹脂、アクリル系樹脂、クロロプレン系樹脂、ポリサルファイド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、、ポリイソブチル系樹脂、フロロシリコーン系樹脂のいずれかを用いることができる。好適には電極層10,10を構成する導電性ゴム組成物のベースゴムと同じものである。具体的には以下の表2に示すように、イソプロピレンゴム、スチレンブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ブチルゴム、エチレンプロピレンゴム、ニトリルゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、アクリルゴムなどであり、このなかでも特に好ましいのは、比誘電率3.0以上であるクロロプレンゴム、エチレンプロピレンゴム、ニトリルゴム、シリコーンゴム、アクリルゴム、フッ素ゴム、フロロシリコーンゴムである。
【0020】
【表2】

【0021】
また、これらベースゴムに配合される誘電性フィラーとしては、チタン酸バリウムやチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)、ランタンドープチタン酸ジルコン酸鉛(PLZT)、チタン酸ストロンチウム、チタン酸鉛、チタン酸ビスマス、チタン酸ビスマスバリウムなどの高誘電セラミックス粉末、および極性の大きい有機フィラーであるイオン性液体、ならびにチオウレア誘導体やチオアミド誘導体、チオケトン誘導体、ジチオカルバミン酸エステル誘導体などのチオカルボニル基を有する有機化合物などである。特に、チオカルボニル基を有する有機化合物は、ベースゴムとの相溶性に優れるため、高誘電率とゴム組成物としても可撓性が共に得られ、誘電性ゴム組成物として優れた性質を発揮することができる。
【0022】
イオン性液体の種類としては特に限定されるものではないが、以下の化式1に示すピリジニウム系イオン性液体、化式2に示すイミダソリウム系イオン性液体、化式3に示す脂環式アミン系イオン性液体、化式4に示す脂肪族アミン系イオン性液体、脂肪族ホスホニウム系イオン性液体などを用いることができる。
また、このイオン液体の含有率は、目的とする発電電圧、化合物自体によって適宜選定されるが、ベースゴム100重量部に対して概略5〜70重量部、より好ましくは5〜50重量部とするのが望ましい。含有量が5重量部未満の場合は、ベースゴム中に存在する絶対量が少なすぎるため、発電電圧がさほど向上せず、発電装置としての性能を充分に発揮できない。反対に、70重量部を超えて添加した場合、ベースゴムとの相溶性の上限を超えてしまい、ベースゴムの可撓性が大きく損なわれてしまうからである。
【0023】
【化1】

【0024】
【化2】

【0025】
【化3】

【0026】
【化4】

【0027】
そして、各電極層10,10の厚さとしては、約0.1μm〜100μmの範囲、好ましくは1〜50μmの範囲である。0.1μm未満では、膜厚が薄く、膜厚を均一にすることが困難となり変形時に穴や亀裂などの破損が生じる。反対に100μmを超えると膜厚が厚すぎて応答性が悪くなる上に、変形に追随することが困難となるからである。また、中間層20の厚さとしては、約10μm〜1mmであり、10μm未満では、充分な誘電性が得られず、反対に1mmを超えると弾性域を超えてしまうからである。
また、誘電性ゴム組成物のベースゴムと導電性ゴム組成物のベースゴムは同一樹脂でなることが望ましい。中間層20に電極10,10を接合した際に接着性が向上し、中間層20と電極10,10との剥離が発生しなくなるためである。
【0028】
また、この電極層10,10の物性としては、切断時伸びが50%以上500%以下であることが好ましい。切断時伸びが50%未満であると、絶対的な変形能が不足するために、実用性が低くなる。一方、500%を超えると、変形能は大きくなるものの、機械的強度が不十分となる傾向が強くなるため、実用性が低下する。このような不都合が生じ難くするためには、電極層10,10の切断時伸びは100%以上250%以下であることがより好ましい。
誘電性の中間層20は、ベースゴムと誘電性フィラーとを含有する誘電性ゴム組成物で構成されているが、誘電性ゴム組成物は比誘電率が3以上50以下であることが好ましく、5以上40以下であることがより好ましい。また使用される誘電性フィラーは、比誘電率が200以上であるものが好ましい。
【0029】
そして、このような構成をした本発明のエラストマートランスデューサー100にあっては、各電極層10,10および中間層20が優れた変形能を有し、互いの変形に追随して変形するため、ひずみなどの繰り返し応力に対して優れた耐久性を発揮できる。
これによって、ひずみなどの応力が繰り返し掛かっても電極層10,10のひび割れや剥離、中間層20のひび割れや亀裂、破断などを未然に防止することができる。
また、以下の実施例に示すように、このようなエラストマートランスデューサー100の作製段階において、電極層10,10間に所定の電圧を印可したり、両電極層10,10の電位差をなくしてから所定時間以上(例えば24時間以上、大気中)に保存することでさらに優れた発電能を発揮できる。
【実施例】
【0030】
次に、本発明のエラストマートランスデューサー100に係る具体的実施例を説明する。
(実施例1)
先ず、フロロシリコーンゴム(信越化学工業株式会社製FE123,FE−61)を用いてKコントロールコーター(松尾製作所製)により薄膜を作製し、中間層となる誘電性のゴム膜を形成した。得られた誘電性ゴム膜の膜厚は均一であり、またその比誘電率は膜厚が200μm程度で6〜8であった。
【0031】
次に、反応性液状アクリルゴム(株式会社トウペ製トアアクロンSA−310)をメチルエチルケトンで溶解し、架橋剤にイソシアネート(トーヨーポリマー株式会社製ポリネート70、ソフト硬化剤)を添加、攪拌、アクリル溶液を作製した。このアクリル溶液を、アクリルゴムとの配合割合が100重量部:30重量部となるようにカーボンナノファイバー(昭和電工株式会社製VGCFR−H)を分散させたメチルエチルケトン中に添加していき、均一なアクリル溶液を作製した。
【0032】
次に、Kコントロールコーター(松尾製作所製)により製膜、電極層となる導電性ゴム層を得た。このようにして得られた導電性ゴム層の抵抗は、長さ50mm×幅10mm×厚さ0.05mmの試験片の両端を測定したところ、400〜600Ωであった。
その後、3層構造を作製するために、中間層となる誘電性ゴム層と電極層となる導電性ゴム層を図2に示すような方法で接合した。すなわち、図示するように誘電性ゴム層(中間層20)の両面を導電性ゴム層(電極層10,10)で挟み込むと共に、その両側を絶縁シート30,30を介して鉄板40,40で加圧した状態で100℃のホットプレート50上でこれを30分間加熱して架橋処理を行い、誘電性ゴム層に導電性ゴム層を接着させて本発明のエラストマートランスデューサー100に相当する誘電性ゴム積層体を作製した。
【0033】
そして、図3に示すように、この誘電性ゴム積層体の上下面にそれぞれ薄片状の銅電極60,60を導電性接着剤(常温乾燥タイプ:藤倉化成製ドータイトD−362)を用いて接着してから、この銅電極60,60に微小電流計(株式会社エーディーシー製)70を接続し、その後、この誘電性ゴム積層体を伸長し、そのときの電流値の変化を観察したところ、電流値の変化を観察することができた。
【0034】
(比較例1)
実施例1で得られた誘電性ゴムの代わりに、アクリルゴム(株式会社トウペ製トアアクロンSA−310)をMEKで溶解し、高誘電性フィラーとしてPZT(富士チタン工業製PE−600、比誘電率33℃で2688)、架橋剤にイソシアネート(トーヨーポリマー株式会社製ポリネート70、ソフト硬化剤)を添加、攪拌してシリコーン溶液を作製した。
そして、この溶液を用いてKコントロールコーター(松尾製作所製)により製膜、電極層となる導電性ゴム層を作製した。
そして、このような構成では、実施例1と異なり、高誘電性フィラーを添加させるための工程が導入されるだけでなく、アクリル溶液を作製して薄膜を生成しているため、気泡の混入や高誘電性フィラーの分散が不均一となってしまうおそれがあり、脱法処理の工程を踏まなければならないといった不都合がある。
【0035】
(実施例2)
先ず、反応性液状アクリルゴム(株式会社トウペ製トアアクロンSA−310)をメチルエチルケトンで溶解し、架橋剤にイソシアネート(トーヨーポリマー株式会社製ポリネート70、ソフト硬化剤)および高誘電性フィラーとしてPZT(富士チタン工業製PE−600、比誘電率33℃で2688)を添加、攪拌してアクリル溶液を作製した。この溶液を用いてKコントロールコーター(松尾製作所製)により薄膜を作製し、中間層となる誘電性のゴム膜を形成した。
【0036】
次に、反応性液状アクリルゴム(株式会社トウペ製トアアクロンSA−310)をメチルエチルケトンで溶解し、架橋剤にイソシアネート(トーヨーポリマー株式会社製ポリネート70、ソフト硬化剤)および高誘電性フィラーとしてPZT(富士チタン工業製PE−600、比誘電率33℃で2688)を添加、攪拌してアクリル溶液を作製した。このアクリル溶液をアクリルゴムとの配合割合が20重量%、25重量%、30重量%、35重量%となるようにカーボンナノファイバー(昭和電工株式会社製VGCFR−H)を分散させたメチルエチルケトン中に添加していき、均一なアクリル溶液を作製した。
【0037】
次に、Kコントロールコーター(松尾製作所製)により製膜、電極層となる導電性ゴム層を得た。そして、このようにして得られた導電性ゴム層の抵抗は、長さ50mm×幅10mm×厚さ0.05mmの試験片の両端を測定したところ、4kΩ、1〜1.2kΩ、0.4〜0.6kΩ、0.4〜0.6kΩであり、カーボンナノファイバーの添加量が30重量%超過において抵抗値の変化が殆どなくなった。
その後、3層構造を作製するために、中間層となる誘電性ゴム層と電極層となる導電性ゴム層を実施例1と同様な方法で接合して本発明のエラストマートランスデューサー100に相当する誘電性ゴム積層体を作製した。
【0038】
(比較例2)
実施例2で得られた誘電性ゴムの代わりに、中間層となる誘電性ゴム層の両面にスパッタリングによって金を蒸着して電極層となる導電性ゴム層を作製した。比較サンプルとして長さ50mm×幅10mm×厚さ30nmである金蒸着電極の両端の抵抗を測定したところ、3Ωであった。
そして、このようにして得られた実施例2および比較例2の誘電性ゴム積層体の上下面に実施例1と同様にそれぞれ薄片状の銅電極60,60を導電性接着剤(常温乾燥タイプ:藤倉化成製ドータイトD−362)を用いて接着し、この銅電極60,60に微小電流計(株式会社エーディーシー製)70を接続した後、この誘電性ゴム積層体を伸長することによって電流値の変化を観察した。具体的には、この誘電性ゴム積層体に繰り返しひずみを加えて発電し、電流値の変化を観察すると共に、100%の伸長で2Hz、1万回のひずみを加えた後の破損状況を観察した。
【0039】
この結果、実施例2および比較例2の誘電性ゴム積層体は、いずれもひずみが与えられると発電を確認することができた。さらに、実施例2においては、伸長を繰り返し与えても電極には問題が生じず、優れた耐久性を示した。
これに対し、比較例2においては、伸長を与えた結果、電極となる金の表面に亀裂が生じ、表面抵抗値が増大することによって電流の伝わり方が悪くなり、発生電流を取り出すことができないことがあった。
【0040】
(実施例3)
以下の表3に示すように、ベースゴムとして架橋剤を8重量%含む反応性液状アクリルゴムを95重量%を用いると共に、高誘電性フィラーとしてピリジニウム系イオン性液体5重量%を用いた他は、実施例1と同様な方法によって膜厚250μm、比誘電率10,引張最大伸250%の誘電性ゴム層を作製した。
また、ベースゴムとして架橋剤を8重量%含む反応性液状アクリルゴムを70重量%を用いると共に、導電性フィラーとしてCNF30重量%を用いた他は、実施例1と同様な方法によって、長さ100mm×幅50mm×厚さ50μm、体積抵抗1×10Ω・cm、引張最大伸び50%の物性を有する電極層を形成し、これらを実施例1と同様な方法によって接合して本発明のエラストマートランスデューサー100に相当する誘電性ゴム積層体を作製した。
【0041】
(比較例3)
以下の表3に示すように、ベースゴムとして架橋剤を8重量%含む反応性液状アクリルゴムを100重量部を用いると共に、高誘電性フィラーとしてPZT50重量部を用いた他は、実施例1と同様な方法によって膜厚250μm、比誘電率6,引張最大伸200%の誘電性ゴム層を作製した。また、実施例3と同様な組成、サイズ、物性を有する電極層を形成し、これらを実施例1と同様な方法によって接合して誘電性ゴム積層体を作製した。
【0042】
【表3】

【0043】
その後、このようにして得られた実施例3および比較例3の誘電性ゴム積層体の上下面に実施例1と同様にそれぞれ薄片状の銅電極60,60を介して微小電流計70を接続した後、この誘電性ゴム積層体の一端を固定し、他方の端を50%力学的に伸長させた後、力を除去することによって電流値の変化を観察した。
この結果、表3の下欄に示すように、実施例3に係る誘電性ゴム積層体は、比較例3に係る誘電性ゴム積層体に比べて優れた発電量を発揮することができた。
【0044】
(実施例4、5)
以下の表4に示すように、ベースゴムとして架橋剤を8重量部、反応性液状アクリルゴムを100重量部、高誘電性フィラーとしてピリジニウム系イオン性液体(広栄化学工業株式会社製(IL−P14))10重量部を用いた他は、実施例1と同様な方法によって膜厚250μm、硬さ、デュロメータA33の誘電性ゴム層を作製した。
また、ベースゴムとして架橋剤を8.0重量部、反応性液状アクリルゴムを100重量部、導電性フィラーとしてカーボンナノファイバー(CNF)35重量部を用いた他は、実施例1と同様な方法によって、体積固有抵抗6×10−1Ω・cm、硬さ、デュロメータA40の物性を有する電極層を形成した。
そして、これらを実施例1と同様な方法によって接合した後、両電極間に外部電圧(150V)を30分間印加する処理を行って本発明のエラストマートランスデューサー100に相当する誘電性ゴム積層体を作製した。なお、実施例5は、このような外部電圧の印加処理を行っていない。
【0045】
(比較例4)
以下の表4に示すように、誘電性ゴム層を架橋剤を8重量部含む反応性液状アクリルゴムで構成した他は、実施例4および5と同様な方法によって誘電性ゴム積層体を作製した。なお、この比較例4もこのような外部電圧の印加処理を行っていない。
そして、図4に示すように、このようにして得られた実施例4,5および比較例4の誘電性ゴム積層体100の上下面にそれぞれ電極80,80を介して電圧波形測定装置90を接続して発電材料としての機能を評価した。
【0046】
この評価方法としては、各電極80,80間の電位差を測るものであるが、この測定にあたっては以下のa〜cを繰り返し行った。
a.両電極80,80を短絡させ、電位差を0Vにする。
b.その後両電極80,80間の短絡を取り外し、大気中に保存
c.両電極80,80間の電位差の時間変化調査
【0047】
【表4】

【0048】
この結果、表4の下欄に示すように比較例4に係る誘電性ゴム積層体では、各電極80,80間に電位差を得ることができなかった。これに対し、本発明に係る実施例4および5に係るエラストマートランスデューサー100は、放電後大気中に保存することにより、各電極80,80間に電位差を得ることが分かった。
また、図5はその電位差(電圧V)の経時変化を示したものであるが、時間が経過することによってその電位差が徐々に大きくなることも分かる。
そして、さらに表4の下欄に示すように、本発明に係るエラストマートランスデューサー100の作成時に外部電圧を印加することによってその回復時の発生電圧値が大幅に上昇することも分かった。
【符号の説明】
【0049】
100…エラストマートランスデューサー(導電性ゴム製積層体)
10…電極層(導電性ゴム組成物)
20…中間層(誘電性ゴム組成物)
30…絶縁シート
40…鉄板
50…ホットプレート
60…銅電極
70…微小電流計
80…銅電極
90…電圧波形測定装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の電極層間に誘電性ゴム組成物で構成された中間層を介装してなるエラストマートランスデューサーであって、
前記電極層がベースゴムに導電性フィラーを含有した導電性ゴム組成物で構成されることを特徴とするエラストマートランスデューサー。
【請求項2】
請求項1に記載のエラストマートランスデューサーにおいて、
前記導電性ゴム組成物のベースゴムが、シリコーン系樹脂、変性シリコーン系樹脂、アクリル系樹脂、クロロプレン系樹脂、ポリサルファイド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリイソブチル系樹脂、フロロシリコーン系樹脂の少なくとも1つからなることを特徴とするエラストマートランスデューサー。
【請求項3】
請求項1または2に記載のエラストマートランスデューサーにおいて、
前記導電性ゴム組成物の導電性フィラーが、
ケッチェンブラック、アセチレンブラック、黒鉛、炭素繊維、カーボンナノファイバー(CNF)、カーボンナノチューブ(CNT)のいずれかの炭素材料、
または、金、銀、白金のいずれかの金属材料、
または、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリパラフェニレン、ポリパラフェニレンビニレンのいずれかの誘導体、
または、これら誘導体にアニオンまたはカチオンに代表されるドーパントを添加した導電性高分子材料、または、イオン性液体のうちのいずれか1つ以上であることを特徴とするエラストマートランスデューサー。
【請求項4】
請求項1または2に記載のエラストマートランスデューサーにおいて、
前記導電性ゴム組成物は、体積抵抗率が1×10Ω・cm以下の導電性フィラーを含み、かつ前記導電性ゴム組成物自身の体積抵抗率が1×10Ω・cm以下であることを特徴とするエラストマートランスデューサー。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のエラストマートランスデューサーにおいて、
前記誘電性ゴム組成物は、シリコーン系樹脂、変成シリコーン系樹脂、アクリル系樹脂、クロロプレン系樹脂、ポリサルファイド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリイソブチル系樹脂、フロロシリコーン系樹脂の少なくとも1つからなるベースゴムに、高誘電セラミックス粉末、イオン性液体、チオカルボニル基を有する有機化合物のいずれかの誘電性フィラーを含むことを特徴とするエラストマートランスデューサー。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のエラストマートランスデューサーにおいて、
前記誘電性ゴム組成物のベースゴムと導電性ゴム組成物のベースゴムとが同一樹脂であることを特徴とするエラストマートランスデューサー。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のエラストマートランスデューサーにおいて、
前記中間層の厚さが10μm以上1mm以下であり、かつ前記各電極層の厚さが0.05μm以上100μm以下であることを特徴とするエラストマートランスデューサー。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載のエラストマートランスデューサーにおいて、
前記一対の電極層間に前記中間層を介装した後、前記電極層間に生ずる電位差を放電させてから開回路状態で所定時間保存してなることを特徴とするエラストマートランスデューサー。
【請求項9】
請求項請求項1〜7のいずれか1項に記載のエラストマートランスデューサーにおいて、 前記一対の電極層間に前記中間層を介装した後、前記電極層間に所定の電圧を印加してから前記電極層間に生ずる電位差を放電させ、その後、開回路状態で所定時間保存してなることを特徴とするエラストマートランスデューサー。
【請求項10】
ベースゴムに導電性フィラーを含有した導電性ゴム組成物であって、
前記ベースゴムが、
シリコーン系樹脂、変性シリコーン系樹脂、アクリル系樹脂、クロロプレン系樹脂、ポリサルファイド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリイソブチル系樹脂、フロロシリコーン系樹脂の少なくとも1つからなると共に、
前記導電性フィラーが、
ケッチェンブラック、アセチレンブラック、黒鉛、炭素繊維、カーボンナノファイバー(CNF)、カーボンナノチューブ(CNT)のいずれかの炭素材料、
または、金、銀、白金のいずれかの金属材料、
または、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリパラフェニレン、ポリパラフェニレンビニレンのいずれかの誘導体、
または、これら誘導体にアニオンまたはカチオンに代表されるドーパントを添加した導電性高分子材料、または、イオン性液体のうちのいずれか1つ以上からなることを特徴とする導電性ゴム組成物。
【請求項11】
ベースゴムに誘電性フィラーを含有した誘電性ゴム組成物であって、
前記誘電性ゴム組成物のベースゴムが、シリコーン系樹脂、変性シリコーン系樹脂、アクリル系樹脂、クロロプレン系樹脂、ポリサルファイド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリイソブチル系樹脂、フロロシリコーン系樹脂の少なくとも1つからなると共に、
前記誘電性フィラーが、高誘電セラミックス粉末、イオン性液体、チオカルボニル基を有する有機化合物のいずれか1つ以上からなることを特徴とする誘電性ゴム組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−227985(P2009−227985A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−44710(P2009−44710)
【出願日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】