説明

エラストマー組成物の製造方法

【課題】架橋NBR組成物の耐油性および耐寒性をともに改善するエラストマー組成物の製造方法および該製造方法により製造されたエラストマー組成物を提供すること。
【解決手段】超臨界二酸化炭素中に、架橋されたアクリロニトリルブタジエンゴム組成物、ラジカル重合性モノマーおよびラジカル重合開始剤を共存させ、続いて、該ラジカル重合開始剤を熱分解させ、該ラジカル重合性モノマーを重合せしめることを特徴とするエラストマー組成物の製造方法と、該製造方法により製造されたエラストマー組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエラストマー組成物の製造方法に関し、詳しくは、耐油性および耐寒性をともに改善可能な、架橋されたアクリロニトリルブタジエンゴム組成物を含有するエラストマー組成物の製造方法および該製造方法により製造されたエラストマー組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)は、その使用目的によりアクリロニトリル含量を調節して用いられている。例えば、耐油性、耐水性が求められる用途には、アクリロニトリル含量の高いNBRが用いられている。しかし、このようなNBRは耐油性に優れるものの、耐寒性が低いという問題点がある。一方、アクリロニトリル含量の低いNBRは、ブタジエン含量が高いため、耐寒性を向上させることができるが、耐油性が著しく劣るという問題がある。
このように、NBRにおいて耐油性および耐寒性は相反する性質であり、両者を満たすNBRを提供することは、当業界での大きな課題である。
【0003】
一方、超臨界状態の物質、例えば二酸化炭素、水、プロパンなどを用いる技術が種々研究されている。例えば、特許文献1にはゴム又はプラスチック材料などのポリマー材料に添加剤を配合するに際し、通常の状態で(常温常圧で)、気体状である物質の圧縮された流体中に添加剤を溶解させてポリマー材料と接触させることにより機械的混合手段を用いることなく、添加剤をポリマー物材料中に組み入れることが開示されている。その他、超臨界流体とポリマーとを接触させる技術は、特許文献2〜5等に開示されている。
しかしながら、上記各特許文献には、架橋されたNBR中でラジカル重合性モノマーを重合させ複合化させ、耐油性および耐寒性を改善する本発明の技術思想は何ら開示または示唆されていない。
【特許文献1】米国特許第4,820,752号明細書
【特許文献2】特開2002−146038号公報
【特許文献3】特開2001−316832号公報
【特許文献4】特開平11−348037号公報
【特許文献5】特開2006−160945号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、架橋されたアクリロニトリルブタジエンゴム組成物のエラストマー組成物の耐油性および耐寒性をともに改善するエラストマー組成物の製造方法および該製造方法により製造されたエラストマー組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以下のとおりである。
1.超臨界二酸化炭素中に、架橋されたアクリロニトリルブタジエンゴム組成物、ラジカル重合性モノマーおよびラジカル重合開始剤を共存させ、続いて、該ラジカル重合開始剤を熱分解させ、該ラジカル重合性モノマーを重合せしめることを特徴とするエラストマー組成物の製造方法。
2.前記ラジカル重合性モノマーが(メタ)アクリレート系モノマーであることを特徴とする前記1に記載のエラストマー組成物の製造方法。
3.前記ラジカル重合開始剤が有機過酸化物であることを特徴とする前記1または2に記載のエラストマー組成物の製造方法。
4.前記ラジカル重合開始剤を熱分解させる温度が該ラジカル重合開始剤の20時間半減期温度以上であることを特徴とする前記1〜3のいずれかに記載のエラストマー組成物の製造方法。
5.前記1〜4のいずれかに記載の製造方法により製造されたエラストマー組成物。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、超臨界二酸化炭素中に、架橋されたアクリロニトリルブタジエンゴム組成物、ラジカル重合性モノマーおよびラジカル重合開始剤を共存させ、続いて、該ラジカル重合開始剤を熱分解させ、該ラジカル重合性モノマーを重合せしめることを特徴としているので、耐油性および耐寒性がともに改善されたエラストマー組成物を製造することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明で使用される架橋されたアクリロニトリルブタジエンゴム組成物(以下、架橋NBR組成物という)は、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)を公知の加硫または架橋剤、加硫または架橋促進剤を用い、公知の製造方法によって製造されたものを用いることができる。
例えば加硫剤として硫黄を用いた場合は、加硫促進剤としてスルフェンアミド系加硫促進剤、チウラム系加硫促進剤、チアゾール系加硫促進剤等を用いることができ、NBR100質量部に対して加硫剤を0.5〜10質量部、加硫促進剤0.1〜5質量部程度用いることができる。
また架橋NBR組成物には、カーボンブラック;シリカ、炭酸カルシウム、クレー等の無機フィラー;各種オイル、老化防止剤、可塑剤などの各種添加剤を用途に応じて種々添加することができる。
【0008】
本発明で使用されるラジカル重合性モノマーは、各種ラジカル重合開始剤の存在によって重合するものが使用できる。そのようなモノマーの具体例としては、酢酸ビニル、スチレン及びスチレン誘導体、ビニルピリジン及びその誘導体、各種ビニルエーテル、アクリロニトリル、各種アクリルアミド、各種(メタ)アクリル酸、各種(メタ)アクリル酸エステル、ビニルカルバゾール、無水マレイン酸、各種ビニルイソシアナートなどの各種ビニルモノマーを使用することができる。これらのモノマーは単独でも他のモノマーと併用しても良い。但し、無水マレイン酸は単独重合しないことに注意して使用する必要がある。上記に例示した以外にも例えば“POLYMER HANDBOOK forth edition” II〜310頁(1999) JOHN WILEY & SONS INC. Table 1に記載されたモノマーを使用することができる。
【0009】
中でも本発明においては、耐油性が改善されたエラストマー組成物を提供するという観点から、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸金属塩、(メタ)アクリル酸エステルのような(メタ)アクリレート系モノマーが好ましい。なお本明細書中、(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸またはメタクリル酸を意味する。中でも、アクリル酸、メタクリル酸のような酸基を有するモノマーや、CH=C(R)COOR’(式中、Rは水素またはメチル基を表し、R’はアルキル基を表す)で表される(メタ)アクリル酸エステルにおいて、R’が炭素数1〜3のアルキル基であるモノマーが好ましい。とくに好ましくは、アクリル酸、メタクリル酸、メタクリル酸メチルである。
【0010】
本発明で使用されるラジカル重合開始剤は、各種有機過酸化物、各種アゾ系開始剤、テトラメチルチウラムジスルフィドなどのジスルフィド化合物などが好適に利用できる。有機過酸化物の具体例としては、ジイソブチルパーオキサイド、クミルパーオキシネオデカノエート、ジ-n-プロピルパーオキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ-sec-ブチルパーオキシジカーボネート、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート、ジ-(4-t-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、1-シクロヘキシル-1-メチルエチルパーオキシネオデカノエート、ジ(2-エトキシエチル)パーオキシジカーボネート、ジ(2-エチルヘキシル)パーオキシジカーボネート、t-ヘキシルパーオキシネオデカノエート、ジメトキシブチルパーオキシジカーボネート、t-ブチルパーオキシネオデカノエート、t-ヘキシルパーオキシピバレート、t-ブチルパーオキシピバレート、ジ(3,3,5-トリメチルヘキサノイル)パーオキサイド、ジ-n-オクタノイルパーオキサイド、ジラウロイルパーオキサイド、ジステアロイルパーオキサイド、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、ジスクシン酸パーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(2-エチルヘキサノイルパーオキシ)ヘキサン、t-ヘキシルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、ジ(4-メチルベンゾイル)パーオキサイド、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、ジ(3-メチルベンゾイル)パーオキサイド、ベンゾイル(3-メチルベンゾイル)パーオキサイド、ジベンゾイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシイソブチレート、1,1,1-ジ(t-ブチルパーオキシ)2-メチルシクロヘキサン、1,1-ジ(t-ヘキシルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ジ(t-ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1-ジ(t-ヘキシルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ジ(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、2,2-ジ(4,4-ジ-(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキシル)プロパン、t-ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t-ブチルパーオキシマレイン酸、t-ブチルパーオキシ-3,3,5-トリメチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシラウレート、2,5-ジメチル-2,5-ジ-(3-メチルベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t-ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t-ブチルパーオキシ2−エチルヘキシルモノカーボネート、t-ヘキシルパーオキシベンゾエート、2,5-ジメチル-2,5-ジ-(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t-ブチルパーオキシアセテート、2,2-ジ-(t-ブチルパーオキシ)ブタン、t-ブチルパーオキシベンゾエート、n-ブチル4,4-ジ-(t-ブチルパーオキシ)バレレート、ジ(2-t-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、ジクミルパーオキサイド、ジ-t-ヘキシルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、t-ブチルクミルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、p-メンタンハイドロパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ-(t-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、1,1,3,3-テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド、t-ブチルトリメチルシリルパーオキサイド2,3-ジ-メチル-2,3-ジフェニルブタンなどが挙げられる。
【0011】
アゾ系開始剤の具体例としては、2-2'-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、2-2'-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2'-アゾビスイソブチロニトリル、2-2'-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、1,1'-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)、1-[(1-シアノ-1-メチルエチル)アゾ]フォルムアミド、2-2'-アゾビス{2-メチル-N-[1,1-ビス(ヒドロキシメチル)-2-ヒドロキシエチル]プロピオンアミド}、2-2'-アゾビス{2-メチル-N-[2-(1-ヒドロキシブチル)]-プロピオンアミド}、2-2'-アゾビス[2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)-プロピオンアミド]、2-2'-アゾビス(N-ブチル-2-メチルプロピオンアミド)、2-2'-アゾビス(N-シクロヘキシル-2-メチルプロピオンアミド)、2-2'-アゾビス[2-(5-メチル-2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]ジハイドロクロライド、2-2'-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]ジハイドロクロライド、2-2'-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]ジサルフェートジハイドレート、2-2'-アゾビス[2-(3,4,5,6-テトラヒドロピリミジン-2-イル)プロパン]ジハイドロクロライド、2-2'-アゾビス{2-[1-(2-ヒドロキシエチル)-2-イミダゾリン-2-イル]プロパン}ジハイドロクロライド、2-2'-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]、2-2'-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)ジハイドロクロライド、2-2'-アゾビス[N-(2-カルボキシエチル)-2-メチルプロピオンアミジン]、2-2'-アゾビス(2-メチルプロピオンアミドオキシム)、ジメチル2-2'-アゾビス(2-メチルプロピオネート)、4,4'-アゾビス(4-シアノバレリック酸)、2-2'-アゾビス(2,2,4-トリメチルペンタン)などをあげることができる。
中でも有機過酸化物を使用するのが本発明の効果の点から望ましい。
【0012】
本発明の製造方法は、超臨界二酸化炭素中に、架橋NBR組成物、ラジカル重合性モノマーおよびラジカル重合開始剤を共存させ、続いて、該ラジカル重合開始剤を熱分解させ、該ラジカル重合性モノマーを重合せしめることを特徴としている。次に該製造方法について詳しく説明する。
【0013】
超臨界二酸化炭素中に上記各成分を導入する方法にとくに制限はないが、超臨界二酸化炭素が充填された密閉容器中で上記各成分を同時に共存させる方法や、超臨界二酸化炭素と架橋NBR組成物とを共存させた後に、ラジカル重合性モノマーやラジカル重合開始剤を導入する方法や、あらかじめラジカル重合性モノマーおよびラジカル重合開始剤を超臨界二酸化炭素に溶解させた後に、架橋NBR組成物をそこに導入する方法等が挙げられる。なお、超臨界二酸化炭素中には、通常エントレーナとよばれる他成分を含ませることができる。エントレーナは通常、超臨界二酸化炭素の溶解度パラメータを調節するために添加されるもので超臨界二酸化炭素に溶解する有機溶剤、有機化合物(気体、液体、固体)から一種以上を任意に選択することができる。例えばエントレーナとしてはメタノール、エタノール、オクタン、各種脂肪酸などをあげることができるが、もちろんこれらに限定されるものではない。
【0014】
架橋NBR組成物の濃度は、特に制限はないが、超臨界二酸化炭素中、例えば0.1〜80体積%であり、0.5〜50体積%であるのがさらに好ましい。
また、架橋NBR組成物に対する、ラジカル重合性モノマーおよびラジカル重合開始剤の添加量はとくに制限はないが、架橋NBR組成物100質量部に対して、ラジカル重合性モノマーが1〜100質量部、ラジカル重合開始剤が前記ラジカル重合性モノマーに対して0.001質量%〜10質量%であることが前記目的の達成のために好ましい。
【0015】
なお、ラジカル重合性モノマーの濃度は、超臨界二酸化炭素中、1.0〜60質量%とするのが好ましく、3.0〜50質量%にするのがさらに好ましい。この量は超臨界二酸化炭素による実質的な処理時間にわたって、実質的な処理に使用されている系内に存在させなければならないラジカル重合性モノマーの量として規定される。例えばバッチ方式の処理では処理容器内の超臨界二酸化炭素に対して1.0〜60質量%のラジカル重合性モノマーを共存させるのが好ましい。また、ラジカル重合性モノマーを連続的に超臨界二酸化炭素に導入する場合にも、ラジカル重合性モノマーが反応系内で常にこの範囲の濃度となるように調整するのが好ましい。前記ラジカル重合性モノマーの量が少な過ぎると複合化に時間がかかり過ぎることになり好ましくない。逆に多過ぎると超臨界二酸化炭素に溶解されにくくなったり、または複合化されにくくなったりするので好ましくない。
【0016】
超臨界二酸化炭素中、上記各成分を共存させ、ラジカル重合開始剤を熱分解させ、該ラジカル重合性モノマーを重合せしめる。ラジカル熱重合開始剤の熱分解は、架橋NBR組成物、ラジカル重合性モノマーおよびラジカル重合開始剤の共存と同時でもよいし、架橋NBR組成物中に、ラジカル重合性モノマーおよびラジカル重合開始剤を含浸させてからでもよい。
ラジカル重合開始剤の熱分解は、例えば反応系内の温度をラジカル重合開始剤の20時間半減期温度以上にすることで達成される。重合時間は特に制限はないが、系の温度におけるラジカル重合開始剤の半減期時間の5倍以上が好ましい。また、反応系内の圧力は、二酸化炭素の臨界圧力以上50MPa以下が好ましい。ラジカル重合性モノマーの重合により、架橋NBR組成物中に新たなポリマーネットワークが形成される。また、ラジカル重合開始剤が水素引抜き能を有する場合には、架橋NBR組成物の分子鎖からの水素引抜きが起り、ラジカル重合性モノマーの一部がそこにグラフトするものと考えられ、このような反応機構により、架橋NBR組成物と、ラジカル重合性モノマーの重合体とが複合化する。また、ラジカル重合性モノマーとしてカルボキシル基を分子中に有するモノマーを使用し、架橋NBR組成物がカルボキシル基と反応性の金属原子を含む場合には、少なくとも一部のカルボキシル基と金属原子(陽イオン)の間にイオン結合を形成させることもできる。
【0017】
ラジカル重合反応の終了後、反応容器の圧力を下げることにより、二酸化炭素が気体となり、エラストマー組成物から容易に除去される。本発明では超臨界流体として二酸化炭素を使用しているので、安全面または作業環境面等で重大な問題を引き起こすことがない。
【0018】
このようにして得られる本発明のエラストマー組成物は、下記式で定義される複合化率が、3〜100質量%が好ましく、5〜80質量%がさらに好ましい。複合化率の調整は、ラジカル重合性モノマーの量、ラジカル重合開始剤の量、超臨界二酸化炭素の温度や圧力を制御し、ラジカル重合性モノマーの含浸の度合いを制御することで可能となる。
複合化率(質量%)={(G−G)/G} × 100
:超臨界二酸化炭素に導入前の架橋NBR組成物の質量(g)
:ラジカル重合反応終了後のエラストマーの質量(g)
【0019】
図1は、本発明の製造方法を説明するための概念図である。
図1(a)において、準備しておいた超臨界二酸化炭素に導入前の架橋NBR組成物102を、超臨界二酸化炭素中でラジカル重合性モノマーおよびラジカル重合開始剤を共存させると、図1(b)に示すように、溶解または膨潤した架橋NBR組成物102中にラジカル重合性モノマー104およびラジカル重合開始剤106が含浸する。ラジカル重合開始剤106を熱分解させると、図1(c)に示すようにラジカル重合性モノマー104が重合する。重合が進行するにつれて系内の未反応のラジカル重合性モノマー104が架橋NBR組成物102中へ供給される。続いて反応系内の圧力を下げる等して二酸化炭素を気体化すると、図1(d)に示すように架橋NBR組成物102とラジカル重合性モノマー104の重合体が複合化した、本発明のエラストマー組成物108が得られる。
【実施例】
【0020】
以下、本発明を実施例および比較例によってさらに説明するが、本発明はこれらの例に制限されるものではない。
【0021】
実施例1〜6および比較例1〜4
(架橋NBR組成物の調製)
表1に示す配合(質量部)において、加硫促進剤と硫黄を除く成分を密閉式バンバリーミキサーで80℃で5分間混練した後、ミキサー外に放出させて室温冷却した。続いて、該組成物をオープンロールに巻きつけて、加硫促進剤および硫黄を加え、切り返し操作により均一分散し、厚さ2.5mmのシートとした。これを表1に示す加硫条件で混練し、架橋NBR組成物を得た。
【0022】
[表1]


【0023】
*1:NBR(日本ゼオン(株)製、Nipol DN401、結合アクリロニトリル量18.0質量%)
*2:NBR(日本ゼオン(株)製、Nipol 1043、結合アクリロニトリル量29.0質量%)
*3:NBR(日本ゼオン(株)製、Nipol 1042、結合アクリロニトリル量33.5質量%)
*4:NBR(日本ゼオン(株)製、Nipol 1041、結合アクリロニトリル量40.5質量%)
*5:カーボンブラック(東海カーボン(株)製、シースト3)
*6:亜鉛華(正同化学工業(株)製、亜鉛華3号)
*7:ステアリン酸(千葉脂肪酸(株)製、工業用ステアリン酸)
*8:硫黄(鶴見化学(株)製、粉末硫黄)
*9:加硫促進剤(大内新興化学工業(株)製、ノクセラーNS−F、N−t−ブチル−2−ベゾチアゾイルスルフェンアミド)
【0024】
(エラストマー組成物の調製)
容量45mlの耐圧容器中にサンプル1(幅10mm、長さ50mm、厚さ1mmの短冊形状)、下記表2に示すラジカル重合性モノマーを担持したガラスろ紙およびラジカル重合開始剤を入れ、該耐圧容器中に二酸化炭素を注入し、表2に示す圧力および温度とし、表2に示す時間で処理を行い、その後、20分間かけて二酸化炭素を排出し常圧に戻した。
【0025】
【表2】

【0026】
*1:MMA(和光純薬工業(株)製、メタクリル酸メチル)
*2:MAA(和光純薬工業(株)製、メタクリル酸)
*3:サンプル1に対する質量%
*4:DCP(ナカライテクス(株)製、ジクミルパーオキサイド)
【0027】
上記で得られた各種エラストマー組成物について、次の試験を行なった。
ガラス転移温度(Tg)の測定:DSCにより−120℃〜250℃の温度範囲で昇温速度10℃/分で測定を行なった。
n−ヘキサン膨潤度の測定:20℃のn−ヘキサンに試料を浸し一定時間毎に取り出して表面のn−ヘキサンを手早くふき取り重量測定した。この試料とn−ヘキサンの密度より膨潤試料の体積を計算した。膨潤体積が一定となったところで下式により膨潤度を求めた。
膨潤度={(膨潤試料の体積)−(もとの試料の体積)}/(もとの試料の体積) × 100 (%)
結果を表3に、表3の数値をグラフ化したものを図2に示す。
【0028】
[表3]


【0029】
図2のグラフを参照すると、比較例1〜4の架橋NBR組成物は、結合アクリロニトリル量が上昇するにつれ(比較例1→比較例4)、耐油性(n−ヘキサン膨潤度)は向上するものの、耐寒性(Tg)が低下する傾向となる。
本発明の実施例1〜3の結果を参照すると、比較例1に比べてはるかに耐油性が向上していることが分かる。また、ラジカル重合性モノマーの使用量を多くしていくにつれ(実施例1→実施例3)、耐寒性は低下していく傾向があるものの、比較例1〜4の破線で示す耐寒性低下曲線よりも下側に位置し、耐油性と耐寒性のバランスが良好に改善されていることが分かる。
また、本発明の実施例4〜6の結果を参照すると、上記実施例1〜3の結果と同様であるが、耐寒性がさらに改善されていることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明に従えば、エラストマー組成物の耐油性および耐寒性の向上が達成されるので、タイヤ、ホースを始めとする各種ゴム製品に好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の製造方法を説明するための概念図である。
【図2】実施例および比較例における各種エラストマー組成物の耐油性および耐寒性を示すグラフである。
【符号の説明】
【0032】
102 架橋NBR組成物
104 ラジカル重合性モノマー
106 ラジカル重合開始剤
108 エラストマー組成物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超臨界二酸化炭素中に、架橋されたアクリロニトリルブタジエンゴム組成物、ラジカル重合性モノマーおよびラジカル重合開始剤を共存させ、続いて、該ラジカル重合開始剤を熱分解させ、該ラジカル重合性モノマーを重合せしめることを特徴とするエラストマー組成物の製造方法。
【請求項2】
前記ラジカル重合性モノマーが(メタ)アクリレート系モノマーであることを特徴とする請求項1に記載のエラストマー組成物の製造方法。
【請求項3】
前記ラジカル重合開始剤が有機過酸化物であることを特徴とする請求項1または2に記載のエラストマー組成物の製造方法。
【請求項4】
前記ラジカル重合開始剤を熱分解させる温度が該ラジカル重合開始剤の20時間半減期温度以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のエラストマー組成物の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法により製造されたエラストマー組成物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−298872(P2009−298872A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−152480(P2008−152480)
【出願日】平成20年6月11日(2008.6.11)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】