説明

エラストマー組成物

【課題】破断伸度や破断強度などの物理特性をあまり損なうことなく、柔軟性を維持又は向上させると共に、損失正接(tanδ)を高め、振動エネルギーや衝撃エネルギーの吸収性を高めたエラストマー組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】(A)ビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロックの少なくとも一つと、共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックの少なくとも一つからなるブロック共重合体を水素添加して得られる水添ブロック共重合体と、その100質量部に対して、(B)軟化剤としてのオイル1〜500質量部及び(C)加工助剤としてのポリオレフィン系樹脂0.1〜50質量部を含むと共に、さらに(D)重量平均分子量が100〜5000の範囲にある石油系環状脂肪族炭化水素樹脂を含むことを特徴とするエラストマー組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエラストマー組成物に関する。さらに詳しくは、本発明は、破断伸度や破断強度などの物理特性をあまり損なうことなく、柔軟性を維持又は向上させると共に、損失正接(tanδ)を高め、振動エネルギーや衝撃エネルギーの吸収性を高めたエラストマー組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性エラストマーは、優れた柔軟性や成形加工性を有することから、自動車内外装材、家電部品、電子機器、医療用具、スポーツ用品、文具、玩具、包装材料、ガスケットやパッキング、粘接着剤など幅広い分野において利用されている。
この熱可塑性エラストマーとしては、例えば特許文献1〜4に開示されているように、スチレン系熱可塑性エラストマー、オイル及びポリオレフィンやポリフェニレンエーテルなどからなる、いわゆるMNCS(Micro Network Controlled Structure)材料が近年多用されるようになってきた。
ところで、振動吸収材料や衝撃吸収材料などに用いられるエラストマー組成物に対しては、柔軟性を維持しながら、粘弾性特性、特に損失正接(tanδ)を高め、振動エネルギーや衝撃エネルギーの吸収性を向上させることが要求される。
しかしながら、tanδを高めようとすると、硬度も上昇し、低硬度を維持しながら、tanδを高める有効な手法は、これまで見出されていないのが実状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−44691号公報
【特許文献2】特開2000−169666号公報
【特許文献3】特開2002−226666号公報
【特許文献4】特開2004−115753号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記特許文献1〜4においては、MNCS材料に、柔軟性を維持しながら、tanδを高めるための樹脂成分の添加についてはなんら言及されていない。
本発明は、このような状況下になされたものであり、破断伸度や破断強度などの物理特性をあまり損なうことなく、柔軟性を維持又は向上させると共に、損失正接(tanδ)を高め、振動エネルギーや衝撃エネルギーの吸収性を高めたエラストマー組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、前記の好ましい性質を有するエラストマー組成物を開発すべく鋭意研究を重ねた結果、前述した所定の硬度のMNCS材料に、ある種の樹脂を加えることにより、破断伸度や破断強度をあまり損なうことなく、該硬度を低下させると共に、tanδを高め得ることを見出した。
本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
【0006】
すなわち、本発明は、
[1](A)ビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロックの少なくとも一つと、共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックの少なくとも一つからなるブロック共重合体を水素添加して得られる水添ブロック共重合体と、その100質量部に対して、(B)軟化剤としてのオイル1〜500質量部及び(C)加工助剤としてのポリオレフィン系樹脂0.1〜50質量部を含むと共に、さらに(D)重量平均分子量が100〜5000の範囲にある石油系環状脂肪族炭化水素樹脂を含むことを特徴とするエラストマー組成物、
[2](A)成分の水添ブロック共重合体が、ポリスチレン−水添ポリブタジエン−ポリスチレンのトリブロック共重合体及び/又はポリスチレン−水添ポリイソプレン−ポリスチレンのトリブロック共重合体である、上記[1]のエラストマー組成物、
[3](B)成分の軟化剤としてのオイルが、非芳香族系オイルである上記[1]又は[2]のエラストマー組成物、
[4](D)成分の石油系環状脂肪族炭化水素樹脂が、シクロペンタジエン系樹脂である、上記[1]〜[3]のいずれかのエラストマー組成物、
[5](D)成分の石油系環状脂肪族炭化水素樹脂の含有量が、(A)成分100質量部に対して10〜250質量部である、上記[1]〜[4]のいずれかのエラストマー組成物、
[6]さらに、(E)ポリフェニレンエーテルを含む、上記[1]〜[5]のいずれかのエラストマー組成物、及び
[7](C)成分のポリオレフィン系樹脂がポリプロピレン系樹脂である、上記[1]〜[6]のいずれかのエラストマー組成物、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、所定の硬度のMNCS材料に、石油系環状脂肪族炭化水素樹脂を加えることにより、破断伸度や破断強度をあまり損なうことなく、該硬度を低下させると共に、tanδを高め得るエラストマー組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明のエラストマー組成物は、以下に示す(A)成分である水添ブロック共重合体と、その100質量部に対して、(B)軟化剤としてのオイル1〜500質量部及び(C)加工助剤としてのポリオレフィン系樹脂0.1〜50質量部を含むと共に、さらに(D)重量平均分子量が100〜5000の範囲にある石油系環状脂肪族炭化水素樹脂を含むことを特徴とする。
【0009】
[(A)水添ブロック共重合体]
本発明のエラストマー組成物において、(A)成分として用いられる水添ブロック共重合体としては、例えば、ポリブタジエンとポリスチレンとのブロック共重合体、及びポリイソプレンとポリスチレンとのブロック共重合体、あるいは、ポリブタジエン又はエチレン−ブタジエンランダム共重合体とポリスチレンとのブロック共重合体を水添して得られる、例えば、結晶性ポリエチレンとポリスチレンとのジブロック共重合体、スチレン−エチレン/ブチレン−スチレンのトリブロック共重合体(SEBS)、スチレン−エチレン/プロピレン−スチレンのトリブロック共重合(SEPS)など、中でも、上記のSEBSやSEPSなどを好ましく挙げることができる。
(A)成分としては、ビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロックの少なくとも二つと、共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックの少なくとも一つとを有するブロック共重合体(例えば、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体等)を水添して得られる水添ブロック共重合体が更に好ましい。これらの水添ブロック共重合体の数平均分子量は60,000以上であることが好ましく、この数平均分子量が60,000以上であると、後述の(B)成分である軟化剤のブリードが抑制され、圧縮永久歪みが小さい。この数平均分子量の上限は特に制限はないが、通常は400,000程度である。
なお、上記数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)法により測定された標準ポリスチレン換算の値である。
【0010】
上記水添ブロック共重合体の非晶質スチレンブロックの含有量は、10〜70質量%、好ましくは15〜60質量%の範囲のものが望ましい。また、非晶質スチレンブロック部のガラス転移温度(Tg)は、60℃以上、好ましくは80℃以上であるものが望ましい。また、両末端の非晶質スチレンブロックを連結する部分の重合体としては、やはり非晶質のものが好ましく、例えば、エチレン−ブチレン共重合体、エチレン−プロピレン共重合体、ブタジエン重合体やイソプレン重合体の水添物等を挙げることができ、これらのブロックあるいはランダム共重合体であってもよい。なお、当該(A)成分の水添ブロック共重合体は主に単独で用いられるが、2種以上をブレンドして用いてもよい。
【0011】
[(B)軟化剤としてのオイル]
本発明のエラストマー組成物においては、(B)成分として、軟化剤としてのオイルが用いられる。この(B)成分の軟化剤としてのオイルは、上記(A)成分の水添ブロック共重合体を低硬度化する目的で含有される。この(B)成分の軟化剤としてのオイルは、性能の点から非芳香族系オイルが好ましい。この非芳香族系オイルは、揮発による重量減やブリードを抑制する観点から、40℃における動粘度が100mm2/s以上であることが好ましく、実用上及び製造上の点から、40℃において100〜10000mm2/sであることがより好ましく、特に200〜5000mm2/sが好ましい。また、分子量については、数平均分子量で20,000未満、特に10,000以下、とりわけ5,000以下であるものが好ましい。また、親水性,疎水性のいずれのオイルも使用できる。このような性状を有する軟化剤としてのオイルは、例えば鉱物油系,植物油系,合成系などの各種非芳香族系オイルの中から適宜選択することができる。ここで、鉱物油系としては、ナフテン系,パラフィン系などのプロセス油が挙げられ、植物油系としては、ひまし油,綿実油,あまに油,なたね油,大豆油,パーム油,梛子油,落花生油,木ろう,パインオイル,オリーブ油などが挙げられる。なかでも、特に鉱物油系のパラフィン系オイル,ナフテン系オイル又は合成系のポリイソブチレン系オイルから選択される1種又は2種以上であって、その数平均分子量が450〜5,000であるものが好ましい。
【0012】
当該(B)成分のオイルは1種を単独で用いてもよく、互いの相溶性が良好であれば2種以上を混合して用いてもよい。これらのオイルの含有量は、前記(A)成分100質量部に対し、1〜500質量部であるが、好ましくは20〜400質量部、特に好ましくは100〜300質量部である。この含有量が1質量部以上であると充分な低硬度化が達成でき、エラストマー組成物の十分な柔軟性が得られる。一方、500質量部以下であるとオイルがブリードすることがなく、またエラストマー組成物の十分な機械的強度が得られる。なお、このオイルの含有量は、(A)成分の水添ブロック共重合体の分子量及び該水添ブロック共重合体に添加される他の成分の種類に応じて、上記範囲で適宜選定することが好ましい。
【0013】
[(C)加工助剤としてのポリオレフィン系樹脂]
本発明のエラストマー組成物においては、(C)成分として、加工助剤としてのポリオレフィン系樹脂が用いられる。当該(C)成分のポリオレフィン系樹脂は、上記エラストマー組成物の加工性を向上させるのが主目的であるが、該組成物の耐熱特性を向上させる作用も有している。
当該(C)成分のポリオレフィン系樹脂としては、性能の観点から、結晶性のものが好ましく、結晶性ポリプロピレン系樹脂がより好ましい。この結晶性ポリプロピレン系樹脂としては、アイソタクティックポリプロピレン,プロピレンと他の少量のα−オレフィンとの共重合体(例えば、プロピレン−エチレン共重合体,プロピレン/4−メチル−1−ペンテン共重合体)などを挙げることができる。結晶性ポリプロピレン系樹脂としてアイソタクティックポリプロピレンの共重合体を用いる場合、そのMFR(JIS K7210)が0.1〜100g/10分、特に0.5〜50g/10分の範囲のものが好適に使用できる。当該(C)成分の含有量は、前記(A)成分100質量部に対し、0.1〜50質量部であるが、好ましくは0.1〜30質量部、特に好ましくは5〜20質量部である。この含有量が0.1質量部以上であると、エラストマー組成物の加工性及び耐熱特性を向上させることができ、一方、50質量部以下であると得られるエラストマー組成物の硬度が高くなり過ぎることがない。
【0014】
上記エラストマー組成物においては、該組成物の加工性、耐熱性の向上を図るために、上記(C)成分にポリスチレン系樹脂を併用することができる。ポリスチレン系樹脂としては、公知の製造方法で得られたものであれば、ラジカル重合法、イオン重合法のいずれで得られたものも好適に使用できる。ポリスチレン系樹脂の数平均分子量は、好ましくは5,000〜500,000、より好ましくは10,000〜200,000の範囲から選択でき、分子量分布〔重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)〕は5以下のものが好ましい。このポリスチレン系樹脂としては、例えば、ポリスチレン、スチレン単位含有量60質量%以上のスチレン−ブタジエンブロック共重合体、ゴム補強ポリスチレン、ポリα−メチルスチレン、ポリp−t−ブチルスチレンなどが挙げられ、これらは1種または2種以上を併用してもよい。さらに、これらポリマーを構成するモノマーの混合物を重合して得られる共重合体も用いることができる。本発明におけるエラストマー組成物において、(C)成分にポリスチレン系樹脂を併用すると、ポリスチレン系樹脂を併用しない場合と比較して、得られる組成物の硬度が高くなる傾向にある。したがって、これらの配合比率を選択することにより、得られるエラストマー組成物の硬度を調整することもできる。この場合、ポリオレフィン系樹脂/ポリスチレン系樹脂の比率は95/5〜5/95(質量比)の範囲から選択することが好ましい。
なお上記の重量平均分子量Mw及び数平均分子量Mnは、GPC法により測定される標準ポリスチレン換算の値である。
【0015】
[(D)石油系環状脂肪族炭化水素樹脂]
本発明のエラストマー組成物においては、(D)成分として、石油系環状脂肪族炭化水素樹脂が用いられる。
この石油系環状脂肪族炭化水素樹脂は、重量平均分子量が100〜5000の範囲にあることを要する。重量平均分子量が上記の範囲にあれば、本発明の目的が効果的に達せられる。好ましい重量平均分子量は、500〜3000の範囲である。なお上記重量平均分子量は、GPC法により測定される標準ポリスチレン換算の値である。
【0016】
当該石油系環状脂肪族炭化水素樹脂としては、シクロペンタジエン樹脂、ジシクロペンタジエン樹脂、シクロペンタジエン−ジシクロペンタジエン共重合物などが挙げられる。これらの石油系環状脂肪族炭化水素樹脂は、本発明の効果が損なわれない範囲で、鎖状のC5留分、例えばイソプレン、1−ペンテン、2−ペンテン、1,3−ペンタジエン由来の単位を含む共重合物も用いることができる。
この石油系環状脂肪族炭化水素樹脂は、該エラストマーの硬度を下げると共に、tanδを大幅に上昇させる作用を有している。
一般に、エラストマー組成物においては、硬度が上がれば、tanδが上昇することは知られているが、当該石油系環状脂肪族炭化水素樹脂のように、硬度を下げるにもかかわらず、tanδを大幅に上昇させ得ることは、全く予想外のことである。
【0017】
本発明のエラストマー組成物においては、当該(D)成分の石油系環状脂肪族炭化水素樹脂は、1種を用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよく、その含有量は、前記(A)成分100質量部に対して、10〜250質量部であることが好ましい。この含有量が上記範囲にあれば、該エラストマー組成物は、後述のアスカC硬度を10〜70度の範囲に維持し得ると共に、tanδを上昇させることができる。当該(D)成分のより好ましい含有量は20〜100質量部であり、さらに好ましい含有量は30〜80質量部である。
【0018】
[任意成分]
本発明のエラストマー組成物には、該組成物の圧縮永久歪を改善するなどの目的で、所望により、(E)成分として、ポリフェニレンエーテルを含有させることができる。
((E)ポリフェニレンエーテル)
本発明において、(E)成分として用いるポリフェニレンエーテルは、単独重合体であってもよいし、共重合体であってもよく、またポリスチレン、ポリプロピレン又はポリアミドとのアロイであってもよい。
単独重合体としては、例えばポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2−メチル−6−エチル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2,6−ジフェニル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2−メチル−6−フェニル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2,6−ジクロロ−1,4−フェニレンエーテル)などが挙げられ、共重合体としては、例えば2,6−ジメチルフェノールと1価のフェノール類(例えば、2,3,6−トリメチルフェノールや2−メチル−6−ブチルフェノール)との共重合体の如きポリフェニレンエーテル共重合体などが挙げられる。
この(E)成分のポリフェニレンエーテルは市販されており、例えば旭化成ケミカルズ社製の「ザイロン(登録商標)」シリーズ、日本GEプラスチックス社製の「ノリル(登録商標)」シリーズなどを使用することができる。
本発明のエラストマー組成物においては、当該(E)成分のポリフェニレンエーテルの含有量は、前述の(A)成分100質量部に対して、10〜250質量部であることが好ましい。
【0019】
(充填剤)
本発明のエラストマー組成物には、所望により充填剤を含有させることができる。この充填剤としては、例えばクレー,珪藻土,シリカ,タルク,硫酸バリウム,炭酸カルシウム,炭酸マグネシウム,金属酸化物,マイカ,グラファイト,水酸化アルミニウムなどのりん片状無機系充填剤、各種の金属粉,木片,ガラス粉,セラミックス粉,粒状あるいは粉末ポリマー等の粒状あるいは粉末状固体充填剤,その他の各種の天然または人工の短繊維,長繊維(例えば、ワラ,毛,ガラスファイバー,金属ファイバー、その他各種のポリマーファイバー等)などを含有させることができる。
また、中空フィラー、例えば、ガラスバルーン,シリカバルーンなどの無機中空フィラー、ポリフッ化ビニリデン,ポリフッ化ビニリデン共重合体などからなる有機中空フィラーを含有させることにより、軽量化を図ることができる。更に軽量化などの各種物性の改善のために、各種発泡剤を混入することも可能であり、また、混合時等に機械的に気体を混ぜ込むことも可能である。
【0020】
(その他添加剤)
その他の添加剤として、必要に応じて、難燃剤,抗菌剤,ヒンダードアミン系光安定剤,紫外線吸収剤,酸化防止剤,着色剤,シリコーンオイル,シリコーンポリマー,ハイブラー(商品名:クラレ社製、ビニル−ポリイソプレンブロックの両末端にポリスチレンブロックが連結したブロック共重合体),ノーレックス(商品名:日本ゼオン社製,ノルボルネンを開環重合して得られるポリノルボルネン)などの他の熱可塑性エラストマー又は樹脂などを含有させることができる。
【0021】
[エラストマー組成物の性状]
本発明のエラストマー組成物においては、それを構成する高分子有機材料は、三次元連続の網状骨格構造を有することが好ましく、形成される三次元連続の網状骨格構造は、その骨格の平均径が、好ましくは50μm以下、より好ましくは30μm以下、セル(網目)の平均径は、好ましくは500μm以下、より好ましくは300μm以下であり、高分子有機材料の体積分率を〔高分子有機材料の体積/(高分子有機材料の体積+軟化剤の体積)〕×100(%)と定義したとき、高分子有機材料の体積分率が、好ましくは50%以下、より好ましくは33%以下であることが望ましい。
また、当該エラストマー組成物のアスカC硬度は、10〜70度の範囲にあることが好ましい。アスカC硬度が10度以上であると十分な機械強度が得られ、充分な性能が発揮される。一方、70度以下であると、エラストマーとしての性質が十分発揮され、十分な性能が発揮され得る。好ましいアスカC硬度は10〜60度であり、より好ましくは10〜50度である。
なお、上記アスカC硬度は、ASK−c硬度計を用いて測定された値である。
【0022】
[エラストマー組成物の製造]
本発明のエラストマー組成物の製造方法は、特に限定されず、公知の方法を適用することができる。例えば、前記の(A)〜(D)成分及び所望により用いられる(E)成分や各種添加剤をドライブレンドしたのち、加熱混練機、例えば、一軸押出機,二軸押出機,ロール,バンバリーミキサー,プラベンダー,ニーダー,高剪断型ミキサーなどを用いて溶融混練りし、さらに、所望により有機パーオキサイドなどの架橋剤、架橋助剤などを添加したり、又は、これら必要な成分を同時に混合し、加熱溶融混練りすることにより、容易に製造することができる。また、高分子有機材料と軟化剤とを混練りしたエラストマー組成物を予め用意し、この組成物を、ここに用いたものと同種か若しくは種類の異なる一種以上の高分子有機材料に更に混ぜ合わせて製造することもできる。さらに、本発明のエラストマー組成物においては、有機パーオキサイドなどの架橋剤,架橋助剤などを添加して架橋することも可能である。
【0023】
本発明のエラストマー組成物は、従来公知の各種成形法、例えば射出成形法、押出成形法、ブロー成形法、中空成形法、圧縮成形法、カレンダー成形法などを用いて所望の形状に成形し、各種用途に用いることができる。
本発明のエラストマー組成物は、良好な破断伸度や破断強度を有し、かつ優れた柔軟性を有すると共に、高いtanδを有することから、振動エネルギーや衝撃エネルギーの吸収性に優れ、制振材料や衝撃吸収材料などに好適に用いられる。
また、自動車内装材、外装材、家電、オーディオ機器、OA機器などの部品、各種スイッチ、医療用具、光ケーブル、スポーツ用品、靴、建材、各種パッキング、シーリング材、緩衝材、玩具、文具などの幅広い分野に用いることができる。
【実施例】
【0024】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
なお、各例で得られたエラストマー組成物の物性については、以下に示す方法に従って評価した。
(1)アスカC硬度
JIS K6253に基づき試験片を作製し、アスカC硬度計[高分子計器社製、機種名「ASK−c硬度計」]により、25℃におけるアスカC硬度を測定した。
(2)引張試験
DIN3ダンベル形状に打ち抜いたシートについて、引張試験機[ORIENTEC社製、機種名「テンシロンRTC−1225A」]を用い、JIS K6251に準拠して、試験温度25℃、引張速度200mm/minの条件で引張試験を行い、破断強度Tb、破断伸びEb及び300%伸び応力M300を測定した。
(3)動的粘弾性特性
縦40mm、横5mm、厚さ2mmのシートを作製し、試料とした。この試料について、粘弾性スペクトロメーター「RDAIII」(レオメトリック・サイエンティフィック・エフ・イー社製)を用い、チャック間距離2mm、動的歪1%、周波数1Hz、測定温度25℃の測定条件にて、動的粘弾性測定を行ない、損失正接(tanδ)を測定した。
【0025】
実施例1〜5
重量平均分子量30万でポリスチレンブロック含有量が30質量%のSEPS[クラレ社製、商品名「セプトン4077」]100質量部、40℃における動粘度が380mm2/sのパラフィン系オイル[出光興産社製、商品名「ダイアナプロセスオイルPW380」、数平均分子量750]263質量部、ポリプロピレン[日本ノバテック社製、商品名「BC05B」、MFR50g/10分]5質量部、及び第1表に示す各種の石油系環状脂肪族炭化水素樹脂20質量部を予め混合し、次いで二軸混練機(東芝機械社製、TEM58BS型、スクリュー全長/シリンダ径=62.5、スクリュー全長に対する混練帯域の長さの比率=62%)にて180℃で混練し、ストランド状に押し出しながらカッターにてカットし、エラストマー組成物(ペレット)を得た。
このペレットを用いて、物性測定用の各試験片を作製し、アスカC硬度、Eb、Tb、M300及びtanδを測定した。その結果を第1表に示す。
【0026】
比較例1
実施例1〜5において、石油系環状脂肪族炭化水素樹脂を用いなかったこと以外は、実施例1〜5と同様にして、エラストマー組成物(ペレット)を得た。
このペレットを用いて、物性測定用の各試験片を作製し、アスカC硬度、Eb、Tb、M300及びtanδを測定した。その結果を第1表に示す。
【0027】
【表1】

【0028】
[注]
第1表における石油系環状脂肪族炭化水素樹脂の商品名及び企業名は以下の通りである。
シクロペンタジエン系樹脂−1:東燃化学社製「ESCOREZ 1102」
シクロペンタジエン系樹脂−2:新日本石油化学社製「PICODIENE」
シクロペンタジエン系樹脂−3:丸善石油化学社製「ESCOREZ 8080」
シクロペンタジエン系樹脂−4:荒川化学社製「P125」
シクロペンタジエン系樹脂−5:荒川化学社製「P140」
【0029】
第1表において、各特性の指数は、石油系環状脂肪族炭化水素樹脂を配合していない比較例1のものを100とした値である。
第1表から分かるように、SEPS系において、シクロペンタジエン系樹脂を配合した場合、アスカC硬度を下げると共に、tanδを上昇させる。このシクロペンタジエン系樹脂の中では、tanδを特に大幅に上昇させるものがある。
【0030】
実施例6〜10
重量平均分子量6万でポリスチレンブロック含有量が30質量%のSEBS[旭化成ケミカルズ社製、商品名「タフテックH1272」」100質量部、40℃における動粘度が380mm2/sのパラフィン系オイル[出光興産社製、商品名「ダイアナプロセスオイルPW380」、数平均分子量750]163質量部、ポリプロピレン[日本ポリオレフィン社製、商品名「JP0M1600」、MFR11g/10分]12質量部、及び第2表に示す各石油系環状脂肪族炭化水素樹脂20質量部を予め混合し、次いで二軸混練機(東芝機械社製、TEM58BS型、スクリュー全長/シリンダ径=62.5、スクリュー全長に対する混練帯域の長さの比率=62%)にて180℃で混練し、ストランド状に押し出しながらカッターにてカットし、エラストマー組成物(ペレット)を得た。
このペレットを用いて、物性測定用の各試験片を作製し、アスカC硬度、Eb、Tb、M300及びtanδを測定した。その結果を第2表に示す。
【0031】
比較例2
実施例6〜10において、石油系環状脂肪族炭化水素樹脂を用いなかったこと以外は、実施例6〜10と同様にして、エラストマー組成物(ペレット)を得た。
このペレットを用いて、物性測定用の各試験片を作製し、アスカC硬度、Eb、Tb、M300及びtanδを測定した。その結果を第2表に示す。
【0032】
【表2】

【0033】
[注]
第2表における石油系環状脂肪族炭化水素樹脂の商品名及び企業名は、第1表の脚注と同じである。
第2表において、各特性の指数は、石油系環状脂肪族炭化水素樹脂を配合していない比較例2のものを100とした値である。
第2表から分かるように、SEBS系においても、SEPS系と同様にシクロペンタジエン系樹脂を配合した場合、アスカC硬度を下げると共に、tanδを上昇させる。このシクロペンタジエン系樹脂の中では、特にtanδを大幅に上昇させるものがある。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明のエラストマー組成物は、良好な破断伸度や破断強度を有し、かつ優れた柔軟性を有すると共に、高いtanδを有することから、振動エネルギーや衝撃エネルギーの吸収性に優れ、特に制振材料や衝撃吸収材料などに好適に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロックの少なくとも一つと、共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックの少なくとも一つからなるブロック共重合体を水素添加して得られる水添ブロック共重合体と、その100質量部に対して、(B)軟化剤としてのオイル1〜500質量部及び(C)加工助剤としてのポリオレフィン系樹脂0.1〜50質量部を含むと共に、さらに(D)重量平均分子量が100〜5000の範囲にある石油系環状脂肪族炭化水素樹脂を含むことを特徴とするエラストマー組成物。
【請求項2】
(A)成分の水添ブロック共重合体が、ポリスチレン−水添ポリブタジエン−ポリスチレンのトリブロック共重合体及び/又はポリスチレン−水添ポリイソプレン−ポリスチレンのトリブロック共重合体である、請求項1に記載のエラストマー組成物。
【請求項3】
(B)成分の軟化剤としてのオイルが、非芳香族系オイルである請求項1又は2に記載のエラストマー組成物。
【請求項4】
(D)成分の石油系環状脂肪族炭化水素樹脂が、シクロペンタジエン系樹脂である、請求項1〜3のいずれかに記載のエラストマー組成物。
【請求項5】
(D)成分の石油系環状脂肪族炭化水素樹脂の含有量が、(A)成分100質量部に対して10〜250質量部である、請求項1〜4のいずれかに記載のエラストマー組成物。
【請求項6】
さらに、(E)ポリフェニレンエーテルを含む、請求項1〜5のいずれかに記載のエラストマー組成物。
【請求項7】
(C)成分のポリオレフィン系樹脂がポリプロピレン系樹脂である、請求項1〜6のいずれかに記載のエラストマー組成物。

【公開番号】特開2010−275458(P2010−275458A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−130384(P2009−130384)
【出願日】平成21年5月29日(2009.5.29)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】