説明

エリスロマイシン誘導体の持続放出性配合薬

【課題】胃腸環境にエリスロマイシン誘導体を持続的に放出することのできる医薬組成物の提供。
【解決手段】組成物はエリスロマイシン誘導体と医薬的に許容されるポリマーとから成り、経口摂取されたときに誘発される組成物の最高血漿濃度Cmaxがエリスロマイシン誘導体の即放性組成物よりも統計的に有意に低い値でありながら、多回投与されたエリスロマイシン誘導体の即放性組成物に実質的に等価の生物学的利用率及び最小濃度を維持する。組成物は即放性組成物に比べて味覚プロフィルが改善されかつ胃腸副作用が軽減されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、胃腸環境に活性化合物を持続的に放出するエリスロマイシン誘導体の医薬組成物に関する。より特定的には本発明は、1日1回の経口投与で使用されるクラリスロマイシンの医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
エリスロマイシン及びその誘導体は多数の微生物に対する抗菌活性または多数の適応症に活性を有することが知られており、典型的には、即放性(immediate release,IR)組成物として1日2〜3回の投与を10〜14日継続する投薬計画で使用されている。これらの化合物には苦味がある。特に、6−O−メトキシエリスロマイシンA(クラリスロマイシン)は苦い金属味がするので上記のような投薬計画に適応し難く、薬効の劣った別の治療薬が選択されることになる。
【0003】
投薬計画に適応し難いという問題を改善するための1つの方法は、アルギン酸塩マトリックス中にエリスロマイシン誘導体を含有する放出制御固体製剤を開発することである。このアルギン酸塩マトリックスは、水溶性アルギン酸塩と、可溶性アルギン酸塩を生じる1つのカチオンと単独で不溶性アルギン酸塩を生じる別のカチオンとを有するアルギン酸の複合塩とから成る。これらの配合薬は1989年6月27日に特許された米国特許第4,842,866号に記載されている。しかしながら、in vivo動物実験は、アルギン酸塩を使用した場合にもまたは他のいかなる一体構造(monolithic)ヒドロゲル錠剤を使用した場合にも、再現可能な生物学的利用率の放出制御配合薬は得られないことを示した。
【0004】
米国特許第4,842,866号に記載の配合薬に伴う問題の幾つかを克服するために、クラリスロマイシンも含めたエリスロマイシン誘導体のような難溶性基礎薬の改良された放出制御配合薬が開発され、1995年12月19日出願の審査中の同じ所有者の米国特許出願第08/574,877号に記載された。該特許出願に記載された配合薬はアルギン酸塩マトリックス中の難溶性基礎薬とクエン酸とから成る。配合薬の目的は、1日1回の投与で、1日2回投与される慣用の即放性組成物に生体内で等価になるように有効成分の生物学的利用率を増進することである。しかしながら、これらの放出制御組成物は、吐き気及び嘔吐のような胃腸(GI)障害に関連する副作用及び味覚異常と呼ばれる現象を最小にすることはできない。
【0005】
味覚異常に対処する1つの方法として、1989年2月28日に特許された米国特許第4,808,411号は、これらの薬剤の服用し易い味の液体経口剤形を開発した。しかしながら、これらの配合薬は1日2回の割合で10〜14日間投与されるので、投薬計画の頻度及び期間の問題またはGI障害に関する副作用の問題に対処できない。従って、上記のような副作用を最小にすることができ且つ慣用の(IR)錠剤または液体配合薬に等価であるかまたはそれ以上に良好に薬剤の血漿濃度を調節できる医薬組成物の開発が要望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第4,842,866号
【特許文献2】米国特許第4,808,411号
【発明の概要】
【0007】
医薬的に許容されるポリマーを含む本発明の持続放出性(extended release,ER)配合薬は、1日1回の投与でクラリスロマイシンをin vivoで持続放出し得ることが知見された。クラリスロマイシンの最高血漿濃度(Cmax)は、1日2回投与されるIR配合薬よりも統計的に有意に低い値であり、血漿濃度−時間曲線の下方面積(AUC)及び最低血漿濃度は24時間以上維持される。対照的に、1995年12月19日出願の審査中の米国特許出願08/574,877に記載の放出制御配合薬の場合、そのCmax値はIR配合薬のCmax値に比較して統計的に有意な差を示さない。また、AUC0-24が維持されている間は、放出制御配合薬のCminはIR配合薬に比較して統計的に有意に低い。本発明の組成物は、IR配合薬に比較して味覚異常の発生率を1/2〜1/3に減らすという予想外の結果を示した。
【0008】
1つの目的によれば本発明は、エリスロマイシン誘導体と医薬的に許容されるポリマーとから成り胃腸環境中にエリスロマイシン誘導体を持続放出するための医薬組成物であって、経口摂取されたときに誘発される血漿中の組成物の平均変動指数がエリスロマイシン誘導体の即放性組成物よりも統計的に有意に低い値でありながら、エリスロマイシン誘導体の即放性組成物に実質的に等価の生物学的利用率を維持している医薬組成物に関する。
【0009】
別の目的によれば本発明は、エリスロマイシン誘導体と医薬的に許容されるポリマーとから成り胃腸環境中にエリスロマイシン誘導体を持続放出するための医薬組成物であって、経口摂取されたときのエリスロマイシン誘導体の最大ピーク濃度が即放性医薬組成物によって生じる最大ピーク濃度よりも統計的に有意に低い値でありながら、濃度−時間曲線の下方の面積及び最低血漿濃度が即放性医薬組成物に実質的に等価である医薬組成物に関する。
【0010】
更に別の目的によれば、本発明は、エリスロマイシン誘導体と医薬的に許容されるポリマーとから成る持続放出性医薬組成物を、哺乳動物の細菌感染治療に有効な量で投与し、濃度−時間曲線の下方の面積をエリスロマイシン誘導体の即放性医薬組成物の対応する面積と実質的に等価に維持する持続放出性医薬組成物の使用方法に関する。
【0011】
別の目的によれば、本発明は、エリスロマイシン誘導体と医薬的に許容されるポリマーとから成る持続放出性医薬組成物であって、即放性配合薬に比べて改良された味覚プロフィルを有している組成物に関する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】クラリスロマイシンとそれぞれ10、20または30重量%のヒドロキシプロピルセルロースK100LVとを含有する500mgのER錠剤3錠を1回投与した後のin vivoの平均血漿濃度−時間プロフィルを500mgの対照IRクラリスロマイシン錠剤との比較として示す。
【図2】クラリスロマイシンとそれぞれ10または20重量%のヒドロキシプロピルセルロースK100LVとを含有する2種類のER錠剤の各々を多回投与した後のin vivoの平均血漿濃度−時間プロフィルを500mgの対照IRクラリスロマイシン錠剤との比較として示す。投与形態としては、500mgのER錠剤2錠を1日1回の割合または500mgのIRクラリスロマイシン1錠を12時間毎の割合で、それぞれ食事と共に3日間投与する。
【図3】クラリスロマイシン1000mg(本発明の実施例でない)を1日1回の割合及びIR500mgを1日2回の割合で多回投与した後のin vivoの平均血漿濃度−時間プロフィルを示す。
【0013】
発明の詳細な説明
本文中で使用された“500mgまたは1000mg”は、500mgのクラリスロマイシンを含有する錠剤組成物の濃度、または、2×500mgのクラリスロマイシンとして投与される薬用量をそれぞれ意味する。
【0014】
本文中で使用された“Cmax”は、本発明の組成物または対照IR組成物の摂取によって生じたエリスロマイシン誘導体の最高血漿濃度を意味する。
【0015】
本文中で使用された“Cmin”は、本発明の組成物または対照IR組成物の摂取によって生じたエリスロマイシン誘導体の最低血漿濃度を意味する。
【0016】
本文中で使用された“Cavg”は、24時間以内の平均濃度を意味する。
【0017】
本文中で使用された“Tmax”は、最高血漿濃度が観察されるまでの所要時間を意味する。
【0018】
本文中で使用された“AUC”は、全ての配合薬について24時間という全期間の台形公式によって計算した血漿濃度−時間曲線の下方の面積を意味する。
【0019】
本文中で使用された“変動度(DFL)”は、式:
DFL=(Cmax−Cmin)/Cavg
で表される。
【0020】
本文中で使用された“エリスロマイシン誘導体”は、慣用の方法で製造された置換基をもたないエリスロマイシン、または、ヒドロキシ基の水素原子及び/または3′−ジメチルアミノ基のメチル基が有機合成で慣用の置換基で置換されたエリスロマイシンを意味する。
【0021】
本文中で使用された“医薬的に許容される”は、健全な医学的判断の範囲内で不適当な毒性、刺激、アレルギー応答などを生じさせることなくヒト及び下等動物の組織に接触させる使用に適しており、妥当な益害比を維持し、抗菌感染症の化学療法及び予防という所望の用途に有効な化合物を意味する。
【0022】
本文中で使用された“副作用”は、個々の患者に対して心血管系、神経系、消化系のような体内の種々の系及び全身の苦痛及び不快を誘発する生理的作用を意味する。
【0023】
本文中で使用された“味覚異常”は、エリスロマイシン誘導体、特にクラリスロマイシンに通常は付随する苦い金属味の知覚を意味する。
【0024】
本発明の医薬組成物は、医薬活性化合物と医薬的に許容されるポリマーとから成る。医薬活性化合物はエリスロマイシン誘導体である。エリスロマイシン誘導体は好ましくは、クラリスロマイシンとして知られた6−O−メトキシエリスロマイシンAである。エリスロマイシン誘導体の量は、組成物の約45重量%〜約60重量%の範囲である。好ましくは組成物が約50重量%のエリスロマイシン誘導体を含有する。
【0025】
医薬的に許容されるポリマーは、ポリビニルピロリジン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、酢酸ビニル/クロトン酸コポリマー、メタクリル酸コポリマー、無水マレイン酸/メチルビニルエーテルコポリマー及びその誘導体及び混合物から成るグループから選択される水溶性の親水性ポリマーである。好ましくはポリマーがヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース及びメチルセルロースから選択される。より好ましくはポリマーがヒドロキシプロピルメチルセルロースである。最も好ましくはポリマーが、約50cps〜約200cpsの範囲の粘度をもつ低粘度ヒドロキシプロピルメチルセルロースである。最も好ましい低粘度ポリマーは、The Dow Chemical Companyから商標メトセル(Methocel(登録商標))K100LVで市販されている粘度約100cpsのヒドロキシプロピルメチルセルロースである。
【0026】
組成物中のポリマーの量は一般には組成物の約5重量%〜約50重量%の範囲である。好ましくは、ポリマーの量は組成物の約10重量%〜約35重量%の範囲である。最も好ましくは、ポリマーの量は約10重量%〜約30重量%の範囲である。
【0027】
本発明の組成物は更に、医薬的に許容される賦形剤及び/または充填剤及び増量剤、例えばラクトース、澱粉、グルコース、スクロース、マンニトール及びケイ酸などを含有し、また、滑沢剤、例えばタルク、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、固体ポリエチレングリコール、ラウリル硫酸ナトリウム及びその混合物を含有し得る。
【0028】
滑沢剤の量は通常は、組成物の約0.5重量%〜約10重量%の範囲である。好ましくは滑沢剤が、ステアリン酸マグネシウム及びタルクであり、組成物の約1.0重量%〜約4.0重量%の範囲の合計量で使用される。充填剤及び増量剤の量は組成物の約10重量%〜約40重量%の範囲である。
【0029】
含有している活性化合物を持続放出するために特に好ましい組成物は、
約500mgのクラリスロマイシンと、
100〜300mgのメトセルK100LVと、
から成る。
【0030】
配合薬は一般には、ポリマーと充填剤とエリスロマイシン誘導体と他の賦形剤とを乾燥混合し、次いで適当な顆粒が得られるまで混合物を水で造粒することによって調製する。造粒は当業界で公知の方法で行う。湿潤顆粒を流体床乾燥機で乾燥し、篩に通し、適当な粒度に粉砕する。乾燥した顆粒に滑沢剤を混合して最終配合薬を得る。
【0031】
本発明の組成物は錠剤、丸剤または懸濁液剤の形態で経口投与できる。錠剤は当業界で公知の技術によって調製でき、治療有効量のエリスロマイシン誘導体とこのような技術で錠剤を形成するために必要な賦形剤とを含有する。錠剤及び丸剤は更に、腸溶性被覆膜及び光保護及び嚥下適性を与えるその他の放出制御用被覆膜を有していてもよい。医薬的に許容される色素で被覆膜を着色してもよい。被覆膜液中の色素及び他の賦形剤の量は増減でき、持続放出性錠剤の性能に影響を与えない。被覆膜液は一般に、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、セルロースエステルまたはエーテル、アクリルポリマーまたはポリマー混合物のような皮膜形成ポリマーから成る。被覆膜溶液は一般に、プロピレングリコール、モノオレイン酸ソルビタン、ソルビン酸を更に含有し、また、二酸化チタンのような充填剤及び医薬的に許容される色素を含有する水溶液である。
【0032】
経口投与に好適な液体剤形としては、水のような当業界で常用の不活性希釈剤を含有する医薬的に許容されるエマルジョン、マイクロエマルジョン、溶液、懸濁液、シロップ剤及びエリキシル剤がある。このような組成物は更に、湿潤剤、乳化剤及び懸濁化剤、甘味剤、矯味剤、芳香剤のような添加剤を含有し得る。
【0033】
1回の投与で宿主に投与できる本発明の組成物の1日薬用量は5〜15日の間、500mg〜1000mgである。
【0034】
薬物動態試験
本発明の配合薬の生物学的利用率試験を行うために、錠剤形態のER配合薬を健常な被検者に投与し、24時間の期間中の種々の時点の血漿中のエリスロマイシン誘導体のレベルを測定する。
【0035】
BAS Analytics(West Lafayette Indiana)で文献に記載の手順と同様の検査済みの高性能液体クロマトグラフィー手順を用いて血漿サンプル中のエリスロマイシン誘導体を検定する。例えば、Chu S−Yら“電気化学的検出を伴う高性能液体クロマトグラフィーを使用する血漿中及び尿中のクラリスロマイシンと14(R)−ヒドロキシクラリスロマイシンとの同時定量(Simultaneous determination of clarithromycin and 14(R)−hydroxyclarithromycin in plasma and urine using high−performance liquid chromatography with electrochemical detection)”,J.Chromatog.,571,pp.199−208(1991)参照。
【0036】
副作用及び味覚プロフィル
ER錠剤及びIR錠剤のそれぞれを1日あたり1000mgの用量で被験者に多回投与し、消化系、神経系、呼吸系に関連する副作用及び味覚異常のような特定知覚に対する副作用を測定する。被験者が自発的に副作用をモニターし、報告し、試験データベースの症例報告用紙に記録する。
【0037】
本発明の明らかな理解並びに種々の実施態様及び種々の利点の例示に役立つ以下の実施例から本発明がより明白に理解されよう。
【実施例】
【0038】
実施例1
配合薬の調製
The Dow Chemical Companyから入手できるメトセル(登録商標)(K100LV)をミキサーに充填し、クラリスロマイシンと共に乾燥混合した。適正な顆粒が得られるまで混合物を水で造粒した。次に顆粒を乾燥し、篩に通し、適当な粒度に粉砕した。
【0039】
タルク及びスアリン酸マグネシウムを篩にかけ、乾燥顆粒と共にブレンドした。次に顆粒をホッパに充填し圧縮して錠剤とした。水性被覆膜で錠剤に剤皮をかけた。
【0040】
上記の汎用方法で3つの異なる配合薬A、B及びCを調製した。3つの異なる錠剤配合薬の組成を以下の表1に示す。
【0041】
【表1】

【0042】
実施例2
持続放出性配合薬の薬物動態試験
血漿濃度−時間プロフィルを作成するための生物学的利用率試験を健常被験者で行った。フェーズIとして以下に記載のような1回投与、無指定、無作為化、4周期の平衡クロスオーバー試験を行った。
【0043】
一回投与試験
24人の健康な成人被験者を登録し、23人が試験の全段階を完了した。試験の全段階を完了した23人の被験者(12人の男性と11人の女性)の平均年齢は29歳(19歳〜49歳の範囲)、平均体重は69.0kg(51.5〜85kgの範囲)、平均身長は172cm(157〜192cmの範囲)であった。
【0044】
実施例1の配合薬A、B及びCに対応するクラリスロマイシンの500mgの持続放出性錠剤とAbbott Laboratoriesから商標BIAXIN(登録商標)で現在販売されているクラリスロマイシンの500mgのIR錠剤とを23人の健康な被験者に投与した。
【0045】
試験は、被験者に朝食開始後30分以内に500mgのクラリスロマイシンを1回投与する1回投与、ラベル無指定、無作為化、4周期のクロスオーバー投薬計画で行った。投薬期間の間に1週間の休止期間を設けた。
【0046】
投与前(0時間)及び各投与の0.5、1.0、2.0、3.0、4.0、6.0、8.0、12.0、16.0、24.0、36.0及び48.0時間後に、7mlの血液サンプルを採取した。血漿サンプル中のクラリスロマイシンをBAS Analytics(West Lafayette,Indiana)で検査済みの高性能液体クロマトグラフィー手順を用いて検定した。
【0047】
薬物動態分析
max、Tmax及びAUC0-∞の観測値のようなクラリスロマイシンの薬物動態パラメーターの値を標準非区分法を用いて計算した。
【0048】
1回投与試験の平均血漿濃度−時間プロフィルを図1に示す。
【0049】
図1は、本発明の3種類の配合薬がいずれも、24時間の期間中に実質的に同等のクラリスロマイシンの持続放出を生じることを示す。
【0050】
上記試験の1回投与後に得られた薬物動態結果を表IIにまとめる。
【0051】
【表2】

【0052】
統計的分析
max、AUC0-∞、Tmax並びにCmax及びAUC0-∞の対数について、数列、数列内部に縮小する被験者、周期及び配合薬を変数源とする分散分析(ANOVA)を行った。被験者効果は乱数で、他のすべての効果は定数であった。分散分析の枠内で、配合薬を2つずつ比較した。各試験の有効レベルを0.05とした。AUC0-∞の対数については同じく分散分析の枠内で、対照IR配合薬に対するER配合薬の生物学的等価性を90%信頼区間による2つの片側検定手順を用いて評価した。信頼区間は対数平均の差を信頼区間の終点の指数関数として表すことによって得られた。
【0053】
対数変換したAUC0-∞の分析から得られた相対的生物学的利用率の点推定値及び2つの片側検定試験手順の90%信頼区間を以下の表IIIに示す。
【0054】
【表3】

【0055】
3つのER配合薬は対照IR錠剤よりも低いAUC0-∞中央値を示した。低いCmax値及び遅いTmax値は、種々の重量%のポリマーを含むすべてのER配合薬がin vivoでクラリスロマイシンを持続放出することを示唆する。
【0056】
ER配合薬のAUC0-∞が低い値を有することは、空腹でない条件下で500mgの薬用量を1回で投与した場合のクラリスロマイシンの吸収度が対照IR錠剤の吸収度よりも小さいことを示唆する。
【0057】
多回投与試験
24人の健康な成人被験者を登録し、23人が試験の全段階を完了した。試験の全段階を完了した23人の被験者(19人の男性と4人の女性)の平均年齢は30歳(20歳〜47歳の範囲)、平均体重は72kg(51〜87kgの範囲)、平均身長は176cm(159〜189.5cmの範囲)であった。
【0058】
使用したクラリスロマイシンの剤形は、10重量%または20重量%のK100LVを含有する実施例1の500mgのER錠剤及び500mgの対照IR錠剤(BIAXIN)であった。
【0059】
一回投与及び多回投与を、ラベル無指定、無作為化、3周期のクロスオーバー投薬計画で試験した。
【0060】
投薬計画A
1日目の朝にER配合薬Aの錠剤を1000mgの薬用量(500mg錠剤を2錠)で投与した。3日目に、毎朝1000mgのクラリスロマイシン(500mg錠剤を2錠)を3日間(3−5日)投与する多回投薬計画を開始した。
【0061】
投薬計画B
1日目の朝にER配合薬Bの錠剤を1000mgの薬用量(500mg錠剤を2錠)で投与した。3日目に、毎朝1000mgのクラリスロマイシン(500mg錠剤を2錠)を3日間(3−5日)投与する多回投薬計画を開始した。
【0062】
投薬計画C
1日目の朝に500mgの薬用量のIR錠剤(BIAXIN)を投与した。3日目に、500mgの対照錠剤BIAXINを12時間毎に3日間投与する多回投薬計画を開始した。
【0063】
毎朝の投薬は朝食の30分後に行った。毎夕の投薬は夕食開始の30分後に行った。
【0064】
1つの周期の終回投与と次の周期の初回投与との間に少なくとも1週間の休止期間を設けた。
【0065】
1日目の投与直前(0時間)及び投与の0.5、1.0、2.0、3.0、4.0、6.0、8.0、12.0、16.0、24.0、36.0及び48.0時間後に7mlの血液サンプルを採取した。投薬計画Cでは、5日目の夕刻の投薬の5分前に12時間サンプルを採取した。各血液サンプルから集めた血漿を2つに分け、約5mlをバイオアッセイに用い、残りのサンプルを高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)アッセイに用いた。BAS Analytics(West Lafayette,Indiana)で検査済みの高性能液体クロマトグラフィー手順を用いて血漿サンプル中のクラリスロマイシンを検定した。
【0066】
薬物動態分析
薬物動態パラメーターの推定値を標準非区分法を用いて計算した。1日目のデータについてパラメーターCmax、Tmax、AUC0-∞またはAUC0-48及びt1/2を推定した。5日目のデータについてはパラメーターCmax、Tmax、Cmin、AUC0-24及びDFLを推定した。
【0067】
統計的分析
バイオアッセイデータの統計的分析はしなかった。投薬計画、周期、数列及び数列内部に縮小する被験者、などの効果によって1日目及び5日目の薬物動態変量の分散分析(ANOVA)を行った。投薬計画CのCmax及びAUC0-∞の値を1000mgの薬用量に標準化した。双方の分析液の1日目及び5日目のAUCとCmaxとの値及び5日目のDFLの値に関しては対数変換を使用した。投薬計画A及びBの各々を、有効レベル0.05で対照投薬計画Cに比較した。5日目のAUC値についてはANOVAの枠内で、対照IR錠剤に対する本発明のER配合薬の等価性を90%信頼区間による2つの片側検定手順を用いて評価した。
【0068】
多回投与試験の平均血漿濃度−時間プロフィルを図2に示す。
【0069】
ER及びIR配合薬中のクラリスロマイシンの5日目の薬剤動態パラメーター推定値(平均±SD)を表IVに示す。
【0070】
【表4】

【0071】
5日目のAUC0-24の相対的生物学的利用率の点推定値及び2つの片側検定試験手順の90%信頼区間を以下の表Vに示す。対数変換したクラリスロマイシンのAUC0-24値に対する結果を表す。
【0072】
【表5】

【0073】
この多回投与試験を空腹でない条件下で行うと、10%及び20%ポリマーを含有する2つのER配合薬はAUC0-24に関しては対照IR錠剤に生物学的に等価であった。Cmax中央値の有意な低下及びTmax値の有意な遅延は、双方の配合薬がクラリスロマイシンをin vivoで持続放出することを示唆する。DFLの有意な低下は、ER錠剤投薬計画ではIR錠剤投薬計画よりも小さい血漿濃度の変動が生じることを示唆する。更に、投薬計画Bに比べて投薬計画AのDFLが有意に低下していることは、20%ポリマー含有錠剤が10%ポリマー含有錠剤よりも小さい血漿濃度の変動を生じることを示唆する。
【0074】
副作用
上述の多回投与の場合の味覚異常(味覚プロフィル)を含む副作用を試験した。
【0075】
多回投与試験
実施例1の配合薬A及びB(500mg錠剤)並びにIR BIAXIN(対照)の500mg錠剤を上述の多回投薬計画で健常被験者に投与した。
【0076】
本発明の配合薬
実施例1の配合薬A及びBの1回薬用量(2×500mg)を被験者に投与し、次いで48時間の休止期間を設けた。休止期間後、2×500mgを1日1回の割合で3日間毎朝投与する多回投薬計画を実施した。
【0077】
対照
単一薬用量500mgのIR BIAXIN錠剤を被験者に投与し、次いで48時間の休止期間を設けた。休止期間後、500mg錠剤を1日2回の割合で3日間投与する多回投薬計画を実施した。
【0078】
定期的時間間隔で被験者をモニターすることによって、全身、心血管系、消化系、神経系、呼吸系、皮膚と付属器、空間感覚を測定した。被験者が同じ項目の副作用(COSTART)を2回以上記録した場合には、被験者をこの項目について1回だけカウントした。
【0079】
副作用の結果を以下の表VIに示す。
【0080】
【表6】


【0081】
上記の表VIから、ER錠剤は、BIAXINに通常は付随する消化系、神経系及び呼吸系の副作用を軽減することが明らかである。本発明の配合薬では味覚異常も有意に軽減する。副作用特に味覚異常の軽減が、処方された治療計画の適応性の改善及び投薬完了率の向上に導くと考えることは妥当である。
【0082】
比較実施例3
1995年12月19日出願の審査中の同じ所有者の米国特許出願08/574,877の放出制御配合薬AをIR(BIAXIN)と比較した比較薬物動態試験の結果を以下の表VIIに示す。
【0083】
【表7】

【0084】
この表から明らかなように、放出制御配合薬及びIRのDFLの平均値は実質的に等しい。1.800±0.572(調節放出)対1.900±0.616(IR)。
【0085】
in vivoプロフィルでは本発明組成物のDFLの平均値はIRよりも統計的に低い。低いDFLは、本発明のER配合薬がIR及び徐放性組成物よりもクラリスロマイシン濃度の日変化が小さいことを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エリスロマイシン誘導体と医薬的に許容されるポリマーとから成り胃腸環境にエリスロマイシン誘導体を持続的に放出する医薬組成物であって、経口摂取されたときに誘発される組成物の血漿中の平均変動指数がエリスロマイシン誘導体の即放性組成物よりも統計的に有意に低い値でありながら、エリスロマイシン誘導体の即放性組成物に実質的に等価の生物学的利用率を維持する医薬組成物。
【請求項2】
ポリマーが親水性の水溶性ポリマーである請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
ポリマーが、ポリビニルピロリジン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、酢酸ビニル/クロトン酸コポリマー、メタクリル酸コポリマー、マレイン酸無水物/メチルビニルエーテルコポリマー及びその誘導体及び混合物から成るグループから選択される請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
エリスロマイシン誘導体と医薬的に許容されるポリマーとから成り胃腸環境にエリスロマイシン誘導体を持続的に放出する医薬組成物であって、経口摂取されたときに、エリスロマイシン誘導体の最大ピーク濃度が即放性医薬組成物によって生じる値よりも低く、濃度−時間曲線の下方の面積と最低血漿濃度とが即放性医薬組成物に実質的に等価である医薬組成物。
【請求項5】
エリスロマイシン誘導体と医薬的に許容されるポリマーとから成る持続放出性医薬組成物の使用方法であって、哺乳動物の細菌感染の治療に有効な量の組成物を投与する段階を含み、エリスロマイシン誘導体の即放性医薬組成物に等価の濃度−時間曲線の下方の面積が維持されることを特徴とする方法。
【請求項6】
エリスロマイシン誘導体と医薬的に許容されるポリマーとから成る持続放出性医薬組成物であって、組成物が即放性配合薬に比べて改善された味覚プロフィルを有することを特徴とする医薬組成物。
【請求項7】
ポリマーがヒドロキシプロピルメチルセルロースである請求項3に記載の持続放出性医薬組成物。
【請求項8】
ヒドロキシプロピルメチルセルロースが約50〜約200cpsの範囲の粘度を有する低粘度セルロースである請求項7に記載の持続放出性医薬組成物。
【請求項9】
ポリマーの粘度が約100cpsである請求項8に記載の持続放出性医薬組成物。
【請求項10】
組成物が約5〜約45重量%のポリマーを含む請求項2に記載の持続放出性医薬組成物。
【請求項11】
組成物が約45〜約60重量%のエリスロマイシン誘導体を含む請求項2に記載の持続放出性医薬組成物。
【請求項12】
組成物が約50重量%のエリスロマイシン誘導体を含む請求項11に記載の持続放出性医薬組成物。
【請求項13】
組成物が約10〜約30重量%のポリマーを含む請求項10に記載の持続放出性医薬組成物。
【請求項14】
組成物が粘度約100cpsのヒドロキシプロピルメチルセルロースを約10〜約30重量%の量で含む請求項13に記載の持続放出性医薬組成物。
【請求項15】
エリスロマイシン誘導体がクラリスロマイシンである請求項14に記載の持続放出性医薬組成物。
【請求項16】
組成物が約50重量%のクラリスロマイシンを含む請求項15に記載の持続放出性医薬組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−137988(P2009−137988A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−1631(P2009−1631)
【出願日】平成21年1月7日(2009.1.7)
【分割の表示】特願平10−543882の分割
【原出願日】平成10年3月6日(1998.3.6)
【出願人】(391008788)アボット・ラボラトリーズ (650)
【氏名又は名称原語表記】ABBOTT LABORATORIES
【Fターム(参考)】