説明

エレクトロウェッティングデバイス用エマルジョンインク及びエレクトロウェッティングデバイス

【課題】高品質なエレクトロウェッティングデバイスを容易に製造することを可能とするエレクトロウェッティングデバイス用エマルジョンインクを提供する。また、該エレクトロウェッティングデバイス用エマルジョンインクを用いてなるエレクトロウェッティングデバイスを提供する。
【解決手段】親水性の液体中に疎水性の液体が分散してなるエレクトロウェッティングデバイス用エマルジョンインクであって、疎水セグメントを有する化合物と親水セグメントを有する化合物とからなる非イオン性界面活性剤を含有し、前記疎水セグメントを有する化合物のSP値と前記親水セグメントを有する化合物のSP値との差が4以上であるエレクトロウェッティングデバイス用エマルジョンインク。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高品質なエレクトロウェッティングデバイスを容易に製造することを可能とするエレクトロウェッティングデバイス用エマルジョンインクに関する。また、本発明は、該エレクトロウェッティングデバイス用エマルジョンインクを用いてなるエレクトロウェッティングデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エレクトロウェッティング効果を利用したエレクトロウェッティングデバイスが注目されている。通常、エレクトロウェッティングディスプレイは画素ピクセル中に親水性の液体と疎水性の液体とを有し、該親水性の液体と誘電率の高い疎水性界面とが電界によって電気二重層を形成するため、該疎水性の液体が該疎水性界面からはじき出されるという特性があり、結果として電解によりそのオイル層が移動するという特性を利用して表示装置等に用いられる。
【0003】
特許文献1には、エレクトロウェッティングデバイスの製造に好適な、基板の表面に疎水性の液体の層を形成する方法が開示されている。特許文献1に開示されている方法において、当初、基板表面は親水性の液体の層で覆われている。親水性の液体の層の内部かつ基板表面の上部に、ディスペンサーの開口部が配置され、該ディスペンサーに疎水性の液体が充填され、疎水性の液体の液滴がディスペンサーの開口部と基板表面との間に形成される。基板表面は疎水性の第一領域を有し、各第一領域は、親水性の第二領域(画素壁)に囲まれている。基板表面に沿ってディスペンサーを移動させると、疎水性の液体の液滴が第一領域に引き込まれ、第一領域に接していた親水性の液体は疎水性の液体の層に置換され、第二領域に接していた親水性の液体はそのまま残る。
【0004】
特許文献1に開示された方法では、エレクトロウェッティングデバイスに充填する目的で開発された処理装置が必要となる。また、これらの方法は比較的時間がかかるため、大型基板への適用が難しいという問題があった。更に、疎水性の液体の層を形成した後、カバーガラスの貼り合わせを液中で行うことになるため、生産性が低いという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開WO05/098797号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、高品質なエレクトロウェッティングデバイスを容易に製造することを可能とするエレクトロウェッティングデバイス用エマルジョンインクを提供することを目的とする。また、本発明は、該エレクトロウェッティングデバイス用エマルジョンインクを用いてなるエレクトロウェッティングデバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、親水性の液体中に疎水性の液体が分散してなるエレクトロウェッティングデバイス用エマルジョンインクであって、疎水セグメントを有する化合物と親水セグメントを有する化合物とからなる非イオン性界面活性剤を含有し、上記疎水セグメントを有する化合物のSP値と上記親水セグメントを有する化合物のSP値との差が4以上であるエレクトロウェッティングデバイス用エマルジョンインクである。
以下に本発明を詳述する。
【0008】
本発明者は、親水性の液体中と疎水性の液体とを、真空中でパネル内に注入したり(真空注入法)、一方の基板に滴下した後他方の基板と貼り合わせたりする(滴下工法)ことによってエレクトロウェッティングデバイスを製造することを検討した。しかしながら、親水性の液体と疎水性の液体とを別々に注入したり滴下したりすると、疎水性の液体が凝集してしまいムラが発生するという問題があった。そこで本発明者は、親水性の液体中に疎水性の液体が分散してなるエマルジョンインクを用いることを検討した。
真空注入法や滴下工法によってエレクトロウェッティングデバイスを製造する場合、疎水性の液体のムラを防止するため、エマルジョンインクにおける疎水性の液体は、製造時には親水性の液体中に安定に分散した状態で存在し、製造後に親水性の液体と分離した層となることが求められる。本発明者は、エマルジョンインクにおける疎水性の液体の分散性を、エレクトロウェッティングデバイスの製造時は安定に分散し、製造後に層として分離する程度にするために、エマルジョンインク中に界面活性剤を配合することを考えた。しかしながら、通常の界面活性剤では、疎水性の液体の分散性を求めるものとすることができなかったり、エレクトロウェッティングデバイスの疎水性中間層を汚染したりするという問題があった。
そこで本発明者は、界面活性剤として疎水性の高い化合物と非イオン性でありかつ親水性の高い化合物とからなるものを用いることにより、エマルジョンインクにおける疎水性の液体の分散性を、エレクトロウェッティングデバイスの製造に適したものとできることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
本発明のエレクトロウェッティングデバイス用エマルジョンインクは、親水性の液体中に疎水性の液体が分散してなる。
【0010】
上記親水性の液体は特に限定されず、例えば、水や、塩化カリウム、塩化ナトリウム、塩化リチウム等の電解質の水溶液や、メチルアルコール、エチルアルコール、エチレングリコール、グリセリン等の低分子量のアルコール等が挙げられる。これらの親水性の液体は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0011】
上記疎水性の液体は特に限定されず、例えば、デカン、ウンデカン、ドデカン、ヘキサデカン等のアルカンやシクロアルカン、シリコーンオイルや、フルオロカーボン等が挙げられる。これらの疎水性の液体は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0012】
上記疎水性の液体は、染料及び/又は顔料を含有して着色したものであることが好ましい。
上記染料又は上記顔料は特に限定されず、例えば、無機系、フタロシアニンやアゾ類の有機系等、各種の顔料や染料が利用できるが、エレクトロウェッティングに用いられる溶液特性として、疎水性の液体に溶解するが、親水性の液体に溶解しないものである必要があり、適宜表面を疎水性処理されたものが用いられる。
【0013】
上記疎水性の液体中における上記染料及び/又は顔料の含有量は特に限定されないが、好ましい下限は0.5重量%、好ましい上限は20重量%である。上記染料及び/又は顔料の含有量が0.5重量%未満であると、得られるエレクトロウェッティングディスプレイがコントラスト不足となり、表示性能に劣るものとなることがある。上記染料及び/又は顔料の含有量が20重量%を超えると、溶液の流動性が低下して、駆動速度が遅くなることがある。
上記染料及び/又は顔料の含有量のより好ましい下限は1重量%、より好ましい上限は10重量%である。
【0014】
本発明のエレクトロウェッティングデバイス用エマルジョンインク中における上記親水性の液体と上記疎水性の液体との割合は、具体的な用途、例えば、画素解像度やセルギャップ距離といったディスプレイのパラメータに応じて調整され、得られるエレクトロウェッティングデバイスにおける疎水性の液体層を所定の厚さにできる。
【0015】
上記エマルジョンインク中おける上記疎水性の液体の液滴径は特に限定されないが、好ましい下限は0.05μm、好ましい上限は10μmである。上記疎水性の液体の液滴径が0.05μm未満であると、基板の疎水性の領域における吸着性に劣るものとなることがある。また、疎水性液体に含有される着色材が析出する。記疎水性の液体の液滴径が10μmを超えると、注入や貼り合わせと同時に、疎水性粒子が相分離し、基板の疎水性の領域における吸着が不均一になることがある。上記疎水性の液体の液滴径のより好ましい下限は1μm、より好ましい上限は5μmである。
【0016】
本発明のエレクトロウェッティングデバイス用エマルジョンインク中おける上記疎水性の液体の液滴のCV値は特に限定されないが、好ましい上限は10%である。上記疎水性の液体の液滴のCV値が10%を超えると、基板の疎水性の領域における吸着が不均一になることがある。
なお、本明細書において上記CV値は、(σ/D)×100で定義され、式中、σは粒径の標準偏差を表し、Dは平均液滴径を表す。また、上記標準偏差及び上記液滴径は、例えば、顕微鏡で100液滴を測定するか、又は、Malvern Instruments社製のZETASIZER NanoシリーズNano−ZSを用いた動的光散乱法により測定することができる。
【0017】
本発明のエレクトロウェッティングデバイス用エマルジョンインクは、疎水セグメントを有する化合物と親水セグメントを有する化合物とからなる非イオン性界面活性剤を含有する。
上記疎水セグメントを有する化合物と親水セグメントを有する化合物とからなる非イオン性界面活性剤を含有することにより、得られるエマルジョンインクにおける疎水性の液体の分散性を、エレクトロウェッティングデバイスの製造に適したものとすることができる。
【0018】
前記疎水セグメントを有する化合物と前記親水セグメントを有する化合物とは、光エンチオール反応によって反応させて目的の非イオン性界面活性剤を製造することができる。上記光エンチオール反応では、光を照射することでラジカル化した光開始剤(I・)が、チオール基を有する化合物の水素を引き抜くことでチイルラジカル(RS・)を生成し(下記式(1−1)、(1−2))、生成したチイルラジカルが不飽和結合を有する化合物と反応して得られたラジカルがチオール基を有する化合物の水素を引き抜くことで目的の化合物を得ることができる(下記式(1−3)、(1−4))。
【0019】
【化1】

【0020】
上記非イオン性界面活性剤を光エンチオール反応によって製造する場合、上記疎水セグメントを有する化合物、上記親水セグメントを有する化合物、及び、光開始剤を含有する混合物に光を照射する工程を行う。
上記疎水セグメントを有する化合物と上記親水セグメントを有する化合物とは、一方がチオール基又は不飽和結合を1分子中に1つのみ有し、かつ、他方が一方の有するチオール基と反応しうる不飽和結合又は一方の有する不飽和結合と反応しうるチオール基を1分子中に1つ以上有するものとなる。
【0021】
上記疎水セグメントは特に限定されず、例えば、エチル基、プロピル基、ブチル基、プロピル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ラウリル基、ミリスチル基、パルミチル基、ステアリル基等のアルキル基やイソアルキル基、フェニル基、シクロアルカン基、イソアルキル基、フルオロアルキル基等が挙げられる。なお、分子中に疎水セグメントと不飽和結合とを有する化合物における不飽和結合とは、上記疎水セグメントを含まない。
【0022】
疎水セグメントと1分子中に1つのチオール基とを有する化合物は特に限定されず、例えば、ブチルメルカプタン、プロピルメルカプタン、ヘキシルメルカプタン、オクチルメルカプタン、デシルメルカプタン、ラウリルメルカプタン、ミリスチルメルカプタン、パルミチルメルカプタン、ステアリルメルカプタン等のアルキルメルカプタン等が挙げられる。
また、疎水セグメントとチオール基とがエステル結合、アミド結合、ウレタン結合等の種々の化学結合で結合された化合物も用いることができる。具体的には例えば、チオグリコール酸オクチル、チオグリコール酸メトキシブチル、メルカプロプロピオン酸オクチル、メルカパプトプロピオン酸トリデシル、トリメチールプロパントリスチオプロピオネート、2−メルカプトエチルオクタン酸エステル等が挙げられる。
【0023】
上記親水セグメントを有する化合物が不飽和結合を1分子中に1つのみ有するものである場合、上記疎水セグメントを有する化合物はチオール基を1分子中に2つ以上有していてもよい。疎水セグメントと1分子中に2つ以上のチオール基とを有する化合物は特に限定されず、例えば、ブタンジオールビスチオグリコレート、ヘキサンジオールビスチオグリコレート、ブタンジオールビスチオプロピロネート、1,10−デカンジチオール、1,11−ウンデカンビスチオール、1,12−ドデカンビスチオール、2,2’−ジメルカプトジエチルスフフィド、p−キシレンジチオール、m−キシレンジチオール、チオ安息香酸等が挙げられる。
【0024】
疎水セグメントと1分子中に1つの不飽和結合とを有する化合物は特に限定されず、例えば、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸イソノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ミリスチル、(メタ)アクリル酸パルミチル、(メタ)アクリル酸ステアリル等の(メタ)アクリル酸アルキルや、(メタ)アクリル酸イソボルニル等が挙げられる。
なお、本明細書において上記(メタ)アクリル酸は、アクリル酸又はメタクリル酸を意味する。
【0025】
上記親水セグメントを有する化合物がチオール基を1分子中に1つのみ有するものである場合、上記疎水セグメントを有する化合物は不飽和結合を1分子中に2つ以上有していてもよい。疎水セグメントと1分子中に2つ以上の不飽和結合とを有する化合物は特に限定されず、例えば、ビス(メタ)アクリル酸1,9−ノナンジイル、ビス(メタ)アクリル酸1,10−デカンジイル、ビス(メタ)アクリル酸1,11−ウンデカンジイル、ビス(メタ)アクリル酸1,12−ドデカンジイル等が挙げられる。プロポキシ化エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ビスフェノールAジアクリレート、9,9−ビス[4−(2−アクリロイルオキシエトキシ)フェニル]フルオレン、プロポキシ化ビスフェノールAジアクリレート、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート等が挙げられる。
【0026】
上記非イオン性の親水セグメントは特に限定されず、例えば、ヒドロキシル基、アミド基、エーテル基、エステル基、アセトキシ基、ヒドロキシシリル基等が挙げられる。
なお、親水セグメントとチオール基とを有する化合物におけるチオール基は上記親水セグメントには含まない。
【0027】
非イオン性の親水セグメントと1分子中に1つのチオール基とを有する化合物は特に限定されず、たとえば、チオグリコール酸、メルカプトプロパンジオール(チオグリセロール)、チオグリコール酸モノエタノールアミン、2−メルカプトエタノール、4−アミノチフェノール、チオグリセロール等が挙げられる。
【0028】
上記疎水セグメントを有する化合物が不飽和結合を1分子中に1つのみ有するものである場合、上記親水セグメントを有する化合物はチオール基を1分子中に2つ以上有していてもよい。親水セグメントと1分子中に2つ以上のチオール基とを有する化合物は特に限定されず、例えば、2,2’−ジチオビスエタノール、2,2’−[2−(ジメチルアミノ)エチル]イミノビス(エタンチオール)、1,2−ビス(メチルアミノ)エタン−1,2−ビスチオール等が挙げられる。
【0029】
親水セグメントと1分子中に1つの不飽和結合とを有する化合物は特に限定されず、例えば、(メタ)アクリル酸2,3−ジヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸グルコシル等が挙げられる。
【0030】
上記疎水セグメントを有する化合物がチオール基を1分子中に1つのみ有するものである場合、上記親水セグメントを有する化合物は不飽和結合を1分子中に2つ以上有していてもよい。親水セグメントと1分子中に2つ以上の不飽和結合とを有する化合物は特に限定されず、例えば、ビス(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシ−2−(ヒドロキシメチル)プロパン−1,3−ジイル、ビス(メタ)アクリル酸1−(1,2−ジヒドロキシエチル)エタン−1,2−ジイル、ビス(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシ−3−(ヒドロキシメチル)プロパン−1,3−ジイル、ビス(メタ)アクリル酸2,3−ジヒドロキシブタン−1,4−ジイル、ビス(メタ)アクリル酸1,2−ビス(ヒドロキシメチル)エチレン、ビスアクリル酸1,1−ビス(ヒドロキシメチル)エチレン、酒石酸ジアリル等が挙げられる。
【0031】
上記疎水セグメントを有する化合物のSP値の好ましい下限は4.5以上、好ましい上限は9以下である。上記疎水セグメントを有する化合物のSP値が4.5未満であると、親水性セグメントを有する化合物との分散混合できなくなり、反応が進まないことがある。上記疎水セグメントを有する化合物のSP値が9を超えると、エレクトロウェッティングの電解質に溶解し、表示の応答速度を低下させることがある。
上記疎水セグメントを有する化合物のSP値のより好ましい下限は5、より好ましい上限は8.5である。
なお、本明細書において上記SP値とは溶解度パラメータを意味し、例えば、δ=ΣE/ΣVの式により得ることができる。ここで、δはSP値、Eは蒸発エネルギー、Vはモル体積を示す。
【0032】
上記親水セグメントを有する化合物のSP値の好ましい下限は12、好ましい上限は15である。上記親水セグメントを有する化合物のSP値が12未満であると、エマルジョンインクの分散性が低下して析出することがある。上記親水セグメントを有する化合物のSP値が15を超えると、やはり分散性が低下して析出する。ことがある。上記親水セグメントを有する化合物のSP値のより好ましい下限は12.5、より好ましい上限は14である。
【0033】
上記疎水セグメントを有する化合物のSP値と、上記親水セグメントを有する化合物のSP値との差(以下、SP値の差ともいう)は4以上である。上記SP値の差が4未満であると、界面活性作用が低下して、エマルジョンとしての安定性が低下し、相分離が容易に起こる。
【0034】
上記光開始剤は、ノリッシュI型光開始剤であることが好ましい。上記ノリッシュI型光開始剤は、光を照射することで単分子結合開裂して反応を開始させるラジカルを発生する化合物である。
【0035】
上記ノリッシュI型光開始剤は特に限定されず、例えば、ベンゾイン誘導体、メチロールベンゾイン、4−ベンゾイル−1,3−ジオキソラン誘導体、ベンジルケタール、α,α−ジアルコキシアセトフェノン、α−ヒドロキシアルキルフェノン、α−アミノアルキルフェノン、アシルホスフィンオキシド、ビスアシルホスフィンオキシド、アシルホスフィンスルフィド、ハロゲン化アセトフェノン誘導体等が挙げられる。
【0036】
上記光開始剤の含有量は特に限定されないが、上記疎水セグメントを有する化合物と上記親水セグメントを有する化合物との合計100重量部に対して好ましい下限は0.01重量部、好ましい上限は10重量部である。上記光開始剤の含有量が0.01重量部未満であると、反応が充分に進行しなかったり、遅くなりすぎたりすることがある。上記光開始剤の含有量が10重量部を超えると、未反応開始剤や開始剤分解副生成物が多くなり、不純物として析出して合成した界面活性剤の界面活性作用を阻害することがある。
上記光開始剤の含有量のより好ましい下限は0.05重量部、より好ましい上限は1重量部である。
【0037】
上記非イオン性界面活性剤を製造する方法において、上記疎水セグメントを有する化合物、上記親水セグメントを有する化合物、及び、上記光開始剤を含有する混合物に照射する光としては、300〜450nmの波長及び50〜2000mJ/cmの積算光量の光が好適に用いられる。
【0038】
上記光を照射する光源は特に限定されず、例えば、低圧水銀灯、中圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、エキシマレーザ、ケミカルランプ、ブラックライトランプ、マイクロウェーブ励起水銀灯、メタルハライドランプ、ナトリウムランプ、ハロゲンランプ、キセノンランプ、蛍光灯、太陽光、電子線照射装置等が挙げられる。これらの光源は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。これらの光源は、上記光開始剤の吸収波長に合わせて適宜選択される。
上記光を照射する手順としては、例えば、各種光源の同時照射、時間差をおいての逐次照射、同時照射と逐次照射との組み合わせ照射等が挙げられ、いずれの照射手段を用いてもよい。
【0039】
上記非イオン性界面活性剤の数平均分子量の好ましい下限は100、好ましい上限は3000である。上記数平均分子量が100未満であると、分子構造的に小さいために、親水基疎水基の分子サイズを大きくすることができず、結果として、界面活性作用を強くできないことがある。上記数平均分子量が3000を超えると、界面活性作用を発現するために必要な、エマルジョンへの添加量が多大となり、エマルジョンの特性に悪影響を与えることがある。上記数平均分子量のより好ましい下限は250、より好ましい上限は1000である。
なお、本明細書において、上記数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定を行い、ポリスチレン換算により求められる値である。GPCによってポリスチレン換算による数平均分子量を測定する際のカラムとしては、例えば、Shodex LF−804(昭和電工社製)等が挙げられる。
【0040】
本発明のエレクトロウェッティングデバイス用エマルジョンインクにおける上記非イオン性界面活性剤の含有量は特に限定されないが、好ましい下限は0.001重量%、好ましい上限は5重量%である。上記非イオン性界面活性剤の含有量が0.001重量%未満であると、分散安定効果が低下し、エマルジョンインクが容易に層分離する。
上記非イオン性界面活性剤の含有量が5重量%を超えると、疎水性誘電体層を汚染して、応答速度の低下を引き起こすことがある。上記非イオン性界面活性剤の含有量のより好ましい下限は0.01重量%、より好ましい上限は1重量%である。
【0041】
本発明のエレクトロウェッティングデバイス用エマルジョンインクは、市販の非イオン性界面活性剤を添加してもよい。
【0042】
本発明のエレクトロウェッティングデバイス用エマルジョンインクを製造する方法は特に限定されず、例えば、キャピラリー流路、ホモジナイザー、ホモミキサー、ディスパー、コロイドミル、超音波ホモジナイザー、マイルダー、アトライター、(超)高圧ホモジナイザー、ナノマイザーシステム、膜乳化装置、マイクロブレイダイザー等を使用する方法が挙げられる。
【0043】
上記キャピラリー流路を用いた方法では、上記親水性の液体、上記疎水性の液体、及び、上記非イオン性界面活性剤を含有する混合液が、ピンチコックを有するキャピラリー流路に送液される。上記キャピラリー流路を用いた方法によれば、エマルジョンインクを連続的に製造できる。
【0044】
上記キャピラリー流路を用いた方法では、キャピラリー流路に送液されることで、混合液が分散する。上記キャピラリー流路は狭窄部を有し、通過する溶液に充分なせん断力を加えるだけの大きい圧力勾配を生み出す。上記疎水性の液体を上記親水性の液体中に分散させるのに充分なせん断力を加えるため、上記狭窄部の幅は、10μm未満であることが好ましい。
【0045】
上記キャピラリー流路における上記狭窄部以外の流路径は0.5mm未満であることが好ましい。上記狭窄部以外の流路径が0.5mm以上であると、上記疎水性の液体が充分に分散しない恐れがある。
【0046】
混合液が上記狭窄部に送られると、少なくとも1MPaの圧力で充分なせん断力が加えられ、上記疎水性の液体が分散する。上記狭窄部は、流路幅を0〜10μmの間で自動的に調整するような機構を備えていることが好ましい。
【0047】
本発明のエレクトロウェッティングデバイス用エマルジョンインクを用いてなるエレクトロウェッティングデバイスもまた、本発明の1つである。本発明のエレクトロウェッティングデバイスの一例を模式的に示した断面図を図1に示す。
本発明のエレクトロウェッティングデバイスは、例えば、フルオロポリマー等からなる疎水性中間層2と画素壁3とを有する一方の基板に本発明のエレクトロウェッティングデバイス用エマルジョンインクを滴下した後、他方の基板を貼り合わせる方法等を用いることにより製造することができる。疎水性の液体5は、エレクトロウェッティングデバイスの製造時には親水性の液体4中に安定に分散した状態で存在し、製造後に図1に示したように親水性の液体4と分離した層となって疎水性中間層2に均一に付着する。
【発明の効果】
【0048】
本発明によれば、高品質なエレクトロウェッティングデバイスを容易に製造することを可能とするエレクトロウェッティングデバイス用エマルジョンインクを提供することができる。また、本発明によれば、該エレクトロウェッティングデバイス用エマルジョンインクを用いてなるエレクトロウェッティングデバイスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明のエレクトロウェッティングデバイスの一例を模式的に示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0050】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されない。
【0051】
(実施例1)
疎水セグメントを有する化合物として(和光純薬工業社製、「ドデシルアクリレート」、SP値8.3(SMALL法による))24.04重量部と、親水セグメントを有する化合物として3−メルカプト−1,2−プロパンジオール(和光純薬工業社製、SP値13.2)10.82重量部と、光開始剤としてイルガキュア1173(BASF社製)0.05重量部とを混合した。得られた混合物を冷却しながら超音波処理する事により、分散液を得た。この分散液にブラックライトランプ365nm、1mW/cmの紫外線を30秒間照射し、下記式(2)で示される界面活性剤(数平均分子量348)を作製した。
【0052】
【化2】

【0053】
親水性の液体としてエチレングリコール(和光純薬工業社製)67重量%とグリセリン33重量%の溶液Aを作製し、疎水性の顔料混合液体としてアントラキノン顔料5重量%をノルマルデカン(和光純薬工業社製)に溶解した溶液Bを作製した。
溶液A19gと溶液B1gをサンプル瓶に入れ、更に、作製した式(2)で示される非イオン性界面活性剤0.1重量部を加え、振とう攪拌した。その後、超音波処理装置(本多電子社製、「超音波洗浄機W−113」)を用いて、氷でサンプル瓶を冷却しながら、30分間超音波処理した。疎水性液体と親水性液体とは均一に混合し、安定なエマルジョンインクが得られた。
粒度計で測定したところ、平均粒径は1.5μmであった。
テフロン(登録商標)溶液(デュポン社製、「AF 1601 SOL FC」)を透明電極に塗布することによって形成された疎水性中間層を有する基板上にSU−8(化薬マイクロケム社製)のフォトレジストによって親水性の画素壁として40μmの高さのバンプを形成し、疎水性基板を作製した。
バンプを形成したものとは別のITOガラス基板上に枠を描く様に光硬化性樹脂をディスペンサーで塗布し、シールパターンを形成した。
シールパターンを形成したITOガラス基板上に、得られたエマルジョンインクを滴下塗布した。次いで、シールパターンを形成したITOガラス基板と疎水性の中間層を有する基板とを、760mmHgの雰囲気下でシールパターンを介して貼り合わせた。
貼り合わせた基板に、365nmの中心波長を有する超高圧水銀灯によって、1000mJの光を照射してシール剤を硬化させ、エレクトロウェッティングデバイスを作製した。
【0054】
(実施例2)
親水セグメントを有する化合物としてドデシルアクリレートの代わりに2−エチルヘキシルアクリレート(和光純薬工業社製、SP値8.31)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、下記式(3)で示される非イオン性界面活性剤(数平均分子量292)を作製した。
式(2)で示される非イオン性界面活性剤の代わりに、式(3)で示される非イオン性界面活性剤を用いたこと以外は実施例1と同様にして、エマルジョンインクを作製した。粒度計で測定したところ、平均粒径は1.7μmであった。更に、得られたエマルジョンインクを用い、実施例1と同様にして、エレクトロウェッティングデバイスを作製した。
【0055】
【化3】

【0056】
(実施例3)
疎水セグメントを有する化合物としてドデシルアクリレート の代わりにn−ブチルアクリレート(和光純薬工業社製、SP値8.6)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、下記式(4)で示される非イオン性界面活性剤(数平均分子量256)を作製した。
式(2)で示される非イオン性界面活性剤の代わりに、式(4)で示される非イオン性界面活性剤を用いたこと以外は実施例1と同様にして、エマルジョンインクを作成した。粒度計で測定したところ、平均粒径は1.9μmであった。更に、得られたエマルジョンインクを用い、実施例1と同様にして、エレクトロウェッティングデバイスを作製した。
【0057】
【化4】

【0058】
(比較例1)
式(2)で示される非イオン性界面活性剤を用いなかったこと以外は実施例1と同様にして、エマルジョンインク及びエレクトロウェッティングデバイスを作製した。
【0059】
(比較例2)
式(2)で示される非イオン性界面活性剤を用いなかったこと以外は実施例1と同様にして、エマルジョンインクを作製し、エレクトロウェッティングデバイスの作製直前までエマルジョンインクを−15℃の低温で貯蔵したこと以外は実施例1と同様にして、エレクトロウェッティングデバイスを作製した。
【0060】
<評価>
実施例及び比較例で得られたエマルジョンインク及びエレクトロウェッティングデバイスについて以下の評価を行った。結果を表1に示した。
【0061】
(分散安定性)
実施例及び比較例で作製したエマルジョンインクについて、作製後、親水性の液体と疎水性の液体が層分離するまでの時間を測定した。層分離するまでの時間が3時間以上である場合を「○」、層分離するまでの時間が3時間未満である場合を「×」として評価した。
【0062】
(疎水性の液体層のムラ)
実施例及び比較例で作製したエレクトロウェッティングデバイスを目視で確認し、疎水性の液体層が均一に形成できていた場合を「◎」、ほとんどムラのない場合を「○」、少しのムラが確認できた場合を「△」、はっきりとムラが確認できた場合を「×」として評価した。
【0063】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明によれば、高品質なエレクトロウェッティングデバイスを容易に製造することを可能とするエレクトロウェッティングデバイス用エマルジョンインクを提供することができる。また、本発明によれば、該エレクトロウェッティングデバイス用エマルジョンインクを用いてなるエレクトロウェッティングデバイスを提供することができる。
【符号の説明】
【0065】
1 基板
2 疎水性中間層
3 画素壁
4 親水性の液体
5 疎水性の液体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
親水性の液体中に疎水性の液体が分散してなるエレクトロウェッティングデバイス用エマルジョンインクであって、
疎水セグメントを有する化合物と親水セグメントを有する化合物とからなる非イオン性界面活性剤を含有し、
前記疎水セグメントを有する化合物のSP値と前記親水セグメントを有する化合物のSP値との差が4以上である
ことを特徴とするエレクトロウェッティングデバイス用エマルジョンインク。
【請求項2】
非イオン性界面活性剤の含有量が0.001重量%〜5重量%であることを特徴とする請求項1記載のエレクトロウェッティングデバイス用エマルジョンインク。
【請求項3】
請求項1又は2記載のエレクトロウェッティングデバイス用エマルジョンインクを用いてなることを特徴とするエレクトロウェッティングデバイス。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2012−68507(P2012−68507A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−214144(P2010−214144)
【出願日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【出願人】(506255669)サムスン エルシーディー ネザーランズ アール アンド ディー センター ビー.ブイ. (12)
【Fターム(参考)】