説明

エレクトロクロミックミラー

【課題】光反射膜の劣化が生じにくいエレクトロクロミックミラーを得る。
【解決手段】本エレクトロクロミックミラー10では、導電性反射膜18のエレクトロクロミック膜16とは反対側では電解液34が封入されている。ここで、本エレクトロクロミックミラー10では、主に光を反射する第1導電性反射膜20の電解液34の側は第1導電性反射膜20よりも腐食し難い金属により形成された第2導電性反射膜22で覆われる。このため、電解液34に対して第1導電性反射膜20は第2導電性反射膜22に保護され、第1導電性反射膜20が腐食され難くなる。これにより、長期に亘って第1導電性反射膜20によって良好に光を反射できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、車両の後方確認用としてアウタミラーやインナミラーに用いられて電圧を印加することにより反射率を可変できるエレクトロクロミックミラーに関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、エレクトロクロミック膜が還元反応することでエレクトロクロミック膜が着色され、これにより、反射光の透過率を低減して結果的に光の反射率を低減するエレクトロクロミックミラーが開示されている。この特許文献1に開示されたエレクトロクロミックミラーでは、光反射膜にパラジウムが用いられる。
【特許文献1】米国特許3844636号の明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、パラジウムを用いた光反射膜は反射率が低いので、反射率が高いアルミニウム等を光反射膜として用いることが好ましい。しかしながら、光反射膜のエレクトロクロミック膜とは反対側に設けられた対向電極膜と光反射膜との間には電解液が封入されるため、光反射膜にアルミニウム等を用いると光反射膜に腐食等の劣化が生じやすい。
【0004】
本発明は、上記事実を考慮して、光反射膜の劣化が生じにくいエレクトロクロミックミラーを得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に記載の本発明に係るエレクトロクロミックミラーは、還元反応することで着色されるエレクトロクロミック膜と、厚さ方向に貫通する微細な透孔を多数有し、前記エレクトロクロミック膜の厚さ方向一方の側に形成されて、前記エレクトロクロミック膜を透過した光を反射すると共に導電性を有する第1導電性反射膜と、厚さ方向に貫通する微細な透孔を多数有し、前記第1導電性反射膜を構成する材料よりも腐食し難い材料により前記第1導電性反射膜の前記エレクトロクロミック膜とは反対側に形成された導電性を有する導電性保護膜と、前記エレクトロクロミック膜の厚さ方向一方の側で前記導電性保護膜の前記第1導電性反射膜とは反対側に設けられた導電性を有する導電性膜と、リチウムイオンを含めて構成されて前記導電性保護と前記導電性膜との間に封入され、前記導電性膜を正とし前記第1導電性反射膜及び前記導電性保護膜を負として電圧を印加することで前記リチウムイオンが前記エレクトロクロミック膜の側へ移動して、前記エレクトロクロミック膜の還元反応に供される電解液と、前記電圧の印加状態で電荷を蓄え又は前記電解液中の負イオンと酸化反応することにより前記還元反応を補償する還元反応補償手段と、を備えている。
【0006】
請求項1に記載の本発明に係るエレクトロクロミックミラーでは、エレクトロクロミック膜を透過した光が第1導電性反射膜により反射される。
【0007】
また、導電性膜を正として第1導電性反射膜及び導電性保護膜を負として電圧を印加すると、導電性膜と導電性保護膜との間に封入された電解液のリチウムイオンがエレクトロクロミック膜の側へ移動する。エレクトロクロミック膜の側へリチウムイオンが移動することでエレクトロクロミック膜が還元反応すると共に、還元反応補償手段において電荷が蓄えられ、又は、電解液中の負イオンと酸化反応して、エレクトロクロミック膜での還元反応が補償される。この還元反応によりエレクトロクロミック膜が着色される。このようにしてエレクトロクロミック膜が着色されることでエレクトロクロミック膜における光の透過率が低下する。
【0008】
ここで、本発明に係るエレクトロクロミックミラーでは、第1導電性反射膜及び導電性保護膜の各々には、各々の厚さ方向に貫通する微細な透孔が多数形成される。このため、導電性膜を正とし、第1導電性反射膜及び導電性保護膜を負として電圧を印加した際に、電解液のリチウムイオンが第1導電性反射膜及び導電性保護膜の各々に形成された透孔を抜けて容易で且つ円滑にエレクトロクロミック膜に到達する。これにより、エレクトロクロミック膜において円滑で且つ素早く還元反応が生じ、円滑で且つ素早くエレクトロクロミック膜が着色される。
【0009】
さらに、本発明に係るエレクトロクロミックミラーでは、第1導電性反射膜よりも電解液の側には第1導電性反射膜を構成する材料よりも腐食し難い材料によって形成された導電性保護膜が設けられる。このため、第1導電性反射膜が導電性保護膜により保護されて腐食しによる劣化がし難くなる。これにより、長期に亘り良好に第1導電性反射膜によって光を反射できる。しかも、導電性保護膜により保護されることで第1導電性反射膜は腐食し難くなるので、第1導電性反射膜自体を薄くできる。
【0010】
請求項2に記載の本発明に係るエレクトロクロミックミラーは、請求項1に記載の本発明において、導電性を有すると共に前記第1導電性反射膜の側からの光を反射する第2導電性反射膜を前記導電性保護膜とした、ことを特徴としている。
【0011】
請求項3に記載の本発明に係るエレクトロクロミックミラーによれば、第1導電性反射膜を保護する導電性保護膜が第1導電性反射膜の側からの光を反射する第2導電性反射膜とされる。このため、第1導電性反射膜を薄くすることで光の一部が第1導電性反射膜を透過しても、この透過した光を第2導電性反射膜で反射できる。
【0012】
また、電解液の側から第1導電性反射膜全体を覆い、しかも、第1導電性反射膜の周縁部よりも外側まで第2導電性反射膜が位置するように第2導電性反射膜を設けた場合、第2導電性反射膜による第1導電性反射膜の保護性能が向上するのみならず、第1導電性反射膜の周縁部の外側に第2導電性反射膜の一部が位置することで、第1導電性反射膜の外側でも光を反射できる。
【0013】
請求項3に記載の本発明に係るエレクトロクロミックミラーは、請求項1又は請求項2に記載の本発明において、活性炭を含めて形成されて、前記導電性膜の前記導電性保護膜の側に設けられたカーボン膜を含めて前記還元補償手段を構成した、ことを特徴としている。
【0014】
請求項3に記載の本発明に係るエレクトロクロミックミラーでは、導電性膜を正として第1導電性反射膜及び導電性保護膜を負として電圧を印加すると、電解液の負イオンが導電性膜の導電性保護膜の側に設けられたカーボン膜の側へ移動して、負イオンがカーボン膜に蓄積される。ここで、カーボン膜は活性炭を含めて形成される。活性炭は多孔質であるが故に表面積が大きいため、多くの負イオンを蓄積できる。
【0015】
これにより、上記の導電性膜と第1導電性反射膜及び導電性保護膜とに印加する電圧が低くてもエレクトロクロミック膜で充分に還元反応を起こさせることができる。しかも、このように低電圧でもエレクトロクロミック膜で還元反応を起こさせることができるため、電圧印加終了後にエレクトロクロミック膜を容易に消色できる。
【0016】
請求項4に記載の本発明に係るエレクトロクロミックミラーは、請求項1又は請求項2に記載の本発明において、導電性ポリマ又はレドックスポリマにより形成されて、前記導電性膜の前記導電性保護膜の側設けられて、前記電圧が印加されることで前記導電性膜の側へ移動した負イオンにより酸化される負イオン反応膜を含めて前記還元補償手段を構成した、ことを特徴としている。
【0017】
請求項4に記載の本発明に係るエレクトロクロミックミラーでは、導電性膜を正として第1導電性反射膜及び導電性保護膜を負として電圧を印加すると、電解液の負イオンが導電性ポリマ又はレドックスポリマにより形成された負イオン反応膜の側へ移動して、負イオンにより負イオン反応膜が酸化される。
【0018】
このように、負イオン反応膜を導電性ポリマ又はレドックスポリマにより形成したことで、多くの負イオンが負イオン反応膜の酸化に供されるので、上記の導電性膜と第1導電性反射膜及び導電性保護膜とに印加する電圧が低くてもエレクトロクロミック膜で充分に還元反応を起こさせることができる。しかも、このように低電圧でもエレクトロクロミック膜で還元反応を起こさせることができるため、電圧印加終了後にエレクトロクロミック膜を容易に消色できる。
【0019】
請求項5に記載の本発明に係るエレクトロクロミックミラーは、請求項1又は請求項2に記載の本発明において、銀又は銀を含む合金により前記導電性膜を形成すると共に、前記導電性膜を正とし前記第1導電性反射膜及び前記導電性保護膜を負として電圧を印加した際に前記導電性膜を形成する銀のイオンと反応する難溶性塩の負イオンを含めて前記電解液を形成し、更に、難溶性塩により形成されて、前記導電性膜の前記導電性保護膜の側に設けられ、前記電圧が印加されることで前記導電性膜の側へ移動した前記難溶性塩の負イオンと前記導電性膜を構成する銀のイオンとの反応により形成される析出物を析出させる析出膜を設け、前記導電性膜を形成する銀、前記電解液を構成する負イオン、及び前記析出膜を含めて前記還元反応補償手段を構成した、ことを特徴としている。
【0020】
請求項5に記載の本発明に係るエレクトロクロミックミラーでは、導電性膜を正として第1導電性反射膜及び導電性保護膜を負として電圧を印加すると、電解液を構成する難溶性塩の負イオンが導電性膜の側へ移動する。この難溶性塩の負イオンは導電性膜を構成する銀のイオンと反応し、導電性膜の導電性保護膜の側に設けられた難溶性塩の析出膜上で析出される。
【0021】
このように、エレクトロクロミック膜での還元反応に対応した酸化反応を導電性膜と析出膜とで充分に生じさせることができるので、上記の導電性膜と第1導電性反射膜及び導電性保護膜とに印加する電圧が低くてもエレクトロクロミック膜で充分に還元反応を起こさせることができる。しかも、このように低電圧でもエレクトロクロミック膜で還元反応を起こさせることができるため、電圧印加終了後にエレクトロクロミック膜を容易に消色できる。
【0022】
請求項6に記載の本発明に係るエレクトロクロミックミラーは、請求項1又は請求項2に記載の本発明において、中性分子又は負イオンにより酸化可能で前記導電性膜を正とし前記第1導電性反射膜及び前記導電性保護膜を負として電圧を印加することで酸化反応する反応材料を含めて前記電解液を構成し、前記反応材料を含めて前記還元反応補償手段を構成した、ことを特徴としている。
【0023】
請求項6に記載の本発明に係るエレクトロクロミックミラーでは、リチウムイオンの他に中性分子又は負イオンにより酸化可能な反応材料を含めて電解液が構成されており、導電性膜を正として第1導電性反射膜及び導電性保護膜を負として電圧を印加すると、電解液を構成する反応材料に酸化反応が生じる。このため、上記のエレクトロクロミック膜での還元反応が補償され、上記の導電性膜と第1導電性反射膜及び導電性保護膜とに印加する電圧が低くてもエレクトロクロミック膜で充分に還元反応を起こさせることができる。
【0024】
しかも、このように低電圧でもエレクトロクロミック膜で還元反応を起こさせることができるため、電圧印加終了後にエレクトロクロミック膜を容易に消色できる。
【0025】
請求項7に記載の本発明に係るエレクトロクロミックミラーは、請求項1から請求項6の何れか1項に記載の本発明において、前記エレクトロクロミック膜の厚さ方向に沿った前記第1導電性反射膜及び前記導電性保護膜の側で開口した微細な孔部を前記エレクトロクロミック膜に多数形成した、ことを特徴としている。
【0026】
請求項6に記載の本発明に係るエレクトロクロミックミラーによれば、エレクトロクロミック膜にはその厚さ方向に沿った第1導電性反射膜及び導電性保護膜の側で開口した微細な孔部が多数形成される。これにより、エレクトロクロミック膜の表面積が増加するため、導電性膜を正とし、第1導電性反射膜及び導電性保護膜を負として電圧を印加した際に、エレクトロクロミック膜において円滑で且つ素早く還元反応が生じ、円滑で且つ素早くエレクトロクロミック膜が着色される。
【発明の効果】
【0027】
以上説明したように、本発明に係るエレクトロクロミックミラーでは、光反射膜である導電性反射膜の腐食の劣化が生じ難い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
<第1の実施の形態の構成>
図1には本発明の第1の実施の形態に係るエレクトロクロミックミラー10の構成が概略的な断面図により示されている。
【0029】
この図に示されるように、エレクトロクロミックミラー10は表面側基板12を備えている。表面側基板12はガラス等により形成された透明の基板本体14を備えている。この基板本体14の厚さ方向一方(図1の矢印W方向)側の面にはエレクトロクロミック膜16が形成されている。エレクトロクロミック膜16は、例えば、三酸化タングステン(WO)や三酸化タングステン(MoO)、又は、このような酸化物が含まれる混合物により形成されており、特に、本実施の形態では、三酸化タングステンによりエレクトロクロミック膜16が形成されている。
【0030】
基板本体14の厚さ方向に沿ったエレクトロクロミック膜16の厚さは300nm以上1000nm以下の範囲で設定され、特に、本実施の形態ではエレクトロクロミック膜16の厚さは500nmに設定されている。このエレクトロクロミック膜16の基板本体14とは反対側の面には導電性反射膜18が形成されている。この導電性反射膜18は第1導電性反射膜20と、導電性保護膜としての第2導電性反射膜22とによって構成されている。
【0031】
また、この第2導電性反射膜22は外周縁部が第1導電性反射膜20の外周縁部よりも外側に位置するように形成されている。これにより、第1導電性反射膜20は、その全体がエレクトロクロミック膜16とは反対側から第2導電性反射膜22により覆われている。
【0032】
第1導電性反射膜20はエレクトロクロミック膜66の基板本体14とは反対側に形成されている。第1導電性反射膜20はアルミニウム(Al)、銀(Ag)、インジウム(In)等により形成されている。これに対して、第2導電性反射膜22は第1導電性反射膜20よりも腐食し難い金属、例えば、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、パラジウム(Pd)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)等により形成されている。
【0033】
図2に示されるように、第1導電性反射膜20にはその厚さ方向に貫通した微細な多数の透孔48が形成されており、第2導電性反射膜22にはその厚さ方向に貫通した微細な多数の透孔48が形成されている。これらの透孔48と透孔50とは互いに連通している。また、これらの透孔48、50は内径(内周部の直径)寸法Dが20μm以下で、特に、本実施の形態では5μmとされている。また、これらの透孔48、50は基本的に導電性反射膜18に不規則(ランダム)に形成されている。但し、これらの透孔48、50は隣り合う透孔48、50の中心間距離Lが10μmとされている。
【0034】
これらの透孔48、50は、フォトレジストが塗布された導電性反射膜18に透孔48、50のパターンが印刷されたフォトマスクを施して露光し、その後に透孔48、50に対応したフォトレジストを除去し、エッチング液で導電性反射膜18を溶かすことで形成されている。
【0035】
以上の構成の表面側基板12の厚さ方向一方の側には裏面側基板24が表面側基板12と対向するように設けられている。裏面側基板24はガラス等により形成された透明の基板本体26を備えている。この基板本体26の厚さ方向他方、すなわち、表面側基板12の側の面には導電性膜28が形成されている。導電性膜28は、クロム(Cr)やニッケル(Ni)等の金属や、インジウムチンオキサイド(In:Sn、所謂「ITO」)や酸化スズ(SnO)、フッ素ドープ酸化スズ(SnO:F)、酸化亜鉛(ZnO)等、更にはこれらの混合物により形成されている。
【0036】
この導電性膜28の表面側基板12の側の面には、還元反応補償手段としての導電性を有するカーボン膜30が形成されている。カーボン膜30はフェノール樹脂やポリイミド樹脂、又はアクリル等の合成樹脂材をバイダとして有している。また、これらのバインダの他にカーボン膜30はグラファイト、カーボンブラック、及び活性炭の混合物により形成されており、特に、この混合物には活性炭が50重量パーセント以上含まれている。
【0037】
基板本体26の厚さ方向に沿ったカーボン膜30の厚さ寸法は50μm以上とされており、以上の構成のカーボン膜30は静電容量が10mF/cm以上又は電荷蓄積容量が1.5Vの電圧で15mQ/cm以上に設定され、特に本実施の形態では、静電容量が20mF/cm又は電荷蓄積容量が1.5Vの電圧で30mQ/cmに設定されている。
【0038】
以上の構成の表面側基板12と裏面側基板24との間には所定の隙間が形成されていると共に、表面側基板12の外周部と裏面側基板24の外周部との間は封止材32により封止されている。表面側基板12、裏面側基板24、及び封止材32により囲まれた空間内には電解液34が封入されている。電解液34は、炭酸プロピレン、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、γブチロラクトン、ジメチルフォルムアミド等、又はこれらの混合物により形成された溶媒を有しており、特に、本実施の形態では炭酸プロピレンが溶媒として用いられている。
【0039】
このような溶媒の他に、電解液34は、過塩素酸リチウム(LiClO)、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF)、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiN(SOCF)、リチウムビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド(LiN(SO)、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiCFSO)等やこれらの混合物を電解質として有しており、特に、本実施の形態では過塩素酸リチウムが電解質として用いられている。
【0040】
さらに、以上の構成のエレクトロクロミックミラー10の導電性膜28は、回路40を構成するスイッチ42に接続されている。スイッチ42は、ON状態で接続される端子に車両に搭載されるバッテリー等で構成され定格電圧が1.3V程度の直流電源44の正極が接続されている。この直流電源44の負極は導電性反射膜18に接続されている。また、スイッチ42がOFF状態で接続される端子は、上記の直流電源44を介さずに導電性反射膜18に接続されており、OFF状態では導電性膜28と導電性反射膜18とが短絡される。
【0041】
<第1の実施の形態の作用、効果>
以上の構成のエレクトロクロミックミラー10では、スイッチ42のOFF状態では、エレクトロクロミック膜16が略透明となっており、このため、基板本体14のエレクトロクロミック膜16とは反対側から入射した光は、基板本体14、エレクトロクロミック膜16を透過して第1導電性反射膜20にて反射される。また、仮に、第1導電性反射膜20にて反射されずに第1導電性反射膜20を透過した光は第2導電性反射膜22にて反射される。
【0042】
さらに、第1導電性反射膜20又は第2導電性反射膜22にて反射された光はエレクトロクロミック膜16、基板本体14を透過する。以上の構成の本実施の形態では、結果的に光の反射率が55パーセント程度となる。
【0043】
一方、スイッチ42をON状態に切り替えると、回路40を導電性反射膜18の側に移動した電子(e)がエレクトロクロミック膜16に侵入すると共に、電解液34の電解質を構成するリチウムイオン(Li)が導電性反射膜18を透過してエレクトロクロミック膜16に侵入する。これにより、エレクトロクロミック膜16では以下の式1の還元反応が生じ、所謂タングステンブロンズと称される青色のLiWOがエレクトロクロミック膜16で形成される。
【0044】
Li+e+WO→LiWO・・・(式1)
このようにしてエレクトロクロミック膜16が青色に着色されることでエレクトロクロミック膜16が着色される前では55パーセント程度であった反射率が7パーセント程度まで低下する。
【0045】
さらに、以上の還元反応が生じる際には、カーボン膜30を構成する炭素から直流電源44の側へ電子(e)が移動し、これにより、電解質を構成する過塩素酸リチウムの負イオン(ClO)がカーボン膜30の側へ移動する。これにより、上記の還元反応に対する以下の式2のような補償反応が生じる。
【0046】
ClO+C−e→C・ClO・・・(式2)
ここで、図3には、LiWOにおけるXと、光の反射率との関係がグラフにより示されている。なお、このグラフにおいては、X=0、すなわち、三酸化タングステンが透明の場合を1として規格化されている。このグラフに示されるように、反射率はX=0.15以上で概ね飽和し、したがって、X=0.15〜0.2程度でエレクトロクロミック膜16に充分な着色が成される。
【0047】
一方、図4にはエレクトロクロミック膜16の膜厚と反射率との関係がグラフにより示されている。なお、このグラフにおいては、エレクトロクロミック膜16がないときの反射率を1として規格化されている。このグラフに示されるように、反射率はエレクトロクロミック膜16の膜厚が300nmまでで急激に低下し、500nmで飽和するため、エレクトロクロミック膜16の膜厚は300nm以上500nm以下の範囲に設定されることが好ましい。
【0048】
ここで、LiWOのXの値をX=0.15、エレクトロクロミック膜16の膜厚をd=500nm、エレクトロクロミック膜16を構成する三酸化タングステンのバルク密度をρ=7.18g/cm、エレクトロクロミック膜16を構成する三酸化タングステンの空孔度をP=0.8、ファラデー定数をF=96485.3415Q/mol、三酸化タングステンの分子量をM=231.9molとして以下の式3に代入すると電荷蓄積容量Q=17.92mQ/cmとなり、更に、印加電圧をV=1.3として、式3の結果(すなわち、Q=17.92mQ/cm)を以下の式4に代入すると、静電容量C=13.79mF/cmとなる。
【0049】
Q=(X・d・ρ・P・F)/M・・・(式3)
C=Q/V・・・(式4)
すなわち、エレクトロクロミック膜16において充分に着色されるための還元反応には、上記の式3で求められる電荷蓄積容量、及び、式4で求められる静電容量が必要になる。ここで、本実施の形態では、カーボン膜30は活性炭を含めて構成されている。活性炭は多孔質であるが故に表面積が大きい。このため、多くの負イオン及び正電荷の蓄積能力を有しており、これにより、カーボン膜30の静電容量を20mF/cm又は電荷蓄積容量を1.5Vの電圧で30mQ/cmに設定できる。
【0050】
このように、本実施の形態では、静電容量及び電荷蓄積容量共に上記の式3及び式4での計算結果よりも充分に大きい。このため、エレクトロクロミック膜16において充分な還元反応を生じさせることができ、この結果、上記のように、スイッチ42をON状態として電圧を印加することでエレクトロクロミック膜16を充分に着色できる。
【0051】
また、カーボン膜30には、活性炭のみならず、グラファイトとカーボンインクが含まれており、これにより、カーボン膜30は充分な導電性が付与され、カーボン膜30における反応を早くできる。
【0052】
さらに、本実施の形態では、エレクトロクロミック膜16を着色するに際して印加する電圧を1.3Vと低くできる。このため、スイッチ42をOFF状態にして導電性反射膜18と導電性膜28とを短絡させると上記の式1及び式2とは逆向きの反応が生じ、エレクトロクロミック膜16が素早く消色される。
【0053】
一方、本エレクトロクロミックミラー10では、上記のように第1導電性反射膜20に透孔48が形成され、第2導電性反射膜22に透孔50が形成される。このため、スイッチ42をON状態として電圧を印加した際には、電解液34の電解質を構成するリチウムイオン(Li)が透孔48、50を通過することで透孔48、50が形成されていない部位で導電性反射膜18を透過するよりも素早くエレクトロクロミック膜16に侵入する。これにより、エレクトロクロミック膜16において素早く還元反応が生じ、全体的にエレクトロクロミック膜16が素早く着色される。
【0054】
また、本実施の形態では、透孔48、50は内径(内周部の直径)寸法Dを5μm(すなわち、20μm以下)としていることで、基本的には透孔48、50を直接目視することができない。このため、透孔48、50を形成してもエレクトロクロミックミラー60での反射光を目視した際に違和感が生じない。
【0055】
一方、図5には、透孔48、50の内径(内周部の直径)寸法Dと隣り合う透孔48、50の中心間距離Lとの比と、透孔48、50を形成することによるエレクトロクロミックミラー10での反射率の減少比率との関係が示されている。ここで、本実施の形態では、透孔48、50の内径寸法Dを5μm、隣り合う透孔48、50の中心間距離Lを10μmとしたことで、その比率は0.5となる。このため、図5に示されるように、透孔48、50を形成していない場合の80パーセントの反射率を確保できる。このように、透孔48、50の内径寸法Dと隣り合う透孔48、50の中心間距離Lとの比を0.5に設定したことで透孔48、50を形成したにも関わらず、導電性反射膜18にて光を充分に反射できる。
【0056】
また、本実施の形態では、隣り合う透孔48、50の中心間距離Lは10μmに設定されるが、その形成位置は不規則(ランダム)である。このため、導電性反射膜18での反射光に規則的な干渉等が生じない。これにより、更に反射像を鮮明にできる。
【0057】
さらに、本エレクトロクロミックミラー10では、導電性反射膜18のエレクトロクロミック膜16とは反対側では電解液34が封入されている。ここで、本エレクトロクロミックミラー10では、主に光を反射する第1導電性反射膜20の電解液34の側は第1導電性反射膜20よりも腐食し難い金属により形成された第2導電性反射膜22で覆われる。このため、電解液34に対して第1導電性反射膜20は第2導電性反射膜22に保護され、第1導電性反射膜20が腐食され難くなる。これにより、長期に亘って第1導電性反射膜20によって良好に光を反射できる。
【0058】
しかも、第2導電性反射膜22の外周縁部は、第1導電性反射膜20の外周縁部よりも外側に位置している。これにより、第1導電性反射膜20は、その全体がエレクトロクロミック膜16とは反対側から第2導電性反射膜22により覆われることになり、エレクトロクロミック膜16とは反対側の面のみならず、第1導電性反射膜20の外周端も電解液34に対して第2導電性反射膜22により保護され、第1導電性反射膜20の腐食を効果的に抑制又は防止できる。
【0059】
さらに、第2導電性反射膜22は、それ自体が基板本体14の側からの光を反射するため、第1導電性反射膜20の外周縁部よりも外側で基板本体14を透過した光は第1導電性反射膜20で反射されることはないが、代わりに第2導電性反射膜22により反射される。このため、光の反射領域を広くできる(還元すれば、第2導電性反射膜22で第1導電性反射膜20全体を覆う構成とするために、第1導電性反射膜20を小さくしても、光の反射領域が狭くなることがない)。
【0060】
以上のようなエレクトロクロミックミラー10を、例えば、車両における後方確認用のインナミラー(ルームミラー)やアウタミラー(ドアミラーやフェンダーミラー)等のミラー本体に用いると、昼間時にはスイッチ42をOFF状態で維持して高い反射率で後方を確認でき、夜間時等に後方の車両がヘッドライトを点灯させている場合には、スイッチ42をON状態に切り換えてエレクトロクロミック膜16を着色し、反射率を低下させることで、ヘッドライトの反射光を低減でき、眩しさが低下する。
【0061】
<第2の実施の形態の構成>
次に、本発明のその他の実施の形態について説明する。なお、以下の各実施の形態を説明するにあたり、前記第1の実施の形態を含めて説明している実施の形態よりも前出の実施の形態と基本的に同一の部位に関しては、同一の符号を付与してその詳細な説明を省略する。
【0062】
図6には本発明の第3の実施の形態に係るエレクトロクロミックミラー60の構成が概略的な断面図により示されている。
【0063】
この図に示されるように、エレクトロクロミックミラー60はエレクトロクロミック膜16を備えておらず、代わりにエレクトロクロミック膜66を備えている。このエレクトロクロミック膜66はエレクトロクロミック膜16と同様の材質で同様の厚さに形成されているが、図8に示されるように、その厚さ方向に貫通した微細な多数の透孔68が形成されている。これらの透孔68は透孔48、50に連通しており、その内径(内周部の直径)寸法Dが20μm以下で、特に、本実施の形態では5μmとされている。また、これらの透孔68は基本的にエレクトロクロミック膜66に不規則(ランダム)に形成されている。但し、これらの透孔68は隣り合う透孔68の中心間距離Lが10μmとされている。
【0064】
これらの透孔68は、フォトレジストが塗布されたエレクトロクロミック膜66に透孔68のパターンが印刷されたフォトマスクを施して露光し、その後に透孔68に対応したフォトレジストを除去し、エッチング液でエレクトロクロミック膜66を溶かすことで形成されている。
【0065】
<第2の実施の形態の作用、効果>
以上の構成のエレクトロクロミックミラー60では、導電性反射膜18に透孔48、50が形成され、エレクトロクロミック膜66に透孔68が形成される。このため、スイッチ42をON状態として電圧を印加した際には、先ず、電解液34の電解質を構成するリチウムイオン(Li)が透孔48、50を通過することで透孔48、50が形成されていない部位で導電性反射膜18を透過するよりも素早くエレクトロクロミック膜66に到達する。
【0066】
さらに、エレクトロクロミック膜66に到達したリチウムイオンは透孔68に入り込み、透孔68の内周部からエレクトロクロミック膜66に侵入する。これにより、エレクトロクロミック膜66において更に素早く還元反応が生じ、全体的にエレクトロクロミック膜66が更に素早く着色される。
【0067】
また、本実施の形態では、透孔68は内径(内周部の直径)寸法Dを5μm(すなわち、20μm以下)としていることで、基本的には透孔68を直接目視することができない。このため、透孔68を形成しても導電性反射膜18での反射光を目視した際に違和感が生じない。
【0068】
さらに、導電性反射膜18に透孔48、50を形成した場合と同様に、本実施の形態では、透孔68の内径寸法Dを5μm、隣り合う透孔68の中心間距離Lを10μmとしたことで、その比率は0.5となる。このため、透孔68を形成していない場合の80パーセントの反射率を確保できる。このように、透孔68の内径寸法Dと隣り合う透孔68の中心間距離Lとの比を0.5に設定したことで透孔68を形成したにも関わらず、エレクトロクロミック膜66にて光を充分に反射できる。
【0069】
また、本実施の形態では、隣り合う透孔68の中心間距離Lは10μmに設定されるが、その形成位置は透孔48、50と同様に不規則(ランダム)である。このため、エレクトロクロミック膜66での反射光に規則的な干渉等が生じない。これにより、更に反射像を鮮明にできる。
【0070】
なお、本実施の形態に係るエレクトロクロミックミラー60は、エレクトロクロミック膜66に代わり透孔68が形成されたエレクトロクロミック膜66を設けた点以外は基本的に前記第1の実施の形態に係るエレクトロクロミックミラー10と構成が同じである。したがって、エレクトロクロミックミラー60は基本的にエレクトロクロミックミラー10と同様の作用を奏し、エレクトロクロミックミラー10と同様の効果を得ることもできる。
【0071】
<第3の実施の形態の構成>
次に、本発明の第3の実施の形態ついて説明する。
【0072】
図8には本実施の形態に係るエレクトロクロミックミラー210の構成が概略的な断面図により示されている。
【0073】
この図に示されるように、エレクトロクロミックミラー210はカーボン膜30を備えておらず、代わりに還元反応補償手段としての負イオン反応膜212が形成されている。負イオン反応膜212はポリピロール、ポリアニリン、ポリアセチレン、ポリチオフェン、ポリパラピレン、ポリフラン等の導電性ポリマ、又は、ポリビニルフェロセン等のレドックスポリマにより形成されている。例えば、ポリピロールを負イオン反応膜212として用いる場合には、ピロールを溶媒に溶かして基板本体26に塗布することで形成される。また、ポリビニルフェロセンを負イオン反応膜212として用いる場合には、ビニルフェロセンを溶媒に溶かして基板本体26に塗布することで形成される。この負イオン反応膜212の質量は0.012mg/cm以上となるように設定されている。
【0074】
<第3の実施の形態の作用、効果>
本エレクトロクロミックミラー210では、スイッチ42をON状態に切り替えることで、上記式1の還元反応がエレクトロクロミック膜16で生じる際には、負イオン反応膜212を構成する導電性ポリマ又はレドックスポリマが酸化されて正の電荷を帯びる。これにより、電解質を構成する過塩素酸リチウムの負イオン(ClO)が負イオン反応膜212に侵入して電荷バランスをとる。このように、上記の還元反応に対して、負イオン反応膜212がポリピロールにより形成されていれば以下の式5aのような補償反応が生じ、負イオン反応膜212がポリビニルフェロセンにより形成されていれば以下の式5bのような補償反応が生じ、
ClO+PPy−e→PPy・ClO・・・(式5a)
ClO+PVF−e→PVF・ClO・・・(式5b)
なお、式5aにおいてPPyはポリピロールを指し、式5aにおいてPVFはポリビニルフェロセンを指す。
【0075】
ここで、LiWOのXの値をX=0.15、エレクトロクロミック膜16の膜厚をd=500nm、エレクトロクロミック膜16を構成する三酸化タングステンのバルク密度をρ=7.18g/cm、エレクトロクロミック膜16を構成する三酸化タングステンの空孔度をP=0.8、三酸化タングステンの分子量をM=231.9molとして以下の式6に代入すると、三酸化タングステンの反応量(モル数)n=1.86mM/cmとなる。
【0076】
n=(X・d・ρ・P)/M・・・(式6)
さらに、負イオン反応膜212を構成する導電性ポリマ又はレドックスポリマも上記のnと同じモル数だけ反応しなくてはならない。したがって、負イオン反応膜212に用いられる導電性ポリマ又はレドックスポリマのモノマー当たりの分子量をM=65.07g/molとして以下の式7に代入すると、m=0.012mg/cmの質量の導電性ポリマ又はレドックスポリマが必要になる。
【0077】
m=n・M・・・(式7)
ここで、本実施の形態では、負イオン反応膜212はm=0.012mg/cm以上に設定されている。このため、エレクトロクロミック膜16において充分な還元反応を生じさせることができ、この結果、上記のように、スイッチ42をON状態として電圧を印加することでエレクトロクロミック膜16を充分に着色できる。
【0078】
さらに、本実施の形態では、エレクトロクロミック膜16を着色するに際して印加する電圧を1.3Vと低くできる。このため、スイッチ42をOFF状態にして導電性反射膜18と導電性膜28とを短絡させると上記の式1、式5a又は式5bとは逆向きの反応が生じ、エレクトロクロミック膜16が素早く消色される。
【0079】
以上のようなエレクトロクロミックミラー10を、例えば、車両における後方確認用のインナミラー(ルームミラー)やアウタミラー(ドアミラーやフェンダーミラー)等のミラー本体に用いると、昼間時にはスイッチ42をOFF状態で維持して高い反射率で後方を確認でき、夜間時等に後方の車両がヘッドライトを点灯させている場合には、スイッチ42をON状態に切り換えてエレクトロクロミック膜16を着色し、反射率を低下させることで、ヘッドライトの反射光を低減でき、眩しさが低下する。
【0080】
<第4の実施の形態の構成>
図9には本発明の第4の実施の形態に係るエレクトロクロミックミラー220の構成が概略的な断面図により示されている。
【0081】
この図に示されるように、エレクトロクロミックミラー220では導電性膜28が銀(Ag)により形成されている。この導電性膜28の表面側基板12の側の面にはカーボン膜30が形成されておらず、代わりに析出膜として還元反応補償手段を構成する難溶性塩膜224が形成されている。難溶性塩膜224は塩化銀、塩化臭素、塩化チオシアン酸等により形成されており、特に、本実施の形態では難溶性塩膜224が塩化銀により形成されている。
【0082】
<第4の実施の形態の作用、効果>
本エレクトロクロミックミラー220では、スイッチ42をON状態に切り替えることで、上記式1の還元反応がエレクトロクロミック膜16で生じる際には、以下の式8に示されるように、導電性膜28を形成する銀(Ag)に電解質を構成する過塩素酸リチウムの負イオン(Cl)が反応し、これにより、塩化銀(AgCl)が生成され、塩化銀により形成された難溶性塩膜224上に析出される。これにより、上記の還元反応に応じた補償がなされる。
【0083】
Cl+Ag−e→AgCl・・・(式8)
このように、本実施の形態では、エレクトロクロミック膜16における還元反応に対して保障反応が確実に生じるので、エレクトロクロミック膜16を着色するに際して印加する電圧を1.3Vと低くできる。このため、スイッチ42をOFF状態にして導電性反射膜18と導電性膜28とを短絡させると上記の式1及び式8とは逆向きの反応が生じ、エレクトロクロミック膜16が素早く消色される。
【0084】
以上のようなエレクトロクロミックミラー220を、例えば、車両における後方確認用のインナミラー(ルームミラー)やアウタミラー(ドアミラーやフェンダーミラー)等のミラー本体に用いると、昼間時にスイッチ42をOFF状態で維持して高い反射率で後方を確認でき、夜間時等に後方の車両がヘッドライトを点灯させている場合には、スイッチ42をON状態に切り換えてエレクトロクロミック膜16を着色し、反射率を低下させることで、ヘッドライトの反射光を低減でき、眩しさが低下する。
【0085】
<第5の実施の形態の構成>
図10には本発明の第5の実施の形態に係るエレクトロクロミックミラー240の構成が概略的な断面図により示されている。
【0086】
この図に示されるように、エレクトロクロミックミラー240では導電性膜28の表面側基板12の側の面にはカーボン膜30が形成されていない。また、電解液34に代わり電解液244が表面側基板12と裏面側基板24との間に封入されている。
【0087】
電解液244には、電解液34を構成する材質の他に、還元反応補償手段を構成する酸化剤としての中性物質であるフェロセン(Fe(C)が含まれている。
【0088】
<第5の実施の形態の作用、効果>
本エレクトロクロミックミラー240では、スイッチ42をON状態に切り替えることで、上記式1の還元反応がエレクトロクロミック膜16で生じる際には、以下の式9に示されるように、電解液244に含まれるフェロセンが正の電荷を帯びる。これにより、上記の還元反応に応じた補償がなされる。
【0089】
Fe(C→〔Fe(C・・・(式9)
このように、本実施の形態では、エレクトロクロミック膜16における還元反応に対して保障反応が確実に生じるので、エレクトロクロミック膜16を着色するに際して印加する電圧を1.3Vと低くできる。このため、スイッチ42をOFF状態にして導電性反射膜18と導電性膜28とを短絡させると上記の式1及び式9とは逆向きの反応が生じ、エレクトロクロミック膜16が素早く消色される。
【0090】
以上のようなエレクトロクロミックミラー240を、例えば、車両における後方確認用のインナミラー(ルームミラー)やアウタミラー(ドアミラーやフェンダーミラー)等のミラー本体に用いると、昼間時にスイッチ42をOFF状態で維持して高い反射率で後方を確認でき、夜間時等に後方の車両がヘッドライトを点灯させている場合には、スイッチ42をON状態に切り換えてエレクトロクロミック膜16を着色し、反射率を低下させることで、ヘッドライトの反射光を低減でき、眩しさが低下する。
【0091】
なお、上記の第3の実施の形態から第5の実施の形態は、第1の実施の形態の変形例であったが、第3の実施の形態から第5の実施の形態を第2の実施の形態の変形例とする構成としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係るエレクトロクロミックミラーの構成の概略を示す断面図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係るエレクトロクロミックミラーの要部を拡大した概略的な断面図である。
【図3】LiWOにおけるXと、光の反射率との関係がグラフにより示されている。
【図4】エレクトロクロミック膜16の膜厚と反射率との関係がグラフにより示されている。
【図5】透孔の内径寸法Dと隣り合う透孔の中心間距離Lとの比と、透孔を形成することによるエレクトロクロミックミラーでの反射率の減少比率との関係を示すグラフである。
【図6】本発明の第2の実施の形態に係るエレクトロクロミックミラーの構成の概略を示す断面図である。
【図7】本発明の第2の実施の形態に係るエレクトロクロミックミラーの要部を拡大した概略的な断面図である。
【図8】本発明の第3の実施の形態に係るエレクトロクロミックミラーの構成の概略を示す断面図である。
【図9】本発明の第4の実施の形態に係るエレクトロクロミックミラーの構成の概略を示す断面図である。
【図10】本発明の第5の実施の形態に係るエレクトロクロミックミラーの構成の概略を示す断面図である。
【符号の説明】
【0093】
10 エレクトロクロミックミラー
16 エレクトロクロミック膜
18 導電性反射膜
20 第1導電性反射膜
22 第2導電性反射膜(導電性保護膜)
28 導電性膜
30 カーボン膜(還元反応補償手段)
34 電解液
48 透孔
50 透孔
60 エレクトロクロミックミラー
66 エレクトロクロミック膜
68 透孔
210 エレクトロクロミックミラー
212 負イオン反応膜(還元反応補償手段)
220 エレクトロクロミックミラー
224 難溶性塩膜(析出膜、還元反応補償手段)
240 エレクトロクロミックミラー
244 電解液(還元反応補償手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
還元反応することで着色されるエレクトロクロミック膜と、
厚さ方向に貫通する微細な透孔を多数有し、前記エレクトロクロミック膜の厚さ方向一方の側に形成されて、前記エレクトロクロミック膜を透過した光を反射すると共に導電性を有する第1導電性反射膜と、
厚さ方向に貫通する微細な透孔を多数有し、前記第1導電性反射膜を構成する材料よりも腐食し難い材料により前記第1導電性反射膜の前記エレクトロクロミック膜とは反対側に形成された導電性を有する導電性保護膜と、
前記エレクトロクロミック膜の厚さ方向一方の側で前記導電性保護膜の前記第1導電性反射膜とは反対側に設けられた導電性を有する導電性膜と、
リチウムイオンを含めて構成されて前記導電性保護と前記導電性膜との間に封入され、前記導電性膜を正とし前記第1導電性反射膜及び前記導電性保護膜を負として電圧を印加することで前記リチウムイオンが前記エレクトロクロミック膜の側へ移動して、前記エレクトロクロミック膜の還元反応に供される電解液と、
前記電圧の印加状態で電荷を蓄え又は前記電解液中の負イオンと酸化反応することにより前記還元反応を補償する還元反応補償手段と、
を備えるエレクトロクロミックミラー。
【請求項2】
導電性を有すると共に前記第1導電性反射膜の側からの光を反射する第2導電性反射膜を前記導電性保護膜とした、
ことを特徴とする請求項1に記載のエレクトロクロミックミラー。
【請求項3】
活性炭を含めて形成されて、前記導電性膜の前記導電性保護膜の側に設けられたカーボン膜を含めて前記還元補償手段を構成した、
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のエレクトロクロミックミラー。
【請求項4】
導電性ポリマ又はレドックスポリマにより形成されて、前記導電性膜の前記導電性保護膜の側設けられて、前記電圧が印加されることで前記導電性膜の側へ移動した負イオンにより酸化される負イオン反応膜を含めて前記還元補償手段を構成した、
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のエレクトロクロミックミラー。
【請求項5】
銀又は銀を含む合金により前記導電性膜を形成すると共に、前記導電性膜を正とし前記第1導電性反射膜及び前記導電性保護膜を負として電圧を印加した際に前記導電性膜を形成する銀のイオンと反応する難溶性塩の負イオンを含めて前記電解液を形成し、更に、難溶性塩により形成されて、前記導電性膜の前記導電性保護膜の側に設けられ、前記電圧が印加されることで前記導電性膜の側へ移動した前記難溶性塩の負イオンと前記導電性膜を構成する銀のイオンとの反応により形成される析出物を析出させる析出膜を設け、前記導電性膜を形成する銀、前記電解液を構成する負イオン、及び前記析出膜を含めて前記還元反応補償手段を構成した、
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のエレクトロクロミックミラー。
【請求項6】
中性分子又は負イオンにより酸化可能で前記導電性膜を正とし前記第1導電性反射膜及び前記導電性保護膜を負として電圧を印加することで酸化反応する反応材料を含めて前記電解液を構成し、前記反応材料を含めて前記還元反応補償手段を構成した、
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のエレクトロクロミックミラー。
【請求項7】
前記エレクトロクロミック膜の厚さ方向に沿った前記第1導電性反射膜及び前記導電性保護膜の側で開口した微細な孔部を前記エレクトロクロミック膜に多数形成した、
ことを特徴とする請求項1から請求項6の何れか1項に記載のエレクトロクロミックミラー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−8748(P2009−8748A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−167910(P2007−167910)
【出願日】平成19年6月26日(2007.6.26)
【出願人】(000003551)株式会社東海理化電機製作所 (3,198)
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【Fターム(参考)】