説明

エレクトロクロミック化合物、エレクトロクロミック組成物及び表示素子

【課題】発色時にシアン発色を呈するエレクトロクロミック化合物、エレクトロクロミック組成物、および該エレクトロクロミック化合物またはエレクトロクロミック組成物を用いた表示素子を提供する。
【解決手段】下記の構造式(1)で表されるエレクトロクロミック化合物とする。


(式中、Z1からZ16は水素原子または一価の置換基を示し、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。R1は一価の置換基を表し、R2は二価の置換基を表す。Xは水酸基に対して直接的あるいは間接的に結合可能な官能基を表し、Y1およびY2はビピリジジニウム塩と対を成す陰イオンを表しそれぞれ同一でも異なっていてもよい。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発色時にシアン発色を呈するエレクトロクロミック化合物、エレクトロクロミック組成物、および該エレクトロクロミック化合物またはエレクトロクロミック組成物を用いた表示素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
紙に代わる電子媒体として電子ペーパーの開発が盛んにおこなわれている。従来のディスプレイであるCRTや液晶ディスプレイに対して電子ペーパーに必要な特性としては、反射型表示素子であり、かつ高い白反射率・高いコントラスト比を有すること、高精細な表示ができること、表示にメモリ効果があること、低電圧で駆動できること、薄くて軽いこと、安価であることなどが挙げられる。特に表示特性としては、紙と同等な白反射率・コントラスト比が要求されており、これらの特性を兼ね備えた表示デバイスを開発することは容易ではない。また、従来のディスプレイ、紙媒体は当然のごとくフルカラー表示となっており、電子ペーパーに対するカラー化の要望は非常に大きい。
【0003】
これまで提案されているカラー表示ができる電子ペーパーの技術としては、例えば反射型液晶素子にカラーフィルターを形成した媒体がすでに製品化されているが、偏光板を用いるため光利用効率が低く、暗い白色表示しかできていない。さらに黒色を表示することができないため、コントラスト比も悪い。
【0004】
また、明るい反射型表示素子として帯電した白色粒子と黒色粒子を電場で動かすことを原理とする電気泳動方式があるが、この方式では、白色粒子と黒色粒子を完全に反転させることは現実的に難しく、高い白反射率、高いコントラスト比を同時に満たすことは難しい。
【0005】
これに対して、特許文献1,2では、電気泳動素子にカラーフィルターを形成した反射型カラー表示媒体が開示されているが、低い白反射率、低いコントラスト比の表示媒体にカラーフィルターを形成しても良好な画質が得られないことは明白である。さらに、特許文献3,4では、複数の色にそれぞれ着色された粒子を動かすことによってカラー化をおこなう電気泳動素子が開示されているが、これらの方法を用いても原理的には上記の課題の解決にはならず、高い白反射率と高いコントラスト比を同時に満たすことは出来ない。
【0006】
ところで、電圧を印加すると可逆的に電界酸化または電界還元反応が起こり可逆的に色変化する現象をエレクトロクロミズムという。このような現象を起こすエレクトロクロミック化合物の発色/消色を利用した表示素子は、反射型の表示素子であり高い白反射率が可能であること、メモリ効果があること、低電圧で駆動できることから、電子ペーパーの候補として挙げられる。
【0007】
特許文献5〜7では、酸化チタンなどの半導体性微粒子の表面にエレクトロクロミック化合物を担持させた素子が報告されている。この素子は、駆動に必要な電荷量を低減でき、また発色/消色反応を高速化できるため有用な構成であるが、これらの公報に例示している有機エレクトロクロミック化合物は青色、緑色といった色を発色するものであり、フルカラー化に必要なイエロー、マゼンタ、シアンの3原色を発色するものではない。前記3原色を発色するには、発色時のシャープな吸収が必要であり、特にシアン発色は長波長領域にシャープな吸収を持たなければならず、シアン発色可能でかつ安定に発消色可能なエレクトロクロミック化合物はこれまで得られていなかった。
【0008】
また、特許文献8では、スチリル系色素を用いることによりYMC系の発色を可能としているが、発消色の安定性や繰り返し耐久性に問題があった。
【0009】
【特許文献1】特開2003−161964号公報
【特許文献2】特開2004−361514号公報
【特許文献3】特表2004−520621号公報
【特許文献4】特表2004−536344号公報
【特許文献5】特表2001−510590号公報
【特許文献6】特開2002−328401号公報
【特許文献7】特開2004−151265号公報
【特許文献8】特開2008−122578号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、以上の従来技術における問題に鑑みてなされたものであり、発色時にシアン発色を呈するエレクトロクロミック化合物、エレクトロクロミック組成物、および該エレクトロクロミック化合物またはエレクトロクロミック組成物を用いた表示素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するために提供する本発明は、以下の通りである。
〔1〕 下記の構造式(1)で表されるものであることを特徴とするエレクトロクロミック化合物。
【0012】
【化1】


(式中、Z1からZ16は水素原子または一価の置換基を示し、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。R1は一価の置換基を表し、R2は二価の置換基を表す。Xは水酸基に対して直接的あるいは間接的に結合可能な官能基を表し、Y1およびY2はビピリジジニウム塩と対を成す陰イオンを表しそれぞれ同一でも異なっていてもよい。)
〔2〕 導電性または半導体性ナノ構造体に前記〔1〕に記載のエレクトロクロミック化合物が結合されてなることを特徴とするエレクトロクロミック組成物。
〔3〕 前記エレクトロクロミック化合物の官能基Xが、ホスホン酸基、リン酸基、カルボン酸基のいずれかであることを特徴とする前記〔2〕に記載のエレクトロクロミック組成物。
〔4〕 前記導電性または半導体性ナノ構造体は金属酸化物からなり、該導電性または半導体性ナノ構造体と前記エレクトロクロミック化合物が、シラノール結合より結合されていることを特徴とする前記〔2〕に記載のエレクトロクロミック組成物。
〔5〕 前記導電性または半導体性ナノ構造体が酸化チタンナノ粒子からなることを特徴とする前記〔2〕〜〔4〕のいずれかに記載のエレクトロクロミック組成物。
〔6〕 表示電極(表示電極1)と、該表示電極に対して間隔をおいて対向して設けた対向電極(対向電極2)と、両電極間に配置された電解質(電解質3)とを備え、該表示電極の対向電極側の表面に、少なくとも前記〔1〕に記載のエレクトロクロミック化合物を含む表示層(表示層3)を有することを特徴とする表示素子(表示素子10、図1)。
〔7〕 表示電極(表示電極1)と、該表示電極に対して間隔をおいて対向して設けた対向電極(対向電極2)と、両電極間に配置された電解質(電解質3)とを備え、該表示電極の対向電極側の表面に、少なくとも前記〔2〕〜〔5〕のいずれかに記載のエレクトロクロミック組成物を含む表示層(表示層5)を有することを特徴とする表示素子(表示素子20、図2)。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、発色時にシアン発色を呈するエレクトロクロミック化合物あるいはエレクトロクロミック組成物を得ることができる。また、本発明のエレクトロクロミック化合物またはエレクトロクロミック組成物を用いるので、フルカラー表示が可能な表示素子を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討をおこなった結果、下記構造式(1)で表されるものからなるエレクトロクロミック化合物であれば、上記課題を解決しうることを見出した。すなわち、構造式(1)で表されるエレクトロクロミック化合物は発色時にシアン発色を呈するものである。
【0015】
【化2】

【0016】
式中、Z1からZ16は水素原子または一価の置換基を示し、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。R1は一価の置換基を表し、R2は二価の置換基を表す。Xは水酸基に対して直接的あるいは間接的に結合可能な官能基を表し、Y1およびY2はビピリジジニウム塩と対を成す陰イオンを表しそれぞれ同一でも異なっていてもよい。
【0017】
また、Z1,Z2,Z7,Z8,Z9,Z10は水素原子又はアルキル基、Z3〜Z6,Z11〜Z14は水素原子、ハロゲン、アルキル基のいずれかでもよい。Z1からZ16は特にこれに限るものではないが、いずれも水素原子であることが望ましい。
【0018】
R1およびR2は特に限定されるものではないが脂肪族もしくは芳香族等置換基が好ましく、特にR1はアルキル基が、R2はアルキレン基が合成上好ましい。
【0019】
Xは水酸基に対して水素結合、吸着あるいは化学反応により直接的あるいは間接的に結合可能な官能基であればよく、その構造は限定されるものではないが、好ましい例としてはホスホン酸基、リン酸基、カルボキシル基、トリクロロシリル基、トリアルコキシシリル基、モノクロロシリル基、モノアルコキシシリル基等が挙げられる。トリアルコキシシリル基としては、トリエトキシシリル基、トリメトキシシリル基等が好ましい。
【0020】
なお、本発明のエレクトロクロミック化合物は、対称的な構造となるようなR1、R2、Xであることが、その合成の容易さ、および安定性向上の面から望ましい。
【0021】
Y1およびY2は、陰イオンを表し、ビピリジニウム塩と安定に対を成すものであれば特に限定されるものではないが、臭化物イオン、塩化物イオン等のハロゲンイオンが好ましい。
【0022】
以下に、本発明のエレクトロクロミック化合物の具体的な構造式(2)〜(13)の例を示すが、本発明のエレクトロクロミック化合物はこれらに限定されるものではない。
【0023】
【化3】

【0024】
【化4】

【0025】
また、本発明に係るエレクトロクロミック組成物は、導電性または半導体性ナノ構造体に本発明のエレクトロクロミック化合物(前記構造式(1)で表されるエレクトロクロミック化合物)が結合されてなることを特徴とするものである。本発明のエレクトロクロミック組成物は、エレクトロクロミック表示素子に用いたとき、シアン発色を呈しさらに画像のメモリ性すなわち発色画像保持特性に優れたものとなる。なお、導電性または半導体性ナノ構造体とは、ナノ粒子もしくはナノポーラス構造体等、ナノスケールの凹凸を有する構造体である。
【0026】
本発明のエレクトロクロミック化合物が吸着構造としてホスホン酸基またはリン酸基またはカルボキシル基を有するとき、該エレクトロクロミック化合物は容易に前記ナノ構造体と複合化し、発色画像保持性に優れたエレクトロクロミック組成物となる。上記ホスホン酸基、リン酸基、カルボキシル基は化合物中に複数有していてもよい。
【0027】
あるいは、本発明のエレクトロクロミック化合物は、シラノール結合を介して前記ナノ構造体と結合されるとき、その結合は強固なものとなり、やはり安定なエレクトロクロミック組成物が得られる。ここで言うシラノール結合とは、珪素原子および酸素原子を介した化学結合である。また、該エレクトロクロミック組成物は、前記エレクトロクロミック化合物と前記ナノ構造体がシラノール結合を介して結合した構造をしていればよく、特にその結合方法・形態は限定しない。
【0028】
導電性または半導体性ナノ構造体を構成する材質としては、透明性や導電性の面から金属酸化物が好ましい。該金属酸化物の例としては、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化マンガン、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、チタン酸ストロンチウム、酸化モリブデン、酸化コバルト、酸化ビスマス、酸化クロム、酸化スズ、酸化アンチモン、酸化ニッケル、酸化銅、酸化鉄、酸化タングステン、酸化ケイ素等の単体または、それらの複合体(合金)を挙げることができ、中でも酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズ、が好ましく用いられ、酸化チタンが特に好ましく用いられる。
【0029】
前記金属酸化物の形状としては、特に平均一次粒子径が30nm以下の金属酸化物微粒子であれば、金属酸化物に対する光の透過率が大幅に向上する。
【0030】
つぎに、本発明に係る表示素子について説明する。
図1に、本発明のエレクトロクロミック化合物を用いた一般的な表示素子の構成例を示す。
図1(a)に示されるように、本発明の表示素子10は、表示電極1と、該表示電極1に対して間隔をおいて対向して設けた対向電極2と、両電極1,2間に配置された電解質3とを備え、該表示電極1の対向電極2側の表面に、少なくとも本発明の記載のエレクトロクロミック化合物を含む表示層4を有する。
【0031】
また、図2に、本発明のエレクトロクロミック組成物を用いた一般的な表示素子の構成例を示す。
図2に示されるように、本発明の表示素子20は、表示電極1と、該表示電極1に対して間隔をおいて対向して設けた対向電極2と、両電極1,2間に配置された電解質3とを備え、該表示電極1の対向電極2側の表面に、少なくとも本発明のエレクトロクロミック組成物を含む表示層5を有する。また、対向電極2の表示電極1側に、白色粒子からなる白色反射層6を有する。
【0032】
図1の表示素子において、表示層4は、本発明のエレクトロクロミック化合物を用いて表示電極1の対向電極2側の表面に形成される。その形成方法は、浸漬、ディッピング法、蒸着法、スピンコート法、印刷法、インクジェット法などどのような方法を用いても構わない。図1(b)に示すように、本発明のエレクトロクロミック化合物は、分子構造上、吸着基を有しており、表示電極1に該吸着基が吸着して、表示層3が形成されている。
【0033】
また、図2の表示素子において、表示層5は、本発明のエレクトロクロミック組成物を用いて表示電極1の対向電極2側の表面に形成される。その形成方法は、浸漬、ディッピング法、蒸着法、スピンコート法、印刷法、インクジェット法などどのような方法を用いても構わない。本発明のエレクトロクロミック組成物中のエレクトロクロミック化合物は、図1(b)に示すように、分子構造上、結合基を有しており、導電性または半導体性ナノ構造体に該結合基が結合して、エレクトロクロミック組成物を構成している。そして、該エレクトロクロミック組成物が表示電極1上に層状に設けられて、表示層5が形成されている。
【0034】
ここで、表示電極1としては、透明導電基板を用いることが望ましい。透明導電基板としてはガラス、あるいはプラスチックフィルムにITO、FTO、ZnOなどの透明導電薄膜をコーティングしたものが望ましい。特にプラスチックフィルムを用いれば軽量でフレキシブルな表示素子を作製することができる。
【0035】
対向電極2としては、ITO、酸化錫、酸化亜鉛などの透明導電薄膜をコーティングしたもの、亜鉛や白金などの導電性金属膜をコーティングしたものなどを用いる。対向電極2も一般的には基板上に形成する。対向電極基板もガラス、あるいはプラスチックフィルムが望ましい。
【0036】
電解質3としては、過塩素酸リチウム、ホウフッ化リチウムなどのリチウム塩をアセトニトリル、炭酸プロピレンなどの有機溶媒に溶解させた溶液系、パーフルオロスルフォン酸系高分子膜などの固体系などがある。溶液系はイオン伝導度が高いという利点があり、固体系は劣化がなく高耐久性の素子を作製することに適している。
【0037】
また、本発明の表示素子を反射型表示素子として用いる場合、図2に示すように、表示電極1と対向電極2の間に白色反射層6を設けることが望ましい。白色反射層6としては、白色顔料粒子を樹脂に分散させ対向電極2上に塗布することが最も簡便な作製方法である。白色顔料微粒子としては、一般的な金属酸化物からなる粒子が適用でき、具体的には酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化ケイ素、酸化セシウム、酸化イットリウムなどが挙げられる。
【0038】
また、表示素子10,20の駆動方法としては、任意の電圧、電流を印加することができればどのような方法を用いても構わない。パッシブ駆動方法を用いれば安価な表示素子を作製することができる。また、アクティブ駆動方法を用いれば高精細、かつ高速な表示をおこなうことができる。対向基板上にアクティブ駆動素子を設けることで容易にアクティブ駆動ができる。
【実施例】
【0039】
以下、実施例にて本発明のエレクトロクロミック化合物及びエレクトロクロミック組成物、またそれらを用いた表示素子について説明する。
(実施例1)
(1)エレクトロクロミック化合物の合成
4,4'-Dibromobiphenyl 3.0g、4-(4,4,5,5-Tetramethyl-1,3,2-dioxaborolan-2-yl)pyridine 4.0g、Tripotassium Phosphate 1.0gをジオキサン100mlに溶解させ、アルゴン雰囲気下においた。さらにTetrakis(triphenylphosphine)Palladium(0) 0.5gを加え、この溶液を30時間還流した。
反応終了後、1N塩酸で抽出した。その後、1N水酸化ナトリウムを塩基性になるまで加え、析出物を酢酸エチルで抽出、乾燥、濃縮後、カラムクロマトグラフィーにより精製し4,4'-Bis(4-pyridyl)biphenylを得た。
ついで、4,4'-Bis(4-pyridyl)biphenyl 1.5gおよびDiethyl 2-Bromoethylphosphonate 5.0gをtoluene 100mlに加え、72時間還流させた。析出した結晶を濾別し乾燥、エタノール 50ml、1Nの塩酸50mlを加えさらに24時間還流させた。得られた溶液を減圧濃縮し、アルコールで洗浄して、下記構造式(8)の化合物を得た。
【0040】
【化5】

【0041】
(2)表示電極1の作製
前記(1)で得られたエレクトロクロミック化合物をメタノール、イソプロパノール混合溶媒中に0.2M溶解させ、この溶液に酸化スズ透明電極膜(表示電極1)が全面に付いたガラス基板を24時間浸漬させることで電極表面にエレクトロクロミック化合物を吸着させて表示層3とし、表示層3を有する表示電極1を作製した。
【0042】
(3)対向電極2の作製
酸化スズ透明電極膜が全面に付いたガラス基板をヘキサクロロ白金酸0.2wt%水溶液中に入れ、1mA/cmの定電流を30秒流すことで表面の一部に白金膜を電着させることで対向電極2を作製した。
【0043】
(4)エレクトロクロミック素子の作製
前記(2)の表示電極1と前記(3)の対向電極2とを100μmのスペーサーをはさんで形成し、その空隙にテトラブチルアンモニウムクロリドのDMSO溶液(濃度0.2M)を注入して表示素子(エレクトロクロミック素子)を作製した。
【0044】
実施例1の表示素子の表示電極1に負極を、対向電極2に正極を繋ぎ、3.0Vの電圧を1秒印加したところ、表示素子はシアンを発色し、電圧印加後10秒以内で完全に消色した。
【0045】
(比較例1)
実施例1において、用いる化合物を公知のエレクトロクロミック化合物である下記構造式(A)で表される化合物に代え、それ以外は実施例1と同様にして表示素子を作製した。
【0046】
【化6】

【0047】
比較例1の表示素子の表示電極1に負極を、対向電極2に正極を繋ぎ、3.0Vの電圧を1秒印加したところ、表示素子はブルーに発色した。電圧印加後、5秒以内で完全に消色した。
【0048】
また、実施例1および比較例1の表示素子の発色状態におけるスペクトルを測定した。その結果を、図3(実施例1)および図4(比較例1)に示す。スペクトルから明らかなように、図4の比較例1の吸収は可視域において幅広く、結果としてブルーの発色になっているのに対して、図3の実施例1のスペクトルはピークが長波長側にシフトし、シアン発色を実現している。
【0049】
(実施例2)
実施例1において、表示電極1を以下のように作製し、それ以外は、実施例1と同様にして表示素子を作製した。
【0050】
・表示電極1の作製:ガラス基板上に酸化スズを形成した透明電極(表示電極1)上に平均粒径6nmの酸化チタン粒子20重量%分散液をスピンコート法により塗布し、400℃で1時間焼結させた。つぎに、下記構造式(2)で表される化合物をメタノール、イソプロパノール混合溶媒中に0.02M溶解させ、ついでこの溶液中に前記ガラス基板を24時間浸漬して、酸化チタン粒子に該構造式(2)で表される化合物を吸着させエレクトロクロミック組成物からなる表示層5を形成した。さらにアセトン洗浄・乾燥させ表示層5を有する表示電極1とした。
【0051】
【化7】

【0052】
得られた表示素子の表示電極1に負極を、対向電極2に正極を繋ぎ、3.0Vの電圧を1秒印加したところ、表示素子は実施例1とほぼ同等のシアン色を発色した。電圧印加後、約300秒間、発色状態が続いた。すなわち、実施例2では、シアン発色を可能とし、さらに画像保持性に大変優れたものとなった。
【0053】
なお、これまで本発明を図面に示した実施形態をもって説明してきたが、本発明は図面に示した実施形態に限定されるものではなく、他の実施形態、追加、変更、削除など、当業者が想到することができる範囲内で変更することができ、いずれの態様においても本発明の作用・効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明に係る表示素子の構成例(1)を示す断面図である。
【図2】本発明に係る表示素子の構成例(2)を示す断面図である。
【図3】実施例1の表示素子の発色状態のスペクトルを示す図である。
【図4】比較例1の表示素子の発色状態のスペクトルを示す図である。
【符号の説明】
【0055】
1 表示電極
2 対向電極
3 電解質
4,5 表示層
6 白色反射層
10,20 表示素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の構造式(1)で表されるものであることを特徴とするエレクトロクロミック化合物。
【化1】


(式中、Z1からZ16は水素原子または一価の置換基を示し、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。R1は一価の置換基を表し、R2は二価の置換基を表す。Xは水酸基に対して直接的あるいは間接的に結合可能な官能基を表し、Y1およびY2はビピリジジニウム塩と対を成す陰イオンを表しそれぞれ同一でも異なっていてもよい。)
【請求項2】
導電性または半導体性ナノ構造体に請求項1に記載のエレクトロクロミック化合物が結合されてなることを特徴とするエレクトロクロミック組成物。
【請求項3】
前記エレクトロクロミック化合物の官能基Xが、ホスホン酸基、リン酸基、カルボン酸基のいずれかであることを特徴とする請求項2に記載のエレクトロクロミック組成物。
【請求項4】
前記導電性または半導体性ナノ構造体は金属酸化物からなり、
該導電性または半導体性ナノ構造体と前記エレクトロクロミック化合物が、シラノール結合より結合されていることを特徴とする請求項2に記載のエレクトロクロミック組成物。
【請求項5】
前記導電性または半導体性ナノ構造体が酸化チタンナノ粒子からなることを特徴とする請求項2〜4のいずれかに記載のエレクトロクロミック組成物。
【請求項6】
表示電極と、該表示電極に対して間隔をおいて対向して設けた対向電極と、両電極間に配置された電解質とを備え、該表示電極の対向電極側の表面に、少なくとも請求項1に記載のエレクトロクロミック化合物を含む表示層を有することを特徴とする表示素子。
【請求項7】
表示電極と、該表示電極に対して間隔をおいて対向して設けた対向電極と、両電極間に配置された電解質とを備え、該表示電極の対向電極側の表面に、少なくとも請求項2〜5のいずれかに記載のエレクトロクロミック組成物を含む表示層を有することを特徴とする表示素子。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2010−145814(P2010−145814A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−323969(P2008−323969)
【出願日】平成20年12月19日(2008.12.19)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】