説明

エレクトロクロミック調光素子及び撮像装置

【課題】 低温環境における応答速度を簡易に且つ効率よく改善することができるエレクトロクロミック調光素子を提供する。
【解決手段】 一対の基板上に設けられた一対の透明電極と、前記一対の透明電極の間に配置されるエレクトロクロミック層およびイオン伝導層とを有するエレクトロクロミック調光素子であって、前記一対の透明電極の一方は、通電によって発熱するヒーターと電気絶縁性熱伝導層を介して接続されているエレクトロクロミック調光素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエレクトロクロミック調光素子及びそれを有する撮像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
固体撮像素子を用いた撮像装置においては、シャッター、アイリス絞り、ゲイン制御、NDフィルター等の光量調節手段によって露出が適正化されて画像が取得される。特にデジタルビデオカメラのような動画を取得する撮像装置においては、以下に述べる理由によりNDフィルターによって光量調節を行うことが好ましい。
【0003】
すなわち、シャッター速度やゲイン制御では、フレームレートによる要請から光量調節範囲が大きく制限されるし、アイリス絞りでは光量調節と同時に被写界深度が変化する。そのためにシャッター速度やゲイン制御は、意図的に被写界深度を浅くしたい場合には用いることができず、またF値を大きくとると分解能が低下するという原理的な問題がある。これは特に画素ピッチが小さい撮像素子を使用する場合には大きな制約となる。したがって、動画を取得する撮像装置においては、NDフィルターによって光量調節を行うことが最も好適である。さらに、従来のように複数の光学濃度が固定されたフィルターを光路上に進退自在に配置するよりも、光学濃度を任意に変化できるフィルターを一枚配置する方が簡便であり、且つ画像形成上の自由度も高い。このようなNDフィルターとして、従来から液晶やエレクトロクロミック材料を用いた調光素子が提案されているが、信頼性・耐久性等の理由によって撮像装置における調光手段としては未だ製品化されるには至っていない。
【0004】
また、調光素子として、応答速度が低下するような低温環境においても応答速度を改善することができる調光素子が提案されている。
【0005】
特許文献1は、エレクトロクロミック表示装置において、透明電極に直接通電して発熱させる加熱回路を設置することにより、低温環境における応答速度を改善する技術を開示している。
【0006】
しかしながら、透明電極に直接通電して加熱する構成はレベルシフト回路やスイッチング回路等の複雑な回路構成及び動作シーケンスが必要である。また表示素子を駆動せずに加熱だけを行いたい場合には電圧操作が大きく制限されるという課題がある。
【0007】
特許文献2は、液晶レンズにおいて、液晶層の駆動電極周囲に液晶層を直接加熱するヒーター電極を設置して低温環境でも実用的な応答速度を得る技術を開示している。
【0008】
この場合は駆動電極とヒーター電極とが電気的に絶縁されているため、互いに独立して駆動を行うことが可能であるが、加熱効率の点で十分とは言えない。すなわち、エレクトロクロミック素子においては応答速度を律速しているのは透明電極上に形成されたエレクトロクロミック層及び透明イオン伝導層とエレクトロクロミック層との界面でのイオン拡散である。そのために、対向する電極間間隙を熱伝導率が低い材料を経由して加熱するよりも、エレクトロクロミック層近傍を熱伝導率が良好な材料を経由して加熱する方が効率よく応答速度を改善することができる。そのために、特許文献2では熱伝導経路及び熱伝導経路上の材料の熱伝導率に課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭61−59317号公報
【特許文献2】特開2007−258985号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、この様な背景技術に鑑みてなされたものであり、低温環境における応答速度を、簡易に且つ効率よく改善することができるエレクトロクロミック調光素子を提供するものである。
【0011】
また、本発明は、上記のエレクトロクロミック調光素子を用いることにより、動作温度範囲を低温側に大きく広げることができる撮像装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するエレクトロクロミック調光素子は、一対の基板上に設けられた一対の透明電極と、前記一対の透明電極の間に配置されるエレクトロクロミック層およびイオン伝導層とを有するエレクトロクロミック調光素子であって、前記一対の透明電極の一方は、通電によって発熱するヒーターと電気絶縁性熱伝導層を介して接続されていることを特徴とする。
【0013】
上記の課題を解決する撮像装置は、上記のエレクトロクロミック調光素子を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、低温環境における応答速度を、簡易に且つ効率よく改善することができるエレクトロクロミック調光素子を提供することができる。
【0015】
また、本発明によれば、上記のエレクトロクロミック調光素子を用いることにより、動作温度範囲を低温側に大きく広げることができる撮像装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明のエレクトロクロミック調光素子の一実施形態を示す断面図である。
【図2】本発明のエレクトロクロミック調光素子の素子基板の平面構成の一例を表す模式図である。
【図3】本発明の撮像装置の一実施形態を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明に係るエレクトロクロミック調光素子は、一対の基板上に設けられた一対の透明電極と、前記一対の透明電極の間に配置されるエレクトロクロミック層およびイオン伝導層とを有するエレクトロクロミック調光素子である。そして、前記一対の透明電極の一方は、通電によって発熱するヒーターと電気絶縁性熱伝導層を介して接続されていることを特徴とする。
【0018】
また、本発明に係る撮像装置は、上記のエレクトロクロミック調光素子を有することを特徴とする。
【0019】
本発明は、上記の構成からなるために、複雑な回路や動作シーケンスを用いることなく、エレクトロクロミック調光素子とヒーターの駆動を互いに独立に行うことができる。また、本発明は、ヒーターへの投入電力を低く抑えることができる。また、本発明は、低温環境におけるエレクトロクロミック調光素子の応答速度を簡易に、且つ効率よく改善することができる。
【実施例1】
【0020】
本発明のエレクトロクロミック調光素子の構成について、図面を用いて、好適な実施の形態を例示的に詳しく説明する。
【0021】
図1は、本発明のエレクトロクロミック調光素子の一実施形態を示す断面図である。図2は、本発明のエレクトロクロミック調光素子の素子基板の平面構成の一例を表す模式図である。図1中、点線の矢印9は調光素子を透過する透過光を示しており、また両矢印8の範囲は光量制限領域(ワーク)を示す。
【0022】
本実施の形態においては、対向する一対の透明電極の一方のみにエレクトロクロミック層(EC層)を形成した例を説明するが、もちろん一対の透明電極のそれぞれにEC層を形成することも可能である。この場合も素子基板の構成は両基板とも同様であり、EC層に依存することはない。
【0023】
本発明に係るエレクトロクロミック調光素子は、一対の基板1a、1b上に、一対の透明電極3a、3bが設けられている。一対の透明電極3a、3bの間には、EC層5およびイオン伝導層4が配置されている。EC層5は一方の透明電極3bに接して設けられている。基板1b上に設けられている一方の透明電極3bは、通電によって発熱するヒーター6と、固体の電気絶縁性熱伝導層7を介して接続されている。一対の透明電極の一方の透明電極3bとヒーター6とが、一方の基板1bに設けられ、かつ前記透明電極3bと前記ヒーター6の上面が同一面に形成されていることが好ましい。
【0024】
基板1a、1bには、ガラス基板が用いられ、例えばCorning#7059やBK−7等の光学ガラス基板を好適に使用することができる。2は一対の基板の間隔を規定するスペーサ−であり、液晶表示装置で使用されているシリカビーズやPETシートなどを用いることができる。
【0025】
透明電極3a、3bは、ITO、FTO、ATO等を好ましく用いることができ、光学特性(屈折率や透過率)及び電気特性(シート抵抗)を考慮して適宜設計を行うことが可能である。
【0026】
4はイオン伝導層であり、電解質が用いられる。例えばプロピレンカーボネート(PC)等の非水溶液系溶媒に支持電解質として1M程度のLiClOを溶解させたものにアクリル樹脂を10重量%程度添加して作製したゲル電解質を用いることができる。アクリル樹脂には、例えばポリメチルメタクリレート(PMMA)やポリエチレンオキシド(PEO)等が好ましく用いられる。
【0027】
EC層5は、有機、無機材料を問わず、公知の酸化/還元着色性EC材料を使用することができる。調光素子に求められる要件は透過率コントラストと波長平坦性並びに応答速度である。これらを考慮してEC材料はできるだけ消色状態での透過率が高く、且つ着色効率(注入電荷量に対する光学濃度の比)が高い材料を用いることができる。さらに、波長平坦性という点では一つの材料で平坦な吸収を実現することが難しい場合、対向する電極にそれぞれ酸化着色性EC層と還元着色性EC層を形成して、相補的に波長平坦性を実現することも可能である。
【0028】
6は通電によって発熱するヒーターであり、ITO、FTO、ATO等の透明電極材料を好適に用いることができる。ヒーターは、ヒーター材料の比抵抗を考慮して電極取り出し部を除く発熱領域の抵抗値が10から100Ω程度になるように膜厚と幅が決定される。例えば、図1、2において光量制限領域8の直径を10mmとし、材料としてクロムを用いた場合には、ヒーターは膜厚100nm、幅40から400μmの範囲で透明電極の周囲を囲繞するように形成すればよい。こうしてヒーターには最大1W程度の電力を投入できるようにすれば、低温環境においても実用可能な範囲で調光素子を好適に駆動することができる。
【0029】
また、基板上にエレクトロクロミック調光素子の温度を測定する温度検知手段を有し、前記温度検知手段によってヒーターに通電する電流量を制御するヒーター駆動方法を好ましく用いることができる。
【0030】
7は固体の電気絶縁性熱伝導層であり、ヒーター6と、EC層5が形成された透明電極3bを接続するように形成される。図1、2においては、電気絶縁性熱伝導層7は透明電極3b及びヒーター6の下層に、且つ光量制限領域8に重ならないように形成されている。図1および2において、ヒーター6は光量制御領域8の外側に形成されている。また、電気絶縁性熱伝導層7は透明電極及びヒーターの上層或いは交差して形成しても構わない。
【0031】
図2を示す様に、ヒーターの外側から透明電極上のEC層を暖める場合には、光量制御領域は円形であることが好ましい。その理由は、温度の上昇が均一になるからである。
【0032】
また、電気絶縁性熱伝導層7は透過率を大きく制限しない範囲或いは透過率を大きく低下させない材料であれば、光量制限領域に開口部を形成しなくても構わないが、光量制限領域にはかからないことが好ましい。
【0033】
固体の電気絶縁性熱伝導層としては、窒化アルミニウム、窒化ケイ素或いは炭化ケイ素等を用いることができる。電気絶縁性熱伝導層の材料は、電極材料に酸素などの元素をドープすることで形成しても良い。これらは1×10Ωcm以上の抵抗率を有する電気絶縁性の材料であり、また10W/mK以上の熱伝導率を有する熱の良導体でもある。一方、先に挙げた電解質は、熱伝導率が0.1W/mK程度であり、電気絶縁性熱伝導層の材料と比較して100倍ほど熱伝導及び熱拡散が低い材料からなる。
【0034】
ギャップ間隔(電解質の厚さ)等の素子ディメンジョンやヒーターに印加する電力等にもよるが、電気絶縁性熱伝導層からなる熱伝導層を形成することによって、EC層が形成された透明電極の温度上昇率は10倍以上になる。これにより効率的にエレクトロクロミック調光素子の低温環境における応答速度の低下を改善することが可能になる。
【0035】
また、ヒーターと透明電極とは熱の良導体で接続されているものの、電気的には絶縁されているので、互いに任意のタイミングで独立して駆動を行うことが可能となっている。一対の透明電極への通電と、ヒーターへの通電とがそれぞれ独立に行われるので、エレクトロクロミック調光素子の駆動とヒーターの駆動とがそれぞれ独立に行うことができる。
【0036】
また、一対の透明電極の一方とヒーターとが、同一の材料で形成されていることが好ましい。エレクトロクロミック調光素子を駆動する透明電極とヒーターとは同一の材料によって形成されている場合には、透明電極とヒーターを製造過程で一度に形成することができる利点がある。この場合は、透明電極とヒーターとは同じ高さに形成されることが好ましい。
【0037】
本発明に係る撮像装置は、上記のエレクトロクロミック調光素子を有することを特徴とする。次に、本発明の撮像装置に、上記のエレクトロクロミック調光素子を設置した例を示し、構成要素の配置例や処理の流れについて説明する。
【0038】
図3は本発明のエレクトロクロミック調光素子を撮像レンズ及び撮像装置に組み込んだ場合の一例を示すブロック図である。
【0039】
レンズ光学系に入った入射光線はアイリス絞り及びエレクトロクロミック調光素子を通過する際に任意に調光されて撮像素子上に結像する。ここでは調光素子を撮像レンズ内のアイリス絞りの後段に配置しているが、配置の例はこれに限らず、アイリス絞りの前段、或いは撮像装置本体における撮像素子の前段等に配置しても構わない。
【0040】
撮像素子から出力されたアナログ信号はA/Dコンバータによってデジタル信号に変えられてDSP回路に送られる。DSP回路において、所定の画素補間処理や色変換処理が行われ、メモリ部或いは記録メディアに保存される。また、取得された画像データに関しては主要被写体の距離情報や輝度情報が算出される。これにもとづいてCPUが、TTL方式のオートフォーカス処理や、自動露出処理、自動調光処理(アイリス絞り駆動、エレクトロクロミック調光素子駆動)等を行う。
【0041】
エレクトロクロミック調光素子を駆動するには、先ず電源スイッチのONとともに温度検知手段から温度情報が取得される。これによってヒーター駆動を行うか判断され、行うと判断された場合には設定温度までのヒーター駆動が行われる。通常は零度以下の低温環境においても10秒程度で調光素子の温度を室温程度にまで上昇でき、これにより撮影準備が完了する。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明のエレクトロクロミック調光素子は、低温環境における応答速度を、簡易に且つ効率よく改善することができるので、動作温度範囲が低温側にある撮像装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0043】
1a、1b 基板
2 スペーサ−
3a、3b 透明電極
4 イオン伝導層
5 EC層
6 ヒーター
7 電気絶縁性熱伝導層
8 光量制限領域
9 透過光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の基板上に設けられた一対の透明電極と、前記一対の透明電極の間に配置されるエレクトロクロミック層およびイオン伝導層とを有するエレクトロクロミック調光素子であって、前記一対の透明電極の一方は、通電によって発熱するヒーターと電気絶縁性熱伝導層を介して接続されていることを特徴とするエレクトロクロミック調光素子。
【請求項2】
前記一対の透明電極への通電と、ヒーターへの通電とがそれぞれ独立に行われることを特徴とする請求項1に記載のエレクトロクロミック調光素子。
【請求項3】
前記エレクトロクロミック調光素子の温度を測定する温度検知手段を有し、前記温度検知手段によってヒーターに通電する電流量を制御することを特徴とする請求項1または2に記載のエレクトロクロミック調光素子。
【請求項4】
前記一対の透明電極の一方と前記ヒーターとが、一方の基板に設けられ、かつ前記透明電極と前記ヒーターの上面が同一面に形成されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかの項に記載のエレクトロクロミック調光素子。
【請求項5】
前記一対の透明電極の一方と前記ヒーターとが、同一の材料で形成されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかの項に記載のエレクトロクロミック調光素子。
【請求項6】
請求項1乃至5に記載のエレクトロクロミック調光素子を有することを特徴とする撮像装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate