説明

エレクトロスラグ再溶解法

【課題】エレクトロスラグ再溶解中に、インゴットの清浄化に影響を与えることなく効率よく脱窒素を行うことを可能にする。
【解決手段】エレクトロスラグ再溶解法によってインゴット3を溶製する際に、非酸化性雰囲気下で脱酸材6aとともに硫黄化合物7aを添加して脱窒素を行う。界面活性元素である硫黄を積極的に利用でき脱窒素が促進され、電極から溶融離脱したドロップレットがメタルプール中に落下する間やメタルプールでの溶融金属とスラグとの短い反応時間でも、優れた脱窒素効果が得られるとともに、脱窒素に寄与した硫黄はスラグに捕捉されてメタルプールに移行することはなくインゴットの清浄度を損なわない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、所定材料を電極にして再溶解させ材料の清浄化を図るエレクトロスラグ再溶解法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般にS、O、Nなどの元素は金属材料の耐食性、特に応力腐食割れ感受性を悪化させることが知られている。またBを添加した合金においてNはBと結合してBNとなり、これが機械的性質を悪化させるため、N量はできるだけ低い方が望ましいと言われている。ESR(エレクトロスラグ再溶解)プロセスは使用するスラグの塩基度が高いために脱硫能に優れ、またOも酸素ポテンシャルが低いスラグで溶解することによって低位に抑えることができ、かつ酸化物系非金属介在物も被溶解金属を液滴(ドロップレット)としてスラグ中を通過させることでスラグに効率よく吸収させることによって、その大半を除去できるといった優れた特徴を有する。このため、高清浄度が要求される高級工具鋼やNi基超合金の製造にESR法が広く使われている。しかしながら、従来、ESR中に脱窒素を行うことはほとんど不可能であるとされており、そのためESR電極製造をする際に取鍋精錬時に真空脱ガス法を行ったり、真空鋳造法によって真空下で脱ガスを行ったり、また真空誘導溶解炉(VIM)によって減圧下で溶解を行うなどして低窒素の電極を作る方法が一般的に用いられている。またこのようなプロセスを採用しても電極中の窒素量が高い場合にはESRで製造したインゴットを電極として真空アーク溶解炉で再溶解することによって脱ガスを実施しているのが現状である。
【0003】
一方、脱窒素をESR中で実施する方法として、Metal bearing Solution Refining (MSR)と呼ばれる方法が、特許文献1、非特許文献1、2などで報告されている。このMSR法は、一般にESRで使用されているCaO−CaF系スラグの代わりにCa−CaFスラグを使用することでESR中の脱窒素を可能とするものである。
しかしMSR法ではスラグ中のCaをピックアップしてインゴット中のCa含有量が高くなるという問題がある。MSRで製造されたインゴット中のCa含有量はCaF融体中のCa濃度、鋼中のNi、Si濃度に依存するとされ、たとえば18Cr−13Ni鋼の場合にはインゴット中のCa濃度は0.01〜0.02%になる(非特許文献3参照)。また、Ca−CaFスラグは電気伝導度が高いために電力原単位が悪く、通常のESRに比べて製造コストが高くなる。
【特許文献1】特開昭51−59002号公報
【非特許文献1】Transactions ISIJ vol.16(1976)、pp.623−627
【非特許文献2】製鉄研究289号(1976)、pp.85−90
【非特許文献3】日本金属学会会報第15巻第6号、1976、pp.387−391
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のように、従来のESR法では、通常は、スラグのナイトライドキャパシティが小さいためにスラグによる脱窒素は認められず、また溶融金属表面がスラグで覆われているため、雰囲気を減圧しても真空アーク溶解法のような溶解中の脱窒素は不可能とされている。唯一ESR中での脱窒素が報告されているMSR法ではインゴット中のCa含有量の増加や操業時の電力原単位の悪化という問題がある。
【0005】
この発明は上記のような従来のものの課題を解決するためになされたもので、インゴット中への影響が殆どない状態でエレクトロスラグ再溶解中に脱窒素を行うことを可能にすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明のエレクトロスラグ再溶解法のうち、第1の本発明は、エレクトロスラグ再溶解法によってインゴットを溶製する際に、非酸化性雰囲気下で脱酸材とともに硫黄化合物を添加して脱窒素を行うことを特徴とする。
【0007】
第2の本発明のエレクトロスラグ再溶解法は、前記第1の本発明において、前記脱酸材が、Ca、Al、Mg、La、Y、REMの一又は二以上の成分で構成されるものであることを特徴とする。
【0008】
第3の本発明のエレクトロスラグ再溶解法は、前記第1または第2の本発明において、前記硫黄酸化物が、Fe−S、Mo−S、Ni−Sの一種または二種以上からなることを特徴とする。
【0009】
第4の本発明のエレクトロスラグ再溶解法は、前記第1〜第3の本発明のいずれかにおいて、前記非酸化性雰囲気は、不活性ガス雰囲気または真空雰囲気からなるものであることを特徴とする。
【0010】
すなわち、本発明のエレクトロスラグ再溶解法によれば、雰囲気を非酸化性雰囲気にして脱酸剤による脱酸を行うことで、添加される脱酸材が雰囲気によって酸化されることを防ぐ。雰囲気下での残存酸素量は、0.1体積%以下であることが望ましい。
上記雰囲気は、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気や真空雰囲気により得ることができる。不活性ガスとしては、脱窒素の妨げとなるので、窒素は除外する。
その際には、溶解中のモールドに蓋を設けてモールド内の雰囲気を維持することができ、スラグ脱酸元素を溶解中に添加して、さらに硫黄化合物を添加することができる。
【0011】
スラグ脱酸元素はスラグの酸素ポテンシャルを低く維持し、溶融金属の酸素を低く抑える効果がある。またスラグ中に金属元素の形で入り込むことによって脱窒素を可能にする。硫黄化合物は、界面活性元素である硫黄を溶融金属とスラグに付与することで、脱窒素を促進する効果がある。これらを組み合わせることでエレクトロスラグ再溶解中での脱窒素を速やかに行うことができる。
【0012】
なお、本発明のエレクトロスラグ再溶解法に用いるスラグとしては既知のものを用いることができる。Ca−CaFスラグは、前記したようにインゴットへのCaの取り込みや操業時の電力原単位の悪化を招くため好ましくないが、高度に脱窒素を果たしたいなどの事情がある場合もあるため、本発明としては、Ca−CaFスラグの使用が除外されるものではない。
【0013】
なお、本発明で用いる脱酸材としては、Ca、Al、Mg、La、Y、REMの一又は二以上の成分で構成されるものを例示することができる。本発明としては、脱酸材の種別が特定のものに限定をされるものではなく、脱酸作用を有する既知の材料などを適宜使用することができる。なお、脱酸材の量は、特に限定をされるものではなく、通常の量を用いるものであればよい。
【0014】
また、上記脱酸材とともに用いられる硫黄化合物は硫黄の供給源となるものであればよく、適宜材料を使用することができ、例えばFe−S、Mo−S、Ni−Sの一種または二種以上からなるものを用いることができる。硫黄化合物中の硫黄は、上記のようにエレクトロスラグ再溶解中に、溶湯の窒素をスラグに移行させる作用を果たし、溶湯中の窒素含有量を効果的に低減する。脱窒素に作用する硫黄は、ESR鋳塊に取り込まれることなく、脱酸材の作用によって効果的にスラグに移行し、ESR鋳塊の清浄度を損なうことはない。
【0015】
硫黄化合物を構成する、その他の元素としては、ESR鋳塊の主成分となる元素(鋼材に対するFe、Ni基合金に対するNiなど)は鋳塊への悪影響を考慮することなく使用することができる。また、その他の成分は、ESR中への移行が許容される場合にも硫黄化合物の構成元素として採択することができる。また、意図的にESR鋳塊に取り込むことを目的として硫黄化合物の硫黄以外の構成元素を選定することも可能である。
なお、硫黄化合物の量は、特定の範囲に限定をされるものではないが、例えば、インゴット質量に対し、0.01〜1.0質量%の範囲とすることができる。
【0016】
本発明のエレクトロスラグ再溶解法は、脱窒素を効果的に行うことを目的としており、高清浄度が要求される高級工具鋼やNi基超合金に好適である。ただし本発明としては、再溶解を行う材料が特定のものに限定をされるものではなく、種々の材料を対象にすることができる。
【発明の効果】
【0017】
以上のように、この発明によればエレクトロスラグ再溶解法によってインゴットを溶製する際に、非酸化性雰囲気下で脱酸材とともに硫黄化合物を添加して脱窒素を行うので、界面活性元素である硫黄を積極的に利用でき脱窒素が促進され、電極から溶融離脱したドロップレットがメタルプール中に落下する間やメタルプールでの溶融金属とスラグとの短い反応時間でも、優れた脱窒素効果が得られるとともに、脱窒素に寄与した硫黄はスラグに捕捉されてメタルプールに移行することはなくインゴットの清浄度を損なわない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、この発明の一実施形態を図1に基づいて説明する。
所定の成分に調製した消耗電極1をエレクトロスラグ再溶解するための水冷モールド4が用意され、該水冷モールド4には、上記電極1の挿入部を除いて上部を覆うシール蓋8が備えられている。また、水冷モールド4には、モールド内を不活性ガス雰囲気に調整するための不活性ガス導入管5が接続され、さらに、水冷モールド4内に脱酸材6aを投入するための脱酸材添加装置6と、硫黄化合物7aを投入するための硫黄化合物添加装置7を備えている。
【0019】
通常のエレクトロスラグ再溶解法では、水冷モールド4内においてスラグ2に流した電流が発するジュール熱によって消耗電極1を溶解し、水冷モールド4内に下からインゴット3を逐次凝固させる。
本発明では、この際にシール蓋8により大気が水冷モールド4内に入るのを防止しつつ、不活性ガス導入管5から水冷モールド4内に不活性ガスを導入してスラグ2表面を不活性ガス雰囲気として溶解を行う。その際に、脱酸材添加装置6からは脱酸材6a、硫黄化合物添加装置7から硫黄化合物7aを同時に添加しながら上記溶解を行う。これによりスラグ2中で脱酸反応および脱窒素反応を起こし、低窒素のインゴット3が溶製される。
なお、上記では、脱酸材と硫黄化合物を同時の添加するものとして説明をしたが、本発明としては、これら材料の添加時期が特定されるものではなく、時期をずらして添加するものであってもよい。
【実施例1】
【0020】
次に、本発明の実施例について、比較例と比較しつつ以下に説明する。
表1に示す成分(残部Feおよび不可避不純物)の質量8tonのFe−Ni合金インゴットを電極に選定し、このインゴットを消耗電極として径750mmモールドを用いてESRを行った。なお、雰囲気は、アルゴン雰囲気とし、その際の残留酸素量は、<1.0体積%であった。このときに脱酸材としてCaを添加し、硫黄化合物としてFe−Sを添加した。Caの添加量はインゴット質量に対し1.0wt%、Fe−Sの添加量はインゴット質量に対し0.5wt%とした。溶製したインゴットは鍛造後、各部位(ボトム(B)〜トップ(T))から試料を採取して成分分析(残部Feおよび不可避不純物)を行い、表1に示した。
【0021】
表1には、溶解前の電極中窒素量とインゴット中の窒素量が示されている。電極中に34質量ppm含有していた窒素は、本発明のエレクトロスラグ再溶解法により、12〜20質量ppmに低減された。またエレクトロスラグ再溶解中にFe−Sを添加しているにもかかわらず、添加したSは脱硫され、インゴット中にはほとんど残存していなかった。
【0022】
【表1】

【0023】
次に、上記と同様にして表2に示す成分(残部Feおよび不可避不純物)の質量8tonのFe−Ni合金インゴットを電極に選定し、Fe−Sを添加しない以外は、上記と同様にしてエレクトロスラグ再溶解を行った。溶製したインゴットは鍛造後、各部位(ボトム(B)〜トップ(T))から試料を採取して成分分析(残部Feおよび不可避不純物)を行い、表2に示した。
【0024】
表2には、溶解前の電極中窒素量とインゴット中の窒素量が示されている。この例では、インゴット中の窒素量は、電極に比べて僅かに減少しているにすぎず、脱窒素効果は殆ど得られなかった。したがって、Fe−Sを添加しなければエレクトロスラグ再溶解法のみによってはNは殆ど減少しないことがわかる。
【0025】
【表2】

【0026】
以上、本発明について上記実施形態および実施例に基づいて説明を行ったが、本発明はこれら実施形態および実施例の内容に限定をされるものではなく、本発明の範囲を逸脱しない限りは当然に適宜の変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】第1図はこの発明の一実施形態によるESR装置を示す断面側面図である。
【符号の説明】
【0028】
1 消耗電極
2 スラグ
3 インゴット
4 水冷モールド
5 ガス導入口
6 脱酸材添加装置
6a 脱酸材
7 硫黄化合物添加装置
7a 硫黄化合物
8 シール蓋

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エレクトロスラグ再溶解法によってインゴットを溶製する際に、非酸化性雰囲気下で脱酸材とともに硫黄化合物を添加して脱窒素を行うことを特徴とするエレクトロスラグ再溶解法。
【請求項2】
前記脱酸材が、Ca、Al、Mg、La、Y、REMの一又は二以上の成分で構成されるものであることを特徴とする請求項1記載のエレクトロスラグ再溶解法。
【請求項3】
前記硫黄酸化物が、Fe−S、Mo−S、Ni−Sの一種または二種以上からなることを特徴とする請求項1または2記載のエレクトロスラグ再溶解法。
【請求項4】
前記非酸化性雰囲気は、不活性ガス雰囲気または真空雰囲気からなるものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のエレクトロスラグ再溶解法。

【図1】
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