説明

エレクトロルミネッセント素子およびその製造方法

【課題】正孔輸送材料としてドープ型のPEDOT/PSSのように不純物が発光層に移行する恐れのある材料を用いても、不純物の移行を防ぐことのできる膜を備えた有機EL素子であって、膜自身の均一性が高く形成も容易な有機EL素子及びその製造方法を提供する。
【解決手段】基板と、当該基板上に第一電極、有機発光媒体層、第二電極を備え、当該有機発光媒体層は少なくとも正孔輸送層と有機発光層を備え、さらに前記正孔輸送層と前記有機発光層との間に正孔移動度が1×10−4以上1cm/v・s以下の第二正孔輸送層を備えた有機エレクトロルミネッセント素子とする。さらに、前記第二正孔輸送層の膜厚は10nm以上30nm以下とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機薄膜のエレクトロルミネッセンス現象を利用した有機薄膜エレクトロルミネッセント素子、特に有機発光層が有機発光体材料からなるポリマーエレクトロルミネッセント素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エレクトロルミネッセント素子(以下、EL素子とする)は、少なくとも基板と、当該基板上に第一電極、発光媒体層、第二電極を順次備え、第一電極と第二電極との間に電圧を印加することで有機発光層を発光させ、第一電極側または第二電極側を透光性として光を取り出す構造の自発光型素子である。なかでも発光媒体層の構成材料に有機材料を用いたものを有機EL素子という。
【0003】
有機材料からなる有機発光媒体層は通常機能分化された複数の層から構成される。その典型的な例としては、正孔注入層に銅フタロシアニン、正孔輸送層にN,N’−ジ(1−ナフチル)−N,N’−ジフェニル−1,1’−ビフェニル−4,4’−ジアミン、発光体層にトリス(8−キノリノール)アルミニウムをそれぞれ用いたものが挙げられる。ここで挙げた有機発光媒体層を構成し機能する物質(機能性材料)はいずれも低分子の化合物であり、各層は1〜100nm程度の厚みで抵抗加熱方式などの真空蒸着法などによって積層される。このため、低分子材料を用いる薄膜型の有機エレクトロルミネッセント素子の製造のためには、複数の蒸着釜を連結した真空蒸着装置を必要とし、生産性が低く製造コストが高い、大型化が難しいなどの問題点があった。
【0004】
これに対し、有機発光媒体層を構成する機能性材料に高分子材料を用いたポリマーエレクトロルミネッセント素子がある。
有機発光媒体層に含まれる機能性材料に高分子材料を用いたポリマーEL素子の構造は、低分子を機能性材料とするEL素子と同様に第一電極と第二電極との間に有機発光媒体層が挟まれている。有機発光媒体層は有機(ポリマー)発光層のみの単層か、有機発光層と発光層の発光を補助する機能性材料を含む層とを備える多層構成となる。例えば、陽極側から正孔輸送層、有機発光層、電子輸送層のように構成されている。
【0005】
ポリマー型の発光層としては、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリビニルカルバゾールなどの高分子中に低分子の蛍光色素を溶解させたものや、ポリフェニレンビニレン誘導体(PPV)、ポリアルキルフルオレン誘導体(PAF)等の高分子発光体が用いられる。これら高分子材料は、溶剤に溶解させることで塗布法や印刷法で製膜することができるため、前述の低分子材料を用いた有機EL素子と比較して、大気圧下での製膜が可能であり設備コストが安いという利点がある。
【0006】
そして、このようなポリマー型の発光層を備えた有機EL素子には、陽極側に正孔輸送材料としてドープされたポリチオフェン(以下PEDOT/PSSと略する)材料を機能性材料として含む正孔輸送層を設ける構造が現在多く用いられている。しかし、ドーパントからの不純物が発光層に混入し、その発光寿命を低下させてしまうという問題点が挙げられている。
【0007】
これを解決するために、PEDOT/PSS層と発光層の間に、10nm程度のフルオレン誘導体薄膜を設ける方法が提案されている。この薄膜を設けることで、PEDOT/PSSからの不純物の浸出を防止し、さらには陽極側からの電子の浸入を阻止する電子ブロック層として用いるという報告がある(非特許文献1)。
【0008】
しかしながら、ここで報告された材料による薄膜は10nm程と非常に薄い膜にしなくてはならないため、その形成方法に制限がある。そのため、スピンコート法により成膜することは、かろうじて可能であるが、各種コーティング法、パターン状に形成可能な印刷法により成膜するには、膜厚の均一性を出すことが非常に難しく、均一にならなかった場合、素子が均一に発光しないという問題点がある。
【0009】
【非特許文献1】Applied Physics Letters Vol.80 pp2436−2438
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、本発明は、正孔輸送材料としてドープ型のPEDOT/PSSのように不純物が発光層に移行する恐れのある材料を用いても、不純物の移行を防ぐことのできる膜を備えた有機EL素子であって、膜自身の均一性が高く形成も容易な有機EL素子及びその製造方法を提供するためになされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するためになされた第一の発明は、基板と、当該基板上に第一電極、有機発光媒体層、第二電極を備え、当該有機発光媒体層は少なくとも正孔輸送層と有機発光層を備え、さらに前記正孔輸送層と前記有機発光層との間に正孔移動度が1×10−4以上1cm/v・s以下の第二正孔輸送層を備えた有機エレクトロルミネッセント素子である。
【0012】
また、上記構成の有機エレクトロルミネッセント素子に加えて、前記第二正孔輸送層の膜厚は10nm以上30nm以下であることを特徴とする有機エレクトロルミネッセント素子である。
さらに、上記構成の有機エレクトロルミネッセント素子に加えて、前記第二正孔輸送層は未ドープ型の正孔輸送材料を含み、当該第二正孔輸送層及び前記正孔輸送層が含む正孔輸送材料は高分子またはオリゴマーであることを特徴とする有機エレクトロルミネッセント素子である。
【0013】
上記構成の有機エレクトロルミネッセント素子に加えて、前記未ドープ型の正孔輸送材料は立体規則性ポリ3−アルキルチオフェン、結晶性ポリアルキルフルオレン、トリフェニルアミンユニットを構造中に有するポリマー、あるいはトリフェニルアミンスターバーストポリマーであることを特徴とする有機エレクトロルミネッセント素子である。
【0014】
上記課題を解決するためになされた他の発明は、基板と、当該基板上に少なくとも第一電極、有機発光媒体層、第二電極を備え、当該有機発光媒体層は少なくとも正孔輸送層と有機発光層を備え、さらに前記正孔輸送層と前記有機発光層との間に正孔移動度が1×10−4以上1cm/v・s以下の第二正孔輸送層を備えた有機エレクトロルミネッセント素子の製造方法であって、1.基板上に第一電極を形成する工程、2.前記第一電極の上方に正孔輸送層を湿式法により形成する工程、3.前記正孔輸送層の上方に第二正孔輸送層を湿式法により形成する工程、4.前記第二正孔輸送層の上に有機発光層を湿式法により形成する工程、5.正孔輸送層、第二正孔輸送層、有機発光層を含む有機発光媒体層の上方に第二電極を形成する工程、を備えることを特徴とする有機エレクトロルミネッセント素子の製造方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の有機EL素子は、正孔輸送層と有機発光層との間に正孔移動度が1×10−4以上1cm/v・s以下の第二正孔輸送層を備えているので、不純物の移動による有機発光層の劣化を防ぐとともに電子をブロックして発光効率を向上させ、かつ厚膜形成が可能であるために第二正孔輸送層の膜厚均一性を高くすることができるので、輝度を保ったまま均一発光可能な優れた構造の有機EL素子の生産効率を上げることができる。特に正孔輸送層にドープされた正孔輸送材料を用いていても、イオン性の不純物の移動を防ぎ、素子の寿命を大きく伸ばすことができる。また、移動防止層の成膜方法の選択の幅がスピンコート以外にも広がるため、材料利用効率を上げることができる。さらに、基板サイズの大型化に対応することができる。さらに、第二正孔輸送層は高い正孔移動能と電子ブロック能を有するため、発光効率の向上にもつながる。
また、有機発光媒体層を構成する機能性薄膜をすべて塗布、印刷などの湿式法で形成することができるので有機EL素子の製造効率を大きく向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明による有機EL素子の詳細を図1に基いて説明する。
本発明の有機EL素子は、少なくとも基板と、基板上に形成された第一電極と、有機発光媒体層と、第二電極とを備える。そして、有機発光媒体層は少なくとも正孔輸送層と有機発光層を備え、さらに正孔輸送層と有機発光層との間に正孔移動度が1×10−4以上1cm/v・s以下の第二正孔輸送層を備えている。
【0017】
本発明における基板1(図1)としては、電極や有機発光媒体層を保持できる程度の強度を備えた基材なら制限はない。具体的にはガラス基板やプラスチック製のフィルムまたはシートを用いることができる。0.2mmから1mm程度の薄いガラス基板を用いれば、バリア性が非常に高い薄型の有機EL素子を作製することができる。
【0018】
また、可撓性のあるプラスチック製のフィルムを用いれば、巻き取りにより有機EL素子を連続的に製造することが可能であり、安価に素子を提供することができる。プラスチックフィルムとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、シクロオレフィンポリマー、ポリアミド、ポリエーテルサルフォン、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート等を用いることができる。また、第一電極2を製膜しない側にセラミック蒸着フィルムやポリ塩化ビニリデン、ポリ塩化ビニル、エチレン−酢酸ビニル共重合体鹸化物等の他のガスバリア性フィルムを積層すれば、よりバリア性が向上し、寿命の長い有機EL素子とすることができる。
【0019】
水蒸気や酸素などの透過を防ぐバリア性を考慮するとガラス基板の他に金属薄膜や金属薄板も有用であるが、第一電極との絶縁性を図る処置が必要である。また、第一電極側から光を取り出す、いわゆるボトムエミッション構造の有機EL素子とする場合には、第一電極2はもちろん基板1としても透光性の材料を選択する必要がある。
【0020】
第一電極2は、基板1の上に直接または平坦化層などを介して間接的に形成される。第一電極を陽極として機能させる場合は、具体的にはインジウムと錫の複合酸化物(以下ITOという)を好ましく用いることができる。前記基板1上に蒸着またはスパッタリング法により製膜することができる。また、オクチル酸インジウムやアセトンインジウムなどの前駆体を基材上に塗布後、熱分解により酸化物を形成する塗布熱分解法等により形成することもできる。あるいは、アルミニウム、金、銀等の金属が半透明状に蒸着されたものを用いることができる。あるいはポリアニリン等の有機半導体も用いることができる。ボトムエミッションタイプのポリマーEL素子とする場合には透明または半透明の電極を形成することのできる導電性物質を選択する。
【0021】
上記、第一電極2は、必要に応じてエッチングによりパターニングを行ったり、UV処理、プラズマ処理などにより表面の活性化を行ってもよい。
【0022】
マトリクス表示可能なディスプレイとして有機EL素子を製造する場合には、第一電極をストライプ状に形成し、有機発光媒体層を挟んで形成される第二電極を第一電極と直角に交わるストライプ状に形成することで、交点が発光する方式のパッシブマトリクス表示とすることができる。また、基板1に各画素に対応する薄膜トランジスタを形成し、これと導通するように各画素に対応する第一電極を各々設けることもできる。
【0023】
第一電極をエッチングによりパターン状に形成した場合は、第一電極パターンの端部の凹凸が大きく、上方に積層する有機発光媒体層では覆いきれない場合がある。こうなると、第一電極と第二電極がショートしてしまう。そのため、第一電極の端部は絶縁性の樹脂などで被覆することが好ましい。第一電極端部の被覆には、例えばポリイミド、アクリル、ポリウレタンなどの樹脂の組成物に感光性を持たせ、これを塗布し、マスク露光し、現像することで行うことができる。
【0024】
また、第一電極の端部を覆う絶縁性の樹脂(絶縁性隔壁5とする)の高さを一定以上、例えば0.5μm以上1.5μm以下とすると、ある第一電極パターンと、隣接する第一電極パターンとの上方に形成される有機発光媒体層が異なる場合、例えばそれぞれ発光層の発光色を異なる色とする場合に、隣接する画素との混色を防ぐ役割を果たす。
【0025】
本発明における有機EL素子の有機発光媒体層3は、少なくとも正孔輸送層3aと有機発光層3cを備え、さらに正孔輸送層と有機発光層との間に正孔移動度が1×10−4以上1cm/v・s以下の第二正孔輸送層3bを備えている(図1)。
【0026】
正孔輸送層3aに用いる正孔輸送材料としては、ドープ型の正孔輸送材料を好ましく用いることができる。ドープ型の正孔輸送材料とは、電子アクセプター性の材料を少量混合することにより、導電性を備えるようになった導電性高分子であり、正孔(ホール)を有機発光層へ伝達することのできる正孔輸送材料である。例えば、ドープ型ポリチオフェン等を挙げることができる。特に、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)にポリスチレンスルホン酸をドープした有機材料が、湿式法による製膜が可能であり好ましく用いられている。
【0027】
正孔輸送層3aに用いることのできる機能性材料は、溶剤に溶解または分散させてインキ状に加工し、これを塗布法、印刷法、液滴吐出法などの方法で第一電極を形成した基板上に積層することができる。正孔輸送材料を溶解又は分散させる溶剤としては、隣接する有機発光層に含まれる発光材料の溶解性も考慮して、水、またはアルコール系の溶剤を好ましく用いることができる。
【0028】
塗布法としては、一般的にスピンコート法、ディッピング法、バーコート法、スリットコート(ダイコート)法等があげられる。
印刷法としては、凹版印刷法、凸版印刷法、平版印刷法、オフセット印刷法、スクリーン印刷法等様々な印刷法が挙げられる。特に被印刷基板に接触状態になる印刷版、あるいはブランケットとして樹脂や弾性材料を選択することのできる凸版印刷法やオフセット印刷法が好ましい。
また、印刷版を使用しないインキ配置方法として、インキジェット法を挙げることができる。
【0029】
第二正孔輸送層3bは、正孔輸送層から有機発光層への不純物の移行及び電子の移動を阻止する機能を備える。不純物には例えば金属イオンなどのイオン性物質を挙げることができる。第二正孔輸送層に用いることのできる機能性材料には、正孔輸送層に用いた機能性材料であってドーパントがドープされていないポリマーまたはオリゴマーを挙げることができる。さらに、未ドープ状態で高い正孔移動度を示すような材料であり、具体的に正孔移動度は1×10−4以上1cm/v・s以下程度、さらに好ましくは1×10−2cm/v・s以上の材料を選択することが好ましい。このような正孔移動度を有する機能性材料としては、例えば、立体規則性ポリ3−アルキルチオフェン(0.1cm/v・s)などの立体規則性のあるポリアルキルチオフェンや、結晶性ポリアルキルフルオレン(4×10−3cm/v・s)、トリフェニルアミンスターバーストポリマー(3×10−2cm/v・s)などの正孔輸送性の高いトリフェニルアミンユニットを有するポリマー(1×10−2cm/v・s)、またはオリゴマーが挙げられる。ただし、この次に積層される有機発光材料の成膜方法を考慮し、トルエンやキシレン等への溶解性が1wt%程度の低い溶解性であることが好ましい。
【0030】
本発明で基準とする正孔移動度の測定はTime−of−Flight(TOF)法による。測定条件は、以下の通りである。
測定素子構造:半透明Al(20nm)/材料5μm/Al(80nm)
炭素ガスレーザにて励起
130V、25℃で測定
【0031】
第二正孔輸送層の形成順は、正孔輸送層と有機発光層との間に形成されていればよく、この際他の機能性材料を含む層(例えば正孔注入層や絶縁層(正孔移動度が1×10−4cm/v・sに満たない層))が隣接して形成されていてもよい。
【0032】
第二正孔輸送層を構成する第二正孔輸送材料はポリマーまたはオリゴマーであるので適当な溶剤に溶解又は分散してインキ状に加工し、これを正孔輸送層と同様に印刷法や塗布法により正孔輸送層上に積層することができる。第二正孔輸送材料をインキとして調整する際に用いることのできる溶剤としては、正孔輸送材料をインキ状に調整する際に用いたものと同様の水系・アルコール系の溶剤を好ましく使用することができる。
【0033】
第二正孔輸送層の厚みは10nm以上30nm以下の範囲で好ましく機能を発揮することができる。正孔移動度が1×10−4以上1cm/v・sであるので、10nm以上の厚みであっても正孔の移動を妨げることがない。そして、10nm以上に厚く形成することができるので、均一発光のために許容される膜厚変化の範囲が広く、スピンコート法や、それ以外の印刷法などのウエットコーティング法を適用することができる。30nm以下の厚みであれば、過度な電流を消費せずに十分な輝度を得ることができる。
第二正孔輸送層は、不純物の移行を防ぐのみならず、有機発光層への電子の移動を防ぐ(電子ブロック)ことができる。
【0034】
正孔輸送層3aから第二正孔輸送層3bを介して、有機発光層3cを形成する。有機発光層は、低分子発光材料を高分子発光材料、あるいは高分子バインダー中に分散させたものや、高分子発光材料を用いることができる。例えば、低分子発光材料として一般に有機発光材料として用いられている、クマリン系、ペリレン系、ピラン系、アンスロン系、ポルフィレン系、キナクリドン系、N,N’−ジアルキル置換キナクリドン系、ナフタルイミド系、N,N’−ジアリール置換ピロロピロール系等の発光性色素を高分子バインダーであるポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリビニルカルバゾール等に溶解させたものや、高分子発光材料としてポリパラフェニレンビニレン(PPV)系やポリアルキルフルオレン(PAF)系、ポリパラフェニレン系等を用いることができる。
【0035】
有機発光層を構成する機能性材料は高分子を含むため、溶剤に溶解又は分散してインキ状に加工し、これを正孔輸送層、第二正孔輸送層と同様に印刷法や塗布法により第二正孔輸送層上に積層することができる。有機発光材料をインキとして調整する際に用いることのできる溶剤としては、水系、アルコール系、有機溶剤等を挙げることができるが、発光材料は通常水分に暴露されることで劣化しやすく、また溶解度パラメータの大きい有機溶剤ではないと溶解しにくいため、芳香族系の有機溶剤を好ましく用いることができる。このような有機溶剤としては例えばトルエン、キシレン、アニソール等を挙げることができる。
【0036】
このようにしてインキ状に調整された機能性材料(機能性インキ)を例えばスピンコート法で一面に一定の厚みで塗布して機能性インキ皮膜とし、溶媒を除いて機能性薄膜として形成する。特に、隣接する画素で異なる発光色の有機発光材料を選択する必要がある場合は画素間の混色を防ぐためにも画素毎に入色できる方法が好ましい。このような方法としてはインキジェット法や印刷法が挙げられる。特に、絶縁性隔壁の高さが低くても混色なく形成可能で、また隔壁に撥インキ物質の添加の必要のない印刷法が好ましい。特に、被印刷基板を傷つけることなくパターン成膜が可能な、印刷版として樹脂凸版を用いた凸版印刷法が好ましい。
【0037】
インキに含まれる溶媒の乾燥方法としては、発光特性に支障が出ない程度に溶剤を除くことができればよく、加熱状態や減圧状態に置く方法を選択することができる。正孔輸送層及び第二正孔輸送層の成膜時は熱を加えてもよいが、発光特性への影響を考えると、発光材料はよりデリケートであるため、減圧状態で溶剤を除くのが好ましい。
【0038】
上記で述べた正孔輸送層、第二正孔輸送層、有機発光媒体層の他に、さらに正孔注入層、電子ブロック層、電子輸送層、電子注入層、正孔ブロック層、絶縁層等を設けてもよい。
【0039】
有機発光媒体層3の上方に第二電極4を形成し、第一電極2との間に有機発光媒体層3が挟まれるようにする。第一電極2と第二電極4で挟まれた有機発光媒体層3には電流が流れることによって正孔と電子が供給され、有機発光層3cで結合して発光する。
第二電極4を陰極とする場合にはMg,Al,Yb等の金属単体を用いる。また、有機発光媒体層と接する界面にLiやLiF等の化合物を1nm程度はさんでから、安定性・導電性の高いAlやCuを積層して用いる。または、電子注入効率と安定性を両立させるため、仕事関数の低い金属と安定な金属との合金系、例えばMgAg,AlLi,CuLi等の合金が使用できる。第二電極の形成方法は材料に応じて、抵抗加熱蒸着法、電子ビーム法、スパッタリング法を用いることができる。第二電極の厚さは、10nmから1000nm程度が望ましい。第二電極側から光を取り出す、いわゆるトップエミッション構造とする場合には第二電極4及び後述する封止層も透光性となるよう材料を選択する必要がある。
こうして本発明の有機EL素子を得ることができる。
【0040】
有機発光層は水分や酸素への暴露により発光特性が低下する。また、電極に用いられる金属は1族や2族の金属を含み反応性が高いため、やはり水や酸素と反応してしまう。従って外部からの水や酸素の浸入をふせぐことができるように、金属やガラスなどの封止基材を第一電極、有機発光媒体層及び第二電極を覆うように接着する。封止基材としては水や酸素の透過を防ぐことができるガラス・金属の他、酸化ケイ素等の皮膜を蒸着したPET等のプラスチックフィルムを用いることもできる。封止基材は外部からの物理的な圧力からも有機EL素子を守ることができる。
【0041】
図2に、基材1上に第一電極2、有機発光媒体層3、第二電極4を順次積層し、接着剤21を介して板状の封止基材22で封止を行った有機EL素子の模式断面図を示す。図中に示す2a及び4aはそれぞれ第一電極と第二電極の取り出し部である。
また、封止基材を接着する前に、第二電極上に水分や酸素の透過を防ぐ窒化物やケイ化物の薄膜を蒸着等の手段によって積層することもできる。また、一端浸入した水分や酸素の拡散を防ぐために、酸素吸収剤や水分吸収剤を封入して封止することもできる。
接着には熱硬化性接着剤や光硬化性接着剤を用いることができるが、過度の加熱は有機EL素子の発光特性に悪影響を与えるため、光硬化性接着剤を用いることが好ましい。
以下、本発明を用いて、有機EL素子を作製した一例を図に従って説明する。
【実施例】
【0042】
[実施例1]
図1に示すように、100mm四方のガラス基板を透光性の基板1とし、800μmピッチ(L/S=700/100)のITOラインを透明の第一電極2として設けた。その後、ITO端部をカバーするように絶縁性レジストをフォトリソ法でパターニングし、絶縁性隔壁5を設けた。続いて、UV/O洗浄を行った後、下記化学式(1)で表されるポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)とポリスチレンスルホン酸(以下PEDOT/PSSという)の1wt%水分散溶液を正孔輸送材料インキとし、スリットコート法を用いて厚み80nmで塗布してドープ型の正孔輸送材料を含む正孔輸送層3aを形成した。ここで、ホストはPEDOT、ドーパントはPSSである。さらに、未ドープ型の正孔輸送材料として、立体規則性ポリ3−アルキルチオフェン(アルドリッチ社)(0.1cm/v・s)0.5重量%ジクロロエタン溶液をスリットコート法により成膜し、第二正孔輸送層3bを形成した。第二正孔輸送層3bであるポリアルキルチオフェン薄膜の厚みは25nmであった。また、ポリアルキルチオフェン薄膜の膜厚の均一性は±2nmであった。
【0043】
【化1】

【0044】
続いて、ポリフルオレン系高分子発光材料をアニソール等の溶剤に1.3wt%で溶解させて有機発光インキを調整し、これを樹脂凸版印刷法を用いて膜厚50nmとなるよう先に形成した第二正孔輸送層3bの上にパターン形成して有機発光層3cを設けた。
次いで、MgAgを2元共蒸着により200nmの厚みで800μmピッチ(L/S=700/100)のストライプ状に形成して第二電極4とした。ここで第二電極のパターンは第一電極のパターンと直角に交わるように配置した。こうして本発明のパッシブ駆動型の有機EL素子を作製した。さらにガラス板を封止基板として用い、この封止基板に光硬化性接着剤を全面に塗布して有機EL素子の第二電極形成面に接着して封止を行った。この有機EL素子を、第一電極を陽極とし第二電極を陰極として、開始輝度400Cd/m(電圧5.2V)で直流駆動したところ、その輝度半減時間は3000時間であった。
【0045】
[実施例2]
第二正孔輸送層3bを形成する未ドープ型の正孔輸送材料として、結晶性ポリアルキルフルオレンである下記化学式(2)で示すポリジオクチルフルオレン(1×10−3cm/v・s)を用いたほかは実施例1と同様に厚さ20nm(均一性±2nm)の薄膜を形成して有機EL素子を作成し、封止までを行った。この有機EL素子を実施例1と同様に開始輝度400Cd/m(電圧8V)で直流駆動したところ、その輝度半減時間は1500時間であった。
【0046】
【化2】

【0047】
[比較例1]
第二正孔輸送層3bを形成する未ドープ型の正孔輸送材料として、立体規則性の小さいポリアルキルチオフェン(アルドリッチ社)(4×10−5cm/v・s)を用いたほかは実施例1と同様に厚さ25nm(均一性±2nm)のポリアルキルチオフェン薄膜を形成して有機EL素子を作成し、封止までを行った。この有機EL素子を実施例1と同様に開始輝度400Cd/mで直流駆動しようとしたが、駆動電圧を15Vまであげても400Cd/mに達することはなかった。
【0048】
[比較例2]
第二正孔輸送層3bを形成する未ドープ型の正孔輸送材料として、非特許文献1で示すフルオレン誘導体(1×10−5cm/v・s)を用いたほかは実施例1と同様に厚さ20nm(均一性±2nm)の薄膜を形成して有機EL素子を作成し、封止までを行った。この有機EL素子を実施例1と同様に開始輝度400Cd/m(電圧12V)で直流駆動したところ、その輝度半減時間は50時間であった。輝度半減時間が極端に短いのは、輝度をあげるために高い電圧をかける必要があったためである。
【0049】
[比較例3]
第二正孔輸送層3bを形成せずに正孔輸送層3a上に有機発光層3cを形成した以外は実施例1と同様に有機EL素子を作成し、封止までを行った。この有機EL素子を実施例1と同様に開始輝度400Cd/m(電圧4.6V)で直流駆動したところ、その輝度半減時間は400時間であった。輝度半減時間が短いのは、イオン性不純物が有機発光層を劣化させたためである。
【0050】
[実施例3]
実施例1と同様に厚さ20nm(均一性±2nm)の薄膜を第二正孔輸送層として形成して有機EL素子を作成し、封止までを行った。また、第二正孔輸送層の形成はスリットコート法に変えて第一電極の形状に対応した樹脂凸版を用いた凸版印刷法によって印刷を行い積層した。この有機EL素子を実施例1と同様に開始輝度400Cd/m(電圧5.1V)で直流駆動したところ、その輝度半減時間は3000時間であった。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の有機EL素子の一例を示す模式断面図である。
【図2】本発明の有機EL素子を封止した状態の一例を示す模式断面図である。
【符号の説明】
【0052】
1:基板
2:第一電極
2a:取り出し部
3:有機発光媒体層
3a:正孔輸送層
3b:第二正孔輸送層
3c:有機発光層
4:第二電極
4a:取り出し部
5:絶縁性隔壁
10:ポリマーEL素子
21:接着剤
22封止基材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、当該基板上に第一電極、有機発光媒体層、第二電極を備え、当該有機発光媒体層は少なくとも正孔輸送層と有機発光層を備え、さらに前記正孔輸送層と前記有機発光層との間に正孔移動度が1×10−4以上1cm/v・s以下の第二正孔輸送層を備えた有機エレクトロルミネッセント素子。
【請求項2】
前記第二正孔輸送層の膜厚は10nm以上30nm以下であることを特徴とする請求項1記載の有機エレクトロルミネッセント素子。
【請求項3】
前記第二正孔輸送層は未ドープ型の正孔輸送材料を含み、当該第二正孔輸送層及び前記正孔輸送層が含む正孔輸送材料は高分子またはオリゴマーであることを特徴とする請求項1または2記載の有機エレクトロルミネッセント素子。
【請求項4】
前記未ドープ型の正孔輸送材料は立体規則性ポリ3−アルキルチオフェンであることを特徴とする請求項3に記載の有機エレクトロルミネッセント素子。
【請求項5】
前記未ドープ型の正孔輸送材料は結晶性ポリアルキルフルオレンであることを特徴とする請求項3記載の有機エレクトロルミネッセント素子。
【請求項6】
前記未ドープ型の正孔輸送材料はトリフェニルアミンユニットを構造中に有するポリマーであることを特徴とする請求項3記載の有機エレクトロルミネッセント素子。
【請求項7】
前記未ドープ型の正孔輸送材料はトリフェニルアミンスターバーストポリマーであることを特徴とする請求項3記載の有機エレクトロルミネッセント素子。
【請求項8】
基板と、当該基板上に少なくとも第一電極、有機発光媒体層、第二電極を備え、当該有機発光媒体層は少なくとも正孔輸送層と有機発光層を備え、さらに前記正孔輸送層と前記有機発光層との間に正孔移動度が1×10−4以上1cm/v・s以下の第二正孔輸送層を備えた有機エレクトロルミネッセント素子の製造方法であって、
1.基板上に第一電極を形成する工程、
2.前記第一電極の上方に正孔輸送層を湿式法により形成する工程、
3.前記正孔輸送層の上方に第二正孔輸送層を湿式法により形成する工程、
4.前記第二正孔輸送層の上に有機発光層を湿式法により形成する工程、
5.正孔輸送層、第二正孔輸送層、有機発光層を含む有機発光媒体層の上方に第二電極を形成する工程、
を備えることを特徴とする有機エレクトロルミネッセント素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−250718(P2007−250718A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−70458(P2006−70458)
【出願日】平成18年3月15日(2006.3.15)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】