説明

エレベータのガイドレールの心出し治具

【課題】ピアノ線の本数を2本にしてもこれまでと同様に昇降路内でガイドレールの位置決めが行えるエレベータのガイドレールの心出し装置を提供する。
【解決手段】心出し装置1は、第1および第2のピアノ線11,12と、レール保持治具20とを備える。第1および第2のピアノ線11,12は、エレベータの昇降路103のホールドア開口部104の両脇に、鉛直方向に沿って平行に設置される。レール保持治具20は、ゲージ部30と第1および第2のクランプ41,42とを備える。ゲージ部30は、第1および第2のピアノ線11,12の少なくとも3箇所に対して相対位置を合わせる。第1のクランプ41は、籠用ガイドレール101を保持する。第2のクランプは、錘用ガイドレール102を保持する。このレール保持治具20は、ゲージ部30(31,32,33)が合わされることによって姿勢が位置決めされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、エレベータの昇降路に設置されるガイドレールの心出し治具に関する。
【背景技術】
【0002】
エレベータの昇降路に設置されるガイドレールには、乗籠を案内するための籠用ガイドレールと、釣合錘を案内するための錘用ガイドレールがある。どちらのガイドレールも昇降路の上部から下部まで鉛直に張られたピアノ線を基準に位置決めされる。ガイドレールは、昇降路の下部から上部まで粗組みされたのち、下から順に心出し作業が行われる。心出し作業は、昇降路内に足場を組んで行われたり、ガイドレールに組み付けられた乗籠またはその籠枠を利用して行われたりする。
【0003】
このとき使用される心出し治具は、一対となる籠用ガイドレールどうし又は錘用ガイドレールどうしを拘束する。ガイドレールは、治具に印されたマークにピアノ線が合うように位置を微調整される。ピアノ線は、籠用および錘用のそれぞれガイドレールの近傍に設置されるほか、各階の乗場ドア装置を位置決めするためにも設置される。したがって、通常では全部で6本のピアノ線が昇降路内に設置される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−163547号公報
【特許文献2】特開2007−320662号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
昇降路内における作業において位置決めの基準となるピアノ線には、触れないように注意が必要である。本数が多いと、それだけ注意を払うべき箇所が多くなり、作業効率が低下する。また、ピアノ線そのものも位置決めをしなければならない。6本もピアノ線があると、1本ずつの位置決めだけでなく、相互の位置決めも必要であり、その分だけさらに作業時間を要する。
【0006】
そこで、本発明は、ピアノ線の本数を2本にしてもこれまでと同様に昇降路内でガイドレールの位置決めが行えるエレベータのガイドレールの心出し装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一実施形態のガイドレールの心出し装置は、第1のピアノ線および第2のピアノ線と、レール保持治具とを備える。第1のピアノ線および第2のピアノ線は、エレベータの昇降路のホールドア開口部の両脇に、鉛直方向に沿って平行に設置される。レール保持治具は、ゲージ部と第1のクランプと第2のクランプとを備える。ゲージ部は、第1のピアノ線および第2のピアノ線の少なくとも3箇所に対して相対位置を合わせる。第1のクランプは、乗籠を案内する一対の籠用ガイドレールを保持する。第2のクランプは、釣合錘を案内する一対の錘用ガイドレールを保持する。このレール保持治具は、ゲージ部が合わされることによって姿勢が位置決めされる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】一実施形態のガイドレール心出し装置を示す斜視図。
【図2】図1に示した心出し治具の平面図。
【図3】図1に示したレール保持治具の第1のゲージ部の斜視図。
【図4】図1に示したレール保持治具の第2のゲージ部の斜視図。
【図5】図1に示したレール保持治具の第3のゲージ部の斜視図。
【図6】図2中のF6部分を拡大した平面図。
【図7】図2中のF7部分を拡大した平面図。
【図8】図2中のF8部分を拡大した平面図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
第1の実施形態の心出し装置1について、図1から図8を参照して説明する。図1に示す心出し装置1は、エレベータの昇降路内において乗籠を案内する籠用ガイドレール101および釣合錘を案内する錘用ガイドレール102を最終調整する、いわゆる「心出し」作業に用いられる。この心出し装置1は、第1のピアノ線11および第2のピアノ線12と、レール保持治具20とを備える。
【0010】
第1のピアノ線11および第2のピアノ線12は、図2に示すように昇降路103のホールドア開口部104の両脇に、鉛直方向に沿って互いに平行に設置される。第1のピアノ線11および第2のピアノ線12は、まず、昇降路103の最上部から下振として吊下げられたのち、昇降路103の最下部でそれぞれ固定される。この第1のピアノ線11および第2のピアノ線12は、籠用ガイドレール101および錘用ガイドレール102の心出しのため以外に、各階のホールドア装置や昇降路103内に設置される様々な設備の基準として利用される。
【0011】
レール保持治具20は、ゲージ枠21と中央梁22と第1のコーナプレート23と第2のコーナプレート24と第3のコーナプレート25とを、連結具26a〜26eによって、トラス構造に組んだ枠体であって、図1および図2に示すようにゲージ部30と第1のクランプ41と第2のクランプ42とを有している。レール保持治具20は、軽量化のためにアルミニウム合金製の角パイプやアングル材で構成される。
【0012】
ゲージ枠21は、ホールドア開口部104側に面した三角形に組まれて剛体に構成されている。このゲージ枠21は、図2に示すように、第1のピアノ線11および第2のピアノ線12が並ぶ方向に沿って水平に延びた基準梁211と、第1のピアノ線11に沿って鉛直に配置された柱部212と、基準梁211の第2のピアノ線側の端部から柱部212の下端に接続する斜め材213とが溶接などによって接合されている。
【0013】
中央梁22は、籠用ガイドレール101の間に掛け渡されるようにゲージ枠21に対してほぼ平行に配置され、第1のピアノ線11寄りの端部に第1のコーナプレート23が、第2のピアノ線12寄りの端部に第2のコーナプレート24が、それぞれ取り付けられている。第1のコーナプレート23は、基準梁211と柱部212の上端との接合部に連結具26aでつながれる。また、ゲージ枠21に対して中央梁22が捻れるのを抑制するために、図1に示すように第1のコーナプレート23が取り付けられた側の中央梁22の端部から柱部212の下端に、斜め材214が取り付けられる。第2のコーナプレート24は、基準梁211と連結具26aの接続部、および第2のピアノ線12側の基準梁211の端部に、それぞれ連結具26b,26cでつながれる。
【0014】
本実施形態において錘用ガイドレール102は、第2のピアノ線12に近い側の昇降路103の内壁に沿うように、図2に示されるように籠用ガイドレール101が配置される方向と直交する方向に一対に配置されている。第3のコーナプレート25は、ホールドア開口部104から遠位の錘用ガイドレール102の近傍に配置され、第1のコーナプレート23および第2のコーナプレート24と連結具26d,26eによって接続される。
【0015】
ゲージ部30は、図3に示す第1のゲージ部31、図4に示す第2のゲージ部32、図5に示す第3のゲージ部33の少なくとも3つを含む。このゲージ部30は、第1のピアノ線11および第2のピアノ線12の少なくとも3か所に対して相対位置を合わせることでレール保持治具20の姿勢を位置決めするために用意されている。各ゲージ部31,32,33は、ゲージ枠21からそれぞれ第1のピアノ線および第2のピアノ線に向かって延びたタブ形状である。
【0016】
第1のゲージ部31は、図3に示すようにゲージ枠21の柱部212の上端に設けられ、第1のピアノ線11に対して非接触に位置合わせができるように形成された第1のノッチ311を有している。第2のゲージ部32は、第1のピアノ線11に沿って第1のゲージ部31から離れた位置、すなわち図1に示すように第1のゲージ部31の直下に配置されている。本実施形態では、第2のゲージ部32は、図4に示すようにゲージ枠21の柱部212の下端に設けられ、第1のピアノ線11に対して非接触に位置あわせができるように形成された第2のノッチ321を有している。第3のゲージ部33は、図5に示すように第2のピアノ線12に面したゲージ枠21の基準梁211の途中に設けられ、第2のピアノ線12に対して非接触に位置合わせができるように形成された第3のノッチ331を有している。第3のゲージ部33は、本実施形態において第1のゲージ部31と同じ高さに用意されている。第1から第3のゲージ部31,32,33の第1から第3のノッチ311,321,331の周囲には、少なくとも2つの指標が罫書かれている。各ゲージ部31,32,33の指標は、ノッチ311,321,331の中で互いに交差する。
【0017】
第1のクランプ41は、中央梁22の両端部に配置された第1のコーナプレート23および第2のコーナプレート24に設けられ、図6および図7に示すように籠用ガイドレール101をそれぞれ把持する。第2のクランプ42は、錘用ガイドレール102の配置に対応して配置され、本実施形態の場合、第2のコーナプレート24および第3のコーナプレート25に設けられ、図7および図8に示すように錘用ガイドレール102を把持する。本実施形態において、第1のクランプ41および第2のクランプ42は、同じ構造である。
【0018】
第1のクランプ41および第2のクランプ42は、いずれも、第1から第3のコーナプレート23,24,25に固定されて籠用ガイドレール101または錘用ガイドレール102の刃101a,102aに当てられるブロック411,421と、籠用ガイドレール101または錘用ガイドレール102をブロック411,421にそれぞれ押し当てるように抱え込むアーム412,422とを有している。アーム412,422は、籠用ガイドレール101および錘用ガイドレール102のフランジに係合するフック413,423を先端部に有しており、ハンドル414,424でフック413,423を締め上げることによって、籠用ガイドレール101および錘用ガイドレール102を拘束する。
【0019】
第1から第3のコーナプレート23,24,25は、トラス構造の剛体に連結されている。したがって、第1のクランプ41および第2のクランプ42によって拘束されることによって籠用ガイドレール101および錘用ガイドレール102は、相対位置が保持される。つまり、この心出し装置1を利用することによって、籠用ガイドレール101および錘用ガイドレール102を同時にアラインメントできる。
【0020】
以下にこの心出し装置1を利用したアラインメント方法を説明する。まず、第1のピアノ線11および第2のピアノ線12を昇降路103内に設置する。第1のピアノ線11および第2のピアノ線12は、各階のホールドア装置の設置および位置調整にも用いられる。したがって、籠用ガイドレール101および錘用ガイドレール102が設置される前にホールドア装置が組み立てられる場合は、さらにその前に、第1のピアノ線11および第2のピアノ線12を設置する。
【0021】
次に、籠用ガイドレール101および錘用ガイドレール102を昇降路103内部に組み上げる。そして、乗籠を籠用ガイドレール101に組み付ける、またはそれに代わる作業足場となる例えばゴンドラを籠用ガイドレール101に組み付ける。作業員は、乗籠の天井またはゴンドラに乗り、アラインメントしたい高さ位置の籠用ガイドレール101および錘用ガイドレール102に第1のクランプ41および第2のクランプ42によってレール保持治具20を装着する。このとき、レール保持治具20を装着する近傍で籠用ガイドレール101および錘用ガイドレール102を保持するレールサポートは、レールの位置を微調整できる程度に弛めておく。
【0022】
レール保持治具20の第1から第3のゲージ部31,32,33のそれぞれの指標の交点を、第1のピアノ線11上および第2のピアノ線12上に合致させると、籠用ガイドレール101および錘用ガイドレール102は、所望する位置にアラインメントされる。第1から第3のゲージ部31,32,33の指標の交点を第1のピアノ線11上および第2のピアノ線12上に合致させる方法は、どのような方法であってもよい。いくつか例示すると、昇降路103の壁面とレール保持治具20との間にジャッキを挿入してその距離を調整してもよいし、予め決まった位置に用意されたアンカーにアイピースやアイボルトを装着してターンバックルで昇降路103の壁面とレール保持治具20との間の距離を調整してもよい。
【0023】
また、籠用ガイドレール101および錘用ガイドレール102をそれぞれ保持しているレールサポートに設けられたアジャスト機構を調整したり、レールサポートと籠用ガイドレール101および錘用ガイドレール102との間に挿入されるスペーサやシムプレートを追加または取り除いて調整したりすることによって、第1から第3のゲージ部31,32,33の指標の交点を第1のピアノ線11上および第2のピアノ線12上に合致させてもよい。
【0024】
以上のように、この心出し装置1は、第1のピアノ線11に対する少なくとも1か所、本実施形態では第1のゲージ部31と第2のゲージ部32による2か所、および第2のピアノ線12に対する少なくとも1か所、本実施形態では第3のゲージ部33による1か所を含む、少なくとも3か所に対してレール保持治具20に設けられた少なくとも3つのゲージ部30、本実施形態では第1から第3のゲージ部31,32,33を合致させると、レール保持治具20の姿勢が位置決めされる。その結果、レール保持治具20に保持された籠用ガイドレール101および錘用ガイドレール102は、アラインメントされる。
【0025】
本実施形態の心出し装置1のレール保持治具20は、第1のピアノ線11および第2のピアノ線に対して少なくとも3箇所で位置決めするので、基準となるピアノ線が第1のピアノ線11および第2のピアノ線12の2本のみでも籠用ガイドレール101および錘用ガイドレール102の位置を正確に心出しすることができる。また、レール保持治具20がトラス構造による剛体に構成されているため、第1のピアノ線11および第2のピアノ線12がホールドア開口部104寄りに設置されていても、水準器によってレベル合わせをする必要がない。
【0026】
なお、本実施形態の心出し装置1のレール保持治具20は、必要最小限に近い数の梁、柱部および連結具で構成されている。したがって、レール保持治具20は、第1のコーナプレート23、第2のコーナプレート24、第3のコーナプレート25にそれぞれ柱部を追加し、連結具や梁で互いにトラス構造に結合してもよい。
【0027】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することを意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0028】
1…心出し装置、11…第1のピアノ線、12…第2のピアノ線、20…レール保持治具、30…ゲージ部、31…第1のゲージ部、32…第2のゲージ部、33…第3のゲージ部、41…第1のクランプ、42…第2のクランプ、101…籠用ガイドレール、102…錘用ガイドレール、103…昇降路、104…ホールドア開口部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エレベータの昇降路のホールドア開口部の両脇に鉛直方向に沿って平行に設置される第1のピアノ線および第2のピアノ線と、
前記第1のピアノ線および前記第2のピアノ線の少なくとも3か所に対して相対位置を合わせるゲージ部、乗籠を案内する一対の籠用ガイドレールを保持する第1のクランプ、釣合錘を案内する一対の錘用ガイドレールを保持する第2のクランプ、を有し、前記ゲージ部が合わされることによって姿勢が位置決めされるレール保持治具と
を備えることを特徴とするガイドレールの心出し装置。
【請求項2】
前記ゲージ部は、
第1のピアノ線に合わされる第1のゲージ部と、前記第1のゲージ部に対して前記第1のピアノ線に沿って離れた位置に設置され前記第1のピアノ線に合わされる第2のゲージ部と、前記第2のピアノ線に合わされる第3のゲージ部とを少なくとも含む
ことを特徴とする請求項1に記載のガイドレールの心出し装置。
【請求項3】
エレベータの籠用ガイドレールおよび錘用ガイドレールをそれぞれ心出しするアラインメント方法であって、
昇降路のホールドア開口部の両脇に鉛直方向に沿って平行に第1のピアノ線および第2のピアノ線を設置し、
前記籠用ガイドレールおよび前記錘用ガイドレールをそれぞれ保持したレール保持治具に設けられた少なくとも3つのゲージ部を、前記第1のピアノ線に対する少なくとも1か所および前記第2のピアノ線に対する少なくとも1か所を含む少なくとも3箇所に対して合わせる
ことを特徴とするアラインメント方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−49509(P2013−49509A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−187964(P2011−187964)
【出願日】平成23年8月30日(2011.8.30)
【出願人】(390025265)東芝エレベータ株式会社 (2,543)
【Fターム(参考)】