説明

エレベータの戸装置

【課題】戸当り側から乗場の戸及びかごの戸の隙間にエレベータ利用者の手が入り込んだ場合に、エレベータ利用者の手への衝撃を吸収し、エレベータ利用者が入り込み部位を痛めることのないエレベータの戸装置を提供する。
【解決手段】乗場の戸3及びかごの戸8が互いに干渉しないように隙間を有して配置されるエレベータの戸装置において、エレベータの戸の戸当り部の裏面側に配置され、戸当り側からエレベータ利用者の手が入り込んだ場合に、乗場の戸3及びかごの戸8の間に形成される隙間の全部又は一部を広げるように動作する衝撃吸収部を備える構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、エレベータの出入口を開閉するエレベータの戸装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のエレベータの戸装置を図8〜図10を用いて説明する。図8は従来のエレベータの戸装置の縦断面図、図9は従来のエレベータの戸装置の横断面図、図10は従来のエレベータの乗場の戸を昇降路側から見た斜視図である。
【0003】
図において、1はエレベータの乗場の床面、2は乗場の敷居、3は乗場の戸、4は乗場の戸のドアハンガー、5は乗場の出入口に設けられた三方枠の横枠、6はエレベータのかごの床面、7はかごの敷居、8はかごの戸、9はかごの戸のドアハンガー、10はかご室の出入口を形成する横枠である。乗場の戸3とかごの戸8は、各々の上端に設置されたドアハンガー4,9を介してドア開閉装置(図示せず)によって、エレベータの出入口の間口方向に連動して開閉する。この時、乗場の戸3とかごの戸8の下端に設けられた戸の脚3a、7aは、乗場の敷居2、かごの敷居7に設けられる溝によって円滑に案内される。乗場の戸3とかごの戸8の間では、緩衝用戸当りゴム11が乗場の戸3に、セーフティシュー12がかごの戸8に取り付けられている。緩衝用戸当りゴム11とセーフティシュー12は、それぞれ、乗場の敷居2の先端2a、かごの敷居7の先端7aから突出しないように配置される。エレベータのかごの昇降時に機器類の干渉を避けるために、機器類の寸法や設置のばらつきも考慮して、図9の斜線部Eで示した乗場の敷居2の先端2aとかごの敷居7の先端7aの間には、30mm前後の隙間が必要とされている。
【0004】
また、従来技術として、ドア本体と、このドア本体の開閉方向端部に沿って延びているとともに、前記開閉方向端部に戸厚方向への位置調整可能に取り付けられている戸厚調整部材とを備えていることを特徴とするエレベータ用ドアが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
【特許文献1】特開平3−232685号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来のエレベータの戸装置においては、乗場の戸3とセーフティシュー12の間には、乗場の敷居2の先端2aとかごの敷居7の先端7aとの間以上の隙間があり、誤ってエレベータ利用者の手や腕等が入り込んでしまう場合や、子供のいたずらにより手や腕等を入れてしまう場合があった。この時、エレベータ利用者等は、強い衝撃による打撲、引き抜こうとする人的な抜き出し動作、セーフティシュー12の電気的制御による戸の開閉反転動作等により、入り込み部位を痛めることが多かった。また、入り込み部位の抜き出しができず、専門者による救出を待たなければならない場合があった。
【0007】
また、特許文献1記載のものは、エレベータの戸厚の調整を可能としているが、上述のような課題については考慮されていない。
【0008】
この発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、その目的は、戸当り側から乗場の戸及びかごの戸の隙間に誤ってエレベータ利用者の手が入り込んだ場合に、エレベータ利用者の手への衝撃を吸収するエレベータの戸装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明に係るエレベータの戸装置は、乗場の戸及びかごの戸が互いに干渉しないように隙間を有して配置されるエレベータの戸装置において、エレベータの戸の戸当り部の裏面側に配置され、戸当り側からエレベータ利用者の手が入り込んだ場合に、前記隙間の全部又は一部を広げるように動作する衝撃吸収部を備えたものである。
【発明の効果】
【0010】
この発明は、乗場の戸及びかごの戸が互いに干渉しないように隙間を有して配置されるエレベータの戸装置において、エレベータの戸の戸当り部の裏面側に配置され、戸当り側からエレベータ利用者の手が入り込んだ場合に、前記隙間の全部又は一部を広げるように動作する衝撃吸収部を備える構成としたことで、エレベータ利用者の手への衝撃を吸収することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
この発明をより詳細に説明するため、添付の図面に従ってこれを説明する。なお、各図中、同一又は相当する部分には同一の符号を付しており、その重複説明は適宜に簡略化ないし省略する。
【0012】
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1におけるエレベータの戸装置を示す横断面図、図2はこの発明の実施の形態1におけるエレベータの乗場の戸を昇降路側から見た斜視図、図3はエレベータ利用者の手がエレベータの戸装置の間に入り込んだ状態を示す図1相当図、図4はこの発明の実施の形態1におけるエレベータの戸装置の衝撃吸収部がエレベータ利用者の手への衝撃を吸収する状態を示す図1相当図である。
【0013】
一般に、エレベータの戸装置を構成する乗場の戸3とかごの戸8の間では、セーフティシュー12がかごの戸8に設置されており、エレベータの戸装置が閉まる際に戸当り面の間でエレベータ利用者の手18や腕等が挟まれた場合にエレベータの戸装置を開くように制御されている。また、乗場の戸3とかごの戸8の間では、乗場の戸3とかごの戸8の開閉を連動させるために互いの対向面に設置される係合機器(図示せず)以外の他の機器は、エレベータのかご(図示せず)の昇降時に干渉しないように、乗場の敷居2の先端2aまたはかごの敷居7の先端7aから双方の間に形成される隙間側に突出せずに配置されている。さらには、機器類の寸法や設置のばらつきも考慮して、乗場の敷居2の先端2aとかごの敷居7の先端7aの間には、30mm前後の隙間が形成されている。
【0014】
この発明のエレベータの戸装置は、特に、30mm前後の隙間が形成される乗場の敷居2の先端2aとかごの敷居7の先端7aの隙間よりも大きい乗場の戸3とセーフティシュー12の間に形成される隙間に、誤ってエレベータ利用者の手18が入り込んだとしても、入り込み部位を痛めることなく、容易に引き出すことができるものである。
【0015】
図において、乗場の戸3は、戸当り部で折り曲げ形成される乗場の戸本体13と、肉薄の金属板や樹脂等の剛性の低い部材で一体形成され、乗場の戸本体13の戸当り側端面に固定される戸当り板14から構成されている。乗場の戸本体13には、乗場の戸3の全高に渡って配置される乗場側の表面及び戸当り側端面と、乗場の戸3とセーフティシュー12の隙間側に配置され、中央に切り欠きが設けられる裏面が折り曲げ加工により一体形成されている。また、乗場の戸本体13の戸当り側端面には、乗場の戸3の全高の高さを有する戸当り板14の固定面が配置されている。この戸当り板14の固定面の戸袋側内面には、スタッドボルト等からなる締結具15が戸袋側に延びて固定されており、乗場の戸本体13の戸当り側端面に設けられた貫通穴を貫通している。この締結具15に、ワッシャー16を介して戸袋側からナットからなる締結補助具17が取り付けられることにより、乗場の戸本体13に戸当り板14の固定面が固定される。また、戸当り板14の固定面において、乗場の戸3とセーフティシュー12の間に形成される隙間側の一縁部中央からは、戸当り側から乗場の戸3とセーフティシュー12の間に形成される隙間にエレベータ利用者の手18が入り込んだ場合に乗場の戸本体13の表面側に塑性変形又は弾性変形する衝撃吸収部として機能する裏面が、乗場の戸本体13の裏面に設けられる切り欠き部を埋めるように戸袋側に延びている。この戸当り板14の裏面の先端部14aは、乗場の戸本体13の表面側に方向を変えて延びている。また、乗場の戸3とセーフティシュー12の間に形成される隙間側において、一体形成される戸当り板14の固定面と裏面の交わり部及び裏面とその先端部14aの交わり部からなる裏面の縦方向の縁部は、滑らかな曲面で形成されている。
【0016】
このように構成されたエレベータの戸装置においては、例えば、図4のA部で示すように、戸当り側から乗場の戸3とセーフティシュー12の間に形成される隙間にエレベータ利用者の手18が入り込んだ場合、戸当り板14は、乗場の戸3とセーフティシュー12の間に形成される隙間を広げるように固定面と裏面の交わり部を支点として乗場の戸本体13の表面側に塑性変形又は弾性変形し、エレベータ利用者の手18への衝撃を吸収する。
【0017】
以上で説明した実施の形態1によれば、戸当り側から乗場の戸3とセーフティシュー12の間に形成される隙間にエレベータ利用者の手18が入り込んでも、戸当り板14の裏面で構成される衝撃吸収部が、乗場の戸3とセーフティシュー12の間に形成される隙間を広げるにように変形するため、入り込み部位への衝撃を吸収し、入り込み部位を痛めることがない。また、乗場の戸3とセーフティシュー12の間に形成される隙間が広がるため、入り込み部位を引き抜くことも容易にでき、専門者による救出を待つ必要もない。また、戸当り板14の裏面の縦方向の縁部は滑らかな曲面で形成されるため、エレベータ利用者の手18が材料の端部等に引っ掛かって傷付くということもない。
【0018】
実施の形態2.
図5はこの発明の実施の形態2におけるエレベータの戸装置を示す横断面図、図6は図5のB−B線における断面の要部拡大図、図7はエレベータの戸装置の戸当り板が乗場の戸本体の表面側に移動した状態を示す図5の要部拡大図である。
【0019】
実施の形態2においては、戸当り板14の固定面の戸袋側内面に固定された締結具15が、乗場の戸本体13の戸当り側端面に設けられた水平方向に延びる長穴13aを貫通している。この長穴13aに戸袋側へ延びる締結具15がガイド棒として水平方向に案内されることにより、戸当り板14は乗場の戸3の戸厚を薄くする方向に摺動可能になっている。乗場の戸本体13の戸当り側端面内面と、乗場の戸本体13内の戸袋側で締結具15に保持される押え板として機能するワッシャー16との間には、中心部を締結具15に貫通され、所定量を圧縮された圧縮ばね19が配置されている。また、乗場の戸本体13の戸当り側端面外面及び戸当り板14の固定面の戸袋側内面の所定位置には、通常時に互いに嵌め合い、戸当り板14の裏面に所定以上の外力が乗場の戸本体13の表面方向に加わった場合には、その嵌め合いが外れる凸部13bと凹部14bからなる嵌合部が形成されている。通常時において、乗場の戸本体13及び戸当り板14は、圧縮ばね19からの荷重により嵌合部の嵌合が維持され、乗場の戸3の戸厚Cが決定される。
【0020】
このように構成されたエレベータの戸装置においては、図7の矢印で示すように、戸当り側から乗場の戸3とセーフティシュー12の間に形成される隙間にエレベータ利用者の手18が入り込んで、戸当り板14の裏面に所定以上の外力が乗場の戸3の表面方向に加わった場合、乗場の戸本体13の凸部13bと戸当り板14の凹部14bの嵌め合いが外れ、戸当り板14が乗場の戸本体13の表面側に摺動する。その結果、乗場の戸3の戸厚Dは、通常時の乗場の戸3の戸厚Cよりも薄くなる。そして、エレベータ利用者の入り込み部位を引き抜き、戸当り板14の裏面への外力が無くなれば、戸当り板14を乗場の戸本体13の凸部13bと戸当り板14の凹部14bが嵌め合うまで引き戻すことにより、通常時の乗場の戸3の戸厚Cに戻すことが可能となっている。
【0021】
以上で説明した実施の形態2によれば、実施の形態1と同様の効果に加え、エレベータ利用者の入り込み部位を引き抜いた後、容易に通常時の乗場の戸3の戸厚Cに戻すことができるため、部品の取替えを必要としない。さらには、乗場の戸3は、乗場の戸本体13の凸部13bと戸当り板14の凹部14bの加工位置や、乗場の戸本体13の長穴13aの加工位置、長さ等を変えることにより、様々な戸厚への対応、戸当り板14の移動量の調整が可能である。
【0022】
なお、上述の実施の形態1及び実施の形態2では、大きな隙間を有する乗場の戸3とセーフティシュー12の間にエレベータ利用者の手18が入り込んだ場合に対応するため、乗場の戸3に戸当り板14を設置したが、かごの戸8とセーフティシュー12の間にエレベータ利用者の手18が入り込んだ場合に対応するために、かごの戸8に戸当り板14を設置してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】この発明の実施の形態1におけるエレベータの戸装置を示す横断面図である。
【図2】この発明の実施の形態1におけるエレベータの乗場の戸を昇降路側から見た斜視図である。
【図3】エレベータ利用者の手がエレベータの戸装置の間に入り込んだ状態を示す図1相当図である。
【図4】この発明の実施の形態1におけるエレベータの戸装置の衝撃吸収部がエレベータ利用者の手への衝撃を吸収する状態を示す図1相当図である。
【図5】この発明の実施の形態2におけるエレベータの戸装置を示す横断面図である。
【図6】図5のB−B線における断面の要部拡大図である。
【図7】エレベータの戸装置の戸当り板が乗場の戸本体の表面側に移動した状態を示す図5の要部拡大図である。
【図8】従来のエレベータの戸装置の縦断面図
【図9】従来のエレベータの戸装置の横断面図
【図10】従来のエレベータの乗場の戸を昇降路側から見た斜視図
【符号の説明】
【0024】
1 エレベータの乗場の床面
2 乗場の敷居
2a 先端
3 乗場の戸
3a 戸の脚
4 乗場の戸のドアハンガー
5 三方枠の横枠
6 エレベータのかごの床面
7 かごの敷居
7a 先端
8 かごの戸
8a 戸の脚
9 かごの戸のドアハンガー
10 かご室の出入口を形成さる横枠
11 緩衝用戸当りゴム
12 セーフティシュー
13 乗場の戸本体
13a 長穴
13b 凸部
14 戸当り板
14a 先端部
14b 凹部
15 締結具
16 ワッシャー
17 締結補助具
18 エレベータ利用者の手
19 圧縮ばね

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗場の戸及びかごの戸が互いに干渉しないように隙間を有して配置されるエレベータの戸装置において、
エレベータの戸の戸当り部の裏面側に配置され、戸当り側からエレベータ利用者の手が入り込んだ場合に、前記隙間の全部又は一部を広げるように動作する衝撃吸収部
を備えたことを特徴とするエレベータの戸装置。
【請求項2】
衝撃吸収部は、
エレベータの戸本体に形成される戸当り側端面と、
前記戸当り側端面の戸当り側に配置される固定面及び戸当り側からエレベータ利用者の手が入り込んだ場合に乗場の戸及びかごの戸の間に形成される隙間の全部又は一部を広げるように動作する裏面を有する戸当り板と、
前記戸当り側端面と前記固定面を固定する固定手段と、
を備えたことを特徴とする請求項1記載のエレベータの戸装置。
【請求項3】
固定手段は、
戸当り側端面に形成される貫通穴と、
戸当り板の固定面に固定され、前記貫通穴を貫通し、戸袋側に延びる締結具と、
前記締結具に戸袋側から取り付けられる締結補助具と、
で構成されていることを特徴とする請求項2記載のエレベータの戸装置。
【請求項4】
戸当り板は、戸当り側からエレベータ利用者の手が入り込んだ場合に変形する剛性の低い部材で形成されることを特徴とする請求項2又は請求項3に記載のエレベータの戸装置。
【請求項5】
衝撃吸収部は、
戸当り側端面の内面と締結補助具の間で圧縮される圧縮ばねと、
前記戸当り側端面の外面及び戸当り板の固定面の内面に形成され、通常時に前記圧縮ばねからの荷重により嵌め合いを維持し、前記戸当り板に所定以上の外力がエレベータの戸の表面方向に加わった場合に嵌め合いが外れる嵌合部と、
を備え、
前記戸当り板は、戸当り側からエレベータ利用者の手が入り込んだ場合に、前記嵌合部の嵌め合いが外れて、水平方向に延びる長穴で形成される貫通穴に締結具が案内され、エレベータの戸の戸厚を薄くする方向に摺動することを特徴とする請求項3記載のエレベータの戸装置。
【請求項6】
衝撃吸収部は、乗場の戸及びかごの戸の間に形成される隙間側の縦方向の縁部が曲面で形成されることを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれかに記載のエレベータの戸装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−100799(P2008−100799A)
【公開日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−283864(P2006−283864)
【出願日】平成18年10月18日(2006.10.18)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】