説明

エレベーターのドア装置

【課題】エレベーターのドア装置の係合位置をリアルタイムに精度良く検出する。
【解決手段】電動機9の回転を検出して回転加速度を出力するレゾルバ17と、電動機9の電流を検出する電流センサ18と、電動機9の回転加速度と電動機9に流れる電流と自らの出力である推定ドア重量フィードバック値とを入力とする逐次ドア重量推定手段31と、ドア重量推定手段31の出力からドアの係合を判断する速度パターン生成器19とを設けている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はエレベーターのドア装置に関するものであり、特に、かご側ドアと乗場側ドアの係合を検出し、係合のタイミングに応じてドアの速度制御を行うエレベーターのドア装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図4は一般的なエレベーターのドア開速度パターンの一例を示した図である。一般的に、エレベーターのドアは、かご側に設けられた左右2枚のかご側ドアと乗場側に設けられた左右2枚の乗場側ドアとの合計4枚のドアから構成されており、ドアの開閉時にはかご側ドアと乗場側ドアが係合されて、連動して開閉する機構となっている。かご側ドアとドア上部に設けられた駆動ベルトとは連結具によって連結されている。当該駆動ベルトは、無端状で、水平方向に長い略々楕円形をしており、互いに離間してドア上部に設けられている2つの巻掛車の双方に巻き掛けられて張設されている。この構成により、巻掛車の回転により駆動ベルトが回転することにより、ドアが開閉する仕組みになっている。このとき、図4に示すように、ドア開速度パターンとしては、かご側ドアと乗場側ドアは全閉時には接触していないため、ドア開動作開始直後の、それらのドアが係合するまでの間は、低速で動かす必要がある。この理由としては、高速で動かした場合には、係合時に衝突による大きな音が発生したり、振動が発生したりするためである。
【0003】
また、上記の係合に用いられる1対の部材(係合ベーン及び係合ローラからなる。以下、係合装置とする。)がかご側ドアと乗場側ドアとに設けられているが、それらの部材からなる係合装置はエレベーターのかごが走行している時には互いに接触しないように設置する必要があるため、お互いがギャップ(以下、係合ギャップとする。)を有するように設置されている。ここで、従来のドア制御装置においては、ドア開動作時に、かご側ドアが乗場側ドアを係合したかどうかは検出することはできない構成であるため、係合ギャップがもっとも大きい場合においても、係合が終了しているはずの位置までかご側ドアが動いてから加速動作に移行するように制御する。その結果、図4に示すように、かなり長い時間の低速駆動時間(低速区間)が生じ、結果としてエレベーターの運行効率が低下するという問題点があった。
【0004】
これに対する従来技術として、係合ギャップを検出する検出器を設け、検出器の出力に応じてドアを制御することで無駄な低速駆動時間を減らす技術が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
また、別の従来技術として、ドア速度指令値と実際のドア速度との偏差から係合位置を検出し、係合位置に合わせて速度パターンを変更する技術が開示されている(例えば、特許文献2参照。)。
【0006】
また、さらに別の従来技術として、電動機のトルク変化から係合位置を検出する技術が開示されている(例えば、特許文献3および4参照。)。
【0007】
【特許文献1】特開平03−293283号公報(3頁右上欄4〜7行、図1)
【特許文献2】特開平03−186589号公報(3頁左下欄8〜18行)
【特許文献3】特開2002−3116号公報(段落[0049]〜[0050])
【特許文献4】特開2007−15787号公報(段落[0025])
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の特許文献1に示される技術を用いると、確かに無駄な低速駆動時間を減らすことができ、エレベーターの運行効率をアップすることができる。しかしながら、新たに係合ギャップを検出するセンサを設ける必要があるため、装置が複雑化・大型化するという問題点があった。また、そのような係合ギャップを検出するセンサは一般に高価であるという問題点もあった。
【0009】
また、特許文献2に示される技術は、電動機に与えられる速度指令値に対し実速度が係合時には遅れるという特性を利用してドアの係合を判断するものである。また、特許文献3〜4には、係合時の電動機トルクの増加から係合を判断するものである。これらの技術はいずれも、通常の制御にもともと必要な電動機の速度センサや電流センサ(制御電流はトルクにほぼ比例する。)の情報を利用してドアの係合を判断する技術であり、新たなセンサを必要としないため、装置の複雑化・大型化・高価格化を防止できるという利点がある。しかしながら、速度の変動やトルクの変動は、ドアの係合以外の要因、例えばかご側ドアや乗場側ドアの下部で生じる摩擦、ドアと敷居のゴミ詰まり等によっても生じるため、誤検出が生じやすいという問題点があった。
【0010】
また、係合による速度やトルクの変動度合いも、係合装置(係合ベーンと係合ローラ)の接触の具合、駆動ベルトのばね定数、かご側ドアや乗場側ドアの摩擦、巻掛車を駆動するための電動機の制御アルゴリズムなど種々の要因で変動するため、係合を判定するための閾値をどのように設定すればよいか不明確であるという問題点もあった。
【0011】
さらに、判定閾値が不明確であるがゆえに、係合の判定は、係合時のセンサ情報だけではなく、係合前後における一定期間以上のセンサ情報を含めて評価する必要が生じる。したがって、係合の判定をリアルタイムに行うことはできず、上記の特許文献においても、一通り戸開動作を行ってから係合位置を判定し、その係合位置を各階ごとに記憶しておくことで、以降はその記憶された係合位置を利用してドア速度パターンを変更する技術となっている。しかしながら、エレベーターのかごは乗客の乗り込み位置などによっても傾きが生じるため、同じ階であっても、乗客の有無や乗り込み位置によってかご側ドアと乗場側ドアの位置関係が変化し、係合位置も変化する。したがって通常運転時においては、以前の開閉動作時に得られた係合位置は正しくなくなり、係合前に加速動作に移行したり、係合後も低速期間が継続したりするという問題点もあった。
【0012】
この発明は、上記のような問題点を解決するためになされたものであり、摩擦やゴミ詰まりなどの外乱があっても信頼性の高い係合検出が可能で、しかもドアの調整具合や制御アルゴリズムの変動によらず、リアルタイムにかご側ドアと乗場側ドアの係合を検出できるエレベーターのドア装置を得ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この発明は、エレベーターのかごの出入口を開閉するかご側ドアと、各階床の乗場の出入口を開閉する乗場側ドアと、前記かご側ドアを開閉駆動する電動機と、前記かご側ドアと前記乗場側ドアとの間に設けられ、前記電動機の開閉駆動による前記かご側ドアの開閉動作に連動して前記乗場側ドアを開閉動作する係合装置とを備えたエレベーターのドア装置であって、前記電動機の回転を検出する回転センサと、前記電動機の電流を検出する電流センサと、逐次的にエレベーターのドア重量を推定し、前回のドア重量推定値を推定ドア重量情報として記憶手段に記憶するとともに、前記回転センサの出力から得られる角加速度情報と前記電流センサから得られるトルク情報と前記記憶手段に記憶された前回のドア重量推定値とを入力として、新たなドア重量推定値を出力するドア重量推定手段とを備えたエレベーターのドア装置である。
【発明の効果】
【0014】
この発明は、エレベーターのかごの出入口を開閉するかご側ドアと、各階床の乗場の出入口を開閉する乗場側ドアと、前記かご側ドアを開閉駆動する電動機と、前記かご側ドアと前記乗場側ドアとの間に設けられ、前記電動機の開閉駆動による前記かご側ドアの開閉動作に連動して前記乗場側ドアを開閉動作する係合装置とを備えたエレベーターのドア装置であって、前記電動機の回転を検出する回転センサと、前記電動機の電流を検出する電流センサと、逐次的にエレベーターのドア重量を推定し、前回のドア重量推定値を推定ドア重量情報として記憶手段に記憶するとともに、前記回転センサの出力から得られる角加速度情報と前記電流センサから得られるトルク情報と前記記憶手段に記憶された前回のドア重量推定値とを入力として、新たなドア重量推定値を出力するドア重量推定手段とを備えたエレベーターのドア装置であるので、摩擦やゴミ詰まりなどの外乱があっても信頼性の高い係合検出が可能で、しかもドアの調整具合や制御アルゴリズムの変動によらず、リアルタイムにかご側ドアと乗場側ドアの係合を検出できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
実施の形態1.
図1〜3は、本発明の実施の形態1に係るエレベーターのドア装置の構成を示したものである。図1はエレベーターのかご側ドアを示した正面図、図2はエレベーターの乗場側ドアを示した正面図、図3はかご側ドアと乗場側ドアの関係を示す上面図である。これらの図において、1は、エレベーターのかごの出入口を開閉するためのかご側ドア、2はかご側ドア1を吊っている吊り手、3はかご側ドア1の上に設けられた桁、4は桁3に設けられた案内レール、5は桁3に設けられた1対の巻掛車、6は巻掛車5の双方に巻掛けられた駆動ベルト、7は吊り手2と駆動ベルト6とを連結している連結具、8はドアの開閉動作の制御を行うドアコントローラ、9は巻掛車5を回転させてかご側ドア1を開閉駆動させる電動機、10は各階床の乗場の出入口を開閉する乗場側ドア、11はかご側ドア1に設けられた係合ベーン、12は乗場側ドア10に設けられ、係合ベーン11と係合される係合ローラ、13は連動ロープ、14はエレベーターのかご、15は係合ベーン11と係合ローラ12との間に設けられた係合ギャップである。
【0016】
以下、構成について説明する。図1〜図3に示すように、かご側ドア1の上端には吊り手2が設けられている。かご側ドア1が設けられているエレベーターのかご14の図示しない出入り口の上縁部には、長手が水平方向になるように配置された略々矩形の桁3が設けられている。桁3には案内レール4が長手水平方向に配置され、吊り手2の水平移動、すなわちかご側ドア1の開閉移動を案内する。桁3にはまた、2つの巻掛車5が互いに離れて枢着され、無端状をなす駆動ベルト6が2つの巻掛車5の双方に巻き掛けられて張設されている。
【0017】
2つの連結具7は、それぞれ、一端が吊り手2を介してかご側ドア1に連結され、他端は駆動ベルト6に連結されている。図1においては、右側のかご側ドア1に吊り手2を介して設けられた連結具7は、楕円形に配置された駆動ベルト6の下側の1辺に連結され、左側のかご側ドア1に吊り手2を介して設けられた連結具7は、楕円形に配置された駆動ベルト6の上側の1辺に連結されている。このとき、ドアコントローラ8の指令により電動機9が一方の巻掛車5を駆動すると、すなわち、電動機9が駆動されると、巻掛車5が回転して、駆動ベルト6が一方向に回転駆動され、連結具7によって駆動ベルト6に連結された2枚のかご側ドア1が、駆動ベルト6の移動に伴って互いに反対方向に動作して出入口を開閉する。
【0018】
図1および図3に示すように、2枚のかご側ドア1の一方には、乗場側ドア10を係合するための係合ベーン11が設置されている。また、それに対応するように、乗場側ドア10の2枚のうちの一方に係合ローラ12が設けられている。エレベーターのかご14がある階で停止すると、かご側ドア1の一方に設置された係合ベーン11が、乗場側ドア10の一方に設置された係合ローラ12を挟み込んで把持する機構となっており、かご側ドア1の開閉動作に連動して、乗場側ドア10を開閉動作するように構成されている。これらの係合ベーン11と係合ローラ12はまとめて係合装置と呼ばれる。
【0019】
また、2枚の乗場側ドア10は連動ロープ13を介して繋がっている。したがって、係合ローラ12が設置された側の乗場側ドア10が、電動機9によって係合ベーン11及び係合ローラ12を介して動作すると、連動ロープ13の働きにより、他方の乗場側ドア10も反対方向に動作して出入り口を開閉する。
【0020】
このように、エレベーターのドア装置は、かご側ドア1に電動機9が設置されており、各階で乗場側ドア10を係合し連動して開閉する機構となっている。一方、係合ベーン11と係合ローラ12は、エレベーターのかご14が走行している時には接触しないように設置される必要があるため、図3に示すようにお互いが係合ギャップ15を有する関係になるように設置される。エレベーターのかご14は上下(走行)方向だけでなく左右前後方向にも偏荷重や振動により動く構造となっているため、係合ギャップ15はその振れを吸収できるようにある程度広くとる必要がある。
【0021】
図5は、本発明の実施の形態1に係るエレベーターのドア装置に設けられたドアコントローラ8の内部構成を示したブロック図である。図5に示すように、ドアコントローラ8には、速度パターン生成器19と、減算器20と、速度制御器21と、減算器22と、電流制御器23と、微分器24,25と、ゲイン26と、既知トルク変換器27と、減算器28と、ハイパスフィルタ29,30と、ドア重量推定器31と、記憶手段32とが設けられている。
【0022】
また、図5において、16は、ドアコントローラ8が接続されている本発明のドア装置であり、電動機9が設けられている。18および17は、それぞれ、ドア装置16に接続された、電流センサおよびレゾルバである。
【0023】
ドア装置16の電動機9には、電動機9の回転を検出するレゾルバ(回転センサ)17が接続されている。また、電動機9に流れる電流を検出する電流センサ18が接続されている。
【0024】
ドアコントローラ8では、速度パターン生成器19により、電動機9への指令角速度値が出力される。出力された角速度指令値から、レゾルバ17で検出された回転角度を微分器24で微分処理して得られる回転角速度の値を、減算器20で引き算し、角速度偏差を計算する。この角速度偏差に基づき、実角速度が指令角速度に追従するような電流指令値が速度制御器21で計算される。計算された電流指令値は電流センサ18で検出された実電流値と減算器22で比較され、減算器22からはその偏差が出力される。次に、その偏差に基づいて、電流制御器23によって駆動電圧が決められ、この駆動電圧によりドア装置16の電動機9が駆動される。
【0025】
本発明の特徴であるドア重量推定アルゴリズムについて説明する前の準備として、ドア重量と電動機トルクと電動機回転角速度の関係について説明する。
【0026】
電動機9の検出トルクをτ(k)、電動機9の検出回転角加速度をa(k)とすると、式(1)が成立する。
【0027】
τ(k)=Ja(k)+T+T・・・式(1)
【0028】
式(1)において、Jは電動機9の回転軸換算のドア重量分イナーシャ、Tは摩擦などによる外乱トルク、Tは図示しないクローザ錘やベーンリンクによる既知トルク、kはセンサによる検出値のk番目のサンプリング値であることを示している。
【0029】
ここで、既知トルクTはドア位置によって既知であるから、検出トルクτ(k)から取り除くことができる。また、外乱トルクTの原因は摩擦などで、値は未知であるが、ほぼ一定値となることが経験的に分かっている。したがって、検出トルクτ(k)から既知トルクTを減算し、外乱トルクTに相当する低周波成分を取り除いた値をτ(k)とし、検出回転角速度a(k)から低周波成分を取り除いた値をa(k)とすると、式(1)は式(2)のように簡易化される。
【0030】
τ(k)≒Ja(k)・・・式(2)
【0031】
このとき、逐次最小2乗法の考え方(例えば、MATLABによる制御のためのシステム同定、東京電機大学出版、参照)により、ドアイナーシャ推定値J(k)を求めると、式(3)及び(4)のようになる。
【0032】
【数1】

【0033】
【数2】

【0034】
ここで、P(k)は共分散行列と呼ばれる変数、λは忘却要素と呼ばれる1以下の正定数である。図5に示すドア重量推定器31は、式(3)〜(4)の計算によりドアイナーシャ推定値J(k)を更新していく。
【0035】
図5の下側部分に示す構成による本発明特有のドア重量推定アルゴリズムは以上の理論に基づいて設定されている。つまり、回転角速度は、微分器25により微分処理されて、回転角加速度に変換される。さらに、回転角加速度は、低周波成分を取り除くハイパスフィルタ30によって変動回転角加速度a(k)(角加速度情報)となる。
【0036】
一方、電流センサ18によって検出された電流値に、トルク定数Keがゲイン26によって乗算され、電動機トルクが計算される。図示しないクローザ錘やベーンリンクによるトルクは、ドア位置の関数となるので、レゾルバ17によって検出された回転角度(位置情報)を基に、電動機8に付加される位置依存のトルクである、既知トルクTが、既知トルク変換器27によって計算される。ゲイン26の出力(電流センサ18から得られるトルク情報)から既知トルクTを減算器28によって引いた値から、ハイパスフィルタ29によって低周波成分を取り除くことにより、変動トルクτ(k)(トルク情報)が計算される。
【0037】
ドア重量推定器31は、変動回転角加速度a(k)、変動トルクτ(k)、及び、記憶手段32に記憶されているドアイナーシャ推定値J(k)の1ステップ前の値であるJ(k−1)を入力として、式(3)〜(4)に従い、ドアイナーシャ推定値J(k)(ドア重量推定値)を計算して、記憶手段32に記憶する。このとき、共分散行列P(k)は、ドア重量推定器31の内部変数であり、零以外の初期値によって与えられ随時更新されていく。また、忘却変数λは0.97〜0.995程度の範囲で設定される定数である。
【0038】
図6に、本発明を用いた場合のドア重量推定結果の一例(実験結果)を示す。図6に示す試験では、かご側ドア1及び乗場側ドア10の重さを変更した数パターンについて推定を行った結果について示している。
【0039】
図6において、グラフ33はかご側ドア1の総重量が60kgで乗場側ドア10の総重量が80kgの場合、グラフ34はかご側ドア1の総重量が60kgで乗場側ドア10の総重量が130kgの場合、グラフ35はかご側ドア1の総重量が110kgで乗場側ドア10の総重量が130kgの場合、グラフ36はかご側ドア1の総重量が110kgで乗場側ドア10の総重量が180kgの場合、グラフ37はかご側ドア1の総重量が160kgで乗場側ドア10の総重量が180kgの場合である。図6に示されるように、係合前のドア側ドア1のみの重量と、係合後のかご側ドア1と乗場側ドア10の総重量とを精度良く検出できていることが確認できる。本発明においては、電動機9が負担するドア重量を高精度かつリアルタイムに検出できるので、各階ごとで異なるドア重量、各階およびかご偏荷重で異なる係合タイミングの違いなどに応じて、決め細やかな制御が可能となる。
【0040】
このように、ドア重量推定器31により、電動機9にかかるドア重量を精度良くリアルタイムに検出できるので、速度パターン生成器19により、乗場側ドア10の係合位置を、階床やエレベーターのかご14への乗客の乗り込み具合に関わらず毎回検出できる。
この係合検出位置に応じて、全開位置までの残戸開距離及び速度パターンが速度パターン生成器19によって再計算される。例えば、係合検出位置が早く検出されれば、図7の速度パターン38に示すように加速開始時間が早められ、最高速での駆動時間を少し延ばすように調整される。逆に、走行検出位置が遅ければ、加速開始時間はそれに合わせて遅くなり、最高速での駆動時間も短縮される。この時、速度パターンの下部分の面積が走行距離に相当するので、最高速の延長あるいは短縮時間は速度パターン下部の面積が同じになるように調整される。このようにして調整された速度パターンは速度指令値として減算器20に送られる。
このように、本発明においては、ドア重量推定器から、かご側ドア1と乗場側ドア10の係合を判定し、係合位置に応じて、速度パターン生成器19の出力を適宜変更することができる。これにより、その都度の条件で異なる係合位置を高精度に判定し、係合後すぐに加速動作に移行することができるので、低速での係合による低騒音・低振動性能を保持したまま、無駄な低速駆動時間を省くことができるので、エレベーターの運行効率が大幅にアップする。
【0041】
この一連の動作により、本実施の形態においては、図7の速度波形38に示すように、各階で係合後すぐにドアを加速動作させることができるので、係合時に大きな音や振動を発生させることなく、かつ、従来の速度波形39と比較して無駄な低速駆動時間を省くことができる。したがって、快適なドア開閉を維持したままエレベーターの運行効率を大幅に改善することができる。
【0042】
なお、本実施の形態では、電動機9の回転を検出するセンサをしてレゾルバを用いたが、エンコーダでも良く、電動機9の回転を検出できるものであれば良い。また、電動機9の電流を検出して電動機9のトルクを求めたが、トルクセンサを用いてトルクを直接求めてもよい。
【0043】
以上のように、本実施の形態においては、エレベーターのかご14の出入口を開閉するかご側ドア1と、各階床の乗場の出入口を開閉する乗場側ドア10と、かご側ドア1を開閉駆動する電動機9と、かご側ドア1と乗場側ドア10との間に設けられ、電動機9の開閉駆動によるかご側ドア1の開閉動作に連動して乗場側ドア10を開閉動作する係合装置を有するエレベーターのドア装置において、電動機9の回転を検出するレゾルバ17と、電動機9の電流を検出する電流センサ18と、レゾルバ17の出力から得られる角加速度情報と電流センサ18から得られるトルク情報と自らの出力である推定ドア重量情報とを入力として逐次的にドア重量を推定するドア重量推定器31とを有するようにしたので、電動機9が負担するドア重量を高精度かつリアルタイムに検出できるので、各階ごとで異なるドア重量、各階及びかご偏荷重で異なる係合タイミングの違いなどに応じて、決め細やかな制御が可能となるという効果が得られる。
【0044】
また、本実施の形態においては、電動機9の回転速度を指示する速度パターン生成器19を有し、ドア重量推定器31の出力からかご側ドア1と乗場側ドア10との係合を判定し、速度パターン生成器19の出力を変更するようにしたので、その都度の条件で異なる係合位置を高精度に判定し、係合後すぐに加速動作に移行することができるので、低速での係合による低騒音・低振動性能を保持したまま、無駄な低速駆動時間を省くことができるので、エレベーターの運行効率が大幅にアップするという効果が得られる。
【0045】
また、本実施の形態においては、ドア重量推定器31が、角加速度情報とトルク情報とから、それぞれ、ハイパスフィルタ30,29により、低周波成分を取り除いたものを入力とするようにしたので、各入力信号から低周波成分を取り除くことで、各階ごとで異なるドア摩擦の影響を取り除くことができるので、より高精度な推定が可能となる。
【0046】
また、本実施の形態においては、レゾルバ17の出力から得られる位置情報により電動機9に付加される位置依存のトルクを計算する既知トルク変換器27を有し、ドア重量推定器31が、電流センサ18から得られるトルク情報から既知トルク変換器27の出力を減じたものを入力とするようにしたので、ドア位置によって決まる既知のトルクを予め取り除くことができるので、高精度な推定が可能となる。
【0047】
実施の形態2.
図8は、本発明の実施の形態2に係るエレベーターのドア装置に設けられたドアコントローラ8の内部構成を示したブロック図である。図8において、19〜20および22〜32については、図5と同じであるため、同一符号を付して示し、ここではそれらの説明を省略する。図5と図8の構成に違いとしては、図8においては、図5の速度制御器21の代わりに、速度制御器40が設けられていることと、電流制御器23とドア装置16との間に、過負荷検出器41が追加されていることである。
【0048】
実施の形態2では、速度制御器40の出力がドア重量推定器31の出力によって変更される。なお、本実施の形態においても、速度パターン生成器19により、電動機9への指令角速度値が出力され、出力された角速度指令値から、レゾルバ17で検出された回転角度を微分器24で微分処理して得られる回転角速度を、減算器20で減算し、角速度偏差を計算し、速度制御器40が、この角速度偏差に基づき、実角速度が指令角速度に追従するような電流指令値を計算する。このとき、本実施の形態においては、当該電流指令値が、ドア重量推定器31の出力によって適宜変更される。速度制御器40の一例としては、式(5)に示すようなPI速度制御器G(s)がある。本実施の形態では、式(5)のPI速度制御器が用いられる場合を例として説明するが、本発明の適用がPI制御器に限られるものではなく、同等の動作を行うものであれば、他の速度制御器を用いてもよい。
【0049】
【数3】

【0050】
一般的に、電流制御器23の指令値に対する追従性は、速度制御器40よりも高く設定される。この条件下で速度制御器40が式(5)のようなPI速度制御器であると仮定すると、速度制御器40の追従性を示す指標である交差周波数ωcは式(6)のようになる。
【0051】
【数4】

【0052】
式(6)より制御系の追従性を一定に保ちたい場合は、イナーシャJに合わせて比例ゲインKspを変更するのが望ましいことが分かる。本発明によれば、ドア重量推定器31によりイナーシャJを推定できるので、各階のドア重量の違い、また、乗場側ドア10の係合の有無によって制御比例ゲインKspを変更することができる。これにより、各階のドア重量の違い、乗場ドア10の係合の有無に関わらず、制御系の追従性を一定に保つことができ、よりきめ細かい制御が可能となる。
【0053】
積分比例ゲインKsiは、例えば、「ACサーボシステムの理論と設計の実際」(総合電子出版社)等によれば、式(7)を満たすように設定される。
【0054】
【数5】

【0055】
また、本実施の形態2は、過負荷検出器41の設定がドア重量推定器31の出力によって変更される。過負荷検出器41は、トルクが予め設定された所定の異常判定閾値より大きくなると、かご側ドア1もしくは乗場側ドア10に人体が接触あるいは挟まれたなどと判断し、ドアの動きを反転させるための手段である。これにより、人体に大きな負荷がかかることを防止することができる。本実施の形態においては、ドア重量推定器31の出力に応じて、過負荷検出器41の異常判定閾値の値を変更させる。
【0056】
電動機9のトルクは、かご側ドア1の重量や乗場側ドア10の重量によって変わるので、過負荷を検出するための異常判定閾値も変更させることが望ましい。本発明を用いれば、電動機9が動かすドアの重量が推定できるので、推定ドア重量が大きい場合には過負荷検出閾値を大きくし、推定ドア重量が小さい場合には過負荷検出閾値を小さくすることができる。これにより、信頼性の高い過負荷検出が可能となる。
【0057】
以上のように、本実施の形態2においては、実施の形態1と同様の効果が得られるとともに、さらに以下の効果を得ることができる。
【0058】
本実施の形態においては、速度パターン生成器19の出力とレゾルバ17から得られる回転速度との差から電動機9を制御する速度制御器40を有し、当該速度制御器40の比例ゲインをドア重量推定器31の出力に基づいてドア重量推定値に対応して変更するようにしたので、各階や係合前後で異なるドア重量に応じて速度制御系を最適に変更できるので、ドア重量によらず均一的な性能を得ることができる。
【0059】
また、本実施の形態においては、電動機9のトルクが所定の判定閾値以上になった場合に異常であると判定する過負荷検出器41を有し、ドア重量推定器31の出力から過負荷検出器41の異常判定閾値を変更するようにしたので、各階や係合前後で異なるドア重量に応じて過負荷検出の閾値を設定できるので、精度の高い過負荷検出が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の実施の形態1および2に係るエレベーターのドア装置の構成を示すためのエレベーターのかご側ドアの正面図である。
【図2】本発明の実施の形態1および2に係るエレベーターのドア装置の構成を示すためのエレベーターの乗場側ドアの正面図である。
【図3】本発明の実施の形態1および2に係るエレベーターのドア装置の構成を示すためのかご側ドアと乗場側ドアの関係を示す上面図である。
【図4】一般的なエレベーターのドアの開速度パターンを示す図である。
【図5】本発明の実施の形態1に係るエレベーターのドア装置に設けられたドアコントローラの内部構成を示すブロック図である。
【図6】本発明の実施の形態1に係るエレベーターのドア装置におけるドア重量推定の試験結果をブラフで示す説明図である。
【図7】本発明の実施の形態1に係るエレベーターのドア装置によるドア速度パターンの改善効果をグラフ示す説明図である。
【図8】本発明の実施の形態2に係るエレベーターのドア装置に設けられたドアコントローラの内部構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0061】
1 かご側ドア、2 吊り手、3 桁、4 案内レール、5 巻掛車、6 駆動ベルト、7 連結具、8 ドアコントローラ、9 電動機、10 乗場側ドア、11 係合ベーン、12 係合ローラ、13 連動ロープ、14 エレベーターのかご、15 係合ギャップ、16 ドア装置、17 レゾルバ(回転センサ)、18 電流センサ、19 速度パターン生成器、20 減算器、21 速度制御器、22 減算器、23 電流制御器、24,25 微分器、26 ゲイン、27 既知トルク変換器、28 減算器、29,30 ハイパスフィルタ、31 ドア重量推定器、32 記憶手段、40 速度制御器、41 過負荷検出器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エレベーターのかごの出入口を開閉するかご側ドアと、各階床の乗場の出入口を開閉する乗場側ドアと、前記かご側ドアを開閉駆動する電動機と、前記かご側ドアと前記乗場側ドアとの間に設けられ、前記電動機の開閉駆動による前記かご側ドアの開閉動作に連動して前記乗場側ドアを開閉動作する係合装置とを備えたエレベーターのドア装置であって、
前記電動機の回転を検出する回転センサと、
前記電動機の電流を検出する電流センサと、
逐次的にエレベーターのドア重量を推定し、前回のドア重量推定値を推定ドア重量情報として記憶手段に記憶するとともに、前記回転センサの出力から得られる角加速度情報と前記電流センサから得られるトルク情報と前記記憶手段に記憶された前回のドア重量推定値とを入力として、新たなドア重量推定値を出力するドア重量推定手段と
を備えたことを特徴とするエレベーターのドア装置。
【請求項2】
前記電動機に指示するための指令回転速度を生成して出力する速度パターン生成手段をさらに備え、
前記速度パターン生成手段は、前記ドア重量推定手段からのドア重力推定値に基づいて前記かご側ドアと前記乗場側ドアとの係合を判定し、判定結果に基づいて前記指令回転速度の値を変更することを特徴とする請求項1記載のエレベーターのドア装置。
【請求項3】
前記速度パターン生成手段からの前記指令回転速度と前記回転センサから得られる実回転速度との差に基づいて、前記実回転速度が前記指令回転速度に追従するような電流指令値を演算する速度制御手段をさらに備え、
前記ドア重量推定手段からのドア重量推定値に基づいて前記速度制御手段における制御則を変更することを特徴とする請求項1または2に記載のエレベーターのドア装置。
【請求項4】
前記電動機のトルクが所定の異常判定閾値以上になった場合に異常であると判定する過負荷検出器をさらに備え、
前記過負荷検出器は、前記ドア重量推定手段からのドア重力推定値に基づいて前記異常判定閾値を変更することを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載のエレベーターのドア装置。
【請求項5】
前記ドア重量推定手段が、前記角加速度情報と前記トルク情報とからそれぞれ低周波成分を取り除いたものを入力とすることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載のエレベーターのドア装置。
【請求項6】
前記回転センサの出力から得られる位置情報に基づいて、前記電動機に付加される位置依存の既知トルクを計算する既知トルク変換手段をさらに備え、
前記ドア重量推定手段が、前記電流センサから得られるトルク情報から前記既知トルク変換手段から得られる既知トルクを減じたものを入力とすることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載のエレベーターのドア装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−214952(P2009−214952A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−57506(P2008−57506)
【出願日】平成20年3月7日(2008.3.7)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】