説明

エレベータ伝送システム

【課題】エレベータの保守員がソフトウェアの技量によらずに伝送異常系の試験を容易に行なうようにする。
【解決手段】エレベータ伝送システム1の伝送路4に伝送信号変換ユニット15を接続する。伝送異常系の試験を実施する場合、保守員は、パーソナルコンピュータ9の画面上で、波形の時間間隔を変更するためのアドレス値、データ値、アドレス・データ間の時間間隔、アドレス・アドレス間の時間間隔を入力する。画面20上での入力後、パーソナルコンピュータ9から伝送信号変換ユニット15を介してマスタ制御部2と同様な伝送が開始され、アドレスフレームとデータフレームの間隔およびアドレスフレームと次のアドレスフレームとの間隔が変更される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビルやマンション等の建屋に設置されたエレベータ伝送システムに係わり、特に、エレベータの制御情報をマスタ制御部と各スレーブ制御部との間でサイクリックにシリアル伝送するエレベータ伝送システムに関する。
【背景技術】
【0002】
図6は、従来のエレベータ伝送システムおよび伝送解析システムの概略構成例を示す図である。
ビルやマンション等の建屋の機械室や各エレベータホール、エレベータの乗りかごに接続しているエレベータ伝送システム1では、内部にエレベータのかごが上下移動するエレベータ昇降路の上側の機械室内にかごを上下移動させる電動機を含む図示しない巻上機と、この巻上機を駆動することによって、エレベータのかごの昇降動作を制御する配電盤に組込まれたマスタ制御部2とが設けられる(例えば特許文献1参照)。
【0003】
さらに、各階のエレベータホールには、乗場呼び釦の釦操作で入力された乗場呼びを制御する乗場呼び用のスレーブ制御部3、かご接近表示用ランプの点灯用のスレーブ制御部3が設けられる。
【0004】
また、各かご内には、かご呼び釦の釦操作で入力されたかご呼びを制御するかご呼び用のスレーブ制御部3、かごの現在位置(現在階)を表示するかごの位置表示器の表示制御用のスレーブ制御部3が設けられる。
【0005】
エレベータ伝送システム1では、マスタ制御部2には例えばLANの一対の伝送路4を介して複数のスレーブ制御部3が接続されている。各スレーブ制御部3には、それぞれ固有のアドレスが割付けられている。
【0006】
このエレベータ伝送システム1では、スレーブ制御部3のアドレスやデータをマスタ制御部2からサイクリックにシリアル伝送することによって、当該スレーブ制御部3はデータの入出力をする。具体的には、マスタ制御部2は、各スレーブ制御部3から入力された乗場呼び、かご呼びに応じて、かごの昇降動作を制御するとともに、各スレーブ制御部3へ点灯指令、表示指令を送出する。
【0007】
エレベータ伝送システム1の伝送解析として伝送の異常系試験を行なう場合は、伝送解析システム6を用いる。伝送解析システム6は、試験用のマスタ制御部7A、CPUエミュレータ8、パーソナルコンピュータ9を有する。マスタ制御部7AはCPU7Bを搭載する。
【0008】
前述した異常系試験を行なう場合は、マスタ制御部7Aと伝送路4とを信号取り出しケーブル5を介して接続し、マスタ制御部7AのCPU7BにCPUエミュレータ8を接続して、当該CPUエミュレータ8にはパーソナルコンピュータ9を接続する。
【0009】
パーソナルコンピュータ9の内部で使用するソフトウェアは、テキストエディタ11、コンパイラ12およびエミュレータ13が挙げられる。
【0010】
図7は、従来のエレベータ伝送システムに用いる伝送解析システムの処理動作の一例を示すフローチャートである。
例えば、伝送異常系として伝送タイミングを変更する場合、伝送波形のタイミングとして時間間隔を決定し(ステップS21)、マスタ制御部2のソフトウェアを解読し(ステップS22)、当該ソフトウェアの変更箇所を定め(ステップS23)、つくり込む異常系の時間間隔値をソフトウェアに合わせた変数値にするために算出する(ステップS24)。
【0011】
そして、パーソナルコンピュータ9は、テキストエディタ11を使用してソフトウェアの変更部分を変更し(ステップS25)、当該ソフトウェアをコンパイラ12を使用してCPU7Bが起動するための機械語に変換し(ステップS26)、生成した機械語によりCPU7Bを起動させ、かつCPUエミュレータ8を用いることでCPUエミュレーション動作をさせる(ステップS27)。これにより、伝送異常系の試験が可能になる。
【特許文献1】特開2007−70027号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従来の技術では、伝送異常系の伝送タイミングを変更するためには、高額なCPUエミュレータ、エミュレータソフトウェアおよびコンパイラが必要であるため、保守員はソフトウェアに関する技量が必要であり、ソフトウェアの解読、変更および変数値設定に費やす時間が必要になる。
【0013】
また、人間系でソフトウェアの変更などを行なうため、間違えが発生する可能性もある。さらに、同等な異常系試験を再度実施するためには、同じ方法を繰り返さなければならないため、多種にわたる伝送異常系の生成に著しく時間を要した。
【0014】
特に、エレベータが設置されている建物は、乗りかごを停止可能な時間が短いため、従来の方法では、伝送異常系の試験が時間の制約で実施が難しい。また、従来システムの構成をエレベータの機械室で実施する場合、建物によっては設置スペースが確保できない場合があった。
【0015】
そこで、本発明の目的は、保守員がソフトウェアの技量によらずに伝送異常系の試験を容易に行なうことが可能になるエレベータ伝送システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
すなわち、本発明の請求項1に係るエレベータ伝送システムは、少なくとも各エレベータのかごの昇降動作を制御するマスタ制御部と、少なくとも乗場呼び又はかご呼びを制御する複数のスレーブ制御部とで構成され、前記マスタ制御部と各スレーブ制御部との間で伝送路を介して制御情報に各スレーブ制御部に固有のアドレスを付加してサイクリックにシリアル伝送するエレベータ伝送システムにおいて、前記各スレーブ制御部に伝送する制御情報の形態および伝送先のスレーブ制御部に固有のアドレスの入力を受け付ける入力手段と、前記入力した制御情報の形態にしたがった伝送波形を前記入力したアドレスに対応するスレーブ制御部に伝送する伝送手段とを備えたことを特徴とする。
【0017】
また、本発明の請求項2に係るエレベータ伝送システムは、請求項1に記載のエレベータ伝送システムにおいて、前記入力手段は、前記伝送先のスレーブ制御部に固有のアドレスが付加される制御情報の値の入力を受け付けることを特徴とする。
【0018】
また、本発明の請求項3に係るエレベータ伝送システムは、請求項1に記載のエレベータ伝送システムにおいて、前記制御情報の形態は、当該制御情報の伝送先のスレーブ制御部に固有のアドレスに続く制御情報の伝送タイミングであることを特徴とする。
【0019】
また、本発明の請求項4に係るエレベータ伝送システムは、請求項1に記載のエレベータ伝送システムにおいて、前記制御情報の形態は、当該制御情報の伝送先のスレーブ制御部に固有のアドレスに続く制御情報のパリティビットを反転させた値を示す制御情報であることを特徴とする。
【0020】
また、本発明の請求項5に係るエレベータ伝送システムは、請求項1に記載のエレベータ伝送システムにおいて、前記制御情報の形態は、当該制御情報の伝送先のスレーブ制御部に固有のアドレスに続く制御情報のCRCチェックビットに1を加算した値を示す制御情報であることを特徴とする。
【0021】
また、本発明の請求項6に係るエレベータ伝送システムは、請求項1に記載のエレベータ伝送システムにおいて、前記制御情報の形態は、当該制御情報の伝送先のスレーブ制御部に固有のアドレスに続く制御情報を当該アドレスに変換した制御情報であることを特徴とする。
【0022】
また、本発明の請求項7に係るエレベータ伝送システムは、請求項1に記載のエレベータ伝送システムにおいて、前記制御情報の形態は、当該制御情報の伝送先のスレーブ制御部に固有のアドレスに対するサイクル単位における次の伝送先のスレーブ制御部に固有のアドレスの伝送タイミングであることを特徴とする。
【0023】
また、本発明の請求項8に係るエレベータ伝送システムは、請求項1に記載のエレベータ伝送システムにおいて、前記制御情報の形態は、当該制御情報の伝送先のスレーブ制御部に固有のアドレスのパリティビットを反転させた値を示すアドレスであることを特徴とする。
【0024】
また、本発明の請求項9に係るエレベータ伝送システムは、請求項1に記載のエレベータ伝送システムにおいて、前記制御情報の形態は、当該制御情報の伝送先のスレーブ制御部に固有のアドレスのCRCチェックビットに1を加算した値を示すアドレスであることを特徴とする。
【0025】
また、本発明の請求項10に係るエレベータ伝送システムは、請求項1に記載のエレベータ伝送システムにおいて、前記入力手段は、前記伝送手段による伝送開始後に、前記各スレーブ制御部に伝送する制御情報の別の形態および伝送先のスレーブ制御部に固有のアドレスの指定をさらに受け付け、前記伝送手段は、前記入力した別の制御情報の形態にしたがった伝送波形を前記入力したアドレスに対応するスレーブ制御部に伝送することを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、保守員がソフトウェアの技量によらずに伝送異常系の試験を容易に行なうことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下図面により本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明の実施形態におけるエレベータ伝送システムおよび伝送解析システムの概略構成例を示す図である。図1に示した構成のうち図6に示す構成と同一部分には同一符号を付して重複する部分の詳細説明は省略する。
本実施形態では、エレベータ伝送システム1の伝送解析として伝送の異常系試験を行なうために伝送解析システム14を用いる。伝送解析システム14は、伝送信号変換ユニット15およびパーソナルコンピュータ9を有する。パーソナルコンピュータ9には伝送コントロールソフト17およびオペレーティングシステム10が組み込まれる。
【0028】
エレベータの通常運転時、マスタ制御部2は、伝送路4に対して、1サイクル(1通信単位、周期T)内に全てのスレーブ制御部3のアドレスとデータとからなる情報が時系列的に設定されるシリアル信号を伝送する。
【0029】
各スレーブ制御部3は、伝送路4に出力されたシリアル信号の自己のアドレスに続くデータ領域のデータを自己宛のデータとして取込む。さらに、各スレーブ制御部3は、マスタ制御部2にデータを送信する場合は、伝送シリアル信号の自己のアドレスに続くデータ領域に送信すべきデータを書込む。したがって、マスタ制御部2と各スレーブ制御部3とは、送受信するデータを1サイクル(1通信単位、周期T)毎に更新できる。
前述した異常系試験を行なう場合は、まず、エレベータ伝送システム1の伝送路4に伝送信号変換ユニット15を信号取り出しケーブル5を介して接続する。伝送信号変換ユニット15はRS232Cケーブル16によりパーソナルコンピュータ9に接続される。
【0030】
図2は、本発明の実施形態におけるエレベータ伝送システムに用いる伝送解析システムのパーソナルコンピュータの表示画面の一例を示す図である。
図2に示した画面はパーソナルコンピュータ9の画面20である。この画面表示や画面上の選択による動作はパーソナルコンピュータ9の伝送コントロールソフト17が実行されることで実現する。
【0031】
パーソナルコンピュータ9は、各スレーブ制御部に伝送する制御情報の形態および伝送先のスレーブ制御部に固有のアドレスの入力を受け付ける入力手段である入力装置18を備える。また、パーソナルコンピュータ9および伝送信号変換ユニット15は、入力した制御情報の形態にしたがった伝送波形を当該入力したアドレスに対応するスレーブ制御部に伝送する伝送手段である。
【0032】
この画面20において解析用に入力装置18を用いて入力可能な箇所は、画面上で「アドレス値」と表示されるアドレスフレーム21のアドレス値入力エリア21A、画面上で「データ値」と表示されるデータフレーム22のデータ値入力エリア22A、アドレス・データ間フレーム24の入力エリアであるアドレス・データ間入力エリア24A、アドレス・アドレス間フレーム25の入力エリアであるアドレス・アドレス間入力エリア25Aが挙げられる。また、画面20上には、保守員が入力操作の理解を容易にするために、「次のアドレス」と表示されたエリア23がある。
【0033】
画面20では、左端から順にアドレス値入力エリア21A、データ値入力エリア22A、エリア23が横一列に表示され、アドレス値入力エリア21Aとデータ値入力エリア22Aとの間にアドレス・データ間入力エリア24Aが表示され、アドレス値入力エリア21Aとエリア23との間にアドレス・アドレス間入力エリア25Aが表示される。
【0034】
また、画面20における入力可能な箇所として、画面上で「エラー制御」と表示されるエラー制御フレーム26で囲まれた、画面上で「アドレス側」と表示されるアドレス側フレーム27の各種チェックボックスおよびエラー制御フレーム26で同じく囲まれ、画面上で「データ側」と表示されるデータ側フレーム28の各種チェックボックスがさらに挙げられる。
【0035】
アドレス側フレーム27のチェックボックスは、正常波形チェックボックス27A、パリティエラーチェックボックス27B、CRCエラーチェックボックス27Cおよびコリジョンエラーチェックボックス27Dである。
また、データ側フレーム28のチェックボックスは、正常波形チェックボックス28A、パリティエラーチェックボックス28B、CRCエラーチェックボックス28Cおよびコリジョンエラーチェックボックス28Dである。
これらのチェックボックスの機能は画面20上での入力操作による選択によって有効もしくは無効になる。
また、画面20には伝送信号変換ユニット15との通信開始のために選択可能な通信開始ボタン29と通信停止のための選択可能な通信停止ボタン30が表示される。
【0036】
図3は、本発明の実施形態におけるエレベータ伝送システムに用いる伝送解析システムの伝送信号変換ユニットの構成例を示すブロック図である。
図3に示すように、伝送信号変換ユニット15は伝送ドライバIC32、CPU内部処理部50および伝送ドライバIC44を有する。
【0037】
伝送ドライバIC32は、エレベータ伝送信号線31を介してエレベータ伝送システム1との間での入出力を行なう。この伝送ドライバIC32はRS485規格の伝送方式を採用している専用のICである。エレベータ伝送信号線31は、信号取り出しケーブル5との接続のためのコネクタを有する。
【0038】
CPU内部処理部50は伝送ドライバIC32および伝送ドライバIC44とそれぞれ接続される。伝送ドライバIC44はRS232C規格の専用ICであり、パーソナルコンピュータ側シリアル受信信号線45A、パーソナルコンピュータ側シリアル送信信号線45Bを介してパーソナルコンピュータ9に接続される。パーソナルコンピュータ側シリアル受信信号線45Aおよびパーソナルコンピュータ側シリアル送信信号線45BはRS232Cケーブル16である。
パーソナルコンピュータ9での通信処理はシリアル通信での処理であり、CPU内部処理部50による処理はパラレル通信での処理である。
【0039】
図3に示すように、CPU内部処理部50は、パラレル/シリアル変換部33、シリアル/パラレル変換部34、受信データ処理部35、通信波形生成部36、タイミング設定部37、アドレス生成部38、データ生成部39、エラー設定部40、コントロール部41、パラレル/シリアル変換部42、シリアル/パラレル変換部43を有する。
【0040】
伝送ドライバIC32はシリアル/パラレル変換部34に接続される。このシリアル/パラレル変換部34は受信データ処理部35を介してコントロール部41に接続される。
【0041】
コントロール部41は、タイミング設定部37、通信波形生成部36およびパラレル/シリアル変換部33を介して伝送ドライバIC32に接続される。
コントロール部41はエラー設定部40にも接続される。このエラー設定部40は、アドレス生成部38およびデータ生成部39に接続される。
【0042】
アドレス生成部38およびデータ生成部39は通信波形生成部36に接続される。コントロール部41は、アドレス生成部38およびデータ生成部39にエラー設定部40を介さずに直接接続もされる。
【0043】
コントロール部41は、パラレル/シリアル変換部42を介して伝送ドライバIC44に接続される。伝送ドライバIC44はシリアル/パラレル変換部43を介してコントロール部41に接続される。CPU内部処理部50では、パーソナルコンピュータ9との間の通信処理をパラレル/シリアル変換部42およびシリアル/パラレル変換部43により行なう。
【0044】
伝送ドライバIC32はエレベータ伝送システム1、シリアル/パラレル変換部34とパラレル/シリアル変換部33の間でシリアル通信を行なう。CPU内部処理部50は、シリアル/パラレル変換部34とパラレル/シリアル変換部33によりCPU内部処理部50内でのパラレル入出力を実現している。
【0045】
また、伝送ドライバIC44はパーソナルコンピュータ9、シリアル/パラレル変換部43とパラレル/シリアル変換部42の間でシリアル通信を行なう。CPU内部処理部50は、シリアル/パラレル変換部43とパラレル/シリアル変換部42によりCPU内部処理部50内でのパラレル入出力を実現している。
【0046】
次に、図1に示した構成のエレベータ伝送システム1および伝送解析システム14の動作について説明する。
まず、エレベータ伝送システム1伝送路4に伝送信号変換ユニット15を信号取り出しケーブル5を介して接続する。
【0047】
伝送信号変換ユニット15は、マスタ制御部2の代わりにアドレスフレームの出力およびデータフレームの入出力を行なう。パーソナルコンピュータ9の画面20上の通信開始ボタン29が選択されるまでは伝送は停止している。
【0048】
伝送異常系の試験を実施する場合、保守員は、パーソナルコンピュータ9の画面20上での各種入力を行なう。入力例として、保守員は、波形の時間間隔(波形タイミング)を変更する場合、画面20上のアドレス・データ間入力エリア24Aに「72」を入力し、アドレス・アドレス間入力エリア25Aに「250」を入力し、続いてアドレスフレーム21のアドレス値入力エリア21Aに「003」を入力し、データフレーム22のデータ値入力エリア22Aに「EE」を入力する。
【0049】
図4は、本発明の実施形態におけるエレベータ伝送システムによるアドレスおよびデータの伝送形態の一例を示す図である。
図4に示すように、エレベータ伝送システムによるアドレスおよびデータの伝送形態は、1サイクルの間に、第1のアドレスフレーム「001H」、第1のデータフレーム「AAH」、第2のアドレスフレーム「002H」、第2のデータフレーム「BBH」、第3のアドレスフレーム「003H」、第3のデータフレーム「EEH」、第4のアドレスフレーム「004H」、第4のデータフレーム「DDH」、第5のアドレスフレーム「005H」、第5のデータフレーム「EEH」を順に伝送する形態である。
【0050】
前述した画面20上での入力後、当該画面上の通信開始ボタン29が選択されると、マスタ制御部2と同様な伝送が開始され、図4に示すようにアドレスフレーム「003H」(61A)とデータフレーム「EEH」(61B)の間隔およびアドレスフレーム「003H」と次のアドレスフレーム「004H」との間隔が入力前の状態からそれぞれ変化する。間隔の変化の結果、アドレス・データ間の時間間隔t1は入力値にしたがって72マイクロ秒となり、アドレス・アドレス間の時間間隔t2は入力値にしたがって250マイクロ秒となる。このようにして、予め入力したアドレス「003H」に対応するスレーブ制御部3にデータ「EEH」が出力されることになる。
【0051】
エラー制御については、パーソナルコンピュータ9の画面20に表示されるエラー制御フレーム26のチェックボックスが有効に選択されることで、所望のエラーが出力されて、伝送異常系を作り込むことが可能である。
【0052】
具体的には、画面20上で「パリティエラー」と表示されるパリティエラーチェックボックス27B,28Bが有効に選択されると、パーソナルコンピュータ9は、シリアル通信のパリティ符号を反転させた異常な波形を生成する。
詳細を述べると、アドレス側フレーム27のパリティエラーチェックボックス27Bが有効に選択されると、画面上で入力されたアドレスのパリティ符号を反転させた波形が生成され、データ側フレーム28のパリティエラーチェックボックス28Bが有効に選択されると、画面上で入力されたデータのパリティ符号を反転させた波形が生成される。
【0053】
また、画面20上で「CRCエラー」と表示されるCRCエラーチェックボックス27C,28Cが有効に選択されると、パーソナルコンピュータ9は、通信データのCRCチェックビットを1加算して更新し、CRC不整合な波形を生成する。
詳細を述べると、アドレス側フレーム27のCRCエラーチェックボックス27Cが有効に選択されると、画面上で入力されたアドレスのCRCチェックビットを1加算した波形が生成され、データ側フレーム28のCRCエラーチェックボックス28Cが有効に選択されると、画面上で入力されたデータのCRCチェックビットを1加算した波形が生成される。
【0054】
また、画面20上で「コリジョンエラー」と表示されるコリジョンエラーチェックボックス27D,28Dが有効に選択されると、選択されたチェックボックスがアドレス側フレーム27のコリジョンエラーチェックボックス27Dの場合、画面上で入力されたアドレスが画面上で入力されたデータフレーム変更され、選択されたチェックボックスがデータ側フレーム28のコリジョンエラーチェックボックス28Dの場合、画面上で入力されたデータが画面上で入力されたアドレスに変更されることで、フレーム不整合の波形が生成される。
【0055】
また、画面20上で「なし」と表示される正常波形チェックボックス27A,28Aが有効に選択されると、通信データの波形はエラーがない正常な状態に戻る。
詳細を述べると、アドレス側フレーム27の正常波形チェックボックス27Aが有効に選択されると、画面上で入力されたアドレスの波形が正常に戻り、データ側フレーム28の正常波形チェックボックス28Aが有効に選択されると、画面上で入力されたデータの波形が正常に戻る。この動作は、通信開始後でも変更可能である。
【0056】
よって、単一の伝送異常系の作り込みが可能な他、エラーのチェックボックスを複数種類選択することで、複合的な伝送異常系の波形も作成可能であり、伝送間隔も同時に再設定可能である。また、アドレス値入力エリア21A及びデータ値入力エリア22Aに入力した値の変更も可能である。
画面20上の通信停止ボタン30が選択されると、パーソナルコンピュータ9は、マスタ制御部側としての伝送を中止する。
【0057】
図5は、本発明の実施形態におけるエレベータ伝送システムに用いる伝送解析システムの伝送信号変換ユニットとパーソナルコンピュータ間の通信形態の一例を示す図である。
まず、パーソナルコンピュータ9の画面20上の通信開始ボタン29が選択されると通信開始動作が開始する(ステップS1)。そして、パーソナルコンピュータ9の画面20で入力された情報である設定値データの送信が始まる(ステップS2)。設定値データは、RS232Cケーブル16を介してパーソナルコンピュータ9から伝送信号変換ユニット15で送信される(ステップS3)。設定値データが伝送信号変換ユニット15で受信されると(ステップS4)、伝送信号変換ユニット15は、設定値データの正常受信が行なえたとして設定値ACKをパーソナルコンピュータ9送出する(ステップS5)。
【0058】
パーソナルコンピュータ9は、伝送信号変換ユニット15からの設定値ACKを受信し(ステップS6)、当該設定値ACKの正常確認の実施後(ステップS7)、実行コードを伝送信号変換ユニット15に送出する(ステップS8,S9)。
【0059】
伝送信号変換ユニット15は、パーソナルコンピュータ9からの実行コードを受信した場合、受信済みである各種の設定値データに基づく処理を実行する(ステップS10)。伝送信号変換ユニット15は、処理の実行後、実行コードACKをパーソナルコンピュータ9に送出する(ステップS11)。実行コードACKをパーソナルコンピュータ9が受信すると通信完了となる(ステップS12)。通信が失敗した場合は、即座に通信停止する。通信停止の動作としてはパーソナルコンピュータ9の画面20上の通信停止ボタン30が選択された場合と同じ動作になる。
【0060】
ここまで述べた、パーソナルコンピュータ9と伝送信号変換ユニット15の間の通信処理の詳細について説明する。ステップS2,S3,S4の処理として、伝送信号変換ユニット15の伝送ドライバIC44は、パーソナルコンピュータ側シリアル受信信号線45A、パーソナルコンピュータ側シリアル送信信号線45Bを介してパーソナルコンピュータ9との通信を行なう。
【0061】
パーソナルコンピュータ9の画面20でのアドレスフレーム値、データフレーム値、各種時間間隔といった設定値入力が実施されると、その設定値や実行コードが伝送ドライバIC44とシリアル/パラレル変換部43とを経由してコントロール部41に入力される。
【0062】
次に、ステップS5,S6の処理として、伝送信号変換ユニット15のコントロール部41は、パーソナルコンピュータ9からの設定値データを正常に受信した場合にパーソナルコンピュータ9宛ての設定値ACKを出力する。パラレル/シリアル変換部42は、コントロール部41からの設定値ACKを伝送ドライバIC44を経由してパーソナルコンピュータ9に送信する。
【0063】
次に、伝送信号変換ユニット15の内部処理の詳細を説明する。伝送信号変換ユニット15のコントロール部41は、受信済みの設定値データをタイミング設定部37およびエラー設定部40に送信する。例えば、設定値データがタイミングの設定値の場合、タイミング設定部37は時間値を変数に変換し、その変数を通信波形生成部36に送る。
【0064】
また、画面20上でエラー設定が実施されて当該設定が設定値データに含まれている場合、エラー設定部40はエラーの種類を認識し、認識結果をアドレス生成部38やデータ生成部39に送る。
【0065】
コントロール部41からは、設定値データであるアドレスフレーム値やデータフレーム値がアドレス生成部38やデータ生成部39に入力されているので、アドレス生成部38やデータ生成部39は、エラー設定部40からの認識結果をもとに各フレームの通信データにエラーのビット操作を実施し、実施結果を通信波形生成部36に送る。
【0066】
通信波形生成部36は、エレベータ伝送システム1に出力すべき伝送波形を波形タイミングや、フレームの通信データの条件に添ってパラレル/シリアル変換部33に出力する。
【0067】
その後、伝送波形は伝送ドライバIC32を経由してエレベータ伝送システム1に出力される。この動作により、伝送解析システム14からは、エレベータのマスタ機能としての伝送が開始され、且つ、各異常系の設定による波形が送出される。
【0068】
また、エレベータ伝送システム1から伝送信号変換ユニット15への伝送波形の入力が有る場合は、伝送信号変換ユニット15の伝送ドライバIC44は、入力された伝送波形をシリアル/パラレル変換部34を介して受信データ処理部35に出力する。
【0069】
受信データ処理部35は、伝送波形のアドレスフレームやデータフレームを16進数に変換して、コントロール部41に出力する。
コントロール部41は、受信データ処理部35からのデータを取得し、この取得データをパラレル/シリアル変換部42および伝送ドライバIC44を介してパーソナルコンピュータ9に送信する。
【0070】
以上のように、本発明の実施形態におけるエレベータ伝送システムに接続される伝送解析システムでは、エレベータ伝送システムの伝送路上に流す伝送アドレス及び伝送データの伝送タイミングや各種エラーの条件をパーソナルコンピュータ9の画面上の簡易な操作で自由に設定することが可能である。このように保守員による設定を簡易に行なえるようにしたので、保守員の余分な技量や時間が不要となる。
【0071】
この伝送解析システムでは、リアルタイムで保守員による各種設定が可能であるため、再現性の低い不具合に対する故障究明やエレベータの試験の詳細なる異常系確認を行なうことも可能である。また、調整時や故障究明時における繰り返し試験の所要時間を短縮できるので、作業の効率化が図れる。
【0072】
また、保守員により故障原因を追求する場合、故障の状況に応じた伝送データを簡易な操作で生成することができるので、各異常系に対するアプローチが可能である。よって、解明困難な故障原因が解明できる。
【0073】
また、高額な設備を使用せずに、保守員のソフトウェアの技量を問うことなしに、当該保守員が設定値を直接入力することで、多種にわたる伝送異常系の試験が実現することができる。
【0074】
以上説明した実施形態では、マスタ制御部側を伝送解析システム14に切り替えて、当該伝送解析システム14をマスタ制御部側とすると説明したが、これに限らず、スレーブ制御部側を伝送解析システムに切り替え、当該伝送解析システムをスレーブ側にする機能を有するようにしてもよい、これにより、スレーブ制御部側での異常系試験が可能になる。マスタ側はエレベータ伝送システム1のままであるため、現状のエレベータ運行の実施中に異常系を生成することができ、実機での検証も可能になる。
【0075】
なお、この発明は前記実施形態そのままに限定されるものではなく実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、前記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を省略してもよい。更に、異なる実施形態に亘る構成要素を適宜組み合せてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明の実施形態におけるエレベータ伝送システムおよび伝送解析システムの概略構成例を示す図。
【図2】本発明の実施形態におけるエレベータ伝送システムに用いる伝送解析システムのパーソナルコンピュータの表示画面の一例を示す図。
【図3】本発明の実施形態におけるエレベータ伝送システムに用いる伝送解析システムの伝送信号変換ユニットの構成例を示すブロック図。
【図4】本発明の実施形態におけるエレベータ伝送システムによるアドレスおよびデータの伝送形態の一例を示す図。
【図5】本発明の実施形態におけるエレベータ伝送システムに用いる伝送解析システムの伝送信号変換ユニットとパーソナルコンピュータ間の通信形態の一例を示す図。
【図6】従来のエレベータ伝送システムおよび伝送解析システムの概略構成例を示す図。
【図7】従来のエレベータ伝送システムに用いる伝送解析システムの処理動作の一例を示すフローチャート。
【符号の説明】
【0077】
1…エレベータ伝送システム、2,7A…マスタ制御部、3…スレーブ制御部、4…伝送路、5…信号取り出しケーブル、6,14…伝送解析システム、7B…CPU、8…CPUエミュレータ、9…パーソナルコンピュータ、10…オペレーティングシステム、11…テキストエディタ、12…コンパイラ、13…エミュレータ、15…伝送信号変換ユニット、16…RS232Cケーブル、17…伝送コントロールソフト、18…入力装置、20…画面、21…アドレスフレーム、21A…アドレス値入力エリア、22…データフレーム、22A…データ値入力エリア、24…アドレス・データ間フレーム、24A…アドレス・データ間入力エリア、25…アドレス・アドレス間フレーム、25A…アドレス・アドレス間入力エリア、26…エラー制御フレーム、27…アドレス側フレーム、27A,28A…正常波形チェックボックス、27B,28B…パリティエラーチェックボックス、27C,28C…CRCエラーチェックボックス、27D,28D…コリジョンエラーチェックボックス、28…データ側フレーム、29…通信開始ボタン、30…通信停止ボタン、32,44…伝送ドライバIC、33…パラレル/シリアル変換部、34…シリアル/パラレル変換部、35…受信データ処理部、36…通信波形生成部、37…タイミング設定部、38…アドレス生成部、39…データ生成部、40…エラー設定部、41…コントロール部、42…パラレル/シリアル変換部、43…シリアル/パラレル変換部、45A…パーソナルコンピュータ側シリアル受信信号線、45B…パーソナルコンピュータ側シリアル送信信号線、50…CPU内部処理部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも各エレベータのかごの昇降動作を制御するマスタ制御部と、少なくとも乗場呼び又はかご呼びを制御する複数のスレーブ制御部とで構成され、前記マスタ制御部と各スレーブ制御部との間で伝送路を介して制御情報に各スレーブ制御部に固有のアドレスを付加してサイクリックにシリアル伝送するエレベータ伝送システムにおいて、
前記各スレーブ制御部に伝送する制御情報の形態および伝送先のスレーブ制御部に固有のアドレスの入力を受け付ける入力手段と、
前記入力した制御情報の形態にしたがった伝送波形を前記入力したアドレスに対応するスレーブ制御部に伝送する伝送手段と
を備えたことを特徴とするエレベータ伝送システム。
【請求項2】
前記入力手段は、
前記伝送先のスレーブ制御部に固有のアドレスが付加される制御情報の値の入力を受け付ける
ことを特徴とする請求項1に記載のエレベータ伝送システム。
【請求項3】
前記制御情報の形態は、
当該制御情報の伝送先のスレーブ制御部に固有のアドレスに続く制御情報の伝送タイミングである
ことを特徴とする請求項1に記載のエレベータ伝送システム。
【請求項4】
前記制御情報の形態は、
当該制御情報の伝送先のスレーブ制御部に固有のアドレスに続く制御情報のパリティビットを反転させた値を示す制御情報である
ことを特徴とする請求項1に記載のエレベータ伝送システム。
【請求項5】
前記制御情報の形態は、
当該制御情報の伝送先のスレーブ制御部に固有のアドレスに続く制御情報のCRCチェックビットに1を加算した値を示す制御情報である
ことを特徴とする請求項1に記載のエレベータ伝送システム。
【請求項6】
前記制御情報の形態は、
当該制御情報の伝送先のスレーブ制御部に固有のアドレスに続く制御情報を当該アドレスに変換した制御情報である
ことを特徴とする請求項1に記載のエレベータ伝送システム。
【請求項7】
前記制御情報の形態は、
当該制御情報の伝送先のスレーブ制御部に固有のアドレスに対するサイクル単位における次の伝送先のスレーブ制御部に固有のアドレスの伝送タイミングである
ことを特徴とする請求項1に記載のエレベータ伝送システム。
【請求項8】
前記制御情報の形態は、
当該制御情報の伝送先のスレーブ制御部に固有のアドレスのパリティビットを反転させた値を示すアドレスである
ことを特徴とする請求項1に記載のエレベータ伝送システム。
【請求項9】
前記制御情報の形態は、
当該制御情報の伝送先のスレーブ制御部に固有のアドレスのCRCチェックビットに1を加算した値を示すアドレスである
ことを特徴とする請求項1に記載のエレベータ伝送システム。
【請求項10】
前記入力手段は、
前記伝送手段による伝送開始後に、前記各スレーブ制御部に伝送する制御情報の別の形態および伝送先のスレーブ制御部に固有のアドレスの指定をさらに受け付け、
前記伝送手段は、
前記入力した別の制御情報の形態にしたがった伝送波形を前記入力したアドレスに対応するスレーブ制御部に伝送する
ことを特徴とする請求項1に記載のエレベータ伝送システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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