説明

エレベータ群管理システムおよびその制御方法

【課題】電車の遅れ等により、交通流の変化タイミングが通常とずれた場合や、現時点以降の交通流の予期せぬ変化時にも、適切に交通流を予測する。
【解決手段】過去に発生した交通流データの時系列特徴の変遷を用いて過去の時系列データの時間経過に対する特徴の変遷パターンと、現時点までの交通流データの時間経過に対する特徴の変遷パターンとの比較により、現時点までの交通流データの特徴の変遷パターンに最も近い過去のデータのパターンから現時点から先の交通流を予測する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレベータの群管理システムおよびその制御方法に係り、特にビル内の交通流の予測に関し、予測した交通流に応じた制御を行うエレベータの群管理システムおよびその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エレベータ群管理システムは、複数のエレベータかごを1つのグループとして扱うことで、利用者に対してより効率的な運行サービスを提供できるシステムとなっている。
【0003】
具体的には、複数のエレベータかご(通常4台から8台)を1つのグループとして管理し、ある階床にホール呼びが発生した場合に、このグループの中から最適なかごを1つ選択して、そのかごに先のホール呼びを割当てる制御を実施するものである。
【0004】
この群管理システムの中には、現在収集した交通流や、前日までに収集した過去の交通流の履歴から、これから発生する交通流を予測し、予測した交通流に適した制御パラメータにより割当て制御を行うものがある。
【0005】
本技術分野の背景技術として、特許文献1には、当日までの乗車人数や降車人数などの交通流データが時系列に記録されたデータベースから、翌日の同時刻の交通流データを予測することが開示されている。
【0006】
また、特許文献2には、現在収集した交通流の特徴を抽出し、前日までに発生した代表的な交通流のうちのどの交通流に最も特徴が類似しているかによって交通需要を選択し、現在収集した交通流と、選択した交通需要が持っている交通流の特性から、これから発生する交通流を予測するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平4−256670号公報
【特許文献2】特開昭59−22870号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1では、データベースにおける同一の時刻のみのデータを用いて交通流を予測しているため、電車が遅れた場合など、ビル内の交通流の変化のタイミングが通常とずれた場合には、適切な交通流の予測は困難である。
【0009】
また、特許文献2では、現在収集した交通流の特徴に基づいて、過去の類似した交通需要を選択しているため、交通流が変化したときには、変化が交通流の収集に反映されるまでの間、適切な交通流の予測は困難である。
【0010】
本発明の目的は、電車の遅れなどにより、交通流の変化のタイミングが通常とずれた場合においても、適切に交通流を予測し、制御に反映させることが可能なエレベータ群管理システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明はその一面において、ビルの複数階床をサービスする複数台のエレベータと、ビル内の交通流を予測する交通流予測手段を備え、予測した交通流に応じて制御されるエレベータ群管理システムにおいて、前記交通流予測手段は、ビル内の交通流データを、単位時間毎の交通流データとして収集し、前記単位時間毎の交通流データを、予め用意された複数の特徴IDのうちのどの特徴IDに属するかを識別し、前記単位時間毎に識別された交通流データの特徴IDを、時系列に記録し、過去の前記特徴IDの時間経過に対する変遷のパターンと、現時点までの交通流データにおける特徴IDの時間経過に対する変遷のパターンとを比較して、前記現時点までの交通流データにおける特徴IDの変遷パターンに近い前記過去のデータにおける変遷パターンを探索し、探索された前記過去のデータの類似パターンの後に引き続いて発生した過去の交通流データに基づいて、現時点以降の交通流を予測することを特徴とする。
【0012】
本発明の望ましい実施態様においては、現実に現れる複数の特徴毎に、それぞれ特徴ID(名)を付け、これらの特徴IDのうちのどの特徴IDに属するかを識別するに際し、前記現時点までの交通流データにおける特徴IDの変遷パターンに最も近い前記過去のデータにおける変遷パターンを探索する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の望ましい実施態様によれば、電車の遅れなどにより、交通流の変化のタイミングが通常とずれた場合においても、適切に交通流を予測し、制御に反映させることが可能なエレベータ群管理システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施例によるエレベータ群管理システムにおける交通流予測部の構成図である。
【図2】本発明の一実施例における時系列特徴データベースで扱うデータの例である。
【図3】本発明の一実施例における時系列特徴パターンマッチング部における処理の一部の説明図である。
【図4】本発明の一実施例における日種毎のデータベースの作成方法説明図である。
【図5】本発明の一実施例における平日交通流識別部による識別方法説明図である。
【図6】本発明の一実施例における日種IDの更新方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0016】
図1は、本発明の一実施例によるエレベータ群管理システムにおける交通流予測部の構成図である。
【0017】
交通流収集部101は、各階床での乗り人数や降り人数などの交通流情報をエレベータより収集する。乗り場で行先階を登録する行先階予約式群管理の場合は、乗り人数や降り人数の代わりに、階間別の利用人数などの交通流情報を、行先階登録装置から収集しても良い。
【0018】
交通流識別部102は、例えば特許文献2の方法などにより、交通流収集部101にて収集した交通流情報の特徴が、前日までに発生した複数の代表的な交通流における、どの特徴と最も類似しているかを識別する。
【0019】
ここで、交通流の特徴とは、方向別及び階床別の交通量、または、階床間別の交通量のうち、特に交通量の多い方向及び階床、または階床間の交通量を抜き出したものを指すことが望ましい。そして、現実に現れる複数の特徴に、それぞれ特徴ID(名)を付けるものとする。
【0020】
時計103は、現在の時刻を出力する。
【0021】
時系列特徴データベース104は、交通流識別部102にて識別した現時点の交通流の特徴と最も類似した代表的な交通流の特徴ID名と、時計103より出力される現在時刻に基づいて、識別した特徴ID名を時系列に記録する。ここで、代表的な交通流の特徴ID名は、例えば、A,B,C,…などと、代表的な交通流毎に区別して名付けるものとする。
【0022】
時系列特徴パターンマッチング部105は、交通流識別部102にて識別した特徴ID名と、時計103より出力される現在時刻と、時系列特徴データベース104に記録された前日までの時系列の特徴ID名が記録されたデータベースに基づいて、後述するパターンマッチングにより、これから発生すると予測される交通流の日種(平日,休日および特異日など)および特徴ID名を出力する。
【0023】
特徴別交通流参照部106は、時系列特徴パターンマッチング部105により出力された、これから発生すると予測される交通流の特徴ID名を参照し、特徴ID名に応じた交通流を出力する。
【0024】
予測交通流作成部107は、交通流収集部101により収集した交通流情報と、特徴別交通流参照部106により出力された交通流から、予測交通流を作成する。例えば、これら2つの交通流の平均値を予測交通流とする。
【0025】
交通流データ分類部108は、時系列特徴データベースに記録された時系列の特徴ID名に基づいて、平日、休日および特異日などの日種情報を分類するものであり、平日交通流識別部1081と、休日交通流1082と、特異交通流1083と、特異交通流マッチング回数計数部1084と、日種ID更新分1085を備える。また、交通流データ分類部は、一日の中で、利用者の少ない夜間などに処理を行うことが望ましい。
【0026】
平日交通流識別部1081は、本日収集した交通流データの時系列が、過去において平日であると識別した交通流の時系列と近いかを判定し、近い場合、本日収集した交通流データを平日の交通流であると識別する。
【0027】
休日交通流識別部1082も同様にして、本日収集した交通流データの時系列が、過去において休日または特異日であると識別した交通流の時系列と近いかを判定し、近い場合、本日収集した交通流データを該当する日種の交通流であると識別する。
【0028】
特異交通流識別部1083は、平日の交通流でも休日の交通流でもないと識別された場合に特異な交通流であると識別する。
【0029】
特異交通流マッチング回数計数部1084は、本日において時系列特徴パターンマッチング部105において出力される日種が特異日である回数を計数し出力する。
【0030】
日種ID更新部1085は、特異交通流マッチング回数計数部1084より出力される特異日と識別された回数に基づいて、後述する方法で日種IDを更新する。
【0031】
図2は、時系列特徴データベースで扱うデータの例である。図のように、毎日の交通流データに対して、平日および休日などの日種IDと、時刻毎の交通流の特徴ID名を記録する。図では、上下方向に1ヶ月分の交通流データを、また、左右方向に24時間分を1分刻みに記録している。しかし、1ヶ月分や、1分毎の交通流の特徴ID名に限定するものではない。
【0032】
図3は、時系列特徴パターンマッチング部における処理の一部を説明するものである。図のように、現時点の交通流の時間経過に対する組み合わせパターンに最も近いパターンを過去の交通流の時間経過に対する特徴IDの変遷パターンから検索し、検索結果に基づいて、現時点より先の交通流の特徴IDの変遷を予測する。
【0033】
図のように、本日の現在(8:43)がBで、1分前および2分前がAであるとする。このとき、この『AAB』という特徴IDの変遷パターンを現在時刻の近傍から、過去の組合せパターン内で検索する。図の場合、平日の8:41〜8:43の3分間の変遷パターンは、『AAB』となっており、現在のパターンと同一のパターンとなる。過去のデータベースにおいては、『AAB』のパターンの後は『CCCC』となっているため、その後には、『CCCC』の特徴IDの変遷を持つ交通流が発生すると予測する。
【0034】
図4は、図3における日種毎のデータベースの作成の方法を説明するものである。図のように、図2で扱うデータベースに基づいて、前日より前の同一時刻の交通流の発生履歴から、日種毎のデータベースを作成する。例として、8:43は、特徴ID[A]として7回、「B」として12回識別したとする。このとき、識別された回数の多い特徴ID[B]であると判断する。ここでは、回数の多い方としているが、直近の傾向を重視して、重みを付けて評価しても良い。
【0035】
図5は、平日交通流識別部における識別の方法を説明するものである。図のように、本日のデータと、過去の平日のデータを各時刻において比較し、一致するデータの個数が所定値より多い場合、平日の交通流であると識別する。休日交通流識別部についても同様である。
【0036】
図6は、日種ID更新部1085における日種IDの更新方法を説明するものである。図のように、平日の交通流データが現れる頻度が所定値よりも少なく、かつ、特異交通流データであると見なされていた交通流データを識別した回数が所定値を超えたときに、特異交通流の時系列特徴IDの変遷データを、平日の交通流の時系列特徴IDの変遷データとして置き換える。
【0037】
以上の方法により、電車の遅れなどにより通常とは交通流の変化のタイミングがずれた場合においても、過去の交通流の時系列特徴IDの変遷データから、現在より先の時点の交通流特徴IDの変遷を予測することができる。
【0038】
また、入居テナントの入れ替えなどによりビル内の交通流がある日突然変化したとしても、特異交通流のデータベースを持つことにより、翌日から適切な予測を行うことが可能となる。
【符号の説明】
【0039】
101…交通流収集部、102…交通流識別部、103…時計、104…時系列特徴データベース、105…時系列特徴パターンマッチング部、106…特徴別交通流参照部、107…予測交通流作成部、108…交通流データ分類部、1081…平日交通流識別部、1082…休日交通流識別部、1083…特異交通流識別部、1084…特異交通流マッチング回数計数部、1085…日種ID更新部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビルの複数階床をサービスする複数台のエレベータと、ビル内の交通流を予測する交通流予測手段を備え、予測した交通流に応じて制御されるエレベータ群管理システムにおいて、前記交通流予測手段は、
ビル内の交通流データを、単位時間毎の交通流データとして収集する交通流データ収集部と、
前記単位時間毎の交通流データを、予め用意された複数の特徴IDのうちのどの特徴IDに属するかを識別する特徴ID識別部と、
前記単位時間毎に識別された交通流データの特徴IDを、時系列に記録する記録部と、
過去の前記特徴IDの時間経過に対する変遷のパターンと、現時点までの交通流データにおける特徴IDの時間経過に対する変遷のパターンとを比較して、前記現時点までの交通流データにおける特徴IDの変遷パターンに近い前記過去のデータにおける変遷パターンを探索する類似パターン探索部と、
探索された前記過去のデータの類似パターンの後に引き続いて発生した過去の交通流データに基づいて、現時点以降の交通流を予測する交通流予測部
を備えたことを特徴とするエレベータ群管理システム。
【請求項2】
請求項1において、前記特徴ID識別部は、現実に現れる複数の特徴毎に、それぞれ特徴ID(名)を付け、これらの特徴IDのうちのどの特徴IDに属するかを識別することを特徴とするエレベータ群管理システム。
【請求項3】
請求項1または2において、前記類似パターン探索部は、前記現時点までの交通流データにおける特徴IDの変遷パターンに最も近い前記過去のデータにおける変遷パターンを探索することを特徴とするエレベータ群管理システム。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかにおいて、前記過去は、前日以前を指すことを特徴とするエレベータ群管理システム。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかにおいて、前記比較は、交通流データの特徴IDの時間経過に対する変遷のパターンのパターンマッチングによることを特徴とするエレベータ群管理システム。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかにおいて、前記比較する過去の変遷のパターンは、平日,休日および特異日を含む少なくとも3種以上の日種に分類されていることを特徴とするエレベータ群管理システム。
【請求項7】
請求項6において、前記特異日の日種を所定の条件によって平日又は休日の日種へと変更する日種変更部を備えたことを特徴とするエレベータ群管理システム。
【請求項8】
請求項7において、前記日種変更部は、特異日の交通流データとパターンがマッチした回数が、一日の中で所定回数以上となる日数が、所定値以上となったときに、前記特異日の日種を平日又は休日の日種へ変更することを特徴とするエレベータ群管理システム。
【請求項9】
ビルの複数階床をサービスする複数台のエレベータを備え、ビル内の交通流を予測する交通流予測ステップと、予測した交通流に応じてエレベータ群管理システムを制御するステップとを備えたエレベータ群管理システムの制御方法において、
ビル内の交通流データを、単位時間毎の交通流データとして収集する交通流データ収集ステップと、
前記単位時間毎の交通流データを、複数の特徴IDのうちのどの特徴IDに属するかを識別する特徴ID識別ステップと、
前記単位時間毎に識別された交通流データの特徴ID名を時系列に、特徴IDの変遷として記録する記録ステップと、
過去の前記特徴IDの時間経過に対する変遷のパターンと、現時点までの交通流データにおける特徴IDの時間経過に対する変遷のパターンとを比較して、前記現時点までの交通流データにおける特徴IDの変遷パターンに近い前記過去のデータにおける変遷パターンを抽出する類似パターン探索ステップと、
探索された前記過去のデータの類似パターンの後に引き続いて発生した過去の交通流データに基づいて、現時点以降の交通流を予測する交通流予測ステップ
を備えたことを特徴とするエレベータ群管理システムの制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−224464(P2012−224464A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−95692(P2011−95692)
【出願日】平成23年4月22日(2011.4.22)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】