説明

エレベータ防振構造

【課題】荷重の変動によらず最適な防振効果が得られるエレベータ防振構造を提供する。
【解決手段】機械台6と巻上機台5との間及びかご枠とかご床との間の少なくとも一方に設けられ、上方から鉛直荷重を受けて圧縮する防振体と、防振体の支持領域下方に設けられ、支持領域を支持する防振体支持部9aと、防振体のばね定数調整領域下方に設けられ、鉛直荷重に対して防振体と直列になるようにばね定数調整領域を支持し、鉛直荷重が所定値よりも小さいときは、鉛直荷重の増加に追従して鉛直下方への変形量を増加させ、鉛直荷重が所定値よりも大きいときは、鉛直荷重の増加に追従して鉛直下方への変形量を増加させることが抑制されるばね定数調整部9bとを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、エレベータで使用される巻上機等の振動に対して最適な防振効果を得るエレベータ防振構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のエレベータ防振構造は、巻上機から発生する振動が建築躯体へ伝達することを防ぐため、機械台と、この機械台上方に配置され、巻上機を設置する巻上機台と、機械台と巻上機台の間に設置される防振ゴムやばねからなる防振体により構成される。このエレベータ防振構造においては、巻上機重量、巻上機台重量及び巻上機にかかる荷重による防振体のたわみ率と、巻上機を含む建築躯体までの系の振動伝達率の関係から使用される防振体が選定される。
【0003】
また、別のエレベータ防振構造においては、ロープの一端部に人員を収容するカゴを吊持するとともに、他端部にバランス用重錘を吊り下げ、中途部をプーリに巻回して、プーリを正逆方向に回転駆動することにより、カゴを昇降駆動する巻上機と、この巻上機が据付けられる据付け面との間に介設され、巻上機の駆動にともなう振動を吸収緩衝する、高圧空気を集溜した低剛性の空気バネを具備したものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特開平10−279233号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のエレベータ防振構造においては、エレベータの乗客数の変動等を考慮して得られる巻上機にかかる最大荷重条件によるたわみ率から一種類の防振体を決定しているが、エレベータの乗客がいない場合等、巻上機にかかる荷重が小さい場合は、必ずしも最適な防振効果を得られるわけでなかった。
【0006】
また、特許文献1記載のものは、上記の変動する荷重に対応した防振構造を提案しているが、圧力タンク等、防振構造を構成する部材が多く煩雑なものとなっていた。
【0007】
この発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、その目的は、簡易な構成で、巻上機から建築躯体への振動についてはもちろんのこと、かご枠からかご床への振動に対してもかかる荷重の変動によらず最適な防振効果が得られるエレベータ防振構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明に係るエレベータ防振構造は、機械台と巻上機台との間及びかご枠とかご床との間の少なくとも一方に設けられ、上方から鉛直荷重を受けて圧縮する防振体と、前記防振体の支持領域下方に設けられ、前記支持領域を支持する防振体支持部と、前記防振体のばね定数調整領域下方に設けられ、前記鉛直荷重に対して前記防振体と直列になるように前記ばね定数調整領域を支持し、前記鉛直荷重が所定値よりも小さいときは、前記鉛直荷重の増加に追従して鉛直下方への変形量を増加させ、前記鉛直荷重が所定値よりも大きいときは、前記鉛直荷重の増加に追従して鉛直下方への変形量を増加させることが抑制されるばね定数調整部とを備えたものである。
【発明の効果】
【0009】
この発明によれば、簡易な構成で、巻上機から建築躯体への振動についてはもちろんのこと、かご枠からかご床への振動に対してもかかる荷重の変動によらず最適な防振効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
この発明を実施するための最良の形態について添付の図面に従って説明する。なお、各図中、同一又は相当する部分には同一の符号を付しており、その重複説明は適宜に簡略化ないし省略する。
【0011】
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1におけるエレベータ防振構造の正面図である。図2はこの発明の実施の形態1におけるエレベータ防振構造の側面図である。
【0012】
図1及び図2において、1は主ロープである。主ロープ1の両端には、それぞれかご及び釣合おもり(ともに、図示せず)が支持される。かかる主ロープ1は、駆動綱車2及びソラセ車3に巻き掛けられるものである。そして、駆動綱車2は、巻上機4に取り付けられる。この巻上機4は、一対の巻上機台5に支持される。これらの巻上機台5は、ソラセ車3を挟み込むように配置される。
【0013】
そして、これらの巻上機台5は、一対の機械台6に支持される。これらの機械台6は、建築躯体に支持される。ここで、巻上機台5と機械台6との間には、複数のエレベータ防振構造7が設けられる。これらの防振構造7は、かご側主ロープ1近傍及び釣合おもり側主ロープ1近傍に設けられる。これらの防振構造7は、防振体8、基台9、ストッパ10からなる。
【0014】
防振体8は、第一防振体8a及び第二防振体8bからなる。これらの防振体8a、8bは、例えば、防振ゴム、圧縮ばね等で形成される。これらの防振体8a、8bは、巻上機台5の長手方向に沿って、鉛直荷重に対して並列に設けられる。具体的には、第二防振体8bは、第一防振体8aよりも巻上機4にかかる鉛直方向の重心から遠い位置に設けられる。
【0015】
なお、第一防振体8aは、かご内の乗客がいないときに、振動伝達率が最適になるようなばね定数で設計される。一方、第二防振体8bは、かご内の乗客が多くなったときに、第一防振体8aと合せて振動伝達率が最適になるようなばね定数で設計される。より具体的には、第二防振体8bは、第一防振体8aよりもばね定数が大きくなるように設計される。かかる構成の防振体8a、8bは、上方から巻上機4にかかる鉛直荷重を受け圧縮するものである。そして、これらの防振体8a、8b下方は、基台9に支持される。
【0016】
この基台9の防振体支持部9aは、防振体8の支持領域として第一防振体8aを支持する。また、基台9のばね定数調整部9bは、防振体8のばね定数調整領域として第二防振体8bを支持する。このばね定数調整部9bは、基台9に設けられた切り欠き部の上片で形成される腕からなる。そして、ばね定数調整部9bは、第一防振体8a及び第二防振体8bよりも小さいばね定数で形成される。即ち、ばね定数調整部9bは、長手方向を水平方向として鉛直方向に撓む板ばねとして機能する。従って、ばね定数調整部9bは、鉛直荷重に対して第二防振体8bと直列になるように、第二防振体8bを支持する構成となる。
【0017】
さらに、ばね定数調整部9b下方には、ストッパ10が設けられる。このストッパ10は、ばね定数調整部9bとの鉛直方向の隙間量を調整するものである。
【0018】
次に、図3及び図4を用いて、本実施の形態におけるエレベータ防振構造7の動作を説明する。
図3はこの発明の実施の形態1におけるエレベータ防振構造の要部拡大図であって、かご内の乗客が少ない場合を示した図である。図4はこの発明の実施の形態1におけるエレベータ防振構造の要部拡大図であって、かご内の乗客が多い場合を示した図である。
【0019】
図3では、かご内の乗客が少ない場合、即ち、防振構造7にかかる鉛直荷重が所定値よりも小さい場合を考える。まず、第一防振体8a及び第二防振体8bが鉛直荷重を受ける。そして、上述したように、第二防振体8bは、第一防振体8a及びばね定数調整部9bよりもばね定数が大きい。このため、第二防振体8bがほとんど圧縮しない状態で、第一防振体8aが圧縮されるとともに、ばね定数調整部9bが撓む。
【0020】
ここで、鉛直荷重が所定値よりも小さい場合は、ばね定数調整部9bの撓み量も小さい。このため、ばね定数調整部9bとストッパ10の間に、隙間Aが維持される。即ち、ばね定数調整部9bは、鉛直荷重の増加に追従して、鉛直方向への変更量を増加させる。このため、第二防振体8b及びばね定数調整部9bは、直列のばね系として機能する。そして、上述したように、第一防振体8aは、ばね定数調整部9bよりもばね定数が大きい。従って、防振構造7全体のばね定数は、第一防振体8aと略同等となる。
【0021】
図4では、かご内の乗客が多い場合、即ち、防振構造7にかかる鉛直荷重が所定値よりも大きい場合を考える。この場合、かご内の乗客の増加とともに、かご側主ロープ1を介して巻上機4にかかる鉛直荷重が増加する。かかる鉛直荷重の増加に伴って、鉛直荷重の重心がかご側に移動する。即ち、かご側主ロープ1近傍側の防振構造7により大きい鉛直荷重がかかる。そして、かご側主ロープ1近傍側の防振構造7を局所的に見ても、第一防振体8aよりも第二防振体8bにより大きい鉛直荷重がかかる。
【0022】
その結果、ばね定数調整部9bは、撓み量を大きくし、ストッパ10と当接する。かかる当接により、ばね定数調整部9bは、鉛直下方への変形量の増加を抑制される。このため、第二防振体8b及びばね定数調整部9bは、略第二防振体8b単体のばね系として機能する。従って、防振構造7全体のばね定数は、第一防振体8a及び第二防振体8bの合成ばね定数と略同等となる。即ち、ほとんど作用していなかった第二防振体8bも圧縮されることになる。
【0023】
上述のように、防振構造7は、巻上機4にかかる鉛直荷重の大きさにより第一防振体8a及び第二防振体8bを使い分けている。より具体的には、防振構造7は、巻上機4にかかる鉛直荷重が小さい場合は、相対的にばね定数を小さくし、当該鉛直荷重が大きい場合は、相対的にばね定数を大きくするように切り替えられる。
【0024】
以上で説明した実施の形態1によれば、巻上機4にかかる鉛直荷重が所定値よりも小さいとき、ばね定数調整部9bは、鉛直荷重の増加に追従して変形量を増加させる。このため、防振構造7全体のばね定数は、相対的に小さくなり、最適な防振効果を得ることができる。一方、巻上機4にかかる鉛直荷重が所定値よりも大きいとき、ばね定数調整部9bは、鉛直荷重の増加に追従して変形量を増加させることが抑制される。このため、防振構造7全体のばね定数は、相対的に大きくなり、最適な防振効果を得ることができる。即ち、本発明によれば、巻上機4にかかる鉛直荷重の変動によらず最適な防振効果が得られる。かかる効果は、特に、大型輸送を目的とする大容量エレベータに有効である。
【0025】
また、防振体8は、第一防振体8a及び第二防振体8bからなる。よって、防振体8を一体で構成した場合に比べ、捩れ等による防振体8の劣化をより確実に防止できる。さらに、ばね定数調整部9bは、第二防振体8bよりもばね定数が小さい。このため、巻上機4にかかる鉛直荷重が小さい場合に、より確実に第二防振体8bの圧縮を抑制し、所望の防振効果を得ることができる。加えて、ばね定数調整部9bは、長手方向を水平方向として鉛直方向に撓む板ばねからなる。このため、本発明の防振構造7は、通常の防振構造と同等の高さを維持できる。
【0026】
さらに、ストッパは、ばね定数調整部9bと鉛直方向の隙間量を調整する。このため、防振構造7のばね定数の切り替えを行う鉛直荷重の閾値を変更できる。従って、本発明の防振構造7は、種々の巻上機4に対応できる。加えて、基台9のばね定数調整部に支持される第二防振体8bは、防振体支持部に支持される第一防振体8aよりも巻上機4にかかる鉛直荷重の重心から遠い位置に設けられる。このため、かご内の乗客が多くなった場合、当該鉛直荷重がより確実に第二防振体8bにかかる。従って、第一防振体8aに想定外の鉛直荷重がかかることはない。
【0027】
なお、防振体8が一体化されていても、上記動作を行う防振体支持部9a及びばね定数調整部を備えていれば、同様の効果が得られる。また、かご枠とかご床との間に同様の構成の防振構造7を設けても、最適な防振効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】この発明の実施の形態1におけるエレベータ防振構造の正面図である。
【図2】この発明の実施の形態1におけるエレベータ防振構造の側面図である。
【図3】この発明の実施の形態1におけるエレベータ防振構造の要部拡大図であって、かご内の乗客が少ない場合を示した図である。
【図4】この発明の実施の形態1におけるエレベータ防振構造の要部拡大図であって、かご内の乗客が多い場合を示した図である。
【符号の説明】
【0029】
1 主ロープ
2 駆動綱車
3 ソラセ車
4 巻上機
5 巻上機台
6 機械台
7 防振構造
8 防振体
8a 第一防振体
8b 第二防振体
9 基台
9a 防振体支持部
9b ばね定数調整部
10 ストッパ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
機械台と巻上機台との間及びかご枠とかご床との間の少なくとも一方に設けられ、上方から鉛直荷重を受けて圧縮する防振体と、
前記防振体の支持領域下方に設けられ、前記支持領域を支持する防振体支持部と、
前記防振体のばね定数調整領域下方に設けられ、前記鉛直荷重に対して前記防振体と直列になるように前記ばね定数調整領域を支持し、前記鉛直荷重が所定値よりも小さいときは、前記鉛直荷重の増加に追従して鉛直下方への変形量を増加させ、前記鉛直荷重が所定値よりも大きいときは、前記鉛直荷重の増加に追従して鉛直下方への変形量を増加させることが抑制されるばね定数調整部と、
を備えたことを特徴とするエレベータ防振構造。
【請求項2】
前記防振体は、
前記支持領域を有する第一防振体と、
前記鉛直荷重に対して前記第一防振体と並列に設けられ、前記ばね定数調整領域を有する第二防振体と、
を備えたことを特徴とする請求項1記載のエレベータ防振構造。
【請求項3】
前記第二防振体は、前記第一防振体よりもばね定数が大きいことを特徴とする請求項2記載のエレベータ防振構造。
【請求項4】
前記ばね定数調整部は、前記第二防振体よりもばね定数が小さいことを特徴とする請求項2又は請求項3に記載のエレベータ防振構造。
【請求項5】
前記ばね定数調整部は、長手方向を水平方向として鉛直方向に撓む板ばねからなることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれかに記載のエレベータ防振構造。
【請求項6】
前記ばね定数調整部下方に設けられ、前記ばね定数調整部との鉛直方向の隙間量を調整するストッパ、
を備えたことを特徴とする請求項5記載のエレベータ防振構造。
【請求項7】
前記機械台と前記巻上機台との間に設けられたばね定数調整部は、前記防振体支持部よりも巻上機にかかる前記鉛直荷重の重心から遠い位置に設けられることを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれかに記載のエレベータ防振構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−190823(P2009−190823A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−32221(P2008−32221)
【出願日】平成20年2月13日(2008.2.13)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】