説明

エンジンの検査方法及びクランク角幅の計測方法と装置

【課題】組立後のエンジンに対して特殊なセンサを用いることなくバルブ調整の要否を判断する技術と、バルブ開きクランク角幅を計測する技術を提供する。
【解決手段】エンジン検査装置100の記憶部36は、一のシリンダで燃焼が生じてから次のシリンダで燃焼が生じるまでの期間におけるクランクシャフトの回転数増分と、バルブが開いている間のクランク角幅の相関関係を記憶している。計測部32は、略一定の目標回転数を与えてエンジン10を駆動しながらクランクシャフト24の回転数を計測する。判定部38は、一のシリンダで燃焼が生じてから次のシリンダで燃焼が生じるまでの期間における回転数増分が予め定められた許容範囲を外れている場合に、バルブ調整要であるとの判定結果を出力する。演算部34は、相関関係に基づいて、計測された回転数増分からクランク角幅を求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンのバルブ調整の要否を判定するエンジン検査技術に関する。特に、バルブ調整のための指標となるバルブ開きクランク角幅の計測方法と計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンの製造工程では、組み立てられたエンジンが設計上の許容範囲内であるか否かの検査が行なわれる。エンジンの検査ではバルブ動作に関わる検査が重要であり、検査項目にはバルブタイミングやバルブリフト量などがある。
組み立てられたエンジンの検査に用いることのできる計測装置が、例えば特許文献1や特許文献2に開示されている。特許文献1に開示された計測装置は、シリンダの容積を測定する容積測定手段と、クランクシャフトの回転角度を測定する回転角度測定手段を備える。この計測装置は、2つの測定手段による測定値を用いて、排気量、圧縮比、ストロークなどの値を求める。特許文献2に開示された計測装置は、クランクシャフトの回転角を計測するセンサとバルブリフト量を計測するセンサを備える。この計測装置は、2つのセンサの計測値に基づいて、バルブを開閉するカムの調整の要否を判定する。
【0003】
【特許文献1】特開平8−128877号公報
【特許文献2】特開2004−293346号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の特許文献1や特許文献2に例示されているように、従来、エンジンの検査に用いる計測装置は、シリンダの容積を測定する容積測定手段やバルブリフト量を計測するセンサなど、エンジンに特殊なセンサを取り付けることを要した。すなわち、従来のエンジン検査は、経済的時間的なコストが嵩んでいた。
本発明は、従来にない新規な視点に基づき、組立後のエンジンに対して特殊なセンサを用いることなくバルブ調整の要否を判断する技術、特に、バルブ開きクランク角幅を計測する技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
近年、燃費性能が設計上の許容範囲内であるか否かの検査が重要になってきている。燃費性能に影響を与える要因にはバルブタイミングやバルブリフト量などもあるが、発明者の知見によれば、バルブ開きクランク角幅が重要な要因であることが判明した。本明細書でいう「バルブ開きクランク角幅」とは、バルブが開いている期間にクランクシャフトが回転する回転角、特に、吸気側のバルブが開いている期間のクランクシャフトの回転角を意味する。以下では、「バルブ開きクランク角幅」を単純に「クランク角幅」と呼ぶ。クランク角幅が燃費に影響を与えるのは、クランク角幅がエンジンの組み立て誤差による変動幅が大きく、クランク角幅が設計値よりも大きいと燃料が多くシリンダに供給されるからである。
【0006】
本発明は、発明者が気付いた以下の物理現象に基づいて創作された。クランク角幅が大きいとシリンダへ供給される燃料が多くなる。燃料の燃焼によって発生するエネルギが増大する。即ち、クランクシャフトを回転させるエネルギが増大する。他方、一定の目標回転数与えてエンジンを駆動する際、クランクシャフトの回転数を微視的に観察すると、燃料の燃焼直後に回転数が増大し、その後、フリクションロスにより回転数が低下する脈動を生じている。従って、脈動の幅が大きいことは、シリンダへ供給される燃料が多いことを意味する。即ち、脈動の幅が大きいことはクランク角幅が設計値よりも大きいことを意味する。
【0007】
本発明によるエンジンの検査方法は、上記の知見に基づいている。その検査方法は、略一定の目標回転数を与えてエンジンを駆動しながら一のシリンダで燃焼が生じてから次のシリンダで燃焼が生じるまでの期間におけるクランクシャフトの回転数増分を計測し、計測された回転数増分が予め定められた許容範囲を外れているか否かでバルブ調整の要否を判定することを特徴とする。即ち、計測された回転数増分が予め定められた許容範囲を外れている場合に、バルブ調整要と判定する。逆に言えば、計測された回転数増分が予め定められた許容範囲内である場合に、検査合格と判定する。ここで、「回転数増分」は、より厳密には、一のシリンダで燃焼が生じてから次のシリンダで燃焼が生じるまでの期間の回転数変化における極小値と極大値の差を意味する。以下では、「一のシリンダで燃焼が生じてから次のシリンダで燃焼が生じるまでの期間におけるクランクシャフトの回転数増分」を単に「回転数増分」と称する。許容範囲は、クランク角幅を正確に計測した基準となるエンジンを用いた実験により予め定めておけばよい。クランクシャフトの回転数増分は、クランクシャフトの回転数を直接に計測するだけなく、クランクシャフトの回転に同期した他のシャフト、例えばカムシャフトや減速機の出力シャフトなどを計測することも含む。
【0008】
この検査方法は、クランクシャフトの回転数を計測するだけでよいので、特殊なセンサをエンジンに取り付ける必要がない。また、略一定の目標回転数を与えてエンジンを駆動することは、エンジンECUにそのような制御を記述したプログラムを実装することによって実現できる。本発明によれば、低コストでエンジンを検査することができる。
【0009】
前述したように、クランク角幅が大きいとシリンダへ供給される燃料が多くなる。より具体的には、クランク角幅とシリンダへ供給される燃料量はほぼ比例する。また、シリンダ内での燃焼によるトルクと回転数増分もほぼ比例する。即ち、回転数増分とクランク角幅がほぼ比例する。本発明は、この相関を利用することによって、回転数増分からクランク角幅を求める計測方法に具現化することもできる。
この方法は、略一定の目標回転数を与えてエンジンを駆動しながら一のシリンダで燃焼が生じてから次のシリンダで燃焼が生じるまでの期間におけるクランクシャフトの回転数増分を計測するステップと、回転数増分と、バルブが開いている間のクランク角幅との相関関係に基づいて、計測された回転数増分からクランク角幅を求めるステップを含む。この方法を採用することによって、単にバルブ調整の要否を判定するだけでなく、バルブ調整の指標となるクランク角幅を得ることができる。
【0010】
本発明は、クランク角幅を求める計測装置に具現化することもできる。この計測装置は、記憶部と計測部と演算部を備える。記憶部は、一のシリンダで燃焼が生じてから次のシリンダで燃焼が生じるまでの期間におけるクランクシャフトの回転数増分と、バルブが開いている間のクランク角幅の相関関係を記憶している。相関関係は、回転数増分からクランク角幅を算出する関数であってよいし、回転数増分とクランク角幅の対応を示したテーブルであってもよい。計測部は、略一定の目標回転数を与えてエンジンを駆動しているときの、一のシリンダで燃焼が生じてから次のシリンダで燃焼が生じるまでの期間におけるクランクシャフトの回転数増分を計測する。前述したように、略一定の目標回転数を与えてエンジンを駆動することは、エンジンECUに実装する制御プログラムによって実現されてよい。演算部は、相関関係に基づいて、計測された回転数増分からクランク角幅を求める。
【0011】
クランクシャフトの回転数は、例えばエンジンが備えるエンコーダを流用してよい。エンコーダによってクランクシャフトの回転数の経時変化は取得することができるが、クランクシャフトの回転数の経時的変化と各シリンダのバルブ動作との対応関係をとることは難しい。他方、エンジンECUは通常、バルブ開閉用のカムの回転角度を特定するカム信号を出力するように構成されている。この信号を用いることによって、エンコーダが出力する回転数の経時変化と各シリンダのバルブ動作を対応付けることが容易にできる。即ち、カム信号を用いることによって、求めたクランク角幅に対応するシリンダを特定することができる。即ち、本発明は、所望のシリンダのクランク角幅を求めることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、特別なセンサを取り付けることなく、組立後のエンジンに対してバルブ調整の要否を判断する検査方法と、バルブ開きクランク角幅を計測する計測技術を実現することができる。
【実施例】
【0013】
図面を参照して、本発明に係るエンジン検査方法とエンジン検査装置を説明する。図1は、エンジン10とエンジン検査装置100の模式図である。エンジン検査装置100は、クランク角幅を求めることができる。すなわち、エンジン検査装置100は、クランク角幅の計測装置としても機能する。なお、図1では、複数の同じ部品にはひとつの部品にのみ符号を付し、他の部品の符号を省略している。
まず、エンジン10を説明する。図1のエンジン10は、4つのシリンダ12を有する直列4気筒4サイクルエンジンである。図1において、左から右へ第1シリンダ、第2シリンダ、第3シリンダ、第4シリンダと称する。各シリンダ12には、吸気バルブ16aと排気バルブ16bが取り付けられている。カムシャフト18が回転することによって、バルブ16a、16bが所定のタイミングで開閉する。吸気バルブ16aが開いている間に混合気がシリンダ12へ流入する。吸気バルブ16aが閉じてから混合気を燃焼させる。燃焼後、排気バルブ16bを開いて燃焼ガスを排出する。
燃焼によって生じるエネルギがピストン14を押し下げ、クランクシャフト24を回転させる。クランクシャフト24とカムシャフト18は同期して回転するように構成されており、4つのシリンダ12内で順次に燃焼を発生させることによって、クランクシャフト24を連続回転させる。
【0014】
エンジン10は、カムシャフト18が1回転する毎に1パルスの信号を出力するカムシャフトセンサ20と、クランクシャフト24の回転数を検出するエンコーダ26を有している。カムシャフトセンサ20の信号とエンコーダ26の出力信号はECU22(Electric Control Unit)に入力される。なお、図1では、エンコーダ26からECU22への信号線の図示を省略している。ECU22は、カムシャフトセンサ20とエンコーダ26の信号に基づいて点火のタイミング等を制御する。即ち、カムシャフトセンサ20とエンコーダ26は、エンジン10の部品である。
【0015】
エンジン10の特性について、図2を参照して説明する。図2の縦軸はクランクシャフト24の回転数rev[rpm]を表しており、横軸はクランクシャフト24の回転角度CA[deg]を表している。以下では、クランクシャフト24の回転角CAを略してクランク角CAと称する。
エンジン10が目標回転数NR(クランクシャフト24の目標回転数)を維持するようにECU22によって制御されている場合を想定する。回転数revは、ECU22によって巨視的には回転数NRを維持しているが、微視的にみると脈動している。回転数revは、シリンダ12内で発生する燃焼エネルギによって増加し、フリクションロスによって減少する。エンジン10は、4気筒4サイクルエンジンであるので、クランクシャフト24が2回転する間に、即ち、クランク角CAが720度変化する間に、4つのシリンダ内で順次燃焼が発生する。図2において、クランク角C1、C2、C3、C4が、4つのシリンダで順次燃焼が発生したタイミングを表している。C1とC2のタイミング差、C2とC3のタイミング差、C3とC4のタイミング差、及び、C4と2回目のC1のタイミング差は約180度である。
【0016】
エンジン10は、空燃比一定の混合気をシリンダへ吸入し、これを燃焼する。燃焼により発生するエネルギEから熱拡散やフリクションによるエネルギロスcを引いた残りのエネルギ(E−c)が、クランクシャフト24の回転数を増加させる。例えば、図2において、タイミングC1に第1シリンダ内で燃焼が発生することによって、回転数revは回転数NLからNUへ増加し、その後、フリクションロスによって減少する。そして、タイミングC2に第2シリンダ内で燃焼が発生し回転数が再び増加する。即ち、エネルギ(E−c)が、第1シリンダで燃焼が生じてから次の第2シリンダで燃焼が生じるまでの期間(クランク角C1からC2までの期間)の回転数変化における極小値NL(図2で符号P1が示す位置)と極大値NU(図2で符号P2が示す位置)の差(回転数増分)dN1をもたらす。なお、図2おいて、極小点P1の次の極小点P3は、第2シリンダで燃焼が生じてから次の第3シリンダで燃焼が生じるまでの期間に属する。順次に発生する燃焼とフリクションロスによって脈動しながら、回転数revは、巨視的には一定回転数NRを維持しながら微視的には燃焼の毎に脈動を繰り返す。一のシリンダで燃焼が生じてから次のシリンダで燃焼が生じるまでの期間における回転数増分を記号dNで表す。図2に示す回転数増分dN1は、第1シリンダにおける回転数増分を表している。燃焼により発生するエネルギEと回転数増分dNは、ほぼ比例する。
【0017】
次に、燃焼により生じるエネルギEと、エンジン10の特性のばらつきとの関係を考察する。エンジン10は、空燃比一定の混合気をシリンダへ吸入し、これを燃焼する。燃料の量がシリンダ12へ吸入する混合気量にほぼ比例するので、エネルギEの大きさも混合気量にほぼ比例する。他方、シリンダ12に吸入される混合気量は、バルブ機構、具体的には吸気バルブ16aのリフト量や、吸気バルブ16aが開いている時間に依存する。なお、吸気バルブ16aが開いている期間は、前述したクランク角幅に相当する。リフト量のばらつきは、カムやバルブの寸法誤差が主たる要因であるのに対して、クランク角幅のばらつきは、エンジン10の組立誤差が主たる要因である。これは、クランク角幅が、クランクシャフト、カムシャフト、カムシャフトに固定されるカムなど、エンジン10に組み付けられた多数の部品の連動によって定まるからである。従って、クランク角幅のばらつきがエネルギEの変動に与える影響が最も大きい。クランク角幅と吸入混合気の量はほぼ比例するので、クランク角幅とエネルギEもほぼ比例する。
【0018】
上記の考察から次の結論を得る。
(1)ひとつのシリンダで燃焼により発生するエネルギEと回転数増分dNは、ほぼ比例する。
(2)エネルギEは、バルブ機構の製造誤差によりばらつく。
(3)エネルギEは、クランク角幅に比例する。
(1)と(2)から次の結論を得る。即ち、エンジン10の回転数増分dNが予め定められた許容範囲を外れている場合、バルブ機構がエンジン10の設計仕様から外れていると判定できる。すなわち、回転数増分dNを、バルブ調整の要否の判断基準に採用することができる。
また、(1)と(3)から、次の結論を得る。即ち、回転数増分dNの測定結果から、クランク角幅を求めることができる。求められたクランク角幅は、回転数増分dNが設計仕様から外れている場合にバルブ調整の指針に活用できる。即ち、バルブ調整では、求められたクランク角幅を設計上の許容範囲に戻す調整を行なえばよい。回転数増分dNとクランク角幅がほぼ比例することが解っているので、それらの間の相関関係を実験等により予め求めておくことができる。予め求めた相関関係に基づいて、計測した回転数増分dNから簡単にクランク角幅を求めることができる。回転数増分dNとクランク角幅dCAの関係は、図3に示すように、一次関数Lで表現できる。図3に示した一次関数Lを用いることによって、図2で示した第1シリンダの回転数増分dN1から第1シリンダのクランク角幅dCA1が求められる。
【0019】
エンジン検査装置100の説明に戻る。エンジン検査装置100は、コントローラ30を有している。コントローラ30は、計測部32、演算部34、記憶部36、及び判定部38を備えている。なお、エンジン10のECU22とエンコーダ26も、エンジン検査装置100の構成要素として利用する。検査の際には、ECU22に、目標回転数NRを維持するようにエンジンを駆動しながらカム信号を出力するプログラムが実装される。
記憶部36には、予め特定された相関関係データと、予め定められた回転数増分の許容範囲のデータが記憶されている。相関関係データは、図3に示した一次関数Lを意味する。許容範囲も、実験等により予め定められている。
【0020】
計測部32には、カム信号とクランクシャフト24の回転数が入力される。カム信号は、カムシャフトセンサ20からECU22を介して入力される。クランクシャフト24の回転数は、エンコーダ26から入力される。
【0021】
計測部32は、前述した回転数増分dNを計測する。同時に計測部32は、カム信号から、計測した回転数増分dNに対応するシリンダを特定する。例えば、図2において、計測部32は、カム信号を参照することによって回転数増分dN1が第1シリンダの燃焼によるものであることを判断する。即ち、計測部32は、夫々のシリンダの回転数増分dNを計測する。
計測部32は、複数サイクルの間、各シリンダの回転数増分dNを計測し、シリンダ毎に回転数増分dNの平均値を出力する。例えば、4気筒4サイクルエンジン10を目標回転数NR=1000[rpm」で駆動した場合、エンジン10は、4つのシリンダが順次に燃焼するサイクルを1分間に500回繰り返す。計測部32は、1分間でシリンダ毎に500回の回転数増分dNを計測し、それらの平均を出力する。
【0022】
計測部32から出力された回転数増分dNは、演算部34と判定部38へ送られる。判定部38は、計測された回転数増分dNが記憶部36に記憶された許容範囲内であるか否かを判断する。判定部38は、回転数増分dNが許容範囲内である場合に、バルブ調整が不用である旨の判定結果を出力する。判定部38は、回転数増分dNが許容範囲を外れている場合に、バルブ調整が必要である旨の判定結果を出力する。
【0023】
演算部34は、記憶部36に記憶された相関関係に基づいて、回転数増分dNに対応するクランク角幅dCAを出力する。例えば図3の例では、演算部34は、回転数増分dN1の入力に対してクランク角幅dCA1を出力する。エンジン検査装置100は、シリンダ毎にバルブ調整の要否の判定結果を出力するとともに、クランク角幅を出力する。
【0024】
判定部38が「バルブ調整が必要」のメッセージを出力した場合、検査されたエンジン10は、バルブ調整工程へと送られる。バルブ調整工程では、エンジン検査装置100によって求められたクランク角幅dCAに基づいてバルブ機構が調整される。判定部38が「バルブ調整が不用」のメッセージを出力した場合、エンジン10は、この検査に関しては合格品として採用される。
【0025】
以上説明したエンジン検査装置100の動作は次の通り表現することもできる。計測部32は、は、略一定の目標回転数NRを与えてエンジン10を駆動しながら一のシリンダで燃焼が生じてから次のシリンダで燃焼が生じるまでの期間におけるクランクシャフト24の回転数増分dNを計測する。判定部38は、回転数増分dNが予め定められた許容範囲を外れているか否かでバルブ調整の要否を判定する。すなわち、回転数増分dNが予め定められた許容範囲を外れている場合にバルブ調整が必要であると判定する。演算部34は、回転数増分dNとクランク角幅dCAの相関関係に基づいて、計測された回転数増分dNからクランク角幅dCAを求める。
【0026】
以上説明したように、エンジン検査装置100は、エンジン10が備えているECU22とエンコーダ26を活用して、組み立てられたエンジン10のバルブ調整の要否を判定することができる。さらにエンジン検査装置100は、クランク角幅計測装置として機能し、特殊なセンサ(たとえば吸気混合気量を計測するセンサ)を用いることなくクランク角幅dCAを求めることができる。
【0027】
近年、エンジンの低燃費化が進み、各シリンダへ供給される燃料の量は減少する一方である。シリンダへ供給される燃料の量が減少すると、エンジン組立誤差、特にバルブ機構の組立誤差による供給燃料量のばらつき、即ち吸気混合気量のばらつきがエンジン回転数(クランクシャフト回転数)の変動に与える影響が大きくなる。従って、バルブ組立誤差が許容範囲であるか否かを効率的に判定する検査方法の要望が増大してきている。本発明は、そのような要求に応えるものであり、バルブ機構、特にクランク角幅の変動とクランクシャフト回転数の微視的な変動の相関に着目してバルブ調整の要否を容易に判定する技術を提供する。さらに、本発明は、クランクシャフト回転数の微視的な変動からクランク角幅を求めることができる。クランク角幅が求まれば、バルブ調整が効率的に行なえる。
【0028】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【0029】
例えば、実施例のエンジン検査装置は、クランクシャフト回転数増分dNとクランク角幅dCAの相関関係を一次関数で表現した。回転数増分dNとクランク角幅dCAはほぼ比例するが、より厳密にクランク角幅を求めるために、相関関係を高次関数で表現してもよい。
【0030】
本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】エンジン検査装置の模式図である。
【図2】クランクシャフト回転数変化を説明する図である。
【図3】回転数増分とクランク角幅の関係を説明する図である。
【符号の説明】
【0032】
10:エンジン
12:シリンダ
14:ピストン
16a:吸気バルブ
16b:排気バルブ
18:カムシャフト
20:カムシャフトセンサ
22:ECU
24:クランクシャフト
26:エンコーダ
30:コントローラ
32:計測部
34:演算部
36:記憶部
38:判定部
100:エンジン検査装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
略一定の目標回転数を与えてエンジンを駆動しながら一のシリンダで燃焼が生じてから次のシリンダで燃焼が生じるまでの期間におけるクランクシャフトの回転数増分を計測し、計測された回転数増分が予め定められた許容範囲を外れているか否かでバルブ調整の要否を判定するエンジンの検査方法。
【請求項2】
略一定の目標回転数を与えてエンジンを駆動しながら一のシリンダで燃焼が生じてから次のシリンダで燃焼が生じるまでの期間におけるクランクシャフトの回転数増分を計測するステップと、
回転数増分と、バルブが開いている間のクランク角幅との相関関係に基づいて、計測された回転数増分からクランク角幅を求めるステップと、
を含むことを特徴とするバルブ開きクランク角幅の計測方法。
【請求項3】
バルブ開閉用のカムの回転角度を特定するカム信号に基づいて、求めたバルブ開きクランク角幅に対応するシリンダを特定することを特徴とする請求項2に記載の計測方法。
【請求項4】
一のシリンダで燃焼が生じてから次のシリンダで燃焼が生じるまでの期間におけるクランクシャフトの回転数増分と、バルブが開いている間のクランク角幅の相関関係を記憶している記憶部と、
略一定の目標回転数を与えてエンジンを駆動しているときの、一のシリンダで燃焼が生じてから次のシリンダで燃焼が生じるまでの期間におけるクランクシャフトの回転数増分を計測する計測部と、
相関関係に基づいて、計測された回転数増分からクランク角幅を求める演算部と、
を備えることを特徴とするバルブ開きクランク角幅の計測装置。
【請求項5】
前記演算部は、バルブ開閉用のカムの回転角度を特定するカム信号に基づいて、求めたバルブ開きクランク角幅に対応するシリンダを特定することを特徴とする請求項5に記載の計測装置。
【請求項6】
前記計測部は、複数サイクルの回転数増分の平均値を演算部へ出力することを特徴とする請求項4又は5に記載の計測装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−257901(P2009−257901A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−106470(P2008−106470)
【出願日】平成20年4月16日(2008.4.16)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】