説明

エンジン慣性測定方法

【課題】 本発明は、エンジンの慣性量を測定するエンジン慣性測定方法に関し、試験対象のエンジンをエンジン試験装置のダイナモに連結した状態でそのエンジンの慣性量を測定する。
【解決手段】 エンジンを、スロット開度を所定の開度に保ち、かつ絶対値が相互に同一の加速度で加速および減速しながらその加速および減速の間のエンジンおよびダイナモの特性を計測し、計測された加速時と減速時の特性値に基づいて、エンジンの慣性量を求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの慣性量を測定するエンジン慣性測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、エンジンの様々な性能試験、例えば近年の関心事項としては、回転速度とトルクが時々刻々と変化するトランジェントモードにおける排気ガスの出かた等の試験を行なうため、性能試験を行なおうとするエンジンを実験室等に持ち込んでベンチレーション上でダイナモに連結し、そのエンジンのスロットルの開度やダイナモのトルクあるいは回転速度を、たとえば上記のトランジェントモードに適合するように変化させながら、そのエンジンの様々な性能や特性を計測することが行なわれている。
【0003】
そのようなエンジン試験装置を稼動させてエンジンのスロットルの開度やダイナモのトルクあるいは回転速度を制御するにあたっては、エンジンやダイナモの、加速時あるいは減速時のトルクを推定し、それらのトルクの値を制御値に反映させる必要がある。この加速時(減速時を含む)のエンジンやダイナモのトルクを推定するにあたっては、時々刻々変化する回転速度指令値を微分(あるいは差分)して加速度を求め、その加速度に、あらかじめ決められたエンジンの慣性量やダイナモの慣性量を乗算することにより、加速(減速)に伴うエンジンあるいはダイナモのトルク(エンジン慣性加速度分トルクあるいはダイナモ慣性加速度分トルク)を求め、それらのトルクの値を反映させた制御値を用いて、スロットルの開度やダイナモのトルクあるいは回転速度を制御することが行なわれている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年では、上述のように、以前のような定常モード(回転速度やトルクが一定のモード)からトランジェントモードでのエンジンの挙動に関心が移っており、エンジン性能の正確な試験、あるいは再現性の良い試験を行なうためには、加速時のトルクを正確に推定しエンジンやダイナモの正確な慣性量をインプットしておいて、正確な制御を行なう必要がある。
【0005】
ここで、ダイナモについては、その慣性量は正確に測定することができ、通常はそのダイナモのメーカから正確な値を入手することができるが、試験対象のエンジンについては、そのエンジンが開発途上のエンジンであったりして、このエンジン試験装置に取り付けられる前に正確な測定が終わっていることはほとんど期待できない。そこで、従来は、そのエンジンに関し測定が容易な、そのエンジンの重量W[kg]およびそのエンジンのフライホイール直径D[m]をエンジン試験装置に入力し、比例係数をKとしてエンジン慣性量Ieg
eg[kgm]=W×D/4×K ……(1)
の演算式により求めることが行なわれている。例えばあるシステムではK=0.1が推定値として固定的に設定されている。
【0006】
ところが、この演算式により求められたエンジン慣性量は、幾何学的な寸法等から推定的に設定された係数Kを用いて計算したものであって必ずしも正確ではなく、十分に高精度な試験を行なうことができるものであるか、あるいは試験結果が十分な精度を持つものであるか定かではない場合があるという問題がある。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑み、試験対象のエンジンをエンジン試験装置のダイナモに連結した状態でそのエンジンの慣性量を測定するエンジン慣性測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
エンジンが連結されるダイナモを備え、該ダイナモに連結されたエンジンのスロットルの開度とそのダイナモのトルク及び/又は回転速度とを制御しながらそのエンジンの特性試験を行なうエンジン試験装置を用いてそのエンジンの慣性量を測定するエンジン慣性測定方法において、
上記エンジンを、スロット開度を全閉に保ちながら加速および減速し、その加速および減速の間のエンジンおよびダイナモの特性を計測する第1ステップと、
上記第1ステップで計測された加速時と減速時の特性値に基づいて、上記エンジンの慣性量を求める第2ステップとからなることを特徴とする。
【0009】
また、上記上記第2ステップは、式
=Tdy−Mloss+Idy・Δω+Ieg・Δω
但し、T:エンジン発生トルク[Nm]
dy:ダイナモトルク[Nm]
dy:ダイナモ慣性量[kgm
eg:エンジン慣性量[kgm
loss:メカロス
Δω:回転角加速度[rad/s
を用い、加速時と減速時とで同一回転数のときはエンジン発生トルクTが同一であることを利用して、エンジン慣性量Iegを求めるステップであってもよい。
【発明の効果】
【0010】
以上説明したように、本発明によれば、エンジン慣性量を測定することができ、従来と比べ高精度のエンジン試験を行なうことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0012】
図1は、エンジン試験装置の形態を示すブロック図である。
【0013】
試験対象となるエンジン10が出力軸を介してダイナモ30に連結されている。出力軸20には、その出力軸のトルクを測定する軸トルク計40が備えられている。
【0014】
それらのエンジン10とダイナモ30を制御する制御部は、エンジン制御部100とダイナモ制御部200とで構成されている。
【0015】
図示しないパーソナルコンピュータ等にはあらかじめ決められた変化パターンの回転速度指令値とトルク指令値が記憶されており、そのパーソナルコンピュータ等から、そこに記憶されている、時々刻々と変化する回転速度指令値およびトルク指令値が入力される。
【0016】
時々刻々と変化する回転速度指令値は、先ず1つにはエンジンマップ記憶部101に入力される。このエンジンマップ記憶部101には、回転速度およびトルクと、スロットル開度との対応関係を表わすエンジンマップが記憶されている。また、回転速度指令値は、エンジンマップ記憶部101のほか、微分演算器102入力される。この微分演算器102は、回転速度指令値からその変化分(角加速度)Δωを求めるものである。この微分演算器102で求められた角加速度Δωは乗算器103に入力される。この乗算器103には、エンジン慣性量Iegがあらかじめセットされており、乗算器103では、入力されてきた角加速度Δωにエンジン慣性量Iegが乗算されて、エンジン慣性加速度分トルクΔω・Iegが求められる。この求められたエンジン慣性加速度分トルクΔω・Iegは、加算器104に入力される。その加算器104には、トルク指令値も入力され、その加算器104では、乗算器103で求められたエンジン慣性加速度分トルクΔω・Iegと、トルク指令値とが加算されて、エンジンマップ記憶部101に入力される。
【0017】
このエンジンマップ記憶部101からは、入力された回転速度指令値と加算器104で加算された後のトルクとに対応するスロットル開度が読み出されて加算器105に入力される。
【0018】
またPID制御部106には、回転速度指令値と、実際に計測された回転速度を表わすダイナモ回転計測値とが入力され、このPID制御部106では、ダイナモ回転計測値が回転速度指令値と同一の値となるようにスロットル開度の補正値が求められて、加算器105に入力される。加算器105ではエンジンマップ記憶部101から読み出されたスロットル開度にPID制御部106で求められたスロットル開度補正値が加算されてスロットル開度指令値が求められ、このスロットル開度指令値に基づいてエンジン10のスロットル開度が制御される。
【0019】
また、回転速度指令値は、ダイナモ制御部200に備えられた微分演算器202にも入力されて角加速度Δωが求められ、乗算器203に入力される。乗算器203にはダイナモ30の慣性量Idyがあらかじめセットされており、乗算器103では、入力されてきた角加速度Δωにダイナモ慣性量Idyが乗算されてダイナモ慣性加速度分トルクΔω・Idyが求められる。このダイナモ慣性加速度分トルクΔω・Idyは、減算器204に入力されて、その減算器204へのもう一方の入力であるトルク指令値から減算されてトルク基準値が生成あれ、その生成されたトルク基準値がPID制御部206に入力される。このPID制御部206には、ダイナモ30の、実際に計測されたトルクを表わすダイナモトルク計測値も入力され、このPID制御部206では、そのトルク計測値が減算器204からのトルク基準値に一致させるようにダイナモ電流指令値が求められる。ダイナモ30は、このダイナモ電流指令値により、そのトルクが制御される。
【0020】
以上説明した図1におけるエンジン制御部100やダイナモ制御部200の構成はその一例であるが、例えば図1の構成によりエンジン10のスロットル開度が制御されるとともに、ダイナモ30のトルクや回転速度(図1ではトルク)が制御され、その間のエンジンの各種性能や特性の試験、計測が行なわれる。
【0021】
ここで、乗算器103や乗算器203に示すように、回転速度指令値に基づいて加速時(減速時を含む)におけるエンジンやダイナモの慣性に起因するトルクが求められて制御に反映されるが、そのためにはエンジンやダイナモの慣性量Ieg,Idyをあらかじめ知っておく必要がある。前述したように、ダイナモの慣性量Idyはあらかじめ正確な値を知ることができるが、エンジンの慣性量Iegについては、従来は、前述の(1)式に基く計算値が採用されており、かなりの誤差を伴う恐れがあった。そこでここでは、エンジン10の慣性量を実測する方法について説明する。
【0022】
図2は、エンジン試験装置の、エンジン慣性量実測用の制御系の一例を示す図である。
【0023】
ここでは、図2に模式的に示すように、回転速度を一定の加速度で上昇させて暫らく一定速度とし、その後、回転速度を上昇時の加速度と絶対値が同じ一定の加速度で下降させるという速度パターンの回転速度指令値が入力される。
【0024】
この回転速度指令値は、PID制御部211に入力される。PID制御部211にはダイナモ回転計測値も入力され、ダイナモ30が回転速度指令値に応じた回転速度となるように制御される。
【0025】
この間、エンジン10のスロットル開度を制御するためのスロットル開度指令値はスロットル全閉を指示する指令値に保持される。
【0026】
次に、図2の制御系を採用してエンジン慣性量Iegを測定することができることについて説明する。
【0027】
過渡状態のトルクの関係式は、
=Tdy−Mloss+Idy・Δω+Ieg・Δω ……(2)
但し、
:エンジン発生トルク[Nm]
dy:ダイナモトルク[Nm](ダイナモの吸収、駆動トルク)
dy:ダイナモ慣性量(軸トルクメーター等含む)[kgm
eg:エンジン慣性量(クラッチ、トランスミッション等を含む)
[kgm
loss:メカロス
Δω:回転角加速度[rad/s
と表わすことができる。ここで、スロットル開度一定、一定加速度で加減速を行なう。このとき、上記(2)式は、
1=Tdy1−Mloss+Idy・Δω1+Ieg・Δω1 (加速時)
2=Tdy2−Mloss+Idy・Δω2+Ieg・Δω2 (減速時)
と表わすことができる。ここで、燃料カット状態ではT1、T2は摩擦損失トルクとなり、同じ回転数ではT1=T2となり、(3)式が成り立つ。
【0028】
dy1−Mloss+Idy・Δω1+Ieg・Δω
=Tdy2−Mloss+Idy・Δω2+Ieg・Δω2 ……(3)
したがって、(3)式から、エンジン慣性値は下記のように求められる。
【0029】
【数1】

【0030】
上記の(4)式において、加速時および減速時の回転角加速度Δω1,ω2はダイナモ回転計測値から求めることができ、加速時および減速時のダイナモトルクTdy1,Tdy2は、ダイナモトルク計測値そのものである。また、ダイナモ慣性量Idyは、前述したように、正確な値を入手することができるものである。
【0031】
したがって、(4)式に基づいて、エンジン慣性量Iegを計測することができる。
【0032】
図3は、図2に示す制御系を用いてエンジンおよびダイナモを稼動させたときの、ダイナモ回転速度、ダイナモトルク、加速度の時間変化を示した図である。
【0033】
ダイナモ回転速度は、加速度一定で上昇し、暫く一定速度を保ち、その後加速度一定で下降している。
【0034】
図4は、横軸に回転速度をとったときの、ダイナモトルク(加速時と減速時)と加速度(加速時と減速時)の計測値、およびそれらの計測値を前述の(4)式に代入して求めたエンジン慣性量(各時刻ごとの計算値、および安定領域の平均値)を示した図である。
【0035】
ここに示す計測値からは、エンジン慣性量Iegとして、
eg=4.08[kgm
が求められる。
【0036】
このときの試験対象のエンジンは、排気量13000ccディーゼルエンジン6気筒インタークーラーターボ付きのエンジンであり、エンジン重量1200kg、フライホイール直径0.43mのものである。
【0037】
ちなみに、このエンジンについて、エンジン重量とフライホイール直径から前述の(1)式に従ってエンジン慣性量Iegを求めると、
eg=5.55[kgm
となる。
【0038】
この例に示すように、前述の(1)式に従う計算値は、実際の測定値から大きく外れている。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】エンジン試験装置の形態を示すブロック図である。
【図2】エンジン試験装置の、エンジン慣性量実測用の制御系の一例を示す図である。
【図3】図2に示す制御系を用いてエンジンおよびダイナモを稼動させたときの、ダイナモ回転速度、ダイナモトルク、加速度の時間変化を示した図である。
【図4】横軸に回転速度をとったときの、ダイナモトルクと加速度の計測値、およびエンジン慣性量の計算値を示した図である。
【符号の説明】
【0040】
10 エンジン
20 出力軸
30 ダイナモ
40 軸トルク計
100 エンジン制御部
101 エンジンマップ記憶部
102 微分演算器
103 乗算器
104 加算器
105 加算器
106 PID制御部
200 ダイナモ制御部
202 微分演算器
203 乗算器
206 PID制御部
211 PID制御部
212 微分演算器
213 乗算器
214 補正値演算部
215 加算器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンが連結されるダイナモを備え、該ダイナモに連結されたエンジンのスロットルの開度と該ダイナモのトルク及び/又は回転速度とを制御しながら該エンジンの特性試験を行なうエンジン試験装置を用いて該エンジンの慣性量を測定するエンジン慣性測定方法において、
前記エンジンを、スロット開度を全閉に保ちながら加速および減速し、該加速および減速の間の前記エンジンおよび前記ダイナモの特性を計測する第1ステップと、
前記第1ステップで計測された加速時と減速時の特性値に基づいて、前記エンジンの慣性量を求める第2ステップとからなることを特徴とするエンジン慣性測定方法。
【請求項2】
前記第2ステップは、式
=Tdy−Mloss+Idy・Δω+Ieg・Δω
但し、T:エンジン発生トルク[Nm]
dy:ダイナモトルク[Nm]
dy:ダイナモ慣性量[kgm
eg:エンジン慣性量[kgm
loss:メカロス
Δω:回転角加速度[rad/s
を用い、加速時と減速時とで同一回転数のときはエンジン発生トルクTが同一であることを利用して、エンジン慣性量Iegを求めるステップであることを特徴とする請求項1記載のエンジン慣性測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−298793(P2008−298793A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−192055(P2008−192055)
【出願日】平成20年7月25日(2008.7.25)
【分割の表示】特願2002−99790(P2002−99790)の分割
【原出願日】平成14年4月2日(2002.4.2)
【出願人】(301028761)独立行政法人交通安全環境研究所 (55)
【出願人】(000145806)株式会社小野測器 (230)
【Fターム(参考)】