説明

エンタングルメントを成功裏に生成する速度を高めるための方法及び装置、並びに、該方法及び装置を使用する量子リピータ

隔置されたノード(71,72)に配置されて、光チャンネル(75)によって結合された2つの量子ビット間にエンタングルメントを生成するための方法及び装置(70)が提供される。一方のノード(71)は、複数の量子ビット(73)を支持し、並びに、それぞれの光場を各量子ビットを通過させて光チャンネル(75)に送り、これによって、光チャンネル(75)に狭い間隔で並んだ光場の列(78)を生成するように構成されている。他方のノード(72)は、ターゲット量子ビット(74)を支持し、並びに、該光場の列(78)を受け取って、一連の光場の各々が、ターゲット量子ビット(74)がエンタングルされていない間、該ターゲット量子ビット(74)を通過して該ターゲット量子ビットと潜在的に相互作用できるようにし、その後、各光場を測定して該ターゲット量子ビットが成功裏にエンタングルしたか否かを判定するように構成されている。他方のノード(72)が、ターゲット量子ビット(74)がエンタングルしたことを判定すると、該他方のノードは、後続の光場が該ターゲット量子ビットと相互作用できないようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンタングルメントを生成するための方法及び装置、並びに、該方法及び装置を利用する量子リピータに関する。
【背景技術】
【0002】
量子情報システムでは、情報は、量子系の「状態」に保持される。量子系は、典型的には、量子ビットまたは「キュービット」と呼ばれる1単位の量子情報を提供する2レベル量子系である。離散的である古典的なデジタル状態とは異なり、量子ビットは、離散状態に限定されず、任意の所与の時点において2つの状態が重なった状態をとることができる。
【0003】
量子ビットに対して任意の2レベル量子系を用いることができ、単一の光子(フォトン)の偏波状態、電子スピンの状態、核スピンの状態、及び、光のコヒーレント状態に基づく物理的実装を含むいくつかの物理的実装が実現されている。
【0004】
量子ネットワーク接続は、離れたところにある端部ノード間の量子情報の通信を提供する。そのような接続を、量子コンピュータのネットワークキング、並びに、量子チャンネル(チャンネルはチャネルともいう。以下同じ)、及び認証された(しかし必ずしも秘密にはされない)保全性の古典的チャンネルが、秘密でランダムな共有された古典的ビットを生成するために使用される「量子鍵配送」(QKD)などに使用することが可能である。一般に、量子ネットワーク接続を介して量子情報を伝送するために使用されるプロセスの性能は、伝送距離が長くなるにつれて劣化するため、端部ノード間(の距離)に上限が課される。通常、量子状態を複製することはできないので、古典的な意味におけるリピータ(中継器)を使用することによっては、端部ノード間の距離を長くすることはできない。
【0005】
2つの隔置された場所間で量子情報を伝送する1つの方法は、「量子テレポーテーション」として知られている技術を使用する。これは、隔置された場所のそれぞれにあるベル対(Bell pair)として知られている2つのエンタングルした(すなわち、量子もつれを生じた)量子ビットを使用する。本明細書では、「エンタングルメント」という用語を、2つのエンタングルした量子ビットを意味するものとしても使用している。かかる分散したベル対の生成は、一般に、光チャンネル(たとえば、光ファイバなどの光導波路)を介して送られる光子によって媒介される。このプロセスには距離の制限があるが、2つの別個のベル対からのそれぞれの量子ビットが同じ場所に配置されている場合には、それらの同じ場所に配置されている量子ビット間で実行される局所的な量子操作(または量子演算)によってベル対を結合する(すなわち「マージ」する)ことが可能である。このプロセスは、「エンタングルメントスワッピング」として知られており、ベル対の同じ場所に配置されていない2つの量子ビット間のエンタングルメントを生じる一方で、同じ場所に配置されている量子ビットは全くエンタングルしない。
【0006】
同じ場所に配置されている量子ビットを収容(または支持)して、ベル対を結合する(ベル対をマージするともいう。以下同じ)ための局所的な量子操作(または量子演算)を実行する装置は「量子リピータ」と呼ばれる。量子リピータの基本的な役割は、2つの近接する隔置されたノードの各々でそれぞれのベル対を生成して、それらのベル対を結合することである。多数の量子リピータを鎖状に連結することによって、任意の距離だけ離れた端部ノード間にエンドツーエンド(すなわち、両端間)のエンタングルメントを生成することができ、これによって、任意の間隔で隔置された端部ノード間で量子情報を伝送することが可能になる。
【0007】
QKDはエンタングルした状態(エンタングルメント状態)を直接必要とはしないが、量子リピータを使用することによる長距離間のベル対の生成によって長距離のQKDが容易になることを指摘しておく。さらに、分散型量子計算のほとんどの他の用途は、分散したベル対を使用する。
【0008】
本発明は、隔置された量子ビット間のエンタングルメントの生成に関する。
【0009】
本発明によれば、請求項1、7にそれぞれ記載されているような隔置された量子ビットをエンタングルするための装置及び方法、並びに、請求項11、12に記載されているような対応する量子リピータが提供される。
【0010】
以下、添付の図面を参照して、本発明の実施形態を説明するが、それらの実施形態は本発明を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1A】2つの量子ビットをエンタングルするための既知の操作を示す図である。
【図1B】既存のエンタングルメントを拡張して、元々はエンタングルしていた量子ビットの1つと新しい量子ビットとを含む新しいエンタングルメントを生成するための延長操作を示す図である。
【図1C】既存のエンタングルメントを別のエンタングルメントと結合して元のエンタングルメントの各々からの1つの量子ビットを含む新しいエンタングルメントを生成することによって、該既存のエンタングルメントを拡張するためのマージ操作(結合操作)を示す図である。
【図2】隔置されたそれぞれのノードに配置された2つの量子ビット間でエンタングルメント操作を実行するためのエンタングルメント生成サブシステムを示す図である。
【図3A】図1Aのエンタングルメント操作を単独で用いた場合に可能な距離よりも長い距離離れた2つの量子ビット間でエンタングルメントを生成するために、量子リピータをどのように使用できるかを示す図である。
【図3B】任意の間隔で隔置されたノード対間で拡張されたエンタングルメントを生成するために、一連の量子リピータをどのように使用できるかを示す図である。
【図4】種々の量子相互作用を実行するための(本明細書では「Qブロック」と呼ぶ)基本的な量子物理的ハードウェアブロックの3種類の形態を示す図である。
【図5】Qブロックを用いた図2のエンタングルメント生成サブシステムの1実施例を示す図である。
【図6】量子リピータの量子物理的ハードウェアの一般的な図である。
【図7】本発明を具現化するローカルリンクエンタングルメント生成サブシステム(LLE)の図である。
【図8】図7のLLE生成サブシステムの変形形態を示す図である。
【図9】図7の形態のLLE生成サブシステムの周辺に構築された第1の形態の量子リピータを示す図である。
【図10】2つのLLE生成サブシステムを構成するために、第1の形態の量子リピータが近傍のノードとどのように連携するかを示す図である。
【図11】近傍のリピータ間にLLE生成サブシステムを提供するために、第1の形態の量子リピータをどのように光学的に直列に結合できるかを示す図である。
【図12A】図9の量子リピータの量子物理的ハードウェアの第1の実施例を示す図である。
【図12B】図9の量子リピータの量子物理的ハードウェアの第2の実施例を示す図である。
【図13A】LLE生成サブシステムを構成するために、本発明を具現化するそれぞれの形態の量子リピータがどのように近傍のノードと連携するかを示す。
【図13B】LLE生成サブシステムを構成するために、本発明を具現化するそれぞれの形態の量子リピータがどのように近傍のノードと連携するかを示す。
【図13C】近傍のリピータ間にLLE生成サブシステムを提供するために、図13A及び図13Bの種々の形態の量子リピータをどのように交互に光学的に直列に結合できるかを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
基本的なエンタングルメント生成及び拡張操作
エンタングルメント操作(図1A)
図1Aは、大まかに言えば、2つの量子ビットqb1、qb2(参照番号1で示されている)をエンタングルしてベル対を生成するための既知のプロセス(本明細書では「エンタングルメント操作」という)を示している。図1Aは、エンタングルメント操作中に取得されたスナップショット(a)〜(g)を時系列で示している。この例では、量子ビットqb1、qb2は、数ミリメートルよりも長い距離だけ分離されており、ベル対の生成は、自由空間または光ファイバー4などの導波路を介して送ることができる光子によって媒介される。非常に大まかに言えば、ベル対生成プロセスを、非常に少ない量の光(単一の光子、光子の対、または、光子が極めて少ないレーザーパルス)を用いるプロセスと、レーザーなどのコヒーレント源からの多くの光子からなるパルスを用いるプロセスに分割することができる。当業者には理解されるように、光子を生成し、エンタングルメント操作を実行し、及び、測定を行う方法は、非常に少ない量の光と多くの光子からなるレーザーパルスとのどちらを使用するかに依存して異なる。しかしながら、そのような任意のアプローチを用いて本発明を実施することができるので、以下の説明は、ベル対を生成する(及び、その後、拡張する)ために使用される「光場(light field)」という用語で(それらの光子乃至パルスを)簡単に表現している。
【0013】
図1Aをより詳細に検討すると、放射源2から放射された光場5(スナップショット(a))は、予め準備されている非古典的状態(たとえば、0、+1)にある物理ビット(physical qubit。または物理的量子ビット)qb1を通過する(スナップショット(b))。典型的には、この物理ビットは電子スピンとして実現され、この場合、電子は、光場が通過する直前に所定の状態になる。光場5と量子ビットqb1が相互作用して、光場5は、量子ビットqb1の量子状態を効果的に「捕捉」する。光場5は次に、光ファイバー4を伝送して(スナップショット(c)及び(d))、量子ビットqb2と相互作用し(スナップショット(e))、その後、検出器3で測定される(スナップショット(f))。これらが成功すると、量子ビットqb1から量子ビットqb2に量子状態が「移行」して、これらの量子ビットがエンタングルされる(図1Aでは、このエンタングルメントは、両矢印8によって表されており、この表現形式は、エンタングルメントを示すために図面全般を通じて使用されている)。検出器3によって測定された光場5の特性によって、エンタングルメント操作が成功したか否かを判定することができる。エンタングルメント操作の成功または失敗が、古典的(非量子)メッセージ9によってファイバー4のqb1端へと戻される(スナップショット(g))。このメッセージは非常に簡単な形態もの(たとえば、単一パルスの有無)とすることができる。本明細書で使用される「メッセージ」という用語には、そのような簡単な形態のものも、任意の複雑さを持つ(処理時間の制約を受ける)構造化メッセージも含まれる。メッセージ9が、いくつかの量子ビットの中から特定の量子ビットを特定し、かつ、エンタングルメント操作の成功または失敗を特定する必要がある実施形態でも、該メッセージは、単一パルスの有無という形態を依然としてとることができ、その場合、単一パルス無しのタイミングを用いて対象としている量子ビットを特定することができる。エンタングルメント操作の成功/失敗に関する情報をファイバー4のqb1端に戻す必要がある場合(または、含まれている量子ビットを特定する必要がある場合)には、エンタングルメント操作の全経過時間は、エンタングルメント操作が成功した場合でも、少なくともファイバー4をたどる往復伝搬時間である。
【0014】
量子ビットqb2が既に別の量子ビットとエンタングルされているか否かに関係なく、量子ビットqb1とqb2をエンタングルするために、エンタングルメント操作を実行することができる(エンタングルメント操作がqb1とqb2との間で実行されるときに、qb2が既に別の量子ビットqbjとエンタングルしていた場合には、3つの量子ビットqb1、qb2、qbjの全ての状態がエンタングルされることになる)。
【0015】
エンタングルメント操作が成功した場合には、検出器3によって測定された光場5の特性によって、qb1とqb2のエンタングルされた状態が相互に関連しているか否かの判定を行うこともできる。相互に関連しているか否かは、一般的には、エンタングルメントの「パリティ」として表される(偶数パリティと奇数パリティは、それぞれ、相互に関連している量子ビット状態、相互に関連していない量子ビット状態に対応する)。エンタングルメントのパリティは後で使用され場合があるので、該パリティを知っておくことは通常は重要である。そのため、いずれのパリティ情報も保存する必要があり、または、パリティが最終的には常に同じになることを確保するための手順を取る必要がある(たとえば、奇数パリティであると判定されると、qb2の状態を反転して偶数パリティを生成することによって、qb1とqb2の間のエンタングルメントのパリティを、最終的には常に偶数パリティにすることができる)。
【0016】
実際には、2つのエンタングルされた量子ビットの相対的なパリティは、しばしば「一般化されたパリティ(generalized parity)」と呼ばれる2次元量であり、量子ビットパリティ値と共役量子ビットパリティ値の両方を含んでいる。図1Aに示す単純なエンタングルメント操作の場合には、共役量子ビットパリティ値情報は、実際には偶数パリティであり、測定する必要はない。「一般化されたパリティ」は、該情報を表すのに2つの古典ビットを必要とする。(QKDなどの)いくつかの用途では、共役量子ビットパリティ値情報についての知識を不要とすることができる。以下では、「一般化されたパリティ」の要素の一方(すなわち、量子ビットパリティ値または共役量子ビットパリティ値)を明示的に参照している場合を除いて、「パリティ」という語の使用は、「一般化されたパリティ」を意味するが、適切な場合には、共役量子ビットパリティ値情報を省くことができることが前提とされている。
【0017】
既に述べたように、量子ビットqb1及びqb2は、典型的には、電子スピンとして物理的に実施される。しかしながら、このようにして保存された量子情報の実際の寿命は非常に短く(累計して10−6秒のオーダー)、したがって、一般的には、光場5とqb1及びqb2との相互作用の直後に、対象としている量子ビットの量子ビット状態が、はるかに長い実効寿命(典型的には累計して1秒のオーダー)を有する核スピンに移行する。後続の光場との相互作用のために(たとえば、後述する2つのエンタングルメントの結合を行うために)、量子状態を、後で電子スピンに戻すことができる。
【0018】
注目すべき他の実用上の特徴は、物理ビット(物理的量子ビット)qb1及びqb2は、一般に、光場5が通過する場合以外は(シャッターで光を遮るなどによって)光が当たらないようにされるということである。ファイバー4のqb2の端部においてこれを容易にするために(及び、量子ビットと光場5との相互作用の直前に、予め準備されている状態への該量子ビットの設定を起動するために)、光場5に先だって「先駆」光パルス6を送ることができる。この光パルスは、ファイバー14のqb2端部で検出されて、量子ビットqb2のプライミングを起動(トリガ)するため、及び、その後の光場5との相互作用のための(たとえば、シャッターを開くことによる)光場の照射(または伝送)を起動(トリガ)するために使用される。この代わりとして、これらのタスクを起動する他の手段を用いることも可能である。
【0019】
ベル対を成功裏に生成する確率、それに含まれる量子ビット間の距離、及び生成された対の忠実度の間の関係は複雑である。1例を挙げると、多くの光子からなるレーザーパルスの形態をなす光場を用いる1つの特定の構成では、量子ビット間の距離が10kmと20kmの場合に、それぞれ、忠実度が0.77、0.638のベル対が生成され、この生成の成功の割合は、試行したうちの38%〜40%である。重要な点は、図1Aに示されているエンタングルメント操作の距離は制限されているということである。簡単にするために、以下では、10kmの距離での成功確率が0.25であると想定している。
【0020】
LLE生成サブシステム(図2)
エンタングルメント操作を実行するためのコンポーネントのアセンブリ(組立体または集合)を、本明細書では、「エンタングルメント生成サブシステム」という。該アセンブリを、装置のある部分(または部品)内に局所的に実装すること、または、離れて配置された装置の部分(または部品)間に実装することができる(これらの装置を一般的にノードという)。図2は、2つのノード21と22が、光ファイバー23によって光学的に結合される後者の場合の1例を示している。ファイバー23などの光ファイバーは、本明細書で「ローカルリンク」ファイバー(または局所リンクファイバー)と呼ばれるノード間リンクを提供する。図2のノード21、22は、それぞれの量子ビットqb1、qb2を実現するためのコンポーネントを含んでいる(理解を簡単にするために、図2では、図1Aと同じ量子ビットの名称乃至参照を使用している)。量子ビットqb1及びqb2は、qb1に関連付けられている放射源2、qb3に関連付けられている検出器3、ローカルリンクファイバー23、及び、各ノードにあるエンタングルメント−操作制御ロジック(不図示)と共に、量子ビットqb1とqb2の間にエンタングルメント8を生成するためのエンタングルメント生成サブシステム25を形成する。ノード間のローカルリンクファイバーを通過する光場によって生成されるこのタイプのエンタングルメントを、本明細書では「ローカルリンクエンタングルメント」または「LLE」と呼ぶ。これに対応して、ノード間のエンタングルメント生成サブシステム25を「LLE生成サブシステム」と呼ぶ。
【0021】
延長操作(図1B)
図1Aのエンタングルメント操作によって生成されるようなエンタングルメントを「拡張(または延長)」して、元々エンタングルしていた量子ビットのうちの1つと新しい量子ビットを含む新たなエンタングルメントを生成することができる。この場合、後者の新しい量子ビットと元々エンタングルしていた量子ビットの間の距離に関しては、典型的には、元々エンタングルしていた量子ビットのうちの該1つとの間の距離の方が、その元々エンタングルしていた量子ビットのうちの他方との間の距離よりも長い。図1B及び図1Cは、量子ビットqb1とqb2(参照番号1で指示されている)との間の最初のエンタングルメント8を拡張して量子ビットqb1と別の量子ビットとの間にエンタングルメントを形成する2つのやり方を示している。いずれのやり方も、光場を種々の量子ビットを通過させた後、その光場を測定することを含む。しかしながら、簡単にするために、光場自体、及び、該光場を伝送するために典型的に使用される光ファイバーは、図1B及び図1Cからは省かれている。
【0022】
図1Bは、本明細書において「延長操作」と呼ぶエンタングルメント拡張プロセスを、時系列に並べたスナップショット(a)〜(d)で示している。一般的には、延長操作は、既存の第1のエンタングルメントのうちのある量子ビットを、該第1のエンタングルメントには含まれていない量子ビット(しかし、この量子ビットは、既に別のエンタングルメントに含まれている場合がある)とエンタングルメントして結合された一連のエンタングルメントを形成し、その後、測定によって該一連のエンタングルメントから中間の量子ビット(すなわち、拡張された該第1のエンタングルメントの端部にある量子ビット)を除去して、該第1のエンタングルメントのうちの残りの量子ビットと新たにエンタングルした量子ビットとの間に「拡張された」エンタングルメントを残すことをさらに含む。図1Bは、該第1のエンタングルメントには含まれていない量子ビットがそれ自体まだエンタングルしていない最も単純な場合の延長操作を示している。より具体的には、図1Bのスナップショット(a)に示すように、量子ビットqb1及びqb2(いずれも参照番号1で指示されている)を含む既存のエンタングルメント8の量子ビットqb2は、エンタングルメント操作によって量子ビットqb3(参照番号10で示されている)とさらにエンタングルされる。このエンタングルメント操作は、光場を放射源2によって放射して、量子ビットqb2及びqb3を通過させた後、該光場を検出器3で測定することを含む。スナップショット(b)は、こうして生じたqb2とqb3の間のエンタングルメント11を示している。エンタングルメント8と11は、結合された一連のエンタングルメントを形成し、これは、すなわち、qb1、qb2及びqb3の状態が今や互いにエンタングルしていることを意味する。次に、光場を放射源2からqb2まで送り、検出器3で該光場を検出することによって、中間にある量子ビットqb2に対して、本明細書では「X測定」(図1Bでは参照番号12で指示されている)と呼ぶ特定のタイプの測定を実施し、これによって、qb1とqb3とのエンタングルメントを維持したまま、qb1とqb3とのエンタングルメントからqb2を削除する(スナップショット(c)参照)。X測定12の1つの特徴は、該測定が、エンタングルしている量子ビットqb1とqb3の量子状態以外の量子状態に関する情報を提供しないようなやり方でなされることにある。たとえば、「a|000>+b|111>」(a、bは確率振幅)のような量子ビットqb1、qb2、及びqb3間の結合状態の場合、量子ビットqb2に対するX測定は、qb1とqb3の間のエンタングルメントについて、「a|00>+b|11>」(X測定の結果が+1の場合)、または、「a|00>−b|11>」(X測定の結果が−1の場合)のいずれかの状態を与えるであろう。この測定は、aまたはbに関する情報を何も与えない。
【0023】
X測定12を実施してエンタングルメントからqb2を削除した後、拡張されたエンタングルメントがqb1とqb3の間に残される。この拡張されたエンタングルメントは、図1Bのスナップショット(d)に中程度の厚さの線で描かれた弧13として示されている。
【0024】
拡張されたエンタングルメント13のパリティは、エンタングルメント8及び11のパリティと、X測定から決定された共役量子ビットパリティ値の組み合わせである(上記の例では、X測定は+1または−1という結果を与えるが、+、−の符号が共役量子ビットパリティ値である)。偶数パリティ及び奇数パリティのそれぞれについて、量子ビットパリティ値情報及び共役量子ビットパリティ値情報の各々が2進値「0」及び「1」によって表される場合には、拡張されたエンタングルメントの量子ビットパリティ値情報及び共役量子ビットパリティ値情報は、対応するコンポーネントパリティ(それぞれのパリティ値情報を構成するパリティ)のそれぞれのXOR(排他的OR)結合である。
【0025】
図1Bの延長操作と機能的に等価な結果を、最初にqb3をqb2とエンタングルさせることによって得ることができるが、これを、媒介する光場を最初にqb3を通過させ、次に、qb2に対するX測定を実行することによってエンタングルメントからqb2を除去するようにするエンタングルメント操作を用いて行うことができる。本明細書では、言語上の明瞭化のために、(X測定を不可欠のものとして伴う)「延長操作」は、延長操作の一部として実行される最初のエンタングルメントが、拡張されるエンタングルメントの量子ビットを最初に通過する光場によって実施される場合のみを含む。上記の延長操作に機能的に等価なものは、別個のエンタングルメント操作及びX測定操作として扱われる。
【0026】
かなりの距離だけ隔置された2つの量子ビット間にエンタングルメントを生成することを目的とする場合には、図1Bに関して説明した延長操作はそれだけでは有効ではない。なぜなら、それぞれのエンタングルメント操作(図1Bの(a)参照)が失敗すれば、拡張される既存のエンタングルメント(図1Bのエンタングルメント8)が破壊されてしまうからである。実際には、拡張されたエンタングルメント13が成功裏に生成される確率は、エンタングルメント8及び11のそれぞれを生成するために使用されるそれぞれのエンタングルメント操作の成功確率の積である。既に述べたように、エンタングルメント操作が成功する確率は距離に関係しているため、延長操作だけを用いて長距離にわたってエンタングルメントを成功裏に生成して、最初のエンタングルメントを成功裏に拡張できる可能性は低い。同じ問題は、上記の延長操作の機能的等価物についても存する。
【0027】
マージ操作(図1C)
より良いアプローチは、図1Cに示すマージ操作を用いて、それぞれがかなり長い距離にわたる(複数の)別個に生成されたエンタングルメントを結合することである。このアプローチによれば、そのようなエンタングルメントを生成する試みの1つが失敗しても他のエンタングルメントは破壊されないので、個々のエンタングルメントに関連する成功確率が効果的に分離される。もちろん、個々のエンタングルメントを結合するために使用されるマージ操作は、有効であるためには、それ自体信頼性が高いものでなければならないが、これは、非常に短い距離にわたって該結合操作を実行することによって達成される。
【0028】
図1Cは、スナップショット(a)〜(e)の時系列を用いて、量子ビットqb1とqb2の間に存在するエンタングルメント8を、量子ビットqb4(参照番号14で指示されている)とqb5(参照番号15で指示されている)の間に存在する別のエンタングルメント16と結合(マージ)することによって「拡張(または延長)」して、qb1とqb5の間に「拡張されたエンタングルメント」(図1Cの中程度の厚さの線で描かれている弧19)を生成するためのマージ操作の実施形態の1例を示す。量子ビットqb2とqb4は互いに近接して(典型的には、互いに数十ミリメートル以内の位置に)配置されている。エンタングルメント8及び16が生成される順番は問題ではない(実際に、それらを同時に生成することができる)。必要なのは、両方のエンタングルメントが同じ時点において使用できる条件で存在するということだけである。そのような時点において、エンタングルメント8と16は、量子ビットqb2とqb4に対して局所的に実行される量子操作(または量子演算)によって「結合」される。(LLE8、16がそれぞれ生成された直後に量子ビットqb2、qb4の量子状態が電子スピンから核スピンに移行した場合には、マージ操作が実行される前にそれらの状態を電子スピンに戻す必要がある)。この局所的マージ操作は、放射源2によって光場を放出し、続いて、該光場を2つの量子ビットqb2とqb4を通過させ(またはこの逆の順で通過させ)、その後、該光場を測定する(図1Cのスナップショット(b)参照)ことによって実行される図1Aのエンタングルメント操作のプロセスと同種の第1のプロセスを含む。この第1のプロセスは、成功すれば、(図1Cのスナップショット(c)のエンタングルメント17で示されているように)量子ビットqb2とqb4をエンタングルさせ、これによって、qb1とqb5を互いにエンタングルするところの結合された一連のエンタングルメントが生成される。次に、1以上のX測定18(図1Cのスナップショット(d)参照)からなる第2の測定プロセスを用いて、エンタングルしている全体構成から中間にある量子ビットqb2及びqb4を除去して、量子ビットqb1とqb5の間の「拡張された」エンタングルメント19を残す。量子ビットqb2及びqb4は最終的には、互いにエンタングルせず、量子ビットqb1、qb5ともエンタングルしない。マージ操作は、2つの同じ(またはほぼ同じ)場所にある量子ビット間の局所的な操作であるため、成功する確率は非常に高い。
【0029】
マージ操作の一部として実施される測定は、結合(マージ)の成功または失敗の指標と、マージ操作の「一般化されたパリティ」の指標の両方を提供する。たとえば、マージ操作の第1のプロセスは量子ビットパリティ値を測定することができ、マージ操作の第2のプロセスは共役量子ビットパリティ値を測定することができる。この場合、該第2のプロセスを、量子ビットqb2とqb4の両方を通過する光場を用いる1つのX測定(この場合は、光場は、該第1のプロセスで使用される値(たとえば0、−1)とは異なる値(たとえば0、+1)を有する)として、または、qb2及びqb4に対して個別に実施され、その後結合される個々のX測定として実施することができる。後者のアプローチが図1Cに示されている。拡張されたエンタングルメント19のパリティは、エンタングルメント8及び15のパリティとマージ操作のパリティの組み合わせである。上記と同様に、偶数パリティ及び奇数パリティのそれぞれについて、量子ビットパリティ値情報と共役量子ビットパリティ値情報の各々が2進値「0」及び「1」によって表される場合には、拡張されたエンタングルメントの量子ビットパリティ値情報及び共役量子ビットパリティ値情報は、対応するコンポーネントパリティ(それぞれのパリティ情報を構成するパリティ)のそれぞれのXOR(排他的OR)結合である。
【0030】
マージ操作の成功もしくは失敗に関する情報は、端部の量子ビット位置へと古典的メッセージで伝送される。そうでなければ、これらの位置は、量子ビットqb1とqb5がエンタングルしているか否かを知らないからである。この代わりとして、マージ操作の失敗確率は通常は非常に低いので、成功したことを想定して、成功/失敗メッセージを送らないようにすることができるが、この場合は、エンタングルメントの不存在の原因となったマージの失敗を検出して補償することは、拡張されたエンタングルメント19を使い果たすアプリケーションに委ねられる。通常は、エンタングルしている量子ビットを利用するために、拡張されたエンタングルメントのパリティを知っておく必要があるので、拡張されたエンタングルメント19のパリティを決定するために必要とされるパリティ情報も、端部の量子ビット位置の一方または他方に伝送される。
【0031】
図1Cに関して上述したマージ操作の形態は、事実上は、エンタングルメントからqb4を除去するためにqb4に対して実施されるX測定と共に、エンタングルメント8を拡張するためにqb2とqb4の間の非常に短い距離にわたって実行される延長操作であることが理解されよう(qb2は、該延長操作の一部として実行されるX測定によってエンタングルメントから除去されている)。もちろん、量子ビットqb3が、該量子ビットqb3へとエンタングルメント8が拡張されるまでは、それ自体エンタングルされない図1Bに例示する延長操作とは異なり、図1Cにおけるこれと等価な量子ビットqb4は第2のエンタングルメント16に既に含まれている。しかしながら、既に述べたように、延長操作にはこの可能性が含まれる。
【0032】
既に述べたように、マージ操作は、非常に短い距離にわたって実行され、それゆえ、高い成功確率を有する(図1Cの量子ビットqb2とqb3の間の)局所的な操作である。マージ操作には、10−9秒のオーダー(程度)の時間がかかる。
【0033】
量子リピータ(図3A及び図3B)
実際には、基本的な(すなわちベースとなる)エンタングルメント操作を妥当な成功確率でもって利用できる距離よりも長い距離だけ分離されたそれぞれの端部ノードに配置された2つの量子ビット間に、拡張されたエンタングルメントを生成しようとするときには、それらの端部ノード間の距離に及んでいる基本的なエンタングルメントをマージ(結合)するために、量子リピータと呼ばれる1以上の中間ノードが使用される。量子リピータノードの各々は、図1Cの量子ビットqb2及びqb4に対応し、かつ、他のノードの量子ビットとのそれぞれのエンタングルメントに含まれている(すなわち関わっている)局所的な量子ビットの対に対してマージ操作を効果的に実施する。図3Aは、左側の端部ノード31と右側の端部ノード32によって終端された鎖状に結合された(すなわち一連の)ノード中の1つのノードを形成するそのような量子リピータノード30を示しており、ノード31、32は、それぞれ、エンタングルさせたい(が、それらがあまりに遠く離れているために、1つのエンタングルメント操作を用いて直接エンタングルすることができない)量子ビットqb1、qb5を収容している。この例では、該一連のノードは、左側と右側の端部ノード31、32を含む3つのノードから構成されており、ノード31、32は、また、量子リピータ30の左側と右側の近傍ノードを形成している。量子リピータ30は、左側と右側のローカルリンク光ファイバー33L、33Rによって、それぞれ左側と右側の近傍ノード31、32に接続されている。本明細書を通じて使用されている「左側」及び「右側」という用語は、量子リピータを含む一連のノードの反対側(該一連のノードに沿った方向、該一連のノードのそれぞれの端部など)を識別するための便利なラベルとして単に使用されていることに留意されたい。
【0034】
量子リピータ30は、実際には、各々がそれぞれの量子ビットqb2、qb4(理解を容易にするために、図3Aでは図1Cと同じ量子ビット表記が使用されている)を含む左側部分もしくは左側部、並びに右側部分もしくは右側部(図3Aでは「L」、「R」とそれぞれラベル付けされている)を備える。左側の近傍ノード31の量子ビットqb1及び量子リピータノード30の量子ビットqb2は、それらのノード間に形成されて(図3Aの弧状の破線の矢印8として示されている)、qb1とqb2の間に左側LLE8を生成するよう動作するLLE生成サブシステムの一部である。同様に、右側の近傍ノード32の量子ビットqb5と量子リピータノード30のqb4は、それらのノード間に形成されて、qb5とqb4の間に右側LLE16を形成するように動作するLLE生成サブシステムの一部である。
【0035】
各LLEを生成するために使用される光場の伝送方向(左から右または右から左)は重要ではなく、このため、関連する放射源及び検出器を所望に応じて配置することができる。たとえば、LLE8及び16を生成するのに必要な光場をいずれも量子リピータ30から送り出すようにすることができるが、これは、放射源が量子リピータ30内に配置され、検出器が左側の近傍ノード31と右側の近傍ノード32に配置されることを意味している。しかしながら、同じ形態の量子リピータの鎖状結合を容易にするために、全ての光場が鎖状結合された(すなわち一連の)ノードに沿って同じ方向に進むようにするのが便利である。たとえば、全ての光場が左から右へと進むように光場を配置することができ、この場合、量子リピータ30の左側部Lは、左側LLE8を生成するための検出器を含み、右側部Rは、右側LLE16を生成するための放射源を含むことになる。簡単にするために、特に明示しない限り、以下では、光場はノード間を左から右へと伝送することが想定されている。しなしながら、特許請求の範囲においては、光場の伝送方向は、任意の特定の方向には限定されず、また、異なるリンク間の光場の伝送方向と同じ方向にも限定されない(但し、そのような限定が、記載されているかまたは暗黙的に要求されている場合を除く)。
【0036】
量子リピータ30が動作して、左側LLE8と右側LLE16が任意の順番で生成された後に、量子ビットqb2及びqb4を伴う局所的なマージ操作34が実行され、これによって、左側LLE8と右側LLE16が結合されて、端部ノード31及び32のそれぞれの量子ビットqb1とqb5の間に拡張されたエンタングルメント19が形成される。
【0037】
必要であれば、マージ操作の成功または失敗に関する情報及びパリティに関する情報が、古典的メッセージ35によって量子リピータ30からノード31、32に送られる。
【0038】
パリティ情報に関しては、ローカルリンクエンタングルメントのパリティが(必要に応じて量子リピータ状態を反転することによって)統一されている場合には、マージパリティ情報だけを量子リピータによって送るだけでよく、ノード31または32はこの情報を利用することができる。しかしながら、LLEパリティ情報が単に格納されている場合には、量子リピータは、自身が持っているパリティ情報を全て送る必要がある。たとえば、左側LLE8と右側LLE16のパリティが、量子リピータ30とノード32によってそれぞれ知られている場合には、量子リピータ30は、LLE8に関するパリティ情報とマージパリティ情報の両方を、典型的にはそれら2つを結合した後に、ノード32に送る必要がある。これがされると、ノード32は、量子リピータ30から受け取ったパリティ情報とLLE16に関して既に知っているパリティ情報とを結合することによって、拡張されたエンタングルメントのパリティを決定することができる。
【0039】
上記から、マージ操作自体は非常に速く(10−9秒のオーダーで)行われるが、拡張されたエンタングルメント19がノード31、32に有効に利用できるようになるまでには、一般的に、ノード31、32のうちの一番遠くにあるノードへのメッセージの伝搬時間に相当する遅延が存在することがわかる。
【0040】
複数の量子リピータを鎖状に結合することによって、任意の距離で隔置されたノード対間に拡張されたエンタングルメントを生成することができる。図3Bは、このことを、左側及び右側の端部ノード31、32を含む鎖状に結合された(すなわち一連の)N個のノード、及び、(N−2)個の一連の量子リピータ30(量子リピータの各々は、「QR」で表示されており、かつ、簡単にするために、L及びRの量子ビットを表す2つの円を含む矩形で示されている)について示している。ノード30〜32は、(不図示の)光ファイバーによって鎖状に相互接続されており、かつ、左から右へと番号が付けられている。すなわち、各ノードの番号nは、各ノードの下に付されており、ノード番号「j」は、該鎖状接続に沿った任意のQRノード30を表している。QRノードのノード番号を、ノードを識別するための添え字として使用することができる。したがって、「QR」は、番号jの量子リピータノードを指す。このノード表記、番号付け、及び識別法は、本明細書全般を通じて使用される。
【0041】
図3Bには、3つの既存のエンタングルメント36、37、38が、それぞれのノード対の量子ビット間に示されている。便宜上、一連のノードに沿ったエンタングルメントを高レベルで参照するときには、本明細書では、特定のエンタングルメントは、量子ビット(これらの量子ビットの間にエンタングルメントが存在する)を保持しているノード対を参照することによって識別され、この参照は、2つの構成要素のノード番号からなる組の形態をとる。したがって、(N−1)とNという番号が付された近傍ノードにある量子ビット間のローカルリンクエンタングルメントLLEであるエンタングルメント38を、ノード番号の組{(N-1),N}によって識別できる。(図3Bで中程度の厚さの線で描かれた弧によって示されている)エンタングルメント36と37は、それぞれ、ノード対{1,j}と{j,(N-1)}の量子ビット間に存在する拡張されたエンタングルメントであり、これらのエンタングルメントは、LLEを結合することによって生成されたものである。左側と右側の端部ノード31、32の量子ビット間のエンドツーエンド(本明細書では「E2E」と略記される)のエンタングルメント(図3Bの厚い線で描かれた弧39を参照)を生成するために、先ず、エンタングルメント36と37をQRによって結合(マージ)し、次に、その結果生じた拡張されたエンタングルメントをQR(N-1)によってLLE38と結合(マージ)することができる。代替的には、先ず、エンタングルメント37と38をQR(N-1)によって結合(マージ)し、次に、その結果生じた拡張されたエンタングルメントをQRによってエンタングルメント36と結合(マージ)することができる。
【0042】
エンタングルメント構築経路
エンタングルメントの「エンタングルメント構築経路」(EBP)は、拡張されていないエンタングルメントまたは拡張されたエンタングルメントの生成において使用される1つまたは複数の媒介する光場が通る全量子ビット間経路である。複数の経路セグメントがある場合(すなわち、経路が3つ以上の量子ビットを含んでいる場合)には、図3BのE2Eエンタングルメントを構築する方法の検討から明らかなように、光場は、必ずしも、それらのそれぞれのセグメントを順にたどる必要はない(図3Bの例では、エンタングルメント構築経路は、一連の量子リピータの左側と右側の量子ビットを介する、一方の端部ノードから他方の端部ノードまでの経路である)。
【0043】
低レベル量子物理的ハードウェアの表現
量子ビットの物理的実施の特定の形態、並びに、エンタングルメント、延長、及びマージ操作を実行する方法の細部(たとえば、非常に少ない量の光を使用するか、多くの光子からなるレーザーパルスを使用するか)は、本発明には直接関係しないので、これらについては本明細書ではこれ以上説明しないが、それらの適切な実施例は当業者には既知である。その代わり、量子操作を実施するための物理的ハードウェア(「量子物理的ハードウェア」)を、本明細書において「Q−ブロック」と呼ぶ基本的なブロックに関して説明する。この量子物理的ハードウェアは、1つの量子ビット及び関連する光学的構成体の実施、並びにそれらとの相互作用を提供する。
【0044】
図4は、それぞれ、40、42、44で参照される3つのタイプのQ−ブロックを示している。
【0045】
Q−ブロック40は、量子ビットを具現化(または明らかに)し、及び、該量子ビットとの図1Aの「捕捉」相互作用を実行する、すなわち、予め準備された(もしくは決められた)状態にある該量子ビットを通過するように光場の伝送を制御するために必要な物理的ハードウェアを表している。このタイプのQ−ブロック(本明細書では、「捕捉Q−ブロック」と呼び、図面では「Q−ブロック(C)」と略記されている)は、量子ビット10及び光場放射源12、並びに適切な光学的配管(光導波路など)からなる物理的構成、量子ビットを予め決められた状態にし、及び、光場が入ることを許可されているとき以外は(たとえば、電気光学シャッターを用いて)該量子ビットに光場が当たらないようにする機能、(対象としている量子ビットの実施に適切な場合に)必要に応じて電子スピンから核スピンに(及びこの逆へと)量子ビット状態を移行させる機能、及び、「Fire(始動)」信号41を受信したときに、捕捉Q−ブロックの動作を、それの量子ビットを光場が通過するように(及び、該Q−ブロックの外へ送るように)調整する制御機能を備える。
【0046】
Q−ブロック42は、量子ビットを具現化(または明らかに)し、及び、該量子ビットとの図1Aの「移行」相互作用を実行する、すなわち、予め準備された(もしくは決められた)状態にある該量子ビットを通過するように受け取った光場を伝送させた後該光場を測定するために必要な物理的ハードウェアを表している。このタイプのQ−ブロック(本明細書では、「移行Q−ブロック」と呼び、図面では「Q−ブロック(T)」と略記されている)は、量子ビット10及び光場検出器13、並びに適切な光学的配管(光導波路など)からなる物理的構成、(たとえば、先駆光パルス6に応答して)量子ビットを予め準備された状態にし、及び、光場が入ることを許可されているとき以外は(シャッターなどを用いて)該量子ビットに光場が当たらないようにする機能、(対象としている量子ビットの実施に適切な場合に)必要に応じて電子スピンから核スピンに(及びこの逆へと)量子ビット状態を移行させる機能、及び、移行Q−ブロックの動作を調整し、及び、測定結果43を出力する制御機能を備える。
【0047】
Q−ブロック44は、捕捉Q−ブロック40及び移行Q−ブロック42の両方のタイプの機能を組み込んでいる包括形態のQ−ブロックであり、そのため、捕捉と移行の両方の相互作用を実行するのに使用することができる。便宜上、このタイプのQ−ブロックを、本明細書では、修飾文字が何も付かない「Q−ブロック」として参照し、捕捉Q−ブロック40または移行Q−ブロック42を使用することについて何らかの特定の指摘がされない限り、(実際には、対象としている文脈において該Q−ブロックが捕捉と移行の両方の相互作用機能を含んでいる必要はない場合であっても)通常参照されるのはこのタイプのQ−ブロックである。当業者には、このような場合を認識すること、及び、現在の文脈中のQ−ブロックによって要求されているのが捕捉のための相互作用(以下、捕捉相互作用という)機能か移行のための相互作用(以下、移行相互作用という)機能かを識別することに何の困難もないであろう。Q−ブロックが捕捉タイプであるか移行タイプであるかに関してより具体的に指定されない1つの理由は、協働するQ−ブロックが(他方のQ−ブロックのタイプとは異なる)他方のタイプのものである場合には、いずれのタイプも使用できることが多いということである(それらのタイプの間の光場の伝送方向は重要ではない)。
【0048】
タイプに関係なく、全てのQ−ブロックは、Xmeas(X測定)信号45の受信に応答してX測定を実行し、これによって、該Q−ブロックを延長及びマージ操作において使用できるようにする機能を含む。この場合、X測定の結果はResult(結果)信号43で提供される。Q−ブロックが移行相互作用機能を有する場合には、X測定機能は、典型的には、移行相互作用機能に関連付けられている検出器2を使用する。もちろん、X測定機能はエンタングルメント操作には必要ではなく、したがって、X測定機能をそのような操作のためにのみ使用されるQ−ブロックから省くことができる。
【0049】
1つのノードに複数のQ−ブロックがある場合には、Q−ブロック間でいくつかのコンポーネントを共有する機会があることに留意されたい(たとえば、捕捉相互作用機能を有する複数のQ−ブロックがある場合には、共通の光場放射源を、そのような全てのQ−ブロックに使用することができる)。当業者には、そのようなコンポーネントの共有が可能である場合が理解されよう。
【0050】
エンタングルメント操作は、移行相互作用機能を有するQ−ブロック(移行Q−ブロック42または包括的Q−ブロック44)に光学的に結合された、捕捉相互作用機能を有するQ−ブロック(捕捉Q−ブロック40または包括的Q−ブロック44)を含み、エンタングルメント操作は、捕捉相互作用機能を有するQ−ブロックにFire信号41を送ることによって開始され、該操作の成功/失敗は、移行相互作用機能を有するQ−ブロックによって出力される結果信号43で示される。
【0051】
延長操作が実行される場合には、該延長操作の最初のエンタングルメント操作用コンポーネントもまた、捕捉相互作用機能を有するQ−ブロック及び移行相互作用機能を有するQ−ブロックを含む。全てのタイプのQ−ブロックがX測定機能を備えているので、エンタングルメントからの中間にある量子ビットのその後の除去を、この量子ビットを実装(または実施)しているQ−ブロックにXmeas信号を送信することによって実行することが可能である。この場合、測定結果は、このQ−ブロックによって出力される結果信号43で提供される。
【0052】
マージ操作が実行される場合にも、捕捉相互作用機能を有するQ−ブロック及び移行相互作用機能を有するQ−ブロックが必要である。この場合も、全てのタイプのQ−ブロックがX測定機能を備えているので、マージ操作に伴うエンタングルメントからの1または複数の量子ビットの除去が可能である。測定結果は、適切なQ−ブロックによって出力される結果信号43で提供される。
【0053】
図5は、それぞれのQ−ブロック44を用いて実施された図2のLLE生成サブシステム25を示す。それぞれのQ−ブロック44は、各ノード21及び22に設けられており、それらのQ−ブロック44は、ローカルリンクファイバー23を介して光学的に結合される。各Q−ブロック44は、ノード21のLLE制御ユニット53及びノード22のLLE制御ユニット54によって形成された関連する制御ロジックを有している。図5に示されているQ−ブロック44は包括タイプであるので、エンタングルメントの生成に伴う光場のローカルリンクファイバー23に沿った伝送方向は固定されていない。したがって、ノード21のQ−ブロック44は捕捉Q−ブロックとして、ノード22のQ−ブロック44は移行Q−ブロックとして、それぞれ機能することができ、あるいは、ノード21のQ−ブロック44は移行Q−ブロックとして、ノード22のQ−ブロック44は捕捉Q−ブロックとして、それぞれ機能することができる。
【0054】
図5のLLE生成サブシステム25において、それぞれのQ−ブロック44は、ローカルリンクファイバー23に単に直接結合されている。しかしながら、多くの場合、ノードの現在の操作上の要件に依存して、光場を該ノードの1つまたは複数のQ−ブロックへと/該Q−ブロックから適切に導くために、該ノードに制御可能な光学的構成体(optical fabric:光ファブリックともいう)を設ける必要がある。たとえば、同じ外部ファイバーを共有するノードに複数のQ−ブロックがある場合には、光学的構成体は、出ていく光場をその共通のファイバーに結合するか、または、入ってくる光場を該ファイバーから選択されたQ−ブロックに導くことが必要になる場合がある。別の例では、光学的構成体は、(図3Aのノード30などの)量子リピータノードにおいて、L側のQ−ブロック及びR側のQ−ブロックを、LLEを生成するためのそれぞれの左側及び右側のローカルリンクファイバーとの光学的な接続状態から、局所的なマージ操作のための互いに光学的に接続された状態へと切り替えることが必要になる場合がある。
【0055】
したがって、一般的には、ノードの量子物理的ハードウェア、すなわち、量子ビット、並びに、光場を介した量子ビットの相互作用を実施してサポートする物理的構成要素は、1以上のQ−ブロックだけでなく、1または複数のQ−ブロックが効果的に埋め込まれた光学的構成体を備える。1例として、図6に、量子リピータノードのそのような表現の1つを示す。図6では、量子物理的ハードウェア60は、光場をQ−ブロック44へと/該Q−ブロック44から導くための光学的構成体61を備えるものとして示されており、該Q−ブロック44は、光学的構成体61内に存在するものとして示されており、ローカルリンクファイバー62、63は、該光学的構成体に直接結合されている。1つのL側Q−ブロックと1つのR側Q−ブロックが実線の外形で図示されており、設けることが可能な他のL側Q−ブロック及びR側Q−ブロックが波線の外形で図示されている。
【0056】
本明細書で使用されている、(量子リピータに関して図6に示されている具体例などの)上記の一般化された量子物理的ハードウェア表現の任意の具体例は、含まれるQ−ブロックの数及びタイプ並びにそれらの意図された役割に適した実施例であって、対象とする量子物理的ハードウェアの可能性のある全ての実施例を含むことが意図されている。(図6は、Q−ブロックをQ−ブロック44、すなわち包括タイプのものとして示しているが、これは、単に、全ての可能性のある実施例を含むようにするためであり、量子リピータ中のQ−ブロックが果たす役割の要件ではないことに留意されたい。特定の実施例は、Q−ブロックの役割に応じた適切なQ−ブロックの他のタイプを使用することができる。上記の一般化された量子物理的ハードウェア表現におけるQ−ブロック44をそのように使用することは、量子リピータ用の量子物理的ハードウェアの図6の表現には限定されない)。
【0057】
量子物理的ハードウェアによって実行されることになる量子操作に依存して、該ハードウェアは、種々の制御信号を受信して結果信号を出力するように構成乃至配置される。量子リピータに適した図6の量子物理的ハードウェアブロック60の場合には、該量子物理的ハードウェアは、エンタングルメント生成操作を制御するための「始動制御(firing control)」信号64及び「ターゲット制御」信号65を受信し、マージ操作を制御するための「マージ」信号67を受信し、及び、それらの操作の結果を示す「結果」信号66を出力するように構成乃至配置される。この信号64〜67を、特定のQ−ブロックを示すようにパラメータ化することができる。後述の説明から明らかになるように、いくつかの量子リピータの実施形態では、ターゲット制御信号は必要ではない。図6の量子物理的ハードウェア60の1実施例では、始動制御信号64は、
・捕捉相互作用機能を有する1つ以上のQ−ブロックをローカルリンクファイバーの1つに光学的に結合するように、光学的構成体61を(まだそのように構成されていない場合には)適切に構成するためのセットアップ信号と、
・捕捉相互作用機能を有する1つ以上のQ−ブロックによって光場の生成を起動するための上述した1つまたは複数の「Fire(始動)」信号
の両方を含み、ターゲット制御信号65は、
・移行相互作用機能を有するQ−ブロックをローカルリンクファイバーの1つに光学的に結合するように、光学的構成体61を(まだそのように構成されていない場合には)適切に構成するためのセットアップ信号
を含む。さらに、この実施例では、マージ信号66は、
・量子リピータのL側及びR側のQ−ブロックを要するマージ操作を実行するように、光学的構成体61を(まだそのように構成されていない場合には)適切に構成するためのセットアップ信号、
・最初のマージ操作プロセスを起動するための「Fire(始動)」信号、及び、
・図1Cのマージ操作の形態が実行される場合には、第2のマージ操作プロセスを形成するX測定を始動させるための1以上のXmeas信号
を含む。
【0058】
延長操作を実行することが意図されている量子物理的ハードウェアの場合は、(延長操作のエンタングルメント生成コンポーネントを動作させるための)始動制御信号を受信するだけでなく、結果信号を出力するようにも構成乃至配列されている該量子物理的ハードウェアは、X測定を始動させるためのXmeas信号を受信するようにさらに構成乃至配列され、これによって、延長操作を遂行することができる。
【0059】
ノードの光学的構成体はデフォルトの構成を有することができる。たとえば、図6の量子物理的ハードウェア60が、L側Q−ブロック及びR側Q−ブロックをそれぞれ1つだけ備えている場合には、光学的構成体61を、デフォルト時には、それらのQ−ブロックをローカルリンクファイバーの各々に光学的に結合するLLE生成構成をなすように構成乃至配列することができる。この場合、マージ信号66は、マージ操作を実行するのに要する時間の間、2つのQ−ブロックをほんの一時的に互いに光学的に結合するように構成される。このような場合には、ターゲット制御信号65を完全に省くことができ、始動制御信号64は、適切なQ−ブロックに送られるFire(始動)信号だけを含む。
【0060】
「始動構成部」LLE生成サブシステム
これから、本発明を具現化するローカルリンクエンタングルメント(LLE)生成サブシステムについて説明する。
【0061】
より具体的には、図7は、ローカルリンクファイバー75によって光学的に結合された2つのノード71と72の間に形成されたLLE生成サブシステム70の「始動構成部」構成を示す。
【0062】
ノード71は、LLE制御ユニット171、捕捉相互作用機能を有する(識別番号1〜fがそれぞれ付されている)f個のQ−ブロック73によって形成された量子物理的ハードウェア、及び、光マージユニット76を備える。(本明細書では「フュージリア(fusilier)」Q−ブロックと呼ぶ)Q−ブロック73は全体で、「始動構成部」77を形成する。ノード72は、LLE制御ユニット172、及び、移行相互作用機能を有する1つのQ−ブロック74によって形成された量子物理的ハードウェアを備える。ノード71の始動構成部77のフュージリアQ−ブロック73は、光マージユニット76及びローカルリンク光ファイバー75を介して、ノード72の1つのターゲットQ−ブロック74に光学的に結合されている。したがって、始動構成部77の全てのQ−ブロック73は、同じターゲットQ−ブロック74を始動するためのものであることが理解されよう。
【0063】
ノード71のLLE制御ユニット171が、LLE生成操作を起動するためにその量子物理的ハードウェアにFire(始動)信号を出力すると、始動構成部77のフュージリアQ−ブロック73が順次(連続的に)始動し、放出された光場が、マージユニット76を通って光場列78としてファイバー75を進む。フュージリアQ−ブロックの識別番号と、光場が該光場列に現れる順番との間には既知の規則的な関係があることに留意されたい。各光場の前をそれ自体の先駆光(パルス)が進むのではなく、1つの先駆光(パルス)79が光場列78の前を進んで、ターゲットQ−ブロック74にすぐ後に列78が到着することを知らせるようにするのが好ましい。その場合、先駆光(パルス)79は、Fire信号に応答して、フュージリアQ−ブロック73が始動する前に、放射源179によって生成される。
【0064】
光場の各々がノード72のターゲットQ−ブロック74に順次(及び連続的に)到達すると、ターゲットQ−ブロックのシャッターが短時間だけ開いて、光場がターゲットQ−ブロックの量子ビットを通過して、該量子ビットと潜在的に相互作用できるようにする。その後、光場を測定して、エンタングルメントが生成されたか否かを判定する。エンタングルメントが生成されていない場合には、ターゲットQ−ブロック74の量子ビットはリセット(再設定)されて、列78の次の光場を通過させるのに適したタイミングでシャッターを再度開く。一方、列78の光場の通過によってエンタングルメントが生成された場合には、ターゲットQ−ブロックの(光場を遮るために)シャッターは閉じたままであり、列78からの光場はもはやターゲットQ−ブロック74の量子ビットと相互作用できない。Q−ブロックシャッターの測定結果に依存するかかる制御は、論理的には、ターゲットQ−ブロック74に関連付けられているLLE制御ユニット172の一部であるが、実際には、量子物理的ハードウェアに組み込まれた低レベル制御要素によって、該制御を最良に実行することができる。
【0065】
列78内の光場の間隔は、次の光場が到着する前に、光場によってターゲットQ−ブロックが成功裏にエンタングルされたか否かを判定し、該ターゲット量子ビットをリセットし、及び、Q−ブロックのシャッターを開くのに十分な時間を確保できるものとすべきであることが理解されよう。
【0066】
実際には、ターゲット量子ビットをエンタングルさせる役目を担った光場に後続する光場のターゲット量子ビットとの破壊的(たとえば弱め合う)相互作用を防止するために明示的なシャッターを用いる代わりに、エンタングルメントの直後に量子ビットの状態を電子スピンから核スピンに移行させて、後続の光場の通過が捕捉されたエンタングルした状態を妨害しないようにする(ターゲット量子ビットを光場相互作用に対して安定化する)ことによって、同じ効果を達成することが可能である。エンタングルメントの前に入ってくる外部光を排除するためにシャッターを設けることが依然として適切でありうるが、先駆光(パルス)が検出されるまでは量子ビットが予め準備された状態には設定されないので、通常はそのようなシャッターを省くことができる。
【0067】
LLE制御ユニット172はまた、列中のどの光場がQ−ブロック74のターゲット量子ビットと成功裏にエンタングルしたかを識別し、これによって、ターゲットQ−ブロックの量子ビットとエンタングルしたフュージリアQ−ブロック73(したがってその量子ビット)を識別できるようにするための機能を有する(上述したように、フュージリアQ−ブロックの識別番号と列中に光場が現れる順番との間には既知の関係がある)。たとえば、ターゲットQ−ブロックに入った光場を単に数えて、この数を、「成功」形式のメッセージ173で、LLE制御ユニット172によってノード71に送り返すことができる。この場合、ノード71のLLE制御ユニット71は、この数を成功したフュージリアQ−ブロック73の識別番号に変換するのに必要な任意の変換処理を実行し、その後、後で参照するために、該識別番号をたとえばレジスタに記憶する(この代わりに、フュージリアQ−ブロックの識別番号をすぐに送るようにしてもよい)。もちろん、列78の光場の全てがエンタングルメントの生成に成功しなかった場合には、「失敗」形式のメッセージ173が返される。
【0068】
ターゲット量子ビットの成功したエンタングルメントについての測定結果に含まれているパリティ情報に関しては、このパリティ情報は制御ユニット172に送られ、該制御ユニット172は該パリティ情報を後で使用するために(たとえばレジスタに)記憶するか、または、該パリティ情報を、たとえばノード71にメッセージ173で伝えることができる。
【0069】
ノード71のフュージリアQ−ブロック73を順次始動させて光場の列78を生成する代わりに、全ての光場を一斉に始動させ、異なる長さのファイバーを用いて各フュージリアQ−ブロックを光マージユニット76に接続し、これによって、異なる遅延を導入して光場列78を生成することにより、同等の結果を達成することができる。
【0070】
始動構成部77中のフュージリアQ−ブロック73の数は、始動構成部のそれぞれの始動において、ターゲットQ−ブロック74を成功裏にエンタングルする確率が非常に高くなるように(たとえば99%以上になるように)選択されるのが好ましい。より具体的には、1つのフュージリアQ−ブロックの1つの始動でエンタングルメントを成功裏に生成する確率をsとすると、f個のフュージリアQ−ブロックからなる始動構成部についての成功確率は、
始動構成部成功確率=1−(1−s)f
であり、したがって、s=0.25で、フュージリアQ−ブロックが16個の場合の成功率は99%であり、フュージリアQ−ブロックが32個の場合の成功率は99.99%になる。典型的には、1つの始動(すなわち1つの光場列)でターゲット量子ビットを成功裏にエンタングルする望ましい確率Psuccessから始めて、次に、次の不等式にしたがってフュージリア量子ビットの必要な数fを決定する。
Psuccess≦1−(1−s)f
【0071】
列78内の隣接する光場間の時間間隔は、後の光場が到着する前に、それより(時間的に)前の光場を測定し、ターゲット量子ビットをリセットし、そのシャッターを開くのに十分な時間を確保しつつできるだけ短くするのが有利である。1例としては、光場の時間間隔は1〜10ナノ秒である。
【0072】
図7のLLE生成サブシステム70の形態の場合には、ターゲットQ−ブロック74は1つしかないので、実際には、最後に生成されたエンタングルメントが使い果たされるかまたはタイムアウトする(または使用を停止)ことによってサブシステム全体が解放されるまで、始動構成部77を再起動することはできないことが理解されよう。したがって、始動構成部77の起動間の最短時間は、ノード間のラウンドトリップタイム(すなわち、(光場列78がノード72に到達するのに要する時間)+(メッセージ173をノード71に返すのに要する時間)の最短時間)に、(たとえばマージ操作において)エンタングルメントを使い果たすのに要する時間を加えたものである。
【0073】
図8は、2以上のターゲットQ−ブロックが提供される、図7のLLE生成サブシステム70の変更形態を示している。
【0074】
より具体的には、図8のLLE生成サブシステム80におけるノード71の量子物理的ハードウェア(始動構成部77及び光マージユニット76)の基本的な構成乃至配列は、図7のサブシステムと同じである。しかしながら、後述するように、図8のサブシステムのLLE制御ユニット181は、図7の制御ユニット171とはいくつかの点で異なる。図7のサブシステムと図8のサブシステムの主な違いはノード72に見られる。図8のノード72において、量子物理的ハードウェアは、各々に識別番号1〜pのそれぞれが付された複数(全部でp個)のターゲットQ−ブロック74と、ローカルリンク75を介して受け取った光場を、ターゲットQ−ブロック74のうちの選択された1つに向けて送るための光スイッチ183を備えている。光スイッチ183は、ノード72のLLE制御ユニット182によって制御されて、光スイッチ183は、エンタングルメントが成功裏に生成されるまで、入ってくる全ての光場を同じターゲットQ−ブロック74に向けて送り、エンタングルメントが成功裏に生成されると、光スイッチ183は、入ってくる光場を利用可能な(エンタングルしていない)新たなターゲットQ−ブロック74に送るようにスイッチ動作をする。したがって、光スイッチは、(たとえば、シャッターを閉じることによって)エンタングルされたターゲット量子ビットを後続の光場が通過しないように該光場を阻止する機能を効果的に実行し、これによって、これらの光場と該量子ビットとの相互作用を阻止する。成功裏に生成されたエンタングルメントの各々は「成功」メッセージ173によってノード71に報告され、この場合、該メッセージは、(使用されたフュージリアQ−ブロック73及びパリティ情報を識別できるようにする情報に加えて)対象としているターゲットQ−ブロック74のID(識別番号)を含むこともできる。
【0075】
もちろん、制御ユニット182は、ターゲットQ−ブロック74の各々の可用性状態(利用可能か否か、または、利用可能性に関する状態)を常に把握しておかなければならない。なぜなら、制御ユニット182には、光スイッチ183が、入ってくる光場をエンタングルしていない量子ビットを有するターゲットQ−ブロックだけに送るということを確実にする役目があるからである。制御ユニット182は、各ターゲットQ−ブロック74のそれぞれのエントリ(登録事項など)を格納するように構成されたステータスレジスタ186を用いて、この可用性状態を容易に追跡することができる。レジスタエントリの各々は、対応するターゲットQ−ブロックの利用可能性を記録するだけでなく、Q−ブロックが(該Q−ブロックの量子ビットがフュージリアQ−ブロックの量子ビットとエンタングルしているために)が利用できない場合には、使用されたフュージリアQ−ブロックの識別情報、及び/または、パリティ情報も記録することができる。
【0076】
このようして、動作するノード72は、始動構成部77によって始動された全ての光場がエンタングルメント生成を試みるために使用されるように、それらの光場の効率的な使用を確保する。
【0077】
ノード71の制御ユニット181はさらにステータスレジスタ185を備えており、このレジスタは、フュージリアQ−ブロック73の各々のエントリを格納するように構成されている。各レジスタエントリは、対応するフュージリアQ−ブロック73の利用可能性を記録している。(メッセージ173によって示されるように)フュージリアQ−ブロックの量子ビットがターゲットQ−ブロック74の量子ビットとエンタングルしているときと、対象としているエンタングルメントが使い果たされたかもしくはタイムアウトしたかもしくは有効ではなくなったときとの間は、該フュージリアQ−ブロックは「利用できない」。もちろん、全てのフュージリアQ−ブロック74は、始動構成部が起動されたときと、メッセージがノード72から受信されたときとの間のラウンドトリップタイムの間は事実上「利用できない」。なぜなら、任意の特定のフュージリアQ−ブロックが、エンタングルメントに関わっているか否か、または、エンタングルメントに関わろうとしているところであるか否かはわからないからである。そのような「利用できない状態」を、各フュージリアQ−ブロック用のステータスレジスタ185に明確に記録することができ、または、制御ユニット181によってより一般的に処理することができる。レジスタ185の各エントリは、対応するQ−ブロックの量子ビットがエンタングルしているために該Q−ブロックが利用できない場合には、使用されたターゲットQ−ブロックの識別情報、及び/または、パリティ情報も記録することができ、この場合、そのような情報は、関連するメッセージ173によって提供されたものである。
【0078】
上述したように、以前のエンタングルメントが使い果たされるか、またはタイムアウトした(あるいは使用が中止された)場合のみ、図7のLLE生成サブシステム70の始動構成部77を再度始動することができる。同様にして、図8のLLE生成サブシステム80を動作させることも可能であり、すなわち、始動構成部77の最後の始動によって生成された1以上のエンタングルメントが、使い果たされ、タイムアウトし、あるいは、その使用が中止されるのを待った後で、始動構成部77を再始動することができる。
【0079】
しかしながら、複数のターゲットQ−ブロックのうちの少なくともいくつかがエンタングルしていない可能性があるので、1または複数のメッセージ173によって始動構成部77の以前の起動による光場の連続放出の結果がわかるとすぐに、始動構成部77を再始動するようにすることもできる。始動構成部77のそのような再始動は、ステータスレジスタ185中の対応するエントリによって示されるフュージリアQ−ブロックの各々の可用性状態を考慮しなければならない。すなわち、利用できないフュージリアQ−ブロック73は始動されずスキップされる(スキップする場合は、光場列78に(スキップされた部分が)すき間(空白部)として残されるか、(スキップされた部分だけ)光場列78が短くなるが、すき間を残すのが一般的には好ましい)。言うまでもなく、始動構成部77のかかる始動によってエンタングルメントが生成される確率は、始動するフュージリアQ−ブロックの数が少なくなることによって低くなる。それにもかかわらず、始動構成部77の全てのフュージリアQ−ブロック73が利用可能になるのを待たずに、該始動構成部77を再始動することによって、LLEの生成率が全体として高くなる。さらに、生成されたLLEを用いて、始動構成部の始動がLLE消費プロセス(量子リピータの場合における局所的なマージプロセスなど)から切り離されるので、始動構成部77を、LLE消費プロセス要件とは無関係の一定の(または不規則な)間隔で始動させることができる。
【0080】
量子リピータ中の「始動構成部」LLEサブシステムの使用
図9は、図7の形態のLLE生成サブシステムに基づく量子リピータの1実施例の一般的な形態を示す。
【0081】
より具体的には、量子リピータ90は、左側のローカルリンクファイバー62と右側のローカルリンクファイバー63によって、それぞれ、左側の近傍ノード(不図示)と右側の近傍ノード(不図示)に光学的に結合される。量子リピータ90は、図6に関して説明し、一般的に図示した量子物理的ハードウェア60を有し、かつ、
左側のLLE生成サブシステム70Lの一部を構成するL側(すなわち左側)ターゲットQ−ブロック74、
右側のLLE生成サブシステム70Rの始動構成部77を構成する複数のR側(すなわち右側)フュージリアQ−ブロック73、及び、
左側のローカルリンクファイバー62と右側のローカルリンクファイバー63に、それぞれ、光インターフェース91L、91Rを介して結合された光学的構成体61
を備える。
【0082】
左側及び右側のLLE生成サブシステム70L、70Rは、図7に示す形態と実質的に同様である。図10に図示しているように、左側のLLE生成サブシステム70Lは、
(a)リピータ90における、量子物理的ハードウェア60の上記L側要素(具体的には、図10において文字「T」を囲んでいるボックスによって示されているターゲットQ−ブロック74)、及び、左側のLLE(L-LLE)制御ユニット92
(b)左側のローカルリンクファイバー62、及び、
(c)左側の近傍ノード100Lにおける、フュージリアQ−ブロック73の始動構成部(図10において、文字「FS」を囲んでいるボックスによって示されている)、並びに、関連する光学的構成体及びLLE制御ユニット
を備える。右側のLLE生成サブシステム70Rは、
(a)リピータ90における、量子物理的ハードウェア60の上記R側要素(具体的には、ボックス「FS」で示されている始動構成部77)、及び、右側のLLE(R-LLE)制御ユニット93、
(b)右側のローカルリンクファイバー63、及び、
(c)右側の近傍ノード100Rにおける、ターゲットQ−ブロック(ボックス「T」)、並びに、関連する光学的構成体及びLLE制御ユニット
を備える。
【0083】
したがって、量子リピータ90それ自体は、図7の形態の作動する完全なLLE生成サブシステム70を含んでいないが、それのR側とL側は、図7のLLE生成サブシステム70のものと相補関係にある始動構成部とターゲット部をそれぞれ備えている。但し、それらは、互いに反対側にあるLLE生成サブシステムに関連付けられている。
【0084】
LLE生成サブシステム70のものと相補関係にある始動構成部及びターゲット部のかかる配列により、図11に示すように、複数の量子リピータ90(図11では、量子リピータj-1、j、j+1)を、近傍の量子リピータ間にLLE生成サブシステムが形成されるように光学的に直列に結合することができる(図11の量子リピータjは、左側近傍のリピータj-1と共にLLE生成サブシステム111を形成し、及び、右側近傍のリピータj+1と共にLLE生成サブシステム112を形成する)。
【0085】
量子リピータ90の光学的構成体61は、LLE生成のために左側のローカルリンクファイバー62と右側のローカルリンクファイバー63にそれぞれ、L側Q−ブロックとR側Q−ブロックを結合するだけでなく、L側ターゲットQ−ブロック74をR側フュージリアQ−ブロック73のうちの選択された1つに選択的に光学的に結合し、これによって、それらのQ−ブロックの量子ビットに対して局所的なマージ操作を実施できるようにしている。
【0086】
LLE生成の間、量子物理的ハードウェア60は、R側要素を制御するため(具体的には、始動構成部77を始動させるため)に、R-LLE制御ユニット93から始動制御信号を受信し、及び、L側ターゲットQ−ブロック74からL-LLE制御ユニット92へと結果信号(成功/失敗、パリティ、フュージリア識別情報)を出力する。局所的なマージ操作の場合は、量子物理的ハードウェア60は、マージ制御ユニット97からマージ制御信号(これらの信号は、マージに関与するフュージリアQ−ブロック73を選択し、及び、マージ自体を起動するためのものである)を受信し、マージ操作の結果に関する結果信号(成功/失敗、パリティ)をユニット97へと出力して戻す。
【0087】
図12A及び図12Bは、Q−ブロック73及び74の特性に依存する光学的構成体61の2つの可能性のある実施例を示している。
【0088】
図12Aの光学的構成体の実施例は、フュージリアQ−ブロック73及びターゲットQ−ブロック74が包括的Q−ブロック44(図4参照)である場合に適用できる。その場合には、左側のローカルリンクファイバー62は、包括的ターゲットQ−ブロック74の光入力部に直接接続され、この包括的Q−ブロックの光出力部は、中間の光ファイバー121に光学的に結合される。能動性の光スイッチ122は、該中間の光ファイバー121を包括的フュージリアQ−ブロック73の入力に接続し、受動性の光マージユニット123は、フュージリアQ−ブロック73の出力を右側のローカルリンクファイバー63に渡す。LLE生成操作中は、ターゲットQ−ブロック74は移行相互作用用にセットアップされ(すなわち、設定乃至構成され)、左側のリンクファイバー62を介して入ってくる光場は、該ターゲットQ−ブロックへと送られ、フュージリアQ−ブロック73は捕捉相互作用用にセットアップされ、光マージユニット123はフュージリアQ−ブロック73を右側のローカルリンクファイバー63に結合する。マージ操作の場合は、ターゲットQ−ブロック74は捕捉相互作用用にセットアップされ、マージに関与するフュージリアQ−ブロックは移行相互作用用にセットアップされ(マージに関与するフュージリアQ−ブロックは、量子物理的ハードウェア60に送られるマージセットアップ信号において示されている)、光スイッチ122もまた、マージセットアップ信号によって設定されて、ターゲットQ−ブロック74をマージに関与するフュージリアQ−ブロック73に光学的に結合する。
【0089】
図12Bの光学的構成体の実施例は、ターゲットQ−ブロック74が移行Q−ブロック42(図4参照)であり、フュージリアQ−ブロック73が捕捉Q−ブロック40である場合に適用できる。その場合には、受動性の光マージユニット125は、フュージリア捕捉Q−ブロック74の出力を1つのファイバーに送る。この場合、該1つのファイバーは、能動性の光スイッチ126によって、右側のローカルリンクファイバー63またはループバック光ファイバー127へと切り替えられる。受動性の光マージユニット124は、移行用ターゲットQ−ブロック73に対面する位置にあって、それの入力側において左側のローカルリンクファイバー62及びループバックファイバー127に結合されている。LLE生成操作の場合には、光スイッチ125は、捕捉用フュージリアQ−ブロック73によって出力された光場を右側のローカルリンクファイバー63へと送るように設定される。マージ操作の場合には、光スイッチ125は、捕捉用フュージリアQ−ブロック73のうちの選択された1つによって出力された光場をループバックファイバー127に送るように設定される(関与するQ−ブロックは、量子物理的ハードウェア60に送られるマージセットアップ信号において示されている)。
【0090】
図9及び量子リピータ90の一般的構成を再度参照すると、該リピータは、それの左側と右側の近傍ノードに論理制御チャンネルによって結合されるように構成乃至配列されている。かかる構成乃至配列について以下でより詳細に説明する。
【0091】
古典的なLLE制御(「LLEC」)通信チャンネル94は、L-LLE制御ユニット92と左側の近傍ノードのR-LLE制御ユニットとを相互に通信させる(すなわち、R-LLE制御ユニットは、L-LLE制御ユニット92と同じLLE生成サブシステム70Lに関連付けられる)。L-LLE制御ユニット92は、LLECチャンネル94を用いて、LLE生成の成功/失敗メッセージ(図7のメッセージ173)を、左側の近傍ノードのR-LLE制御ユニットに送る。
【0092】
古典的なLLE制御(「LLEC」)通信チャンネル95は、R-LLE制御ユニット93と右側の近傍ノードのL-LLE制御ユニットとを相互に通信させる(すなわち、L-LLE制御ユニットは、R-LLE制御ユニット93と同じLLE生成サブシステム70Rに関連付けられる)。R-LLE制御ユニット93は、右側の近傍ノードのL-LLE制御ユニットから、LLECチャンネル95を介して、LLE生成の成功/失敗メッセージ(図7のメッセージ173)を受信する。
【0093】
古典的なマージ制御(「MC」)通信チャンネル98、99は、MCユニット97を、該ユニットの左側及び右側の近傍ノードの対応するユニットと相互に通信させて、マージ操作に関する成功/失敗及びパリティ情報を送ることを可能にしている。上記したように、適切な場合には、成功/失敗情報の伝送を省くことができる。
【0094】
LLEC通信チャンネル94、95、及び、MC通信チャンネル98、99は、任意の適切な高速通信接続(無線通信など)によって提供することができるが、光ファイバーを介して光信号として伝送されるのが好ましい。より具体的には、LLEC通信チャンネル94、95及びMC通信チャンネル98、99を、それぞれの専用の光ファイバーで伝送することができ、または、同じファイバーで多重伝送することができる(多重伝送するファイバーは、近傍ノード中のQ−ブロックに光学的に結合するローカルリンクに使用されるファイバーとすることができ、たとえば、パリティ情報だけがMC通信チャンネルで送られる場合には特に、MC通信チャンネルを、先駆信号79の強度(もしくは輝度)変調として実施することができる)。より一般的には、LLEC及びMC通信チャンネルを結合して1つの古典的な全二重通信チャンネルにすることができる。
【0095】
上記の説明から、(R-LLE制御ユニット93は、始動構成部77を始動させる役目があるので)右側のLLE生成の開始は、事実上、該制御ユニット93の制御下にあり、左側のLLE生成の開始は、事実上、左側の近傍ノードにあるR-LLE制御ユニットの制御下にあり、局所的なマージ操作の開始は、マージ制御ユニット97の制御下にあることが理解されよう。もちろん、ターゲットQ−ブロック74が左側とエンタングルし、及び、フュージリアQ−ブロックのうちの1つが右側とエンタングルしたときのみ、マージ操作を達成することができる。
【0096】
一連の量子リピータ90によって結合された2つの端部ノード間にエンドツーエンド(E2E)のエンタングルメントを構築するために採用することができる多数の異なる方策がある。用いられる方策は、一般的には、各リピータの1以上の制御ユニットの演算ロジックによって具現化されることになろう。
【0097】
1つの方策(本明細書では「端部からの延長」という)は、左側の端部ノードとその近傍にある量子リピータとの間のLLEから始めて、一連のノードのうちの左側の端部ノードと量子リピータとの間に現存するエンタングルメントと、該リピータと該リピータの右側の近傍ノードとの間に形成されたLLEとを結合(マージ)することによって、該エンタングルメントを延長するというプロセスを繰り返す反復プロセスを含む。各繰り返しにおいて、作動する量子リピータ(エンタングルメント延長のためのマージを実行する量子リピータ)は、一連のノードに沿って1つだけ右側に(すなわち、延長されるエンタングルメントを一方の端部で留めている端部ノードから離れる方向に)移動する。この方策では、現在の作動するリピータがエンタングルメント延長のためのマージを成功裏に達成すると、該リピータは、自身の「作動するリピータ」という役目をそれの右側近傍(のノード乃至リピータ)に渡す。今や作動するリピータとなったこの近傍(のノード乃至リピータ)は、自身が左側にエンタングルされていることを知っている(なぜなら、それの左側近傍のリピータは、該リピータと今や作動するリピータとなっているノード乃至リピータとの間のLLEを左側の端部ノードで留められているエンタングルメントと成功裏に結合(マージ)した後でのみ、「作動するリピータ」という役目を渡したはずだからである)ので、右側のLLEが存在するときはいつでも自身のマージ操作を実行することができる。始動構成部77中のフュージリアQ−ブロック73の数を適切に選定することによって、始動構成部の単一の始動によって右側のLLEを高い確率で成功裏に生成することが可能である。したがって、リピータが「作動するリピータ」になっているときに右側のLLEがまだ存在しない場合には、そのようなLLEを迅速に生成することができ、この結果、E2Eエンタングルメントの構築が迅速に進行する。上記の説明から、「端部からの延長」方策は、各々のリピータが「作動するリピータ」になったときだけ、該「作動するリピータ」であるリピータのマージ制御ユニットがアクティブになる(すなわち作動する)ようにし、次に、エンタングルメント延長のためのマージが成功裏に達成された後に「作動するリピータ」という役目をそれの右側の近傍(のノード乃至リピータ)に渡すことによって有効に具現化されることが理解されよう。
【0098】
実際に、リピータ90の始動構成部の単一の始動によって右側LLEを高い確率で成功裏に生成できることによって、そのように高い確率で生成できない場合には実現できないであろうエンドツーエンド(「E2E」)エンタングルメントを構築するための多くの他の方策が可能である。たとえば、一連の量子リピータ90中の全てのリピータを(たとえば、GPS衛星群から得られたタイミング情報によって、または、リピータ間で送信された信号を用いたリピータ内の位相ロックループ用クロックによって)時間同期させることができる場合には、「同期化」方策を使用することができる。この場合、リピータの一連の同期化された動作サイクルの各々の間、各リピータは、自身の始動構成部の始動によって右側LLEを生成し(これによって1以上のLLEが全てのリピータ間に存在するようになる)、その後、全てのリピータはほぼ同時にマージ操作を実行する。そして、全てのマージが成功した場合には、E2Eエンタングルメントが生成されることになる。このように、リピータは事実上同時に動作するので、E2Eエンタングルメントを生成する全プロセスは、「端部からの延長」方策の場合よりもいっそう高速である。「同期化」方策は、各リピータのマージ制御ユニット97及びR-LLE制御ユニット93を、同期化されたクロックの制御下で動作させることによって有効に具現化されることが理解されよう。
【0099】
右側のLLEが高い確率で成功裏に生成されることを利用するが、鎖状に接続された一連の量子リピータの同期化動作を必要となしない別の方策は、量子リピータを「準非同期」方式で動作させてエンドツーエンド(E2E)エンタングルメントを構築する。「準非同期」方式でのE2Eエンタングルメントの構築には、MCチャンネルを介して一方の端部ノードから1連のノード(すなわちノードのチェーン)に沿って周期的なトリガ信号を伝達し、これによって、各リピータが、該一連のノード(すなわちチェーン)に沿って、1つの最上位のサイクルの動作を実行できるようにすることが含まれる。この場合、該最上位のサイクルにおいて、各リピータは、該リピータの左側及び右側の量子ビットが、それぞれ左側及び右側にエンタングルされることがわかっているか、または、そのようにエンタングルされることが予測されるときに、局所的なマージ操作を開始する。典型的には、各リピータは、該周期的なトリガ信号の受信に応答して、または、該トリガ信号の受信に関係なく、右側のLLEの生成を開始する役目を担っている。やがて、全てのリピータが1つのマージを実行し、その結果、E2Eエンタングルメントが生成されるが、かかるプロセス全体が1つのE2Eの動作サイクルを構成する。リピータが、それらのそれぞれのマージ操作を1つのE2E動作サイクルで実行する順番は、リピータが該周期的なトリガ信号を受信する順番と必ずしも同じである必要はないが、いくつかの要因に依存し、それらの要因うち最も注目すべきは、ノード間の間隔である。引き続くE2E動作サイクルを、引き続く周期的なトリガ信号を送信することによって開始することができる。任意の1つのリピータの最上位の動作サイクルが重ならない限り、E2E動作サイクルをそのように行うことができる。
【0100】
このように、図7のLLE生成サブシステム70を、エンドツーエンド(「E2E」)エンタングルメントを構築するために量子リピータによって実施される方策に関係なく該量子リピータにおいて有効に利用することができる。もちろん、図8のLLE生成サブシステム80を、図7のサブシステムと同様のやり方で量子リピータにおいて利用することもできるが、複数の右側/左側のLLEが同時に存在する可能性を考慮して適切な変更が必要である(この点で主要な要件は、マージ制御ユニットが、マージしようとするQ−ブロックが左側及び右側のQ−ブロックのうちのどれであるかを確実に知っているようにすることであり、この場合、かかる情報は、LLE制御ユニット181、182のステータスレジスタ185、186に利用可能な状態で格納されている)。
【0101】
1連の量子リピータによって結合された端部ノードの各々は、近傍の量子リピータの両側のうちの該端部ノードに対面している側(すなわちL側またはR側)と相互作用するための機能を含んでいることに留意すべきである。したがって、左側の端部ノードは、量子リピータのR側(右側)の機能と類似の機能を含んでおり、これによって、左側の端部ノードが近傍のリピータのL側(左側)と相互作用できるようになっている。また、右側の端部ノードは、量子リピータのL側(左側)の機能と類似の機能を含んでおり、これによって、右側の端部ノードが近傍のリピータのR側(右側)と相互作用できるようになっている。
【0102】
量子ビット状態の反転によりエンタングルメントのパリティを標準化(または統一)することによって、または、LLEパリティ情報を格納して、その後、該パリティ情報を端部ノードに累積的に送るために該パリティ情報をマージパリティ情報と組み合わせることによって、エンタングルメントパリティを処理することができ、これによって、端部ノードがエンドツーエンドエンタングルメントのパリティを決定できるようにすることができる。
【0103】
上述したように、量子リピータによる左側と右側のエンタングルメントの結合(マージ)は、関連するリピータのL側とR側の量子ビットに対してマージ操作を直接実行することによってなされる(図1C及び関連する説明を参照)。しかしながら、いくつかの場合には、1以上の局所にある量子ビット(「仲介量子ビット」)を介してこの結合(マージ)を実行するようにしておくことが望ましい場合がある。1例として、1つの仲介量子ビットが提供される場合には、左側及び右側のエンタングルメントを、(必要に応じて)エンタングルされているL側/R側の量子ビット及び該仲介量子ビットを伴うそれぞれの延長操作によって、該仲介量子ビットまで別個に延長させることができる。その後、該仲介量子ビットに対してX測定操作を実行することによって、エンタングルメントから該仲介量子ビットが除去される。リピータの左側及び右側へのエンタングルメントの局所的な結合(マージ)がどのように実行されるかの細部は、量子リピータの全般的な操作には重要ではないことが理解されよう。
【0104】
本発明の上記実施形態に対して多くの変形が可能であることが理解されよう。
【0105】
上記では、近傍ノードは、ローカルリンク光ファイバーを介して光学的に結合されるものとして説明されているが、適切な状況では、それらのローカルリンクを、光ファイバー以外の光チャンネルを介して確立できることが理解されるべきである。たとえば、光チャンネルを単に自由空間とすることができ、これは、説明したLLE生成サブシステムの衛星用途に特に当てはまる。
【0106】
LLE制御ユニット(171、172;181、182;92、93)及びマージ制御ユニット97の実施に関しては、典型的には、説明した機能が、プログラム制御式のプロセッサまたは対応する専用のハードウェアによって提供されることが理解されよう。
【0107】
図7または図8の構成の複数の並列LLE生成サブシステムを、近傍ノード間に並列に配置して使用することができる。たとえば、1連の図9の構成の量子リピータにおいて、各リピータに、図7のLLE生成サブシステム70の始動構成部及びターゲット部と相補的な複数の始動構成部及びターゲット部を設けることができる。これによって、隣接するリピータ間に複数のLLE生成サブシステムを設けることができ、それらのサブシステムを、典型的には交互に動作させて、LLE生成の速度を何倍にもあげることができる。そのような構成乃至配置によれば、同じローカルリンクファイバーを、全てのLLE生成サブシステムに使用することができる。
【0108】
量子リピータ90に図7のLLE生成サブシステムの始動構成部及びターゲット部と相補的な始動構成部及びターゲット部を提供する代わりに、2つの異なるタイプの量子リピータを提供して、そのうちの一方が、互いに逆方向を向いた2つの始動構成部を有し、他方が、違いに逆方向を向いた2つのターゲット部を有するようにすることも可能である。
【0109】
図13Aは、2つの互いに逆方向を向いた始動構成部を有するタイプの量子リピータ130について、左側と右側のLLE生成サブシステム132L及び132Rがどのように形成されるかを示している(始動構成部及びターゲット要素に対して図13で用いられている表現は、図10で用いられているものと同じである)。左側のLLE生成サブシステム132Lは、
(a)リピータ130における、始動構成部「FS」、並びに、それに関連する光学的構成体及び左側LLE(L-LLE)制御ユニット、
(b)左側のローカルリンクファイバー62、
(c)左側の近傍ノード131Lにおける、ターゲットQ−ブロック、並びに、それに関連する光学的構成体及びLLE制御ユニット
を備えている。
右側LLE生成サブシステム132Rは、
(a)リピータ130における、始動構成部「FS」、並びに、それに関連する光学的構成体及び右側LLE(R-LLE)制御ユニット、
(b)右側のローカルリンクファイバー63、
(c)右側の近傍ノード131Rにおける、ターゲットQ−ブロック「T」、並びに、それに関連する光学的構成体及びLLE制御ユニット
を備えている。
【0110】
図13Bは、2つの互いに逆方向を向いたターゲット部を有するタイプの量子リピータ135について、左側と右側のLLE生成サブシステム137L及び137Rがどのように形成されるかを示している。左側のLLEサブシステム137Lは、
(a)リピータ135における、ターゲットQ−ブロック「T」、並びに、それに関連する光学的構成体及び左側LLE(L-LLE)制御ユニット、
(b)左側のローカルリンクファイバー62、
(c)左側の近傍ノード136Lにおける、フュージリアQ−ブロックの始動構成部「FS」、並びに、それに関連する光学的構成体及びLLE制御ユニット
を備えている。
右側LLE生成サブシステム137Rは、
(a)リピータ135における、ターゲットQ−ブロック「T」、並びに、それに関連する光学的構成体及び右側LLE(R-LLE)制御ユニット、
(b)右側のローカルリンクファイバー63、
(c)右側の近傍ノード136Rにおける、始動構成部「FS」、並びに、それに関連する光学的構成体及びLLE制御ユニット
を備えている。
【0111】
2つのタイプの量子リピータ130、135を、量子リピータj-1、j、j+1について図11に示すように交互に配置することによって近傍のリピータ間にLLE生成サブシステムが形成されるように、光学的に直列に結合することができる。その場合、量子リピータjは、タイプ130であって、タイプ135であるそれの左側の近傍リピータj-1と共にLLE生成サブシステム138を形成し、かつ、タイプ135であるそれの右側の近傍リピータj+1と共にLLE生成サブシステム139を形成する。
【0112】
上記では、光場は、光ファイバーを介して、ノード間とノードの量子物理的ハードウェアのコンポーネント間との両方で送られるものとして一般的に説明したが、光場を導くもの(光導波路など)であれ導かないもの(直線的に進む)であれ、及び、自由空間であれ物理的媒体であれ、任意の適切な光チャンネルを介して光場を送れることが理解されよう。したがって、たとえば、ノードの量子物理的ハードウェアの光学的構成体は、光共振器内に配置されたダイヤモンド格子中の窒素原子によって提供される量子ビットと接続するシリコンチャンネルを有することができる。
【0113】
既に述べたように、当業者には、Q−ブロックを物理的に実装する方法が理解されよう。関連する実装例の細部を以下の論文(それらの論文は参照により本明細書に組み込まれるものとする)に見いだすことができる。
・「Fault-tolerant quantum repeaters with minimalphysical resources, and implementations based on single photon emitters」L, Childress, J.M.Taylor,A.S.Sorensen, and M.D.Lukin;Physics Review A 72,052330(2005).
・「Fault-Tolerant Quantum Communication Based onSolid-State Photon Emitters」L.Childress, J.M.Taylor,A.S.Sorensen, and M.D.Lukin;Physical Review Letters 96, 070504(2006).
・「Hybrid quantum repeater based on dispersive CQEDinteractions between matter qubits and brightcoherent light」T D Ladd, P van Loock,K Nemoto, WJMunro, and YYamamoto; New Journal of Physics 8(2006)184, Published 8 September 2006.
・「Hybrid quantum Repeater Using Bright CoherentLight」P. van Loock,T.D. Ladd, K.Sanaka, F.Yamaguchi,Kae Nemoto, W.J.Munro, and Y. Yamamoto; Physical Review Letters 96,240501(2006).
・「Distributed Quantum Computation Based-on SmallQuantum Registers」 Liang Jiang, Jacob M. Taylor, AndersS. Sorensen, Mikhail D.Lukin; Physics Review. A 76,062323(2007).


【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンタングルメント生成装置であって、
光チャンネル(75)と、
複数のフュージリア量子ビット(73)を提供するための第1のノード(71)であって、それぞれの光場を、各フュージリア量子ビットを通過させて前記光チャンネル(75)に送り、これによって、前記光チャンネル(75)に狭い間隔で並んだ光場の列(78)を生じるようにするための第1のノードと、
ターゲット量子ビット(74)を提供するための第2のノード(72)であって、前記光チャンネル(75)を介して前記光場の列(78)を受け取って、一連の光場の各々が、前記ターゲット量子ビット(74)がエンタングルされていない間に該ターゲット量子ビット(74)を通過して該ターゲット量子ビットと潜在的に相互作用できるようにし、該ターゲット量子ビットを通過した各光場を測定して該ターゲット量子ビットが成功裏にエンタングルしたか否かを判定するように構成され、さらに、前記ターゲット量子ビット(74)がエンタングルしたことを判定すると、後続の光場が該ターゲット量子ビットと相互作用するのを阻止し、及び、どの光場が該ターゲット量子ビットとエンタングルしたかを識別するように構成された第2のノード
を備える装置。
【請求項2】
前記第2のノード(72)は、さらに、前記ターゲット量子ビット(74)がエンタングルしたことを判定すると、どの光場が該ターゲット量子ビットとエンタングルしたかを識別し、これによって、該ターゲット量子ビットとエンタングルしたフュージリア量子ビットを識別できるように構成されてなる、請求項1の装置。
【請求項3】
前記第1のノード(71)が、
複数のフュージリアQ−ブロック(73)であって、その各々が、前記フュージリア量子ビットを物理的に具現化し、及び、光場を、該量子ビットを通過させるように構成されてなる、複数のフュージリアQ−ブロックと、
フュージリア量子ビットを通過した光場を前記光チャンネル(75)に順序立てて結合するための光学的構成体(76)と、
それぞれの光場が前記フュージリア量子ビットを協調して通過するようにすることによって、狭い間隔で並んだ光場の前記列(78)が生じるようにするための制御ユニット(171)
を備え、
前記第2のノード(72)が、
前記ターゲット量子ビットを物理的に具現化するように構成されたターゲットQ−ブロック(74)であって、該ターゲット量子ビットを通過した光場を測定することによって、該ターゲット量子ビットがフュージリア量子ビットと成功裏にエンタングルしたか否かを判定するように構成されたターゲットQ−ブロックと、
前記光チャンネル(75)を前記ターゲットQ−ブロックに結合して、前記列(78)中の光場が前記ターゲット量子ビットを通過できるようにし、及び、該光場を測定できるようにするための光学的構成体と、
前記列(78)中の第1の光場が前記ターゲット量子ビットを通過して該ターゲット量子ビットと潜在的に相互作用できるようにし、その後、前記ターゲットQ−ブロック(74)が先行する光場が前記ターゲット量子ビットのエンタングルに成功しなかったことを示したときのみ、該先行する光場の次の光場が前記ターゲット量子ビットを通過して該ターゲット量子ビットと潜在的に相互作用できるようにするように動作する制御ユニット(172)
を備え、
前記制御ユニットは、前記ターゲットQ−ブロック(74)が、前記ターゲット量子ビットが成功裏にエンタングルしたことを示したことに応答して、前記第1のノード(71)に、前記ターゲット量子ビットとエンタングルした前記列中の光場を識別する情報を送り、これによって、該ターゲット量子ビットとエンタングルしたフュージリア量子ビットを識別できるようにすることからなる、請求項1の装置。
【請求項4】
前記第2のノード(72)がさらに、第2のターゲット量子ビットを物理的に具現化するように構成された第2のターゲットQ−ブロック(74)を備え、前記第2のノードの前記光学的構成体(183)及び制御ユニット(182)は、第1の前記ターゲットQ−ブロックのターゲット量子ビットのエンタングルメントが成功したことが判定されると、第2のエンタングルメントが判定されるまで、前記列(78)中の後続の光場が前記第2のターゲット量子ビットを通過して該第2のターゲット量子ビットと潜在的に相互作用できるようにし、及び、該光場を測定して、該第2のターゲット量子ビットがフュージリア量子ビットと成功裏にエンタングルしたか否かを判定するように構成されており、前記第2のターゲット量子ビットが成功裏にエンタングルしたことを判定すると、前記列(78)中の残りの任意の光場と前記第2のターゲット量子ビットとの相互作用を阻止し、かつ、該列中のどの光場が前記第2のターゲット量子ビットと成功裏にエンタングルしたかを識別し、これによって、前記第2のターゲット量子ビットとエンタングルしたフュージリア量子ビットを識別することを可能にする請求項3の装置。
【請求項5】
前記第1のノード(71)の制御ユニット(171)は、前記フュージリア量子ビットを通過する光場を同時に生成するように構成され、前記光学的構成体は、それらの光場をそれぞれの異なる光遅延路を通過させてそれらの光場を光場の列(78)に編成するように構成されてなる、請求項3の装置。
【請求項6】
前記第1のノード(71)の制御ユニット(171)は、前記フュージリア量子ビットを通過する光場の各々を時間をずらして連続的に生成し、これによって、該光場を前記列(78)中で分離するように構成されてなる、請求項3の装置。
【請求項7】
前記フュージリア量子ビットの数が少なくとも16である、請求項1の装置。
【請求項8】
前記光場が1〜10ナノ秒だけ時間的に離れている、請求項1の装置。
【請求項9】
隔置された量子ビットをエンタングルするための方法であって、
それぞれの光場を、複数のフュージリア量子ビット(73)を通過させて光チャンネル(75)に送るステップであって、前記光場の生成及び編成によって、前記光チャンネル(75)を伝送する狭い間隔で並んだ光場の列(78)が形成される、ステップと、
前記光チャンネル(75)を介して前記列(78)中の光場を受け取って、第1のターゲット量子ビットがエンタングルしていない間、各光場が順に前記ターゲット量子ビット(74)を通過して該ターゲット量子ビットと潜在的に相互作用できるようにし、その後、前記第1のターゲット量子ビットがエンタングルしたか否かを判定するために各光場を測定するステップと、
前記第1のターゲット量子ビット(74)が成功裏にエンタングルすると、列(78)中の後続の光場と前記第1のターゲット量子ビットとの相互作用を阻止し、及び、どの光場が前記第1のターゲット量子ビットを成功裏にエンタングルさせたかを識別し、これによって、前記第1のターゲット量子ビット(74)とエンタングルしたフュージリア量子ビット(73)を識別できるようにするステップ
を含む方法。
【請求項10】
前記第1のターゲット量子ビット(74)が成功裏にエンタングルすると、第2のターゲット量子ビットがエンタングルしていない間、前記列中の後続の光場が、前記第2のターゲット量子ビットを通過して該第2のターゲット量子ビットと潜在的に相互作用できるようにし、その後、該光場を測定して前記第2のターゲット量子ビットがフュージリア量子ビットと成功裏にエンタングルしたか否かを判定し、該第2のターゲット量子ビットが成功裏にエンタングルすると、前記列中の任意の他の光場と前記第2のターゲット量子ビットとの相互作用を阻止し、かつ、前記列中のどの光場が前記第2のターゲット量子ビットを成功裏にエンタングルさせたかを識別し、これによって、前記第2のターゲット量子ビットとエンタングルしたフュージリア量子ビットを識別できるようにする請求項9の方法。
【請求項11】
フュージリア量子ビットの数fが
Psuccess≦1−(1−s)f
という不等式を満たし、
この場合、sは、単一の光場でエンタングルメントを成功裏に生成する確率であり、Psuccessは、ターゲット量子ビットが単一の光場列で成功裏にエンタングルする望ましい確率である、請求項9の方法。
【請求項12】
所望の確率Psuccessは、少なくとも99%であるように選択される、請求項11の方法。
【請求項13】
前記光場が1〜10ナノ秒だけ時間的に離れている、請求項9の方法。
【請求項14】
ローカルリンク光チャンネル(62、63)を介して左側の近傍ノード及び右側の近傍ノードに光学的に結合可能な量子リピータ(90、130)であって、
該量子リピータは、
量子物理的ハードウェア(60)及び関連する制御手段(82、83)を備え、
前記ローカルリンクチャンネル(62、63)を介して伝送される光場によって前記左側の近傍ノード及び右側の近傍ノードのそれぞれの量子ビットとエンタングルするための左側量子ビット及び右側量子ビットをそれぞれ提供するように構成された左側のリピータ部分(L)及び右側のリピータ部分(R)を提供し、
前記量子物理的ハードウェア(60)は、左側量子ビットと右側量子ビットをそれぞれ含む2つのエンタングルメントを、該左側量子ビットと該右側量子ビットに局所的に作用することによって結合するように動作可能であり、
前記左側のリピータ部分(L)と右側のリピータ部分(R)の少なくとも一方が、
複数のフュージリアQ−ブロック(73)であって、各フュージリアQ−ブロックが、量子ビットを物理的に具現化し、及び、光場を、該量子ビットを通過させるように構成されてなる複数のフュージリアQ−ブロックと、
フュージリア量子ビットを通過した光場を、対応するローカルリンクチャンネル(75)に順序立てて結合するための光学的構成体(76)と、
それぞれの光場が前記フュージリア量子ビットを協調して通過するようにし、これによって、前記ローカルリンクチャンネル(75)に狭い間隔で並んだ光場の出力列(78)を生成するための制御ユニット(93)
を備えることからなる、量子リピータ。
【請求項15】
ローカルリンク光チャンネル(62、63)を介して左側の近傍ノード及び右側の近傍ノードに光学的に結合可能な量子リピータ(90、135)であって、
該量子リピータは、
量子物理的ハードウェア(60)及び関連する制御手段(82、83)を備え、
前記ローカルリンクチャンネル(62、63)を介して伝送される光場によって前記左側の近傍ノード及び右側の近傍ノードのそれぞれの量子ビットとエンタングルするための左側量子ビット及び右側量子ビットをそれぞれ提供するように構成された左側のリピータ部分(L)及び右側のリピータ部分(R)を提供し、
前記量子物理的ハードウェア(60)は、左側量子ビットと右側量子ビットをそれぞれ含む2つのエンタングルメントを、該左側量子ビットと該右側量子ビットに局所的に作用することによって結合するように動作可能であり、
前記左側のリピータ部分(L)と右側のリピータ部分(R)の少なくとも一方が、
量子ビットを物理的に具現化し、及び、該量子ビットを通過した光場を測定し、これによって、前記ターゲット量子ビットが成功裏にエンタングルしたか否かを判定するように構成されたターゲットQ−ブロック(74)と、
前記ターゲットQ−ブロック(74)に、対応するローカルリンクチャンネル(75)を結合して、前記ローカルリンクチャンネル(75)を介して受け取った光場の入力列(78)中の光場が前記量子ビットを通過して該量子ビットと潜在的に相互作用できるようにし、その後、該光場を測定できるようにするための光学的構成体と、
前記ターゲットQ−ブロック(74)の量子ビットが前記入力列(78)中の光場によって成功裏にエンタングルしたことを該ターゲットQ−ブロック(74)が示したことに応答して、該列中の後続の光場と前記ターゲット量子ビットとの相互作用を阻止する制御ユニット(92)であって、前記列(78)中のどの光場が前記量子ビットを成功裏にエンタングルさせたかを識別するように構成された制御ユニット
を備えることからなる、量子リピータ。


【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12A】
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【図12B】
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【図13A】
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【図13B】
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【図13C】
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【公表番号】特表2012−526430(P2012−526430A)
【公表日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−508912(P2012−508912)
【出願日】平成21年10月26日(2009.10.26)
【国際出願番号】PCT/EP2009/064065
【国際公開番号】WO2010/142355
【国際公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【出願人】(511076424)ヒューレット−パッカード デベロップメント カンパニー エル.ピー. (155)
【氏名又は名称原語表記】Hewlett‐Packard Development Company, L.P.
【出願人】(504202472)大学共同利用機関法人情報・システム研究機構 (119)
【Fターム(参考)】