説明

エンベロープをもつウィルスに対する組み換え抗ウィルスペプチドとその調製方法

【課題】本発明は、コーディングDNA配列とアミノ酸配列とを有する、エンベロープをもつウィルスに抗する組み換えペプチドに関する。
【解決手段】本ペプチドは、チャンネル形成コリシンまたはそのチャンネル形成ドメインと、標的ウィルスのエンベロープ(膜)抗原の、一本鎖抗体(scFv)テイラードドメインとを含む。標的ウィルスのエンベロープ抗原に結合した後、scFvのテイラードドメインは、ウィルスエンベロープに接近するペプチドのコリシンチャンネル形成ドメインを標的とすることができるようになり、そのチャンネル形成ドメインは、エンベロープ二重層内のイオンチャンネルを形成して、標的ウィルスに漏出と死をもたらす。本発明の組み換えペプチドは、宿主細胞以外の標的ウィルスのみを殺し、従来の抗ウィルス薬の宿主に対する副作用を大幅に低減する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、標的ウィルスに抗するように操作された抗ウィルスペプチドを提供し、より詳細には、エンベロープをもつウィルスに対する抗ウィルスペプチド、抗ウィルスペプチドのコーディングDNA配列、抗ウィルスペプチドのアミノ酸配列、及び抗ウィルスペプチドの調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ウィルス感染は、人命にとって圧倒的な脅威となってきている。産業のグローバル化によって、肝炎、インフルエンザ、肺炎、脳炎、ウィルス誘発性癌腫およびAIDSなどのウィルス感染が流行性の現象となりつつある。抗ウィルス薬を発明し開発するための現行の手法は、通常はウィルス遺伝子の代謝を阻害したり、ウィルス酵素の活性を阻害したり、あるいは抗体や免疫因子などの免疫学的手法を用いてウィルスワクチンを製造しようとするものであった。残念なことに、ウィルスが変異を通じて耐性を獲得できるために、こうした薬剤は急速にその有効性を失ってしまう。たとえば、B型肝炎ウィルス(HBV)に抗するラミンブジン(Laminvudine)の有効性は、最初に導入したときには90%を越えるが、数年間の臨床投与の後にはHBVの変異によって10%にまで落ち込む。
【0003】
革新的な手法として、ウィルスの変異耐性を克服するために、変異の発生が比較的低いウィルス構造体を標的部位として選択すべきである。ウィルスのエンベロープを破壊することにより、ウィルスの反復感染を防止することができるであろう。エンベロープを本発明の標的として選ぶ理由は、エンベロープの基本構造である脂質二重層が比較的安定な構造であり、エンベロープをもつウィルスのタンパク質およびヌクレオチドと比べて、変異の可能性をほぼ欠いているためである。
【0004】
自然界においては、多くのバクテリオシンが細菌細胞膜内に致命的なチャンネルを形成することにより標的細菌を殺傷するように働く。1つの典型的なモデルとして、大腸菌(Escherichia coli)が、他の大腸菌株と関連細菌種を特異的に殺すために分泌する外毒素であるコリシンが挙げられる。1952年にJacobは、コリシンが、大腸菌の他の株と関連する桿菌を殺しうることを発見した(非特許文献1)。コリシンの殺菌効果は、細胞膜内に致命的なイオンチャンネルを形成することによって起こることが分かっている(非特許文献2)。最近になって、QiuとFinkelsteinらは、コリシンIa電圧依存性チャンネルの膜貫通構造が、リン脂質二重膜におけるゲーティングに関連していることを発見した(非特許文献3)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
エンベロープをもつウィルスは、通常、自らの特異的な膜抗原または受容体を有している。例えば、HBVエンベロープ上には非常に特異的なHbsAgおよびPreS1膜抗原が存在する。したがって、抗体または誂えた一本鎖抗体などの、上記抗原の特異的部分を用いて、エンベロープをもつウィルスの脂質二重層に接近するコリシンのチャンネル形成ドメインを標的とすることができる。
【非特許文献1】ヤコブ(Jacob)等、Sur la biosyntheses d’une colicine et son mode d’action,Annuals of Pasteur Institute,1952年、83:295〜315
【非特許文献2】シェイン(Schein)等、「リン脂質二重層膜における電圧依存性チャンネルを形成することによるコリシンKの活動(Colicin K acts by forming voltage dependent channels in phospholipids bilayer membranes)」,1978年,ネイチャー(Nature)、276:159〜163頁
【非特許文献3】クイ(Qui)等、「コリシンIaチャンネルゲーティングに関連する主たる膜貫通型移動(Major transmembrane movement associated with colicin Ia channel gating.)、1996年、J.Gen.Physiology 107:313〜328頁
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、チャンネル形成コリシンまたはそのチャンネル形成ドメインと、ウィルスエンベロープタンパク質標的部分との融合ペプチドを含む組み換え抗ウィルスペプチドを提供するものである。
ウィルスエンベロープタンパク質は、標的ウィルスのエンベロープ抗原に特異的に結合するペプチドであってもよい。抗ウィルスペプチドは、標的のエンベロープに接近するコリシンのチャンネル形成ドメインを誘導し、コリシンチャンネルを形成することができる。このコリシンチャンネルは、ウィルスエンベロープを破壊して、ウィルス内容物を漏出させることができる。
【0007】
本発明の好ましい実施形態において、例えば、切断(truncated)PreS1 scFv(遺伝子銀行アクセス番号AF427148)ペプチドのN末端を、抗ウィルスペプチドとして、コリシンIaのC末端またはそのチャンネル形成ドメインに連結した。切断PreS1scFvとコリシンIaのペプチド鎖の長さを変えることよって、抗ウィルスペプチドの分子量は5,000〜100,000の間で変化させることができる。このペプチドの選択されるコリシンは、コリシンE1,Ia,Ib,A,BおよびNなどのチャンネル形成コリシンのうちの1つ、またはそれらのチャンネル形成ドメインであってもよい。
【0008】
本発明の好ましい実施形態において、例えばHBV PreS1 scFv(遺伝子銀行アクセス番号AF427148)の抗原結合部位を、コリシンIaチャンネル形成ドメインのN末端において連結し、分子量が約40,000の組み換えペプチドを得ることができる。
【0009】
本発明の他の好ましい実施形態において、例えばHBV PreS1 scFv(遺伝子銀行アクセス番号AF427148)の抗原結合部位を、コリシンIaチャンネル形成ドメインのC末端において連結し、分子量が約40,000の組み換えペプチドを得ることができる。
【0010】
本発明のさらに他の好ましい実施形態において、例えばHBV PreS1 scFv(遺伝子銀行アクセス番号AF427148)の抗原結合部位を、コリシンIaのN末端において連結し、分子量が約90,000の組み換えペプチドを得ることができる。
また、本発明のさらに他の好ましい実施形態において、例えばHBV PreS1 scFv(遺伝子銀行アクセス番号AF427148)の抗原結合部位を、コリシンIaのC末端において連結し、分子量が約90,000の組み換えペプチドを得ることができる。
【0011】
本発明の好ましい実施形態において、例えばHbsAg scFv(遺伝子銀行アクセス番号AF236816)のG28−V50およびE216−S228ペプチド鎖(配列番号:2)のN末端を、コリシンIa(配列番号:1)のC末端に連結し、組み換え抗ウィルスペプチド(配列番号:5)を発現するコーディング核酸配列(配列番号:4)を得ることができる。
【0012】
他の好ましい態様において、本発明は、組み換えベクターを提供することができる。つまり、C末端I626においてコリシンIaの位置を選択した後、HBV HBsAg scFvフェロモン遺伝子を、二本鎖部位特異的変異法によって挿入することができる。
【0013】
好ましい実施形態において、例えば、元のプラスミドは、コリシンIaと免疫タンパク質の遺伝子を導入した市販のベクター(pSELECTTM−1,Promega)である。コリシンIaおよび免疫タンパク質の遺伝子は、このプラスミドの930〜3347位の間に導入することができる。クイック−チェンジ(Quick−change)キット(ストラテジーン社)のプロトコールに従って、HBV HBsAg scFvの抗原結合部位の遺伝子を有する4対のオリゴヌクレオチドプライマー(配列番号:6〜配列番号:13)を用いて、コリシン遺伝子の選択位置に挿入し、変異プラスミドで大腸菌(TG1株)をトランスフェクトし、変異配列を確認した後に、ペプチドを生産することができる。
【0014】
本発明は、医薬品として利用可能な、本発明の抗ウィルスペプチドと適切な添加剤とを含む組成物も提供することもできる。
【0015】
本発明は、例えばHBVエンベロープ抗原scFvのコーディング遺伝子をチャンネル形成コリシンの遺伝子またはそのチャンネル形成ドメインの遺伝子と結合することにより、抗ウィルスペプチド遺伝子を得るように、本発明の抗ウィルスペプチドを調製するための方法を提供することができる。そして、得られる組み換えベクターを発現系に導入して、抗ウィルスペプチドを発現させることができる。
【0016】
エンベロープをもつすべてのウィルスは、例えば、独自のエンベロープ抗原または受容体を有し、各抗ウィルスペプチドは、これらの抗原/受容体の結合ペプチドと、イオンチャンネル形成コリシンまたはそのチャンネル形成ドメインとを連結することによって作り出すことができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、ウィルスエンベロープ内にイオンチャンネルを形成して、ウィルスを殺すことのできる新しい組み換え抗ウィルスペプチド、この抗ウィルスペプチドのコーディングDNA配列、この抗ウィルスペプチドのコーディングDNA配列を有する組み換えプラスミドを提供することができる。また、本発明の抗ウィルスペプチドのアミノ酸配列を提供し、本発明の抗ウィルスペプチドを含む組成物を提供することができる。さらに、抗ウィルスペプチドの調製方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
[実施例1]
<抗ウィルスペプチドを発現するプラスミドの構築と組み換え抗ウィルスペプチドの調製>
HBsAg scFv(遺伝子銀行アクセス番号AF286816)のG28−V50/E216−S228ペプチド鎖の遺伝子(配列番号:2)を、8.3kbの市販のpSELECTTM−1(プロメガ社)内のコリシンIa遺伝子のI626位に、4回にわたる二本鎖オリゴヌクレオチド変異法により(クイックチェンジ(QuickChange(商標名))キット、ストラテジーン社)に挿入し、変異プラスミドをTG1大腸菌細胞にトランスフェクトした後、変異プラスミドを保有するTG1細胞をFB培地中で増殖させてペプチドを生産した。
【0019】
変異法は、以下のように、クイックチェンジ部位特異的変異法キット(カタログ番号200518、ストラテジーン社)のプロトコールに従って行った。
【0020】
変異法のための反応物質の準備:
5μL 10Xバッファ
2μ(10ng) コリシンのプラスミドの野生型
1.25μL(125ng) 設計された5’−3’オリゴヌクレオチドプライマー(下記プライマー配列参照)
1.25μL(125ng) 設計された3’−5’オリゴヌクレオチドプライマー(下記プライマー配列参照)
1μL dNTP
50μL 2回蒸留水
1μL pfu
【0021】
PCR操作:
変性 95℃で35秒
アニール 53℃で70秒
伸長 68℃で17分
このサイクルを20回行った。
【0022】
Dpnl 1μL(37℃、1時間)によって親DNAを消化し、1μLの反応物質を50μLのXL−1ブルースーパーコンピテント細胞とともに氷上で30分間インキュベートし、42℃で45秒間熱ショックを与え、2分氷上に置く。
【0023】
0.5mLのNZY培地を加え、細菌を37℃、220rpmで1時間インキュベートし、50〜100μLの反応物質を固体LB平板培地(50μg/mLアンピシリン)上に加え、37℃で一晩インキュベートする。
【0024】
18時間インキュベートした後、クローンを増殖のためにLB培地に接種する。様々な市販のDNA精製キットでプラスミドを回収し、シーケンシングによって変異の有無を確認する。
【0025】
変異プラスミド(50ng)とTG1スーパーコンピテント細胞(50μL)を氷上で30分間インキュベートし、42℃で90秒間の熱ショックを与え、0.5mLのLB培地を加え、37℃の楕円振盪機中、220rpmで1時間振盪した後、0.1mLを取り出して固体LB平板培地(50μg/mLアンピシリン)上に加え、37℃で一晩インキュベートする。
【0026】
37℃の楕円振盪機上、250rpmにて6〜8時間、8〜16リットルのFB培地中で細胞を増殖させ、4℃、6000gで20分間遠心分離して細胞を回収し、回収した細胞を、4℃において、50〜80mLの50mMホウ酸バッファ(2mM EDTA+2mM DTT)に懸濁し、0.2M PMSF250μLで超音波破砕(4℃、400w、2分間)し、4℃、75000rpmで1.5時間遠心分離し、1/5体積の硫酸ストレプトマイシンを添加することによりDNAを沈殿させ、4℃で一晩透析した後、CM樹脂カラムにロードし、4℃において0.3MNaCl+50mMホウ酸バッファで溶出したところ、90%を越える精製率と1〜5mg/mLのタンパク質含量の組み換えペプチドが得られる。組み換えペプチドは、該ペプチドを細胞培養に加えるか、腹腔内注射によって投与した場合に、ヒト細胞系列およびマウスに対していかなる毒性や副作用も示さなかった。
【0027】
上記方法において用いたプライマーのオリゴヌクレオチド配列は、以下の通りである。
1回目用
5’−3’(配列番号:6)
gcg aat aag ttc tgg ggt att GGA TTC ACC TTC AGT GAC TAC TAC ATG AGC taa ata aaa tat aag aca ggc
3’−5’(配列番号:7)
gcc tgt ctt ata ttt tat tta GCT CAT GTA GTA GTC ACT GAA GGT GAA TCC aat acc cca gaa ctt att cgc
2回目用
5’−3’(配列番号:8)
acc ttc agt gac tac tac atg agc TGG ATC CGC CAG GCT CCA GGG AAG taa ata aaa tat aag aca ggc
3’−5’(配列番号:9)
gcc tgt ctt ata ttt tat tta CTT CCC TGG AGC CTG GCG GAT CCA gct cat gta gta gtc act gaa ggt
3回目用
5’−3’(配列番号:10)
tgg atc cgc cag gct cca ggg aag GGG CTG GAG TGG GTT TCA GAT GAG taa ata aaa tat aag aca ggc
3’−5’(配列番号:11)
gcc tgt ctt ata ttt tat tta CTC ATC TGA AAC CCA CTC CAG CCC ctt ccc tgg agc ctg gcg gat cca
4回目用
5’−3’(配列番号:12)
ggg ctg gag tgg gtt tca gat gag GCT GAC TAT TAC TGT AAC TCC CGG GAC AGC taa ata aaa tat aag aca ggc
3’−5’(配列番号:13)
gcc tgt ctt ata ttt tat tta GTC GTC CCG GGA GTT ACA GTA ATA GTC AGC ctc atc tga aac cca ctc cag ccc
【0028】
[実施例2]
実施例1に記載した手順に従って、G28−V50/E216−S228ペプチド鎖の遺伝子を、コリシンIa(K544−I622)の孔形成領域のC末端に連結して組み換えペプチドを得た。
【0029】
[実施例3]
実施例1に記載した手順に従って、HBV PreS1 scFvフェロモンの遺伝子(遺伝子銀行アクセス番号AF427148)の遺伝子を、コリシンIaの孔形成領域のN末端に連結して、分子量が約40,000の組み換えペプチドを得た。
HBV PreS1 scFvフェロモンの遺伝子(遺伝子銀行アクセス番号AF427148)をコリシンIaの孔形成領域のC末端に連結して、分子量が約40,000の組み換えペプチドを得た。
HBV PreS1 scFvフェロモンの遺伝子(遺伝子銀行アクセス番号AF427148)をコリシンIaのN末端に連結して、分子量が約90,000の組み換えペプチドを得た。
HBV PreS1 scFvフェロモンの遺伝子(遺伝子銀行アクセス番号AF427148)をコリシンIaのC末端に連結して、分子量が約90,000の組み換えペプチドを得た。
【0030】
[実施例4]
<生体外における抗HBVペプチドの抗ウィルス効果>
HBVをトランスフェクトしたHepG2細胞系列(S−01−03)であるHepG2.2.15は、Shanghai Fudan−Yueda Bio Tech Co.,Ltd.(中国、上海)より入手した。
HBV(デイン粒子)は、HepG2.2.15細胞の培養液を、100,000g、4℃で3時間遠心分離することによって得た。HBVを実施例1の抗HBVペプチドとともに(体積5:1)37℃で1時間インキュベートした。数マイクロリットルの試料をグリッド上で1%のリンタングステン酸によって染色した。
図2(B)は、本発明の抗ウィルスペプチドで1時間処理したウィルスを示す電子顕微鏡写真(撮影倍率は、50,000倍)である。図2の左図(A)は、HBVの正常な形態である。ウィルス粒子が暗くなっているが、これはウィルスエンベロープの透過性が増大し、染料(リンタングステン酸)がウィルスに進入したことを示す(撮影倍率は、50,000倍である)。このように、電子顕微鏡(EM)観察によって、HBVのウィルスエンベロープが破壊されていることが分かった(図2(B))。
【0031】
トランスフェクトさせたHBV遺伝子HepG2.2.15肝芽腫細胞を10μg/mLの実施例1の抗ウィルスペプチドによって処理し、1640培地中で66時間培養した。細胞を光学顕微鏡によって観察し、非処理HepG2.2.15細胞と比較した。
その結果を図4AからDに示す。図4Aは、実施例1の抗ウィルスペプチド10μg/mLで処理し、1640培地中で66時間培養したHepG2.2.15肝芽腫細胞の顕微鏡写真(撮影倍率は400倍)である。殆どの細胞が膨張し、粒状内容物でいっぱいになっていた。裸の核は視野全体に散らばっていた。
図4Bは、5mMのヨウ化プロピジウムによって染色した図4Aの細胞の顕微鏡写真(撮影倍率は400倍)である。大半の細胞が死んでいることが分かった。
図4Cは、1640培地中で、66時間増殖させたHepG2.2.15肝芽腫細胞の顕微鏡写真(撮影倍率は400倍)である。正常な細胞増殖が観察された。
図4Dは、5mMヨウ化プロピジウムによって染色した図4Cの細胞の顕微鏡写真(撮影倍率は400倍)である。少数の細胞だけが死んでいることが分かった。66時間細胞増殖としては、常に少数の死細胞が見られた。
【0032】
[実施例5]
<生体内における抗HBVペプチドの抗ウィルス効果>
HBVウィルス血症のマウスモデルを、ブラウン(Brown)等の方法によって準備した(ブラウン(Brown)等(2000年)、Hepatology、第31巻、173〜180頁)。
生化学的かつ組織学的に肝炎の徴候を示す9匹のマウスを3つの群に分けた。
対照群a(n=3)の個体には、0.9%PBSを毎週1mLずつ腹腔内注射した。
対照群b(n=3)の個体には、野生型コリシンIaを毎週0.5mgずつ腹腔内注射した。
試験群(n=3)の個体には、実施例1の抗ウィルスペプチドを毎週0.5mgずつ腹腔内投与した。
【0033】
本発明の抗ウィルスペプチドの抗ウィルス効果は、HBsAg(EIAによって)および抗HBc抗体(ELISAによって、96ウェルプレートを組み換えHbcAgによってコーティング)の血清中の濃度を、最初の週、第4週目および第8週目に検定することにより評価することができる。結果を図3および表1に示す。図3は、ヒト肝細胞を含む生体内異種移植マウスモデルにおいて、本発明の抗ウィルスペプチドで処理した後の、抗体の力価を示す図であり、マウス血清内でHBsAgおよび抗HbcAb抗体が、本発明の抗ウイルスペプチドを注射した後に明らかに減少していることを示している。HBsAgおよび抗HBc抗体は、第4週目から抗ウィルスペプチドを注射したマウスの血清中で劇的に減少した。
【0034】
(表1)
血清中の抗HBc抗体の最終力価

群 試料回収時間
第0週 第2週 第4週
試験群 36450 12150 4050
対照群a 36450 109350 109350
対照群b 36450 109350 109350
【0035】
上記の結果は、本発明の抗ウィルスペプチドが生体外および生体内の両方においてHBVウィルスに対して高い活性を有することを示している。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】HBV HBsAg scFvとコリシンIaの2つの抗原結合部位を含むプラスミド構造の模式図である。
【図2】本発明の抗ウィルスペプチドで1時間処理したウィルスを示す電子顕微鏡写真であって、左図(図2A)は、HBVの正常な形態であり、右図(図2B)は、抗ウィルスペプチドで1時間処理した後である。
【図3】本発明の抗ウィルスペプチドで処理した後の、マウス血清内の抗体の力価を示す図である。
【図4】本発明の抗ウィルスペプチドで処理したHepG2.2.15細胞(A及びB)、あるいは処理していないHepG2.2.15細胞(C及びD)の顕微鏡写真である。
【配列表】











【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャンネル形成コリシンまたはそのチャンネル形成ドメインと、ウィルスエンベロープタンパク質標的部分との融合ペプチドを含む、エンベロープをもつウィルスに抗する組み換え抗ウィルスペプチド。
【請求項2】
チャンネル形成コリシンがコリシンE1,Ia,Ib,A,BおよびNからなる群より選択される請求項1に記載の組み換え抗ウィルスペプチド。
【請求項3】
ウィルスエンベロープタンパク質がB型肝炎ウイルス(HBV)のウィルスエンベロープタンパク質である請求項1に記載の組み換え抗ウィルスペプチド。
【請求項4】
ウィルスエンベロープタンパク質標的部分が遺伝子銀行アクセス番号AF427148としてのHBV PreS1 scFvを含む請求項3に記載の組み換え抗ウィルスペプチド。
【請求項5】
HBV PreS1 scFvが、コリシンIaのN末端において連結されている請求項4に記載の組み換え抗ウィルスペプチド。
【請求項6】
HBV PreS1 scFvが、コリシンIaのC末端において連結されている請求項4に記載の組み換え抗ウィルスペプチド。
【請求項7】
HBV PreS1 scFvが、コリシンIaのチャンネル形成ドメインのN末端において連結されている請求項4に記載の組み換え抗ウィルスペプチド。
【請求項8】
HBV PreS1 scFvが、コリシンIaのチャンネル形成ドメインのC末端において連結されている請求項4に記載の組み換え抗ウィルスペプチド。
【請求項9】
ウィルスエンベロープタンパク質標的部分が、遺伝子銀行アクセス番号AF236816としてのHBV HBsAg scFvを含む請求項1に記載の組み換え抗ウィルスペプチド。
【請求項10】
ウィルスエンベロープタンパク質標的部分が、HBV HBsAg scFvの抗原結合部位を1個以上含む請求項9に記載の組み換え抗ウィルスペプチド。
【請求項11】
ウィルスエンベロープタンパク質標的部分が、HBV HBsAg scFv G28−V50/E216−S228の2つのセグメントを含む請求項10に記載の組み換え抗ウィルスペプチド。
【請求項12】
HBV HBsAg scFvの2つのセグメントのN末端が、コリシンIaのC末端と連結されている請求項11に記載の組み換え抗ウィルスペプチド。
【請求項13】
HBV HBsAg scFvの2つのセグメントのN末端が、コリシンIaの孔形成領域のC末端に連結されている請求項11に記載の組み換え抗ウィルスペプチド。
【請求項14】
配列番号:5のヌクレオチド配列を含む請求項12に記載の組み換え抗ウィルスペプチド。
【請求項15】
チャンネル形成コリシンまたはそのチャンネル形成ドメインをコードする遺伝子と、ウィルスエンベロープタンパク質標的部分をコードする遺伝子とを含む抗ウィルスペプチドの組み換えDNA配列。
【請求項16】
配列番号:4のヌクレオチド配列を含む請求項15に記載の組み換えDNA配列。
【請求項17】
チャンネル形成コリシンまたはそのチャンネル形成ドメインをコードする遺伝子と、ウィルスエンベロープタンパク質標的部分をコードする遺伝子とを含む組み換えプラスミド。
【請求項18】
配列番号:4のヌクレオチド配列を含む請求項17に記載の組み換えプラスミド。
【請求項19】
請求項1ないし14のいずれか一項記載の抗ウィルスペプチドを含む組成物。
【請求項20】
ウィルスエンベロープタンパク質標的部分の遺伝子と、チャンネル形成コリシン遺伝子またはそのチャンネル形成ドメイン遺伝子とを連結して、融合遺伝子を作成する工程と、融合遺伝子を発現系に導入する工程と、発現する工程と、発現系から抗ウィルスペプチドを回収する工程とを含む、組み換え抗ウィルスペプチドの調製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2006−506965(P2006−506965A)
【公表日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−513314(P2004−513314)
【出願日】平成15年6月17日(2003.6.17)
【国際出願番号】PCT/CN2003/000469
【国際公開番号】WO2003/106483
【国際公開日】平成15年12月24日(2003.12.24)
【出願人】(504463763)チェンドゥ フォトン バイオテクノロジー リミテッド (1)
【氏名又は名称原語表記】CHENGDU PHOTON BIOTECHNOLOGY LIMITED
【住所又は居所原語表記】15F, 5 Building, Rainbow Garden, No.1 Nanpu West Road, Chengdu, Sichuan 610000, P.R.CHINA
【Fターム(参考)】