説明

オイルポンプのトルク測定方法及び流量測定方法

【課題】吐出圧の制御目標値からのずれがトルクないし流量の測定値に及ぼす影響を見込んで、吐出圧を目標の値に制御した状態におけるオイルポンプのトルクないし流量を適切かつ低コストに測定する。
【解決手段】本発明に係るオイルポンプのトルク測定方法は、オイルポンプの吐出圧を目標の値に制御した状態におけるトルクを測定する方法であって、オイルポンプの吐出圧とトルクをそれぞれ測定する測定工程(S1,S2)と、予め、同種のオイルポンプの吐出圧とトルクの測定データを取得しておき、これら吐出圧とトルクの測定データから、吐出圧の測定値の制御目標値からのずれの大きさに応じてトルクの測定値の補正量を算出する補正量算出工程(S3)と、トルクの測定値に補正量を加味して、吐出圧が前記制御目標値の場合におけるトルクを算出するトルク算出工程(S4)とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オイルポンプのトルク測定方法及び流量測定方法に関し、特にオイルポンプの吐出圧を目標の値に制御した状態におけるトルクないし流量を測定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車用オイルポンプのようにエンジン等から駆動力を受けて回転駆動するユニットについては、適正な駆動トルクで動作しているか否かを評価するための検査工程を設ける必要がある。ここで、トルク検査装置としては、トルクメータを備えたものの他、下記特許文献1に記載のように、ロードセルを用いた簡易的なトルク検出手段を備えたものが提案され、あるいは使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−318013号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記のトルク検査装置によって測定されるトルクは、トルク検査装置の機械的構造等に起因して、被測定対象に実際に発生しているトルクとは異なる値を示すことがある。そのため、上記検査装置により得られたトルクの測定値を、上述した機械的構造に起因するトルクの変動要因を考慮して補正する場合もある。
【0005】
しかしながら、被測定対象がトルクポンプの場合には、上述した変動要因を考慮して測定値を補正したとしても、トルクポンプに実際に発生したトルクを適切に評価できない問題があった。すなわち、この種のオイルポンプには、製品ごとに所定の規格が定められており、この規格を満たすか否かを判別するための材料(判断基準)の1つに駆動トルクがある。そのため、このトルクは、オイルポンプの回転数や吐出圧を所定の値に設定した状態で測定される必要がある。このうち吐出圧については圧力調整弁などを用いて所定の値に制御しているものの、この種の圧力制御系では、吐出圧を設定通りの値に制御することが難しい。これでは、吐出圧を目標とする値とは異なった値に制御した状態でトルクを測定することになるため、トルクを適切に評価しているとは言い難い。例えば手間をかけて吐出圧を設定するようにすれば、目標値に制御することも可能であるが、その際にはトルク測定までに多大な時間を要することとなり、量産品の検査工程としては作業効率、ひいては作業コストの面で好ましくない。
【0006】
以上の問題は、何もトルクに限ったことではなく、例えばオイルポンプの吐出流量を測定、評価する場合にも同様に起こり得る。
【0007】
以上の事情に鑑み、本明細書では、吐出圧の制御目標値からのずれがトルクないし流量の測定値に及ぼす影響を見込んで、吐出圧を目標の値に制御した状態におけるオイルポンプのトルクないし流量を適切かつ低コストに測定することを、解決すべき技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題の解決は、本発明に係るオイルポンプのトルク測定方法により達成される。すなわち、この測定方法は、オイルポンプの吐出圧を目標の値に制御した状態におけるトルクを測定する方法であって、オイルポンプの吐出圧とトルクをそれぞれ測定する測定工程と、予め、同種のオイルポンプの吐出圧とトルクの測定データを取得しておき、これら吐出圧とトルクの測定データから、吐出圧の測定値の制御目標値からのずれの大きさに応じてトルクの測定値の補正量を算出する補正量算出工程と、トルクの測定値に補正量を加味して、吐出圧が制御目標値の場合におけるトルクを算出するトルク算出工程とを具備する点をもって特徴付けられる。
【0009】
本発明者らは、回転数や吐出圧の制御目標値を異ならせてオイルポンプのトルク測定を行うと共に、その際の吐出圧を測定し、吐出圧の測定データとトルクの測定データとの関係を評価したところ、これら吐出圧とトルクの測定データの間に一定の相関があることが判明した。すなわち、オイルポンプとしての使用が想定される回転数の範囲内(数百rpmから数千rpmの範囲)においては、吐出圧の測定値とトルクの測定値との間に、一次的な相関(後述する実験結果では正の相関)が存在することが分かった。
【0010】
本発明は、以上の知見に鑑みなされたもので、従来、制御目標値であった吐出圧を実際に測定し、制御目標値とのずれを把握すると共に、オイルポンプの使用範囲内における吐出圧とトルクの測定データに基づき、上記吐出圧のずれに対応してトルクの測定値を適切に補正することを特徴とする。この方法によれば、例えば被測定対象となるオイルポンプと同種のオイルポンプに対してトルク測定と吐出圧測定を行い、得られた測定データから、例えば近似直線を求めることにより吐出圧とトルクの測定値の間に存在する相関を数値化することができる。これにより、上記相関に基づいて、吐出圧の測定値の制御目標値からのずれの大きさに応じてトルクの測定値の補正量を自動的に算出することができる。従って、吐出圧を目標の値通りに制御することが難しい場合においても、トルクの測定値に上記補正量を加味することで(例えばトルクの測定値から上記補正量を減じることで)、吐出圧を制御目標値とした場合におけるトルクを適切に測定することが可能となる。また、この方法によれば、簡便にトルク測定値の補正(測定)が行えることから、作業効率の向上、ひいては作業コストの低減を図ることが可能となる。
【0011】
また、本発明に係るトルク測定方法は、オイルポンプを回転駆動させる駆動源と、オイルポンプとが未接続の状態において、駆動源を駆動した場合に駆動源を含むオイルポンプの駆動系に内在するトルクを測定する内在トルク測定工程をさらに具備するものであってもよい。
【0012】
オイルポンプの駆動トルクを測定する場合、当該駆動トルクに加えて、オイルポンプを回転駆動させる駆動源を含む駆動系(駆動源としてのモータの他、モータとオイルポンプとの間に配設されるトルクメータ、ベアリングなどを含む)に内在するトルクも併せて測定することとなる。そのため、オイルポンプの駆動源と、オイルポンプとが未接続の状態においてモータを駆動させた際に生じるトルクを測定することにより、オイルポンプの駆動系に内在するトルクのみを測定することができる。よって、この内在トルクの測定値を、オイルポンプを駆動源に接続した状態で測定したトルクの値から減じることで、この種のロストルクを加味したトルクを測定することができ、測定性能、ひいては評価性能の一層の向上が可能となる。
【0013】
また、前記課題の解決は、本発明に係るオイルポンプの流量測定方法によっても達成される。すなわち、この測定方法は、オイルポンプの吐出圧を目標の値に制御した状態における流量を測定する方法であって、オイルポンプの吐出圧と流量をそれぞれ測定する測定工程と、予め、同種のオイルポンプの吐出圧と流量の測定データを取得しておき、これら吐出圧と流量の測定データから、吐出圧の測定値の制御目標値からのずれの大きさに応じて流量の測定値の補正量を算出する補正量算出工程と、流量の測定値に補正量を加味して、吐出圧が制御目標値の場合における流量を算出する流量算出工程とを具備する点をもって特徴付けられる。
【0014】
本発明者らの鋭意検討の結果、トルクと同様に、オイルポンプの吐出圧の測定値と流量の測定値との間にも、一次的な相関(後述する実験結果では負の相関)が存在することが分かったことを受けて、本発明はなされたものである。すなわち、従来、制御目標値であった吐出圧を実際に測定し、制御目標値とのずれを把握すると共に、オイルポンプの使用範囲内における吐出圧と流量の測定データに基づき、上記吐出圧のずれに対応して流量の測定値を適切に補正することを特徴とする。この方法によれば、例えば規格を満たしたオイルポンプに対して流量測定と吐出圧測定を行い、得られた測定データから、例えば近似直線を求めることにより吐出圧とトルクの測定値の間に存在する相関を数値化することができる。これにより、被測定対象となるオイルポンプの流量と吐出圧を測定した後に、上記相関に基づいて、吐出圧の測定値の制御目標値からのずれの大きさに応じて流量の測定値の補正量を自動的に算出することができる。従って、吐出圧を目標の値通りに制御することが難しい場合においても、流量の実際の測定値に上記補正量を加味することで(例えば流量の測定値に上記補正量を加算することで)、吐出圧を制御目標値とした場合における流量を適切に測定することが可能となる。
【発明の効果】
【0015】
以上のように、本発明に係るトルク測定方法によれば、吐出圧の制御目標値からのずれがトルクの測定値に及ぼす影響を見込んで、吐出圧を目標の値に制御した状態におけるオイルポンプのトルクを適切かつ低コストに測定することが可能となる。また、本発明に係る流量測定方法によれば、吐出圧の制御目標値からのずれが流量の測定値に及ぼす影響を見込んで、吐出圧を目標の値に制御した状態におけるオイルポンプの流量を適切かつ低コストに測定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態に係るオイルポンプのトルク測定方法のフローチャートである
【図2】上記トルク測定方法に使用するトルク測定装置の全体構成を示すが概念図である。
【図3】図2の要部であるトルク測定手段及びその周辺を拡大した斜視図である。
【図4】オイルポンプにおける吐出圧の測定値とトルクの測定値との関係を示すグラフである。
【図5】オイルポンプにおける吐出圧の測定値と流量の測定値との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係るオイルポンプのトルク測定方法の一実施形態を図面に基づき説明する。この実施形態では、自動車用CVT用オイルポンプが、予め定められた所定の規格を満たすか否かを判別するに当って、駆動トルクおよび吐出流量を測定する場合を例にとって説明する。
【0018】
本発明に係るオイルポンプのトルク測定方法は、図1に示すように、オイルポンプの吐出圧を測定する吐出圧測定工程S1と、オイルポンプの駆動トルクを測定するトルク測定工程S2と、予め、同種のオイルポンプの吐出圧とトルクの測定データを取得しておき、これら吐出圧とトルクの測定データから、吐出圧の測定値の制御目標値からのずれの大きさに応じて駆動トルクの測定値の補正量を算出する補正量算出工程S3と、駆動トルクの測定値に補正量を加味して、吐出圧が制御目標値の場合における駆動トルクを算出するトルク算出工程S4と、トルク算出値が、オイルポンプに要求される規格を満たしているか否かを判別する判別工程S5とを具備する。
【0019】
この実施形態では、オイルポンプを回転駆動させる駆動源と、オイルポンプとが未接続の状態において、駆動源を駆動した場合に駆動源を含むオイルポンプの駆動系に内在するトルクを測定する内在トルク測定工程S0をさらに具備する。また、補正量算出工程S3の前に、吐出圧とトルクの測定データに基づき、駆動トルクの測定値の補正量を算出するための補正係数を算出する補正係数算出工程S30をさらに具備する。
【0020】
図2は、トルク測定装置10の全体構成を示している。ここで、オイルポンプ11の回転駆動部は、スピンドル12を介して駆動源としてのモータ13に連結されている。オイルポンプ11とモータ13との間には、オイルポンプ11の駆動トルクを測定するトルク測定手段14が配設されている。また、オイルポンプ11の吐出側には、オイルポンプ11の吐出圧を目標の値に制御するための圧力調整弁15が接続されると共に、オイルポンプ11と圧力調整弁15との間に、吐出圧を測定する圧力計16が配設される。従って、モータ13でオイルポンプ11を回転駆動させることにより、タンク17から引き込まれた油がオイルポンプ11から吐出される際の圧力(吐出圧)が圧力計16で測定されると共に、トルク測定手段14で回転駆動時のトルク(駆動トルク)が測定されるようになっている。また、圧力計16やトルク測定手段14は図示しない演算装置と電気的に接続されており、圧力計16やトルク測定手段14で得た吐出圧や駆動トルクの測定値が演算装置に送られ、この演算装置によって、後述する補正量算出処理(工程S3)、トルク算出処理(工程S4)、及び判別処理(工程S5)が実施されるようになっている。
【0021】
また、この実施形態では、圧力調整弁15の下流側に、オイルポンプ11の流量(吐出流量)を測定する流量計18が配設されている。従って、オイルポンプ11の回転駆動により、圧力計16で吐出圧が測定されると共に、トルク測定手段14で駆動トルクが測定され、かつ、流量計18で吐出流量が測定されるようになっている。この場合、流量計18は図示しない上記演算装置と電気的に接続されており、流量計18で得た吐出流量の測定値が吐出圧やトルクの測定値と共に演算装置に送られる。そして、この演算装置によって、詳細は後述するが、吐出流量の補正量算出処理が補正量算出工程S3の中で実施されると共に、流量算出処理がトルク算出工程S4の中で実施され、かつ流量算出値が、オイルポンプに要求される規格を満たしているか否かの判別処理が判別工程S5の中で実施されるようになっている。
【0022】
ここで、トルク測定手段14は、図3に示すように、モータ13と固定側(接地側)との間に取り付けられ、モータ13に作用する反力Fを検知するロードセル19と、図示は省略するが、ロードセル19で検知した反力Fと、モータ13の中心軸からロードセル19までの距離Lとの演算により、モータ13に作用するトルクT’(反トルクとも言う。)を算出するトルク演算部とで構成される。すなわち、モータ13を回転駆動させることによりスピンドル12を介してオイルポンプ11の回転駆動部に所定の駆動トルクTが生じる。また、これと同時に、モータ13のフレーム側(固定側)には、その回転軸線を中心として、駆動トルクTとは反対向きの力(反力F)が発生する。従って、この反力Fをロードセル19により検出して、トルク演算部により、反力Fに、モータ13の中心軸からロードセル19までの距離Lを乗じることで、オイルポンプ11の駆動トルクTに対応する大きさの反トルクT’を測定することができる。
【0023】
また、この実施形態では、オイルポンプ11とモータ13との間に、トルク測定手段14に加えて、モータ13とオイルポンプ11を連結するスピンドル12を回転自在に支持するベアリング20が配設されており、スピンドル12の芯ずれを防ぎつつも、モータ13によるオイルポンプ11の回転駆動を可能としている。
【0024】
以下、オイルポンプのトルク測定方法の一例を説明する。
【0025】
まず、図1に示すように、モータ13とオイルポンプ11とが未連結の状態において、モータ13を駆動した場合にモータ13を含むオイルポンプ11の駆動系(この図示例ではさらにベアリング20が含まれる)に内在するトルクTpを、トルク測定手段14により測定する(内在トルク測定工程S0)。なお、モータ13やベアリング20の摩擦状態等は周囲の温度や駆動系の温度によっても変動するので、摩擦状態等に影響を受ける内在トルクTpについては、毎サイクル測定するのがよい。
【0026】
そして、オイルポンプ11をモータ13に連結して、オイルポンプ11を回転駆動させ、オイルポンプ11の吐出圧を測定する共に(吐出圧測定工程S1)、オイルポンプ11の駆動トルクTを測定する(トルク測定工程S2)。実際には、オイルポンプ11の回転駆動によりモータ13に作用する反トルクT’を測定する。また、この際、吐出圧は、オイルポンプ11の吐出側に接続された圧力調整弁15により所定の目標値となるよう、制御した状態で吐出圧及び駆動トルクTの測定が行われる。上記吐出圧の制御は、例えば圧力計16の測定値に基づいて、図示しない制御装置によりフィードバック制御を行うことにより実施される。この実施形態では、回転数についても所定の値に設定した状態で吐出圧及び駆動トルクTの測定を行う。
【0027】
このように吐出圧を圧力調整弁15などを用いて所定の値に制御しようとした場合、実際に測定される値と、制御しようとする目標値との間にずれが生じる。そのため、予め、同種のオイルポンプの吐出圧とトルクの測定データを取得しておき、これら吐出圧とトルクの測定データから、吐出圧の測定値の制御目標値からのずれの大きさに応じて駆動トルクの測定値(反トルクT’)の補正量を算出する(補正量算出工程S3)。また、この実施形態では、補正量算出工程S3の前に、吐出圧とトルクの測定データに基づき、駆動トルクの測定値T’の補正量を算出するための補正係数を算出する(補正係数算出工程S30)。具体的に述べると、図4に示すように、(例えば要求規格を満たした)被測定対象と同種のオイルポンプについて吐出圧PとトルクTqの測定データを取得する。そして、これら複数の測定データを図4に示すようにグラフ化して、吐出圧PとトルクTqの測定値との間に存在する相関を数値化する。すなわち、上記測定データに基づき近似直線を算出してその傾きを取得する。この傾きが駆動トルクの測定値T’を補正する際の補正係数に相当する。一例を挙げると、吐出圧の制御目標値が1.0MPaで、実際の吐出圧の測定値が1.05MPaの場合、吐出圧の測定値の制御目標値からのずれに対応する駆動トルクの測定値T’の補正量Taは、このずれの大きさ(0.05MPa)に近似直線の傾きとなる補正係数(ここでは1.34)を乗じた値として算出される。
【0028】
このようにして駆動トルクの補正量Taを算出した後、先に測定した駆動トルクの測定値(すなわち、反トルクT’)から補正量Taを減じることで、吐出圧を目標の値に制御した状態におけるオイルポンプ11の駆動トルクTの真の値を算出することができる(トルク算出工程S4)。この実施形態では、モータ13自身の回転駆動により生じるトルクや、ベアリング20の回転により生じるトルクなど、オイルポンプ11の駆動系に内在するトルク(内在トルクTp)を予め取得しているので、この内在トルクTpをさらに減じることで、モータ13やベアリング20等によるトルク損失を加味した駆動トルクTを算出することができる。
【0029】
以上のようにして補正後の駆動トルクTを得た後、この補正後の駆動トルクTが、オイルポンプ11に要求される規格を満たしているか否かを判別する(判別工程S5)。すなわち、オイルポンプ11の駆動トルクTには、規格により回転数及び吐出圧を所定の値に制御した場合におけるトルクの上限値が定められており、補正後の駆動トルクTが、規格で定めた上限値以下の場合には規格内と判別され、上限値を上回る場合には規格外と判別される。
【0030】
また、この実施形態では、オイルポンプのトルク評価が行われると共に、流量の評価が行われる。すなわち、オイルポンプ11をモータ13に連結して、オイルポンプ11を回転駆動させた状態で、オイルポンプ11の駆動トルク(反トルクT’)を測定すると共に、オイルポンプ11の吐出流量Qを測定する。実際には、流量計18で測定された値(吐出流量の測定値Q’)を取得する。
【0031】
この場合も、圧力計16により実際に測定される吐出圧の値と、制御しようとする目標値との間にはずれが生じる。そのため、予め、補正量算出工程S3において、同種のオイルポンプの吐出圧とトルクの測定データと共に流量の測定データを取得しておき、これら吐出圧と流量の測定データから、吐出圧の測定値の制御目標値からのずれの大きさに応じて吐出流量の測定値Q’の補正量を算出する。また、補正係数算出工程S30において、補正量の算出処理の前に、吐出圧と流量の測定データに基づき、吐出流量の測定値Q’の補正量を算出するための補正係数を算出しておいてもよい。具体的に述べると、図5に示すように、(例えば要求規格を満たした)被測定対象と同種のオイルポンプについて吐出圧Pと流量Qの測定データを取得する。そして、これら複数の測定データを図5に示すようにグラフ化して、吐出圧Pと流量Qの測定値との間に存在する相関を数値化する。すなわち、上記測定データに基づき近似直線を算出してその傾きを取得する。この傾きが吐出流量の測定値Q’を補正する際の補正係数に相当する。一例を挙げると、吐出圧の制御目標値が1.0MPaで、実際の吐出圧の測定値が1.05MPaの場合、吐出圧の測定値の制御目標値からのずれに対応する吐出流量の測定値Q’の補正量Qaは、このずれの大きさ(0.05MPa)に近似直線の傾きとなる補正係数(ここでは−1.0)を乗じた値として算出される。
【0032】
このようにして吐出流量の補正量Qaを算出した後、先に測定した吐出流量の測定値Q’に上記補正量Qaを加算(絶対量として加算)することで、吐出圧を目標の値に制御した状態におけるオイルポンプ11の吐出流量の真の値Qを算出することができる。
【0033】
以上のようにして補正後の吐出流量Qを得た後、この補正後の吐出流量Qが、オイルポンプ11に要求される規格を満たしているか否かを判別する。すなわち、オイルポンプ11の吐出流量Qには、規格により回転数及び吐出圧を所定の値に制御した場合における流量の下限値が定められており、補正後の吐出流量Qが、規格で定めた下限値以上の場合には規格内と判別され、下限値を下回る場合には規格外と判別される。
【0034】
このように、本発明に係るトルク測定方法によれば、被測定対象となるオイルポンプ11のトルクと吐出圧を測定した後に、予め取得しておいた吐出圧とトルクの測定データに基づき、吐出圧の測定値の制御目標値からのずれの大きさに応じて駆動トルクの測定値T’の補正量Taを自動的に算出することができる。従って、吐出圧を目標の値通りに制御することが難しい場合においても、駆動トルクの測定値T’から上記補正量Taを減じることで、吐出圧を制御目標値とした場合における駆動トルクTを適切に測定することが可能となる。特に、上述の如く、規格上トルクの上限値が定められる条件下で、吐出圧とトルクの測定データの間に正の相関が存在する場合、評価すべき駆動トルクTの値が補正により減少するので、規格評価の際に上記補正は特に有効となる。
【0035】
また、オイルポンプ11の吐出流量についても同様に、予め取得しておいた吐出圧と流量の測定データに基づき、吐出圧の測定値の制御目標値からのずれの大きさに応じて吐出流量の測定値Q’の補正量Qaを自動的に算出することができる。従って、吐出圧を目標の値通りに制御することが難しい場合においても、吐出流量の測定値Q’から上記補正量Qaを加算することで、吐出圧を制御目標値とした場合における吐出流量Qを適切に測定することが可能となる。また、吐出流量Qについても、上述の如く、規格上流量の下限値が定められる条件下で、吐出圧と流量の測定データの間に負の相関が存在する場合、評価すべき吐出流量Qの値が補正により増加するので、規格評価の際に上記補正は特に有効となる。以上より、本発明によれば、オイルポンプの規格検査性能を向上させることができる。
【0036】
また、この実施形態では、トルク測定手段14を、モータ13に作用する反力Fを検知するロードセル19と、ロードセル19で検知した反力Fと、モータ13の中心軸からロードセル19までの距離Lとの演算により、モータ13に作用する反トルクT’を算出するトルク演算部とで構成している。そのため、トルクメータなどの高価な測定機器を用いずに済み、代わりにロードセルなどの安価な測定素子を利用してトルク測定を実施することが可能となる。これによりトルク測定装置10の小型化、低コスト化を図ることが可能となる。
【0037】
なお、上記実施形態では、駆動トルクの測定値T’を補正すると共に、吐出流量の測定値Q’を補正することで、双方の項目につき測定及び評価を行った場合を例示したが、もちろん何れか一方のみの補正を行い、測定及び評価を行うことも可能である。
【0038】
また、上記実施形態では、トルク測定手段14を、ロードセル19と、トルク演算部とで構成した場合を例示したが、コスト面で特に支障がないのであれば、これらに代えてトルクメータ等の一般の測定機器を使用することも可能である。
【符号の説明】
【0039】
10 トルク測定装置
11 オイルポンプ
12 スピンドル
13 モータ
14 トルク測定手段
15 圧力調整弁
16 圧力計
17 タンク
18 流量計
19 ロードセル
20 ベアリング
T 駆動トルク
T’ 反トルク(駆動トルクの測定値)
Tp 内在トルク(ロストルク)
Q 吐出流量
Q’ 吐出流量の測定値

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オイルポンプの吐出圧を目標の値に制御した状態におけるトルクを測定する方法であって、
前記オイルポンプの吐出圧とトルクをそれぞれ測定する測定工程と、
予め、同種のオイルポンプの吐出圧とトルクの測定データを取得しておき、これら吐出圧とトルクの測定データから、前記吐出圧の測定値の前記制御目標値からのずれの大きさに応じて前記トルクの測定値の補正量を算出する補正量算出工程と、
前記トルクの測定値に前記補正量を加味して、前記吐出圧が前記制御目標値の場合におけるトルクを算出するトルク算出工程とを具備する、オイルポンプのトルク測定方法。
【請求項2】
前記オイルポンプを回転駆動させる駆動源と、前記オイルポンプとが未接続の状態において、前記駆動源を駆動した場合に前記駆動源を含むオイルポンプの駆動系に内在するトルクを測定する内在トルク測定工程をさらに具備する、請求項1に記載のオイルポンプのトルク測定方法。
【請求項3】
オイルポンプの吐出圧を目標の値に制御した状態における流量を測定する方法であって、
前記オイルポンプの吐出圧と流量をそれぞれ測定する測定工程と、
予め、同種のオイルポンプの吐出圧と流量の測定データを取得しておき、これら吐出圧と流量の測定データから、前記吐出圧の測定値の前記制御目標値からのずれの大きさに応じて前記流量の測定値の補正量を算出する補正量算出工程と、
前記流量の測定値に前記補正量を加味して、前記吐出圧が前記制御目標値の場合における流量を算出する流量算出工程とを具備する、オイルポンプの流量測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−247404(P2012−247404A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−122012(P2011−122012)
【出願日】平成23年5月31日(2011.5.31)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】