説明

オイル性状管理方法及び該装置

【課題】異物混入による測定誤差を最小限に抑え、より精度の高いオイル劣化判断を行い得るオイル性状管理方法及び該装置を提供する。
【解決手段】発電用ガスエンジンの回転部又は摺動部、或いはこれらの周辺部にオイル流路を介して供給されるオイルの性状管理方法において、前記オイル流路に供給されるオイルの比誘電率とTBN(全塩基価)の相関関係を予め求めておき(S1)、前記オイル流路に配置された2つの電極間に高周波交流電圧を印加したときに流れる電流を測定するとともに、前記電極間の電圧を測定し(S2)、該測定した電流値及び電圧値に基づいてオイルの比誘電率を求め(S3)、該比誘電率を前記相関関係に基づいてTBN値に変換し(S4)、該TBN値からオイルの劣化状態を判断する(S5)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発電用ガスエンジンの回転部又は摺動部、或いはこれらの周辺部にオイル流路を介して供給される潤滑用オイルの劣化状態を検知して性状管理を行うオイル性状管理方法及び該装置に関し、特にリアルタイムでオイルの劣化状態が検知できるオイル性状管理方法及び該装置に関する。
【背景技術】
【0002】
発電用ガスエンジンは回転部又は摺動部を有しており、該システムはオイルタンク及びオイル供給部を備えて、回転部又は摺動部を構成する各種部品、或いはその周辺部品にオイルを循環供給して、各部品の摩耗を防ぎ円滑に動作させるようにしている。オイルタンクに貯留されたオイルは、オイル流路を介してガスエンジンのピストン、シリンダ、ベアリング等のオイルにより潤滑すべき各種部品に供給され、使用されたオイルはオイル流路を介してオイルフィルタで濾過された後、オイルタンクに回収される。そして回収されたオイルは再びオイル流路を経由して前記各種部品に供給される。このようにしてオイルは、ガスエンジンの各種部品に循環供給されることにより摩耗防止、冷却、密封作用などの役割を担っている。
【0003】
しかし、ガスエンジンに使用されるオイルは、高温酸化や機械的ストレスなどにより劣化して、オイルの機能を満足する粘度や純度等が低下してしまうため、定期的にオイルを交換する必要がある。そこで、オイルの交換時期を判断するためにはオイルの性状管理が重要となる。
従来より多く用いられているオイルの劣化判断方法として、オイルを定期的にサンプリングして化学分析を行ってオイルの劣化状態を判断する方法があるが、オイルのサンプリングを行ってから化学分析結果を得るまでにかなりの時間を要するため、その性状管理はタイムリーなものであるとは言い難かった。そこで、リアルタイムでオイルの劣化状態を検知することができる装置の開発が望まれ、例えば以下のような手法が提案されている。
【0004】
オイルの劣化に伴う電気的特性の変化を計測する手法として、特許文献1(特開平10−78402号公報)に開示されるエンジン・オイル劣化検出装置では、エンジンのオイル・パンにオイルの電気抵抗値を測定する抵抗センサを設け、測定したオイルの電気抵抗値が低下して、予め設定した劣化抵抗値に到達した場合に、運転者にオイル交換の必要性を知らせる手法が提案されている。
また、特許文献2(特開2004−354082号公報)には、オイルフィルタを通過してエンジンの手動部にオイルを供給するメインギャラリにオイル劣化センサを設置したエンジンオイル劣化検出装置が開示されている。このオイル劣化センサは、電極間に交流電流を印加したとき、両電極と電極間のオイルとによりコンデンサが構成されるものとし、両電極間の静電容量を測定し、該静電容量から求めた比誘電率に基づいてオイル劣化の有無を判定するようになっている。
【0005】
【特許文献1】特開平10−78402号公報
【特許文献2】特開2004−354082号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した特許文献1に開示された技術においては、電気抵抗値の変化に基づいてオイルの劣化を判定しており、カーボン(すす)等の異物混入など、電気抵抗値に対して大きく影響を及ぼす物質の混入に対して過敏であるという事情があった。
特許文献2に開示された技術においても、静電容量を測定する際にオイルの温度変化やオイルへの異物混入などの影響を受けやすく、測定誤差が大きくなってしまうという問題があった。
【0007】
また、オイルの劣化状態を検知するための計測手法として、特許文献1又は2のように電気抵抗値(導電率、誘電率)の変化を計測するもの以外にも、オイルの劣化に伴う粘度変化、光透過率変化、或いはpH変化等を計測するものがあるが、何れの手法においても、取得する情報に外乱が多い場合は、適正なオイル劣化判断に限界があるという事情があった。
従って、本発明は上記従来技術の問題点に鑑み、異物混入や温度変化等による測定誤差を最小限に抑え、より精度の高いオイル劣化判断を行い得るオイル性状管理方法及び該装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで、本発明はかかる課題を解決するために、発電用ガスエンジンの回転部又は摺動部、或いはこれらの周辺部にオイル流路を介して供給されるオイルの性状管理方法において、
前記オイル流路に供給されるオイルの比誘電率とTBN(全塩基価)の相関関係を予め求めておき、
前記オイル流路に配置された2つの電極間に高周波交流電圧を印加したときに流れる電流を測定するとともに、前記電極間の電圧を測定し、該測定した電流値及び電圧値に基づいてオイルの比誘電率を求め、
該比誘電率を前記相関関係に基づいてTBN値に変換し、該TBN値からオイルの劣化状態を判断することを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、発電用ガスエンジンの運転を停止することなくリアルタイムでオイルの劣化状態を判断することが可能となる。また、適切なオイル交換時期が把握できるため、不必要なオイル交換作業を行う必要がなくなる。
TBNはオイルの酸中和能力と清浄度を示す基準として利用され、オイルが劣化するに従って低くなる値であり、またオイルの比誘電率とTBN値は、互いに相関関係がみられる。そこで、本発明のように、予め比誘電率とTBNの相関関係を取得しておき、これを用いることにより比誘電率からオイルの劣化状態を簡単に且つ精度良く判断することが可能となる。
【0010】
また、前記比誘電率とTBNの相関関係にてオイルの劣化状態に基づいた比誘電率の管理限界値を予め設定しておき、前記求められた比誘電率が該管理限界値を上回ったときにオイル劣化を報知することを特徴とする。
これにより、適切なオイル交換時期が把握できるため、不必要なオイル交換作業を行う必要がなくなる。
【0011】
また、発電用ガスエンジンの回転部又は摺動部、或いはこれらの周辺部にオイル流路を介して供給されるオイルの性状管理装置において、
前記オイル流路に対向配置された2つの電極と、該2つの電極間に高周波交流電圧を印加する高周波交流電源と、前記2つの電極間の電流を測定する電流計と、前記2つの電極間の電圧を測定する電圧計と、前記電流計及び前記電圧計にて測定された測定結果に基づいてオイルの劣化を判断する処理手段と、を備え、
前記処理手段は、前記オイル流路に供給されるオイル固有の比誘電率とTBN値(全塩基価)の相関関係が格納された記憶部と、前記測定された電流値及び電圧値から比誘電率を算出する比誘電率算出部と、該算出した比誘電率から前記相関関係に基づいてオイルの劣化を判断する劣化判断部とを備えたことを特徴とする。
さらに、前記比誘電率とTBNの相関関係にてオイルの劣化状態に基づいた比誘電率の管理限界値を予め設定しておき、前記算出された比誘電率が該管理限界値を上回ったときにオイル劣化を報知する報知部を備えたことを特徴とする。
【0012】
また、前記電極に絶縁部材を介して超音波振動子を接合し、間欠的に該超音波振動子に電圧を印加して発生させた超音波振動を前記電極に伝播させ、該超音波振動により前記電極を洗浄するようにしたことを特徴とする。
これにより、電極に付着したすす等の異物が除去されて洗浄を行うことが可能となり、円滑な測定が可能となる。
【0013】
さらにまた、前記電極間に、高誘電率を有する部材を電極面に対して均一な肉厚となるように介在させたことを特徴とする。
一般に、オイルの比誘電率は約2と小さいが、高誘電率を有する部材を電極間に挿入することにより、小さい比誘電率情報を検出することが困難な場合であっても比誘電率をオフセットすることができ、高い精度で比誘電率を測定することが可能となる。
【0014】
さらに、前記2つの電極のうち少なくとも何れか一方の電極面に、高誘電率を有し且つ超音波振動作用を有する部材を該電極面に対して均一な肉厚となるように接合したことを特徴とする。
これによれば、高誘電率を有する部材を電極間に挿入しているため、比誘電率を高い精度で検出することができるとともに、鉄粉、カーボン等の異物がオイル中を流れてきて電極間に詰まった場合に、両電極間がショートすると該部材に交流電圧が印加されるため、圧電効果により電極が加振され、その結果、電極間に介在する異物が超音波振動により取り除かれる。これにより、電極洗浄のために定期的にスイッチ操作等の作業を行うことなく、電極間がショートしたときに適宜洗浄効果を発揮することが可能となる。
【0015】
さらにまた、前記2つの電極が配置される位置より上流側の前記オイル流路に、温度調整手段を設けたことを特徴とする。
オイルの抵抗率は温度の変化に敏感であるため、電流及び電圧を計測する前に、予め測定に適した温度にオイルを温度調整することにより、温度変化の影響を無くし、より安定した計測を実施することが可能となる。
【発明の効果】
【0016】
以上記載のごとく本発明によれば、発電用ガスエンジンの運転を停止することなくリアルタイムでオイルの劣化状態を判断することが可能となる。また、適切なオイル交換時期が把握できるため、不必要なオイル交換作業を行う必要がなくなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施例を例示的に詳しく説明する。但しこの実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例に過ぎない。
図1乃至図6は本実施形態に係るオイル性状管理方法及び装置を説明する図、図7乃至図11は本実施形態の変形例につき説明する図である。
【0018】
本実施形態は発電用ガスエンジンに適用され、該ガスエンジンの回転部又は摺動部、或いはこれらの周辺部に供給されるオイルの劣化状態を判断するための方法及び装置である。
発電用ガスエンジンにおいて、オイルタンクに貯留されたオイルは、オイル流路を介してガスエンジンのピストン、シリンダ、ベアリング等のガスエンジンの回転部又は摺動部、或いはこれらの周辺部の各部品に供給され、使用されたオイルはオイル流路を介してオイルフィルタで濾過された後、オイルタンクに回収される。そして回収されたオイルは再びオイル流路を経由して前記各種部品に供給され、循環経路を形成している。本実施形態に係る装置は、このオイル流路を通流するオイルの劣化状態を判断し、リアルタイムでオイル性状を管理するものである。
【0019】
まず、図3を参照して本発明の一実施形態に係るオイル性状管理装置の概略構成につき説明する。同図において、本実施形態の装置は、上記したオイル流路11を流れるオイル10の劣化を検出するものであり、オイル流路11に配置される2つの電極21、22と、2つの電極21、22間に高周波交流電圧を印加する高周波交流電源23と、該交流電圧を印加したときに流れる電流を計測する電流計24と、該交流電圧を印加したときの電極21、22間の電圧を計測する電圧計25と、電流計24及び電圧計25による計測結果に基づいてオイル10の比誘電率を求め、該比誘電率から、記憶部31aに格納されているオイルの比誘電率とTBNの相関関係に基づきオイル10の劣化状態を判断する信号処理部31と、該信号処理部31によるオイル10の劣化判断の結果を報知する報知部32とを備えて構成されている。
【0020】
前記電極21、22は、互いに対向配置される2つの電極であって、その形状は特に限定されず、板状電極であっても環状電極であってもよい。好適には、図4(a)に示すように間隔dの並行平板で、平面の面積Sが既知で平面形状が同一のものを使用し、オイル流路11に設置する。尚、オイル流路11にオイルフィルタがある場合には、2枚の電極21、22は、該オイルフィルタの後方(オイル10の流れにおける下流)に設置することが望ましい。
前記電流計24及び電圧計25は、例えば、それぞれ電流及び電圧の瞬時値を出力できる形態のものを使用する。
前記高周波交流電源23としては、正弦波の交流電圧を出力するもので、その周波数は高周波領域に設定される。該高周波領域に関しては後で詳述する。
【0021】
前記信号処理部31は、例えばMPU(マイクロプロセッサ)やDSP(ディジタル信号処理プロセッサ)、或いはPC等で具現化され、誘電率を求めてオイル10の劣化を判断する処理等はプログラム処理により実現される。尚、PC等は、当該オイル性状管理装置が適用される発電用ガスエンジンの全体又は一部を制御する制御手段と併用する構成であってもよい。また、オイル流路11に複数個の電極21、22が設置される場合には、信号処理部31を電極21、22毎に備える構成としてもよいし、或いは複数個の電極21、22を一括して1個の信号処理部31で処理する構成としてもよい。
【0022】
前記報知部32は、劣化判断の結果を報知するものであればどのような形態でもよく、例えば、オイル10が劣化したと判断されたときに、アラーム(警報音)を出力するもの、表示パネル上に所定領域を点滅表示するもの、或いは、オイル10が劣化した旨のメッセージを表示出力するもの等、種々の様態が考えられる。
【0023】
次に、図5に示す信号処理部31の詳細構成図を参照して、信号処理部31における信号処理及び判定処理について詳細に説明する。同図に示されるように、信号処理部31は、実効値比較部41、静電容量値算出部42、比誘電率算出部43、劣化判断部44、記憶部31aを備えて構成されている。尚、これらの構成要素は、プログラム上の処理のまとまりを表すものである。また、電流計24からは電流の実効値が、また電圧計25からは電圧の実効値が、それぞれ送られてくるものとする。
【0024】
前記実効値比較部41では、電流の実効値と電圧の実効値とを比較して複素インピーダンスZの絶対値(|Z|=|V|/|I|)を求める。
本実施例では、交流電圧の周波数を高周波領域に設定しているため、複素インピーダンスZの逆数1/|Z|のうち抵抗値Rは考慮せず、複素インピーダンスZの逆数1/|Z|から静電容量値Cのみを求める。
前記比誘電率算出部43では、静電容量値Cからオイル10の比誘電率εを求める。
さらに、前記劣化判断部44では、予め記憶部31aに設定されたオイル固有の比誘電率とTBNの相関関係に基づいて、前記比誘電率算出部43にて算出された比誘電率からTBN値を求め、該TBN値に基づいてオイルの劣化状態を判断し、必要に応じて報知部32より診断結果を放置する。
【0025】
尚、両電極21、22に印加する交流電圧の周波数を高周波領域内にて変化させて計測を行うことようにしてもよい。交流電圧の周波数を可変とすることで、比誘電率εの感度調節を行うことが可能となり、最適な周波数で比誘電率を測定することができ、測定精度を向上させることができる。
例えば、予備実験により、高周波領域内にて複数の周波数における計測を行って、オイル10の性質に応じて、より比誘電率εの感度が高く、より適正に劣化判断を行い得る交流電圧の周波数帯を確認しておくことができる。
【0026】
図1を参照して、本実施例のオイル性状管理方法のフローにつき説明する。
まず、オイルの比誘電率とTBN(全塩基価)の相関関係を予め求めておく(S1)。TBNはオイルの酸中和能力と清浄度を示す基準として利用され、オイルが劣化するに従って低くなる値である。オイルの比誘電率とTBN値は、図2に示すように互いに相関関係がみられる。即ち、オイルのTBN値が低くなるにつれてオイルの比誘電率が上昇する。このオイルの比誘電率とTBNの相関関係を予め取得して記憶部31aに格納しておく。この相関関係は、オイル種類によって固有のものであり、予め実験等により求めてもよいし、同一種類のオイルにおいては異なる発電用ガスエンジンから該相関関係を援用してもよい。
【0027】
次いで、図3に示した装置にて、高周波交流電圧源23によりオイルに高周波交流電圧を印加し、電流計24及び電圧計25により電流と電圧を求め(S2)、該計測結果に基づいて信号処理部31にて誘電率を算出する(S3)。誘電率の算出方法については後述する。尚、電流及び電圧は連続的或いは間欠的に測定されるが、好適には連続的に測定するとよい。
そして、前記記憶部31aに格納されたオイルの比誘電率とTBNの相関関係に基づいて、前記算出された誘電率からTBN値に変換し(S4)、該TBN値に基づいてオイルの劣化状態を判断する(S5)。
【0028】
このとき、比誘電率とTBN値の相関関係にてオイルの劣化状態に基づいた比誘電率の管理限界値(図2参照)を予め設定しておき、前記求められた比誘電率と該管理限界値を比較し(S6)、該比誘電率が該管理限界値を超えたときに、報知部32により報知することが好ましい(S7)。上記したように、オイルの劣化が進むにつれてTBN値は低下するが、オイルが劣化したと判断されるTBN値に対応する比誘電率を管理限界値に設定しておき、比誘電率が管理限界値を上回った時に報知することによってオイル交換時期を的確に把握することが可能となる。
【0029】
次に、本実施形態に係るオイル性状管理装置における測定原理について説明する。
まず、図4(a)に示した電極21、22及び電極間に介在するオイル20の等価電気モデルとして、図4(b)に示すような、抵抗R(Rは構造体の抵抗値)及び静電容量C(電極間に介在するオイルの静電容量値)による並列回路を仮定する。
交流電源23により印加される電圧をVとし、該電圧Vの周波数をωとし、流れる電流をI、抵抗Rを流れる電流をI1、静電容量Cを流れる電流をI2とするとき、回路方程式は、次式で示される。
【0030】
I=I1+I2 …(1)
V=R・I1 …(2)
V=(1/jωC)・I2 …(3)
【0031】
よって、式(1)〜(3)より、並列回路の複素インピーダンスZは次式で求められる。
Z=V/I=V/(((1/R)+jωC)・V) …(4)
=1/((1/R)+jωC)
【0032】
ここで、複素インピーダンスZの逆数1/Zを、複素平面上にプロットすると図4(c)に示すごとくなる。同図において、横軸は複素インピーダンスZの逆数1/Zの実部Re[1/Z]であり、縦軸は複素インピーダンスZの逆数1/Zの虚部Im[1/Z]である。また、中心からプロットした点までの直線距離が複素インピーダンスZの逆数1/Zの大きさ1/|Z|であり、θは複素インピーダンスZの逆数1/Zの偏角である。
【0033】
図4(c)に示すように、計測により得られた複素インピーダンスZについて、その逆数1/Zの実部が抵抗成分(1/R)に、逆数1/Zの虚部が容量成分(ωC)に対応するため、複素インピーダンスZの逆数1/|Z|及び偏角θがわかれば、抵抗値R及び静電容量値Cが求まる。さらに、電極21、22及び電極間に介在するオイル20について、電極21、22の間隔d及び平面の面積Sが一定で既知であるため、得られた抵抗値Rおよび静電容量値Cから、それぞれオイル10の導電率σ及び誘電率εを求めることができる。
【0034】
ここで、オイル10の導電率は油の劣化状態、温度、ベースオイルの種類などによってばらつきが見られることがあるため、本実施例では上記式(4)から誘電率のみを精度良く求めるために、交流電圧の周波数を高周波領域に設定する。即ち、上記式(4)において、ωを高い値に設定することで、分母の第1項、すなわち抵抗成分を近似的に無視できることになる。図4(c)で考えると、ωを十分大きく設定すると、抵抗成分より容量成分の方がはるかに大きくなり、近似的に電極間に介在するオイル20の等価電気モデルを一つのコンデンサに置き換えることができる。その場合は偏角θがπ/2となるため、偏角θの計測も不要となる。
好適には、交流電圧の周波数域は、複素インピーダンスZの逆数1/Zの実部(1/R)が、虚部(jωC)の1/100以下となるような高周波領域とすることが好ましい。
【0035】
また、上記実施形態では、交流電圧の波形として正弦波を用いたが、矩形波、三角波、のこぎり波又は逆のこぎり波を用いてもよい。この場合、図5(a)に示されるように、得られるインピーダンスの時間関数をフーリエ変換すると、図5(b)に示されるように基本周波数の整数倍となる高調波成分が得られ、それぞれの高調波成分について比誘電率を求めることにより、複数の周波数について比誘電率を同時に取得することができる。即ち、実施例においては、矩形波、三角波、のこぎり波又は逆のこぎり波を用いることにより複数の周波数における情報を獲得することができ、一度の計測でより適正な周波数の目安を付けることができ、また、複数の周波数ポイントでの比誘電率εを得て、オイル10の劣化判断に供することができるため、より高精度の劣化判断が可能となる。
【0036】
[変形例1]
図7に、本実施形態の装置に自己洗浄手段を具備した構成につき示す。
同図に示されるように、超音波振動子61を電極の少なくとも何れか一方21(22)に接合し、該超音波振動子61の電極21(22)との接合部とは異なる側の端部に重り62を取り付けた構成となっている。尚、超音波振動子61は、両電極21、22に設けることが好ましく、これにより両電極を洗浄することが可能となる。
ここで超音波振動子61とは、電気エネルギをひずみに変換する素子であり、電歪振動子や磁歪振動子等が用いられるが、好適にはピエゾ素子等の圧電素子が好適に用いられる。
上記自己洗浄手段を用いて、誘電率の測定を停止して超音波振動子61に電圧を印加すると該超音波振動61子の振動による慣性力により電極21(22)が加振される。これにより、電極21(22)に付着したすす等の異物が除去されて洗浄を行うことが可能となる。
【0037】
[変形例2]
図8に、本実施形態の装置において、比誘電率のオフセット手段を具備した構成につき示す。本構成では、少なくとも何れかの電極21(22)の電極面に高誘電率を有する部材63を付設し、両電極21、22により形成される仮想的なコンデンサの静電容量を上げるようにしている。該高誘電率を有する部材63は、電極面に対して均一な肉厚となるように配置される。該高誘電率を有する部材63としては、例えばチタン酸バリウム(比誘電率:約1200)、二酸化チタン(比誘電率:約100)等が好適に用いられる。
上記構成により比誘電率を求めた後、挿入した高誘電率を有する部材63に相当する値を差し引くことでオイルの比誘電率を算出することができる。
【0038】
一般に、オイルの比誘電率は約2と小さいが、高誘電率体を電極間に挿入することにより、小さい比誘電率情報を検出することが困難な場合であっても、本構成を適用することにより図9に示すように比誘電率をオフセットすることができ、高い精度で比誘電率を測定することが可能となる。
【0039】
[変形例3]
図10に、本実施形態の装置において、自己洗浄手段と比誘電率のオフセット手段とを具備した構成につき示す。本構成では、少なくとも何れかの電極21(22)の電極面に、高誘電率を有するととともに超音波振動作用を有する部材64を付設している。該部材64としては、例えばチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等が好適に用いられる。該部材64は、電極面に対して均一な肉厚となるように配置され、薄板状に形成したものを複数積層してもよい。
本構成によれば、高誘電率を有する部材64を電極間に挿入しているため、比誘電率を高い精度で検出することができるとともに、鉄粉、カーボン等の異物がオイル中を流れてきて電極間に詰まった場合に、両電極間がショートすると該部材に交流電圧が印加されるため、圧電効果により電極21、22が加振される。その結果、電極間に介在する異物が超音波振動により取り除かれる。これにより、電極洗浄のために定期的にスイッチ操作等の作業を行うことなく、電極間がショートしたときに適宜洗浄効果を発揮することが可能となる。
【0040】
[変形例4]
本実施形態の装置において、温度調整手段を具備した構成につき示す。本構成では、電極より上流側のオイル流路に温度調整手段を設け、該温度調整手段によりオイル温度を所定温度に一定となるよう調整するようにしている。図11に示すように、オイルの抵抗率は温度の変化に敏感であるため、電流及び電圧を計測する前に、予め測定に適した温度にオイルを温度調整することにより、温度変化の影響を無くし、より安定した計測を実施することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明のオイル性状管理方法及び装置は、異物混入による測定誤差を最小限に抑え、より精度の高いオイル劣化判断を行い得るオイル性状管理方法及び該装置を提供することができ、発電用ガスエンジンにおける各部品の摩耗を防ぎ円滑に動作させるために好適に適用できる。
また、本発明のオイル性状管理方法及び装置をこのような発電用ガスエンジンに適用することにより、ガスエンジンの運転を止めることなく、リアルタイムにオイルの劣化センシングが可能となり、更に、適切なオイル交換時期が把握できるため、不必要なオイル交換作業を行わずに済むという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の一実施形態に係るオイル性状管理方法のフローチャートである。
【図2】本実施形態に適用される比誘電率とTBNの相関関係の一例を示す図である。
【図3】本実施形態に係るオイル劣化検出装置の構成図である。
【図4】(a)は電極及び電極間に介在するオイルの断面図、(b)は回路モデルの回路図、(c)は複素平面上で複素インピーダンスZを説明する説明図である。
【図5】本実施形態に係る信号処理部の詳細な構成を示すブロック図である。
【図6】(a)は交流電圧の波形を示す図、(b)はフーリエ変換結果を示す図である。
【図7】本実施形態の変形例1に係る自己洗浄手段を具備した電極の構成図である。
【図8】本実施形態の変形例2に係る比誘電率オフセット手段を具備した電極の構成図である。
【図9】オフセット前と後の比誘電率の測定結果を示す図である。
【図10】本実施形態の変形例3に係る自己洗浄・比誘電率オフセット手段を具備した電極の構成図で、(a)は通常測定時、(b)は異物閉塞時を示す図である
【図11】オイルの抵抗率と温度の関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0043】
10 オイル
11 オイル流路
21、22 電極
23 高周波交流電圧源
24 電流計
25 電圧計
31 信号処理部
31a 記憶部
32 報知部
41 実効値比較部
42 静電容量算出部
43 比誘電率算出部
44 劣化判断部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発電用ガスエンジンの回転部又は摺動部、或いはこれらの周辺部にオイル流路を介して供給されるオイルの性状管理方法において、
前記オイル流路に供給されるオイルの比誘電率とTBN(全塩基価)の相関関係を予め求めておき、
前記オイル流路に配置された2つの電極間に高周波交流電圧を印加したときに流れる電流を測定するとともに、前記電極間の電圧を測定し、該測定した電流値及び電圧値に基づいてオイルの比誘電率を求め、
該比誘電率を前記相関関係に基づいてTBN値に変換し、該TBN値からオイルの劣化状態を判断することを特徴とするオイル性状管理方法。
【請求項2】
前記比誘電率とTBNの相関関係にてオイルの劣化状態に基づいた比誘電率の管理限界値を予め設定しておき、前記求められた比誘電率が該管理限界値を上回ったときにオイル劣化を報知することを特徴とする請求項1記載のオイル性状管理方法。
【請求項3】
発電用ガスエンジンの回転部又は摺動部、或いはこれらの周辺部にオイル流路を介して供給されるオイルの性状管理装置において、
前記オイル流路に対向配置された2つの電極と、該2つの電極間に高周波交流電圧を印加する高周波交流電源と、前記2つの電極間の電流を測定する電流計と、前記2つの電極間の電圧を測定する電圧計と、前記電流計及び前記電圧計にて測定された測定結果に基づいてオイルの劣化を判断する処理手段と、を備え、
前記処理手段は、前記オイル流路に供給されるオイル固有の比誘電率とTBN値(全塩基価)の相関関係が格納された記憶部と、前記測定された電流値及び電圧値から比誘電率を算出する比誘電率算出部と、該算出した比誘電率から前記相関関係に基づいてオイルの劣化を判断する劣化判断部とを備えたことを特徴とするオイル性状管理装置。
【請求項4】
前記比誘電率とTBNの相関関係にてオイルの劣化状態に基づいた比誘電率の管理限界値を予め設定しておき、前記算出された比誘電率が該管理限界値を上回ったときにオイル劣化を報知する報知部を備えたことを特徴とする請求項3記載のオイル性状管理装置。
【請求項5】
前記電極に絶縁部材を介して超音波振動子を接合し、間欠的に該超音波振動子に電圧を印加して発生させた超音波振動を前記電極に伝播させ、該超音波振動により前記電極を洗浄するようにしたことを特徴とする請求項3若しくは4記載のオイル性状管理装置。
【請求項6】
前記電極間に、高誘電率を有する部材を電極面に対して均一な肉厚となるように介在させたことを特徴とする請求項3乃至5の何れかに記載のオイル性状管理装置。
【請求項7】
前記2つの電極のうち少なくとも何れか一方の電極面に、高誘電率を有し且つ超音波振動作用を有する部材を該電極面に対して均一な肉厚となるように接合したことを特徴とする請求項3乃至6の何れかに記載のオイル性状管理装置。
【請求項8】
前記2つの電極が配置される位置より上流側の前記オイル流路に、温度調整手段を設けたことを特徴とする請求項3乃至7の何れかに記載のオイル性状管理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−198341(P2009−198341A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−40845(P2008−40845)
【出願日】平成20年2月22日(2008.2.22)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】