説明

オキサゾリン化合物の製法

【課題】 イミダート化合物を環化反応させて新規オキサゾリン化合物を製造する方法を提供する。
【解決手段】 イミダートのα,β−不飽和カルボニル化合物に対する分子内マイケル付加(共役付加)反応を用いてオキサゾリンを製造する。このオキサゾリン化合物はγ−ラクトン誘導体やダウノサミンやその3位エピ体などの誘導体へ変換でき、光学活性アミノ糖の合成において有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、イミダート化合物を環化反応させてオキサゾリン化合物を製造する方法に関し、より詳細には、イミダート化合物を環化反応させてダウノサミン化合物の製造の中間体等として有用なオキサゾリン化合物を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ダウノサミンなどの2,3,6-トリデオキシ-3-アミノ糖類については、これまで数多くの研究者が合成研究を行ってきたが、その光学活性体原料の入手法、反応工程や収率、誘導体合成の柔軟性などにそれぞれ難があった。発明者はこれらの改良を目指した研究の過程で、イミダートのα,β−不飽和カルボニル化合物に対する分子内マイケル付加(共役付加)反応を見いだし、本反応を用いた新規オキサゾリンの製法を開発した。
平間らは、カーバマートのα,β−不飽和カルボニル化合物に対する分子内マイケル付加による新規の環状カーバマートの合成法を開示しており(特許文献1〜3)、ダウノサミンなどの合成への利用例を示している。分子内マイケル付加反応による窒素官能基の導入法を用いているという共通点はあるものの、原料となるカーバマートの調製について、イミダートに比較して収率も低く(特許文献1〜3における平均収率は55%程度)、ほとんどのケースにおいて分子内マイケル付加反応自体の収率も高くない(特許文献1〜3における平均収率は73%程度)。
また、3-epi-ダウノサミン前駆体ラクトンの光学活性体を合成する方法において(特許文献3、非特許文献1)、(S)-乳酸エチルより12工程(総収率:1.4%*非特許文献1では、3.2%)を要しており効率的ではない。また特許以外の非特許文献2において、ソルビン酸エチルから得られるジオール(ラセミ体)を出発原料としてダウノサミン前駆体ラクトンの合成(7工程;総収率:7.6%)や3-epi-ダウノサミン前駆体ラクトンの合成(3工程;総収率は記載のない工程があるため不明)を比較的短工程で達成しているが、いずれもラセミ体合成である。
また秋田らは、分子間マイケル付加反応を用いた窒素官能基の導入を行ってダウノサミン類を合成する方法を開示している(非特許文献3,4)。
【0003】
一方、オキサゾリン類はこれまでさまざまな手法を用いて合成されているが、対応するアミノアルコール類から調製されるのが一般的であり、アミノ基や水酸基の位置の不斉炭素原子を新たに生み出す例は少ない。これらの例として、Roushらは、アミド基の窒素原子によるエポキシドの開裂を伴った分子内環化反応を利用したオキサゾリン誘導体の合成例を報告している(非特許文献5)。彼らはその後の変換によって2,3,6-トリデオキシ-3-アミノ糖類へ導いているが、生成物はラセミ体のみであり、光学活性体の合成へ適用しにくいものであり、また、その経路も長く効率が良いものとはいえない。
また、トリクロロアセトイミダートのα,β−不飽和スルホン類に対する分子内マイケル付加(共役付加)反応が一例報告されているが(非特許文献6)、原料となるα,β−不飽和スルホン類の調製は、α,β−不飽和カルボニル化合物に比較して手間もかかる。
【0004】
【特許文献1】特開昭60−188378
【特許文献2】特開昭60−197662
【特許文献3】特開昭61−275272
【非特許文献1】J. Chem. Soc., Chem Commun., 1986, 393-394.
【非特許文献2】Tetrahedron Lett., 1985, 26, 4137-4140.
【非特許文献3】Heterocycles, 1997, 45, 1257-1261.
【非特許文献4】Tetrahedron: Asymmetry , 2000, 11, 4137-4151.
【非特許文献5】J. Org., Chem., 1987, 52, 5127-5136.
【非特許文献6】SYNLETT, 1994, 629-630.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、イミダート化合物を原料としてオキサゾリン化合物を製造する方法、特に、イミダート化合物を環化反応させてダウノサミン化合物の製造の中間体として用いることのできるオキサゾリン化合物を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、イミダートのα,β−不飽和カルボニル化合物に対する分子内マイケル付加(共役付加)反応を用いた新規オキサゾリンの製法である。本発明の特徴は、原料となるイミダートが、対応するアルコールから容易に収率よく調製可能なものであること、分子内マイケル付加反応も収率が高く目的のオキサゾリンを効率的に合成できる点にある。また、本発明によって得られるオキサゾリンはダウノサミンを代表とする2,3,6-トリデオキシ-3-アミノ糖類の合成に利用できる効果を生み出した。
【0007】
即ち、本発明は、塩基触媒の存在下で下式
【化1】

(式中、Rは炭化水素基又は複素環基を表し、Rは水素原子又は炭化水素基又は複素環基を表し、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子又はアルキル基を表し、Rは、共有結合、−O−、−S−又は−NR−(式中、Rは水素原子又は低級アルキル基を表す。)を表し、Rはヘテロ原子を含んでもよい炭化水素基を表し、Rは置換基を有していてもよい炭化水素基を表す。但し、(1)の場合、R若しくはRとR、R若しくはRとR、又はRとRとR、(2)の場合、R若しくはRとR、R若しくはRとRとR6、又はRとRとRは共同して4〜6員環を形成してもよく、RとRは共同して4〜6員環を形成してもよい。)で表されるイミダート化合物を環化反応させることから成る下式
【化2】

(式中、R〜Rは上記と同様を表す。)で表されるオキサゾリン化合物又はその対掌体の製法である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明は、塩基触媒の存在下で下式(化1)のイミダート化合物を環化反応させることから成るオキサゾリン化合物の製法である。
本発明で用いるイミダート化合物は下式で表される。
【化1】

【0009】
なお、本発明のイミダート化合物からオキサゾリン化合物への合成方法においては、上記置換基(R〜R)以外のγ-イミドイルオキシ-α,β-不飽和カルボニル化合物としての基本骨格により本発明の環化反応が進行する点に特徴があり、これら置換基(R〜R)はこの反応を阻害しない限り大きな制限はない。
は、炭化水素基又は複素環基、好ましくは炭化水素基を表す。炭化水素としては、アルキル基、アリール基又はアラルキル基、好ましくはアルキル基が挙げられる。このアリール基としては好ましくはフェニル基、アラルキル基としては好ましくはベンジル基などが挙げられる。複素環基に含まれるヘテロ原子としては、酸素原子、硫黄原子、窒素原子などが挙げられ、複素環基としてはγ-ラクトン、δ-ラクトン、γ-ラクタム、δ-ラクタム、テトラヒドロピラン、テトラヒドロフラン、ピペリジン、ピロリジン、テトラヒドロチオピラン、テトラヒドロチオフラン、フラン、ピリジン、チオフェンなどが挙げられる。Rは、好ましくは炭素数1〜4のアルキル基、より好ましくはメチル基、エチル基又はイソプロピル基である。
【0010】
は、水素原子又は炭化水素基又は複素環基、好ましくは水素原子を表す。炭化水素としては、アルキル基、アリール基又はアラルキル基、好ましくはアルキル基が挙げられる。このアリール基としては好ましくはフェニル基、アラルキル基としては好ましくはベンジル基などが挙げられる。複素環基に含まれるヘテロ原子としては、酸素原子、硫黄原子、窒素原子などが挙げられ、複素環基としてはγ-ラクトン、δ-ラクトン、γ-ラクタム、δ-ラクタム、テトラヒドロピラン、テトラヒドロフラン、ピペリジン、ピロリジン、テトラヒドロチオピラン、テトラヒドロチオフラン、フラン、ピリジン、チオフェンなどが挙げられる。アルキル基としては、好ましくは炭素数1〜4のアルキル基、より好ましくはメチル基、エチル基又はイソプロピル基である。
最も好ましくは、Rが水素原子であって、Rが、−CH(OH)R(式中、Rはアルキル基、好ましくは炭素数1〜4のアルキル基であり、水酸基を含んでもよい。)であり、この水酸基はトリアルキルシリル基、ベンジル基、ベンゾイル基などの保護基で保護されていてもよい。
【0011】
とRは、それぞれ独立して、水素原子又はアルキル基、好ましくは水素原子を表す。アルキル基としては好ましくは炭素数1〜4のアルキル基、より好ましくはメチル基、エチル基、イソプロピル基である。
は、共有結合、−O−、−S−又は−NR−、好ましくは−O−を表す。
式中、Rは水素原子又は低級アルキル基を表す。低級アルキル基としては、好ましくは炭素数1〜4のアルキル基、より好ましくは、メチル基、エチル基、イソプロピル基が挙げられる。
は、ヘテロ原子を含んでもよい炭化水素基を表す。即ち、この炭化水素基は、カルボニル基、アミノ基、チオール基、スルホキシド基、ハロゲン原子などを有していてもよい。炭化水素としては、炭素数1〜4のアルキル基、より好ましくは、メチル基、エチル基、イソプロピル基が挙げられる。Rは、好ましくは、メチル基、若しくはエチル基である。
は、置換基を有していてもよい炭化水素基を表す。置換基としては、ハロゲン原子、水酸基、アミノ基、チオール基などが挙げられる。炭化水素としては、炭素数1〜4のアルキル基、より好ましくは、メチル基、エチル基、イソプロピル基が挙げられる。Rは、好ましくは、トリクロロメチル基である。
【0012】
但し、一般式化1(1)の場合、R若しくはRとR、R若しくはRとR、又はRとRとR、一般式化1(2)の場合、R若しくはRとR、R若しくはRとRとR6、又はRとRとRは共同して4〜6員環を形成してもよく、この4〜6員環は炭化水素環又は複素環のいずれでもよい。複素環に含まれるヘテロ原子としては、酸素原子、硫黄原子、窒素原子が挙げられる。このような4〜6員環としては、シクロヘキサン、シクロペンタン、シクロブタン、オキセタン、シクロヘキセン、シクロペンテン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、γ-ラクトン、δ-ラクトン、γ-ラクタム、δ-ラクタム、テトラヒドロピラン、テトラヒドロフラン、ピペリジン、ピロリジン、テトラヒドロチオピラン、テトラヒドロチオフランなどの環が挙げられる。
このようなが4〜6員環としては、例えば、下記のような場合が挙げられる。なお本発明のイミダート化合物がこのような4〜6員環を有した場合でも、これらはイミダート化合物からオキサゾリン化合物への合成反応に影響を与える部分ではない。
【0013】
(1)の場合、RとRが4〜6員環を形成する。
【化3】

【0014】
(1)の場合、RとRが4〜6員環を形成する。
【化4】

【0015】
(1)の場合、RとRが4〜6員環を形成する。
【化5】

【0016】
(1)の場合、RとRが4〜6員環を形成する。
【化6】

【0017】
(1)の場合、RとRとRが4〜6員環を形成する。
【化7】

【0018】
(2)の場合、RとRが4〜6員環を形成する。
【化8】

【0019】
(2)の場合、RとRが4〜6員環を形成する。
【化9】

【0020】
(2)の場合、RとRとRが4〜6員環を形成する。
【化10】

【0021】
(2)の場合、RとRとRが4〜6員環を形成する。
【化11】

【0022】
(2)の場合、RとRとRが4〜6員環を形成する。
【化12】

【0023】
またRはRと共同して4〜6員環を形成してもよい。この4〜6員環はヘテロ原子を含んでもよく、例えば、カルボニル基、カルボキシル基、アミノ基、チオール基、スルホキシド基、ハロゲン原子などを有していてもよい。ヘテロ原子を含んでもよい4〜6員環としては、特に下式に代表されるようなキラル補助基として用いられるオキサゾリジノン環などが挙げられる。ここに挙げたオキサゾリジノン環は、いわゆるエバンスのキラル補助基として有用なもので、ジアステレオ選択性の向上のみならず、不斉マイケル付加反応への応用が可能となるものである。
【化13】

【0024】
このようなイミダート化合物を、塩基触媒で処理することにより、新規オキサゾリン化合物が製造される。
この塩基触媒としては、カリウムt−ブトキシド(t−BuOK)、ナトリウムエトキシドなどの金属アルコキシドや水素化ナトリウム、水素化カリウムなどの金属ヒドリド、そのほか、ジアザビシクロウンデセン(DBU)ジアザビシクロノネン(DBN)ジアザビシクロオクタン(DABCO)などのアミン塩基が挙げられる。
反応温度は0°C以下が好ましく、特にカリウムt−ブトキシドを使用する場合は、−20℃から−100℃付近が適している。
当該反応は、アルゴン雰囲気下で行うことが好ましいが、特に塩基触媒として金属アルコキシドや金属ヒドリドを利用する場合にはアルゴン雰囲気下で行うことが望ましい。
使用できる溶媒はジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタンなどのエーテル系、アセトニトリル、プロピオニトリルなどのニトリル系、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素などの塩素系などの有機溶媒である。他にエタノールやt−ブチルアルコールなどのアルコール系溶媒も使用可能と思われる。
【0025】
この反応の結果得られるオキサゾリン化合物は、下式で表される化合物及びその対掌体である。
【化2】

式中、R〜Rは上記と同様を表す。
また出発物質であるイミダート化合物によってオキサゾリン化合物は対掌体を含め4種類の異性体を作ることができる。
【0026】
また、発明者は使用する塩基の種類や反応温度を工夫することによってtrans−オキサゾリン(化2(1))とcis−オキサゾリン(化2(2))の生成比を逆転させることができる。即ち、比較的室温から−20℃の温度において、ニトリル系の溶媒に溶かし、アミン塩基と反応させた場合には、trans−オキサゾリンが主生成物として得られるが(実施例2)、エーテル系の溶媒に溶かし金属アルコキシドと反応させた場合には、cis−オキサゾリンの生成比が増し(実施例1)、特に反応を−20℃から−100℃付近の低温条件下で行うとcis−オキサゾリンが主生成物となる。
【0027】
trans‐オキサゾリンとcis‐オキサゾリンとは、カラムクロマトグラフィー(フラッシュシリカゲルクロマトグラフィー、シリカゲルクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィーなど)、分配クロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー、やそのほか、再結晶法、昇華法などの公知の分離手法により容易に分離することができる。また、各対掌体はそれ自身が結晶の場合は再結晶法によって、また結晶でない場合も結晶性誘導体に導いた後、再結晶法によって光学純度を向上させることができる。
【0028】
更に、このオキサゾリン化合物は、実施例3及び4に示すように、アルコール系溶媒に溶かし、塩酸などの酸を加え加熱還流し、さらに塩化ベンゾイルなどのアシル化剤で処理するとγ−ブチロラクトン誘導体に変換することができ、更にこれらのγ−ラクトン誘導体は、0℃から−100℃付近の低温下にて水素化ジイソプロピルアルミニウムを用いて還元するとダウノサミンやその3位エピ体などの誘導体へ変換できることが知られている(例えば、J. C. S., Perkin Trans. 1, 1982, 885-891.)。本発明の方法を用いることにより、D-ダウノサミンやその3位エピ体などの誘導体を効率よく製造することが可能である。
これらの反応経路を図1にまとめる。
【実施例】
【0029】
以下、実施例にて本発明を例証するが本発明を限定することを意図するものではない。
製造例1
この製造例1では、ソルビン酸エチルからEthyl (4R,5R)-4,5-dihydroxyhex-2-enoate(化合物1)を合成した。
【化14】

室温下AD-mix-β(9.93 g, ビス(ジヒドロキニジニル)フタラジン、ヘキサシアノ鉄(III)酸カリウム、炭酸カリウム及びオスミン酸ジカリウム二水和物を含む)とメタンスルホンアミド(0.85 g, 8.9 mmol)をtert-ブチルアルコール(36 mL)−水(36 mL)の混合溶媒に溶解した。混合液を氷浴にて冷却し、激しく撹拌しながらソルビン酸エチル(東京化成工業株式会社製)(1.00 g, 7.13 mmol)のtert-ブチルアルコール(ca. 1 mL)溶液を滴下した。低温室(4℃)にて約24時間撹拌を続けた後、亜硫酸ナトリウム(4.77 g, 37.8 mmol)を加えた。約1時間後、水と酢酸エチルにて分液ロートへ移し、酢酸エチルにて抽出した。得られた有機層は、飽和食塩水にて洗浄した後、無水硫酸マグネシウムを加えて乾燥した。ろ過にて乾燥剤を除き、エバポレーターにより減圧下濃縮した後、得られた粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=2:1〜1.5:1)により精製し、ジオール1(無色油状物質; 1.09 g, yield: 88%)を得た。得られたジオール1の各種スペクトルデータは文献値(Tetrahedron, 1995, 51, 1345-1376.)と一致した。
【0030】
製造例2
この製造例2では、製造例1で合成したEthyl (4R,5R)-4,5-dihydroxyhex-2-enoate(化合物1)からEthyl (2E,4R,5R)-5-tert-butyldimethylsilyloxy-4-hydroxyhex-2-enoate (化合物2)を合成した。
【化15】

化合物1(273.5 mg, 1.57 mmol)とジメチルアミノピリジン(20 mg, 0.16 mmol)の無水塩化メチレン溶液にトリエチルアミン(0.80 mL, 5.7 mmol)を加えた後、反応液を氷浴にて冷却し、撹拌しながら塩化tert-ブチルジメチルシラン(0.79 g, 5.2 mmol)を加えた。室温下にて約41時間撹拌を続けた後、氷片を加えてしばらく撹拌した。混合液を水と酢酸エチルにて分液ロートへ移し、酢酸エチルとクロロホルムにて抽出した。得られた有機層は、飽和食塩水にて洗浄した後、無水硫酸マグネシウムを加えて乾燥した。ろ過にて乾燥剤を除き、エバポレーターにより減圧下濃縮した後、得られた粗生成物をフラッシュシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=5:1〜1:2)により精製し、目的のシリルエーテル2(無色油状物質; 289.4 mg, yield: 64%)を得た。{この際ジシリルエーテル体(123.6 mg: 20%)、4-シリルエーテル体(36.1 mg: 8.0%)及び原料1(19.0 mg: 6.9%)が得られた。} [α]D26.3 -6.0°(c 0.37, CHCl3); νmax (neat)/cm-1 2956, 2931, 1722, 1658, 1309, 1257, 1176, 1136, 1097, 839 and 777; δH (270 MHz, CDCl3) 6.90 (dd, J=4.7, 15.6 Hz, 1 H), 6.12 (dd, J=1.8, 15.6 Hz, 1 H), 4.20 (q, J=7.1 Hz, 2 H), 4.02 (ddd, J=1.8, 4.8, 5.7 Hz, 1 H), 3.77 (dq, J=5.0, 6.2 Hz, 1 H), 2.60 (d, J=5.8 Hz, 1 H), 1.29 (t, J=7.1 Hz, 3 H), 1.22 (d, J=6.2 Hz, 3 H), 0.89 (s, 9 H), 0.09 (s, 3 H) and 0.06 (s, 3 H); δC (67.8 MHz, CDCl3) 166.30, 147.22, 122.01, 75.26, 71.11, 60.35, 25.73, 20.15, 17.98, 14.22, -4.36 and -4.90; Anal. Calcd for C14H28NO4Si: C 58.29; H 9.78. Found: C 58.12; H 9.59 %.
【0031】
製造例3
この製造例3では、製造例2で合成したEthyl (2E,4R,5R)-5-tert-butyldimethylsilyloxy-4-hydroxyhex-2-enoate (化合物2)からEthyl (2E,4R,5R)-5-tert-butyldimethylsilyloxy-4-trichloroacetimidohex-2-enoate (化合物3)を合成した。
【化16】

化合物2(470.2 mg, 1.63 mmol)とトリクロロアセトニトリル(1.70 mL, 17.0 mmol)の無水アセトニトリル溶液(9.0 mL)をメタノール−氷浴(-20℃以下)にて冷却下、撹拌しながらDBU(1.2 eq., 290 L, 1.94 mmol)を滴下した。20分撹拌を続けた後、反応液を分液ロート中の氷−飽和塩化アンモニウム水溶液にあけ、酢酸エチルにて抽出した。得られた有機層は、飽和塩化アンモニウム水溶液、及び飽和食塩水にて洗浄した後、無水硫酸マグネシウムを加えて乾燥した。ろ過にて乾燥剤を除き、エバポレーターにより減圧下濃縮した後、得られた粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=10:1)により精製し、トリクロロアセトイミダート3(無色油状物質; 687.2 mg, yield: 99%)を得た。[α]D24.5 +40.0° (c 1.17, CHCl3);νmax (neat)/cm-1 3348, 2956, 2931, 2858, 1724, 1670, 1660, 1311, 1259, 1180, 1099, 1078, 1049, 835, 798, 777 and 648;δH (270 MHz, CDCl3) 8.43 (br. s, 1 H), 7.05 (dd, J=4.0, 15.9 Hz, 1 H), 6.14 (dd, J=1.8, 15.9 Hz, 1 H), 5.52 (ddd, J=1.9, 4.6, 4.6 Hz, 1 H), 4.23-4.10 (m, 1 H), 4.21 (q, J=7.0 Hz, 2 H), 1.30 (t, J=7.0 Hz, 3 H), 1.15 (d, J=6.2 Hz, 3 H), 0.90 (s, 9 H), 0.11 (s, 3 H) and 0.10 (s, 3 H); δC (67.8 MHz, CDCl3) 165.91, 161.86, 141.79, 122.63, 91.22, 79.49, 67.51, 60.47, 25.72, 18.48, 17.95, 14.20 and -4.88; Anal. Calcd for C16H28C13NO4Si: C 44.40; H 6.52; N 3.24. Found: C 44.47; H 6.23; N 3.15 %.
【0032】
実施例1
この実施例1では、製造例3で合成したEthyl (2E,4R,5R)-5-tert-butyldimethylsilyloxy-4-trichloroacetimidohex-2-enoate (化合物3)から(4S,5S)-5-[(1R)-tert-butyldimethylsilyloxyethyl]-4-ethoxycarbonylmethyl-2-trichloromethyl-4,5-dihydrooxazole (化合物4)と(4R,5S)-5-[(1R)-tert-butyldimethylsilyloxyethyl]-4-ethoxycarbonylmethyl-2-trichloromethyl-4,5-dihydrooxazole (化合物5)の混合物を製造した。
【化17】

製造例3で得たトリクロロアセトイミダート3(56.0 mg, 0.129 mmol)の無水THF溶液(5.5 mL)をドライアイス−アセトン浴(-78℃)にて冷却下、アルゴン雰囲気下にて撹拌しながらカリウムt-ブトキシド(関東化学株式会社製)(0.12 eq., 1.7 mg, 0.015 mmol)を加えた。2時間15分撹拌を続けた後、反応液を分液ロート中の氷−飽和塩化アンモニウム水溶液にあけ、酢酸エチルにて抽出した。合わせた有機層を飽和食塩水にて洗浄した後、無水硫酸マグネシウムを加えて乾燥した。ろ過にて乾燥剤を除き、エバポレーターにより減圧下濃縮した後、得られた粗生成物をフラッシュシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=11:1)により精製し、trans-オキサゾリン4(無色固形物; 12.9 mg, yield: 23%)とcis-オキサゾリン5(無色油状物質; 32.7 mg, yield: 58%)をそれぞれ得た。trans-オキサゾリン4のデータ測定用のサンプル(無色針状結晶)は、メタノール−氷浴(約-20℃)にて冷却下メタノールから再結晶することによって得た。
【0033】
trans-オキサゾリン4: mp 52.5-53.0℃; [α]D27.6 -78° (c 0.18, CHCl3);νmax (KBr)/cm-1 2958, 2931, 2858, 1728, 1664, 1375, 1244, 1186, 1149, 1063, 1038, 841, 920, 839, 798, 777 and 663; δH (270 MHz, CDCl3) 4.51 (dd, J=2.7, 5.7 Hz, 1 H), 4.48 (ddd, J=4.3, 6.0, 8.3 Hz, 1 H), 4.17 (q, J=7.1 Hz, 2 H), 4.05 (dq, J=2.4, 6.4 Hz, 1 H), 2.84 (dd, J=4.3, 16.7 Hz, 1 H), 2.60 (dd, J=8.4, 16.7 Hz, 1 H), 1.28 (t, J=7.2 Hz, 3 H), 1.26 (d, J=6.4 Hz, 3 H), 0.87 (s, 9 H), 0.10 (s, 3 H) and 0.08 (s, 3 H); δC (67.8 MHz, CDCl3) 170.50, 162.53, 91.29, 86.63, 68.84, 64.76, 60.81, 38.94, 25.64, 18.97, 17.87, 14.17, -4.24 and -5.03; Anal. Calcd for C16H28C13NO4Si: C 44.40; H 6.52; N 3.24. Found: C 44.47; H 6.31; N 3.18 %.
cis-オキサゾリン5: [α]D27.3 -40.1° (c 0.645, CHCl3);νmax (neat)/cm-1 2958, 2931, 2858, 1732, 1664, 1329, 1255, 1184, 1093, 1030, 1001, 926, 837, 793, 777 and 671; δH (270 MHz, CDCl3) 4.80 (dd, J=2.1, 9.6 Hz, 1 H), 4.72 (ddd, J=5.3, 9.2, 9.6 Hz, 1 H), 4.20 (dq, J=7.2, 10.7 Hz, 1 H), 4.17 (dq, J=7.2, 10.7 Hz, 1 H), 4.01 (dq, J=2.1, 6.4 Hz, 1 H), 3.13 (dd, J=9.2, 17.3 Hz, 1 H), 3.03 (dd, J=5.3, 17.3 Hz, 1 H), 1.31 (d, J=6.4 Hz, 3 H), 1.28 (t, J=7.2 Hz, 3 H), 0.89 (s, 9 H), 0.09 (s, 3 H) and 0.08 (s, 3 H); δC (67.8 MHz, CDCl3) 170.70, 162.42, 88.94, 86.80, 67.56, 64.85, 60.86, 34.33, 26.03, 20.56, 18.03, 14.18, -3.09 and -4.87; Anal. Calcd for C16H28C13NO4Si: C 44.40; H 6.52; N 3.24. Found: C 44.77; H 6.33; N 2.99 %.
【0034】
実施例2
触媒を変更して実施例1と同様の反応を行った。
【化18】

製造例3で得たトリクロロアセトイミダート3(203.5 mg, 0.471 mmol)の無水アセトニトリル溶液(19.0 mL)を氷浴(0℃)にて冷却下、撹拌しながらDBU(アクロス株式会社製)(0.3 eq., 22.0 mL, 0.147 mmol)を数回に分けて滴下した。約27時間撹拌を続けた後、反応液を分液ロート中の氷−飽和塩化アンモニウム水溶液にあけ、酢酸エチルにて抽出した。得られた有機層は、飽和塩化アンモニウム水溶液、及び飽和食塩水にて洗浄した後、無水硫酸マグネシウムを加えて乾燥した。ろ過にて乾燥剤を除き、エバポレーターにより減圧下濃縮した後、得られた粗生成物をフラッシュシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=11:1)により精製し、trans-オキサゾリン4(無色固形物; 135.4 mg, yield: 67%)とcis-オキサゾリン5(無色油状物質; 38.2 mg, yield: 19%)をそれぞれ得た。
【0035】
実施例3
この実施例3では、実施例2で得たtrans-オキサゾリン4を用いて(3S,4S)-3-Benzoylamino-4-[(1R)-hydroxyethyl]-4-butanolide (化合物6)を合成した。
【化19】

実施例2で得たオキサゾリン4(23.7 mg, 0.0547 mmol)のエタノール溶液(1.5 mL)に塩酸(3.0 M, 1.5 mL, 4.5 mmol)を加え、約48時間加熱還流した。反応液をエバポレーターにより減圧下濃縮した後、得られた粗生成物をアセトン(0.4 mL)に溶解し、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(1.0 mL)を加え、撹拌しながら塩化ベンゾイル(24.0 mL, 0.207 mmol)を加えた。反応液を室温下1.5時間撹拌した後、エバポレーターによりエタノールを溜去した。得られた残滓に少量の食塩水を加え、酢酸エチルにて抽出した。合わせた有機層を飽和食塩水にて洗浄した後、無水硫酸マグネシウムを加えて乾燥した。ろ過にて乾燥剤を除き、エバポレーターにより減圧下濃縮した後、得られた粗生成物をフラッシュシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=1:3)により精製し、ラクトン6(無色固形物; 7.0 mg, yield: 51%)を得た。データ測定用のサンプル(無色針状結晶)は、ヘキサン−酢酸エチルから再結晶することによって得た。mp 170-172℃ (lit.11 170-173℃); [α]D29.9 -69° (c 0.18, MeOH) {lit.10 [α]D23 -76° (c=1, MeOH)};νmax (KBr)/cm-1 3454, 3317, 1743, 1635, 1529, 1363, 1194, 1082, 1011 and 694; δH (270 MHz, CDCl3) 7.82-7.76 (m, 2 H), 7.62 (br. d, J=7.5 Hz, 1 H), 7.58-7.50 (m, 1 H), 7.50-7.42 (m, 2 H), 5.21 (dddd, J=6.4, 7.5, 8.1, 8.8 Hz, 1 H), 4.58 (dd, J=1.3, 7.5 Hz, 1 H), 4.22-4.10 (m, 1H), 2.96 (dd, J=9.0, 18.0 Hz, 1 H), 2.73 (dd, J=6.4, 18.0 Hz, 1 H), 1.97 (d, J=7.5 Hz, 3 H), 1.45 (d, J=6.6 Hz, 3 H); δC (67.8 MHz, CDCl3) 174.95, 167.35, 133.36, 132.05, 128.74, 127.00, 82.57, 67.12, 47.97, 36.04 and 20.46; Anal. Calcd for C13H15NO4: C 62.64; H 6.07; N 5.62. Found: C 62.34; H 6.03; N 5.28 %.
【0036】
実施例4
この実施例3では、実施例1で得たcis-オキサゾリン5を用いて (3R,4S)-3-Benzoylamino-4-[(1R)-hydroxyethyl]-4-butanolide (化合物7)を合成した。
(7)
【化20】

実施例1で得たオキサゾリン5(23.9 mg, 0.0552 mmol)のエタノール溶液(1.5 mL)に塩酸(3.0 M, 1.5 mL, 4.5 mmol)を加え、約48時間加熱還流した。反応液をエバポレーターにより減圧下濃縮した後、得られた粗生成物をアセトン(0.4 mL)に溶解し、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(1.0 mL)を加え、撹拌しながら塩化ベンゾイル(24.0 mL, 0.207 mmol)を加えた。反応液を室温下45分間撹拌した後、エバポレーターによりエタノールを溜去した。得られた残滓に少量の食塩水を加え、酢酸エチルにて抽出した。合わせた有機層を飽和食塩水にて洗浄した後、無水硫酸マグネシウムを加えて乾燥した。ろ過にて乾燥剤を除き、エバポレーターにより減圧下濃縮した後、得られた粗生成物をフラッシュシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=1:5)により精製し、ラクトン7(無色固形物; 8.8 mg, yield: 64%)を得た。データ測定用のサンプル(無色針状結晶)は、ヘキサン−酢酸エチルから再結晶することによって得た。mp 149〜150.5℃ (lit.11 147℃, lit.3 148〜150℃); [α]D29.9 +10° (c=0.29, MeOH) {lit.11 [α]D23 -16° (c=1, MeOH), lit.3 [α]D22-14° (c=0.28, MeOH)};νmax (KBr)/cm-1 3469, 3327, 1755, 1743, 1734, 1639, 1533, 1329, 1213, 1036 and 694; δH (270 MHz, CDCl3) 7.81-7.75 (m, 2 H), 7.58-7.52 (m, 1 H), 7.50-7.42 (m, 2 H), 6.50 (br. d, J=6.8 Hz, 1 H), 4.81 (dddd, J=3.6, 4.5, 6.8, 9.0 Hz, 1 H), 4.37 (dd, J=2.8, 3.4 Hz, 1 H), 4.22-4.10 (m, 1H), 3.18 (dd, J=9.0, 18.2 Hz, 1 H), 2.58 (dd, J=4.5, 18.2 Hz, 1 H), 2.08 (br. d, J=6.8 Hz, 1 H), 1.36 (d, J=6.4 Hz, 3 H); δC (67.8 MHz, CDCl3) 174.92, 167.72, 133.06, 132.29, 128.82, 126.96, 88.80, 67.88, 49.00, 35.16 and 19.28; Anal. Calcd for C13H15NO4: C 62.64; H 6.07; N 5.62. Found: C 62.33; H 5.88; N 5.49 %.
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は出発物質を変えることにより、上記応用例に示したアミノ糖以外にもさまざまなものの合成に用いることができる。例えば、γ−ヒドロキシ−β−アミノカルボン酸誘導体の合成などに使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の方法によるオキサゾリン化合物、γ−ラクトン誘導体、及びダウノサミンの合成経路を示す図である。化合物の番号は製造例及び実施例で示した化合物の番号に相当する。4つのオキサゾリン化合物のうち、右の2つはそれぞれ左の2つの対掌体にあたる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩基触媒の存在下で下式
【化1】

(式中、Rは炭化水素基又は複素環基を表し、Rは水素原子又は炭化水素基又は複素環基を表し、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子又はアルキル基を表し、Rは、共有結合、−O−、−S−又は−NR−(式中、Rは水素原子又は低級アルキル基を表す。)を表し、Rはヘテロ原子を含んでもよい炭化水素基を表し、Rは置換基を有していてもよい炭化水素基を表す。但し、(1)の場合、R若しくはRとR、R若しくはRとR、又はRとRとR、(2)の場合、R若しくはRとR、R若しくはRとRとR6、又はRとRとRは共同して4〜6員環を形成してもよく、RとRは共同して4〜6員環を形成してもよい。)で表されるイミダート化合物を環化反応させることから成る下式
【化2】

(式中、R〜Rは上記と同様を表す。)で表されるオキサゾリン化合物又はその対掌体の製法。
【請求項2】
が、−CH(OH)R(式中、Rはアルキル基を表す。)である請求項1に記載の製法。
【請求項3】
前記塩基触媒としてアミン塩基を用いることにより、式(化2)の(1)で表されるトランス体のオキサゾリン化合物又はその対掌体を製造する請求項1又は2に記載の製法。
【請求項4】
前記塩基触媒として金属アルコキシドを用いることにより、式(化2)の(2)で表されるシス体のオキサゾリン化合物又はその対掌体を製造する請求項1又は2に記載の製法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−31084(P2008−31084A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−206123(P2006−206123)
【出願日】平成18年7月28日(2006.7.28)
【出願人】(504300181)国立大学法人浜松医科大学 (96)
【Fターム(参考)】