説明

オキシダント耐性アポリポ蛋白質A−1および類似ペプチド

精製ポリペプチドは、酸化作用に対して耐性を有する、ApoA1類似物質、またはその断片を含む。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
血液循環中のコレステロールは、血漿のリポ蛋白質によって運ばれる。リポ蛋白質とは、血中において脂質を輸送する、脂質と蛋白質から成る粒子である。低密度リポ蛋白質(LDL)および高密度リポ蛋白質(HDL)が、主なコレステロール輸送体である。生体において、肝臓から肝臓外組織へコレステロールを運ぶのはLDLが担当すると考えられている。
【0002】
「コレステロール逆転送」(RCT)という用語は、肝臓外組織から肝臓へと向かうコレステロールの輸送のことを表し、この場合、コレステロールは肝臓において分解され、除去される。血漿のHDL粒子は、組織コレステロールのスカベンジャーとして活動し、この逆転送過程において主要な役割を果たすと考えられている。RCTは、主に、三つの段階から成る:(a)コレステロールの流出、すなわち、末梢細胞の様々な集積体からの、最初のコレステロール排出;(b)レシチン:コレステロールアシルトランスフェラーゼ(LCAT)の作用によるコレステロールのエステル化、これによって、流出コレステロールの細胞への帰還が阻止される;および、(c)HDLコレステリルエステルの取り込み/肝臓細胞への輸送、である。
【0003】
高レベルの、HDLおよび、主要HDL蛋白質であるアポリポ蛋白質A-1(ApoA1)は、長い間、心血管系疾患に対するリスク低下と関連づけられてきた。ApoA1は、既知の一次アミノ酸配列を有する、243個のアミノ酸残基を含む、単一鎖ポリペプチドである(Brewer et al., (1978) Biochem. Biophys. Res. Commun. 80: 623-630)。ApoA1は、細胞からのコレステロールの流出を仲介することによって、コレステロール逆転送において細胞コレステロールのアクセプタとして活動する。
【0004】
各HDL粒子は、少なくとも1コピーの(通常、2から4コピーの)ApoA1を含む。ApoA1は、ヒトでは、肝臓および小腸によって、267残基から成る、プレプロアポリポ蛋白質として合成され、プロ蛋白質として分泌され、これは、カルシウム依存性プロテアーゼの作用によって速やかに切断されて、243個のアミノ酸から成る成熟ポリペプチドを生成し、血漿中に分泌される。ApoA1は、従来から、22マーの縦列反復配列8個、および11マー配列2個を持つとされており、これらの多くが、クラスA両親媒性ヘリックス構造を形成する潜在能力を持つ(Segrest et al. (1974) FEBS Lett. 38: :247-253)。クラスA両親媒性ヘリックスの特徴は、極性-非極性界面において陽性荷電残基の、および、極性面の中心に陰性荷電残基の存在を含むことである(Segrest et al. (1974) FEBS Lett. 38: :247-253、および、Segrest et al. (1990) Proteins: Structure, Function, and Genetics 8: 103-117)。
【0005】
ApoA1は、脂質と一緒になって以下の3種類の安定な複合体を形成する:プレ-ベータ-1 HDLと呼ばれる、小型の、貧脂質複合体;プレ-ベータ-2 HDLと呼ばれる、極性脂質(リン脂質およびコレステロール)を含む、平らな円板型粒子;および、球形または成熟HDL(HDL3およびHDL2)と呼ばれる、極性および非極性の両脂質を含む球形粒子。循環集団における多くのHDLは、ApoA1およびApoAII(2番目に主要なHDL蛋白質)の両方を含み、HDLのA1/AII-HDL分画と呼ばれる。しかしながら、ApoA1のみを含むHDL分画(本明細書ではA1-HDL分画と呼ぶ)の方が、RCTではより有効であるようである。いくつかの疫学的研究から、A1-HDL分画は、抗アテローム形成性であるとする仮説が支持されている(Parra et al., 1992, Arterioscler. Thromb. 12:701-707、および、Decossin et al., 1997, Eur. J. Clin. Invest. 27:299-307)。
【0006】
血清コレステロールの上昇を冠状動脈性心疾患と結びつける証拠は枚挙に暇がない。例えば、アテローム硬化症は、動脈壁内部におけるコレステロールの堆積によって特徴づけられる、ゆっくりと進行する疾患である。アテローム硬化病巣の中に堆積される脂質は、主に血漿LDL由来のものであるとする論説を支持する証拠は強力で説得的である。かくして、LDLは、一般に、「悪玉コレステロール」と呼ばれるようになった。一方、HDLの血清濃度は、冠状動脈性心疾患と逆相関し、そのために、負のリスク因子と見なされる。高濃度の血漿HDLは、冠状動脈性心疾患に対して予防的であるばかりでなく、実際に、アテローム性硬化プラークの後退を誘発すると仮定されている(例えば、Badimon et al., 1992, Circulation 86(Suppl. III):86-94)。このため、HDLは、一般に「善玉コレステロール」と呼ばれるようになった。
【発明の概要】
【0007】
本発明は、脂質担持細胞からのコレステロール流出を増進することが可能な、新規ApoA1類似物質に関する。この新規ApoA1類似物質は、少なくとも一つのトリプトファンを含み、脂質担持細胞からのコレステロール流出を増進することが可能な、天然ApoA1の、または、ApoA1の従来の類似物質の、アミノ酸配列の少なくとも一部に対し事実上同じアミノ酸配列を有する。この新規ApoA1類似物質は、天然ApoA1またはApoA1の従来の類似物質と違って、アミノ酸配列において少なくとも一つのトリプトファンを、オキシダント耐性アミノ酸によって置換させる。この新規ApoA1類似物質は、例えば、トリプトファン含有の、ApoA1断片、天然ApoA1、ApoA1融合蛋白質、ApoA1キメラ蛋白質、短縮型ApoA1蛋白質、または、ApoA1ポリペプチドの従来の類似物質のアミノ酸配列を含んでもよいが、その場合、この新規ApoA1類似物質のアミノ酸配列において少なくとも一つのトリプトファンは、オキシダント耐性アミノ酸によって置換される。
【0008】
本発明はさらに、脂質担持細胞からのコレステロール流出を促進することが可能な新規ApoA1類似物質を含む製剤処方を対象に投与することによって、心血管系障害を治療する方法に関する。この新規ApoA1類似物質は、少なくとも一つのトリプトファンを含み、脂質担持細胞からのコレステロール流出を促進することが可能な、ApoA1の、またはApoA1の従来の類似物質の、アミノ酸配列の少なくとも一部を含む。この新規ApoA1類似物質は、例えば、トリプトファン含有の、ApoA1断片、天然ApoA1、ApoA1融合蛋白質、ApoA1キメラ蛋白質、短縮型ApoA1蛋白質、または、ApoA1ポリペプチドの類似物質のアミノ酸配列を含んでもよいが、その場合、この新規ApoA1類似物質のアミノ酸配列において少なくとも一つのトリプトファンは、オキシダント耐性アミノ酸によって置換される。
【0009】
本発明はさらに、脂質担持細胞からのコレステロール流出を促進する方法に関する。この方法は、脂質担持細胞に、生物学的有効量の精製ポリペプチドを投与することを含む。このポリペプチドは、配列番号1の流出コレステロールアクセプタ部分を含むアミノ酸配列を含んでもよい。この配列において、Xは、トリプトファンまたはフェニルアラニンから成る群から選ばれ、少なくとも一つのXはフェニルアラニンである。
【0010】
本発明はさらに、対象における炎症性病態の一つ以上の症状を寛解する方法に関する。この方法は、脂質担持細胞からのコレステロール流出を促進することが可能な、新規ApoA1類似物質を該対象に投与することを含む。この新規ApoA1類似物質は、少なくとも一つのトリプトファンを含み、脂質担持細胞からのコレステロール流出を促進することが可能な、ApoA1の、または、ApoA1の従来の類似物質の、アミノ酸配列の少なくとも一部を含む。この新規ApoA1類似物質のアミノ酸配列において少なくとも一つのトリプトファンは、オキシダント耐性アミノ酸によって置換される。この新規ApoA1類似物質は、例えば、トリプトファン含有の、ApoA1断片、天然ApoA1、ApoA1融合蛋白質、ApoA1キメラ蛋白質、短縮型ApoA1蛋白質、または、ApoA1ポリペプチドの類似物質のアミノ酸配列を含んでもよいが、その場合、この新規ApoA1類似物質のアミノ酸配列において少なくとも一つのトリプトファンは、オキシダント耐性アミノ酸によって置換される。
【0011】
本発明のもう一つの態様は、ApoA1、その断片、または、少なくとも一つのトリプトファン残基を含むその類似物質の有する流出コレステロールアクセプタ機能が、MPOオキシダントによって喪失されるのを緩和する方法に関する。この方法は、該ApoA1、その断片、またはその類似物質の少なくとも一つのトリプトファン残基を、オキシダント耐性アミノ酸によって置換することを含む。
【0012】
本発明の、上述およびその他の特徴および利点は、本発明の係わる当業者には、付属の図面を参照しながら下記の説明を読むことによって明白となろう。
【0013】
(関連出願)
本出願は、2007年10月23日出願の、米国特許仮出願第60/981,887号の優先権を主張する。なお、この特許出願の主題を参照することにより本明細書に含める。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1(A〜F)は、ヒトのアテローム組織から単離されたApoA1の蛋白質修飾に関するタンデム質量分析を示す。ヒトのアテローム由来の、免疫アフィニティー精製ApoA1から直接またはゲル内トリプシン消化後、コリジョン誘発解離スペクトラムを得た。二重荷電イオンが検出され、LCタンデム質量分析実験で断片化した。A.残基8にモノヒドロキシトリプトファンを含むペプチドD1-R10(配列番号70)。B.残基50にモノヒドロキシトリプトファンを含むペプチドL46-K59(配列番号71)。C.残基72にモノヒドロキシトリプトファンを含むペプチドE62-K77(配列番号72)。D.残基108にモノヒドロキシトリプトファン、および残基112にメチオニンスルフォキシドを含むペプチドW108-R116(配列番号73)。E.Dと同じペプチドであるが、残基108のトリプトファンが、ジヒドロキシトリプトファンに変換されている(配列番号74)。F.残基48にメチオニンスルフォキシドを含むペプチドL41-R49(配列番号75)。
【図2】ヒトの血漿およびヒトのアテローム組織から単離されたApoA1に対するリシン修飾のグラフを示す。ApoA1は、6名の健康な志願者の血漿、および、6個のアテロームサンプルから免疫アフィニティークロマトグラフィーによって単離された。リシン修飾の最終産物である2-アミノアジピン酸のレベルを、酸加水分解後質量分析によって定量し、ApoA1リシン含量に対して正規化した。データは、各サンプルの二重定量値の平均を示す(両側t-検定によってp=0.005)。
【図3】還元性メチル化によるリシン残基の保護は、完全MPO/H2O2/Cl-系による不活性化から、リシン残基を保護しないことを示すプロットを提示する。ApoA1(黒丸、実線)および還元性メチル化ApoA1(白丸、破線)に対し、種々のH2O2:ApoA1モル比においてMPOによる修飾を実行した。次に、ABCA1を誘発するためにあらかじめ0.3 mM 8Br-cAMPで処理したコレステロール標識RAW264.7細胞に関して、これらの蛋白質について、5 μg/mlで4時間のインキュベーション中のABCA1依存性細胞コレステロールアクセプタ活性について定量した。データは、三重定量値の平均±S.D.である。バーが見えない場合、S.D.は記号の中に納まる。
【図4】図4(A〜B)は、メチオニンからバリンへの置換ApoA1が、MPO介在性機能喪失に対する感受性を増すことを示すグラフ(A)およびプロット(B)を提示する。A.H2O2:ApoA1モル比15:1における高用量MPO修飾を、組み換えヒトApoA1(rh-ApoA1)、rh-ApoA1 3MV (3個の内部MetをValで置換)、および、ギ酸処理したrh-ApoA1 3MV (rh-ApoA1 3MV F.A.)に対して行った。ギ酸処理は、この組み換え蛋白質から、開始Metおよび6-Hisタグを消失させる。細胞コレステロール流出活性は、図1の場合と同様に定量した。データは、三重定量値の平均±S.D.である。B.rh-ApoA1(黒丸、実線)、およびrh-ApoA1 3MV(白丸、破線)に対し、H2O2:ApoA1モル比を変えてMPOによる修飾を行った。次に、これらの蛋白質について、図3の記載と同様に、ABCA1依存性細胞コレステロールアクセプタ活性に関して定量した。データは、三重定量値の平均±S.D.である。*は、両側t-検定による、同じH2O2:ApoA1モル比におけるrh-ApoA1 3MVに対するp<0.01である。
【図5】図5(A〜B)は、トリプトファンの、フェニルアラニンまたはロイシンへの置換が、rh-ApoA1機能に及ぼす作用、および、フェニルアラニン置換の、MPOによる不活性化に対する耐性を示すプロットを提示する。A.種々の濃度のrh-ApoA1(黒丸、実線)、rh-ApoA1 4WF(4個のトリプトファンがフェニルアラニンに変換されている、白丸、破線)、およびrh-ApoA1 4WL(4個のトリプトファンがロイシンに変換されている、白抜き四角、点線)について、図3に記載する通りに、細胞コレステロールアクセプタ活性に関して定量した。4WF変異種は大部分その活性を保持していたが、一方、4WLは、その活性を失った。データは、三重定量値の平均±S.D.である。B.rh-ApoA1(黒丸、実線)およびrh-ApoA1 4WF (白丸、破線)に対し、種々のH2O2:ApoA1モル比においてMPOによる修飾を行った。次に、これらの蛋白質について、図3に記載する通りに、ABCA1依存性細胞コレステロールアクセプタ活性に関して定量した。データは、三重定量値の平均±S.D.である。*および**は、それぞれ、両側t-検定による、同じH2O2:ApoA1モル比におけるrh-ApoA1に対するp<0.05およびp<0.0001である。
【図6】トリプトファンからフェニルアラニンに置換されたApoA1は、HOCl介在性機能喪失に対して耐性を示すプロットを提示する。rh-ApoA1(黒丸、実線)およびrh-ApoA1 4WF (白丸、破線)に対し、種々のHOCl:ApoA1モル比において修飾を行った。次に、これらの蛋白質について、図3に記載する通りに、ABCA1依存性細胞コレステロールアクセプタ活性に関して定量した。データは、三重定量値の平均±S.D.である。*は、両側t-検定による、同じHOCl:ApoA1モル比におけるrh-ApoA1に対するp<0.0001である。
【図7】図7(A〜B)は、rh-ApoA1 4WFは、rh-ApoA1と同様に脂質に結合すること、その脂質結合活性は、MPO介在性酸化作用に対して耐性を持つことを示すプロットを提示する。A.ジミリストイルフォスファチジルコリン(DMPC)乳剤(125 μg)を調製し、全く添加せず(太実線)に、25 μgのrh-ApoA1の添加下に(細実線)、または25 μgのrh-ApoA1 4WFの添加下(点線)にインキュベートした。脂質結合および可溶化は、濁度の消失に基づき、24℃、325 nmにおける吸光度を経時的に読み取ることによって監視した(条件当たりn=3、平均±S.D.)。4WF変異種は、野生型rh-ApoA1と比べると同様のDMPCクリアランスを生成した。B.rh-ApoA1(黒丸、実線)およびrh-ApoA1 4WF(白丸、破線)に対し、種々のH2O2:ApoA1モル比においてMPOによる修飾を行った。これらの蛋白質について、フォスフォリパーゼC依存性LDL凝集の阻止に基づいて脂質結合活性に関して定量した。データは、H2O2不在下に処理したrh-ApoA1の脂質結合活性に対して正規化した。データは、三重定量値の平均±S.D.である。*および**は、それぞれ、両側t-検定による、同じH2O2:ApoA1モル比におけるrh-ApoA1 4WFに対するp<0.05およびp<0.001である。データは、rh-ApoA1 4WFは、野生型rh-ApoA1の脂質結合活性を下げるだけのMPO用量において、その脂質結合活性を失っていないことを示す。
【図8】トリプトファンからフェニルアラニンに置換されたApoA1が、依然としてMPOによる架橋反応に感受性を持つことを示す免疫ブロットを提示する。rh-ApoA1およびrh-ApoA1 4WFに対し、下記のH2O2:ApoA1モル比;0、1、2、3、5、および12.5(左から右)においてMPO修飾を実施した。ApoA1架橋反応は、ウェスタンブロッティングによって評価した。分子量標準の移動を左側に示す。
【図9】脂質非含有rh-ApoA1の移動を示す勾配ゲルを提示する。A.rHDLは、パルミトイルオレオイルフォスファチジルコリン(POPC)、および、野生型または4WFのrh-ApoA1(モル比100:1のPOPC:apoA1)を用い、コール酸透析によって調製し、4-20%の非変性型勾配ポリアクリルアミドゲルの上に泳動させた。レーン1は、左に掲げた直径を有するサイズ標準であり;レーン2は、10 μgの野生型rh-ApoA1 rHDLであり;レーン3は、10 μgの4WF rh-apoA1 rHDLである。ApoA1の両変異種とも、非変性勾配ゲルにおいて約9.8、12、および17 nmの円板を生成した。脂質非含有rh-ApoA1の移動を、右側の矢印によって示す。
【図10】0.3 mM 8Br-cAMP前処理によるABCA1誘発の存在下(黒塗りバー)または不在下(白抜きバー)において、[3H]コレステロール標識RAW264.7細胞からの、rHDL調製品のコレステロール流出活性(4時間インキュベーション)を示すグラフを提示する。rh-ApoA1 (10 μg/ml)は、ABCA1依存性コレステロールアクセプタ活性を示し;一方、野生型(WT)および4WF ApoA1 rHDL調製品(10 μg/ml)は、両方とも、ABCA1依存性コレステロールアクセプタ活性しか示さなかった。バーは平均±S.D.を示す(n=3)。
【図11】トリプトファンを置換させた合成ペプチドの、ABCA1依存性コレステロールアクセプタ活性を示すグラフを提示する。親ペプチドp18(Ac-DWFKAFYDKVAEKFKEAF-NH2)(配列番号76)は、トリプトファン残基(W)を、フェニルアラニンで置換(p18 WF)、またはロイシンで置換(p18 WL)して、または置換しないで合成した。3種のペプチドのコレステロールアクセプタ活性を、ABCA1誘発のために0.3 mM 8Br-cAMPで前処理した、[3H]コレステロール標識RAW264.7細胞と4時間インキュベーションすることによって測定した。ペプチドの濃度は、コラムラベルの中にμg/mlで示す。バーは平均±S.D.を示す(n=3)。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、対象に投与された場合、酸化作用に対して耐性を示し、脂質担持細胞(lipid loaded cell)から細胞内コレステロールの流出を増大させることが可能な、アポリポ蛋白質A-1(ApoA1)ポリペプチド類似物質(mimetics)に関する。本明細書および特許請求項で用いられる「酸化作用に対する耐性」または「オキシダント耐性」とは、このApoA1類似ポリペプチドは、ApoA1ポリペプチドのコレステロール受容および脂質結合活性を阻害または抑制する酸化作用に対し少なくとも部分的に耐性を示すことが可能であることを意味する。この酸化作用は、例えば、ミエロペルオキシダーゼ(MPO)、MPO-生成オキシダント、MPO-生成反応性塩素化分子、MPO/H2O2/Cl-系、HOCl/OCl-、MPO生成反応性窒素分子、MPO/H2O2/NO2-系、二酸化窒素、ペルオキシナイトライト(ONOO-)、ペルオキシカルボキシナイトライト(ONOOCO2-)、および、ONOO-がCO2(または、バッファー中のHCO3-)の存在下に活動するときに形成される産物の内の少なくとも一つを含む酸化経路における酸化と関連、またはその酸化によって誘発される可能性がある。
【0016】
ApoA1蛋白質のトリプトファン残基は、例えば、ミエロペルオキシダーゼ(MPO)、次亜塩素酸、または場合によっては他のオキシダントによって容易に酸化される。ApoA1のトリプトファン残基の酸化は、そのコレステロール受容活性および脂質結合活性の喪失を招く。さらに、天然ApoA1のMPO介在性酸化は、コレステロール逆転送の一部としての細胞コレステロールの受容を不活性にする可能性がある。
【0017】
本発明によるオキシダント耐性ApoA1類似物質(または酸化耐性類似物質)は、少なくとも一つのトリプトファンを含む、ApoA1、ApoA1断片、または、ApoA1の公知の類似物質のアミノ酸配列と事実上類似するアミノ酸配列を有するが、その場合、少なくとも一つのトリプトファン残基は、オキシダント耐性ペプチド残基などのオキシダント耐性残基によって置換され、ApoA1脂質結合活性および脂質流出活性は保持される。一つの例では、オキシダント耐性残基は、フェニルアラニンなどの芳香族ペプチド残基を含んでもよい。
【0018】
本明細書および特許請求の範囲で用いる「ApoA1の類似物質(mimetics of ApoA1)」、または「ApoA1の従来の類似物質(prior mimetics of ApoA1)」、または「ApoA1の公知の類似物質(known mimetics of ApoA1)」とは、ApoA1の振る舞いをする、いずれの参照文献において特定、または引用されてもよいApoA1の類似物質を意味する。そのようなものとしては、米国および外国の特許および公刊物に特定されるApoA1の類似物質が挙げられる。これらの「ApoA1の類似物質」、または「ApoA1の従来の類似物質」、または「ApoA1の公知の類似物質」という用語は、本明細書および特許請求の範囲中の「ApoA1類似物質(ApoA1 mimetics)」、「新奇ApoA1類似物質(novel ApoA1 mimetics)」、または「新規ApoA1類似物質(new ApoA1 mimetics)」という用語とは区別される。後者は、酸化に対して耐性を示す、またはオキシダント耐性を持つ、本発明のApoA1類似物質を含むことが意図される。
【0019】
「ポリペプチド」、「ペプチド」、および「蛋白質」という用語は、本明細書では、アミノ酸残基ポリマーを指すために相互交換的に使用される。これらの用語は、天然のアミノ酸ポリマーだけでなく、一つ以上のアミノ酸残基が、対応する天然アミノ酸の人工的化学的類縁体であるアミノ酸ポリマーにも適用される。本明細書で用いる「芳香族アミノ酸」は、少なくとも一つの芳香環またはヘテロ芳香環を持つ側鎖を有する疎水性アミノ酸を指す。この芳香環またはヘテロ芳香環は、一つ以上の置換基、例えば、-OH, -SH, -CN, -F, -Cl, -Br, -I, -NO2, -NO, -NH2, -NHR, -NRR, -C(O)R, -C(O)OH, -C(O)OR, -C(O)NH2, -C(O)NHR, -C(O)NRRなどを有してもよく、上式において、Rは、独立に、(C1-C6)アルキル、置換型(C1-C6)アルキル、(C1-C6)アルケニル、置換型(C-C6)アルケニル、(C1-C6)アルキニル、置換型(C1-C6)アルキニル、(C5-C20)アリール、置換型(C5-C20)アリール、(C6-C26)アルクアリール、置換型(C6-C26)アルクアリール、5-20員ヘテロアリール、置換型5-20員ヘテロアリール、6-26員アルクヘテロアリール、または置換型6-26員アルクヘテロアリールである。遺伝学的にコードされる芳香族アミノ酸としては、フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、およびトリプトファン(W)が挙げられる。一特定例では、本発明の酸化耐性アミノ酸は、フェニルアラニンであってもよい。
【0020】
酸化作用に対して耐性を持つApoA1類似物質は、脂質担持細胞からのコレステロール流出の増進に優れ、既存のプラークの縮小と発達するプラークの抑制との両方、アテローム性硬化症、血管炎症、外傷治癒、および高脂血症の抑制を含むので、冠状動脈性心疾患(例えば、心血管系疾患)の治療、寛解、および/または予防のための治療薬として使用することが可能である。したがって、本発明は、本発明にしたがって、治療的有効量のApoA1類似物質を対象に対して投与することによって、該対象において、冠状動脈性血管障害、血管炎症、外傷治癒、および/または高脂血症を治療、予防、および/または寛解する方法を含む。
【0021】
本発明のある態様では、ApoA1類似物質は、天然ApoA1の、少なくとも一つのトリプトファン含有性で、コレステロール流出アクセプタ部分を含むアミノ酸配列を有するポリペプチドを含んでもよい。一例では、ApoA1類似物質は、下記のアミノ酸配列を有していてもよい:
DEPPQSQXDR VKDLATVYVD VLKDSGRDYV SQFEGSALGK QLNLKLLDNX DSVTSTFSKL REQLGPVTQE FXDNLEKETE GLRQEMSKDL EEVKAKVQPY LDDFQKKXQE EMELYRQKVE PLRAELQEGA RQKLHELQEK LSPLGEEMRD RARAHVDALR THLAPYSDEL RQRLAARLEA LKENGGARLA EYHAKATEHL STLSEKAKPA LEDLRQGLLP VLESFKVSFL SALEEYTKKL NTQ(配列番号1)
上式において、Xは、トリプトファン残基であるか、またはオキシダント耐性残基(例えば、フェニルアラニン)であり、4個のXの内少なくとも一つは、オキシダント耐性残基である。他の例では、配列番号1のXの内少なくとも二つは、オキシダント耐性残基であり、配列番号1のXの内少なくとも三つは、オキシダント耐性残基であり、あるいは、これらのXの四つ全てがオキシダント耐性残基である。
【0022】
ApoA1類似物質は、トリプトファン置換された、野生型または天然形のApoA1を含む外、さらに、トリプトファン置換された、当該技術分野で公知のApoA1の天然変異種を含んでもよい。例えば、Weisbergerらは、ApoA1-Milanoと名づけられたApoA1突然変異種の位置173において、システインをアルギニンに置換することが可能であることを示した(Weisgraber et al. (1983) J. Biol. Chem. 258: 2508-2513)。したがって、ApoA1-Milanoに基づくApoA1類似物質は、配列番号2のアミノ酸配列を含む。
MKAAVLTLAV LFLTGSQARH FXQQDEPPQS PXDRVKDLAT VYVDVLKDSG RDYVSQFEGS ALGKQLNLKL LDNXDSVTST FSKLREQLGP VTQEFXDNLE KETEGLRQEM SKDLEEVKAK VQPYLDDFQKKXQEEMELYR QKVEPLRAEL QEGARQKLHE LQEKLSPLGE EMRDRARAHV DALCTHLAPY SDELRQRLAA RLEALKENGG ARLAEYHAKA TEHLSTLSEK AKPALEDLRQ GLLPVLESFK VSFLSALEEY TKKLNTQ(配列番号2)
上式において、Xは、トリプトファンであるか、またはオキシダント耐性残基(例えば、フェニルアラニン)であり、少なくとも一つのXは、オキシダント耐性残基である。
【0023】
本発明によるApoA1類似物質のもう一つの例は、成熟ApoA1の位置151(配列番号3の配列における位置175に対応する)においてシステイン残基を有する、ヒトのApoA1ペプチドの、公知の完全長類似物質に基づく。この例によるApoA1類似物質は、配列番号3のアミノ酸配列を含んでもよい。
MKAAVLTLAV LFLTGSQARH FXQQDEPPQS PXDRVKDLAT VYVDVLKDSG RDYVSQFEGS ALGKQLNLKL LDNXDSVTST FSKLREQLGP VTQEFXDNLE KETEGLRQEM SKDLEEVKAK VQPYLDDFQK KXQEEMELYR QKVEPLRAEL QEGARQKLHE LQEKLCPLGE EMRDRARAHV DALCTHLAPY SDELRQRLAA RLEALKENGG ARLAEYHAKA TEHLSTLSEK AKPALEDLRQ GLLPVLESFK VSFLSALEEY TKKLNTQ(配列番号3);
上式において、Xは、トリプトファンであるか、またはオキシダント耐性残基(例えば、フェニルアラニン)であり、少なくとも一つのXは、オキシダント耐性残基(例えば、フェニルアラニン)によって置換される。
【0024】
したがって、本発明において考慮の対象とされるApoA1ポリペプチド類似物質は、ApoA1形および変異種由来の修飾ポリペプチド、例えば、アポリポ蛋白質A-1(Brewer et al., (1978))、アポリポ蛋白質A-1 Milano(Weisgraber (1983))、アポリポ蛋白質A-1 Marburg (Utermann et al., (1982)J. Biol. Chem. 257: 501-507)、アポリポ蛋白質A-1 Paris (Bielicki and Oda (2002) Biochemistry 41, 2089-2096)、プロアポリポ蛋白質A-1、または、合成的に形成されたものであれ、天然に出現するものであれ、当該技術分野で公知の、ApoA1の、他の任意の突然変異形由来の修飾ポリペプチドを含んでもよい。
【0025】
それとは別に、本発明のApoA1類似物質は、ヒトまたはマウスのApoA1ペプチドのクラスA両親媒性ヘリックスを忠実に模倣する両親媒性ヘリックス状ペプチド(すなわち、ApoA1の類似物質)を含んでもよく、その際、Xによって示される残基は、トリプトファン残基または、オキシダント耐性アミノ酸残基を含んでもよく、少なくとも一つのXは、オキシダント耐性残基である。「両親媒性ヘリックス状ペプチド(amphipathic helical peptide)」という用語は、少なくとも一つの両親媒性ヘリックス(両親媒性ヘリックスドメイン)を含むペプチドを指す。本発明のいくつかの両親媒性ヘリックス状ペプチドは、二つ以上(例えば、3、4、5個など)の両親媒性ヘリックスを含んでもよい。
【0026】
「クラスA両親媒性ヘリックス」という用語は、極性面および非極性面の分離を産み出すヘリックスを形成する蛋白質構造を指し、該構造において、陽性荷電残基は、極性-非極性界面に停留し、陰性荷電残基は、極性面の中心に停留する(例えば、Segrest et al. (1990) Proteins: Structure, Function, and Genetics 8: 103-117を参照)。特に好ましいペプチドは、ヒトまたはマウスのApoA1のクラスA両親媒性ヘリックスをコードするエキソンによってコードされるポリペプチドと、約50%を超えるアミノ酸配列相同性を含んでもよい。このペプチドは、薬理学的に受容可能な賦形剤(例えば、哺乳動物に対する経口投与に好適な賦形剤)と組み合わせてもよい。
【0027】
ある種の実施態様では、本ApoA1類似物質は、コレステロール流出を増進することが可能で、下記のアミノ酸配列の内の一つ以上を含む、ApoA1の断片または類似物質である:
D-X-L-K-A-F-Y-D-K-V-A-E-K-L-K-E-A-F-(配列番号4)、
D-X-F-K-A-F-Y-D-K-V-A-E-K-L-K-E-A-F-(配列番号5)、
D-X-L-K-A-F-Y-D-K-V-A-E-K-F-K-E-A-F-(配列番号6)、
D-X-F-K-A-F-Y-D-K-V-A-E-K-F-K-E-A-F-(配列番号7)、
D-X-L-K-A-F-Y-D-K-V-F-E-K-F-K-E-F-F-(配列番号8)、
D-X-L-K-A-F-Y-D-K-F-F-E-K-F-K-E-F-F-(配列番号9)、
D-X-F-K-A-F-Y-D-K-F-F-E K-F-K-E-F-F-(配列番号10)、
D-X-L-K-A-F-Y-D-K-V-F-E-K-F-K-E-A-F-(配列番号11)、
D-X-L-K-A-F-Y-D-K-V-F-E-K-F-K-E-A-F-(配列番号12)、
D-X-L-K-A-F-Y-D-K-V-F-E-K-L-K-E-F-F-(配列番号13)、
D-X-L-K-A-F-Y-D-K-V-A-E-K-F-K-E-F-F-(配列番号14)、
D-X-L-K-A-F-Y-D-K-V-F-E-K-F-K-E-F-F-(配列番号15)、
E-X-L-K-L-F-Y-E-K-V-L-E-K-F-K-E-A-F-(配列番号16)、
E-X-L-K-A-F-Y-D-K-V-A-E-K-F-K-E-A-F-(配列番号17) 、
E-X-L-K-A-F-Y-D-K-V-A-E-K-L-K-E-F-F-(配列番号18)、
E-X-L-K-A-F-Y-D-K-V-F-E-K-F-K-E-A-F-(配列番号19)、
E-X-L-K-A-F-Y-D-K-V-F-E-K-L-K-E-F-F-(配列番号20)、
E-X-L-K-A-F-Y-D-K-V-A-E-K-F-K-E-F-F-(配列番号21)、
E-X-L K-A-F-Y-D-K-V-F-E-K-F-K-E-F-F-(配列番号22)、
D-X-L-K-A-L-Y-D-K-V-A-E-K-L-K-E-A-L-(配列番号23)、
D-X-F-K-A-F-Y-E-K-V-A-E-K-L-K-E-F-F-(配列番号24)、
D-X-F-K-A-F-Y-E-K-F-F-E-K-F-K-E-F-F-(配列番号25)、
E-X-L-K-A-L-Y-E-K-V-A-E-K-L-K-E-A-L-(配列番号26)、
E-X-L-K-A-F-Y-E-K-V-A-E-K-L-K-E-A-F-(配列番号27)、
E-X-F-K-A-F-Y-E-K-V-A-E-K-L-K-E-F-F-(配列番号28)、
E-X-L-K-A-F-Y-E-K-V-F-E-K-F-K-E-F-F-(配列番号29)、
E-X-L-K-A-F-Y-E-K-F-F-E-K-F-K-E-F-F-(配列番号30)、
E-X-F-K-A-F-Y-E-K-F-F-E-K-F-K-E-F-F-(配列番号31)、
D-F-L-K-A-X-Y-D-K-V-A-E-K-L-K-E-A-X-(配列番号32)、
E-F-L-K-A X-Y-E-K-V-A-E-K-L-K-E-A-X-(配列番号33)、
D-F-X-K-A-X-Y-D-K-V-A-E-K-L-K-E-X-X-(配列番号34)、
E-F-X-K-A-X-Y-E-K-V-A-E-K-L-K-E-X-X-(配列番号35)、
D-K-L-K-A-F-Y-D-K-V-F-E-X-A-K-E-A-F-(配列番号36)、
D-K-X-K-A-V-Y-D-K-F-A-E-A-F-K-E-F-L-(配列番号37)、
E-K-L-K-A-F-Y-E-K-V-F-E-X-A-K-E-A-F-(配列番号38)、
E-K-X-K-A-V-Y-E-K-F-A-E-A-F-K-E-F-L-(配列番号39)、
D-X-L-K-A-F-V-D-K-F-A-E-K-F-K-E-A-Y-(配列番号40)、
E-K-X-K-A-V-Y-E-K-F-A-E-A-F-K-E-F-L-(配列番号41)、
D-X-L-K-A-F-V-Y-D-K-V-F-K-L-K-E-F-F-(配列番号42)、
E-X-L-K-A-F-V-Y-E-K-V-F-K-L-K-E-F-F-(配列番号43)、
D-X-L-R-A-F-Y-D-K-V-A-E-K-L-K-E-A-F-(配列番号44)、
E-X-L-R-A-F-Y-E-K-V-A-E-K-L-K-E-A-F-(配列番号45)、
D-X-L-K-A-F-Y-D-R-V-A-E-K-L-K-E-A-F-(配列番号46)、
E-X-L-K-A-F-Y-E-R-V-A-E-K-L-K-E-A-F-(配列番号47)、
D-X-L-K-A-F-Y-D-K-V-A-E-R-L-K-E-A-F-(配列番号48)、
E-X-L-K-A-F-Y-E-K-V-A-E-R-L-K-E-A-F-(配列番号49) 、
D-X-L-K-A-F-Y-D-K-V-A-E-K-L-R-E-A-F-(配列番号50) 、
E-X-L-K-A-F-Y-E-K-V-A-E-K-L-R-E-A-F-(配列番号51) 、
D-X-L-K-A-F-Y-D-R-V-A-E-R-L-K-E-A-F-(配列番号52) 、
E-X-L-K-A-F-Y-E-R-V-A-E-R-L-K-E-A-F-(配列番号53) 、
D-X-L-R-A-F-Y-D-K-V-A-E-K-L-R-E-A-F-(配列番号54) 、
E-X-L-R-A-F-Y-E-K-V-A-E-K-L-R-E-A-F-(配列番号55) 、
D-X-L-R-A-F-Y-D-R-V-A-E-K-L-K-E-A-F-(配列番号56) 、
X-L-R-A-F-Y-E-R-V-A-E-K-L-K-E-A-F-(配列番号57) 、
D-X-L-K-A-F-Y-D-K-V-A-E-R-L-R-E-A-F-(配列番号58) 、
E-X-L-K-A-F-Y-E-K-V-A-E-R-L-R-E-A-F-(配列番号59) 、
D-X-L-R-A-F-Y-D-K-V-A-E-R-L-K-E-A-F-(配列番号60) 、
E-X-L-R-A-F-Y-E-K-V-A-E-R-L-K-E-A-F-(配列番号61) 、
D-X-L-K-A-F-Y-D-K-V-A-E-K-L-K-E-A-F-P-D-X-L-K-A-F-Y-D-K-V-A-E-K-L-K-E-A-F(配列番号62) 、
D-X-L-K-A-F-Y-D-K-V-A-E-K-L-K-E-F-F-P-D-X-L-K-A-F-Y-D-K-V-A-E-K-L-K-E-F-F(配列番号63) 、
D-X-F-K-A-F-Y-D-K-V-A-E-K-L-K-E-A-F-P-D-X-F-K-A-F-Y-D-K-V-A-E-K-L-K-E-A-F(配列番号64) 、
D-K-L-K-A-F-Y-D-K-V-F-E-X-A-K-E-A-F-P-D-K-L-K-A-F-Y-D-K-V-F-E-X-L-K-E-A-F(配列番号65) 、
D-K-X-K-A-V-Y-D-K-F-A-E-A-F-K-E-F-L-P-D-K-X-K-A-V-Y-D-K-F-A-E-A-F-K-E-F-L(配列番号66) 、
D-X-F-K-A-F-Y-D-K-V-A-E-K-F-K-E-A-F-P-D-X-F-K-A-F-Y-D-K-V-A-E-K-F-K-E-A-F(配列番号67) 、
D-X-L-K-A-F-V-Y-D-K-V-F-K-L-K-E-F-F-P-D-X-L-K-A-F-V-Y-D-K-V-F-K-L-K-E-F-F(配列番号68)、および
D-X-L-K-A-F-Y-D-K-F-A-E-K-F-K-E-F-F-P-D-X-L-K-A-F-Y-D-K-F-A-E-K-F-K-E-F-F(配列番号69)、
上式において、Xは、トリプトファンであるか、またはオキシダント耐性残基(例えば、フェニルアラニン)であり、各配列において、少なくとも一つのXは、オキシダント耐性残基によって置換される。
【0028】
上に参照した配列(配列番号4〜配列番号69)は、Fogelmanら交付された米国特許第7,114,862 B2(以後、'862特許とする)に記載される。なお、この特許の全体を参照することにより本明細書に含める。この'862特許は、アテローム硬化症の一つ以上の症状を寛解するのに使用されるペプチドをその主題とする。'862特許に記載されるペプチドは、本明細書においてXで示される各残基においてトリプトファン残基を含む。'862特許の合成ペプチドは、クラスA両親媒性ヘリックスモチーフを模倣するように設計され(Segrest et al. (1990) Proteins: Structure, Function and Genetics 8:103-117)、リン脂質と連結し、ヒトのApoA1と類似する多くの生物学的特性を提示することが可能である。
【0029】
さらに、ApoA1類似ペプチドのこのリストは完全に包括的なものではないことに注意すべきである。上記配列の末端短縮、上記配列のマルチマー結合(例えば、ダイマーから、トリマーまで、テトラマーまで、5マーまで、8マーまで、または10マーまでに至る範囲)、上記配列の保存的置換、および/または、アミノ酸類縁体を含む上記配列も、本明細書に提供される教示において考慮の対象とされる。
【0030】
本ApoA1類似ポリペプチドの、生物学的機能における等価物、または場合によっては、その改良産物さえ、一般に、ApoA1を開始材料として用いることによって製造が可能であることが理解されよう。このような蛋白質の構造において修飾および変化をもたらしてもよく、それでもなお、同様の、かつ、他の点では好ましい特性を有する分子を取得することが可能である。例えば、この蛋白質構造において、流出コレステロールアクセプタ活性を著明に失うことなく、いくつかのアミノ酸を別のアミノ酸に置換することが可能である。
【0031】
同様に、当業者であれば、少なくとも一つのアミノ酸を置換、欠失、または付加することによって、本発明のApoA1アミノ酸配列をさらに修飾することが可能であること、および、これらのさらに別の修飾が、オキシダント耐性ApoA1ポリペプチドに対する、生物学的機能における等価物を創出することも、考慮の対象とすべきである。これらの置換は、修飾ApoA1が、脂質担持細胞からコレステロール流出を増進する能力を事実上抑制しない。本明細書で用いる「事実上抑制する」、または「抑制」とは、修飾ApoA1ポリペプチドの、脂質担持細胞からのコレステロール流出増進能力に対する、測定可能である限り、いずれの程度であってもよい、再現可能な低下を含む。
【0032】
さらに、「生物学的機能において等価な」蛋白質またはポリペプチドの定義においては内在的に、その分子の、ある定められた部分の内部において実行し、なおかつ、受容可能レベルの等価的生物学的活性を持つ分子をもたらすことが可能な変化の数には限界がある、とする想定のあることが、当業者であれば十分に理解されよう。したがって、本明細書では、生物学的機能において等価な蛋白質同士およびペプチド同士とは、そのアミノ酸の、多くまたは全てではなく、いくつかが置換されてもよい蛋白質およびペプチド同士である。当然、異なる置換を有する、複数の別々の蛋白質/ペプチドを、本発明にしたがって簡単に製造し、使用することが可能である。
【0033】
アミノ酸置換は、一般に、アミノ酸側鎖置換の相対的類似性、例えば、その疎水性、親水性、電荷、サイズなどに基づいて行われる。アミノ酸側鎖置換基のサイズ、形、およびタイプの分析によって、アルギニン、リシン、およびヒスチジンは全て陽性荷電残基であること、アラニン、グリシン、およりセリンが皆類似のサイズを持つことが明らかにされる。したがって、これらの考察に基づくと、アルギニン、リシン、およびヒスチジン;アラニン、グリシン、およびセリンは、本発明においては、生物学的機能の等価物と定義される。
【0034】
Altonらによる公開出願(WO83/04053)に記載される手順にしたがえば、本明細書に特定されるものとは、一つ以上の残基の内容または位置において異なる(例えば、置換、末端および中間の付加および欠失)一次立体配座を有するポリペプチドの細菌発現をコードする遺伝子を設計、製造することは容易に可能である。それとは別に、cDNAおよびゲノム遺伝子の修飾は、周知の部位特異的突然変異導入技術によって簡単に実行することが可能であり、ApoA1の類縁体および誘導体の生成に用いることが可能である。このような産物は、オキシダント耐性修飾ApoA1の生物学的特性の少なくとも一つを共有するであろうがが、他の点では異なっていてもよい。
【0035】
本発明の別の態様によれば、ApoA1類似ポリペプチドは、ヒトの完全長ApoA1ペプチドの断片であってもよい。本発明のApoA1断片は、コレステロール流出の増進、および炎症性病態の一つ以上の症状の寛解などの、ただしこれらに限定されない、少なくとも一つの態様において、前述のApoA1ポリペプチドと生物学的機能において等価である。このApoA1断片は、約5から約50個のアミノ酸から成り、少なくとも一つのトリプトファン残基を含むが、その際、該トリプトファン残基は、オキシダント耐性アミノ酸によって置換される。
【0036】
ApoA1類似ポリペプチドの場合と同様、ApoA1断片の構造およびアミノ酸配列においても修飾および変更を実行し、なおかつ類似した、あるいは望ましい機能的特徴を有する分子を取得することが可能であることが理解される。例えば、蛋白質構造において、いくつかのアミノ酸を、コレステロール流出の増進を著明に失うことなく、他のアミノ酸に置換することは可能と考えられる。
【0037】
本発明のApoA1類似ポリペプチドはさらに、該ポリペプチドのアミノ末端および/またはカルボキシ末端に結合される保護基を含んでもよい。「保護基」という用語は、アミノ酸中の官能基(例えば、側鎖、アルファアミノ基、アルファカルボキシル基など)に付着すると、その官能基の特性を阻止またはマスクする化学基を指す。アミノ末端保護基の例としては、例えば、ただしこれらに限定されないが、アセチル、またはアミノ基が挙げられる。このような実施態様では、本明細書に記載されるポリペプチドのN-末端および/またはC-末端における、最初の1から4個のアミノ酸残基は、α-ヘリックス状二次構造に対し安定性を付与することが知られる、一つ以上のアミノ酸残基、または一つ以上のペプチドセグメント(「末端キャップ」または「保護基」残基またはセグメント)によって置換されてもよい。このような末端キャップ残基およびセグメントは、当該技術分野において周知である(例えば、Richardson and Richardson, 1988, Science 240:1648-1652; Harper et al., 1993, Biochemistry 32(30):7605-7609; Dasgupta and Bell, 1993, Int. J. Peptide Protein Res. 41 :499-511; Seale et al., 1994, Protein Science 3:1741-1745; Doig et al., 1994, Biochemistry 33:3396-3403; Zhou et al., 1994, Proteins 18:1-7; Doig and Baldwin, 1995, Protein Science 4:1325-1336; Odaert et al., 1995, Biochemistry 34: 12820-12829; Petrukhov et al., 1996, Biochemistry 35:387-397; Doig et al., 1997, Protein Science 6: 147-155を参照されたい)。それとは別に、本明細書に記載されるポリペプチドの、最初の1から4個のN-末端および/またはC-末端アミノ酸残基は、末端キャップまたはセグメントの構造および/または特性を模倣する、ペプチド類似成分によって置換されてもよい。末端キャップの類似物質の例は、当該技術分野において周知であり、例えば、Richardson and Richardson, 1988, Science 240:1648-1652; Harper et al., 1993, Biochemistry 32(30):7605-7609; Dasgupta and Bell, 1993, Int. J. Peptide Protein Res. 41:499-511; Seale et al., 1994, Protein Science 3:1741-1745; Doig et al., 1994, Biochemistry 33:3396-3403; Zhou et al., 1994, Proteins 18:1-7; Doig and Baldwin, 1995, Protein Science 4:1325-1336; Odaert et al., 1995, Biochemistry 34:12820-12829; Petrukhov et al., 1996, Biochemistry 35:387-397; Doig et al., 1997, Protein Science 6:147-155に記載される。
【0038】
本発明のApoA1類似ポリペプチドは、精製されていても、単離されていてもよい。本明細書における「精製された、および、単離された」という用語は、不要の物質を事実上含まず、したがって、修飾ApoA1類似物質またはその断片から成る本発明のポリペプチドは、脂質担持細胞からコレステロール流出を増進するのに有用であることを意味する。例えば、ヒトの、他の蛋白質または病原性因子を事実上含まない、修飾された組み換えヒトApoA1類似ポリペプチドであってもよい。これらのポリペプチドはさらに、哺乳類細胞の産物であること、または、化学的合成手法の産物であること、または、ゲノムまたはcDNAクローニング、または遺伝子合成によって得られた外来DNA配列の、原核生物または真核生物宿主(例えば、細菌、酵母、高等植物、昆虫、および哺乳類細胞の培養標本)における発現の産物であること、によって特徴づけられる。典型的酵母(例えば、Saccharomyces cerevisiae)または原核生物(例えば、E. coli)における発現産物は、哺乳類蛋白質とは全く結合してしない。脊椎動物(例えば、非ヒト哺乳類(例えば、COSまたはCHO)および鳥類)細胞における発現産物は、ヒト蛋白質とは全く結合していない。使用する宿主、および他の要因に応じて、本発明のポリペプチドは、哺乳類または他の真核生物の炭水化物によってグリコシル化されていてもよいし、グリコシル化されていなくてもよい。本発明のポリペプチドはさらに、最初の(そのポリペプチドの第1アミノ酸に対して-1位置において)メチオニンアミノ酸残基を含んでもよい。
【0039】
本発明のペプチドは、公知の技術、例えば、逆相クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル電気泳動、アフィニティークロマトグラフィーなどによって精製することが可能である。ある特定のペプチドを精製するのに使用される実際の条件は、一部は、合成戦略、および、電荷、疎水性、親水性などの要因に依存するが、これらは、当業者には明白である。マルチマー分枝ペプチドは、例えば、イオン交換またはサイズ排除クロマトグラフィーによって精製することが可能である。
【0040】
アフィニティークロマトグラフィー精製の場合は、そのポリペプチドに特異的に結合するものであればいずれの抗体を使用してもよい。抗体を生産するには、各種の宿主動物、例えば、ただしこれらに限定されないが、ウサギ、マウス、ラットなどが、ペプチドによって免疫化される。ペプチドは、側鎖官能基、または側鎖官能基に付着されるリンカーを介して、BSAなどの適切な担体に付着されてもよい。免疫反応を増強するために、宿主の生物種に応じて種々のアジュバントを、例えば、ただしこれらに限定されないが、フロインドの(完全および不完全)アジュバント、水酸化アルミニウムなどの鉱物性ゲル、リソレシチン、プルロニックポリオール、ポリアニオンなどの表面活性物質、ペプチド、オイルエマルジョン、キーホールリンペットヘモシアニン、ジニトロフェノール、および、有用となる可能性のあるヒトのアジュバント、例えば、BCG(カルメット-ゲラン桿菌)、およびCorynebacterium parvumを使用してもよい。
【0041】
ペプチドに対するモノクロナール抗体は、連続細胞系統による抗体分子の生産を実現するものであればいずれの技術を用いて調製してもよい。そのような技術としては、ただしこれらに限定されないが、最初にKohler and Milstein, 1975, Nature 256:495-497、またはKaprowski、米国特許No.4,376,110(引用により本明細書に含める)に記載されたハイブリドーマ技術;ヒトB細胞ハイブリドーマ技術(Kosbor et al., 1983, Immunology Today 4:72; Cote et al., 1983, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 80:2026- 2030);およびEBV-ハイブリドーマ技術(Cole et al., 1985, Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy, Alan R. Liss, Inc., pp. 77-96 (1985))が挙げられる。さらに、適切な抗原特異性を有するマウス抗体分子の遺伝子を、適切な生物学的活性を有するヒトの抗体分子の遺伝子と共にスプライスすることによる、「キメラ抗体」生産のために開発された技術(Morrison et al., 1984, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 81:6851-6855; Neuberger et al., 1984, Nature 312:604-608; Takeda et al., 1985, Nature 314:452-454, Boss, U.S. Pat. No.4,816,397; Cabilly, 米国特許No. 4,816,567、これらを引用により本明細書に含める)も使用することが可能である。他のヒト化抗体も調製することが可能である(例えば、Queen, 米国特許No. 5,585,089を参照、なお、この文献を参照により本明細書に含める)。それとは別に、単一鎖抗体生産のために記載される技術(米国特許No.4,946,778)も、ペプチド特異的単一鎖抗体の生産用に適応させることが可能である。
【0042】
特異的結合部位の欠失を含む抗体断片を、公知の技術によって生成してもよい。例えば、そのような断片としては、ただしこれらに限定されないが、抗体分子のペプシン消化によって産み出すことが可能なF(ab')2断片、F(ab')2断片のジスルフィド架橋を還元することによって生成することが可能なFab断片が挙げられる。それとは別に、対象ペプチドに対し所望の特異性を持つモノクロナールFab断片を速やかに、かつ簡単に特定することを可能とするために、Fab発現ライブラリーを構築してもよい(Huse et al., 1989, Science 246:1275-1281)。
【0043】
所望のペプチドに対して特異的な抗体または抗体断片は、例えば、アガロースに付着させてもよく、この抗体-アガロース複合体は、本発明のペプチド精製のためのイムノクロマトグラフィーにおいて使用される。Scopes, 1984, Protein Purification: Principles and Practice, Springer- Verlag New York, Inc., NY, Livingstone, 1974, Methods In Enzymology: Immunoaffinity Chromatography of Proteins 34:723-731を参照されたい。
【0044】
本発明はさらに、ポリヒスチジン-タグを含む、ApoA1類似ポリペプチドを考慮の対象とする。ポリヒスチジン-タグとは、多くの場合、蛋白質のN-末端またはC-末端において少なくとも6個のヒスチジン(His)残基から成る、その蛋白質におけるアミノ酸モチーフである。さらに、6ヒスチジン-タグ、6xHis-tagとして、かつ、商標名His-tag (EMD Biosciences)によっても公知である。ポリヒスチジン-タグは、Escherichia coli(大腸菌)、または他の原核生物発現系において発現される、ポリヒスチジン-タグ付きの組み換え蛋白質のアフィニティー精製に使用することが可能である。細菌細胞は、遠心によって収集され、得られた細胞ペレットは、物理的手段によって、または界面活性剤、またはライソザイムなどの酵素によって分解される。この段階では、精製前の分解産物は、細菌由来の他のいくつかの蛋白質の中にその組み換え蛋白質を含んでおり、アフィニティー媒体、例えば、NTA-アガロース、HisPur樹脂、またはTalon樹脂と共にインキュベートされる。これらのアフィニティー媒体は、ニッケルかまたはコバルトの、結合金属イオンを含み、それに対し、ポリヒスチジン-タグは、マイクロモル親和度をもって結合する。次に、この樹脂をリン酸塩バッファーで洗浄し、該コバルトまたはニッケルイオンと特異的相互作用を持たない蛋白質を除去する。この洗浄効率は、20 mMイミダゾールを加えることによって高めることが可能であり、次に、蛋白質は、通常、150-300 mMイミダゾールによって溶出されるが、ただし、もっと高い濃度も同様に使用される。蛋白質の純度および量は、SDS-PAGEおよびウェスタンブロッティングによって評価することが可能である。
【0045】
ポリヒスチジン-タグによるアフィニティー精製は、通常、組み換え蛋白質が、原核生物宿主において発現される場合は、比較的純粋な蛋白質をもたらす。特別な場合、あるいは特別な目的のため、例えば修飾されたApoA1ポリペプチド相互作用を調べるために蛋白質複合体を精製するためには、より高等な生物、例えば、酵母、昆虫細胞、または他の真核生物からの精製が行われるが、その場合、より高純度を取得するために、二つのタグによる縦列アフィニティー精製が必要とされることがある。それとは別に、ニッケルイオンではなく、固定コバルトイオンを用いた単一工程精製では、一般に、his-タグ付き蛋白質の溶出において、純度の実質的増加が得られるが、より低濃度のイミダゾールしか必要とされない。
【0046】
本発明のもう一つの態様は、上に定義した通りの、修飾されたApoA1類似ポリペプチドをコードする核酸に関する。本発明の核酸は、デオキシリボ核酸(DNA)、またはリボ核酸(RNA)であってもよい。DNAの中では、ApoA1相補的DNA(cDNA)(例えば、Breslow et al. (1982) Proc. Nat. Acad. ScL 79: 6861-6865を参照されたい、この著者らは、ヒトのApoA1のcDNAクローンを単離し、その特徴を明らかにした)、ゲノムDNA(gDNA)、ハイブリッド配列、または、合成または半合成配列を使用してもよい。さらに、核酸は、ヌクレアーゼに対するその耐性を増すため、その細胞浸透性または細胞標的性、その治療効力などを増す目的で、化学的に修飾されたものであってもよい。これらの核酸は、ヒト、動物、植物、細菌、ウィルス、合成などの起源ものであってもよい。これらの核酸は、当業者に既知の、どのような技術によって得られてもよく、特に、ライブラリースクリーニング、化学的合成によって得られてもよく、または、それとは別に、ライブラリースクリーニングによって得られた配列の化学的または酵素的修飾を含む混合法によって得られてもよい。
【0047】
本発明のさらにもう一つの態様は、ApoA1類似物質の少なくとも一部を含むポリペプチドまたは蛋白質の、原核または真核の宿主細胞における発現を促進するのに有用な核酸配列に関する。本発明による組み換えApoA1類似物質の生産のために、該核酸は、ウィルスまたはプラスミドベクターの中に組み込むことが可能である。ベクターは、自己複製型のベクターであっても、組込型のベクターであってもよい。次に、このベクターを用いて、選ばれた細胞集団にトランスフェクトまたは感染させる。このようにして得られたトランスフェクトまたは感染細胞は、その核酸の発現を可能とする条件下で培養され、本発明による組み換えApoA1類似物質が単離される。組み換え手段による、本発明の変異種の生産のために使用することが可能な細胞宿主は、真核生物、または原核生物の宿主である。原核生物宿主の例としては、動物細胞、酵母、または真菌が挙げられる。特に、酵母に関しては、属Saccharomyces, Kluyveromyces, Pichia, Schwanniomyces, またはHansenulaの酵母の使用が可能である。動物細胞に関しては、COS, CHO, CI27, NIH-3T3などの細胞の使用が可能である。真菌類の中では、Aspergillus ssp.またはTrichoderma ssp.の使用が可能である。原核生物宿主に関しては、例えば、下記の細菌:E. coli(大腸菌)、Bacillus(桿菌)、またはStreptomyces(ストレプトミセス)を使用してよい。このようにして単離された変異種は、その使用を視野にパッケージとしてもよい。
【0048】
したがって、本発明のもう一つの実施態様によれば、脂質担持細胞からのコレステロール流出を増進することが可能な、ApoA1類似物質またはその断片の、修飾されたアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードする核酸が提供される。このアミノ酸配列は、該アミノ酸配列の少なくとも一つのトリプトファンを、オキシダント耐性アミノ酸と置換することにより修飾される。
【0049】
本ペプチドが、完全に遺伝子コードアミノ酸によって構成される場合、またはその一部がそのように構成される場合、該ポリペプチドまたは該関連部分も、従来の組み換え遺伝子工学技術を用いて合成することが可能である。組み換え生産では、そのペプチドをコードするポリヌクレオチド配列は、適切な発現ベヒクルの中に挿入される、すなわち、挿入されるコード配列の転写および翻訳に必要な要素を含むベクターの中に挿入されるか、あるいは、RNAウィルスベクターの場合は、複製および翻訳に必要な要素を含むベクター中に挿入される。次に、この発現ベヒクルは、そのペプチドを発現することになる、適切な標的細胞にトランスフェクトされる。次に、使用される発現系に応じて、発現したペプチドは、当該技術分野で十分に確立された手法によって単離される。組み換え蛋白質およびペプチド生産のための方法は、当該技術分野で周知である(例えば、Sambrook et al., 1989, Molecular Cloning A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, N. Y.; およびAusubel et al., 1989, Current Protocols in Molecular Biology, Greene Publishing Associates and Wiley Interscience, N. Yを参照されたい。なお各文献の全体を参照により本明細書に含める)。
【0050】
生産効率を上げるために、ポリヌクレオチドは、酵素の切断部位によって隔てられる、複数のペプチド単位をコードするように設計することが可能である--このようにしてホモポリマー(反復ペプチドユニット)またはヘテロポリマー(連結した異なるペプチド)を作製することが可能である。得られたポリペプチドは切断し(例えば、適切な酵素で処理することによって)ペプチドユニットを回収することが可能である。これは、単一プロモーターによって駆動されるペプチドの収率を増すことが可能である。一実施態様では、ポリシストロン性ポリヌクレオチドを設計することが可能であり、その場合、それぞれが、キャップ-非依存性翻訳制御配列;例えば、内部リボソーム進入部位(IRES)に動作可能的に連結される領域をコードする複数のペプチド(すなわち、ホモポリマーまたはヘテロポリマー)をコードする単一mRNAが転写される。適切なウィルス発現系において使用されると、このmRNAによってコードされる各ペプチドの翻訳は、転写物の内部で、例えば、IRESによって指令される。このようにして、このポリシストロン性構築体は、単一の、大きなポリシストロン性mRNAの転写を指令し、次にこのmRNAは、複数の、個別ペプチドの翻訳を指令する。この方法は、ポリ蛋白質の生産および酵素処理を省くので、単一プロモーターによって駆動されるペプチド収率を著明に増す可能性がある。
【0051】
本明細書に記載されるペプチドを発現するには、種々の宿主発現ベクター系を利用してよい。そのようなものとしては、ただしこれらに限定されないが、微生物、例えば、適切なコード配列を含む組み換えバクテリオファージDNAまたはプラスミドDNA発現ベクターによって形質転換された細菌;適切なコード配列を含む組み換え酵母または真菌ベクターによって形質転換された酵母または線状真菌;適切なコード配列を含む組み換えウィルス発現ベクター(例えば、バキュロウィルス)によって感染された昆虫細胞系;適切なコード配列を含む組み換えウィルス発現ベクター(例えば、カリフラワーモザイクウィルスまたは煙草モザイクウィルス)によって感染されるか、または、組み換えプラスミド発現ベクター(例えば、Tiプラスミド)によって形質転換された植物細胞系;または、動物細胞系、などが挙げられる。
【0052】
発現系の発現要素は、その強度および特異性は様々である。利用される宿主/ベクター系に応じて、構成的および誘導性プロモーターを含む、いくつかの転写および翻訳要素の内、いずれのものを発現ベクターにおいて使用してもよい。例えば、細菌系においてクローンするのであれば、例えば、バクテリオファージλのpL、plac、ptrp、ptac(ptrp-lacハイブリッドプロモーター)などの誘導プロモーターを使用してよく;昆虫細胞系においてクローンするのであれば、バキュロウィルス多面体プロモーターなどのプロモーターを使用してよく;植物細胞系においてクローンするのであれば、植物細胞ゲノムから得られるプロモーター(例えば、熱ショックプロモーター;RUBISCOの小型サブユニット用プロモーター;クロロフィルa/b結合蛋白質用プロモーター)、または、植物ウィルスから得られるプロモーター(例えば、CaMVの35S RNAプロモーター;TMVのコート蛋白質プロモーター)を使用してよく;哺乳類細胞系においてクローンするのであれば、哺乳類細胞のゲノムから得られるプロモーター(例えば、メタロチオネインプロモーター)、または哺乳類ウィルスから得られるプロモーター(例えば、アデノウィルス後期プロモーター;ワクシニアウィルス7.5Kプロモーター)を使用してよく;発現産物の複数コピーを含む細胞系統を生成するのであれば、適切な選択可能なマーカーを備える、SV40-、BPV-、およびEBV-系ベクターを使用してもよい。
【0053】
本発明のオリゴヌクレオチドは、DNA、またはRNA、または、そのキメラ混合物、または誘導体、または、その、単一鎖または2本鎖の、修飾変異体であってもよい。このようなオリゴヌクレオチドは、塩基成分、糖成分、またはリン酸バックボーンにおいて、例えば、その分子の安定性、ハイブリダイゼーションなどを向上させるために修飾されてもよい。本発明におけるオリゴヌクレオチドは、さらに、他の付属基を含んでもよく、例えば、ペプチド(例えば、インビボにおいて宿主細胞の受容体を標的化するため)、または、細胞膜の横断輸送を促進するための因子(例えば、Letsinger et al. (1989; Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 86:6553-6556; Lemaitre et al. (1987) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 84:648-652; PCT公開番号 WO 88/09810、1988年12月15日発行、などを参照)、ハイブリダイゼーション誘発切断因子(例えば、Krol et al. (1988) BioTechniques 6:958-976を参照)、または挿入剤(例えば、Zon (1988) Pharm. Res. 5:539-549を参照)を含んでもよい。この目的のために、本オリゴヌクレオチドは、別の分子、例えば、ペプチド、ハイブリダイゼーション誘発架橋因子、輸送因子、ハイブリダイゼーション誘発切断因子などに結合されてもよい。
【0054】
哺乳類宿主細胞では、多くのウィルス系発現系を利用してよい。発現ベクターとしてアデノウィルスが使用される場合、コード配列は、アデノウィルスの転写/翻訳制御複合体、例えば、後期プロモーターおよび3分節リーダー配列に連結されてもよい。次に、このキメラ遺伝子は、インビトロ、またはインビボ組み換えによってアデノウィルスゲノムの中に挿入されてもよい。ウィルスゲノムの非必須領域(例えば、E1またはE3)への挿入は、生存可能で、感染宿主においてペプチドを発現することが可能な組み換えウィルスを生じる(例えば、Logan & Shenk, 1984, Proc. Natl. Acad. Sci. (USA) 81:3655-3659を参照)。それとは別に、ワクシニア7.5 Kプロモーターを用いてもよい(例えば、Mackett et al., 1982, Proc. Natl. Acad. Sci. (USA) 79:7415-7419; Mackett et al, 1984, J. Virol. 49:857-864; Panicali et al., 1982, Proc. Natl. Acad. Sci. 79:4927-4931を参照)。
【0055】
本発明のポリペプチドを生産するための他の発現系も、当業者には明らかであろう。本発明のもう一つの態様によれば、本明細書に記載される、修飾されたApoA1ポリペプチドをコードするDNA配列は、これまで入手できなかった哺乳類蛋白質のアミノ酸配列に関する情報を提供する点において有益である。言い換えると、本発明によって提供されるDNA配列は、以下のようなものを生成するという点で有用である:新規で有用なウィルス性環状プラスミドDNAベクター、新規で有用な形質転換されたおよびトランスフェクトされた原核生物および真核生物宿主細胞(細菌および酵母細胞、および哺乳類細胞の培養体を含む)、および、修飾されたオキシダント耐性ApoA1ポリペプチドおよびその関連産物を発現することが可能な、このような宿主細胞の新規で有用な培養育成法。
【0056】
それとは別に、宿主における比較的安定な存在を促進するのにベクターを使用しなくともよい。例えば、相同組み換えによって宿主ゲノムへの組込みを促進してもよい。核酸は、細胞への取り込みを促進するために、薬理学的に受容可能な担体、例えば、脂溶性担体(例えば、荷電性脂質)、リポソーム、またはポリペプチド担体(例えば、ポリリシン、遺伝子治療に関する総論はVerma, Scientific American, November 1990, pages 68-84である、なお、この文献を引用により本明細書に含める)の内部に納めてもよい。
【0057】
所望の核酸は、先ず、細胞の中に入れられ、この細胞は、患者に投与されてもよく(例えば、移植組織)、あるいは、所望の核酸は、インビボで取り込まれるように、患者に対し直接投与されてもよい。レシピエントに移送される細胞は、それらの細胞の成長または増殖に影響を及ぼす一つ以上の因子、例えば、SCFを用いて培養してもよい。
【0058】
本発明では、修飾された、オキシダント耐性ApoA1類似物質の結合体、例えば、融合蛋白質をコードする核酸分子を使用することも可能である。このような核酸は、適切な宿主に導入されると、ApoA1類似融合蛋白質を発現する構築体(例えば、発現ベクター)を調製することによって作製することが可能である。例えば、このような構築体を作成するには、脂質担持細胞からのコレステロール流出を増進することが可能な、修飾されたオキシダント耐性ApoA1類似蛋白質をコードする第1ポリペプチドを、別の蛋白質をコードする第2ポリヌクレオチドとインフレームに結合し、適切な発現系における該構築体の発現により融合蛋白質を生産させることが可能である。
【0059】
ApoA1類似融合蛋白質は、分子生物学技術を用いて簡単に調製することが可能である。本明細書に開示される治療剤と、当該技術分野で公知の任意のものを用いて任意の融合蛋白質を設計、作製することが可能である。融合蛋白質技術を簡単に適応して、選択的に切断が可能なペプチド配列を用いて二つの部分がつなぎ合わされる融合蛋白質を調製できる。このような目的を達成するために組み替えDNA技術を用いることは、今日では、当業者にとって標準的手法となっている。このような方法としては、例えば、インビトロ組み換えDNA技術、合成技術、およびインビボ組み換え/遺伝子組み換えが挙げられる。さらに、DNAおよびRNA合成は、自動合成機を用いて実行してもよい。
【0060】
このような融合蛋白質の調製は、該所望の融合蛋白質をコードする単一コード領域を調製するには、一般に、第1および第2DNAコード領域を調製すること、および、そのような領域を、インフレームに機能的に連結またはつなぎ合わせることを必要とする。一般に、構築体のどの部分がN末端領域またはC末端領域として調製されるかは、特に問題ではないと考えられている。
【0061】
本発明はさらに、製薬組成物および/または処方、および、高脂血症、高コレステロール血症、冠状動脈性心疾患、およびアテローム硬化症の治療におけるそれらの組成物の使用方法に関する。本発明の製薬組成物は、有効成分として、ApoA1類似ポリペプチド、またはその断片、および、インビボ投与および送達にとって好適な、薬学的に受容可能な賦形剤を含んでもよい。この製薬組成物は、一般に、薬学的に受容可能な担体または水性媒体に溶解または分散される、ApoA1修飾ポリペプチド、またはその断片の有効量を含む。併合治療剤も考慮の対象とされ、単一および併合薬剤のために、同型の基礎製薬組成物が用いられてもよい。
【0062】
「薬学的または薬理学的に受容可能な」という語句は、動物またはヒトに対し適宜投与された場合、有害反応、アレルギー反応、またはその他の不快な反応を引き起こすことのない分子実体および組成物を指す。飼育動物に対する使用も、同様に本発明の範囲内に含まれ、「薬学的に受容可能な」処方は、臨床的および/または獣医学的使用の両方のための処方を含む。
【0063】
本明細書で用いる「薬学的に受容可能な担体」とは、全ての溶媒、分散媒、コーティング、抗菌および抗真菌剤、等張剤および吸収遅延剤などを含む。薬学的活性物質のためのこのような媒体および薬剤の使用は、当該技術分野において周知である。いずれかの従来の媒体または薬剤が有効成分と不適合である場合を除き、治療組成物におけるその使用が考慮の対象とされる。ヒトへの投与に関しては、調剤は、FDA生物製剤部当局の要求する、滅菌性、発熱源性、一般的安全性、および純度に関する基準を満たしていなければならない。さらに、本組成には、補足的な有効成分を含めることも可能である。
【0064】
担体の例としては、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、および液体ポリエチレングリコールなど)、それらの混合物、および、植物油を含む溶媒および分散媒が挙げられる。多くの場合、等張剤、例えば、糖類、または塩化ナトリウムを含むことが好ましい。適切な流動性は、例えば、レシチンなどのコーティングを使用することによって、または、分散媒の場合は必要粒径を維持することによって、および/または、界面活性剤を用いることによって維持することが可能である。
【0065】
本発明は、種々のルートによる所望の製薬組成物の投与を考慮の対象とする。本発明のApoA1類似ポリペプチドまたはその断片を含む製薬組成物は、循環におけるバイオアベイラビリティーを保証するものであれば、いずれのルートによって投与されてもよい。これらのルートとしては、ただし決してこれらに限定されるものではないが、経口投与、鼻腔投与、直腸投与、腹腔内注入、血管内注入、皮下注入、経皮投与、吸引投与、および筋肉内注入が挙げられる。
【0066】
注射用調剤としては、滅菌縣濁液、水性または油性ベヒクルにおける活性剤の溶液または縣濁液が挙げられる。組成物はさらに、処方剤、例えば、縣濁剤、安定剤、および/または分散剤を含んでもよい。注入用処方は、単位剤形、例えば、アンプル、または複数用量容器において提供されてもよく、添加防腐剤を含んでもよい。
【0067】
それとは別に、注射用処方は、粉末形状として提供されてもよく、例えば、ただしこれらに限定されないが、発熱源非含有の滅菌水、バッファー、デキストロース液などを含むベヒクルによって、使用前に再構成するようにしてもよい。このために、本発明のApoA1類似ポリペプチドは凍結乾燥されてもよいし、または、共に凍結乾燥されるペプチド脂質複合体を調製してもよい。保存調剤は、単位剤形として供給され、インビボ使用の前に再構成されてもよい。
【0068】
長期的送達のために、有効成分は、埋設投与;例えば、皮下、皮内、または筋肉内注入のためのデポ調剤として処方されてもよい。したがって、例えば、有効成分は、ポリマーまたは疎水性物質(例えば、受容可能な油の中の縣濁液として)と共に、またはイオン交換樹脂と共に処方されてもよいし、または難溶誘導体として、例えば、ApoA1修飾ポリペプチドまたはその断片の、難溶塩として処方されてもよい。
【0069】
それとは別に、経皮的吸収のために有効成分をゆっくりと放出する接着性円板またはパッチとして製造される、経皮輸送系を用いてもよい。この目的のためには、有効成分の経皮的浸透を促進するために、浸透強化剤を用いてもよい。虚血性心疾患および高脂血症患者において使用されるように、ニトログリセリンパッチの中に、本発明のApoA1修飾ポリペプチドまたはその断片またはペプチド脂質複合体を取り込むことによって特に目覚しい利点が実現される可能性がある。
【0070】
経口投与では、本製薬組成物は、薬学的に受容可能な賦形剤、例えば、結合剤(例えば、あらかじめゼラチン化したトウモロコシでん粉、ポリビニールピロリドン、または、ヒドロキシプロピルメチルセルロース);充填剤(例えば、ラクトース、微細結晶セルロース、または、リン酸水素カルシウム);潤滑剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム、タルク、またはシリカ);崩壊剤(例えば、じゃがいもでん粉、またはでん粉グリコール酸ナトリウム);または湿潤剤(例えば、ラウリル硫酸ナトリウム)などと共に、従来の手段によって調製される形状、例えば、錠剤、またはカプセルの形状を取ってもよい。錠剤は、当該技術分野で周知の方法によってコートされてもよい。経口投与のための脂質調剤は、例えば、溶液、シロップ、または縣濁液の形状を取ってもよいし、あるいは、使用前に水またはその他の適切なベヒクルと共に再構成されるように、乾燥薬品として提供されてもよい。このような液体調剤は、薬学的に受容可能な添加剤、例えば、縣濁剤(例えば、ソルビトールシロップ、セルロース誘導体、または水素添加食用脂肪);乳化剤(例えば、レシチンまたはアカシア);非水性ベヒクル(例えば、アーモンド油、油状エステル、エチルアルコール、または分別植物油);および防腐剤(例えば、メチルまたはプロピル-p-ヒドロキシベンゾエートまたはソルビン酸)と共に、従来の手段によって調製されてもよい。調剤はさらに、バッファー塩、芳香剤、着色剤、および甘味剤を適宜含んでもよい。経口投与用調剤は、活性化合物の調節的放出を与えるように適切に処方されてもよい。
【0071】
頬内投与では、組成物は、従来のやり方で処方される錠剤またはロゼンジの形状を取ってもよい。直腸および経膣投与ルートでは、有効成分は、溶液(保持浣腸用)、坐剤、または軟膏として処方してよい。
【0072】
吸引投与では、有効成分は、加圧パックまたは噴霧器から、推進剤、例えば、ジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロメタン、二酸化炭素、または他のガスを用いて、エロゾルスプレイ状で好適に送達することができる。加圧エロゾルの場合、計測された量を送達するためのバルブを提供することによって用量単位を決定してもよい。吸引器または注入器に使用される、例えば、ゼラチンのカプセルおよびカートリッジは、化合物と、適当な粉末基材、例えば、ラクトースまたはでん粉との粉末混合物を含むように処方してもよい。
【0073】
組成物は、所望であれば、有効成分を含む、一つ以上のユニット剤形を含んでもよいパックまたは投薬デバイスに納めて提供されてもよい。パックは、例えば、金属またはプラスチックフォイル、例えば、ブリスターパックを含んでもよい。パックまたは投薬デバイスには、投与指示書が添えられてもよい。
【0074】
「単位用量」処方とは、ある定時送達のために適応される、投与成分の1用量または部分用量を含む処方である。例えば、例示の「単位用量」処方は、各日用量、または単位用量もしくは各日部分用量、あるいは、各週用量、または単位用量もしくは各週部分用量、などを含む処方である。
【0075】
通常の保存および使用条件下では、これらの調剤は全て、微生物の増殖を予防するために防腐剤を含んでいなければならない。微生物の作用の予防は、各種の抗菌剤および抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサールなどによって実行することが可能である。注射用組成物の長期にわたる吸収は、組成物の中に、吸収を遅らせる薬剤、例えば、モノステラリン酸マグネシウムやゼラチンを使用することによって実現することが可能である。
【0076】
処方前または処方の際、ApoA1修飾ポリペプチドまたはその断片は、不要な低分子量分子を除去するために、徹底的に透析し、および/または、適切であれば、所望のベヒクルにおいてより速やかに処方されるように、凍結乾燥しなければならない。注射用滅菌液は、適宜、上に挙げた、種々の他の成分と共に、必要量の活性剤を、適切な溶媒中に取り込み、次いでろ過滅菌することによって調製される。一般に、分散液は、種々の滅菌された有効成分を、基本的分散媒および上に挙げた他の成分の内必要なものを含む滅菌ベヒクル中に取り込むことによって調製される。
【0077】
注射用滅菌液を調製するための滅菌粉末の場合、好ましい調製法は、真空乾燥および凍結乾燥技術であり、これらは、活性剤と、他の所望の添加成分の溶液を前もって滅菌ろ過して得られるその成分とから成る粉末を生成する。
【0078】
薬学的「徐放」カプセル、または「持続放出」組成物または調剤を使用してもよく、一般に適用が可能である。徐放処方は、一般に、長期に亘って一定の薬剤レベルを与えるように設計されるものであり、本発明によるApoA1類似ポリペプチドまたはその断片を送達するのに使用されてもよい。
【0079】
ある実施態様では、ApoA1類似ポリペプチドまたはその断片と共に、リポソームおよび/またはナノ粒子を用いてもよい。リポソームの形成および使用は、下記に要約するように当業者には周知である。リポソームは、リン脂質から形成され、このリン脂質は、水性媒体中で分散され、自発的に多重膜同心円二層小胞(多重膜小胞(MLV)とも呼ばれる)を形成する。MLVは、一般に、25 nmから4 μmの直径を持つ。MLVを超音波処理すると、直径が200から500 Åの範囲で、中心部に水溶液を含む、小さな単一膜小胞(SUV)が得られる。ApoA1類似ポリペプチドまたはその断片はまた、リン脂質リポソームとの自発的反応、またはコール酸透析法を用いて、約8から20 nmのリン脂質円板の中に処方することも可能である。
【0080】
ナノカプセルは、一般に、安定で、再現可能なやり方で化合物を取り込む。細胞内でのポリマー過担持による副作用を避けるため、インビボで分解することが可能なポリマーを用いて、超微小粒子(サイズが約0.1 μm)を設計しなければならない。これらの要件に合致する、生分解性ポリアルキル-シアノアクリレートナノ粒子は、本発明における使用が考慮されるが、このような粒子は、簡単に製造することが可能である。
【0081】
さらに追加の、薬学的活性剤を、主要な活性剤、例えば、本発明のペプチドと共に送達してもよい。治療法としては、ただしこれらに限定されないが、関連する薬剤の同時投与、または逐次投与が挙げられる。一実施態様では、このような薬剤としては、ただしこれらに限定されないが、アテローム硬化病態および/またはその合併症のリスクを下げる薬剤が挙げられる。このような薬剤としては、ただしこれらに限定されないが、ベータ遮断剤、ベータ遮断剤およびチアジド利尿剤の併用、スタチン、アスピリン、ace-阻害剤、ace受容体阻害剤(ARB)などが挙げられる。
【0082】
ベータ遮断剤の例としては、ただしこれらに限定されないが、心選択性(選択性ベータ1遮断剤)、例えば、アセトブトロール(Setral)、アテノロール(Tenormin)、ベータキソロール(Kerlone)、ビソプロロール(Zebeta)、メトプロロール(Lopressor)などが挙げられる。非選択性遮断剤(ベータ1およびベータ2を等しく遮断する)の例としては、ただしこれらに限定されないが、カルテオロール(Cartrol)、ナドロール(Corgard)、ペンブトロール(Levatol)、ピンドロール(Visken)、プロパノロール(Inderal)、チモロール(Blockadren)、ラベタロール(Normodyne, Trandate)などが挙げられる。
【0083】
ベータ遮断剤、チアジド利尿剤併用の例としては、ただしこれらに限定されないが、Lopressor HCT, ZIAC、Tenoretic、Corzide、Timolide、Inderal LA 40/25、Inderide、Normozideなどが挙げられる。
【0084】
スタチンの例としては、ただしこれらに限定されないが、プラバスタチン(Pravachol/Bristol-Myers Squibb)、シンバスタチン(Zocor/Merck)、ロバスタチン(Mevacor/Merck)、Lipitor (Pfizer)などが挙げられる。
【0085】
ace阻害剤の例としては、ただしこれらに限定されないが、カプトプリル(例えば、Capoten、Squibbによる)、ベナゼプリル(例えば、Lotensin、Novartis製)、エナラプリル(例えば、Vasotec、Merck製)、フォシノプリル(例えば、Monopril、Bristol-Myers製)、リシノプリル(例えば、Prinivil、Merck製、または、Zestril、Astra-Zeneca製)、キナプリル(例えば、Accupril、Parke-Davis製)、ラミプリル(例えば、Altace、Hoechst Marion RousselとKing Pharmaceuticals製)、イミダプリル、ペリンドプリルエルブミン(例えば、Aceon、Rhone-Polenc Rorer製)、トランドラプリル(例えば、Mavik、Knoll Pharmaceutical製)などが挙げられる。適切なARBS(Ace受容体遮断剤)としては、ただしこれらに限定されないが、ロサルタン(例えば、Cozaar、Merck製)、イルベサルタン(例えば、Avapro、Sanofi製)、カンデサルタン(例えば、Atacand、Astra Merck製)、バルサルタン(例えば、Diovan、Novartis製)などが挙げられる。
【0086】
本発明のもう一つの態様は、心血管系障害の治療法に関する。本明細書で用いる「心血管系障害」とは、心臓または血管(動脈および静脈)を冒す障害クラスを指す。「心血管系障害」とはさらに、循環系を冒す全ての疾患を指し、アテローム硬化症(動脈疾患)に関連する疾患を指すのに用いることが可能である。心血管系障害としては、ただしこれらに限定されないが、動脈瘤、アンギナ、不整脈、アテローム硬化症、心筋症、脳血管病、先天性心疾患、うっ血性心不全、心筋炎、心臓弁疾患、冠状動脈疾患、拡張型心筋症、拡張機能障害、心内膜炎、高血圧(高血圧症)、肥大型心筋症、僧帽弁逸脱、心臓発作、血管狭窄、および静脈血栓塞栓症が挙げられる。
【0087】
本明細書で用いる「動脈硬化症("arteriosclerosis")」とは、中または大動脈の、程度を問わない硬化(弾力性の喪失)を指し(ギリシャ語で、”Arterio"とは動脈を意味し、"sclerosis"とは硬化を意味する)、動脈硬化症とは、主に小動脈(小さい動脈)を冒すアテローム硬化症である。本明細書で用いる「アテローム硬化症」とは、特に、アテロームプラークによる動脈の硬化を指す。したがって、アテローム硬化症とは、動脈硬化症の一形式である。アテローム硬化症は、大部分がリポ蛋白質(コレステロールおよびトリグリセリドを運搬する血漿蛋白質)の堆積による、動脈壁における慢性炎症反応である。これは、普通、動脈の「硬化」または「下地付け(furring)」と呼ばれる。これは、動脈内における複数のプラークの形成によって引き起こされる。
【0088】
本明細書に記載される方法は、脂質担持細胞からのコレステロール流出を増進することが可能な、ApoA1類似物質またはその断片を含む製薬組成物の治療的有効量または生物学的有効量を、対象に投与する工程を含む。このApoA1類似物質または断片のアミノ酸配列は前述のように、該アミノ酸配列の少なくとも一つのトリプトファンを、オキシダント耐性アミノ酸によって置換することによって修飾することが可能である。
【0089】
したがって、「生物学的有効量」または「治療的有効量」とは、前述の治療法のそれぞれに関して言うと、抗炎症作用、細胞内コレステロール流出の増進、または、心血管系疾患の症状の寛解を引き起こすのに有効な、少なくとも一つのApoA1修飾ポリペプチドまたはその断片の量である。
【0090】
本明細書で用いる「投与」とは、抗炎症作用、細胞内コレステロール流出の増進、または、心血管系疾患症状の寛解を引き起こすのに有効な量(単数または複数)および期間(単数または複数)において、少なくとも一つのApoA1類似ポリペプチドまたはその断片を含む組成物を、供給または送達することを意味する。蛋白質様治療剤の受動的投与は、一般に、一部は、その単純性と再現性のために好まれる。
【0091】
本発明のポリペプチドは酸化耐性の特性を有することから、本明細書に記載されるApoA1類似ポリペプチドおよびその断片はまた、ある細胞から肝臓へ向かうコレステロール流出を増進する方法にも使用することが可能である。この方法は、配列番号1の一部に一致するアミノ酸配列を有する精製ポリペプチドの生物学的有効量を、その細胞に投与する工程を含む。ここで該アミノ酸配列において、Xが、トリプトファンまたはフェニルアラニンから成る群から選ばれ、少なくとも一つのXはフェニルアラニンである。
【0092】
本発明はさらに、対象において、炎症性病態の一つ以上の症状を寛解する方法に関する。「炎症性病態の一つ以上の症状の寛解」に関連して用いられる「寛解」という用語は、炎症病態および/または関連する病状に特徴的な一つ以上の症状の、低減、阻止、または除去を指す。このような低減としては、ただしこれらに限定されないが、炎症性蛋白質生合成の減少、血漿コレステロールの低下などが挙げられる。この方法は、ApoA1類似物質またはその断片を含む製薬組成物を対象に投与する工程を含む。慢性および急性炎症性病態両方の治療が、本発明の考慮の対象とされる。
【0093】
本発明のさらにもう一つの態様は、血管傷害(例えば、バルーン血管形成術)の後に起こる可能性のある、内皮傷害、例えば動脈血管内皮傷害の、治療または寛解を増進する方法に関する。この方法は、ApoA1類似物質またはその断片を含む製薬組成物を、対象に投与する工程を含んでもよい。ApoA1類似物質またはその断片は、内皮細胞の移動を増進し、内皮細胞傷害を治療するのに有効な量として投与することが可能である。
【0094】
本発明の治療方法および使用方法はさらに、ApoA1類似ポリペプチド(単数または複数)またはその断片(単数または複数)を含む少なくとも一つの治療ペプチドをコードする核酸を、標的症状、病態、または疾患の近傍においてその発現をもたらすのに有効なやり方で提供することにまで拡張される。どの遺伝子治療技術も使用が可能であり、例えば、DNAの剥き出しの送達、組み換え遺伝子およびベクター、患者細胞のエクスビボ操作を含む細胞性送達、などの使用が可能である。
【0095】
さらに、ApoA1ポリペプチドまたはその断片の用量または併用治療は、意図する治療範囲の最低限界に向けてのものである状況下でも、ある特定の障害または患者の背景において見てみると、他の全ての既知の治療と同じぐらい、またはより優れて有効である可能性のあることが理解されよう。ある種の障害および病態は、残念ながら中期または長期的には効果的に治療することができないことが臨床家には明白であるが、それだからといって、そのことは、本治療の有用性を、特にそれが一般に採用される他の治療策と少なくともほぼ同じぐらい有効である場合には、否定することにはならない。
【0096】
本発明の治療プログラムの意図は、一般に、用量を有害な毒性レベルよりも低く抑えながら、著明な抗炎症作用またはコレステロール流出の増進を引き起こすことである。用量そのものを変えることに加えて、投与プログラムを、治療方策が最適化するように適応させることも可能である。
【0097】
本発明の活性剤はさらに、多くの場面において有用である。例えば、心血管系障害(例えば、アテローム硬化症、発作など)は、急性期炎症反応、例えば、回帰性炎症疾患、ウィルス感染(例えば、インフルエンザ)、細菌感染、真菌感染、臓器移植、外傷またはその他の傷害などに関連する炎症などの勃発にしばしば付随するか、またはそれに続いて起こることが観察されている。
【0098】
したがって、ある実施態様では、本発明は、本明細書に記載される活性剤の内の一つ以上を、急性炎症反応のリスクを持つか、または現に罹患するか、および/または、アテローム硬化症の症状および/または関連する病状(例えば、発作)のリスクを持つか、または現に罹患する対象に対し、投与することを考慮の対象とする。
【0099】
したがって、例えば、冠状動脈疾患を抱えるか、または該疾患のリスクを持つヒトに対しては、インフルエンザの季節の間、本発明の、一つ以上の製薬組成物を予防的に投与してもよい。回帰性炎症病態、例えば、関節リューマチ、各種自己免疫疾患などに悩まされるヒト(または動物)は、アテローム硬化症または発作の進行を緩和または予防するために、本明細書に記載される一つ以上の薬剤で治療することが可能である。外傷、例えば、急性傷害、臓器移植などに悩まされるヒト(または動物)は、アテローム硬化症または発作の進行を緩和するために、本発明のポリペプチドによって治療することが可能である。別の特定の実施例では、心筋梗塞後、対象に対し、プラークのサイズを縮小し、プラークを安定化して破裂または潰瘍を予防するために、静脈内注射を通じて治療することも可能と考えられる。
【0100】
下記の実施例は、本発明の好ましい実施態様を例示するために含められる。当業者であれば、下記の実施例において開示される技術は、本発明の実施において十分に機能することが本発明者によって発見された技術を代表するものであり、したがって、その実施にとって好ましいモードを構成すると見ななしうることが当然理解されるはずである。しかしながら、本開示に照らせば、当業者であれば当然、開示される特定の実施態様においても多くの変更を行い、それでいてなお、本発明の精神および範囲を逸脱することなく同様のまたは類似の結果を取得することが可能であることを理解するであろう。
【実施例】
【0101】
下記の実施例では、本発明者らは、ApoA1におけるMPO感受性残基である、リシン、メチオニン、およびトリプトファンを修飾することの効果を定量することに努めた。4個のApoA1トリプトファン残基をロイシンによって置換することは機能の喪失を招くが、一方、トリプトファンの、フェニルアラニンによる置換は、ApoA1の機能を維持するだけでなく、ApoA1に対し、MPOによる酸化的不活性化に対する耐性を付与することが見出された。
【0102】
<方法>
<質量分析>
ヒトのアテローム由来のApoA1を、以前報告したように免疫アフィニティークロマトグラフィーによって単離した。ApoA1は、グリシンバッファー(pH2.5)に溶出し、直接トリプシン消化させるか、または、先ず、SDS-PAGEによって分離し、ゲル内トリプシン消化を行った。質量分析を行い、以前に記載したように、コリジョン誘発解離(CID)スペクトラムを得た。免疫アフィニティークロマトグラフィーによって単離された、ヒトアテロームから得たApoA1、または、健康なボランチアの血漿から得たApoA1について、以前記載したように、重同位元素の内部標準と共に酸加水分解後、クロロトリプシンおよび2-アミノアジピン酸分析による二重アッセイを行なった。
【0103】
<部位特異的突然変異導入および組み換えApoA1の生産>
トリプトファン(8, 50, 72, 108)およびメチオニン(86, 112, 148)残基に対する点突然変異は、Stratageneから市販されるQuickChange Mutagenesis Kitを用いて実行し、DNA配列決定によって確認した。プラスミドは、大腸菌BL21株(DE-3) pLysS, InJに形質導入し、ApoA1の発現および精製は、以前の記載通りに行った。rh-ApoA1は、PBSまたはMPO反応バッファー(60 mmol/Lのリン酸ナトリウム、100 mmol/Lの塩化ナトリウム、100 μmol/Lのジエチレントリアミン五酢酸、pH7.0)に対して徹底的に透析してイミダゾールの全ての痕跡を取り除き、SDS-PAGEによって分析したところ、純度>95%であることが判明した。TrpおよびMet置換は、蛋白質のOD280、およびBCAまたはLowryの蛋白質アッセイに対する反応性を変えてしまうので、蛋白質濃度は、以前に記載したように、ヒト血漿由来ApoA1(Biodesign)標準による、o-フタールジアルデヒド(OPA)アッセイを用いて、遊離アミンに基づいて定量した。rh-ApoA1の最初のMetおよびHisタグの切断は、ギ酸処理によって実行し、次いで高速液体クロマトグラフィー(FPLC)精製を行った。
【0104】
<ApoA1のリシン修飾>
ヒト血漿由来のApoA1を、PBSに対して透析し、0.5 mg/mLまで希釈した。リシン還元性メチル化を以前の記載の通りに行った。リシン修飾の程度は、OPAアッセイによって定量した。次に、ApoA1をMPO反応バッファーに対して透析し、リシン修飾ApoA1の蛋白質濃度をBCA試薬を用いて定量した。
【0105】
<ApoA1 MPOおよび次亜塩素酸修飾>
以前に記載したように調製した、最終濃度57 nmol/LのMPOを、あらかじめMPO反応バッファーに対して徹底的に透析した100 μg/mL (3.5 μmol/L)のApoA1にに加えた。反応は、過酸化水素を、4分液においてApoA1に対し種々のモル比で、37℃、15分間隔で加えることによって起動し、インキュベーションを90分持続し、その90分時点で、2 mmol/LのL-メチオニオンを加えて反応を停止させた。ApoA1の化学的修飾のために、次亜塩素酸ナトリウム(NaOCl)を、4分液において種々の濃度で、MPOバッファーに溶解した100 μg/mLのApoA1に対し37℃、15分間隔で加えた。合計60分のインキュベーション時間後、2 mmol/LのL-メチオニオンを加えて反応を停止させた。
【0106】
<ABCA I-依存性コレステロール流出アッセイ>
RAW 264.7マウスのマクロファージ細胞を、[3H]コレステロールで標識し、以前に記載した通り、ABCA1活性を誘発するために、0.3 mmol/L 8Br-cAMPで処理した。この細胞を洗浄し、無血清培地中で、0.3 mmol/L 8Br-cAMPの存在下、および、種々のApoA1調剤の存在または不在下に、4時間チェースした。チェース用培地中の放射活性を、軽い遠心で残渣を沈殿させてから定量した。細胞中の放射活性を、ヘキサン:イソプロパノール(3:2)で抽出し、シンチレーションバイアル中の溶媒を蒸発させ、次いでカウンティングを行うことによって定量した。コレステロール流出パーセントは、100X(培地のdpm)/(培地のdpm + 細胞のdpm)として計算した。
【0107】
<脂質結合活性アッセイ>
ApoA1の脂質結合活性は、以前に記載した通り、ヒトの低密度リポ蛋白質の、フォスフォリパーゼC(PLC)介在性凝集に対する抑制に基づいて評価した。本発明者らは以前に、このアッセイは、DMPC分散解除アッセイによって観察されるものと同様の結果を与えるが、このアッセイの方がより感受性が高く、必要とされるApoA1はより少ないことを示した。このアッセイで使用されるApoA1の最終濃度は12.5 μg/mLであるが、これは、LDL凝集の初期速度を約75%減少させるのに十分であった。
【0108】
<ApoA1架橋の検出>
レーン当たり250 gのApoA1を、SDSサンプルバッファーにおいて変性し、SDSの存在下10%トリスグリシンゲルにおいて泳動させ、問題の蛋白質をポリビニリデンフルオリド(PVDF)膜に移送した。この膜を、ヤギ抗ヒトApoA1一次抗体(1:1000希釈、DiaSorin)、ウサギ抗ヤギHRP結合抗体(1:1000希釈)によって順次プローブし、ApoA1は、強化化学発光基質によって可視化した。
【0109】
<結果>
<ヒトアテロームにおけるApoA1修飾>
本発明者らは、ヒトのアテローム細胞から単離されたApoA1が、修飾されたトリプトファン、メチオニン、およびリシン残基を含むかどうかを決定した。タンデム質量分析を用いて、ApoA1の4つのトリプトファンの位置8、50、72、および108のうち、全てにおいてモノヒドロキシトリプトファン残基を、位置108においてジヒドロキシトリプトファンを、検出することができた(図1A〜F)。本発明者らは以前、インビトロでMPOで修飾されたApoA1の残基W72において、モノ-およびジ-ヒドロキシトリプトファンを特定した(Peng, D.Q., Wu, Z., Brubaker, G., Zheng, L., Settle, M., Gross, E., Kinter, M., Hazen, S.L. and Smith, J.D. (2005) J Biol Chem 280, 33775-33784)。それに加えて本発明者らは、残基48および112においてメチオニンスルフォキシドを検出した(図1D,E)。MPO生成HOClによるリシン修飾を探すために、本発明者らは、安定同位元素希釈HPLCとオンラインタンデム質量分析を用いて、MPO生成オキシダントによるリシン酸化の最終産物である2-アミノアジピン酸を定量した。6名の健康な志願者の血漿から単離されたApoA1では、2-アミノアジピン酸レベルは低いが検出可能であった。一方、6個のヒトのアテロームサンプルから単離されたApoA1では、その平均レベルが著明に、約16倍も上昇していた(図2、両側t-検定でp=0.005)。したがって、ApoA1のトリプトファン、メチオニン、およびリシンの酸化は、ヒトのアテロームにおいて生理的に起こる。そこで本発明者らは、このような修飾の内のどれが、細胞コレステロール受容能の減退をもたらすApoA1の機能不全をもたらすのかを決定することを試みた。
【0110】
<ApoA1リシンの修飾>
ApoA1の両親媒性構造において、21のリシン残基は大部分が、疎水面の両側とその近接に局在する。本発明者らは以前に、ApoA1リシン残基は、MPOによる修飾を受ける可能性があるということ、および、ApoA1の陽性電荷を変えるようなApoA1リシン残基の広範な化学的修飾を行うと、ApoA1のコレステロールアクセプタ活性の消失を招くということを証明していたので、MPOによるリシン修飾は、MPO誘発性ApoA1機能喪失の原因となる有力な候補であると予想された。しかしながら同時に本発明者らは、リシンの陽性電荷を保存する還元性メチル化によるリシン修飾では、ApoA1機能のごく僅かな減退しかもたらされないことも見出していた。ApoA1に対し、92%のリシン修飾をもたらす還元性メチル化を行うか、または対照インキュベーションを行い、MPO反応バッファーに対して徹底的に透析した。修飾反応は、触媒量のMPOを用い、H2O2:ApoA1のモル比を漸増しながら行った。反応産物は、ABCA1を誘発するようにあらかじめcAMP類縁体によって処理した、コレステロール標識RAW264マクロファージを用いて、コレステロールアクセプタ活性について定量した。修飾反応においてH2O2が不在の場合には、メチル化ApoA1および対照の非メチル化ApoA1は、強力で、同等な、ABCA1依存性コレステロールアクセプタ活性を示した。H2O2用量を増していくと、メチル化および対照の両ApoA1サンプルのコレステロールアクセプタ活性は、同様に低下した(図3)。さらに、これらの調製品のアルファヘリックス含量をCDによって推定したが、メチル化および対照ApoA1調製品の両方とも、アルファヘリックス含量のMPO/H2O2用量依存性低減に対して同様に感受性を持っていた。リシンの一次アミンの還元性メチル化による三次アミンへの変換は、その化学的反応性は下げるが、ApoA1機能の保護をもたらさなかったので、MPOによるApoA1のリシン修飾は、ApoA1の機能喪失の原因とは考えられない。
【0111】
<メチオニン修飾は、MPO誘発によるApoA1機能の喪失を保護しない>
次に本発明者らは、以前、MPO誘発によるApoA1機能の喪失に関与するとされた、3個のApoA1メチオニン残基に注意を向けた。三つ全てのメチオニンをバリンで置換するために、本発明者らは、ヒトの組み換えApoA1 (rh-ApoA1)を用いた。これは、N末端にもう一つのメチオニン開始コドンおよび6-hisタグを加える。本発明者らは、以前に、rh-ApoA1は、そのコレステロール活性、脂質結合活性、および、MPO介在性機能喪失において、血漿由来ApoA1と同様に振舞うことを明らかにした。部位特異的突然変異導入を用いて、本発明者らは、3個の内部メチオニンがバリンに変換された蛋白質をコードするApoA1発現構築体を創出し、これを、rh-ApoA1 3MV(3個のメチオニンがバリンへ)と呼んだ。開始メチオニンは置換することができない。しかしながら、このメチオニンおよびhisタグは、以前記載したように、ギ酸インキュベーションによって化学的に切断することが可能である(Ryan, R. O., Forte, T. M., and Oda, M. N. (2003) Protein Expr. Purif. 27, 98-103)。これは、位置2におけるグルタミン酸のアスパラギン酸による置換が、hisタグの近傍に、特異なギ酸感受性のAsp-Proジペプチドを生成するためである。本発明者らは、rh-ApoA1 3MVは、開始MetおよびHisタグが元のままであろうが、取り除かれようが、野生型rh-ApoA1と同様のABCA1-依存性コレステロールアクセプタ活性を持つことを確定した。さらに、rh-ApoA1 3MVは、N-末端メチオニンが有ろうと無かろうと、および野生型rh-ApoA1も、高用量の(H2O2:apoAI=1.5:1)MPO介在性コレステロールアクセプタ活性の喪失に対し等しく感受性を持っていた(図4A)。rh-ApoA1および3MV変異種のMPO修飾を、H2O2:apoAIモル比を中程度に変えて実行したところ、3MV変異種の方が、低いモル比ではコレステロールアクセプタ活性に対しより感受性を持っていた(図4B)。例えば、1.4のH2O2:apoAI比率では、野生型ApoA1のコレステロールアクセプタ活性の消失は無視できるほどであるのに、一方、3MV変異種の方は、そのコレステ
ロールアクセプタ活性の約半分を失う。したがって、本発明者らは、ApoA1における3個のメチオニン残基は、ApoA1機能の酸化的傷害に係わるのではなく、実際には、無害にオキシダントを吸収することによって保護的役割を果たすことを見出した。
【0112】
<ApoA1のトリプトファン残基はApoA1機能に係わる>
次に本発明者らは、4個のトリプトファン残基のそれぞれを、ロイシン(rh-ApoA1 4WL)か、またはフェニルアラニン(rh-ApoA1 4WF)に変えることによって、ApoA1トリプトファン残基の関与を調べた。トリプトファン残基の芳香族性は、ApoA1のコレステロールアクセプタ活性にとって決定的重要性を持つと思われる。なぜなら、4WL変異種は、広い範囲のApoA1用量に亘って行われたコレステロール流出実験においてこの活性の大部分を失ったのに対し、4WF変異種の方はこの活性を保持していたからである(図5A)。本発明者らは、K2dアルゴリスムを用いたCDにより、これらの蛋白質のアルファヘリックスの予想含量を調べ、野生型蛋白質は、57%のアルファヘリックスを含むが、4WLおよび4WFでは共に、それぞれ、79%および77%と、アルファヘリックス含量が増大することを見出した。したがって、4WL変異種における流出および脂質結合活性の喪失は、ヘリックス含量の消失に帰すことはできない。
【0113】
rh-ApoA1および4WF変異種の両方を、H2O2用量の漸増下にMPO/CL-/H2O2酸化系に暴露した。図5Bは、各蛋白質の二つの独立した標本を用いた、四つの異なる実験を代表する結果を示す。以前に観察したように、野生型ApoA1のABCA1依存性コレステロールアクセプタ活性は、MPO誘発による酸化作用を増すことによって抑制されたが、一方、4WF変異種は、H2O2:apoAI比が15の場合においてもこの活性を維持した。
【0114】
MPO/CL-/H2O2酸化系は、漂白剤の活性試薬であるHOClを生成するが、本発明者らおよび他の人々も、以前に、ApoA1のHOCl処理は、コレステロールアクセプタ活性および脂質結合活性の消失を招くことを明らかにした。そこで本発明者らは、野生型ApoA1および4WF変異出を漸増用量のHOClに暴露した。MPO修飾系で得られた所見と同様、4WF変異種のコレステロールアクセプタ活性は、この処理に対して耐性を示した一方、野生型rh-ApoA1の流出活性は、HOClの濃度を増すことによって損なわれた(図6)。
【0115】
rh-ApoA1および4WFの脂質結合活性を、DMPC乳剤クリアランスアッセイによって評価したところ、両蛋白質は等価な活性を示した(図7A)。PLC介在性LDL凝集アッセイを用いて、rh-ApoA1と比べた場合(図4B)の、rh-ApoA1 4WFの無細胞脂質結合活性も、MPO介在性抑制に対して耐性を示した(図7B)。
【0116】
ApoA1のMPO修飾によって広範な架橋が形成され、ダイマーやマルチマーと、恐らく分子内架橋とが実現される。本発明者らは以前に、MPO介在性ApoA1の架橋パターンは、7個全てのチロシン残基がフェニルアラニンに変換された変異種では変わらないことを示した。本発明者らは、rh-ApoA1および4WF変異種を、H2O2用量を漸増しながらMPO/CL-/H2O2酸化作用に暴露したところ(図5Bにおいて流出に関して用いたものと同じ蛋白質産物を用いて)、分子間架橋の変化と一致して、変性ゲルにおける両蛋白質の移動が変わることを観察した。しかしながら、移動パターンは異なっていた。すなわち、4WF変異種では、約70kDに鋭い主要なバンドが得られたが、一方、野生型蛋白質では、55および65kDの間に、やや明瞭さの劣る主要なゾーンが得られた(図8)。モノマーの移動は、両蛋白質において変化した。これは、分子間架橋またはアミノ酸修飾を示すものと考えられる。4WF変異種は、MPO介在性のコレステロールアクセプタ活性の喪失に対して耐性を持つにもかかわらず、特に低用量のH2O2において、MPO誘発による架橋反応に対してより感受性を持つ。本発明者らはさらに、これらの修飾蛋白質に対し、CDによる構造解析を行い、両方とも、ただし4WFの方がより高い値においてスタートするが、アルファヘリックス含量の損失に対して感受性を持つことを見出した。
【0117】
本発明者らはさらに、POCP、および、野生型または4WF ApoA1を用い、コール酸透析によってrHDLを調製した。両方とも、脂質非含有ApoA1をまったく残留させず、非変性ゲルにおいて約9.8、12、および17 nmにあると推定される、類似パターンのrHDL円板を生成した(図9)。この野生型および4WF rHDLを調べたところ、完全に脂質化されたApoA1の場合に期待されるように、両方とも、ABCA1依存性アクセプタ活性が無くとも、RAW264.7細胞からのABCA1-非依存性コレステロール流出の仲介において、等しく有能であった(図10)。
【0118】
本発明者らは、位置2にトリプトファン残基を含む、上述のヘリックス状両親媒性ペプチドp18を合成した。本発明者らはさらに、そのトリプトファンをフェニルアラニン(P18 WF)、またはロイシン(P18 LF)で置換した類縁体を合成した。本発明者らは、このトリプトファン非含有ペプチドが、用量依存性のABCA1介在性コレステロールアクセプタ活性を有することを明らかにした(図11)。
【0119】
本発明の上の説明から、当業者であれば、改良点、変更点、および修正点を感得するであろう。当該技術分野の技能の範囲に納まる、そのような改良、変更、および修正は、添付の特許請求の範囲によってカバーされることが意図される。本出願で引用された全ての文献、公刊物、および特許は、参照によりその全体が本出願に含まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂質担持細胞からのコレステロール流出を増進することが可能なApoA1類似物質を含む精製ポリペプチドであって、該ApoA1類似物質は、少なくとも一つのトリプトファンを含む、ApoA1またはApoA1の類似物質のアミノ酸配列の少なくとも一部を含むアミノ酸配列を有し、該ApoA1または該ApoA1の類似物質由来の少なくとも一つのトリプトファンは、該ApoA1類似物質のアミノ酸配列において、オキシダント耐性アミノ酸によって置換されることを特徴とする、ポリペプチド。
【請求項2】
前記ApoA1類似物質が、MPO、MPO-生成オキシダントによる酸化作用、MPO-生成反応性塩素化分子による酸化作用、MPO/H2O2/Cl-系に関連する酸化作用、HOCl/OCl-による酸化作用、MPO生成反応性窒素分子による酸化作用、MPO/H2O2/NO2-系に関連する酸化作用、二酸化窒素による酸化作用、ペルオキシナイトライト(ONOO-)による酸化作用、ペルオキシカルボキシナイトライト(ONOOCO2-)による酸化作用、および、ONOO-が、バッファーにおいてCO2またはHCO3-の存在下に活動するときに形成される産物による酸化作用、の内の少なくとも一つに対して耐性を示すことを特徴とする、請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項3】
前記オキシダント耐性アミノ酸がフェニルアラニンであることを特徴とする、請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項4】
配列番号1の少なくとも一部を含み、ここでXは、トリプトファンまたはフェニルアラニンから成る群から選ばれ、少なくとも一つのXはフェニルアラニンである、請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項5】
前記ApoA1類似物質が、少なくとも一つのトリプトファンを含む、天然ApoA1の内の約5から約50個のアミノ酸から事実上成り、該少なくとも一つのトリプトファンが、オキシダント耐性アミノ酸によって置換されることを特徴とする、請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項6】
前記ApoA1類似物質が、配列番号2〜69から成る群から選ばれるアミノ酸配列を含み、該配列において、Xはトリプトファンまたはオキシダント耐性アミノであり、少なくとも一つのXは、オキシダント耐性残基に置換されることを特徴とする、請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項7】
前記ポリペプチドが、少なくとも一つの"D"アミノ酸残基を含むことを特徴とする、請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項8】
全てか、または大抵のエナンチオマーアミノ酸が"D"アミノ酸であることを特徴とする、請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項9】
さらに保護基を含むことを特徴とする、請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項10】
さらにポリヒスチジンタグを含む、請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項11】
対象に投与されると、ミエロペルオキシダーゼ(MPO)による酸化的不活性化に対して耐性を示すことを特徴とする、請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項12】
融合蛋白質であることを特徴とする、請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項13】
天然アポリポ蛋白質アミノ酸配列の一つ以上のトリプトファン残基をオキシダント耐性アミノ酸によって置換することによって修飾されたアミノ酸配列を含む、精製アポリポ蛋白質ポリペプチド。
【請求項14】
請求項1のポリペプチド、および薬学的に受容可能な賦形剤を含む製薬組成物。
【請求項15】
経口投与、鼻腔投与、直腸投与、腹腔内注入、血管内注入、皮下注入、経皮投与、吸引投与、および筋肉内注入から成る群から選ばれるルートによって対象に投与されるように処方されることを特徴とする、請求項14に記載の製薬組成物。
【請求項16】
心血管系障害の治療方法であって:
対象に対し、脂質担持細胞からのコレステロール流出を増進することが可能なApoA1類似物質を投与する工程を含み、
該ApoA1類似物質は、少なくとも一つのトリプトファンを含む、ApoA1または該ApoA1の類似物質のアミノ酸配列の少なくとも一部を含むアミノ酸配列を有し、該ApoA1または該ApoA1の類似物質由来の少なくとも一つのトリプトファンは、該ApoA1類似物質のアミノ酸配列において、オキシダント耐性アミノ酸によって置換されることを特徴とする、方法。
【請求項17】
前記ApoA1類似物質が、MPO、MPO-生成オキシダントによる酸化作用、MPO-生成反応性塩素化分子による酸化作用、MPO/H2O2/Cl-系に関連する酸化作用、HOCl/OCl-による酸化作用、MPO生成反応性窒素分子による酸化作用、MPO/H2O2/NO2-系に関連する酸化作用、二酸化窒素による酸化作用、ペルオキシナイトライト(ONOO-)による酸化作用、ペルオキシカルボキシナイトライト(ONOOCO2-)による酸化作用、および、ONOO-が、バッファーにおいてCO2またはHCO3-の存在下に活動するときに形成される産物による酸化作用、の内の少なくとも一つに対して耐性を示すことを特徴とする、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記オキシダント耐性アミノ酸がフェニルアラニンであることを特徴とする、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
配列番号1の少なくとも一部を含み、ここでXは、トリプトファンまたはフェニルアラニンから成る群から選ばれ、少なくとも一つのXはフェニルアラニンである、請求項16に記載の方法。
【請求項20】
前記ApoA1類似物質が、少なくとも一つのトリプトファンを含む、天然ApoA1の内の約5から約50個のアミノ酸から事実上成り、該少なくとも一つのトリプトファンが、オキシダント耐性アミノ酸によって置換されることを特徴とする、請求項16に記載の方法。
【請求項21】
前記ApoA1類似物質が、配列番号2〜69から成る群から選ばれるアミノ酸配列を含み、該配列において、Xはトリプトファンまたはオキシダント耐性アミノであり、少なくとも一つのXは、オキシダント耐性残基に置換されることを特徴とする、請求項16に記載の方法。
【請求項22】
前記ポリペプチドが、対象に投与されると、ミエロペルオキシダーゼ(MPO)による酸化的不活性化に対して耐性を示すことを特徴とする、請求項16に記載の方法。
【請求項23】
細胞からのコレステロール流出を増進する方法であって:
該細胞に、生物学的有効量の、脂質担持細胞からのコレステロール流出を増進することが可能なApoA1類似物質を投与する工程を含み、
該ApoA1類似物質は、少なくとも一つのトリプトファンを含む、ApoA1または該ApoA1の類似物質のアミノ酸配列の少なくとも一部を含むアミノ酸配列を有し、該ApoA1または該ApoA1の類似物質由来の少なくとも一つのトリプトファンは、該ApoA1類似物質のアミノ酸配列において、オキシダント耐性アミノ酸によって置換されることを特徴とする、方法。
【請求項24】
前記ポリペプチドが、アポリポ蛋白質の脂質結合およびコレステロール流出を実質的に抑制しないことを特徴とする、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記ApoA1類似物質が、MPO、MPO-生成オキシダントによる酸化作用、MPO-生成反応性塩素化分子による酸化作用、MPO/H2O2/Cl-系に関連する酸化作用、HOCl/OCl-による酸化作用、MPO生成反応性窒素分子による酸化作用、MPO/H2O2/NO2-系に関連する酸化作用、二酸化窒素による酸化作用、ペルオキシナイトライト(ONOO-)による酸化作用、ペルオキシカルボキシナイトライト(ONOOCO2-)による酸化作用、および、ONOO-が、バッファーにおいてCO2またはHCO3-の存在下に活動するときに形成される産物による酸化作用、の内の少なくとも一つに対して耐性を示すことを特徴とする、請求項23に記載の方法。
【請求項26】
前記オキシダント耐性アミノ酸がフェニルアラニンであることを特徴とする、請求項23に記載の方法。
【請求項27】
配列番号1の少なくとも一部を含み、ここでXは、トリプトファンまたはフェニルアラニンから成る群から選ばれ、少なくとも一つのXはフェニルアラニンである、請求項23に記載の方法。
【請求項28】
前記ApoA1類似物質が、少なくとも一つのトリプトファンを含む、天然ApoA1の内の約5から約50個のアミノ酸から事実上成り、該少なくとも一つのトリプトファンが、オキシダント耐性アミノ酸によって置換されることを特徴とする、請求項23に記載の方法。
【請求項29】
前記ApoA1類似物質が、配列番号2〜69から成る群から選ばれるアミノ酸配列を含み、該配列において、Xはトリプトファンまたはオキシダント耐性アミノであり、少なくとも一つのXは、オキシダント耐性残基に置換されることを特徴とする、請求項23に記載の方法。
【請求項30】
対象における炎症性病態の一つ以上の症状を寛解する方法であって:
該対象に対し、脂質担持細胞からのコレステロール流出を増進することが可能なApoA1類似物質を投与することを含み、
該ApoA1類似物質は、少なくとも一つのトリプトファンを含む、ApoA1または該ApoA1の類似物質のアミノ酸配列の少なくとも一部を含むアミノ酸配列を有し、該ApoA1または該ApoA1の類似物質由来の少なくとも一つのトリプトファンは、該ApoA1類似物質のアミノ酸配列において、オキシダント耐性アミノ酸によって置換されることを特徴とする、方法。
【請求項31】
前記炎症性病態が、アテローム硬化症を含むことを特徴とする、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記炎症性病態が、狭窄症を含むことを特徴とする、請求項30に記載の方法。
【請求項33】
前記対象にスタチンを投与する工程をさらに含むことを特徴とする、請求項30に記載の方法。
【請求項34】
前記ApoA1類似物質が、MPO、MPO-生成オキシダントによる酸化作用、MPO-生成反応性塩素化分子による酸化作用、MPO/H2O2/Cl-系に関連する酸化作用、HOCl/OCl-による酸化作用、MPO生成反応性窒素分子による酸化作用、MPO/H2O2/NO2-系に関連する酸化作用、二酸化窒素による酸化作用、ペルオキシナイトライト(ONOO-)による酸化作用、ペルオキシカルボキシナイトライト(ONOOCO2-)による酸化作用、および、ONOO-が、バッファーにおいてCO2またはHCO3-の存在下に活動するときに形成される産物による酸化作用、の内の少なくとも一つに対して耐性を示すことを特徴とする、請求項30に記載の方法。
【請求項35】
前記オキシダント耐性アミノ酸がフェニルアラニンであることを特徴とする、請求項30に記載の方法。
【請求項36】
配列番号1の少なくとも一部を含み、ここでXは、トリプトファンまたはフェニルアラニンから成る群から選ばれ、少なくとも一つのXはフェニルアラニンである、請求項30に記載の方法。
【請求項37】
前記ApoA1類似物質が、少なくとも一つのトリプトファンを含む、天然ApoA1の内の約5から約50個のアミノ酸から事実上成り、該少なくとも一つのトリプトファンが、オキシダント耐性アミノ酸によって置換されることを特徴とする、請求項30に記載の方法。
【請求項38】
前記ApoA1類似物質が、配列番号2〜69から成る群から選ばれるアミノ酸配列を含み、該配列において、Xはトリプトファンまたはオキシダント耐性アミノであり、少なくとも一つのXは、オキシダント耐性残基に置換されることを特徴とする、請求項30に記載の方法。
【請求項39】
ApoA1、トリプトファンを含むApoA1の断片、またはApoA1の類似物質が有するコレステロール流出機能の、MPOオキシダントによる喪失を緩和する方法であって、
該ApoA1、ApoA1の断片、またはApoA1の類似物質の少なくとも一つのトリプトファン残基を、オキシダント耐性アミノ酸に置換することを含み、
該ApoA1、ApoA1の断片、またはApoA1の類似物質の少なくとも一つのトリプトファンを、オキシダント耐性アミノ酸によって置換すること、
を含む、方法。
【請求項40】
前記オキシダント耐性アミノ酸がフェニルアラニンであることを特徴とする、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
対象において内皮細胞傷害を治療する方法であって:
該対象に対し、脂質担持細胞からのコレステロール流出を増進することが可能なApoA1類似物質を投与することを含み、
該ApoA1類似物質は、少なくとも一つのトリプトファンを含む、ApoA1または該ApoA1の類似物質のアミノ酸配列の少なくとも一部を含むアミノ酸配列を有し、該ApoA1または該ApoA1の類似物質由来の少なくとも一つのトリプトファンは、該ApoA1類似物質のアミノ酸配列において、オキシダント耐性アミノ酸によって置換されることを特徴とする、方法。
【請求項42】
前記内皮細胞傷害が、血管傷害後に起こることを特徴とする、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
前記ApoA1が、前記対象において内皮細胞の移動を増進するのに有効な量において投与されることを特徴とする、請求項41に記載の方法。
【請求項44】
前記ApoA1類似物質が、MPO、MPO-生成オキシダントによる酸化作用、MPO-生成反応性塩素化分子による酸化作用、MPO/H2O2/Cl-系に関連する酸化作用、HOCl/OCl-による酸化作用、MPO生成反応性窒素分子による酸化作用、MPO/H2O2/NO2-系に関連する酸化作用、二酸化窒素による酸化作用、ペルオキシナイトライト(ONOO-)による酸化作用、ペルオキシカルボキシナイトライト(ONOOCO2-)による酸化作用、および、ONOO-が、バッファーにおいてCO2またはHCO3-の存在下に活動するときに形成される産物による酸化作用、の内の少なくとも一つに対して耐性を示すことを特徴とする、請求項41に記載の方法。
【請求項45】
前記オキシダント耐性アミノ酸がフェニルアラニンであることを特徴とする、請求項41に記載の方法。
【請求項46】
配列番号1の少なくとも一部を含み、ここでXは、トリプトファンまたはフェニルアラニンから成る群から選ばれ、少なくとも一つのXはフェニルアラニンである、請求項41に記載の方法。
【請求項47】
前記ApoA1類似物質が、少なくとも一つのトリプトファンを含む、天然ApoA1の内の約5から約50個のアミノ酸から事実上成り、該少なくとも一つのトリプトファンが、オキシダント耐性アミノ酸によって置換されることを特徴とする、請求項41に記載の方法。
【請求項48】
前記ApoA1類似物質が、配列番号2〜69から成る群から選ばれるアミノ酸配列を含み、該配列において、Xはトリプトファンまたはオキシダント耐性アミノであり、少なくとも一つのXは、オキシダント耐性残基に置換されることを特徴とする、請求項41に記載の方法。

【図8】
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【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図1D】
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【図1E】
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【図1F】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公表番号】特表2011−500832(P2011−500832A)
【公表日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−531231(P2010−531231)
【出願日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際出願番号】PCT/US2008/080898
【国際公開番号】WO2009/055538
【国際公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【出願人】(595033056)ザ クリーブランド クリニック ファウンデーション (14)
【氏名又は名称原語表記】The Cleveland ClinicFoundation
【住所又は居所原語表記】9500 Euclid Avenue,Cleveland,Ohio,United States of America
【Fターム(参考)】