説明

オクラトキシンに対する抗体、その抗体を用いた親和性カラム、およびオクラトキシンの免疫学的検出用キット

【課題】食物などの試料中に含まれる可能性のあるオクラトキシンAおよびBを検出・濃縮・精製すること、ならびにそれらの総量または個別の量を高感度に検出する方法を提供すること。
【解決手段】オクラトキシンAと高分子化合物との複合体を免疫原として用い、オクラトキシンAおよびBに対して同等の反応性を示すと同時に、有機溶媒に耐性の高い抗体を得て、当該抗体を用いた検出・濃縮・精製手段ならびに免疫学的検出手段を構築する。構築された検出手段は、高感度かつ定量性に優れている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オクラトキシンに対する新規な性質を有するモノクローナル抗体またはそのフラグメントに関する。さらに本発明は、このようなモノクローナル抗体またはそのフラグメントを用いた、オクラトキシンの捕捉用親和性カラム、およびオクラトキシンの免疫学的検出用キットに関する。
【背景技術】
【0002】
天然毒オクラトキシンは、AspergillusとPenicilliumに属する多くの種類の菌が産生する二次代謝産物である。このうち、主な産生菌は、A. ochraceus とP. viridicatumである。これらの菌は、米、麦、トウモロコシ、小豆、大豆、グリーンコーヒー、煮干などに広く見出されている。
【0003】
オクラトキシンには、オクラトキシンA、B、およびCの三つが知られている。毒性は、オクラトキシンAが一番強く、その障害は主として肝臓と腎臓に現れる。
【0004】
わが国では、まだ、オクラトキシンに対する規制値はないが、欧米諸国や国際機関等では、オクラトキシンについてもリスクアセスメントが活発に行われている(非特許文献1)。例えば、ヨーロッパでは、ベビーフード、加工果物、加工穀類、ワイン、ジュース等で一定の規制値がある(非特許文献2)。オクラトキシンの毒性に鑑みて、日本に規制値がなくとも、その検出を行うことは、食の安全性確保の面から必要であると考えられる。そして、検査においては、多数のサンプルを迅速に処理し、かつ微量のオクラトキシンを検出する必要がある。
【0005】
オクラトキシンの検出においては、サンプルを粉砕後有機溶媒で抽出し、その抽出液を、濃縮精製した上で、HPLCなどで分析する手法がある。また、その濃縮精製方法としては、多機能カラムおよび抗体親和性カラムがある。これらの他にも、簡便法として免疫学的検出法が使用される。
【0006】
オクラトキシンAに特異的な抗体は、開発され公表されており、オクラトキシンAに特異的に結合する抗体、AにもBにも交差反応性を示す抗体などがある(特許文献1)。
【特許文献1】特開昭61−171500号公報
【非特許文献1】Takatoriら、Bull. Natl. Inst. Health Sci., 124, 21-29 (2006)
【非特許文献2】Akiyama, Hら、J. Food Hyg. Soc. Japan, 38, 406-411(1997)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、これまで得られているモノクローナル抗体は、有機溶媒に弱く、抗体アフィニティーカラムクロマトグラフィーに利用する際や免疫学的測定法に利用する際には、抽出したサンプルを充分に水で希釈しなければならず、試料中に含まれるオクラトキシンの量およびオクラトキシン類縁体の含有比によっては正確に定量できなかった。また、オクラトキシンの濃縮精製に使用するにも困難があった。また、オクラトキシン吸着後のカラム洗浄に水を使うと回収率が低下する欠点があった。そのため、これらの一連の解決法が要望されていた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、オクラトキシンAおよびBのいずれをも同等に検出でき、極微量のオクラトキシンをも正確に検出するような検出方法を提供すべく鋭意研究を行った結果、オクラトキシンの上記2つのタイプに同等の結合能を有し、かつ有機溶媒耐性を持ち、親和性カラムの親和性マトリックスに用いる際にオクラトキシン吸着後のカラム洗浄に水を用いることが可能であるモノクローナル抗体またはそのフラグメント、それを用いた検出方法等を見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち本発明は、オクラトキシンAに由来するハプテンと高分子化合物との結合体である抗原を用いて得られるモノクローナル抗体またはそのフラグメントであって、オクラトキシンAおよびオクラトキシンBに対して同等の結合能を有し、かつ有機溶媒耐性を有する、モノクローナル抗体またはそのフラグメントに関する。
【0010】
上記モノクローナル抗体は、OCA−10AまたはOCA−1Bであり得る。
【0011】
本発明はまた、上記いずれかに記載のモノクローナル抗体またはそのフラグメントを産生するハイブリドーマに関する。
【0012】
上記ハイブリドーマは、受領番号FERM AP−21644または受領番号FERM AP−21645で寄託されているハイブリドーマであり得る。
【0013】
本発明はまた、上記のモノクローナル抗体又はそのフラグメントを用いる、オクラトキシンの免疫学的検出用キットに関する。
【0014】
本発明はまた、担体およびそれに固定化した上記モノクローナル抗体又はそのフラグメントとを含む親和性マトリックスを含む、親和性カラムに関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明のモノクローナル抗体またはそのフラグメントは、オクラトキシンAおよびBに同等の結合能を有し、かつ有機溶媒耐性を持ち、親和性カラムの親和性マトリックスとして用いる際にオクラトキシン吸着後のカラム洗浄に水を用いることが可能である。その為、このモノクローナル抗体またはそのフラグメントを利用したオクラトキシンの検出方法においては、オクラトキシンの個別の量またはAおよびBを同時に、かつ微量でも正確に検出することが可能となる。また、このモノクローナル抗体またはそのフラグメントを含む親和性カラムを用いることにより各種試料中のオクラトキシンの精製・濃縮を効率良く行うことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する
本明細書において対象となる「オクラトキシン」とは、オクラトキシンA、B、およびCのいずれか1種を表すかまたは2以上のすべてを総称するが、本発明における「オクラトキシンに対するモノクローナル抗体」は、主にオクラトキシンAおよびBのいずれをも同等に認識するモノクローナル抗体を指す。
【0017】
オクラトキシンは、以下の式
【化1】


で表される化合物である。
【0018】
本明細書において用いられる、「同等の結合能を有する」または「同等に反応する」とは、AおよびBに対する反応性の違いが、AおよびBに対するIC50値(ng/mL)の比として3倍以内であることを指す。
【0019】
本明細書において用いられる、「有機溶媒耐性」とは、被検試料を有機溶媒に溶解して親和性マトリックスと接触させる時点において、公知の各種有機溶媒に存在させても抗体またはそのフラグメントが変性を起さないことをいうが、特に、60%メタノールあるいは50%アセトニトリル又はエタノール中に常温で少なくとも15分間存在させても、オクラトキシンAおよびBに対する反応性が変化しないことを指す。
【0020】
本発明に用いられるオクラトキシンAまたはその誘導体に由来する抗原は、オクラトキシンA自体、オクラトキシンAから公知の様々な方法を用いて誘導される化合物と、高分子化合物との複合体が好都合に使用され得る。
【0021】
ここで、オクラトキシンA誘導体は、オクラトキシンAに、特に高分子化合物との結合を容易にする為の公知の様々な反応基を導入した化合物を指す。
【0022】
本発明においては、オクラトキシンAをそのまま高分子化合物との結合に用いることができ、例えばそのカルボキシル基を、高分子化合物と結合させ、抗原とすることも好ましい。
【0023】
次に、オクラトキシンAと高分子化合物との複合体の作製は、限定はされないが、例えば以下のような方法を用いて、製造することができ、免疫用抗原として使用する。
【0024】
好ましい高分子化合物の例としては、スカシガイへモシアニン(KLH)、卵白アルブミン(OVA)、ウシ血清アルブミン(BSA)、ウサギ血清アルブミン(RSA)などがある。
【0025】
オクラトキシンAと高分子化合物との結合は、例えば、オクラトキシンA中のカルボキシル基と高分子化合物とを活性化エステル法(A.E.Karu et al.:J.Agric.Food Chem.,42, 301−309(1994))、又は混合酸無水物法(B.F.Erlangeret et al.:J.Biol.Chem.,234, 1090‐1094(1954))等の公知の方法によって結合させることにより達成することができる。
【0026】
さらに、上記と同様の方法により酵素等の標識物質をオクラトキシンAに結合させたものを、免疫学的検出方法において使用することができる。標識物質としては、酵素の他に、放射性同位元素、蛍光物質、発光物質などがある。放射性同位元素としては、特に限定されるものではないが、例えば[125I]、[131I]、[3H]、[14C]などが好ましい。酵素としては、特に限定されるものではないが、安定で比活性の大きなものが好ましく、例えばβ−ガラクトシダーゼ、β−グルコシダーゼ、アルカリホスファターゼ、西洋わさびペルオキシダーゼ(以下「HRP」と言う)、リンゴ酸脱水素酵素などが挙げられる。蛍光物質としては、特に限定されるものではないが、例えばフルオレスカミン、フルオレセインイソチオシアネートなどが挙げられる。発光物質としては、特に限定されるものではないが、例えばルミノール、ルミノール誘導体、ルシフェリン、ルシゲニンなどが挙げられる。
【0027】
本発明では、オクラトキシンAと高分子化合物との複合体を抗原として用いることにより、オクラトキシンに対するモノクローナル抗体を得ることができる。
【0028】
モノクローナル抗体自体の製造は、通常の方法に従って調製できる。(例えば、Current Protocol in Molecular Biology、Chapter 11.12〜11.13(2000))。具体的には、前記複合体を常法に従ってウサギ、モルモット、マウス、ラット、ヒツジ、ヤギ等の非ヒト動物に免疫し、得られた脾臓細胞と骨髄腫細胞とを細胞融合させて調製したハイブリドーマ細胞をスクリーニングし、モノクローナル抗体産生ハイブリドーマを培養することにより得ることができる(Current protocols in Molecular Biology edit. Ausubel et al. (1987) Publish. John Wiley and Sons. Section 11.4 〜11.11 )。
【0029】
このようにして得られたモノクローナル抗体産生ハイブリドーマを一定の条件下にて培養し、抗体価を測定しながら、所望の性質を有する抗体をスクリーニングする。
【0030】
モノクローナル抗体の分離精製は、免疫グロブリンの分離精製法等に従って行われる。すなわち、例えば、塩析法、アルコール沈殿法、等電点沈殿法、電気泳動法、イオン交換体(例、DEAEなど)による吸脱着法、超遠心法、ゲルろ過法、抗原結合固相あるいはプロテインAあるいはプロテインGなどの活性吸着剤により抗体のみを採取し、結合を解離させて抗体を得る特異的精製法などが含まれ、単独であるいは適宜組み合わせて行い得る。
【0031】
また、前記モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマは、特に限定されないが、下記のような常法に従って調製されうる。
【0032】
抗原をアジュバントと等量混合した後、BALB/cマウスの腹腔内に投与する。その後、定期的に追加免疫する。採取血液の血清中の抗体力価が高くなったマウスの脾臓を摘出し、無血清DMEM培地(ダルベッコ改変イーグル培地)中で、組織片等を取り除いた後に新しい培地中に移し、脾臓細胞を完全に培地中に浮遊させる。細胞を洗浄後、マウスのミエローマ細胞と混合する。細胞を沈殿させ上清を取り除いたあと、攪拌しながら50%ポリエチレングリコール(分子量1500)などを用いて細胞融合を行う。細胞融合後、HAT培地中などで懸濁し、適度な条件下にて培養する。培養液中の抗体の活性をELISAで調べ、目的とする抗体を産生しているウェルの細胞について、限界希釈法によりハイブリドーマのクローニングを行う。クローニングにより、オクラトキシンに対する抗体を産生している安定なハイブリドーマ株を得る。
【0033】
本発明のハイブリドーマは、培地(例えば、10%牛胎児血清を含むDMEM)を用いて培養し、その培養液の遠心上清をモノクローナル抗体溶液とすることができる。また、本ハイブリドーマを由来する動物の腹腔に注入することにより、腹水を生成させ、得られた腹水をモノクローナル抗体溶液とすることができる。これらの抗体溶液は、さらに精製・濃縮することができる。
【0034】
本発明の用語で、抗体の「フラグメント」とは、抗原を認識する部位を含む抗体の断片を指す。具体的には、可変領域を含むFabフラグメントF(ab)フラグメント等である。
【0035】
また、本発明においては、オクラトキシンに特異的に結合するモノクローナル抗体を用いて、オクラトキシンを簡便に検出することができ、オクラトキシンの検出方法に好適に使用することができる。さらに、オクラトキシンに特異的に結合するモノクローナル抗体を、検出法に応じて、標識された二次抗体もしくは標識されたオクラトキシンのハプテン化合物、緩衝液、検出試薬および/またはオクラトキシンの標準溶液等を含むキットに含めることもできる。好ましいキットは、ELISA法や金コロイドを用いた検出法に用いられうるものであり、直接競合阻害ELISA法を用いる場合、固相化されたオクラトキシンに対する抗体、抗体を保持する担体、酵素標識された抗原および検出試薬などを含む。
【0036】
さらに、本発明は、前記抗体または検出手段を用いることを特徴とするオクラトキシンの検出用方法およびそのような方法に用いる検出用キットに関する。検出方法としては、通常の抗原−抗体反応を利用する方法であれば特に制限されず、放射性同位元素免疫測定法(RIA)、酵素免疫測定法(EIA)、蛍光もしくは発光検出法、凝集法、イムノブロット法、イムノクロマト法等(Meth. Enzymol., 92, 147-523 (1983), Antibodies Vol. II IRL Press Oxford (1989))が挙げられる。標識の手段としては、酵素、金コロイド、放射性同位元素、蛍光物質、発光物質などがある。放射性同位元素としては、特に限定されるものではないが、例えば[125I]、[131I]、[3H]、[14C]などが好ましい。酵素としては、特に限定されるものではないが、安定で比活性の大きなものが好ましく、例えばβ−ガラクトシダーゼ、β−グルコシダーゼ、アルカリホスファターゼ、パーオキシダーゼ、リンゴ酸脱水素酵素などが挙げられる。蛍光物質としては、特に限定されるものではないが、例えばフルオレスカミン、フルオレセインイソチオシアネートなどが挙げられる。発光物質としては、特に限定されるものではないが、例えばルミノール、ルミノール誘導体、ルシフェリン、ルシゲニンなどが挙げられる。これらのうち、特に感度や簡便性等の点から、β−ガラクトシダーゼ、β−グルコシダーゼ、アルカリホスファターゼ、パーオキシダーゼ、リンゴ酸脱水素酵素を用いるELISA、あるいは金コロイドを用いたイムノクロマトが好ましい。
【0037】
代表的なELISAによる検出法は、間接競合阻害ELISAまたは直接競合阻害ELISAなどが挙げられる。例えば以下に述べるような本発明のモノクローナル抗体を用いた直接競合阻害ELISAによってオクラトキシンの検出を行うことができる。
【0038】
(1)本発明のモノクローナル抗体を、担体に固相化する。用いる担体は、96穴、48穴、192穴等のマイクロタイタープレートが好ましい。固相化は、例えば、固相化用抗体を含む緩衝液を担体上に載せ、インキュベーションすればよい。緩衝液中の抗体の濃度は、通常0.01μg/mLから100μg/mL程度である。緩衝液としては、検出手段に応じて公知のものを使用することができる。
【0039】
(2)担体の固相表面へのタンパク質の非特異的吸着を防止するため、固相化用抗体が吸着していない固相表面部分を、抗体と無関係なタンパク質等によりブロッキングする。ブロッキング剤としては、BSAもしくはスキムミルク溶液、または市販のブロックエース(大日本住友製薬社製)等を使用することができる。ブロッキングは、前記ブロッキング剤を担体に添加し、例えば、約4℃で一晩インキュベーションした後、洗浄液で洗浄することにより行われる。洗浄液としては特に制限はないが、前記(1)と同じ緩衝液を使用することができる。
【0040】
(3)各種濃度のオクラトキシンを含む試料に、オクラトキシンのハプテン化合物と酵素を結合させた酵素結合ハプテンを加えた混合物を調製する。酵素結合ハプテンの調製は、オクラトキシンのハプテン化合物を酵素に結合する方法であれば特に制限なく、いかなる方法で行ってもよい。
【0041】
(4)工程(3)の混合物を工程(2)で得られた抗体固相化担体と反応させる。オクラトキシンと酵素結合ハプテンとの競合阻害反応により、これらと固相化担体との複合体が生成する。反応は例えば、約25℃で約1時間行う。オクラトキシンは、水に不溶性であるため、反応溶液中には各種有機溶媒を含有することができる。前記有機溶媒としては、オクラトキシンを溶解させ、かつ抗原−抗体反応を阻害しない範囲で有機溶媒およびその含有量を選択すればよい。具体的には、メタノール、アセトニトリル、エタノールなどがあげられ、含有量は、アセトニトリルまたはエタノールの場合は1%(v/v)以上50%(v/v)以下であり、メタノールの場合は1%(v/v)以上60%(v/v)以下の濃度の溶剤が使用できる。反応終了後、緩衝液で担体を洗浄し、固相化抗体と結合しなかった酵素結合ハプテンを除去する。固相化抗体−酵素結合ハプテン複合体の量を検出することにより、予め作成した検量線から試料中のオクラトキシンの量を決定する。
【0042】
(5)担体に結合した標識酵素と反応する発色基質溶液を加え、吸光度を検出することによって検量線からオクラトキシンの量を算出することができる。標識酵素としてペルオキシダーゼを使用する場合には、例えば、過酸化水素と、3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジンまたはo−フェニレンジアミンを含む発色基質溶液を使用することができる。通常、発色基質溶液を加えて室温で約10分程度反応させた後、硫酸を加えることにより酵素反応を停止させる。3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジンを使用する場合、450nmの吸光度を検出する。o−フェニレンジアミンを使用する場合、492nmの吸光度を検出する。なお、バックグランド値を補正するため、630nmの吸光度も同時に検出することが望ましい。
【0043】
標識酵素としてアルカリホスファターゼを使用する場合には、例えばp−ニトロフェニルリン酸を基質として発色させ、NaOH溶液を加えて酵素反応を止め、415nmでの吸光度を検出する方法があげられる。
【0044】
オクラトキシンを添加しない反応溶液の吸光度に対して、オクラトキシンを添加して抗体と反応させた溶液の吸光度の減少率を阻害率として計算する。既知の濃度のオクラトキシンを添加した反応液の阻害率により予め作成しておいた検量線を用いて、試料中のオクラトキシンの濃度を算出することができる。
【0045】
別の態様としてオクラトキシンの検出は以下のような手順により間接競合阻害ELISAによって行うことができる。
(1)抗原を担体に固相化する。
用いる担体は、通常のELISAに用いる担体であれば特に制限されないが、96穴、48穴、192穴等のマイクロタイタープレートが好ましい。固相化は、例えば、固相化用抗原を含む緩衝液を担体上に載せ、インキュベーションすればよい。緩衝液中の抗原の濃度は、通常0.01μg/mLから100μg/mL程度である。緩衝液としては、検出手段に応じて公知のものを使用することができる。
【0046】
(2)担体の固相表面へのタンパク質の非特異的吸着を防止するため、固相化用抗原が吸着していない固相表面部分を、抗原と無関係なタンパク質等によりブロッキングする。ブロッキング剤としては、BSAもしくはスキムミルク溶液、または市販のブロックエース(大日本住友製薬社製)等を使用することができる。ブロッキングは、前記ブロッキング剤を担体に添加し、例えば、約4℃で一晩インキュベーションした後、洗浄液で洗浄することにより行われる。洗浄液としては特に制限はないが、前記(1)と同じ緩衝液を使用することができる。
【0047】
(3)前記(1)および(2)で処理された固相表面にオクラトキシンを含む試料および本発明のモノクローナル抗体溶液を加え、該抗体を前記固相化抗原およびオクラトキシンに競合的に反応させて、固相化抗原−抗体複合体およびオクラトキシンに対する抗体複合体を生成させる。反応は、通常室温、1時間程度で行うことができる。オクラトキシンは、水に不溶性であるため、反応溶液中には各種有機溶媒を含有することが必要である。前記有機溶媒としては、オクラトキシンを溶解させ、かつ抗原−抗体反応を阻害しない範囲で有機溶媒およびその含有量を選択すればよい。具体的には、メタノール、アセトニトリル、エタノールなどがあげられ、含有量は、アセトニトリルまたはエタノールの場合は1%(v/v)以上50%(v/v)以下であり、メタノールの場合は1%(v/v)以上60%(v/v)以下の濃度の溶媒が使用できる。
【0048】
(4)固相化抗原−抗体複合体の量は、酵素標識した二次抗体(例えば、マウス抗体を認識する抗体)を添加して検出することができる。例えばオクラトキシンに対する抗体としてマウスモノクローナル抗体を用いる場合、酵素標識(例えば、ペルオキシダーゼまたはアルカリホスファターゼ等)した抗マウス−ヤギ抗体を用いて、担体に結合したオクラトキシンに対する抗体と反応させるのが望ましい。反応は、前記(3)と同様の条件下で行えばよい。反応後、緩衝液で洗浄する。
【0049】
(5)担体に結合した二次抗体の標識酵素と反応する発色基質溶液を加え、二次抗体に結合させた酵素に反応する発色基質溶液を前述の直接競合阻害ELISA法と同様に加え、吸光度を検出することによりあらかじめ作成した検量線からオクラトキシンの量を算出することができる。
【0050】
前記本発明の検出方法においては、検出対象物に応じた前処理をして試料とした後、直接競合阻害ELISAの工程または間接競合阻害ELISAに供することができる。ほとんどの食品の場合、オクラトキシンが抽出できる全ての方法を用いることができる。抽出物は、メタノール、エタノールあるいはアセトニトリルに転溶させて緩衝液で希釈後、検出試料にする。簡便法として、メタノール、エタノールであるいはアセトニトリルで抽出し緩衝液で希釈したものをそのまま試料とすることも可能である。
【0051】
本発明の検出用キットは、このような検出方法を好適に行い得るように、本発明のモノクローナル抗体あるいはそのフラグメントの他、所望により、標識酵素、二次抗体、緩衝液、指示書等を含む。
【0052】
本発明の免疫検出法および免疫検出用キットとして、イムノクロマトグラフ法およびそれを利用することを目的にしたキットやデバイスを構築することもできる。イムノクロマトグラフ法として、例えば、競合阻害法を利用する方法であれば、本発明のモノクローナル抗体あるいはその断片を特定の領域に固定した不溶性薄膜状支持体(ナイロン膜又はセルロ−ス膜など)中に、オクラトキシンと特異的に結合する標識第2抗体と、分析対象物を含む可能性のある検体溶液とを展開し、不溶性薄膜状支持体の抗体を固定した領域上で、分析対象物との免疫複合体を形成させ、標識の着色又は発色などの信号を検出し、分析対象物を測定することができる。なお、前記標識としては、例えば、酵素を含むタンパク質、着色ラテックス粒子、金属コロイド、又は炭素粒子を使用することができる。
【0053】
本発明のイムノクロマトグラフィー用の免疫検出用キットまたはデバイスとしては、従って、例えばELISAあるいはその他の標識を用いた態様を実現できるものであれば、いかなるものも含まれる。特に限定はされないが、例えば、分析対象物を滴下するサンプルパッド、標識した抗体を含むコンジュゲートパッド、本発明のモノクローナル抗体またはその断片を固定化したテストライン、および標識抗体に特異的な抗体を固定化したコントロールラインを膜上に有するデバイスが好適である。膜は、不溶性薄膜状支持体であり、ガラス繊維、ナイロン膜又はセルロ−ス膜などからなるが、限定はされず、抗体の保持および毛細管現象による検体の移動を可能にする材料であればいずれのものでも使用できる。前記標識としては、例えば、酵素を含むタンパク質、着色ラテックス粒子、金属コロイド、又は炭素粒子を使用することができる。キット又はデバイスは、さらに任意に、膜を支持するベースカード、余分な検体を吸収する吸収パッドを設けるのも好ましい。
【0054】
このようなキットあるいはデバイスを用いることにより、分析対象物中に含まれるオクラトキシンを簡便に迅速に測定することが可能となる。
【0055】
さらに、本発明の抗体またはそのフラグメントを担持した親和性カラムを用いてオクラトキシンの検出を行うこともできる。
【0056】
本発明においては、オクラトキシンAおよびBの双方に結合し、かつ耐有機溶媒性を有する抗体を含むことにより、被検試料中に含まれるオクラトキシンの個別の量および総量を、固相吸着剤を用いて検出、濃縮および/または精製することができる。このような方法は、特に限定されないが、例えば以下に説明するような方法が用いられ得る。
【0057】
精製された本発明の抗体又はそのフラグメントを用いて、例えば、ファーマシア・ファイン・ケミカルズに記載された以下の方法によって親和性マトリックス材料をつくることができる。抗体としては、モノクローナル抗体およびそれらのフラグメントも使用することができるが、特にモノクローナル抗体を好適に用いることができる。この場合、十分量のモノクローナル抗体を、NaHCO3 とNaClとを含む結合緩衝液(pH8.3)に溶解し、この抗体溶液を、例えば予めHCl中で一夜インキュベートした、臭化シアンによって活性化されたセファロース−4B(GE社)に加える。セファロースと抗体溶液とを反応させた後、この固相吸着材料を、例えば1.0Mのエタノールアミン(pH8.5)で適度な時間インキュベートすることによって、抗体が結合されたゲルの未結合部位をブロックする。固相吸着材料上に固定化されたモノクローナル抗体によって親和性マトリックスが形成され、これをオクラトキシンの検出用に用いることができる。
【0058】
好ましい固相吸着材料は活性化されたセファロース4Bゲルであるが、これに限定されない。他の様々な材料を固相材料として用いることができる。例えば他のアガロースゲル組成物、デキストラン、ガラス板を包含する炭素及びケイ素粒状製剤を挙げることができる。同様に、モノクローナル抗体をそれぞれの化学組成物上に固定化する方法もこの分野において公知であり、種々記載されている。
【0059】
本発明における液体試料中のオクラトキシンを検出、単離、濃縮および/または精製する方法には、次の工程を含む親和性クロマトグラフィー法が例示されるが、これに限定されない。まず、本発明のモノクローナル抗体またはそのフラグメントが固相吸着材料上に固定化された、均一な親和性マトリックスに、被検試料中のオクラトキシンが結合され保持されるように、被検試料と親和性マトリックスとを接触させる。この際、被検試料を溶解した溶剤としてはアセトニトリル、メタノール、エタノールなどがあるが、これらに限定されない。アセトニトリルまたはエタノールの場合は1%(v/v)以上50%(v/v)以下であり、メタノールの場合は1%(v/v)以上60%(v/v)以下の濃度の溶剤が使用できる。次に、本発明のモノクローナル抗体またはそのフラグメントからオクラトキシンを放出させるための溶離剤を親和性マトリックスに加える。この溶離剤は、アセトニトリル、エタノール、またはメタノールなどであるが、これらに限定されない。次に、このような親和性マトリックスからの回収された流出物中にオクラトキシンが存在するかどうか、どのタイプがどれだけ含まれるかを、例えばHPLCなどを用いて同定することができる。
【0060】
本発明における液体試料中のオクラトキシンを濃縮・精製する方法には、本発明のモノクローナル抗体あるいはそのフラグメントを固定化した親和性マトリックス材料を用いた以下の方法が例示されるが、これに限定されない。まず、本発明のモノクローナル抗体またはそのフラグメントが固相吸着材料上に固定化された、均一な親和性マトリックスに、被検試料中のオクラトキシンが結合され保持されるように、被検試料と親和性マトリックスとを接触させる。次に、夾雑物を洗浄除去する。そして、本発明のモノクローナル抗体またはそのフラグメントからオクラトキシンを放出させるための溶離剤を親和性マトリックスに加える。このようにして、液体試料中のオクラトキシンを、免疫学的に夾雑物の少ない状態で、元の試料中の濃度の数千から数万倍もの高倍率に濃縮できる。これにより、試料中に極微量しか存在しないオクラトキシンでも、抗体を利用しない他の濃縮方法と比較して、はるかに高倍率に濃縮することができ、しかも定量を妨害する夾雑物等の含量の少ない濃縮液を得ることができる。被検試料を溶解して親和性マトリックスと接触させるのに用いる溶剤は、アセトニトリル、エタノールまたはメタノールなどであるが、これらに限定されない。アセトニトリルまたはエタノールの場合は、1%(v/v)以上50%(v/v)以下であり、メタノールの場合は1%(v/v)以上60%(v/v)以下の濃度のものが使用できる。
【0061】
本発明のオクラトキシンに対するモノクローナル抗体の重要な特徴は、オクラトキシンA抗原に対するだけでなく、Bに対しても同等の高い結合能(親和性)を有することである。さらに、通常の既存の抗オクラトキシンAモノクローナル抗体と比較して優れた有機溶媒耐性を有する。従って、被検試料を溶解して親和性マトリックスと接触させるのに用いる溶剤には、比較的高い濃度の有機溶媒を用いることができる。
【0062】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の技術的範囲を限定するためのものではない。当業者は本明細書の記載に基づいて容易に本発明に修飾、変更を加えることができ、それらは本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例1】
【0063】
(免疫原の調製)
免疫原としてスカシガイヘモシアニン(KLH)とオクラトキシンAとの複合体を、活性エステル法を用いて作製した。
【0064】
オクラトキシンA7.1mg、N-ヒドロキシスクシンイミド4.1mg、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)-カルボジイミド塩酸塩6.8mgをジメチルスルホキシド7.1mLに溶解し、この溶液を室温、暗所で1.5時間撹拌し、オクラトキシンA溶液とした。別途、0.1Mホウ酸緩衝液(pH8.0)1mLにKLH 10mgを加え、これにオクラトキシンA溶液179μlを徐々に滴下し、室温、暗所で1.5時間撹拌した。反応終了後、4℃で2日間、生理的リン酸緩衝液(150mM NaClを含みpH7.0に調節した10mM リン酸緩衝液、以下「PBS」と記す。)に対して透析した後、−40℃で貯蔵した。このようにして得られたオクラトキシンとKLHとの複合体を免疫原として使用した。同様にオクラトキシンとBSAとの複合体を作製した。オクラトキシンAとBSAとの複合体は、間接競合ELISA用の固相化抗原として使用した。
【実施例2】
【0065】
(モノクローナル抗体産生ハイブリドーマの作製)
実施例1で調製した免疫原を2mg/mLとなるようにPBSに溶解し、これに等量の完全アジュバント(商品名:フロイント完全アジュバント;FCA)を等量混合しエマルジョン化し、その100μLを6〜7週齢のメスのBALB/cマウスに腹腔投与した。これと同様の手順で、不完全アジュバント(商品名:フロイント不完全アジュバント;FICA)を等量混合した0.5mg/mLの免疫原100μLを2週間毎に追加免疫した。4回の免疫後、眼底から採血し、血清中の抗体力価が十分に上がっていることを間接ELISAにて確認した。
【0066】
間接競合阻害ELISA法によるオクラトキシンの検出
(1)実施例1で得られたオクラトキシンAとBSAとの複合体を、PBSを用いて1μg/mLに希釈し、96穴マイクロプレートに100μL/ウェルずつ分注し、4℃で一晩放置することにより固相化した。次に液を吸引除去後、0.4%BSAおよびPBSを300μL/ウェル分注し、4℃で一晩静置することによりブロッキングを行った後、ブロッキング液を吸引除去した。
【0067】
(2)メタノールに溶解したオクラトキシンAおよびBを、それぞれ0.2%BSA含有PBSに加え、オクラトキシンの濃度が0.0、0.06、0.32、1.60、8.00、40.00、200.00、1000.00ng/mL、メタノール濃度が1%になるように調製した。一方、得られた抗血清は、0.2%BSA含有PBSで50ng/mLに希釈した。オクラトキシンの希釈溶液と抗血清希釈液を、(1)で作製したオクラトキシンハプテンとBSAとの複合体固相化プレートに50μL/ウェルずつ分注して、25℃で1時間静置しオクラトキシンの競合阻害反応をさせた。
【0068】
(3)HRP(西洋ワサビペルオキシダーゼ)と抗マウスIgG ヤギ抗体の複合体(PIERCE社)を、0.2%BSAおよびPBSで8000倍に希釈して2次抗体希釈液とした。
【0069】
(4) (2)で反応させたウェルを、PBSで3回洗浄したあと、上記の2次抗体希釈液を100μL/ウェル分注して、25℃ 1時間静置して反応させた。
【0070】
(5)上記の(4)で反応させた後のウェルを、PBSで3回洗浄し、TMB基質溶液(100μg/mLの3,3’,5,5’-テトラメチルベンチジンおよび0.006%過酸化水素を添加した0.1N 酢酸ナトリウム溶液(pH5.5))100μLをウェルに加え、25℃で10分間インキュベーションした後、1N硫酸100μLをウェルに加えて発色反応を止め、450nmの吸光度をマイクロプレートリーダーで検出した。この実施例におけるオクラトキシンAについての結果を図1に示す。
【0071】
モノクローナル抗体の確認
マウスの血中の抗体価が十分に高くなったマウスを用いて、最終免疫(20μg/マウス)した。その3日後に当該マウスから脾臓を摘出し細胞融合に供した。
【0072】
摘出した脾臓を無血清DMEM培地(ダルベッコ改変イーグル培地)中で余分な組織片を切除したあと、脾臓から完全に細胞を取り出し、培地中に浮遊させた。浮遊している大きな組織片を沈降させるために5分間静置、細胞浮遊液を遠沈管に集め、1500rpmで遠心し、上清を吸引除去して、新しい無血清DMEMを添加して細胞を浮遊させた。この操作を2回繰り返した。
【0073】
あらかじめ培養してあったミエローマ細胞(P3X63Ag8.653)を回収し、遠沈、上清除去、無血清DMEM培地で再浮遊を2回繰り返した。
【0074】
それぞれの細胞数を計数して脾臓細胞とミエローマ細胞との比率が10:1〜7.5:1になるように混合し、1500rpmで5分間遠心して,上清を吸引除去した。
【0075】
遠沈管を激しく攪拌しながら50%ポリエチレングリコール(分子量1500)溶液2mLを約60秒かけて添加した。次いで約10mLの無血清DMEMを攪拌しながら3〜4分かけて添加した。
【0076】
遠沈管を1000rpm,5分で遠心して上清を完全に吸引除去し、脾臓細胞が2.5×10個/mLになるようにHT培地(ヒポキサンチン、チミジン、10%牛胎児血清入DMEM培地)に浮遊させ、96穴培養プレートに100μL/ウェル分注し、37℃、8%炭酸ガス、加湿条件下で培養を開始した。
【0077】
翌日に約40μL/ウェルのHAT培地(ヒポキサンチン、チミジン、アミノプテリン、10%牛胎児血清入DMEM培地)を添加し、ミエローマ細胞が死滅し、ハイブリドーマ細胞のコロニーが形成されるまで観察を続け、以後は細胞の状態を見ながらHT培地を添加した。
【0078】
培養開始から10日後に培養液を採取し、間接競合阻害法でオクラトキシンAおよびBに対する抗体を産生しているウェルをスクリーニングし、96ウェル、48ウェル、24ウェルと順次培養スケールを上げた。
【0079】
24ウェルの段階で限界希釈法によるクローニングを行ない、オクラトキシンAおよびBに対するOCA−10AおよびOCA−1Bモノクローナル抗体産生ハイブリドーマ株を得た。得られたハイブリドーマについては、受領番号FERM AP−21644およびFERM AP−21645の下に独立行政法人産業技術総合研究所、特許生物寄託センターに寄託した。
【0080】
ここで、ハイブリドーマのスクリーニングは、オクラトキシンAおよびBとの反応性が100ppbを下回りかつほぼ等価であることを指標に行った。また、濃度を変えたアセトニトリル、エタノールおよびメタノール存在下でのオクラトキシンAとの反応性が、可能な限り高いものを選択することを指標にスクリーニングを行うことで、OCA−10AおよびOCA−1B抗体産生細胞以外にも複数の同様な反応特性を示す抗体産生細胞を選択することができた。
【実施例3】
【0081】
(モノクローナル抗体の作製)
実施例2で得られたOCA−10AおよびOCA−1B抗体産生ハイブリドーマ株を10%牛胎児血清入りDMEMで培養し、約2×10個の細胞をBALB/c マウスの腹腔内に注射し、腹水液を採取した。得られた腹水はプロテインG カラムによりIgG精製を行った。得られたモノクローナル抗体はサブクラスがOCA−10AがIgG1、OCB-1BがIgG2aであり、軽鎖はいずれもκ鎖である。
【実施例4】
【0082】
間接競合阻害ELISA法による精製抗体の阻害試験
(1)実施例1で得られたオクラトキシンAとBSAとの複合体を、PBSで1μg/mLに希釈し、96穴マイクロプレートに100μL/ウェルずつ分注し、4℃で一晩放置することにより固相化した。次に液を吸引除去後、0.4%BSAおよびPBSを300μL/ウェル分注し、4℃で一晩静置することによりブロッキングを行った後、ブロッキング液を吸引除去した。
【0083】
(2)メタノールに溶解したオクラトキシンAまたはBを、それぞれ0.2%BSA含有PBSに加え、オクラトキシンの濃度が0.0、0.06、0.32、1.60、8.00、40.00、200.00、1000.00ng/mL、メタノール濃度が1%になるよう調製した。一方、得られた精製抗体は、0.2%BSA含有PBSで50ng/mLに希釈した。オクラトキシンの希釈溶液と抗体希釈液を、(1)で作製したオクラトキシンとBSAとの複合体固相化プレートに50μL/ウェルずつ分注して、25℃で1時間静置し、オクラトキシンの競合阻害反応をさせた。
【0084】
以降は実施例2と同様の操作を行った。
【0085】
モノクローナル抗体OCA−10A、OCA−1B溶液についての間接競合阻害法によるオクラトキシンAまたはBのそれぞれの標準阻害曲線を図2に示す。モノクローナル抗体OCA−10A、OCA−1B溶液を用いた間接競合阻害ELISA法により、OCA−10AのオクラトキシンAに対するIC50値が24ng/ml、オクラトキシンBに対するIC50値が17ng/ml、OCA−1BのオクラトキシンAに対するIC50値が28ng/ml、オクラトキシンBに対するIC50値が13ng/ml、であることから、反応性の違いがIC50値の比として3倍以内にあり、同等の検出感度を表すことがわかった。
【0086】
これらの値は、本発明の抗体が、オクラトキシンAおよびBのいずれに対しても優れた結合能を有することを示している。
【0087】
以上の結果から、本発明のオクラトキシンAを用いて得られるモノクローナル抗体を使用する間接競合阻害ELISA法により、オクラトキシンAおよびB双方のタイプのオクラトキシンの総量分析および各オクラトキシン類縁体の分析が高感度で可能となることがわかる。
【実施例5】
【0088】
間接競合ELISAによる精製抗体の溶媒耐性試験
オクラトキシンA、Bを、それぞれ一定濃度のメタノールを含む0.2%BSA含有PBSに加え、オクラトキシンA、Bの濃度が、0.1、0.6、3.2、16、80、400、2000ng/mL、メタノール濃度が、2、20、40、60、80%になるよう調製した。一方、得られた精製抗体OCA−10A、OCA−1Bは、0.2%BSA含有PBSで50ng/mLに希釈した。オクラトキシンの希釈溶液と抗体希釈液を、(1)で作製したオクラトキシンとBSAとの複合体固相化プレートに50μL/ウェルずつ分注して、25℃で1時間静置しオクラトキシンの競合阻害反応をさせた。
【0089】
また、OCA−10Aについては、メタノールに代えてアセトニトリルとエタノールについて各々同様に、溶媒耐性試験を行った。これらの結果をそれぞれ、図3、図4、図5、に示す。さらに、OCA−1Bについても、同様の実験を行った結果を図6に示す。
【0090】
オクラトキシン抗体OCA−10AおよびOCA−1Bは、60%メタノール中でも、阻害曲線が乱れず、メタノールに対し高い耐性を有していた。また、オクラトキシン抗体OCA−10Aは、同様にアセトニトリル、エタノールに対しても高い耐性を有していた。食物中に存在しているオクラトキシンを抽出する際、メタノール、アセトニトリル、エタノールは一般的に使用される非常に優れた溶媒であり、メタノールに対し高い耐性を有することはオクラトキシン検出用の抗体としてOCA−10Aは極めて有用であることを示している。
【実施例6】
【0091】
ゲルの調製
CNBr活性化セファロース4B(GEヘルスケアバイオサイエンス)60gを、1mM 冷塩酸12Lで洗浄した。このゲルを200mL量り取り、ここに、実施例3で得られた抗体(0.5mg/mL、PBSにて希釈した抗体溶液) 400mLを入れ、30分毎に撹拌しながら室温で2時間反応させた。このゲルを、モノエタノールアミン緩衝溶液1Lに加え、30分毎に撹拌しながら室温で2時間経過後、モノエタノールアミン緩衝溶液、酢酸ナトリウム緩衝溶液、の順に400mLで3回ずつ洗浄した。これに、PBS 400mL、2mol/L NaCl溶液400mL、PBS 400mLで洗浄した。
【実施例7】
【0092】
オクラトキシン用アフィニティーカラムの調製
実施例6で調製したゲル0.2mLを市販のエンプティーカラム(直径3mm)につめ、PBS緩衝液3mLで2回ずつ洗浄した。
【実施例8】
【0093】
オクラトキシン用アフィニティーカラムによる添加回収実験
オクラトキシン検出用の抗体OCA−10Aを用いたカラムに、オクラトキシンAおよびBについて、各々200ngを含む4%メタノール溶液10mLを添加した。次にこのカラムをさらにPBS 3mLにて2回、10mM酢酸アンモニウム溶液3mLにて2回ずつ洗浄し、メタノール+酢酸(98+2)溶液1mLにて3回溶出した。
【0094】
次に、得られた溶出液を蒸発乾固し、ここにアセトニトリル+精製水+酢酸(30+70+1)10mLを加え、溶解後、HPLCで分析し、オクラトキシンAおよびBの溶出量を測定した。HPLCの測定条件は、以下の通りである。すなわち、カラムは、ODSカラム(4.6×150mm、粒径5μm)、移動相:アセトニトリル−水−酢酸(55:43:2)、流速1.0mL/分、カラム温度40℃、検出器:蛍光検出器(励起波長 333nm、蛍光波長460nm)、注入量:100μL。
【0095】
回収率(%)は、表1に示すとおりである。
【表1】

ここで、HOR−OCAは、抗体OCA−10Aを用いたカラムに、オクラトキシンAを添加して回収率を調べた場合、およびHOR−OCBは、抗体OCA−10Aを用いたカラムに、オクラトキシンBを添加して回収率を調べた場合を指す。表1から、オクラトキシンAおよびBについて、200ngずつ、ほぼ確実に回収できていることがわかった。
【実施例9】
【0096】
オクラトキシン用アフィニティーカラムのメタノール耐性
実施例7において調製した、本発明のモノクローナル抗体を用いたアフィニティーカラムと市販されているオクラトキシン用アフィニティーカラムを用いて、メタノール耐性について比較実験を行った。実施例7で調製したこのカラム、および市販カラムA、Bに、オクラトキシンAおよびBのそれぞれのタイプについて5ngを含むメタノール溶液(メタノール濃度20、40、60、80%)10mLを添加した。次にこのカラムをさらにPBS 3mLにて2回、10mM酢酸アンモニウム溶液3mLにて2回ずつ洗浄し、メタノール+酢酸(98+2)溶液1mLにて3回溶出した。
【0097】
次に、得られた溶出液を蒸発乾固し、ここにアセトニトリル+精製水+酢酸(30+70+1)に加え、溶解後、HPLCで分析し、オクラトキシンAおよびBの溶出量を測定した。HPLCの条件は、以下の通りである。すなわち、カラムは、ODSカラム(4.6×150mm、粒径5μm)、移動相:アセトニトリル−水−酢酸(55:43:2)、流速1.0mL/分、カラム温度40℃、検出器:蛍光検出器(励起波長 333nm、蛍光波長460nm)、注入量:100μL。表2および図7に回収率(%)を示す。
【表2】

【0098】
ここで、HOR−OCAおよびHOR−OCBは、前述と同じであり、市販品1−OCAは、市販品カラム1に、オクラトキシンAを添加して回収率を調べた場合、および市販品1−OCBは、市販品カラム1に、オクラトキシンBを添加して回収率を調べた場合を指す。市販品2−OCAは、市販品カラム2に、オクラトキシンAを添加して回収率を調べた場合、および市販品2−OCBは、市販品カラム2に、オクラトキシンBを添加して回収率を調べた場合を指す。
【0099】
本発明のカラムは、市販のカラムよりメタノール耐性が高く、メタノール濃度が60%でも使用することができる。
【実施例10】
【0100】
実施例7で調整したカラムと市販されているオクラトキシン用アフィニティーカラムを用いて洗浄方法について比較実験を行った。実施例7で調整したカラム、および市販カラムに、オクラトキシンA、B各5ngを含む4%メタノール溶液10mLを添加した。次に、このカラムをさらにPBSで2回洗浄後、一方は10mmol/L 酢酸アンモニウム溶液 3 mL、一方は精製水 3mLにて2回洗浄し、メタノール+酢酸(98+2)溶液1mLにて3回溶出した。
【0101】
次に、得られた溶出液を蒸発乾固し、ここにアセトニトリル+精製水+酢酸(30+70+1)を加え、溶解後、HPLCで分析し、オクラトキシンA、Bの溶出量を測定した。HPLCの測定条件は、以下の通りである。すなわち、カラムはODSカラム(4.6×150mm、粒径5μm)、移動相:アセトニトリル−水−酢酸(55:43:2)、流速 1.0 mL/min.、カラム温度 40℃、検出器:蛍光検出器(励起波長 333nm、蛍光波長 460 nm)、注入量:100μL。
回収率(%)は、表3に示すとおりである。
【表3】

【表4】

【0102】
ここで、OCAおよびOCBは、各々、オクラトキシンAおよびオクラトキシンBを指す。
【0103】
精製水による洗浄では、市販品bおよびcでは極端に回収率が減少することがわかった。一方、本発明の特にOCA−10Aを用いたカラムでは回収率はほとんど変わらず、良好であった。このように水洗が可能であることから、使用可能な洗浄溶媒を広げることができ、カラムを用いた濃縮・精製する際の操作性が向上する。
【0104】
以上より、本発明で得られたモノクローナル抗体ならびにその抗体を用いたオクラトキシン類を濃縮・精製することができるアフィニティーカラムを用いることで、高感度のオクラトキシン類の定量が可能になるばかりでなく、オクラトキシン類縁体の総量の定量も可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】オクラトキシンA−KLH免疫マウス抗血清の間接競合阻害ELISA法におけるオクラトキシンAに対する阻害曲線を示す。
【図2】抗体[OCA−10AまたはOCA−1B]を用いた間接競合阻害ELISA法におけるオクラトキシンAおよびBに対する阻害曲線を示す。
【図3】メタノール存在下での抗体[OCA−10A]を用いた間接競合阻害ELISA法におけるオクラトキシンAに対する阻害曲線を示す。
【図4】アセトニトリル存在下での抗体[OCA−10A]を用いた間接競合阻害ELISA法におけるオクラトキシンAに対する阻害曲線を示す。
【図5】エタノール存在下での抗体[OCA−10A]を用いた間接競合阻害ELISA法におけるオクラトキシンAに対する阻害曲線を示す。
【図6】メタノール存在下での抗体[OCA−1B]を用いた間接競合阻害ELISA法におけるオクラトキシンAに対する阻害曲線を示す。
【図7】抗体[OCA−10AまたはOCA−1B]を用いて調製したゲルを用いたアフィニティークロマトカラム(自社)と市販アフィニティークロマトカラムとの、オクラトキシンAおよびBを含むメタノール溶液を添加したときの回収率の比較を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オクラトキシンAに由来するハプテンと高分子化合物との結合体である抗原を用いて得られるモノクローナル抗体またはそのフラグメントであって、オクラトキシンAおよびオクラトキシンBに対して同等の結合能を有し、かつ有機溶媒耐性を有する、モノクローナル抗体またはそのフラグメント。
【請求項2】
前記モノクローナル抗体が、OCA−10AまたはOCA−1Bである、請求項1に記載のモノクローナル抗体又はそのフラグメント。
【請求項3】
請求項1または2のいずれかに記載のモノクローナル抗体またはそのフラグメントを産生するハイブリドーマ。
【請求項4】
受領番号FERM AP−21644または受領番号FERM AP−21645で寄託されている、請求項3に記載のハイブリドーマ。
【請求項5】
請求項1または2に記載のモノクローナル抗体又はそのフラグメントを用いる、オクラトキシンの免疫学的検出用キット。
【請求項6】
担体およびそれに固定化した請求項1または2に記載のモノクローナル抗体又はそのフラグメントとを含む親和性マトリックスを含む、親和性カラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−47555(P2010−47555A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−215747(P2008−215747)
【出願日】平成20年8月25日(2008.8.25)
【出願人】(000155023)株式会社堀場製作所 (638)
【Fターム(参考)】