説明

オザグレルナトリウムを含有する安定なプレミクスト注射剤

【課題】安定なオザグレルナトリウム含有プレミクスト注射剤の提供。
【解決手段】式(I)


で表わされるオザグレルナトリウムを、0.02mg/mL以上2mg/mL以下の濃度で含有し、所望によってさらに(A)電解質類、糖類、ビタミン類および蛋白アミノ酸類から選択される一種または二種以上および/または(B)pH調節剤を含有するpHが4.5乃至8.2の水溶液であり、かつオザグレル二量体が実質的に生成されないか、またはオザグレル二量体の生成量が0.1%未満である水溶液からなる安定なプレミクスト注射剤。オザグレル二量体の生成が抑えられるため、オザグレルナトリウムを、用時溶解や用時希釈の操作を必要としない希薄な溶液の状態で、かつ品質を劣化させることなく、安全な状態で臨床に提供することが可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オザグレルナトリウムを含有する安定なプレミクスト注射剤およびそれを充填した容器ならびにオザグレルナトリウムを含有する水溶液の安定化方法等に関する。詳しくは、水溶液中での分解物の生成、特にオザグレル二量体の生成を極力減じた、安定で臨床に好適で好品質なプレミクスト注射剤およびそれを充填した単室型ソフトバッグならびにオザグレルナトリウムを含有する水溶液の二量体生成抑制方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
点滴静注は、薬剤を輸液に溶解あるいは希釈して用いることが前提であり、事実、多くの注射用製剤はバイアル、アンプルに充填した形態で提供され、医療従事者の手によって輸液への溶解、希釈が行われている。
【0003】
しかし、点滴用薬液の調製には(1)薬剤の濃度設定ミス、(2)輸液の選定ミス、および(3)細菌、異物の混入という三大リスクがあることが指摘されており、点滴で投与するべき薬剤は、薬剤と溶解液あるいは輸液とが一体になって、薬剤が予め溶解されて単一の容器内に充填されている製剤、すなわちプレミクスト注射剤として提供することが望まれている(Pharma Tech Japan、Vol.20/No.8(2004年)、167−173頁;ファルマシア、Vol.40/No.9(2004年)、845−849頁)。
【0004】
一方、オザグレルナトリウムは、トロンボキサン合成酵素阻害作用を有し、くも膜下出血術後の脳血管れん縮およびこれに伴う症状、および脳血栓症、特に急性期のそれに伴う運動障害の改善剤として用いられており、オザグレルナトリウム20mgを含有する凍結乾燥体を充填したバイアル製剤や、各種濃度のオザグレルナトリウムを含有する水溶液をガラスアンプルやガラスシリンジに充填した注射用のアンプルやプレフィルドシリンジ等が販売されている。
【0005】
これらの薬剤は、例えば、水溶液を充填したアンプルやシリンジであれば、その必要量をそのまま輸液に希釈して、また、凍結乾燥体を含むバイアルであれば、それを適量の電解質液または糖液に溶解したうえで、その必要量を輸液に希釈して使用される。この使用形態を鑑みれば、オザグレルナトリウムを含有する点滴用水溶液が既に存在し、使用されていたことは明らかである。しかし、それは医療行為の過程においてのみ生じるものであり、また、用時調製のため保存安定性が特に必要とされるものではなく、オザグレルナトリウムの希薄水溶液が予め調製され、無菌性を保持したまま安定に長期保存され、点滴用製剤として提供される製剤、所謂プレミクスト注射剤といえるものではない。
【0006】
また一方、希薄な濃度のオザグレルナトリウムを含む水溶液製剤としてはいくつかの特許文献がある。例えば、特開2004−217645号公報には、0.002(w/v)%乃至2.0(w/v)%のオザグレルナトリウム含有水溶液をプラスチック製容器に充填した製剤が開示されており、かかるプラスチック製容器は輸液バッグでもよい旨が記載されている(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
化合物は一般に、水溶液で存在するよりは固体の状態で存在するほうが安定である。オザグレルナトリウムも同様であり、例えば、オザグレルナトリウムを含有する水溶液を、ガラス容器に充填して保存すると不溶性異物が発生し、また、紫外線によりシス体が生成する等の問題点を有していることが知られている。このような問題を解決するオザグレルナトリウム水溶液を含有した注射剤としては、多価アルコールを添加することで不溶性異物の発生を抑制した注射剤(例えば、特許文献2参照)や有機酸、アミノ酸またはポリアミノカルボン酸等を添加することにより不溶性異物の発生を抑えた注射剤(例えば、特許文献3参照)等が知られている。また、オザグレルナトリウムを含有する水溶液を遮光容器に充填することでシス体の生成を抑制した注射剤(例えば、特許文献4参照)や、特段の添加物を添加すること無く不溶性異物の生成を抑制したオザグレルナトリウムを含有する注射剤として、シリコンコーティングされた容器または硬質プラスチック容器に充填した注射剤も提案されている(例えば、特許文献5参照)。
【0008】
また、オザグレルナトリウム水溶液製剤の長期保存においては、不溶性異物やシス体以外にも、二量体(オザグレル二量体)が生成するという問題点もある。例えば、前記特許文献1の表1に記載された安定性試験のデータでは、オザグレルナトリウムを約40mg/mLの濃度で含有する水溶液を60℃で2週間保存することにより、pH8.0の条件では0.17%、pH8.5の条件では0.06%のオザグレル二量体が生成することが認められている。さらに、オザグレル二量体の生成を抑制する方法として、溶液の塩基性を高くするという方法が述べられている。
【0009】
しかしながら、これらの注射剤はいずれも、通常の注射用水溶液製剤であり、点滴用のプレミクスト注射剤ではない。これまで、オザグレルナトリウムを含有し、長期保存においても安定な、点滴用のプレミクスト注射剤は知られていない。
【特許文献1】特開2004−217645号公報
【特許文献2】特開2001−316265号公報
【特許文献3】特開2003−63963号公報
【特許文献4】特開2000−281578号公報
【特許文献5】特開2003−267872号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前記したように、特許文献1には、溶液の塩基性を高くすることでオザグレル二量体の生成を抑制できることが示されている。しかし、強塩基性に液性が偏ったプレミクスト注射剤は、実際の使用に際し幾つかの望ましくない性質を有する。例えば、プレミクスト注射剤は通常の点滴と同様に、患者への投与の際に抗生物質等の他の薬剤を混合して投与する場合があるが、強塩基性の液性を示すプレミクスト注射剤に他の薬剤を混合すると配合変化をきたし主薬の分解を招くため、望ましい薬効が得られない場合がある。また、強塩基性を示す薬液の点滴静注は、溶血性、疼痛性、局所刺激性等の問題を有することが多く、血管外注射や点滴漏れによって組織障害を起こす場合もある。従って、点滴用注射剤の場合は、塩基性が低い方が好ましく、塩基性が低い溶液で、長期保存において安定であることが望まれる。
【0011】
また一般に、医薬品の分解生成物は、概ね安全性の確認がなされたものではないため、患者の安全の確保を目的として、その含有量に関して種々の規定が設けられている。例えば、国内の医薬品は一般に、最大一日投与量が1g以下の製剤の場合には、分解生成物等の原薬中への混入比率は、0.1%未満であることが好ましいとされている(平成9年6月23日薬審第539号薬務局審査課長通知「新有効成分含有医薬品のうち製剤の不純物に関するガイドライン」)。この指針をオザグレルナトリウム水溶液にあてはめれば、オザグレル二量体の混入比率も0.1%未満であることが好ましいといえる。
【0012】
これらのことを鑑み、上記のような問題を起こすことなく、かつ室温で3年間というような長期間の保存においても二量体の生成量が0.1%未満であり、安定で、用時に希釈する必要のないオザグレルナトリウム含有プレミクスト注射剤を提供することが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、前記の課題を解決するべく鋭意検討を行った結果、驚くべきことに水溶液中のオザグレルナトリウムの濃度を低くすることによって、pHを塩基性に調整することなくオザグレル二量体の生成を抑えうるという知見を得た。すなわち、水溶液中のオザグレルナトリウムの濃度を低くすることで、pHを8.5や9等の塩基性にすること無くオザグレル二量体の生成を抑制せしめ、安定で、かつ用時に希釈する必要のない、所謂プレミクスト注射剤を製造することに成功し、本発明を完成したのである。
【0014】
すなわち、本発明は、
[1]0.02mg/mL以上2mg/mL以下のオザグレルナトリウムを含有するpHが4.5乃至8.7の水溶液であり、かつオザグレル二量体が実質的に生成されないか、またはオザグレル二量体の生成量が0.1%未満である安定な水溶液を輸液用容器に充填してなるプレミクスト注射剤;
[2]さらに(A)電解質類、糖類、ビタミン類および蛋白アミノ酸類から選択される一種または二種以上および/または(B)pH調節剤を含有する前記[1]記載の注射剤;
[3]水溶液のpHが7.7乃至8.2である前記[1]または[2]記載の注射剤;
[4]pH調節剤が有機酸である前記[1]乃至[3]のいずれかに記載の注射剤;
[5]有機酸がクエン酸である前記[4]記載の注射剤;
[6](1)温度60℃で1ヶ月間、(2)温度40℃、相対湿度75%で6ヶ月間、および/または(3)室温で3年間の保存後において、水溶液中にオザグレル二量体が実質的に含まれないか、または水溶液中に含まれるオザグレル二量体が0.1%未満である前記[1]または[2]記載の注射剤;
[7]0.04mg/mL、0.08mg/mL、0.16mg/mL、0.32mg/mL、0.4mg/mL、0.8mg/mL、1.0mg/mL、または1.6mg/mLのオザグレルナトリウムを含有する前記[1]または[2]記載の注射剤;
[8]輸液用容器が単室型ソフトバッグである前記[1]または[2]記載の注射剤;
[9]1単位形態あたり20mg、40mgまたは80mgのオザグレルナトリウムを含有する前記[8]記載の注射剤;
[10]オザグレルナトリウムを含有するpHが4.5乃至8.7の水溶液の保存に伴うオザグレル二量体の生成抑制方法であって、前記水溶液中のオザグレルナトリウムの濃度を0.02mg/mL以上2mg/mL以下とすることを特徴とする方法;
[11](1)温度60℃で1ヶ月間、(2)温度40℃、相対湿度75%で6ヶ月間、および/または(3)室温で3年間の保存後において、水溶液中にオザグレル二量体を実質的に生成させないか、または水溶液中に含まれるオザグレル二量体を0.1%未満にする方法である前記[10]記載の方法;
[12]0.02mg/mL以上2mg/mL以下のオザグレルナトリウムを含有する水溶液であり、かつオザグレル二量体が実質的に生成されないか、またはオザグレル二量体の生成量が0.1%未満である安定な水溶液を輸液用容器に充填してなるプレミクスト注射剤;
[13]オザグレルナトリウムを含有する水溶液の保存に伴うオザグレル二量体の生成抑制方法であって、前記水溶液中のオザグレルナトリウムの濃度を0.02mg/mL以上2mg/mL以下とすることを特徴とする方法;
[14](1)温度60℃で1ヶ月間、(2)温度40℃、相対湿度75%で6ヶ月間、および/または(3)室温で3年間の保存後において、水溶液中にオザグレル二量体を実質的に生成させないか、または水溶液中に含まれるオザグレル二量体を0.1%未満にする方法である前記[13]記載の方法;
等に関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、室温で3年間というような長期間の保存においても、安全性の確認されていない分解生成物のオザグレル二量体の生成量が0.1%未満である、安定なオザグレルナトリウム含有プレミクスト注射剤である。本発明のプレミクスト注射剤は、pHが強塩基性に限定されないので、その液性に起因する溶血性、疼痛性、局所刺激性等の問題がなく、安心して用いることができる。また、より中性付近の液性に調整した本発明のプレミクスト注射剤を用いれば、他の注射剤との混合の際に配合変化を起こす心配もない。本発明のプレミクスト注射剤は、用時に溶解や希釈の操作が必要無いので、(1)薬剤の濃度設定ミス、(2)輸液の選定ミス、および(3)細菌、異物の混入という、点滴用薬液調製の三大リスクを回避した、優れたオザグレルナトリウム含有プレミクスト注射剤である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明において、オザグレルナトリウムは、式(I)
【化1】

で表わされる化合物であり、その化学名は、(E)−3−[p−(1H−イミダゾール−1−イルメチル)フェニル]−2−プロペン酸・ナトリウム塩である。
【0017】
オザグレル((E)−3−[p−(1H−イミダゾール−1−イルメチル)フェニル]−2−プロペン酸)またはそのナトリウム塩である前記オザグレルナトリウムは、公知の方法、例えば、特開昭55−00313号公報に記載の方法、コンプリヘンシヴ・オーガニック・トランスフォーメーションズ:ア・ガイド・トゥー・ファンクショナル・グループ・プレパレーションズ、セカンド・エディション(リチャードC.ラロック、ジョンワイリーアンドサンズInc.,1999)[Comprehensive Organic Transformations:A Guide to Functional Group Preparations,2nd Edition(Richard C.Larock,John Wiley & Sons Inc.,1999)]に記載された方法等を単独で、または組み合わせて用いることによって製造することができる。また、製造されたオザグレルまたはオザグレルナトリウムは、通常の精製手段、例えば、常圧下または減圧下における蒸留、シリカゲルまたはケイ酸マグネシウムを用いた高速液体クロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー、あるいはカラムクロマトグラフィーまたは洗浄、再結晶等の方法によって精製することができる。また、ナトリウム塩以外のオザグレルの塩(例えば、塩酸オザグレル等)も前記オザグレルナトリウムの製造方法と同様に、または該方法に準じて製造し、精製することができる。
【0018】
本発明のプレミクスト注射剤の製造に用いるオザグレルナトリウム含有水溶液は、例えば、オザグレルナトリウムであればそのまま、あるいはオザグレルもしくはナトリウム塩以外のオザグレルの塩(例えば、塩酸オザグレル等)を、例えば、必要量のナトリウム供与体〔例えば、水酸化ナトリウム(例えば、1N水酸化ナトリウム水溶液等)等〕と共に、また所望によってさらに(A)電解質類、糖類、ビタミン類および蛋白アミノ酸類から選択される一種または二種以上および/または(B)pH調節剤を用いて、最終的にオザグレルナトリウムの濃度が約0.02mg/mL以上約2mg/mL以下、好ましくは約0.02mg/mL以上約1mg/mL未満、より好ましくは約0.1mg/mL以上約1mg/mL未満、特に好ましくは約0.1mg/mL以上約0.5mg/mL以下、とりわけ好ましくは約0.1mg/mL以上約0.4mg/mL未満(例えば、約0.16mg/mLまたは約0.32mg/mL等、なかでも約0.32mg/mL等)となるように、かつpHが約4.5乃至約8.7、好ましくは約5.0乃至約8.7、特に好ましくは約7.5乃至約8.7、とりわけ好ましくは約7.7乃至約8.2となるように、水(例えば、注射用蒸留水等)に溶解することによって調製することができる。オザグレルナトリウム含有水溶液を上記の濃度および上記のpHに調製することで、保存に伴うオザグレル二量体の生成量を約0.1%未満に抑制することができる。
【0019】
ここで、オザグレルナトリウム含有水溶液の調製に用いられるオザグレルナトリウムあるいはオザグレルもしくはナトリウム塩以外のオザグレルの塩(例えば、塩酸オザグレル等)は、結晶でも、アモルファスでも、またはいかなる形態の固体であってもよい。
【0020】
本発明の注射剤には、電解質、糖類、ビタミン類、蛋白アミノ酸類またはpH調整剤を含有し得る。
pH調節剤としては、一般に注射剤のpH調節剤として用いられるものであれば特に制限無く用いることができる。本発明において、好ましいpH調節剤としては、例えば、クエン酸、酒石酸、酢酸、乳酸等の有機酸、例えば、塩酸、リン酸等の無機酸、例えば、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウム等の無機塩基等である。より好ましくは、例えば、クエン酸、酒石酸、酢酸、乳酸等の有機酸等であり、特に、クエン酸が好ましい。これらのpH調節剤は、塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等の一価のアルカリ金属塩等)として添加してもよく、また、水和物として添加してもよい。クエン酸は、例えば、クエン酸水和物(例えば、クエン酸・1水和物等)またはクエン酸無水和物(例えば、無水クエン酸等)等として添加することができ、とりわけ、クエン酸無水和物(例えば、無水クエン酸等)として添加することが好ましい。
【0021】
電解質としては、従来より輸液に用いられている各種水溶性塩を用いることができる。例えば、生体の機能や体液の電解質バランスを維持するうえで必要とされる各種無機成分(例えば、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、リン等)の水溶性塩(例えば、塩化物、硫酸塩、酢酸塩、グルコン酸塩、乳酸塩等)を用いることができる。これらの水溶性塩は水和物等の溶媒和物であってもよい。これらの水溶性塩は単独で用いてもよく、また二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0022】
前記の無機成分を供給するための水溶性塩としては、例えば、ナトリウムを供給するための水溶性塩:例えば、塩化ナトリウム、乳酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、グリセロリン酸ナトリウム等;カリウム:例えば、塩化カリウム、乳酸カリウム、酢酸カリウム、硫酸カリウム、グリセロリン酸カリウム等;カルシウムを供給するための水溶性塩:例えば、塩化カルシウム、乳酸カルシウム、酢酸カルシウム、グリセロリン酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、パントテン酸カルシウム等;マグネシウムを供給するための水溶性塩:例えば、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム、乳酸マグネシウム、酢酸マグネシウム、グリセロリン酸マグネシウム等が挙げられる。また、リンの供給源としては、前記無機成分を供給するための水溶性塩に含まれるリン酸の他、糖類のリン酸エステルやその塩が用いられる。具体的には、グリセロリン酸、マンニトール−1−リン酸、ソルビトール−1−リン酸、グルコース−6−リン酸、フルクトース−6−リン酸またはマンノース−6−リン酸等が挙げられる。さらにこれらエステルの塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩が好ましい。より具体的には、グリセロリン酸のナトリウム塩またはカリウム塩が好ましい。
【0023】
電解質の含有量は、特に限定されない。電解質の含有量としては、本発明のプレミクスト注射剤1単位形態あたり、すなわち、バッグ、ボトル等の1容器あたり、例えば、ナトリウム:好ましくは、約15mEq乃至約154mEq;カリウム:好ましくは、約2mEq乃至約35mEq;カルシウム:好ましくは、約2.5mEq乃至約4.5mEq;マグネシウム:好ましくは、約2mEq乃至約5mEq;リン酸:好ましくは、約3mEq乃至約18mEq等が挙げられる。
【0024】
糖類としては、従来より各種の輸液に使用されているものを特に制限なく用いることができる。糖類としては、例えば、グルコース、フルクトース等の単糖類、マルトース等の二糖類、グリセロール等の多価アルコール、キシリトール、ソルビトール、マンニトール等の糖アルコール、デキストラン40またはデキストラン80等のデキストラン類等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、また二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0025】
糖類の含有量としては、特に限定されない。糖類の含有量としては、本発明のプレミクスト注射剤1単位形態あたり、例えば、約50g乃至約500gが好ましい。
【0026】
ビタミン類としては、水溶性/脂溶性を問わず各種ビタミンを特に制限することなく用いることができる。ビタミン類としては、例えば、ビタミンA、プロビタミンA、ビタミンD、プロビタミンD、ビタミンE、ビタミンK、ビタミンB1、ビタミンB2、ナイアシン、ビタミンB6群、パントテン酸、ビオチン、ミオ−イノシトール、コリン、葉酸、ビタミンB12、ビタミンC、ビタミンPまたはビタミンU等が挙げられる。これらビタミン類は単独で用いてもよく、また二種以上を組み合わせて用いてもよい。また、これらのビタミン類を添加するために、各種ビタミンを含有する市販のビタミン製剤を用いてもよい。このような製剤としては、例えば、「マルタミン」(登録商標)(商品名、三共株式会社製)等が挙げられる。
【0027】
ビタミン類の含有量は、特に限定されない。ビタミン類の含有量としては、本発明のプレミクスト注射剤1単位形態あたり、例えば、ビタミンA:好ましくは、約2300IU乃至約3300IU;ビタミンD:好ましくは、約100IU乃至約400IU;ビタミンE:好ましくは、約5mg乃至約70mg;ビタミンK:好ましくは、約0.1mg乃至約3mg;ビタミンB1:好ましくは、約1.0mg乃至約50mg;ビタミンB2:好ましくは、約1.0mg乃至約10mg;ビタミンB6群:好ましくは、約1mg乃至約15mg;パントテン酸:好ましくは、約4.5mg乃至約15mg;ビオチン:好ましくは、約20μg乃至約300μg;葉酸:好ましくは、約100μg乃至約1000μg;ビタミンB12:好ましくは、約1μg乃至約5μg;ビタミンC:好ましくは、約25mg乃至約500mg等が挙げられる。本発明のプレミクスト注射剤はまた、必要に応じ、ナイアシン、ミオ−イノシトール、コリン、ビタミンPまたはビタミンU等を含んでいてもよい。
【0028】
蛋白アミノ酸類としては、栄養補給やチッ素源の供給を目的として従来のアミノ酸輸液に含まれている各種蛋白アミノ酸類(必須アミノ酸、非必須アミノ酸)であれば、特に制限なく使用することができる。
【0029】
具体的には、L−イソロイシン、L−ロイシン、L−バリン、L−リジン、L−メチオニン、L−フェニルアラニン、L−トレオニン、L−トリプトファン、L−アルギニン、L−ヒスチジン、グリシン、L−アラニン、L−プロリン、L−アスパラギン酸、
L−セリン、L−チロシン、L−グルタミン酸またはL−システイン等が挙げられる。
【0030】
蛋白アミノ酸類は、必ずしも遊離アミノ酸の形態で用いる必要はなく、無機酸塩(L−リジン塩酸塩等)、有機酸塩(L−リジン酢酸塩、L−リジンリンゴ酸塩等)、生体内で加水分解可能なエステル体(L−チロシンメチルエステル、L−メチオニンメチルエステル、L−メチオニンエチルエステル等)またはN−置換体(N−アセチル−L−トリプトファン、N−アセチル−L−システイン、N−アセチル−L−プロリン等)等の形態で用いてもよい。
【0031】
さらに、同種または異種のアミノ酸をペプチド結合させたジペプチド類(L−チロシル−L−チロシン、L−アラニル−L−チロシン、L−アルギニル−L−チロシン、L−チロシル−L−アルギニン等)等の形態で用いてもよい。
【0032】
これらの蛋白アミノ酸類の配合比率は特に限定されないが、通常、この技術分野で既知の指標(必須アミノ酸必要量に基づくVuj−N処方、FAO処方、FAO/WHO処方または血漿中アミノ酸組成のフィッシャー比による処方)に従って、種々の必須アミノ酸と非必須アミノ酸との比率(いわゆるE/N比)、あるいは全アミノ酸に対する必須アミノ酸の比率(いわゆるE/T比)を種々変化させ配合したもの、あるいは分岐鎖アミノ酸を、必須アミノ酸または非必須アミノ酸に対する比率を考慮しつつ、適宜含有させたもの等が好ましく用いられる。
【0033】
蛋白アミノ酸類の含有量としては、特に限定されない。蛋白アミノ酸類の含有量としては、本発明のプレミクスト注射剤1単位形態あたり、例えば、L−イソロイシン:好ましくは、約1.8g乃至約12.5g;L−ロイシン:好ましくは、約2.0g乃至約12.5g;L−バリン:好ましくは、約1.3g乃至約9.6g;L−リジン塩酸塩:好ましくは、約2.6g乃至約22.3g;L−メチオニン:好ましくは、約1.0g乃至約11.3g;L−フェニルアラニン:好ましくは、約1.8g乃至約12.8g;L−トレオニン:好ましくは、約1.3g乃至約6.5g;L−トリプトファン:好ましくは、約0.5g乃至約7.0g;L−アルギニン塩酸塩:好ましくは、約1.6g乃至約14.5g;L−ヒスチジン塩酸塩:好ましくは、約1.3g乃至約8.1g;グリシン:好ましくは、約0.2g乃至約7.0g;L−アラニン:好ましくは、約1.4g乃至約8.2g;L−プロリン:好ましくは、約0.9g乃至約10.6g;L−アスパラギン酸:好ましくは、約0.5g乃至約6.3g;L−セリン:好ましくは、約0.7g乃至約5.0g;L−チロシン:好ましくは、約0.05g乃至約0.6g;L−グルタミン酸:好ましくは、約0.3g乃至約6.5g;L−システイン:好ましくは、約0.06g乃至約1.5g等が挙げられる。
【0034】
本発明のプレミクスト注射剤はさらに、電解質類として、微量元素を含有していてもよい。本発明において微量元素とは、ヒトに対して輸液療法、特に高カロリー輸液療法を施す際に生じ得る各種欠乏症状を改善する元素をいう。
【0035】
微量元素としては、例えば、鉄、銅、亜鉛、マンガン、ヨウ素、セレン、モリブデン、クロムまたはフッ素等が挙げられる。これらの微量元素は、患者の状態に対応して一種類、または二種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0036】
微量元素の含有量は特に限定されない。微量元素の含有量としては、本発明のプレミクスト注射剤1単位形態あたり、例えば、鉄:好ましくは、約0.9μmol乃至約224μmol、より好ましくは、約9μmol乃至約70μmol;銅:好ましくは、約0.9μmol乃至約55μmol、より好ましくは、約1μmol乃至約10μmol;亜鉛:好ましくは、約3.85μmol乃至約210μmol、より好ましくは、約38.5μmol乃至約61.5μmol;マンガン:好ましくは、0μmol乃至約51μmol、より好ましくは、約1μmol乃至約14.5μmol;セレン:好ましくは、約0.025μmol乃至約5.0μmol、より好ましくは、約0.25μmol乃至約2.5μmol;ヨウ素:好ましくは、0μmol乃至約11μmol、より好ましくは、約0.6μmol乃至約1.1μmol等が挙げられる。
【0037】
本発明のプレミクスト注射剤はまた、必要に応じ、クロム、モリブデン、コバルトまたはフッ素等のその他の元素を含んでいてもよい。これらの微量元素は、これらの元素を含む水溶性化合物を、注射用水や他の水性成分に溶解させることにより本発明のプレミクスト注射剤に添加される。
【0038】
各元素の供給源である水溶性化合物としては、例えば、鉄供給源:硫酸鉄、塩化第一鉄、塩化第二鉄、グルコン酸鉄等;銅供給源:硫酸銅等;亜鉛供給源:硫酸亜鉛、塩化亜鉛、グルコン酸亜鉛、乳酸亜鉛、酢酸亜鉛等;マンガン供給源:硫酸マンガン等;等が挙げられる。また、ヨウ素、セレン、モリブデン、クロムまたはフッ素等についても、その水溶性化合物を使用することによって本発明のプレミクスト注射剤に添加することができる。
【0039】
また、複数の微量元素が配合された市販の製剤を用いることによっても前記の微量元素を本発明のプレミクスト注射剤に添加することができる。市販品の具体例としては、鉄、銅、亜鉛、マンガンおよびヨウ素を含む「ミネラリン注」(登録商標)(商品名、日本製薬株式会社/武田薬品工業株式会社製)および「エレメンミック注」(登録商標)(商品名、味の素ファルマ社製)や、鉄、銅、亜鉛およびヨウ素を含む「パルミリン注」(登録商標)(商品名、日本製薬株式会社/武田薬品工業株式会社製)および「エレメート注」(登録商標)(商品名、味の素ファルマ社製)が挙げられる。
【0040】
前記のpH調節剤や電解質類、糖類、ビタミン類、蛋白アミノ酸類等を本発明のプレミクスト注射剤に添加や混合する操作は通常の製剤学的手法に従って行われる。例えば、オザグレルナトリウムとpH調節剤のみを含有する水溶液を調製する場合、オザグレルナトリウムとpH調節剤をそれぞれ秤量し、混合したあとで水に溶解してもよいし、オザグレルナトリウムを含有する水溶液に、秤量したpH調節剤を溶解してもよい。また、pH調節剤を含有する水溶液に、秤量したオザグレルナトリウムを溶解してもよい。pH調節剤を含有する水溶液とオザグレルナトリウムを含有する水溶液を各々調製しておいて、オザグレルナトリウムの濃度が前記の濃度になるように、これらの水溶液を混合して調製することも可能である。電解質類、糖類、ビタミン類、蛋白アミノ酸類等を含む場合も同様に調製することが可能である。
【0041】
また、オザグレルナトリウム含有水溶液は、一般に市販されている輸液(例えば、総合アミノ酸輸液(例えば、アミノレバン(大塚)、アミゼットB(田辺)、アミゼットXB(田辺)、アミパレン(大塚)、ネオアミユー(味の素ファルマ)、プレアミン−P(扶桑)、プロテアミン12X(田辺)、モリプロン−F(味の素ファルマ)等)、高カロリー輸液用糖・電解質・アミノ酸液(例えば、ピーエヌツイン(味の素ファルマ)、ユニカリック(テルモ−田辺)等)、電解質輸液(例えば、生理食塩水、乳酸リンゲル液(例えば、ソリタ(味の素ファルマ)、ソルラクト(テルモ)、ハルトマン(小林製薬工業)、ラクテック(大塚)等)、ブドウ糖加乳酸リンゲル液(例えば、ソルラクトD(テルモ)、ハルトマンD(小林製薬工業)、ラクテックD(大塚)等)、ブドウ糖加酢酸リンゲル液(例えば、ヴィーンD(日研)等)、ソルビトール加乳酸リンゲル液(例えば、ソリタS(味の素ファルマ)、ラクテックG(大塚)等)、マルトース加乳酸リンゲル液(例えば、ソルラクトTMR(テルモ)、ポタコールR(大塚)等)、マルトース加アセテート液(例えば、アクチット(日研)等)、EL3号(成人用維持液;味の素ファルマ)、10%EL3号(維持液;味の素ファルマ)、EN補液(1A、1B、2A、2B、3A、3B、4A、4B;大塚)、ソリタT(1号、2号、3号、3号G、4号;味の素ファルマ)、フィジオゾール(大塚)、ソルデム(1、2、3、4、5、6;テルモ)等)、高カロリー輸液用糖・電解質液(例えば、トリパレン(1号、2号;大塚)、ハイカリック(1号、NC−L、2号、NC−N、3号、NC−H;テルモ)、ハイカリックRF(テルモ)等)、高カロリー輸液用糖・電解質・アミノ酸液(例えば、ピーエヌツイン(−1号、−2号、−3号;味の素ファルマ)、ユニカリック(L、N;テルモ−田辺)等)等)もしくはそれらと同様の成分を含む水溶液等を用いて、オザグレルナトリウムであればそのまま、あるいはオザグレルもしくはナトリウム塩以外のオザグレルの塩(例えば、塩酸オザグレル等)を、例えば、必要量のナトリウム供与体〔例えば、水酸化ナトリウム(例えば、1N水酸化ナトリウム水溶液等)等〕と共に、最終的にオザグレルナトリウムの濃度が約0.02mg/mL以上約2mg/mL以下、好ましくは約0.02mg/mL以上約1mg/mL未満、より好ましくは約0.1mg/mL以上約1mg/mL未満、特に好ましくは約0.1mg/mL以上約0.5mg/mL以下となるように、かつpHが約4.5乃至約8.7、好ましくは約7.7乃至約8.2となるように、希釈および/または溶解することによっても調製することができる。
【0042】
本発明のプレミクスト注射剤は、前記の方法によって調製されたオザグレルナトリウム含有水溶液を、輸液用容器に充填することによって製造することができる。輸液用容器への充填・密封は、常法に従って行うことができる。例えば、ろ過滅菌または加熱滅菌等の滅菌操作により予め滅菌したオザグレルナトリウム含有水溶液を、別途、電子線滅菌法、紫外線滅菌法、γ線滅菌法、高圧蒸気滅菌法またはガス滅菌法等の滅菌法を用いて滅菌した輸液用容器に、無菌的に充填・密封する方法や、オザグレルナトリウム含有水溶液を輸液用容器に充填・密封し、ついで内容物と共に輸液用容器ごと常法(例えば、高圧蒸気滅菌法、熱水浸漬滅菌法、熱水シャワー滅菌法等)に従って滅菌する方法等が用いられる。また、所望によってこれらの容器への充填の前に、防塵フィルター(例えば、0.45μmメチルセルロースメンブレン等)でろ過等の操作を行ってもよい。本発明のプレミクスト注射剤の滅菌処理としては高圧蒸気滅菌が好ましい。高圧蒸気滅菌は、例えば、約100℃乃至125℃の条件で、約5分乃至30分行うことが好ましい。
【0043】
本発明のプレミクスト注射剤の製造に用いられる容器は、密封可能であり、内容物の無菌性を保つことができる容器であればどのような形態のものでもよく、一般的に使用される輸液用容器であればよい。
【0044】
具体的には、プラスチック製輸液バッグ、プラスチック製輸液ボトル、またはガラス製輸液ボトル等が用いられる。これらの容器の形状および大きさに特に制限は無い。プラスチック製輸液バッグ(いわゆる、ソフトバッグ)は、使用時の希釈や混合の操作をできるだけ省くために、複室型のバッグではなく、単室型輸液バッグが好ましい。
【0045】
容器の材質は、一般的に輸液製剤に使用可能なガラス材質、またはプラスチック材質であればよく、特にプラスチック材質が好ましい。プラスチック材質としては、従来より輸液用容器等に使用されている可撓性樹脂が好ましい。より好ましい樹脂としては、ある程度の耐熱性のある軟質合成樹脂(例えば、ポリオレフィン類(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、ポリプロピレンとポリエチレンまたはポリブテンとの混合物、前記ポリオレフィンの部分架橋物、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン−無水マレイン酸共重合体等)、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、フッ化エチレン−塩化ビニリデン共重合体、ポリエステル(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等)、ナイロン、スチレン系エラストマー(例えば、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体、水素添加スチレン−エチレン−ブタジエン共重合体、水素添加スチレン−イソプレン−スチレン共重合体等)等)等が挙げられる。プラスチック材質は、2層以上の多層構造を有していてもよい。
【0046】
本発明のプレミクスト注射剤の製造工程等において、内容物による発泡が激しく澄明となるのに時間を要する場合には、シリコンコーティングした輸液用容器を使用し、製造時間の短縮をはかることができる。コーティングに使用されるシリコンとしては、シリコンオイル(例えば、ジメチルポリシロキサン、メチルハイドロゲンポリシロキサン等)、ワニスシリコン(例えば、メチルワニスシリコン、メチルフェニルワニスシリコン等)等が挙げられ、好ましいシリコンの一例としては、KM−740(信越化学工業(株))が挙げられる。
【0047】
本発明のプレミクスト注射剤のうち、特にアルカリ性を示す水溶液を充填する場合は、ガラス材質の容器に保存することで不溶性異物が発生することがある。このような水溶液を前記のガラス材質の輸液用容器に充填する場合には、これらの容器の内表面をシリコンでコーティングするか、または二酸化ケイ素で処理(例えば、シリコート等)しておくことで不溶性異物の発生を抑えることができ、長期保存下にあっても不溶性異物の生成の問題が無いプレミクスト注射剤を提供することが可能である。シリコンのコーティングは、シリコン系コーティング剤(例えば、ジメチルシリコンオイル、メチルフェニルシリコンオイル、メチルハイドロゲンシリコンオイル等)等を用いて、かかる容器の内表面を、被膜の厚さが約100μm以下、好ましくは、約15μm乃至約50μm以下となるように、公知の方法、例えば、加熱蒸着法、プラズマ強化化学蒸着法、プラズマパルス化学蒸着法等によって行われる。二酸化ケイ素での処理は、公知の方法、例えば、シリコート処理、波状プラズマ化学的気相法処理等によって行われる。
【0048】
勿論、プラスチック材質の輸液用容器を用いる場合には、前記の不溶性異物の発生の問題はないので、前記の処理を施さずとも、長期保存下にあっても不溶性異物の生成の問題が無いプレミクスト注射剤を提供することが可能である。
【0049】
本発明において、容器の容量は特に限定されない。容器の容量は、例えば、約50mL、約80mL、約100mL、約200mL、約250mL、約500mL、約800mL、約1000mL、約2000mL等が挙げられる。
【0050】
また、1単位形態あたりのオザグレルナトリウムの含有量も限定されない。例えば、1単位形態あたり約20mg乃至80mg、好ましくは1単位形態あたり約20mg、約40mg、約80mgのオザグレルナトリウムを含有するプレミクスト注射剤が用いられるが、オザグレルナトリウムは、くも膜下出血術後の脳血管れん縮およびこれに伴う症状、および脳血栓症、特に急性期のそれに伴う運動障害の改善剤として、一回あたり通常約80mgが使用されるので、1単位形態あたり約80mgのオザグレルナトリウムを含有するプレミクスト注射剤が特に好ましい。すなわち、約1.6mg/mLのオザグレルナトリウム含有水溶液を約50mL充填した注射剤、約1.0mg/mLのオザグレルナトリウム含有水溶液を約80mL充填した注射剤、約0.8mg/mLのオザグレルナトリウム含有水溶液を約100mL充填した注射剤、約0.4mg/mLのオザグレルナトリウム含有水溶液を約200mL充填した注射剤、約0.32mg/mLのオザグレルナトリウム含有水溶液を約250mL充填した注射剤、約0.16mg/mLのオザグレルナトリウム含有水溶液を約500mL充填した注射剤、約0.1mg/mLのオザグレルナトリウム含有水溶液を約800mL充填した注射剤、約0.08mg/mLのオザグレルナトリウム含有水溶液を約1000mL充填した注射剤、約0.04mg/mLのオザグレルナトリウム含有水溶液を約2000mL充填した注射剤等が好ましい。これらの注射剤は、1単位形態あたり約80mgのオザグレルナトリウムを含有するので、使用に際しては、そのまま内容の水溶液を全量点滴注射するだけでよい。
【0051】
オザグレルナトリウムを含有する水溶液を透明で無着色の容器に充填し、蛍光灯照射下に長期保存した場合、蛍光灯の紫外線による変化、特にシス−トランス異性化が起こり、シス体が生成することが知られている。その生成を防止するために、本発明のプレミクスト注射剤には、特定波長の光の透過性を抑えた遮光性の包装を施すことが好ましい。かかる包装は、一般的に使用されている遮光性の包装であれば特に制限無く用いることができる。具体的には、特定波長の光の透過性を抑えた素材の袋、プラスチックやアルミニウム等の遮光素材の袋、または遮光性のプラスチックを用いたシュリンク包装(例えば、シュリンクラベル等)やブリスター包装等を用いることができる。これらの遮光性包装は、組み合わせて用いることで、より遮光性を高めることができる。
【0052】
また、本発明のプレミクスト注射剤に用いられる輸液用容器、特にプラスチック材質の輸液用容器には、プラスチックのポリマーに加工性、耐熱性、強さ等を付与するために添加される通常の添加剤の他、酸化防止剤、紫外線吸収剤または光安定剤等(以下、これらを紫外線吸収剤と略称する。)を添加して製造されたものも好ましく用いることができる。ポリマーに添加される紫外線吸収剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、サリチル酸フェニルエステル系、トリアジン系等の紫外線吸収剤が挙げられる。ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤としては、例えば、2−(5−メチル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2−[2−ヒドロキシ−3,5−ビス(α,α−ジメチルベンジル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−t−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2−メチレンビス[4−(1,1,3,3−テトラメチレンブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール]等を例示することができ、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤としては、例えば、2−ヒドロキシ−4−オクトキシベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−4’−クロルベンゾフェノン、2,2−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノンまたは2,2−ジヒドロキシ−4,4’−ジメトキシベンゾフェノン等を例示することができる。また、サリチル酸フェニルエステル系紫外線吸収剤としては、例えば、p−t−ブチルフェニルサリチル酸エステル等が例示でき、トリアジン系紫外線吸収剤としては、例えば、2,4−ジフェニル−6−(2−ヒドロキシ−4−メトキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ジフェニル−6−(2−ヒドロキシ−4−エトキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ジフェニル−(2−ヒドロキシ−4−プロポキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ジフェニル−(2−ヒドロキシ−4−ブトキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ジフェニル−6−(2−ヒドロキシ−4−ブトキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ジフェニル−6−(2−ヒドロキシ−4−ヘキシルオキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ジフェニル−6−(2−ヒドロキシ−4−オクチルオキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ジフェニル−6−(2−ヒドロキシ−4−ドデシルオキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ジフェニル−6−(2−ヒドロキシ−4−ベンジルオキシフェニル)−1,3,5−トリアジンまたは2,4−ジフェニル−6−(2−ヒドロキシ−4−ブトキシエトキシ)−1,3,5−トリアジン等を挙げることができる。勿論これらの記載は例示であって、本発明のプレミクスト注射剤に用いられる紫外線吸収剤はこれらだけに限定されるものではない。
【0053】
紫外線吸収剤が添加されたプラスチック材質の輸液用容器を本発明のプレミクスト注射剤の製造に用いる場合は、前記遮光性の包装を施さなくとも前記シス体の生成を抑制することができる。
【0054】
特に、これら紫外線吸収剤が添加されたプラスチック材質の輸液用容器(例えば、遮光性ソフトバッグ等)を用いれば、保存期間のみならず、内容物を点滴投与する際にもシス体の生成を抑えることができる。
【0055】
本発明のプレミクスト注射剤は、内容物の全量または所望によってその一部を、そのまま患者の静脈内に点滴投与することができる。また、必要に応じて、他の薬剤を混合して、または併用して用いることも可能である。
【0056】
本発明のプレミクスト注射剤と混合、または併用できる他の薬剤としては、オザグレルナトリウムが処方される患者に対して、点滴で投与される薬剤であればどのようなものであってもよいが、特に、抗生物質等が挙げられる。本発明のプレミクスト注射剤は、配合変化をきたすことなく抗生物質を混合して投与することができるので、患者の静脈穿刺の回数も減らし、苦痛を軽減することができる。
【0057】
本発明のプレミクスト注射剤は、前記の方法によって調製されたオザグレルナトリウムを含有する水溶液を、前記の輸液用容器に充填し、密封して製造することができる。また、これらの工程における任意の過程で、一般的な輸液製剤等と同様の滅菌操作に付すことで、無菌性を保持したプレミクスト注射剤とすることができる。また、所望によってこれらの容器への充填の前に、防塵フィルター(例えば、0.45μmメチルセルロースメンブレン、0.45μmナイロン66メンブレン、0.45μmポリフッ化ビニリデンメンブレン等)で濾過等の操作を行ってもよい。本発明のプレミクスト注射剤を製造するにあたり、滅菌操作に用いられる具体的な滅菌方法としては、例えば、ガス滅菌法、熱水浸漬滅菌法、熱水シャワー滅菌法、濾過滅菌法、照射滅菌法(例えば、電子線滅菌法、紫外線滅菌法、γ線滅菌法等)または高圧蒸気滅菌(オートクレーブ)法等が挙げられる。濾過滅菌法は、例えば、オザグレルナトリウムを含有する水溶液を前記の方法によって調製した後、例えば、プラスチック製輸液バッグ、プラスチック製輸液ボトル、ガラス製輸液ボトル等の適当な容器に充填する前に、例えば、除菌フィルター(例えば、0.22μmメチルセルロースメンブレン、0.22μmナイロン66メンブレン、0.22μmポリフッ化ビニリデンメンブレン等)等を用いて行われる。ガス滅菌法は、オザグレルナトリウムを含有する水溶液を充填する前に、プラスチック製輸液バッグ等の容器に対して行われる。熱水浸漬滅菌法、熱水シャワー滅菌法、照射滅菌法や高圧蒸気滅菌法は、例えば、オザグレルナトリウムを含有する水溶液を前記の方法によって調製し、例えば、プラスチック製輸液バッグ、プラスチック製輸液ボトル、ガラス製輸液ボトル等の適当な容器に充填した後に行われる。高圧蒸気滅菌は、例えば、約100℃乃至125℃の条件で、約5分乃至30分行うことが好ましい。本発明のプレミクスト注射剤の製造に用いられる滅菌方法としては、例えば、濾過滅菌法や高圧蒸気滅菌法等が好ましく、特に、高圧蒸気滅菌法が好ましい。
【0058】
本発明のプレミクスト注射剤のより具体的な製造法を以下に示す。
本発明の、オザグレルナトリウムを含有する水溶液からなるプレミクスト注射剤は、通常の製剤学的手法に従って、例えば、オザグレルナトリウムを適量の注射用蒸留水に溶解し、所望によってさらに(A)電解質類、糖類、ビタミン類および蛋白アミノ酸類から選択される一種または二種以上および/または(B)pH調節剤を添加して、例えば、水溶液中のオザグレルナトリウム濃度が、約0.02mg/mL以上約2mg/mL以下、好ましくは約0.02mg/mL以上約1mg/mL未満、より好ましくは約0.1mg/mL以上約1mg/mL未満、特に好ましくは約0.1mg/mL以上約0.5mg/mL以下、とりわけ好ましくは約0.1mg/mL乃至約0.4mg/mL未満(例えば、約0.16mg/mLまたは約0.32mg/mL等、なかでも約0.32mg/mL等)となるように、かつpHが約4.5乃至約8.7、好ましくは約5.0乃至約8.7、特に好ましくは約7.5乃至約8.7、とりわけ好ましくは約7.7乃至約8.2となるように調整し、除菌フィルター等を用いて濾過滅菌後、前記のプラスチック容器(好ましくは、プラスチック製輸液バッグ等)に充填(好ましくは、1単位形態あたりオザグレルナトリウムを約80mg含有するように充填)し、密封することで、本発明のプレミクスト注射剤として得ることができる。このようにして得られた本発明のプレミクスト注射剤は、さらに、必要に応じて、遮光性の二次包装容器に入れる。このように、プラスチック容器を用いて本発明のプレミクスト注射剤を製造し、さらに遮光性の二次包装容器に入れることで、オザグレル二量体の生成のみならず、不溶性異物の生成やシス体の生成も抑えることが可能であり、優れたプレミクスト注射剤として臨床に提供することができる。
【0059】
本発明のプレミクスト注射剤の製造に用いる輸液用容器がプラスチック製輸液ボトルまたはガラス製輸液ボトルである場合、濾過滅菌した薬液をボトルに分注し、開口部をゴム栓、所望によってアルミニウム製のキャップ等を組み合わせて密封し、製造することができる。
【0060】
本発明のプレミクスト注射剤の製造に用いる輸液用容器がプラスチック製輸液バッグである場合、前記の滅菌方法によって滅菌した薬液を、別途、前記の滅菌方法またはガス滅菌法等の滅菌法を用いて滅菌したバッグに無菌的に充填・密封する方法、もしくは、薬液をバッグに充填・密封し、ついで内容物と共に容器ごと常法(例えば、高圧蒸気滅菌法、熱水浸漬滅菌法、熱水シャワー滅菌法等)に従って滅菌する方法等により製造することができる。
【0061】
本発明において、オザグレル二量体とは、オザグレルから変化し生成した以下の式(II−1):
【化2】

で示される化合物、その考えられ得る平衡物や共鳴混成体、またはそれらの任意の比率の混合物を意味する。式(II−1)で示される化合物の考えられ得る平衡物や共鳴混成体としては、例えば、以下の式(II−2)、(II−3)および(II−4):
【化3】

で示される化合物等が挙げられる。なお、前記式(II−1)、(II−2)、(II−3)および(II−4)で示される化合物は、それぞれ、(2E)−3−{4−[(1−{2−カルボキシ−1−[4−(1H−イミダゾール−1−イルメチル)フェニル]エチル}−1H−イミダゾール−3−イウム−3−イル)メチル]フェニル}アクリラート(II−1)、3−(3−{4−[(E)−2−カルボキシビニル]ベンジル}−1H−イミダゾール−3−イウム−1−イル)−3−[4−(1H−イミダゾール−1−イルメチル)フェニル]プロパノアート(II−2)、(2E)−3−{4−[(3−{2−カルボキシ−1−[4−(1H−イミダゾール−1−イルメチル)フェニル]エチル}−1H−イミダゾール−3−イウム−1−イル)メチル]フェニル}アクリラート(II−3)および3−(1−{4−[(E)−2−カルボキシビニル]ベンジル}−1H−イミダゾール−3−イウム−3−イル)−3−[4−(1H−イミダゾール−1−イルメチル)フェニル]プロパノアート(II−4)と命名される。尚、これらの命名は、IUPAC名を機械的に生成するコンピュータープログラム、ACD/NAMETM(Advanced Chemistry Development社)を用いて行ったものである。
【0062】
本発明のプレミクスト注射剤は、前記オザグレル二量体の生成を極力減じたプレミクスト注射剤であり、保存下においてもオザグレル二量体が実質的に生成されないか、またはオザグレル二量体の生成量を約0.1%未満に抑えることができる。
【0063】
本発明において、オザグレルナトリウムを含有する水溶液の安定化方法とは、オザグレルナトリウムを含有するpHが約4.5乃至8.7、好ましくは約5.0乃至8.7、特に好ましくは約7.5乃至8.7、とりわけ好ましくは約7.7乃至8.2の水溶液において、前記水溶液中のオザグレルナトリウムの濃度を約0.02mg/mL以上約2mg/mL以下、好ましくは約0.02mg/mL以上約1mg/mL未満、より好ましくは約0.1mg/mL以上約1mg/mL未満、特に好ましくは約0.1mg/mL以上約0.5mg/mL以下、とりわけ好ましくは約0.1mg/mL乃至約0.4mg/mL未満(例えば、約0.16mg/mLまたは約0.32mg/mL等、なかでも約0.32mg/mL等)となるように調製することにより、オザグレル二量体の生成を抑制、好ましくは約0.1%未満に、より好ましくは約0.06%以下に抑制する方法をいい、例えば、後記に示すような、該水溶液の保存条件やオザグレル二量体の検出条件によって限定されるものではない。本発明におけるオザグレルナトリウムを含有する水溶液の安定化方法は、該水溶液のpHをさらに塩基性に傾けることなく保存に伴うオザグレル二量体の生成量を抑制することができる方法であるので、かかる方法を用いることによって、オザグレルナトリウムを含有する安定なプレミクスト注射剤、とりわけ、他の薬剤と混合しても配合変化を起こすことなく、さらに溶血性、疼痛性、局所刺激性等の問題もない、臨床に好適で好品質なプレミクスト注射剤を調製することが可能である。また、後記に実施例として示すように、例えば、約0.32mg/mLのオザグレルナトリウムを含有する水溶液では、そのまま患者の静脈内に点滴投与することができるようなpHであれば、如何なるpHであっても(少なくともpH約5.0以上では)、二量体の生成量を約0.1%未満にすることができる。本発明のオザグレル二量体生成抑制方法は、オザグレル二量体の生成をオザグレルナトリウムの濃度を下げることによって抑制するものであるため、少なくともオザグレルナトリウムの濃度が約0.32mg/mL以下であれば、そのまま患者の静脈内に点滴投与することができるpHであれば、如何なるpHであっても、二量体の生成量を約0.1%未満にすることができる。
【0064】
オザグレル二量体の生成量は、例えば、本発明のプレミクスト注射剤を、ICHガイドラインで定められている加速安定性試験の条件(温度40℃、相対湿度75%)での6ヶ月間の保存後、該容器中のオザグレル二量体の量の、同時点での容器中のオザグレル関連成分(オザグレルおよびその分解生成物)の総量に対する割合で示すことができ、より具体的には、例えば、後記の測定条件を用いた高速液体クロマトグラフ法で得られたチャートの各々のピーク、すなわち、オザグレルのピークおよびオザグレル二量体のピークの面積百分率によって表わすことができる。ICHガイドラインで定められている加速安定性試験の条件(温度40℃、相対湿度75%)での6ヶ月間の保存は、長期保存安定性試験の条件、すなわち、室温(温度約25℃、相対湿度約60%)での約3年間の保存に相当することから、かかる加速安定性試験を行うことによって、6ヶ月の短期間で、室温で約3年間保存した後のオザグレル二量体の生成量を知ることができる。ただし、温度約40℃、相対湿度75%の条件での6ヶ月間の保存と、室温での約3年間の保存とでは全く同様の結果が得られるわけではないので、少なくともいずれか一方の条件でオザグレル二量体の生成量が約0.1%未満〔好ましくは、約0.06%以下〕であれば、全て本発明に包含される。また、ICHガイドラインで定められている加速安定性試験の条件(温度40℃、相対湿度75%)での6ヶ月間の保存は、過酷安定性試験の条件(温度約60℃)での約1ヶ月間の保存に相当することから、温度約60℃での1ヶ月間の保存後におけるオザグレル二量体の生成量を調べることによって、室温で約3年間保存した後のオザグレル二量体の生成量をさらに短期間で知ることができる。勿論、温度約40℃、相対湿度約75%の条件での約6ヶ月間の保存と、温度約60℃での約1ヶ月間の保存および室温で約3年間の保存とでは全く同様の結果が得られるわけではないので、少なくともいずれか一つの条件でオザグレル二量体の生成量が約0.1%未満〔好ましくは、約0.06%以下〕であれば、全て本発明に包含される。本発明において、「オザグレル二量体の生成量が約0.1%未満である」とは、オザグレルナトリウムを含有する水溶液を前記後記高速液体クロマトグラフに付したときに、検出される総ピーク面積(例えば、オザグレルのピークとオザグレル二量体のピークが検出された時は、それらのピーク面積の和)に対するオザグレル二量体のピーク面積(ピークが分かれた場合はそれらのピークの合計面積)の比(面積%)が、約0.1%未満であることを意味し、オザグレル二量体を実質的に含まないもの、すなわち検出限界未満であるものも包含する。
【0065】
オザグレルおよびオザグレル二量体は、公知の分析方法(例えば、高速液体クロマトグラフ法、ガスクロマトグラフ法、薄層クロマトグラフ法等)を用いて測定することができるが、特に、高速液体クロマトグラフ法を用いて測定することが好ましい。高速液体クロマトグラフ法を用いることで、オザグレルおよびオザグレル二量体を、同一の条件で、かつ同一のサンプルを用いて高感度で測定することができる。高速液体クロマトグラフ法は、公知の方法によって行われる。具体的には、以下の(1)−(3)の方法によって行われる。本法を用いることによって、オザグレルおよびオザグレル二量体のピーク面積を測定し、オザグレル二量体の生成量を算出することが可能である。また、本法を用いることによって、オザグレル二量体の生成量が、約0.1%未満〔好ましくは、約0.06%以下〕であるか否かを判断することができる。
(1)前記の過酷安定性試験、加速安定性試験または長期保存安定性試験後の試料を用い、オザグレルナトリウムとして0.5mg/mLとなるように、移動相[0.3%酢酸アンモニウム液:メタノール=4:1(V/V)]を使用して正確に希釈し試料溶液を調製する。0.5mg/mLより希薄な試料は希釈せずに試料溶液とする。
(2)移動相で希釈した試料溶液5μLまたはオザグレルナトリウムとして25μgに相当する試料量につき、以下の条件で高速液体クロマトグラフを行う。
試験条件:
検出器:紫外吸光光度計(測定波長:220nm);
カラム:内径4.6mm、長さ15cmのステンレス管に5μmの液体クロマトグラフ用オクタデシルシリル化シリカゲルを充填(例えば、YMC−Pack ODS−A A302等);
カラム温度:25℃付近の一定温度;
移動相:0.3%酢酸アンモニウム液:メタノール=4:1(V/V);
流量:オザグレルの保持時間が約10分になるように調整;
面積測定範囲:溶媒ピークの後からオザグレルの保持時間の約2倍の範囲。
(3)試料溶液の各々のピ−ク面積を自動積分法により測定し、面積百分率法によりそれらの量(面積%)を求める。
【0066】
[医薬品への適用]
本発明のプレミクスト注射剤は、オザグレルナトリウムを含有する水溶液を充填したものであるので、くも膜下出血術後の脳血管れん縮およびこれに伴う症状、または脳血栓症、特に急性期のそれに伴う運動障害の改善に用いることができる。しかも、オザグレル二量体の生成を抑えることができるので、長期間の保存が可能で、臨床に好適で好品質なプレミクスト注射剤である。特に、プラスチック製輸液バッグに充填した本発明のプレミクスト注射剤は、使用後廃棄する際にも嵩張らず、安全に廃棄することができる。とりわけ、1単位形態あたり約80mgのオザグレルナトリウムを含有するプレミクスト注射剤は、使用時に1単位(例えば、1袋等)を点滴静注すればよく、用時に溶解や希釈の操作をすることなく、また、混合の操作も必要無いので、(1)薬剤の濃度設定ミス、(2)輸液の選定ミス、および(3)細菌、異物の混入という、点滴用薬液調製の三大リスクを回避した、優れたオザグレルナトリウム含有プレミクスト注射剤として、臨床に提供することができる。
【0067】
[毒性]
本発明によって、安全性の確認されていないオザグレル二量体の生体への曝露の危険性を減らすことができる。
以下に、実施例を挙げて本発明を詳述するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
また、本発明の範囲を逸脱しない範囲で変化させてもよい。
【実施例1】
【0068】
<処方1>
オザグレルナトリウム(1mg/mL)含有プレミクスト注射剤の製造
オザグレルナトリウム400mgおよび無水クエン酸2.7mgを注射用水に溶解し、全量400mLのオザグレルナトリウム含有水溶液を調製した。尚、該水溶液のpHは約8.2であった。この水溶液をプラスチック製ソフトバッグに80mLずつ充填し密封することにより本発明のオザグレルナトリウム含有プレミクスト注射剤を製造した。
【0069】
<処方2>
オザグレルナトリウム(0.32mg/mL)含有プレミクスト注射剤の製造
オザグレルナトリウム128mgおよび無水クエン酸0.864mgを注射用水に溶解し、全量400mLのオザグレルナトリウム含有水溶液を調製した。尚、該水溶液のpHは約8.0であった。この水溶液をプラスチック製ソフトバッグに250mL充填し密封することにより本発明のオザグレルナトリウム含有プレミクスト注射剤を製造した。
【0070】
<処方3>
オザグレルナトリウム(1mg/mL)含有プレミクスト注射剤の製造
オザグレルナトリウム400mg、無水クエン酸2.7mgおよび塩化ナトリウム3.6gを注射用水に溶解し、全量400mLのオザグレルナトリウム含有水溶液を調製した。尚、該水溶液のpHは約8.2であった。この水溶液をプラスチック製ソフトバッグに80mLずつ充填し密封することにより本発明のオザグレルナトリウム含有プレミクスト注射剤を製造した。
【0071】
<処方4>
オザグレルナトリウム(0.32mg/mL)含有プレミクスト注射剤の製造
オザグレルナトリウム128mg、無水クエン酸0.864mgおよび塩化ナトリウム3.6gを注射用水に溶解し、全量400mLのオザグレルナトリウム含有水溶液を調製した。尚、該水溶液のpHは約8.0であった。この水溶液をプラスチック製ソフトバッグに250mL充填し密封することにより本発明のオザグレルナトリウム含有プレミクスト注射剤を製造した。
【0072】
<処方5>
オザグレルナトリウム(1mg/mL)含有プレミクスト注射剤の製造
オザグレルナトリウム400mg、無水クエン酸2.7mgおよびブドウ糖20gを注射用水に溶解し、全量400mLのオザグレルナトリウム含有水溶液を調製した。尚、該水溶液のpHは約8.2であった。この水溶液をプラスチック製ソフトバッグに80mLずつ充填し密封することにより本発明のオザグレルナトリウム含有プレミクスト注射剤を製造した。
【0073】
<処方6>
オザグレルナトリウム(0.32mg/mL)含有プレミクスト注射剤の製造
オザグレルナトリウム128mg、無水クエン酸0.864mgおよびブドウ糖3.6gを注射用水に溶解し、全量400mLのオザグレルナトリウム含有水溶液を調製した。尚、該水溶液のpHは約8.0であった。この水溶液をプラスチック製ソフトバッグに250mL充填し密封することにより本発明のオザグレルナトリウム含有プレミクスト注射剤を製造した。
【0074】
<加速安定性試験>
室温での保存状態における経時的変化を予測するため、ICHガイドラインで定められている加速安定性試験条件(温度40℃、相対湿度75%)で、前記処方1および2で製造したプレミクスト注射剤を1カ月、3カ月、および6カ月間遮光下で保存した。
【0075】
<過酷安定性試験>
室温での保存状態における経時的変化を予測するため、ICHガイドラインで定められている過酷安定性試験条件(温度60℃)で、前記処方1および2で製造したプレミクスト注射剤を2週間、および1カ月間遮光下で保存した。
【0076】
<高速液体クロマトグラフ法による分析>
(1)前記の加速安定性試験または過酷安定性試験後、各バッグの内容物を試料として用い、オザグレルナトリウムとして0.5mg/mLとなるように、移動相[0.3%酢酸アンモニウム液:メタノール=4:1(V/V)]を使用して正確に希釈し試料溶液を調製した。0.5mg/mLより希薄な試料は希釈せずに試料溶液とした。
(2)移動相で希釈した試料溶液5μLまたはオザグレルナトリウムとして25μgに相当する試料量につき,以下の条件で高速液体クロマトグラフを行った。
試験条件
検出器:紫外吸光光度計(測定波長:220nm);
カラム:YMC−Pack ODS−A A−302;
カラム温度:25℃;
移動相:[0.3%酢酸アンモニウム液:メタノール=4:1(V/V)];
流量:オザグレルの保持時間が約10分になるように調整;
面積測定範囲:溶媒ピ−クの後からオザグレルの保持時間の約2倍の範囲。
(3)試料溶液の各々のピーク面積を自動積分法により測定し、面積百分率法によりそれらの量を求めた。
【0077】
<結果>
1ヶ月、3ヶ月、および6ヶ月間の加速安定性試験後、処方1および2で製造した本発明のプレミクスト注射剤におけるオザグレル二量体の生成量は、以下の表1の通りであった。
【0078】
【表1】

処方1、処方2のいずれの場合にも、6ヶ月の加速安定性試験でオザグレル二量体の生成量は0.1%未満もしくは検出限界以下であった。
【0079】
2週、および1ヶ月間の過酷安定性試験後、処方1および2で製造した本発明のプレミクスト注射剤におけるオザグレル二量体の生成量は、以下の表2の通りであった。
【0080】
【表2】

【0081】
処方1、処方2のいずれの場合にも、1ヶ月の過酷安定性試験でオザグレル二量体の生成量は0.1%未満もしくは検出限界以下であった。
【実施例2】
【0082】
オザグレルナトリウム含有水溶液のpHとオザグレル二量体の生成量との関係を調べるため、0.32mg/mLのオザグレルナトリウムを含む、種々のpH(5.0、5.5、6.0、6.5、7.0、7.5、8.0)の水溶液を調製し、実施例1に記載のものと同様の方法で、過酷安定性試験を行い、高速液体クロマトグラフ法による分析を行った。
<結果>
2週、および1ヶ月間の過酷安定性試験後、種々のpHのオザグレルナトリウム水溶液(0.32mg/mL)におけるオザグレル二量体の生成量は、以下の表3の通りであった。
【0083】
【表3】

【0084】
オザグレルナトリウムの濃度が0.32mg/mLである場合には、いずれのpHにおいても、二量体の生成量は0.1%未満もしくは検出限界以下であった。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明のプレミクスト注射剤は、くも膜下出血術後の脳血管れん縮およびこれに伴う症状、または脳血栓症、特に急性期のそれに伴う運動障害の改善のために用いられるオザグレルナトリウムを、用時溶解、用時希釈の操作を必要としない希薄な溶液の状態で、かつ品質を劣化させることなく、安全な状態で臨床に提供することが可能である。
【0086】
また、本発明のプレミクスト注射剤は、用時に溶解や希釈の操作が必要無いので、(1)薬剤の濃度設定ミス、(2)輸液の選定ミス、および(3)細菌、異物の混入という、点滴用薬液調製の三大リスクが回避されており、優れたオザグレルナトリウム含有プレミクスト注射剤であるため、医薬品として利用可能性は極めて高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.02mg/mL以上2mg/mL以下のオザグレルナトリウムを含有するpHが4.5乃至8.7の水溶液であり、かつオザグレル二量体が実質的に生成されないか、またはオザグレル二量体の生成量が0.1%未満である安定な水溶液を輸液用容器に充填してなるプレミクスト注射剤。
【請求項2】
さらに(A)電解質類、糖類、ビタミン類および蛋白アミノ酸類から選択される一種または二種以上および/または(B)pH調節剤を含有する請求項1記載の注射剤。
【請求項3】
水溶液のpHが7.7乃至8.2である請求項1または2記載の注射剤。
【請求項4】
pH調節剤が有機酸である請求項1乃至3のいずれかに記載の注射剤。
【請求項5】
有機酸がクエン酸である請求項4記載の注射剤。
【請求項6】
(1)温度60℃で1ヶ月間、(2)温度40℃、相対湿度75%で6ヶ月間、および/または(3)室温で3年間の保存後において、水溶液中にオザグレル二量体が実質的に含まれないか、または水溶液中に含まれるオザグレル二量体が0.1%未満である請求項1または2記載の注射剤。
【請求項7】
0.04mg/mL、0.08mg/mL、0.16mg/mL、0.32mg/mL、0.4mg/mL、0.8mg/mL、1.0mg/mL、または1.6mg/mLのオザグレルナトリウムを含有する請求項1または2記載の注射剤。
【請求項8】
輸液用容器が単室型ソフトバッグである請求項1または2記載の注射剤。
【請求項9】
1単位形態あたり20mg、40mgまたは80mgのオザグレルナトリウムを含有する請求項8記載の注射剤。
【請求項10】
オザグレルナトリウムを含有するpHが4.5乃至8.7の水溶液の保存に伴うオザグレル二量体の生成抑制方法であって、前記水溶液中のオザグレルナトリウムの濃度を0.02mg/mL以上2mg/mL以下とすることを特徴とする方法。
【請求項11】
(1)温度60℃で1ヶ月間、(2)温度40℃、相対湿度75%で6ヶ月間、および/または(3)室温で3年間の保存後において、水溶液中にオザグレル二量体を実質的に生成させないか、または水溶液中に含まれるオザグレル二量体を0.1%未満にする方法である請求項10記載の方法。

【公開番号】特開2006−131624(P2006−131624A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−293099(P2005−293099)
【出願日】平成17年10月6日(2005.10.6)
【出願人】(000185983)小野薬品工業株式会社 (180)
【出願人】(000104560)キッセイ薬品工業株式会社 (78)
【Fターム(参考)】