説明

オストミーパウチ用シート及びオストミーパウチ

【課題】 耐久性とトイレへの投棄性に優れるオストミーパウチ用シート及びこれを用いたオスミーパウチを提供する。
【解決手段】 水中崩壊紙と、その片面上に形成されたワックス及び熱可塑性樹脂を主成分とするホットメルト組成物からなる耐水層と、からなるオストミーパウチ用シート。オストミーパウチ用シートは、水中崩壊紙と耐水層との間に水溶性樹脂層を有していてもよい。オストミーパウチシートに用いる熱可塑性樹脂は、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂であることが好ましい。このオストミーパウチ用シートを、耐水層同士を対向させてシールすることによりオストミーパウチとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オストミーパウチ及びこのオストミーパウチを作製するためのシートに関する。更に詳しくは、それを装着して、一定時間、通常の生活を送ることができ、その後水洗トイレで支障なく投棄処分をすることができるオストミーパウチ及びこのオストミーパウチを製造するためのオストミーパウチ用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
便や尿の排泄を自らの意志により制御できない場合や、消化器系又は泌尿器系器官の疾患がある場合に、外科的手術を行い腸管や尿管を体表まで導き体表面にストーマを造設した人は、ストーマからの排泄物を一時的に貯留できるオストミーパウチをストーマに装着する。
オストミーパウチについては、多くの改良が積み重ねられおり、臭気の防止や装着性の点では、実用上の大きな問題がなくなっている。
【0003】
しかしながら、現在のオストミーパウチは、排泄物の処理の面で問題を残している。
即ち、オストミーパウチ中の排泄物が一定量になると、これを廃棄する必要がある。
排泄物を廃棄するには、オストミーパウチから排泄物を流出させ又は掻きだして、その後、オストミーパウチの再使用のために、その内側を洗浄する必要がある。これらの作業は面倒であり、また、排泄物による悪臭や便の付着を避けがたく、不快な作業となる。また、これらの作業中にオストミーパウチを傷付け、排泄物の漏れを起こす可能性もある。
【0004】
このような作業を必要としない排泄物の処理のための他の方法は、オストミーパウチそのものを廃棄して新しいオストミーパウチと交換する方法である。
しかしながら、排泄物を生ごみ等として処分することは、衛生的ではなく、環境汚染を引き起こす原因となり得る。また、自宅でない場所でこれらの処分をすることには、問題がある。
【0005】
一方、オストミーパウチを排泄物ごと水洗トイレに廃棄することが考えられる。
ところが、オストミーパウチごと廃棄することには、別の問題がある。オストミーパウチは、その使用目的から、排泄物を収容した状態(即ち、湿潤状態)でも、一定時間、排泄物を漏らさない機械的強度を保つことが必要である。このことは、オストミーパウチを水洗トイレに流したときに、収容装具が、そのままの形状を維持していることを意味する。即ち、オストミーパウチを水洗トイレに流すと、水洗トイレの排水設備等の閉塞等の問題を引き起こす。
また、オストミーパウチを構成するプラスチックフィルム等は、生分解等が難しく、現在の排水処理システム上、障害となるという問題がある。
従って、排泄物を収容した状態で、一定時間、その機械的強度を保持することができ、使用後は、そのまま、上述のような問題を引き起こすことなく水洗トイレに廃棄することができるオストミーパウチが求められている。
【0006】
特許文献1には、このようなオストミー装具の初期の発明であって、外袋と、この外袋の内部に装備する水洗トイレに投棄可能なライナーを内袋とした二重構造の装具が開示されている。ライナーは、ラッカーを塗布して耐水性を持たせた紙で構成されている。このオストミー装具は、耐水性に対する信頼性が劣る。
また、特許文献2には、合成樹脂又は天然・合成ゴム製の人工肛門用パウチに収容して使用される、排泄物を溜めるための紙製のパウチ内袋が開示されている。この紙製のパウチ内袋としては、水溶性バインダーを用いて抄紙するか、水溶性バインダーをコーティングした紙が使用される。このパウチ内袋は、排泄物の液体成分が8時間以上染み出すことがないとされている。しかし、その信頼性には問題があり、他方、水洗トイレに廃棄するとき、容易には繊維に分解されず、閉塞の問題を起こす。
【0007】
特許文献3に開示された排泄物用バッグ等作製のための易廃棄処理用基材は、水分散性の紙を金属ロール間で高圧処理して得たシートの片面に、水不透過性ポリマー、特に酢酸ビニル・塩化ビニル・メチルメタクリレート共重合ポリマーを積層したものである。このものは、水中で30分〜50分間、攪拌すると短冊状に分散するとされている。しかしながら、この基材は、剛性が高く、装着感に劣る。
特許文献4には、水分散性のファイバー、例えば、トイレットペーパーを基材とし、この上に生分解性樹脂フィルムを、容易に剥離できる程度の弱い結合力でラミネートすることによってピンホールのない、オストミーパウチ用ラミネートシートを製造することが開示されている。
特許文献5には、水溶紙に比べて耐水性の高いトイレットペーパー用原紙を基材とし、その上に、強度、コシや耐水性を調整するための水溶性樹脂層と、耐水性を格段に向上させるための耐水性樹脂層とを順次設けた水離解性ラミネート紙が開示されている。
これらのラミネートシートは、耐水性と水溶性との両立を図ったものであり、それなりの効果を奏しているが、まだ不十分である。
【0008】
なお、特許文献6には、水分散紙を使用して耐水性を調整した検便用シートが開示されている。耐水材料としてワックス、オリゴマー、又はポリマーを使用する。しかし、オストミーパウチとは異なり、数分間の使用後には耐水性を失って水没するものである。
【0009】
特許文献7には、乾燥状態では一定の強度を有するポリ酸化エチレン、ポリビニルアルコール等の水溶性基材に、ポリ塩化ビニリデン等のプラスチックフィルムや、ワックス、グリース等の塗膜又は粘着フィルム等の耐水性基材を積層したシートで構成された水洗便所で処理できる容器が開示されている。
また、特許文献8には、水溶性ポリビニルアルコール系フィルム基材の片面上に、生分解性のセラック樹脂誘導体と天然ワックスと硬化剤とを含有する樹脂組成物からなる生分解性防水層を構成した汚物処理袋や人工肛門等の衛生用品に有用な水溶性防水フィルムが開示されている。
これらのものは、耐水性に優れているが、水溶性に未だ改良の余地があり、また、これらのシート、フィルムで作成された汚物処理袋等を着用すると、体の動きにつれて異音が発生するため、違和感がある。
【0010】
【特許文献1】米国特許第3089493号公報
【特許文献2】特開2004−215913号公報
【特許文献3】特開平11−12983号公報
【特許文献4】米国特許出願公開第2005/0084634号公報
【特許文献5】特開2004−262106号公報
【特許文献6】特開平10−227787号公報
【特許文献7】特開昭58−203754号公報
【特許文献8】特開2004−142426号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って、本発明の目的は、装着感を損なうことなく所定時間に亘って排泄物を保持し、かつ水洗トイレで投棄することができ、また安価に製造することが可能なオストミーパウチ用シート及びこれを用いてなるオストミーパウチを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を進めた結果、特定の基材上に特定の耐水層を設けたシートを採用すればよいことを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
かくして本発明によれば、水中崩壊紙と、その片面上に形成されたワックス及び熱可塑性樹脂を主成分とするホットメルト組成物からなる耐水層と、からなるオストミーパウチ用シートが提供される。
本発明のオストミーパウチ用シートにおいて、水中崩壊紙と耐水層との間に水溶性樹脂層を設けてもよい。
本発明のオストミーパウチ用シートにおいて、熱可塑性樹脂がエチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂であることが好ましい。
上記ホットメルト組成物におけるエチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂/ワックスの重量比は、10/90〜60/40であることが好ましい。
本発明のオストミーパウチ用シートにおいて、耐水層の塗工量は10〜40g/mであることが好ましい。
【0013】
本発明のオストミーパウチ用シートは、耐水層を内側にしてシールして構成し、擬似便を封入して、温度34℃、湿度97%の雰囲気下に吊り下げた状態で8時間保持したときに、封入された擬似便の液状成分が染み出すことがなく、次いで、水洗トイレの水流に投棄された直後に複数の不定形の裂け目を生じるパウチを形成するものであることが好ましい。
本発明のオストミーパウチ用シートは、好適には、水中崩壊紙が水溶紙であって、ホットメルト組成物が30/70〜40/60のエチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂/ワックスの重量比と15〜20g/mの耐水層塗工量を有するものである。
更に、本発明によれば、本発明のオストミーパウチ用シートを、耐水層同士を対向させてシールしてなるオストミーパウチが提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明のオストミーパウチ用シート及びこれから得られるオストミーパウチは、耐久性とトイレへの投棄性に優れるため、排泄物の排出処理が簡単で、オストメートの生活水準を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明のオストミーパウチ用シートは、水中崩壊紙と、その片面上に形成されたワックス及び熱可塑性樹脂を主成分とするホットメルト組成物からなる耐水層とからなる。
本発明で使用する水中崩壊紙は、繊維状のカルボキシメチルセルロースを抄紙するか、セルロースを抄紙した後にカルボキシメチル化することによって得られ、温水や冷水中で速やかに溶解する水溶紙又は水溶性バインダーを用いてセルロース繊維を抄紙して得られ、温水や冷水中で速やかに分散する水分散紙である。
本発明において、水中崩壊紙を使用することにより、使用者に違和感のない程度の柔軟性を有するとともに、所定時間に亘りパウチ内に貯留した排泄物を保持する機械的強度を有し、水洗トイレに投棄したときの水溶性又は水分散性が良好なオストミーパウチ用シートを得ることができる。
【0016】
本発明で使用するホットメルト組成物は、適度な流動性と、水中崩壊紙の繊維やバインダーに対する濡れ性を有するので、高温で溶融し、溶融状態で水中崩壊紙上に塗工されることによって、水中崩壊紙の内部に過度に含浸することなく適度に表面に密着して連続した耐水層を形成する。これに対して、ホットメルト組成物が過度の流動性や濡れ性を有する場合は、それが水中崩壊紙の繊維の隙間に多量に流れ込み、得られるオストミーパウチをトイレに投棄した際に水中崩壊紙が溶解又は分散することができず、また、ヒートシール性も低下する。逆に、ホットメルト組成物の流動性や濡れ性が過小な場合は、耐水層が水中崩壊紙から分離して破損しやすくなる。
【0017】
また、本発明のホットメルト組成物は、適度な引張強度及び曲げ強度を有するので、水中崩壊紙上に耐水層として形成されたときは、これを用いて得られたオストミーパウチが使用される状態ではクラックを生じることなく耐水性を発揮し、且つ、水洗トイレに投棄されたときには、水中崩壊紙が溶解又は分散を開始するとともに、その連続性を速やかに失い、これにより、オストミーパウチが容易に排水管を流下する。
【0018】
耐水層の形成に用いられるホットメルト組成物は、ワックスと熱可塑性樹脂とを主成分として含有する。
ホットメルト組成物に用いることのできるワックスは特に限定されない。その具体例としては、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ペトロラタム等の石油系ワックス;蜜ろう、ラノリン、鯨ろう等の動物系ワックス;ライスワックス、カルナバワックス、キャンデリラワックス等の植物系ワックス;等の天然ワックス、フィッシャー・トロプシュワックス、ポリエチレンワックス等の合成ワックス;等が挙げられる。
これらのうち、石油ワックスが好ましく、中でもパラフィンワックスが好ましい。
これらのワックスは、耐水層に撥水性を付与するとともに、水中崩壊紙が溶解したときには水中崩壊紙の片面上に形成されている耐水層を崩壊しやすくする機能を有する。
【0019】
ホットメルト組成物に用いることのできる熱可塑性樹脂は、ワックスと適度な相溶性を有するものであれば、特に限定されない。その具体例としては、低密度ポリエチレン(LDPE)樹脂、高密度ポリエチレン(HDPE)樹脂、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)樹脂、メタロセン触媒系LLDPE(mLLDPE)樹脂等のポリエチレン(PE)樹脂;ポリプロピレン(PP)樹脂;エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)樹脂、アイオノマー(IO)樹脂、エチレン−アクリル酸共重合体(EAA)樹脂、エチレン−メタクリル酸共重合体(EMAA)樹脂、エチレン−メチルアクリレート共重合体(EMA)樹脂、エチレン・メチルメタクリレート共重合体(EMMA)樹脂、エチレン−エチルアクリレート共重合体(EEA)樹脂、エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)樹脂等のポリエチレン(PE)共重合体樹脂;ポリメチルペンテン(PMP)樹脂;飽和ポリエステル(PET、PBT)樹脂;スチレン−イソプレン−スチレン共重合体、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレン共重合体、スチレン−エチレン−プロピレン−スチレン共重合体、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレン共重合体水素添加物等のスチレン(PS)樹脂;等が挙げられる。また、ポリエチレン、ポリプロピレン、EVA等の樹脂に生分解性を促進する酸化分解剤を混合したものでもよい。
【0020】
更に熱可塑性の生分解性樹脂を使用することもできる。生分解性樹脂の具体例としては、
ポリヒドロキシブチレート等の微生物系のもの;ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート等の化学合成系のもの;澱粉、酢酸セルロース、セラック樹脂及びこれらの混合物等の天然物系のもの;が挙げられる。
特に、下水道処理に限らず浄化槽における廃棄処分をも容易にするために、嫌気性条件下及び好気性条件下において迅速な生分解性を有するものが好ましい。その具体例としては、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシヘキサノエート)等のポリ(3−ヒドロキシアルカノエート)組成物が挙げられる。
なお、熱可塑性樹脂として生分解性樹脂を使用する場合は、ワックスとして生分解性を有するものを使用するのが好ましい。
これらの熱可塑性樹脂は、一種類を単独で使用してもよく、二種類以上を併用してもよい。
【0021】
上記熱可塑性樹脂のうち、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂が好ましい。エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂の分子量、メルトフローレート、酢酸ビニル含量及び密度は、特に限定されない。
【0022】
熱可塑性樹脂の使用により、ワックスの脆さを補い、水中崩壊紙の片面に密着して連続、かつ柔軟な被膜を形成するとともに、ヒートシール、超音波シール又はRFシール等によるシールによって必要な接着強度を発揮し、実用的なパウチを形成することが可能になる。
【0023】
ホットメルト組成物におけるワックスと熱可塑性樹脂との配合量比は、特に限定されないが、好ましくは、熱可塑性樹脂/ワックスの重量比が10/90〜40/60となる範囲で、熱可塑性樹脂の種類により、適宜その比率を選定する。例えば、熱可塑性樹脂がエチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂の場合は、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂/ワックス重量比が、30/70〜40/60となる範囲が好ましい。
熱可塑性樹脂の配合量が上記範囲内にあるときに、耐水性及びシール性に優れたホットメルト組成物の皮膜が形成され、水中崩壊紙が溶解又は分散したときに、水中崩壊紙の片面上に形成されている耐水層が容易に崩壊する。
【0024】
ホットメルト組成物には、主成分であるワックスと熱可塑性樹脂のほか、可塑剤、安定化剤、劣化防止剤、分散剤、界面活性剤、スリップ剤、着色剤、顔料、芳香剤、悪臭中和剤等を配合してもよい。
また、熱可塑性樹脂として生分解性のものを使用する場合は、光分解促進剤や生分解促進剤等を配合してもよい。
【0025】
耐水層の塗工量は、ホットメルト組成物における熱可塑性樹脂とワックスの配合比、水中崩壊紙表面の繊維状態、塗工のプロセス条件等に応じて適宜選定すればよいが、好ましくは10〜40g/mである。塗工量が上記範囲内にあるときに、水中崩壊紙の凹凸や繊維に起因するピンホールが生じることがなく、また、オストミーパウチ用シートが柔軟となり、水中崩壊紙が溶解したときに容易に耐水層が崩壊する。
例えば、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂30〜40重量%とパラフィンワックス70〜60重量%とからなるホットメルト組成物を使用したときには、塗工量は15〜20g/mが好ましい。
【0026】
水中崩壊紙に、ホットメルト組成物を塗工する方法は、特に限定されないが、例えば、ロールコーター、ダイコーター等の既存のホットメルトコーターを使用することができる。
【0027】
また、本発明のオストミーパウチ用シートは、水中崩壊紙とその片面上に形成されたワックス及び熱可塑性樹脂を主成分とするホットメルト組成物からなる耐水層との間に、水溶性樹脂層を設けてもよい。水溶性樹脂層を設けることにより、水中崩壊紙の凹凸や繊維の突出によって生じる耐水層の欠陥を防ぐことが容易となる。
水溶性樹脂層のためのポリマーとしては、ポリビニルアルコール系樹脂が好ましい。
ポリビニルアルコール系樹脂としては、ポリ酢酸ビニルの鹸化物及びその誘導体、酢酸ビニルと共重合性を有する単量体と酢酸ビニルとの共重合体及びその鹸化物等を使用することができる。
なお、ポリビニルアルコール系樹脂は、一種類を単独で使用してもよく、二種類以上を併用してもよい。
【0028】
水溶性樹脂層の形成方法は、特に限定されないが、水溶性樹脂の溶融物をダイコーター等を用いて水中崩壊紙の表面上に押し出して塗工するか、又は押し出し成型によってフィルムとし、このフィルムを加熱溶融して水中崩壊紙とラミネートする方法を例示することができる。
【0029】
本発明のオストミーパウチ用シートは、好適には、下記特性を有する。
即ち、本発明のオストミーパウチ用シートから、実施例に記載した手順で、オストミーパウチパウチを作製する。このオストミーパウチパウチに擬似便を封入し、これを温度34℃、湿度97%の雰囲気下に吊り下げた状態で8時間保持したときに、封入された擬似便の液状成分が染み出すことがない。
前記温度及び湿度は、オストミーパウチを体に装着したときの条件とほぼ同一と考えられる。また、生じる染み出しには、染み出した量が多くなりパウチ表面から液状成分が滴下するまでに至るものに限らず、パウチ表面の一部において水溶紙がわずかに湿り気を帯びるものも含まれる。
【0030】
更に、本発明のオストミーパウチは、前記条件下で吊り下げ保持された後、水洗トイレの水流に投棄されると、速やかに破裂し、不定形の裂け目を生じる。裂け目は、好ましくは、オストミーパウチの全面に亘っている。水洗トイレの水流に投棄された直後に、この裂け目が更に拡大してパウチがバラバラに分解してもよい。この時点で上記崩壊の態様を呈するものであれば、その後、排水の経路を流下し、時間の経過とともに次第に細片に分解する。
【0031】
以上の特性を有する本発明のオストミーパウチ用シートは、このシートから、オストミーパウチを作製し、それに排泄物を貯留したとき、所定時間に亘って、排泄物の重量を保持し、かつ耐水性を損なうことなく安全に貯留し、且つ水洗トイレの水流のみで崩壊を開始し、以後、時間の経過とともに細片に分解されるので容易に廃棄することができる。
【0032】
本発明のオストミーパウチは、本発明のオストミーパウチ用シートを、耐水層同士を対向させてヒートシールしてパウチとし、ストーマに対応した開口を設け、且つ、面板へ装着可能な構造としたものである。
【0033】
オストミーパウチの構造は、特に限定されず、公知のものでよく、例えば、面板に装着するためにカップリング部材を設け、このカップリング部材をトイレに投棄する際にパウチから取り外せるものとしてもよい。
また、カップリング部材を設けることなく、外袋と面板の結合部に重ねて装着するものとしてもよい。
更に、面板に接着して外袋とともに取り外すものであってもよい。
好適には、本発明のオストミーパウチは、ストーマに対応した開口と、面板へ装着可能な構造を有し、防臭及び安全のためのプラスチックフィルム製パウチを外袋として、その内部に内袋として二重に装着して使用される。
【実施例】
【0034】
以下に実施例を示し、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、本実施例において、特に断らない限り、部及び%は、重量基準である。
【0035】
本実施例におけるオストミーパウチ用シートの各特性の評価法は、下記のとおりである。
(試験用パウチ)
縦170mm、横110mmのオストミーパウチ用シートを、耐水層を内側にして3辺をヒートシールして方形の試験用パウチとする。
(擬似便)
片栗粉の8重量%水溶液からなる擬似便を使用して評価に供する。使用量は130gである。
【0036】
(耐久性試験)
試験用パウチを温度34℃、湿度97%の雰囲気下に吊り下げた状態で8時間保持したときの、シート表面の水不透過性、シール部の破損及びパウチの破裂による裂け目の発生状況を観察し、下記の基準で判定する。
○:5サンプルのいずれにも、表面の染み出し、破裂及びヒートシール部の破損がない。
△:破裂したサンプルはないが、1サンプル以上に表面の染み出しがある。
×:少なくとも1サンプルに破裂が発生した。
【0037】
(トイレ破袋性)
この評価は、耐久性試験で合格基準を満足したものについてのみ実施する。
腰掛け式タンク密結型水洗トイレ(東陶機器社製、商品名「C770」)を使用し、水を張ったトイレットボウルに試験用パウチを水没させ、1分後に、フラッシングして長さ1.5mの排水管を流下させた個所において回収し、パウチの状況を観察し、下記の基準で判定する。
○:全サンプルとも破裂し、パウチの形態を失ってバラバラになった。
△:破裂による、ほぼ全面に亘る波形の裂け目は生じないが、ヒートシール部のエッジに裂け目が生じた。
×:まったく崩壊しない。即ち、少なくとも1サンプルについて、破裂による、ほぼ全面に亘る波形の裂け目も、ヒートシール部のエッジに裂け目も生じない。
【0038】
[実施例1]
坪量30g/m、厚さ65μmの水溶紙(三島製紙社製、商品名「MDP−30」)の片面上に、エチレン−酢酸ビニル共重合体40%及びパラフィンワックス60%からなり、軟化点が74℃であるホットメルト組成物を、タンク温度160℃、ホース温度170℃、コーターヘッド温度170℃の条件下で、ダイコーターを使用し、テンション塗り(バックアップローラーを使用しない塗工方法)により、塗工スピード30m/分で、塗工量が15g/mになるように塗工した。次いで、これから5個の試験用パウチを作製し、擬似便130gをパウチに投入し、最後に開放した1辺をヒートシールした。
この試験用パウチを用いて、耐久性試験及びトイレ破袋性試験を行った。結果を表1に示す。
【0039】
[実施例2]
エチレン−酢酸ビニル共重合体30%及びパラフィンワックス70%からなるホットメルト組成物を使用し、塗工量を20g/mとしたほかは実施例1と同様にして、試験用パウチを作成し、評価した。結果を表1に示す。
【0040】
[実施例3]
塗工量を20g/mとしたほかは実施例1と同様にして、試験用パウチを作成し、評価した。結果を表1に示す。
【0041】
[実施例4]
実施例1で使用したものと同じ、坪量30g/m、厚さ65μmの水溶紙(三島製紙社製、商品名「MDP−30」)の片面上に、厚さ15μmの水溶性ポリビニルアルコールフィルムをラミネートし、その上に、エチレン−酢酸ビニル共重合体40%及びパラフィンワックス60%からなるホットメルト組成物を、塗工量が20g/mになるように塗工した以外は実施例1と同様にして、試験用パウチを作成し、評価した。結果を表1に示す。
【0042】
[実施例5]
水溶紙に代えて水分散紙(坪量20g/m、三島製紙社製、商品名「水分散紙」)を使用し、この片面上に、エチレン−酢酸ビニル共重合体20%及びパラフィンワックス80%からなるホットメルト組成物を、塗工量15g/mに塗工した以外は上記実施例1と同様にして、試験用パウチを作成し、評価した。結果を表1に示す。
【0043】
[比較例1]
坪量30g/m、厚さ65μmの水溶紙(三島製紙社製、商品名「MDP−30」)の片面上に、厚さ15μmの水溶性ポリビニルアルコールフィルムをラミネートし、その上に、パラフィンワックス(軟化点54℃)を、塗工量が20g/mになるように塗工した以外は実施例1と同様にして、試験用パウチを作成し、評価した。結果を表1に示す。
【0044】
[比較例2]
水分散紙(坪量20g/m、三島製紙社製、商品名「水分散紙」)の片面上に、エチレン−酢酸ビニル共重合体を塗工量が10g/mになるように塗工し、更にその上にパラフィンワックスを塗工量が20g/mになるように塗工しようとした(本発明に使用するホットメルト組成物の各成分を別々に塗布して各成分の層からなる耐水層を構成しようとしたものである。塗工量は、合計30g/mになる。)が、ワックスが剥離してしまったので、評価を中止した。
【0045】
【表1】

【0046】
上記表1に示すように、比較例1のオストミーパウチ用シートでは、耐久性に問題があり、比較例2のオストミーパウチ用シートは、ワックスを塗布できず、そもそもパウチとして構成できないため評価することができなかった。これに対して、実施例1〜5のオストミーパウチ用シートは、試験用パウチとして良好な評価結果を示した。
【0047】
上記実施例1〜5のオストミーパウチ用シートを用いて、表側となるシートにストーマに対応した開口を形成し、他方の側となるシートと合わせて、周縁をヒートシールすることによりオストミーパウチを構成することができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中崩壊紙と、その片面上に形成されたワックス及び熱可塑性樹脂を主成分とするホットメルト組成物からなる耐水層と、からなるオストミーパウチ用シート。
【請求項2】
水中崩壊紙と耐水層との間に水溶性樹脂層を有する請求項1に記載のオストミーパウチ用シート。
【請求項3】
熱可塑性樹脂がエチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂である請求項1又は2に記載のオストミーパウチ用シート。
【請求項4】
ホットメルト組成物におけるエチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂/ワックスの重量比が、10/90〜60/40である請求項1〜3のいずれかに記載のオストミーパウチ用シート。
【請求項5】
耐水層の塗工量が10〜40g/mである請求項1〜4のいずれかに記載のオストミーパウチ用シート。
【請求項6】
耐水層を内側にしてシールして構成し、擬似便を封入して、温度34℃、湿度97%の雰囲気下に吊り下げた状態で8時間保持したときに、封入された擬似便の液状成分が染み出すことがなく、次いで、水洗トイレの水流に投棄された直後に複数の不定形の裂け目を生じるパウチを形成するものである請求項1に記載のオストミーパウチ用シート。
【請求項7】
水中崩壊紙が水溶紙であって、ホットメルト組成物におけるエチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂/ワックスの重量比が、30/70〜40/60であり、かつ耐水層の塗工量が15〜20g/mであることを特徴とする請求項1に記載のオストミーパウチ用シート。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載のオストミーパウチ用シートを、耐水層同士を対向させてシールしてなるオストミーパウチ。

【公開番号】特開2007−37881(P2007−37881A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−227545(P2005−227545)
【出願日】平成17年8月5日(2005.8.5)
【出願人】(000151380)アルケア株式会社 (88)
【Fターム(参考)】