説明

オゾン分解除去用触媒及びオゾン分解除去用触媒の製造方法

【課題】十分に高度なオゾン除去性能を有するオゾン分解除去用触媒を効率よく且つ確実に製造することを可能とするオゾン分解除去用触媒の製造方法を提供すること。
【解決手段】触媒成分とバインダー成分とを含有するコート液を担体に接触せしめた後に、前記コート液が担持された前記担体に対して熱処理を施し、前記触媒成分が前記バインダー成分を介して前記担体に担持されている触媒を得る工程と、
前記触媒を液相中に配置し、超音波処理を施してオゾン分解除去用触媒を得る工程と、
を含むことを特徴とするオゾン分解除去用触媒の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オゾン分解除去用触媒及びオゾン分解除去用触媒の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光化学オキシダント濃度の1時間値の最大値が年々高くなる傾向にあり、特に東京や名古屋などの都市部においては、光化学オキシダント濃度が環境基準値(1時間値が0.06ppm以下)を満たしていない。このような光化学オキシダントは、工場や自動車から排出される窒素酸化物と炭化水素類とが太陽の紫外線照射の下で反応することにより生成されるオゾンを主成分とする酸化力の強い汚染物質である。また、オゾンは物質の酸化劣化を引き起こすだけでなく、人体に対しても悪影響を及ぼすものである。そのため、近年ではオゾンを分解除去する様々な方法が研究されており、その方法の一つとして触媒を用いてオゾンを分解除去する触媒法が提案されている。そして、このような触媒法に用いる触媒に、より高い触媒活性を発揮させるために種々の触媒の製造方法が研究されてきた。
【0003】
例えば、特開2000−354769号公報(特許文献1)においては、担体に触媒成分を含有するスラリーをウォッシュコートして触媒を製造するにあたり、ウォッシュコート処理の際に担体をスラリーに浸漬し、超音波を照射し、その後熱処理を施して排ガス浄化用触媒を得る方法が開示されている。また、特開2006−329790号公報(特許文献2)においては、触媒成分及びバインダー成分を含有するスラリーを担体にウォッシュコートし、乾燥、焼成して排ガス浄化用触媒を得る方法が開示されている。しかしながら、特許文献1〜2に記載のような従来の触媒の製造方法を利用して得られるオゾン分解除去用触媒はオゾンの除去性能が必ずしも十分なものではなく、更に、担体と触媒成分との密着性も必ずしも十分なものではなかった。
【特許文献1】特開2000−354769号公報
【特許文献2】特開2006−329790号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、十分に高度なオゾン除去性能を有するオゾン分解除去用触媒を効率よく且つ確実に製造することを可能とするオゾン分解除去用触媒の製造方法、並びに、その方法を利用して得られるオゾン分解除去用触媒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、触媒成分とバインダー成分とを含有するコート液を担体に接触せしめ、その後、前記コート液が担持された前記担体に対して熱処理を施し、前記触媒成分が前記バインダー成分を介して前記担体に担持された触媒を得た後、その触媒を液相中に配置して超音波処理を施すことにより、驚くべきことに、十分に高度なオゾン除去性能を有するオゾン分解除去用触媒が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明のオゾン分解除去用触媒の製造方法は、触媒成分とバインダー成分とを含有するコート液を担体に接触せしめた後に、前記コート液が担持された前記担体に対して熱処理を施し、前記触媒成分が前記バインダー成分を介して前記担体に担持されている触媒を得る工程と、
前記触媒を液相中に配置し、超音波処理を施してオゾン分解除去用触媒を得る工程と、
を含むことを特徴とする方法である。
【0007】
また、上記本発明のオゾン分解除去用触媒の製造方法においては、前記超音波処理が、前記触媒に周波数20kHz〜1MHz、出力20W〜200W、照射時間10分〜3時間の条件で超音波を照射する処理であることが好ましい。
【0008】
また、本発明のオゾン分解除去用触媒は、触媒成分がバインダー成分を介して担体に担持されているオゾン分解除去用触媒であって、上記本発明のオゾン分解除去用触媒の製造方法により得られたオゾン分解除去用触媒であることを特徴とするものである。
【0009】
なお、本発明のオゾン分解除去用触媒の製造方法によって、十分に高度なオゾン除去性能を有し、しかも担体と触媒成分との密着性が十分に高いオゾン分解除去用触媒を効率よく且つ確実に製造することが可能となる理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、本発明においては、前記触媒成分が前記バインダー成分を介して前記担体に担持されている触媒を得た後において、その触媒を液相中に配置して超音波処理を施している。このようにして超音波処理を施すことで、液相中にキャビテーションによる気泡の生成、圧壊が起こって局部的な温度差及び圧力差が生じる。このように液相中に局部的に高温、高圧の部位が生じると、触媒中の余剰なバインダー成分や余剰な触媒成分が除去されるとともに前記触媒成分と担体との密着性が向上するものと推察される。また、このようにして余剰なバインダー成分や余剰な触媒成分が除去されることで、得られるオゾン分解除去用触媒においては表面粗さが大きくなり、反応ガスとの接触性が向上するため、十分に優れたオゾンの分解除去性能が得られるものと推察される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、十分に高度なオゾン除去性能を有するオゾン分解除去用触媒を効率よく且つ確実に製造することを可能とするオゾン分解除去用触媒の製造方法、並びに、その方法を利用して得られるオゾン分解除去用触媒を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0012】
先ず、本発明のオゾン分解除去用触媒の製造方法について説明する。すなわち、本発明のオゾン分解除去用触媒の製造方法は、触媒成分とバインダー成分とを含有するコート液を担体に接触せしめた後に、前記コート液が担持された前記担体に対して熱処理を施し、前記触媒成分が前記バインダー成分を介して前記担体に担持されている触媒を得る工程(第1工程)と、
前記触媒を液相中に配置し、超音波処理を施してオゾン分解除去用触媒を得る工程(第2工程)と、
を含むことを特徴とする方法である。
【0013】
先ず、本発明において用いられる触媒成分、バインダー成分、担体及びコート液について説明する。
【0014】
このような触媒成分としては特に制限されず、オゾンに対して触媒活性を有する公知の金属酸化物を適宜用いることができる。このような触媒成分としては、例えば、酸化マンガン、酸化コバルト、酸化ニッケル、酸化鉄、酸化クロム、酸化セリウム、酸化マグネシウム、酸化バナジウム、酸化銅、酸化アルミニウム等の金属酸化物が挙げられる。また、このような金属酸化物としては、より高い触媒活性が得られるという観点から、酸化アルミニウム、酸化マンガン、酸化鉄、酸化セリウム、酸化コバルト、酸化クロムが好ましく、中でも、酸化アルミニウム(更に好ましくはγ−Al)、酸化マンガン(更に好ましくはα−MnO)、酸化鉄(更に好ましくはγ−Fe)、酸化セリウム(更に好ましくはCeO)がより好ましい。また、前記触媒成分においては、前記金属酸化物の1種を単独で用いてもよくあるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0015】
また、このような触媒成分として用いられる金属酸化物としては、より高い比表面積が得られることから粒子状のものを用いることが好ましい。このような粒子状の金属酸化物の平均一次粒子径としては5〜40nmであることが好ましく、平均二次粒子径としては0.5〜20μmであることが好ましい。このような平均粒子径が前記下限未満では、凝集してその製造が困難となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、細孔径が大きくなり過ぎると共に比表面積が低下してオゾン分解性能等が低下する傾向にある。なお、このような触媒成分としては、その形態が前記粒子状の金属酸化物(一次粒子)が凝集して形成された凝集体(二次粒子)となっていてもよい。
【0016】
さらに、このような触媒成分として用いられる金属酸化物の比表面積としては、20〜300m/gであることが好ましく、80〜200m/gであることがより好ましい。このような比表面積が前記上限を超えると、入手が困難となるとともに取扱いが困難となる傾向にあり、他方、前記下限未満では、オゾン分解活性が不十分となる傾向にある。なお、このような比表面積は吸着等温線からBET等温吸着式を用いてBET比表面積として算出することができる。
【0017】
また、このような触媒成分として用いられる金属酸化物には、貴金属が更に担持されていてもよい。このような貴金属としては、Pt、Ru、Rh、Pd、Ag、Au、Os等が挙げられ、中でも、より高い触媒活性が得られるという観点から、Pt、Pd、Ag、Auが好ましい。このような貴金属は1種を単独で用いてもよく又は2種以上を併用してもよい。
【0018】
前記バインダー成分としては特に制限されず、前記触媒成分を担体に担持させることが可能な公知のバインダー成分を適宜用いることができ、例えばアルミナゾル、硝酸アルミニウム、シリカゾル、セリアゾル等が挙げられる。
【0019】
また、本発明に用いられる担体としては、前記触媒成分を担持せしめて触媒として利用することが可能な担体であればよく特に制限されず、公知の無機材料及び/又は有機材料からなる担体を適宜用いることができ、例えば、活性炭、コージェライト、アルミナ、シリカアルミナ、ゼオライト、アルミニウム、ステンレス等の無機材料及び/又は紙、ポリウレタン等の有機材料からなる担体が挙げられる。また、このような担体の形状は特に制限されないが、ハニカム状、モノリス状、フォーム状、ペレット状、網目状、シート状またはコルゲート状等の通気性を有する形状が好ましい。したがって、このような担体としては、例えば、ウレタンフォーム、セラミックフォーム、セラミックハニカム等を好適に用いることができる。また、このような担体としては、自動車のラジエータ、エバポレータ、ヒータコアなどの熱交換器を用いてもよい。なお、このような熱交換器としてアルミニウム製熱交換器を用いる場合には、熱交換器の表面に熱水または熱水蒸気中でベーマイト処理を施して熱交換器の表面積を増大させて用いることが好ましい。また、このような担体としては、触媒成分の担持効率を向上させるために、使用前にエタノール等の液相中において超音波を照射する等して予め脱脂処理を施したものを用いることが好ましい。
【0020】
また、前記コート液は、前記触媒成分と、前記バインダー成分とを含有するものであり、これを前記担体に接触させて担持させることが可能なものであればよい。このようなコート液としては溶媒を含んでいてもよい。このような溶媒としては、前記触媒成分と前記バインダー成分を分散させることが可能な公知の溶媒を好適に用いることができ、例えば水が挙げられる。
【0021】
また、このようなコート液における前記触媒成分の含有量としては特に制限されないが、10〜50質量%であることが好ましく、20〜30質量%であることがより好ましい。このような触媒成分の含有量が前記下限未満では、十分な量の触媒成分を担持させるためにコート液を被覆等させる際の作業性が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、触媒成分を担体に均一にコートできなかったり、ハニカム、モノリス等の形状の場合、セルの間に触媒成分が目詰まりしてしまう傾向にある。
【0022】
このようなコート液における前記触媒成分とバインダー成分との混合比率も特に制限されず、前記触媒成分と前記バインダー成分との混合比率が質量比(触媒成分:バインダー成分)で99:1〜80:20(より好ましくは95:5〜90:10)であることが好ましい。このようなバインダー成分の混合比率が前記下限未満では担体と触媒成分との密着性を十分なものとすることができなくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えるとコート液中において触媒成分を十分に均一に分散させることが困難となる傾向にある。
【0023】
また、このようなコート液の製造方法としては特に制限されず、公知の方法を適宜採用でき、例えば、前記触媒成分と前記バインダー成分とを前記溶媒中に添加し、混合することによりコート液(スラリー)を得る方法を採用してもよい。なお、このようなコート液を製造する際には、撹拌や超音波照射等によって前記触媒成分と前記バインダー成分とを十分に均一に分散させて混合することが好ましい。
【0024】
次に、本発明のオゾン分解除去用触媒の製造方法の各工程について説明する。
【0025】
本発明においては、先ず、触媒成分とバインダー成分とを含有するコート液を担体に接触せしめた後に、前記コート液が担持された前記担体に対して熱処理を施し、前記触媒成分が前記バインダー成分を介して前記担体に担持されている触媒を得る(第1工程)。
【0026】
前記コート液を前記担体に接触せしめる方法は特に制限されず、前記担体にコート液を担持させることが可能な方法であればよく、例えば、ウォッシュコート法、スプレー法、浸漬法、含浸法等の公知の方法を適宜採用することができる。このようにして前記担体にコート液を接触せしめることによりコート層を形成させて前記担体に前記コート液を担持させることができる。
【0027】
また、このような第1工程においては、前記触媒成分の担持量が担体の容量1Lあたり5〜100g/Lとなるように前記コート液を担持させることが好ましく、10〜50g/Lとなるように前記コート液を担持させることがより好ましい。このような触媒成分の担持量が前記下限未満では、得られるオゾン分解触媒のオゾン分解活性が不十分なものとなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、コート層が不均一でハニカム、モノリス等の形状の場合、セル内が目詰まりする傾向にある。
【0028】
また、前記熱処理としては、前記コート液が担持された前記担体を加熱することにより前記バインダー成分を介して前記触媒成分を前記担体に担持させることが可能な方法であればよく特に制限されず、公知の方法を適宜採用することができ、例えば、前記コート液が担持された前記担体を乾燥させた後に焼成する熱処理を行ってもよい。このようなコート液が担持された前記担体を乾燥させる方法としては特に制限されず、前記コート液が担持された前記担体から溶媒成分を蒸発除去させることが可能な方法であればよく公知の方法を適宜採用でき、例えば、60〜250℃程度の温度条件で0.5〜2時間程度加熱する方法を採用してもよい。また、前記焼成の方法としては特に制限されないが、大気中、400〜500℃程度の温度条件で0.5〜2時間程度加熱する方法を採用してもよい。なお、このような熱処理としては、前記乾燥工程を行わずに前記焼成工程のみを施してもよい。
【0029】
なお、このような第1工程は、目的とするオゾン分解除去用触媒の設計等に応じて繰り返し実施してもよい。また、このように第1工程を繰り返し実施する際には1種類のコート液を用いて第1工程を繰り返し実施してもよく、あるいは予め含有する触媒成分の種類が異なる多種類のコート液を調製しておき、第1工程を実施するごとにコート液の種類を代えてもよい。
【0030】
さらに、本発明においては、前記触媒を得た後に、前記触媒を液相中に配置し、超音波処理を施してオゾン分解除去用触媒を得る(第2工程)。
【0031】
このような液相を形成させる液体としては特に制限されないが、安価且つ安全で取扱いが容易であるという観点から、水を用いることが好ましい。
【0032】
また、ここにいう超音波処理とは、前記触媒に対して前記液相中において超音波を照射する処理をいう。このような超音波処理を施すことで、十分に高度なオゾン除去性能を有し、しかも担体と触媒成分との密着性が十分に高いオゾン分解除去用触媒が得られる。
【0033】
このような超音波処理の際の超音波の周波数は20kHz〜1MHzであることが好ましく、28kHz〜100kHzであることがより好ましい。また、このような超音波処理の際の超音波の出力は20〜200Wであることが好ましく、50〜120Wであることがより好ましい。さらに、このような超音波処理の際の超音波の照射時間は10分〜3時間であることが好ましく、30分〜2時間であることがより好ましい。このような周波数、出力及び時間が前記下限未満では、前記触媒中の余剰なバインダー成分や触媒成分を効率よく除去することが困難となる傾向にあり、他方、前記上限を超えても、それ以上の効果の向上は見られず、コストが高くなる傾向にある。従って、このような超音波処理に際しては、前記液相中において前記触媒に周波数20kHz〜1MHz(より好ましくは28kHz〜100kHz)、出力20W〜200W(より好ましくは50〜120W)、照射時間10分〜3時間(より好ましくは30分〜2時間)の条件で超音波を照射することがより好ましい。
【0034】
また、このような第二工程においては、超音波処理後の触媒に対して熱処理を施す工程を更に含むことが好ましい。このような熱処理の方法としては、第一工程において説明した熱処理の方法と同様の方法を採用することができる。また、このような熱処理を施すことにより、触媒成分と担体との密着性が向上するとともに、水等の被吸着物質が取り除かれ、オゾン分解活性が向上するため、より高いオゾン除去性能が得られる傾向にある。なお、本発明においては、このような熱処理を施すことなく自然乾燥させてオゾン分解除去用触媒を得てもよい。
【0035】
また、本発明においては、前記第1工程及び前記第2工程を繰り返し実施してもよい。更に、本発明においては、第1工程及び第2工程以外に、前記触媒成分に対して貴金属を担持させる工程を更に含んでいてもよい。このようにして前記触媒成分に対して貴金属を担持させることで、より高度な触媒活性が得られる傾向にある。このような貴金属担持工程は、第1工程後に得られた触媒中の触媒成分に対して施してもよくあるいは第2工程後に得られたオゾン分解除去用触媒中の触媒成分に対して施してもよい。また、このような貴金属担持工程としては特に制限されず、公知の方法を適宜採用でき、例えば、貴金属の塩(例えば、ジニトロジアミン塩)や錯体(例えば、テトラアンミン錯体)を含有する水溶液を、前記触媒又はオゾン分解除去用触媒に接触させて前記触媒成分に対して前記水溶液を担持した後に、これを乾燥し、焼成することで、前記触媒成分に対して貴金属を担持させる方法を採用してもよい。なお、前記コート液中に貴金属の塩(例えば、ジニトロジアミン塩)や錯体(例えば、テトラアンミン錯体)を含有させて、前記担体に前記触媒成分を担持するのと同時に前記触媒成分に対して貴金属を担持させてもよい。
【0036】
さらに、本発明においては、前記超音波処理後において、前記超音波処理後の触媒中の触媒成分に対して、多孔性カーボンを担持せしめる工程を更に含んでいてもよい。このようにして前記触媒成分に対して多孔性カーボンを担持させることで、より高度なオゾンの吸着能が得られる傾向にある。このような多孔性カーボンを担持せしめる工程としては、前記超音波処理後の触媒中の触媒成分に対して多孔性カーボンを担持することが可能な方法であればよく、例えば、カーボン源を含む含浸液を前記超音波処理後の触媒に含浸、担持せしめた後、炭素化処理を施すことにより前記触媒成分の表面上において多孔性カーボンを析出せしめて、前記触媒成分に多孔性カーボンを担持する方法を好適に採用することができる。
【0037】
このようなカーボン源としては、特に限定されず、炭素化処理によって活性な表面積の高い多孔体を形成できるものが好ましく、グルコース(ブドウ糖)、フルクトース(果糖)等の単糖類、マルトース(麦芽糖)、スクロース(ショ糖)、ラクトース(乳糖)等の二糖類、デンプン、セルロースなどの多糖類(たんぱく質)等の糖類;及びアルコール類、アルデヒド類等の炭化水素類;といった有機物質を好適に用いることができる。また、前記含浸液の溶媒としては特に制限されないが、水や低級アルコール等の揮発性の溶媒を用いることが好ましい。また、このような含浸液の調製方法は特に制限されず、温度条件等を適宜選択して調製することが可能である。また、前記炭化処理の方法としては特に限定されないが、カーボン源が燃焼して歩留まりが低下することを十分に防止するという観点から、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガス中で加熱処理する方法を採用することが好ましい。このような加熱処理の温度としては、300℃〜1000℃(より好ましくは300℃〜600℃、更に好ましくは400℃〜500℃)とすることが好ましい。
【0038】
以上、本発明のオゾン分解除去用触媒の製造方法について説明したが、以下、本発明のオゾン分解除去用触媒について説明する。
【0039】
本発明のオゾン分解除去用触媒は、触媒成分がバインダー成分を介して担体に担持されているオゾン分解除去用触媒であって、上記本発明のオゾン分解除去用触媒の製造方法により得られたオゾン分解除去用触媒であることを特徴とするものである。このようなオゾン分解除去用触媒は、上記本発明のオゾン分解除去用触媒の製造方法を採用して製造されたものであるため、十分に高度なオゾン除去性能を有し、しかも担体と触媒成分との密着性が十分に高いものである。
【0040】
このような触媒成分、バインダー成分及び担体は、上記本発明のオゾン分解除去用触媒の製造方法において説明したものと同様のものである。このようなオゾン分解除去用触媒における前記触媒成分の担持量としては、担体の容量1Lあたり5〜100g/Lであることが好ましく、10〜50g/Lであることがより好ましい。このような触媒成分の担持量が前記下限未満では、得られるオゾン分解触媒のオゾン分解活性が不十分なものとなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、コート層が不均一になるとともにハニカム、モノリス等の形状の場合、セル内が目詰まりを起こす傾向にある。
【0041】
また、このような触媒成分に貴金属が担持されている場合において、前記オゾン分解除去用触媒中の貴金属の含有量としては特に制限されないが、担体の容量1Lあたり0.01〜3.0g/Lであることが好ましく、0.1〜1.5g/Lであることがより好ましい。このような貴金属の担持量が前記下限未満では、触媒成分に貴金属を担持することにより得られる効果が不十分となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、触媒成分に貴金属を担持することにより得られる効果が飽和する傾向にある。
【0042】
なお、このような本発明のオゾン分解除去用触媒によって、オゾンを効率よく分解除去できる理由は必ずしも定かではないが本発明者らは以下のように推察する。すなわち、本発明のオゾン分解除去用触媒は、前述のように第1工程において得られた触媒に対して超音波処理を施すことにより得られたものである。このような超音波処理により、前記第1工程後に得られた触媒から余剰なバインダー成分や触媒性分が除去されるものと推察される。そして、このようにして余剰なバインダー成分や触媒性分が除去されると、触媒の表面粗さが大きくなり、前記オゾン分解除去用触媒中の触媒成分とガスとの接触面積が増大される。そのため、このようにして得られたオゾン分解除去用触媒に対してオゾンを接触させるとオゾン分子はその挙動を制限することなく触媒成分に接触し、これによりオゾンが効率よく分解されるものと推察される。
【実施例】
【0043】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0044】
(実施例1)
先ず、担体としてアルミハニカム(直径30mm、長さ20mm、150セル)を用い、コート液としてγ−アルミナ(平均一次粒子径10nm、比表面積180m/g:触媒成分)400gとアルミナゾル(多木化学製の商品名「タキバイン#3000」:バインダー成分)90gと水100mlとを混合攪拌することにより調製したスラリーを用いて、ウォッシュコート法により前記担体に前記コート液を担持させた。なお、このような担体としては、前記ウォッシュコート前に予めエタノール溶液中に浸漬して超音波を20分間照射し、その後乾燥する脱脂処理を施したものを使用した。次いで、前記コート液が担持された担体に熱処理(60℃の熱風で20分間乾燥させた後に大気中、500℃の温度条件で2時間焼成する処理)を施し、γ−アルミナが前記バインダー成分を介して前記担体に担持された触媒(A)を得た。なお、前記ウォッシュコート工程においては、前記触媒(A)におけるアルミナの担持量は担体の容量1Lあたり50g/Lとなるようにして前記コート液を担持した。
【0045】
次に、前記触媒(A)をイオン交換水中に配置し、周波数38kHz、出力120Wの超音波を2時間照射した後、自然乾燥させて本発明のオゾン分解除去用触媒を得た。
【0046】
(実施例2)
先ず、実施例1で用いた担体及びコート液と同様の担体及びコート液を用い、実施例1と同様の方法を採用して触媒(A)を得た。次いで、前記触媒(A)に対して、実施例1で用いたコート液と同様のコート液をウォッシュコート法により再度担持した後、実施例1で採用した熱処理方法と同様の方法を採用して熱処理を施し、γ−アルミナが前記バインダー成分を介して前記担体に担持された触媒(B)を得た。なお、前記ウォッシュコート工程においては、前記触媒(B)におけるアルミナの全量が担体容量1Lあたり100g/Lとなるようにして前記コート液を担持した。
【0047】
次に、前記触媒(B)をイオン交換水中に配置し、周波数38kHz、出力120Wの超音波を2時間照射した後、自然乾燥させて本発明のオゾン分解除去用触媒を得た。
【0048】
(実施例3)
先ず、実施例1で採用した方法と同様の方法を採用して触媒(A)を得た。次いで、前記触媒(A)をイオン交換水中に配置し、周波数38kHz、出力120Wの超音波を2時間照射した後、これをイオン交換水中から取り出し、60℃の熱風で20分間乾燥させ、更に大気中、500℃の温度条件で2時間焼成して本発明のオゾン分解除去用触媒を得た。
【0049】
(実施例4)
先ず、実施例2で採用した方法と同様の方法を採用して触媒(B)を得た。次いで、前記触媒(B)をイオン交換水中に配置して周波数38kHz、出力120Wの超音波を2時間照射した後、イオン交換水中から取り出し、60℃の熱風で20分間乾燥させ、更に大気中、500℃の温度条件で2時間焼成して本発明のオゾン分解除去用触媒を得た。
【0050】
(比較例1)
実施例1で採用した方法と同様の方法を採用して触媒(A)を製造した後、得られた触媒(A)をイオン交換水中にて2時間静置して取り出し、60℃の熱風で20分間乾燥させ、その後、大気中、500℃の温度条件で2時間焼成して、γ−アルミナが前記バインダー成分を介して前記担体に担持された比較のためのオゾン分解除去用触媒を得た。
【0051】
(比較例2)
実施例2で採用した方法と同様の方法を採用して触媒(B)を製造した後、得られた触媒(B)をイオン交換水中にて2時間静置して取り出し、60℃の熱風で20分間乾燥させ、その後、大気中、500℃の温度条件で2時間焼成して、γ−アルミナが前記バインダー成分を介して前記担体に担持された比較のためのオゾン分解除去用触媒とした。
【0052】
(比較例3)
実施例1で用いた担体を、そのまま比較のためのオゾン分解除去用触媒とした。
【0053】
[実施例1〜4及び比較例1〜3で得られたオゾン分解除去用触媒の特性の評価]
<オゾン分解除去性能の評価試験>
実施例1〜4及び比較例1〜3で得られたオゾン分解除去用触媒(担体にバインダー成分を介してγ−アルミナを担持したオゾン分解除去用触媒(比較例3を除く。))をそれぞれ用いて、以下のようなオゾン分解除去性能の評価試験を実施した。すなわち、先ず、図1に示すようなオゾン分解除去性能評価装置の管触媒床1(内径30mm)に前記オゾン分解除去用触媒(直径30mm、長さ20mm)を設置した。次いで、前記触媒床1に設置された前記オゾン分解除去用触媒に対して、500体積ppmのオゾンと20体積%の酸素と窒素(残部)を含む混合気体(入りガス)を流量10L/分の条件で接触せしめた。次に、前記オゾン分解除去用触媒に接触した後の混合気体(出ガス)中のオゾン濃度をオゾンモニター(荏原実業株式会社製の商品名「PG−620MA」、検出:紫外線吸収式)を用いて測定した。そして、前記出ガス中のオゾン濃度が定常な状態になった時点でのオゾン濃度を出ガス中のオゾン濃度とし、前記入りガス中のオゾン濃度(500体積ppm)と前記出ガス中のオゾン濃度との差を入りガス中のオゾン濃度で除することにより、オゾン分解除去率を算出した。なお、このようなオゾン分解除去性能の評価試験は用いた前記オゾン分解除去用触媒ごとに、入りガス温度を室温(25℃)、50℃又は100℃に変更して3回行った。そして、各入りガス温度における各オゾン分解除去用触媒のオゾン分解除去率をそれぞれ求めた。各オゾン分解除去用触媒の各入りガス温度におけるオゾン分解除去率を表1に示す。また、実施例1〜2及び比較例1〜3で得られたオゾン分解除去用触媒を用いた場合のオゾン分解除去率と入りガス温度との関係を示すグラフを図2に示す。
【0054】
【表1】

【0055】
表1及び図2に示す結果からも明らかなように、本発明のオゾン分解除去用触媒(実施例1〜4)においては、十分に高度なオゾン除去性能が得られることが確認された。このような結果から、実施例1と比較例1とを比較すると、同一の触媒成分を担持しているにも関わらず、超音波処理を施すことでオゾン除去性能を十分に向上させることが可能となることが分かった。
【0056】
<触媒成分と担体との密着性の評価試験>
実施例1〜4及び比較例1〜2で得られたオゾン分解除去用触媒をそれぞれ用いて、以下のような密着性の評価試験を実施した。すなわち、先ず、オゾン分解除去用触媒の重量を測定した。次いで、前記オゾン分解除去用触媒に対してイオン交換水中での超音波洗浄(超音波の周波数38kHz、出力120W、照射時間120分)を施し、60℃の熱風で20分間乾燥させた後、再度重量を測定した。そして、超音波洗浄前後のオゾン分解除去用触媒の重量を比較して担体に担持されている触媒成分の残存率(超音波洗浄後の重量/超音波洗浄前の重量)を求めた。各オゾン分解除去用触媒の残存率を表2に示す。
【0057】
【表2】

【0058】
表2に示す結果からも明らかなように、本発明のオゾン分解除去用触媒(実施例1〜4)においては、触媒成分の残存率が十分に高く、担体と触媒成分との密着性が十分に高いことが確認された。また、超音波処理後に熱処理を施した場合(実施例3〜4)においては、担体と触媒成分との密着性がより高いオゾン分解除去用触媒が得られることが分かった。
【0059】
(実施例5)
コート液として、酸化マンガン(α−MnO:平均一次粒子径10nm、比表面積104m/g:触媒成分)400gとアルミナゾル(多木化学製の商品名「タキバイン#3000」:バインダー成分)90gと水100mlとを混合攪拌することにより調製したスラリーを用いた以外は、実施例2と同様の方法を採用して、α−MnOが前記バインダー成分を介して前記担体に担持された本発明のオゾン分解除去用触媒を得た。
【0060】
(比較例4)
コート液として、酸化マンガン(α−MnO、平均一次粒子径10nm、比表面積104m/g:触媒成分)400gとアルミナゾル(多木化学製の商品名「タキバイン#3000」:バインダー成分)90gと水100mlとを混合攪拌することにより調製したスラリーを用いた以外は、比較例2と同様の方法を採用して、比較のためのオゾン分解除去用触媒を得た。
【0061】
[実施例5及び比較例4で得られたオゾン分解除去用触媒の特性の評価]
<オゾン分解除去性能の評価試験>
実施例5及び比較例4で得られたオゾン分解除去用触媒(担体にバインダー成分を介してα−MnOを担持したオゾン分解除去用触媒)をそれぞれ用いた以外は、上述のオゾン分解除去性能の評価試験と同様の試験を行った。各入りガス温度における各オゾン分解除去用触媒のオゾン分解除去率を表3に示す。また、かかるオゾン分解除去率と入りガス温度との関係を示すグラフを図3に示す。
【0062】
【表3】

【0063】
表3及び図3に示す結果からも明らかなように、本発明のオゾン分解除去用触媒(実施例5)においては、十分に高度なオゾン除去性能が得られることが確認された。このような結果から実施例5と比較例4とを比較すると、同一の触媒成分を担持しているにも関わらず、触媒成分を担体に担持した後に超音波処理を施すことでオゾン除去性能を向上させることが可能となることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0064】
以上説明したように、本発明によれば、十分に高度なオゾン除去性能を有するオゾン分解除去用触媒を効率よく且つ確実に製造することを可能とするオゾン分解除去用触媒の製造方法、並びに、その方法を利用して得られるオゾン分解除去用触媒を提供することが可能となる。
【0065】
したがって、本発明のオゾン分解除去用触媒は、オゾン分解除去性能に優れるため、光化学オキシダントなどに含まれるオゾンの分解除去用触媒などとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】オゾン分解除去性能の評価試験に用いたオゾン分解除去性能評価装置を示す摸式図である。
【図2】実施例1〜2及び比較例1〜3で得られたオゾン分解除去用触媒を用いた場合のオゾン分解除去率と入りガス温度との関係を示すグラフである。
【図3】実施例5及び比較例4で得られたオゾン分解除去用触媒を用いた場合のオゾン分解除去率と入りガス温度との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0067】
1…触媒床、2…石英管。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒成分とバインダー成分とを含有するコート液を担体に接触せしめた後に、前記コート液が担持された前記担体に対して熱処理を施し、前記触媒成分が前記バインダー成分を介して前記担体に担持されている触媒を得る工程と、
前記触媒を液相中に配置し、超音波処理を施してオゾン分解除去用触媒を得る工程と、
を含むことを特徴とするオゾン分解除去用触媒の製造方法。
【請求項2】
前記超音波処理が、前記触媒に周波数20kHz〜1MHz、出力20W〜200W、照射時間10分〜3時間の条件で超音波を照射する処理であることを特徴とする請求項1に記載のオゾン分解除去用触媒の製造方法。
【請求項3】
触媒成分がバインダー成分を介して担体に担持されているオゾン分解除去用触媒であって、請求項1又は2に記載のオゾン分解除去用触媒の製造方法により得られたものであることを特徴とするオゾン分解除去用触媒。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−254961(P2009−254961A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−106188(P2008−106188)
【出願日】平成20年4月15日(2008.4.15)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】