説明

オゾン殺菌装置及びオゾン殺菌方法

【課題】オゾンを効率よく菌に供与して強力な作用で殺菌するオゾン殺菌装置及びオゾン殺菌方法を提供する。
【解決手段】オゾン殺菌装置は、オゾンを含有する気体がナノサイズの気泡となって液体に混合された気液混合液を生成する気液混合液生成部30と、気液混合液生成部30によって生成された気液混合液の気泡を崩壊させてオゾンを液体に溶解するオゾン溶解部31と、オゾン溶解部で発生したオゾン溶解液を殺菌対象物40に供与するオゾン溶解液供与部32とを備える。または、オゾン殺菌装置は、オゾンを含有する気体がナノサイズの気泡となって液体に混合された気液混合液を冷却状態で生成する気液混合液生成部30と、冷却状態の気液混合液を殺菌対象物40に吐出する吐出部7とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オゾンを含有する液体を生成して殺菌を行うオゾン殺菌装置及びオゾン殺菌方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、加熱殺菌や紫外線殺菌などと並んでオゾンにより殺菌することが知られている。オゾンは殺菌能力が極めて高い気体であり、非常に広い殺菌スペクトルを持ち、また耐性菌を作らないなど、環境殺菌浄化に有用なものである。ところが、オゾンは気体であるため、開放された環境では使用がしにくく、また人体に重大な影響を及ぼすおそれがあった。そこで、オゾンを水に溶解してオゾン水を生成し、このオゾン水を用いて殺菌することが試みられている。オゾン水は、溶解したオゾンからラジカルを発生させ、このラジカルで菌を殺傷するため極めて殺菌力が高く、また液体であるため利用しやすいものである。
【0003】
しかしながら、オゾンが水に溶解されたオゾン水はオゾンの保有力が極めて弱く、清浄な容器に静置した条件でも数秒から数分程度で自己分解などによって消滅してしまうため、オゾン水を生成したあとすぐに殺菌に使用する必要があり、また、オゾンがすぐに分解されてしまうため高濃度のオゾンを菌に供与することができなかった。
【0004】
特許文献1には、オゾンをナノバブルの微細な気泡にして0.1〜5mg/Lの濃度で水に存在させたオゾン水が、長期間持続して殺菌効果を発揮することが開示されている。しかし、オゾンは気泡になって水中にガスとして存在しており水に溶解して存在していないので、オゾンの殺菌効果が効率よく発揮されないという問題があった。また、マイクロバブルを圧壊し、電解質イオンで安定化する方法によってナノバブルを作製しており、この方法では、ナノバブルの中に存在するオゾン量を多くすることができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−275089号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、オゾンを効率よく菌に供与して強力な作用で殺菌するオゾン殺菌装置及びオゾン殺菌方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の発明は、オゾンを含有する気体がナノサイズの気泡となって液体に混合された気液混合液を生成する気液混合液生成部30と、気液混合液生成部30によって生成された気液混合液の気泡を崩壊させてオゾンを液体に溶解するオゾン溶解部31と、オゾン溶解部で発生したオゾン溶解液を殺菌対象物40に供与するオゾン溶解液供与部32とを備えることを特徴とするオゾン殺菌装置である。
【0008】
請求項2の発明は、上記オゾン殺菌装置において、オゾン溶解部31が、少なくとも加温、超音波、マイクロ波、撹拌のいずれか1つ以上の手段を用いて気液混合液の気泡を崩壊させてオゾンを液体に溶解するものであることを特徴とするオゾン殺菌装置である。
【0009】
請求項3の発明は、オゾンを含有する気体がナノサイズの気泡となって液体に混合された気液混合液を冷却状態で生成する気液混合液生成部30と、冷却状態の気液混合液を殺菌対象物40に吐出する吐出部7とを備えることを特徴とするオゾン殺菌装置である。
【0010】
請求項4の発明は、オゾンを含有する気体がナノサイズの気泡となって液体に混合された気液混合液を生成し、気液混合液の気泡を崩壊させてオゾンを液体に溶解し、発生したオゾン溶解液を殺菌対象物40に供与することを特徴とするオゾン殺菌方法である。
【0011】
請求項5の発明は、上記オゾン殺菌方法において、少なくとも加温、超音波、マイクロ波、撹拌のいずれか1つ以上の手段を用いて、気泡を崩壊させてオゾンを液体に溶解することを特徴とするオゾン殺菌方法である。
【0012】
請求項6の発明は、上記オゾン殺菌方法において、液体が水を含むことを特徴とするオゾン殺菌方法である。
【0013】
請求項7の発明は、上記オゾン殺菌方法において、気液混合液が、水素結合を形成する分子からなる液体中に気泡が存在するものであって、液体の気泡との界面に存在する分子の水素結合の距離が、該液体が常温常圧であるときの水素結合の距離よりも短いことを特徴とするオゾン殺菌方法である。
【0014】
請求項8の発明は、上記オゾン殺菌方法において、液体が、O−H結合、N−H結合、(ハロゲン)−H結合、S−H結合のいずれか一種以上を有する分子からなる液体であることを特徴とするオゾン殺菌方法である。
【0015】
請求項9の発明は、上記オゾン殺菌方法において、気液混合液の気泡を形成している気体の圧力が、ヤングラプラスの式(次式)で与えられる気泡の内圧より高い圧力であることを特徴とするオゾン殺菌方法である。
ヤングラプラスの式
ΔP=2σ/r
[ΔP:気泡内部の上昇圧力、 σ:表面張力、 r:気泡半径]
【0016】
請求項10の発明は、上記オゾン殺菌方法において、気液混合液に含有されている気体の濃度が、液体の飽和溶解濃度以上であることを特徴とするオゾン殺菌方法である。
【発明の効果】
【0017】
請求項1の発明によれば、オゾンを含有する気体がナノサイズの気泡となって安定に液体中に存在する気液混合液を生成するので、長期に亘ってオゾンを液体中に保持することができ、この保持されたオゾンを殺菌に用いることができるものである。すなわち、オゾンは液体に溶解した状態では自己分解作用が極めて加速されて分解が進行するので、数秒から数分程度しか安定に存在することができないが、気体の状態で存在すると数日から数ヶ月以上、安定に存在することができ、この気体となって安定化された状態でオゾンを液体に保持することが可能になるものである。そして、液体中に気泡となって保持されたオゾンはオゾン溶解部によって液体に多量に溶解し、この液体に溶解されたオゾンが大量のラジカルを生成してラジカルの作用で殺菌するので、大量のラジカルを菌に与えることができ強力な殺菌効果を発揮することができるものである。
【0018】
請求項2の発明によれば、加温、超音波、マイクロ波、撹拌のいずれか1つ以上の手段を用いて気液混合液の気泡を崩壊させることによって、気体として存在しているオゾンをこれらの手段で瞬時に多量に液体に溶解させることができ、簡単に効率よくオゾンを溶解させて効果的に殺菌することができるものである。また、オゾンを含有した気液混合液から、殺菌効果を発揮させたいときに容易にオゾンを溶解させてオゾン溶解液を生成することができ、殺菌効率を向上することができるものである。
【0019】
請求項3の発明によれば、オゾンを含有する気体がナノサイズの気泡となって安定に液体中に存在する気液混合液を冷却状態で生成するので、長期に亘ってオゾンを液体中に保持することができ、この保持されたオゾンを殺菌に用いることができるものである。すなわち、オゾンは液体に溶解した状態では自己分解作用が極めて加速されて分解が進行するので、数秒から数分程度しか安定に存在することができないが、気体の状態で存在すると数日から数ヶ月以上、安定に存在することができ、この気体となって安定化された状態でオゾンを液体に保持することが可能になるものである。そして、冷却状態の気液混合液は殺菌対象物に向けて吐出されて、外気温や殺菌対象物の温度によって気液混合液の温度が上昇することによって、液体中に気泡となって保持されたオゾンが液体に多量に溶解し、この液体に溶解されたオゾンが大量のラジカルを生成してラジカルの作用で殺菌するので、大量のラジカルを菌に与えることができ強力な殺菌効果を発揮することができるものである。また、殺菌対象物の直近でオゾン溶解液が発生して殺菌を行うことができるので、殺菌効率を向上することができるものである。また、冷却状態の気液混合液を冷却したまま保存しておき、この保存された気液混合液を殺菌対象物に与えて、オゾン殺菌をすることもでき、その場合、オゾン殺菌装置を移動させることなく、気液混合液を殺菌を行いたい場所に移動させて殺菌することができ、簡単にオゾン殺菌することができるものである。
【0020】
請求項4の発明によれば、オゾンを含有する気体がナノサイズの気泡となって安定に液体中に存在する気液混合液を生成するので、長期に亘ってオゾンを液体中に保持することができ、この保持されたオゾンを殺菌に用いることができるものである。すなわち、オゾンは液体に溶解した状態では自己分解作用が極めて加速されて分解が進行するので、数秒から数分程度しか安定に存在することができないが、気体の状態で存在すると数日から数ヶ月以上、安定に存在することができ、この気体となって安定化された状態でオゾンを液体に保持することが可能になるものである。そして、液体中に気泡となって保持されたオゾンは液体に多量に溶解し、この液体に溶解されたオゾンが大量のラジカルを生成してラジカルの作用で殺菌するので、大量のラジカルを菌に与えることができ強力な殺菌効果を発揮することができるものである。
【0021】
請求項5の発明によれば、加温、超音波、マイクロ波、撹拌のいずれか1つ以上の手段を用いて気液混合液の気泡を崩壊させることによって、気体として存在しているオゾンをこれらの手段で瞬時に多量に液体に溶解させることができ、簡単に効率よくオゾンを溶解させて効果的に殺菌することができるものである。また、オゾンを含有した気液混合液から、殺菌効果を発揮させたいときに容易にオゾンを溶解させてオゾン溶解液を生成することができ、殺菌効率を向上することができるものである。
【0022】
請求項6の発明によれば、液体が水を含むことによって、特別な液体を用いることなく簡単に気液混合液を生成して殺菌することができるものである。また、また、水は入手が容易であり、安価であるので低コストで簡単に気液混合液を生成して殺菌することができるものである。また、水は人体に安全であるので安全に殺菌することができるものである。また、水分子は、O…Hの水素結合、つまり、ある水分子の酸素原子と他の水分子の水素原子との間に強固な結合を形成するので、気泡界面における水素結合が強固になって気泡をより安定化させることができるものである。
【0023】
請求項7の発明によれば、気泡界面における水素結合の距離が短くなることにより、気泡の周囲を強固な水素結合を形成した液体分子で取り囲むことができ、この水素結合を形成した液体分子は強固な殻となって気泡を包み込むので、気泡同士が衝突しても崩壊することがないのと共に液体からの圧力に対して気泡内部からの応力で対抗でき、オゾンを含有した気泡を液体中で消滅させたり合体させたりすることなく安定に存在させることができるものである。そして、この水素結合は長期間に亘って安定であるので、オゾンを含有した気泡が安定に存在した気液混合液を長期間に亘って利用可能となるものである。そして、このオゾンが安定に保持された気泡を崩壊させて大量のオゾンを液体に溶解し、このオゾン溶解液から生じるラジカルによって殺菌することができるので、効率よく優れた効果で殺菌することができるものである。また、ナノオーダーサイズのオゾンの気泡を、従来レベルより遙かに超えた密度で生成し液体に安定して存在させて殺菌に利用することが可能となるものである。
【0024】
請求項8の発明によれば、O−H…O、N−H…N、(ハロゲン)−H…(ハロゲン)、S−H…Sといった強い水素結合によりオゾンを含有する気泡を取り囲んで安定化させることができるので、安定にオゾンの気泡が存在した気液混合液を生成して、効率よく殺菌することができるものである。
【0025】
請求項9の発明によれば、気泡が高い内部圧で維持されることによってより強固な界面構造を形成することができ、静置状態においては安定なオゾンの気泡を形成すると共に、一旦、衝撃が加えられると、内部圧の力により気泡の界面構造が崩壊して、気泡が崩壊して大量のオゾンが液体に溶解するため、この溶解されたオゾンから発生する大量のラジカルを用いて殺菌するので、殺菌効果を向上することができるものである。
【0026】
請求項10の発明によれば、飽和溶解量又はそれを超える多量のオゾンを含む気体を液体中に保持することにより、液体中に含有された高濃度のオゾンを用いて殺菌することができ、殺菌効果をさらに向上することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明のオゾン殺菌装置の実施の形態の一例を示す概略図である。
【図2】気液混合液生成部の一部を示す概略図である。
【図3】(a)〜(c)はそれぞれ、気液混合液生成部の一部を示す概略図である。
【図4】(a)〜(d)はそれぞれ、気液混合液生成部の一部を示す概略図である。
【図5】気液混合液製造生成部の一部を示す概略図である。
【図6】本発明のオゾン殺菌装置の実施の形態の他の一例を示す概略図である。
【図7】本発明のオゾン殺菌装置の実施の形態の他の一例を示す概略図である。
【図8】本発明のオゾン殺菌装置の実施の形態の他の一例を示す概略図である。
【図9】気液混合液における気泡の気液界面の概念説明図である。
【図10】気液混合液によりオゾン殺菌するモデルを示す概念説明図である。
【図11】気液混合液と窒素飽和水との赤外吸収スペクトルの差分を示すグラフである。
【図12】気液混合液中に含まれる気体容量を示すグラフである。
【図13】走査型電子顕微鏡(SEM)による気液混合液の写真である。
【図14】気液混合液の安定性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、発明を実施するための形態について説明する。
【0029】
図1は、本発明のオゾン殺菌装置の実施の形態の一例を示す概略図である。
【0030】
このオゾン殺菌装置は、オゾンを含有する気体がナノサイズの気泡となって液体に混合された気液混合液を生成する気液混合液生成部30と、気液混合液生成部30によって生成された気液混合液の気泡を崩壊させてオゾンを液体に溶解するオゾン溶解部31と、オゾン溶解部31で発生したオゾン溶解液を殺菌対象物40に供与するオゾン溶解液供与部32とを備えている。
【0031】
気液混合液生成部30は、オゾンを含有する気体を液体に供給してナノサイズの気泡にし、オゾンがナノサイズの気泡となって液体中に存在する液体を生成するものである。ナノサイズの気泡になることにより安定に液体中にオゾンを存在させることができるので、長期に亘ってオゾンを液体中に保持することができ、この保持されたオゾンを殺菌に用いることができるものである。すなわち、オゾンは液体に溶解した状態では自己分解作用が極めて加速されて分解が進行するので、数秒から数分程度しか安定に存在することができないが、気体の状態で存在すると数日から数ヶ月以上、安定に存在することができ、この気体となって安定化された状態でオゾンを液体に保持することが可能になるものである。
【0032】
気液混合液に含まれる気泡はナノサイズの気泡であり、具体的には1000nm以下の気泡(いわゆるナノバブル)である。気泡がナノサイズとなり微細なものになることで強固な気泡界面の構造を形成することができ、高濃度の気体を液体中に保持することができるものである。また、ナノオーダーサイズの気泡には浮力が働かないため、気泡が上昇して液体から分離することがないので気泡を長期に亘って安定に存在させることができるものである。気泡のサイズがナノサイズよりも大きくなると気泡を安定化させることができなくなるおそれがある。なお、気泡の大きさは、走査型電子顕微鏡(SEM)により測定することができ、気泡の平均粒径は、測定によって得た気泡の粒径を平均して求めることができる。ところで、マイクロバブルが混合された液体は白濁するため目視により判別可能であるが、ナノバブルが混合された液体は無色透明(あるいは液体が有色の場合は液体の色)になり目視では判別することができない。よって、気液混合液の判別はSEMや密度測定などによって行うこととなる。なお、ナノサイズの気泡の下限は1nmである。
【0033】
気液混合液に好ましく用いられる液体の一つは水である。すなわち、液体が水を含むことが好ましい。それにより、殺菌用の液剤などの特別な液体を用いることなく簡単に気液混合液を生成して殺菌することができる。また、水は入手が容易であり、安価であるので低コストで簡単に気液混合液を生成して殺菌することができる。また、水は人体に安全であるので安全に殺菌することができるものである。液体が水を含む状態としては、液体が水のみからなっていてもよいし、水が他の成分を溶解させて水溶液の状態になっていてもよい。ここで、水分子は、O…Hの水素結合、つまり、ある水分子の酸素原子と他の水分子の水素原子との間に水素結合を形成するものであり、気液混合液の液体として水を用いると、気泡界面において液体中のこの水素結合が強固になって気泡をより安定化させることができる。本発明において、水としては純度の高い水に限られることはなく、上水道、地下水などをはじめ、殺菌用に用いることが可能なあらゆる水を使用することができる。
【0034】
気液混合液の生成に用いる液体としては、水素結合を形成する分子からなる液体を用いることも好ましい。水素結合とは、電気陰性度の大きい原子と水素原子とを有している分子において、水素原子が他の分子の電気陰性度の大きい原子に接近し、系が安定化する結合のことである。そして、気液混合液を形成する液体中には気泡が存在し、この気泡の周囲、すなわち気泡との界面に存在する液体分子においては、分子の水素結合の距離が、この液体が常温常圧(25℃、1気圧(0.1013MPa))であるときの水素結合の距離よりも短いものとなっている。このように、気液混合液が常温常圧の条件で存在する場合において、気泡界面における水素結合の距離が常温常圧での通常の水素結合の距離よりも短くなることにより、気泡の周囲を強固な水素結合を形成した液体分子で取り囲むことになる。そして、この水素結合を形成した液体分子は強固な殻となって気泡を包み込む。それによって、気泡同士が衝突しても崩壊することがなくなり、また、液体からの圧力に対して気泡内部からの応力で対抗できるので、オゾンを含有した気泡を液体中で消滅させたり合体させたりすることなく保持することができるものである。つまり、従来の表面張力で安定している気泡とは異なるものである。そして、この水素結合は長期間に亘って安定であるので、オゾンを含有した気泡が安定に存在した気液混合液を長期間に亘って利用可能となる。こうして、このオゾンが安定に保持された気泡を崩壊させて大量のオゾンを液体に溶解し、このオゾン溶解液から生じるラジカルによって殺菌することができるので、効率よく優れた効果で殺菌することができるものである。また、ナノオーダーサイズのオゾンの気泡を、従来レベルより遙かに超えた密度で生成し液体に安定して存在させて殺菌に利用することが可能となるものである。
【0035】
気泡との界面における液体分子の水素結合の距離としては、用いる液体により適宜のものとなるが、常温常圧での水素結合の距離を100%とした場合に、99%以下となるように気液混合液を生成することが好ましい。水素結合の距離がこの範囲になることにより、気泡を水素結合の硬い殻で取り囲んで安定化させることができるものである。水素結合の距離がこれより長いと気泡を安定化させて存在させることができなくなるおそれがある。原子間距離を考慮すると、水素結合の距離の下限は95%である。気液混合液中の気泡界面における水素結合の距離は、後述するように、気液混合液の赤外吸収スペクトル(IR)を解析することにより算出することができる。
【0036】
ところで、水素結合の距離が上記の距離にある水は、通常、氷のように固体やハイドレート結晶構造になるものであるが、本発明により生成した気液混合液においては、気泡界面において局所的に上記のような距離の短い水素結合を形成し、それ以外の液体中は通常の水素結合を形成している。すなわち、気泡界面では距離の短い水素結合により液体分子の硬い殻を形成して、気泡同士が合体することや消滅することを防止すると共に、気泡界面以外では通常の状態で液体が存在して常温常圧では流動性を確保しており、安定な気泡が存在している液体を利用しやすくするものである。
【0037】
また、液体が、O−H結合、N−H結合、F−H結合やCl−H結合などの(ハロゲン)−H結合、S−H結合のいずれか一種以上を有する分子からなる液体であることも好ましい。これらの結合は、水素原子に対して電気陰性度が十分に大きい原子と水素原子との結合であり、O−H…O、N−H…N、F−H…FやCl−H…Clなどの(ハロゲン)−H…(ハロゲン)、S−H…Sといった強い水素結合を形成し、この水素結合により気泡を取り囲んで気泡を安定化させることができるものである。O−H結合を有する代表的な液体は水であるが、その他、過酸化水素やメタノール、エタノールなどのアルコール、グリセリンなどを例示することができる。また、N−H結合を有する液体としては、アンモニアなどを例示することができる。また、(ハロゲン)−H結合を有するものとしては、F−H結合を有するHF(フッ化水素)、Cl−H結合を有するHCl(塩化水素)を挙げることができる。また、S−H結合を有するものとしてはHS(硫化水素)を挙げることができる。
【0038】
液体がカルボキシル基を有する分子からなる液体であることも好ましい。カルボキシル基には、電気陰性度が大きいカルボニルの酸素原子が存在しており、あるカルボキシル基中のカルボニルの酸素原子と他のカルボキシル基中の水素原子とが強い水素結合を形成して気泡を取り囲むので、安定に気泡が存在した気液混合液を得ることができるものである。カルボキシル基を有する分子からなる液体としては、ギ酸、酢酸などのカルボン酸などを例示することができる。
【0039】
オゾンを含有する気体としては、オゾンのみの場合であってもよく、オゾン以外に他の気体が含まれていてもよい。オゾン以外の気体を含む場合は、気体をオゾン発生機に供給し、このオゾン発生機でオゾンを発生させて気体を供給することができる。オゾン以外の気体としては、特に限定されるものではなく、種々の気体を用いることが可能である。例えば、空気、二酸化炭素、窒素、酸素、オゾン、アルゴン、水素、ヘリウム、メタン、プロパン、ブタンなどの気体を単一で又は混合して用いることができる。オゾンを発生させるためには酸素が含まれていることが好ましく、中でも入手が容易な空気を用いることが好ましい。
【0040】
気液混合液にあっては、気泡を形成している気体の圧力、すなわち気泡の内圧が、0.12MPa以上になることが好ましく、さらにヤングラプラスの式(次式)で与えられる気泡の内圧より高い圧力であることが好ましい。
【0041】
ヤングラプラスの式
ΔP=2σ/r
[ΔP:気泡内部の上昇圧力、 σ:表面張力、 r:気泡半径]

気泡の内圧がこのような圧力になると気泡が高い内部圧で維持されることになり、より強固な界面構造を形成することができるので、静置状態において安定な気泡を形成することができる。一方、一旦、気液混合液に衝撃が加えられると、内部圧の力により気泡の界面構造が崩壊して、気泡が崩壊して大量のオゾンが液体に溶解するため、この溶解されたオゾンから発生する大量のラジカルを用いて殺菌するので、殺菌効果を向上することができるものである。気液混合液中の気泡の内圧は、後述するように気液混合液中の気体総量と密度から計算した気体容量とを気体の状態方程式に当てはめることにより算出することができる。
【0042】
気液混合液中の気体の濃度は、液体の飽和溶解濃度以上になるような量であることが好ましい。飽和溶解量又はそれを超える多量の気体を液体中に保持すれば、液体中に含有された高濃度のオゾンを殺菌に利用することができ、殺菌効果を向上することができるものである。さらに好ましくは、気液混合液の液体中には飽和溶解量の気体が溶解しており、その飽和溶解液にオゾンを含む気泡が存在しているものである。飽和溶解量で気体が溶解していれば、気泡となったオゾンを溶解させることなく安定化して気泡として液体中に保持することがより可能となるものである。すなわち、飽和溶解量以上に気体が存在する気液混合液は、液体中に飽和濃度で気体が溶解しており、気泡が崩壊したり溶解したりすることがなく、より安定に気泡を液体中に存在させることができるものである。また、さらに気液混合液中のオゾンの濃度が、液体に対するオゾンの飽和溶解濃度以上であることが好ましい。このようにオゾン濃度が高くなると、大量のオゾンを用いて殺菌することができ強力な殺菌効果が得られるものである。気液混合液中の気体量は、後述するように気液混合液から気体を分離し、質量変化量から算出することができる。
【0043】
また気液混合液は、液体として水を用いた場合、ゼータ電位がマイナスとなり、体積1cm中に存在する気泡界面の面積は1.2m程度となる。
【0044】
図1の気液混合液生成部30は、液体を圧送して連続的に気液混合液を製造するものであり、液体貯留槽12aや水道配管12bなどの液体供給源12から配管連結部13を介して液体を圧送して加圧する加圧部1と、加圧された液体に気体を供給する気体供給部2と、供給された気体を微細な気泡にして液体と混合させる気液混合部3と、気液混合部3中の液体に存在する大きな気泡を除去する脱気泡部4と、脱気泡部4により大きな気泡が取り除かれた液体の圧力を、大きな気泡を発生させることなく徐々に大気圧まで減圧させる減圧部5とを備え、各部は流路6に接続して設けられている。
【0045】
加圧部1は液体を圧送するものであり、例えば、この装置のように、液体供給源12から液体を吸い上げるポンプ11などで構成できるが、水道配管等、液体を加圧して送り出す配管などで構成することもできる。配管連結部13は気液混合液生成部30の流路6を装置外部にある液体供給源12に接続するためのものであり、開閉して水量や水圧を調節できる調節弁などによって構成することができる。
【0046】
気体供給部2は、流路6に接続されることにより液体に気体を供給して注入するものである。この気体供給部2の気体が送り込まれる気体経路にはオゾン生成部14が設けられている。オゾン生成部14は、気体からオゾンを生成するためのものであり、例えば電気放電によって空気中の酸素からオゾンを生成するオゾン発生機を用いることができる。また、オゾンを封入したボンベからオゾンを供給するようにしてオゾン発生部14を形成することもできる。流路6への気体供給部2の接続位置は、気液混合部3よりも上流側の位置であればよい。この装置のように、加圧部1と気液混合部3とが同体で構成されている場合は加圧部1より上流側の流路6に接続することになる。また、加圧部1と気液混合部3とが別体で構成されている場合は、加圧部1より上流側の流路6に接続するようにしても、あるいは加圧部1より下流側の流路6に接続するようにしてもいずれでもよい。
【0047】
気液混合部3は圧送された液体とこの液体に注入された気体とを混合し、加圧により気体を微細な気泡にして液体中に分散・混合させるものである。気液混合部3としては、流路の断面積変化などで撹拌力を与えるもので構成することもできるし、また液体が撹拌された状態で流路6を流れているのであれば単に流路6で構成することもできる。図1の形態では、ポンプ11などで構成された加圧部1と気液混合部3とが兼用されて設けられてある。気液の加圧及び混合をポンプ11により行った場合、液体を急激に加圧・混合することができるので、気泡界面の構造が強固な気液混合液を確実に生成することができる。また、気液混合部3をベンチュリ管で構成することも好ましい。その場合、簡単な構成で液体を急激に加圧・混合することができる。気液混合部3内においては液体と気体が高圧条件で混合される。それにより、気泡の周囲に強固な界面構造が形成され、この強固な界面構造の殻で気泡を覆うことができ、気体を微細な気泡として安定化することができるものである。
【0048】
上記のような加圧部1及び気液混合部3により、気体が注入された液体に急激に強力な圧力が加わって、液体中に存在している気泡は微細なナノサイズの気泡へと細分されて液体に分散される。また、急激な圧力変化により高圧になった気泡の界面には液体分子により強固な界面構造が形成される。その際、加圧速度ΔP/t(ΔP:圧力増加量、t:時間)が0.17MPa/sec以上になることにより、気泡を細分化させて微細なナノサイズの気泡を生成することができ、気液混合部3から脱気泡部4に送り出される際の気液混合液の圧力が0.15MPa以上になることにより、気泡の界面が強固な構造となったナノサイズの気泡を生成することができるものである。実質的な加圧条件を考慮すると、加圧速度ΔP/tの上限は167MPa/secであり、加圧された気液混合液の圧力の上限は50MPaである。
【0049】
図2は、ポンプ11の具体的な形態の一例を示す要部の概略図である。このポンプ11aは回転体21の回転により液体を加圧するものであり、回転体21に取り付けられた回転翼22が連続的に回転してポンプ入口26からポンプ流路室23を介してポンプ出口27への流れ方向へ液体を送り出し加圧するものである。図2において白抜き矢印は液体の流れ方向を示し、実線矢印は回転体21の回転方向を示している。このポンプ11aでは4枚の回転翼22が備えられている。また回転体21の回転軸25は、円筒状に形成されたポンプ壁24の円筒中心よりもポンプ出口27側に偏って配置され、偏心軸となって設けられている。そして、回転軸21の偏心によりポンプ流路室23の第二流路室23bの容積は、第一流路室23aの容積よりも小さく形成されており、液体の流れ方向に沿ってポンプ流路室23の容積が順次小さくなっている。
【0050】
そして、ポンプ流路室23に送り出された液体は、回転翼22で送り出され加圧され、急激な圧力変化により大きな気泡Bが細分化されて微細なナノサイズの気泡Bが生成される。すなわち、回転体21の回転と共に第一流路室23aから第二流路室23bに送られた液体は、ポンプ流路室23の容積が小さくなることにより急速に圧縮されて加圧され、この加圧力によりナノサイズの気泡Bが生成される。また、図示のポンプ11aでは、ポンプ壁24の内面と回転翼22の先端部との間を液体が通過するときに剪断力が与えられて、液体をクリアランスで剪断しながら加圧する。このとき、液体に混合されている気体(大きな気泡B)は液体に与えられた剪断力によって剪断されて、より微細なナノサイズの気泡(B)になる。ここで、ポンプ壁24の内面と回転翼22の先端部との間の最も狭くなる部分の距離、すなわちクリアランス距離Lは、5μm〜2mmであることが好ましい。このように、回転体21を用いたポンプ11aによれば、回転体21で急激に強い力で加圧すると共に液体に注入された気体を剪断してナノサイズの気泡を形成することができるので、気泡界面の構造が強固な気液混合液をより確実に生成することができるものである。
【0051】
ポンプ11の回転体21の回転数は100rpm以上であることが好ましい。このとき、0.3秒に1/2回転以上となる。このような回転数となることにより、飽和溶解濃度以上の気体を液体に注入させて水素結合距離が短縮したナノサイズの気泡を確実に生成することができるものである。
【0052】
加圧部1及び気液混合部3による加圧は、加圧部1又は気液混合部3を複数設けて、複数回加圧することができる。液体を送りながら複数回加圧することにより、加圧を複数のポンプ11やベンチュリ管によって行うことができ、液体を強力に加圧して、気泡界面の構造が強固な気液混合液を生成することができるものである。具体的には、加圧部1を図1のようにポンプ11で構成すると共に、気液混合部3を一つ又は二つ以上のポンプ11又はベンチュリ管で構成することができるものである。
【0053】
脱気泡部4は上記のようにして気体が混合された液体から、ナノサイズを超える気泡、すなわち直径1μmを超える気泡を取り除くものであり、気泡をそれ自身の浮力で上昇させて取り除くようにした管体などで構成することができる。取り除かれた気泡は気体となって上部に集積するので、この除去された気体を気体除去部8により取り除くことができる。直径1μmを超えるサイズの気泡(マイクロサイズの気泡)は、浮力により上昇するので、このような比較的大きい気泡が取り除かれて微細な気泡であるナノサイズの気泡が液体中に存在することにより、界面構造が強固で安定な気液混合液を得ることができるものである。
【0054】
脱気泡部4としては、具体的には、図3のような構成にすることができる。(a)は、気液混合部3と連続して地表面に略水平(重力方向に対して略垂直な平面上)になるように形成し、液体Lq中の気泡Bをその浮力によって液面まで上昇させて気泡Bを取り除くようにした管体の例を示している。また、(b)は、気液混合部3と連続すると共に気液混合部3と合わせた形状が正面視逆L字型になるように形成し、液体Lqの流れ方向を下方向(重力方向と略同方向)にして液体Lq中の気泡Bをその浮力によって液面まで上昇させて気泡Bを取り除くようにした管体の例を示している。また、(c)は、気液混合部3とは別体にし、液体Lqの流れ方向を下方向(重力方向と略同方向)にして液体Lq中の気泡Bをその浮力によって液面まで上昇させて気泡Bを取り除くようにした管体の例を示している。
【0055】
気体返入部15は、気体除去部8からの気体を気体供給部2に返して再び入れるためのものであり、気体を送る管体などで形成されるものである。図示の形態では、気体返入部15はオゾン発生部14と流路6との間の気体経路において気体供給部2に接続してあるが、オゾン発生部14よりも気体経路の上流側に接続するようにしてもよい。このように気体返入部15を設けることにより、気泡にならなかったオゾンを捨てることなく有効利用することができ、しかも有害なオゾンが外部に漏れて環境が汚染されることを防ぐことができるものである。なお、その際、オゾン発生部14は、気体返入部15からのオゾン量に基づいて、気体供給部2から液体に注入されるオゾン量が所望の量となるように制御してオゾンを発生させることができる。
【0056】
減圧部5は気体が混合された液体の圧力を、大きな気泡を発生させることなく徐々に大気圧まで減圧させるものである。上記のようにして加圧により気体と混合された液体は、高圧な状態にありそのまま大気圧下にある外部に排出されると、急激な圧力低下によって、気液混合液中の気泡が合体して気体になって液体から排出されるおそれがあり、またキャビテーションが発生することがある。そこで、減圧部5を設け、加圧された状態の気液混合液を送り出す際に、減圧部5で大気圧まで徐々に減圧をした後に吐出するようにしているものである。減圧部5は、気体が混合された液体を送りながら配管全域での減圧速度ΔP/t(ΔP:減圧量、t:時間)の上限を2000MPa/sec以下にして減圧するように構成されている。それにより、強固な気泡界面の構造を維持させたまま、ナノサイズの気泡を消滅させたり合体させたりすることなく気液混合液を取り出すことができるものである。
【0057】
減圧部5としては、図4のような構成にすることができ、具体的には、(a)のように流路断面積が段階的に徐々に小さくなる流路6や、(b)のように流路断面積が連続的に徐々に小さくなる流路6や、(c)のように加圧された液体が流路6内を流れる圧力損失により高圧状態(P)の気液混合液の圧力を徐々に低下させて(P、P、・・・)大気圧(P)まで減圧するように流路長さ(L)が調整された流路6や、(d)のように流路6に設けられた複数の圧力調整弁9などにより構成することができる。
【0058】
例えば図4(a)又は(b)のような減圧部5を用いた場合、減圧部5よりも上流側の流路6を内径20mmにし、減圧部5を、流路長さが約1cm〜10mで、内径が20mmから4mmにまで徐々に小さくなることにより流路断面積が小さくなる管体により構成することができる。なお、減圧部5は、入口内径/出口内径=2〜10程度に設定したり、1cmあたりの内径減少値を1〜20mm程度に設定したりすることができる。このとき、減圧部5に気液混合液を流速4×10−6m/s以上で送ると、減圧速度2000MPa/sec以下で、ナノサイズの気泡を消滅させることなく1.0MPa減圧することができ、気液混合液を大気圧にまで減圧することができるものである。
【0059】
減圧された液体はオゾン溶解部31に送り出される。なお、その際、図5のように、オゾン溶解部31と減圧部5とを繋ぐ流路6に加えて、加圧部1における液体の押し込み圧を十分に確保するために延長流路10を設けることもできる。すなわち、減圧部5を含めた全体の圧力損失を算出し、加圧部1からの押し込み圧によって気液混合部3内で液体と気体を加圧するのに必要な圧力と、全体の圧力損失との差を算出し、さらにこの差の圧力損失が生じるように流路長さを調整した延長流路10を流路6に付加するようにしてもよい。押し込み圧の確保には絞り部などを設けることも考えられるが、絞り部などで押し込み圧を調整すると急激な圧力変化により気泡が崩壊するおそれがある。しかし、このように延長流路10を設ければ気泡を安定化させたまま気液混合液を吐出することができるものである。
【0060】
上記のように構成された気液混合液生成部30にあっては、加圧部1で液体を圧送し、気体供給部2により圧送された液体に気体を供給して注入する。そして、気体が注入された液体を、加圧部1及び気液混合部3によって0.17MPa/sec以上の加圧速度ΔP/t(ΔP:圧力増加量、t:時間)で加圧し、液体の圧力を0.15MPa以上にする。すなわち、気液混合部3から脱気泡部4へ送り出される際の液体の圧力は0.15MPa以上になっている。その後、脱気泡部4で気液混合液中のナノサイズを越える気泡を取り除いた後、該液体を減圧部5及び下流側の流路6に送りながら最高減圧速度2000MPa/sec以下の減圧速度ΔP/t(ΔP:減圧量、t:時間)で徐々に大気圧まで減圧する。それにより、ナノサイズの気泡が安定に存在した気液混合液を生成することができるものである。
【0061】
なお、気液混合部3よりも下流側の流路6は内径2〜50mm程度の管体などに形成することができる。それにより、比較的太い流路断面積で気液混合液を吐出することができ、細路により流路6を構成する場合のような配管の詰まりを防止して、気液混合液を利用しやすくすることができる。
【0062】
オゾン溶解部31は、気液混合液生成部30によって生成された気液混合液に衝撃を与え、気液混合液中の気泡を崩壊させてオゾンを液体に溶解し、高濃度のオゾン溶解液を生成するものである。液体中に気泡となったオゾンをそのまま殺菌対象物40に供与しても気体のオゾンが放出されてしまってオゾンが殺菌対象物40に接触しない可能性がある。しかし、このオゾン溶解部31により、液体中に気泡となって保持されたオゾンが液体に多量に溶解し、この液体に溶解されたオゾンが大量のラジカルを生成してラジカルの作用で殺菌するので、大量のラジカルを菌に与えることができ強力な殺菌効果を得ることができるものである。
【0063】
図1の形態では、オゾン溶解部31は気液混合液生成部30から気液混合液が送り出される流路6に設けてある。このオゾン溶解部31としては、加温、超音波、マイクロ波、撹拌などの手段を用いて気液混合液に衝撃を与えてオゾンを溶解させることができ、例えば加温手段を用いる場合は、図示のように流路6を形成する管の外周にヒーターなどの加温手段34を取り付けるなどして形成することができる。このように、加温、超音波、マイクロ波、撹拌のいずれか1つ以上の手段を用いて気液混合液の気泡を崩壊させることによって、気体として存在している大量のオゾンをこれらの手段で瞬時に多量に液体に溶解させることができ、簡単に効率よくオゾンを溶解させることができるものである。
【0064】
オゾン溶解液供与部32は、オゾン溶解部31で発生したオゾン溶解液を殺菌対象物40に供与するものであり、図示の形態では、流路6の先端に設けられ、殺菌対象物40に向かって吐出する吐出部7として構成されている。
【0065】
このオゾン殺菌装置にあっては、気液混合液生成部30によってオゾンを含有する気体がナノサイズの気泡となって液体に混合された気液混合液を生成し、この気液混合液の気泡をオゾン溶解部31にて崩壊させてオゾンを液体に溶解し、発生したオゾン溶解液をオゾン溶解液供与部32である吐出部7から殺菌対象物40に向けて噴射するなどして供与して、対象物の殺菌をするものである。
【0066】
図1の装置では、家庭用水廻り設備(トイレ、洗面台、流し台、バス)のオゾンによる殺菌や、殺菌によるぬめり除去の掃除を行うことができ、作業の軽減、設備の除菌や脱臭の効果が得られるものである。
【0067】
殺菌対象としては、例えば、クラドスポリウム(黒カビ)、メチトバクテリア(ぬめり菌)、大腸菌など、家庭の水廻り設備で一般的に繁殖する菌を挙げることできる。図1の装置によれば、大量のオゾンの気泡を作り、加温、超音波、マイクロ波または撹拌によりオゾンの気泡を崩壊させて溶解させることで瞬時にラジカルを発生させ、このラジカルを菌に接触させることにより、このような菌を効果的に殺菌ができるものである。また、ナノサイズの気泡であるため外部にオゾンが漏れることがなく人体に安全なものとすることができる。また、ラジカル発生量は加熱する温度や振動の度合いで制御することができるので、殺菌効率を向上させることができる。
【0068】
また、図1の装置は、配管洗浄と配管の消臭に用いることができる。オゾン溶解液供与部32から吐出されるオゾン溶解液を配管に流し雑菌の餌となる有機物の分解と雑菌の殺菌を行い、また悪臭を防止することができるものである。
【0069】
図6は、本発明のオゾン殺菌装置の実施の形態の他の一例を示す概略図である。図6の装置は、図1の装置と同様の気液混合液生成部30を備えており、気液混合液生成部30で生成したオゾンのナノサイズの気泡を含む気液混合液は、殺菌容器33に所望量バッチ式で送られる。こうして殺菌容器33にはオゾンの気液混合液が貯留される。殺菌容器33にはヒーターなどの加温手段34が設けられており、加温手段34をオンにすると常温常圧で貯留された気液混合液の温度を上昇させる。
【0070】
図6の装置にあっては、殺菌対象物40を殺菌容器33内に挿入し、加温手段34をオンにすると殺菌容器33内の気液混合液の温度が上昇し気泡が崩壊してオゾンが溶解するとともに、オゾンが溶解されて生成したオゾン溶解液が殺菌対象物40を殺菌する。すなわち、殺菌容器33はオゾン溶解部31とオゾン溶解液供与部32とを兼用している。図示では、殺菌対象物40として人の足Fが示されている。この装置では、生成した気液混合液を生成した温度よりも高い温度になるように加温することによりオゾンを溶解させることができ、オゾンが溶解するタイミングを制御して、高濃度のオゾン水を殺菌対象物40に与えて効果的に殺菌することができる。また、気液混合液をバッチ式で生成し、長期に保存した後においても、気液混合液中に保持されたオゾンをオゾン溶解部31で溶解させて殺菌に利用することができ、効率的に殺菌することができる。
【0071】
図6の装置では、水虫に罹患した足の殺菌や、足の水虫予防をすることができる。すなわち、足などの人体の一部を殺菌容器33に漬けた後、オゾン溶解部31の加温手段34をオンすると、オゾンからラジカルが生じて足の殺菌と垢の分解により水虫の殺菌・予防が可能となる。
【0072】
また、図6の装置では、生鮮食料品の殺菌と鮮度維持をすることができる。野菜や肉、魚をオゾン水に浸したり、オゾン水をかけたりすることで切り口の雑菌を死滅させ細胞の劣化を防止し、鮮度を長期間維持することが可能である。
【0073】
図7は、本発明のオゾン殺菌装置の実施の形態の他の一例を示す概略図である。図7の装置は、図1の装置と同様の気液混合液生成部30を備えるとともに、液体供給源12と配管連結部13との間に分岐流路16が接続してあり、液体供給源12の液体の一部が気液混合液生成部30から気液混合液を送り出す流路6に送られるようにしてある。オゾン溶解部31は、分岐流路16が気液混合液を送り出す流路6に接続されることにより形成されている。オゾン溶解液供与部32は図1の装置と同様に吐出部7として形成され、この吐出部7から殺菌対象物40にオゾン溶解液を吐出する。
【0074】
この装置にあっては、オゾンを含有する気液混合液と、気体が飽和濃度未満となって分岐流路16から送られた液体とが気液混合液を送り出す流路6(オゾン溶解部31)で混合することにより、気液混合液に衝撃が加えられて気泡が崩壊してオゾンが液体に溶解するものである。そして、オゾンが溶解して生成したオゾン溶解液は殺菌対象物40に接触して、ラジカルを発生し殺菌をすることができるものである。
【0075】
図8は、本発明のオゾン殺菌装置の実施の形態の他の一例を示す概略図である。図8の装置は、オゾンを含有する気体がナノサイズの気泡となって液体に混合された気液混合液を冷却状態で生成する気液混合液生成部30と、冷却状態の気液混合液を殺菌対象物40に吐出する吐出部7とを備えるものである。
【0076】
気液混合液生成部30は、図1の装置のものに加えて、液体冷却部17が配管連結部13と気体供給部2との間の液体流路に設けられている。また、この装置では、図1の装置と異なり、オゾン溶解部31とオゾン溶解液供与部32とを備えていない。液体冷却部17は、例えば、流路6に冷却熱交換器を巻き付けて取り付けるなどして形成してある。液体供給源12から送られた液体は液体冷却部17で冷却され、冷却された状態のまま気液混合液が生成される。すなわち、気液混合液は常温よりも温度が低い状態で生成される。そして、この冷却状態の気液混合液を吐出部7から殺菌対象物40に噴射・吐出するなどして供与する。吐出された気液混合液は外気温や殺菌対象物40の温度により温度が上昇して液中の気泡が崩壊してオゾンが溶解し、オゾン溶解液が生成する。このオゾン溶解液が殺菌対象物40に供与されてラジカルを発生して殺菌を行うものである。
【0077】
この装置にあっては、冷却状態の気液混合液が殺菌対象物40に向けて吐出されて、殺菌対象物40の直近でオゾン溶解液が発生して、殺菌を行うことができるので、殺菌効率を向上することができるものである。また、冷却状態の気液混合液を冷却したまま保存しておき、この保存された気液混合液を殺菌対象物40に与えて、オゾン殺菌をすることもできる。その場合、オゾン殺菌装置を移動させることなく、気液混合液を殺菌を行いたい場所に移動させて殺菌することができ、簡単にオゾン殺菌することができる。
【0078】
図8の装置では、水虫に罹患した足の殺菌や、足の水虫予防をすることができる。すなわち、吐出部7から吐出された気液混合液を足などの人体の一部にかけると、体温により気液混合液の温度が上昇しオゾンが溶解して足の殺菌と垢の分解により水虫の殺菌・予防が可能となる。
【0079】
また、図8の装置は、口腔洗浄に利用することができる。冷却状態の気液混合液でうがいをすることにより、口腔内でオゾン溶解液が生成して、歯周病菌、風邪、インフルエンザ等の菌やウイルスを殺菌することが可能であり、日常のうがい水に使用することで、口内炎、歯肉炎、虫歯などの予防をすることができるものである。
【0080】
また、図8の装置は、生鮮食料品の鮮度維持に効果的に用いることができる。すなわち、生鮮食料品の保存温度よりも低い温度で気液混合液を生成し、この気液混合液を生鮮食料品にかけておくことで、温度が上がるにつれて徐々にラジカルが発生し、このラジカルで長期間の殺菌ができ、鮮度を維持することができるものである。
【0081】
また、図8の装置は、配管洗浄と配管の消臭に用いることができる。冷却状態の気液混合液を配管に流すと、外気温によって気液混合液の温度が徐々に上昇してオゾン溶解液が生成され、このオゾン殺菌液が持続してラジカルを生成して殺菌をするので、殺菌力の長期効果を維持することができるものである。
【0082】
図9は、オゾンを含有する気液混合液が安定化されるメカニズムを説明する概念説明図である。図示のように、オゾン(O)を含む気泡Bと液体Lqの界面には水素結合距離が通常よりも短い氷やハイドレートのような強固な水分子の結合で境膜構造(結晶構造体)の保護膜Mが形成されており、気液相互の物質移動が阻止されて気泡が安定な状態になったものと考えられる。そして、気液混合液内の気泡(ナノバブル)の内圧は、ヤングラプラスの式から求められる圧力以上となっている。このように気泡界面の水素結合距離が短く、気泡の内圧が高くなることによって、気泡が安定した気液混合液となるものである。
【0083】
図10は、オゾンを含有する気液混合液により殺菌をするメカニズムを説明する概念説明図である。オゾン(O)を含むナノサイズの気泡Bは、気液混合液中では(a)のように安定に存在しているが、(b)のように加温、超音波、マイクロ波、撹拌等により衝撃が与えられると気泡が崩壊する。その際、気泡の中に存在していた多量のオゾンは瞬時に液体に溶解し、オゾン溶解液が生成する。そして、(c)のように、このオゾン溶解液からヒドロキシラジカル(・OH)等のラジカルが発生して菌体41に接触し、菌を殺菌することができる。このように本発明によれば、多量のオゾンを気液混合液に蓄えることが可能で、この多量のオゾンを瞬時に溶解させてラジカルを発生して殺菌効果を発揮することができるものである。
【0084】
[気液混合液の生成]
図1のオゾン殺菌装置の気液混合液生成部30を用いて、液体として純水を用いてオゾンを気泡に含有する気液混合液を生成した。
【0085】
気液混合液生成部30としては、加圧部1と気液混合部3とがポンプ11で兼用されて構成された、図1の構成のものを用いた。ポンプ11としては回転体21により加圧する図2のようなポンプ11aを用いた。
【0086】
気体と液体の比(液体に対する気体の注入量)は、容量比(体積比)で1:1に設定した。また、ポンプ11の回転体21の回転数は1700rpmに設定した。この条件により大気圧(0.1MPa)の水に気体が注入された後、加圧速度ΔP/t=28.3MPa/secで加圧されて、気液混合部3から脱気泡部4に送り出される際の気液混合液の圧力が0.6MPaになった。なお、このような条件により、飽和溶解濃度を超えて気体が液体に注入されて水素結合距離が短くなり強固な気泡界面の構造が形成されるものと考えられる。この条件(加圧条件)は現時点における最良の条件であると考えられる。
【0087】
また、減圧部5よりも上流側の流路6を内径20mmのものにした。減圧部5としては図4(a)のような、3段階で内径が徐々に小さくなるものを用い、具体的には、内径が14mm、8mm、4mmで長さが各約3.3mm(減圧部5の全長として約1cm)の三つの流路管部からなるものを用いた。また、減圧部5よりも下流側の流路6及び延長流路10として、内径4mm(外径6mm)のホースを用い、下流側の流路6と延長流路10とを合わせた長さが2mとなるように設定した。この条件により、減圧部5において、最高減圧速度60MPa/sec、時間0.0025秒で気液混合液を減圧し、さらに、下流側の流路6及び延長流路10において、1MPa/sec、時間0.5秒で気液混合液を減圧し、ホース先端部から、大気圧(0.1MPa)まで減圧された気液混合液が得られた。なお、このような条件により、飽和溶解濃度を超えて気体が液体に注入されると共に水素結合距離が短くなり気泡界面の構造が強固になった気液混合液を安定して生成することができるものと考えられる。この条件(減圧条件)は現時点における最良の条件であると考えられる。
【0088】
[気液混合液の物性]
次に、気液混合液の物性について説明する。
【0089】
[水素結合の距離]
図11は、気体として窒素を用い、液体として純水を用いた気液混合液と、窒素が純水に飽和溶解濃度で溶解した窒素飽和水との赤外吸収スペクトルとの差分を示すグラフである。水のOH収縮振動による赤外吸収帯としては通常3400cm−1付近に吸収極大があることが知られているが、グラフに示されるように気液混合液はOH収縮振動の吸収極大が3200cm−1付近にずれている。吸収極大が3400cm−1にある場合、水素結合の距離は0.285nmである。一方、吸収極大が3200cm−1にある場合、水素結合の距離は0.277nmであることが知られており、常温常圧下における通常の水素結合の距離よりも短くなり構造化された氷またはハイドレートに近い水と結論づけられた。そこで窒素の代わりにオゾンを混合させれば、気泡中にオゾンが含まれた殺菌機能を有する気液混合液が生成できる。
【0090】
[気体量]
液体として純水を、気体として各種の気体を用い、気液混合液中に気泡として存在する気体量を次の方法により測定した。
(1)25℃、導電率0.1μS/cmの純水に、各種の気体を混合させ気液混合液を得た。
(2)直径1μm以上の大きな気泡を水から分離するために、気液混合液を25℃で1日静置した。なお、静置時間について、ストークスの法則から
気泡上昇速度: V=d×g/(18×γ)
(d:気泡直径、g:重力加速度、γ:動粘性係数)
の式が成立し、この式より1μmの気泡の上昇速度は約2.4×10−4m/sであるので、例えば静置時の容器の水深が50mmの場合、1日静置すれば気泡を除去することができる。
(3)最小測定値1mgの分析天秤で気液混合液の質量を測定した。
(4)ガス透過度及び透湿度の低いPE+ナイロン樹脂製のビニル袋に気液混合液とスタラーの撹拌子を入れ、空気を追い出して袋に空気が無い状態でシーラーにてビニル袋を密封した。
(5)密封直後に、分析天秤で気液混合液が封入されたビニル袋の質量を測定した。
(6)ホットスタラーにより25℃の気液混合液が密封されたビニル袋を45℃に昇温して気液混合液を約5時間撹拌した。この昇温と撹拌により、微細気泡や、45℃の飽和溶解濃度以上で溶解していた気体が気液混合液から分離されビニル袋の上部に集まった。
(7)室温25℃の条件でホットスタラーの設定温度を25℃にし、25℃の飽和溶解度の液体になるよう数時間撹拌を行った。
(8)分析天秤で、気体と液体が封入されたビニル袋の質量を測定した。
(9)計3回の質量測定から気液混合液の質量と、昇温および撹拌によって気液混合液から分離された気体による浮力によって生じる液体の質量変化量とを得た。質量変化量は、気液混合液から分離された気体容積と同容積の空気の質量と同じであり、この値から分離された気体の容量と質量を算出することができる。
【0091】
図12は、このようにして測定された気体容量を示すグラフである。各棒グラフの下部領域は、測定された気泡として存在していた気体の量であり、上部領域はヘンリー則に従う気体の飽和溶解量である。グラフに示すように、例えば水素と水を用いた気液混合液の場合、25℃の純水1Lに水素が、飽和溶解量として17.6mL溶解し、528mLの気体が微細な気泡として存在することが確認された。すなわち、気液混合液に含有する気体量は過飽和溶解量の30倍であった。また同様に、過飽和溶解量に対して気液混合液に含有する気体量は、窒素では36倍、メタンでは17倍、アルゴンでは16倍、二酸化炭素では1.9倍であった。また、各種の気体の変わりにオゾンを用いれば過飽和溶解量以上のオゾンを水に存在させることができる。このように、気液混合液は飽和溶解濃度以上の高濃度で気体を液体中に保持することが可能であり、この高濃度のオゾンを殺菌に利用することができるものである。
【0092】
[気泡のサイズ]
上記と同様にして製造した気液混合液を瞬間凍結し、真空中においてカッターで割断し、その割断面にメタン・エチレンを流し放電させ、凹凸を転写した炭化水素膜(レプリカ膜)を作製した。このレプリカ膜に導電性オスミウム薄膜を張り、十分乾燥させて、走査型電子顕微鏡(SEM)で観測した。図13は、窒素と純水の気液混合液について、SEMにより観測された写真の一例である。同様に写真観察することにより、気体として窒素、水素、メタン、アルゴン、二酸化炭素を用いた場合、いずれも気液混合液の気泡サイズは、直径の分布ピークが100nmであることが確認された。なお、上記の気体と純水の気液混合液の気泡はレーザーを用いた動的散乱法等の粒子径分布測定装置では正確な検知ができなかった。オゾンを上記の気体に混合させた場合も同様の気泡サイズになると推測できる。
【0093】
[気泡の内圧]
気液混合液中の気体総量から気泡内部の圧力を算出した。表1は、窒素、メタン、又はアルゴンと25℃の純水との気液混合液における、気体総量と、気体総量から算出した気泡の内圧を示している。
【0094】
気泡における気体の内部圧力は次の方法で算出される。
気体の状態方程式は、
PV/T=(const)
(P:内部圧力、V:容積、T:内部温度)
で表され、Tが一定の場合、特に
PV=(const)
で表される。
【0095】
そして、気液混合液の密度から気液混合液中の気泡の容積が計算でき、上式から、
大気圧 × 気体総体積量 = 気泡の内圧 × 液中の気体総体積量
の関係が成立し、この関係式に上記で測定した気体量を当てはめて気泡における気体の内圧が計算され、表1のような圧力値となる。
【0096】
例えば気体が窒素の場合、
気液混合液1リットル中における、水体積がw1リットル、水中での気体体積がw2リットルであると仮定すると、
体積については次の関係式が成り立つ。
【0097】
w1 + w2 =1リットル (式A)

また、質量については次の関係式が成り立つ。
【0098】
w1 × 水の密度 + w2÷22.4(リットル)×28(窒素分子量)=測定質量 (式B)
水の密度 :常温常圧の純水では997.1g/L
22.4リットル :気体1モルの体積
測定質量 :表1の値で988.3

上記の2式(式A,B)の方程式を解くと、
w2=8.84×10^(-3) が算出されるので、
気体の内圧=大気圧 × 気体総体積量 ÷ 液中の気体総体積量
=0.1×(表1の値)÷w2
=0.1×0.56÷(8.84×10^(-3))
=6.3MPa
となる。
【0099】
なお、上記の計算では、気泡の内部温度が一定(常温)であるとして考えたが、実際の気泡の内部温度は大気の温度(常温)よりも高いことも予想され、その場合、気泡の内部圧は上記算出結果より更に高いことが気体の状態方程式から予測できる。
【0100】
ところで、一般には、気泡の内圧は次のようにして算出される。気泡は気液相界面間の界面張力により加圧され、この界面張力はヤングラプラスの式(下記式)で導かれる。
【0101】
ΔP=2σ/r
(ΔP:上昇圧力、σ:表面張力、r:気泡半径)
この式によれば、例えば、直径100nmのサイズの気泡の場合、気泡内部圧力は3MPaになる。
【0102】
一方、気液混合液中の内部圧力は、表1の通り、例えば窒素の場合6.3MPaであり、この気液混合液はSEM写真にて示されるように直径100nmサイズの気泡が分散しているものであることから、気液混合液の気泡は、ヤングラプラスの式から算出される値の約2倍以上の内部圧力を有していることが確認された。したがって、より強固な界面構造が気泡界面において形成されていると結論づけられた。この強固な界面構造の気泡の中にオゾンを混合させれば殺菌性能を発揮する気液混合液になるものである。
【0103】
【表1】

【0104】
[気泡の分布量]
気泡の分布量(個数)は表1から算出した。
【0105】
気体が窒素の場合、大気中(0.1MPa)に戻した気泡総量が0.56Lであり、気泡の内圧が6.3MPaであるので、水中での気泡総体積量V1は、等温変化と仮定し、PV=constより
V1=0.56×0.1÷6.3
となる。
【0106】
また、気泡は半径r=50nmの球体であるから、気泡1個当たりの体積V2は
V2=4/3×π×r^3
となる。
【0107】
以上より、水1L当たりの気泡の個数n=V1÷V2=1.7×10^16個と算出される。
【0108】
同じように水1L当たりの気泡の個数は、気体の主成分がメタンの場合は1.8×10^16個、アルゴンの場合は1.7×10^16個と算出される。また、オゾンを窒素に混合させた場合もほぼ同様な個数であると考えられる。
【0109】
[気液混合液の安定性]
図14は、空気と水とを混合して生成した気液混合液について、ガラスビンに密封し一定温度で保管した場合の、飽和溶解濃度に対する気液混合液中の気体存在量比を過飽和度として表示するグラフである。グラフから、過飽和度は400時間経過してもほぼ一定であり、ほとんど変化していないことが分かる。よって、気液混合液が安定であることが確認された。また、オゾンを含有する気液混合液も同じように安定であると考えられる。
【0110】
[オゾン殺菌]
上記のようにして生成された気液混合液は、図1〜図8に示されるオゾン殺菌装置に利用され、殺菌対象物40に供与されて殺菌することができるものである。
【符号の説明】
【0111】
1 加圧部
2 気体供給部
3 気液混合部
4 脱気泡部
5 減圧部
6 流路
7 吐出部
8 気体除去部
11 ポンプ
13 配管連結部
14 オゾン発生部
15 気体返入部
16 分岐流路
17 液体冷却部
21 回転体
30 気液混合液生成部
31 オゾン溶解部
32 オゾン溶解液供与部
40 殺菌対象物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オゾンを含有する気体がナノサイズの気泡となって液体に混合された気液混合液を生成する気液混合液生成部と、気液混合液生成部によって生成された気液混合液の気泡を崩壊させてオゾンを液体に溶解するオゾン溶解部と、オゾン溶解部で発生したオゾン溶解液を殺菌対象物に供与するオゾン溶解液供与部とを備えることを特徴とするオゾン殺菌装置。
【請求項2】
オゾン溶解部が、少なくとも加温、超音波、マイクロ波、撹拌のいずれか1つ以上の手段を用いて気液混合液の気泡を崩壊させてオゾンを液体に溶解するものであることを特徴とする請求項1に記載のオゾン殺菌装置。
【請求項3】
オゾンを含有する気体がナノサイズの気泡となって液体に混合された気液混合液を冷却状態で生成する気液混合液生成部と、冷却状態の気液混合液を殺菌対象物に吐出する吐出部とを備えることを特徴とするオゾン殺菌装置。
【請求項4】
オゾンを含有する気体がナノサイズの気泡となって液体に混合された気液混合液を生成し、気液混合液の気泡を崩壊させてオゾンを液体に溶解し、発生したオゾン溶解液を殺菌対象物に供与することを特徴とするオゾン殺菌方法。
【請求項5】
少なくとも加温、超音波、マイクロ波、撹拌のいずれか1つ以上の手段を用いて、気泡を崩壊させてオゾンを液体に溶解することを特徴とする請求項4に記載のオゾン殺菌方法。
【請求項6】
液体が水を含むことを特徴とする請求項4又は5に記載のオゾン殺菌方法。
【請求項7】
気液混合液が、水素結合を形成する分子からなる液体中に気泡が存在するものであって、液体の気泡との界面に存在する分子の水素結合の距離が、該液体が常温常圧であるときの水素結合の距離よりも短いことを特徴とする請求項4〜6のいずれか1項に記載のオゾン殺菌方法。
【請求項8】
液体が、O−H結合、N−H結合、(ハロゲン)−H結合、S−H結合のいずれか一種以上を有する分子からなる液体であることを特徴とする請求項7に記載のオゾン殺菌方法。
【請求項9】
気液混合液の気泡を形成している気体の圧力が、ヤングラプラスの式(次式)で与えられる気泡の内圧より高い圧力であることを特徴とする請求項4〜8のいずれか1項に記載のオゾン殺菌方法。
ヤングラプラスの式
ΔP=2σ/r
[ΔP:気泡内部の上昇圧力、 σ:表面張力、 r:気泡半径]
【請求項10】
気液混合液に含有されている気体の濃度が、液体の飽和溶解濃度以上であることを特徴とする請求項4〜9のいずれか1項に記載のオゾン殺菌方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図14】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−4990(P2011−4990A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−151644(P2009−151644)
【出願日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】