オゾン水生成方法及びオゾン水生成装置
【課題】 導電性ダイヤモンドを電極材料として使用することにより、効率的にかつ安定して中高温のオゾン水を生成することのできるオゾン水生成方法及びオゾン水生成装置を提供すること。
【解決手段】 固体高分子膜7を挟んで陽極3と陰極5とを配設してなる電解セル1には、陽極3が設けられた陽極室13へ、温度制御ユニット30から中高温の純水または水道水が供給される。陽極3と陰極5との間に直流電流を通電すると、陽極室13の取出口13bから中高温のオゾン水が排出される。このようなオゾン水生成装置において、陽極3として多孔質または網状の構造を有する導電性ダイヤモンドを使用すると、高温領域においてもオゾンの生成能力の低下が小さく、効率的にかつ安定して中高温のオゾン水を生成することができる。
【解決手段】 固体高分子膜7を挟んで陽極3と陰極5とを配設してなる電解セル1には、陽極3が設けられた陽極室13へ、温度制御ユニット30から中高温の純水または水道水が供給される。陽極3と陰極5との間に直流電流を通電すると、陽極室13の取出口13bから中高温のオゾン水が排出される。このようなオゾン水生成装置において、陽極3として多孔質または網状の構造を有する導電性ダイヤモンドを使用すると、高温領域においてもオゾンの生成能力の低下が小さく、効率的にかつ安定して中高温のオゾン水を生成することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オゾン水生成方法及びオゾン水生成装置に関し、詳しくは、固体高分子膜を挟んで陰極と陽極とを配設し、水を電気分解してオゾン水を生成するオゾン水生成方法及びオゾン水生成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
オゾンは非常に強い酸化力を有しており、殺菌、消毒、脱色、脱臭、酸化分解、酸化処理等といった様々な分野で利用されている。オゾン自身が容易に自然分解して酸素となるため、二次汚染の心配のない処理方法といえる。オゾンを溶解したオゾン水は、オゾンガスに比べて安全で利用し易い。水分と共存した、或いは水に溶解したオゾンの酸化力は一層向上し、一般に殺菌・洗浄等に用いられている(例えば、非特許文献1参照)。これらの目的のために、オゾン水のより簡便かつ高効率な生成手法の開発が求められている。
【0003】
気体状のオゾンを生成するための手法としては、紫外線ランプ法、無声放電法及び電気分解(電解)法が知られている(例えば、非特許文献2参照)。紫外線ランプ法は発生するオゾンの量が少なく、室内・車内の消臭等、少量の悪臭源を除くために用いられることが多い。無声放電法はオゾンガスを生成するための一般的な手法であるが、例えば原料として空気を用いた場合には同時に窒素酸化物も発生してしまう。これを防ぐためには、原料として酸素ガスを用いるか、空気中の酸素のみを濃縮するような付属装置を備える必要がある。また、金属電極の消耗による金属不純物の混入も問題となる。更に、水の電気分解によってもオゾンガスは得られる。この電解法によれば、水分を多少含むものの高純度かつ高濃度のオゾンガスを簡単に得ることができる。
【0004】
一方、オゾン水を得るための手段としては、上記手段により得られたオゾンガスを水中に溶解させるか、電解法により直接生成する手段が知られている。無声放電法或いは電解法で発生させたオゾンガスを気液溶解塔に通じて水に溶解させることでオゾン水を得ることができるが、これは装置の大型化・複雑化の原因となる。これに対し、固体高分子膜を多孔質状あるいは網状の陽極と陰極で挟むことで電解セルを構成し、これを用いて水道水や純水を電気分解する電解法によればオゾン水を直接生成することができ、装置の小型化も容易となる。
【0005】
電解法によりオゾン水を生成する際のオゾン生成用電極の材料としては、触媒としての機能が優れている点から白金,金,白金被覆チタン,酸化鉛等が一般的に用いられている。これらの材料を多孔質状或いは網目状に成型して陽極3として用い、適当な陰極5と共に固体高分子膜7を挟むことで、例えば図12に示すような電解セル1が構成される。この電解セル1の陽極室13側に純水或いは水道水を供給しながら電解を行うことでオゾン水が得られる。更に、このように電解法でオゾン水を生成する場合、原料水として例えば42℃の温水を使用することにより、シャワー等による全身殺菌等に利用可能な中高温のオゾン水を生成することも考えられている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
しかしながら、特許文献1のように白金等を電極として用いた場合、オゾン水生成のための電解に伴って電極が消耗・溶出していく問題が指摘されている。比較的耐久性に優れると考えられている白金電極、或いは上記記載の電極であっても、オゾンを生成するための大電流・大電圧の条件下で使用していくと、陽極を構成する金属がイオンとして溶出する現象が生じる。この溶出した金属イオンが固体高分子膜に付着して反応を阻害してしまうため、オゾンの生成効率が徐々に低下していく。本発明者らも白金網電極を用いてオゾン温水を生成する比較試験を行ったところ、特に、高温域でオゾン生成を連続的に行った場合、白金の消耗が激しいという結果が得られている。従って、当該装置を用いてもオゾン温水を長期的・連続的に安定して得ることは困難であると考えられる。
【0007】
電解に伴う消耗を少しでも抑制するため、10℃程度までの低温水を供給して電解を行い、生成した低温オゾン水を加熱して例えば25℃〜70℃の中高温オゾン水とすることも可能ではある。しかしながら、水温が高くなるに従って気体の溶解性が低下することは周知であり、低水温で溶解していたオゾンガスが中高温水中では過剰となってオゾンガスとして放出される危険がある。オゾン水を生成後に加熱する場合は、このような放出によって無駄になるオゾンを生成しているため、オゾン水の生成効率も悪い。従って、中高温のオゾン水を効率的に生成するためには、供給する水の温度を中高温領域に保持して電解セルに送り込むことが望ましい。
【0008】
一方、最近では白金等に代わる新たな電極材料として、導電性を付与したダイヤモンド薄膜が提案されている。この導電性ダイヤモンド薄膜の主な特性としては、機械的強度に優れる、化学的に安定である、分子が吸着し難い、溶媒の酸化分解及び還元分解が起こり難く広い電位窓を示す、反応に選択性があるなど、他の電極材料には見られない特異的なものが挙げられる。そこで、網目状或いは多孔質状の基板上に熱フィラメント化学気相成長(CVD)法やマイクロ波プラズマCVD法により導電性のダイヤモンド薄膜を形成し、これを陽極として固体高分子膜を挟む形状の電解セルを構築することでオゾン生成に用いることが考えられている(例えば、特許文献2参照)。
【非特許文献1】「新版オゾン利用の新技術」 サンユー書房、1993年2月
【非特許文献2】杉光 英俊 著「オゾンの基礎と応用」 光琳、1996年2月
【特許文献1】特開2004−60011号公報
【特許文献2】特開平9−268395号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところが、導電性ダイヤモンドを電極材料として使用した電解セルを中高温のオゾン水を生成するために使用することは、これまで検討されて来なかった。これに対して、本願出願人は、基礎的な検討を進めて行く中で、ダイヤモンド電極のオゾン発生能力は白金の2倍程度優れること、また高温領域においてもオゾンの生成能力の低下が小さいことを見出した。そこで、本発明は、導電性ダイヤモンドを電極材料として使用することにより、効率的にかつ安定して中高温のオゾン水を生成することのできるオゾン水生成方法及びオゾン水生成装置を提供することを目的としてなされた。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達するためになされた本発明のオゾン水生成方法は、固体高分子膜を挟んで陰極と陽極とを配設し、水を電気分解してオゾン水を生成するオゾン水生成方法であって、上記陽極として多孔質状または網状の構造を有する導電性ダイヤモンドを使用し、中高温の水を電気分解することにより中高温のオゾン水を生成することを特徴としている。
【0011】
このように構成された本発明では、固体高分子膜を挟んで陰極と陽極とを配設し、中高温の水を電気分解して中高温のオゾン水を生成している。このため、上記電気分解により、陽極側より中高温のオゾン水が生成され、その生成も簡便である。また、本発明では、陽極として多孔質状または網状の構造を有する導電性ダイヤモンドを使用しているので、水温が、例えば25℃〜70℃の中高温であっても、効率的にかつ安定して25℃〜70℃の中高温のオゾン水を生成することができる。
【0012】
なお、上記陽極としては、導電性ダイヤモンドであれば種々の形態のものが適用できるが、上記陽極として、自立体型の導電性ダイヤモンドを使用した場合、次のような更なる効果が生じる。すなわち、このような自立体型の導電性ダイヤモンドは、シリコン,チタン,ニオブ,グラファイト板等の基体上にダイヤモンドの薄層を形成したものとは異なり、高電圧・高電流を印加する電解処理等を行っても基板からの剥離等の心配がない。従って、上記のように多孔質状または網状の構造を有する自立体型の導電性ダイヤモンドを陽極として使用した場合、一層安定してかつ一層効率的に中高温のオゾン水を生成することができる。
【0013】
また、本発明のオゾン水生成装置は、固体高分子膜を挟んで陰極と陽極とを配設してなる電解セルを備え、該電解セルにより水を電気分解してオゾン水を生成するオゾン水生成装置であって、上記電解セルの少なくとも陽極側へ供給される水を中高温に加熱する加熱手段を、更に備え、上記陽極として多孔質状または網状の構造を有する導電性ダイヤモンドを使用したことを特徴としている。
【0014】
このように構成された本発明では、固体高分子膜を挟んで陰極と陽極とを配設してなる電解セルの少なくとも陽極側に、加熱手段によって例えば25℃〜70℃までの中高温に加熱された水が供給される。このため、上記電解セルによる電気分解によって、陽極側に中高温のオゾン水が生成され、その生成も簡便である。また、本発明では、陽極として多孔質状または網状の導電性ダイヤモンドを使用しているので、前述のように水温が中高温であっても効率的にかつ安定して中高温のオゾン水を生成することができる。
【0015】
なお、上記陽極としては、導電性ダイヤモンドであれば種々の形態のものが適用できるが、上記陽極として、自立体型の導電性ダイヤモンドを使用した場合、次のような更なる効果が生じる。すなわち、このような自立体型の導電性ダイヤモンドは、シリコン,チタン,ニオブ,グラファイト板等の基体上にダイヤモンドの薄層を形成したものとは異なり、高電圧・高電流を印加する電解処理等を行っても基板からの剥離等の心配がない。従って、上記のように多孔質状または網状の構造を有する自立体型の導電性ダイヤモンドを陽極として使用した場合、一層安定してかつ一層効率的に中高温のオゾン水を生成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
次に、本発明の実施の形態を、図面と共に説明する。図1は、本発明が適用されたオゾン水生成装置の構成を表す模式図である。図1に示すように、このオゾン水生成装置は電解セル1を備えており、この電解セル1は、後述の陽極3の構成以外は上記従来例の電解セル1と同様に構成されている。すなわち、図1に示すように、固体高分子膜7(例えば商品名「ナフィオン」:デュポン社製)を挟んで陽極3と陰極5とを配設し、その陽極3,陰極5は固体高分子膜7の互いに対向する面に密着して固定されている。陽極3の表面には陽極室13が、陰極5の表面には陰極室15が、それぞれ形成され、陽極室13,陰極室15は、それぞれ供給口13a,15aと取出口13b,15bとを有している。なお、図1,図12において、同様に構成された部分には同一の符号を付して、その構成の詳細な説明を省略する。
【0017】
ここで、陽極3は、図2に示すように、マイクロ波プラズマCVD法で厚さ0.8mmの15mm×50mmの矩形板状に形成された自立体型導電性ダイヤモンド板に、直径1mmの孔3aを中心間距離が2mm(すなわち、孔3aの外周同士の間隔は1mm)となるように穿設したものである。なお、孔3aの穿設はレーザ加工または放電加工によって行うことができる。また、陰極5としては、55メッシュの網状の白金電極を使用した。このように構成された電解セル1では、陽極3と陰極5との間に直流電流を通電しながら各供給口13a,15aから純水(水道水でもよい)を供給すると、陽極室13の取出口13bからオゾン水が排出される。
【0018】
更に、本実施の形態のオゾン水生成装置は、図1に示すように、供給口13aに電磁弁20を介して接続された加熱手段としての温度制御ユニット30を備えている。この温度制御ユニット30は、供給された純水または水道水を予め設定された所定の温度に加熱する周知のユニットである。このため、本実施の形態のオゾン水生成装置では、純水または水道水を所定の温度に加熱してから、陽極室13に供給してオゾン水を生成することができる。なお、本実施の形態のオゾン水生成装置には、この他必要に応じて、純水器,流量センサ,オゾン水濃度モニタ,オゾンガス警報機などを備えてもよい。
【0019】
次に、このオゾン水生成装置(以下、実施例ともいう)と、陽極3として白金メッシュ電極を用いた比較例とで、オゾン生成量を比較した。ここで、白金メッシュ電極の大きさは15mm×50mmとした。図3は、原料水として水道水を使用した場合のオゾン生成量の水温依存性を表すグラフであり、(A)は実施例を、(B)は比較例を、それぞれ表している。また、図4は、原料水として純水を使用した場合のオゾン生成量の水温依存性を表すグラフであり、(A)は実施例を、(B)は比較例を、それぞれ表している。なお、いずれのグラフも、毎分0.5Lの純水または水道水を供給口13aから供給しながら測定を行った結果である。また、オゾン生成量は、オゾン水濃度計(UV方式)によりオゾン水の濃度を測定することによって評価した。
【0020】
図3(A)に示すように、陽極3として導電性ダイヤモンドを使用した場合、25℃〜70℃の中高温領域でも良好にオゾンを生成できることが分かった。従って、本実施例では、効率的に中高温のオゾン水を生成することができる。これに対して、図3(B)に示すように、比較例では水温の上昇に伴うオゾン生成量の減少幅が大きく、特に、40℃以上のオゾン水は殆ど生成できないことが分かった。
【0021】
また、図4(A)に示すように、本実施例では原料水として純水を使用した場合にも、効率的に中高温のオゾン水を生成することができた。これに対して、図4(B)に示すように、原料水として純水を使用した場合、比較例では殆どオゾン水が生成できないことが分かった。従って、原料水として純水を使用する場合には、陽極3として導電性ダイヤモンドを使用する効果が一層顕著に表れる。なお、この原因には不明な点もあるが、水道水中に存在する含塩素イオンが純水には含まれないことと関連があるものと推定される。
【0022】
更に、陽極3として導電性ダイヤモンドを使用した場合、その電極の消耗も、白金等に比べて極めて少ないことが分かった。このように、本実施の形態では、長期間に亘って安定して、しかも効率的に中高温のオゾン水を生成することができる。そして、このように生成された中高温のオゾン水の用途としては、例えば、伝染病発生時やバイオテロ時のオゾンシャワーによる全身殺菌・浄化などがある。また、このようなオゾンシャワーは、アトピーや皮膚病、褥瘡等の治療にも効果があると期待される。また、純水を原料水とした中高温のオゾン水はこれまで実現されていなかったが、このようなオゾン水は半導体・電子産業で用いられる洗浄水としての新たな利用が期待される。
【0023】
なお、本発明は上記実施の形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の形態で実施することができる。例えば、陰極5も陽極3と同様に、多孔質状の構造を有する自立体型の導電性ダイヤモンドで構成してもよい。また、孔3aは他の形状であってもよく、スリット状に構成したり、陽極3が網状になるように大きな孔3aを穿設してもよい。
【0024】
また、上記実施の形態では、陽極3として自立体型の導電性ダイヤモンドを使用したが、熱フィラメント化学気相成長(CVD)法やマイクロ波プラズマCVD法によって基板上に導電性ダイヤモンドの薄膜を形成したものを陽極3として使用してもよく、合成手法はこれに限定されるものではない。この場合、基板としてはシリコンやチタン、ニオブ、モリブデン、カーボンが一般に用いられるが、基板材料はこれに限定されるものではない。更に、基板上に厚く導電性ダイヤモンド膜を堆積させ、その後基板を除去することで得られる導電性ダイヤモンド自立膜を、前述のように陽極3として使用することもできる。そして、この場合、基板として網目状または多孔質状のものを使用すれば、前述のように孔3aを穿設しなくても多孔質状の陽極3を得ることができる。
【0025】
但し、上記のような陽極3を用いてオゾンを生成する場合、以下の理由により、陽極3の厚さは0.2〜1.0mm(より望ましくは0.4〜0.8mm)であることが望ましい。すなわち、電解セル1の陽極3と陰極5との間に直流電流を通電すると、孔3a内壁面では水の酸化分解反応による酸素発生反応
2H2O →O2 +4H+ +4e- (1)
或いはオゾン発生反応
3H2O →O3 +6H+ +6e- (2)
が起きる。(1)及び(2)の反応過程で生成した水素イオンは、イオン透過性を有する固体高分子膜7を透過し、陰極5に達する。陰極5では透過してきた水素イオンが電子を受け取る還元反応
2H+ +2e- →H2 (3)
が起き、生成した水素は陰極室15内へと拡散していく。しかしながら、(1)及び(2)の反応は、図5に示すように、孔3a内の固体高分子膜7、孔3aの内壁面、陽極室13内の電解液(水)の三相が接する界面で最も効率的に起こる。これは、この部分で反応が起きた場合に水素イオンの移動距離が最短となるためである。また、厚い導電性ダイヤモンド板を製造するには、成膜のための時間やコストもかかり、必要以上に厚い導電性ダイヤモンド板を陽極3として採用するのは好ましくない。そこで、陽極3の厚さは1.0mm以下(より望ましくは0.8mm以下)とするのが望ましい。
【0026】
更に、上記(1)及び(2)の反応が起こると、上記三相界面でオゾンと酸素を含有する気泡Bが生成する。この気泡Bは図6の(A)→(B)→(C)に順次示すように電解に伴って成長していき、ある大きさ以上になると気泡Bが自身の浮力により孔3aから抜けていく。孔3a内に留まる気泡Bは電極反応を阻害するため、電解を更に進めるにはより大きな電圧を必要とする。従って、小さい電力で効率的にオゾンを生成しようとするならば、発生した気泡Bを効率よく取り除ける電極構造であることが望ましい。気泡Bの抜け易さは陽極3の厚さと密接に関連しており、この点からも、陽極3の厚さは1.0mm以下(より望ましくは0.8mm以下)とするのが望ましい。一方、上記陽極3があまり薄いと、充分な機械的強度が得られない。そこで、陽極3の厚さは、0.2mm以上(より望ましくは0.4mm以上)とするのが望ましい。
【0027】
また、気泡Bの抜け易さは孔3aの径とも密接に関連しており、上記径が0.5mm未満であると気泡Bが極めて抜け難くなる。一方、孔3aの径が例えば3.0mm以上とあまりにも大きいと、単位面積当りの上記三相界面が少なくなり、(1)及び(2)の反応が起きる場が相対的に少なくなってしまう。このため、孔3aの径(直径)は、0.5〜3.0mm(より望ましくは1.0〜2.0mm)とするのが望ましく、この場合、極めて効率的にオゾンを生成することが可能となる。
【0028】
更に、上記実施の形態のように孔3aを複数穿孔する場合、その孔3aと孔3aとの外周同士の間隔が0.2〜1.5mmであるのが望ましい。上記三相界面を増やすという観点からは、孔3aの数は多い方が望ましいが、孔3aと孔3aとの外周同士の間隔が例えば0.2mm未満とあまりにも狭いと、陽極3に充分な強度が得られない。このため、上記間隔は0.2〜1.5mm(より望ましくは0.4〜0.8mm)とするのが望ましく、この場合、陽極3の機械的強度を充分に確保しつつ効率的にオゾンを生成することが可能となる。
【0029】
また、気泡Bを抜け易くするためには、図7に示す陽極53のように、孔53aの内壁面にテーパ加工を施し、孔53aが固体高分子膜7から外側に向かって広がるように配置(いわゆるすり鉢型配置)するのも有効である。
【0030】
また、三相界面を増やすためには、図8(A)に一部を拡大して示す陽極63のように、孔63aの周囲を波状に構成したり、図8(B)に一部を拡大して示す陽極73のように、孔73aを星形に形成したりするのも有効である。
【0031】
更に、三相界面を増やすためには、図9(A)に示すように陽極3を固体高分子膜7よりも小さく構成し、陽極3の周囲を陽極室13の外周部13cから離すことでその陽極3の周囲に三相界面を形成するのも有効である。すなわち、通常は、図9(B)に示すように、外周部13cの内側に配設される固体高分子膜7と陽極3とが同じ大きさであったり、或いは陽極3の周囲がシーリング材でシーリングされ、実質的に図9(B)と同様の状態であったりするが、図9(A)のように陽極3の周囲に三相界面を形成することにより、オゾンの生成効率を良好に向上させることができる。
【0032】
また更に、三相界面を増やすためには、図10に示すように、柱状(ここでは四角柱状)の自立型導電性ダイヤモンドからなる陽極83を固体高分子膜7の表面に多数平行に配設してもよく、図11に示すように、断片状(ここでは立方体状)の自立型導電性ダイヤモンドからなる陽極93を固体高分子膜7の表面に多数配設してもよい。これらの場合も、三相界面を増やしてオゾンの生成効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明が適用されたオゾン水生成装置の構成を表す模式図である。
【図2】そのオゾン水生成装置の陽極の構成を表す模式図である。
【図3】原料水として水道水を使用した場合の上記オゾン水生成装置によるオゾン生成量の水温依存性を、比較例と対比して表すグラフである。
【図4】原料水として純水を使用した場合の上記オゾン水生成装置によるオゾン生成量の水温依存性を、比較例と対比して表すグラフである。
【図5】上記陽極における反応が三相界面近傍で起こることを表す説明図である。
【図6】上記陽極の孔における気泡の成長を表す説明図である。
【図7】上記陽極の孔にテーパ加工を施した例を表す模式図である。
【図8】上記陽極の孔の形状を変化させた変形例を表す模式図である。
【図9】上記陽極の周囲を陽極室の外周部から離した例を表す模式図である。
【図10】陽極として柱状のダイヤモンドを使用した変形例を表す模式図である。
【図11】陽極として断片状のダイヤモンドを使用した変形例を表す模式図である。
【図12】従来例の電解セルの構成を表す模式図である。
【符号の説明】
【0034】
1…電解セル 3…陽極 3a…孔
5…陰極 7…固体高分子膜 13…陽極室
15…陰極室 20…電磁弁 30…温度制御ユニット
【技術分野】
【0001】
本発明は、オゾン水生成方法及びオゾン水生成装置に関し、詳しくは、固体高分子膜を挟んで陰極と陽極とを配設し、水を電気分解してオゾン水を生成するオゾン水生成方法及びオゾン水生成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
オゾンは非常に強い酸化力を有しており、殺菌、消毒、脱色、脱臭、酸化分解、酸化処理等といった様々な分野で利用されている。オゾン自身が容易に自然分解して酸素となるため、二次汚染の心配のない処理方法といえる。オゾンを溶解したオゾン水は、オゾンガスに比べて安全で利用し易い。水分と共存した、或いは水に溶解したオゾンの酸化力は一層向上し、一般に殺菌・洗浄等に用いられている(例えば、非特許文献1参照)。これらの目的のために、オゾン水のより簡便かつ高効率な生成手法の開発が求められている。
【0003】
気体状のオゾンを生成するための手法としては、紫外線ランプ法、無声放電法及び電気分解(電解)法が知られている(例えば、非特許文献2参照)。紫外線ランプ法は発生するオゾンの量が少なく、室内・車内の消臭等、少量の悪臭源を除くために用いられることが多い。無声放電法はオゾンガスを生成するための一般的な手法であるが、例えば原料として空気を用いた場合には同時に窒素酸化物も発生してしまう。これを防ぐためには、原料として酸素ガスを用いるか、空気中の酸素のみを濃縮するような付属装置を備える必要がある。また、金属電極の消耗による金属不純物の混入も問題となる。更に、水の電気分解によってもオゾンガスは得られる。この電解法によれば、水分を多少含むものの高純度かつ高濃度のオゾンガスを簡単に得ることができる。
【0004】
一方、オゾン水を得るための手段としては、上記手段により得られたオゾンガスを水中に溶解させるか、電解法により直接生成する手段が知られている。無声放電法或いは電解法で発生させたオゾンガスを気液溶解塔に通じて水に溶解させることでオゾン水を得ることができるが、これは装置の大型化・複雑化の原因となる。これに対し、固体高分子膜を多孔質状あるいは網状の陽極と陰極で挟むことで電解セルを構成し、これを用いて水道水や純水を電気分解する電解法によればオゾン水を直接生成することができ、装置の小型化も容易となる。
【0005】
電解法によりオゾン水を生成する際のオゾン生成用電極の材料としては、触媒としての機能が優れている点から白金,金,白金被覆チタン,酸化鉛等が一般的に用いられている。これらの材料を多孔質状或いは網目状に成型して陽極3として用い、適当な陰極5と共に固体高分子膜7を挟むことで、例えば図12に示すような電解セル1が構成される。この電解セル1の陽極室13側に純水或いは水道水を供給しながら電解を行うことでオゾン水が得られる。更に、このように電解法でオゾン水を生成する場合、原料水として例えば42℃の温水を使用することにより、シャワー等による全身殺菌等に利用可能な中高温のオゾン水を生成することも考えられている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
しかしながら、特許文献1のように白金等を電極として用いた場合、オゾン水生成のための電解に伴って電極が消耗・溶出していく問題が指摘されている。比較的耐久性に優れると考えられている白金電極、或いは上記記載の電極であっても、オゾンを生成するための大電流・大電圧の条件下で使用していくと、陽極を構成する金属がイオンとして溶出する現象が生じる。この溶出した金属イオンが固体高分子膜に付着して反応を阻害してしまうため、オゾンの生成効率が徐々に低下していく。本発明者らも白金網電極を用いてオゾン温水を生成する比較試験を行ったところ、特に、高温域でオゾン生成を連続的に行った場合、白金の消耗が激しいという結果が得られている。従って、当該装置を用いてもオゾン温水を長期的・連続的に安定して得ることは困難であると考えられる。
【0007】
電解に伴う消耗を少しでも抑制するため、10℃程度までの低温水を供給して電解を行い、生成した低温オゾン水を加熱して例えば25℃〜70℃の中高温オゾン水とすることも可能ではある。しかしながら、水温が高くなるに従って気体の溶解性が低下することは周知であり、低水温で溶解していたオゾンガスが中高温水中では過剰となってオゾンガスとして放出される危険がある。オゾン水を生成後に加熱する場合は、このような放出によって無駄になるオゾンを生成しているため、オゾン水の生成効率も悪い。従って、中高温のオゾン水を効率的に生成するためには、供給する水の温度を中高温領域に保持して電解セルに送り込むことが望ましい。
【0008】
一方、最近では白金等に代わる新たな電極材料として、導電性を付与したダイヤモンド薄膜が提案されている。この導電性ダイヤモンド薄膜の主な特性としては、機械的強度に優れる、化学的に安定である、分子が吸着し難い、溶媒の酸化分解及び還元分解が起こり難く広い電位窓を示す、反応に選択性があるなど、他の電極材料には見られない特異的なものが挙げられる。そこで、網目状或いは多孔質状の基板上に熱フィラメント化学気相成長(CVD)法やマイクロ波プラズマCVD法により導電性のダイヤモンド薄膜を形成し、これを陽極として固体高分子膜を挟む形状の電解セルを構築することでオゾン生成に用いることが考えられている(例えば、特許文献2参照)。
【非特許文献1】「新版オゾン利用の新技術」 サンユー書房、1993年2月
【非特許文献2】杉光 英俊 著「オゾンの基礎と応用」 光琳、1996年2月
【特許文献1】特開2004−60011号公報
【特許文献2】特開平9−268395号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところが、導電性ダイヤモンドを電極材料として使用した電解セルを中高温のオゾン水を生成するために使用することは、これまで検討されて来なかった。これに対して、本願出願人は、基礎的な検討を進めて行く中で、ダイヤモンド電極のオゾン発生能力は白金の2倍程度優れること、また高温領域においてもオゾンの生成能力の低下が小さいことを見出した。そこで、本発明は、導電性ダイヤモンドを電極材料として使用することにより、効率的にかつ安定して中高温のオゾン水を生成することのできるオゾン水生成方法及びオゾン水生成装置を提供することを目的としてなされた。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達するためになされた本発明のオゾン水生成方法は、固体高分子膜を挟んで陰極と陽極とを配設し、水を電気分解してオゾン水を生成するオゾン水生成方法であって、上記陽極として多孔質状または網状の構造を有する導電性ダイヤモンドを使用し、中高温の水を電気分解することにより中高温のオゾン水を生成することを特徴としている。
【0011】
このように構成された本発明では、固体高分子膜を挟んで陰極と陽極とを配設し、中高温の水を電気分解して中高温のオゾン水を生成している。このため、上記電気分解により、陽極側より中高温のオゾン水が生成され、その生成も簡便である。また、本発明では、陽極として多孔質状または網状の構造を有する導電性ダイヤモンドを使用しているので、水温が、例えば25℃〜70℃の中高温であっても、効率的にかつ安定して25℃〜70℃の中高温のオゾン水を生成することができる。
【0012】
なお、上記陽極としては、導電性ダイヤモンドであれば種々の形態のものが適用できるが、上記陽極として、自立体型の導電性ダイヤモンドを使用した場合、次のような更なる効果が生じる。すなわち、このような自立体型の導電性ダイヤモンドは、シリコン,チタン,ニオブ,グラファイト板等の基体上にダイヤモンドの薄層を形成したものとは異なり、高電圧・高電流を印加する電解処理等を行っても基板からの剥離等の心配がない。従って、上記のように多孔質状または網状の構造を有する自立体型の導電性ダイヤモンドを陽極として使用した場合、一層安定してかつ一層効率的に中高温のオゾン水を生成することができる。
【0013】
また、本発明のオゾン水生成装置は、固体高分子膜を挟んで陰極と陽極とを配設してなる電解セルを備え、該電解セルにより水を電気分解してオゾン水を生成するオゾン水生成装置であって、上記電解セルの少なくとも陽極側へ供給される水を中高温に加熱する加熱手段を、更に備え、上記陽極として多孔質状または網状の構造を有する導電性ダイヤモンドを使用したことを特徴としている。
【0014】
このように構成された本発明では、固体高分子膜を挟んで陰極と陽極とを配設してなる電解セルの少なくとも陽極側に、加熱手段によって例えば25℃〜70℃までの中高温に加熱された水が供給される。このため、上記電解セルによる電気分解によって、陽極側に中高温のオゾン水が生成され、その生成も簡便である。また、本発明では、陽極として多孔質状または網状の導電性ダイヤモンドを使用しているので、前述のように水温が中高温であっても効率的にかつ安定して中高温のオゾン水を生成することができる。
【0015】
なお、上記陽極としては、導電性ダイヤモンドであれば種々の形態のものが適用できるが、上記陽極として、自立体型の導電性ダイヤモンドを使用した場合、次のような更なる効果が生じる。すなわち、このような自立体型の導電性ダイヤモンドは、シリコン,チタン,ニオブ,グラファイト板等の基体上にダイヤモンドの薄層を形成したものとは異なり、高電圧・高電流を印加する電解処理等を行っても基板からの剥離等の心配がない。従って、上記のように多孔質状または網状の構造を有する自立体型の導電性ダイヤモンドを陽極として使用した場合、一層安定してかつ一層効率的に中高温のオゾン水を生成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
次に、本発明の実施の形態を、図面と共に説明する。図1は、本発明が適用されたオゾン水生成装置の構成を表す模式図である。図1に示すように、このオゾン水生成装置は電解セル1を備えており、この電解セル1は、後述の陽極3の構成以外は上記従来例の電解セル1と同様に構成されている。すなわち、図1に示すように、固体高分子膜7(例えば商品名「ナフィオン」:デュポン社製)を挟んで陽極3と陰極5とを配設し、その陽極3,陰極5は固体高分子膜7の互いに対向する面に密着して固定されている。陽極3の表面には陽極室13が、陰極5の表面には陰極室15が、それぞれ形成され、陽極室13,陰極室15は、それぞれ供給口13a,15aと取出口13b,15bとを有している。なお、図1,図12において、同様に構成された部分には同一の符号を付して、その構成の詳細な説明を省略する。
【0017】
ここで、陽極3は、図2に示すように、マイクロ波プラズマCVD法で厚さ0.8mmの15mm×50mmの矩形板状に形成された自立体型導電性ダイヤモンド板に、直径1mmの孔3aを中心間距離が2mm(すなわち、孔3aの外周同士の間隔は1mm)となるように穿設したものである。なお、孔3aの穿設はレーザ加工または放電加工によって行うことができる。また、陰極5としては、55メッシュの網状の白金電極を使用した。このように構成された電解セル1では、陽極3と陰極5との間に直流電流を通電しながら各供給口13a,15aから純水(水道水でもよい)を供給すると、陽極室13の取出口13bからオゾン水が排出される。
【0018】
更に、本実施の形態のオゾン水生成装置は、図1に示すように、供給口13aに電磁弁20を介して接続された加熱手段としての温度制御ユニット30を備えている。この温度制御ユニット30は、供給された純水または水道水を予め設定された所定の温度に加熱する周知のユニットである。このため、本実施の形態のオゾン水生成装置では、純水または水道水を所定の温度に加熱してから、陽極室13に供給してオゾン水を生成することができる。なお、本実施の形態のオゾン水生成装置には、この他必要に応じて、純水器,流量センサ,オゾン水濃度モニタ,オゾンガス警報機などを備えてもよい。
【0019】
次に、このオゾン水生成装置(以下、実施例ともいう)と、陽極3として白金メッシュ電極を用いた比較例とで、オゾン生成量を比較した。ここで、白金メッシュ電極の大きさは15mm×50mmとした。図3は、原料水として水道水を使用した場合のオゾン生成量の水温依存性を表すグラフであり、(A)は実施例を、(B)は比較例を、それぞれ表している。また、図4は、原料水として純水を使用した場合のオゾン生成量の水温依存性を表すグラフであり、(A)は実施例を、(B)は比較例を、それぞれ表している。なお、いずれのグラフも、毎分0.5Lの純水または水道水を供給口13aから供給しながら測定を行った結果である。また、オゾン生成量は、オゾン水濃度計(UV方式)によりオゾン水の濃度を測定することによって評価した。
【0020】
図3(A)に示すように、陽極3として導電性ダイヤモンドを使用した場合、25℃〜70℃の中高温領域でも良好にオゾンを生成できることが分かった。従って、本実施例では、効率的に中高温のオゾン水を生成することができる。これに対して、図3(B)に示すように、比較例では水温の上昇に伴うオゾン生成量の減少幅が大きく、特に、40℃以上のオゾン水は殆ど生成できないことが分かった。
【0021】
また、図4(A)に示すように、本実施例では原料水として純水を使用した場合にも、効率的に中高温のオゾン水を生成することができた。これに対して、図4(B)に示すように、原料水として純水を使用した場合、比較例では殆どオゾン水が生成できないことが分かった。従って、原料水として純水を使用する場合には、陽極3として導電性ダイヤモンドを使用する効果が一層顕著に表れる。なお、この原因には不明な点もあるが、水道水中に存在する含塩素イオンが純水には含まれないことと関連があるものと推定される。
【0022】
更に、陽極3として導電性ダイヤモンドを使用した場合、その電極の消耗も、白金等に比べて極めて少ないことが分かった。このように、本実施の形態では、長期間に亘って安定して、しかも効率的に中高温のオゾン水を生成することができる。そして、このように生成された中高温のオゾン水の用途としては、例えば、伝染病発生時やバイオテロ時のオゾンシャワーによる全身殺菌・浄化などがある。また、このようなオゾンシャワーは、アトピーや皮膚病、褥瘡等の治療にも効果があると期待される。また、純水を原料水とした中高温のオゾン水はこれまで実現されていなかったが、このようなオゾン水は半導体・電子産業で用いられる洗浄水としての新たな利用が期待される。
【0023】
なお、本発明は上記実施の形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の形態で実施することができる。例えば、陰極5も陽極3と同様に、多孔質状の構造を有する自立体型の導電性ダイヤモンドで構成してもよい。また、孔3aは他の形状であってもよく、スリット状に構成したり、陽極3が網状になるように大きな孔3aを穿設してもよい。
【0024】
また、上記実施の形態では、陽極3として自立体型の導電性ダイヤモンドを使用したが、熱フィラメント化学気相成長(CVD)法やマイクロ波プラズマCVD法によって基板上に導電性ダイヤモンドの薄膜を形成したものを陽極3として使用してもよく、合成手法はこれに限定されるものではない。この場合、基板としてはシリコンやチタン、ニオブ、モリブデン、カーボンが一般に用いられるが、基板材料はこれに限定されるものではない。更に、基板上に厚く導電性ダイヤモンド膜を堆積させ、その後基板を除去することで得られる導電性ダイヤモンド自立膜を、前述のように陽極3として使用することもできる。そして、この場合、基板として網目状または多孔質状のものを使用すれば、前述のように孔3aを穿設しなくても多孔質状の陽極3を得ることができる。
【0025】
但し、上記のような陽極3を用いてオゾンを生成する場合、以下の理由により、陽極3の厚さは0.2〜1.0mm(より望ましくは0.4〜0.8mm)であることが望ましい。すなわち、電解セル1の陽極3と陰極5との間に直流電流を通電すると、孔3a内壁面では水の酸化分解反応による酸素発生反応
2H2O →O2 +4H+ +4e- (1)
或いはオゾン発生反応
3H2O →O3 +6H+ +6e- (2)
が起きる。(1)及び(2)の反応過程で生成した水素イオンは、イオン透過性を有する固体高分子膜7を透過し、陰極5に達する。陰極5では透過してきた水素イオンが電子を受け取る還元反応
2H+ +2e- →H2 (3)
が起き、生成した水素は陰極室15内へと拡散していく。しかしながら、(1)及び(2)の反応は、図5に示すように、孔3a内の固体高分子膜7、孔3aの内壁面、陽極室13内の電解液(水)の三相が接する界面で最も効率的に起こる。これは、この部分で反応が起きた場合に水素イオンの移動距離が最短となるためである。また、厚い導電性ダイヤモンド板を製造するには、成膜のための時間やコストもかかり、必要以上に厚い導電性ダイヤモンド板を陽極3として採用するのは好ましくない。そこで、陽極3の厚さは1.0mm以下(より望ましくは0.8mm以下)とするのが望ましい。
【0026】
更に、上記(1)及び(2)の反応が起こると、上記三相界面でオゾンと酸素を含有する気泡Bが生成する。この気泡Bは図6の(A)→(B)→(C)に順次示すように電解に伴って成長していき、ある大きさ以上になると気泡Bが自身の浮力により孔3aから抜けていく。孔3a内に留まる気泡Bは電極反応を阻害するため、電解を更に進めるにはより大きな電圧を必要とする。従って、小さい電力で効率的にオゾンを生成しようとするならば、発生した気泡Bを効率よく取り除ける電極構造であることが望ましい。気泡Bの抜け易さは陽極3の厚さと密接に関連しており、この点からも、陽極3の厚さは1.0mm以下(より望ましくは0.8mm以下)とするのが望ましい。一方、上記陽極3があまり薄いと、充分な機械的強度が得られない。そこで、陽極3の厚さは、0.2mm以上(より望ましくは0.4mm以上)とするのが望ましい。
【0027】
また、気泡Bの抜け易さは孔3aの径とも密接に関連しており、上記径が0.5mm未満であると気泡Bが極めて抜け難くなる。一方、孔3aの径が例えば3.0mm以上とあまりにも大きいと、単位面積当りの上記三相界面が少なくなり、(1)及び(2)の反応が起きる場が相対的に少なくなってしまう。このため、孔3aの径(直径)は、0.5〜3.0mm(より望ましくは1.0〜2.0mm)とするのが望ましく、この場合、極めて効率的にオゾンを生成することが可能となる。
【0028】
更に、上記実施の形態のように孔3aを複数穿孔する場合、その孔3aと孔3aとの外周同士の間隔が0.2〜1.5mmであるのが望ましい。上記三相界面を増やすという観点からは、孔3aの数は多い方が望ましいが、孔3aと孔3aとの外周同士の間隔が例えば0.2mm未満とあまりにも狭いと、陽極3に充分な強度が得られない。このため、上記間隔は0.2〜1.5mm(より望ましくは0.4〜0.8mm)とするのが望ましく、この場合、陽極3の機械的強度を充分に確保しつつ効率的にオゾンを生成することが可能となる。
【0029】
また、気泡Bを抜け易くするためには、図7に示す陽極53のように、孔53aの内壁面にテーパ加工を施し、孔53aが固体高分子膜7から外側に向かって広がるように配置(いわゆるすり鉢型配置)するのも有効である。
【0030】
また、三相界面を増やすためには、図8(A)に一部を拡大して示す陽極63のように、孔63aの周囲を波状に構成したり、図8(B)に一部を拡大して示す陽極73のように、孔73aを星形に形成したりするのも有効である。
【0031】
更に、三相界面を増やすためには、図9(A)に示すように陽極3を固体高分子膜7よりも小さく構成し、陽極3の周囲を陽極室13の外周部13cから離すことでその陽極3の周囲に三相界面を形成するのも有効である。すなわち、通常は、図9(B)に示すように、外周部13cの内側に配設される固体高分子膜7と陽極3とが同じ大きさであったり、或いは陽極3の周囲がシーリング材でシーリングされ、実質的に図9(B)と同様の状態であったりするが、図9(A)のように陽極3の周囲に三相界面を形成することにより、オゾンの生成効率を良好に向上させることができる。
【0032】
また更に、三相界面を増やすためには、図10に示すように、柱状(ここでは四角柱状)の自立型導電性ダイヤモンドからなる陽極83を固体高分子膜7の表面に多数平行に配設してもよく、図11に示すように、断片状(ここでは立方体状)の自立型導電性ダイヤモンドからなる陽極93を固体高分子膜7の表面に多数配設してもよい。これらの場合も、三相界面を増やしてオゾンの生成効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明が適用されたオゾン水生成装置の構成を表す模式図である。
【図2】そのオゾン水生成装置の陽極の構成を表す模式図である。
【図3】原料水として水道水を使用した場合の上記オゾン水生成装置によるオゾン生成量の水温依存性を、比較例と対比して表すグラフである。
【図4】原料水として純水を使用した場合の上記オゾン水生成装置によるオゾン生成量の水温依存性を、比較例と対比して表すグラフである。
【図5】上記陽極における反応が三相界面近傍で起こることを表す説明図である。
【図6】上記陽極の孔における気泡の成長を表す説明図である。
【図7】上記陽極の孔にテーパ加工を施した例を表す模式図である。
【図8】上記陽極の孔の形状を変化させた変形例を表す模式図である。
【図9】上記陽極の周囲を陽極室の外周部から離した例を表す模式図である。
【図10】陽極として柱状のダイヤモンドを使用した変形例を表す模式図である。
【図11】陽極として断片状のダイヤモンドを使用した変形例を表す模式図である。
【図12】従来例の電解セルの構成を表す模式図である。
【符号の説明】
【0034】
1…電解セル 3…陽極 3a…孔
5…陰極 7…固体高分子膜 13…陽極室
15…陰極室 20…電磁弁 30…温度制御ユニット
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体高分子膜を挟んで陰極と陽極とを配設し、水を電気分解してオゾン水を生成するオゾン水生成方法であって、
上記陽極として多孔質状または網状の構造を有する導電性ダイヤモンドを使用し、
中高温の水を電気分解することにより中高温のオゾン水を生成することを特徴とするオゾン水生成方法。
【請求項2】
上記陽極として、多孔質状または網状の構造を有する自立体型の導電性ダイヤモンドを使用することを特徴とする請求項1記載のオゾン水生成方法。
【請求項3】
固体高分子膜を挟んで陰極と陽極とを配設してなる電解セルを備え、該電解セルにより水を電気分解してオゾン水を生成するオゾン水生成装置であって、
上記電解セルの少なくとも陽極側へ供給される水を中高温に加熱する加熱手段を更に備え、
上記陽極として多孔質状または網状の構造を有する導電性ダイヤモンドを使用したことを特徴とするオゾン水生成装置。
【請求項4】
上記陽極として、多孔質状または網状の構造を有する自立体型の導電性ダイヤモンドを使用したことを特徴とする請求項3記載のオゾン水生成装置。
【請求項1】
固体高分子膜を挟んで陰極と陽極とを配設し、水を電気分解してオゾン水を生成するオゾン水生成方法であって、
上記陽極として多孔質状または網状の構造を有する導電性ダイヤモンドを使用し、
中高温の水を電気分解することにより中高温のオゾン水を生成することを特徴とするオゾン水生成方法。
【請求項2】
上記陽極として、多孔質状または網状の構造を有する自立体型の導電性ダイヤモンドを使用することを特徴とする請求項1記載のオゾン水生成方法。
【請求項3】
固体高分子膜を挟んで陰極と陽極とを配設してなる電解セルを備え、該電解セルにより水を電気分解してオゾン水を生成するオゾン水生成装置であって、
上記電解セルの少なくとも陽極側へ供給される水を中高温に加熱する加熱手段を更に備え、
上記陽極として多孔質状または網状の構造を有する導電性ダイヤモンドを使用したことを特徴とするオゾン水生成装置。
【請求項4】
上記陽極として、多孔質状または網状の構造を有する自立体型の導電性ダイヤモンドを使用したことを特徴とする請求項3記載のオゾン水生成装置。
【図1】
【図3】
【図4】
【図7】
【図8】
【図12】
【図2】
【図5】
【図6】
【図9】
【図10】
【図11】
【図3】
【図4】
【図7】
【図8】
【図12】
【図2】
【図5】
【図6】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2007−44630(P2007−44630A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−232184(P2005−232184)
【出願日】平成17年8月10日(2005.8.10)
【出願人】(390021577)東海旅客鉄道株式会社 (413)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年8月10日(2005.8.10)
【出願人】(390021577)東海旅客鉄道株式会社 (413)
【Fターム(参考)】
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