説明

オランザピンの混合溶媒和物、その製造方法、およびそれからオランザピンのI型の製造方法

上記混合溶媒和物は、1:1:1/2の比のオランザピン/水/テトラヒドロフラン(I)の溶媒和物である。上記溶媒和物の製造方法は、粗製の無水オランザピンをテトラヒドロフラン/水の混合物で処理することを含む。オランザピンのI型の製造方法は、式Iの混合溶媒和物を真空中で温度管理条件下で乾燥することにより脱溶媒和することを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、オランザピンの新規な混合溶媒和物に関する。詳細には、本発明は、1:1:1/2の比のオランザピン/水/テトラヒドロフランの混合溶媒和物に関する。
【0002】
本発明は、上記混合溶媒和物の製造方法、並びに上記溶媒和物からのオランザピンのI型の製造方法にも関する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
オランザピンは、ドパミンD1、D2、D3、D4およびD5、セロトニン5-HT2および5HT3、α-1-アドレナリン作動薬、コリン作動薬およびH1ヒスタミン作用薬の受容体に対する拮抗薬として作用する式(I):
【化1】

のチエノベンゾジアゼピンである。
【0004】
オランザピンは、上記チエノベンゾジアゼピンを欧州特許第0454436B1号明細書に初めて開示されており、4-アミノ-2-メチル-10H-チエノ[2,3-b][1,5]ベンゾジアゼピンとN-メチルピペラジンからDMSO/トルエン中で製造した後、水を加えてオランザピンを単離し、アセトニトリルを用いて結晶化することによって上記チエノベンゾジアゼピンが製造された。
【0005】
欧州特許第0733635A1号明細書には、オランザピンの2つの多形形態であるI型(準安定)およびII型(安定)が開示されており、I型は最初の欧州特許第0454436B1号明細書で得られたものである。
【0006】
I型の準安定特性は、周囲保管条件下での5つの色の変化に関係する。
【0007】
欧州特許第0733634A1号明細書、米国特許第5703232号明細書、および欧州特許第0831098A2号明細書には、オランザピンアルコールから水和形態および溶媒和物の製造、およびオランザピンのII型(安定)を製造するためのその使用が記載されており、米国特許第5703232号明細書では、安定型がI型と呼ばれている(が、他の文書では、安定型はII型と呼ばれている)。
【0008】
米国特許第5637584号明細書には、オランザピンのジクロロメタンの溶媒和物と、その製造方法が記載されている。
【0009】
最後に、特許明細書WO0218390A1号、WO03097650A1号、WO03055438A2号、WO03101997号、およびWO2004006933A2号には、I型オランザピンの製造が記載されている。特許明細書WO0218390A1号には、オランザピンのI型は、二水和物I、一水和物I、またはII型からジクロロメタン中で結晶化することによって調製される。特許明細書WO03097650A1号には、I型は、4-アミノ-2-メチル-10H-チエノ[2,3-b][1,5]ベンゾジアゼピンとN-メチルピペラジンの縮合によって調製したオランザピンを抽出した後、ジクロロメタンで精製することによって調製される。上記特許明細書には、ジクロロメタン/水の混合溶媒和物およびDMSO/水の混合溶媒和物が記載されている。特許明細書WO03055438A2号では、I型はC1-C4アルコール中での連続結晶化および脱色によって調製されている。特許明細書WO03101997号では、I型はトルエンおよびメタノール性ソーダのような塩基性媒質に有機溶媒を混合したものにI型自身を播種したものから沈澱によって調製されている。WO2004006933A2号明細書では、I型はIPAを含む溶媒の混合物の結晶化によって調製されている。上記特許明細書の幾つかでは、得られたI型は色変化に対して安定であると記載されている。
【0010】
発明の説明
本発明の目的は、オランザピンの新規な混合溶媒和物をその製造方法と共に提供することである。
【0011】
本発明の第一の様相は、従って、オランザピン/水/テトラヒドロフランの比が1:1:1/2である式(I):
【化2】

の混合溶媒和物を提供することである。
【0012】
本発明の第二の様相は、本発明の第一の様相に準じて溶媒和物を製造する方法を提供することである。上記溶媒和物は、当業者に知られている方法(例えば、欧州特許第0454436B1号明細書に記載の方法)によって調製された粗製の無水オランザピンをテトラヒドロフラン/水の混合物で処理することによって調製することができる。
【0013】
本発明の第二の様相の一態様では、式Iの上記混合溶媒和物は、4-アミノ-2-メチル-10H-チエノ[2,3-b][1,5]ベンゾジアゼピン塩酸とN-メチルピペラジンとの縮合によって得られた残渣を、粗製オランザピンの単離を必要とせずにテトラヒドロフラン/水混合物で直接処理することによって調製される。
【0014】
本発明の第三の様相は、本発明の第一の様相に準じて式Iの溶媒和物からオランザピンのI型を調製する方法を提供することである。上記の方法は、式Iの混合溶媒和物を真空中および温度管理条件下で乾燥によって脱溶媒和し、周囲保管条件下で安定なままであり且つ色が変化しないので、医薬処方物に適当なI型オランザピンを提供することを特徴とする。
【0015】
発明の具体的説明
本発明の新規な混合溶媒和物という対象は、その粉体X線回折パターンによって確認されている。
【0016】
本発明の第一の様相が関係する混合溶媒和物の組成は、TGA(図4)から確認され、テトラヒドロフランと水の和により14.7-14.8%の損失が見られ、またKarl Fischerの水分測定により確認され、4.8-4.9%の水を示している。これらの値から、オランザピン/水/テトラヒドロフラン溶媒和物は比1:1:1/2を保持していると確定される。
【0017】
上記の組成は、更に1H NMRスペクトル(図5)におけるテトラヒドロフランシグナルの積分およびX線(図2)によって測定された単結晶の結晶構造によって確かめられる。
【0018】
表1は、Cu管およびグラファイト二次モノクロメーター(KαCu波長1.5419Å)を備えた結晶粉末についてのPHILIPS X' Pert自動回折計を用いるX線回折パターンで観察されたピークを示す。
【0019】
溶媒和物のX線回折パターンは、位置(°2θ)、格子面間隔d、および相対強度I/I0を特徴とする。上記の回折パターンは、上記の混合溶媒和物の下記のような特徴的ピークを示している。
【0020】
【表1】

【0021】
本発明の第一の様相の一態様では、上記のオランザピン/水/テトラヒドロフランの混合溶媒和物は、KBr錠剤で記録したIRスペクトルにおいて下記の波長(cm-1): 3390, 3240, 2930, 2830, 1595, 1560, 1465, 1410, 1270, 1220, 1140, 965, 755に吸収を有する(図6)。
【0022】
本発明の第二の様相は、本発明の第一の様相に準じたオランザピン/水/テトラヒドロフランの比が1:1:1/2である混合溶媒和物の調製方法を提供することである。
【0023】
上記の溶媒和物は、粗製の無水オランザピン(欧州特許第0454436B1号明細書に記載されているような既知の方法に準じて調製した)を、テトラヒドロフラン/水の比が1:10-10:1(v/v)、好ましくは1:5-5:1(v/v)の混合物中で20-80℃、好ましくは40-60℃の温度で溶媒和することによって調製することができる。
【0024】
場合によっては、上記の溶媒和物は、粗製の無水オランザピンを単離する必要なしに、簡単に、4-アミノ-2- メチル-10H-チエノ[2,3-b][1,5]ベンゾジアゼピン塩酸 (II)とN-メチルピペラジン (III)との縮合から開始して、高純度で且つ毒性のある溶媒を使用することなく、直ちに調製することができる。
【化3】

【0025】
この縮合は、溶媒なしで、4-12当量、好ましくは6-8当量のN-メチルピペラジンの過剰量を用いて、100℃-145℃の温度で窒素を若干流しまたは通じて、反応で生成したアンモニアを置換して行われる。
【0026】
反応が完結したならば、過剰のN-メチルピペラジンを蒸留によって回収し、生成する粗生成物を1:10-10:1(v/v)、好ましくは1:5-5:1(v/v)の比のテトラヒドロフラン/水の混合物で処理し、1:1:1/2の比のオランザピン/水/テトラヒドロフラン混合溶媒和物を沈澱させる。
【0027】
得られた混合溶媒和物は、20-80℃、好ましくは40-60℃の温度でテトラヒドロフラン/水の混合物を用いる再結晶または洗浄のような簡単な手法によって精製して、総不純物が0.3%未満のHPLCで高純度の溶媒和物を得ることができる。
【0028】
好都合なことには、第二の様相による方法では、毒性溶媒を用いずに、4-アミノ-2-メチル-10H-チエノ[2,3-b][1,5]ベンゾジアゼピンとN-メチルピペラジンからオランザピンの溶媒和物を調製する。
【0029】
本発明の第三の様相は、オランザピン/水/テトラヒドロフランの比が1:1:1/2である混合溶媒和物からI型オランザピンを調製する方法である。上記の方法は、1-40mmHg、好ましくは1-20mmHgの範囲の圧の真空で、10-50℃、好ましくは20-40℃に制御された温度で溶媒和物を乾燥することを含んでなる。
【0030】
本発明の第三の様相による方法は簡単であり、最終生成物(I型オランザピン)を化学的に高純度で(HPLCによって測定したところ、総不純物量は0.3%未満である)且つ多形的に高純度で(II型<2%)得ることができる。上記I型は、周囲保管条件下で安定なままであり且つ色が変化しない。
【0031】
本発明の第三の様相の一態様では、固形物(混合溶媒和物)を乾燥処理中に継続攪拌して、脱溶媒和工程を促進し、乾燥時間をできるだけ短くする。
【0032】
本発明の方法によって得られたI型のX線回折パターンは、位置(°2θ)、格子面間隔d、および相対強度I/I0を特徴とする(表2)。
【0033】
【表2】

【実施例】
【0034】
実施例1
4-アミノ-2-メチル-10H-チエノ[2,3-b][1,5]ベンゾジアゼピン塩酸50g(0.188モル)とN-メチルピペラジン125ml(1.127モル)からなる混合物を、若干の窒素流を継続しながら還流温度(内部温度140℃)に加熱する。2時間経過したならば、反応を停止して、混合物を70℃に冷却する。次に、N-メチルピペラジン40mlを70℃で真空(40mmHg)にて蒸留し、テトラヒドロフラン/水 1:4(v/v)混合物125mlを加える。混合物を70℃にて15 分間攪拌継続し、20-25℃に冷却し、この温度で1時間放置する。混合物を濾過し、固形物をテトラヒドロフラン/水1:4(v/v)混合物50mlおよび水100mlで2回洗浄する。得られた固形物を42℃のエアオーブンで一定重量になるまで乾燥し、オランザピン/水/テトラヒドロフランの比が1:1:1/2の混合溶媒和物65.1g (94.4%)を得る。
【0035】
得られたオランザピン溶媒和物25gを、THF100mlおよび水25mlと共に混合物を50℃で15 分間加熱することによって精製する。20-25℃に1時間冷却し、次いで0℃まで更に1時間冷却した後、固形物を濾過し、42℃のエアオーブンで一定重量になるまで乾燥し、オランザピン/水/テトラヒドロフランの比が1:1:1/2であり、HPLCによる総不純物が0.3%未満の混合溶媒和物21.8gを得る。
【0036】
乾燥による損失(TGAにより測定): 14.7%
水分測定(KF): 4.9%
オランザピン/テトラヒドロフランのモル比が1:1/2であることは、1H NMRによって確認した(図5)。
【0037】
実施例2
THF100ml、水25ml、および欧州特許第0454436B1号明細書に記載の方法に従って得た粗製の無水オランザピン25gからなる混合物を、50℃で30分間加熱する。最初に20-25℃まで1時間、次いで0℃まで更に1時間冷却した後、固形物を濾過し、42℃のエアオーブンで一定重量になるまで乾燥し、オランザピン/水/テトラヒドロフランの比が1:1:1/2の混合溶媒和物24.9g(85%)を得る。
【0038】
実施例3
(1) オランザピン/水/テトラヒドロフランの比が1:1:1/2の混合溶媒和物1gを、油ポンプ真空(1mmHg)下にてテトラヒドロフランの痕跡が1H NMRによって観察されなくなるまで4-5時間乾燥する。得られた固形物は、オランザピンI型の特徴的なX線回折パターンを示す。融点195℃。
【0039】
(2) オランザピン/水/テトラヒドロフランの比が1:1:1/2の混合溶媒和物20gを、20mmHgの真空下機械攪拌下にて、40℃の外部水槽を10時間用いて乾燥する。1H NMR、DSCおよびTGAにより、テトラヒドロフランおよび水の残量は残っていないことが観察されている。得られた固形物は、オランザピンI型の特徴的なX線回折パターンを示す。融点195℃。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】オランザピン/水/テトラヒドロフランの比が1:1:1/2である混合溶媒和物のX線回折パターン(縦軸:高さ(カウント数)、横軸:角度(°2θ))。
【図2】オランザピン/水/テトラヒドロフランの比が1:1:1/2である混合溶媒和物の単結晶構造。Enraf Nonius CAD4自動ディフラクトメーターを用いた。これに、グラファイトモノクロメーターで得たMo(λ= 0.71069Å)のKα放射線を照射した。混合溶媒和物の基本セルは、オランザピン8分子、水8分子、およびテトラヒドロフラン4分子を含むことが観察されており、これはオランザピン/水/テトラヒドロフランの混合溶媒和物が比1:1:1/2を保持していることを意味する。
【図3】オランザピン/水/テトラヒドロフランの比が1:1:1/2である混合溶媒和物のDSC。Mettler-Toledo DSC821e型熱分析装置を、開放カプセル中10℃/分の加熱速度および50ml/分の窒素流量で用いた。このスペクトルでは、テトラヒドロフランと水の喪失が最初に観察され(70-110℃の範囲)、次いで、融合ピークが195℃に観察された。
【図4】オランザピン/水/テトラヒドロフランの比が1:1:1/2である混合溶媒和物のTGA。Mettler-Toledo TG50型熱分析装置を、開放カプセル中10℃/分の加熱速度および50ml/分の窒素流量で用いた。このスペクトルは、14.7%の重量損失を示している。
【図5】オランザピン/水/テトラヒドロフランの比が1:1:1/2である混合溶媒和物の1H (CDCl3)のNMRスペクトル。Varian Gemini 200装置を用いた。テトラヒドロフランのシグナル(3.75ppm, 4H)とオランザピンのピペラジン環の対称性メチレンのプロトン(3.50ppm, 4H)の相対積分は、オランザピン/テトラヒドロフランのモル比1:1/2に対応する。
【図6】オランザピン/水/テトラヒドロフランの比が1:1:1/2である混合溶媒和物赤外スペクトル。これは、Perkin Elmer FTIR 1600装置を用いてKBr錠剤で測定した。
【図7】実施例3に準じて調製したオランザピンのI型のX線回折パターン(縦軸:高さ(カウント数)、横軸:角度(°2θ))。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オランザピン/水/テトラヒドロフランの比が1:1:1/2である式(I):
【化1】

の混合溶媒和物。
【請求項2】
X線回折パターンにおいて下記の位置(°2θ)、格子面間隔d、および相対強度I/I0を特徴とする、請求項1に記載の混合溶媒和物。
【表1】

【請求項3】
KBr錠剤で記録したIRスペクトルにおいて下記の波長(cm-1): 3390, 3240, 2930, 2830, 1595, 1560, 1465, 1410, 1270, 1220, 1140, 965, 755に吸収を有することを特徴とする、請求項1または2に記載の溶媒和物。
【請求項4】
粗製の無水オランザピンをテトラヒドロフラン/水の比が1:10-10:1(v/v)の混合物で20-80℃の範囲の温度で溶媒和することを含む、請求項1-3のいずれか一項に記載の混合溶媒和物の製造方法。
【請求項5】
上記温度が40-60℃の範囲である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
上記テトラヒドロフラン/水の比が1:5-5:1(v/v)の範囲である、請求項4または5に記載の方法。
【請求項7】
上記オランザピンの混合溶媒和物を、下記の段階
a) 100-145℃の範囲の温度および窒素雰囲気下において4-12当量の範囲のN-メチルピペラジンの任意の過剰量の存在下での式IIの化合物と式IIIの化合物との縮合
【化2】

b) 生成混合物の蒸留、および
c) オランザピンの上記混合溶媒和物が沈澱するときには、段階(b)から生成する粗生成物と1:10-10:1(v/v)の比のテトラヒドロフランおよび水との混合
を行うことによって製造する、請求項1-3のいずれか一項に記載の混合溶媒和物の製造方法。
【請求項8】
上記段階c)において、テトラヒドロフランと水の比が1:5-5:1(v/v)の範囲である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
段階c)で得られる沈澱を精製する、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
上記N-メチルピペラジンの過剰量が6-8当量の範囲である、請求項7-9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
請求項1-3のいずれか一項に記載のオランザピンのテトラヒドロフランとH2Oの混合溶媒和物を1-40mmHgの範囲の圧力の真空で10-50℃の範囲の温度にて乾燥することを含む、オランザピンのI型の製造方法。
【請求項12】
上記圧力が1-20mmHgの範囲である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
上記温度が20-40℃の範囲である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
上記溶媒和物を乾燥手続中に攪拌下に保持する、請求項11-13のいずれか一項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2008−508254(P2008−508254A)
【公表日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−523170(P2007−523170)
【出願日】平成17年7月7日(2005.7.7)
【国際出願番号】PCT/IB2005/002209
【国際公開番号】WO2006/013435
【国際公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【出願人】(506044775)インケ、ソシエダ、アノニマ (8)
【氏名又は名称原語表記】INKE,S.A.
【Fターム(参考)】