説明

オリゴアミノ糖化合物

【課題】二重鎖核酸に対して高い親和性を有する化合物を提供する。
【解決手段】3〜6個の糖が結合した2,6-ジアミノ-2,6-ジデオキシ-α-(1→4)-D-グルコピラノースオリゴマーなどのオリゴアミノ糖化合物又はその塩。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はRNA二重鎖核酸又はDNA/RNA二重鎖核酸に結合し、DNA二重鎖核酸には結合しない性質を有するオリゴアミノ糖化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝情報の保存の役割を担うDNA や、その転写産物であり多様な機能を有するRNA はタンパク質などの生体分子や様々な有機小分子、糖化合物、金属イオンなどと相互作用することが知られている。DNAやRNAに相互作用可能な糖化合物としては、例えば下記の化合物が知られている。これらの多くは分子内の報告環がDNA二重鎖核酸やDNA/RNA二重鎖核酸の塩基対の間に挿入されるインターカレーターとして核酸分子と結合する。
【0003】
【化1】

【0004】
糖由来の官能基が核酸との結合に主として関与する糖誘導体としては、上記のネアミン(Neamine)及びネオマイシンB(Neomycin B)などのアミノグリコシド系抗生物質である。これらの分子は、元々細菌の16S rRNA と部位特異的に結合することが知られていたが、近年になってHIV ウイルスのTat領域やRev領域、RNA 二重らせんなど、様々なRNA と相互作用することが明らかになってきている。また、X 線結晶構造解析によってアミノグリコシド類のアミノ基や水酸基が、核酸のリン酸部位、塩基部位と相互作用することが示唆されている(Science, 274, pp.1367-1371, 1996; J. Mol. Biol., 277, pp.347-362, 1998; Angew. Chem. Int. ed., 47, pp.4110-4113, 2008)。
【0005】
最近になって、αグリコシド結合を有するオリゴ2,6-ジアミノ-2,6-デオキシ-α-グルコピラノシドがDNA二重鎖核酸に結合する可能性が示唆されている(日本化学会第89回年会、演題番号2C6-03、2008年3月13日要旨WEB公開)。このオリゴジアミノ糖化合物については、分子の両端にアミノ基を有し、生理的条件下においてそれらがプロトン化されてジカチオンとなることからDNAメジャーグルーブに結合する際に両端のリン酸部位の負電荷との強い相互作用が期待できること、及び全てα-グリコシド結合によって連結した構造を有することから、湾曲した構造をとりやすく、DNAメジャーグルーブに結合する際にエントロピー的に有利であることが示唆されている。しかしながら、実際に合成されているのは3糖化合物の合成ルート中の中間段階化合物までの報告がなされているだけである。また、これらの化合物についてDNAとの相互作用の実験結果は報告されておらず、またRNA二重鎖核酸又はDNA/RNA二重鎖核酸に対しても親和性を有するか否かは示唆ないし教示されていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Science, 274, pp.1367-1371, 1996
【非特許文献2】J. Mol. Biol., 277, pp.347-362, 1998
【非特許文献3】Angew. Chem. Int. ed., 47, pp.4110-4113, 2008
【非特許文献4】日本化学会第89回年会、演題番号2C6-03、2008年3月13日要旨WEB公開
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、核酸に対して親和性を有する糖化合物を提供することにある。より具体的には、二重鎖核酸に対して高い親和性を有するオリゴアミノ糖化合物を提供することが本発明の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記の課題を解決すべく、上記のαグリコシド結合を有するオリゴ2,6-ジアミノ-2,6-デオキシ-α-グルコピラノシドについて鋭意研究を行ない、3糖化合物及び4糖化合物を製造したところ、驚くべきことにこれらの糖化合物がDNA二重鎖核酸には実質的に結合せず、RNA二重鎖核酸又はDNA/RNA二重鎖核酸にのみ選択的に結合することを見出した。また、上記刊行物に具体的に記載されていた2糖化合物は実質的に二重鎖核酸に結合せず、RNA二重鎖核酸又はDNA/RNA二重鎖核酸に対しても実質的に結合しないことを見出した。本発明は上記の知見を基にして完成されたものである。
【0009】
すなわち、本発明により、下記の一般式(I):
R1-O-(X)n-R2
(式中、R1は水素原子又は一価の置換基を示し、R2は水素原子又は一価の置換基を示し、nは3ないし6の整数を示し、n個のXは同一でも異なっていてもよく、それぞれ独立に下記の式(a)ないし(i):
【化2】

で表される二価の基から選択される)
で表される化合物又はその塩が提供される。
【0010】
本発明の好ましい態様によれば、R1が水素原子である上記の化合物又はその塩;R2が水素原子又は置換基を有していてもよいアルキル基である上記の化合物又はその塩;Xが(a)ないし(f)で表される二価の基である上記の化合物又はその塩;n個のXがいずれも(a)で表される二価の基である上記の化合物又はその塩;nが3又は4である上記の化合物又はその塩が提供される。
【0011】
別の観点からは、上記の一般式(I)で表される化合物又はその塩を含むA型二重鎖核酸の安定化剤;A型二重鎖核酸がRNA二重鎖核酸又はDNA/RNA二重鎖核酸である上記の安定化剤;上記の一般式(I)で表される化合物又はその塩をA型二重鎖核酸と接触させる工程を含むA型二重鎖核酸の安定化方法;A型二重鎖核酸がRNA二重鎖核酸又はDNA/RNA二重鎖核酸である上記の安定化方法が提供される。
【0012】
さらに別の観点からは、上記の一般式(I)で表される化合物又はその塩を含むA型二重鎖核酸に対する選択的結合剤;A型二重鎖核酸がRNA二重鎖核酸又はDNA/RNA二重鎖核酸である上記の結合剤が提供される。上記の結合剤に対して、例えば抗腫瘍剤や抗菌剤などの医薬有効成分や核酸類、糖類、脂質類、タンパク質類、ペプチド類、又は金属化合物など所望の物質を結合させることにより、A型二重鎖核酸に該物質を選択的に送達することができる。
【0013】
また、上記の一般式(I)で表される化合物又はその塩とA型二重鎖核酸との複合体が本発明により提供される。好ましい態様によれば、上記の一般式(I)で表される化合物又はその塩とRNA二重鎖核酸又はDNA/RNA二重鎖核酸の複合体が提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明の化合物又はその塩は生理的環境下においてB型のらせん構造をとるDNA二重鎖核酸に対しては実質的に結合せず、A型のらせん構造をとるRNA二重鎖核酸又はDNA/RNA二重鎖核酸に対して選択的に結合することができる。従って、本発明の化合物又はその塩はA型二重鎖核酸の安定化剤として使用することができるほか、本発明の化合物と医薬有効成分や核酸などの他の物質とを結合することにより、A型二重鎖核酸に対して医薬有効成分や核酸を選択的に送達することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】RNA(I)のCDスペクトルを示した図である。
【図2】RNA(I)のCDスペクトルを示した図である。
【図3】RNA(II)のCDスペクトルを示した図である。
【図4】RNA(I)のTm曲線を示した図である。
【図5】RNA(II)のTm曲線を示した図である。
【図6】(A)はDNA(III)、(B)はDNA(IV)のCDスペクトルを示した図である。
【図7】(A)はDNA(III)、(B)はDNA(IV)のTm曲線を示した図である。
【図8】(A)はDNA(IV)のCDスペクトル(0 mM NaCl)、(B)はDNA(IV)のTm曲線(0 mM NaCl)を示した図である
【図9】DNA(IV)のCDスペクトル(0 mM NaCl)を示した図である。
【図10】12量体のRNA/RNA二重鎖(5'rA6U63'/5'rA6U63')のTm曲線を示した図である。
【図11】12量体のRNA/RNA二重鎖(5'rA123'/5'rU123')のTm曲線を示した図である。
【図12】24量体のRNA/RNA二重鎖(5'rA243'/5'rU243')のTm曲線を示した図である。
【図13】12量体のDNA/RNA二重鎖(5'dA123'/5'rU123')のTm曲線を示した図である。
【図14】12量体のRNA/DNA二重鎖(5'rA123'/5'dT123')のTm曲線を示した図である。
【図15】24量体のDNA/RNA二重鎖(5'dA243'/5'rU243')のTm曲線を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
R1は水素原子又は一価の置換基を示す。一価の置換基としては、例えば、置換基を有していてもよいアルキル基などを挙げることができるが、アルキル基に限定されることはなく、任意の一価の置換基を用いることができる。R1が示すアルキル基としては、直鎖状、分枝鎖状、環状、又はそれらの組み合わせからなるアルキル基を用いることができ、炭素数は、例えば1〜20個、好ましくは1〜12個、さらに好ましくは1〜8個、特に好ましくは1〜6個程度である。アルキル基の炭素鎖中には1個又は2個以上の同一又は異なるヘテロ原子(酸素原子、窒素原子、又はイオウ原子など)を鎖構成原子として含んでいてもよい。アルキル基上には1個又は2個以上の置換基が存在していてもよい。アルキル基上の置換基としては、例えば、水酸基、アルコキシ基、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子)、アミノ基、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、オキソ基、スルホ基などを挙げることができるが、これらに限定されることはない。R1としては水素原子が好ましい。
【0017】
R2は水素原子又は一価の置換基を示す。一価の置換基としてはR1について説明したものを用いることができる。好ましくはR2は水素原子又はアルキル基を示し、より好ましくはアルキル基であり、さらに好ましくは炭素数1〜6個程度のアルキル基である。特に好ましくはメチル基を用いることができる。
【0018】
nは3ないし6の整数を示し、n個のXは同一でも異なっていてもよく、それぞれ独立に上記の式(a)ないし(i)からなる群から選ばれる二価の基を示す。n個のXが全て同一の二価の基であってもよい。例えば(a)で表される二価の基がn個結合した場合には2,6-ジアミノ-2,6-ジデオキシ-α-(1→4)-D-グルコピラノースオリゴマーとなり、(b)で表される二価の基がn個結合した場合には3,6-ジアミノ-3,6-ジデオキシ-α-(1→4)-D-グルコピラノースオリゴマーとなり、(d)で表される二価の基がn個結合した場合には2,6-ジアミノ-2,6-ジデオキシ-α-(1→4)-D-マンノピラノースオリゴマーとなり、(e)で表される二価の基がn個結合した場合には3,6-ジアミノ-3,6-ジデオキシ-α-(1→4)-D-マンノピラノースオリゴマーとなる。また、(g)で表される二価の基がn個結合した場合には2,6-ジアミノ-2,6-ジデオキシ-β-(1→4)-D-ガラクトピラノースオリゴマーとなり、(h)で表される二価の基がn個結合した場合には3,6-ジアミノ-3,6-ジデオキシ-β-(1→4)-D-ガラクトピラノースオリゴマーとなる。二価の基としては(a)ないし(f)からなる群から選択されることが好ましく、(a)、(b)、(d)、及び(e)からなる群から選択されることがより好ましく、(a)及び(d)からなる群から選択されることがさらに好ましい。n個のXが全て(a)で表される二価の基である場合、及びn個のXが全て(d)で表される二価の基である場合が特に好ましく、n個のXが全て(a)で表される二価の基である場合が最も好ましい。
【0019】
上記の一般式(I)で表される本発明の化合物のうち、例えばn個のXが全て(a)で表される二価の基である化合物は、グリコシルドナーとなる化合物とグリコシルアクセプターとなる化合物とを反応させてαアノマーを製造する工程を適宜の回数繰り返すことにより製造することができる。例えば、以下のサイクルを繰り返すことにより、所望のn個の(a)を連結した化合物を製造することができる(スキーム中、Phthはフタロイル基、Bnはベンジル基、Acはアセチル基、Meはメチル基、Phはフェニル基を示す)。Xとして(a)以外の二価の基を用いる場合についても同様に反応を行なうことができる。上記の一般式(I)で表される本発明の化合物のうち、(a)で表される二価の基を4個結合した化合物の合成方法を本明細書の実施例に具体的に示した。従って、当業者は上記の一般的説明及び実施例の具体的説明を参照しつつ、出発原料、反応試薬、保護基、及び反応条件などを適宜選択することにより、一般式(I)に包含される本発明の化合物を容易に製造することができる。
【0020】
【化3】

【0021】
一般式(I)で表される化合物は塩を形成する場合がある。塩としては一般的には酸付加塩が形成されるが、酸としては塩酸、硫酸、硝酸などの鉱酸類、又はマレイン酸、酒石酸、リンゴ酸、p-トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸などの有機酸のいずれであってもよい。好ましくは塩酸などの鉱酸の塩を用いることができる。一般式(I)で表される化合物又はその塩は水和物又は溶媒和物を形成する場合があるが、これらの物質も本発明の範囲包含されることは言うまでもない。
【0022】
一般式(I)で表される本発明の化合物はRNA二重鎖核酸及びDNA/RNA二重鎖核酸のメジャーグルーブに結合することができるが、DNA二重鎖核酸のメジャーグルーブには結合しないという性質を有している。RNA二重鎖核酸及びDNA/RNA二重鎖核酸は生理的条件下においてA型二重らせん構造となることが知られており、DNA二重鎖核酸は生理的条件下においてメジャーグルーブの広いB型二重らせん構造となることが知られているが、一般式(I)で表される本発明の化合物はA型二重らせん構造を有する二重鎖核酸(本明細書において「A型二重鎖核酸」と呼ぶ)に対して選択的に結合できる性質を有している。また、一般式(I)で表される本発明の化合物は、A型二重鎖核酸、例えばRNA二重鎖核酸及びDNA/RNA二重鎖核酸に対して選択的に結合して、この結合によりこれらのA型二重鎖核酸を安定化する作用を有している。従って、一般式(I)で表される本発明の化合物はA型二重鎖核酸の安定化剤として用いることができる。例えば、遺伝子の発現調節機能を有するsiRNAやアンチセンスRNAとRNA又はDNAとの複合体を安定化させることができ、これらのRNAの機能を高めることができる。
【0023】
さらに、一般式(I)で表される本発明の化合物は、A型二重鎖核酸に対して結合し、B型二重らせん構造を有する二重鎖核酸(本明細書において「B型二重鎖核酸」と呼ぶ)に対しては実質的に結合しないことから、本発明の化合物を用いてA型二重鎖核酸とB型二重鎖核酸とを識別することが可能になる。このような観点から、本発明の化合物はA型二重鎖核酸に対する選択的結合剤として使用することができ、例えば、本発明の化合物に対して抗腫瘍剤や抗菌剤などの医薬有効成分や核酸類、糖類、脂質類、タンパク質類、ペプチド類、又は金属化合物など所望の物質を結合させることにより、A型二重鎖核酸に該物質を選択的に送達することができる。
【実施例】
【0024】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は下記の実施例に限定されることはない。実施例中、Ac:アセチル基、Bn:ベンジル基、DMAP:ジメチルアミノピリジン、Ms:メタンスルホニル基、NIS:N-ヨードスクシンイミド基、NPCC:p-ニトロフェノキシカルボニルクロライド、Phth:フタロイル基、PMB:p-メトキシベンジル基、PMP:p-メトキシフェニル基、Tf:トリフルオロメタンスルホニル基、TFA:トリフルオロ酢酸、TMS:トリメチルシリル基、Ts:p-トルエンスルホニル基を示す。
【0025】
例1
下記の合成スキームによりグリコシルドナー化合物及びグリコシルアクセプター化合物を製造し、それらを結合したαアノマーから2糖化合物、3糖化合物、及び4糖化合物を製造した。
【0026】
【化4】

【0027】
【化5】

【0028】
【化6】

【0029】
【化7】

【0030】
【化8】

【0031】
【化9】

【0032】
【化10】

【0033】
【化11】

【0034】
【化12】

【0035】
手法A:グリコシル化反応の一般的手法
アルゴン雰囲気下、グリコシルドナー(100 μmol, 2.0 equiv)、グリコシルアクセプター(50 μmol)をトルエン(1 ml)で6回共沸後、N-ヨードスクシイミド(0.0562 g, 250 μmol, 5.0 equiv)を加え、ジクロロメタン-ジエチルエーテル混合溶媒(4:1, v/v, 1 ml)に溶解した。これを攪拌しながら、0℃に冷却した後、トリフルオロメタンスルホン酸(4.4 μl, 50 μmol, 1.0 equiv)を加えた。1時間攪拌後、水(2 μl)を加えた後冷却を止め室温とし、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を1 ml加えた。これを10 mlのクロロホルムで希釈した後分液ロートに移し、15 mlの飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、15 mlの10%チオ硫酸ナトリウム水溶液でそれぞれ1回ずつ洗浄した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、溶媒を減圧留去した。この時点で1H NMRを測定し、生成物のアノマー比を算出した。シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製を行い、グリコシル化生成物のα体を得た。
【0036】
手法B:グリコシル化生成物のアノマー比決定方法
グリコシル化生成物は、2〜4量体いずれの場合においてもα体はH-1が、β体は
H-2がそれぞれ分液操作後の混合物の1H NMRスペクトルにおいて他のシグナルと重ならないため、これらの積分値の比から算出した。
【0037】
手法C:アセチルクロライドによる脱アセチル化
アルゴン雰囲気下、保護糖(36 μmol)をジクロロメタン(0.5 ml)に溶解し、さらにメタノール(2.5 ml)を加えた。攪拌をしながら塩化アセチル(75 μl)を加えた後昇温し、還流下14時間攪拌を続けた。常温まで徐冷した後飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(1 ml)を加え、溶媒を減圧留去した後クロロホルム10 mlに溶解させ、これを飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(10 ml)で3回洗浄した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥し溶媒を留去した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーによって精製を行い、脱アセチル化された保護糖を得た。
【0038】
手法D:ヒドラジンによるフタロイル基の除去及びシュタウディンガー反応によるアジド基の還元
アルゴン雰囲気下、保護糖(14.6 μmol)をナスフラスコに加えたのち、エタノール(1 ml)、ヒドラジン1水和物(25 μl)を順に加えた。攪拌をしながら昇温し、還流状態で1時間経過後、攪拌、加熱を停止した。常温まで徐冷した後溶媒を減圧留去し、クロロホルム(2 ml)を加えてソニケーションを行った。これを濾過し、分液ロート中クロロホルム/水で3回抽出を行い、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、溶媒を減圧留去することで、フタルイミド基がアミノ基に変換された保護糖の混合物を得た。これを20 mlナスフラスコに加えた後、ジオキサン-メタノール混合溶媒(5:1, v/v, 1.8 ml)に溶解した。アルゴン雰囲気下攪拌をしながらトリフェニルホスフィン(0.0714 g, 272 μmol, アジド基1に対し6 equiv)を加えた後、加熱還流を行った。3時間後常温に冷却し、25%アンモニア水溶液(1.8 ml)を加え、密閉し、終夜攪拌を続けた。TLC(iPrOH/25%NH3aq = 9:2, v/v)にて単一の生成物に収束していることを確認し、溶媒を減圧留去した後、水4 ml、0.1 M 塩酸水溶液1 mlを順に加え、1分間ソニケーションを行った。これを濾過し、濾液を30 ml分液ロート中クロロホルム(10 ml)で3回洗浄した後、溶媒を減圧留去した。さらに塩酸を完全に除くため、水を3 ml加えて減圧留去するという操作を3回行うことで、ベンジル保護されたオリゴジアミノ糖を得た。
【0039】
手法E:パラジウムによるベンジル基の還元
保護糖(2.8 μmol)を20 ml二口ナスフラスコに加えた後、5%Pd/C(0.01 g)を加えた。これに水-メタノール混合溶媒(1:1, v/v, 0.1 M HCl, 1.5 ml)を加えた後、水素をバブリングによって加えた。TLC(iPrOH-25%NH3aq(3:1, v/v))にて原料スポットの消失及び単一のスポットへの収束を確認し、減圧留去、さらに水を2 ml加えて減圧留去という操作を4回行った。これをごく少量(0.1 ml程度)のメタノールに溶解し、溶液を3 mlのアセトンに加えることで再沈澱を行った。遠心分離後上澄みを除き、更にアセトンを加えてから同様に遠心分離、上澄みを除く操作を2回行い、得られた沈殿を水に溶解した後凍結乾燥を行うことでオリゴジアミノ糖を得た。
【0040】
フェニル 2-アジド-2-デオキシ-4,6-O-p-メトキシベンジリデン-1-チオ-β-D-グルコピラノシド(10)
アルゴン雰囲気下、9(2.81 g, 9.46 mmol)をアセトニトリル(30 ml)で3回共沸した後アセトニトリル(200 ml)に溶解した。攪拌を行いながらアニスアルデヒドジメチルアセタール(2.0 ml, 11.7 mmol, 1.24 equiv)、トルエンスルホン酸1水和物(0.228 g, 0.98 mmol, 0.1 equiv)を順に加えた。1時間後、さらにアニスアルデヒドジメチルアセタール(1.0 ml, 5.8 mmol, 0.62 equiv)を加え、1時間後トリエチルアミン(1 ml)を加えた。溶媒を減圧留去した後、酢酸エチル(100 ml)に溶解し、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(50 ml)で3回洗浄後、水層を酢酸エチル(30 ml)で1回逆抽出し、有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒を減圧留去後、酢酸エチル-ヘキサン混合溶媒(1:9, v/v)を用いて結晶化した後シリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル:ヘキサン=1:1, v/v)を用いて精製し、10を無色固体で得た(3.33 g, 8.02 mmol, 85%)。
1H-NMR(CDCl3) δ 7.52-7.57(m, 2H, p-MeOPh), 7.33-7.38(m, 5H, SPh), 6.86-6.89(2H, p-MeOPh), 5.47(s, 1H, ベンジリデン-CH), 4.53(d, J = 10.2, 1H, H-1), 4.35(dd, J = 10.7 and 3.9 Hz, 1H, H-6a), 3.72-3.79(m, 5H, H-6b, H-3, OCH3), 3.42-3.49(m, 2H, H-4, H-5), 3.34(t, J = 9.9 Hz, 1H, H-2), 2.71(d, J = 2.8, 1H, 3-OH)
【0041】
フェニル 2-アジド-2-デオキシ-3-O-ベンジル-4,6-O-p-メトキシベンジリデン-1-チオ-β-D-グルコピラノシド(11)
アルゴン雰囲気下、10(3.33 g, 8.02 mmol)をピリジンで4回、トルエンで3回共沸した後、N,Nジメチルホルムアミド20 mlに溶解した。一方、アルゴン雰囲気下、水素化ナトリウム(0.6512 g(60% purity), 16.0 mmol, 2.0 equiv)にヘキサンを加え攪拌後上澄みを捨て、残ったヘキサンを留去するという操作を3回行った後、0 ℃に冷却し、これに10のN,Nジメチルホルムアミド溶液を加えた。N,Nジメチルホルムアミドによる洗いこみを行い、溶媒の合計量は80 mlとなった。攪拌を行いながら臭化ベンジル(1.45 ml, 12.0 mmol, 1.5 equiv)を加え、その直後から常温へ昇温した。1時間後メタノールを気泡が発生しなくなるまで加え、溶媒を減圧留去した。ジクロロメタン、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を100 mlずつ加え、系全体を溶解したのち水層を除き、有機層をさらに飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(100 ml)で2回洗浄した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した後エタノール(1%トリエチルアミン)を用いて再結晶を行い、2次晶まで回収して11を無色固体で得た(3.73 g, 7.38 mmol, 92%)。
1H-NMR(CDCl3) δ 7.50-7.55(m, 2H, p-MeOPh), 7.28-7.39(m, 10H, SPh, PhCH2), 6.86-6.90(m, 2H, p-MeOPh), 5.51(s, 1H, ベンジリデン-CH), 4.89(d, J = 10.7, 1H, PhCH2a), 4.75(d, J = 10.7 Hz, 1H, PhCH2b), 4.47(d, J = 10.1 Hz, 1H, H-1), 4.35(dd, J = 5.0 and 10.5 Hz, 1H, H-6a), 3.72-3.79(m, 4H, H-6b, OCH3), 3.56-3.67(m, 2H, H-4, H-3), 3.31-3.47(m, 2H, H-2, H-5)
【0042】
フェニル 2-アジド-2-デオキシ-3-O-ベンジル-4-O-p-メトキシベンジル-1-チオ-β-D-グルコピラノシド(12)
アルゴン雰囲気下、11(0.121 g, 0.24 mmol)をピリジンで3回、トルエンで3回共沸した後ジクロロメタン(1 ml)に溶解した。攪拌を行いながら-20 ℃に冷却し、ボラン-THF錯体(1 M溶液 in THF)を2.4 ml加えた後トリメチルシリルトリフルオロメタンスルホネート(25 μl, 0.14 mmol, 0.58 equiv)加え、3.5時間攪拌を続けた後トリメチルシリルトリフルオロメタンスルホネート(25 μl, 0.14 mmol, 0.58 equiv)を更に加えた。4時間後、トリエチルアミン(0.2 ml)、メタノール(3 ml)を順次加え、溶媒を留去した。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ジクロロメタン:ヘキサン:メタノール=50:50:0→100:0:0→99:0:1→99:1:0, v/v)によって精製し、12を無色固体で得た(0.108 g, 0.21 mmol, 92%)。
1H-NMR(CDCl3) δ 7.36-7.53(m, 2H, p-MeOPh), 7.16-7.36(m, 10H, SPh, PhCH2), 6.83-6.86(m, 2H, p-MeOPh), 4.86(s, 2H, MeOPhCH2), 4.74(d, J=10.7 Hz, 1H, PhCH2a), 4.55(d, J=10.7 Hz, 1H, PhCH2b), 4.43(d, J=10.2 Hz, 1H, H-1), 3.84(ddd, J = 1.8, 6.3, and 12.1 Hz, 1H, H-6a), 3.66(m, 1H, H-6b), 3.45-3.55(m, 2H, H-3, H-4), 3.28-3.34(m, 2H, H-2, H-5), 1.80(dd, J = 6.3 and 7.4 Hz, 1H, OH-6)
【0043】
フェニル 2-アジド-2-デオキシ-3-O-ベンジル-4-O-p-メトキシベンジル-6-デオキシ-6-フタルイミド-1-チオ-β-D-グルコピラノシド(2)
アルゴン雰囲気下、12(0.254 g, 0.5 mmol)をピリジンで3回共沸乾燥した後、ピリジン(5 ml)に溶解した。常温で攪拌しながら、塩化メタンスルホニル(50 μl, 0.65 mmol, 1.3 equiv)を加えた。4時間後、メタノール(4 ml)を加え、溶媒を減圧留去し、トルエン(3 ml)で2回共沸乾燥を行った後、ジクロロメタンに溶解した。これを飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(20 ml)で3回洗浄し、水層はジクロロメタン(10 ml)を用いて1回逆抽出を行った。回収した有機層を無水硫酸ナトリウムによって乾燥した。溶媒を減圧留去することで13を含む混合物を得た。
【0044】
これをアルゴン雰囲気下、N,Nジメチルホルムアミドを用いて3回共沸操作を行った後、フタルイミドカリウム(0.119 g, 0.60 mmol, 1.2 equiv)、N,N-ジメチルホルムアミド(2.5 mL)を順に加え、攪拌を行いながら昇温し、100℃で15時間攪拌を続けた。加熱を止め常温まで徐冷した後溶媒を減圧留去し、これにジクロロメタン、10%塩化ナトリウム水溶液を加えて全体を溶解した。分液操作によって水層を除き、さらに有機層を10%塩化ナトリウム水溶液で3回洗浄し、水層をジクロロメタンで1回逆抽出した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、濾過後溶媒を留去した。これを、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ジクロロメタン:ヘキサン=7:3→10:0, v/v)によって精製した後ヘキサンを用いて結晶化し、2を無色結晶で得た(0.149 g, 0.235 mmol, 47%)。
1H-NMR(CDCl3) δ 7.70-7.83(m, 4H, NPhth), 6.82-7.35(m, 14H, p-MeOPh, PhCH2, SPh), 4.81-4.90(m, 3H, MeOPhCH2, PhCH2a), 4.65(d, J=10.7 Hz, 1H, PhCH2b), 4.27(d, J=9.9 Hz, 1H, H-1), 3.90(dd, J = 3.3 and 14.0 Hz, 1H, H-6a), 3.74-3.82(m, 4H, H-6b, OCH3), 3.66(dt, J = 3.3(d) and 8.8(t) Hz, 1H, H-5), 3.50(t, J = 9.0 Hz, 1H, H-3), 3.26-3.38(m, 2H, H-2, H-4)
【0045】
フェニル 2-アジド-2-デオキシ-3-O-ベンジル-6-デオキシ-6-フタルイミド-1-チオ-β-D-グルコピラノシド (19)
アルゴン雰囲気下、17(5.417 g, 14.0 mmol)をピリジン(10 mL)で3回共沸乾燥した後、ピリジン(200 ml)に溶解した。-15 ℃で攪拌しながら、塩化メタンスルホニル(1.1 ml, 14.3 mmol, 1.02 equiv)を加えた。反応系を5時間攪拌した後、メタノール(10 ml)を加え、溶媒を減圧留去し、トルエン(10 mL)で2回共沸乾燥を行った後、クロロホルム(100 mL)に溶解した。これを飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(100 mL)で3回洗浄し、無水硫酸ナトリウムを加えて乾燥した。溶媒を減圧留去することで18を含む混合物を得た。
【0046】
これをアルゴン雰囲気下、N,Nジメチルホルムアミド(15 mL)を用いて3回共沸操作を行った後、フタルイミドカリウム(4.89 g, 26.4 mmol)、N,Nジメチルホルムアミド(140 mL)を順に加え、攪拌を行いながら昇温し、100℃で13時間攪拌を続けた。加熱を止め常温まで徐冷した後溶媒を減圧留去し、これにクロロホルム、10%塩化ナトリウム水溶液を加えて全体を溶解した。分液操作によって水層を除き、さらに有機層を10%塩化ナトリウム水溶液(100 mL)で2回洗浄した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、濾過後溶媒を留去した。これを、エタノール(400 mL)を用いて再結晶を行い、二次晶まで回収することで19を無色結晶で得た(5.28 g, 10.2 mmol, 73%)。
1H-NMR(CDCl3)δ 7.74-7.88(m, 4H, NPhth), 7.02-7.51(m, 10H, SPh, Ph-CH2), 4.81-4.86(dd, J = 10.7 and 16.5 Hz, 2H, Ph-CH2), 4.32(d, J = 10.2 Hz, 1H, H-1), 4.16(dd, J = 3.3 and 14.6 Hz, 1H, H-6a), 3.97(dd, J = 4.1 and 14.6 Hz, 1H, H-6b), 3.48-3.54(m, 1H, 5-H), 3.38(t, J = 9.0 Hz, 1H, 3-H), 3.25(m, 1H, 4H), 3.10(dd, J = 9.1 and 10.2 Hz, 1H, 2H)
【0047】
フェニル 4-アセチル-2-アジド-2-デオキシ-3-O-ベンジル-6-デオキシ-6-フタルイミド-1-チオ-β-D-グルコピラノシド (20)
アルゴン雰囲気下、19(5.28 g, 10.2 mmol)をピリジン(100 ml)に溶解し、攪拌を行いながら無水酢酸(1.5 ml, 1.59 mmol, 1.56 equiv)を加えた。3日後、攪拌を止め溶媒を留去し、クロロホルムに溶解した後、分液ロート中これを飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で3回洗浄した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、エタノール(50 ml)を用いて再結晶を行い、1次晶を回収して20を無色固体で得た(5.29 g, 9.5 mmol, 93%)。
1H-NMR(CDCl3)δ 7.72-7.86(m, 4H, NPhth), 6.98-7.42(m, 10H, SPh, Ph-CH2), 4.79-4.90(m, 2H, H-4, Ph-CH2a), 4.63(d, J = 11.3 Hz, 1H, Ph-CH2b), 4.36(d, J = 9.9 Hz, 1H, H-1), 4.00(dd, J = 9.6 and 14.0 Hz, 1H, H-6a), 3.72(dt, J = 2.5(d) and 9.6(t) Hz, 1H, H-5), 3.57(dd, J = 2.5 and 14.0 Hz, 1H, H-6b), 3.49(t, J = 9.3 Hz, 1H, 3-H), 3.35(t, J = 9.3 Hz, 1H, H-2), 2.00(s, 3H, Ac)
【0048】
フェニル 4-アセチル-2,6-ジアジド-2,6-ジデオキシ-3-O-ベンジル-1-チオ-β-D-グルコピラノシド (22)
アルゴン雰囲気下、17(0.194 g, 0.5 mmol)をピリジンで3回共沸乾燥した後、ピリジン(10 ml)に溶解した。-15 ℃で攪拌しながら、塩化メタンスルホニル(43 μl, 0.53 mmol, 1.06 equiv)を加えた。反応系を11時間攪拌した後、メタノール(2 ml)を加え、溶媒を減圧留去し、トルエン(7 mL)で2回共沸乾燥を行った後、クロロホルムに溶解した。これを飽和炭酸水素ナトリウム水溶液15 mL)で3回洗浄し、無水硫酸ナトリウムを加えて乾燥した。溶媒を減圧留去することで18を含む混合物を得た。
【0049】
これをアルゴン雰囲気下、N,Nジメチルホルムアミド(8 mL)を用いて3回共沸操作を行った後、アジ化ナトリウム(0.324 g, 5.0 mmol, 10 equiv)、N,Nジメチルホルムアミド(5 mL)を順に加え、攪拌を行いながら昇温し、80℃で12時間攪拌を続けた。加熱を止め常温まで徐冷した後溶媒を減圧留去した後、酢酸エチル/水(10 ml)系で抽出操作を1回行った後、有機層を水(10 ml)で2回洗浄し、水層は全て集めた後酢酸エチル(20 ml)で逆抽出を1回行った。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥し溶媒を留去することで21を含む混合物を得た。
【0050】
これをアルゴン雰囲気下、ピリジン(5 ml)に溶解し、攪拌を行いながら無水酢酸(75 μl, 0.79 mmol, 1.58 equiv)を加えた。28時間後、攪拌を止め溶媒を留去し、クロロホルムに溶解した後、分液ロート中これを飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で2回洗浄した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、溶媒を留去し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム)によって精製し、22を無色オイルで得た(0.196 g, 0.43 mmol, 86%)。
1H-NMR(CDCl3) δ 7.28-7.62(m, 10H, SPh, Ph-CH2), 4.80-4.90(m, 2H, H-4, Ph-CH2a), 4.62(d, J = 11.3 Hz, 1H, Ph-CH2b), 4.43(d, J = 9.9 Hz, 1H, H-1), 3.47-3.54(m, 2H, H-3, H-5), 3.22-3.39(m, 3H, H-2, H-6), 1.96(s, 3H, Ac)
【0051】
メチル O-(2,6-ジアジド-2,6-ジデオキシ-3-O-ベンジル-α-D-グルコピラノシド) (4)
アルゴン雰囲気下、32(2.00 g, 6.40 mmol)をピリジン(15 ml)で3回共沸した後ピリジン(130 ml)に溶解した。-15 ℃に冷却し、塩化メタンスルホニル(0.50 ml, 6.46 mmol, 1.02 equiv)を加え、7時間攪拌後、メタノール(5 ml)、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(3 ml)を順次加えた。溶媒を減圧留去し、これを酢酸エチル(100 ml)に溶解した。これを飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(50 ml)で3回洗浄し、水層は酢酸エチル(50 ml)で1回逆抽出を行った。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥し、溶媒を減圧留去することで33の混合物を得た。
【0052】
これをアルゴン雰囲気下N,Nジメチルホルムアミド(10 mL)で3回共沸した後、N,Nジメチルホルムアミド(64 ml)に溶解し、アジ化ナトリウム(4.16 g, 64 mmol, 10 equiv)を加え攪拌を行いながら80 ℃まで昇温した。10.5時間後、常温まで徐冷し、溶媒を減圧留去後酢酸エチル(100 ml)に溶解した。これを水(50 ml)で3回洗浄し、水層は酢酸エチル(50 ml)で1回逆抽出を行った。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥し、溶媒を減圧留去した。これをシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ジクロロメタン:ヘキサン=2:1→1:0, v/v)によって精製し、4を薄黄色オイルで得た(1.76 g, 5.3 mmol, 82 %)。
1H-NMR(CDCl3) δ 7.31-7.43(m, 5H, Ph-CH2), 4.99(d, J = 11.2 Hz, 1H, Ph-CH2a), 4.83(d, J = 3.6 Hz, 1H, H-1), 4.67(d, J = 11.6 Hz, 1H, Ph-CH2b), 3.73-3.80(m, 2H, H-3, H-5 or H-6), 3.36-3.55(m, 6H, H-4, OCH3, H-5 or H-6), 2.08(d, J = 2.8 Hz, 1H, OH-4), 3.35(t, 1H, H-2)
【0053】
メチル O-(2,6-ジアミノ-2,6-ジデオキシ-α-D-グルコピラノシド) 塩酸塩 (43)
4(8.0 mg, 24 μmol)を原料として手法Eを用いて、43を無色固体で得た(19.1 μmol, 80%)。
1H-NMR(D2O) δ 5.07(d, J = 3.9 Hz, 1H, H-1), 3.86-3.90(m, 2H, H-3, H-5), 3.22-3.51(m, 6H, H-2, H-4, OCH3, H-6a), 3.17(dd, J = 10.4 and 13.5 Hz, 1H, H-6b)
MALDI-TOF MS: calcd for C7H16N2O4 m/z [M+Na]+: 215.10 Found: 215.30
【0054】
メチル O-((4-O-アセチル-2-アジド-2-デオキシ-3-O-ベンジル-6-デオキシ-6-フタルイミド-α-D-グルコピラノシル)-(1→4)-2,6-dアジド-2,6-ジデオキシ-3-O-ベンジル-α-D-グルコピラノシド) (34)
20 (100 μmol, 56.1 mg)、4 (50 μmol)を原料として手法Aを用いた。シリカゲルカラムクロマトグラフィーは、展開溶媒として酢酸エチル-ヘキサン(3:7)を用い、34を薄黄色オイルで得た(20.4 mg, 26 μmol, 63%)。
1H-NMR(CDCl3)δ7.72-7.88(m, 4H, NPhth), 7.28-7.38(m, 10H, Ph-CH2), 5.61(d, J = 3.9 Hz, 1H, H-1'), 4.95(m, 2H, H-4', Ph-CH2a), 4.80-4.86(m, 2H, Ph-CH2b, Ph-CH2c), 4.74(d, J = 3.3 Hz, H-1), 4.65(d, J = 11.0 Hz, 1H, Ph-CH2d), 3.89-4.00(m, 4H, H-3', H-6a', H-6b', H-3), 3.75(m, 1H, H-5), 3.60-3.66(m, 2H, H-5', H-4), 3.27-3.39(m, 6H, H-2, H-6a, H-2', OCH3), 3.01(dd, J = 4.4 and 13.2 Hz, 1H, H-6b), 2.05(s, 3H, Ac)
【0055】
メチル O-(2-アジド-2-デオキシ-3-O-ベンジル-6-フタルイミド-6-デオキシ-α-D-グルコピラノシル)-(1→4)-2,6-dアジド-2,6-ジデオキシ-3-O-ベンジル-α-D-グルコピラノシド) (36)
34 (0.148 g, 0.19 mmol)を原料として手法Cを用い、シリカゲルカラムクロマトグラフィーの展開溶媒は酢酸エチル-トルエン(1:9, v/v)を用い、36を薄黄色オイルで得た(0.123 g, 0.165 mmol, 88%)。
1H-NMR(CDCl3) δ 7.72-7.88(m, 4H, NPhth), 7.24-7.42(m, 10H, Ph-CH2), 5.51(d, J = 3.9 Hz, 1H, H-1'), 4.83-4.97(m, 5H, H-1, Ph-CH2), 4.10(dd, J = 3.3 and 14.6 Hz, 1H, H-6a'), 3.85-4.04(m, 4H, H-3', H-5', H-6', H-3), 3.71-3.78(m, 2H, H-3, H-5), 3.35-3.56(m, 8H, H-4', H-6b, H-2, OCH3 , H-6a, OH-4'), 3.21(dd, J = 4.1 and 10.2 Hz, 1H, H-2)
【0056】
メチル O-((2,6-ジアミノ-2,6-ジデオキシ-3-O-ベンジル-α-D-グルコピラノシル)-(1→4)-2,6-ジアミノ-2,6-ジデオキシ-3-O-ベンジル-α-D-グルコピラノシド) 塩酸塩 (46)
36(10.8 mg, 14.6 μmol)を原料として手法Dを用い、46を無色オイルで得た(12.3 μmol, 84%)。
1H-NMR(D2O) δ 7.38-7.45(m, 10H, Ph-CH2), 5.64 (d, J = 3.3 Hz, 1H, H-1'), 5.14(d, J = 3.9 Hz, 1H, H-1), 4.68-4.89(m, 4H, Ph-CH2), 4.38(dd, J = 8.0 and 10.5 Hz, 1H), 4.13-4.19(m, 2H), 3.78-3.94(m, 3H), 3.70(t, J = 8.0 Hz, 1H), 3.31-3.56(m, 8H)
【0057】
メチル O-((2,6-ジアミノ-2,6-ジデオキシ-α-D-グルコピラノシル)-(1→4)-2,6-ジアミノ-2,6-ジデオキシ-α-D-グルコピラノシド 塩酸塩 (45)
46(5.2 μmol)を原料として手法Eを用い、45を無色個体で得た(2.0 μmol, 38%)。
1H-NMR(D2O)δ 5.78(d, J = 3.3 Hz, 1H, H-1'), 5.09(d, J = 3.6 Hz, 1H, H-1), 4.03-4.18(m, 2H, H-5, H-3), 3.76-3.88(m, 3H, H-4, H-5', H-3'), 3.38-3.53(m, 8H, H-2', H-6a, H-6a', H-2, OCH3, H-4'), 3.24-3.48(m, 2H, H-6b, H-6b')
MALDI-TOF MS: calcd for C13H28N4O7 m/z [M+Na]+: 375.19 Found: 375.79
【0058】
メチル O-((4-O-アセチル-2-アジド-2-デオキシ-3-O-ベンジル-6-デオキシ-6-フタルイミド-α-D-グルコピラノシル)-(1→4)-(2-アジド-2-デオキシ-3-O-ベンジル-6-デオキシ-6-フタルイミド-α-D-グルコピラノシル)-(1→4)-2,6-ジアジド-2,6-ジデオキシ-3-O-ベンジル-α-D-グルコピラノシド) (37)
20 (0.209 mmol, 0.117 g)、36 (0.139 mmol, 0.103 g)を原料として手法Aを用いた。シリカゲルカラムクロマトグラフィーは、展開溶媒としてトルエン-酢酸エチル(9:1)、酢酸エチル-ヘキサン(7:13)の順に用い、37を無色オイルで得た(0.105 g, 88 μmol, 63%)。
1H-NMR(CDCl3) δ 7.57-7.90(m, 8H, NPhth), 7.31-7.57(m, 15H, Ph-CH2), 5.59(d, J = 3.9 Hz, 1H, H-1''), 5.49(d, J = 3.6 Hz, 1H, H-1'), 4.71-5.05(m, 8H, H-1, Ph-CH2, H-4''), 4.34(t, J = 8.7 Hz, 1H, H-5''), 4.09-4.17(m, 3H), 3.87-3.98(m, 3H), 3.54-3.75(m, 5H), 3.23-3.43(m, 8H), 3.14(dd, J = 3.6 and 10.2 Hz, 1H, H-2'), 2.98(dd, J = 4.1 and 13.5 Hz, 1H), 2.07(s, 3H, Ac)
【0059】
メチル O-((2-アミノ-2-デオキシ-3-O-ベンジル-6-デオキシ-6-フタルイミド-α-D-グルコピラノシル)-(1→4)-(2-アミノ-2-デオキシ-3-O-ベンジル-6-デオキシ-6-フタルイミド-α-D-グルコピラノシル)-(1→4)-2,6-dアジド-2,6-ジデオキシ-3-O-ベンジル-α-D-グルコピラノシド) (38)
37 (81.8 mg, 69 μmol)を原料として手法Cを用いた。シリカゲルカラムクロマトグラフィーの展開溶媒は酢酸エチル-トルエン(3:17, v/v)を用い、38を無色オイルで得た(69.2 mg, 60 μmol, 88%)。
1H-NMR(CDCl3)δ7.65-7.91(m, 8H, NPhth), 7.29-7.46(m, 15H, Ph-CH2), 5.57(d, J = 3.3 Hz, 1H, H-1' or H-1''), 5.47(d, J = 4.1 Hz, 1H, H-1' or H-1''), 4.79-5.07(m, 6H, Ph-CH2,), 4.80(d, J = 10.2Hz, 1H, H-1), 4.27(m, 1H), 3.91-4.09(m, 6H), 3.25-3.84(m, 14H), 3.03(J = 3.9 and 10.5 Hz, dd, 1H, H-2' or H-2'')
【0060】
メチル O-((2,6-ジアミノ-2,6-ジデオキシ-3-O-ベンジル-α-D-グルコピラノシル)-(1→4)-(2,6-ジアミノ-2,6-ジデオキシ-3-O-ベンジル-α-D-グルコピラノシル)-(1→4)-2,6-ジアミノ-2,6-ジデオキシ-3-O-ベンジル-α-D-グルコピラノシド) 塩酸塩 (47)
38(9.8 mg, 8.5 μmol)を原料として手法Dを用いた後、逆相HPLCによって精製を行った。溶媒を減圧留去後0.1 M塩酸を1 ml加えソニケーションを行い、溶媒を留去した後水を加え留去するという操作を2回行い、47を無色オイルで得た(2.80 μmol, 33%)。逆相HPLCは水-アセトニトリル系(0.05% TFA)で行い、0〜70分:(水:アセトニトリル=100:0→65:35)、70〜85分:(水:アセトニトリル=65:35→50:50)で、60.06分のピークを分取した。
1H-NMR(D2O) δ 7.20-7.42(m, 15H, Ph-CH2), 5.48(d, J = 1.9 Hz, 1H, H-1' or H-1''), 5.35(d, J = 3.6 Hz, 1H, H-1' or H-1''), 5.10(d, J = 3.6 Hz, 1H, H-1), 4.71-4.99(6H, Ph-CH2), 4.51-4.57(m, 3H), 4.07-4.28(m, 6H), 3.80-3.88(m, 1H), 3.74(t, J = 8.5 Hz, 1H), 3.36-3.60(m, 10H), 3.15-3.22(m, 2H)
【0061】
メチル O-((2,6-ジアミノ-2,6-ジデオキシ-α-D-グルコピラノシル)-(1→4)-(2,6-ジアミノ-2,6-ジデオキシ-α-D-グルコピラノシル)-(1→4)-2,6-ジアミノ-2,6-ジデオキシ-α-D-グルコピラノシド) 塩酸塩 (42)
47(2.80 μmol)を原料として手法Eを用い、42を無色固体で得た(1.37 μmol, 49%)
1H-NMR(D2O)δ5.78-5.83(2d, J = 3.9 Hz, 3.9 Hz, 2H, H-1', H-1''), 5.10(d, J = 3.6 Hz, 1H, H-1), 4.03-4.24(m, 4H), 3.80-3.94(m, 4H), 3.28-3.55(m, 13H)
MALDI-TOF MS: calcd for C19H40N6O10 m/z [M+Na]+: 535.27 Found: 536.02
【0062】
メチル O-((4-O-アセチル-2-ジアジド-2-ジデオキシ-3-O-ベンジル-6-デオキシ-6-フタルイミド-α-D-グルコピラノシル)-(1→4)-(2-ジアジド-2-ジデオキシ-3-O-ベンジル-6-デオキシ-6-フタルイミド-α-D-グルコピラノシル)-(1→4)-2-ジアジド-2-ジデオキシ-3-O-ベンジル-6-デオキシ-6-フタルイミド-α-D-グルコピラノシル)-(1→4))-2,6-dアジド-2,6-ジデオキシ-3-O-ベンジル-α-D-グルコピラノシド) (39)
20 (0.209 mmol, 0.117 g)、38 (0.139 mmol, 0.103 g)を原料として手法Aを用いた。シリカゲルカラムクロマトグラフィーの展開溶媒はトルエン-酢酸エチル(9:1)、酢酸エチル-ヘキサン(7:13)の順に用い、39を無色オイルで得た(0.105 g, 88 μmol, 63%)。
1H-NMR(CDCl3) δ 7.59-7.88(m, 12H, NPhth), 7.30-7.36(m, 20H, Ph-CH2), 5.55(d, J = 3.9 Hz, 1H, H-1' or H-1''), 5.44-5.48(2d, 3.6 Hz, 3.9 Hz, 2H, H-1' or H-1'' , H-1'''), 4.73-5.03(m, 10H, H-1, Ph-CH2, H-4''), 4.08-5.03(m, 4H), 3.71-3.96(m, 7H), 3.15-3.98(m, 13H), 3.09(dd, J = 3.6 and 10.3Hz, 1H, H-2' or H-2''), 3.00(dd, J = 4.4 and 13.5 Hz, 1H), 1.97(s, 3H, Ac)
【0063】
メチル O-(2-アジド-2-デオキシ-3-O-ベンジル-6-デオキシ-6-フタルイミド-α-D-グルコピラノシル)-(1→4)-(2-アジド-2-デオキシ-3-O-ベンジル-6-デオキシ-6-フタルイミド-α-D-グルコピラノシル)-(1→4)-(2-アジド-2-デオキシ-3-O-ベンジル-6-デオキシ-6-フタルイミド-α-D-グルコピラノシル)-(1→4)-2,6-dアジド-2,6-ジデオキシ-3-O-ベンジル-α-D-グルコピラノシド (40)
39 (53.3 mg, 33 μmol)を原料として手法Cを用いた。シリカゲルカラムクロマトグラフィーの展開溶媒は酢酸エチル-トルエン(1:6, v/v)を用い、40を無色オイルで得た(36.6 mg, 23.6 μmol, 71%)。
1H-NMR(CDCl3) δ 7.64-7.91(m, 12H, NPhth), 7.31-7.42(m, 20H, Ph-CH2), 5.33-5.53(3d, J = 3.9 Hz, J = 3.6 Hz, J = 3.9 Hz, 3H, H-1', H-1'', H-1'''), 4.72-5.14(m, 9H, H-1, Ph-CH2), 4.43(t, 1H), 4.11-4.29(m, 4H), 3.54-4.04(m, 11H), 3.26-3.46(m, 10H), 3.11(dd, J = 1H, J = 3.6 and 10.2 Hz, H-2' or H-2'' or H-2'''), 3.01(dd, J = 3.9 and 13.5 Hz, 1H)
【0064】
メチル O-((2,6-ジアミノ-2,6-ジデオキシ-3-O-ベンジル-α-D-グルコピラノシル)-(1→4)-(2,6-ジアミノ-2,6-ジデオキシ-3-O-ベンジル-α-D-グルコピラノシル)-(1→4)-(2,6-ジアミノ-2,6-ジデオキシ-3-O-ベンジル-α-D-グルコピラノシル)-(1→4))-2,6-ジアミノ-2,6-ジデオキシ-3-O-ベンジル-α-D-グルコピラノシド) 塩酸塩 (49)
40(13.7 mg, 8.8 μmol)を原料として手法Dを用いた後、逆相HPLCによって精製を行った。溶媒を減圧留去後0.02 M塩酸を5 ml加えソニケーションを行い、溶媒を留去した後水を加え留去するという操作を4回行い、49を無色オイルで得た(2.82 μmol, 32%)。逆相HPLCは水-アセトニトリル系(0.05% TFA)で行い、0〜25分:(水:アセトニトリル=100:0→75:25)、25〜65分:(水:アセトニトリル=75:25→65:35)、(水:アセトニトリル=65:35→50:50)で、40.96分のピークを分取した。
1H-NMR(D2O) δ 7.31-7.46(m, 20H, Ph-CH2), 5.46-5.62(3d, J = 2.8 Hz, J = 3.0 Hz, J = 2.5 Hz, 3H, H-1', H-1'', H-1'''), 5.16(d, J = 3.9 Hz, 1H, H-1), 4.69-4.94(8H, Ph-CH2), 4.33-4.49(m, 4H), 4.02-4.26(m, 7H), 3.67-3.80(m, 4H), 3.32-3.57(m, 12H)
【0065】
メチル O-((2,6-ジアミノ-2,6-ジデオキシ-α-D-グルコピラノシル)-(1→4)-(2,6-ジアミノ-2,6-ジデオキシ-α-D-グルコピラノシル)-(1→4)-(2,6-ジアミノ-2,6-ジデオキシ-α-D-グルコピラノシル)-(1→4)-2,6-ジアミノ-2,6-ジデオキシ-α-D-グルコピラノシド) 塩酸塩 (50)
49(2.82 μmol)を原料とし手法Eを用い、50を無色固体で得た(2.59 μmol, 93%)。
1H-NMR(D2O)δ 5.81-5.87(m, 3H, H-1', H-1'', H-1'''), 5.11(d, J = 3.6 Hz, 1H, H-1), 4.10-4.34(m, 6H), 3.82-3.96(m, 5H), 3.31-3.60(m, 16H)
MALDI-TOF MS: calcd for C25H52N8O13 m/z [M+Na]+: 695.36 Found: 695.80
【0066】
例2
例1で得られたオリゴジアミノ糖(1糖43、2糖45、3糖42、4糖50)を用いて、二重鎖核酸との相互作用を分光学的手法により解析した。測定方法としては、CDスペクトル、及びUVによる融解温度解析を選択した。CDスペクトルは、そのスペクトルの変化から二重鎖の構造変化を、融解温度(Tm)解析からは、その融解温度によって二重鎖の安定性、淡色効果によって核酸塩基のスタッキングの程度についての情報を得ることができる。
【0067】
核酸の二重らせん構造はいくつか種類が知られているが、生体内において大半が二重らせんの状態で存在するDNAは、生理的条件においてB型のらせん構造を有することが知られている。また、RNA二重鎖はB型二重らせん構造よりも狭いメジャーグルーブを有するA型二重らせん構造を有することも知られている。本発明の化合物とA型らせん構造を有するRNA二重鎖、B型らせん構造を有するDNA二重鎖それぞれについて相互作用の解析を行った。下の実験は、特に断りがない限りpH 6.91の100 mM 塩化ナトリウム、10 mM リン酸バッファー中で行い、CDスペクトルは全て25℃において測定を行った。またオリゴジアミノ糖は全て塩酸塩を用いた。
【0068】
標的RNAとして、r(CGCGAAUUCGCG)2 (以下I)、 r(AACCCGCGGGUU)2 (以下II)の2種類の自己相補的な12量体のRNAを用いて実験を行った。これらは自己相補的なRNAであるため実験操作が簡易であり、各塩基を2つ以上含み、組成の偏りが少ない。また、IとIIは塩基組成は同一であり、配列のみが異なる。
【0069】
12量体の二重鎖核酸の場合、二重らせん1つあたり11対、22個のリン酸部位が存在する、そのため、全てのリン酸部位とアミノ基が結合する為には、1糖43では11当量(二重鎖核酸に対しての当量)、2糖45では6当量、3糖42では4当量、4糖50では3当量が必要となる。特にTmの比較において各糖のアミノ基の当量を揃える必要があるため、その際にはこれらの当量を基準とし、1糖43については12当量用いた。
【0070】
比較のため、核酸との相互作用が既に知られている含アミノ糖化合物であるネオマイシン及びトブラマイシンについても同様の測定を行った。ネオマイシンはアミノ基を6個、トブラマイシンはアミノ基を5個有することから、比較は「分子としての当量を揃える」か、あるいは「アミノ基の当量を揃える」かのいずれかによって比較する必要がある。ネオマイシンについてはいずれについても比較可能であるが、トブラマイシンは有するアミノ基が5個であることから、アミノ基の当量を揃えて比較することはできない。従って、トブラマイシンについては分子としての当量を揃えて比較を行なった。
【0071】
【化13】

【0072】
IのCDスペクトルはA型二重らせん構造に特有の265 nm付近にコットン効果による大き
な正のピークが現れるのが特徴である。図1(A)及び(B)に示すように1糖43、2糖45や3糖42、4糖50を加えた系において強度が順に8、14、9、24%増大し、特に3糖42や4糖50を加えた系において2 nmほど長波長側へのシフトが起こった。これはオリゴジアミノ糖を加えたことによりRNA二重鎖の構造が変化したことを示している。次に、4糖50の当量による変化を観測したところ図1(C)のようになった。ピーク強度の増大は1当量加えた時点ですでに17%増大しており、それ以降の変化は比較的小さいが、ピークのシフトは1当量で1 nm、2当量で1.6 nmと、2当量加えた段階でもさらにシフトしていた。
【0073】
比較のためネオマイシンについても同様の測定を行った(図2)。この場合も265 nm付近の正のピークがやや長波長側に移動しており、3糖42や4糖50を加えた系と同様の変化が観測された。このことから、オリゴジアミノ糖の場合と類似した構造変化が起こっていることが示唆された。
【0074】
IIのCDスペクトルについても同様の測定を行なった。1糖43、2糖45を加えた系においては変化はほとんど観測されなかった。一方、3糖42、4糖50を加えた系においては265 nm付近の正のピークの長波長側への0.5 nm程度のわずかなシフトが観測された他、210 nm付近の負のコットン効果によるピーク強度がそれぞれ25%、30%増大した(図3(A))。次に、3糖42の当量による変化を測定したところ(図3(B))、当量が増加するごとに210 nm付近のピーク強度が増大するという結果が得られた。これらの結果より3糖42、4糖50を加えることでオリゴジアミノ糖によるIIの構造の変化が起こっていることが示唆された。I及びIIにおけるいずれの変化も、A型→B型のような根本的ならせん構造の変化によって生じるCDスペクトルの変化と比較すると、わずかな変化であるといえる。従って、これらの結果は、オリゴジアミノ糖とRNA二重鎖が相互作用し、RNA二重らせんの小さな構造変化を伴いながら結合したことを示唆している。
【0075】
Tm曲線を図4に示す。1糖43、2糖45を加えた系ではTm曲線にほぼ変化はないが、3糖42や4糖50を加えた系においてはTm曲線が大きく変化していた。これらの系においてはTmの値が3糖42を4当量加えた際に4.1 ℃、4糖50を3当量加えた際に7.9 ℃と大きく上昇しているだけでなく、温度上昇に伴う吸光度の上昇度合いも顕著に増大していた。そこで、Tm、吸光度の上昇度の2つの要素について比較することとした。1〜4糖、及び天然のアミノグリコシド系抗生物質であるネオマイシン、トブラマイシンについてTm曲線を測定し、それを基に算出したTm、及び吸光度の温度変化率を表1に示す。なお、本明細書におけるTmは、特に断りがない限り全て中線法によって求めた値である。
【0076】
【表1】

【0077】
Tmについては、オリゴジアミノ糖の糖鎖長が長くなるにつれ、融解温度が上昇していた。これは、糖鎖長が長くなることにより1分子あたりのアミノ基の数が増えることで、1分子あたりのリン酸部位との結合数が増加することが主な要因と考えられる。すなわち、3糖42や4糖50は、RNAのリン酸部位と結合可能なアミノ基を多く有するため、結合する際の協同効果が増大することで強く結合し二重鎖を安定化することができる。アミノグリコシド系抗生物質については、1分子あたりのアミノ基の数に注目して考えると、トブラマイシンがIのTmの上昇にあまり寄与しなかったのはアミノ基が3糖42と比較してもさらに少なかったことが主要因として考えられる。また、同じように分子内に6個のアミノ基を有するのにも関らず3糖42よりネオマイシンの方が強いTmの上昇効果を示したが、これはネオマイシンは分子中に4個の環構造を有し分子長としてはむしろ4糖50に近く、これがIのグルーブにフィットする際に有利であったと考えられる。
【0078】
吸光度の変化率についてもTmの値の変化とほぼ対応しており、糖鎖長が長くなるにつれ増大し、淡色効果が増大していることがわかる。これらの測定結果はCDスペクトルの変化とも対応しており、265 nm付近のピーク位置が移動した3糖42や4糖50、ネオマイシンにおいてTm、淡色効果の増大が見られる。すなわち、オリゴジアミノ糖による二重鎖と構造変化を伴って相互作用し、その構造変化は核酸塩基対間のスタッキングの増大を伴うものであること、及びそれにより二重鎖が安定化したことが示された。
【0079】
IIについても、図5(A)に示すように、4糖50を加えた系においてTm曲線の大きな変化が観測された。図5(A)及び(B)に示すように、吸光度の温度変化率が1糖43、2糖45ではほとんど変化せず、3糖42、4糖50と糖鎖長が長くなるにつれ顕著に増大する傾向はIの場合と同様であった。表2にTmを示す。
【0080】
【表2】

【0081】
糖鎖長が長くなることでTmの上昇に寄与するようになる傾向はIの場合と同様であるが
、1〜4糖、ネオマイシン、トブラマイシンの全ての系において、Tmの変化量は小さかった。これは、IIのTmが77.7 ℃でありI(Tm = 63.9 ℃)と比較して熱安定性が高いため、オリゴジアミノ糖やアミノグリコシド類による安定化の寄与を受けにくかったためと考えられるが、アミノグリコシド類と比較してもオリゴジアミノ糖によるTmの変化は著しく小さかった。3糖42によるTmの変化がほとんど観測されず、さらにネオマイシンによるTmの上昇度がアミノ基が同当量の条件下で比較した場合に4糖50によるTmの上昇度を若干上回っており、各分子4当量の条件で比較しても同程度であることがわかる。
【0082】
次に上記のI及びIIのRNAにそれぞれ相当するDNAとしてd(CGCGAATTCGCG)2 (以下III)、d(AACCCGCGGGTT)2 (以下IV)との相互作用について分析を行った。IIIのCDスペクトルを図6(A)に示す。オリゴジアミノ糖を加えたことによるコットン効果のピーク位置の移動や、強度の変化は観測されなかった。これはオリゴジアミノ糖を加えたことによるDNA二重鎖の構造変化が起こらなかったことを示している。IVのCDスペクトルを図6(B)に示す。この場合においても、IIIの場合と同様に顕著な変化は観測されなかったため、DNA二重鎖の構造変化は起こらなかったと考えられる。
【0083】
次にIII及びIVについてのTm曲線を図7(A)及び(B)にそれぞれ示す。いずれの場合もTmについても有意な変化はなかったが、Tm曲線における吸光度の変化率については有意な上昇が観測された。これらのデータを表3及び4に示す。
【0084】
【表3】

【0085】
【表4】

【0086】
III、IVいずれの配列のDNAに対してもある程度の淡色効果の増大をもたらすことが確認された。二重鎖の安定性、構造には変化が観測されなかったことから、オリゴジアミノ糖が二重鎖と相互作用したとは考えにくい。よって1本鎖に解離したDNAと相互作用し、1本鎖DNAの核酸塩基同士の相互作用を阻害することで、高温領域における吸光度を上昇させていたと考えられる。
【0087】
IVについて、より静電相互作用が強く働きうる条件として低塩濃度下で同様の実験を行なった。リン酸バッファーの濃度、溶液のpHは変えずに、塩化ナトリウムの濃度を100 mMから0 mMに変えて各実験を行った(図8(A))。CDスペクトルでは、265 nm付近だけではなく280 nm付近にも正のピークが観測され、100 mM塩化ナトリウム下とは異なる構造を有していることが示唆された。この条件でのTm測定ではTm曲線において明確な変曲点は観測されなっかった(図8(B))。これらの結果から、低塩濃度下ではDNAは単一の二重らせん構造をとっておらず、複数の状態が混在しているものと考えられる。
【0088】
オリゴジアミノ糖を加えるとCDスペクトルにおいて280 nm付近の正のピークが小さくなることがわかった。3糖42、4糖50を加えた場合このピークはほぼ消失し、さらにTm曲線も明確な変曲点、すなわちTmを示すようになった。また、オリゴジアミノ糖を加えたことにより得られるCDスペクトルの形状は、100 mM塩化ナトリウム存在下におけるDNAのスペクトル(図6(B))と類似していた。これらの結果から、低塩濃度下で単一の構造を有していないDNAに対しオリゴジアミノ糖を加えると、DNAが生理的条件下と同様な単一の二重らせん構造をとることが示された。一方、4糖50を4当量加えた系においては、Tm測定の低温度下において極端な吸光度の減少が起こっていた。これは1つのオリゴジアミノ糖が複数のDNAの核酸塩基と結合することで、凝集体が形成されたことを示している。
【0089】
糖鎖長が短い1〜3糖を加えた場合のCDスペクトルを図9に示す。4糖50の場合に類似した変化が2糖45、3糖42を加えた場合においても観測されていたが、その変化は小さかった。さらに、1糖43を加えた系においては変化が観測されなかった。この結果は、オリゴジアミノ糖によるDNAの2重らせんへの誘起が、単に塩濃度の増加の結果起こったものではないことを示している。すなわち、低塩濃度条件下二重らせんを形成していないDNAに鎖長の長いオリゴジアミノ糖を加えることで、生理的条件下のようならせん構造を構築させることが可能であるという協同効果が観測されたといえる。
【0090】
以上のとおり、オリゴジアミノ糖、特に3糖42、4糖50はRNA二重鎖と相互作用して構造変化を引き起こし、安定性を向上させることがわかった。一方、同様の条件においてDNA二重鎖に対してはTmの上昇及び構造変化を伴うような相互作用は観測されなかった。
【0091】
例3
例2と同様にして、RNA二重鎖及びDNA/RNA二重鎖との相互作用を検討した。以下の実施例中、RNA鎖の前には"r"を付し、DNA鎖の前には"d"を付して表記した。例えば、(rA6U6)2は5'rA6U63'/5'rA6U63'を示す。
【0092】
12量体のRNA/RNA二重鎖(5'rA6U63'/5'rA6U63')のTm曲線及びTm曲線における吸光度の変化率を図10及び表5に示す。A及びUのみで構成されているRNA二重鎖は融解温度が低いため、本発明のオリゴジアミノ糖を加えたことにより顕著なTm上昇が生じた。図11及び表6には12量体のRNA/RNA二重鎖(5'rA123'/5'rU123')のTm曲線及びTm曲線における吸光度の変化率を示す。RNA/RNA二重鎖(5'rA123'/5'rU123')についてもRNA/RNA二重鎖(5'rA6U63'/5'rA6U63')と同様の結果が得られた。図12及び表7には24量体のRNA/RNA二重鎖(5'rA243'/5'rU243')のTm曲線及びTm曲線における吸光度の変化率を示す。24量体RNA/RNA二重鎖についても12量体RNA/RNA二重鎖と同様にオリゴジアミノ糖の添加によりTmの上昇が認められた。
【0093】
【表5】

【0094】
【表6】

【0095】
【表7】

【0096】
12量体のDNA/RNA二重鎖(5'dA123'/5'rU123')のTm曲線及びTmを図13及び表8に示す。DNA/RNA二重鎖に対してもTmの上昇が観測された。Tmの上昇はRNA二重鎖の場合よりも小さかった。このDNA/RNA二重鎖についてはTmが低いため吸光度の温度変化率を算出せずにTmを微分法により算出した。
【0097】
【表8】

【0098】
12量体のRNA/DNA二重鎖(5'rA123'/5'dT123')のTm曲線及びTm曲線における吸光度の変化率を図14及び表9に示す。RNA/DNA二重鎖に対してもTmの上昇が観測された。RNA鎖がホモプリンの場合にはRNA鎖がホモピリミジンの場合よりもTmが高いことから、オリゴジアミノ糖の添加によるTm上昇は小さかった。
【0099】
【表9】

【0100】
24量体のDNA/RNA二重鎖(5'dA243'/5'rU243')のTm曲線及びTm曲線における吸光度の変化率を図15及び表10に示す。12量体に比べて2倍の鎖長を有するDNA/RNA二重鎖ではTmが顕著に上昇した。
【0101】
【表10】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の一般式(I):
R1-O-(X)n-R2
(式中、R1は水素原子又は一価の置換基を示し、R2は水素原子又は一価の置換基を示し、nは3ないし6の整数を示し、n個のXは同一でも異なっていてもよく、それぞれ独立に下記の式(a)ないし(i):
【化1】

で表される二価の基から選択される)
で表される化合物又はその塩。
【請求項2】
R1が水素原子であり、R2が水素原子又は置換基を有していてもよいアルキル基である請求項1に記載の化合物又はその塩。
【請求項3】
Xが(a)ないし(f)で表される二価の基である請求項1又は2に記載の化合物又はその塩。
【請求項4】
n個のXがいずれも(a)で表される二価の基である請求項1又は2に記載の化合物又はその塩。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載の一般式(I)で表される化合物又はその塩を含むA型二重鎖核酸の安定化剤。
【請求項6】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載の一般式(I)で表される化合物又はその塩を含むA型二重鎖核酸に対する選択的結合剤。
【請求項7】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載の一般式(I)で表される化合物又はその塩とA型二重鎖核酸との複合体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−106933(P2012−106933A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−56885(P2009−56885)
【出願日】平成21年3月10日(2009.3.10)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】