説明

オリゴヌクレオチドを用いた車両識別標識及び車両鑑識方法

この発明は、オリゴヌクレオチドを用いた車両識別標識及び車両鑑識方法に係り、より詳しくは、相転移剤と結合されたオリゴヌクレオチド誘導体と、これを標識体として用いる車両識別または鑑識方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、オリゴヌクレオチドを用いた車両識別標識及び車両鑑識方法に係り、より詳しくは、相転移剤(PTA:Phase Transfer Agent)と結合されたオリゴヌクレオチド誘導体と、これを標識体として用いる車両識別または鑑識方法に関する。
【背景技術】
【0002】
オリゴヌクレオチドはその量が極めて微量であっても、重合酵素連鎖反応(PCR:Polymerase Chain Reaction)を通じて同じ塩基配列を有するオリゴヌクレオチドとして大量増幅が可能であり、増幅されたオリゴヌクレオチドの塩基配列を分析することにより、極微量として存在する元のオリゴヌクレオチドの塩基配列を究められるという独自のメリットを有している。
【0003】
このメリットから、かかるオリゴヌクレオチドをオイルやペイント、食品、火薬及び高価の芸術作品などの各種の材料または商品に極微量加えることにより、これらの材料や商品の製造元、運搬経路または芸術作品の真偽が正確に確認可能である。
【0004】
オリゴヌクレオチドは、中性条件下での脱量子化(deprotonation)により負の電荷を帯びるという特性があるため、多数のフォスフォジエステル(phosphodiester)結合よりなるオリゴヌクレオチドそのものは強い親水性(hydrophilic property)を示す。
【0005】
このため、オリゴヌクレオチドそのものは水溶液に容易に溶けるものの、通常の有機溶媒ではほとんど溶けなくなる。かかる性質は、オリゴヌクレオチドの水溶液を製造する場合にはあまり問題視されないが、オリゴヌクレオチドを有機溶媒中に溶解させる場合には難溶性の問題を引き起こす。
【0006】
一方、この種のオリゴヌクレオチドを物体の標識(labelling)体として用いる方法が、WO87/06383、WO90/14441、WO91/17265及びWO94/04918に提案されている。
【0007】
例えば、WO87/06383には、ヌクレオチドを標識体として使用可能であることが開示されている。ところが、この文献には、DNA増幅や塩基配列の分析(Sequencing)による物体の識別方法は全く開示されておらず、親水性であるDNAを有機溶媒に溶解する方法も記載されていない。
【0008】
例えば、WO90/14441には、親水性オリゴヌクレオチドをオイルに溶かすために、界面活性剤(detergent)を用いて有機層にオリゴヌクレオチドを導入する技術が開示されている。しかしながら、この文献に開示された技術は、特定のプライマーを用いて増幅有無を検出することによりDNAの存否を確かめることに留まっており、DNAの塩基配列の識別・標識機能については全く言及がない。
【0009】
例えば、WO91/17265、WO90/14441に開示された特定のプライマーにより遺伝子が増幅されることにより塩基配列が確かめられるということが開示され、且つ、オリゴヌクレオチドが固相の支持体や物質と共有結合できるということが記載されている。しかしながら、この文献に記載された内容は、ヌクレオチドをペイントやオイルに直接的に結合した場合には、オリゴヌクレオチドの抽出回収段階で共有結合を切る必要があり、これは、塩基の変形を招く結果となる。その結果、遺伝子の増幅段階で正確な配列に増幅されないという不具合が生じ、その商業化には無理がある。
【0010】
例えば、WO94/04918には、より改善された方法により遺伝子を増幅して塩基配列を分析し、オリゴヌクレオチドの他に2種以上の発光体または発色化合物を標識体として用いる技術が開示されている。
【0011】
しかしながら、この方法もまた、オリゴヌクレオチドの水酸基または塩基のアミン基の反応性を考慮しておらず、水酸基やアミン基部分の反応に起因して、重合酵素連鎖反応(PCR)や塩基配列の分析が行われるときに元の塩基配列を有するオリゴヌクレオチドが得られないという不具合がある。
【0012】
また、これらの文献に開示された方法は、オリゴヌクレオチドをペイントやオイルなどに利用できるという旨は言及されているものの、これを用いて車両をDNA配列情報として暗号化して元の車両を追跡及び確認できる方法については具体的に開示されていない。
【0013】
本願出願人は、かかる従来の技術における限界点を克服するために、親油性溶媒に対する溶解度を高めたオリゴヌクレオチドと、これを用いる物体識別または鑑識方法を提案している(大韓民国特許出願第2001−0037253号公報参照)。
【0014】
しかしながら、この文献には、自動車用塗膜材料と最適の相溶化性を有するオリゴヌクレオチドが提案または示唆されておらず、しかも、自動車用塗膜に加えられて車両の識別標識や鑑識標識として用いられて好適なオリゴヌクレオチドが提案されていない。
【0015】
上記の如き事情から、交通の混雑化と車両の増加が原因となって交通事故が増えつつある近年において、オリゴヌクレオチドを車両の塗膜に標識物質として用いることにより、交通事故を引き起こした事故車両が逃走時に車両を効率よく追跡及び確認できる方法の開発が切望されている。
【0016】
そこで、本発明の目的は、相転移剤(PTA:Phase Transfer Agent)と結合されたオリゴヌクレオチドよりなる車両用識別標識を提供することにある。
本発明の他の目的は、1)有機溶媒中において相転移剤と暗号配列領域を有するオリゴヌクレオチドとの間に結合を形成する段階と、2)相転移剤が結合されたオリゴヌクレオチドに反応性遮断保護基を結合して反応性を除去する段階と、3)前記反応性が除去されたオリゴヌクレオチドを車両用塗布物質に加える段階と、4)前記車両用塗布物質を車両に塗布する段階と、を含む車両識別標識方法を提供することにある。
【0017】
本発明のさらに他の目的は、1)相転移剤と結合された暗号配列領域を有するオリゴヌクレオチドを反応性遮断基で保護した標識体により標識された車両からの採取物質から前記標識体を抽出する段階と、2)この抽出された標識体から、オリゴヌクレオチドに結合された反応性遮断基を除去する段階と、3)前記オリゴヌクレオチドの塩基配列を分析する段階と、4)3)において分析された配列を有する標識により標識された車両を検索する段階と、を含む車両鑑識方法を提供することにある。
【発明の開示】
【0018】
これらの諸目的は、相転移剤(PTA:Phase Transfer Agent)と結合されたオリゴヌクレオチドよりなる車両用識別標識を提供することにより達成される。
本発明において、前記オリゴヌクレオチドとしては、暗号配列領域と暗号配列領域の両側に結合された公知の重合酵素連鎖反応用(PCR用)プライマーよりなるものを使用する。
【0019】
本発明において、前記オリゴヌクレオチドを車両用塗布物質に加える段階は、自動車塗色用染料、自動車用コーティング液、自動車用ラッカー、自動車コーティング用ペイントなどの車両関連の油性製品に加えてこれを車両に塗布することにより、車両に標識を行う。
【0020】
本発明において、前記オリゴヌクレオチドとしては、反応性遮断基により保護されたオリゴヌクレオチド誘導体を使用することがさらに好ましく、前記オリゴヌクレオチドの暗号配列領域としては、10〜50の塩基対の長さを有するものが使われる。
【0021】
本発明において、相異なる配列を有するオリゴヌクレオチドよりなる車両鑑識標識体をそれぞれ2種以上組み合わせて使用することができ、好ましくは、相異なる配列を有するオリゴヌクレオチドよりなる車両識別標識体をそれぞれ3種組み合わせて使用することができる。
【0022】
本発明の相転移剤としては、4級アンモニウム塩を有する化合物または正イオン系の界面活性剤(cationic surfactant)が使われ、好適な実施例においては、テトラブチルアンモニウムハイドロパーオキシドまたはヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロマイドが使われる。
【0023】
相転移剤と結合されたオリゴヌクレオチド誘導体は、1)有機溶媒中において相転移剤とオリゴヌクレオチドとの間にイオン結合を形成することにより、相転移剤が結合されたオリゴヌクレオチドを得る段階と、2)相転移剤が結合されたオリゴヌクレオチド結合体にハロゲン化アシルなどの反応性遮断保護基を結合して反応性を除去する段階と、を含む方法により得られる。
【0024】
この相転移剤は、4級アンモニウム塩を有する化合物または正イオン系の界面活性剤(cationic surfactant)の構造を有するため、負イオン系のオリゴヌクレオチドとイオン結合を形成してオリゴヌクレオチドの負イオンの荷電状態を相殺する。前記触媒と結合して荷電が相殺されたオリゴヌクレオチドは、水溶性から脂溶性へと切り換えられて有機溶媒に溶解可能となる。
【0025】
このように、有機溶媒に溶ける性質を有するオリゴヌクレオチドを有機溶媒に入れて油性ペイントなどの親油性製品に混合すれば、分散が均一になされて極めて低濃度のオリゴヌクレオチドを含む親油性物体が得られる。
【0026】
前記段階1)において得られた相転移剤と結合されたオリゴヌクレオチドは、有機溶媒下においてオリゴヌクレオチドの糖の5’または3’の水酸基または塩基のアミン基をハロゲン化アシル(acyl halide)などの反応性遮断保護基と反応させて、水酸基部分はエステル化させ、塩基のアミン基はアミド化させる。
【0027】
前記ハロゲン化アシルは、有機溶媒の種類またはオリゴヌクレオチドの用途に応じて適宜に選択することができる。例えば、オリゴヌクレオチドをペイントに単に溶解させたい場合には、反応性がない置換体を有するハロゲン化アシル(例:アセチルクロライド)を用いて反応性を遮断し、長時間に亘っての流失を防止するためにペイントの構成樹脂との化学的な結合が求められるときには、化学結合が誘導できる反応性を有するハロゲン化アシル(例:アクリロイルクロライド)を用いることが好ましい。
【0028】
さらに、上記の反応性遮断保護基は、窒素とアミド結合をして酸素とエステル結合をするカルボニル化合物、N−SiとO−Si結合をするシラニル化合物、N−SとO−Si結合をするスルホニル化合物、N−CとO−C結合をするが、アンモニア処理時にN−CとO−C結合が切断できる飽和炭化水素、芳香族炭化水素、不飽和炭化水素、ヘテロ原子入り飽和炭化水素またはヘテロ原子入り不飽和炭化水素よりなる群から選ばれる。
【0029】
その理由は、段階1)において得られた相転移剤と結合されたオリゴヌクレオチドを油性製品とそのまま混合すれば、油性製品の種類に応じて前記油性製品と化学反応を起こし、以降のオリゴヌクレオチドの回収段階において前記オリゴヌクレオチドがそのまま回収されないという不具合があるためである。
【0030】
したがって、本発明においては、前記相転移剤が結合されたオリゴヌクレオチドを油性物質に加える前に、ハロゲン化アシルなどの反応性遮断保護基を導入して反応を遮断して油性物質内における化学的な安定性を確保することにより、油性物質との化学結合によるオリゴヌクレオチドの亡失を減らすことができる。
【0031】
本発明の他の目的は、1)有機溶媒中において相転移剤と暗号配列領域を有するオリゴヌクレオチドとの間に結合を形成する段階と、2)相転移剤が結合されたオリゴヌクレオチドに反応性遮断保護基を結合して反応性を除去する段階と、3)前記反応性が除去されたオリゴヌクレオチドを車両用塗布物質に加える段階と、4)前記車両用塗布物質を車両に塗布する段階と、を含む車両識別標識方法を提供することによって達成される。
【0032】
本発明のさらに他の目的は、1)相転移剤と結合された暗号配列領域を有するオリゴヌクレオチドを反応性遮断基で保護された標識体により標識された車両からの採取物質から前記標識体を抽出する段階と、2)この抽出された標識体から、オリゴヌクレオチドに結合された反応性遮断基を除去する段階と、3)前記オリゴヌクレオチドの塩基配列を分析する段階と、4)3)において分析された配列を有する標識により標識された車両を検索する段階と、を含む車両鑑識方法を提供することによって達成される。
【0033】
本発明の方法において、前記オリゴヌクレオチドとしては、暗号配列領域と暗号配列領域の両側に結合された公知の重合酵素連鎖反応用(PCR用)プライマーよりなるものを使用する。
【0034】
本発明の方法において、前記オリゴヌクレオチドとしては、反応性遮断基により保護されたオリゴヌクレオチド誘導体を使用することが一層好ましく、前記オリゴヌクレオチドの暗号配列領域としては、10〜50の塩基対の長さを有するものを使用することができる。
【0035】
本発明の方法において、相異なる配列を有するオリゴヌクレオチドよりなる標識体を2種以上組み合わせて使用することができ、好ましくは、相異なる配列を有するオリゴヌクレオチドよりなる標識体を3種組み合わせて使用することができる。
【0036】
また、本発明の方法は、前記重合酵素連鎖反応による増幅後に、増幅されたオリゴヌクレオチドをベクター(vector)にクローニングする段階をさらに含むことができる。
本発明による有機溶媒に溶解される相転移剤と結合されたオリゴヌクレオチド及びこれらを反応性遮断基により保護したオリゴヌクレオチド誘導体と相転移剤間の結合体は、各種のオイル、ペイント、食品、セキュリティシステム及び車両など各種の分野に標識体(Marker)として応用することができる。
【0037】
特定の塩基配列を有するオリゴヌクレオチドを車両標識体として車両の外部塗膜に用いる場合、車両塗色用ペイントと混合して車両に塗色することにより、交通事故を起こした車両が逃げ出した場合、車両から外された小さなペイント破片からオリゴヌクレオチドを分離して重合酵素連鎖反応により増幅した後、前記オリゴヌクレオチドの塩基配列を分析すれば、前記塩基配列に該当する車両を追跡することができる。
【0038】
この方法において、オリゴヌクレオチド配列は、アデニンA、シトシンC、グアニンG、チミンTの4種類の塩基の組み合わせにより暗号(識別標識)機能を行うことができる。例えば、オリゴヌクレオチドの長さを40塩基対にすれば、両末端の15個の塩基対部分はそれぞれ重合酵素連鎖反応(PCR)による増幅時にプライマーが付く鋳型配列として知られた塩基配列にし、中間の10塩基対部分は前記4種の塩基から選んで組み合わせれば、410通りの場合の数が得られる。このため、10塩基対の長さのオリゴヌクレオチドは、410通りの暗号配列の役割が果たせることになり、物体ごとに暗号配列領域を相異なる塩基配列よりなるオリゴヌクレオチドを用いて標識することが可能となる。
【0039】
このため、物体から採取したオリゴヌクレオチドを増幅した後に塩基配列を分析すれば、暗号配列領域の塩基配列に該当する元の物体が鑑識可能となる。
また、車両のように検索すべき物体が極めて多数である場合には、第1のオリゴヌクレオチド、第2のオリゴヌクレオチド、第3のオリゴヌクレオチドを組み合わせて使用することができる。各オリゴヌクレオチドの暗号配列領域が10塩基対であれば、410通りの組み合わせが得られ、3種類のオリゴヌクレオチドの暗号配列領域を組み合わせれば、410×410×410通りの場合の数が得られる。その結果、いくら多数の車両であっても、これらの組み合わせを用いて確認することが可能となる。
【0040】
ここで、前記3種のオリゴヌクレオチドの両末端の15塩基対は、相異なるプライマーが使用できるように設計することが好ましく、かかる末端の配列を中間の暗号配列領域の配列と異ならせて設計する必要がある。
【0041】
塩基配列の組み合わせにより得られた暗号配列領域を有するオリゴヌクレオチドを標識体として用いる場合、オリゴヌクレオチドの標識方法及びオリゴヌクレオチド標識体の分析による暗号配列領域の認識方法は、下記の通りである。
【0042】
本発明において、オリゴヌクレオチドの塩基配列は、重合酵素連鎖反応(PCR)による増幅を考慮して設計する。詳しくは、暗号配列を与える部分は、10個の塩基対の組み合わせにより10塩基対のオリゴヌクレオチドを合成(410通りの識別標識が与えられる)し、その両側には塩基配列が既に知られている15塩基対のオリゴヌクレオチドを連結して結果的に40塩基対のオリゴヌクレオチドを合成する。塩基配列が既に知られている両末端の15塩基対部分は、重合酵素連鎖反応を行うときに前方向のプライマーと後方向のプライマーに対する鋳型の役割を果たす。標識すべき対象に応じて、暗号配列領域部分(10mer)の塩基配列を10塩基対以上に長くすることにより暗号配列領域の場合の数を増やすことができ、一層多くの対象に識別標識を与えることができる。
【0043】
使用しようとするオリゴヌクレオチドは、下記の通りに設計した。
1)暗号配列領域の配列デザイン
基本的なデザインアルゴリズムは、スミス(smith)らの方法に基づいている。まず、各オリゴマーごとに固有の暗号配列領域の配列をランダムに作る。暗号配列を局部整列(local alignment)して暗号配列間に類似性が存在するものは排除させ、互いに交差混成化(cross hybridization)を起こすものも排除する(Smith, T.F., and M.S. Waterman, 1981. Identification of common molecular subsequences. J. Mol. Biol. 147, 195-197)。
【0044】
このような過程を動的プログラミング(dynamic programming)方法により実現した。また、類似性の測定時に使われた変数は、ミスマッチペナルティ(mismatch penalty)3、マッチスコア(match score)10、ギャップペナルティ(gap penalty)3であった。これらの過程を通じて得られた局部整列(local alignment)値が75よりも低いものだけを取った。前記過程を通じて暗号配列領域のオリゴマー配列を生成し、その結果をデータベース化した。
【0045】
2)縁部の配列デザイン
前記1)の方法と同様にして15塩基対(15mer)のオリゴマー配列をランダムに作った後、これらのうち溶融点(Tm: Melting Temperature)が50〜55℃となる塩基配列だけを選んだ。このとき、溶融点は隣接頻度(nearest-neighbor)方法により求めた(Breslauer, K.J., Frank, R., Blocker,H., and Marky,L.A. , 1986, Predicting DNA duplex stability from the base sequence. Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 83, 3746-3750)。この方法は、グアニン−シトシン値(GC値:Guanine-Cytosine content value)に基づく方法よりも正確であると知られている。
【0046】
このようにして得られたオリゴマーは、重合酵素連鎖反応(PCR)による増幅時に互いに交差混成化(cross hybridization)を起こす場合、実験に致命的な結果を招くことがある。このため、前記不具合を解決するために、前方向のプライマーと後方向のプライマーとの間に局部整列(local alignment)を行い、その値が50よりも低いオリゴマーを取った。また、左側のオリゴマー(前方向のプライマー)値(FOR)と暗号領域の配列値と右側のオリゴマー(後方向のプライマー)値(REV)間の合計が100よりも低いものだけを最終的に選んで互いに交差混成化(cross hybridization)を起こさないようにした。このときに使われた変数は、ミスマッチペナルティ(mismatch penalty)5、マッチスコア(match score)10、ギャップペナルティ(gap penalty)5であった。
【0047】
このようにしてデザインされたオリゴヌクレオチドを自動オリゴヌクレオチド合成装置を用いて合成及び精製した後、オリゴヌクレオチド水溶液と有機溶媒(トルエンまたはエチルエーテル)を相転移剤(PTA)と一緒に入れて十分に混合し、層分離を行った後で有機溶媒層だけを分離し、水溶液層にオリゴヌクレオチドが紫外線(UV)に露出しなくなるまでこれらの過程を繰り返した。
【0048】
これらの過程により得られた相転移剤と結合されたオリゴヌクレオチドは有機溶媒に対して均一相を形成し、極めて低濃度にて有機溶媒内に分散されることができる。これにより、既存の水溶性のオリゴヌクレオチドを手軽に脂溶性のものに切り換えることができる。
【0049】
前記相転移剤と結合されたオリゴヌクレオチドは、親油性物質、例えば、自動車塗布用ペイント、ラッカー、道路車線表示用ペイント、石油、ペイント希釈剤、火薬、天然オイル、建築用ペイント、有機溶媒、接着剤、油性染料、肉類及び海産物などの油性製品から選んで使用することができる。
【0050】
しかしながら、相転移剤と結合されたオリゴヌクレオチドの塩基のアミン基や酸素及び糖の水酸化基は、親油性物質の種類に応じて前記親油性物質と反応性を有するため、前記オリゴヌクレオチドを親油性物質に直ちに混合すれば親油性物質と化学反応を起こし、今後のオリゴヌクレオチドの回収段階において前記オリゴヌクレオチドが正常に回収されないという不具合がある。
【0051】
このため、前記相転移剤と結合されたオリゴヌクレオチドを親油性物質に加える前に、ハロゲン化アシルなどの反応性遮断保護基を導入して親油性物質と反応できる部分を先に保護することにより反応性を遮断することが好ましい。本発明においては、前記相転移剤と結合されたオリゴヌクレオチドに導入するハロゲン化アシルとして、反応性がない置換体を有するアセチルクロライド、またはペイントの構成樹脂と強く化学結合をする置換体を有するアクリロイルクロライドを使用した。これにより、下記の実施例でのように、元のオリゴヌクレオチドはいずれも回収することができた。
【0052】
相転移剤と結合されたオリゴヌクレオチド誘導体を親油性物質に加えた後、これらからさらにオリゴヌクレオチドを回収する方法は、下記の通りである。例えば、相転移剤が結合されたオリゴヌクレオチド誘導体入りペイント破片からオリゴヌクレオチドを抽出する過程は、ペイント破片を有機溶媒により処理して微量のオリゴヌクレオチド誘導体を溶解して抽出した後、抽出されたオリゴヌクレオチド誘導体をアンモニアにより処理して反応性遮断保護基を除去することにより、元のオリゴヌクレオチドが有していたフォスフォジエステルの構造に戻す。
【0053】
このようにして抽出されたオリゴヌクレオチドから元の自動車を追跡及び確認する方法は、下記の通りである。アンモニアにより処理して保護基を除去して得られたオリゴヌクレオチドを鋳型として重合酵素連鎖反応を行い、増幅する。このとき、40塩基対(40mer)の塩基配列のうち両末端の15塩基対(15mer)はその配列が知られているため、その塩基配列に合わせて製作されたプライマーをそれぞれ前方向のプライマーと後方向のプライマーとして用いて重合酵素連鎖反応を行った後に増幅し、増幅された産物に対して塩基配列の分析反応を行うことにより、中央に位置する10塩基対(10mer)の塩基配列を検出してその配列に該当する識別標識により標識された自動車を追跡及び確認する。このような過程を経て物体の出処を確認することができる。
【0054】
以下、実施例を挙げて本発明の構成を一層具体的に説明するが、本発明の範囲が下記の実施例に限定されることはない。
【実施例1】
【0055】
オリゴヌクレオチドの濃度決定
ペイントに加えるオリゴヌクレオチドの濃度を決めるために、40塩基対(40mer)の長さを有するオリゴヌクレオチドを合成して10pモール/μlから1ztモール/μlまで10倍を段階的に希釈して重合酵素連鎖反応により増幅を行った。増幅後、その産物をアガロースゲルで電気泳動し、その結果を図3に示す。図3から、オリゴヌクレオチドの濃度が1ztモールである場合にも重合酵素連鎖反応による増幅が円滑に行われていることが確認できた。
【0056】
このため、この実施例においては、ペイントに加えるオリゴヌクレオチドの量及びペイント破片からオリゴヌクレオチドを分離するときに失われる量を考慮してペイントと混合するオリゴヌクレオチドの濃度を100atモールに定め、次回の実験に使用した。図3において、各レーンはオリゴヌクレオチドの濃度を示すものであって、レーン1は10pモール、レーン2は1pモール、レーン3は100ftモール、レーン4は10ftモール、レーン5は1ftモール、レーン6は100atモール、レーン7は10atモール、レーン8は1atモール、レーン9は1atモール、レーン10は100ztモール、レーン11は10ztモール、レーン12は1ztモールを示す。
【実施例2】
【0057】
相転移剤によるオリゴヌクレオチドの有機溶媒に対する溶解性の検査
所望の塩基配列を有するオリゴヌクレオチドを自動オリゴヌクレオチド合成装置を用いて合成及び精製した。次いで、オリゴヌクレオチド水溶液とトルエンまたはエチルエーテルなどの有機溶媒に相転移剤と共に十分に混合して層分離を行った後、有機溶液層だけを分離し、水層に存在するオリゴヌクレオチドが紫外線(UV)に露出されなくなるまでこれらの過程を繰り返し行った。相転移剤としてテトラブチルアンモニウムヒドロキシドとヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロマイドを用いて紫外線(UV)光の吸収による検査を行った。その結果、相転移剤を入れなかったときにはいずれも水層(5ml)だけに溶解されていたオリゴヌクレオチドが、相転移剤を加えた後には、有機溶媒層(トルエンまたはエチルエーテル5ml)から抽出されることが確認できた。
【0058】
有機溶媒層の抽出を5回以上(5ml)繰り返し行った後、水層を紫外線(UV)により検査した結果、ほとんどのオリゴヌクレオチドは有機溶媒層に溶解され、水層にはほとんど残留していないことが分かった。また、有機溶媒層に溶けている相転移剤と結合されたオリゴヌクレオチドをマルディ−トフ質量分析機により測定を行った結果、依然として最初のオリゴヌクレオチドであることが確認できた。
【実施例3】
【0059】
オリゴヌクレオチドに保護基を導入するための保護反応実験
有機層に溶解された相転移剤と結合された40塩基対(40mer)のオリゴヌクレオチドをペイントに加える前に、オリゴヌクレオチドを保護するための反応実験を行った。実施例2において得られた相転移剤と結合されたオリゴヌクレオチド入り有機溶媒層を過量のアクリロイルクロライドと反応させた。前記反応を通じて得られた塩を水溶液として抽出して除去した後、有機溶媒層をマルディ−トフ質量分析機を用いて検査し、計算を行った。その計算値によれば、1塩基当たり平均1.8個のアクリロイル基に置換されていた。アクリロイル基はケトンとの2重結合を含んでいるため、ペイントの樹脂成分と付加反応をして共有結合を行うことができる。
【実施例4】
【0060】
相転移剤と結合されたオリゴヌクレオチド誘導体とペイントを混合して塗布し、さらに回収する実験
実施例3の過程を経た相転移剤と結合された40塩基対(40mer)のオリゴヌクレオチド誘導体を自動車用コーティングラッカーと混合した後、塗布して回収する実験を行った。自動車用コーティングラッカーと相転移剤と結合されたオリゴヌクレオチド誘導体を混合してガラスの表面に塗布し、塗布されたラッカーをオーブンにおいて約80℃以上で12時間以上乾燥させた後、室温まで冷却させた。次いで、洗剤と水を使って多数回洗浄を行った。その後、ラッカーからさらにオリゴヌクレオチドを回収するために、残留しているラッカー破片をアセトニトリルとジメチルホルムアミド(dimethylformamide:DMF)により溶かした後、ラッカーとオリゴヌクレオチドの塩基のアミン基と糖の水酸化基に結合された保護基を除去するために、80℃において12時間以上アンモニア処理を施した。その後、エチルエーテルを用いてラッカー成分を抽出して水溶液層だけを得た後、短い逆相(Reverse-Phase)カラムを通させて元のオリゴヌクレオチドの形で回収した。回収されたオリゴヌクレオチドを重合酵素連鎖反応により増幅させた後、増幅された産物をもって塩基配列の分析反応を行った。
【0061】
このオリゴヌクレオチドの重合酵素連鎖反応及び塩基配列を分析する反応を下記の通りに行った。使われた40塩基対(40mer)のオリゴヌクレオチド配列は5’− ccg cga ggt ggt ggt ctt tgc ggc caa gg −3’であった。また、重合酵素連鎖反応には、前方向のプライマーの配列として5’−agc att ttg tgg ggc−3’(15mer)を、後方向のプライマーの配列として5’−ccc ttg gcc gca aag acc acc acc tcg cgg(29mer)−3’が使われた。重合酵素連鎖反応の効率を高めるために後方向のプライマーの配列を15塩基対(15mer)ではなく、29塩基対(29mer)にした。重合酵素連鎖反応により増幅されたオリゴヌクレオチドの塩基配列を分析するために、DNAプレップメートII(DNA PrepMate II、(株)バイオニア製)により精製した後、10%のポリアクリルアミドゲルで直接的な塩基配列の分析(sequencing)反応を行い、塩基配列を分析した。その結果を図4aおよび図4bに示す。図4aは、本発明に従い、アクリロイルクロライドにより保護反応させたオリゴヌクレオチド誘導体を自動車コーティングラッカーと混合して塗布させた後、抽出して重合酵素連鎖反応により増幅し、さらにアガロースゲルで電気泳動した結果を示すものである。図4aより、本発明によりオリゴヌクレオチドが正常に回収されていることが分かる。図4bは、図4aの増幅産物の塩基配列を分析した結果を示す。図4bより、最初の塩基配列と結果として得られた塩基配列が一致していることが分かる。特に、前方向のプライマーと後方向のプライマーを排除した暗号配列領域を示す10個(gtg ata gcc t)の塩基配列が一致していることが確認できるので、これら10個の塩基配列を互いに異なるように識別標識化させることにより、標識体として使用できるということが確認できた。
【0062】
しかしながら、重合酵素連鎖反応による増幅産物を直ちに塩基配列の分析反応に適用した場合に不純物が現れて写真が鮮明ではなく、塩基配列分析プライマーが付く位置の直後の塩基が分析されない現象が見られた。このため、以降には増幅産物を直ちに塩基配列分析せず、ベクター(vector)にクローニングした後に塩基配列の分析反応を行った。
【0063】
最初の塩基配列:5’−agc att ttg tgg ggc gtg ata gcc tcc ttg gcc gca aag a −3’
結果として得られた塩基配列:5’− g ata gcc tcc ttg gcc gca aag acc acc acc −3’
図4aにおいて、Mはサイズマーカ、レーン1からレーン7は100atモール/μlオリゴヌクレオチドにより実験を行った結果を示す。図4bにおいて、左側の4レーンは本発明に従い回収されたオリゴヌクレオチドの塩基配列を、右側の4レーンは対照群であって、自動車コーティング用ラッカーと混合せずにそのまま塩基配列を分析した結果を示す。
【実施例5】
【0064】
アセチル置換体が付いているオリゴヌクレオチド誘導体−相転移剤の結合体をペイントと混合コーティングして回収する実験
アクリロイルクロライドに代えてアセチルクロライドを使用した以外は、実施例3の過程を同様にして実験を行った。その後、相転移剤と結合された40塩基対(40mer)のオリゴヌクレオチド誘導体を実施例4の過程と同様にして重合酵素連鎖反応(PCR)と塩基配列の分析を行った。次いで、前記重合酵素連鎖反応により増幅されたオリゴヌクレオチドの塩基配列を分析するために、DNAプレップメートII((株)バイオニア製)により精製した。次いで、T−ベクターによりクローニングを行い、10%のポリアクリルアミドゲルでT−ベクター内のT7プロモータに相補的なプライマーを使って塩基配列を分析した。その結果を図5aおよび図5bに示す。図5aは、自動車コーティングラッカーと混合してコーティングした後に抽出し、さらに重合酵素連鎖反応により増幅した結果を示す。図5aより、本発明に従いオリゴヌクレオチドが正常に回収されていることが分かる。図5bは、図5aの産物の塩基配列を分析した結果であって、最初の塩基配列と正確に一致していることが分かる。
【0065】
最初の塩基配列:5’−agc att ttg tgg ggc gtg ata gcc tcc ttg gcc gca aag a−3’
結果として得られた塩基配列:5− ggt ggt ctt tgc ggc caa gga ggc tat cac gcc cca caa aat gct−3(後方向にクローニングされる)
分析された塩基配列:5’−agc att ttg tgg ggc gtg ata gcc tcc ttg gcc gca aag acc acc −3’
図5aにおいて、Mはサイズマーカ、レーン1からレーン7は相転移剤と結合されたオリゴヌクレオチド誘導体を自動車用コーティングラッカーと混合した後に回収して重合酵素連鎖反応により増幅した後、アガロースゲルで電気泳動した写真である。図5bは、図5aの産物をこの実施例に従い塩基配列を分析した結果を示すものであって、本発明による塩基配列が最初の配列と一致していることが分かる。
【実施例6】
【0066】
相転移剤と結合されたオリゴヌクレオチドAと相転移剤と結合されたオリゴヌクレオチド誘導体Bをペイントと混合して塗布し、さらに回収する実験
実施例2の反応を経た相転移剤と結合されたオリゴヌクレオチドAと実施例3の過程を経た相転移剤と結合されたオリゴヌクレオチド誘導体Bをペイントの種類を異ならせて混合、乾燥した。次いで、実施例4における方法と同様にして回収を行った後、重合酵素連鎖反応と塩基配列の分析反応を行った。その結果を図6aおよび図6bに示す。図6aにおいて、レーン1は結合体Aをウレタンペイントと混合した後に回収した結果を、レーン2は結合体Aを自動車用コーティングペイントと混合した後に回収した結果を、そしてレーン3は結合体Bを自動車用コーティングペイントと混合した後に回収した結果を示す。これらの図面より、レーン2の結合体Aは正常に回収できなかったことが分かる。その後、塩基配列の分析反応を行って塩基配列を分析した結果は、下記の通りであった。
【0067】
予想される塩基配列:5’−agc att ttg tgg ggc tgc ctg gcg ccc ttg gcc gca aag acc acc acc tcg cgg−3’
レーン1の結果塩基配列A: 5’−agc att ttg tgg ggc tgc ctg gcg ccc ttg gcc gca aag acc acc acc tcg c−3’
レーン3の結果塩基配列B: 5’−agc att ttg tgg ggc tgc ctg gcg gcc cac aaa atc gt−3’
自動車用コーティングペイントと混合した後に回収した結合体Aを、重合酵素連鎖反応による増幅産物を精製する間にアガロースゲルで電気泳動した後、それを観察した。その結果、ゲルでバンドが正常に形成されておらず、T−ベクターを用いてクローニングする間にクローニングが行われていなかった。この実施例において、重合酵素連鎖反応時に使われた前方向のプライマー配列はagc att ttg tgg ggcであり、次の10個(tgc ctg gcg c)の配列は標識体の役割を果たす配列であって、塩基配列が正確に一致していることが確認できた。後方向のプライマーの配列としては、5−cc ttg gcc gca aag acc acc acc tcg cgg−3’(29mer)が使われた。結合体Aはペイントの種類に応じて結果が異なってくるが、ウレタンペイントと混合した場合には回収が容易に行われて以降に塩基配列の分析が円滑に行われ、自動車用コーティングペイントと混合した場合には正常にクローニングされず、塩基配列が分析できなかった。これは、アミン基や酸素部分の保護反応を行わなかったため、オリゴヌクレオチドの塩基が自動車用コーティングペイントと混合時に直接的に反応してしまい、回収が円滑になされていないことを示す。図6bにおいて、左側の4レーンは図6aのレーン1のオリゴヌクレオチド配列を、中央の4レーンはレーン2のオリゴヌクレオチド配列を、そして右側の4レーンはレーン3のオリゴヌクレオチド配列を分析した結果である。
【実施例7】
【0068】
相異なる3種のオリゴヌクレオチドを組み合わせて使用
この実施例においては、相異なる塩基配列よりなる40塩基対(40mer)のオリゴヌクレオチドを組み合わせて使用した。ここで、各オリゴヌクレオチドは相異なるプライマーが使用できるように配列を異ならせ、中央の暗号配列の領域部分も縁部の配列と重ならないように設計した。このように設計された3種のオリゴマー配列は、下記の通りであった。
【0069】
オリゴ配列1: ctg atg ggc cgc aac ctt cag tac att ttg ggc gca cca t
オリゴ配列2: tca ttc ccc gac cgg agc agt cga tgg cgt ttc acc ggg t
オリゴ配列3: cgc gcg gtg ttg aat tca tgg cca gtg gaa cgc ttt ccg c
これらの各3種のオリゴヌクレオチドに対して実施例2および3の過程を行った後、実施例4の方法と同様にして相転移剤と結合された3種のオリゴヌクレオチド誘導体を自動車用コーティングラッカーと混合、塗布して乾燥させた後、塗布されたラッカーからオリゴヌクレオチドを回収した。回収されたオリゴヌクレオチドを重合酵素連鎖反応により増幅し、その結果を図7aに示す。ここで、プライマーとしては、3種のオリゴヌクレオチドに合わせて相異なる3種のプライマー対を使用した。使われたプライマー配列は、下記の通りであった。
【0070】
プライマー1(前方向:ctg atg ggc cgc aac、後方向:atg gtg cgc cca aaa)
プライマー2(前方向:tca ttc ccc gac cgg、後方向:acc cgg tga aac gcc)
プライマー3(前方向:cgc gcg gtg ttg aat、後方向:gcg gaa agc gtt cca)
次いで、重合酵素連鎖反応増幅産物をもって塩基配列の分析反応を行い、その結果を図7bに示す。図7aにおいて、Mはサイズマーカを、レーン1及びレーン2はプライマー1により重合酵素連鎖反応を行った結果を、レーン3及びレーン4はプライマー2により増幅した結果を、そしてレーン5およびレーン6はプライマー3により増幅した結果をそれぞれ示す。また、図7bにおいて、左側の4レーンはオリゴヌクレオチド1を、中央の4レーンはオリゴヌクレオチド2を、右側の4レーンはオリゴヌクレオチド3をそれぞれ示す。塩基配列を分析した結果、元のオリゴヌクレオチドの配列と同じであることが確認できた。このため、3種の相異なるオリゴヌクレオチドを組み合わせて元の配列を確認することができ、実際の適用時には相異なる配列よりなる2種以上の相転移剤と結合されたオリゴヌクレオチド誘導体を組み合わせて使用することができた。これにより、一層多くの組み合わせ数が得られ、その結果、識別対象物体が多い場合に効率よく使用可能となる。
【0071】
産業上の利用可能性
本発明は、暗号配列領域を有するオリゴヌクレオチドと相転移剤が結合された車両鑑識標識体を用いた車両識別標識及び鑑識方法を提供するものである。
【0072】
本発明によれば、有機溶媒に溶解される相転移剤と結合されたオリゴヌクレオチド誘導体を各種の親油性物質に加えると、以降にこれらの物体からオリゴヌクレオチドを抽出して分析することにより、物体を追跡及び確認することができる。つまり、前記相転移剤と結合されたオリゴヌクレオチド誘導体をペイントに加えて車両に塗布すれば、以降に少量のペイント破片から暗号配列を検出して元の車両が追跡可能となるために極めて有用であり、且つ、これと類似した各種の用途としても応用可能である。
【0073】
本発明の方法によれば、交通事故を起こした事故車両が逃げ出したとき、車両から外されたペイント破片から事故車両を追跡することができ、交通事故後の逃げ出し事件の発生を抑えられ、且つ、逃げ出し車両の摘発に対する決定的な証拠を確保することができる。
【0074】
以上、本発明の特定の実施例について説明したが、発明の範囲内で発明の思想から離れないで種々の変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】オリゴヌクレオチドを有機溶媒に溶かし、ペイントに適用した後にさらに回収する過程を示す概略図である。
【図2】オリゴヌクレオチドの塩基部分や5’と3’位置のアルコールなどがアミド及びエステル結合をしたオリゴヌクレオチド誘導体と相転移剤との結合体を示す図である(Rは、ペイントの成分と用途に応じて、飽和炭化水素、芳香族炭化水素、不飽和炭化水素、ヘテロ原子入り飽和または不飽和炭化水素である)。
【図3】オリゴヌクレオチドを濃度別に希釈して重合酵素連鎖反応(PCR)を行った後、アガロースゲルで電気泳動した写真である。
【図4a】アクリロイルクロライドにより保護反応させたオリゴヌクレオチド誘導体と相転移剤をペイントと混合して塗布し、さらに回収して重合酵素連鎖反応(PCR)を行った後、アガロースゲルで電気泳動した写真である。
【図4b】図4aのオリゴヌクレオチドの塩基配列を分析した写真である。
【図5a】アセチルクロライドにより保護反応させたオリゴヌクレオチド誘導体と相転移剤をペイントと混合して塗布し、さらに回収して重合酵素連鎖反応を行った後、アガロースゲルで電気泳動した写真である。
【図5b】図5aのオリゴヌクレオチドの塩基配列を分析した写真である。
【図6a】相転移剤と結合されたオリゴヌクレオチドAおよび相転移剤と結合されたオリゴヌクレオチド誘導体Bをペイントと混合して塗布し、さらに回収してそれぞれ重合酵素連鎖反応を行った後、アガロースゲルで電気泳動した写真である。
【図6b】図6aの結合体Aと結合体Bの塩基配列を分析した結果を示す図である。
【図7a】相異なる塩基配列よりなる3種のオリゴヌクレオチド誘導体−相転移剤(PTA)の結合体を同時にペイントと混合して物体に塗布し、さらに回収して重合酵素連鎖反応を行った後、アガロースゲルで電気泳動した写真である。
【図7b】図7aの3種のオリゴヌクレオチド誘導体−相転移剤の結合体に対して塩基配列を分析した結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
相転移剤と結合されたオリゴヌクレオチドよりなる車両用識別標識。
【請求項2】
前記車両用識別標識は、自動車塗色用染料、自動車用コーティング液、自動車用ラッカー及び自動車コーティング用ペイントよりなる群から選ばれる物質に加えられることを特徴とする請求項1記載の車両用識別標識。
【請求項3】
前記オリゴヌクレオチドは、暗号配列領域と暗号配列領域の両側に結合されたPCR(重合酵素連鎖反応)に使われるプライマーよりなることを特徴とする請求項1記載の車両用識別標識。
【請求項4】
前記暗号配列領域は、10〜50の塩基対よりなることを特徴とする請求項3記載の車両用識別標識。
【請求項5】
前記オリゴヌクレオチドは、相異なる塩基配列を有する2種以上のオリゴヌクレオチドが組み合わせられてなることを特徴とする請求項1記載の車両用識別標識。
【請求項6】
前記オリゴヌクレオチドは、相異なる塩基配列を有する3種のオリゴヌクレオチドが組み合わせられてなることを特徴とする請求項5記載の車両用識別標識。
【請求項7】
前記オリゴヌクレオチドに反応性遮断保護基がさらに結合されたことを特徴とする請求項1記載の車両用識別標識。
【請求項8】
1)有機溶媒中で相転移剤と暗号配列領域を有するオリゴヌクレオチドとの間に結合を形成する段階と、
2)相転移剤が結合されたオリゴヌクレオチドに反応性遮断保護基を結合して反応性を除去する段階と、
3)前記反応性が除去されたオリゴヌクレオチドを車両用塗布物質に加える段階と、
4)前記車両用塗布物質を車両に塗布する段階と、を含む車両識別標識方法。
【請求項9】
1)相転移剤と結合された暗号配列領域を有するオリゴヌクレオチドを反応性遮断基により保護した標識体により標識された車両からの採取物質から前記標識体を抽出する段階と、
2)この抽出された標識体から、オリゴヌクレオチドに結合された反応性遮断基を除去する段階と、
3)前記オリゴヌクレオチドの塩基配列を分析する段階と、
4)3)において分析された配列を有する標識により標識された車両を検索する段階と、を含む車両鑑識方法。
【請求項10】
前記塩基配列を分析する前に、前記標識のオリゴヌクレオチドを重合酵素連鎖反応により増幅する段階をさらに含むことを特徴とする請求項9記載の車両鑑識方法。
【請求項11】
前記オリゴヌクレオチドを増幅する段階後に、増幅されたオリゴヌクレオチドをベクター(vector)にクローニングする段階をさらに含むことを特徴とする請求項10記載の車両鑑識方法。
【請求項12】
前記標識は、相異なる塩基配列を有する2種以上のオリゴヌクレオチドが組み合わせられてなることを特徴とする請求項9記載の車両鑑識方法。
【請求項13】
前記標識は、相異なる塩基配列を有する3種のオリゴヌクレオチドが組み合わせられてなることを特徴とする請求項12記載の車両鑑識方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2006−502731(P2006−502731A)
【公表日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−545054(P2004−545054)
【出願日】平成15年10月16日(2003.10.16)
【国際出願番号】PCT/KR2003/002162
【国際公開番号】WO2004/035831
【国際公開日】平成16年4月29日(2004.4.29)
【出願人】(505140373)バイオニア コーポレイション (5)
【Fターム(参考)】