説明

オルニチンを含有するニンニク発酵物

【課題】様々な生体調節機能や薬理効果を有するニンニクを原料に乳酸菌で発酵して、様々な生理機能を有するオルニチンを高含量たらしめた植物性食品素材を提供すること、そして、当該植物性食品素材たるオルニチン高含有ニンニク発酵物を用いた飲食品を提供すること。
【解決手段】アルギニンを高度に含有するニンニクを原料とする破砕処理物をペディオコッカス・ペントサセウスで発酵することにより、オルニチンを高度に含有するニンニク発酵物を生産する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物の中でアルギニンを顕著に含有するニンニクを乳酸菌で発酵することにより得られる、オルニチンを高度に含有するニンニク発酵物(以下オルニチン高含有ニンニク発酵物という)及び当該ニンニク発酵物を用いた飲食品に関する。
【背景技術】
【0002】
アルギニン含有物を乳酸菌で発酵して、オルニチンを含量する食品素材又は飲食品を生産するものとして、穀粉、水、アルギニン及びペディオコッカス属の乳酸菌を混合して発酵させた、活性乳酸菌含有パン用発酵種によるパンの作成方法(特許文献1参照)やペディオコッカス属の乳酸菌をアルギニン含有培地で培養して得られる培養物又はその処理物を滅菌処理して得られる風味改良剤(特許文献2参照)、L−アルギニンを構成アミノ酸として含む蛋白質及び/又はペプチド含有物を、L−アルギニン遊離活性を有するラクトバチルス属又はラクトコッカス属の乳酸菌と、アルギニンデイミナーゼ経路を有するラクトバチルス属又はラクトコッカス属の乳酸菌を用いて発酵する、L−オルニチンを含有する乳製品等の製造方法(特許文献3参照)が開示されている。
【0003】
ところでニンニクは、上記オルニチン発酵生産の基質となり得るアルギニンを、その可食部(鱗茎)100g中に1300mgも含有する植物性食品素材であり(非特許文献1参照)、通常の野菜と同様に摂取するとすれば、必須ミネラルの一つであるセレンの良い供給源ともなる(非特許文献2)。そして、調理等でこの鱗茎構成細胞を破壊すると、鱗茎内細胞に局在するアリインに、維管束細胞に局在するC−Sリアーゼ(アリイナーゼ、アリインリアーゼ)が作用して、アリシンを生成する。生成したアリシンは、非酵素反応により速やかにジアリルトリスルフィド、ジアリルジスルフィド、メチルアリルトリスルフィド及びアリルメチルジスルフィド等の抗発がん性、抗変異原性及び抗遺伝毒性等を有するアリルスルフィドに変換される(非特許文献3参照)。また、アリシンはビタミンBと結合し、ビタミンB分解酵素であるアノイリナーゼ(チアミナーゼ)の作用を受け難い、腸内でのビタミンBの効力が高いアリチアミンとなる(非特許文献4)。
【0004】
また、上記オルニチンは非必須アミノ酸の一つであり、成長ホルモンの分泌促進、アンモニア代謝の向上、免疫力の向上及びポリアミン生産等の様々な生理機能を有し(非特許文献5参照)、このようなオルニチンの生理機能を利用したものとして、オルニチン又はその塩を有効成分として含有する寝つき又は寝起き改善用経口剤、冷え性改善剤、肌質改善用経口剤及びそれらの飲食品又は食品添加剤等がこれまでに開示されている(特許文献4、5及び6参照)。
【0005】
更にまた、加熱したニンニクを乳酸菌で乳酸発酵した、チロシナーゼ阻害活性やSOD活性を向上した発酵物(特許文献7参照)やニンニク加工処理物にトマト加工処理物を添加した混合物を乳酸菌で発酵させた乳酸発酵物(特許文献8参照)も開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−68441号公報
【特許文献2】特表2007−029719号公報
【特許文献3】特開2009−112205号公報
【特許文献4】特開2006−342148号公報
【特許文献5】特開2007−119348号公報
【特許文献6】特開2007−31375号公報
【特許文献7】特開2006−94853号公報
【特許文献8】特開2009−131229号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】科学技術庁資源調査会・資源調査所編、「改訂アミノ酸組成表」大蔵省印刷局、p.54〜55
【非特許文献2】Audrey H. Ensminger,M. E. Ensminger,James E. Konlande,John R. K. Robson,Foods & Nutrition Encyclopedia 2nd Edition Volume 1,CRC Press,1994,p.1054〜1054
【非特許文献3】西川研次郎監修、「食品機能性の科学」産業技術サービスセンター、2008年4月20日発行、p.267〜273
【非特許文献4】渡辺忠雄編、「四訂版 食品学」講談社サイエンティフィク、1989年3月20日発行、p.63〜64
【非特許文献5】小松美穂、「オルニチンの機能性研究」、食品と開発、Vol.40 No.11、2005年11月号、p.62〜64
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以上のようにアルギニンを乳酸菌の被発酵物に添加してのオルニチン発酵やアルギニンを構成アミノ酸として含む蛋白質やアミノ酸を分解しアルギニンを遊離しての乳酸菌によるオルニチン発酵はあるが、アルギニンを豊富に含有するニンニクを原料とし、乳酸菌を用いてオルニチン発酵した、オルニチンを高度に含有する植物性食品素材はない。そこで本発明は、様々な生体調節機能や薬理効果を有するニンニクを原料に乳酸菌で発酵して、様々な生理機能を有するオルニチンを高含量たらしめた植物性食品素材を提供すること、そして、当該植物性食品素材たるオルニチン高含有ニンニク発酵物を用いた飲食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、アルギニンを高度に含有するニンニク破砕処理物をペディオコッカス・ペントサセウスで発酵させると、オルニチン高含有ニンニク発酵物が得られること知り、本発明を開発した。
【0010】
即ち本発明は、ニンニク加工処理物を乳酸菌で発酵することでオルニチン含量を高めた発酵物である。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、様々な生体調節機能や薬理効果を有するニンニクを原料に乳酸菌で発酵して、様々な生理機能を有するオルニチンを高含量たらしめた、香味豊かなニンニク発酵物である。よって、本発明のニンニク発酵物を原料として、オルニチンを含有するニンニク風味の各種飲食品を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明で用いる乳酸菌は、オルニチンを生産する植物性乳酸菌である、ペディオコッカス・ペントサセウス又はペディオコッカス・アシディラクティシであることが好ましく、高度にオルニチンを生産するペディオコカッス・ペントサセウスが特に好ましい。
【0013】
また、本発明で用いるニンニクは、オオニンニク、西洋ニンニク及びヒメニンニク等のいかなる品種のものでも良く、そのニンニク加工処理物は、収穫後洗浄し剥皮したニンニクの鱗茎の破砕物、磨砕物、搾汁液、これらの膜処理物、酵素処理物、濃縮物又は水希釈物等が挙げられる。当該破砕物、磨砕物及び搾汁液は、上記ニンニク鱗茎を水洗浄しブランチングした後、スライサー、ダイサー、クラッシャー、コミトロール、マスコロイダー、パルパーフィニッシャー及びフィルタープレス等を単独又は組み合わせて調製し、当該膜処理物は上記破砕物等を精密濾過や限外濾過をして調製することができる。また、当該酵素処理物は上記破砕物等にセルラーゼ、ヘミセルラーゼ又はペクチナーゼ等の植物細胞崩壊酵素を添加して酵素分解し調製することができ、当該濃縮物は上記破砕物等を減圧濃縮や凍結濃縮、加熱濃縮等して脱水することにより、また、当該水希釈物は上記破砕物等を水で希釈して調製することができる。
【0014】
そして、当該ニンニク加工物処理物を通常の方法及び条件で加熱殺菌した後、上記乳酸菌を接種して、オルニチン発酵するが、該ニンニク加工処理物中のグルコース含量は、0にしておくことが必要であり、該ニンニク加工処理物をグルコースオキシダーゼによる脱糖処理や加熱処理等によって、当該グルコース含量を0とすることができる。
【0015】
また、当該乳酸菌の接種は、該ニンニク加工処理物に直接接種することもできるが、より安定した発酵をするためには、該乳酸菌の増殖に適した前培養液に、該乳酸菌のストック菌体、凍結乾燥菌体又は凍結保存菌体等を前培養した前培養液(スターター)を該ニンニク加工処理物に接種することが好ましい。当該スターターの菌体濃度は、前培養液の種類や発酵条件により適宜調整することができ、その生菌数を1×10〜1010個/mlに調整したものが好ましい。
【0016】
上記スターターをニンニク加工処理物に接種する量は、該ニンニク加工処理物中のアルギニンをオルニチンに変換するニンニク発酵を安定して効率よく行えるように適宜調整し、該ニンニク加工処理物中の生菌数が1×10個/ml程度となるように接種する。この接種量が少なすぎる場合は、発酵時間が必要以上に長くなり、被発酵物が微生物汚染する可能性が高まり好ましくなく、一方接種量が多すぎる場合は、良好な発酵をすることができず、また、多量のスターターを要することとなり、操作上も経済上も好ましくない。
【0017】
次いで乳酸菌を接種したニンニク加工処理物を15〜40℃程度、好ましくは20〜30℃の発酵温度で、10〜48時間程度発酵させる。当該発酵時間は、ニンニク加工処理物の品質や原料ニンニクの種類やその発酵温度、接種する乳酸菌生菌数に応じて適宜調整する。尚、当該ニンニク発行は10〜48時間程度で行うことができるが、被発酵物の微生物汚染を防止するためにも、発酵時間は短い方が好ましい。
【0018】
オルニチンを高度に含有するニンニク発酵物を生産するためには、上記乳酸菌を通常酸性を呈するニンニク加工処理物に接種後、当該被発酵物の生菌数が1×10〜1010個/mlになり、該被発酵物中のアルギニンが全量、オルニチンに変換されることが好ましい発酵である。
【0019】
このようにして得られた本発明のオルニチン高含有ニンニク発酵物は、各種飲食品の原材料に用いることができる。例えば、清涼飲料、炭酸飲料、栄養飲料、果実飲料、乳酸飲料等の飲料、スープ類、ウスターソース、中濃ソース、濃厚ソースのウスターソース類やトマトケチャップ、トマトソース、チリソース等のトマト加工調味料、たれ類やマヨネーズ、ドレッシング等の各種調味料、ヨーグルトやゼリー、ババロア、アイスクリーム等のデザート類、蕎麦、うどん、中華麺、即席麺等の麺類、グミ等の半固形状食品、ペースト状食品、ガム、サプリメント等の固形状食品等が挙げられる。
【0020】
本発明のオルニチンを高度に含有するニンニク発酵物を上記飲食品の原材料として用いる際、その配合量は、全体の0.1〜50重量%、好ましくは1〜10重量%であり、その香味や品質等が最良となるように配合することが好ましい。
【実施例】
【0021】
(オルニチン高含有ニンニク発酵物の製造)
(1)スターターの作成
CTC60°Bx(ライコレット社製)を活性炭処理水でBrix4.7、pH6.0に調整して121℃で15分間殺菌した前培養液に、−85℃でグリセロール保存しておいたペディオコッカス・ペントサセウス OS株(NITE P−354)を1白金耳接種し、30℃で24時間静置培養した。そして、この前培養液100μlを当該前培養液と同一の培養液に再接種し、その生菌数が1×10個/mlであるスターターを作成した。
【0022】
(2)本培養液の作成
皮を剥いたニンニクをフードプロセッサーで破砕したニンニク破砕物50gを活性炭処理水でBrix30のpH6.0に調整したニンニク希釈液を300ml容三角フラスコに100g分注して、105℃、1分間の加熱条件でオートクレーブ殺菌し、本培養液とした。
【0023】
(3)発酵
上記ペディオコッカス・ペントサセウス OS株のスターター1000μlを上記本培養液に接種して、35℃、70rpmの条件で撹拌培養を開始した。培養開始後、0時間、24時間、48時間及び96時間における当該本培養液中のアルギニン(Arg)含量、オルニチン(Orn)含量、pH及び生菌数をHPLCで測定した。その結果を表1に示す。
【0024】
【表1】

【0025】
表1の結果より、本培養液の生菌数が増加してアルギニン含量が減少し、オルニチン含量が増加しており、本発明のオルニチン高含有ニンニク発酵物が生産されることが分かる。
【0026】
(オルニチン高含有ニンニク発酵物を配合した飲料)
表2に示す配合の飲料を調合して、93℃で2分間の加熱殺菌し、Brix11.0、pH3.1、TA(全酸度)0.440%の飲料を作成した。
【0027】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニンニク加工処理物を乳酸菌で発酵することでオルニチン含量を高めた発酵物。