説明

オレフィンのアクリロニトリル及びメタクリロニトリルへの転化用の触媒組成物およびその転化方法

【課題】不飽和炭化水素を対応する不飽和ニトリルにアンモ酸化する触媒及びプロセスを提供する。
【解決手段】特定の元素相対比率のカリウム、セシウム、セリウム、クロム、コバルト、ニッケル、鉄、ビスマス及びモリブデンを含む触媒酸化物の複合体を含み、マンガン及び亜鉛を実質的に含まない触媒組成物を用いる。この触媒は、プロピレン、イソブチレン及びこれらの混合物からなる群より選択されるオレフィンを、気相中で、高められた温度及び圧力にて、アクリロニトリル、メタクリロニトリル及びこれらの混合物にそれぞれアンモ酸化するプロセスに有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不飽和炭化水素を対応する不飽和ニトリルにアンモ酸化する際に用いる改良された触媒に関する。特に、本発明は、プロピレン及び/又はイソブチレンをアクリロニトリル及び/又はメタクリロニトリルにそれぞれアンモ酸化するための改良されたプロセス及び触媒に関する。より詳細には、本発明は、マンガン及び亜鉛の実質的不在下でカリウム、セシウム、セリウム、クロム、コバルト、ニッケル、鉄、ビスマス及びモリブデンの触媒酸化物の複合体を含む新規且つ改良されたアンモ酸化触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
適切な元素で活性化された鉄、ビスマス及びモリブデンの酸化物を含む触媒は、長い間、高められた温度にてアンモニア及び酸素(通常は空気の形態)の存在下でアクリロニトリルを製造するためのプロピレンの転化に用いられている。特に、英国特許Great Britain Patent 1436475号公報;米国特許U.S.Patent 4,766,232号明細書;4,377,534号明細書;4,040,978号明細書;4,168,246号明細書;5,223,469号明細書及び4,863,891号明細書は、それぞれ、アクリロニトリルを製造するためのII族元素で活性化されてもよいビスマス−モリブデン−鉄触媒に関する。加えて、米国特許U.S.Patent 4,190,608号明細書は、オレフィン類の酸化用の同様に活性化されたビスマス−モリブデン−鉄触媒を開示する。米国特許U.S.Patent 5,093,299号明細書、5,212,137号明細書、5,658,842号明細書及び5,834,394号明細書は、アクリロニトリルへの高い収率を示すビスマス−モリブデン活性化触媒群に関する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】英国特許第1436475号明細書
【特許文献2】米国特許第4,766,232号明細書
【特許文献3】米国特許第4,377,534号明細書
【特許文献4】米国特許第4,040,978号明細書
【特許文献5】米国特許第4,168,246号明細書
【特許文献6】米国特許第5,223,469号明細書
【特許文献7】米国特許第4,863,891号明細書
【特許文献8】米国特許第4,190,608号明細書
【特許文献9】米国特許第5,093,299号明細書
【特許文献10】米国特許第5,212,137号明細書
【特許文献11】米国特許第5,658,842号明細書
【特許文献12】米国特許第5,834,394号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の対象は、プロピレン、イソブチレン又はこれらの混合物をアクリロニトリル、メタクリロニトリル及びこれらの混合物にそれぞれ接触アンモ酸化する際に、より良好な性能を呈する助触媒の特異な組み合わせを含む新規な触媒である。
[発明の概要]
本発明は、プロピレン及び/又はイソブチレンをアクリロニトリル及び/又はメタクリロニトリルにそれぞれアンモ酸化するための改良された触媒及びプロセスに関する。
一実施形態において、本発明は、カリウム、セシウム、セリウム、クロム、コバルト、ニッケル、鉄、ビスマス、モリブデンを含み、これらの元素の相対比率が下記一般式:
【0005】
CsCeCrCoNiFeBiMo12
(式中、AはRb、Na、Li、Tl又はこれらの混合物であり、
XはP、Sb、Te、B、Ge、W、Mg、希土類元素又はこれらの混合物であり、
aは約0〜約1であり、
bは約0.01〜約1であり、
cは約0.01〜約1であり、
dは約0.01〜約3であり、
eは約0.01〜約2であり、
fは約0.01〜約10であり、
gは約0.1〜約10であり、
hは約0〜約3であり、
iは約0.1〜約4であり、
jは約0.05〜約4であり、
xは存在する他の元素の原子価要求により決定される数である)
で表される触媒酸化物の複合体を含み、マンガン及び亜鉛を実質的に含まない触媒である。
【0006】
本発明はさらに、プロピレン、イソブチレン及びこれらの混合物からなる群より選択されるオレフィンを、気相中で、高められた温度及び圧力にて、オレフィンと、酸素分子を含むガス及びアンモニアと反応させることにより、上述の混合金属酸化物触媒の存在下で、アクリロニトリル、メタクリロニトリル及びこれらの混合物にそれぞれ転化するプロセスに関する。
[発明の詳細な説明]
本発明は、プロピレン、イソブチレン又はこれらの混合物をアクリロニトリル、メタクリロニトリル及びこれらの混合物にそれぞれ、接触アンモ酸化する際により良好な性能を呈する助触媒の特異な組み合わせ及び比率を含む新規な触媒である。
【0007】
本発明は、カリウム、セシウム、セリウム、クロム、コバルト、ニッケル、鉄、ビスマス、モリブデンを含み、これらの元素の相対比率が下記一般式:
【0008】
CsCeCrCoNiFeBiMo12
(式中、AはRb、Na、Li、Tl又はこれらの混合物であり、
XはP、Sb、Te、B、Ge、W、Ca、Mg、希土類元素又はこれらの混合物であり、
aは約0〜約1であり、
bは約0.01〜約1であり、
cは約0.01〜約1であり、
dは約0.01〜約3であり、
eは約0.01〜約2であり、
fは約0.01〜約10であり、
gは約0.1〜約10であり、
hは約0〜約4であり、
iは約0.1〜約4であり、
jは約0.05〜約4であり、
xは存在する他の元素の原子価要求により決定される数である)
で表される触媒酸化物の複合体を含み、マンガン及び亜鉛を実質的に含まないアンモ酸化触媒に関する。
【0009】
上記式の添字は、モリブデンに対する個々の元素の比率として可能な範囲を表す。当業者は、任意の触媒組成物について、それぞれの酸化状態の観点から、金属元素群の総量がモリブデンとのバランスを維持しなければならないことを知っており理解するであろう。
【0010】
一実施形態において、セリウムとクロムの合計量(原子基準で)はビスマスの量よりも大きい(すなわち、b+cはgよりも大きい)。別の実施形態において、セリウムの量(原子基準で)はクロムの量よりも多い(すなわち、bはcよりも大きい)。他の実施形態において、aは約0.05〜約0.5であり、bは約0.01〜約0.3であり、cは約0.01〜約0.3であり、dは約0.01〜約3であり、f+gは約4〜約10であり、hは約0〜約3であり、iは約1〜約3であり、jは約0.1〜約2である。
【0011】
本願明細書に記載されている基本的な触媒組成物は、カリウム、セシウム、セリウム、クロム、コバルト、ニッケル、鉄、ビスマス及びモリブデンの触媒酸化物の複合体である。特別に排斥される元素群を除いて、他の元素又は助触媒を含んでもよい。一実施形態において、本触媒は、ルビジウム、ナトリウム、リチウム、タリウム、リン、アンチモン、テルル、硼素、ゲルマニウム、タングステン、カルシウム、マグネシウム及び希土類元素(La、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm又はYbの1種として定義される)の1種以上を含み得る。また別の実施形態において、本触媒は少量のリンを含み(すなわち、Xは少なくともPであり、hは0(ゼロ)よりも大きい)、触媒の耐摩耗性に有利な効果を有する。また別の実施形態において、本触媒はマグネシウムを含む(すなわち、Xは少なくともMgであり、hは0(ゼロ)よりも大きい);この実施形態において、好ましくは、hは約1〜約3である。また別の実施形態において、本触媒は、マグネシウムを実質的に含まないがX元素の少なくとも1種を含む(すなわち、XはP、Sb、Te、B、Ge、W、希土類元素の少なくとも1種であり、hは0(ゼロ)よりも大きい);この実施形態において、好ましくは、hは約0.1〜約2である。また別の実施形態において、本触媒はルビジウムを含む(すなわち、Aは少なくともRbであり、aは0(ゼロ)よりも大きい)。また別の実施形態において、本触媒はルビジウムを実質的に含まない。また別の実施形態において、本触媒はリチウムを含む(すなわち、Aは少なくともLiであり、aは0(ゼロ)よりも大きい)。また別の実施形態において、本触媒はリチウムを含み、リチウム対モリブデンの比率は約0.01:12〜約1:12の範囲にある(すなわち、AがLi単独の場合、aは約0.1〜約1である)。プロピレンをアクリロニトリルにアンモ酸化する際に用いられる鉄、ビスマス及びモリブデンを含む混合酸化物触媒系に対して、追加の助触媒としてコバルト及びリチウムの組み合わせは、より多量の総ニトリル類、例えば、アクリロニトリル、アセトニトリル及びシアン化水素(formonitrileとも呼ばれる)を生じさせる。また別の実施形態において、触媒はストロンチウムを実質的に含まず、好ましくはストロンチウムを含まない。本願明細書において、任意の元素に関して「実質的に含まない」とは、触媒が当該元素を本質的に全く含まないことを意味する。
【0012】
さらに、プロピレン、アンモニア及び酸素のアクリロニトリルへの転化に対して、含有することが改良されたアクリロニトリル収率を有する触媒を得るために有害であると認識されているある種の元素がある。これらはマンガン及び亜鉛である。触媒がマンガン及び亜鉛を含む場合には、あまり活性ではない触媒を生じさせ、アクリロニトリルの収率を低下させる。このように、本発明の触媒は、マンガン及び亜鉛を実質的に含まないものとして記載されている。本願明細書において、マンガンに関して「実質的に含まない」とは、0.1:12よりも小さいモリブデンに対する原子比を有することを意味する。本願明細書において、亜鉛に関して「実質的に含まない」とは、1:12よりも小さいモリブデンに対する原子比を有することを意味する。好ましくは、触媒はマンガン及び/又は亜鉛を含まない。
【0013】
本発明の触媒は、担持された状態でも担持されていない状態(すなわち、触媒は担体を含んでいてもよい)でも用いることができる。担体を用いる場合には、担体を典型的には触媒を含む金属酸化物と混合するか、又は担体物質に金属酸化物を含浸させてもよい。適切な担体は、シリカ、アルミナ、ジルコニウム、チタニア又はこれらの混合物である。担体は、典型的には触媒用のバインダとして作用して、より硬くより耐摩耗性の触媒を生じさせる。しかし、商業用途にとって、活性相(すなわち、上述の触媒酸化物の複合体)及び担体の両者の適切なブレンドが触媒に対する許容可能な活性度及び硬度(耐摩耗性)を得るために極めて重要である。方向性としては、活性相の増加は触媒の活性度を増加させるが、触媒の硬度を低下させる。典型的には、担体は、担持触媒の40〜60wt%の間を構成する。本発明の一実施形態において、担体は、担持触媒の約30wt%程度に少量でもよい。本発明の他の実施形態において、担体は、担持触媒の約70wt%程度に多量でもよい。
【0014】
一実施形態において、触媒は、シリカゾルを用いて担持される。シリカゾルの平均コロイド状粒子径が小さすぎる場合には、製造された触媒の表面積は増加し、触媒の選択率は減少するであろう。コロイド状粒子径が大きすぎる場合には、製造された触媒は耐アブレーション強度(anti−abrasion strength)が小さいであろう。典型的には、シリカゾルの平均コロイド状粒子径は、約15nm〜約50nmの間にある。本発明の一実施形態において、シリカゾルの平均コロイド状粒子径は約10nmであり約8nm程度に小さくてもよい。本発明の他の実施形態において、シリカゾルの平均コロイド状粒子径は約100nmである。本発明の他の実施形態において、シリカゾルの平均コロイド状粒子径は約20nmである。
【0015】
本発明の触媒は、当業者に公知の多数の触媒調製方法の任意の方法によって調製することができる。例えば、触媒は種々の成分を共沈させることによって製造することができる。次いで共沈した塊を乾燥し適当な寸法に粉砕してもよい。あるいは、共沈した物質を慣用の技術に従ってスラリー化して噴霧乾燥させてもよい。触媒は、当該分野で周知のように、ペレットとして押し出されても、あるいはオイル中スピアー(spears in oil)を形成してもよい。触媒を製造するための特定の手順としては、米国特許U.S.Patent5,093,299号明細書;4,863,891号明細書及び4,766,232号明細書(本願明細書に参考として包含される)を参照。一実施形態において、触媒成分をスラリーの形態で担体と混合し、その後乾燥してもよいし、あるいは触媒成分をシリカその他の担体に含浸させてもよい。
【0016】
ビスマスを酸化物、又は焼成により酸化物を得る塩として触媒に導入してもよい。容易に分散するが加熱処理時に安定な酸化物を形成する水溶性塩が好ましい。特に好ましいビスマス導入源は硝酸ビスマスである。
【0017】
触媒への鉄成分は、焼成により酸化物となる任意の鉄化合物から得ることができる。他の元素におけるように、触媒内に均一に分散しやすいので、水溶性塩が好ましい。最も好ましいのは硝酸鉄(III)である。
【0018】
触媒のモリブデン成分は、二酸化物、三酸化物、五酸化物又は七酸化物などの任意のモリブデン酸化物から導入することができる。しかし、加水分解もしくは分解可能なモリブデン塩をモリブデン源として利用することが好ましい。最も好ましい出発物質はアンモニウムヘプタモリブデートである。
【0019】
触媒の他の必須成分及び任意の助触媒(例えば、Ni、Co、Mg、Cr、P、Sn、Te、B、Ge、Zn、In、Ca、W又はこれらの混合物)は、任意の適切な源から誘導することができる。例えば、コバルト、ニッケル及びマグネシウムは、硝酸塩を用いて触媒に導入することができる。さらに、マグネシウムは、加熱処理により酸化物を得る不溶性炭酸塩又は水酸化物として触媒に導入することができる。リンは、アルカリ金属塩もしくはアルカリ土類金属塩として又はアンモニウム塩として触媒に導入することができるが、好ましくはリン酸として導入される。
【0020】
触媒の必須及び任意のアルカリ成分(例えば、Rb、Li、Na、K、Cs、Tl又はこれらの混合物)は、酸化物、又は焼成により酸化物を得るであろう塩として、触媒に導入することができる。好ましくは、容易に入手可能で易可溶性である硝酸塩などの塩が、このような元素を触媒中に導入する手段として用いられる。
【0021】
触媒は、典型的には、アンモニウムヘプタモリブデートの水溶液をシリカゾルと混合し、ここに、好ましくは他の元素の硝酸塩の化合物を含むスラリーを添加することにより調製される。次いで、固体物質を乾燥し、脱窒して焼成する。好ましくは、触媒を110℃〜350℃の間の温度、好ましくは110℃〜250℃の間の温度、最も好ましくは110℃〜180℃の間の温度にて噴霧乾燥する。脱窒温度は、100℃〜500℃の範囲、好ましくは250℃〜450℃の範囲でよい。最後に、300℃〜700℃の間の温度、好ましくは350℃〜650℃の間の温度で焼成を行う。
【0022】
本発明の触媒は、気相中で高められた温度及び圧力にて触媒の存在下でプロピレン、イソブチレン及びこれらの混合物からなる群より選択されるオレフィンと、酸素分子を含むガス及びアンモニアと反応させることにより、アクリロニトリル、メタクリロニトリル及びこれらの混合物にそれぞれ転化するためのアンモ酸化プロセスにおいて有用である。
【0023】
好ましくは、アンモ酸化反応は流動床反応器内で行われるが、搬送ライン反応器などの他のタイプの反応器も想定される。アクリロニトリル製造用の流動床反応器は当該分野で周知である。例えば、米国特許U.S.Patent3,230,246号明細書(本願明細書に参照として包含される)に記載されている反応器設計が適切である。
【0024】
アンモ酸化反応を生じさせる条件もまた、米国特許U.S.Patent5,093,299;4,863,891;4,767,878及び4,503,001号明細書(参照として本願明細書に包含される)により立証されるように、従来周知である。典型的には、アンモ酸化プロセスは、高められた温度にて、プロピレン又はイソブチレンをアンモニア及び酸素の存在下で流動床触媒と接触させることにより行われ、アクリロニトリル又はメタクリロニトリルを製造する。任意の酸素源を用いることができる。しかし、経済的な理由により、空気を用いることが好ましい。供給物中の酸素対オレフィンの典型的なモル比は0.5:1〜4:1の範囲であり、好ましくは1:1〜3:1の範囲である。
【0025】
反応での供給物中のアンモニア対オレフィンのモル比は、0.5:1〜2:1の間で変動し得る。アンモニアとオレフィンの比の真の上限はないが、一般には経済的な理由により、2:1の比率を超える根拠がない。プロピレンからアクリロニトリルの製造のために、本発明の触媒と共に用いる適切な供給比率として、アンモニア対プロピレンの比率は0.9:1〜1.3:1の範囲にあり、空気対プロピレンの比率は8.0:1〜12.0:1の範囲にある。本発明の触媒は、約1:1〜約1.05:1の比較的低いアンモニア対プロピレンの供給比率で、アクリロニトリルの高収率を与える。これらの「低アンモニア条件」は、「アンモニア破過」として知られる状態である反応器流出物中未反応アンモニアを削減させる補助となり、結果的にプロセス廃棄物を削減する補助となる。特に、未反応アンモニアは、アクリロニトリルの回収前に、反応器流出物から取り除かなければならない。未反応アンモニアは典型的には、反応器流出物を硫酸と接触させて硫酸アンモニウムを得るか、又は反応器流出物をアクリル酸と接触させてアンモニウムアクリレートを得ることにより取り除かれ、いずれの場合にも結果的に処理及び/又は廃棄されるべきプロセス廃棄物流を生じる。
【0026】
反応は、約260℃〜600℃の範囲の間の温度、好ましくは310℃〜500℃の範囲、特に好ましくは350℃〜480℃の範囲の温度で行われる。重要ではないが、接触時間は一般には0.1〜50秒間であり、好ましくは1〜15秒間である。
【0027】
反応生成物は、当業者に公知の任意の方法で回収し精製することができる。このような方法の一例として、反応器からの流出ガスを冷水又は適切な溶媒でスクラブ(洗浄)して、反応生成物を取り出し、次いで反応生成物を蒸留により精製することを挙げることができる。
【0028】
本発明の触媒の主要な有用性は、プロピレンのアクリロニトリルへのアンモ酸化にある。しかし、本触媒は、プロピレンのアクリル酸への酸化にも用いることができる。このようなプロセスは典型的には2工程プロセスであり、第1工程でプロピレンを触媒の存在下で主としてアクロレインに転化し、第2工程でアクロレインを触媒の存在下で主としてアクリル酸に転化する。本願明細書に記載した触媒は、プロピレンをアクロレインに酸化する第1工程での使用に適している。
【0029】
[実施形態]
本発明を説明するために、本発明の触媒並びにこれらの元素の1種以上を省略した同様の触媒もしくはアクリロニトリル製造に邪魔な元素を追加的に含む同様の触媒を調製し、次いで同様の反応条件下で評価した。これらの例は説明の目的のためだけに提供するものである。
【0030】
触媒調製
【実施例1】
【0031】
式:
【化1】

の触媒を以下のようにして調製した:
【0032】
下記の金属硝酸塩群CsNO(1.535g)、KNO(0.796g)、Fe(NO・9HO(63.643g)、Ni(NO・6HO(100.778g)、Co(NO・6HO(98.572g)、Bi(NO・5HO(19.104g)及び(NHCe(NO(50%溶液の64.773g)を1000mlビーカー中で70℃以下で一緒に溶融させた。アンモニウムヘプタモリブデート(AHM)(200.603g)を310mlの蒸留水中に溶解させた。この溶液に、20ml水に溶解させたCrO(2.363g)を添加した。次いで、シリカ(40%SiOゾルの625g)を添加し、続いて金属硝酸塩溶融物を添加した。次に、得られた黄色のスラリーを噴霧乾燥させた。得られた物質を290℃/3時間で、425℃で3時間かけて脱窒し、次いで空気中570℃で3時間かけて焼成した。
【実施例2】
【0033】
上記実施例1に記載した調製を用いて、式:
【0034】
【化2】

の触媒を以下のように調製した:下記金属硝酸塩群CsNO(12.877g)、KNO(6.679g)、LiNO(13.665g)、Fe(NO・9HO(480.431g)、Ni(NO・6HO(595.542g)、Co(NO・6HO(1019.059g)、Bi(NO・5HO(198.691g)及び(NHCe(NO(50%溶液の420.146g)を1000mlビーカー中で70℃以下で一緒に溶融させた。アンモニウムヘプタモリブデート(AHM)(1603.142g)を1760mlの蒸留水に溶解させた。この溶液に、20ml水に溶解させたCrO(7.928g)を添加した。次いで、シリカ(40%SiOゾルの5000g)を添加し、続いて金属硝酸塩溶融物を添加した。得られた黄色のスラリーを次いで噴霧乾燥させた。得られた物質を290℃/3時間で、425℃で3時間かけて脱窒し、次いで空気中570℃で3時間かけて焼成した。
【比較例A】
【0035】
(Niなし):上記実施例1に記載した調製を用いて、式:
【0036】
【化3】

の触媒を下記配合で調製した:CsNO(1.535g)、KNO(0.796g)、Fe(NO・9HO(63.623g)、Co(NO・6HO(199.375g)、Bi(NO・5HO(19.098g)及び(NHCe(NO(50%溶液の64.753g)を1000mlビーカー中で70℃以下で一緒に溶融させた。アンモニウムヘプタモリブデート(AHM)(200.603g)を310mlの蒸留水に溶解させた。この溶液に、20ml水に溶解させたCrO(2.362g)を添加した。次いで、シリカ(40%SiOゾルの625g)を添加して、続いて金属硝酸塩溶融物を添加した。
【比較例B】
【0037】
(Kなし):上記実施例1に記載した調製を用いて、式:
【0038】
【化4】

の触媒を下記配合で調製した:CsNO(3.061g)、Fe(NO・9HO(63.456g)、Ni(NO・6HO(100.481g)、Co(NO・6HO(98.282g)、Bi(NO・5HO(19.047g)及び(NHCe(NO(50%溶液の64.582g)を1000mlビーカー中で70℃以下で一緒に溶融させた。アンモニウムヘプタモリブデート(AHM)(200.603g)を310mlの蒸留水に溶解させた。この溶液に、20ml水に溶解させたCrO(2.356g)を添加した。次いで、シリカ(40%SiOゾルの625g)を添加し、続いて金属硝酸塩溶融物を添加した。
【比較例C】
【0039】
(Mnあり):上記実施例1に記載した調製を用いて、式:
【0040】
【化5】

の触媒を下記配合で調製した:CsNO(1.485g)、KNO(0.77g)、Fe(NO・9HO(61.559g)、Ni(NO・6HO(97.478g)、Co(NO・6HO(95.345g)、Mn(NO(51.1%溶液の13.34g)、Bi(NO・5HO(18.478g)及び(NHCe(NO(50%溶液の62.653g)を1000mlビーカー中で70℃以下で一緒に溶融させた。アンモニウムヘプタモリブデート(AHM)(200.761g)を310mlの蒸留水に溶解させた。この溶液に、20ml水に溶解させたCrO(2.286g)を添加した。次いで、シリカ(40%SiOゾルの625g)を添加し、続いて金属硝酸塩溶融物を添加した。
【比較例D】
【0041】
(Znあり):上記実施例1に記載した調製を用いて、式:
【0042】
【化6】

の触媒を下記配合で調製した:CsNO(1.55g)、KNO(0.804g)、Fe(NO・9HO(64.244g)、Ni(NO・6HO(50.865g)、Co(NO・6HO(99.503g)、Zn(NO・6HO(47.301g)、Bi(NO・5HO(19.284g)及び(NHCe(NO(50%溶液の65.385g)を1000mlビーカー中で70℃以下で一緒に溶融させた。アンモニウムヘプタモリブデート(AHM)(199.759g)を310mの蒸留水に溶解させた。この溶液に20ml水中に溶解させたCrO(2.385g)を添加した。次いで、シリカ(40%SiOゾルの625g)を添加し、続いて金属硝酸塩溶融物を添加した。
【0043】
触媒試験
すべての試験は、40cc流動床反応器内で行った。プロピレンを0.06WWH(すなわち、プロピレン質量/触媒質量/時間)の速度で反応器に供給した。反応器内部の圧力を10psigに維持した。反応温度は430℃であった。20時間までの安定化時間の後、反応生成物サンプルを収集した。反応器流出物を冷HCI溶液含有バブルタイプスクラバーに収集した。オフガス速度は石鹸膜計測器で測定し、オフガス組成は運転の最後に、スプリットカラムガス分析器(split column gas analyzer)を具備するガスクロマトグラフィーで決定した。回収運転の最後に、スクラバー液体全体を蒸留水で約200gに希釈した。秤量した2−ブタノンを希釈溶液の50gまでのアリコート内の内標準として用いた。2μIサンプル炎イオン化検出器及びCarbowaxカラムを具備するGC内で分析した。NHの量は過剰の遊離HCIをNaOH溶液で滴定することにより決定した。以下の実施例は本発明の説明である。
【0044】
【表1】

【実施例3】
【0045】
上記実施例2に記載したと同じ調製方法を用いて、リチウムを追加的に含む数種の触媒(50%活性相及び50%SiO)を調製した。活性相組成は以下の通りであった:
【0046】
【表2】

上記触媒組成物を上述のように試験した。上記触媒に対するニトリル類への全体の転化率(すなわち、アクリロニトリル、アセトニトリル及びシアン化水素へのプロピレンの1パス転化あたりのモル%)は典型的には、約86%〜約88%の範囲にあった。
【0047】
本発明の触媒組成物は、マンガン及び亜鉛の実質的不在下でカリウム、セシウム、セリウム、クロム、コバルト、ニッケル、鉄、ビスマス及びモリブデンを含む点で特異である。本願明細書に記載した相対比率での元素群の組み合わせは、単一のアンモ酸化触媒配合物においてこれまで利用されていなかった。表1に示すように、プロピレンからアクリロニトリルへのアンモ酸化に対して、本発明の触媒は、従前の特許にみられる類似の(正確ではない)元素の組み合わせを含む触媒よりもより良好な性能を示す。より詳細には、マンガン又は亜鉛の実質的不在下でカリウム、セシウム、セリウム、クロム、コバルト、ニッケル、鉄、ビスマス及びモリブデンを含む触媒は、このような触媒上で、高められた温度にて、アンモニア及び空気の存在下でプロピレンをアンモ酸化した場合に、本発明の範囲外にある類似の触媒と比較して、より高い全体の転化率及びアクリロニトリルへのより高い転化率を示した。
【0048】
上記記載及び上記実施形態は本発明の実施に対して典型的なものであるが、この記載に照らして当業者には多くの代替例、変形例、変動例が自明であろう。したがって、このような代替例、変形例、変動例のすべては本発明の範囲に含まれるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カリウム、セシウム、セリウム、クロム、コバルト、ニッケル、鉄、ビスマス及びモリブデンを含み、これらの元素の相対比率が下記一般式:
CsCeCrCoNiFeBiMo12
(式中、AはRb、Na、Li、Tl又はこれらの混合物であり、
XはP、Sb、Te、B、Ge、W、Ca、Mg、希土類元素又はこれらの混合物であり、
aは約0〜約1であり、
bは約0.01〜約1であり、
cは約0.01〜約1であり、
dは約0.01〜約3であり、
eは約0.01〜約2であり、
fは約0.01〜約10であり、
gは約0.1〜約10であり、
hは約0〜約4であり、
iは約0.1〜約4であり、
jは約0.05〜約4であり、
xは存在する他の元素の原子価要求により決定される数である)
によって表される触媒酸化物の複合体を含み、マンガン及び亜鉛を実質的に含まない触媒組成物。
【請求項2】
触媒はリンを含む請求項1に記載の触媒組成物。
【請求項3】
触媒はマグネシウムを含む請求項1に記載の触媒組成物。
【請求項4】
触媒はマグネシウムを実質的に含まない請求項1に記載の触媒組成物。
【請求項5】
触媒はルビジウムを含む請求項1に記載の触媒組成物。
【請求項6】
触媒はリチウムを含む請求項1に記載の触媒組成物。
【請求項7】
f+gは約4〜約10である請求項1に記載の触媒組成物。
【請求項8】
触媒組成物はシリカ、アルミナ、ジルコニウム、チタニア及びこれらの混合物からなる群より選択される担体を含む請求項1に記載の触媒組成物。
【請求項9】
担体は触媒の30〜70wt%の間を構成する請求項8に記載の触媒組成物。
【請求項10】
触媒組成物は約8nm〜約100nmの間にある平均コロイド状粒子径を有するシリカを含む請求項1に記載の触媒組成物。
【請求項11】
カリウム、セシウム、セリウム、クロム、コバルト、ニッケル、鉄、ビスマス及びモリブデンを含み、これらの元素の相対比率は下記一般式:
Lia’CsCeCrCoNiFeBiMo12
(式中、AはRb、Na、Tl又はこれらの混合物であり、
XはP、Sb、Te、B、Ge、W、Ca、Mg、希土類元素又はこれらの混合物であり、
aは約0〜約1であり、
a’は約0.01〜約1であり、
bは約0.01〜約1であり、
cは約0.01〜約1であり、
dは約0.01〜約3であり、
eは約0.01〜約2であり、
fは約0.01〜約10であり、
gは約0.1〜約10であり、
hは約0〜約4であり、
iは約0.1〜約4であり、
jは約0.05〜約4であり、
xは存在する他の元素の原子価要求により決定される数である)
により表される触媒酸化物の複合体を含み、マンガン及び亜鉛を実質的に含まない触媒組成物。
【請求項12】
f+gは約4〜約10である請求項11に記載の触媒組成物。
【請求項13】
プロピレン、イソブチレン及びこれらの混合物からなる群より選択されるオレフィンを、カリウム、セシウム、セリウム、クロム、コバルト、ニッケル、鉄、ビスマス、モリブデンを含み、これらの元素の相対比率が下記一般式:
CsCeCrCoNiFeBiMo12
(式中、AはRb、Na、Li、Tl又はこれらの混合物であり、
XはP、Sb、Te、B、Ge、W、Ca、Mg、希土類元素又はこれらの混合物であり、
aは約0〜約1であり、
bは約0.01〜約1であり、
cは約0.01〜約1であり、
dは約0.01〜約3であり、
eは約0.01〜約2であり、
fは約0.01〜約10であり、
gは約0.1〜約10であり、
hは約0〜約4であり、
iは約0.1〜約4であり、
jは約0.05〜約4であり、
xは存在する他の元素の原子価要求により決定される数である)
によって表される触媒酸化物の複合体を含み、マンガン及び亜鉛を実質的に含まない触媒の存在下で、気相中で、高められた温度及び圧力にて、オレフィンをガスを含む分子状酸素及びアンモニアと反応させることにより、アクリロニトリル、メタクリロニトリル及びこれらの混合物にそれぞれ転化するプロセス。
【請求項14】
触媒はリンを含む請求項13に記載のプロセス。
【請求項15】
触媒はマグネシウムを含む請求項13に記載のプロセス。
【請求項16】
触媒はルビジウムを含む請求項13に記載のプロセス。
【請求項17】
触媒はリチウムを含む請求項13に記載のプロセス。
【請求項18】
f+gは約4〜約10である請求項13に記載の触媒組成物。
【請求項19】
触媒組成物は、シリカ、アルミナ、ジルコニウム、チタニア及びこれらの混合物からなる群より選択される担体を含む請求項13に記載のプロセス。
【請求項20】
担体は触媒の30〜70wt%の間を構成する請求項19に記載のプロセス。
【請求項21】
触媒組成物は約8nm〜約100nmの間の平均コロイド状粒子径を有するシリカを含む請求項13に記載のプロセス。

【公開番号】特開2011−62692(P2011−62692A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−237299(P2010−237299)
【出願日】平成22年10月22日(2010.10.22)
【分割の表示】特願2004−557222(P2004−557222)の分割
【原出願日】平成15年11月19日(2003.11.19)
【出願人】(507303398)イネオス・ユーエスエイ・エルエルシー (5)
【Fターム(参考)】