説明

オレフィン系樹脂素材用水性塗工用組成物

【課題】フィルムやシート等のオレフィン系樹脂素材に対して優れた接着性を有する下地処理剤や顔料で着色された着色剤として有用な水性塗工用組成物を提供すること。
【解決手段】エチレン−酢酸ビニル共重合体からなるオレフィン系樹脂素材である室内装飾用素材への塗工に用いられる加熱型の下地処理剤であって、最低造膜温度(MFT)が50〜60℃のエチレン−酢酸ビニル共重合体を、その中の全重合体の50質量%より多い量で含む水性分散体と、炭素数1〜4のアルコール類の少なくとも1種とを含んでなるオレフィン系樹脂素材用塗工用組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はPE、PP、EVA等のオレフィン系フィルム、シート等のオレフィン系樹脂素材用の塗工、印刷等に使用する水性塗工用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から住宅、オフィス等の内装材等の建築材料、車両内装材、一般文具等に塩化ビニル系樹脂を主成分とする素材が使われている。これは塩化ビニル系樹脂を用いた素材が、印刷をはじめとして加工適性、経済性、意匠性等に優れているからである。
しかし、塩化ビニル系樹脂は、近年、ダイオキシン汚染の発生源とみなされ、塩化ビニル系樹脂素材からオレフィン系樹脂素材への代替が検討されてきた。又、住宅関連ではシックハウス症候群が大きな問題となっており、印刷、塗工は有害性が懸念される油性系から水性系への移行が盛んである。
【0003】
ところが、現在の水性インキで一般的なアクリル系水性インキは、耐久性、表面物性等に優れているが、オレフィン系樹脂素材に対しては概して接着性が非常にとぼしく、実用化は非常に限定的である。
そのため、現在オレフィン系樹脂素材に対しては、一般に油性の印刷インキ、塗工剤で印刷、塗工が行なわれている。しかし、油性インキを用いても、上記素材と印刷インキ、塗工剤との接着性は不十分であり、そのためにコロナ処理等の物理的表面処理がひろく行われている。又、上述と同様の目的で印刷前に油性の塗工処理がされる場合もある。この目的の塗工剤は、一般に下地処理剤、前処理剤、表面処理剤、プライマー、アンカーコート剤等と呼称されている。以下では下地処理剤という。
【0004】
現行の油性下地処理剤は、塩素化オレフィン樹脂、特殊オレフィン樹脂等を主体として構成されているが、ハロゲン化合物を含有していること、トルエン等の毒性が強いと目される溶剤を使用せざるを得ない等の問題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、フィルムやシート等のオレフィン系樹脂素材に対して優れた接着性を有する下地処理剤や顔料で着色された着色剤として有用な水性塗工用組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、エチレン−酢酸ビニル共重合体の水性分散体と炭素数1〜4のアルコール類の少なくとも1種とからなることを特徴とするオレフィン系樹脂素材用水性塗工用組成物が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、水性で、ハロゲン含有物質を含まない環境に優しく、オレフィン系樹脂素材(基材)に対する優れた接着力を有する水性塗工用組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に本発明を詳細に説明する。
本発明のオレフィン系樹脂素材用の水性塗工用組成物は、オレフィン系樹脂素材に対する優れた接着性を有するエチレン−酢酸ビニル共重合体の水性分散体(エマルジョン)に、上記素材表面が水性の塗工剤で塗工されにくい状態を改善する(塗工性の改善)ための炭素数が1〜4のアルコール類を配合してなるものである。本発明の水性塗工用組成物は、下地処理剤、顔料で着色して着色剤として使用することができる。
【0009】
下地処理剤の使用目的は、下地処理剤を介して素材と印刷インキ、塗工剤を強固に一体化させることであり、印刷による柄付けが行われる場合には印刷インキの柄表現性を損なわないことが必要である。又、下地処理剤といっても塗工剤の一種であることから、当然、印刷、塗工工程上必要な性能(乾燥性、タック性、耐ブロッキング性等)を満たす必要がある。本発明の水性塗工用組成物はこれらの性能を具備したものである。
【0010】
本発明で使用するエチレン−酢酸ビニル共重合体の水性分散体は、その製造方法は特に限定されないが、例えば、界面活性剤を用いて乳化重合によって製造されたもの、上記共重合体の溶液を用いて転相法により水性分散体とされたもの等が挙げられ、これらの水性分散体は多数市販されており、入手して使用することができる。水性分散体における界面活性剤は、アニオン系、カチオン系、ノニオン系のいずれであってもよいが、本発明の水性塗工用組成物を着色剤として使用する場合を考慮すれば、顔料の水性分散体はアニオン系又はノニオン系であることが多く、これらと良好な混合性が必要であることから、界面活性剤はアニオン系及び/又はノニオン系が好ましい。カチオン系のエチレン−酢酸ビニル共重合体の水性分散体は、ノニオン系の顔料水性分散体とは混合性を有しているがアニオン系の顔料水性分散体とは混合性を有しない。エチレン−酢酸ビニル共重合体の水性分散体の固形分(該共重合体分)は、通常30〜60質量%程度である。
【0011】
水性分散体を構成するエチレン−酢酸ビニル共重合体は、エチレンモノマーと酢酸ビニルモノマーよりなる共重合体で、両モノマー共重合割合によって各種のグレードがあり、エチレン−酢酸ビニル共重合体の水性分散体としては、最低造膜温度(MFT)が−15℃〜100℃のものが知られている。本発明において好ましいエチレン−酢酸ビニル共重合体の水性分散体は、MFTが50〜100℃のものである。又、上記共重合体は、場合によってはさらにアクリル系又はメタクリル系モノマーを共重合させたものでもよい。又、エチレン−酢酸ビニル共重合体は、混合物中50〜0質量%の範囲で、オレフィン系樹脂素材との接着性が阻害されない範囲で他の重合体の水性分散体と混合して使用することができる。このような他の重合体の水性分散体としては、例えば、(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸エステル系共重合体やエチレン−(メタ)アクリル酸エステル系共重合体等の水性分散体が挙げられる。
【0012】
本発明で使用する炭素数が1〜4のアルコール類としては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n−ブチルアルコール、n−プロピルアルコール、プロパノール、iso−プロピルアルコール等が挙げられるが、iso−プロピルアルコールが好ましい。
【0013】
本発明の水性塗工用組成物におけるアルコール類の配合割合は、特に限定されないが、上記組成物中5〜60質量%の範囲が好ましく、オレフィン系樹脂素材に応じて好適な塗工性が得られるように配合割合は決定される。又、上記組成物中の樹脂分(固形分)は、通常30〜80質量%である。
【0014】
本発明の水性塗工用組成物は、その使用目的(下地処理剤、着色剤等)、素材との接着性(素材の種類)、塗工方法、最終製品に要求される性能等に応じて、さらに有色顔料、顔料分散体、シリカ系マット剤、レベリング剤、消泡剤、スリップ剤、増粘剤、防錆剤、撥水剤、防黴剤、抗菌剤、アンモニア等のアルカリ化合物、造膜助剤等を適宜添加することができる。
本発明の水性塗工用組成物はロールコーター、ナイフコーター、コンマコーター、バーコーター等の塗工方式、グラビア、フレキソ、シルクスクリーン等の印刷方式、その他の方式で用いることで塗工、印刷が可能であり、印刷、塗工方式は限定されない。
【実施例】
【0015】
次に実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明する。以下の文中における「部」及び「%」は、特に断りのない限り質量基準である。
【0016】
実施例1〜2、比較例1
表1に記載の配合処方(配合量は部)で樹脂水性分散体と水とイソプロピルアルコール(IPA)を混合して固形分が40%の水性塗工用組成物を作製した。

(注)
樹脂水性分散体(1):アニオン系エチレン−酢酸ビニル共重合体水性分散体(固形分50%、MFT60℃)
樹脂水性分散体(2):ノニオン系エチレン−酢酸ビニル共重合体水性分散体(固形分50%、MFT0℃)
樹脂水性分散体(3):アニオン系メタクリレート系樹脂水性分散体(固形分50%、MFT60℃)
【0017】
得られた各水性塗工用組成物(水性印刷インキ)について、壁紙用EVA樹脂シートへの接着性及び印刷性を下記の方法で評価した。結果を表2に示す。
各水性塗工用組成物を水にてザーンカップ#4で16秒に希釈し、上記シートにヘリオ製版式175線版でグラビア印刷し、100℃オーブンにて10秒乾燥させ下記試験を行った。
【0018】
<接着性>
上述の塗布面にセロハンテープ10mm巾を貼り付け、次にセロハンテープを塗布面から一定速度で剥離させ、この剥離後の塗工面の状態とセロハンテープの状態を観察し接着強度を判定した。
判定基準
〇:剥離なし。
△:やや剥離あり。
×:剥離あり。
【0019】
<印刷性>
上述の100℃で10秒乾燥直後の塗工物を目視で素材が塗工物で被覆されているか判定する。
判定基準
〇:完全に被覆されている。
△:やや被覆がされていない。
×:全然被覆されていない。
【0020】
<混合性>
上述の配合液100部に各々の顔料分散体を5部配合し、上記と同様にして素材に印刷し、発色状態を目視観察した。
判定基準
〇:凝固物の生成がみられず、均一に発色する。
【0021】

【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明の水性塗工用組成物は、水性でなおかつハロゲン非含有で、環境安全性が飛躍的に改善された塗工剤として、オレフィン系樹脂素材、例えばフィルム等への印刷や塗装あるいは室内装飾用壁紙等の接着剤、下地処理剤等として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン−酢酸ビニル共重合体からなるオレフィン系樹脂素材への塗工に用いられる加熱型の下地処理剤であって、最低造膜温度(MFT)が50〜100℃のエチレン−酢酸ビニル共重合体を、その中の全重合体の50質量%より多い量で含む水性分散体と、炭素数1〜4のアルコール類の少なくとも1種とを含んでなる水性塗工用組成物であることを特徴とするオレフィン系樹脂素材用下地処理剤。
【請求項2】
前記炭素数1〜4のアルコール類がiso−プロピルアルコールである請求項1に記載のオレフィン系樹脂素材用下地処理剤。
【請求項3】
エチレン−酢酸ビニル共重合体からなるオレフィン系樹脂素材への塗工、印刷に用いられる加熱型の着色剤であって、最低造膜温度(MFT)が50〜60℃のエチレン−酢酸ビニル共重合体を、その中の全重合体の50質量%より多い量で含む水性分散体と、炭素数1〜4のアルコール類の少なくとも1種と、顔料とを含んでなる水性塗工用組成物であることを特徴とするオレフィン系樹脂素材用の着色剤。
【請求項4】
前記炭素数1〜4のアルコール類がiso−プロピルアルコールである請求項3に記載のオレフィン系樹脂素材用の着色剤。

【公開番号】特開2011−26622(P2011−26622A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−251590(P2010−251590)
【出願日】平成22年11月10日(2010.11.10)
【分割の表示】特願2004−8465(P2004−8465)の分割
【原出願日】平成16年1月15日(2004.1.15)
【出願人】(000002820)大日精化工業株式会社 (387)
【Fターム(参考)】