説明

オレフィン重合用担持触媒

本発明はオレフィン重合用担持触媒を製造する方法を開示し、この方法は、(a)キラル吸着質が表面に吸着している金属吸着剤を含んで成る固体状担体[前記キラル吸着剤の存在は、前記固体状担体の結晶格子のキラルもしくはプロ−キラル結晶面の形成にとって好都合である]を生じさせ、そして(b)触媒もしくはこれの前駆触媒を前記キラルもしくはプロ−キラル結晶面に固定し、そして場合により前記前駆触媒を活性化させることで、オレフィン重合用担持触媒を生じさせる段階を包含する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新規なオレフィン重合用固体状担持触媒およびこれの製造方法に関する。本発明は、更に、本発明に従う担持触媒を用いて立体規則的ポリオレフィンを製造する方法にも関する。本発明は、また、本発明の方法を用いて製造したポリオレフィンにも関する。本発明は、特に、チーグラー・ナッタ(Ziegler−Natta)、メタロセン(metallocene)または新規なシングルサイト(single site)型触媒系に適用した時に有効である。
【背景技術】
【0002】
炭素原子数が3以上のオレフィンを重合させてイソタクティック立体化学配置を有する重合体を生じさせることができる。このことは、一般式[−CH−CHR−]で表される重合体の中の置換されている炭素の全部が同じ立体配置を有しかつ仮想的直鎖に関してあらゆる置換基が鎖の同じ側に存在することを意味する。これは、ポリプロピレンの場合、下記の如く描写可能である:
【0003】
【化1】

【0004】
イソタクティックおよびシンジオタクテックポリプロピレンの製造は立体特異的触媒を用いた重合で行われる。これに関して、3種類の触媒系を挙げることができる。
【0005】
1番目の種類はチーグラー・ナッタ触媒系である。チーグラー・ナッタ触媒系は前駆触媒(pre−catalyst)と活性化剤(activating agent)を含んで成る。そのような前駆触媒は遷移金属誘導体、典型的には遷移金属のハロゲン化物またはエステル、例えばTiClなどである。前記活性化剤は有機金属誘導体であり、その金属は周期律表主族I、IIまたはIIIに属する。
【0006】
チーグラー・ナッタ触媒系の一例は(CAl/TiClである。この触媒系を用いた重合に関して提案する機構を図1に示す。
【0007】
立体規則的重合体を得るには入って来る単量体の配向が常に同じであるように触媒表面に吸収される単量体の吸収を制御する必要があることは図1から分かるであろう。
【0008】
イソ選択的(iso−selective)チーグラー・ナッタ触媒の場合、三次元格子の中に埋め込まれているTi部位のデルタ/ラムダキラリティーが適切な局所的対称環境と相まって立体規則的オレフィン重合体、例えばイソタクティックポリプロピレンなどの生成に必要かつ充分な条件を与える。
【0009】
図2および3に、MgClに担持されているTiClを示し、それをアルミニウムアルキルで処理すると、それはTiClのα(,β,δ)修飾形に変化する。この担体の結晶構造はTiClの結晶構造と同形である。前記担体の上に成長するTiClの成長はエピタクティック(epitactic)である。
【0010】
MgClに担持されているTiClを生じさせる方策として2つ考えることができる。
【0011】
1番目の方策はTiClを出発材料として用いる方策である。TiClは固体形態で存在する。Ti中心は格子構造の中で固有のキラリティーを持つ。TiClを担体上に固定することは可能であるが、しかしながら、そのような触媒の不均一化は実際任意選択である。
【0012】
2番目の方策はTiClを出発材料として用いる方策である。これは液状であり、このように、使用時にはそれを例えばMgClなどに担持させ/不均一にする。TiClの中のTi中心は本質的にキラリティーを持たない。従って、担持TiClに活性化を受けさせる必要がある。適切な活性化剤はAlEtである。それは担持TiClを担持TiCl(これは活性がありかつキラリティーを持つ)に変化させる。
【0013】
上述したように、Ti中心の対称環境はポリオレフィン生成物の立体化学配置を制御するに非常に重要である。しかしながら、あらゆる結晶面上の露出したTi中心が固有のキラリティーを持つとは限らないことは特に図2から分かるであろう。図2に示したケースを一例として採用することで、[100]および[110]結晶面が存在することが分かるであろう。「110」面が活性触媒の中にアタクティック部位を生じさせる一因になっている一方で完全な[100]結晶面によって高度に立体特異的な部位の形成がもたらされると考えている。不幸なことに、TiClは前記面の両方に成長しはするが、立体規則的ポリオレフィン、例えばイソタクティックポリプロピレンなどの生成に触媒作用を及ぼすに有用な面は[100]面のみである。
【0014】
選択的に所望/的確な環境を持たない部位を阻害する目的でいわゆる内部作用剤(internal agents)[これは溶媒、溶液または内部供与体として用いられる]が用いられることは公知である。MgClに担持されているTiClの場合、電子供与体である有機作用剤を選択的「毒」として用いることができる。そのような内部作用剤の目的は、キラリティーを持たないTi中心を有する面をなくすことにある。これは、[110]面上の高求電子性Mg部位に配位してそれを遮断する内部作用剤(電子供与体)を用いると達成される。
【0015】
不幸なことに、大部分の場合、その「毒」は活性化剤によって除去されることを確認した。従って、選択的「毒」として用いるに適切でありかつ活性化剤によって除去されない電子供与体である新規な有機材料を見つけだすことを試みる研究が成された。
【0016】
この分野でより有効な新規な電子供与体を見つけだそうとする研究が行われたにも拘らず、的確/望ましい環境を持たない部位を選択的に阻害する方法は全面的に満足される方法ではない。これは、ある程度ではあるが、電子供与体を工程中に添加すると工程中の段階数が多くなり、工程の費用が高くなりかつまた使用可能な電子供与体の性質が理由で環境的影響を与えるからである。
【0017】
立体規則的ポリオレフィンが有利であることを鑑み、例えばイソタクティックポリオレフィンを選択的に製造することができるように重合体生成物の立体規則性の選択を可能にする重合方法が得られたならば、それは非常に望ましいことであることは理解されるであろう。重合体の構造および微細構造を制御する方法は既にいくつか知られているが、重合体の構造および微細構造を制御する代替方法または重合体の構造および微細構造を制御する現存の制御を更に向上させることを可能にする方法を提供することができれば、これは非常に望ましいことである。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0018】
このように、本発明者らは、本発明の1番目の面において、オレフィン重合用担持触媒を製造する方法を提供することで、少なくともある程度ではあるが、この上に概略を示した問題を解決する努力を行い、この方法は、
(a)キラル吸着質(chiral adsorbate)が表面に吸着している金属吸着剤(metal adsorbent)を含んで成る固体状担体[前記キラル吸着質の存在は、前記固体状担体の結晶格子のキラルもしくはプロ−キラル(pro−chiral)結晶面の形成にとって好都合である]を生じさせ、そして
(b)触媒もしくはこれの前駆触媒を前記キラルもしくはプロ−キラル結晶面に固定し、そして場合により前記前駆触媒を活性化させることで、オレフィン重合用担持触媒を生じさせる、
段階を包含する。
【0019】
本発明の2番目の面では、本発明の前記1番目の面に従う方法で得たか或は得ることができるオレフィン重合用担持触媒を提供するが、本方法を用いると、前記触媒が有するキラル結晶面(chiral crystal faces)の数が増加する。このような増加は、本発明の1番目の面に従わないで生じさせた相当する担持触媒の結晶格子との比較で測定した増加である。このような増加はX線結晶学および/または電子顕微鏡および/または重合の結果(重合体の微細構造および/または立体規則性の測定)で測定可能である。
【0020】
所望の環境を持たない触媒活性部位が選択的に「阻害される」従来技術とは対照的に本方法は少なくともある程度ではあるがそのような部位を全く生じさせない点で、成功裏であることは理解されるであろう。これに関して、本発明者らは、担体に担持されている触媒の活性中心に適切なキラル環境を与えるには担体格子の結晶面の位相幾何が均一であることが重要であると理解している。
【0021】
更に、本方法は、担体として働くに数個の金属原子の束のみで充分であることからナノ規模でうまく働き得ることで有利である。
【0022】
本発明者らは、金属触媒が用いられている不均一触媒系にエナンチオ選択性を誘発する目的でキラル「修飾剤(modifier)」分子が用いられることは公知であることを注目した。キラル「修飾剤」分子は反応性金属表面に吸着されている。金属表面上でキラル分子の好適な分子形態、結合および配向がとり入れられている(adopted)秩序のある重なり合った多様な構造が作り出される。そのような形態は被覆率、温度および時間に依存する。そのエナンチオ選択的反応ではいろいろな付加層(adlayers)がいろいろな役割を果たす。特に、J.Phys.Chem.B 1999、103、10661−10669頁に、Cuの[110]表面にR,R−酒石酸付加層を特定の条件下で二次元配列させると前記表面の所のあらゆる対称要素が壊されることで広範なキラル表面の形成がもたらされることが記述されている。そのようなキラル表面はエナンチオ選択的不均一反応における活性部位を限定しようとする時に重要な要因になり得ることが提案されている。その資料には、オレフィン重合用担持触媒を製造しようとする時にキラル修飾剤分子を用いることができることは全く述べられていない。
【0023】
この上で考察したように金属触媒表面の所の対称要素を本質的に崩壊させて広範なキラル表面を作り出すと言ったJ.Phys.Chem.の開示とは対照的に、本発明者らは、キラル吸着質が表面に吸着している金属吸着剤を含んで成る固体状担体を生じさせることを提案し、それによって、前記担体が広範なキラルもしくはプロ−キラル表面を持つようにする。下に位置する金属の対称要素は前記キラル吸着質が自己組織することで壊され、それによって、そのキラリティーを持たない金属表面にキラリティーまたはプロ−キラリティーを直接与えることができる。
【0024】
そのようなキラル吸着質は、オレフィン重合用触媒の活性部位に対して配位子として働く能力を有する。これに関して、この上で考察したように、担体表面が有するキラリティーもしくはプロ−キラリティーによってオレフィン重合用触媒の活性中心にキラリティーが与えられる。このようにして、有利なオレフィン重合用担持触媒が生じる。
【0025】
典型的には、触媒もしくはこれの前駆触媒をキラルもしくはプロ−キラル結晶面に固定するとき、そのキラル吸着質は金属吸着剤の上に保持されている。この態様におけるキラル吸着質は、メタロセンもしくは新規なシングルサイトの活性中心が作り出されるように、遷移金属と錯体を形成する配位子として働き得る。
【0026】
まず最初に担体結晶格子のキラルもしくはプロ−キラル面の形成を好都合にする目的で、そして後に担持触媒の位相幾何学的にキラルな面の形成を好都合にする目的で、担体の結晶格子が有する結晶面の配向を、またはより好適には担体格子が有する結晶面のキラリティーを格子形成中に制御することは今まで行われていなかった。本発明はそのような新規な制御方法を最適に提供するものであり、特に有効であると予測する。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本方法では、金属含有電解液の中にキラル吸着質を存在させると電解中に同様なキラリティーを持つ結晶面(結晶学的面)の形成が良好に起こることを見いだした。理論で範囲を限定することを望むものでないが、それは「鍵と錠」(key−lock)現象に相当し得る、即ち入って来る分子に対して受容体が形状選択性を示す。
【0028】
本方法では、本質的に、的確/所望環境を与えない表面を「阻害する」ために電子供与体を添加する必要はない。そのことから重合反応が非常に簡潔になりかつまた費用も低下する。その上、有機電子供与体を使用しないことから環境的にも有利である。
【0029】
本発明に従うオレフィン重合用担持触媒が立体規則的重合体製造方法で示す性能は向上している。本オレフィン重合用触媒が示す性能が向上している理由は、所望環境を有する露出した活性部位の存在数がより多いことによる。
【0030】
本発明の1番目の面に従う方法の段階(a)で固体状構造物を生じさせる方法をいくつか提案することができる。例えば、単にキラル分子を金属結晶に接触させてもよい。そのような段階は引用したJ.Phys.Chem.B1999、103、10661−10669に挙げられている実験手順が基になった段階であり得る。
【0031】
しかしながら、好適には、段階(a)で固体状担体を生じさせる時に電解を用いてもよい。例えば、当該金属とキラル吸着質が入っている電解液を準備してもよい。これに関して、そのキラル吸着質がその作り出される表面にキラリティーもしくはプロ−キラリティーを与えるような様式で前記金属およびキラル吸着質を電解液から電極に付着させてもよい。
【0032】
段階(a)で電解を用いる場合、常規実験を用いて温度、pH、電解液中のキラル吸着質濃度、電解液中の金属濃度、滞留時間、電圧およびアンペアの如き条件を最適にすることができる。その上、当該金属表面を覆うキラル吸着質の被覆率も最適にすることができる(例えば低いか或は高く)。適切な選択を行うことで当該固体状担体の広範なキラル表面を作り出すことができる。
【0033】
本方法は、段階(a)で生じさせる固体状担体の結晶格子の結晶面をキラルまたはプロ−キラルにするに好都合である、即ちこの固体状担体を用いて担持触媒を生じさせる時に
当該触媒の露出したキラル活性部位が形成されるような環境を与えるに好都合である。当該固体状担体を用いて担持触媒を生じさせる時に当該触媒のキラル活性部位が形成されるような環境を与えるのは、前記固体状担体の結晶格子の結晶面の好適には実質的に全部、更により好適には全部である。
【0034】
そのように付着させた金属の表面形態が吸着質によって誘発されて変化したことは、そのようなキラル吸着質の存在無しに付着させた時の金属と比べて結晶表面がより好ましいことで明らかである。従って、そのようなキラル吸着質を電解液の中に存在させることによって金属層の微視的結晶形状を直接修飾することができる。理論で範囲を限定することを望むものでないが、観察した表面形態の変化は熱力学的および動力学的要因によって良好に起こると考えている。
【0035】
本方法で好都合にした結晶面は必ずしも位相幾何学的にキラリティーを持つ必要はない。ある場合には、その表面にプロ−キラリティーを持たせることで充分である、即ち担持触媒の結晶格子の中の結晶活性部位にキラル環境を与えることで充分である。しかしながら、好適には、1つの態様において、段階(a)で生じさせた固体状担体の結晶格子の結晶面はキラル面である。
【0036】
典型的には、当該担体が多孔質電極を構成するようにする。その電極は後で行う重合反応のいずれかを行う前または行っている間に容易に崩壊するように多孔質であるべきである。そのような電極材料の選択では、電解中に付着させるべき金属への電子移動が起こるに熱力学に好ましいようにそれを選択すべきである。適切な多孔質電極の例には、グラファイトおよび当該電解液に入れる金属の適切な塩(例えばニッケルの適切な塩、鉄の適切な塩)が含まれる。
【0037】
付着させるべき金属は例えばニッケルまたは鉄であってもよい。電解中に付着させる金属層の厚みを非常に薄くすべきであり、例えば10nmの桁にすべきである。そのような金属層の厚みを好適には1から50nmの範囲、より好適には5から50nmの範囲にする。その上、電解液に入れる金属の好適な濃度範囲は、それを極性溶媒に入れる場合、5から10%である。その濃度があまりにも高いと、電解があまりにも急速に進行することで形成される表面が均一でなくなってしまうであろう。このように、濃度は低い方が好適である。
【0038】
前記キラル吸着質は前記電極と直接には結合しない。その代わりに、そのキラル吸着質は長距離の水素結合を通して金属表面に吸着されると考えている。そのようなキラル吸着質は不斉中心を有する。理論で範囲を限定することを望むものでないが、そのようなキラル吸着質と金属表面の結合がキラル吸着質の不斉中心を橋渡ししていると考えている。そのようなキラル吸着質は好適には有機物であり、より好適には不斉炭素原子を含んで成る。不斉炭素原子は、一般に、炭素基がこれの鏡像と重なり合うことができないように異なる4個の置換基を有する。可能なキラル吸着質の例には、酒石酸、酒石酸モノナトリウムおよび酒石酸ジナトリウムが含まれる。
【0039】
理論で範囲を限定することを望むものでないが、そのようなキラル吸着質が担体の結晶格子の中に入り込むことはないと考えている。その代わりに、当該金属の表面の所で起こる金属吸着剤とキラル吸着質の間の相互作用によって効果がもたらされると考えている。これに関して、そのようなキラル吸着質がもたらす効果は、不純物種がもたらす効果(この場合には不純物種が当該金属の大部分の中に取り込まれる可能性がある)とは対照的であり得る。
【0040】
電解液の中に入れる個々のキラル吸着質に最適な濃度は実験で決定可能であり、この実
験では、まず最初に低濃度で開始して濃度をより高くして実験を継続する。好適な濃度範囲は当該金属イオンの濃度に関係している。しかしながら、幅広い意味で、溶媒中のキラル作用剤と金属イオンの好適なモル比は2:1から5:1の範囲であるとして限定することができるであろう。
【0041】
本分野の技術者は適切な電解液用溶媒を選択することができるであろう。これに関して、1つの態様では、当該キラル吸着質が電解液用溶媒であるのが望ましい。
【0042】
本発明の1番目の面では、活性チーグラー・ナッタ、メタロセンまたは新規なシングルサイト触媒もしくはこれらの前駆触媒を前記固体状担体上に固定するのが好適である。
【0043】
前記触媒を段階(b)で前記担体上に固定して担持触媒を生じさせる時、前記固定状担体の結晶面によって担持触媒の結晶格子のキラル結晶面が与えられるか或はそれの形成が誘発される。触媒もしくはこれの前駆触媒を当該担体の結晶格子の結晶面上に固定するに適した手順は本分野の技術者に公知であろう。これは、例えば、遷移金属の塩化物を添加するか或は芳香族化および付加などで達成可能である。
【0044】
段階(b)で、触媒もしくはこれの前駆触媒を当該担体の結晶格子の結晶表面上に固定する。これに関して、ある場合には、当該触媒または前駆触媒の前駆体を実際に出発材料として用いてもよい。このように、段階(b)における用語「触媒」および「前駆触媒」にそれらの前駆体を包含させることを意図する。そのような場合、典型的に、固定段階によって当該前駆体が触媒もしくは前駆触媒に変化する。このように、典型的には、個別の変換段階を設ける必要はない。
【0045】
当該触媒系がメタロセン触媒系の場合、前記担体(具体的にはキラル吸着質)が遷移金属と一緒になって錯体を形成することでメタロセンの活性中心が作り出され得る。このように、前記キラル吸着質はそのように錯体形成段階で用いるに適切でなければならない。用語「メタロセン」は、元々、金属が2個のシクロペンタジエニル(Cp)配位子の間に挟まれている錯体を意味する。この分野が進展するにつれて、前記用語は、現在では、幅広い範囲の有機金属構造物を包含し、それには置換Cp錯体、湾曲サンドイッチ構造およびモノCp錯体が含まれる。メタロセン触媒系は、チーグラー・ナッタ触媒系の場合と同様に、一般に、前駆触媒と活性化剤を含んで成る。幅広く用いられている活性化剤はメチルアルミノキサン(MAO)である。メタロセン触媒系を用いた重合の機構を図3に示す。
【0046】
当該触媒系が新規なシングルサイト触媒系の場合、メタロセンの場合と同様に、前記担体(具体的にはキラル吸着質)が遷移金属と一緒に錯体を形成することで新規なシングルサイトの活性中心が作り出され得る。このように、前記キラル吸着質はそのような錯体形成段階で用いるに適切であるべきである。新規なシングルサイトは有効に「Cpを含有しない」メタロセンである、即ち通常のCp型の配位子以外の補助配位子間の配位結合によって金属がキレート化合物を形成している錯体である。
【0047】
メタロセンおよび新規なシングルサイトの典型的な遷移金属活性中心にはFe、Co、Ni、ZrおよびTiが含まれる。
【0048】
チーグラー・ナッタ触媒の場合と同様に、メタロセンもしくは新規なシングルサイト触媒のキラル環境によってポリオレフィン生成物の立体化学配置を制御することができる。メタロセンおよび新規なシングルサイト触媒系の場合、その配位子の構造/幾何を用いて重合体の構造を制御することができる。これに関して、アルファ−オレフィン重合用触媒系の立体化学にとってキラリティーが最も重要な要素である。生じる結晶性アルファ−オ
レフィン重合体の性質(即ちシンジオタクテック、イソタクティック、ステレオブロック...)は対称性に加えてキラリティーによって決まる。
【0049】
メタロセンおよび新規なシングルサイト成分が基になった触媒の場合、補助用有機配位子を用いて、そのメタロセンもしくは新規なシングルサイトのキラリティーおよび対称性を与える。これに関して、イソタクティックポリプロピレンを得ようとする時にはキラリティーを持つ立体剛性メタロセンもしくは新規なシングルサイトを用いる。
【0050】
メタロセンおよび新規なシングルサイトを不均一にする時、メタロセンを無機もしくは不溶な担体に担持させることで不均一にすることができる。
【0051】
担持メタロセンもしくは新規なシングルサイト触媒はより良好な長期安定性を示しかつこれらを用いて幅広もしくは二頂分子量分布を示し(流動特性および物性が向上し)かつ重合体のかさ密度がより高い重合体を得ることができる。また、均一メタロセン触媒作用を用いた時に要する多量の活性化剤の量を、不均一対照物を用いることで少なくすることができる。
【0052】
段階(b)で活性のある触媒を用いる場合、活性化段階を設ける必要はない。
【0053】
段階(b)で前駆触媒を用いる場合、そのような前駆触媒の活性化は、例えば、単に当該触媒を前記担体に固定する作用でか或は本発明の3番目の面に関して以下に定義する種類の個別の活性化剤を用いることなどで達成可能である。
【0054】
ここに、本発明の2番目の面を参照して、本オレフィン重合用触媒を構成するオレフィン重合用触媒は適切な如何なる触媒であってもよい。これに関して、チーグラー・ナッタ触媒およびメタロセン触媒および新規なシングルサイト触媒系が特に有用であることを見いだした。そのような種類の触媒系は本技術分野の技術者に良く知られている。そのような触媒は好適には立体特異的触媒である。特に興味の持たれるチーグラー・ナッタ前駆触媒は遷移金属誘導体、典型的には遷移金属のハロゲン化物またはエステルであり、これはAlR[ここで、Rはアルキル基である]で活性化可能である。そのようなチーグラー・ナッタ触媒は均一もしくは不均一触媒であり得る。活性チーグラー・ナッタ触媒は好適にはTiClである。
【0055】
メタロセンもしくは新規なシングルサイト触媒の場合のキラル吸着質は、最終生成物中でメタロセンもしくは新規なシングルサイト活性中心と錯体を形成する配位子であり得る。この態様におけるキラル吸着質は、メタロセンもしくは新規なシングルサイトの活性中心が作り出されるように、遷移金属、例えばFe、Co、Ni、ZrまたはTiなどと錯体を形成し得るような適切な特性を有するべきである。そのような触媒は、大きな度合で、望まれるポリオレフィンによって決まる。このように、いろいろな態様で、C、CもしくはC対称メタロセンが好適であり得る。一般的には、シンジオタクテックポリオレフィンを製造しようとする時にはC対称メタロセンを用いる一方、イソタクティックポリオレフィンを製造しようとする時にはCもしくはC対称メタロセンを用いる。
【0056】
適切なメタロセンおよび新規なシングルサイト触媒には、周期律表VIII族金属のメタロセンおよび新規なシングルサイト触媒、好適にはFeおよびNiの新規なシングルサイトが含まれる。また、ジルコノセン触媒も好適である。
【0057】
そのような前駆触媒を前記固体状担体上に固定する時、それを最終的に活性のある形態にすべきである。前駆触媒の活性化は、例えば、単に前記前駆触媒を当該担体上に固定する作用でか或は個別の活性化剤を用いることで達成可能である。
【0058】
本発明の2番目の面では、活性担持触媒が有する露出したキラル活性部位の数の方が本発明の1番目の面に従って生じさせた触媒ではない相当する触媒のそれに比べて多い方が好適である。より好適には、活性担持触媒が有する露出した活性部位の実質的に全部、更により好適には全部がキラリティーを持つようにする。更により好適には、担持触媒の結晶格子の結晶面の実質的に全部がキラリティーを持つようにする。
【0059】
本発明に従う3番目の面では、ポリオレフィン製造方法を提供し、この方法は、本発明の2番目の面で定義した如きオレフィン重合用担持触媒の存在下でオレフィン単量体を重合させることを含んで成る。その系に必要ならばさらなる触媒を含有させてもよい。
【0060】
本発明の触媒系は、前駆触媒および前記前駆触媒を活性にする能力を有する1種以上の活性化剤を含んで成り得る。そのような活性化剤は典型的にアルミニウム含有もしくはホウ素含有活性化剤を含んで成る。
【0061】
適切なアルミニウム含有活性化剤はアルモキサン、アルキルアルミニウム化合物および/またはルイス酸を含んで成る。
【0062】
メタロセンもしくは新規なシングルサイト触媒の場合にはアルモキサンである活性化剤が適切である。本発明で使用可能なアルモキサンは良く知られており、好適には、オリゴマー状の線状アルモキサンの場合には式(A):
【0063】
【化2】

【0064】
で表されそしてオリゴマー状の環状アルモキサンの場合には式(B)
【0065】
【化3】

【0066】
で表されるオリゴマー状の線状および/または環状アルキルアルモキサンを含んで成り、ここで、nは1−40、好適には10−20であり、mは3−40、好適には3−20であり、そしてRはC−Cアルキル基、好適にはメチルである。アルモキサンを例えばトリメチルアルミニウムと水から生じさせると、一般に、線状化合物と環状化合物の混合物が得られる。
【0067】
他の好適な活性化剤には、ヒドロキシイソブチルアルミニウムおよび金属のアルミノキシネートが含まれる。それらは特にMain Group Chemistry、1999、第3巻、53−57頁;Polyhedron 18(1999)、2211−2218およびOrganometallics 2001,20、460−467に記述されている如きメタロセンの場合に好適である。
【0068】
当該触媒がTiClである態様では、また、TEAL(トリエチルアルミニウム)を前記触媒と一緒に存在させるのも好適である。メタロセン前駆触媒の場合の活性化剤はM
AO(メチルアルモキサン)、ホウ素およびヒドロキシイソブチルアルミニウムもしくは金属アルミノキシネートのいずれかを含んで成るのが好適である。新規なシングルサイト触媒の場合の活性化剤はMAOとホウ素を含んで成るのが好適である。
【0069】
適切なホウ素含有活性化剤はトリフェニルカルベニウムボロネート、例えばヨーロッパ特許出願公開第0427696号に記述されている如きテトラキス−ペンタフルオロフェニル−ボラト−トリフェニルカルベニウム:
【0070】
【化4】

【0071】
またはヨーロッパ特許出願公開第0277004号(6頁の30行から7頁の7行)に記述されている如き下記の一般式:
【0072】
【化5】

【0073】
で表されるそれらを含んで成り得る。
【0074】
前記固体状担持触媒を生じさせる時に一般的に用いるアルモキサン量は幅広い範囲に渡って多様であり得る。アルミニウムと遷移金属のモル比を一般に1:1から100:1の範囲、好適には5:1から80:1の範囲、より好適には5:1から50:1の範囲にする。
【0075】
好適または適切な重合条件は当該触媒、ポリオレフィン生成物および重合技術に依存する。
【0076】
本方法は、好適には、立体規則的ポリプロピレン、より好適にはイソタクティック、シンジオタクテックもしくはステレオブロックポリプロピレンもしくはポリエチレンの製造に適する。
【0077】
本発明の3番目の面に従う方法におけるオレフィン単量体は、好適にはプロピレンまたはエチレンである。
【0078】
重合を実施する条件には特に制限はない。
【0079】
重合段階を典型的には溶液、気体またはスラリー重合工程として実施する。その上、そのような重合段階を便利にループ反応槽内で実施することも可能である。
【0080】
本発明の4番目の面では、本発明の3番目に従う方法で得ることができるか或は得たポリオレフィンを提供する。
【0081】
ここに、添付図を参照して本発明をより詳細に記述する。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】図1に、チーグラー・ナッタ触媒を用いた重合に関して提案する機構を示す。
【図2】図2に、二塩化マグネシウムに担持させた四塩化チタンの結晶面を示す。
【図3】図3に、メタロセン触媒を用いた重合に関する機構を示す。
【図4】図4に、MgCl結晶格子の中の[110]面と[100]面の間の幾何学的差を示す。空隙部位間の距離の差によってMgの配位数の差がもたらされる。それによって、今度は、求電子性の差がもたらされる。
【図5】図5に、δ−TiClの結晶格子を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オレフィン重合用担持触媒を製造する方法であって、
(a)キラル吸着質が表面に吸着している金属吸着剤を含んで成っていてキラルもしくはプロ−キラル結晶面を有する固体状担体を生じさせるが、前記金属およびキラル吸着質を電解で電解液から付着させることで前記担体を生じさせる段階、そして
(b)触媒もしくはこれの前駆触媒を前記キラルもしくはプロ−キラル結晶面上に固定し、そして場合により前記前駆触媒を活性化させることで、オレフィン重合用担持触媒を生じさせる段階、
を含んで成る方法。
【請求項2】
前記キラル吸着質が有機物である請求項1記載の方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載の方法で得ることができるオレフィン重合用担持触媒。
【請求項4】
前記触媒がチーグラー・ナッタ触媒である請求項3記載のオレフィン重合用担持触媒。
【請求項5】
前記触媒がメタロセンもしくは新規なシングルサイト触媒である請求項3記載のオレフィン重合用担持触媒。
【請求項6】
前記キラル吸着質が配位子として働いて遷移金属と錯体を形成してメタロセンもしくは新規なシングルサイトの活性中心を作り出す請求項5記載のオレフィン重合用担持触媒。
【請求項7】
ポリオレフィンの製造方法であって、
a)請求項3から6のいずれか1項記載の活性化されたオレフィン重合用担持触媒を反応槽に注入し、
b)前記反応槽に単量体および場合により共重合用単量体を注入し、
c)重合条件下に維持し、
d)重合体を取り出す、
段階を含んで成る方法。
【請求項8】
前記オレフィン単量体がプロピレンまたはエチレンである請求項7記載の方法。
【請求項9】
請求項7もしくは請求項8記載の方法で得たポリオレフィン。
【請求項10】
金属およびキラル吸着質を電解で電解液から付着させることで生じさせた固体状担体を格子形成中のキラルおよびプロ−キラル面形成を制御する目的で用いる使用。

【図1】
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【図3】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2007−503498(P2007−503498A)
【公表日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−524366(P2006−524366)
【出願日】平成16年8月26日(2004.8.26)
【国際出願番号】PCT/EP2004/051914
【国際公開番号】WO2005/021609
【国際公開日】平成17年3月10日(2005.3.10)
【出願人】(504469606)トータル・ペトロケミカルズ・リサーチ・フエリユイ (180)
【Fターム(参考)】