説明

オロト酸を含有する飲料およびその製造方法

【課題】オロト酸を高濃度で配合しても、オロト酸が容易に溶解し、溶解後の保存安定性に優れ、かつ、飲料本来の食味や風味を損ねることない飲料を提供する。
【解決手段】オロト酸と、塩基性アミノ酸または塩基性ペプチドとを含有する飲料、ならびに、飲料原料を含む液に、オロト酸を塩基性アミノ酸または塩基性ペプチドの存在下で溶解させる工程を含む、オロト酸含有飲料の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オロト酸を含有する飲料およびその製造方法に関する。より詳細には、本発明は、オロト酸を高濃度で含有してもオロト酸の溶解性や保存安定性に優れ、かつ飲料本来の食味や風味が損なわれない、オロト酸を含有する飲料およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
オロト酸は、ピリミジンヌクレオチド合成の前駆物質であり、牛乳、粉ミルク、ホエー等の乳製品中に存在する。
【0003】
オロト酸には、尿酸値低下作用(非特許文献1、2)、抗炎症作用、滋養強壮作用、肝機能促進作用などの健康の維持・増進に有効な様々な作用があることがわかっている。よって、オロト酸は、上記の作用に基づき、単独でまたは他の成分と組み合わせて、医薬品、医薬部外品、健康食品等への利用が検討されている。これまで、オロト酸を含有する口内炎の予防・治療剤(特許文献1)、気道用抗炎症剤(特許文献2)などが報告されている。
【0004】
オロト酸を効率的かつ簡便に摂取する上で、ミネラルウォーターやお茶などの日常的に摂取する飲料に高濃度で配合することは有利である。しかしながら、オロト酸はそれ自体、水への溶解性が低く、さらにミネラルなどの他成分によっても溶解性が低下するという問題があり、0.04重量%以上の濃度でオロト酸を含有する溶液を調製することは困難であった。また、オロト酸は水に一且溶解しても、溶解性が極めて低いため、溶解後、保存している間に沈殿や析出が生じ易いという問題があった。従って、上記のようなオロト酸の低い溶解性や保存安定性は、オロト酸を飲料に配合する際の大きな障害となっていた。さらに、オロト酸コリン塩といった塩の状態では溶解性は向上するものの、塩による風味劣化がある。そのため、オロト酸を高濃度で配合しても、オロト酸が容易に溶解し、保存中に沈殿や析出がなく、しかも風味劣化のないオロト酸含有飲料が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2008−512381
【特許文献2】国際公開番号 WO2002/100409
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】The American Journal of Clinical Nutrition, 41, 605-608, 1985
【非特許文献2】Metabolism, 19, 1025-1035, 1970
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、オロト酸を高濃度で配合しても、オロト酸が容易に溶解し、保存中に沈殿や析出がなく、しかも飲料本来の食味や風味を損ねることないオロト酸を含有する飲料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、塩基性アミノ酸または塩基性ペプチドがオロト酸の飲料への溶解性と保存安定性を向上させることができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
即ち、本発明は以下の発明を包含する。
(1) オロト酸を、0.04重量%〜1重量%の範囲で含有する飲料。
(2) オロト酸と、塩基性アミノ酸または塩基性ペプチドとを含有する飲料。
(3) オロト酸と、塩基性アミノ酸または塩基性ペプチドとを、重量比で1:0.8〜1:4の割合で含有する、(2)に記載の飲料。
(4) オロト酸を、0.04重量%〜1重量%の範囲で含有する、(2)または(3)に記載の飲料。
(5) オロト酸が、オロト酸フリー体(遊離体)または水和物である、(1)〜(4)のいずれかに記載の飲料。
(6) 飲料原料を含む液に、オロト酸を塩基性アミノ酸または塩基性ペプチドの存在下で溶解させる工程を含む、オロト酸含有飲料の製造方法。
(7) 塩基性アミノ酸または塩基性ペプチドを、オロト酸を溶解させる前に飲料原料を含む液に添加することを特徴とする、(6)に記載の製造方法。
(8) オロト酸を含む飲料に、塩基性アミノ酸または塩基性ペプチドを添加することを特徴とする、オロト酸の飲料への溶解性および保存安定性を向上させる方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、健康の維持増進のための機能成分として有用なオロト酸を高濃度で含有する飲料が提供される。本発明のオロト酸含有飲料は、長期間保存してもオロト酸が析出することなく、均一で安定な状態を保つことができ、また、オロト酸添加による飲料本来の食味を損なうことはない。
【発明を実施するための形態】
【0011】
オロト酸と、塩基性アミノ酸または塩基性ペプチドとを含有する。塩基性アミノ酸または塩基性ペプチドはオロト酸の飲料への溶解性を向上させるとともに、溶解後の保存安定性を向上させる作用を有する。
【0012】
本発明において、オロト酸とはウラシル−4−カルボン酸を表し、微生物由来のもの、化学合成により得られるもの、市販のもの、乳清等食品から抽出したもの等のいずれを用いてもよい。微生物由来のオロト酸としては、例えばUS5,013,656記載の製造方法により取得されるオロト酸等があげられる。
【0013】
本発明におけるオロト酸には、オロト酸のフリー体(遊離体)、オロト酸の水和物、オロト酸の誘導体、それらの薬理学的に許容される塩のいずれをも包含するが、オロト酸のフリー体(遊離体)やその水和物が好ましい。
【0014】
本発明に用いられる塩基性アミノ酸は、等電点が7〜11のアミノ酸をいい、リジン、ヒスチジン、アルギニン、オルニチン、カルニチン等が挙げられ、そのフリー体が好ましい。
【0015】
また、本発明に用いられる塩基性ペプチドとは、構成アミノ酸に塩基性アミノ酸を含む
等電点7〜11のペプチドをいう。ここで、塩基性アミノ酸とは、リジン、ヒスチジン、またはアルギニン等が挙げられ、例えば、カルノシン、アンセリン、バレニン等を用いることができる。
【0016】
上記の塩基性アミノ酸または塩基性ペプチドは1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でもリジンが好ましい。
【0017】
本発明の飲料におけるオロト酸の含有量は、0.04重量%〜1重量%、好ましくは0.04重量%〜0.6重量%、より好ましくは0.04重量%〜0.4重量%である。オロト酸の含有量が0.04重量%より少ない場合は、オロト酸単独で溶解することができ、1重量%より多い場合は、塩基性アミノ酸または塩基性ペプチドを添加してもオロト酸が溶解しないか、または保存中にオロト酸の析出を生じる。
【0018】
本発明の飲料中の、オロト酸と、塩基性アミノ酸または塩基性ペプチドとの割合は、重量比で1:0.8〜1:4、好ましくは1:1〜1:2である。オロト酸と、塩基性アミノ酸または塩基性ペプチドとの割合が上記範囲内であれば、オロト酸の溶解性に優れる。塩基性アミノ酸または塩基性ペプチドの量が上記比率より小さいと、オロト酸の溶解性向上効果が得られなくなり、上記比率より大きいと、オロト酸が保存中に析出しやすくなるか、塩基性アミノ酸または塩基性ペプチドが飲料の食味や風味に悪影響を及ぼす。
【0019】
本発明でいう飲料とは、非アルコール飲料およびアルコール飲料の全てを含む。非アルコール飲料としては、例えば、ミネラルウォーター、ニア・ウォーター、スポーツドリンク、茶飲料、乳飲料、コーヒー飲料、果汁入り飲料、野菜汁入り飲料、果汁および野菜汁飲料、炭酸飲料などが挙げられるが、これらに限定はされない。
【0020】
ミネラルウォーターは、発泡性および非発泡性のミネラルウォーターのいずれもが包含される。
【0021】
茶飲料とは、ツバキ科の常緑樹である茶樹の葉(茶葉)、または茶樹以外の植物の葉もしくは穀類等を煎じて飲むための飲料をいい、発酵茶、半発酵茶、および不発酵茶のいずれもが包含される。茶飲料の具体例としては、日本茶(例えば、緑茶、麦茶)、紅茶、ハーブ茶(例えば、ジャスミン茶)、中国茶(例えば、中国緑茶、烏龍茶)、ほうじ茶等が挙げられる。
【0022】
乳飲料とは、生乳、牛乳等またはこれらを原料として製造した食品を主原料とした飲料をいい、牛乳等そのもの材料とするものの他に、例えば、栄養素強化乳、フレーバー添加乳、加糖分解乳等の加工乳を原料とするものも包含される。
【0023】
果汁入り飲料や果汁および野菜汁入り飲料に用いられる果物としては、例えば、リンゴ、ミカン、ブドウ、バナナ、ナシ、モモ、マンゴーなどが挙げられる。また、野菜汁入り飲料や果汁および野菜汁入り飲料に用いられる野菜としては、例えば、トマト、ニンジン、セロリ、カボチャ、セロリ、キュウリなどが挙げられる。
【0024】
一方、アルコール飲料としては、ウイスキー、バーボン、スピリッツ、リキュール、ワイン、果実酒、日本酒、中国酒、焼酎、ビール、アルコール度数1%以下のノンアルコールビール、発泡酒、酎ハイなどが挙げられるが、これらに限定はされない。
【0025】
本発明において提供される飲料(飲料形態の健康食品や機能性食品を含む)の製造に当たっては、通常の飲料の処方設計に用いられている糖類、香料、果汁、食品添加剤などを適宜添加することができる。飲料の製造に当たってはまた、当業界に公知の製造技術を参照することができ、例えば、「改訂新版ソフトドリンクス」(株式会社光琳)を参考とすることができる。
【0026】
本発明の飲料の製造は、飲料原料を含む液に、オロト酸を塩基性アミノ酸または塩基性ペプチドの存在下で溶解させる工程を少なくとも含んでいればよく、その飲料の通常の製造方法に従って行なえばよい。オロト酸と、塩基性アミノ酸または塩基性ペプチドは、飲料原料を含む液に、同時に添加してもよいが、より早くオロト酸を溶解させるために、塩基性アミノ酸または塩基性ペプチドを添加した後、オロト酸を溶解させる方が好ましい。
【0027】
製造された本発明の飲料を充填する容器は、アルミ缶、スチール缶、PETボトル、紙容器など飲料を充填できるものであればいずれであってもよく、また容量についても制限がない。
【実施例】
【0028】
以下、実施例によって本発明を更に具体的に説明するが、これらの実施例は本発明を限定するものでない。なお、下記実施例において「オロト酸」とあるのは「オロト酸一水和物」をいい、「%」は「重量%」をいう。
【0029】
(実施例1)
ミネラルウォーターに、オロト酸のみ0.4%添加した溶液と、オロト酸0.4%とリジン0.6%を添加した溶液を調製し、各溶液をそれぞれ20℃にて30分間攪拌し、オロト酸の溶解性を調べた。
【0030】
その結果、オロト酸のみを添加した溶液はオロト酸の溶け残りが多かったが、オロト酸をリジンと共に添加した溶液ではオロト酸はすべて溶解しており、リジンによるオロト酸の溶解性向上効果を確認できた。さらに、オロト酸をリジンと共に添加した溶液を5℃にて6ヶ月保存したが、溶液状態に変化がなかった。
【0031】
(実施例2)
市販のミネラル補給飲料に、オロト酸のみ(0.02%、0.04%、0.06%)、または、オロト酸(0.02%、0.04%、0.06%)とリジン(0.02%、0.04%、0.06%)を添加した溶液をそれぞれ調製し、オロト酸の溶解性と保存安定性(保存後の溶液状態の変化)を比較した。オロト酸の溶解性の評価は、溶液を20℃にて30分間攪拌した後、溶け残りの有無を観察することによって行なった(○:溶解、×:溶け残りあり)。また、保存安定性の評価は、溶液を5℃で6ヶ月保存し、オロト酸の析出の有無を確認することによって行なった(○:析出なし、×:析出あり)。結果を表1に示す。
【0032】
【表1】

【0033】
表1に示されるように、オロト酸単独を溶解させた場合、0.02%では溶解性および保存安定性ともに良好な結果であったが、0.04%以上で溶け残りや析出がみられた。一方、オロト酸をリジンと組み合わせると、溶け残りや析出がみられず、溶解性および保存安定性ともに優れた溶液となった。また、それらの溶液の風味はミネラル補給飲料として良好なものであった。
【0034】
(実施例3)
ミネラルウォーターに、塩基性アミノ酸(アルギニン、リジン)または塩基性ペプチド (カルノシン)を溶解させた後、オロト酸を添加し、オロト酸の溶解性と保存安定性(保存後の溶液状態の変化)を比較した。塩基性アミノ酸または塩基性ペプチドとオロト酸の濃度比は2:1とした。オロト酸の溶解性の評価は、溶液を20℃にて30分間攪拌した後、溶け残りの有無を観察することによって行なった(○:溶解、×:溶け残りあり)。また、保存安定性の評価は、溶液を5℃で6ヶ月保存し、オロト酸の析出の有無を確認することによって行なった(○:析出なし、×:析出あり)。結果を表2に示す。
【0035】
【表2】

【0036】
表2に示されるように、いずれも良好な溶解および保存状態であった。一方、風味を確認すると、オロト酸0.6%以上で風味低下が確認されたが、0.4%以下では摂取するのに問題がなかった。
【0037】
(実施例4)
市販のスポーツドリンクまたは緑茶抽出液に、リジンを溶解させた後、オロト酸を添加し、オロト酸の溶解性と保存安定性(保存後の溶液状態の変化)を比較した。リジンとオロト酸の濃度比は4:1とした。オロト酸の溶解性の評価は、溶液を20℃にて30分間攪拌した後、溶け残りの有無を観察することによって行なった(○:溶解、×:溶け残りあり)。また、保存安定性の評価は、溶液を5℃で6ヶ月保存し、オロト酸の析出の有無を確認することによって行なった(○:析出なし、×:析出あり)。結果を表3に示す。
【0038】
【表3】

【0039】
オロト酸は、スポーツドリンクや緑茶に0.6%まで溶解したものの、他成分の影響を受け、保存中に析出が見られた。しかし、オロト酸0.4%では溶解や保存中の析出に問題がなかった。また、オロト酸を0.2%または0.4%溶解したスポーツドリンクおよび緑茶抽出物の風味は摂取するのに問題ないレベルであった。
【0040】
(実施例5)
ミネラルウォーターに、オロト酸0.1%と、リジン、アルギニン、またはヒスチジンをそれぞれ0.1%添加した溶液、およびオロト酸コリン塩を用いてオロト酸0.1%に調整した溶液の計4種の溶液を調製し、パネラー6名により官能評価を行った。官能評価は、「快適に摂取できる」を+2点、「快適まではいかないが自然に飲める」を+1点、「飲むのに問題ない」を0点、「飲めるがにおいや味が悪い」を-1点、「摂取できない」を-1点とし、6名による評点の平均を求めた。結果を表4に示す。
【0041】
【表4】

【0042】
オロト酸コリン塩溶液は、それ由来の魚臭のような臭いが強く、官能評価の点数は低かった。一方、リジン、アルギニン、ヒスチジンを使用した溶液は、塩基性アミノ酸由来の風味が付与されているが、オロト酸コリン塩よりは官能評価の点数が高く、摂取に問題がなかった。
【0043】
(実施例6)
市販のスポーツドリンクに、オロト酸0.2%と、リジン、アルギニン、またはヒスチジンをそれぞれ0.2%添加した溶液、およびオロト酸コリン塩を用いてオロト酸0.1%に調整した溶液の計4種の溶液を調製し、パネラー6名により官能評価を行った。官能評価は、「快適に摂取できる」を+2点、「快適まではいかないが自然に飲める」を+1点、「飲むのに問題ない」を0点、「飲めるがにおいや味が悪い」を-1点、「摂取できない」を-1点とし、6名による評点の平均を求めた。結果を表5に示す。
【0044】
【表5】

【0045】
オロト酸コリン塩溶液は、スポーツドリンクにおいても、コリン塩それ由来の魚臭のような臭いが強く、官能評価の点数は低かった。
【0046】
一方、リジン、アルギニン、ヒスチジンを添加した溶液は、塩基性アミノ酸由来の風味の影響もほとんどなく、オロト酸コリン塩より官能評価の点数が高く、おいしく飲めた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オロト酸を、0.04重量%〜1重量%の範囲で含有する飲料。
【請求項2】
オロト酸と、塩基性アミノ酸または塩基性ペプチドとを含有する飲料。
【請求項3】
オロト酸と、塩基性アミノ酸または塩基性ペプチドとを、重量比で1:0.8〜1:4の割合で含有する、請求項2に記載の飲料。
【請求項4】
オロト酸を、0.04重量%〜1重量%の範囲で含有する、請求項2または3に記載の飲料。
【請求項5】
オロト酸が、オロト酸フリー体(遊離体)または水和物である、請求項1〜4のいずれかに記載の飲料。
【請求項6】
飲料原料を含む液に、オロト酸を塩基性アミノ酸または塩基性ペプチドの存在下で溶解させる工程を含む、オロト酸含有飲料の製造方法。
【請求項7】
塩基性アミノ酸または塩基性ペプチドを、オロト酸を溶解させる前に飲料原料を含む液に添加することを特徴とする、請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
オロト酸を含む飲料に、塩基性アミノ酸または塩基性ペプチドを添加することを特徴とする、オロト酸の飲料への溶解性および保存安定性を向上させる方法。

【公開番号】特開2011−125282(P2011−125282A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−287912(P2009−287912)
【出願日】平成21年12月18日(2009.12.18)
【出願人】(000253503)キリンホールディングス株式会社 (247)
【Fターム(参考)】