説明

オーディオ信号を変換するためのコンバータ及び方法。

Nチャネルのオーディオ入力チャネルをMチャネルのオーディオ出力チャネルに変換するためのコンバータ及び変換方法が開示される。ここで、入力チャネルで受信された信号に伝達関数を作用させて計算された出力チャネルの残響成分を得るのにプロセッサが用いられ、該伝達関数は、対応する励振に作用させたとき計測された残響の一組の極大の選択されたサブセットに適合する簡略伝達関数である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音響環境のモデルを簡略化する方法に関し、該モデルは一組の伝達関数を含み、各々の伝達関数は、該音響環境内の音発生位置と音受信位置の間の一組の音伝搬経路に対応する。
【背景技術】
【0002】
そのようなモデルは、「録音された音楽に空間的印象を付加する一例:バイノーラル・インパルス応答との信号畳み込み」と題する非特許文献1によって知られ、この場合、音響環境がコンバータ内でオーディオ信号を伝達関数と畳み込むことによってシミュレートされ、音響環境のこのモデルが形成される。Nチャネルの各々に対して、一組の畳み込みが確立されてMチャネルの各々に対する残響が計算され、その結果Mチャネルを通して再生される音声が、モデル化された音響環境内で録音されたかのように知覚される。
【0003】
しかし、そのようなモデルの短所は、音像を膨張させてモデル化された音響環境に適合させるためには多数の音伝搬経路を表す複雑な伝達関数を各々の残響に対して処理する必要があり、コンバータに対して大きな処理電力及びメモリを要求することである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Angelo Farina(Dipartimento Ingegneria Industriale Universita di Parma)、Proc. of International Conference “Acoustics and recovery of spaces for music”, Ferrara 27-28 10月、1993年。
【非特許文献2】Ralph Kessler、Audio Engineering Society, Convention Paper, Presented at the 118th Convention, Barcelona, Spain、5月28−31日、2005年。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、モデル化音響環境をシミュレートするのに必要な処理電力及びメモリを減らし、それでもなお結果として得られるMチャネルのオーディオ信号がモデル化音響環境内で録音されたかのように聞こえるようにする方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的は、
音発生位置で発生した第1の励振が音受信位置で受信されるときの模擬残響を、第1の励振に伝達関数を作用させて計算し、
模擬残響の強度包絡線内の一組の極大のサブセットを選択し、
第1の励振に作用して、選択された極大のサブセットに適合する強度包絡線を有する模擬残響をもたらす簡略伝達関数を計算する、
ステップを含む本発明による方法によって達成される。
【0007】
強度包絡線内の極大は、モデル化音響環境内の主要な伝搬経路に対応する重要な残響成分を表す。これらの極大のサブセットを選択して、それらに簡略伝達関数を適合させ、次にこの関数を用いて、音像品質を感知されるほどに低下させることなく、低減した処理及びメモリ要件により音響環境をシミュレートすることができる。
【0008】
選択される極大の数は、所定の最大値を超えないことが有利である。従って、伝達関数の最大サイズ及び/又は複雑さは予め限定され、簡略音響環境モデルを取り扱うのに必要となる処理及びメモリ要件が定められる。
選択される極大のサブセットは、時間強度減衰関数を越える極大の中から選択されることが有利である。
【0009】
時間強度減衰関数より上に残響の強度包絡線内のピークとして現れる最も高い反響のサブセットを選択することにより、大部分の知覚可能成分が保持され、計測されるインパルス応答に対する知覚可能な差異が最小に保たれる。
【0010】
より好ましくは、時間強度減衰関数は指数関数型の減衰関数とすることができる。結果として得られる模擬残響は、人の耳では全ての残響成分が含まれたバージョンと区別することができず、それでもなお指数関数型時間強度減衰関数より下の残響成分の除去により処理要件及び複雑さが大幅に減少する。
簡略伝達関数は、第1の励振との畳み込みによって作用させることが好ましい。これは特に忠実な模擬残響を与える。
【0011】
音響環境のさらに簡単なモデルを生成する代替の方法においては、各々の簡略伝達関数が、各々の選択された極大に対して単一の遅延及び単一の減衰の組合せとして表される。この場合、シミュレーションはこれらの伝達関数を、畳み込みによってではなく、比較的簡単な時間領域の操作でオーディオ信号に作用させることによって実行することができる。
【0012】
本発明はまた、N個の入力チャネルを備えた第1のオーディオ・ストリームをM個の出力チャネルを備えた第2のオーディオ・ストリームに変換する方法であって、各々の入力及び出力チャネルに対して、
上記の方法を用いて簡略化されたMチャネル音響環境のモデルにおいて、入力及び出力チャネルに関連する簡略伝達関数を選択し、
入力チャネルからの入力信号の少なくとも一部分を、選択された簡略伝達関数を作用させることによって処理して、出力チャネルの出力信号の少なくとも一部分を生成する
ステップを含む方法に関する。
【0013】
従って、この簡略モデルを用いることにより、モデル化音響環境において、音がどのように聞こえることになるかをシミュレートすることができる。
M>Nであることが好ましい。これにより、第1のオーディオ・ストリームを、より多数のチャネルを有する第2のオーディオ・ストリームに変換することが可能となる。しかし、代替的実施形態においては、MはNより小さいか又はそれに等しくすることができる。
【0014】
本方法のさらに別の実施形態において、選択される極大のサブセットはM個のオーディオ・チャネルのうちの少なくとも2つに関して異なる。
2つのチャネルの簡略伝達関数内に差異を意図的に導入することにより、2つのオーディオ・チャネルに対して同じ信号が計算されることが避けられる。室内で2つの音源に同じ信号を発生させると、システム(室、ラウドスピーカ及び音)が櫛型フィルタとして作用して室内全域にわたり2つのチャネルの不均等な知覚がもたらされる。
【0015】
これを避けるために、包絡線内の極大の選択を、2つのチャネルに対して異なるように意図的に行って、2つのチャネルの減結合を効果的にもたらす。
この方法は、2つの伝達関数を用いて、室内の単一の音源から2つの受信位置に至る信号経路をシミュレートすることにより、モノラル信号を人工的にステレオ信号に変えることを可能にする。
【0016】
本方法のさらに別の実施形態において、選択される反響のセットは全てのMチャネルに対して異なる。
マルチチャネル・システムに対して、全てのM個チャネルを減結合させ、システムが櫛型フィルタとして作用して室内全域にわたり2つのチャネルの不均等な知覚をもたらすことを確実に防ぐことは有益である。
【0017】
本発明は一般に、マルチチャネル信号を、さらに多くのチャネルを有する別のマルチチャネル信号に変えるため、例えば、高架スピーカの付加的な層を表す付加的なチャネルを計算することにより、2Dオーディオ信号を3Dオーディオ信号に変換するために用いることになるが、その極限において本発明は、各々の音源スピーカ位置の組合せに対して1つずつの複数の簡略伝達関数を用いることにより、そして選択される極大のサブセットがMチャネルの各々に対して異なるようなMチャネルの無相関を確実にすることにより、モノラル信号を3D信号に変換するのに用いることができる。
これらのステップはまた、極大のサブセットの選択を含む、本発明の他のステップ及び/又は特徴とは独立に用いることもできることに留意されたい。
【0018】
本発明の特定の実施形態において、出力信号は前期部分と後期部分を含む。
この後期部分は通常、特定の反響に関係する顕著なピークを殆ど有しない傾向がある。従って、簡略伝達関数を用いて前期部分のみを生成することができ、一方後期部分は他の手法、例えば、上述の従来技術から知られる従来の手法、即ちアルゴリズムによる残響方法を用いて生成することができる。
前期部分は主要な反響を表す幾つかの顕著なピークを有する傾向があり、ここで本発明の方法は、主要でない残響成分を除去して処理要件の複雑さを減らすことを可能にする。
【0019】
出力信号をどのように前期部分と後期部分に分割するかは、音のタイプによって決定することができる。
異なる種類の音は、幾つかの主要な極大を有する前期部分と、主要な極大を殆ど又は何も有しない後期部分との間の異なる分割を有する。
処理要件を低減するために、前期部分と後期部分の間の分割を調節して適切な方法を適切な部分に最適に適用するようにすることができる。
例えばニュース読みの場合、残響の後期部分は有利に除去することができる。
【0020】
特許請求されるコンバータはオーディオ装置内で有利に用いられる。オーディオ装置は、例えば2次元音響を、2次元音響より多くのチャネルを有する3次元音響に変換することができる。これはコンバータが、3次元に関する情報を有しない入力チャネルから3次元印象を作成することを可能にする。
【0021】
特許請求されるコンバータを備えたそのようなオーディオ装置は自動車内で有利に用いることができる。
自動車内の音響環境は最適ではないことが多く、多くのオーディオ録音がなされる音響環境とは異なる。
本発明の方法及びコンバータを用いて残響を調節して自動車の音響環境内での音の最適の再生を可能にすることができる。
【0022】
これから、本発明を実施するための最良の形態を示す図面に基づいて本発明を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】室を特徴付けるための計測設備を有する室を示す。
【図2】室内の計測位置における残響を示す、計測されたインパルス応答の強度包絡線を示す。
【図3】室のモデルを用いて得られた、模擬インパルス応答の強度包絡線を示す。
【図4】計測されたインパルス応答と模擬インパルス応答の両方の強度包絡線を示す。
【図5】残響内の幾つかの成分をゼロに設定し、所定数の高い反響のみを残した後の模擬インパルス応答の強度包絡線を示す。
【図6】室モデルを用いてN個のオーディオ・チャネルをM個のオーディオ・チャネルに変換するためのコンバータを示す。
【図7】コンバータを備えたオーディオ装置を示す。
【図8】コンバータを備えたオーディオ装置を示す。
【図9】前期部分と後期部分を含む計測されたインパルス応答を示す。
【図10】模擬前期部分を示す。
【図11】模擬後期部分を示す。
【図12】2つのチャネル120、121を示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本説明は、インパルス励振からインパルス応答を計算する方法として、即ちM個のオーディオ・チャネルをN個のオーディオ入力チャネルから計算する方法として、畳み込みについて言及するが、同様のことは、シミュレートされる各々の関連する直接又は間接(反響)経路に対して簡単に遅延及び適切な減衰を加えることによっても達成できる。これは、学生の教科書に見出される畳み込みの使用に対する周知の代替方法であるので、詳しくは説明しない。
【0025】
図1は、室を特徴付けるための計測設備を有する室を示す。
音響環境1、例えば室の内部に、励振音源2、例えばスピーカは音発生位置に配置される。音受信位置には計測装置3が配置され、励振音源2による励振に対する室の応答を捕捉する。
【0026】
好ましい実施形態において、励振は時間伸張パルスとすることができる。これは基本的には、指数関数的な正弦掃引であり、以前のMLS(Maximum Length Sequence、最長系列)法よりも優れた幾つかの長所をもたらす。より高いS/N比を得るための1つの技法は、複数のTSPを記録して平均することを含み、周囲ノイズ及び装置の自己ノイズは記録数を2倍する毎に3dB減少する。しかし、この技法の残る問題はスピーカ誘起の歪みが消えないことである。
【0027】
その代わりとして、掃引長が、計測室の推定される残響時間の約10倍もの長さとなり、典型的には15−80sの長さを生じるTSPを用いることが好ましい。これは、開始周波数から閉鎖周波数までの10オクターブを計測することを想定したものである。用いる掃引はまた、アーチファクトを避けるためにフェードイン及びフェードアウトさせる必要がある。
【0028】
信号/ノイズ比に直接影響する別の要因は、背景のノイズレベルと比べてのラウドスピーカ出力である。−20dBFSの帯域制限(500−2000Hz)信号を出しながら2mの距離におけるSPLに85dBaのキャリブレーションを用いることが推奨されている。掃引は14dB大きい−6dBFSにおいて消える。
【0029】
従って、そのようなインパルスは励振源2によってもたらされ、音波は種々の経路、図1においては第1の経路4及び第2の経路5に沿って進む。第1の経路4及び第2の経路5は、異なる長さを有するので音波は異なる時間に計測装置3に到達することになり、捕捉される残響を生じる。
【0030】
残響は異なる計測位置及び励振位置に対して異なり、計測される残響に基づいて室のモデルを確立することができる。この方法は広く知られており、「多次元音響フィンガープリントを捕捉するための最適化方法」と題する非特許文献2及びAngelo Farina教授(イタリア)の論文の中に見出すことができる。
【0031】
インパルス励振との畳み込みが、計測されたインパルス応答の残響の強度包絡線とよく適合する強度包絡線を有する残響を有する模擬インパルス応答を生じる、伝達関数を構築することにより、一組の音発生位置及び音受信位置に対応する一組の伝達関数として室のモデルを構築することができる。
【0032】
M個のオーディオ・チャネルを作成するために、N個の入力オーディオ・チャネルを一組の伝達関数と畳み込んで、モデル化室に似た音像を有するM個のオーディオ・チャネルをもたらす。
【0033】
図2は室内の計測位置における残響を示す計測されたインパルス応答を示す。
計測されたインパルス応答の強度包絡線20は、図2においては対数−線形グラフ上で時間の関数として示され、室内の複数の伝搬経路に対応する数個の極大21、22、23、24、25を含む。
室の特徴に応じて、反響は異なる量の遅延及び減衰を引き起こす。従って、包絡線20のピーク21、22、23、24、25は異なる位置及び振幅を有する。
【0034】
図3は上記の室のモデルを用いて得られた、模擬インパルス応答を示す。
模擬インパルス応答の強度包絡線30は図3に示され、モデル化室内の複数の伝搬経路に対応する数個の極大31、32、33、34、35を含む。
室のモデル化された特徴に応じて、異なる量の遅延及び減衰が伝達関数に組み込まれる。インパルス励振と伝達関数の畳み込みを計算することにより、包絡線30の極大21、22、23、24、25が得られ、残響内の適切な位置に配置され、異なる振幅を有し、計測されたインパルス応答に可能な限り良く適合する。
【0035】
図4は、計測されたインパルス応答とモデル化されたインパルス応答の両方を示す。
計測されたインパルス応答の強度包絡線20と計算されたインパルス応答の強度包絡線30を比較のために重ねてあり、これから分かるように、この例においては強度包絡線20と30の間で良い一致が得られている。
例えば、計算された包絡線30の第1の極大又はピーク31は、計測された包絡線20の第1のピーク21によく対応し、伝達関数がモデル化室にかなり良く適合することを示す。
【0036】
図5は、残響内の幾つかの成分をゼロに設定し、所定数の主要伝搬経路のみを残した後のモデル化されたインパルス応答を示す。
本発明においては、畳み込みの複雑さを減らすために伝達関数を簡略化する。この簡略化は、簡略伝達関数を用いてインパルス応答を計算し、結果として得られるインパルス応答が依然として計測されたインパルス応答に十分に一致するかどうかをチェックすることにより検証される。
簡略伝達関数をチェックする基準は、計測されたインパルス応答の強度包絡線の一組の極大のうちの選択されたサブセットが、依然として模擬インパルス応答の強度包絡線内に保持されていることである。
【0037】
これは、伝達関数の修正、即ち簡略化を通して幾つかの極大を除去できることを意味する。これは図5において、第1のピーク31、第2のピーク32及び第5のピーク35が依然として模擬インパルス応答内に存在するが、一方第3のピーク33及び第4のピーク34はもはや存在しないことで示される。図5は、比較を簡単にするために計測されたインパルス応答の強度包絡線20を示す。
【0038】
本発明の好ましい実施形態において、選択された極大のサブセット31、32及び35の数は所定数を越えず、例えば、図示した実施例においては3より大きくない。これは、予め簡略伝達関数の複雑さを制限する。この選択は、強度包絡線20に対して、図5に示すように、選択される所定の最大数の極大を切り取った時間−強度減衰関数40をフィッティングし、それより上に出て、人の耳によりはっきり聞こえることになる極大を選択することによって実施することが好ましい。特に、時間−強度減衰関数は、図示したように、I(t)=I0・exp(t0−t)に従う指数関数とすることができ、ここでI(t)は時間の関数としての強度であり、I0は初期強度、そしてt0は初期時間である。
【0039】
特定の実施形態において、簡略伝達関数は、各々の選択された極大に関する信号遅延及び信号減衰として表すことができる。従って、インパルス応答の計算は、畳み込みによるではなく、比較的簡単な時間領域の演算により可能となる。
【0040】
図6は、室モデルを用いてN個のオーディオ・チャネルをM個のオーディオ・チャネルに変換するためのコンバータを示す。
コンバータ60はプロセッサ61に接続された入力チャネル64を有し、このプロセッサ61が入力チャネル及び出力チャネルの種々の組合せに関する複数の残響を計算することができる。プロセッサ61の出力信号は出力チャネル65に供給される。
プロセッサ61によって用いられる伝達関数又は伝達関数のパラメータは、パラメータ入力66からのモデル即ち伝達関数に関する情報を受け取るように配置されたモデル入力ブロックを介して供給される。
【0041】
本発明の一実施形態において、プロセッサは、入力及び出力チャネルの各組合せに対して、入力信号と対応する簡略伝達関数との畳み込みを計算する。
本発明の別の実施形態においては、簡略伝達関数が、各々の選択された極大に関する信号遅延及び信号減衰の組合せとして表される場合、これらは時間領域操作において入力信号に作用させる。
【0042】
図7は、残響の前期部分と後期部分を別々に処理するためのコンバータを示す。
コンバータ60は、入力信号を分割するための分割器70に接続された入力チャネル64を有する。プロセッサ61は、入力チャネル及び出力チャネルの種々の組合せに関する複数の残響を計算して出力信号の前期部分を生成することができる。後期部分は全く生成されないか、又は分割器70に同様に接続された別個のプロセッサ72によって生成され、この場合、後期部分は、例えばアルゴリズムによる残響のような従来の方法で生成される。
【0043】
出力チャネルはプロセッサ61及び72によって結合器71に与えられ、ここで各チャネルに関して結果として得られる前期及び後期部分が結合されて単一の出力信号になり出力65に供給される。
プロセッサ61によって用いられる伝達関数又は伝達関数のパラメータは、パラメータ入力66からのモデル即ち伝達関数に関する情報を受け取るように配置されたモデル入力ブロックを介して供給される。
【0044】
図8は、コンバータを備えたオーディオ装置を示す。
オーディオ装置80は、コンバータ60、即ち図6又は図7のコンバータ60を備える。オーディオ装置は、N個の入力チャネルを、例えば、光ディスク81又は伝送チャネル(図示せず)から受け取る。N個の入力チャネルはコンバータ60に供給されてM個のチャネルに変換される。このためにコンバータは用いる伝達関数に関する情報を必要とする。この情報はコンバータ60の内部若しくはオーディオ装置80の内部に埋込むことができ、又は外部ソースから受け取ることができる。図8には、情報が光ディスクから読み出される状況を示す。その場合には、光ディスクは入力チャネル及び室モデル情報の両方を含む。
【0045】
図9は、前期部分と後期部分を含む計測されたインパルス応答を示す。図示した実施形態においては前期部分と後期部分が連続しているが、代替的実施形態においては、それらは重なっても良く又は分離してもよい。
図7に示すように、残響の前期部分と後期部分の処理を分割して別々に取り扱うことができる。
【0046】
図2の残響の強度包絡線20を再び図9に示すが、ここでは前期部分21、22、23、24、25と後期部分91の間の分割点を示す垂直点線がある。分割点は時間に固定されたものではなく、音のタイプ(例えば、声、古典、ジャズ、ポップなど)又はモデル化された音響環境のタイプに基づいて決定される。図9の場合には、分割点は、比較的大きな振幅を有する明らかな主要反響から生じるピークを有する前期部分と、主要なピークがなく比較的一様な減衰包絡線形状を有する後期部分91との間に存在するように選ばれている。本説明から明らかなように、本発明は、それらのピークを有する前期部分21、22、23、24、25について有利に用いることができる。後期部分91は、従来技術による既知の方法及び手段を用いて処理することができ、又はその全てを無視することができる。
【0047】
図10は模擬前期部分を示す。
インパルス応答の模擬前期部分100は、図5と等しく、本発明のモデリング方法を用いて選択された主要なピーク31、32、33、34、35のみを含むが、後期部分は本発明の方法を適用する前に除去されている。
これは、模擬残響の後期部分101をゼロに設定することになる。
【0048】
図11は模擬後期部分を示す。インパルス応答のモデル化された後期部分110には、処理の前に前期部分が除去されるので前期部分の主要なピーク31、32、33、34、35はないが、後期部分111を含む。
【0049】
図12は、モデルの簡略伝達関数に用いるピークの選択が、室内で再生したときの櫛型フィルタ効果を避けるために違うように選ばれた2つのチャネル120、121を示す。説明を簡単にするために、2つの同一のインパルス応答120、121を示すが、実際にはインパルス応答は各チャネルに対して僅かに異なることになる。
第1のモデル化されたインパルス応答120において第2のピーク32が削除されており、一方第2のモデル化されたインパルス応答121においては第4のピーク34が削除されている。
【0050】
本発明は、特定の例示的な実施形態に関して説明したが、これらの実施形態に対して、特許請求の範囲において説明される本発明の広い範囲から逸脱せずに、種々の修正及び変更を加えることができるのは明白であろう。例えば、本説明において信号処理はアナログ式に実施されるかのように説明したが、本発明の全ての信号処理ステップは、デジタル手段により、デジタル式の時間サンプリングを通して有利に実行することができる。それゆえに、本説明及び図面は、限定的な意味のものではなく、例証的な意味のものであると考えられたい。
【符号の説明】
【0051】
1:音響環境
2:励振源
3:計測装置
4:第1の経路
5:第2の経路
20、30:強度包絡線
21、22、23、24、25、31、32、33、34、35:極大
40:時間−強度減衰関数
60:コンバータ
61、72:プロセッサ
64:入力チャネル
65:出力チャネル
70:分割器
71:結合器
80:オーディオ装置
81:光ディスク
91、101、111:後期部分
100:前期部分
110:モデル化された後期部分
120、121:チャネル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
音響環境のモデルを簡略化する方法であって、該モデルは一組の伝達関数を含み、各々の伝達関数は該音響環境内の音発生位置から音受信位置までの音伝搬に対応し、各々の伝達関数に関して、
前記音発生位置で発生する第1の励振の前記音受信位置で受信される模擬残響を、前記伝達関数を前記第1の励振に作用させることによって計算し、
前記模擬残響の強度包絡線内の一組の極大のサブセットを選択し、
前記第1の励振に作用して前記選択された極大のサブセットに適合する強度包絡線を有する模擬残響をもたらす簡略伝達関数を計算する、
ステップを含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記選択される極大のサブセットの数は所定の最大値を越えないことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記選択される極大のサブセットは、時間強度減衰関数を越える極大の中から選択されることを特徴とする、請求項1又は請求項2のいずれか1項に記載の方法。
【請求項4】
前記減衰関数は指数型減衰関数であることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記簡略伝達関数は、前記第1の励振との畳み込みによって作用させることを特徴とする、前記請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記簡略伝達関数は、各々の選択された極大に関する信号遅延及び信号減衰の組合せとして表され、時間領域操作で前記第1の励振に作用させることを特徴とする、請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
N個の入力チャネルを含む第1のオーディオ・ストリームを、M個の出力チャネルを含む第2のオーディオ・ストリームに変換する方法であって、各々の入力及び出力チャネルに関して、
請求項1から請求項6までのいずれか1項に記載の方法を用いて簡略化されたMチャネル音響環境のモデルにおいて、前記入力チャネル及び出力チャネルに関連する簡略伝達関数を選択し、
前記入力チャネルからの入力信号を、前記選択された簡略伝達関数を作用させることにより処理して前記出力チャネルの出力信号の少なくとも一部分を生成する、
ステップを含むことを特徴とする方法。
【請求項8】
M>Nであることを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記簡略伝達関数が適合する選択された極大のサブセットは、前記M個の出力チャネルのうちの少なくとも2個に関して異なり、好ましくはM個の全ての出力チャネルに関して異なることを特徴とする、請求項7又は請求項8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記出力信号は前期部分と後期部分を含むことを特徴とする、請求項4から請求項8までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記前期部分のみが前記簡略伝達関数を用いて生成されることを特徴とする、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記後期部分は前記入力信号のアルゴリズムによる残響によって生成されることを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
N個の入力チャネルを含む第1のオーディオ信号を、請求項7から請求項12までのいずれか1項に記載の方法を用いて計算されたM個のチャネルを含む第2のオーディオ信号に変換するためのコンバータであって、
N個の入力及びM個の出力と、
簡略伝達関数の前記セットを、入力チャネルで受け取られたオーディオ信号に作用させて、計算された出力チャネルの残響成分を得るためのプロセッサと、
を備え、
前記プロセッサによって用いるための、簡略伝達関数の前記セットに関連する少なくとも係数を有するデータ記憶媒体をさらに備える、
ことを特徴とするコンバータ。
【請求項14】
前記データ記憶媒体は、前記プロセッサに接続された非常駐コンピュタ・メモリであることを特徴とする、請求項13に記載のコンバータ。
【請求項15】
請求項1から請求項6までのいずれか1項に記載の方法によって得られた、音響基準室の簡略化モデルを含むことを特徴とする信号。
【請求項16】
請求項15に記載の信号を含むことを特徴とするデータ記憶媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公表番号】特表2012−509632(P2012−509632A)
【公表日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−536881(P2011−536881)
【出願日】平成21年11月20日(2009.11.20)
【国際出願番号】PCT/EP2009/065587
【国際公開番号】WO2010/057997
【国際公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【出願人】(511123843)アウロ テクノロジーズ (1)
【Fターム(参考)】