説明

オートインデューサー−2阻害剤ならびに感染症の予防および/または治療剤

【課題】オートインデューサー−2を阻害する物質、ならびに感染症の予防および治療に有効な物質を提供することを目的とする。
【解決手段】式I:(式中、RおよびRは、それぞれ独立して、水素、ヒドロキシ基、アリール基もしくはアルコキシ基であるか、または、RおよびRは一緒になってオキソ基を形成し、Rは、ハロゲンであり、Rは、水素、アミノ基またはハロゲンである)で表される化合物またはその塩を有効成分とするオートインデューサー−2阻害剤、ならびに感染症の予防および/または治療剤。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オートインデューサー−2阻害剤、ならびに感染症の予防および/または治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
自然界において、微生物は様々な環境下で生存しなければならない。貧栄養、低温度、高温、pH変化はもちろんのこと、生体内においては貪食細胞または抗菌性液性因子(補体、抗体、リゾチーム等)が存在する環境での生存を余儀なくされる。このような状況下で、細菌は自らの存在環境の変化を敏感に感知する機構を獲得してきた。そのような機構の1つとして、微生物は特異的な情報伝達物質を介して環境における自らの濃度を感知し、その濃度に応じて自らの様々な生物活性を巧妙に制御していることが明らかとなっている。このような細胞間の情報伝達機構は、クオラムセンシングシステムと称される。
【0003】
クオラムセンシングは、発光性海洋細菌であるビブリオ・フィシェリおよびビブリオ・ハーベイにおいて最初に報告された。しかし、最近では、多くの細菌における一般的な遺伝子調節機構であると認識されている。この現象により、細菌は、生物発光、スウォーミング、バイオフィルム形成、タンパク質分解酵素の産生、抗生物質の合成、遺伝子受容能の発達、プラスミド接合伝達、病原因子産生および胞子形成などといった活動を一斉に行うことができる。
【0004】
クオラムセンシングシステムを有する細菌は、オートインデューサーと呼ばれるシグナル伝達分子を合成し、放出し、そのシグナル伝達分子に応答して、遺伝子発現を細胞密度の関数として制御する。これまで、アシルホモセリンラクトンがオートインデューサー−1として、4,5−ジヒドロキシ−2,3−ペンタンジオンがオートインデューサー−2として同定されている。
【0005】
ビブリオ属細菌、緑膿菌、セラチア、エンテロバクターなど臨床上重要な細菌がクオラムセンシングにオートインデューサー−1を利用することが報告されている。また、ビブリオ・ハーベイが、種内連絡には種特異性の高いオートインデューサー−1を利用し、種間連絡には種特異性の低いオートインデューサー−2を利用することが報告されている(非特許文献1)。さらに最近の研究では、オートインデューサー−2による病原性細菌の種間でのクオラムセンシングが、病原因子の産生を調節していることも示されている。
【0006】
例えば、非特許文献2および3には、齲蝕原性菌であるストレプトコッカス・ミュータンスのオートインデューサー−2合成酵素(LuxS)欠損株において、バイオフィルム形成量が減少することが報告されている。非特許文献4には、胃潰瘍および胃ガンを惹起すると言われているヘリコバクター・ピロリのLuxS欠損株では、細菌運動性が低下し、マウス胃粘膜への感染率が低下することが報告されている。非特許文献5には、食中毒、ガス壊疽、出血性腸炎などの原因菌であるウェルシュ菌のLuxS欠損株において、α−、κ−、θ−毒素の産生が低下することが報告されている。従って、オートインデューサー−2を阻害する活性を有する物質が求められていた。
【0007】
なお、オートインデューサー−2を阻害する物質としては、これまで、4−ヒドロキシ−2,5−ジメチル−3(2H)−フラノン(特許文献1)、2−メトキシ−2,4−ジフェニル−3(2H)−フラノン(特許文献2)、2−ペンチル−2−シクロペンテン−1−オン(特許文献3)などが報告されている。
【0008】
【特許文献1】特表2003-532698
【特許文献2】特表2003-532698
【特許文献3】特表2005-506953
【非特許文献1】Bassler et al., Bacteriol.179:4043-4045,1997
【非特許文献2】Yoshida A. et al.,Appl. Environ. Microbiol.71(5),2372-2380, 2005
【非特許文献3】Wen Z.T. et al., J. Bacteriol., 189(9), 2682-2691, 2004
【非特許文献4】Osaki T. et al., J. Med. Microbiol., 55(Pt11), 1477-1485, 2006
【非特許文献5】Ohtani K. et al., Mol. Microbiol., 44(1), 171-179, 2002
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、オートインデューサー−2を阻害する活性を有し、感染症の予防および治療に有効な物質を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
オートインデューサー−2と細菌の病原性との関連性を示す上記報告は、すべてin vitro試験での結果を示すにすぎず、オートインデューサー−2がin vivoで実際に感染症に及ぼす影響については知られていなかった。
【0011】
本発明者らは、生体内においてオートインデューサー−2量と感染症の症状とが相関関係を有することを見出した。さらに、オートインデューサー−2を阻害する活性を有するとともに、感染症に対して有効な化合物を見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、以下の発明を包含する。
(1)式I:
【化1】

(式中、
およびRは、それぞれ独立して、水素、ヒドロキシ基、アリール基もしくはアルコキシ基であるか、または、RおよびRは一緒になってオキソ基を形成し、
は、ハロゲンであり、
は、水素、アミノ基またはハロゲンである)
で表される化合物またはその塩を有効成分とするオートインデューサー−2阻害剤。
(2)式I:
【化2】

(式中、
およびRは、それぞれ独立して、水素、ヒドロキシ基、アリール基もしくはアルコキシ基であるか、または、RおよびRは一緒になってオキソ基を形成し、
は、ハロゲンであり、
は、水素、アミノ基またはハロゲンである)
で表される化合物またはその塩を有効成分とする感染症の予防および/または治療剤。
(3)感染症が歯周病である、(2)記載の感染症の予防および/または治療剤。
(4)齲蝕を予防するための、(2)記載の感染症の予防および/または治療剤。
(5)式Iの化合物が4−ブロモ−5−(4−メトキシフェニル)−2(5H)−フラノンである(1)〜(4)のいずれかに記載の、オートインデューサー−2阻害剤、または感染症の予防および/または治療剤。
(6)式Iの化合物が3,4−ジブロモ−5−ヒドロキシ−2(5H)−フラノンである(1)〜(4)のいずれかに記載の、オートインデューサー−2阻害剤、または感染症の予防および/または治療剤。
(7)式Iの化合物が4−ブロモ−5−メトキシ−5−(4−メトキシフェニル)−2(5H)−フラノンである(1)〜(4)のいずれかに記載の、オートインデューサー−2阻害剤、または感染症の予防および/または治療剤。
(8)式Iの化合物が4−{[3−ブロモ−2−(4−メトキシフェニル)−5−オキソ−2,5−ジヒドロ−2−フラニル]オキシ}安息香酸である(1)〜(4)のいずれかに記載の、オートインデューサー−2阻害剤、または感染症の予防および/または治療剤。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、オートインデューサー−2阻害剤、ならびに感染症の予防および/または治療剤が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
一実施形態において本発明は、式I:
【化3】

(式中、
およびRは、それぞれ独立して、水素、ヒドロキシ基、アリール基もしくはアルコキシ基(好ましくはC1−6アルコキシ基)であるか、または、RおよびRは一緒になってオキソ基を形成し、
は、ハロゲンであり、
は、水素、アミノ基またはハロゲンである)
で表される化合物またはその塩を有効成分とするオートインデューサー−2阻害剤に関する。
【0015】
本発明において、アリール基はベンゼン環を有するものであればよく、縮合環中にベンゼン環を有するものでもよい。RおよびRにおけるアリール基は、好ましくは5〜25個の環炭素原子、より好ましくは6〜20個、さらに好ましくは6〜10個の環炭素原子を含む単環式また多環式の芳香族基である。アリール基として、具体的には、フェニル基、フェニルオキシ基、ベンゾイルオキシ基、ナフチル基、アントリル基、フェナンスリル基、フルオレニル基、ピレニル基、インデニル基、アズレニル基、ヘプタレニル基およびインデセニル基などが挙げられ、これらの基は環上に置換基を有していてもよい。
【0016】
環上の置換基としては、例えば、ハロゲン、ヒドロキシ基、ニトロ基、アミノ基、メルカプト基、シアノ基、イソシアナート基、カルボキシ基、アルキル基(好ましくはC1−6アルキル基)、アルケニル基(好ましくはC2−6アルケニル基)、アルコキシ基(好ましくはC1−6アルコキシ基)などが挙げられるが、好ましくはC1−6アルコキシ基である。置換基が複数存在する場合、各置換基は同一でも異なっていてもよい。置換基の数は、好ましくは1〜3個である。
【0017】
式IのRおよびRにおいて、アリール基は、好ましくは4−アルコキシフェニル基、ベンゾイルオキシ基、または4−カルボキシル−1−ベンゾイルオキシ基であり、より好ましくは4−メトキシフェニル基である。
【0018】
およびRの一方がアリール基である場合、他方は、水素、ヒドロキシ基またはアルコキシ基であることが好ましい。また、RおよびRの一方が水素である場合、他方は、好ましくは水素ではない。
【0019】
本発明においてハロゲンとしては、フッ素、塩素、臭素およびヨウ素が挙げられる。
【0020】
式Iの化合物としては、4−ハロ−5−(4−アルコキシフェニル)−2(5H)−フラノン、3,4−ジハロ−5−ヒドロキシ−2(5H)−フラノン、4−ハロ−5−アルコキシ−5−(4−アルコキシフェニル)−2(5H)−フラノン、4−{[3−ハロ−2−(4−アルコキシフェニル)−5−オキソ−2,5−ジヒドロ−2−フラニル]オキシ}安息香酸、3−ハロ−2,5−フランジオンが挙げられる。ここで、ハロは、ハロゲンを表し、アルコキシは、好ましくはC1−6アルコキシである。
【0021】
式Iの化合物としては、下記式で表される4−ブロモ−5−(4−メトキシフェニル)−2(5H)−フラノン、3,4−ジブロモ−5−ヒドロキシ−2(5H)−フラノン、4−ブロモ−5−メトキシ−5−(4−メトキシフェニル)−2(5H)−フラノン、4−{[3−ブロモ−2−(4−メトキシフェニル)−5−オキソ−2,5−ジヒドロ−2−フラニル]オキシ}安息香酸、3−ブロモ−2,5−フランジオンが好ましく、特に4−ブロモ−5−(4−メトキシフェニル)−2(5H)−フラノン、3,4−ジブロモ−5−ヒドロキシ−2(5H)−フラノンおよび4−ブロモ−5−メトキシ−5−(4−メトキシフェニル)−2(5H)−フラノンが好ましい。
【0022】
【化4】

【0023】
式Iの化合物の塩としては、薬学的に、食品としてまたは化粧品として許容できる塩であれば特に制限されないが、例えば、酸付加塩および塩基付加塩が挙げられる。酸付加塩としては、塩酸、硫酸、硝酸およびリン酸等の無機酸との塩、酢酸、リンゴ酸、コハク酸、酒石酸およびクエン酸等の有機酸との塩が挙げられる。塩基付加塩としては、ナトリウムおよびカリウム等のアルカリ金属との塩、カルシウムおよびマグネシウム等のアルカリ土類金属との塩、アンモニウムおよびトリエチルアミン等のアミン類との塩が挙げられる。
【0024】
式Iの化合物には、その立体異性体(例えば、幾何異性体および光学異性体)も包含される。以下、式Iの化合物およびその塩を、合わせて、本発明の化合物と称する場合がある。
【0025】
本発明においてオートインデューサー−2(AI−2)には、式(II):
【0026】
【化5】

で表される4,5−ジヒドロキシ−2,3−ペンタンジオン(DPD)、およびDPDが有するオートインデューサー−2活性と同等のオートインデューサー−2活性を有する化合物が包含される。式(II)のDPDは、細菌のオートインデューサー−2受容体と結合するときにボロンを取り込んで、以下の式(III):
【0027】
【化6】

で表されるフラノシルボレートジエステルに変換される。フラノシルボレートジエステルはDPDと同等のオートインデューサー−2活性を有することから、本発明においてオートインデューサー−2には、上記式(III)で表されるフラノシルボレートジエステルも包含される。
【0028】
本発明においてオートインデューサー−2を阻害することは、オートインデューサー−2がクオラムセンシングを介して細菌に及ぼす影響を阻害することをさし、オートインデューサー−2活性を阻害すること、オートインデューサー−2を分解すること、オートインデューサー−2のオートインデューサー−2受容体への結合を阻害することなどが包含される。
【0029】
本発明においてオートインデューサー−2活性は、オートインデューサー−2がクオラムセンシングシステムを有する細菌に影響を及ぼす活性、すなわち、オートインデューサー−2を介するクオラムセンシングによりもたらされる細菌の機能を促進する活性をさす。細菌は、オートインデューサー−2を介するクオラムセンシングにより発光、スウォーミング、バイオフィルム形成、タンパク質分解酵素の産生、抗生物質の合成、遺伝子受容能の発達、プラスミド接合伝達、病原因子産生および胞子形成を行うことが知られている。従って、オートインデューサー−2活性は、換言すれば、オートインデューサー−2を認識する細菌、すなわちオートインデューサー−2受容体を有する細菌による生物発光、スウォーミング、バイオフィルム形成、タンパク質分解酵素の産生、抗生物質の合成、遺伝子受容能の発達、プラスミド接合伝達、病原因子産生または胞子形成の活性ということができる。本発明においてオートインデューサー−2活性は、特に、細菌の病原因子産生活性をさす。
【0030】
細菌の病原因子としては、例えば、エンテロトキシン、アデニル酸シクラーゼ毒素、アドヘシン、アルカリプロテアーゼ、溶血毒、炭疽毒素、APX毒素、α毒素、β毒素、δ毒素、C2毒素、C3毒素、ボツリヌス毒素、束状線毛構造サブユニット、C5Aペプチダーゼ、心臓毒、走化性、コレラ毒素、毛様体毒素、クロストリジウム細胞毒、クロストリジウム神経毒、コラーゲン接着遺伝子、細胞溶解素、嘔吐毒素、内毒素、表皮剥脱毒素、外毒素、細胞外エラスターゼ、フィブリノゲン、フィブロネクチン結合タンパク質、線維状赤血球凝集素、フィンブリア、ゼラチナーゼ、赤血球凝集素、ロイコトキシン、リポタンパク質シグナルペプチダーゼ、リステリオリシンO、Mタンパク質、神経毒、非フィンブリアアドヘシン類、浮腫因子、透過酵素、百日咳毒素、ホスホリパーゼ、線毛、孔形成毒素、プロリンパーミアーゼ、セリンプロテアーゼ、志賀毒素、破傷風毒素、チオール活性化細胞溶解素、気管細胞溶解素、ウレアーゼなどが挙げられるがこれに制限されない。
【0031】
本発明の化合物で影響を及ぼすことができる細菌、換言すれば、本発明の化合物で増殖を抑制できる細菌は、オートインデューサー−2によりその機能、例えば、生物発光、スウォーミング、バイオフィルム形成、タンパク質分解酵素の産生、抗生物質の合成、遺伝子受容能の発達、プラスミド接合伝達、病原因子産生および胞子形成などが促進される細菌である。例えば、オートインデューサー−2受容体を有する細菌、好ましくはオートインデューサー−2受容体を有し、オートインデューサー−2を産生する細菌を対象とすることができる。
【0032】
オートインデューサー−2活性は、オートインデューサー−2を認識することにより発光するレポーター細菌、好ましくはオートインデューサー−2受容体およびルシフェラーゼを有する細菌を用いるバイオアッセイにより測定することができる(Keersmaecker S.C.J. et al., J. Biol. Chem., 280(20), 19563-19568, 2005)。具体的には、ビブリオ・ハーベイBB170株をレポーター細菌とし、被検化合物の存在下で培養し、培養後の発光強度をケミルミネッセンス計などで測定することにより、オートインデューサー−2活性を測定することができる。
【0033】
オートインデューサー−2を阻害することにより影響を及ぼす、または増殖を抑制することができる細菌としては、例えば、ビブリオ(Vibrio)属細菌、シュードモナス(Pseudomonas)属細菌、ポルフィロモナス(Porphyromonas)属細菌、エルシニア(Yersinia)属細菌、エシェリキア(Escherichia)属細菌、サルモネラ(Salmonella)属細菌、ヘモフィルス(Haemophilus)属細菌、ヘリコバクター(Helicobacter)属細菌、バシルス(Bacillus)属細菌、ボレリア(Borrelia)属細菌、ナイセリア(Neisseria)属細菌、カンピロバクター(Campylobacter)属細菌、デイノコックス(Deinococcus)属細菌、ミコバクテリウム(Mycobacterium)属細菌、エンテロコッカス(Enterococcus)属細菌、ストレプトコッカス(Streptococcus)属細菌、シゲラ(Shigella)属細菌、エロモナス(Aeromonas)属細菌、エイケネラ(Eikenella)属細菌、クロストリジウム(Clostridium)属細菌、スタフィロコッカス(Staphylococcus)属細菌、ラクトバチルス(Lactobacillus)属細菌、アクチノバチルス(Actinobacillus)属細菌、アクチノマイセス(Actinomyces)属細菌、バクテロイデス(Bacteroides)属細菌、カプノサイトファガ(Capnocytophaga)属細菌、クレブシエラ(Klebsiella)属細菌、ハロバチルス(Halobacillus)属細菌、フゾバクテリウム(Fusobacterium)属細菌、エルウィニア(Erwinia)属細菌、エルベネラ(Elbenella)属細菌、ラクトバチルス(Lactobacillus)属細菌、リステリア(Listeria)属細菌、マンヘイミア(Mannheimia)属細菌、ペプトコッカス(Peptococcus)属細菌、プレボテラ(Prevotella)属細菌、プロテウス(Proteus)属細菌、セラチア(Serratia)属細菌およびベイロネラ(Veillonella)属細菌などが挙げられる。より具体的には、ビブリオ・ハーベイ(Vibrio harveyi)、ビブリオ・フィシェリ(Vibrio fischeri)、コレラ菌(Vibrio cholerae)、腸炎ビブリオ(Vibrio parahaemolyticus)、ビブリオ・アルギノリチカス(Vibrio alginolyticus)、シュードモナス・ホスホレウム(Pseudomonas phosphoreum)、ポリフィロモナス・ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis)、エルシニア・エンテロコリチカ(Yersinia enterocolitica)、大腸菌(Escherichia coli)、ネズミチフス菌(Salmonella typhimurium)、インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)、ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)、枯草菌(Bacillus subtilis)、ボレリア・ブルグドルフェリ(Borrelia burgfdorferi)、髄膜炎菌(Neisseria meningitidis)、淋菌(Neisseria gonorrhoeae)、ペスト菌(Yersinia pestis)、カンピロバクター・ジェジュニ(Campylobacter jejuni)、デイノコックス・ラジオデュランス(Deinococcus radiodurans)、結核菌(Mycobacterium tuberculosis)、エンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)、肺炎レンサ球菌(Streptococcus pneumoniae)、化膿レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)、ストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、箕田赤痢菌(Shigella flexneri)、シゲラ・ボイデイ(Shigella boydii)、セレウス菌(Bacillus cereus)、バチルス・クブチリス(Bacillus cubtilis)、エロモナス・ハイドロフィラ(Aeromonas hydrophila)、チフス菌(Salmonella enterica)、エイケネラ・コロデンス(Eikenella corrodens)、ヘリコバクター・ヘパティカス(Helicobacter hepaticus)、ウェルシュ菌(Clostridium perfringens)、スタフィロコッカス・ハエモリティカス(Staphylococcus haemolyticus)、ラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)、ラクトバチルス アシドフィラス(Lactobacillus acidophilus)、ラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri)、ラクトバチルス・サリバリウス(Lactobacillus salivarius)、ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)、ストレプトコッカス・サンギニス(Streptococcus sanguinis)、ストレプトコッカス・アンギノーサス(Streptococcus anginosus)、ストレプトコッカス・オラリス(Streptococcus oralis)、ストレプトコッカス・ボビス(Streptococcus bovis)、ストレプトコッカス・ゴルドニ(Streptococcus gordonii)、ストレプトコッカス・ミティス(Streptococcus mitis)、アクチノバチルス・アクチノマイセテムコミタンス(Actinobacillus actinomycetemcomitans)、ビブリオ・ブルニフィカス(Vivrio vulnificus)、ビブリオ・ミミクス(Vibrio mimicus)、ビブリオ・アングイラルム(Vibrio anguillarum)、ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)、エルウィニア・アミロボラ(Erwinia amylovora)、エルウィニア・カロトバラ(Erwinia carotovara)、ハロバチルス・ハロフィラス(Halabacilus halophilus)、セラチア・ピムチカ(Serratia pymuthica)、セラチア・マルセセンス(Serratia marcescens)、バクテロイデス・フラジリス(Bacteroides fragilis)、バクテロイデス・ブルガタス(Bacteroides vulgatus)、バクテロイデス・ディスタソニス(Bacteroides distasonis)、リステリア・モノサイトジェネス(Listeria monocytogenes)、スタフィロコッカス・エピデルミディス(Staphylococcus epidermidis)、クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)、アエロモナス・ハイドロフィリア(Aeromonas hydrophilia)、マンヘイミア・ハエモライティカ(Mannhemia haemolytica)、クレブシエラ・ニューモニアエ(Klebsiella pneumoniae)、バチルス・アンスラシス(Bacillus anthracis)、カンピロバクター・コリ(Campylobacter coli)、カンピロバクター・レクタス(Campylobacter rectus)、プロテウス・ミラビリス(Proteus mirabilis)、アクチノマイセス・ナエスランディ(Actinomyces naeslundii)、ペプトコッカス・アナエロビウス(Peptococcus anaerobius)、フゾバクテリウム・ヌクレアタム(Fusobacterium nucleatum)、ベイロネラ・パルラ(Veillonella parvula)、カプノサイトファガ・スプティゲナ(Capnocytophaga sputigena)およびプレボテラ・インタメディア(Prevotella intermedia)などが挙げられる。
【0034】
本発明の化合物は、ストレプトコッカス・ミュータンス、ポリフィロモナス・ジンジバリス、ストレプトコッカス・オラリス、ストレプトコッカス・ゴルドニ、ストレプトコッカス・サングイニス、ストレプトコッカス・ミティス、アクチノマイセス・ナエスランディ、ペプトコッカス・アナエロビウス、アクチノバチルス・アクチノマイセテムコミタンス、フゾバクテリウム・ヌクレアタム、ベイロネラ・パルラ、カプノサイトファガ・スプティゲナ、プレボテラ・インタメディアおよびラクトバチルス・サリバリウスなどに対するオートインデューサー−2の阻害に対し、特に好ましく用いられる。
【0035】
さらに、本発明者らは、生体内においてオートインデューサー−2量と感染症の症状とが相関関係を有すること、そして、本発明の化合物を投与することにより感染症の症状を低減できることを見出した。従って、一実施形態において本発明は、上記式Iの化合物またはその塩を有効成分とする感染症の予防および/または治療剤に関する。
【0036】
本発明の化合物を投与することにより予防および/または治療することができる感染症は、オートインデューサー−2を阻害することにより予防および/または治療することができる感染症であり、換言すれば、オートインデューサー−2を利用するクオラムセンシングシステムを有する細菌、具体的にはオートインデューサー−2を阻害することにより影響を及ぼすことができる上記のような細菌に関連する感染症である。
【0037】
本発明の化合物を投与することにより予防および/または治療することができる感染症の具体例として、口腔、皮膚、膣、消化(GI)管、食道および気道等における感染症が挙げられる。より具体的には、ストレプトコッカス・ミュータンス等により引き起こされる齲蝕;ポルフィロモナス・ジンジバリス等により引き起こされる歯周病(歯肉炎を含む);日和見生物により引き起こされる日和見感染症;肺炎レンサ球菌およびインフルエンザ菌等により引き起こされる急性中耳炎(AOM)および滲出性中耳炎(OME);インフルエンザ菌により引き起こされるインフルエンザ;ヘリコバクター・ピロリにより引き起こされる十二指腸潰瘍および胃潰瘍;コレラ菌により引き起こされるコレラ;ペスト菌により引き起こされるペスト;髄膜炎菌により引き起こされる髄膜炎;ネズミチフス菌などのサルモネラ属細菌により引き起こされるサルモネラ中毒;および大腸菌等により引き起こされる下痢症などが挙げられる。
【0038】
本発明において感染症の予防には、感染症の発症を抑えることおよび遅延させることが含まれ、感染症になる前の予防だけではなく、治療後の感染症の再発に対する予防も含まれる。本発明において感染症の治療には、感染症を治癒すること、症状を改善することおよび症状の進行を抑えることが包含される。
【0039】
本発明のオートインデューサー−2阻害剤、ならびに感染症の予防および/または治療剤の投与対象は、好ましくは哺乳動物である。本明細書において哺乳動物は、温血脊椎動物をさし、例えば、ヒトおよびサルなどの霊長類、マウス、ラットおよびウサギなどの齧歯類、イヌおよびネコなどの愛玩動物、ならびにウシ、ウマおよびブタなどの家畜が挙げられる。本発明のオートインデューサー−2阻害剤、ならびに感染症の予防および/または治療剤は、霊長類、特にヒトへの投与に好適である。感染症に罹患しているヒト、感染症と診断されているヒト、感染症に罹患する可能性があるヒト、感染症を予防する必要があるヒトに投与することが特に好ましい。
【0040】
本発明のオートインデューサー−2阻害剤、ならびに感染症の予防および/または治療剤は、特に制限されないが、例えば、医薬組成物、食品組成物および化粧料組成物とするか、またはこれらに配合することができる。
【0041】
医薬組成物を調製する場合は、通常、本発明の化合物と好ましくは薬学的に許容される担体とを含む製剤として調製する。薬学的に許容される担体とは、一般的に、本発明の有効成分とは反応しない、不活性の、無毒の、固体または液体の、増量剤、希釈剤またはカプセル化材料等をいい、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、液体ポリエチレングリコールなど)、適切なそれらの混合物、植物性油などの溶媒または分散媒体などが挙げられる。
【0042】
医薬組成物は、経口により、非経口により、例えば、皮膚に、皮下に、粘膜に、静脈内に、動脈内に、筋肉内に、腹腔内に、膣内に、肺に、脳内に、眼に、および鼻腔内に投与される。経口投与製剤としては、錠剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、カプセル剤、チュアブル剤、ペレット剤、シロップ剤、液剤、懸濁剤および吸入剤などが挙げられる。非経口投与製剤としては、坐剤、保持型浣腸剤、点滴剤、点眼剤、点鼻剤、ペッサリー剤、注射剤、口腔洗浄剤ならびに軟膏、クリーム剤、ゲル剤、制御放出パッチ剤および貼付剤などの皮膚外用剤などが挙げられる。本発明の医薬組成物は、徐放性皮下インプラントの形態で、または標的送達系(例えば、モノクローナル抗体、ベクター送達、イオン注入、ポリマーマトリックス、リポソームおよびミクロスフェア)の形態で、非経口で投与してもよい。
【0043】
医薬組成物はさらに医薬分野において慣用の添加剤を含んでいてもよい。そのような添加剤には、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、抗酸化剤、着色剤、矯味剤などがあり、必要に応じて使用できる。長時間作用できるように徐放化するためには、既知の遅延剤等でコーティングすることもできる。賦形剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム、寒天、軽質無水ケイ酸、ゼラチン、結晶セルロース、ソルビトール、タルク、デキストリン、デンプン、乳糖、白糖、ブドウ糖、マンニトール、メタ珪酸アルミン酸マグネシウム、リン酸水素カルシウム等が使用できる。結合剤としては、例えば、アラビアゴム、アルギン酸ナトリウム、エタノール、エチルセルロース、カゼインナトリウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、寒天、精製水、ゼラチン、デンプン、トラガント、乳糖、ヒドロキシセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドン等が挙げられる。崩壊剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム、結晶セルロース、デンプン、ヒドロキシプロピルスターチ等が挙げられる。滑沢剤としては、例えば、ステアリン酸、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、タルク、硬化油、ショ糖脂肪酸エステル、ロウ類等が挙げられる。抗酸化剤としては、トコフェロール、没食子酸エステル、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)、アスコルビン酸等が挙げられる。必要に応じてその他の添加剤や薬剤、例えば制酸剤(炭酸水素ナトリウム、炭酸マグネシウム、沈降炭酸カルシウム、合成ヒドロタルサイト等)、胃粘膜保護剤(合成ケイ酸アルミニウム、スクラルファート、銅クロロフィリンナトリウム等)を加えてもよい。
【0044】
食品組成物を調製する場合、その形態は特に制限されず、飲料も包含される。一般食品の他に、感染症(具体的には歯肉炎や歯槽膿漏などの歯周病等)の予防・改善等をコンセプトとしてその旨を表示した飲食品、すなわち、健康食品、機能性食品、病者用食品および特定保健用食品なども包含される。健康食品、機能性食品、病者用食品および特定保健用食品は、具体的には、細粒剤、錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤、シロップ剤、液剤、流動食等の各種製剤形態として使用することができ、これら製剤のために使用することができる。製剤形態の食品組成物は、医薬製剤と同様に製造することができ、本発明の化合物に、食品として許容できる担体、例えば適当な賦形剤(例えば、でん粉、加工でん粉、乳糖、ブドウ糖、水等)を加えた後、慣用の手段を用いて製造することができる。さらに、食品組成物は、スープ類、ジュース類、乳飲料、茶飲料、コーヒー飲料、ココア飲料、ゼリー状飲料などの液状食品組成物、プリン、ヨーグルトなどの半固形食品組成物、パン類、うどんなどの麺類、クッキー、チョコレート、キャンディ、ガム、せんべいなどの菓子類、ふりかけ、バター、ジャムなどのスプレッド類等の形態もとりうる。また、食品には、飼料も含まれる。
【0045】
食品組成物には、種々の食品添加物、例えば、酸化防止剤、香料、各種エステル類、有機酸類、有機酸塩類、無機酸類、無機酸塩類、無機塩類、色素類、乳化剤、保存料、調味料、甘味料、酸味料、果汁エキス類、野菜エキス類、花蜜エキス類、pH調整剤、品質安定剤などの添加剤を単独、あるいは併用して配合してもよい。
【0046】
化粧料組成物を調製する場合、その形態は特に制限されず、溶液、乳液、粉末、水−油二層系、水−油−粉末三層系、ゲル、エアゾール、ミストおよびカプセル等任意の形態とすることができる。また、化粧料組成物の製品形態も任意であり、例えば、マッサージ剤およびフットスプレー等のボディー化粧料、化粧水、乳液、クリームおよびパック等のフェーシャル化粧料、ファンデーション、おしろい、頬紅、口紅、アイシャドー、アイライナー、マスカラおよびサンスクリーン等のメーキャップ化粧料、メーク落とし、洗顔料およびボディーシャンプー等の皮膚洗浄料、ヘアーリンスおよびシャンプー等の毛髪化粧料、浴用剤、軟膏、医薬部外品、あぶら取り紙、芳香化粧料等が挙げられる。
【0047】
化粧料組成物は、化粧品、医薬部外品および医薬品等に慣用される他の成分、例えば、粉末成分、液体油脂、固体油脂、ロウ、炭化水素、高級脂肪酸、高級アルコール、エステル、シリコーン、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン界面活性剤、保湿剤、水溶性高分子、増粘剤、皮膜剤、紫外線吸収剤、金属イオン封鎖剤、低級アルコール、多価アルコール、糖、アミノ酸、有機アミン、高分子エマルジョン、pH調整剤、皮膚栄養剤、ビタミン、酸化防止剤、酸化防止助剤、香料、水等を必要に応じて配合し、常法により製造することができる。
【0048】
その他の化粧料組成物に配合可能な成分としては、例えば、防腐剤(エチルパラベン、ブチルパラベン等)、消炎剤(例えば、グリチルリチン酸誘導体、グリチルレチン酸誘導体、サリチル酸誘導体、ヒノキチオール、酸化亜鉛、アラントイン等)、美白剤(例えば、胎盤抽出物、ユキノシタ抽出物、アルブチン等)、各種抽出物(例えば、オウバク、オウレン、シコン、シャクヤク、センブリ、バーチ、セージ、ビワ、ニンジン、アロエ、ゼニアオイ、アイリス、ブドウ、ヨクイニン、ヘチマ、ユリ、サフラン、センキュウ、ショウキュウ、オトギリソウ、オノニス、ニンニク、トウガラシ、チンピ、トウキ、海藻等)、賦活剤(例えば、ローヤルゼリー、感光素、コレステロール誘導体等)、血行促進剤(例えば、ノニル酸ワレニルアミド、ニコチン酸ベンジルエステル、ニコチン酸β−ブトキシエチルエステル、カプサイシン、ジンゲロン、カンタリスチンキ、イクタモール、タンニン酸、α−ボルネオール、ニコチン酸トコフェロール、イノシトールヘキサニコチネート、シクランデレート、シンナリジン、トラゾリン、アセチルコリン、ベラパミル、セファランチン、γ−オリザノール等)、抗脂漏剤(例えば、硫黄、チアントール等)、抗炎症剤(例えば、トラネキサム酸、チオタウリン、ヒポタウリン等)等が挙げられる。
【0049】
本発明のオートインデューサー−2阻害剤、ならびに感染症の予防および/または治療剤の投与量は、オートインデューサー−2を阻害しうる量、または感染症を予防および/または治療しうる量であればよく、投与方法、年齢、症状等により適宜決定することができる。有効成分である式Iの化合物の質量に基づき、1日あたり、体重1kgあたり、経口投与で通常0.001〜100mg、好ましくは0.01〜10mgである。
【0050】
本発明のオートインデューサー−2阻害剤、ならびに感染症の予防および/または治療剤における本発明の化合物の含有量は、上記投与量を達成するように適宜決定できる。例えば、乾燥質量基準で、通常0.001〜5質量%、好ましくは0.05〜1質量%の量で本発明の化合物を含む。
【0051】
本発明の化合物を投与することにより、オートインデューサー−2を阻害することができ、ひいては、感染症を予防および/または治療することができる。
【0052】
従来の感染症の予防および治療には抗生物質の投与が行われてきた。しかし細菌が薬剤耐性を獲得するため、抗生物質の効果が減弱してしまう。一方、オートインデューサー−2を阻害すれば、細菌が本来持つシステムを使ってその病原性を制御することが可能となるため、薬剤耐性を持っている細菌にも効果が期待できる。
【0053】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明は実施例の範囲に限定されない。
【実施例】
【0054】
(実施例1)オートインデューサー−2を阻害する物質のスクリーニング
ビブリオ・ハーベイ(Vibrio harveyi)BB170株をオートインデューサー−2(AI−2)レポーター細菌として使用し、AI−2活性の指標であるレポーター細菌の発光強度をDe Keersmaecker S.C.J. et al., J. Biol. Chem., 280(20), 19563-19568, 2005と同様に測定した。すなわち、ビブリオ・ハーベイBB170株を培地にて4500倍希釈になるように調製し、各被検化合物溶液と室温で10分プレインキュベートした後、4,5−ジヒドロキシ−2,3−ペンタンジオン(DPD)を添加し、30℃にて好気振盪培養し、4時間後の発光強度をケミルミネッセンス計で測定した。レポーター菌液終濃度は5000倍希釈、各被検化合物溶液とDPDの終濃度は共に10μMとした。DPDのみ添加したものをコントロールとし、それに対する相対値として表した(図1)。また同時に被検化合物のAI−2活性も検討した。
【0055】
被検化合物として、4−ブロモ−5−(4−メトキシフェニル)−2(5H)−フラノン(化合物1;SIGMA)、3,4−ジブロモ−5−ヒドロキシ−2(5H)−フラノン(化合物2;SIGMA)、4−ブロモ−5−メトキシ−5−(4−メトキシフェニル)−2(5H)−フラノン(化合物3;SIGMA)、4−{[3−ブロモ−2−(4−メトキシフェニル)−5−オキソ−2,5−ジヒドロ−2−フラニル]オキシ}安息香酸(化合物4;SIGMA)を選択し、さらに、陽性対照としてオートインデューサー−2阻害化合物として既知の3種の化合物:4−ヒドロキシ−2,5−ジメチル−3(2H)−フラノン(化合物5)、2−メトキシ−2,4−ジフェニル−3(2H)−フラノン(化合物6)、2−ペンチル−2−シクロペンテン−1−オン(化合物7)についてもAI−2阻害活性を測定した。
【0056】
化合物1〜3は、既知のAI−2阻害化合物4〜6に比して、同等もしくはそれ以上のAI−2阻害活性を有することが示された。なお、何れの化合物も単独でAI−2活性は示さなかった。
【0057】
(実施例2)歯垢中AI−2量と歯肉炎症度の関係
午前に試料を採取する被験者は、試験前日就寝前の歯磨き以降、午後の被験者は試験日朝の歯磨き以降、歯磨きを停止させた。さらに試料採取30分前から飲食・喫煙を禁止させた。
【0058】
上下顎唇頬側面に付着している歯肉縁下歯垢を、歯肉炎症度指数別に歯科用スケーラーで採取した。採取した歯垢は1mlのPBSで分散させ、0.3gのジルコニア/シリカビーズで破砕した。遠心分離後、上清を0.22μmのフィルター、さらに分子量3000カットのフィルターに通すことで、サンプルを調製した。AI−2活性の測定は上記に準じ、ビブリオ・ハーベイのバイオアッセイにて測定した。ビブリオ・ハーベイBB170株をオートインデューサー−2(AI−2)レポーター細菌として使用し、一晩培養後、培地にて5000倍希釈し、サンプルと9:1の割合で混合後、30℃にて好気振盪培養し、4時間後の発光強度をケミルミネッセンス計で測定した。
【0059】
結果を、図2に示す。歯肉炎症度指標として、Gingival Index(GI)を用いた。上下顎唇頬側面の歯肉の状態を、歯科用プローブを歯周ポケットに挿入(プロービング)し、4段階で評価した。GIのスコアの判定は、以下のとおりとした。
【0060】
0:正常歯肉
1:歯肉に炎症。プロービングで出血なし
2:歯肉に炎症。プロービングで出血あり
3:自然出血・潰瘍形成
図2の結果から、歯垢中AI−2量と歯肉炎症度が相関関係を有すること(p<0.1)、従って、歯垢中のAI−2が歯肉炎に関与していることが示された。
【0061】
(実施例3)歯垢中AI−2量と歯槽骨吸収深度の関係
シリアンハムスター(7W、♂)の下顎左右第一臼歯頚部に絹糸を結紮し、4日、1週間、2週間後の歯垢および下顎骨を麻酔下にて摘出した。歯垢は上記に準じ、AI−2活性測定のために処理を行い、ビブリオ・ハーベイのバイオアッセイにて、歯垢中AI−2量を測定した。また下顎骨は周辺組織を完全にトリミングした後、歯槽骨吸収深度を測定した。評価部位は摘出下顎骨の舌側面とし、摘出した下顎骨を実体顕微鏡下にて撮影し、得られた写真を画像解析に供した。歯槽骨吸収深度は第一臼歯近心咬頭頂から歯槽骨頂上までの垂直距離とした(森ら,岐阜大医紀,43, 758-767, 1995)。
【0062】
結果を図3に示す。図3の結果から、歯垢中AI−2量と歯槽骨吸収深度が相関関係を有すること(r=0.65,p<0.01)、従って、歯垢中のAI−2が歯槽骨吸収に関与していることが示された。
【0063】
(実施例4)AI−2阻害化合物を用いたin vivo試験
シリアンハムスター(7W、♂)の下顎左右第一臼歯頚部に絹糸を結紮し、翌日より同結紮部位に被検試料を2回/日、2週間滴下した。被検試料は溶媒中10μMに調製した4−ブロモ−5−(4−メトキシフェニル)−2(5H)−フラノン(実施例1の化合物1)および3,4−ジブロモ−5−ヒドロキシ−2(5H)−フラノン(実施例1の化合物2)の各溶液とし、コントロールは溶媒のみとした。溶媒として、1%DMSO含有PBSを用いた。
【0064】
飼育終了後、麻酔下にて下顎骨を摘出、実体顕微鏡下で撮影した(図4)。評価部位は摘出下顎骨の舌側面とし、得られた写真を画像解析に供した。歯槽骨吸収深度は第一臼歯近心咬頭頂から歯槽骨頂上までの垂直距離において2週間後値−初期値の変化量とした。結果を図5に示す。
【0065】
実施例1のin vitroバイオアッセイ系にて選出されたAI−2阻害化合物は、in vivoモデルにおいても細菌の病原性を顕著に抑制すること、従って、感染症の予防および治療に有効であることが示された。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】実施例1において各化合物のAI−2活性を測定した結果を示すグラフである。
【図2】歯垢中AI−2量と歯肉炎症度の関係を示すグラフである。
【図3】歯垢中AI−2量と歯槽骨吸収深度の関係を示すグラフである。
【図4】シリアンハムスターに、4−ブロモ−5−(4−メトキシフェニル)−2(5H)−フラノンおよび3,4−ジブロモ−5−ヒドロキシ−2(5H)−フラノンを投与し、2週間後に下顎骨を摘出して実体顕微鏡下で撮影した写真を示す。
【図5】シリアンハムスターに、4−ブロモ−5−(4−メトキシフェニル)−2(5H)−フラノンおよび3,4−ジブロモ−5−ヒドロキシ−2(5H)−フラノンを投与し、歯槽骨吸収深度を2週間後値−初期値の変化量として測定した結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式I:
【化1】

(式中、
およびRは、それぞれ独立して、水素、ヒドロキシ基、アリール基もしくはアルコキシ基であるか、または、RおよびRは一緒になってオキソ基を形成し、
は、ハロゲンであり、
は、水素、アミノ基またはハロゲンである)
で表される化合物またはその塩を有効成分とするオートインデューサー−2阻害剤。
【請求項2】
式I:
【化2】

(式中、
およびRは、それぞれ独立して、水素、ヒドロキシ基、アリール基もしくはアルコキシ基であるか、または、RおよびRは一緒になってオキソ基を形成し、
は、ハロゲンであり、
は、水素、アミノ基またはハロゲンである)
で表される化合物またはその塩を有効成分とする感染症の予防および/または治療剤。
【請求項3】
感染症が歯周病である、請求項2記載の感染症の予防および/または治療剤。
【請求項4】
齲蝕を予防するための、請求項2記載の感染症の予防および/または治療剤。
【請求項5】
式Iの化合物が4−ブロモ−5−(4−メトキシフェニル)−2(5H)−フラノンである請求項1〜4のいずれか1項記載の、オートインデューサー−2阻害剤、または感染症の予防および/または治療剤。
【請求項6】
式Iの化合物が3,4−ジブロモ−5−ヒドロキシ−2(5H)−フラノンである請求項1〜4のいずれか1項記載の、オートインデューサー−2阻害剤、または感染症の予防および/または治療剤。
【請求項7】
式Iの化合物が4−ブロモ−5−メトキシ−5−(4−メトキシフェニル)−2(5H)−フラノンである請求項1〜4のいずれか1項記載の、オートインデューサー−2阻害剤、または感染症の予防および/または治療剤。
【請求項8】
式Iの化合物が4−{[3−ブロモ−2−(4−メトキシフェニル)−5−オキソ−2,5−ジヒドロ−2−フラニル]オキシ}安息香酸である請求項1〜4のいずれか1項記載の、オートインデューサー−2阻害剤、または感染症の予防および/または治療剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−114120(P2009−114120A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−288556(P2007−288556)
【出願日】平成19年11月6日(2007.11.6)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】