説明

オートフォーカスシステム

【課題】オートフォーカス(AF)とマニュアルフォーカス(MF)の併用が可能なMF優先のAFにおいて、AFの作動を禁止する範囲を設定可能にする一方、MFの作動は制限しないようにすることによって、合焦を禁止する特定の被写体にAFによってフォーカスが移動することを防止すると共に、それによってAFで合焦させることができない範囲の被写体に対しては、MFモードへの切替操作を行うことなく、MFによって合焦させることができるオートフォーカスシステムを提供する。
【解決手段】撮影レンズのフォーカスが設定されている位置に対して被写界深度の至近側の端の位置までの距離Lvを判定距離Lvとし、その判定距離が事前に記憶、設定したリミット値ML以下となる場合にはAFの作動を禁止する。合焦を禁止するネットより遠距離側にリミット値MLを設定しておくことによってAFによってネットに合焦することが防止される。一方、ネット近傍の被写体はMFによって合焦させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はオートフォーカスシステムに係り、特にマニュアルフォーカス(MF)とオートフォーカス(AF)との併用が可能なオートフォーカスシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
テレビカメラ等のビデオカメラで採用されるオートフォーカス(AF)は、撮像素子により得られる映像信号に基づいて撮影した被写体画像のコントラストを検出し、そのコントラストが最大(極大)となるようにフォーカスを制御するコントラスト方式が一般的である。被写体画像のコントラストは、例えば、撮像素子により得られた映像信号から高域周波数成分を抽出し、その高域周波数成分の信号を1フィールド分ずつ積算した積算値によって定量的に検出される。尚、その積算値は、被写体画像のコントラストの高さを示すと共に、合焦の程度を示す値であり、本明細書では焦点評価値というものとする。
【0003】
特許文献1には上述のようなコントラスト方式のAFにおいて、合焦可能なフォーカス最至近距離のリミット値を変更可能にすることが提案されている。これによれば、ビデオカメラの前面にアダプタを装着した場合、合焦可能なフォーカス最至近距離のリミット値を変更することによってアダプタの表面の塵等が撮影した映像に映し出される不具合を防止することができる。
【0004】
また、従来、AFが実行されるAFモードの場合でも、MFの操作(マニュアル操作部材の操作)を行うとAFよりもMFの操作が優先され、MFの操作に従ってフォーカス制御が行われるMF優先のAFモードが知られている。これによれば、MFの操作によって所望の被写体に大まかにピント合わせを行えば、AFによって高精度な合焦が得られる。
【特許文献1】特許第3318955号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、スポーツ中継等でネットの裏から撮影した場合、ネットのコントラストが比較的高いため、ネットの向こう側の選手等に合焦させたい場合でもAFではネットに合焦してしまう場合がある。そこで、特許文献1のようにフォーカス最至近距離のリミット値を変更可能にし、そのリミット値をネットより遠距離側でネットの映像が大ボケとなるような距離に設定すれば、ネットに合焦する不具合を防止することができる。しかしながら、リミット値よりも近距離側にある被写体には合焦させることができなくなるため、例えばネットの近くに来た選手にも合焦させることができないという問題が生じる。このような場合には、所定のスイッチによってAFモードからMFモードにモードを切り替え、MFによってフォーカス調整する必要があり、モード切替えの操作に手間を要するという問題がある。
【0006】
また、上述のようにMF優先のAFモードの場合でもMFの操作によってネットより遠方側の選手に合焦させたとしてもそのMFの操作後、AFによってフォーカスが移動しネットに合焦してしまう場合がある。上記の場合と同様に単純にフォーカス最至近距離のリミット値を変更可能にし、そのリミット値をネットより遠距離側でネットの映像が大ボケとなるような距離に設定すると、MFでもリミット値よりも近距離側にフォーカスを移動させることができなくなるため、ネットの近くに来た選手に合焦させることができないという問題がある。
【0007】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、合焦を禁止する特定の被写体にAFによってフォーカスが移動することを防止すると共に、それによってAFで合焦させることができない範囲の被写体に対しては、MFモードへの切替操作を行うことなく、MFによって合焦させることができるオートフォーカスシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、請求項1に記載のオートフォーカスシステムは、撮影レンズのフォーカスが合焦状態となるように自動でフォーカスを制御するAF制御手段と、マニュアル操作部材の操作に従って前記撮影レンズのフォーカスを制御するMF制御手段とを備え、前記マニュアル操作部材の操作が行われている場合には前記MF制御手段によるフォーカスの制御を作動させ、前記マニュアル操作部材の操作が行われていない場合には前記AF制御手段によるフォーカスの制御を作動させるオートフォーカスシステムにおいて、前記撮影レンズのフォーカスの可動範囲のうち、前記AF制御手段によるフォーカスの制御の作動を制限する制限範囲を設定するAF制限範囲設定手段と、前記撮影レンズのフォーカスが前記AF制限範囲設定手段によって設定された制限範囲内の場合には前記AF制御手段によるフォーカスの制御の作動を制限するAF制限手段と、備えたことを特徴としている。本発明によれば、MF優先のAFにおいて、AFによるフォーカス制御の作動範囲のみを制限するようにしたため、MFによるフォーカス制御の作動範囲に制限はない。従って、合焦を禁止する特定の被写体にAFによってフォーカスが移動する不具合を防止することができると共に、AFによって合焦させることができない範囲の被写体に対して合焦させる必要が生じた場合にはMFによって合焦させることができる。また、AFとMFと併用が可能であるためMFモードに切り替える操作も不要である。
【0009】
請求項2に記載のオートフォーカスシステムは、請求項1に記載の発明において、前記AF制限範囲設定手段は、前記撮影レンズのフォーカスの位置に対して合焦したとみなせる被写界深度の範囲の端の位置が所定の位置範囲となる前記撮影レンズのフォーカスの動作範囲を前記制限範囲として設定すると共に、前記AF制限手段は、前記被写界深度の端の位置が前記位置範囲内となる場合に前記撮影レンズのフォーカスが前記制限範囲内と判定することを特徴としている。即ち、被写界深度の範囲を考慮してAFによるフォーカス制御の作動を制限し、またその制限範囲を設定することによって、撮影レンズの焦点距離や絞り値(Fナンバー)が変化した場合であっても、合焦を禁止する被写体が合焦とみなせる範囲でAFによるフォーカス制御が作動することが防止され、合焦を禁止する被写体に合焦することが確実に防止される。
【0010】
請求項3に記載のオートフォーカスシステムは、請求項1又は請求項2に記載の発明において、前記AF制限手段は、フォーカスの制御の作動を制限する場合に、フォーカスの制御の作動を禁止し、又は、一方向へのフォーカスの移動のみに制限することを特徴としている。本発明によれば、AFによるフォーカス制御の制限として、完全に作動を禁止することによって制限範囲の合焦を禁止する被写体に合焦することを防止するか、又は、一方向へのフォーカスの移動のみに制限することによって合焦を禁止する被写体の方向へのフォーカスの移動を禁止し、合焦を禁止する被写体に合焦することを防止することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るオートフォーカスシステムによれば、合焦を禁止する特定の被写体にAFによってフォーカスが移動することが防止されると共に、それによってAFで合焦させることができない範囲の被写体に対しては、MFモードへの切替操作を行うことなく、MFによって合焦させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、添付図面に従って本発明に係るオートフォーカスシステムの好ましい実施の形態について詳説する。
【0013】
図1は、本発明が適用されるレンズシステムの全体構成を示したブロック図である。同図に示すレンズシステムは、例えば放送用のテレビカメラに使用されるシステムであり、撮影レンズ(光学系)と制御系とから構成されている。
【0014】
撮影レンズには、フォーカス調整のために光軸方向に移動するフォーカスレンズ(群)FL、ズーム調整(焦点距離調整)のために光軸方向に移動するズームレンズ(群)ZL、光量調整のために開閉動作する絞りI、オートフォーカスの際にピント状態の検出(合焦方向等の検出)のために光軸方向に移動し撮影レンズのフォーカスを変動させるワブリングレンズ(群)WL等が配置されている。尚、撮影レンズの概略構成は図2に示されており、同図のように前段(対物側)から順に上記フォーカスレンズFL、上記ズームレンズZL、上記絞りI、上記ワブリングレンズWL、図1には示されていないマスターレンズ(群)ML等が配置されている。また、図2に示すようにズームレンズZLは、変倍系レンズ(群)VLと補正系レンズ(群)CLとからなり、これらのレンズVL、CLが所定の位置関係で光軸方向に移動することによりピント位置を変更することなく、焦点距離が変更される。
【0015】
このように構成された撮影レンズに入射した被写体光は、その撮影レンズを装着した図示しないカメラ本体(カメラヘッド)の撮像素子の撮像面(結像面)に結像され、撮像素子によって光電変換された後、カメラ本体内の信号処理部により所定の信号処理が施される。これによって撮影レンズを介して撮像素子により撮像された映像(被写体画像)が所定形式(例えばNTSC方式)の映像信号としてカメラ本体により得られる。
【0016】
図1に示すように各レンズFL、ZL、WLや絞りIには、各々に対応するフォーカス用モータFM、ズーム用モータZM、ワブリング用モータWM、絞り用モータIMが連結されており、各モータFM、ZM、WM、IMによって各レンズFL、ZL、WLが光軸方向に駆動され、絞りIが開閉駆動されるようになっている。また、各モータFM、ZM、WM、IMは、CPU14からD/A変換器16を介してフォーカス用アンプFA、ズーム用アンプZA、ワブリング用アンプWA、絞り用アンプIAのそれぞれに与えられる駆動信号の電圧値に応じた回転速度で制御されるようになっている。
【0017】
CPU14には、操作者の操作に従ってフォーカスデマンド10やズームデマンド12等のコントローラからフォーカスレンズFLやズームレンズZLの設定すべき位置(目標位置)や速度(目標速度)を示す指示信号がA/D変換器13を介して与えられるようになっている。CPU14は、各アンプFA、ZAに出力する駆動信号の値を変更することにより各モータFM、ZMの回転速度を制御し、フォーカスレンズFLやズームレンズZLが上記目標位置又は目標速度となるようにフォーカスレンズFLやズームレンズZLの位置や速度を制御する。尚、CPU14には、フォーカスレンズFLの現在位置の情報としてフォーカス用モータFMの回転位置を示す位置信号がフォーカス用ポテンショメータFPからA/D変換器13を介して与えられると共に、ズームレンズZLの現在位置の情報としてズーム用モータZMの回転位置を示す位置信号がズーム用ポンテンショメータZPからA/D変換器13を介して与えられている。フォーカスレンズFL又はズームレンズZLについての上記指示信号が目標位置を指定するものである場合には、その目標位置とフォーカスレンズFL又はズームレンズZLの現在位置とを逐次比較しながらフォーカス用モータFM又はズーム用モータZMの回転速度を制御する。また、後述のようにフォーカス制御にはマニュアルフォーカス(MF)制御とオートフォーカス(AF)制御とがあり、MF制御の場合には上述のようにフォーカスデマンド10から与えられる指示信号に基づいてフォーカスレンズFLが制御され、AF制御の場合には、詳細を後述する焦点評価値検出部26から得られる焦点評価値に基づいてフォーカスレンズFLが制御される。
【0018】
また、絞りIについては、一般にカメラ本体から絞りIの設定すべき位置(絞り値)を指示する指示信号がCPU14に与えられ、CPU14は、上述の同様に絞りIの現在位置の情報として絞り用モータIMの回転位置を絞り用ポテンショメータIMにより検出しながら絞り用モータIMを制御し、指示信号により指定された絞り値となるように絞りIを制御する。
【0019】
一方、ワブリングレンズWLについては、外部からの指示信号に基づいて制御されるのではなく、後述のAF制御時のワブリングのための駆動信号がCPU14からワブリング用アンブWAに出力されて制御される。また、ワブリング用モータWMは例えばパルスモータであり、ワブリングレンズWLの位置をフィードバックするためのポテンショメータは設置されていない。
【0020】
また、CPU14には、AF制御時において焦点評価値検出部26からカメラ本体の撮像素子により撮影されている映像(撮影画像)のコントラストを示す焦点評価値が与えられるようになっている。焦点評価値検出部26は、主にA/D変換器18、ハイパスフィルタ(HPF)20、ゲート回路22、加算回路24から構成されており、そのA/D変換器18にはカメラ本体からの映像信号(輝度信号)が入力されるようになっている。A/D変換器18によりデジタル信号に変換された映像信号は、ハイパスフィルタ(HPF)20によって高域周波数成分のみが抽出された後、ゲート回路22に入力される。そして、ゲート回路22により撮影範囲(画面)内に設定された所定のAFエリア(例えば画面中央の矩形エリア)内のみの信号がゲート回路22により抽出される。尚、ゲート回路22には映像信号が直接与えられており、その映像信号の同期信号を参照することによって各フィールドでのAFエリアに対応する信号範囲を特定している。
【0021】
ゲート回路22により抽出されたAFエリア内の高域周波数成分の信号は、1フィールド分ずつ加算回路24により積算され、その積算値が焦点評価値としてCPU14に与えられる。CPU14は、このようにして焦点評価値検出部26から与えられる焦点評価値に基づいて以下で説明するAF制御を実行する。尚、映像信号から焦点評価値を検出する方法は、上述の場合に限らない。また、焦点評価値検出部26は、例えば、撮影レンズ、CPU14、各モータFM、ZM、WM、IM等を備えたレンズ装置に搭載される。
【0022】
次にAF制御について説明する。上記レンズシステムを構成する装置、例えば、フォーカスデマンド10やレンズ装置のケース部には、所定のAFスイッチ(図示せず)が設けられており、そのAFスイッチによって、MFモードとAFモードとが切り替えられるようになっている。AFスイッチによってMFモードが選択された場合には、フォーカスデマンド10から与えられる指示信号に従って上述のようにMF制御によりフォーカスレンズFLが制御される。
【0023】
AFモードが選択された場合には、コントラスト方式によるAF制御が実行される。但し、本実施の形態におけるAFモードは、MF優先のAFモードであり、MFの操作(フォーカスデマンド10の操作)が行われた場合には、その操作に従ってフォーカスデマンド10から与えられる指示信号に従って上述のMFの制御によりフォーカスレンズFLが制御される。従って、MFの操作によって所望の被写体に大まかにピントを合わせると、MFの操作停止後、AFが作動してAF制御によって高精度な合焦が得られるようになっている。
【0024】
AF制御の概要を説明すると、AF制御時には撮影レンズを介してカメラ本体の撮像素子で順次撮像される映像(各フィールドの被写体画像)のコントラストを示す焦点評価値が上述のように焦点評価値検出部26により検出される。一方、CPU14は、フォーカスレンズFLを停止させた状態でワブリング用アンプWAに駆動信号を出力してワブリングレンズWLを基準位置から光軸方向の前後に変位(振動)させる。即ち、ワブリングを行う。これにより、撮影レンズのフォーカス(ピント位置)が至近側と無限遠側に変動する。このとき、CPU14は、ワブリングレンズWLの各変位点での焦点評価値を焦点評価値検出部26から取得する。そして、各変位点での焦点評価値に基づいて、合焦していること(合焦しているか否か)、又は、合焦となるフォーカスレンズFLの移動方向(合焦方向)、即ち、焦点評価値が増加する方向を検出する。以下の説明において合焦していることの検出及び合焦となるフォーカスレンズFL(フォーカス)の移動方向の検出を合焦方向の検出という。また、上記ワブリングによる合焦方向の検出結果は、ワブリングレンズWLが基準位置に設定されている状態において、ワブリング時にフォーカスレンズFLが停止している位置に対して合焦しているか、又は、合焦していない場合の合焦となるフォーカスの移動方向を示すものとする。
【0025】
CPU14はワブリングによって合焦方向を検出すると、その検出結果に基づいてフォーカスレンズFLを制御する。図3は、横軸にフォーカスレンズFLの位置(フォーカス位置)、縦軸に焦点評価値をとり、被写体の条件が一定でフォーカスレンズFLを至近端から無限遠端まで移動させたと仮定した場合の各フォーカス位置で検出される焦点評価値のグラフの一例を示している。同図のa点のように焦点評価値がピークとなるような位置にフォーカスレンズFLが停止している場合、ワブリングによって合焦していることが検出される。この場合には、フォーカスレンズFLを動かすことなく現在の位置にそのまま停止させておく。
【0026】
一方、同図のb点又はc点のように焦点評価値がピークとならない位置にフォーカスレンズFLが停止している場合、ワブリングによって、合焦となるフォーカスの移動方向が検出される。b点の場合には、合焦方向が無限遠側であると検出され、CPU14は、フォーカス用アンプFAに出力する駆動信号によりフォーカスレンズFLを無限遠側に所定量又は所定速度で所定時間移動させて停止させる。逆にc点の場合には、合焦方向が至近側であると検出され、CPU14は、フォーカスレンズFLを至近側に所定量又は所定速度で所定時間移動させて停止させる。
【0027】
以上のようなワブリングによる合焦方向の検出とその検出結果に応じたフォーカスレンズFLの制御とがCPU14によって繰り返し行われ、それによって、フォーカスレンズFLが合焦方向に移動して合焦位置で停止する。また、フォーカスレンズFLが合焦位置で停止している場合であっても、ワブリングが所定時間おきに繰り返し行われるため、被写体の状態が変化して合焦位置が変化すると、新たな合焦位置にフォーカスレンズFLが移動して停止する。
【0028】
尚、フォーカスレンズFLを合焦位置に設定した場合、ワブリングではなく他の処理によって合焦位置が変化したことを検出するようにしてもよい。例えば、ワブリングによって合焦していることが検出され、その位置でフォーカスレンズFLを停止させた場合、ワブリングを停止して焦点評価値検出部26から焦点評価値を逐次取得する。そして、その焦点評価値に一定値以上の変化が生じたか否かを監視し、一定値以上の変化を検出した場合には、被写体画像に変化が生じたと判断して上記ワブリングによる合焦方向の検出とフォーカスレンズFLの制御を再開する。これによって、合焦位置が変化した場合にフォーカスレンズFLが新たな合焦位置に移動する。
【0029】
次に、上記AFモードでのAFリミット機能について説明する。本実施の形態のAFモードでは、フォーカスレンズFLの所望の位置から至近側の範囲でAF(AF制御)の作動を禁止するAFリミット機能を備えている。AFリミット機能は、リミット値を記憶、設定するリミット記憶処理と、設定したリミット値に基づいてAFの作動を禁止するAF禁止処理とからなる。
【0030】
リミット記憶処理では、MFの操作によって所望の位置にフォーカスレンズFLを設定し、図1に示されているリミット記憶スイッチSW2をオンすると、そのときのフォーカスレンズFLの位置(フォーカスレンズ位置)に対して合焦したとみなせる被写体の位置範囲(被写界深度の範囲内)のうち至近側の端の位置までの撮影レンズからの距離の値がリミット値として記憶される。このリミット値より至近側の範囲(至近端までの範囲)がAFの作動を禁止する禁止範囲として設定される。
【0031】
図4には、撮影レンズを単レンズで簡易的に示し、あるフォーカスレンズ位置に対して合焦したとみなせる被写体の位置範囲、即ち、被写界深度の範囲が示されている。周知のように、あるフォーカスレンズ位置において撮影レンズの結像面(撮像面)で最小錯乱円となる像が結ばれる物点の主点位置からの距離を、フォーカスレンズ位置に対する被写体距離Lとし、合焦しているとみなせる許容錯乱円径δの範囲内の像が結ばれる物点の位置範囲のうち、被写体距離Lの位置よりも前方の範囲の長さを前方被写界深度Lf、後方の範囲の長さを後方被写界深度Lrとする。このとき、上記リミット記憶スイッチSW2をオンした際のフォーカスレンズ位置での被写体距離Lに対して、前方被写体深度Lfを減算した距離(L−Lf)の値が、フォーカスレンズ位置に対して合焦したとみなせる被写界深度の範囲の至近側の端までの距離であり、CPU14は、その距離をリミット値MLとして記憶、設定する。尚、フォーカスレンズ位置に対応する被写体距離Lから前方被写界深度Lfを減算した距離(L−Lf)を判定距離Lvというものとする。
【0032】
前方被写界深度Lfは、所定の値の許容錯乱円径δと、撮影レンズのフォーカスレンズ位置に応じた被写体距離Lと、ズームレンズZLの位置(ズームレンズ位置)に応じた焦点距離fと、絞りIの位置(絞り位置)に応じたFナンバー(絞り値)FNo.とによって次式(1)、
Lf=(δ・FNo.・L)/(f+δ・FNo.・L) …(1)
によって求めることができる。CPU14は、リミット記憶スイッチSW2がオンされた際のフォーカスレンズ位置、ズームレンズ位置、絞り位置をポテンショメータFP、ZP、IPから読み取り、フォーカスレンズ位置に対応する被写体距離Lと、上式(1)に基づく前方被写界深度Lfとによって判定距離Lv(=L−Lf)を算出する。そして、その判定距離Lvをリミット値MLとして記憶する。
【0033】
一方、AF禁止処理では、AFを作動させる前にそのときのフォーカスレンズ位置(ズームレンズ位置及び絞り位置)に対する判定距離Lv(=L−Lf)をリミット記憶処理の場合と同様にして算出する。その判定距離Lvがリミット記憶処理によって記憶したリミット値MLより大きいか否かを判定する。その結果、判定距離Lvがリミット値MLより大きいと判定した場合にはAFを作動させる。これに対して、判定距離Lvがリミット値ML以下と判定した場合には、AFの作動を禁止する。これによって、リミット記憶スイッチSW2をオンしてリミット値MLを記憶させたときのフォーカスレンズ位置に対して合焦したとみなせる最至近の距離の被写体(被写界深度内の被写体)よりも至近側の被写体が被写界深度内となるようなフォーカスレンズ位置でのAFの作動が禁止される。
【0034】
例えば、スポーツ中継(野球中継等)においてAFによってネットに合焦するのを防止したい場合、リハーサル時等において、MFによってフォーカスレンズFLをネットより遠距離側の位置に動かしネットがボケる位置に設定する。このとき、図4のようにネットは被写界深度の範囲よりも至近側となる。そして、その状態でリミット記憶スイッチSW2をオンすると、そのときの判定距離Lvがリミット値MLとして記憶される。このとき、ネットの距離(主点位置からネットまでの距離)と、リミット値MLとにある程度の差があれば、ネットが被写界深度内となるようなフォーカスレンズ位置でのAFの作動が禁止されるだけでなく、AFの作動が許容されたフォーカスレンズ位置においてAFが作動してもネットに合焦することが防止される。
【0035】
尚、ネットの距離とリミット値MLとの差が余りに小さい場合には、AFの作動が許容されたフォーカスレンズ位置においてAFが作動したとしても、ネットの画像による焦点評価値の増加傾向が至近側に現れる場合がある。この場合、AFによってフォーカスレンズFLが至近側に移動すると共に、本実施の形態ではAFを作動させた後のフォーカスレンズFLの移動範囲には制限を加えていないため、フォーカスレンズFLがネットに合焦する位置まで移動する可能性がある。
【0036】
しかしながら、ネットの距離とリミット値MLとにある程度の差があれば、AFの作動が許容されるフォーカスレンズ位置では、ネットの画像による焦点評価値の増加傾向が至近側に現れることがなく、AFが作動することによってネットに合焦することは防止される。このようにAFが作動することによってネットに合焦することを防止するためには、MFによってネットが大ボケとなる位置にフォーカスレンズFLを設定した状態でリミット記憶スイッチSW2を押してリミット値MLを記憶、設定するか、又は、ネットより遠距離側に撮影の対象とするような被写体がある場合に、MFの操作後、AFが作動してもネットではなくその対象の被写体に合焦するようにフォーカスレンズFLが移動するようなフォーカスレンズ位置を探してリミット値MLを記憶、設定すればよい。
【0037】
上述のようなAFリミット機能(AF禁止処理)は、図1に示されているAFリミットスイッチSW1をオン/オフすることによって有効又は無効に切り替えることができ、操作者は必要なときのみAFリミット機能を使用することができるようになっている。AFリミットスイッチSW1やリミット記憶スイッチSW2は、例えばフォーカスデマンド10に配置され、図5のようにフォーカスデマンド10の本体部50(フォーカスノブ52は、MFの操作の際に回動操作するマニュアル操作部材)に配置した1つのスライドスイッチ54によって構成することもできる。同図において、スライドスイッチ54が中央に設定されている場合にはAFリミットスイッチSW1及びリミット記憶スイッチSW2がともにオフに設定されている状態であり、AFリミット機能(AF禁止処理)が無効であると共にリミット値MLの記憶の処理も実行されない。スライドスイッチが左側に設定されている場合にはAFリミットスイッチSW1がオフに設定され、リミット記憶スイッチSW2がオンに設定されている状態であり、AFリミット機能(AF禁止処理)が無効であるが、リミット値MLの記憶の処理が実行される。スライドスイッチが右側に設定されている場合にはAFリミットスイッチSW1がオンに設定され、リミット記憶スイッチSW2がオフに設定されている状態であり、AFリミット機能(AF禁止処理)が有効であり、リミット値MLの記憶の処理は実行されない。
【0038】
一方、上記AFリミット機能は、フォーカスレンズFLの所望の位置から至近側の範囲でのAFの作動を禁止するが、MFの作動に関しては制限しない。即ち、MFの操作に従ってMF制御を行う場合には、フォーカスレンズFLの移動は全可動範囲で可能である。従って、例えば、AFの作動が禁止された範囲の被写体であってもMFの操作によってその被写体に合焦させることができる。上述のようにネットに合焦させないようにリミット値MLを設定した場合に、例えばそのリミット値より至近側でネットの近傍の被写体に合焦させたい場合にはMFの操作によって合焦させることができる。
【0039】
図6は、CPU14におけるAFリミット機能の処理手順を示したフローチャートである。AFモードが選択された場合、まず、CPU14は、所要の初期設定を行った後(ステップS10)、AF(AFモード)以外の処理を実行する(ステップS12)。AF以外の処理としてズーム制御や絞り制御等などがある。次に、現在のフォーカスレンズ位置を取得し、そのフォーカスレンズ位置に対応する被写体距離Lを求める(ステップS14)。続いて、現在のズームレンズ位置を取得し、そのズームレンズ位置に対応する焦点距離fを求める(ステップS16)。更に、現在の絞り位置を取得し、その絞り位置に対応するFナンバーFNo.を求める(ステップS18)。
【0040】
CPU14は、ステップS14〜S18によって求めた被写体距離L、焦点距離f、FナンバーFNo.の値を上式(1)に代入して被写体深度(前方被写界深度)の至近側の端までの距離、即ち、上記判定距離Lv(=L−Lf)を計算する(ステップS20)。
【0041】
次に、CPU14は、リミット記憶スイッチSW2がオンか否かを判定する(ステップS22)。YESと判定した場合には、ステップS20で算出した判定距離Lvをリミット値MLとして記憶する(ステップS24)。一方、NOと判定した場合には、ステップS24の処理を実行しない。
【0042】
次に、CPU14は、MFの操作が行われていない(MF操作無し)か否かを判定する(ステップS26)。NO、即ち、MFの操作が行われていると判定した場合には、上述のようにそのMFの操作に従ってMFを作動させる(MF制御を実行する)(ステップS28)。そして、ステップS12に戻る。
【0043】
一方、ステップS26においてYES、即ち、MFの操作が行われていないと判定した場合には、続いて、AFリミットスイッチSW1がオンか否かを判定する(ステップS30)。NOと判定した場合には、AFリミット機能(AF禁止処理)は無効であり、フォーカスレンズFLの位置(判定距離Lv)に関係なくAFを作動させる(AF制御を実行する)(ステップS34)。即ち、焦点評価値検出部26から焦点評価値を取得しながら焦点評価値が極大となる位置にフォーカスレンズFLを移動させる。そして、ステップS12に戻る。一方、ステップS30においてYESと判定した場合には、AFリミット機能(AF禁止処理)は有効であり、続いて、ステップS20で算出した判定距離Lvがリミット値MLより大きいか否かを判定する(ステップS32)。もし、YESと判定した場合には、フォーカスレンズFLの位置はAFの作動を許容できる範囲であり、AFを作動させて(ステップS34)ステップS12に戻る。
【0044】
ステップS32において、NOと判定した場合には、フォーカスレンズFLの位置はAFの作動を禁止する範囲であり、AFを作動させることなくステップS12に戻る。
【0045】
以上、上記実施の形態では、AFの作動を禁止するAF禁止範囲をフォーカスのある位置から至近側の範囲としたが、ある位置より無限遠側の範囲をAF禁止範囲とすることも可能であるし、それ以外の所望の範囲、例えば、バレーボールのネットように前後に撮影対象の被写体がある場合にネットがある中間範囲をAF禁止範囲とすることも可能である。無限遠側の範囲をAF禁止範囲とする場合には、例えば、被写界深度の範囲のうち遠距離側の端の位置によってリミット値MLを設定すると共に、その端の位置がリミット値MLよりも大きくなるようなフォーカスレンズ位置でAFの作動を禁止すればよい。
【0046】
また、上記実施の形態では、被写界深度の至近側の端の位置(判定距離Lv)がリミット値ML以下の場合にAFの作動を禁止するようにしたが、AFの作動を完全に禁止するのではなく、一方向へのフォーカスレンズFLの移動のみを禁止するようにしてもよい。例えば、被写界深度の至近側の端の位置(判定距離Lv)がリミット値ML以下の場合であってもAFによってフォーカスレンズFLが無限遠側に移動するような場合にはそれに従ってフォーカスレンズFLを制御するようにしてもよい。この場合、被写界深度の至近側の端の位置(判定距離Lv)がリミット値ML以下となるような位置であっても、被写体が合焦させたくない被写体より遠距離側にMFによってフォーカスレンズFLを設定すれば、合焦させたくない被写体よりも遠距離側の被写体にはAFによって高精度に合焦させることができる可能性がある。
【0047】
また、上記実施の形態では、被写界深度の端の位置によってAFの作動を禁止するか否かを判定するようにしたが、被写界深度の端の位置に限らず、それに補正を加えた位置によってAFの作動を禁止するか否かを判定するようにしてもよい。
【0048】
また、上記実施の形態では、AFの作動が許容される範囲でAFが作動した後は、フォーカスレンズFLの移動範囲は制限されないようになっているが、AFの作動が開始してフォーカスレンズFLが移動し、AFの作動中にAFの作動が禁止される範囲となった場合には、その時点でAFの作動を停止させるようにしてもよい。
【0049】
また、上記実施の形態では、実際に設定したフォーカスレンズFLに基づいてリミット値MLを設定するようにしたが、これに限らず、つまみ等の調整手段によって設定できるようにしてもよい。
【0050】
また、上記実施の形態では、コントラスト方式のAFにを採用したオートフォーカスシステムについて説明したが、AFの制御方法はどのようなものであっても本発明を適用することができる。また、本発明はテレビカメラに限らず、AFを使用するカメラにおいて適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】図1は、本発明が適用されるレンズシステムの全体構成を示したブロック図である。
【図2】図2は、撮影レンズの概略構成を示した構成図である。
【図3】図3は、AF制御の説明に使用した説明図である。
【図4】図4は、AFリミット機能の説明に使用した図である。
【図5】図5は、AFリミット機能のスイッチをフォーカスデマンドに配置した場合の構成図である。
【図6】図6は、AFリミット機能の処理手順を示したフローチャートである。
【符号の説明】
【0052】
10…フォーカスデマンド、14…CPU、13…A/D変換器、18…A/D変換器、20…ハイパスフィルタ、22…ゲート回路、24…加算回路、26…焦点評価値検出部、SW1…AFリミットスイッチ、SW2…リミット記憶スイッチ、FL…フォーカスレンズ、ZL…ズームレンズ、I…絞り、WL…ワブリングレンズ、FM…フォーカス用モータ、WM…ワブリング用モータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
撮影レンズのフォーカスが合焦状態となるように自動でフォーカスを制御するAF制御手段と、マニュアル操作部材の操作に従って前記撮影レンズのフォーカスを制御するMF制御手段とを備え、前記マニュアル操作部材の操作が行われている場合には前記MF制御手段によるフォーカスの制御を作動させ、前記マニュアル操作部材の操作が行われていない場合には前記AF制御手段によるフォーカスの制御を作動させるオートフォーカスシステムにおいて、
前記撮影レンズのフォーカスの可動範囲のうち、前記AF制御手段によるフォーカスの制御の作動を制限する制限範囲を設定するAF制限範囲設定手段と、
前記撮影レンズのフォーカスが前記AF制限範囲設定手段によって設定された制限範囲内の場合には前記AF制御手段によるフォーカスの制御の作動を制限するAF制限手段と、
を備えたことを特徴とするオートフォーカスシステム。
【請求項2】
前記AF制限範囲設定手段は、前記撮影レンズのフォーカスの位置に対して合焦したとみなせる被写界深度の範囲の端の位置が所定の位置範囲となる前記撮影レンズのフォーカスの動作範囲を前記制限範囲として設定すると共に、前記AF制限手段は、前記被写界深度の端の位置が前記位置範囲内となる場合に前記撮影レンズのフォーカスが前記制限範囲内と判定することを特徴とする請求項1のオートフォーカスシステム。
【請求項3】
前記AF制限手段は、フォーカスの制御の作動を制限する場合に、フォーカスの制御の作動を禁止し、又は、一方向へのフォーカスの移動のみに制限することを特徴とする請求項1又は2のオートフォーカスシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−106356(P2006−106356A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−292838(P2004−292838)
【出願日】平成16年10月5日(2004.10.5)
【出願人】(000005430)フジノン株式会社 (2,231)
【Fターム(参考)】