説明

オールスチールタイヤ

【課題】ケースコードとゴムのセパレーションなどを防止できる耐久性を有するとともに、コード接着性、シート加工性、低燃費性及び破断時伸びにも優れたインスレーションを有するオールスチールタイヤを提供する。
【解決手段】ジエン系ゴム、BET比表面積70〜250m/gの湿式シリカ、BET比表面積30〜90m/gのカーボンブラック、及び硫黄を含み、前記ジエン系ゴム100質量部に対して、前記湿式シリカの含有量が7〜20質量部、前記カーボンブラックの含有量が30〜60質量部、前記硫黄の含有量が3.0〜5.6質量部であり、かつ有機酸コバルトの含有量がコバルト換算で0.08質量部以下であるゴム組成物を用いて作製したインスレーションを有するオールスチールタイヤに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定成分を配合したインスレーション(タイガム)を有するオールスチールタイヤ(空気入りタイヤ)に関する。
【背景技術】
【0002】
トラック・バス用などの重荷重用の空気入りラジアルタイヤには、タイヤの骨格をなすケースのコード、及びその半径方向外側かつトレッド内部に配されるベルト層のコードに、それぞれスチールコードを用いたオールスチールラジアル構造のものが広く採用されている。このようなオールスチールタイヤは、一般に優れたタイヤ強度を有しているが、バットレス部やクリンチ部において、加硫時にオープンスレッド(インスレーションの過剰なゴム流れ)が生じることもあり、これがひどい場合、市場走行時にケースコードとゴムの剥離が生じる場合もある。
【0003】
具体的には、例えば、図1に示すスチールコードをトッピングしたケースを有するトラック・バス用タイヤでは、加硫工程でインスレーションのゴム流れによって図2に示されるような波打ちが生じ易く、その結果、走行により波打ちが成長し、ケースコードとトッピングゴムの間に初期クラック、セパレーションが発生する場合がある(図3)。
【0004】
更にインスレーションには、セパレーションを抑制できるような耐久性の他に、シート加工性、低燃費性、破断時伸びも要求されている。また、ケースの裁断不良時などにおいてインスレーションゴムがケースのコードと接触する場合も想定されるため、スチールコードとの接着性も要求されるが、これらすべての性能を満足するものは得られていない。例えば、特許文献1には、低燃費性、耐久性などをバランスよく改善する瀝青炭、シリカ及び特定のシランカップリング剤を配合したインスレーション用ゴム組成物が開示されているが、前記すべての性能の改善という点では未だ改善の余地を残している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−132358号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記課題を解決し、ケースコードとゴムのセパレーションなどを防止できる耐久性を有するとともに、コード接着性、シート加工性、低燃費性及び破断時伸びにも優れたインスレーションを有するオールスチールタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ジエン系ゴム、BET比表面積70〜250m/gの湿式シリカ、BET比表面積30〜90m/gのカーボンブラック、及び硫黄を含み、前記ジエン系ゴム100質量部に対して、前記湿式シリカの含有量が7〜20質量部、前記カーボンブラックの含有量が30〜60質量部、前記硫黄の含有量が3.0〜5.6質量部であり、かつ有機酸コバルトの含有量がコバルト換算で0.08質量部以下であるゴム組成物を用いて作製したインスレーションを有するオールスチールタイヤに関する。
【0008】
前記ゴム組成物は、130℃における未加硫状態のムーニー粘度ML(1+4)が54〜72であることが好ましい。
前記ゴム組成物は、前記ジエン系ゴム100質量部に対して、前記BET比表面積30〜90m/gのカーボンブラックを40〜55質量部、加硫促進剤を0.7〜2.0質量部含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ジエン系ゴム、BET比表面積70〜250m/gの湿式シリカ、BET比表面積30〜90m/gのカーボンブラック、及び硫黄を所定量含み、かつ有機酸コバルトの含有量が所定量以下であるゴム組成物を用いて作製したインスレーションを有するオールスチールタイヤであるので、隣接するケースにおいて、ケース、コード間の初期クラック、セパレーションを防止し、優れた耐久性をタイヤに付与できる。また、前記成分を配合したインスレーションを構成するゴム組成物は、コード接着性、シート加工性、低燃費性及び破断時伸びにも優れている。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】トラック・バス用空気入りタイヤの右半分を示す模式的断面図。
【図2】図1に示すタイヤの加硫後におけるケース、インスレーション及びインナーライナーの接合部における模式的断面図。
【図3】図1に示すタイヤの走行後におけるケース、インスレーション及びインナーライナーの接合部における模式的断面図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のオールスチールタイヤは、ジエン系ゴム、BET比表面積70〜250m/gの湿式シリカ、BET比表面積30〜90m/gのカーボンブラック、及び硫黄を所定量含み、かつ有機酸コバルトの含有量が所定量以下であるゴム組成物を用いて作製したインスレーションを有している。
【0012】
タイヤの使用内圧が高いトラック・バスなどに使用されているオールスチールタイヤでは、一般に空気圧や使用中の熱でコード間のゴム流れが促進される。これについて、本発明では、ジエン系ゴム、特定のカーボンブラック、硫黄を所定量含むインスレーションゴムに、更に前記湿式シリカを特定量配合することで、インスレーションの練りゴム粘度を高く保ち、加硫中のゴム流れを少なくできるため、初期クラック、セパレーションを防止し、優れた耐久性を持つタイヤが得られる。
【0013】
また、前記湿式シリカを特定量配合することにより、破断時伸びも改善でき、更に良好な低燃費性、シート加工性も得られる。加えて、コード接着性も高められるため、有機酸コバルトの減量が可能となり、所定量以下で接着性を確保できる。また、最近、湿式シリカがカーボンブラックより安価になってきたため、コスト低減効果も発揮される。従って、優れた耐久性を有し、かつコード接着性、シート加工性、低燃費性及び破断時伸びにも優れたオールスチールタイヤを提供できる。
【0014】
本発明のオールスチールタイヤにおいて、インスレーションを構成するゴム組成物(インスレーション用ゴム組成物)に用いられるジエン系ゴムとしては特に限定されず、例えば、天然ゴム(NR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、イソプレンゴム(IR)、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)などが挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、耐久性、コード接着性、シート加工性、低燃費性、破断時伸びの性能バランスの点から、NR及び/又はIRを使用すること、NR及び/又はIRとBRとを併用することが好ましい。
【0015】
上記ゴム組成物において、使用できるNRとしては特に限定されず、例えば、SIR20、RSS♯3、TSR20等、タイヤ工業において一般的なものを使用できる。IRとしても特に限定されず、公知のものを使用できる。
【0016】
ゴム組成物がNRを含有する場合、ゴム成分100質量%中のNR及びIRの合計含有量は、好ましくは50質量%以上、より好ましくは65質量%以上である。50質量%未満であると、破壊強度の確保が難しくなり、また、前述の性能バランスも悪化する傾向がある。NRの含有量の上限は特に限定されない。
【0017】
ゴム組成物がBRを含有する場合、ゴム成分100質量%中のBRの含有量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは15質量%以上である。5質量%未満であると、BR特有の亀裂成長性を向上できるというメリットが得られない傾向がある。該BRの含有量は、好ましくは40質量%以下、より好ましくは25質量%以下である。40質量%を超えると、加工性と破断時伸びが悪化する傾向がある。
【0018】
本発明において特定BET比表面積を持つ湿式シリカを使用すると、粘度を高く保持できるため、優れた耐久性、シート加工性が得られる。また、良好なコード接着性、低燃費性、破断時伸びも得られる。
【0019】
湿式シリカのBET比表面積(NSA)は、70m/g以上、好ましくは80m/g以上、より好ましくは90m/g以上である。70m/g未満であると、粘度が低く、接着向上効果も充分に得られない傾向がある。また、該BET比表面積は、250m/g以下、好ましくは230m/g以下、より好ましくは210m/g以下である。250m/gを超えると、シリカが分散しにくくなり、加工性が悪化するおそれがある。
なお、湿式シリカのBET比表面積は、ASTM D3037−93に準じてBET法で測定される値である。
【0020】
湿式シリカの含有量は、ジエン系ゴム100質量部に対して、7質量部以上、好ましくは10質量部以上である。7質量部未満であると、シリカを配合することによる粘度、コード接着性及び破断伸びの向上効果やtanδの低減効果が充分に得られないおそれがある。該シリカの含有量は、20質量部以下、好ましくは15質量部以下である。20質量部を超えると、加工性、特に不均一なシートシュリンクが悪化するおそれがある。
【0021】
本発明では、シリカとともに、スルフィド系、メルカプト系、ビニル系、アミノ系、グリシドキシ系、ニトロ系、クロロ系シランカップリング剤など、従来公知のシランカップリング剤を併用しても構わないが、特段使用しなくてもシリカの充分な分散性が得られる。
【0022】
そのため、シランカップリング剤の含有量は、シリカ100質量部に対して、3質量部以下でもよく、2質量部以下、1質量部以下でも構わず、特に配合しなくてもよい。これにより、コスト低減効果が得られる。
【0023】
上記ゴム組成物はカーボンブラックを含む。これにより、良好な補強性が得られ、耐久性、低燃費性、破断時伸び、コード接着性がバランス良く得られる。
【0024】
カーボンブラックのBET比表面積(NSA)は、30m/g以上、好ましくは35
/g以上である。30m/g未満であると、充分な破断伸びが得られないおそれがある。該BET比表面積は、90m/g以下、好ましくは85m/g以下、より好ましくは45m/g以下である。90m/gを超えると、発熱性、シート加工性が悪くなるおそれがある。
なお、カーボンブラックのBET比表面積は、JIS K 6217−2:2001によって求められる。
【0025】
BET比表面積30〜90m/gのカーボンブラックの含有量は、ジエン系ゴム100質量部に対して、30質量部以上、好ましくは40質量部以上である。30質量部未満では、充分な補強性が得られないおそれがある。該含有量は、60質量部以下、好ましくは55質量部以下である。60質量部を超えると、充分な低燃費性が得られないおそれがある。
【0026】
カーボンブラック及びシリカの合計含有量は、ジエン系ゴム100質量部に対して、好ましくは37質量部以上、より好ましくは40質量部以上である。37質量部未満では、充分なゴム流れ性、破断時伸び、Eが得られないおそれがある。該合計含有量は、好ましくは80質量部以下、より好ましくは70質量部以下である。80質量部を超えると、シート加工性、充分な低燃費性が得られないおそれがある。
【0027】
インスレーション用ゴム組成物には、スチールコードとの接着性を向上させる目的で、有機酸コバルトが配合されることがあるが、本発明では、前記湿式シリカを配合しているため、コバルト量を低減しても接着性を確保できる。ここで、有機酸コバルトとしては、ステアリン酸コバルト、ナフテン酸コバルト、ネオデカン酸コバルト、ホウ素3ネオデカン酸コバルト、アビチエン酸コバルトなどが挙げられる。
【0028】
上記ゴム組成物は、有機酸コバルトの含有量が、ジエン系ゴム100質量部に対して、コバルトに換算して、0.08質量部以下、好ましくは0.07質量部以下、より好ましくは0.01質量部以下であり、含まなくてもよい。本発明では、練りゴム粘度を高く保ち、加硫中のゴム流れを少なくでき、インスレーションとコードの接触機会をほぼなくせるため、コバルト量を減量できる。
【0029】
本発明では、硫黄が配合される。硫黄としては、粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄などが挙げられる。
【0030】
上記ゴム組成物において、硫黄の含有量は、ジエン系ゴム100質量部に対して、3.0質量部以上、好ましくは4.0質量部である。3.0質量部未満であると、Eやコード接着性が不足し、tanδが悪い傾向がある。該硫黄の含有量は、5.6質量部以下、好ましくは5.3質量部以下である。5.6質量部を超えると、硫黄のブルームによるシート加工性が悪化し、タイガム、ブライ、サイドウォール全体の熱酸化劣化による耐久性が低下するおそれがある。
【0031】
なお、本明細書において、硫黄の含有量とは、ゴム組成物に配合される前記粉末硫黄、不溶性硫黄などの硫黄加硫剤中に含まれる純硫黄分の量を意味する。つまり、純硫黄分とはオイル含有硫黄を使用する場合には、純硫黄成分を意味する。
【0032】
上記ゴム組成物には、ステアリン酸、ステアリン酸コバルトなどのステアリン酸系化合物を配合できるが、ステアリン酸成分(ステアリン酸系化合物中のステアリン酸分)の含有量は、ジエン系ゴム100質量部に対して、1.0質量部以下が好ましく、0.9質量部以下がより好ましい。1.0質量部を超えると、高粘度に調整することが困難で、またコード接着性が悪化する傾向がある。
【0033】
上記ゴム組成物には、前記成分の他に、従来ゴム工業で使用される配合剤、例えば、加硫促進剤、ワックス、酸化防止剤、老化防止剤等を含有してもよい。
【0034】
加硫促進剤としては、グアニジン系、アルデヒド−アミン系、アルデヒド−アンモニア系、チアゾール系、スルフェンアミド系、チオ尿素系、チウラム系、ジチオカルバメート系、ザンデート系の化合物などが挙げられる。なかでも、ゴム中への分散性、加硫物性の安定性の点から、スルフェンアミド系加硫促進剤〔N−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(TBBS)、N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(CBS)、N,N−ジシクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(DCBS)、N,N−ジイソプロピル−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミドなど〕、N−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンイミド(TBSI)、ジ−2−ベンゾチアゾリルジスルフィド(DM)が好適である。本発明では、湿式シリカにより接着性を向上できるため、安価なTBBSに置換可能である。
【0035】
加硫促進剤の配合量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.3質量部以上、より好ましくは0.7質量部以上である。また、該配合量は、好ましくは2.0質量部以下、より好ましくは1.5質量部以下である。加硫促進剤の配合量が上記範囲内であると、好適な架橋密度、E、コード接着性が得られ、所望の性能を有するゴム組成物が得られる。
【0036】
前述のインスレーション用ゴム組成物は、130℃における未加硫状態のムーニー粘度ML(1+4)が54〜72であることが好ましく、56〜68であることがより好ましい。上記範囲内であると、ゴム流れを抑制し、クラック、セパレーションを防止できる。なお、ムーニー粘度は、JIS K6300に準拠した測定値である。
【0037】
上記インスレーション用ゴム組成物(インスレーションゴム層)を有する本発明のオールスチールタイヤにおいて、規定内圧を充填した状態のタイヤ最大幅位置において測定されるインスレーション層の厚みは、0.2〜2.5mmの範囲内であることが好ましい。0.2mm以上であると、ゴム流れ、耐久性、加工性が良好であり、2.5mm以下であると、燃費性、発熱性、軽量化が良好である。インスレーション層の厚みの下限は、0.6mm以上がより好ましく、上限は1.5mm以下がより好ましい。
【0038】
本発明のオールスチールタイヤは、前記各成分をバンバリーミキサー、オープンロール等のゴム混練装置を用いる混練方法などの公知の方法で作製したゴム組成物を、インスレーション形状に成形したのち、他のタイヤ部材と貼りあわせて未加硫タイヤを成形し、加硫することによって製造できる。オールスチールタイヤは、ケース、ブレーカーに使用されるコードが共にスチールコードであるタイヤであり、重荷重用タイヤ(トラック・バス用タイヤ、重機等の産業用車両に使用される産業用タイヤ等)に好適である。
【実施例】
【0039】
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0040】
以下、実施例及び比較例で使用した各種薬品について、まとめて説明する。
NR:TSR20
IR:JSR(株)製のIR2200
BR:宇部興産(株)製のVCR617(SPB含有BR)
ブチル系ゴム:日本ブチル(株)製のクロロブチルHT1066(クロロブチルゴム)
カーボンブラック(N762):コロンビアンカーボン社製のStatexN762(BET:27m/g)
カーボンブラック(N660):Jiangix Black Cat(黒猫)社製のN660(BET:32m/g)
カーボンブラック(N550):キャボットジャパン(株)製のショウブラックN550(BET:40m/g)
カーボンブラック(N326):三菱化学(株)製のダイヤブラックLH(BET:83m/g)
カーボンブラック(N220):キャボットジャパン(株)製のショウブラックN220(BET:111m/g)
シリカ(VN3):エボニックデグッサ社製のULTRASIL VN3(BET:175m/g)
シリカ(VN2):エボニックデグッサ社製のULTRASIL VN2(BET:125m/g)
シリカ(U360):エボニックデグッサ社製のU360(BET:50m/g)
シリカ(Z1085Gr):ローディア社製のZ1085Gr(BET:80m/g)
シリカ(U9000):エボニックデグッサ社製のU9000(BET:230m/g)
C5レジン:丸善石油化学(株)製のマルカレッツT−100AS(C5系石油樹脂)
TDAEオイル:H&Rグループ社製のVivatec 500
シランカップリング剤:エボニックデグッサ社製のSi75
接着レジン:住友化学工業(株)製のスミカノール620(変性レゾルシン・ホルムアルデヒド縮合体)
酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製の酸化亜鉛
ステアリン酸:日油(株)製のステアリン酸「椿」
ホウ素ネオデカン酸コバルト:大日本インキ化学(株)製のDIC NBC−2(コバルト含有量:22.5質量%)
ステアリン酸コバルト:大日本インキ化学工業(株)製のcost−F(コバルト含有量:9.5質量%)
老化防止剤:住友化学(株)製のアンチゲン6C(N−フェニル−N’−(1,3−ジメチルブチル)−p−フェニレンジアミン)
オイル含有不溶性硫黄:フレキシス製のクリステックスHSOT20(硫黄80質量%およびオイル分20質量%含む不溶性硫黄)
Duralink HTS:Flexsys社製のDuralink HTS(ヘキサメチレン−1,6−ビス(チオスルフェイト)2ナトリウム塩2水和物)
アクチベータ73A:ストラクトール社製のアクチベータ73A(脂肪族カルボン酸の亜鉛塩及び芳香族カルボン酸の亜鉛塩の混合物)
スミカノール507A:住友化学工業(株)製のスミカノール507A(変性エーテル化メチロールメラミン樹脂(ヘキサメチロールメラミンペンタメチルエーテル(HMMPME)の部分縮合物)、シリカとオイル35質量%含有)
加硫促進剤TBBS:大内新興化学工業(株)製のノクセラーNS(N−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)
加硫促進剤TBSI:フレキシス(株)製のサントキュアーTBSI(N−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンイミド)
加硫促進剤DCBS:大内新興化学工業(株)製のノクセラーDZ(N,N’−ジシクロヘキシル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド)
【0041】
<実施例及び比較例>
表1〜2に示す配合処方に従い、1.7Lバンバリーミキサーを用いて、配合材料のうち、硫黄及び加硫促進剤以外の材料を150℃の条件下で4分間混練りし、混練り物を得た。次に、得られた混練り物に硫黄及び加硫促進剤を添加し、オープンロールを用いて、100℃の条件下で2分間練り込み、未加硫ゴム組成物を得た。得られた未加硫ゴム組成物を150℃で35分間(トラック・バス用)、2mm厚の金型でプレス加硫し、加硫ゴム組成物を得た。
【0042】
また、得られた未加硫ゴム組成物をインスレーションの形状に成形し、他のタイヤ部材とともに貼り合わせて未加硫タイヤを形成し、150℃で35分間プレス加硫し、トラック・バス用オールスチールタイヤを製造した。タイヤの仕様は以下のとおりである。
【0043】
(トラック・バス用タイヤ(TBR))
275/70R22.5
インスレーションの厚み:表1〜2
インナーライナー:ブチルゴム100質量%/ゴム成分
ケース:スチールコード(汎用)、コードトップ総厚み1.80mm、コードトッピング配合(NR100質量部、N326 60質量部、硫黄5.0部、加硫促進剤DZ1.0質量部、ステアリン酸コバルト1.5質量部)
【0044】
得られた未加硫ゴム組成物、加硫ゴム組成物、トラック・バス用オールスチールタイヤについて下記の評価を行った。結果を表1〜2に示す。
【0045】
(加工性(ゴム流れ))
JIS K6300に準じて、130℃における未加硫ゴム組成物(ゴム片)のムーニー粘度ML(1+4)を測定した。測定したムーニー粘度の値が56〜68の範囲内なら、ゴム流れを防止できるので、望ましい。
【0046】
(粘弾性試験)
粘弾性スペクトロメータVES((株)岩本製作所製)を用いて、温度70℃、周波数10Hz、初期歪10%および動歪2%の条件下で、加硫ゴム組成物(トラック・バス用オールスチールタイヤのインスレーション)の複素弾性率(E)及び損失正接(tanδ)を測定した。Eが7.0〜8.5の範囲内なら、永久変形が適切であることを示す。また、tanδが小さいほど低燃費性に優れることを示す。
【0047】
(コード接着試験(剥離後ゴム付き評点))
得られた未加硫ゴム組成物(ゴム板)を用いてスチールコードを被覆し、150℃、21kgf/cmの条件下で35分間プレス加硫し、その後、温度80℃、湿度95%の条件下で150時間劣化処理し、剥離試験用サンプルを作製した。
作製した剥離試験用サンプルを用いて接着試験を行い、剥離後のゴム被覆率(スチールコードとゴム間を剥離したときの剥離面のゴムの覆われている割合)を測定し、比較例1を3点として評価した。評点の大きい方がスチールコードとの接着性が良好である。
【0048】
(引張試験)
加硫ゴム組成物(トラック・バス用オールスチールタイヤのインスレーション)からなる3号ダンベル型試験片を用いて、JIS K 6251「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム−引張特性の求め方」に準じて、室温にて引張試験を実施し、破断時伸びEB(%)を測定した。EBが大きいほど、破断時伸びに優れることを示す。
【0049】
(ドラム耐久試験)
JIS最大荷重の140%オーバーロード(JIS中心リム、JIS最大内圧):オーバーロード荷重試験で、ケースコードの歪発生箇所を起点としてバットレス部やクリンチ部に剥離が生じ、初期はメッキ層破壊であり、微小クラックがトッピング層、更にはタイガム層にも進展し、セパレーションに至る。
トラック・バス用オールスチールタイヤのドラム耐久試験を実施し、バットレス部でのプライ/サイドウォール間のセパレーション、外観膨れまでの耐久走行距離を測定した。比較例1の距離を100として、各タイヤを指数表示した。剥離発生までの走行距離(=耐久性:外観膨れが認知できるまで走行)は、コード波打ちが大きい場合、インスレーションのEBが低い場合、tanδが高い場合、タイガムのゲージが厚い場合に劣る。コード波打ちがなく、インスレーションのEBが大きい場合、tanδが小さい場合、E*が大きい場合、インスレーションの厚みが適度(0.6〜1mm)な場合、走行距離(耐久性)は優れる。
【0050】
(シート加工性)
トラック・バス用オールスチールタイヤの加工時において、押し出し生地の焼け、シートの平坦性、押し出し寸法の維持特性(シートが不均一にシュリンクしない)、真直性(エッジの凹凸がない)、シート表面の硫黄ブルーム性(粘着性)の5点について、比較例1を100とし、各配合を指数表示した。指数が大きいほどシート加工性が優れる。
【0051】
【表1】

【0052】
【表2】

【0053】
表1〜2で示されているように、湿式シリカを配合していない比較例1〜4に比べて、配合した実施例1〜4では、良好なゴムの粘度が得られたため、ゴム流れを抑制し、クラック、セパレーションを防止できることが明らかとなった。また、コード接着性、破断時伸び、ドラム耐久性、シート加工性も大きく改善された。ホウ素ネオデカン酸コバルトを配合した実施例5では、接着性がかなり優れていた。Duralink HTS、アクチベータ73A、スミカノール507Aを配合した実施例7〜9では、高粘度化効果が発揮された。また、加硫促進剤TBBSを用いた実施例10でも許容可能な接着性が得られ、加硫促進剤TBSIを用いた実施例11では優れた接着性が得られた。
【0054】
カーボンブラックN550とシリカを含む配合に、更にDuralink HTSを添加した実施例22では、Eが改善されるとともに接着性も向上し、破断時伸び、シート加工性、転がり性能も良好であった。カーボンブラックN220とシリカを用いた比較例16は、発熱が高く、耐久性が低下し、シート加工も困難であった。N220を用いた比較例17は、破断時伸び、転がり性能が悪かった。純硫黄量6.0部、加硫促進剤DCBS0.5部の比較例18は、硫黄ブルームのため、シート加工性が悪く、また、熱酸化劣化も大きく、耐久性が劣っていた。
【符号の説明】
【0055】
1 オールスチールタイヤ(空気入りタイヤ)
2 トレッド部
3 サイドウォールゴム
4 ビード部
5 ビードコア
6 カーカス
6a カーカスコード
7 ベルト層
8 ビードエーペックス
9 インナーライナー
9b インナーライナーゴム
10 インスレーションゴム
11 波打ち
12 クラック、セパレーション
13 インスレーションゴムの厚み(タイヤ最大幅位置)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジエン系ゴム、BET比表面積70〜250m/gの湿式シリカ、BET比表面積30〜90m/gのカーボンブラック、及び硫黄を含み、
前記ジエン系ゴム100質量部に対して、前記湿式シリカの含有量が7〜20質量部、前記カーボンブラックの含有量が30〜60質量部、前記硫黄の含有量が3.0〜5.6質量部であり、かつ有機酸コバルトの含有量がコバルト換算で0.08質量部以下であるゴム組成物を用いて作製したインスレーションを有するオールスチールタイヤ。
【請求項2】
前記ゴム組成物は、130℃における未加硫状態のムーニー粘度ML(1+4)が54〜72である請求項1記載のオールスチールタイヤ。
【請求項3】
前記ゴム組成物は、前記ジエン系ゴム100質量部に対して、前記BET比表面積30〜90m/gのカーボンブラックを40〜55質量部、加硫促進剤を0.7〜2.0質量部含む請求項1又は2記載のオールスチールタイヤ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−67736(P2013−67736A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−207881(P2011−207881)
【出願日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】