説明

カセット及び画像形成装置

【課題】複数のトレイを備えたカセットにおいて、どのトレイから媒体を送出する場合でも、媒体の分離と、分離した媒体の送出方向への案内とをより確実に行って、媒体の送出ミスを効果的に低減できるカセット及び画像形成装置を提供する。
【解決手段】カセット16は、第一トレイ21と第二トレイ22とを有している。第一トレイ21と第二トレイ22にはそれぞれの用紙送出方向端部位置に、送出過程の用紙の先端を突き当てて下層の他の用紙と分離するための斜面27A,28Aを有する分離部27,28がそれぞれ突設されている。第一トレイ21に収容される用紙は大サイズで紙厚が薄く柔軟な用紙(A4判・普通紙)であり、第二トレイ22に収容される用紙は小サイズで紙厚が厚い硬い用紙(L判又は2L判の写真紙あるいはハガキ等)である。分離部27の斜面27Aよりも分離部28の斜面28Aの方が、傾斜角が小さく設定されている(θ1>θ2)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、用紙等の媒体を収容するトレイを有するとともに媒体を供給するために画像形成装置に装着されるカセット及び該カセットを備えた画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の画像形成装置としてのプリンタにおける給紙方式として、媒体としての用紙を積載して収容するカセットをプリンタ本体に装着して給紙を行うカセット式のものが知られている。カセットには一種類の用紙が収容され、用紙サイズを変更するときには、カセットを手動で差し替えるようになっていた。また、複数種の用紙サイズに対応できるように、カセットのトレイ内に用紙サイズごとの仕切り部が設けられているものも知られている(例えば特許文献1)。
【0003】
プリンタ本体には、カセットを装着した状態において、カセット上に積載された用紙の上面に当接可能に配置されるピックアップローラが設けられ、ピックアップローラが回転駆動されることにより、最上位の一枚の用紙がカセットから送り出される。このとき用紙は下位の用紙が重なった状態で複数枚送り出される場合があるが、カセットにおいて用紙送出方向下流側端部に突設された分離板(分離部)の斜面に用紙の先端が突き当たることで、最上位の一枚の用紙だけが下位の用紙から分離されるとともに、分離された用紙は分離部の斜面に沿って案内されることで例えば上方へ送り出される(例えば特許文献1)。
【特許文献1】特開2002−321838号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、カセットに用紙種やサイズの異なる複数種の用紙を収容できるように複数のトレイを多段に設けるカセット構造が考えられる。この場合、上側のトレイから送り出される用紙を、下側のトレイの端部に突設された分離板の斜面に突き当てて分離させることで、分離板をトレイ間で共有する構成が考えられる。しかしながら、各トレイ間で積載される用紙の種類やサイズが異なり、例えばA4サイズのトレイであれば、通常は「普通紙」が使用される。一方、用紙サイズがL判や2L判程度の小型サイズの用紙が収容されるトレイの場合、通常、「写真紙」や「ハガキ」が使用される。
【0005】
「普通紙」のように薄く柔軟な用紙であれば、湾曲しやすいので、分離部の斜面に用紙先端が突き当たって分離さえできれば、斜面の傾斜角が多少大きくても、用紙を略鉛直方向へ案内できる。しかし、斜面の角度が比較的小さいと、用紙を分離できない。この場合、最上位の一枚と一緒に下位の用紙も送り出されしまうため、複数枚の用紙が給紙される重送ミスを招くことになる。その一方で、「写真紙」や「ハガキ」などのように硬い用紙の場合は、分離部の斜面に用紙先端を突き当てた際に、多少斜面の角度が大きくても分離できるものの、用紙が湾曲しにくいため、角度の大きな斜面に沿って略鉛直方向へ案内することが困難である。この場合、用紙が給送されない給紙ミスを招くことになる。このため、多段トレイを有するカセットにおいて、各トレイで分離部が共有される構成であると、各トレイで用紙の分離や、分離後の用紙の給紙方向への案内が巧く行われないなどの不都合が発生する虞があった。
【0006】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、複数のトレイを備えたカセットにおいて、どのトレイから媒体を送出する場合でも、媒体の分離と、分離した媒体の送出方向への案内とをより確実に行って、媒体の送出ミスを効果的に低減できるカセット及び画像形成装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、画像形成装置本体に装着して使用されるとともに該画像形成装置本体に供給すべき媒体を積載状態で収容可能なカセットであって、複数の媒体を収容可能な第一トレイと、複数の媒体を収容可能な第二トレイと、前記第一トレイと前記第二トレイとを相対移動可能とするスライド機構とを備え、前記第一及び第二トレイには、送出途中の媒体の先端を突き当てて最上位の一の媒体を他の媒体から分離可能な斜面を有するとともに分離された媒体を前記斜面に沿って給送方向へ案内する第一及び第二分離部がそれぞれ設けられ、前記第一トレイに設けられた前記第一分離部と前記第二トレイに設けられた前記第二分離部は、各々の斜面構造が異なることを要旨とする。なお、本発明は、トレイの数が第一トレイと第二トレイの二つに限定されるものではなく、第一トレイと第二トレイを含む限りにおいて三以上のトレイを備えるカセット構成も包含するものである。
【0008】
これによれば、第一トレイに積載された媒体が給送される際は、媒体が送り出される途中でその先端が、第一トレイに収容される媒体に応じた適切な斜面構造を有する第一分離部の斜面に突き当たるため、最上位の媒体を確実に分離できるとともに分離した媒体を斜面に沿って送出方向へ案内できる。また、第二トレイに積載された媒体が給送される際は、媒体が送出される途中でその先端が、第二トレイに収容される媒体に応じた適切な斜面構造を有する第二分離部の斜面に突き当たるため、最上位の媒体を確実に分離できるとともに分離した媒体を斜面に沿って送出方向へ案内できる。よって、複数のトレイを備えたカセットにおいて、トレイ間で異なる媒体サイズ又は媒体質の媒体が収容されても、トレイから媒体を送出する際には、どのトレイから媒体を給送する場合でも、最上位の媒体の分離と、分離した媒体の送出方向への案内とをより確実に行って、媒体の送出ミスを効果的に低減することができる。
【0009】
本発明のカセットでは、前記第一分離部と前記第二分離部は、各々の斜面の傾斜角度が異なることが好ましい。
これによれば、第一分離部と第二分離部の各々の斜面が、分離及び案内すべき媒体に応じた異なる傾斜角に形成されているので、トレイ間で媒体サイズ又は媒体質が異なっても、媒体の送出ミスを効果的に低減することができる。
【0010】
本発明のカセットでは、前記第一分離部と前記第二分離部は、各々の斜面の摩擦係数が異なることが好ましい。
これによれば、第一分離部と第二分離部の各々の斜面が、分離及び案内すべき媒体に応じた異なる摩擦係数に形成されているので、トレイ間で媒体サイズ又は媒体質が異なっても、媒体の送出ミスを効果的に低減することができる。
【0011】
本発明のカセットでは、前記第二トレイは、前記第一トレイより収容可能な媒体のサイズの小さな小型のトレイであり、前記第二分離部の斜面の傾斜角が前記第一分離部の斜面の傾斜角よりも小さく設定されていることが好ましい。
【0012】
ここで、サイズが小さい媒体(L判や2L判等の写真紙あるいはハガキ等)は、サイズが大きい媒体(A4判等の普通紙)に比べ、一般に媒体厚が大きい傾向にある。そして、厚い媒体の場合、分離部の斜面の傾斜角が比較的小さくても分離されやすいが、媒体が厚い分湾曲いにくく斜面に沿った送出方向への案内が比較的困難になる。一方、薄い媒体の場合、多少傾斜角が大きくても媒体は湾曲しつつ斜面に沿って送出方向へ案内されるが、薄い分、媒体同士の密着性が高く最上位の媒体を下位の媒体から分離することが比較的困難となる。この発明によれば、厚い媒体が収容される頻度の高い小サイズの媒体が収容される第二トレイ側の第二分離部の傾斜角を小さくしているので、第二トレイに収容された小サイズの媒体を、その送出時に適切に分離かつ案内できるうえ、第一トレイに収容された大サイズの媒体を、その送出時に適切に分離かつ案内できる。
【0013】
本発明のカセットでは、前記第二トレイは、前記第一トレイに収容される媒体よりも硬い媒体が収容されるトレイであり、前記第二分離部の斜面の傾斜角が前記第一分離部の斜面の傾斜角よりも小さく設定されていることが好ましい。ここで、硬い媒体とは、媒体の材質自体が硬質である場合と、媒体が厚いために硬くなる場合とがある。また、「硬い」とは、曲げ方向へ同じ力が加えられたときに湾曲しにくい性質、あるいは一定量だけ湾曲させるために必要となる曲げ方向の力が大きい性質をいう。
【0014】
これによれば、媒体が第二トレイから送出される際は、その媒体が硬いことから、傾斜角が比較的小さくてもその先端が第二分離部の斜面に突き当たれば、最上位の媒体が下位の媒体から確実に分離される。そして、分離された最上位の媒体は、それ自体硬く湾曲しにくいものの傾斜角の小さな斜面に沿って案内されることで、確実に送出方向へ送り出される。一方、媒体が第一トレイから送出される際は、その媒体が柔軟(硬くない)で密着性の高いものであっても、その先端が傾斜角の大きな第一分離部の斜面に突き当たるため、確実に分離される。そして、分離された最上位の媒体は、傾斜角が大きくても湾曲しつつ斜面に沿って送出方向へ確実に案内される。
【0015】
本発明のカセットでは、前記画像形成装置本体に対するカセットの挿抜に応じて、前記画像形成装置本体に設けられた動力出力部と接離しうる動力伝達機構を更に備え、該動力伝達機構は、カセット装着状態において前記動力出力部から入力する動力により前記第一トレイと前記第二トレイとを相対移動させることが好ましい。
【0016】
これによれば、画像形成装置本体にカセットを挿入(装着)すると、カセット側の動力伝達機構が、画像形成装置本体側の動力出力部と動力伝達可能に接続される。そして、動力出力部からの動力が動力伝達機構に入力されることにより、第一トレイと第二トレイが相対移動する。画像形成装置本体側からの動力を利用する構成であるので、カセット側に動力源等を設ける必要がなく、カセットを簡単な構成で済ませられる。
【0017】
本発明のカセットにおいては、前記動力出力部は、駆動歯車と、該駆動歯車を回転駆動させる動力を出力する動力源とを備え、前記動力伝達機構は、前記第一及び第二トレイのうち一方に設けられるとともにカセット装着状態において前記駆動歯車と噛合するピニオンと、他方に設けられるとともに前記ピニオンと噛合するラックとを備えることが好ましい。
【0018】
これによれば、カセットを画像形成装置本体に装着すると、ピニオンと駆動歯車が噛合する。この噛合を介して動力源からの動力がピニオンの回転力として入力され、ピニオンと噛合するラックが移動することにより、第一トレイと第二トレイが相対移動する。カセット側の動力伝達機構がラック・アンド・ピニオン機構なので、第一及び第二トレイを相対移動させるための動力伝達機構を簡単に構成できる。
【0019】
本発明は、画像形成装置であって、上記発明のカセットと、前記カセットを装着可能な被装着部を有する画像形成装置本体とを備えたことを要旨とする。
これによれば、上記発明のカセットを有することから、カセットの発明と同様の作用効果を得ることができる。
【0020】
本発明の画像形成装置では、前記画像形成装置本体には、前記被装着部に装着された前記カセット上の媒体を送り出し可能に駆動されるピックアップローラが設けられ、前記第一トレイと前記第二トレイは、カセット装着状態において、前記ピックアップローラが前記第一トレイ上に積載された媒体のうち最上位のものに当接する第一位置と、前記第二トレイ上に積載された媒体のうち最上位のものに当接する第二位置との間を相対移動可能に設けられ、前記第一トレイと前記第二トレイとの相対位置を前記第一位置と第二位置との間で切り換えることにより、前記ピックアップローラが媒体を給送するトレイが切り換えられることが好ましい。
【0021】
これによれば、第一トレイと第二トレイとの相対位置を第一位置と第二位置との間で切り換えることにより、ピックアップローラが媒体を給送するトレイが切り換えられる。よって、一つのカセットで複数種の媒体を給送できるうえ、複数種のうちどの媒体を給送する際にも、各トレイに個別に設けられた傾斜角の異なる分離部によって、媒体を適切に分離できかつ分離した媒体を送出方向へ適切に案内できる。
【0022】
本発明の画像形成装置では、前記カセットは前記動力伝達機構を有する構成のものであり、前記画像形成装置本体は、カセット装着状態において前記動力伝達機構と動力伝達可能に接続可能な動力出力部を更に備え、前記動力出力部から前記動力伝達機構に入力された動力により、前記第一トレイと第二トレイの相対位置が前記第一位置と第二位置との間で切り換えられることが好ましい。
【0023】
これによれば、画像形成装置本体側の動力出力部からの動力を利用して、カセットにおける第一トレイと第二トレイの相対位置の切り換えが行われる。よって、媒体を給送するトレイの切り換えを、手動操作することなく自動で行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図1〜図10に従って説明する。
図1は、本実施形態に係る画像形成装置としてのプリンタを示す斜視図である。図1に示すように、プリンタ11は、四角箱状の本体12を有しており、本体12の中央領域には、キャリッジ13が、図1における左右方向(主走査方向)に沿って延びるように架設されたガイド軸14に案内されて、主走査方向に往復移動自在に設けられている。
【0025】
図1に示すように、本体12の中央領域にはキャリッジ13と対向する下側位置に、長尺板状のプラテン15がその長手方向が主走査方向と平行となる状態で配置されている。プリンタ11の前面(図1における手前側の面)下部には、給紙用のカセット16が、前面側が開口するように本体12に形成された凹状の被装着部12Aに挿抜可能な状態で装着(挿入)されている。また、本体12の右端部前面を覆っているカバー12Bの内側には、複数個のインクカートリッジ17が装填されている。各インクカートリッジ17のインクは、フレキシブル配線板18に付設された図示しない複数本のインク供給チューブを通じてキャリッジ13にそれぞれ供給され、キャリッジ13の下部に設けられた印刷ヘッド19(図2に示す)からインク滴が噴射(吐出)される。なお、印刷ヘッド19には、インクを噴射させるための圧力をインクに付与する加圧素子(圧電素子、静電素子、発熱素子等)がノズル毎に内蔵され、加圧素子に所定の電圧が印加されることで対応するノズルからインク滴が噴射(吐出)される構成となっている。
【0026】
印刷時は、カセット16から給紙されてプラテン15上に位置する用紙に対して、キャリッジ13と共に主走査方向へ移動する過程の印刷ヘッド19からインク滴が噴射されることにより、1ライン分の印刷が施される。こうしてキャリッジ13の一走査による印字動作と、次行までの用紙搬送動作とが交互に繰り返されることにより、用紙に対する印刷が進められる。また、本体12の左端前面下部には、電源スイッチを含む各種の操作スイッチ20が設けられている。
【0027】
図2は、カセット装着状態における給紙機構の側断面図を示す。また、図3及び図4は、カセットの斜視図をそれぞれ示す。図2〜図4に示すように、カセット16は、大サイズ(例えばA4判)の用紙P1を収容可能な第一トレイ21と、小サイズ(例えばL判や2L判、ハガキサイズ)の用紙P2を収容可能な第二トレイ22とを有し、第一トレイ21の上側(用紙積載方向上側)に第二トレイ22が、カセット挿抜方向(図2における左右方向)に相対移動可能に取り付けられた二段構造に構成されている。
【0028】
図2におけるカセット16では、第二トレイ22が、第一トレイ21上に対して、カセット16をプリンタ11の被装着部12Aへ挿入する方向(以下、カセット挿入方向という)と反対側(カセット引き抜き方向)へ退避した退避位置に配置されている。図2に示すように、プリンタ11内には、被装着部12Aにセットされたカセット16の挿入先端側上方位置と対応する位置に、本体フレームに回動可能に支持されたレバー23の先端部に回転可能に設けられたピックアップローラ24が配置されている。レバー23は、ピックアップローラ24を用紙P1(又はP2)の上面に押し付ける方向へバネ26により付勢されている。
【0029】
第一トレイ21と第二トレイ22におけるカセット挿入方向先端位置には、積載された用紙P1,P2のうち給紙すべき最上位の一枚の用紙だけを下位(下層)の他の用紙から分離するための第一分離部としての分離部27及び第二分離部としての分離部28がそれぞれ上方へ向かって突設されている。分離部27,28は、トレイ上からピックアップローラ24により送り出される途中で用紙の先端が突き当たることが可能な所定角度の斜面27A,28Aを有している。
【0030】
図2に示すように、第一トレイ21の収容凹部21Aに積載された用紙P1の上面に当接する状態で、ピックアップローラ24が回転駆動されることにより、用紙P1が給紙方向(図2における左方向)と反対方向(図2における右方向)へ送り出される。この送り出される途中で用紙P1の先端が分離部27の斜面27Aに突き当たると、最上位の一枚の用紙だけが他の用紙から分離されるとともに、その分離された一枚の用紙P1が斜面27Aに沿って上方(送出方向)に案内され、給紙ガイド31と給紙ローラ32との間の導入口へ導入されるようになっている。
【0031】
給紙ガイド31は、後端側(図2における右端側)で用紙を反転できるように湾曲する板状をなして用紙の給送経路を形成している。ピックアップローラ24の回転によりトレイ(図2では第一トレイ21)上から後方へ送り出された用紙は、分離部27の斜面27Aに先端を突き当てることで下層の他の用紙から最上位の一枚だけが分離される。分離された用紙は分離部27の斜面27Aに案内されて上方の導入口へ導入され、さらに給紙ローラ32の回転により給紙ガイド31に沿って送られることで湾曲面の部分で反転し、反転後、後方から前方(図2における左方向)へ向かって搬送されて、一対の搬送ローラ33間にニップ(挟持)される。そして、一対の搬送ローラ33の回転によりプラテン15上へ搬送され、給紙される。そして、プラテン15上の用紙に対して印刷ヘッド19からインク滴が噴射されて印刷が施される。
【0032】
一方、レバー23の回動支点である回動軸25は、第二トレイ22の配置位置よりも高く位置している。第二トレイ22が、図2,図3に示す退避位置から、図4に示す給紙位置へ移動する過程で、第二トレイ22がレバー23を押し退けつつ給紙位置に配置された状態では、ピックアップローラ24が第二トレイ22上の用紙P2の上面へ乗り上げ、第二トレイ22上に積載された小サイズの用紙P2の上面を押し付けるように配置される。よって、第二トレイ22が給紙位置に配置された状態では、第二トレイ22上に積載された小サイズの用紙P2が、ピックアップローラ24の回転によって送出方向へ送り出される。そして、送り出された用紙P2の先端が分離部28の斜面28Aに突き当たって他の用紙(下層の用紙)と分離された後、給紙ローラ32によって給紙ガイド31の内面に沿って後側から前方向へ給紙される構成となっている。
【0033】
図2〜図4に示すように、第一トレイ21は、A4サイズより少し大きめでかつ上方側が開口する略四角箱状をなしており、A4サイズの用紙P1を収容可能な平面視四角形状の収容凹部21Aを内側に有している。第二トレイ22は、第一トレイ21と幅が略等しく、カセット挿抜方向(長手方向)の長さが、第一トレイ21の長手方向全長の半分より少し長く形成されている。第二トレイ22は、第一トレイ21と各々の手前側端面を揃える相対位置である図3に示す退避位置と、第一トレイ21と各々のカセット挿入方向側端面を揃える相対位置である図4に示す給紙位置との間で移動するように構成されている。このため、第二トレイ22が第一トレイ21に対して相対移動する範囲において、第二トレイ22が第一トレイの長手方向外側へはみ出すことがない。
【0034】
図5は、カセットの分解斜視図である。図5に示すように、カセット16は、第一トレイ21と、第二トレイ22とから構成される。さらに第二トレイ22は支持盤35及び回動蓋36との二部品から構成される。支持盤35及び回動蓋36のそれぞれの幅(カセット挿抜方向と直交する方向の幅)は、第一トレイ21の幅と略等しい。第二トレイ22は、支持盤35が第一トレイ21に対してカセット挿抜方向へスライド可能に取り付けられることにより、第一トレイ21と相対移動可能になっている。支持盤35の上面一端部に突設された一対の連結部37と、回動蓋36の端部から延出する一対の連結片38の軸部39とが回動可能に連結されることにより、回動蓋36は、支持盤35に対して軸部39を中心に上方側へ開閉するように回動可能となっている。
【0035】
このため、図4において、第一トレイ21の収容凹部21Aに用紙を補充するときに、回動蓋36を上方へ回動させることで、第一トレイ21に用紙を収容する際の開口面積が広く確保され、第一トレイ21への用紙の補充がし易くなっている。すなわち、カセット16を第一トレイ21と第二トレイ22との二段構成にしたことにより、第一トレイ21の上側半分以上が第二トレイ22に覆われるが、第二トレイ22を回動蓋36が回動可能な回動式に構成することで、第一トレイ21への用紙の補充をし易くしている。
【0036】
また、図5に示すように、第一トレイ21の一側部内面上部には、複数本のガイド部40が長手方向に沿って間欠的に延出形成されており、これら複数本のガイド部40と、その下方に対向する段部上端面とによって、凹状のレールガイド40A(但し、一方のサイドのもののみ図示)が形成されている。そして、支持盤35の両側部外側には、外方へ略垂直に突出する凸条よりなるレール部41(左側部側のもののみ図示)が形成されており、レール部41が、凹状のレールガイド40Aに係合することにより、第二トレイ22は第一トレイ21に対してカセット挿抜方向(図2における左右方向)にスライド可能に構成されている。なお、本実施形態では、凹状のレールガイド40A及びレール部41により、スライド機構が構成されている。
【0037】
また、支持盤35の右側部下端には、ラック42がカセット挿抜方向に沿って延びるように形成されている。ラック42は、第二トレイ22を第一トレイ21に対して相対移動させるための動力を伝達する動力伝達機構48(図6、図7に示す)の一部を構成している。
【0038】
図6は、動力伝達機構が見えるように示したカセットの側断面であり、同図(a)は第二トレイが退避位置(第一位置)に配置された状態、同図(b)が、第二トレイが給紙位置(第二位置)に配置された状態をそれぞれ示す。また、図7は、動力伝達機構を示す拡大図である。
【0039】
図6及び図7(a)に示すように、第一トレイ21の一側部にはその長手方向略中央部に、ピニオン43が第一トレイ21に対してカセット挿抜方向に変位可能な状態で支持されている。詳しくは、第一トレイ21の側部にはホルダ44がカセット挿抜方向に変位可能な状態で保持されており、ホルダ44のカセット挿入方向側先端部に凹設された軸受け凹部44Aに、ピニオン43の回転軸43Aが、回転が許容される状態で挿着されている。
【0040】
圧縮コイルバネ45は、ホルダ44の基底部(図6,図7(a))と、第一トレイ21側の支持部46との間に圧縮状態で配設され、その弾性力によりホルダ44をカセット挿入方向へ付勢している。このため、ピニオン43は、圧縮コイルバネ45の弾性力により、ラック42に噛合する状態でカセット挿入方向へ付勢されている。
【0041】
カセット16が被装着部12Aにセットされた状態において、ピニオン43は、プリンタ11内の対応位置に配置された駆動歯車47と噛合するように構成されている。よって、カセット16においてピニオン43のカセット挿入方向側の領域は、カセット装着時における駆動歯車47の配置スペースとして開放されている。なお、本実施形態では、ラック42及びピニオン43により動力伝達機構48が構成されている。
【0042】
駆動歯車47は、プリンタ11側に設けられた動力源としてのトレイ切換えモータ49(図9に示す)の駆動軸と、図示しない歯車群(輪列)を介して動力伝達可能に連結されている。第二トレイ22が図6(a)に示す退避位置に配置された状態において、トレイ切換えモータ49が正転駆動されて駆動歯車47が同図における反時計方向へ正転すると、ピニオン43が同図における時計方向に正転し、第二トレイ22が図6(a)に示す退避位置から、図6(b)に示す給紙位置へ移動する。また、第二トレイ22が図6(b)に示す給紙位置に配置された状態において、トレイ切換えモータ49が逆転駆動されて駆動歯車47が逆転すると、ピニオン43が逆転し、第二トレイ22が図6(b)に示す給紙位置から、図6(a)に示す退避位置へ移動するようになっている。
【0043】
図7に示すように、カセット16をプリンタ11にセットするときは、ピニオン43の歯部43Bと、駆動歯車47の歯部47Bとが噛み合うとは限らず、歯部43B,47Bの山同士が突き当たる場合がある。この場合、カセット16をストロークの最後まで押し込むと、突き当たった歯部43B,47B間に過度の負荷が加わって、歯部43B,47Bを破損する虞がある。しかし、本実施形態では、ピニオン43が、カセット挿抜方向(図7における左右方向)に変位可能に支持されるとともに、圧縮コイルバネ45の付勢力によってカセット挿入方向(図7における右方向)へ付勢されている。このため、カセット装着時に、図7(b)に示すように、ピニオン43の歯部43Bと駆動歯車47の歯部47Bの山同士が突き当たっても、ピニオン43が圧縮コイルバネ45の付勢力に抗してカセット挿入方向と反対の方向へ退避することで、突き当たった歯部43B,47B間に過度の負荷がかかることが回避される。そして、カセット16の装着後、ピニオン43と駆動歯車47のうち少なくとも一方が少し回転すると、圧縮コイルバネ45の付勢力により、図7(a)に示すように、両歯部43B,47Bが噛み合うことになる。
【0044】
また、ユーザが駆動歯車47の回転中にカセット16を抜き取っても、ピニオン43が圧縮コイルバネ45の付勢力に抗して退避することで、その抜き取りの際に、ピニオン43と駆動歯車47の両歯部43B,47B間に過度な負荷がかかることが回避される。
【0045】
図8は、カセットの一部破断した要部側面図である。図8に示すように、本実施形態では、第一トレイ21のカセット挿入方向先端部に突設された分離部27と、第二トレイ22のカセット挿入方向先端部に突設された分離部28との各斜面27A,28Aの傾斜角θ1,θ2を異ならせている。本実施形態においては、第一トレイ21の収容凹部21Aに収容される用紙として大サイズ(本例ではA4判)の「普通紙」が想定されている。一方、第二トレイ22の収容凹部22Aに収容される用紙として小サイズの「写真紙」(L判又は2L判)あるいは「ハガキ」を想定している。
【0046】
ここで、分離部27,28は、ピックアップローラ24により送り出された用紙の先端が、斜面27A,28Aに突き当たった際、最上位の用紙を下位の他の用紙から分離するための分離機能と、分離された最上位の一枚の用紙を斜面27A,28Aに沿って給紙ローラ32と給紙ガイド31間の導入口へ向かって上方へ案内する案内面機能とを有する。
【0047】
「普通紙」のように相対的に紙厚が薄く柔軟な用紙P1の場合、斜面27Aの傾斜角(斜面の角度勾配)が比較的小さいと、用紙P1の先端が斜面27Aに突き当たっても、最上位の用紙が下位の他の用紙から分離されにくい傾向がある。そして、分離しやすいように斜面27Aの傾斜角を比較的大きくしても、分離後の最上位の用紙は湾曲することで斜面27Aに沿って導入口側へ案内しやすい傾向にある。このため、比較的柔軟な「普通紙」などの用紙が使用される第一トレイ21については、分離部27の斜面27Aの傾斜角θ1を比較的大きな角度に設定している。
【0048】
一方、「写真紙」や「ハガキ」のように相対的に紙厚が厚く硬い用紙P2の場合、分離性がよいので、用紙P2の先端が突き当たる斜面28Aの傾斜角をさほど大きくしなくても分離できるものの、斜面28Aの傾斜角を大きくし過ぎると、分離後の最上位の用紙を斜面28Aに沿うように湾曲できず案内不能となる虞がある。このため、比較的硬い「写真紙」や「ハガキ」などの用紙P2が使用される第二トレイ22の分離部28における斜面28Aの傾斜角θ2を、比較的柔らかい「普通紙」などの用紙P1が使用される第一トレイ21の分離部27における斜面27Aの傾斜角θ1よりも相対的に小さく設定している(θ1>θ2)。
【0049】
また、本実施形態では、上記の点を考慮して、分離部27,28の材質も、第一トレイ21と第二トレイ22とで異ならせている。例えば、硬い用紙P2が使用される第二トレイ22の分離部28は、柔軟な用紙P1が使用される第一トレイ21の分離部27よりも、相対的に摩擦係数の小さな面を形成しやすい材質を使用している。材質の一例としては、硬い用紙P2が使用される第二トレイ22用の分離部28には、ポリアセタール(POM)樹脂、柔軟な用紙P1が使用される第一トレイ21用の分離部27には、ABS樹脂を挙げることができる。さらに少なくとも分離部28の斜面28Aは、その斜面28Aの摩擦係数を小さくするために鏡面研磨されている。なお、本実施形態において、第一分離部と第二分離部とで異なる斜面構造とは、斜面の傾斜角と摩擦係数を指す。もちろん、傾斜角と摩擦係数のうち少なくとも一方が異なれば足りる。
【0050】
また、下段の第一トレイ21に設けられた分離部27の高さ方向への突出長が長く、上段の第二トレイ22に設けられた分離部28の高さ方向への突出長が相対的に短くなっている。そして、カセット16を装着した際に、二つの分離部27,28の各上端位置は、図2に示す給紙ガイド31の導入口側下端と干渉しない程度のほぼ同じ高さに位置するようになっている。このため、給紙トレイとして第一トレイ21が選択されているとき(図3,図6(a)の状態)の分離部27も、給紙トレイとして第二トレイ22が選択されているとき(図4,図6(b))の分離部28も、共に上端位置が給紙ガイド31の導入口側下端近傍に位置し、各分離部27,28で分離された用紙P1,P2を斜面27A,28Aに沿って導入口側へ円滑に案内可能となっている。なお、第二トレイ22が退避位置に配置されたときの第一トレイと第二トレイとの相対位置が「第一位置」に相当し、一方、第二トレイ22が給紙位置に配置されたときの第一トレイと第二トレイとの相対位置が「第二位置」に相当する。
【0051】
図9は、プリンタの電気的構成を示すブロック図である。
プリンタ11は、例えばパーソナルコンピュータ(PC)などのホストコンピュータ60と通信可能に接続されて使用される。プリンタ11には、プリンタ11を統括制御するコントローラ50が内蔵されている。コントローラ50は、例えばCPU、ASIC(Application Specific IC(特定用途向けIC))、ROM、RAM、フラッシュメモリ(例えばEEPROM)等を内蔵し、ROMやフラッシュメモリから読み出したプログラムをCPUが実行することにより、プリンタ11における給紙動作、印字動作、紙送り動作などの制御を行う。コントローラ50には、操作スイッチ20、印刷ヘッド19、キャリッジモータ51、搬送モータ52、トレイ検出センサ54、トレイ切換用モータ49及び給紙モータ56が電気的に接続されている。
【0052】
コントローラ50は、ホストコンピュータ60から受信した印刷データを一時格納するバッファ58を備え、バッファ58から受け取った印刷データをコマンドとビットマップデータとに分けて、ビットマップデータに基づいて印刷ヘッド19を制御して印刷動作を行わせる。また、コントローラ50は、コマンドに従って、キャリッジモータ51や搬送モータ52を駆動制御することにより、印字動作や紙送り動作の制御を行う。コントローラ50は、給紙動作を行うときは給紙モータ56を駆動させ、給紙モータの駆動によってピックアップローラ24及び給紙ローラ32が用紙を送り出し可能な方向に回転駆動される。なお、給紙モータ56からの動力はレバー23の側部に設けられた歯車列を介してピックアップローラ24に伝達されるようになっている。
【0053】
ここで、プリンタ11が最初に受信した印刷データには、ホストコンピュータ60の入力装置(キーボードやマウス等)からユーザが入力設定した用紙種、用紙サイズの情報が含まれる。コントローラ50は、用紙種と用紙サイズの情報から、カセット16における第一トレイ21と第二トレイ22のうち用紙を給送すべき給紙トレイ(給送トレイ)を把握する。
【0054】
トレイ検出センサ54は、第二トレイ22が図3,図6(a)に示す退避位置と、図4,図6(b)に示す給紙位置とのどちらに位置するかを検出するセンサであり、各位置に応じた検出信号を出力する。コントローラ50は、第二トレイ22が退避位置にあるときの検出信号に基づいて給紙トレイが第一トレイ21であると把握し、第二トレイ22が給紙位置にあるときの検出信号に基づいて給紙トレイが第二トレイ22であると把握する。そして、コントローラ50は、現在選択されている給紙トレイと、指定用紙から決まる給紙トレイとが一致するか否かを判断し、一致しない場合は、指定用紙に応じたトレイを給紙トレイとして選択するようにトレイ切換え処理を行う。
【0055】
このトレイ切換え処理は、コントローラ50内のCPUが、図10にフローチャートで示すプログラムを実行することにより行われる。以下、トレイ切換え処理について説明する。CPUは印刷データを受信すると、まずステップS1で、カセット16において現在の給紙トレイが、第一トレイ21と第二トレイ22のうちどちらであるかを判別する。給紙トレイが第一トレイ21であれば、ステップS2に進んで、指定用紙が第一トレイ21の用紙であるか否かを判断する。例えば指定用紙が、用紙種「写真紙」かつ用紙サイズ「L判」であれば、第二トレイ22の用紙が選択されたと判断する。指定用紙が第二トレイ22の用紙である場合は、ステップS3に進んで、トレイ切換えモータ49を正転駆動させる。この結果、駆動歯車47の回転力がピニオン43に入力され、ピニオン43が正転することで、ラック42を介して伝達される動力によって、第二トレイ22が退避位置から給紙位置へ移動し、給紙トレイが第一トレイ21から第二トレイ22へ切り換えられる。一方、指定用紙が第二トレイ22の用紙でなければ、当該ルーチンを終了する。すなわち、給紙トレイが第一トレイ21である状態が維持される。
【0056】
給紙トレイが第一トレイ21である状態では、図2に示すように、ピックアップローラ24が第一トレイ21上の用紙P1の上面に当接し、給紙モータ56が駆動されて、ピックアップローラ24及び給紙ローラ32が回転することで、用紙P1のうち最上位の一枚が給紙される。この際、ピックアップローラ24により送り出された柔軟な用紙P1は、相対的に大きめの傾斜角θ1である分離部27の斜面27Aに先端が突き当たることで最上位の一枚が確実に分離されるとともに、給紙ローラ32と給紙ガイド31との間の導入口へ円滑に案内される。
【0057】
一方、ステップS1において、給紙トレイが第二トレイ22であると判断した場合は、ステップS4において、指定用紙が第一トレイ21の用紙であるか否かを判断する。例えば指定用紙が、用紙種「普通紙」かつ用紙サイズ「A4判」であれば、第一トレイ21の用紙が選択されたと判断する。指定用紙が第一トレイ21の用紙である場合は、ステップS5に進んで、トレイ切換えモータ49を逆転駆動させる。この結果、駆動歯車47の回転力がピニオン43に入力され、ピニオン43が逆転することで、ラック42を介して伝達される動力によって、第二トレイ22が給紙位置から退避位置へ移動し、給紙トレイが第二トレイ22から第一トレイ21へ切り換えられる。一方、指定用紙が第一トレイ21の用紙でなければ、当該ルーチンを終了する。すなわち、給紙トレイが第二トレイ22である状態が維持される。
【0058】
給紙トレイが第二トレイ22である図4,図6(b)の状態では、ピックアップローラ24が第二トレイ22上の用紙P2の上面に当接し、給紙モータ56が駆動されて、ピックアップローラ24及び給紙ローラ32が回転することで、用紙P2のうち最上位の一枚が給紙される。この際、ピックアップローラ24により送り出された硬い用紙P2は、相対的に小さめの傾斜角θ2である分離部27の斜面27Aに先端を突き当てることで最上位の一枚が確実に分離されるとともに、給紙ローラ32と給紙ガイド31との間の導入口へ円滑に案内される。
【0059】
以上詳述したように、本実施形態によれば、以下の効果が得られる。
(1)カセット16がプリンタ11の被装着部12Aにセットされた状態では、本体12側に設けられたトレイ切換えモータ49からの動力が駆動歯車47からピニオン43に入力され、そのピニオン43を介してカセット16側の動力伝達機構48に入力された動力によって、第一トレイ21と第二トレイ22とを相対移動させる。これにより、カセット16において、第一及び第二トレイ21,22間における給紙すべきトレイの切り換えが自動で行われる。よって、手動でトレイの切り換え操作を行う必要がない。また、カセット16がトレイ切換えモータ等の動力源を持つ必要がないので、カセット16を比較的簡単な構成とすることができる。
【0060】
(2)第一トレイ21と第二トレイ22とを相対移動させる動力伝達機構48として、ラック42とピニオン43からなるラック・アンド・ピニオン機構を採用しているので、カセット16の大型化を極力回避しつつトレイの自動切り換えを実現できる。
【0061】
(3)カセット16においてピニオン43のカセット挿入方向側の領域が開放されているので、カセット16をプリンタ11に装着した際、ピニオン43のカセット挿入方向側の開放スペースに、本体12側の駆動歯車47を配置させて、ピニオン43と駆動歯車47とを噛合させることができる。よって、ユーザはカセット16を被装着部12Aに挿入する通常の操作をするだけで、ピニオン43を駆動歯車47に噛合させることができ、カセット16側の動力伝達機構48を本体12側のトレイ切換えモータ49と動力伝達可能に接続するための余分な操作を伴わずに済む。
【0062】
(4)ピニオン43は第一トレイ21に対してカセット挿抜方向に変位可能に設けられるとともに、付勢手段としての圧縮コイルバネ45の弾性力によりカセット挿入方向へ付勢している。よって、カセット16をプリンタ11に装着する際、ピニオン43の歯部43Bが駆動歯車47の歯部47Bと噛み合わず突き当たった状態(図7(b)の状態)でカセット16を最後まで押し込んでも、ピニオン43が圧縮コイルバネ45の付勢力に抗してカセット挿入方向と反対の方向へ変位する。この結果、ピニオン43と駆動歯車47の歯部43B,47B間に大きな負荷がかかることを回避でき、歯部43B,47Bの破損等を防止できる。そして、ピニオン43と駆動歯車47のうち少なくとも一方が少し回転すれば、圧縮コイルバネ45で付勢されているため、ピニオン43の歯部43Bと駆動歯車47の歯部47Bとを確実に噛み合わせることができる。
【0063】
(5)相対的に小サイズで紙厚が厚く硬い用紙P2が収容される第二トレイ22に設けられた分離部28の斜面28Aの傾斜角θ2を、大サイズで紙厚が薄く柔軟な用紙P1が収容される第一トレイ21に設けられた分離部27の斜面27Aの傾斜角θ1より小さく設定した。よって、第一トレイ21が給紙トレイとして選択されているときに、第一トレイ21に収容したA4判・普通紙などの柔軟な用紙P1を分離部27の斜面27Aによって確実に分離しかつ斜面27Aに沿って上方の給紙ローラ32側の導入口へ円滑に案内できる。一方、第二トレイ22が給紙トレイとして選択されているときに、第二トレイ22に収容した写真紙やハガキなどの比較的硬い用紙P2を分離部28の斜面28Aによって確実に分離しかつ斜面28Aに沿って上方の給紙ローラ32側の導入口へ円滑に案内できる。
【0064】
(6)第一トレイ21上をこれより小さな第二トレイ22が相対移動する構成なので、第一トレイ21に対して第二トレイ22が最大移動した位置における第一トレイ21に対する第二トレイ22のはみ出し量を無くすことができる。よって、プリンタ11内におけるカセット収容スペースを比較的狭くすることができ、プリンタ11の小型化に寄与できる。
【0065】
なお、上記実施形態に限定されるものではなく、以下の構成を採用することもできる。
(変形例1)第一トレイと第二トレイとが相対移動可能な方向を、カセット挿抜方向と交差する方向とした構成も採用できる。要するに、媒体がピックアップローラ24により送り出されうる状態と送り出されない状態とに切り換えられるような相対移動が可能であれば足りる。
【0066】
(変形例2)第一トレイと第二トレイに加え、第三トレイを更に設けてもカセットを構成することもできる。この場合、第一〜第三トレイを三段に配置してもよいし、第二トレイと第三トレイを共に二段目に配置してもよい。二つのトレイを同じ段に配置する場合であっても、ピックアップローラ24が当接する媒体を切り換えられるようにトレイの切り換えが可能な適宜な構成を採用できる。例えば同じ段に配置された二つのトレイの移動方向が互いに直交する構成を挙げることができる。すなわち、一段目のトレイ上を一のトレイがカセット挿抜方向に相対移動し、他のトレイがカセット挿抜方向と直交する方向(幅方向)に相対移動する構成である。もちろん、カセットは、三トレイ構成にも限定されず、四トレイ以上の構成も採用できる。
【0067】
例えば三トレイ以上の場合は、ラック・アンド・ピニオン機構をトレイ間ごとに設け、各ピニオンと対応する複数の駆動歯車を本体側に設ける構成とする。また、複数のピニオンのうち動力の入力先のピニオンを選択切り換えできるクラッチ手段を設け、駆動歯車からの動力の入力先のピニオンをクラッチ手段の切り換えにより選択する構成も採用できる。さらに駆動歯車と噛み合うカセット側の従動歯車は一つのみとし、従動歯車が駆動されることにより、給送トレイが、第一トレイ、第二トレイ、第三トレイ、…と切り換わる動力伝達機構を採用することもできる。例えば各トレイの間に減速歯車機構を介在させることにより、トレイ間で移動速度を異ならせることにより、第一トレイ、第二トレイ、第三トレイ、…の順にトレイ上の用紙がピックアップローラと当接する位置に到達するようにする。なお、カセットを装着する向きは水平に限定されず、例えばカセットを縦向きに装着してもよい。
【0068】
(変形例3)前記実施形態では、コントローラ50が指定用紙を判断し、判定した用紙に対応するトレイが給紙トレイとして選択されるようにトレイの相対位置を切り換える制御を行ったが、例えばプリンタの本体に設けられたスイッチをユーザが操作することによりトレイ切換モータが駆動され、給紙トレイの切り換えが行われる構成も採用できる。
【0069】
(変形例4)カセットが備える複数のトレイを、大サイズの用紙が収容される大型トレイである第一トレイと、小サイズの用紙が収容される小型トレイである第二トレイとの組み合わせとしたが、例えば同じサイズの用紙が収容されるトレイの組み合わせとして構成することもできる。この場合、異なる種類の用紙を収容してもよいが、同じ種類の用紙を収容して、一方のトレイの用紙が無くなったときに他方のトレイの用紙が使用される構成とすることもできる。
【0070】
(変形例5)動力源は、トレイ切換えモータ49のようなカセット専用モータに限定されない。例えば給紙モータ56、キャリッジモータ51、搬送モータ52などの他のモータを、カセット16におけるトレイ駆動用の動力源として兼用する構成も採用できる。
【0071】
(変形例6)動力伝達機構はラック・アンド・ピニオンを備えた機構に限定されない。例えばベルト、ワイヤやチェーンを掛装するローラ、プーリやスプロケットを備え、ベルト方式、ワイヤ方式、チェーン方式によりトレイを移動させる動力伝達機構を採用することができる。すなわち、駆動歯車から動力伝達機構に入力された動力により、ベルト、ワイヤ又はチェーンを掛装するローラ、プーリ又はスプロケットが回転駆動すると、ベルト方式、ワイヤ方式又はチェーン方式により、第一トレイと第二トレイとが相対移動する構成である。
【0072】
(変形例7)前記実施形態では、画像形成装置の本体側に動力源を設けたが、カセット側に動力源を設けた構成も採用できる。この場合、カセットに設けられたコネクタが、カセット装着によって本体側のコネクタと電気的に接続され、例えば本体側のコントローラによりカセット側の動力源(トレイ切換えモータ)を駆動制御する構成も採用できる。
【0073】
(変形例8)画像形成装置はインクジェット式プリンタ(液体噴射装置)に限定されず、例えばドットインパクト式プリンタ、レーザー式プリンタ、熱転写記録式プリンタなどでもよい。また、画像形成装置は、シリアル式プリンタに限定されず、ラインプリンタに適用してもよい。さらに画像形成装置はプリンタに限定されず、スキャナでもよい。すなわち、スキャナ用のカセットに本発明を適用してもよい。スキャナの場合、原稿の画像を読み取って画像のデータを生成する処理が画像形成に相当する。
【0074】
以下、前記実施形態および各変形例から把握される技術的思想を記載する。
(1)前記画像形成装置にはピックアップローラが設けられ、前記カセットが前記画像形成装置本体に装着された状態では、前記第一トレイと前記第二トレイは、前記第一トレイ上の媒体が前記ピックアップローラと当接する第一位置と、前記第二トレイ内の媒体が前記ピックアップローラと当接する第二位置との間を相対移動することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載のカセット。
【0075】
(2)前記第一トレイと前記第二トレイは、媒体の積載方向に二段に配置され、前記第一トレイに対して前記第二トレイが移動可能に設けられていることを特徴とする請求項1乃至5及び前記技術的思想(1)のいずれか一項に記載のカセット。
【0076】
(3)前記ピニオンは、少なくともカセット挿入方向に変位可能に設けられるとともに、前記ピニオンをカセット挿入方向へ付勢する付勢手段を更に備えたことを特徴とする請求項5に記載のカセット。
【0077】
(4)前記動力伝達機構は動力を入力する入力ギヤ(43)を備え、該入力ギヤは、カセットが画像形成装置本体に装着された状態において、画像形成装置本体側の駆動歯車と噛み合うことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載のカセット。
【0078】
(5)請求項1乃至5のいずれか一項に記載のカセットにおいて、前記第一トレイと前記第二トレイは、カセット挿抜方向に相対移動可能に構成されていることを特徴とするカセット。
【0079】
(6)請求項1乃至5のいずれか一項に記載のカセットにおいて、前記第二トレイは、該第二トレイが前記第一トレイを覆う部分の一部を開放するように回動可能な回動蓋を有することを特徴とするカセット。
【0080】
(7)請求項7に記載の画像形成装置において、受け付けた画像形成指示情報に基づき指定された媒体サイズを判断し、前記第一トレイと前記第二トレイのうち媒体を給送すべき給送トレイとして選択されているトレイが、前記指定された媒体サイズに応じたトレイでないと判断すれば、前記指定された媒体サイズに応じたトレイが給送トレイとして選択される位置まで、前記第一トレイと前記第二トレイの相対位置を前記第一位置と前記第二位置間で切り換えるように前記動力源を駆動制御する制御手段(50)を更に備えたことを特徴とする画像形成装置。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本実施形態におけるプリンタの斜視図。
【図2】プリンタの給紙機構を示す模式側断面図。
【図3】第二トレイが退避位置にある状態のカセットを示す斜視図。
【図4】第二トレイが給紙位置にある状態のカセットの斜視図。
【図5】カセットの分解斜視図。
【図6】(a)第二トレイが退避位置にある状態のカセットを示す側断面図、(b)第二トレイが給紙位置にある状態のカセットを示す側断面図。
【図7】(a)(b)カセットの動力伝達機構を示す部分側断面図。
【図8】各トレイに設けられた分離部を示すカセットの部分側断面図。
【図9】プリンタの電気的構成を示すブロック図。
【図10】トレイ切換え処理を示すフローチャート。
【符号の説明】
【0082】
11…画像形成装置としてのプリンタ、12…画像形成装置本体としての本体、12A…被装着部、16…カセット、21…第一トレイ、22…第二トレイ、19…印刷ヘッド、23…レバー、24…ピックアップローラ、25…回動軸、27…第一分離部としての分離部、27A…斜面、28…第二分離部としての分離部、28A…斜面、42…動力伝達機構を構成するラック、43…動力伝達機構を構成するピニオン、44…ホルダ、45…付勢手段(弾性体)としての圧縮コイルバネ、46…支持部、47…動力出力部を構成する駆動歯車、48…動力伝達機構、49…動力出力部を構成するとともに動力源としてのトレイ切換モータ、50…コントローラ(制御手段)、56…給紙モータ、P1,P2…媒体としての用紙、θ1…傾斜角、θ2…傾斜角。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
画像形成装置本体に装着して使用されるとともに該画像形成装置本体に供給すべき媒体を積載状態で収容可能なカセットであって、
複数の媒体を収容可能な第一トレイと、
複数の媒体を収容可能な第二トレイと、
前記第一トレイと前記第二トレイとを相対移動可能とするスライド機構とを備え、
前記第一及び第二トレイには、送出途中の媒体の先端を突き当てて最上位の一の媒体を他の媒体から分離可能な斜面を有するとともに分離された媒体を前記斜面に沿って給送方向へ案内する第一及び第二分離部がそれぞれ設けられ、
前記第一トレイに設けられた前記第一分離部と前記第二トレイに設けられた前記第二分離部は、各々の斜面構造が異なることを特徴とするカセット。
【請求項2】
前記第一分離部と前記第二分離部は、各々の斜面の傾斜角が異なることを特徴とする請求項1に記載のカセット。
【請求項3】
前記第一分離部と前記第二分離部は、各々の斜面の摩擦係数が異なることを特徴とする請求項1又は2に記載のカセット。
【請求項4】
前記第二トレイは、前記第一トレイより収容可能な媒体のサイズの小さな小型のトレイであり、
前記第二分離部の斜面の傾斜角が前記第一分離部の斜面の傾斜角よりも小さく設定されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のカセット。
【請求項5】
前記第二トレイは、前記第一トレイに収容される媒体よりも硬い媒体が収容されるトレイであり、
前記第二分離部の斜面の傾斜角が前記第一分離部の斜面の傾斜角よりも小さく設定されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載のカセット。
【請求項6】
前記画像形成装置本体に対するカセットの挿抜に応じて、前記画像形成装置本体に設けられた動力出力部と接離しうる動力伝達機構を更に備え、該動力伝達機構は、カセット装着状態において前記動力出力部から入力する動力により前記第一トレイと前記第二トレイとを相対移動させることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載のカセット。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか一項に記載のカセットと、前記カセットを装着可能な被装着部を有する画像形成装置本体とを備えたことを特徴とする画像形成装置。
【請求項8】
前記画像形成装置本体には、前記被装着部に装着された前記カセット上の媒体を送り出し可能に駆動されるピックアップローラが設けられ、
前記第一トレイと前記第二トレイは、カセット装着状態において、前記ピックアップローラが前記第一トレイ上に積載された媒体のうち最上位のものに当接する第一位置と、前記第二トレイ上に積載された媒体のうち最上位のものに当接する第二位置との間を相対移動可能に設けられ、前記第一トレイと前記第二トレイとの相対位置を前記第一位置と第二位置との間で切り換えることにより、前記ピックアップローラが媒体を給送するトレイが切り換えられることを特徴とする請求項7に記載の画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−297053(P2008−297053A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−143664(P2007−143664)
【出願日】平成19年5月30日(2007.5.30)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】