説明

カチオン化ヒドロキシプロピルセルロースの製造方法

【課題】生産性が高く、かつ性能の発現に十分な量のカチオン基及びヒドロキシプロピル基が導入されたカチオン化ヒドロキシプロピルセルロースの製造方法を提供する。
【解決手段】低結晶性の粉末セルロースを該低結晶性の粉末セルロースに対し10〜60質量%の水、及び触媒の存在下、下記一般式(1)及び/又は(2)で表されるカチオン化剤、及び酸化プロピレンと反応させる、カチオン化ヒドロキシプロピルセルロースの製造方法。


(式中、R1〜R3は各々独立に炭素数1〜4の直鎖又は分岐鎖の炭化水素基を表し、X、Zは同一又は異なってハロゲン原子を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はカチオン性セルロース誘導体として有用な、カチオン化ヒドロキシプロピルセルロースの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カチオン化ヒドロキシアルキルセルロースを初めとするカチオン性セルロース誘導体は、シャンプーやリンス、トリートメント、コンディショナー等の洗浄剤組成物の配合成分や分散剤、改質剤、凝集剤等に用いられ、その用途は多岐にわたる。
このカチオン化ヒドロキシアルキルセルロースの製造方法としては、特許文献1及び2に、スラリー状態のヒドロキシアルキルセルロースを、グリシジルトリアルキルアンモニウム塩等のカチオン化剤でカチオン化する製造方法が開示されている。
更に特許文献3には、セルロースエーテルの誘導体化反応において、溶剤の使用量を低減し、セルロースエーテルをスラリーとせず粉末状態で反応を行うことで、溶剤の低減による生産性の向上のみならず、反応剤の反応効率を向上できることが開示されている。
また特許文献4には、低結晶性の粉末セルロースを、触媒の存在下、酸化プロピレンと反応させる、ヒドロキシプロピルセルロースの製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公昭45−20318号
【特許文献2】特公昭59−42681号
【特許文献3】特開2002−114801号
【特許文献4】特開2009−143997号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、生産性が高く、かつ水溶性に優れたカチオン化ヒドロキシプロピルセルロースの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、特許文献3及び4に記載の方法の準用によるカチオン化ヒドロキシプロピルセルロースの製造を検討したところ、反応時の水分量を特定の範囲に限定することで、反応が効率的に進行し、かつ水溶性に優れたカチオン化ヒドロキシプロピルセルロースを製造しうることを見出した。
【0006】
すなわち、本発明は、低結晶性の粉末セルロースを該低結晶性の粉末セルロースに対し10〜60質量%の水、及び触媒の存在下、下記一般式(1)及び/又は(2)で表されるカチオン化剤、及び酸化プロピレンと反応させる、カチオン化ヒドロキシプロピルセルロースの製造方法を提供する。
【0007】
【化1】

【0008】
(式中、R1〜R3は各々独立に炭素数1〜4の直鎖又は分岐鎖の炭化水素基を表し、X、Zは同一又は異なってハロゲン原子を表す。)
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、水溶性の高いカチオン化ヒドロキシプロピルセルロースを、高生産性かつ高反応効率で製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(低結晶性粉末セルロース)
一般にセルロースには幾つかの結晶構造が知られており、アモルファス部と結晶部とが共存することが知られている。一般的に知られている粉末セルロースにも極めて少量のアモルファス部が存在する。それらの結晶化の程度は、下記計算式(1)
結晶化指数=〔(I22.6−I18.5)/I22.6〕 (1)
〔I22.6は、X線回折における格子面(002面)(回折角2θ=22.6°)の回折強度、及びI18.5は、アモルファス部(回折角2θ=18.5°)の回折強度を示す〕
に、粉末X線結晶回折スペクトルから求められる数値を挿入することにより得られる結晶化指数により数値化できる。本指数は、結晶からアモルファスへの変化に伴うセルロースのI型結晶の002面におけるX線回折強度の変化を、その指標としている。従って、セルロース中に含まれる結晶形がI型のみであれば、理論上、結晶化指数は0〜1の値となるが、実際にはセルロース中には複数の結晶形が存在するため、I型以外の結晶も十分に破壊されアモルファス化されている場合は、負の値も採り得る。
【0011】
一般的に知られている粉末セルロースは、結晶化指数が概ね0.6〜0.8の範囲に含まれる、いわゆる結晶性のセルロースであり、セルロースエーテル合成における反応性は極めて低い。本発明における低結晶性粉末セルロースの低結晶性とは、上記のセルロースの結晶構造においてアモルファス部の割合が多い状態を示し、反応性の観点から、結晶化指数が−0.3〜0.5の範囲のものが好ましく、−0.3〜0.3の範囲のものが更に好ましく、−0.3〜0のものが特に好ましい。
【0012】
本発明で用いられる低結晶性の粉末セルロース(以後、「原料セルロース」ともいう)は、汎用原料として得られるシート状やロール状のセルロース純度の高いパルプ等のセルロース含有原料から簡便に調製することができる。低結晶性粉末セルロースを調製する方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、特許第4160109号公報に記載されているように、セルロースパルプシートを粗粉砕して得られるチップ状パルプを、押出機で処理して、更にボールミル等の粉砕機で処理することにより簡便に調製することができる。この方法では、分子量すなわち重合度が高く、かつ低結晶性である粉末セルロースを調製することが可能である。
【0013】
この方法に用いられる押出機としては、単軸又は二軸の押出機が挙げられ、強い圧縮せん断力を加える観点から、スクリューのいずれかの部分に、いわゆるニーディングディスク部を備えるものであってもよい。押出機を用いる処理方法としては、特に制限はないが、チップ状パルプを押出機に投入し、連続的に処理する方法が好ましい。
ボールミル等の粉砕機としては、公知の振動ボールミル、媒体攪拌ミル、転動ボールミル、遊星ボールミル等の他に、ロッドミルを用いることができる。媒体として用いるボール又はロッド等の材質に特に制限は無く、例えば、鉄、ステンレス、アルミナ、ジルコニア等が挙げられる。ボール又はロッド等の媒体の直径は、効率的にセルロースを非晶化させる観点から、好ましくは0.1〜100mm、より好ましくは0.5〜50mm、更に好ましくは1〜30mmである。媒体としては、チューブ状のものも用いることができる。ボール又はロッド等の媒体の充填率は、機種にもよるが、粉砕効率の観点から、通常10〜97体積%、好ましくは20〜90体積%である。ここで充填率とは、粉砕機の撹拌部の容積に対する媒体の見かけの体積をいう。
【0014】
セルロースの結晶化指数を効率的に低下させる観点から、ボールミル等の粉砕処理時間としては、5分〜72時間が好ましく、5分〜50時間がより好ましい。またこの処理の際の温度は、発生する熱によるセルロースの変性や劣化を最小限に抑えるためにも、5〜250℃の範囲が好ましく、5〜200℃の範囲がより好ましい。更に必要に応じて、窒素等の不活性ガス雰囲気下で処理を行うことが好ましい。
【0015】
本発明における原料セルロースの重合度としては、原料パルプや工業的に実施にする際の操作性の観点から100〜2000が好ましく、100〜1000がより好ましい。
原料セルロースの平均粒径は、粉体としての流動性の良い状態が保てるならば特に限定はされないが、300μm以下が好ましく、150μm以下がより好ましく、75μm以下が特に好ましい。但し、工業的に実施する際の操作性の観点からは、20μm以上が好ましく、25μmがより好ましい。
【0016】
<カチオン化剤および酸化プロピレンとの反応>
本発明の製造方法においては、特定の条件下、原料セルロースとカチオン化剤及び酸化プロピレンとの反応を行う。原料セルロースとカチオン化剤及び酸化プロピレンとの反応は同時に行っても良いし別個に行なっても良いが、各々の導入量を個別に管理するという観点からは別個に行なうことが好ましく、反応効率の観点から、まずカチオン化剤との反応を行い、その後、酸化プロピレンとの反応を行うことがより好ましい。
以下、カチオン化剤との反応(以下「カチオン化反応」とも言う)と酸化プロピレンとの反応(以下「ヒドロキシプロピル化反応」とも言う)に分けて説明する。また以下の説明において、カチオン化反応を行ったセルロースをカチオン化セルロースとも言い、ヒドロキシプロピル化反応を行なったセルロースをヒドロキシプロピルセルロース(HPC)とも言う。
【0017】
[カチオン化反応]
(カチオン化剤)
本発明におけるカチオン化剤は、上記一般式(1)または(2)で示される化合物である。
一般式(1)及び(2)において、R1〜R3は各々独立に炭素数1〜4の直鎖又は分岐鎖の炭化水素基を示すが、本発明の方法で製造されるカチオン化ヒドロキシプロピルセルロース(以後「C−HPC」とも言う)の水溶性の観点から、メチル基及びエチル基が好ましく、メチル基が特に好ましい。Xはハロゲン原子を表し、具体例としては、塩素、臭素及びヨウ素などが挙げられるが、本発明の方法で製造されるC−HPCの水溶性の観点から塩素または臭素が好ましく、塩素が特に好ましい。一般式(2)においてZはハロゲン原子を表すが、同様の観点から塩素又は臭素が好ましく、塩素が特に好ましい。カチオン化剤としては一般式(1)で示される化合物が、反応時に塩の生成がないことからより好ましい。
【0018】
前記一般式(1)及び(2)で表される化合物の具体例としては、グリシジルトリメチルアンモニウム、グリシジルトリエチルアンモニウム、グリシジルトリプロピルアンモニウムのそれぞれ塩化物、臭化物又はヨウ化物や、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウム、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルトリエチルアンモニウム、又は3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルトリプロピルアンモニウムのそれぞれ塩化物、3−ブロモ−2−ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウム、3−ブロモ−2−ヒドロキシプロピルトリエチルアンモニウム、又は3−ブロモ−2−ヒドロキシプロピルトリプロピルアンモニウムのそれぞれ臭化物や、3−ヨード−2−ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウム、3−ヨード−2−ヒドロキシプロピルトリエチルアンモニウム、又は3−ヨード−2−ヒドロキシプロピルトリプロピルアンモニウムのそれぞれヨウ化物などが挙げられる。
【0019】
これらのうち、グリシジルトリメチルアンモニウム若しくはグリシジルトリエチルアンモニウムのそれぞれ塩化物若しくは臭化物、又は3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウム若しくは3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルトリエチルアンモニウムのそれぞれ塩化物、若しくは3−ブロモ−2−ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウム、若しくは3−ブロモ−2−ヒドロキシプロピルトリエチルアンモニウムのそれぞれ臭化物が好ましく、グリシジルトリメチルアンモニウム塩化物又は3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウム塩化物がより好ましく、グリシジルトリメチルアンモニウム塩化物が特に好ましい。
これらカチオン化剤は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
これらカチオン化剤と原料セルロース、又はHPCとの反応により、下記一般式(3)又は(4)で示される4級アンモニウム塩置換プロピレンオキシ基(以下、「カチオン基」ということがある。)が、セルロース又はHPCに導入される。
【0020】
【化2】

【0021】
前記一般式(3)及び(4)中、R1〜R3及びXは、下記一般式(1)及び(2)におけるR1〜R3及びXと同じ意味を示す。
カチオン基は、原料セルロース又は本発明のHPCの一部または全部の水酸基の水素原子と置換しても良いし、既にセルロース又はHPCに結合したカチオン基の末端水酸基の水素原子と置換してもよい。一般式(3)又は(4)において、末端に存在する4級アンモニウム塩置換プロピレンオキシ基の酸素原子は、水素原子と結合し、水酸基となっている。
原料セルロースまたは本発明のHPCに導入されるカチオン基の、セルロース主鎖の構成無水グルコース単位あたりに対する平均付加モル数(以下「カチオン基の置換度」ともいう)は、本発明の製造方法で得られるC−HPCの性能の観点から、好ましくは0.01〜2.5、より好ましくは0.02〜1、更に好ましくは0.03〜0.6、特に好ましくは0.05〜0.4である。
カチオン化剤の使用量としては、上記所望のカチオン基の置換度になるよう適宜調整すればよいが、好ましくは原料セルロース又は本発明のHPC分子中の構成無水グルコース単位当たり0.01〜10モル倍であり、0.02〜4モル倍がより好ましく、0.03〜2.5モル倍が更に好ましく、0.05〜1モル倍とするのが特に好ましい。
【0022】
本発明のカチオン化剤を用いる際、高純度のカチオン化剤をそのまま添加しても良いが、操作性の観点から、水などの溶媒中に溶解して溶液の形で添加しても良い。
添加方法は、一括、分割、連続的添加またはこれらを組み合わせて行うことができるが、原料セルロース又は本発明のHPCに対し、カチオン化剤を均一に分散させて反応を行うために、原料セルロース又は本発明のHPCを攪拌しながら分割または連続的に添加を行うことが好ましい。
【0023】
(触媒)
カチオン化反応で用いる触媒としては、塩基又は酸触媒を用いることができる。
塩基触媒としては、水酸化ナトリウムや水酸化カリウム、水酸化リチウム等のアルカリ金属水酸化物、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等のアルカリ土類金属水酸化物、トリメチルアミンやトリエチルアミン、トリエチレンジアミン等の3級アミン類が挙げられる。酸触媒としては、ランタニドトリフラート等のルイス酸触媒等が挙げられる。
これらの中では、セルロースの重合度の低下が起こりにくいことから塩基触媒が好ましく、特にアルカリ金属水酸化物が好ましく、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが最も好ましい。これらの触媒は、1種又は2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0024】
触媒の使用量としては、原料セルロースまたは本発明のHPCおよびカチオン化剤の双方に対して触媒量で十分であり、具体的には、原料セルロース又は本発明のHPC分子中の構成無水グルコース単位当たり0.1〜50モル%が好ましく、更には1〜30モル%がより好ましく、5〜25モル%が特に好ましい。
【0025】
カチオン化剤として前記一般式(2)で表される化合物を用いる場合、反応に際し量論量のハロゲン化水素が生成することから、塩基を触媒に用いる場合には、上記の触媒の使用量に加え、更にカチオン化剤に対し量論量の塩基を添加することが好ましい。
添加する触媒の形状としては、高純度の触媒をそのまま添加しても良く、水などの溶媒中に溶解した溶液を添加しても良い。
【0026】
また触媒の添加方法も、一括、分割、連続的添加またはこれらを組み合わせて行うことができる。これらの内、触媒を原料セルロースまたは本発明のHPCに対し均一に分散させて反応を行うために、原料セルロースまたは本発明のHPCの攪拌を行いながら分割または連続的に添加することが好ましい。
またヒドロキシプロピル化反応をカチオン化反応に先立って行なった場合、ヒドロキシプロピル化反応終了後に触媒の中和や除去等を行なうことなく、ヒドロキシプロピル化反応で用いた触媒をそのままカチオン化反応で用いることもできる。塩の生成による精製負荷の増大を考慮すると、ヒドロキシプロピル化反応で用いた触媒をそのまま用いることが好ましい。
【0027】
(水分量)
本発明の製造方法においては、反応時の水分量の管理が重要である。反応時の水分量は反応速度に影響する。水分量は、原料セルロース又はカチオン化反応の原料に本発明のHPCを用いる場合には、ヒドロキシプロピル化反応の際に用いた原料セルロースに対し、10質量%以上の水の存在下に反応を行えば反応は速やかに進行する。一方反応時の水分量は、本発明の製造方法で得られるC−HPCの水溶性にも影響する。原料セルロース又はカチオン化反応の原料に本発明のHPCを用いる場合には、ヒドロキシプロピル化反応の際に用いた原料セルロースに対し、60質量%以下であれば、本発明の製造方法で得られるC−HPCの水溶性は良好である。
反応時の水分量は、上記の観点から12〜50質量%であることが好ましく、15〜30質量%であることがより好ましい。
【0028】
触媒及び/又はカチオン化剤が水溶液であって、反応開始時の反応系内の水分量が上記水分量範囲を越える場合には、減圧・昇温等、通常の脱水操作を行って、上記水分量範囲になる様調整する必要がある。これら脱水操作は、触媒及び/又はカチオン化剤水溶液の反応容器内への導入が終わった後に行っても良いが、これら水溶液の反応容器内への導入と同時に行っても良い。
【0029】
(非水溶媒)
上記水以外の非水溶媒は無くともカチオン化反応は進行するが、カチオン化剤や触媒の均一分散を目的として溶媒共存下に反応を行うことが出来る。
非水溶媒の使用量は、原料セルロース又はカチオン化反応の原料に本発明のHPCを用いる場合には、ヒドロキシプロピル化反応の際に用いた原料セルロースに対し、0〜40質量%であれば生産性が良いのみならず、原料セルロース又は本発明のHPCが粉末状態を維持できるため、効率の良い攪拌が可能で均一な反応が可能であり、かつ、カチオン化剤の分解や非水溶媒との副反応を抑え、効率の良いカチオン化が進行するため好ましい。0〜30質量%がより好ましく、0〜20質量%が特に好ましい。
【0030】
非水溶媒としては特に限定されないが、極性溶媒が好ましい。極性溶媒としては、イソプロパノール、イソブタノール、tert−ブタノール等の炭素数1〜5のアルコール;1,4−ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル系溶媒;ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミドなどの非プロトン性極性溶媒などが挙げられる。これらの内、カチオン化剤との副反応抑制という観点から、炭素数3〜5の2級または3級アルコール、エーテル系溶媒、非プロトン性極性溶媒が好ましい。
上記非水溶媒は、単独で又は2種以上を混合して用いることもできる。
【0031】
カチオン化反応において用いることのできる非水溶媒の種類、量、及びそれらの好ましい様態は、後述するヒドロキシプロピル化反応のものと同様である。よって、カチオン化反応に先立ってヒドロキシプロピル化反応を行った場合、ヒドロキシプロピル化反応の終了後、非水溶媒の除去及び追加を行なうことなく、そのままカチオン化反応の非水溶媒として用いることもできる。
【0032】
(反応装置)
カチオン化反応で用いられる反応装置としては、粉末状態である原料セルロース又は本発明のHPC、触媒及びカチオン化剤をできる限り均一に混合できるものが好ましく、この様な反応装置の具体例として、ミキサー、レディゲミキサー、ハイスピードミキサーやバーチカルグラニュレーター等の混合機の他、特開2002-114801号公報明細書段落〔0016〕で開示しているような、樹脂等の混錬に用いられる、いわゆるニーダー等の混合機が挙げられる。これらの内、レディゲミキサー及びニーダー型反応装置が特に好ましい。
【0033】
(反応操作・反応条件)
カチオン化反応において、原料セルロース又はHPC、カチオン化剤、触媒及び必要であれば水及び/又は非水溶媒の添加順序は特に限定されないが、原料セルロース又は本発明のHPCに触媒及び必要であれば水及び/又は非水溶媒を添加し、十分攪拌混合して触媒を均一に分散した後、カチオン化剤を添加することが好ましい。
カチオン化反応における反応温度は、反応速度、カチオン化剤の分解や本発明の製造方法により得られるC−HPCの着色抑制といった観点から、0〜100℃の範囲が好ましく、20〜90℃の範囲がより好ましく、40〜80℃の範囲が特に好ましい。
また、反応時の着色抑制の観点から、カチオン化反応は、窒素等の不活性ガス雰囲気下で行うのが好ましい。
【0034】
反応終了後は、必要に応じて触媒の中和、含水イソプロパノール、含水アセトン溶媒等での洗浄等といった精製操作を行って、カチオン化セルロース又はC−HPCを単離することもできる。カチオン化反応の後にヒドロキシプロピル化反応を行う場合、触媒及び非水溶媒は、カチオン化反応とヒドロキシプロピル化反応において同じであっても構わないことから、製造工程の簡便化を目的として、触媒の中和や触媒及び溶媒の精製・除去を省略し、そのままヒドロキシプロピル化反応を行ってもよい。
【0035】
[ヒドロキシプロピル化反応]
ヒドロキシプロピル化反応においては、原料セルロース又は本発明のカチオン化セルロースと酸化プロピレンとの反応により、下記一般式(5)又は(6)で示されるプロピレンオキシ基が、原料セルロース又は本発明のカチオン化セルロースに導入される。下記一般式(5)又は(6)で示されるプロピレンオキシ基は、セルロース又はカチオン化セルロースの一部または全部の水酸基の水素原子と置換しても良いし、既にセルロース又はカチオン化セルロースに結合したプロピレンオキシ基の末端水酸基の水素原子と置換してもよい。下記一般式(5)又は(6)において、末端に存在するプロピレンオキシ基の酸素原子は、水素原子と結合し、水酸基となっている。
【0036】
【化3】

【0037】
ヒドロキシプロピル化反応によりセルロース又はカチオン化セルロースに導入される前記一般式(5)又は(6)で示されるプロピレンオキシ基の、セルロース主鎖の構成無水グルコース単位あたりにおける平均付加モル数(以下「プロピレンオキシ基の置換度」とも言う)は、性能の発現に十分な量のプロピレンオキシ基を導入する観点から、好ましくは0.1〜5、より好ましくは0.5〜4、更に好ましくは0.8〜3である。
【0038】
酸化プロピレンの使用量としては、所望のプロピレンオキシ基の置換度により適宜調整すればよいが、本発明の製造方法で得られるC−HPCの性能の観点から、好ましくは原料セルロース又は本発明のカチオン化セルロース分子中の構成無水グルコース単位当たり0.1〜12モル倍であり、より好ましくは0.5〜10モル倍であり、1〜7モル倍とするのが更に好ましい。
【0039】
添加時の酸化プロピレンの形態としては、操作性の観点から、有機溶媒等に溶解して添加しても良いが、酸化プロピレンはヒドロキシプロピル化反応の反応条件において液体であり、そのまま添加することが好ましい。
酸化プロピレンの添加方法は、一括、分割、連続的添加、又はこれらを組み合わせることができるが、原料セルロース又は本発明のカチオン化セルロースに対し、酸化プロピレンを均一に分散させ、反応を行うために、原料セルロース又は本発明のカチオン化セルロースを攪拌しながら酸化プロピレンを分割または連続的に添加することが好ましい。
【0040】
(触媒)
ヒドロキシプロピル化反応で用いられる触媒の種類、形状、添加方法及びそれらの好ましい様態は、カチオン化反応で用いられる触媒の種類、形状、添加方法及びそれらの好ましい様態と同様である。
ヒドロキシプロピル化反応における触媒の使用量は、原料セルロース又は本発明のカチオン化セルロースおよび酸化プロピレンの双方に対して触媒量で十分であり、具体的には、原料セルロース又は本発明のカチオン化セルロース分子中の構成無水グルコース単位当たり0.1〜50モル%が好ましく、更には1〜30モル%がより好ましく、5〜25モル%が特に好ましい。
また上述したように、ヒドロキシプロピル化反応に先立ってカチオン化反応を行った場合で、かつカチオン化反応の終了後に触媒の中和及び除去操作を行わなかった場合は、触媒を新たに添加することなくヒドロキシプロピル化反応を行うことができる。
【0041】
(水分量)
ヒドロキシプロピル化反応時の水分量も、カチオン化反応時の水分量と同様に反応速度ならびに本発明で製造されるC−HPCの水溶性に影響するため、ヒドロキシプロピル化反応時においても水分量の管理は重要である。原料セルロース又はヒドロキシプロピル化反応の原料に本発明のカチオン化セルロースを用いる場合には、カチオン化反応の際に用いた原料セルロースに対し、10〜60質量%であれば、ヒドロキシプロピル化反応は速やかに進行し、かつ本発明の製造方法で得られるC−HPCの水溶性は良好である。
これらの観点からヒドロキシプロピル化反応時の水分量は、12〜50質量%であることが好ましく、15〜30質量%であることがより好ましい。
【0042】
触媒及び/又は酸化プロピレンが水溶液であって、反応開始時の反応系内の水分量が上記水分量範囲を越える場合には、減圧・昇温等、通常の脱水操作を行って、上記水分量範囲になる様調整する必要がある。これら脱水操作は、触媒及び/又は酸化プロピレン水溶液の反応容器内への導入が終わった後に行っても良いが、これら水溶液の反応容器内への導入と同時に行っても良い。
【0043】
(非水溶媒)
上記水以外の非水溶媒は無くともヒドロキシプロピル化反応は進行するが、酸化プロピレンや触媒の均一分散を目的として溶媒共存下に反応を行うことが出来る。
ヒドロキシプロピレンにおける非水溶媒の種類及びその好ましい様態は、カチオン化反応と同様である。
非水溶媒の使用量は、原料セルロース又はカチオン化反応の原料に本発明のHPCを用いる場合には、ヒドロキシプロピル化反応の際に用いた原料セルロースに対し、0〜40質量%であれば生産性が良いのみならず、原料セルロース又は本発明のHPCが粉末状態を維持できるため、効率の良い攪拌が可能で均一な反応が可能であり、かつ、カチオン化剤の分解や非水溶媒との副反応を抑え、効率の良いカチオン化が進行するため好ましい。0〜30質量%がより好ましく、0〜20質量%が特に好ましい。
【0044】
ヒドロキシプロピル化反応において用いることのできる非水溶媒の種類、量、及びそれらの好ましい様態は、前述したカチオン化反応のものと同様である。よって、ヒドロキシプロピル化反応に先立ってカチオン化反応を行った場合、カチオン化反応の終了後、非水溶媒の除去及び追加を行なうことなく、そのままヒドロキシプロピル化反応の非水溶媒として用いることもできる。
【0045】
(反応装置)
反応装置及びその好ましい様態については、原料に本発明のHPCではなく、本発明のカチオン化セルロースを用いる場合があることを除き、カチオン化反応と同じである。
(反応操作・反応条件)
ヒドロキシプロピル化反応において、原料の添加順序、反応温度、反応後の洗浄・精製などの処理、及びそれらの好ましい様態は、カチオン化剤の代わりに酸化プロピレンを用いることを除き、カチオン化反応と同じである。
また、反応時の着色抑制の観点から、ヒドロキシプロピル化反応は、窒素等の不活性ガス雰囲気下で行うのが好ましい。
【0046】
<カチオン化ヒドロキシプロピルセルロースの応用分野>
本発明の製造方法によれば、所望の置換度のカチオン性基及びプロピレンオキシ基を導入し、かつ水溶性に優れたカチオン化ヒドロキシプロピルセルロースの製造が可能であり、得られたカチオン化ヒドロキシプロピルセルロースはシャンプーやリンス、トリートメント、コンディショナー等の洗浄剤組成物の配合成分や分散剤、改質剤、凝集剤等の幅広い分野で利用することができる。
【実施例】
【0047】
以下において、「%」は特に断らない限り質量%を意味する。実施例において行った測定法の詳細を以下に纏めて示す。
(1)水分含量の測定
水分含量は、赤外線水分計(株式会社ケット科学研究所製、「FD−610」)を使用し、120℃にて測定を行った。
(2)結晶化指数の算出
セルロースI型結晶化指数は、サンプルのX線回折強度を、株式会社リガク製の「Rigaku RINT 2500VC X−RAY diffractometer」を用いて以下の条件で測定し、前記計算式(1)に基づいて算出した。
測定条件は、X線源:Cu/Kα−radiation,管電圧40kV,管電流:120mA, 測定範囲:2θ=5〜45°,X線のスキャンスピード:10°/minで測定した。測定用のサンプルは面積320mm2x厚さ1mmのペレットを圧縮し作製した。
【0048】
(3)セルロースの平均重合度測定法;銅−アンモニア法
(溶液の調製)
メスフラスコ(100mL)に塩化第一銅0.5g、25%アンモニア水20〜30mLを加え、完全に溶解した後に、水酸化第二銅1.0g、及び25%アンモニア水を加えて標線の一寸手前までの量とした。これを30〜40分撹拌して、完全に溶解した。この後に測定サンプルとして20〜500mgのセルロースを加え、標線まで上記アンモニア水を満たした。空気の入らないように密封し、12時間、マグネチックスターラーで撹拌して溶解した。用いた測定サンプルは、105℃で3時間減圧乾燥して、その固形分を算出した。
【0049】
(粘度計による測定)
得られた銅アンモニア水溶液をウベローデ粘度計に入れ、恒温槽(20±0.1℃)中で1時間静置したのち、液の流下速度を測定した。種々の試料濃度(g/L)の銅アンモニア溶液の流下時間(t(秒))と試料無添加の銅アンモニア水溶液の流下時間(t0(秒))から、下記式に示した相対粘度ηrを求めた。
ηr=t/t0
次に、それぞれの濃度における還元粘度(ηsp/c)を以下の式より求めた。
ηsp/c=(ηr−1)/c
(c:試料濃度(g/dL)
更に、還元粘度をc=0に外挿して固有粘度[η]を求め、以下の式より粘度平均重合度(DP)を求めた。
DP=2000×[η]
【0050】
(4)平均粒径の測定
平均粒径は、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置「LA−920」(株式会社堀場製作所製)を用いて測定した。測定条件は、粒径測定前に超音波で1分間処理し、測定時の分散媒体として水を用い、体積基準のメジアン径を、温度25℃にて測定した。
(5)置換基の導入量の算出
〔カチオン基の置換度〕
カチオン基の置換度は、元素分析による塩素元素量の測定値から求めた。
〔プロピレンオキシ基の置換度〕
プロピレンオキシ基の置換度は、分析対象がヒドロキシプロピルセルロースではないことを除き、日本薬局方に記載のヒドロキシプロピルセルロースの分析法に従って求めた。
【0051】
(6)水可溶分率の算出
試料(1.00g)を100mLメスフラスコに秤量し、イオン交換水を加えて12時間マグネチックスターラーで撹拌して溶解させた。このうち50mlを遠沈管に移し、3000rpm(2000×g)で20分間遠心分離を行った。上澄み液10mlを減圧乾燥(105℃、3時間)して固形分を求め、下記式により水可溶分率を算出した。
水可溶分率(%)=(上澄み液10mL中の固形分質量(g)×10/試料質量)×100
【0052】
製造例1(低結晶性の粉末セルロースの製造)
シート状木材パルプ(ボレガード社製、結晶化指数0.74、水分含量7%)をシュレッダー(株式会社明光商会製、「MSX2000−IVP440F」)にかけてチップ状にした。
次に、得られたチップ状のパルプを二軸押出機(株式会社スエヒロEPM製、「EA−20」)に2kg/hrで投入し、せん断速度660sec-1、スクリュー回転数300rpm、外部から冷却水を流しながら、1パス処理し粉末状にした。
次に、得られた粉末セルロース100g(水分含量7%)を、バッチ式媒体攪拌ミル(日本コークス工業株式会社製「アトライタMA01D」:容器容積800mL、φ1/4インチSUS304製ボールを1440g充填、充填率23%、攪拌翼径65mm)に投入した。容器ジャケットに冷却水を通しながら、攪拌回転数555rpm、温度30〜70℃の範囲で、7時間粉砕処理を行い、低結晶性の粉末セルロース(結晶化指数−0.15、重合度556、平均粒径30μm、水分含量7%)を得た。
【0053】
製造例2(低結晶性の粉末セルロースの製造)
シート状木材パルプ(テンベック社製、結晶化指数0.76、水分含量7%)をシュレッダー(株式会社明光商会製、「MSX2000−IVP440F」)にかけてチップ状にした。その後、50℃減圧下で12時間乾燥処理を行い、チップ状の乾燥パルプ(水分含量0.4%)を得た。
次に、得られたチップ状の乾燥パルプ100gを、バッチ式振動ミル(中央化工機株式会社製「MB−1」:容器全容積3.5L、ロッドとして、φ30mm、長さ218mm、断面形状が円形のSUS304製ロッド13本、充填率57%)に投入した。振動数20Hz,全振幅8mm,温度30〜70℃の範囲で1時間粉砕処理を行い、低結晶性の粉末セルロース(結晶化指数−0.20、重合度740、平均粒径52μm、水分含量1%)を得た。
製造例3(低結晶性の粉末セルロースの製造)
チップ状にした後、50℃減圧下での乾燥処理を行なわなかったことを除き、製造例2と同様にして低結晶性の粉末セルロース(結晶化指数0、重合度732、平均粒径55μm、水分含量7%)を得た。
【0054】
実施例1
(工程(I):カチオン化反応)
還流管を取り付けた1Lニーダー(株式会社入江商会製、PNV−1型)に、前記製造例2で得られた低結晶性の粉末セルロース(結晶化指数−0.20、重合度740、平均粒径52μm、水分含量1%)100gを仕込み、次に48%水酸化ナトリウム水溶液10.2g(NaOH量 0.12mol)を滴下しながら加え、窒素雰囲気下3時間撹拌した。その後、ニーダーを温水により70℃に加温し、カチオン化剤としてグリシジルトリメチルアンモニウムクロリド(以下、「GMAC」とも言う。阪本薬品工業株式会社製、含水量20%、純度90%以上)の含水量を38.5%に調整したGMAC水溶液33.5gを2時間で滴下した。反応系内の水分量は原料セルロースに対して19.5%(原料仕込み量からの計算値(以下「計算値」とも言う);19.4%)であった。その後、更に70℃で3時間撹拌したところ、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)分析によりカチオン化剤は全て消費されていた。
【0055】
〔工程(II):ヒドロキシプロピル化反応(1回目)〕
次に70℃に加温したまま、酸化プロピレン88.6g(1.53mol、関東化学株式会社製、特級試薬)を滴下して、酸化プロピレンが消費され還流が止むまで25時間反応を行った。酸化プロピレン滴下前の反応系内の水分量は、原料セルロースに対して19.5%であった。その後、生成物をニーダーから取り出し、薄褐色のカチオン化ヒドロキシプロピルセルロース粉末215gを得た。この反応終了品10.0gを採取して酢酸で中和し、薄褐色固体を得た。その後酢酸で中和し、薄褐色固体を得た。生成物を透析膜(分画分子量1000)により精製後、水溶液の凍結乾燥を行い、精製カチオン化ヒドロキシプロピルセルロースを得た。
【0056】
元素分析の結果、塩素元素含有量は2.00%であった。またヒドロキシプロピルセルロースの分析法による、プロピレンオキシ基〔分子量(C36O)=58.08〕含有量は46.4%であった。カチオン基、プロピレンオキシ基の置換度は、それぞれ0.16、1.80となり、セルロースへの反応選択率はそれぞれ80%(カチオン化剤基準)、72%(酸化プロピレン基準)であった。また得られたC−HPCの水可溶分率は67%であった。
【0057】
〔工程(II):ヒドロキシプロピル化反応(2回目)〕
次に上記ヒドロキシプロピル化反応(1回目)で得られたカチオン化ヒドロキシプロピルセルロース粉末(未中和、未精製)200gを再び70℃に加温して、酸化プロピレン27.0g(0.47mol、関東化学株式会社製、特級試薬)を滴下して、酸化プロピレンが消費され還流が止むまで5時間反応を行った。酸化プロピレン滴下前の反応系内の水分量は、原料セルロースに対して19.0%であった。その後、生成物をニーダーから取り出し、薄褐色のカチオン化ヒドロキシプロピルセルロース粉末222gを得た。
生成物を透析膜(分画分子量1000)により精製後、水溶液の凍結乾燥を行い精製C−HPCを得た。元素分析の結果、塩素元素含有量は1.80%であった。またヒドロキシプロピルセルロースの分析法による、プロピレンオキシ基含有量は54.0%であった。カチオン基、プロピレンオキシ基の置換度は、それぞれ0.16、2.30となり、セルロースへの反応選択率はそれぞれ80%(カチオン化剤基準)、70%(酸化プロピレン基準)であった。また得られたC−HPCの水可溶分率は70%であった。結果を表1に示す。
【0058】
実施例2
(工程(I):カチオン化反応)
カチオン化剤としてGMACの含水量を81%に調整した水溶液54.2gを用いたこと以外は実施例1と同様にカチオン化反応を行ったところ、HPLC分析によりカチオン化剤は全て消費されていた。GMAC水溶液滴下後の反応系内の水分量は原料セルロースに対して50.0%(計算値50.7%)であった。
【0059】
〔工程(II):ヒドロキシプロピル化反応(1回目)〕
次に70℃に加温したまま、酸化プロピレン106.3g(1.83mol)を滴下して、酸化プロピレンが消費され還流が止むまで16時間反応を行った。酸化プロピレン滴下前の反応系内の水分量は、原料セルロースに対して50.0%であった。その後、生成物をニーダーから取り出し、薄褐色のカチオン化ヒドロキシプロピルセルロース粉末239gを得た。この反応終了品10.0gを採取して酢酸で中和し、薄褐色固体を得た。生成物を透析膜(分画分子量1000)により精製後、水溶液の凍結乾燥を行い精製C−HPCを得た。元素分析の結果、塩素元素含有量は0.90%であった。またヒドロキシプロピルセルロースの分析法による、プロピレンオキシ基含有量は43.5%であった。カチオン基、プロピレンオキシ基の置換度は、それぞれ0.07、1.50となり、セルロースへの反応選択率はそれぞれ70%(カチオン化剤基準)、50%(酸化プロピレン基準)であった。また得られたC−HPCの水可溶分率は、36%であった。
【0060】
〔工程(II):ヒドロキシプロピル化反応(2回目)〕
次に上記実施例2のヒドロキシプロピル化反応(1回目)で得られたカチオン化ヒドロキシプロピルセルロース粉末(未中和、未精製)229gを再び70℃に加温して、酸化プロピレン68.0g(1.17mol)を滴下して、酸化プロピレンが消費され還流が止むまで12時間反応を行った。酸化プロピレン滴下前の反応系内の水分量は、原料セルロースに対して45.0%であった。その後、生成物をニーダーから取り出し、薄褐色のカチオン化ヒドロキシプロピルセルロース粉末283gを得た。生成物を透析膜(分画分子量1000)により精製後、水溶液の凍結乾燥を行い精製C−HPCを得た。元素分析の結果、塩素元素含有量は0.72%であった。またヒドロキシプロピルセルロースの分析法による、プロピレンオキシ基含有量は54.6%であった。カチオン基、プロピレンオキシ基の置換度は、それぞれ0.07、2.15となり、セルロースへの反応選択率はそれぞれ70%(カチオン化剤基準)、43%(酸化プロピレン基準)であった。また得られたC−HPCの水可溶分率は39%であった。結果を表1に示す。
【0061】
実施例3
(工程(I):カチオン化反応)
カチオン化剤としてGMACの含水量を45%に調整した水溶液18.7gを用いたこと以外は実施例1と同様にカチオン化反応を行ったところ、HPLC分析によりカチオン化剤は全て消費されていた。GMAC水溶液滴下後の反応系内の水分量は原料セルロースに対して15.0%(計算値14.9%)であった.
【0062】
(工程(II):ヒドロキシプロピル化反応)
次に70℃に加温したまま、酸化プロピレン106.3g(1.83mol)を滴下して、酸化プロピレンが消費され還流が止むまで23時間反応を行った。酸化プロピレン滴下前の反応系内の水分量は、原料セルロースに対して15.0%であった。その後酢酸で中和し、薄褐色固体を得た。生成物を透析膜(分画分子量1000)により精製後、水溶液の凍結乾燥を行い、精製C−HPCを得た。元素分析の結果、塩素元素含有量は1.00%であった。またヒドロキシプロピルセルロースの分析法による、プロピレンオキシ基含有量は54.6%であった。カチオン基、プロピレンオキシ基の置換度は、それぞれ0.09、2.20となり、セルロースへの反応選択率はそれぞれ90%(カチオン化剤基準)、73%(酸化プロピレン基準)であった。また得られたC−HPCの水可溶分率は、57%であった。結果を表1に示す。
【0063】
実施例4
(工程(I):カチオン化反応)
カチオン化剤としてGMACの含水量を38%に調整した水溶液16.6gを用いたこと以外は実施例1と同様にカチオン化反応を行ったところ、HPLC分析によりカチオン化剤は全て消費されていた。GMAC水溶液滴下後の反応系内の水分量は、原料セルロースに対して12.5%(計算値12.7%)であった。
【0064】
(工程(II):ヒドロキシプロピル化反応)
次に70℃に加温したまま、酸化プロピレン106.3g(1.83mol)を滴下して、酸化プロピレンが消費され還流が止むまで18時間反応を行った。酸化プロピレン滴下前の反応系内の水分量は、原料セルロースに対して12.5%であった。その後酢酸で中和し、薄褐色固体を得た。生成物を透析膜(分画分子量1000)により精製後、水溶液の凍結乾燥を行い精製C−HPCを得た。元素分析による塩素元素含有量は1.00%であった。またヒドロキシプロピルセルロースの分析法による、プロピレンオキシ基含有量は58.5%であった。カチオン基、プロピレンオキシ基の置換度は、それぞれ0.09、2.50となり、セルロースへの反応選択率はそれぞれ80%(カチオン化剤基準)、83%(酸化プロピレン基準)であった。また得られたC−HPCの水可溶分率は、60%であった。結果を表1に示す。
【0065】
実施例5
(工程(I):ヒドロキシプロピル化反応)
還流管を取り付けた1Lニーダー(株式会社入江商会製、PNV−1型)に、前記製造例1で得られた低結晶性の粉末セルロース(結晶化指数−0.15、重合度556、平均粒径30μm、水分含量7%)100gを仕込み、次に48%水酸化ナトリウム水溶液9.6g(NaOH量 0.11mol)を滴下しながら加え、更にtert−ブチルアルコール4.7g(5%対セルロース、関東化学株式会社製、特級試薬)を、窒素雰囲気下2時間撹拌した。その後、ニーダーを温水により70℃に加温し、酸化プロピレン83g(1.43mol)を滴下して、酸化プロピレンが消費され還流が止むまで20時間反応を行った。反応系内の水分量は、原料セルロースに対し、原料の仕込み量を基にした計算値として12.9%である。
【0066】
(工程(II):カチオン化反応)
次に、上記で得られたヒドロキシプロピルセルロースにカチオン化剤として実施例1で用いたGMAC水溶液(含水量38.5%)33.5gを2時間で滴下した。GMAC水溶液滴下後の系内水分量は、原料セルロースに対し、原料の仕込み量を基にした計算値として26.8%である。その後、更に70℃で3時間撹拌したところ、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)分析によりカチオン化剤は全て消費されていた。その後酢酸で中和し、薄褐色固体を得た。生成物を透析膜(分画分子量1000)により精製後、水溶液の凍結乾燥を行い、精製C−HPCを得た。元素分析による塩素元素含有量は0.65%であった。またヒドロキシプロピルセルロースの分析法による、プロピレンオキシ基含有量は57.0%であった。カチオン基、プロピレンオキシ基の置換度は、それぞれ0.06、2.3となり、セルロースへの反応選択率はそれぞれ16%(カチオン化剤基準)、92%(酸化プロピレン基準)であった。また得られたC−HPCの水可溶分率は、70%であった。結果を表1に示す。
【0067】
比較例1
(工程(I):カチオン化反応)
カチオン化剤としてGMACの含水量を78%に調整した水溶液93.6gを用いたこと以外は実施例1と同様にカチオン化反応を行ったところ、HPLC分析によりカチオン化剤は全て消費されていた。GMAC水溶液滴下後の反応系内の水分量は原料セルロースに対して80.0%(計算値80.1%)であった。
【0068】
(工程(II):ヒドロキシプロピル化反応)
次に70℃に加温したまま、酸化プロピレン212.7g(3.67mol)を滴下して、酸化プロピレンが消費され還流が止むまで12時間反応を行った。酸化プロピレン滴下前の反応系内の水分量は、原料セルロースに対して80.0%であった。その後酢酸で中和し、薄褐色固体を得た。生成物を透析膜(分画分子量1000)により精製後、水溶液の凍結乾燥を行い、精製C−HPCを得た。元素分析による塩素元素含有量は0.30%であった。またヒドロキシプロピルセルロースの分析法による、プロピレンオキシ基含有量は45.6%であった。カチオン基、プロピレンオキシ基の置換度は、それぞれ0.02、1.55となり、セルロースへの反応選択率はそれぞれ10%(カチオン化剤基準)、24%(酸化プロピレン基準)であった。また得られたC−HPCの水可溶分率は、20%であった。結果を表1に示す。
【0069】
比較例2
(工程(I):カチオン化反応)
カチオン化剤としてGMAC(含水量20%)12.9gを用いたこと以外は実施例1と同様にカチオン化反応を行ったところ、HPLC分析によりカチオン化剤は全て消費されていた。GMAC水溶液滴下後の反応系内の水分量は、原料セルロースに対して9.0%(計算値9.0%)であった。
【0070】
(工程(II):ヒドロキシプロピル化反応)
次に70℃に加温したまま、酸化プロピレン17.7g(0.31mol)を滴下して、還流下12時間反応を行った。酸化プロピレン滴下前の反応系内の水分量は、原料セルロースに対して9.0%であった。12時間後も還流が止まなかったが、室温まで冷却後酢酸で中和し、薄褐色固体を得た。生成物を透析膜(分画分子量1000)により精製後、水溶液の凍結乾燥を行い白色のセルロース固体を得た。元素分析による塩素元素含有量は、1.80%であった。またヒドロキシプロピルセルロースの分析法による、プロピレンオキシ基含有量は1.0%であった。カチオン基、プロピレンオキシ基の置換度は、それぞれ0.09、0.02であった。セルロースへの反応選択率はそれぞれ90%(カチオン化剤基準)、2%(酸化プロピレン基準)であった。また得られたC−HPCの水可溶分率は、10%であった。結果を表1に示す。
【0071】
【表1】

【0072】
表1から、実施例1〜5で得られたカチオン化ヒドロキシプロピルセルロースは、比較例1〜2に比べて、水分可溶率が高く、性能の発現に十分な量のカチオン基及びヒドロキシプロピル基が導入されていることが分かる。このため、本発明により得られるカチオン化ヒドロキシプロピルセルロースは、シャンプーやリンス、トリートメント、コンディショナー等の洗浄剤組成物の配合成分や分散剤、改質剤、凝集剤等に好適に使用することができる。
【0073】
以下の実施例6,7及び比較例3においては、反応時の水分量がヒドロキシプロピル化の反応速度に及ぼす影響を評価するため、反応時の水分量が異なる各系において、密閉反応装置内でヒドロキシプロピル化反応を行い、酸化プロピレンが消費され、系内圧力が0.01MPaに到達するのに必要な時間を測定した。
【0074】
実施例6
(工程(I):カチオン化反応)
セルロース原料として、前記製造例3で得られた低結晶性の粉末セルロース(結晶化指数0、重合度730、平均粒径55μm、水分含量7%)100g、触媒として、48%水酸化ナトリウム水溶液9.3g(NaOH量0.11mol)、及びカチオン化剤としてGMACの含水量を30%に調製した水溶液27.3gを用いたこと以外は実施例1と同様にカチオン化反応を行ったところ、HPLC分析によりカチオン化剤は全て消費されていた。GMAC水溶液滴下後の反応系内の水分量は、原料セルロースに対して21.8%(計算値21.5%)であった。
【0075】
(工程(II):ヒドロキシプロピル化反応)
次に上記の反応で得られたカチオン化セルロース(水分含量21.8%対セルロース)120.0gを密閉反応装置(日東高圧株式会社製1.5Lオートクレーブ)に加え、窒素で反応容器内を置換した。次いで、酸化プロピレン14.6g(0.25mol)を注入し、撹拌しながら70℃に昇温、容器内の圧力が0.22MPaまで上昇した。その後、容器内の圧力が0.01MPa以下まで減少するのに1.5時間を要した。室温まで冷却後、再度、酸化プロピレン14.6g(0.25mol)を注入し、撹拌しながら70℃に昇温、容器内の圧力が0.20MPaまで上昇した。その後容器内の圧力が0.01MPa以下まで減少するのに1.3時間を要した。以上の結果より、酸化プロピレンの合計量29.2g(0.50mol)を消費するのに要する時間は2.8時間であった。その後、反応容器から薄褐色固体173.3g(収率99.6%)を取り出した。生成物を透析膜(分画分子量1000)により精製後、水溶液の凍結乾燥を行い、精製C−HPCを得た。元素分析による塩素元素含有量は2.4%であった。またヒドロキシプロピルセルロースの分析法による、プロピレンオキシ基含有量は28.0%であった。カチオン基、プロピレンオキシ基の置換度は、それぞれ0.16、0.89となり、セルロースへの反応選択率はそれぞれ80%(カチオン化剤基準)、89%(酸化プロピレン基準)であった。結果を表2に示す。
【0076】
実施例7
(工程(I):カチオン化反応)
カチオン化剤としてGMACの含水量を67%に調整した水溶液60.0gを用いたこと以外は実施例6と同様にカチオン化反応を行ったところ、HPLC分析によりカチオン化剤は全て消費されていた。GMAC水溶液滴下後の反応系内の水分量は、原料セルロースに対して58.2%(計算値56.0%)であった。
【0077】
(工程(II):ヒドロキシプロピル化反応)
次に上記の反応で得られたカチオン化セルロース(水分含量58.2%対セルロース)160.0gを密閉反応装置(日東高圧株式会社製1.5Lオートクレーブ)に加え、窒素で反応容器内を置換した。次いで、酸化プロピレン15.5g(0.27mol)を注入し、撹拌しながら70℃に昇温、容器内の圧力が0.13MPaまで上昇した。その後、容器内の圧力が0.01MPa以下まで減少するのに0.8時間を要した。室温まで冷却後、再度、酸化プロピレン15.5g(0.27mol)を注入し、撹拌しながら70℃に昇温、容器内の圧力が0.13MPaまで上昇した。その後容器内の圧力が0.01MPa以下まで減少するのに0.6時間を要した。以上の結果より、酸化プロピレンの合計量31.0g(0.54mol)を消費するのに要する時間は1.4時間であった。その後、反応容器から薄褐色固体181.5g(収率99.5%)を取り出した。生成物を透析膜(分画分子量1000)により精製後、水溶液の凍結乾燥を行い、精製C−HPCを得た。元素分析による塩素元素含有量は1.0%であった。またヒドロキシプロピルセルロースの分析法による、プロピレンオキシ基含有量は23.5%であった。カチオン基、プロピレンオキシ基の置換度は、それぞれ0.06、0.65となり、セルロースへの反応選択率はそれぞれ30%(カチオン化剤基準)、65%(酸化プロピレン基準)であった。結果を表2に示す。
【0078】
比較例3
比較例2と同様にカチオン化反応を行った。
次に上記の反応で得られたカチオン化セルロース(水分含量9.0%対セルロース)120.0gを密閉反応装置(日東高圧株式会社製1.5Lオートクレーブ)に加え、窒素で反応容器内を置換した。次いで、酸化プロピレン17.3g(0.30mol)を注入し、撹拌しながら70℃に昇温、容器内の圧力が0.25MPaまで上昇した。その後、70℃で3時間撹拌を行ったが、容器内の圧力の低下が見られず、酸化プロピレンの反応進行が見られなかった。室温まで冷却後酢酸で中和し、薄褐色固体を得た。生成物を透析膜(分画分子量1000)により精製後、水溶液の凍結乾燥を行い白色のセルロース固体を得た。元素分析による塩素元素含有量は、1.90%であった。またヒドロキシプロピルセルロースの分析法による、プロピレンオキシ基含有量は検出限界以下であった。カチオン基、プロピレンオキシ基の置換度は、それぞれ0.09、0.01以下となった。セルロースへの反応選択率はそれぞれ90%(カチオン化剤基準)、1%以下(酸化プロピレン基準)であった。結果を表2に示す。
【0079】
【表2】

【0080】
実施例6,7と比較例3の比較より、本発明で規定した水分量の範囲で反応を行なえば、反応は速やかに進行することが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
低結晶性の粉末セルロースを該低結晶性の粉末セルロースに対し10〜60質量%の水、及び触媒の存在下、下記一般式(1)及び/又は(2)で表されるカチオン化剤、及び酸化プロピレンと反応させる、カチオン化ヒドロキシプロピルセルロースの製造方法。
【化1】

(式中、R1〜R3は各々独立に炭素数1〜4の直鎖又は分岐鎖の炭化水素基を表し、X、Zは同一又は異なってハロゲン原子を表す。)
【請求項2】
低結晶性の粉末セルロースに導入される4級アンモニウム塩置換プロピレンオキシ基の、セルロース主鎖の構成無水グルコース単位あたりにおける平均付加モル数が0.01〜2.5であり、プロピレンオキシ基の、セルロース主鎖の構成無水グルコース単位あたりにおける平均付加モル数が0.1〜5である、請求項1に記載のカチオン化ヒドロキシプロピルセルロースの製造方法。
【請求項3】
触媒が塩基触媒である、請求項1又は2に記載のカチオン化ヒドロキシプロピルセルロースの製造方法。
【請求項4】
低結晶性の粉末セルロースを該低結晶性の粉末セルロースに対し、0〜40質量%の非水溶媒存在下に、カチオン化剤、及び酸化プロピレンと反応させる、請求項1〜3のいずれかに記載のカチオン化ヒドロキシプロピルセルロースの製造方法。
【請求項5】
低結晶性の粉末セルロースを、初めに一般式(1)及び/又は(2)で表されるカチオン化剤と反応させ、その後、酸化プロピレンと反応させる、請求項1〜4のいずれかに記載のカチオン化ヒドロキシプロピルセルロースの製造方法。

【公開番号】特開2011−94033(P2011−94033A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−249383(P2009−249383)
【出願日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】