説明

カチオン電着塗料組成物及びそれを用いた電着塗装方法

【課題】 優れたエッジカバー性と平滑性を有する塗膜を形成することができる電着塗料組成物並びに電着塗装方法を提供する。
【解決手段】
(a)アミン濃度1.0mol/kg以上のアミン変性エポキシ樹脂、(b)ブロックイソシアネート化合物、(c)陽イオン交換された非晶質シリカ微粒子を必須成分とすることを特徴とするカチオン電着塗料組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カチオン電着塗料組成物及びその電着塗装方法に関する。更に詳しくは、被塗物に対するエッジカバー性と平滑性に優れた塗膜を得ることができるカチオン電着塗料組成物及びそのカチオン電着塗装方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電着塗装は、複雑な形状を有する被塗物であっても細部にまで塗装することができ、自動的かつ連続的に塗装することができるので、自動車車体等の大型で複雑な形状を有し、高い防錆性が要求される被塗物の下塗り塗装方法として広く使用されている。
カチオン電着塗装は、カチオン電着塗料中に被塗物を陰極として浸漬させ、電圧を印加することにより行われる。カチオン電着塗装の被塗物は、従来鋼板が大部分を占めている。この鋼板を表面処理したものが、通常被塗物として用いられる。
【0003】
しかしながら、この電着塗膜の焼付け硬化時の加熱によって、電着塗膜中に含まれる樹脂成分は流動することがある。樹脂成分の流動は、特に被塗物の端面部における塗料組成物の付着量減少をもたらし、塗料組成物の付着が少ない端面部から腐食・錆の発生が進行してしまう。すなわち、カチオン電着塗装は、つきまわり性、膜厚の均一性などには優れるが、加熱時に被塗物のエッジ部の塗装膜厚が厚くならず、エッジカバー性が不十分となりやすく、エッジ防食性に問題があった。
【0004】
エッジ部の防食性に優れたカチオン電着塗料として、熱硬化型アクリル樹脂及び熱硬化型エポキシ樹脂を含有する2種類の樹脂をエマルション化してなるカチオン電着塗料が知られている。(例えば、特許文献1参照)しかしながら、この塗料は、エッジカバー性と耐候性の両立を図ったもので、平滑性については十分でなかった。
【0005】
また、被塗物端面部の防錆性に優れ、かつ良好な仕上り外観を有する硬化塗膜を得ることができる電着塗料として、加水分解性アルコキシシラン基を含有するエポキシ樹脂−アミン付加物(A)と、1分子中に少なくとも2個以上のイソシアネート基を有するポリイソシアネート化合物とオキシム化合物との付加物及び/又は1分子中に少なくとも2個以上のエポキシ基を有する化合物(B)とからなる混合物を水分散化し、さらに必要に応じて粒子内架橋せしめてなる微粒子を、全樹脂固形分量に基づいて1〜35質量%の範囲内で含有することを特徴とするカチオン電着塗料組成物や、平均粒径0.5〜10μmを有する樹脂微粒子を、塗料固形分量に対して1〜30質量%の量で含有するカチオン電着塗料組成物(例えば、特許文献2、3参照)などが知られている。これらの塗料組成物は、粒子成分を塗膜中に導入することで塗膜の焼付け時の溶融粘度上げて流動性を制御する、という手法である為、十分なエッジカバー性を得る場合は、塗面の平滑性が損なわれるという欠点がある。
【0006】
さらには、電着塗料として用いることのできる塗料組成物として、カチオン性エポキシ樹脂(A)、架橋剤(B)、並びにリン酸基含有分散用樹脂(C)、亜鉛末(D)、導電性フィラー(E)、トリアゾール化合物(F)及びを含有する水性塗料組成物であって、カチオン性エポキシ樹脂(A)と架橋剤(B)の固形分合計100質量部に対して、リン酸基含有分散用樹脂(C)0.1〜30質量部、亜鉛末(D)5〜200質量部、導電性フィラー(E)0.1〜100質量部、トリアゾール化合物(F)0.1〜30質量部含有してなる水性塗料組成物が知られている(例えば、特許文献4参照)。しかしながら、この塗料組成物は、 塗料安定性と防食性に優れた水性塗料組成物であり、エッジカバー性を向上するものではなかった。
【0007】
【特許文献1】特開2004−190111号公報
【特許文献2】特開平6−287267号公報
【特許文献3】特開2005−200506号公報
【特許文献4】特開2008−050454号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記背景技術に記載したように、優れたエッジカバー性と平滑性とは相反する塗膜性能であり、両方の塗膜性能も優れた塗膜は得られていなかった。
本発明は、この2つの塗膜性能を両立させることができるカチオン電着塗料組成物並びにこれを用いた電着塗装方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記問題を解決するために、鋭意研究を重ねた結果、ある特定の条件下の組成を有するカチオン電着塗料組成物により、優れたエッジカバー性と優れた平滑性を両立させた塗膜を得ることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、(a)アミン濃度1.0mol/kg以上のアミン変性エポキシ樹脂、(b)ブロックイソシアネート化合物、(c)陽イオン交換された非晶質シリカ微粒子を必須成分とすることを特徴とするカチオン電着塗料組成物を提供する。
また、本発明は、上記カチオン電着塗料組成物において、(c)成分の含有量が、(a)成分と(b)成分の合計含有量の固形分量に対して0.3〜2.0質量%であるカチオン電着塗料組成物を提供する。
また、本発明は、上記カチオン電着塗料組成物を電着塗装することを特徴とする電着塗装方法を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の電着塗料組成物並びに電着塗装方法により、優れたエッジカバー性と平滑性を有する塗膜を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明で用いるカチオン電着塗料組成物は、ブロックイソシアネート硬化型の電着塗料組成物であり、カチオン電荷を有する樹脂およびブロックイソシアネートを含み、その樹脂の電荷を利用して電着を行い塗膜の硬化時にブロックイソシアネートのブロック剤が解離して、樹脂成分中の活性水素が反応することにより硬化するタイプのカチオン電着塗料組成物である。
【0013】
本発明の(a)成分である基体樹脂として、アミン濃度1.0mol/kg以上のアミン変性エポキシ樹脂が用いられる。アミン変性エポキシ樹脂のアミン濃度は、より好ましくは1.10mol/kg以上である。アミン変性エポキシ樹脂のアミン濃度が1.0mol/kg未満の場合には、エッジカバー性が劣る。アミン変性エポキシ樹脂のアミン濃度の上限値は、特に制限ないが、2.0mol/kg以下が好ましく、より好ましくは1.5mol/kg以下である。
【0014】
(a)成分におけるエポキシ樹脂としては、平均で1分子当たり1個よりも多いグリシジル基を有する限り、全ての低分子および高分子化合物を用いることができる。特に、平均で1分子当たり2個またはそれ以上のグリシジル基を有するポリグリシジルエーテルが好ましい。
【0015】
ポリグルシジルエーテルとしては、例えば、ポリフェノールのポリグリシジルエーテルなどが挙げられる。ビスフェノールAまたはビスフェノールFに代表されるようなポリフェノールとしては、例えば、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2、2−ビス(4−ヒドロキシ−3−第3ブチルフェニル)プロパン、1−5−ジヒドロキシ−3−ナフタリン等が挙げられる。
【0016】
ポリグルシジルエーテルとしては、ポリフェノール以外の環式ポリオールのポリグリシジルエーテルも用いることができる。ポリフェノール以外の環式ポリオールとしては、脂環式ポリオールである1,2−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,2−ビス(ヒドロキシメチル)シクロヘキサン等や水添されたビスフェノールAや水添されたビスフェノールFが挙げられる。
【0017】
他のポリグリシジルエーテルとしては、例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールをはじめとするポリアルキレングリコールのポリグリシジルエーテルとモノフェノール化合物との反応によって得られるポリグリシジルエーテル、さらにフェノール性ノボラック樹脂または類似のポリフェノール樹脂のポリグリシジルエーテルや、エポキシ化合物とカルボキシルターミネイテッドブタジエン−アクリロニトリルコポリマーとの反応によって得られるポリグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0018】
アミン変性エポキシ樹脂に用いられるアミンとしては、例えば、ポリグリシジルエーテルと反応して付加物を形成するアミンであれば特に制限なく、1級モノもしくはポリアミン、2級モノもしくはポリアミン、または1、2級混合モノもしくはポリアミン;ケチミン化された1級アミノ基を有する2級モノもしくはポリアミン等が挙げられる。
【0019】
ポリグリシジルエーテルと反応させる1級モノ−及びポリアミン、2級モノ−及びポリアミンとしては、例えばメチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、メチルブチルアミン等のモノ及びジアルキルアミン;エタノールアミン、N−メチルエタノールアミン、ジエタノールアミン等のモノおよびジアルカノールアミン;ジメチルアミノエチルアミン、ジエチルアミノプロピルアミン等のジアルキルアミノアルキルアミン;およびN,N−ジメチル−2−ヒドロキシエチル−プロピレンジアミン等が挙げられる。
【0020】
ケチミン化された1級アミノ基を有するモノ−およびポリアミンとしては、例えば、N−メチルアミノプロピルアミンやジエチレントリアミンとメチルイソブチルケトンとの反応物が挙げられる。
【0021】
また、本発明のカチオン電着塗料組成物には、(a)成分のアミン変性エポキシ樹脂の他に、イソシアネート基と反応する官能基を有する樹脂であれば、アクリル系、アルキド系、ポリブタジエン系、ポリエステル系等のいずれの樹脂も併用でき、これらの樹脂の2種以上を併用してもよい。これらの樹脂の含有割合は、アミン変性エポキシ樹脂と他の樹脂との合計量に対して30質量%以下が好ましい。
【0022】
次に、(b)成分の硬化剤として用いられるブロックイソシアネート化合物は、基体樹脂の分子中に含まれる自己架橋タイプでもよく、また基体樹脂の外部に含まれる外部架橋タイプでもよい。自己架橋タイプ、外部架橋タイプのどちらの場合でも、用いられるブロックイソシアネート化合物の製造に用いられるイソシアネート化合物およびブロック剤は、次に挙げるようなポリイソシアネート化合物や、100〜200℃の加熱により解離するブロック剤が適している。
【0023】
ポリイソシアネート化合物としては、例えばトリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、3,3’−ジメチルジフェニル4,4’−ジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、1,6−へキサンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネートなどの芳香族、脂肪族、及び脂環族のポリイソシアネート化合物が挙げられる。
【0024】
また、ポリイソシアネート化合物は、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、トリメチロールプロパン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリカプロラクトン、ポリカーボネートポリオールをはじめとするポリオールや、アジピン酸、フタル酸、アゼライン酸、セバシン酸、マレイン酸等のカルボン酸と反応させ、末端にイソシアネートを有するようなポリイソシアネート化合物でもよい。
【0025】
ブロック剤としては、例えばメタノール、エタノール、n−ブタノール、2−エチルヘキサノールなどの脂肪族アルコール類、メチルエチルケトオキシム、ジアセトケトオキシム、ブタノン−2−オキシム、シクロヘキサノンオキシムなどのオキシム類、フェノール、p−クレゾール、p−ターシャリーブチルフェノールなどのフェノール類、ε−カプロラクタムなどのラクタム類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、プロピレングリコールモノフェニルエーテル、ブチルジグリコール(=ジエチレングリコールモノブチルエーテル)などのエーテルアルコール類、フェニルカルビトールなどの芳香族アルキルアルコール類が挙げられる。特に、低温硬化性が求められる塗料においてはカプロラクタム類やオキシム類が好適である。
【0026】
上記硬化剤としてのブロックポリイソシアネートのブロック剤の解離には、解離触媒を用いることもできる。解離触媒としては、ジブチル錫ラウレート、ジブチル錫オキシド、ジオクチル錫などの有機錫化合物や、N−メチルモルホリンなどのアミン類、亜鉛、コバルト、ビスマス、ジルコニウムなどの金属塩が使用できる。触媒の濃度は通常カチオン電着塗料中の塗膜形成固形分量に対し、0.1〜5質量%が好ましい。
【0027】
ブロックイソシアネート含有カチオン電着塗料組成物において、基体樹脂中にブロックイソシアネートを有している自己架橋タイプのブロックイソシアネート化合物は、従来公知の方法で製造することができ、例えば、部分的にブロックしたポリイソシアネート化合物中の遊離のイソシアネートを基体樹脂中の活性水素に反応させる方法などにより、基体樹脂中へブロックイソシアネートを導入させて、製造することができる。また、外部架橋タイプのブロックイソシアネート化合物としては、上記ポリイソシアネートのイソシアネートが全部ブロックされたものが挙げられる。
【0028】
(a)成分のアミン変性エポキシ樹脂と、(b)成分のブロックイソシアネート化合物との固形分質量比(アミン変性エポキシ樹脂/硬化剤)は、90/10〜50/50が好ましく、より好ましくは80/20〜65/35である。
【0029】
本発明においては、(c)成分の陽イオン交換された非晶質シリカ微粒子は、塗膜の溶融粘度を単に上昇させるだけではなく、構造粘性を発現させることができる。
(c)成分の陽イオン交換された非晶質シリカ微粒子は、特殊な表面を有しているため、(a)成分のアミン変性エポキシ樹脂との親和性に優れており、(a)成分のアミン変性エポキシ樹脂の極性基との間に相互作用が生じることで、低剪断速度時の粘度が高剪断速度時粘度に比べて高くなるという構造粘性挙動を示す。この構造粘性挙動を示す塗膜は、必要以上に溶融粘度を上げて流動性を抑えることなく、エッジ部のスケ防止に効果的に働き、エッジカバー性に優れる。
【0030】
非晶質シリカ微粒子がイオン交換される陽イオンとしては、カルシウムイオン、マグネシウムイオンなどが挙げられるが、カルシウムイオンが特に好ましい。
例えば、カルシウムイオン交換された非晶質シリカ微粒子としては、多孔質シリカゲル粉末にカルシウムイオンをイオン交換させた無毒性の防錆顔料などが挙げられる。塗膜を通過してきたH+が塗膜中のCa+とイオン交換し、放出されたCa+が金属表面を保護し防錆作用が現れると考えられている。カルシウムイオン交換された非晶質シリカ微粒子の市販品としては、シールデックス303、AC−3、AC−5(W.RGrace&Co社製)、シールデックス(富士シリシア製)等が挙げられる。
【0031】
陽イオン交換された非晶質シリカ微粒子の平均粒径は、1〜10μmが好ましく、2〜5μmがより好ましい。
陽イオン交換された非晶質シリカ微粒子における陽イオンの含有量は、1〜20質量%が好ましく、3〜10質量%がより好ましい。
【0032】
本発明に用いられる(c)成分の含有量は、(a)成分と(b)成分の合計含有量の固形分量に対して0.3〜2.0質量%が好ましく、より好ましくは0.5〜1.8質量%である。(c)成分の含有量が、(a)成分と(b)成分の合計含有量の固形分量に対して0.3質量%未満の場合は、エッジカバー性が十分ではなく、2.0質量%を超える場合は平滑性が悪化する。
【0033】
本発明のカチオン電着塗料組成物には、必要に応じて顔料を配合させることができる。
顔料としては、通常電着塗料で用いられる顔料であれば特に制限はなく、例えば、酸化チタン、ベンガラ、カーボンブラック、黄酸化鉄などの着色顔料;クレー、タルク、マイカ、炭酸カルシウムなどの体質顔料;リンモリブデン酸亜鉛、リン酸アルミニウム、ポリリン酸アルミニウムなどの防錆顔料などが挙げられる。
【0034】
本発明のカチオン電着塗料組成物においては、顔料分散を目的とした顔料分散用樹脂を用いることができる。顔料分散用樹脂としての制限はなく、カチオン電荷を有する樹脂を使用することができるが、顔料の分散性を高めたものが好ましく、例えば、エポキシ4級アンモニウム型あるいは3級アミン型、アクリル4級アンモニウム型の樹脂が好適である。
【0035】
本発明のカチオン電着塗料組成物は、通常ボールミル、サンドミル、スーパーミル、連続分散機などを用いて、顔料を所望の大きさに砕き、十分湿潤、分散するまで行い、顔料ペーストを製造し、樹脂の水性化に当たっては、連続的な水の相ができるのに十分な水の量を配合し、攪拌機、乳化装置などを用い水溶液やエマルションを製造する。
【0036】
本発明のカチオン電着塗料組成物は、必要により水等の水性媒体を添加して、一般的に塗料固形分量が5〜35質量%、pHが5.0〜6.5になるように調整して電着塗装を行うことが好ましい。
本発明のカチオン電着塗料組成物を用いた電着塗装方法としては、例えば塗料温度は25〜35℃、電圧は40〜400V、硬化塗膜の膜厚が10〜40μmの範囲となるように塗装を行う方法が好ましい。さらに、塗膜の硬化時の焼付温度は100〜200℃の範囲が適している。
【0037】
本発明においては、特に、カチオン電着塗料組成物のウェット塗膜が、120℃で剪断速度5S−1時の粘度が剪断速度50S−1時の粘度に対して10倍以上であることが好ましく、10.5倍以上であることがより好ましい。この粘度比が10倍未満の場合、エッジカバー性と平滑性の両立が難しい。この粘度比の上限はなく、高ければ高い程よい。
また、120℃で剪断速度5S−1時の粘度が100Pa・S以下になるように調整されることが好ましく、90Pa・S以下になるように調整されることがより好ましい。100Pa・Sを超える場合、平滑性が得られにくい。
【0038】
本発明のカチオン電着塗装組成物は導電性基材、例えば、冷延鋼、熱延鋼、アルミ二ウム、マグネシウム、マグネシウム合金などの金属、ならびにこれらの基材を必要に応じて表面処理、例えば、リン酸亜鉛処理、リン酸鉄処理、クロメート処理、有機皮膜処理などを施したもの等の求められる品質にあわせた所望のものに塗装できる。
【0039】
本発明の電着塗膜の上に塗装する中塗り塗料および上塗り塗料は制限無く、一般に使用されている中塗り塗料および上塗り塗料を塗装することができる。
【実施例】
【0040】
次に本発明の実施例について、詳細に記載するが、本発明はこれらの説明に限定されるものではない。なお各例中、「部」および「%」に関するすべての記載は、別記しない限り、「質量部」または「質量%」である。
【0041】
製造例1 顔料分散用樹脂の製造
エポキシ当量が188であるビスフェノール−A−ジグリシジルエーテル2598部、ビスフェノールA787部、ドデシルフェノール603部およびブチルグリコール206部をトリフェニルフォスフィン4部の存在下に、130℃で反応させてエポキシ当量856にした。次に、冷却をしながら、ブチルグリコール 849部およびポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル(Dow Chemical社製、商品名「DER732」)1534部を加え、90℃で2,2−アミノエトキシエタノール266部およびN,N−ジメチルアミノプロピルアミン212部とを加えて反応させた。2時間後、粘度が一定になった後、ブチルグリコール1512部で希釈し、氷酢酸201部で中和し、更に脱イオン水1228部を加えることにより固形分量60%の顔料分散用樹脂水溶液を作成した。
【0042】
製造例2 硬化剤の製造
攪拌機、還流冷却器、内部温度調節計および不活性ガス供給管を備えている反応器に、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート(BASF社製、商品名「Luprant」)10552部を窒素雰囲気下にて、装入した。ジブチルスズジラウレート18部を添加し、かつ、反応温度が60℃を超えないように、時折、冷却をしながら、少しずつブチルジグリコール9498部を滴下した。添加の終了後に温度を更に60分間、60℃に保ち、メチルイソブチルケトン7768部に溶解させた後に、生成物が100℃を上回らない速度で、トリメチロールプロパン933部を添加した。添加終了後、更に60分間反応させ、遊離NCO基が検出されないことを確認した。65℃に冷却し、かつ同時にn−ブタノール965部およびメチルイソブチルケトン267部で希釈し、固形分量70%のブロックポリイソシアネート化合物を得た。ブチルジグリコールをブロック剤としたブロックイソシアネート化合物の解離温度は、170℃であった。
【0043】
製造例3 アミン変性エポキシ樹脂Aの製造
攪拌機、還流冷却器、内部温度計および不活性ガス供給管を備えた反応器中で、エポキシ当量188を有するビスフェノールAをベースとするエポキシ樹脂(ビスフェノール−A−ジグリシジルエーテル)6150部をビスフェノールA1400部、ドデシルフェノール335部、p−クレゾール470部およびキシレン441部と共に窒素雰囲気下に125℃に加熱し、10分間、反応させた。次に、130℃に加熱し、かつエポキシ重合触媒としてN,N’−ジメチルベンジルアミン23部を添加した。エポキシ当量が880に達するまでこの温度に維持した。添加剤ポリエーテル(BYK Chemie社製、商品名「K−2000」)90部を添加し、100℃に維持した。30分後にブチルアルコール211部およびイソブタノール1210部を添加した。
【0044】
この直後、ジエチレントリアミンとメチルイソブチルケトンを混合後、130〜150℃で加熱還流を行って生成水を除去し、150℃で生成水の留出が停止した時点で冷却して得られたケチミン467部とメチルエタノールアミン450部の混合物を反応器に添加し、100℃に温度調節した。更に30分後に温度を105℃に上げ、かつN,N’−ジメチルアミノプロピルアミン80部を添加した。アミン添加の75分後、プロピレングリコール化合物(BASF社製、商品名「Plastilit 3060」)903部を添加し、プロピレングリコールフェニルエーテル725部で希釈して冷却し、固形分量80%、アミン濃度1.1mol/kgのアミン変性エポキシ樹脂Aを得た。
【0045】
製造例4 アミン変性エポキシ樹脂Bの製造
攪拌機、還流冷却器、内部温度計および不活性ガス供給管を備えた反応器中で、エポキシ当量188を有するビスフェノールAをベースとするエポキシ樹脂(ビスフェノール−A−ジグリシジルエーテル)6150部をビスフェノールA1400部、ドデシルフェノール335部、p−クレゾール470部およびキシレン441部と共に窒素雰囲気下に125℃に加熱し、かつ10分間、冷却した。引き続き130℃に加熱し、かつN,N’−ジメチルベンジルアミン23部を添加した。エポキシ当量が880に達するまでこの温度に維持した。添加剤ポリエーテル(BYK Chemie社製、商品名「K−2000」) 90部を添加し、100℃に維持した。30分後にブチルアルコール211部およびイソブタノール1210部を添加した。
【0046】
この直後、ジエチレントリアミンとメチルイソブチルケトンを混合後、130〜150℃で加熱還流を行って生成水を除去し、150℃で生成水の留出が停止した時点で冷却して得られたケチミン467部とメチルエタノールアミン350部の混合物を反応器に添加し、100℃に温度調節した。更に30分後に温度を105℃に上げ、かつN,N’−ジメチルアミノプロピルアミン40部を添加した。アミン添加の75分後、プロピレングリコール化合物(BASF社製、商品名「Plastilit 3060」)903部を添加し、プロピレングリコールフェニルエーテル695部で希釈し、95℃に冷却し、固形分量80%、アミン濃度0.9mol/kgのアミン変性エポキシ樹脂Bを得た。
【0047】
製造例5 顔料ペーストの製造
製造例1で得た顔料分散樹脂を用い、表1に示す割合(質量%)で各配合成分を十分に混合した後、ボールミルにて、粒度が粒ゲージで5μm以下となるように分散して、固形分量65%の顔料ペーストP−1〜P−6を得た。
【0048】
【表1】

【0049】
表1中のカッコ付数字の説明
1)カーボンブラック:MA100(三菱化学社製)
2)DBTO:ジブチル錫オキシド ネオスタンU−300(日東化成社製)
3)カオリン:ASP200(エンゲルハード社製)
3)二酸化チタン:タイピュアR900(デュポン社製)
4)カルシウムイオン交換非晶質シリカ微粒子:シールデックス303 (W.RGrace&Co社製、平均粒径3μm、イオン交換されたカルシウムイオン含有量6質量%)
5)シリカ微粒子:サイリシア446(富士シリシア社製)
【0050】
製造例6 エマルション−1の製造
製造例3で得られたアミン変性エポキシ樹脂A9949部と製造例2で得られた硬化剤4872部とを混合し、攪拌下にて、88%乳酸424部と脱イオン水7061部との混合液を滴下した。次に、脱イオン水12600部を30分間かけて滴下し、固形分量32%のエマルション−1を得た。
【0051】
製造例7 エマルション−2の製造
製造例3で得られたアミン変性エポキシ樹脂A10740部と製造例2で得られた硬化剤4081部とを混合し、攪拌下にて、88%乳酸424部と脱イオン水7061部との混合液を滴下した。次に、脱イオン水12600部を30分間かけて滴下し、固形分量32%のエマルション−2を得た。
【0052】
製造例8 エマルション−3の製造
製造例4で得られたアミン変性エポキシ樹脂B9949部と製造例2で得られた硬化剤4872部とを混合し、攪拌下に88%乳酸424部と脱イオン水7061部との混合液を滴下した。次に、脱イオン水12600部を30分間かけて滴下し、固形分量32%のエマルション−3を得た。
【0053】
実施例1〜8、比較例1〜2
表2に示す塗料配合割合(質量%)で各配合成分を十分に混合して、実施例1〜8のカチオン電着塗料組成物を得た。得られた電着塗料の固形分量は20%であった。
【0054】
【表2】

【0055】
(塗料及び塗膜の評価方法)
上記実施例および比較例で得られたカチオン電着塗料組成物およびそれらを電着塗装して得られた電着塗膜について、以下の方法により評価を行ない、評価結果を表3に示した。
【0056】
(1)塗膜の粘度の測定方法
リン酸亜鉛処理(日本パーカーライジング社製、PBL−3060)をした自動車用冷延鋼板に、上記実施例および比較例により得られたカチオン電着塗料を乾燥膜厚15μmになるように、塗料温度30℃、電圧200V、電着時間3分間、の条件で電着塗装した。水洗後、室温で30分間風乾して塗膜の水分を取り除いた後、このウェット塗膜をかきとり集めて試料とした。こうして得られた試料を粘弾性測定装置MR300(株式会社ユービーエム製)により、定常流粘性測定モードにて、測定温度120℃にし、剪断速度5S−1時の粘度と剪断速度50S−1時の粘度とを測定した。
【0057】
(2)エッジカバー性の評価方法
リン酸亜鉛処理したカッターナイフ(OLFA製、LB−50K)に、上記実施例および比較例により得られたカチオン電着塗料を乾燥膜厚15μmになるように、塗料温度30℃、電圧200V、電着時間3分間、の条件で電着塗装した。に電着した。水洗後、170℃で20分間焼付けし、電着塗膜が被覆したカッターナイフの断面を研ぎ出し、先端部分の膜厚をデジタルマイクロスコープ(株式会社キーエンス製、VH−500)で測定し、ナイフの先端部膜厚にて次のように評価をした。
【0058】
◎:4μm以上
○:2μm以上、4μm未満
△:1μm以上、2μm未満
×:1μm未満
【0059】
(3)平滑性の評価方法
リン酸亜鉛処理(日本パーカーライジング社製、PBL−3060)した自動車用冷延鋼板に、上記実施例および比較例により得られたカチオン電着塗料を、乾燥膜厚15μmになるように塗料温度30℃、電圧200V、電着時間3分間、の条件で電着塗装した。電着した。水洗後、170℃で20分間焼付けし、得られた塗膜の表面を表面粗度計サーフテスト SJ−301(Mitsutomo 社製)で、カットオフ2.5mmとして、JIS B 0601−1994に従い、表面粗さRa(μm)を測定し、平均粗さ(Ra)にて次のように評価した。
【0060】
◎:0.25μm未満
○:0.25μm以上、0.30μm未満
○△:0.30μm以上、0.35μm未満
△:0.35μm以上、0.40μm未満
×:0.40μm以上
【0061】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)アミン濃度1.0mol/kg以上のアミン変性エポキシ樹脂、(b)ブロックイソシアネート化合物、(c)陽イオン交換された非晶質シリカ微粒子を必須成分とすることを特徴とするカチオン電着塗料組成物。
【請求項2】
(c)成分の含有量が、(a)成分と(b)成分の合計含有量の固形分量に対して0.3〜2.0質量%である請求項1記載のカチオン電着塗料組成物。
【請求項3】
請求項1又は2記載のカチオン電着塗料組成物を電着塗装することを特徴とする電着塗装方法。





【公開番号】特開2010−144104(P2010−144104A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−324731(P2008−324731)
【出願日】平成20年12月19日(2008.12.19)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【出願人】(599076424)BASFコーティングスジャパン株式会社 (59)
【Fターム(参考)】