説明

カチオン電着塗料組成物

【課題】 カチオン電着塗料中における揮発性有機化合物を低減しても膜厚保持性や仕上り性及び合金化溶融亜鉛メッキ鋼板上の電着塗装適性に優れ且つ防食性が良好な塗膜を形成し得るカチオン電着塗料を提供すること。
【解決手段】 特定のアミノ基含有変性エポキシ樹脂と特定のキシレン−ホルムアルデヒド樹脂変性アミノ基含有エポキシ樹脂及びブロック化ポリイソシアネート硬化剤を特定の配合割合で含んでなるカチオン電着塗料組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アミノ基含有変性エポキシ樹脂(A)、キシレン−ホルムアルデヒド樹脂変性アミノ基含有エポキシ樹脂(B)及びブロック化ポリイソシアネート硬化剤(C)を樹脂成分として含有する水分散性に優れたカチオン電着塗料に関し、特に、カチオン電着塗料中の揮発性有機化合物を低減しても、膜厚保持性、仕上り性及び合金化溶融亜鉛メッキ鋼板上の電着塗装適性に優れ且つ防食性が良好な塗膜を形成し得るカチオン電着塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
カチオン電着塗料組成物は、塗装作業性に優れ且つ形成した塗膜の防食性が良好であるため、これらの性能が要求される自動車ボディ等の導電性金属製品の下塗り塗料として広く使用されている。
【0003】
カチオン電着塗料組成物に使用される樹脂は、通常、有機溶剤を使用して製造され、有機溶剤を含有する樹脂溶液(ワニス)として塗料に配合されるため、得られるカチオン電着塗料組成物は、有機溶剤を含有したものとなる。
【0004】
有機溶剤を含有するカチオン電着塗料組成物は、親水性と疎水性のバランスが良好で、カチオン電着塗料組成物の構成成分である樹脂の水分散性を低下させることがなく塗料安定性に優れる;経時での膜厚保持性や塗膜の仕上り性が良好である;合金化溶融亜鉛メッキ鋼板上の電着塗装適性に優れる等の技術的効果を有しており、従来、例えば、エチレングリコールモノブチルエーテル(沸点171℃)、エチレングリコールモノヘキシルエーテル(沸点208℃)、プロピレングリコールモノプロピルエーテル(沸点150℃)、シクロヘキサノン(沸点145℃)等の有機溶剤がカチオン電着塗料組成物に使用されている。
【0005】
近年、環境への配慮等から、揮発性有機化合物(以下、「VOC」と称することがある)規制や有害性大気汚染物質規制(HAPs規制)がなされ、これら有機溶剤の使用が制限されている。有機溶剤は、脱溶剤を行うことにより、カチオン電着塗料組成物から除去することが可能であり、それによって低VOCの塗料組成物を得ることができる。しかしながら、カチオン電着塗料組成物中の揮発性有機化合物(VOC)の含有量を低減させると、経時での膜厚保持性や塗膜の仕上り性、合金化溶融亜鉛メッキ鋼板上の電着塗装適性等が低下する等の問題が生じることがある。
【0006】
このような問題を解決するための提案として、例えば、特許文献1には、(A)少なくとも1種のポリオールのジグリシジルエーテルと少なくとも1種の2価フェノールのジグリシジルエーテルからなる組成物と(B)少なくとも1種の2価フェノールとを反応させることにより得られる樹脂に、有機酸と水を添加してオキシラン基をカチオン基に転化することにより製造されたカチオン性エポキシ樹脂を含有する電着塗料が開示されている。しかしながら、該カチオン性エポキシ樹脂を含有する電着塗料から形成される塗膜は、防食性が不十分である。
【0007】
また、特許文献2には、エポキシ当量が180〜2,500のエポキシ樹脂に、キシレン−ホルムアルデヒド樹脂及びアミノ基含有化合物を反応させてなるキシレン−ホルムアルデヒド樹脂変性アミノ基含有エポキシ樹脂を基体樹脂として含有するカチオン電着塗料が開示されている。しかし、キシレン−ホルムアルデヒド樹脂変性アミノ基含有エポキシ樹脂を基体樹脂として単独で用いたカチオン電着塗料は、低VOC化を図ると、膜厚保持
性に問題が生じ、また、キシレン−ホルムアルデヒド樹脂変性アミノ基含有エポキシ樹脂は水分散性が不十分であるため、水分散性を確保するために中和剤を多量に添加する必要があり、仕上り性及び合金化溶融亜鉛メッキ鋼板上の電着塗装適性に不具合を生じる等の問題がある。
【0008】
さらに、特許文献3には、350〜5,000の平均エポキシ当量を有するポリエーテルポリオールのジグリシジルエーテルから製造されるエポキシ樹脂(A)又は一部キャップ(封止)された300〜5,000の平均エポキシ当量を有するポリエーテルポリオールのジグリシジルエーテルから製造されるエポキシ樹脂(B)を含有するカチオン電着塗料が開示されている。しかしながら、上記公報に記載の樹脂を含有するカチオン電着塗料から形成される塗膜は、防食性が不十分である。
【0009】
特許文献4には、ポリメチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール等のアルキレン系ポリエーテルポリオールや、ビスフェノール単独もしくはビスフェノールとグリコールとを反応してなる芳香環含有ポリエーテルポリオール等のポリエーテルポリオールを配合することにより、低VOCで且つ造膜性に優れ、合金化溶融亜鉛メッキ鋼板の電着塗装性や防食性に優れる塗料を得ることができることが記載されている。
【0010】
また、特許文献5には、分子量が1,000以下の特定のポリエーテル化合物を配合することにより、揮発性有機溶剤含有量が少なく(低VOC)、防錆鋼板に電着塗装してもピンホールの発生がなく、防食性や塗料安定性に優れる電着塗料を得ることができることが開示されている。
【0011】
しかし、特許文献4に記載のポリエーテルポリオールや特許文献5に記載の分子量が1,000以下の特定のポリエーテル化合物を電着塗料に多量に添加すると、形成塗膜の防食性が低下したり、電着塗料浴が長期に亘って機械的な負荷が加えられた場合に、塗料安定性の低下が生じる可能性がある等の問題がある。
【0012】
【特許文献1】特開昭63−92637号公報
【特許文献2】特開2003−221547号公報
【特許文献3】特開平8−245750号公報
【特許文献4】特開2001−3005号公報
【特許文献5】特開2006−274234号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、カチオン電着塗料中における揮発性有機化合物を低減しても膜厚保持性や仕上り性及び合金化溶融亜鉛メッキ鋼板上の電着塗装適性に優れ且つ防食性が良好な塗膜を形成し得るカチオン電着塗料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者等は、鋭意検討した結果、今回、特定のアミノ基含有変性エポキシ樹脂(A)とキシレン−ホルムアルデヒド樹脂変性アミノ基含有エポキシ樹脂(B)及びブロック化ポリイソシアネート硬化剤(C)を使用し、これらを特定の割合で配合してカチオン電着塗料とすることにより、上記の目的を達成することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
かくして、本発明は、
(A)一般式(1):
【0016】
【化1】

【0017】
式中、m個又はn個のRは同一又は相異なり、それぞれ水素原子又は炭素数1〜6の
アルキル基を表し、m及びnはそれぞれ0又は整数であり且つm+n=1〜20である

で示されるジエポキシ化合物(a11)及び一般式(2):
【0018】
【化2】

【0019】
式中、y個のRは同一又は相異なり、それぞれ水素原子又は炭素数1〜6のアルキル
基を表し、xは1〜9の整数であり、yは1〜50の整数である、
で示されるジエポキシ化合物(a12)よりなる群から選ばれるジエポキシ化合物(a1)、エポキシ当量が170〜500のエポキシ樹脂(a2)及びビスフェノール化合物(a3)を反応させることにより得られる変性エポキシ樹脂(A1)をアミノ基含有化合物(A2)と反応させることにより得られるアミノ基含有変性エポキシ樹脂、
(B)エポキシ当量が180〜2,500のエポキシ樹脂(b1)とフェノール性水酸基を有するキシレン−ホルムアルデヒド樹脂(b2)及びアミノ基含有化合物(b3)を反応させることにより得られるキシレン−ホルムアルデヒド樹脂変性アミノ基含有エポキシ樹脂、ならびに
(C)ブロック化ポリイソシアネート硬化剤
を含んでなり、上記成分(A)、(B)及び(C)の固形分合計質量を基準にして、成分(A)を5〜60質量%、成分(B)を5〜60質量%、そして成分(C)を10〜40質量%含有することを特徴とするカチオン電着塗料組成物を提供するものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明のカチオン電着塗料組成物は、水分散性に優れるアミノ基含有変性エポキシ樹脂(A)を樹脂成分として含有しており、例えば、限外濾過(UF)膜における濾過適性や精密濾過機における濾過性等の塗料安定性に優れる。
【0021】
本発明のカチオン電着塗料組成物は、また、特定のアミノ基含有変性エポキシ樹脂(A)とキシレン−ホルムアルデヒド樹脂変性アミノ基含有エポキシ樹脂(B)の両者を樹脂成分として含有するので、防食性と合金化溶融亜鉛メッキ鋼板上の電着塗装適性に優れ、しかも、カチオン電着塗料中の揮発性有機化合物を低減しても、膜厚保持性に優れ、且つ仕上り性、合金化溶融亜鉛メッキ鋼板上の電着塗装適性及び防食性に優れるという顕著な効果を奏する。
【0022】
以下、カチオン電着塗料組成物について、さらに詳細に説明する。
【発明を実施するための形態】
【0023】
アミノ基含有変性エポキシ樹脂(A)
本発明のカチオン電着塗料組成物において、樹脂成分の1つとして使用されるアミノ基含有変性エポキシ樹脂(A)は、上記式(1)の化合物(a11)及び上記式(2)の化合物(a12)よりなる群から選ばれるジエポキシ化合物(a1)、エポキシ当量170〜500のエポキシ樹脂(a2)及びビスフェノール化合物(a3)を反応させることにより得られる変性エポキシ樹脂(A1)をアミノ基含有化合物(A2)と反応させることにより得られるものである。
【0024】
ジエポキシ化合物(a1):
ジエポキシ化合物(a11)は、式(1):
【0025】
【化3】

【0026】
式中、m個又はn個のRは同一又は相異なり、それぞれ水素原子又は炭素数1〜6、
好ましくは1〜2のアルキル基を表し、特に、Rは水素原子又はメチル基であり、m
及びnはそれぞれ0又は整数、好ましくは1〜10の整数であり且つm+n=1〜20
、好ましくは2〜15である、
で示される化合物であり、例えば、ビスフェノールAに式(3):
【0027】
【化4】

【0028】
式中、Rは前記定義のとおりである、
で示されるアルキレンオキシドを付加させ、得られるヒドロキシル末端のポリエーテル化合物をエピハロヒドリンと反応させてジエポキシ化することにより製造することができる。
【0029】
上記式(3)のアルキレンオキシドとしては、例えば、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド等の炭素数2〜8、好ましくは2〜4のアルキレンオキシドが挙げられ、中でも、エチレンオキシド(式(3)中のRが水素原子である化合物)及びプロピレンオキシド(式(3)のRがメチルである化合物)が好適である。
【0030】
また、ジエポキシ化合物(a12)は、式(2):
【0031】
【化5】

【0032】
式中、y個のRは同一又は相異なり、それぞれ水素原子又は炭素数1〜6、好ましく
は1〜2のアルキル基を表し、特に、Rは水素原子又はメチル基であり、xは1〜9
、好ましくは1〜6の整数であり、yは1〜50、好ましくは1〜20の整数である、で示される化合物であり、例えば、アルキレングリコールを開始剤として、RがRに置き換わった式(3)のアルキレンオキシドを開環重合させ、次いで、得られるヒドロキシル末端のポリアルキレンオキシドにエピハロヒドリンを反応させてジエポキシ化するか;あるいは式(4):
【0033】
【化6】

【0034】
式中、R及びxは前記定義のとおりである、
で示されるアルキレングリコール又は少なくとも2個のアルキレングリコール分子を脱水縮合させることにより得られるポリエーテルジオールにエピハロヒドリンを反応させてジエポキシ化することにより製造することができる。
【0035】
上記式(4)のアルキレングリコールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール等の炭素数2〜10、好ましくは2〜6のアルキレングリコールが挙げられる。
【0036】
上記式(1)のジエポキシ化合物(a11)及び式(2)のジエポキシ化合物(a12)としては、例えば、市販品として、デナコールEX−850、デナコールEX−821、デナコールEX−830、デナコールEX−841、デナコールEX−861、デナコールEX−941、デナコールEX−920、デナコールEX−931(以上ナガセケムテックス株式会社製、商品名)、グリシエールPP−300P、グリシエールBPP−350(以上三洋化成工業株式会社製、商品名)等が挙げられる。
【0037】
ジエポキシ化合物(a1)としては、化合物(a11)及び化合物(a12)をそれぞれ単独で又は両者を組み合わせて用いることができる。
【0038】
エポキシ樹脂(a2)
変性エポキシ樹脂(A1)の製造に用いられるエポキシ樹脂(a2)は、1分子中に少なくとも2個のエポキシ基を有する化合物であり、一般に340〜1,500、好ましくは340〜1000の範囲内の数平均分子量及び一般に170〜500、好ましくは17
0〜400の範囲内のエポキシ当量を有することができる。エポキシ樹脂(a2)としては、特に、ポリフェノール化合物とエピハロヒドリン、例えば、エピクロルヒドリンとの反応によって得られるものが好ましい。
【0039】
本明細書において、「数平均分子量」は、JIS K 0124−83に記載の方法に準じ、分離カラムとして「TSKgel G4000HXL」、「TSKgel G3000HXL」、「TSKgel G2500HXL」及び「TSKgel G2000HXL」(以上東ソー株式会社製、商品名)の4本を使用し、溶離液としてGPC用テトラヒドロフランを用いて、40℃及び流速1.0ml/分において、RI屈折計で得られたクロマトグラムと標準ポリスチレンの検量線から求めたものである。
【0040】
エポキシ樹脂(a2)の製造のために用いられるポリフェノール化合物としては、例えば、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−2,2−プロパン[ビスフェノールA]、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン[ビスフェノールF]、ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)メタン[水添ビスフェノールF]、2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパン[水添ビスフェノールA]、4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1−エタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1−イソブタン、ビス(4−ヒドロキシ−2もしくは3−tert−ブチルフェニル)−2,2−プロパン、ビス(2−ヒドロキシナフチル)メタン、テトラ(4−ヒドロキシフェニル)−1,1,2,2−エタン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、フェノールノボラック、クレゾールノボラック等を挙げることができる。
【0041】
また、ポリフェノール化合物とエピクロルヒドリンとの反応によって得られるエポキシ樹脂としては、中でも、ビスフェノールAから誘導される式(5):
【0042】
【化7】

【0043】
式中、nは0〜2である、
で示されるものが好適である。
【0044】
かかるエポキシ樹脂の市販品としては、例えば、ジャパンエポキシレジン(株)からjER828EL、jER1001なる商品名で販売されているものが挙げられる。
【0045】
ビスフェノール化合物(a3)
ビスフェノール化合物(a3)には、一般式(6):
【0046】
【化8】

【0047】
式中、R及びRはそれぞれ水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を表し、好まし
くは水素原子又は炭素数1〜2のアルキル基を表し、R、R、R、R10、R
、R12、R13及びR14はそれぞれ水素原子または炭素数1〜6のアルキル基を
表し、好ましくは水素原子を表す、
で示される化合物が包含され、具体的には、例えば、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−2,2−プロパン[ビスフェノールA]、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン[ビスフェノールF]等が挙げられる。
【0048】
変性エポキシ樹脂(A1)
変性エポキシ樹脂(A1)は、通常、以上に述べたジエポキシ化合物(a1)、エポキシ樹脂(a2)及びビスフェノール化合物(a3)を、適宜、反応触媒として、例えば、ジメチルベンジルアミン、トリブチルアミンのような3級アミンやテトラエチルアンモニウムブロマイド、テトラブチルアンモニウムブロマイドのような4級アンモニウム塩等の存在下に、約80〜約200℃、好ましくは約90〜約180℃の温度で、1〜6時間程度、好ましくは1〜5時間程度反応させることにより製造することができる。
【0049】
上記反応において、反応触媒として、例えば、ジエチルアミン、ジブチルアミン、ジエタノールアミン、ジプロパノールアミン、メチルエタノールアミン等の2級アミンを少量用いることもでき、これらの2級アミンは、エポキシ樹脂(a2)のエポキシ基と反応して3級アミンを生じ、この3級アミンが反応触媒として作用する。
【0050】
変性エポキシ樹脂(A1)を製造するに際して、ジエポキシ化合物(a1)、エポキシ樹脂(a2)及びビスフェノール化合物(a3)は、以下に述べる順序で反応させることができる:(i)ジエポキシ化合物(a1)とエポキシ樹脂(a2)とビスフェノール化合物(a3)をすべて混合し反応させる;(ii)ジエポキシ化合物(a1)とビスフェノール化合物(a3)を反応させて、次いで、得られる該反応物にエポキシ樹脂(a2)を混合し、反応させる;(iii)エポキシ樹脂(a2)とビスフェノール化合物(a3)を反応させ、次いで、得られる反応物にジエポキシ化合物(a1)を混合し、反応させる。反応の進行状況は、エポキシ価によって追跡することができる。
【0051】
ジエポキシ化合物(a1)、エポキシ樹脂(a2)及びビスフェノール化合物(a3)の使用割合は、ジエポキシ化合物(a1)とエポキシ樹脂(a2)とビスフェノール化合物(a3)の固形分合計質量を基準にして、ジエポキシ化合物(a1)は通常1〜35質量%、好ましくは2〜30質量%、さらに好ましくは3〜25質量%の範囲内;エポキシ樹脂(a2)は通常10〜80質量%、好ましくは15〜75質量%、さらに好ましくは20〜70質量%の範囲内;そしてビスフェノール化合物(a3)は通常10〜60質量%、好ましくは15〜50質量%、さらに好ましくは17〜47質量%の範囲内とすることができ、それによって、カチオン電着塗料中における揮発性有機化合物を低減しても、膜厚保持性と仕上り性及び合金化溶融亜鉛メッキ鋼板上の電着塗装適性に優れ、さらには防食性が良好なカチオン電着塗料を得ることができる。
【0052】
上記の反応は、適宜、溶媒中で行うことができる。用い得る溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、n−ヘキサン等の炭化水素系;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルアミルケトン等のケトン系;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド系;メタノール、エタノール、n−プロパノール、iso−プロパノール等のアルコール系;フェニルカルビノール、メチルフェニルカルビノール等の芳香族アルキルアルコール類;エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル等のエーテルアルコール系化合物あるいはこれらの混合物等が挙げられる。
【0053】
かくして得られる変性エポキシ樹脂(A1)は、一般に500〜3,000、好ましく
は600〜2,500、さらに好ましくは600〜2,000の範囲内のエポキシ当量を有することができる。
【0054】
アミノ基含有化合物(A2)
本発明において、変性エポキシ樹脂(A1)に反応せしめられるアミノ基含有化合物(A2)は、変性エポキシ樹脂(A1)にアミノ基を導入して、変性エポキシ樹脂(A1)をカチオン化するためのカチオン性付与成分であり、エポキシ基と反応する活性水素を少なくとも1個含有するアミノ基を含有するものが用いられる。
【0055】
そのような目的で使用されるアミノ基含有化合物(A2)としては、例えば、モノメチルアミン、ジメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、モノイソプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、モノブチルアミン、ジブチルアミン等のモノ−、もしくはジ−アルキルアミン;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、モノ(2−ヒドロキシプロピル)アミン、ジ(2−ヒドロキシプロピル)アミン、モノメチルアミノエタノール、モノエチルアミノエタノール等のアルカノールアミン;エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ブチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、ジエチルアミノプロピルアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン等のアルキレンポリアミン及びこれらのポリアミンのケチミン化物;エチレンイミン、プロピレンイミン等のアルキレンイミン;ピペラジン、モルホリン、ピラジン等の環状アミン等が挙げられ、さらに、1級アミンをケチミン化したアミンも用いることができる。
【0056】
本発明のカチオン電着塗料組成物において使用されるアミノ基含有変性エポキシ樹脂(A)は、以上に述べた変性エポキシ樹脂(A1)にアミノ基含有化合物(A2)を付加反応させることにより製造することができる。
【0057】
上記付加反応における成分(A1)及び(A2)の使用割合は、厳密に制限されるものではなく、本発明の電着塗料組成物の用途等に応じて適宜変えることができるが、アミノ基含有変性エポキシ樹脂(A)の製造に使用される変性エポキシ樹脂(A1)とアミノ基含有化合物(A2)の合計固形分質量を基準にして、変性エポキシ樹脂(A1)は一般に65〜95質量%、好ましくは70〜94質量%、さらに好ましくは75〜94質量%の範囲内、そしてアミノ基含有化合物(A2)は一般に5〜35質量%、好ましくは6〜30質量%、さらに好ましくは6〜25質量%の範囲内とすることができる。
【0058】
上記の付加反応は、通常、適当な溶媒中で、約80〜約170℃、好ましくは約90〜約150℃の温度で1〜6時間程度、好ましくは1〜5時間程度行うことができる。
【0059】
上記反応における溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、n−ヘキサン等の炭化水素系化合物;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系化合物;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルアミルケトン等のケトン系化合物;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド系化合物;メタノール、エタノール、n−プロパノール、iso−プロパノール等のアルコール系化合物;フェニルカルビノール、メチルフェニルカルビノール等の芳香族アルキルアルコール類;エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル等のエーテルアルコール系化合物あるいはこれらの混合物等が挙げられる。
【0060】
キシレン−ホルムアルデヒド樹脂変性アミノ基含有エポキシ樹脂(B)
キシレン−ホルムアルデヒド樹脂変性アミノ基含有エポキシ樹脂(B)は、エポキシ当量が180〜2,500のエポキシ樹脂(b1)とフェノール性水酸基を有するキシレン−ホルムアルデヒド樹脂(b2)及びアミノ基含有化合物(b3)を反応させることによ
り得られる樹脂である。
【0061】
エポキシ樹脂(b1)
キシレン−ホルムアルデヒド樹脂変性アミノ基含有エポキシ樹脂(B)の製造において出発材料として用いられるエポキシ樹脂(b1)としては、塗膜の防食性等の観点から、特に、ポリフェノール化合物とエピハロヒドリン、例えば、エピクロルヒドリンとの反応により得られるエポキシ樹脂が好適である。
【0062】
該エポキシ樹脂の形成のために用いられるポリフェノール化合物としては、例えば、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−2,2−プロパン[ビスフェノールA]、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン[ビスフェノールF]、ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)メタン[水添ビスフェノールF]、2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパン[水添ビスフェノールA]、4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1−エタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1−イソブタン、ビス(4−ヒドロキシ−2もしくは3−tert−ブチル−フェニル)−2,2−プロパン、ビス(2−ヒドロキシナフチル)メタン、テトラ(4−ヒドロキシフェニル)−1,1,2,2−エタン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、フェノールノボラック、クレゾールノボラック等を挙げることができる。
【0063】
また、ポリフェノール化合物とエピクロルヒドリンとの反応によって得られるエポキシ樹脂としては、中でも、ビスフェノールAから誘導される下記式(7)で示されるものが好適である。
【0064】
【化9】

【0065】
式中、nは0〜8、好ましくは1〜7である。
【0066】
エポキシ樹脂(b1)は、一般に180〜2,500、好ましくは200〜2,000、さらに好ましくは400〜1,500の範囲内のエポキシ当量を有することができ、また、一般に少なくとも300、特に400〜4,000、さらに特に800〜2,500の範囲内の数平均分子量を有するものが適している。
【0067】
かかるエポキシ樹脂の市販品としては、例えば、ジャパンエポキシレジン(株)からjER828EL、jER1002、jER1004、jER1007なる商品名で販売されているものが挙げられる。
【0068】
フェノール性水酸基を有するキシレン−ホルムアルデヒド樹脂(b2)
キシレン−ホルムアルデヒド樹脂(b2)は、エポキシ基と反応することが可能なフェノール性水酸基を有しており、エポキシ樹脂(b1)の可塑化(変性)に貢献する成分である。
【0069】
このフェノール性水酸基を有するキシレン−ホルムアルデヒド樹脂(b2)は、例えば、キシレン及びホルムアルデヒドを、場合によりフェノール類と共に、酸性触媒の存在下に縮合反応させることにより製造することができる。上記のキシレンとしては、o−キシレン、m−キシレン、p−キシレン又はそれらの混合物を使用することができ、また、上記のホルムアルデヒドとしては、工業的に入手容易なホルマリン、パラホルムアルデヒド
、トリオキサン等のホルムアルデヒドを発生する化合物等を例示することができる。
【0070】
さらに、上記のフェノール類には、2又は3個の反応サイトを持つ1価もしくは2価のフェノール性化合物が包含され、具体的には、例えば、フェノール、クレゾール類(o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール)、パラ−オクチルフェノール、ノニルフェノール、ビスフェノールプロパン、ビスフェノールメタン、レゾルシン、ピロカテコール、ハイドロキノン、パラ−tert−ブチルフェノール、ビスフェノールスルホン、ビスフェノールエーテル、パラ−フェニルフェノール等が挙げられ、これらはそれぞれ単独で又は2種以上の組合せて用いることができる。この中で特に、フェノール及びクレゾール類が好適である。
【0071】
上記縮合反応に使用される酸性触媒としては、例えば、硫酸、塩酸、パラトルエンスルホン酸、シュウ酸等が挙げられるが、一般的には、特に硫酸が好適である。その使用量は、通常、ホルムアルデヒド水溶液中の水により希釈されるので、水溶液中の濃度として10〜50質量%の範囲内とすることができる。
【0072】
縮合反応は、例えば、反応系に存在するキシレン、フェノール類、水、ホルマリン等が還流する温度、通常、約80〜約100℃の範囲内の温度に加熱することにより行うことができ、通常、2〜6時間程度で終了させることができる。
【0073】
上記の条件下に、キシレンとホルムアルデヒド及びさらに必要に応じてフェノール類を酸性触媒の存在下で加熱反応させることによって、キシレン−ホルムアルデヒド樹脂を得ることができる。また、キシレン−ホルムアルデヒド樹脂は、予め製造されたキシレン−ホルムアルデヒド樹脂を場合によりフェノール類と酸性触媒の存在下で反応させることによっても得ることができる。
【0074】
かくして得られるキシレン−ホルムアルデヒド樹脂(b2)は、一般に20〜50,000mPa・s(25℃)、好ましくは25〜30,000mPa・s(25℃)、さらに好ましくは30〜15,000mPa・s(25℃)の範囲内の粘度を有することができ、そして一般に100〜50,000、特に150〜30,000、さらに特に200〜10,000の範囲内のフェノール性水酸基当量を有していることが好ましい。
【0075】
アミノ基含有化合物(b3)
エポキシ樹脂(b1)に反応せしめられるアミノ基含有化合物(b3)は、エポキシ樹脂基体にアミノ基を導入して、該エポキシ樹脂をカチオン化するためのカチオン性付与成分であり、アミノ基含有変性エポキシ樹脂(A)の製造に際して用いられるアミノ基含有化合物(A2)について例示したと同様のアミノ基含有化合物を用いることができる。
【0076】
本発明のカチオン電着塗料組成物において樹脂成分として使用されるキシレン−ホルムアルデヒド樹脂変性アミノ基含有エポキシ樹脂(B)は、エポキシ樹脂(b1)に、キシレン−ホルムアルデヒド樹脂(b2)及びアミノ基含有化合物(b3)をそれ自体既知の方法で付加反応させることにより製造することができる。
【0077】
エポキシ樹脂(b1)に対するキシレン−ホルムアルデヒド樹脂(b2)及びアミノ基含有化合物(b3)の反応は任意の順序で行うことができるが、エポキシ樹脂(b1)に対して、キシレン−ホルムアルデヒド樹脂(b2)及びアミノ基含有化合物(b3)を同時に反応させるのが好適である。
【0078】
上記の付加反応は、通常、適当な溶媒中で、約80〜約170℃、好ましくは約90〜約150℃の温度で1〜6時間程度、好ましくは1〜5時間程度行うことができる。上記
反応における溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、n−ヘキサン等の炭化水素系化合物;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系化合物;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルアミルケトン等のケトン系化合物;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド系化合物;メタノール、エタノール、n−プロパノール、iso−プロパノール等のアルコール系化合物;フェニルカルビノール、メチルフェニルカルビノール等の芳香族アルキルアルコール類;エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル等のエーテルアルコール系化合物あるいはこれらの混合物等が挙げられる。
【0079】
上記の付加反応における各反応成分の使用割合は、厳密に制限されるものではなく、本発明の電着塗料組成物の用途等に応じて適宜変えることができるが、エポキシ樹脂(b1)、キシレン−ホルムアルデヒド樹脂(b2)及びアミノ基含有化合物(b3)の3成分の合計固形分質量を基準にして以下の範囲内が適当である。
【0080】
エポキシ樹脂(b1):一般に50〜90質量%、好ましくは50〜85質量%、さら
に好ましくは53〜83質量%、
キシレン−ホルムアルデヒド樹脂(b2):一般に5〜45質量%、好ましくは6〜4
3質量%、さらに好ましくは6〜40質量%、
アミノ基含有化合物(b3):一般に5〜25質量%、好ましくは6〜20質量%、さ
らに好ましくは6〜18質量%。
【0081】
ブロック化ポリイソシアネート硬化剤(C)
以上に述べたアミノ基含有変性エポキシ樹脂(A)及びキシレン−ホルムアルデヒド樹脂変性アミノ基含有エポキシ樹脂(B)は、ブロックポリイソシアネート硬化剤(C)と組合せて使用することにより、熱硬化性のカチオン電着塗料組成物を調製することができる。
【0082】
上記のブロックポリイソシアネート硬化剤(C)は、ポリイソシアネート化合物とイソシアネートブロック剤とのほぼ化学理論量での付加反応生成物である。ブロック化ポリイソシアネート硬化剤(C)で使用されるポリイソシアネート化合物としては、それ自体既知のものを使用することができ、例えば、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、ジフェニルメタン−2,2’−ジイソシアネート、ジフェニルメタン−2,4’−ジイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、クルードMDI[ポリメチレンポリフェニルイソシアネート]、ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、メチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等の芳香族、脂肪族もしくは脂環族ポリイソシアネート化合物;これらのポリイソシアネート化合物の環化重合体もしくはビゥレット体;又はこれらの組合せを挙げることができる。
【0083】
防食性の観点から、特に、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、ジフェニルメタン−2,4’−ジイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、クルードMDI等の芳香族ポリイソシアネート化合物が好ましい。
【0084】
一方、前記イソシアネートブロック剤は、ポリイソシアネート化合物のイソシアネート基に付加してブロックするものであり、そして付加によって生成するブロックポリイソシアネート化合物は、常温においては安定であるが、塗膜の焼付け温度(通常約100〜約200℃)に加熱すると、ブロック剤が解離して遊離のイソシアネート基を再生しうるものであることが望ましい。
【0085】
ブロック化ポリイソシアネート硬化剤(C)で使用されるブロック剤としては、例えば、メチルエチルケトオキシム、シクロヘキサノンオキシム等のオキシム系化合物;フェノール、パラ−t−ブチルフェノール、クレゾール等のフェノール系化合物;n−ブタノール、2−エチルヘキサノール等の脂肪族アルコール類;フェニルカルビノール、メチルフェニルカルビノール等の芳香族アルキルアルコール類;エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル等のエーテルアルコール系化合物;ε−カプロラクタム、γ−ブチロラクタム等のラクタム系化合物等が挙げられる。
【0086】
カチオン電着塗料組成物
本発明のカチオン電着塗料組成物におけるアミノ基含有変性エポキシ樹脂(A)とキシレン−ホルムアルデヒド樹脂変性アミノ基含有エポキシ樹脂(B)及びブロック化ポリイソシアネート硬化剤(C)の配合割合は、上記成分(A)、(B)及び(C)の固形分合計質量を基準にして、成分(A)は5〜60質量%、好ましくは8〜50質量%、さらに好ましくは8〜40質量%;成分(B)は5〜60質量%、好ましくは10〜55質量%、さらに好ましくは15〜53質量%;そして成分(C)は10〜40質量%、好ましくは15〜35質量%、さらに好ましくは18〜35質量%の範囲内ですることができ、これらの割合でアミノ基含有変性エポキシ樹脂(A)とキシレン−ホルムアルデヒド樹脂変性アミノ基含有エポキシ樹脂(B)及びブロック化ポリイソシアネート硬化剤(C)を配合することにより、塗料安定性が良好で、且つカチオン電着塗料中の揮発性有機化合物を低減しても膜厚保持性に優れ、仕上り性及び合金化溶融亜鉛メッキ鋼板上の電着塗装適性に優れ、さらに塗膜の防食性に優れたカチオン電着塗料組成物を得ることができる。
【0087】
本発明のカチオン電着塗料組成物の調製に際しては、通常、まず、アミノ基含有変性エポキシ樹脂(A)とキシレン−ホルムアルデヒド樹脂変性アミノ基含有エポキシ樹脂(B)及びブロック化ポリイソシアネート硬化剤(C)に、必要に応じて、界面活性剤、表面調整剤等の各種添加剤や有機溶剤等を加え、十分に混合し、さらに、樹脂(A)及び/又は(B)を有機カルボン酸等で中和し、水溶化又は水分散化することによりエマルションを得る。上記中和には、それ自体既知の有機カルボン酸を用いることができるが、中でも、酢酸、ギ酸、乳酸又はこれらの混合物が好適である。次いで、得られるエマルションに、顔料分散ペーストを加え、水で樹脂固形分濃度や粘度等を調整することによって本発明のカチオン電着塗料組成物を調製することができる。
【0088】
上記の顔料分散ペーストは、着色顔料、防錆顔料、体質顔料等の顔料類をあらかじめ顔料分散用樹脂中に微細粒子状で分散したものであり、例えば、顔料分散用樹脂、中和剤及び顔料類を、例えば、ボールミル、サンドミル、ペブルミル等の分散混合機に仕込み、分散処理することにより調製することができる。
【0089】
上記顔料分散用樹脂としては、それ自体既知のものを使用することができ、例えば、水酸基及びカチオン性基を有する基体樹脂、高分子界面活性剤、3級アミン型エポキシ樹脂、4級アンモニウム塩型エポキシ樹脂、3級スルホニウム塩型エポキシ樹脂等が挙げられる。上記顔料分散用樹脂の使用量は、顔料類と顔料分散用樹脂の合計100質量部あたり、通常1〜150質量部、特に10〜100質量部の範囲内が好適である。
【0090】
上記顔料類としては、特に制限はなく、例えば、酸化チタン、カーボンブラック、ベンガラ等の着色顔料;クレー、マイカ、バリタ、炭酸カルシウム、シリカ等の体質顔料;リンモリブデン酸アルミニウム、トリポリリン酸アルミニウム、酸化亜鉛(亜鉛華)等の防錆顔料を配合することができる。これらの顔料類の配合量は、成分(A)、(B)及び(C)の合計固形分100質量部あたり、通常1〜100質量部、特に5〜75質量部、さらに特に10〜50質量部の範囲内が好ましい。
【0091】
また、本発明のカチオン電着塗料組成物には、被塗物の腐食抑制又は防錆を目的として、ビスマス化合物を配合することができる。該ビスマス化合物としては、例えば、酸化ビスマス、水酸化ビスマス、塩基性炭酸ビスマス、硝酸ビスマス、ケイ酸ビスマス、有機酸ビスマス(例えば、乳酸ビスマス)等を挙げることができる。
【0092】
さらに、本発明のカチオン電着塗料組成物には、塗膜硬化性の向上を目的として、ジブチル錫ジベンゾエート、ジオクチル錫オキサイド、ジブチル錫オキサイド等の有機錫化合物を配合することができるが、前記酸化亜鉛(亜鉛華)等の防錆顔料及び/又はビスマス化合物を、適量及び/又は微細化して用いることによって、これらの有機錫化合物を使用せずに、塗膜硬化性の向上を図ることもできる。
【0093】
本発明のカチオン電着塗料組成物には有機溶剤を含ませることもできる。使用し得る有機溶剤としては、例えば、メチルアルコール(水溶解度:自由混合)、エチルアルコール(水溶解度:自由混合)、n−ブチルアルコール(水溶解度:7.7質量%)、イソプロピルアルコール(水溶解度:自由混合)、2−エチルヘキサノール(水溶解度:0.07)、ベンジルアルコール(水溶解度:3.8質量%)、エチレングリコール(水溶解度:自由混合)、プロピレングリコール(水溶解度:自由混合)等のアルコール系溶剤;エチレングリコールモノエチルエーテル(水溶解度:自由混合)、エチレングリコールモノブチルエーテル(水溶解度:自由混合)、エチレングリコールモノヘキシルエーテル(水溶解度:0.99質量%)、エチレングリコールモノ2−エチルヘキシルエーテル(水溶解度:0.09質量%)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(水溶解度:自由混合)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(水溶解度:自由混合)、プロピレングリコールモノフェニルエーテル(水溶解度:不溶)、3−メチル−3−メトキシブタノール(水溶解度:自由混合)、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(水溶解度:自由混合)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(水溶解度:自由混合)等のエーテル系溶剤;アセトン(水溶解度:自由混合)、メチルイソブチルケトン(水溶解度:2.0質量%)、シクロヘキサノン(水溶解度:5.0質量%)、イソホロン(水溶解度:1.2質量%)、アセチルアセトン(水溶解度:12.5質量%)等のケトン系溶剤;エチレングルコールモノエチルエーテルアセテート(水溶解度:22.9質量%)、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート(水溶解度:0.9質量%)等のエステル系溶剤、あるいはこれらの混合物が挙げられる。
【0094】
カチオン電着塗料組成物中の揮発性有機化合物を低減しても、膜厚保持性に優れ、且つ仕上り性、合金化溶融亜鉛メッキ鋼板上の電着塗装適性に優れたカチオン電着塗料組成物を得ることができるという観点から、本発明のカチオン電着塗料組成物は、溶解性パラメーターが8〜10で且つ水溶解度が95質量%以上である有機溶剤(D)の含有量が、本発明のカチオン電着塗料組成物から調製されるカチオン電着塗料浴の総質量を基準にして、1.0質量%以下、好ましくは0.5質量%以下となり、且つカチオン電着塗料浴の有機溶剤の総合計量が2.0質量%以下、好ましくは1.5質量%以下となるような割合で有機溶剤を含有することが好ましい。
【0095】
上記有機溶剤(D)として、具体的には、例えば、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等が挙げられる。
【0096】
また、本発明のカチオン電着塗料組成物が目的とする有機溶剤量の低減(低VOC化)を達成するためには、エマルションを脱溶剤することが好適である。脱溶剤をすることにより、カチオン電着塗料浴の総質量を基準にして、溶解性パラメーター8〜10であり且つ水溶解度が95質量%以上である有機溶剤(D)の含有量が1.0質量%以下で、且つカチオン電着塗料浴中の有機溶剤の総合計量が2.0質量%以下とすることができる。
【0097】
塗装
本発明のカチオン電着塗料組成物は、電着可能なものであれば特に制限はなく、任意の被塗物に塗装することができ、被塗物として、具体的には、例えば、冷延鋼板、合金化溶融亜鉛めっき鋼板、電気亜鉛めっき鋼板、電気亜鉛−鉄二層めっき鋼板、有機複合めっき鋼板、Al素材、Mg素材等及びこれらの金属板を必要に応じてアルカリ脱脂等の表面洗浄化処理した後、リン酸塩化成処理、クロメート処理等の表面処理を行ったもの等の金属鋼板;これら金属鋼板を用いて加工された自動車ボディ、2輪車部品、家庭用機器、その他の機器等が挙げられる。
【0098】
カチオン電着塗料組成物は、電着塗装によって所望の被塗物表面に塗装することができる。カチオン電着塗装は、一般には、脱イオン水等で希釈して固形分濃度が通常約5〜約40質量%、好ましくは約8〜約25質量%の範囲内とし、さらにpHを通常5.5〜9.0、特に5.8〜7.5の範囲内に調整した本発明の電着塗料組成物からなる電着浴を、通常、浴温約15〜約35℃に調整し、負荷電圧100〜400V、好ましくは150〜380Vの条件で被塗物を陰極として通電することによって行うことができる。電着塗装後、通常、被塗物に余分に付着したカチオン電着塗料を落とすために、限外濾過液(UF濾液)、逆浸透透過水(RO水)、工業用水、純水等で十分に水洗する。
【0099】
電着塗膜の膜厚は、特に制限されるものではないが、一般には、硬化塗膜に基づいて5〜40μm、特に12〜30μmの範囲内が好適である。また、塗膜の焼き付けは、電着塗膜を、例えば、電気熱風乾燥機、ガス熱風乾燥機等の加熱乾燥設備を用いて、塗装物表面の温度で約110℃〜約200℃、好ましくは約140〜約180℃の温度で、10分間〜180分間程度、好ましくは20分間〜50分間程度加熱することにより行うことができ、これによって、電着塗膜を硬化させることができ、本発明のカチオン電着塗料組成物で塗装された物品を得ることができる。
【実施例】
【0100】
以下、製造例、実施例及び比較例により、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。各例中の「部」は質量部、「%」は質量%を示す。
【0101】
アミノ基含有変性エポキシ樹脂(A)の製造
製造例1:基体樹脂No.1の製造例
温度計、還流冷却器及び攪拌機を備えた内容積2リットルのフラスコに、デナコールEX−821(注1)185部、jER828EL(注4)950部、ビスフェノールA 456部及びテトラブチルアンモニウムブロマイド0.8部を加え、160℃でエポキシ当量が800になるまで反応させた。
【0102】
次に、メチルイソブチルケトン359部を加え、次いで、ジエタノールアミン150部及びジエチレントリアミンのメチルイソブチルケトンのケチミン化物127部(純度84%、メチルイソブチルケトン溶液)を加えて120℃で4時間反応させ、樹脂固形分80%のアミノ基含有変性エポキシ樹脂である基体樹脂No.1溶液を得た。基体樹脂No.1はアミン価が69mgKOH/gであり且つ数平均分子量が2,400であった。
【0103】
製造例2:基体樹脂No.2の製造例
温度計、還流冷却器及び攪拌機を備えた内容積2リットルのフラスコに、デナコールEX−931(注2)471部、jER828EL(注4)950部、ビスフェノールA 456部及びテトラブチルアンモニウムブロマイド0.8部を加え、160℃でエポキシ当量が950になるまで反応させた。
【0104】
次に、メチルイソブチルケトン430部を加え、次いで、ジエタノールアミン150部及びジエチレントリアミンのメチルイソブチルケトンのケチミン化物127部(純度84%、メチルイソブチルケトン溶液)を加えて120℃で4時間反応させ、樹脂固形分80%のアミノ基含有変性エポキシ樹脂である基体樹脂No.2溶液を得た。基体樹脂No.2はアミン価が60mgKOH/gであり且つ数平均分子量が2,500であった。
【0105】
製造例3:基体樹脂No.3の製造例
温度計、還流冷却器及び攪拌機を備えた内容積2リットルのフラスコに、グリシエールBPP−350(注3)340部、jER828EL(注4)950部、ビスフェノールA 456部及びテトラブチルアンモニウムブロマイド0.8部を加え、160℃でエポキシ当量が900になるまで反応させた。
【0106】
次に、メチルイソブチルケトン400部を加え、次いで、ジエタノールアミンを150部及びジエチレントリアミンのメチルイソブチルケトンのケチミン化物127部(純度84%、メチルイソブチルケトン溶液)を加えて120℃で4時間反応させ、樹脂固形分80%のアミノ基含有変性エポキシ樹脂である基体樹脂No.3溶液を得た。基体樹脂No.3はアミン価が64mgKOH/gであり且つ数平均分子量2,500であった。
【0107】
表1に製造例1〜3の基体樹脂No.1〜No.3の配合内容及び特数を示す。
【0108】
【表1】

【0109】
(注1)デナコールEX−821: ナガセケムテックス社製、商品名、エポキシ樹脂(ジエポキシ化合物(a1))、エポキシ当量185。
(注2)デナコールEX−931: ナガセケムテックス社製、商品名、エポキシ樹脂(ジエポキシ化合物(a1))、エポキシ当量471。
(注3)グリシエールBPP−350: 三洋化成工業社製、商品名、エポキシ樹脂(ジエポキシ化合物(a1))、エポキシ当量340。
(注4)jER828EL: ジャパンエポキシレジン社製、商品名、エポキシ樹脂(a2)、エポキシ当量190、数平均分子量380。
【0110】
キシレン−ホルムアルデヒド樹脂変性アミノ基含有エポキシ樹脂(B)の製造
製造例4:キシレン−ホルムアルデヒド樹脂の製造
温度計、還流冷却器及び撹拌機を備えた内容積2リットルのセパラブルフラスコに、50%ホルマリン480部、フェノール110部、98%工業用硫酸202部及びメタキシレン424部を仕込み、84〜88℃で4時間反応させた。
【0111】
反応終了後、静置して樹脂相と硫酸水相とを分離した後、樹脂相を3回水洗し、20〜30mmHg/120〜130℃の条件で20分間未反応メタキシレンをストリッピングして、粘度が1050mPa・s(25℃)のフェノール変性されたキシレン−ホルムアルデヒド樹脂480部を得た。
【0112】
製造例5:基体樹脂No.4の製造例
フラスコに、jER828EL(注4)1140部、ビスフェノールA 456部及びジメチルベンジルアミン0.2部を加え、130℃でエポキシ当量が820になるまで反応させた。
【0113】
次に、メチルイソブチルケトンを420部加え、次いで、製造例4で得たキシレン−ホルムアルデヒド樹脂300部を加え、次いで、ジエタノールアミン95部及びジエチレントリアミンのメチルイソブチルケトンのケチミン化物127部(純度84%、メチルイソブチルケトン溶液)を加えて120℃で4時間反応させ、樹脂固形分80%のアミノ基含有変性エポキシ樹脂である基体樹脂No.4溶液を得た。基体樹脂No.4はアミン価が47mgKOH/gであり且つ数平均分子量が2,500であった。
【0114】
ブロック化ポリイソシアネート硬化剤の製造
製造例6:硬化剤の製造例
反応容器中に、コスモネートM−200(商品名、三井化学社製、クルードMDI)270部及びメチルイソブチルケトン127部を加え70℃に昇温した。この中にエチレングリコールモノブチルエーテル236部を1時間かけて滴下して加え、その後、100℃に昇温し、この温度を保ちながら、経時でサンプリングし、赤外線吸収スペクトル測定にて未反応のイソシアナト基の吸収がなくなったことを確認し、樹脂固形分80%の硬化剤を得た。
【0115】
エマルションの製造
製造例7:エマルションNo.1の製造例
製造例1で得られた基体樹脂No.1 12.5部(固形分10部)、製造例5で得られた基体樹脂No.4 75部(固形分60部)及び製造例6で得られた硬化剤 37.5部(固形分30部)を混合し、さらに10%酢酸13部を添加して均一に攪拌した後、脱イオン水156部を強く攪拌しながら約15分間を要して滴下してエマルションを得た。
【0116】
次いで、得られたエマルションを35℃、減圧下(50mmHg以下)にて、有機溶剤の抜き取り(いわゆる、脱ソルベント)を行って、エマルション中のメチルイソブチルケトンの含有量を1質量%以下とした。次に、該エマルション中にエチレングリコールモノブチルエーテル3部を加え、脱イオン水にて固形分を調整し、固形分34%のエマルションNo.1を得た。
【0117】
製造例8〜23:エマルションNo.2〜No.17の製造例
表2に記載の配合内容とする以外は、製造例7と同様にして、エマルションNo.2〜No.17を得た。
【0118】
【表2】

【0119】
製造例24:顔料分散用樹脂の製造例
jER828EL(注4参照)1010部に、ビスフェノールA 390部、プラクセル212(ポリカプロラクトンジオール、ダイセル化学工業株式会社、商品名、重量平均分子量約1,250)240部及びジメチルベンジルアミン0.2部を加え、130℃でエポキシ当量が約1,090になるまで反応させた。
【0120】
次に、ジメチルエタノールアミン134部及び90%の乳酸水溶液150部を加え、120℃で4時間反応させた。次いで、メチルイソブチルケトンを加えて固形分を調整し、固形分60%のアンモニウム塩型樹脂系の顔料分散用樹脂を得た。上記分散用樹脂のアンモニウム塩濃度は0.78mmol/gであった。
【0121】
製造例25:顔料分散ペーストNo.1の製造例
製造例24で得た固形分60%の顔料分散用樹脂8.3部(固形分5部)に、酸化チタン14.5部、精製クレー7.0部、カーボンブラック0.3部、ジオクチル錫オキサイド1部、水酸化ビスマス1部及び脱イオン水20.3部を加え、ボールミルにて20時間分散し、固形分55%の顔料分散ペーストNo.1を得た。
【0122】
製造例26:顔料分散ペーストNo.2の製造例
製造例24で得た固形分60%の顔料分散用樹脂8.3部(固形分5部)に、酸化チタン14.5部、精製クレー6.0部、カーボンブラック0.3部、酸化亜鉛3.0部及び脱イオン水20.3部を加え、ボールミルにて20時間分散し、固形分55%の顔料分散ペーストNo.2を得た。
【0123】
カチオン電着塗料の製造
実施例1
製造例7で得たエマルションNo.1 294部(固形分100部)に、製造例20で得た55%の顔料分散ペーストNo.1 52.4部(固形分28.8部)及び脱イオン水297.6部を加え、固形分20%のカチオン電着塗料No.1を製造した。
【0124】
実施例2〜10
実施例1と同様にして、表3で示す配合内容にてカチオン電着塗料No.2〜No.10を製造した。
【0125】
【表3】

【0126】
比較例1〜8
実施例1と同様にして、表4で示す配合内容にてカチオン電着塗料No.11〜No.18を製造した。
【0127】
【表4】

【0128】
試験板の作製
実施例及び比較例で得た各カチオン電着塗料を用い、パルボンド#3020(日本パーカライジング社製、商品名、リン酸亜鉛化成処理剤)を施した冷延鋼板(0.8mm×150mm×70mm)、又は同様の化成処理を施した合金化溶融亜鉛メッキ鋼板(0.8mm×150mm×70mm)を被塗物として電着塗装し、試験板を作製した。得られた各試験板について塗装性能試験を行った。その結果を下記表5及び表6に示す。
【0129】
【表5】

【0130】
【表6】

【0131】
(注6)浴中の有機溶剤量の含有量:
各カチオン電着塗料をマイクロシリンジで10μlを採取し、GC−15A(島津製作所製、商品名、ガスクロマトグラフィー)に注入して、下記の条件で測定した。
条件: カラムWAX−10(スペルコ社製、商品名)、カラム温度は5℃/min昇
温にて、200℃まで、キャリアガスは、Heにて測定した。
(注7)合金化溶融亜鉛メッキ鋼板の電着塗装適性:
パルボンド#3020(日本パーカライジング社製、商品名、リン酸亜鉛処理剤)で化成処理した0.8×150×70mmの合金化溶融亜鉛メッキ鋼板を電着塗料浴(30℃)に陰極として浸漬し、210Vにて通電時間を調整して電着塗装し、20μmの厚さの電着塗膜を得た。得られた電着塗膜を170℃で20分間焼付けて硬化させた後のテストピースについて、10cm×10cmの面積中のピンホールの数を数え、以下の基準で評価する。
◎はピンホールの発生なし、
○は小さいピンホールが1個発生が認められるが、中塗り塗膜にて隠蔽できる程度で
問題なし、
△はピンホールが2〜5個発生、
×はピンホールが10個以上発生。
(注8)防食性:
パルボンド#3020(日本パーカライジング社製、商品名、リン酸亜鉛処理剤)で化成処理した0.8×150×70mmの冷延鋼板を各カチオン電着塗料に浸漬して電着塗装を行った。次いで、熱風乾燥機によって170℃で20分間焼き付けて、硬化膜厚20μmの試験板を得た。
試験板の素地に達するように塗膜にカッターナイフでクロスカット傷を入れ、これをJIS Z−2371に準じて、35℃ソルトスプレー試験を840時間行い、カット部からの錆、フクレ幅及び一般部の塗面状態(ブリスター)によって以下の基準で評価した。
◎は錆、フクレの最大幅がカット部より2.0mm以下(片側)、
○は錆、フクレの最大幅がカット部より2.0を超え、且つ3.0mm以下(片側)

△は錆、フクレの最大幅がカット部より3.0mmを超え、且つ3.5mm以下(片
側)、
×は錆、フクレの最大幅がカット部より3.5mmを超える。
(注9)耐暴露性:
上記防食性と同様の条件で作製した各試験板に、WP−300(関西ペイント株式会社製、商品名、水性中塗り塗料)を、硬化膜厚が25μmとなるようにスプレー塗装した後、電気熱風乾燥器で140℃で30分焼き付けを行なった。さらに、上記中塗塗膜上に、ネオアミラック6000(関西ペイント株式会社製、商品名、上塗り塗料)を、硬化膜厚
が35μmとなるようにスプレー塗装した後、電気熱風乾燥器で140℃で30分間焼き付け、暴露試験塗板を作製した。
得られた暴露試験塗板上の塗膜に、素地に達するようにナイフでクロスカットキズを入れ、千葉県千倉町(海岸部)で水平にて1年間暴露した後、ナイフ傷からの錆、フクレ幅によって以下の基準で評価した。
各評価については、錆又はフクレの最大幅が、
◎は錆又はフクレの最大幅がカット部から片側2mm未満、
○は錆又はフクレの最大幅がカット部から片側2mm以上、3mm未満、
△は錆又はフクレの最大幅がカット部から片側3mm以上、4mm未満、
×は錆又はフクレの最大幅がカット部から片側4mm以上。
(注10)仕上り性:
パルボンド#3020(日本パーカライジング社製、商品名、リン酸亜鉛処理剤)で化成処理した0.8×150×70mmの冷延鋼板を、各カチオン電着塗料浴中に浸漬し、電着塗装を行って得た塗膜を熱風乾燥機によって170℃で20分間焼き付けた。得られた試験塗板の電着塗膜の表面粗度Ra値を、サーフテスト301(株式会社ミツトヨ社製、商品名、表面粗さ測定機)で測定し、以下の基準で評価した。
○はRa値が0.25未満、
△はRa値が0.25以上で、且つ0.35未満、
×はRa値が0.35を越える。
(注11)塗料安定性(水分散性):
各カチオン電着塗料を30℃にて30日間容器を密閉して攪拌した。その後、カチオン電着塗料を400メッシュ濾過網にて全量濾過し、残さ量(mg/L)を測定し、カチオン電着塗料の水分散性を以下の基準で評価した。
◎は5mg/L未満、
○は5mg/L以上で、且つ10mg/L未満
△は10mg/L以上で、且つ15mg/L未満
×は15mg/L以上、を示す。
(注12)膜厚保持性:
パルボンド#3020(日本パーカライジング社製、商品名、リン酸亜鉛処理剤)で化成処理した0.8×150×70mmの冷延鋼板を、各カチオン電着塗料浴中に浸漬し、250V−3分間電着塗装を行って塗膜の厚さ(1)を測定した。次いで、各カチオン電着塗料を30℃にて10日間容器を開放して攪拌した。その後、別の冷延鋼板を各カチオン電着塗料浴中に浸漬し、250V−3分間電着塗装を行って塗膜の厚さ(2)を測定した。
◎は膜厚(1)と膜厚(2)の差が1μm未満である、
○は膜厚(1)と膜厚(2)の差が1μm以上で且つ4μm未満である、
△は膜厚(1)と膜厚(2)の差が4μm以上で且つ7μm未満である、
×は膜厚(1)と膜厚(2)の差が7μmを超える。
【産業上の利用可能性】
【0132】
本発明のカチオン電着塗料組成物によれば、カチオン電着塗料中の揮発性有機化合物を低減しても、合金化溶融亜鉛メッキ鋼板上の電着塗装適性、防食性に優れる塗装物品を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)一般式(1):
【化1】

式中、m個又はn個のRは同一又は相異なり、それぞれ水素原子又は炭素数1〜6の
アルキル基を表し、m及びnはそれぞれ0又は整数であり且つm+n=1〜20である

で示されるジエポキシ化合物(a11)及び一般式(2):
【化2】

式中、y個のRは同一又は相異なり、それぞれ水素原子又は炭素数1〜6のアルキル
基を表し、xは1〜9の整数であり、yは1〜50の整数である、
で示されるジエポキシ化合物(a12)よりなる群から選ばれるジエポキシ化合物(a1)、エポキシ当量が170〜500のエポキシ樹脂(a2)及びビスフェノール化合物(a3)を反応させることにより得られる変性エポキシ樹脂(A1)をアミノ基含有化合物(A2)と反応させることにより得られるアミノ基含有変性エポキシ樹脂、
(B)エポキシ当量が180〜2,500のエポキシ樹脂(b1)とフェノール性水酸基を有するキシレン−ホルムアルデヒド樹脂(b2)及びアミノ基含有化合物(b3)を反応させることにより得られるキシレン−ホルムアルデヒド樹脂変性アミノ基含有エポキシ樹脂、ならびに
(C)ブロック化ポリイソシアネート硬化剤
を含んでなり、上記成分(A)、(B)及び(C)の固形分合計質量を基準にして、成分(A)を5〜60質量%、成分(B)を5〜60質量%、そして成分(C)を10〜40質量%含有することを特徴とするカチオン電着塗料組成物。
【請求項2】
式(1)において、Rが水素原子又はメチル基である請求項1に記載のカチオン電着塗料組成物。
【請求項3】
式(2)において、Rが水素原子又はメチル基である請求項1に記載のカチオン電着塗料組成物。
【請求項4】
エポキシ樹脂(a2)が340〜1,500の範囲内の数平均分子量を有するものである請求項1に記載のカチオン電着塗料組成物。
【請求項5】
ビスフェノール化合物(a3)がビス(4−ヒドロキシフェニル)−2,2−プロパン及びビス(4−ヒドロキシフェニル)メタンよりなる群から選ばれる請求項1に記載のカチオン電着塗料組成物。
【請求項6】
ジエポキシ化合物(a1)とエポキシ樹脂(a2)とビスフェノール化合物(a3)の固形分合計質量を基準にして、ジエポキシ化合物(a1)1〜35質量%、エポキシ樹脂(a2)10〜80質量%及びビスフェノール化合物(a3)10〜60質量%を反応させる請求項1に記載のカチオン電着塗料組成物。
【請求項7】
変性エポキシ樹脂(A1)とアミノ基含有化合物(A2)の合計固形分質量を基準にして、変性エポキシ樹脂(A1)65〜95質量%をアミノ基含有化合物(A2)5〜35質量%と反応させる請求項1に記載のカチオン電着塗料組成物。
【請求項8】
エポキシ樹脂(b1)が400〜4,000の範囲内の数平均分子量を有するものである請求項1に記載のカチオン電着塗料組成物。
【請求項9】
キシレン−ホルムアルデヒド樹脂(b2)が20〜50,000mPa・s(25℃)の範囲内の粘度を有する請求項1に記載のカチオン電着塗料組成物。
【請求項10】
キシレン−ホルムアルデヒド樹脂(b2)が100〜50,000の範囲内のフェノール性水酸基当量を有する請求項1に記載のカチオン電着塗料組成物。
【請求項11】
エポキシ樹脂(b1)、キシレン−ホルムアルデヒド樹脂(b2)及びアミノ基含有化合物(b3)の3成分の合計固形分質量を基準にして、エポキシ樹脂(b1)50〜90質量%、キシレン−ホルムアルデヒド樹脂(b2)5〜45質量%及びアミノ基含有化合物(b3)5〜25質量%を反応させる請求項1に記載のカチオン電着塗料組成物。
【請求項12】
成分(A)、(B)及び(C)の固形分合計質量を基準にして、成分(A)を8〜50質量%、成分(B)を10〜55質量%、そして成分(C)を15〜35質量%含有する請求項1に記載のカチオン電着塗料組成物。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか1項に記載のカチオン電着塗料組成物で塗装された物品。

【公開番号】特開2009−84567(P2009−84567A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−232183(P2008−232183)
【出願日】平成20年9月10日(2008.9.10)
【出願人】(000001409)関西ペイント株式会社 (815)
【Fターム(参考)】