説明

カテーテルセットおよびカテーテルセットの製造方法

【課題】カテーテルの挿入性を向上させることのできるカテーテルセットおよびカテーテルセットの製造方法を提供すること。
【解決手段】カテーテルセットAを、脱血用内腔と送血用内腔を備えたカテーテル10と、スタイレット20,25と、挿入抵抗減少部材とで構成した。また、スタイレット20の外周部に溝部を形成して、挿入抵抗減少部材を、スタイレット20の溝部に挿通可能な長尺部24aと、長尺部の先端に連結されスタイレット20,25の先端部を覆うことによりカテーテル10の先端とスタイレット20,25との間の段差を小さくするコイル状の被覆部とで構成した。そして、被覆部が伸長したときに、脱血用内腔内を挿通できるようにした。また、スタイレット25に、ガイドワイヤ28を通すための挿通孔を形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カテーテルの挿入性を向上させることができるカテーテルセットおよびカテーテルセットの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、血液透析を行う場合には、脱血用内腔と送血用内腔とを備えた透析用のカテーテルの先端部を患者の血管に留置して、血管を流れる血液を脱血用内腔から抜き取り、浄化したのちの血液を送血用内腔から血管内に戻すことが行われている(例えば、特許文献1参照)。このカテーテル(トリプルルーメンカテーテル)は、隔壁を隔てて形成された第1のルーメンと第2のルーメンとを備えており、第2のルーメンの先端開口は、第1のルーメンの先端開口よりも基部側に1〜11cm隔てて設けられている。また、第1のルーメンの先端側部分の側部には、側孔が形成されており、隔壁の内部には先端が側孔に向かって延びる第3のルーメンが設けられている。
【0003】
第1のルーメンは返血(送血)ルーメンとして用いられ、第2ルーメンは脱血ルーメンとして用いられる。そして、カテーテルの先端部を患者の血管に留置する際には、まず、ガイドワイヤの先端部を血管内に挿入するとともに、第1のルーメンにスタイレットを挿入する。ついで、スタイレットの内部にガイドワイヤを後部側から挿入しながらカテーテルとスタイレットを体内に挿し込んでいくことにより、カテーテルの先端部を血管内に挿入して留置する。つぎに、スタイレットをカテーテルから抜去し、さらにガイドワイヤをカテーテルから抜去する。これによって、カテーテルを留置するための操作が終了し、続いて血液透析が開始される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−346183号公報
【発明の概要】
【0005】
しかしながら、前述したカテーテルを患者の体に挿し込む際には、第2のルーメンの先端開口は開口したままで、第1のルーメンの内部にはスタイレットが挿入されるがその先端部にはカテーテルの軸方向に直交する面が形成される。このため、第1のルーメンと第2のルーメンとの先端開口がそれぞれ抵抗となってカテーテルの挿入抵抗が大きくなり操作性がよくないという問題がある。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みなされたもので、その目的は、カテーテルの挿入性を向上させることのできるカテーテルセットおよびカテーテルセットの製造方法を提供することにある。
【0007】
前述した目的を達成するため、本発明に係るカテーテルセットの構成上の特徴は、一対の内腔を備えたカテーテルと、先端部をカテーテルの先端開口から突出させた状態でカテーテルの一対の内腔にそれぞれ挿入される可撓性を備えた一対のスタイレットと、一対のスタイレットの先端部を覆うことができる可撓性を備えた挿入抵抗減少部材とからなるカテーテルセットであって、一対のスタイレットのうちの一方のスタイレットの外周部または内部に、一方のスタイレットの軸方向に沿って延びる貫通路を形成して、挿入抵抗減少部材を、一方のスタイレットの貫通路に挿通可能な長尺部と、長尺部の先端に連結され一対のスタイレットの先端部を覆うことによりカテーテルの先端と一対のスタイレットとの間の段差を小さくするコイル状の被覆部とで構成し、被覆部をカテーテルの先端側に位置させて長尺部をカテーテルの内腔に挿入した状態から長尺部をカテーテルの基端側に引っ張ったときに、被覆部が伸長してカテーテルの内腔を挿通可能になることにある。
【0008】
本発明に係るカテーテルセットは、一対の内腔を備えたカテーテルと、一対のスタイレットと、挿入抵抗減少部材とを備えている。そして、一対のスタイレットのうちの一方のスタイレットの外周部または内部には、軸方向に沿って延びる貫通路が形成され、挿入抵抗減少部材は、一方のスタイレットの貫通路に挿通可能な長尺部と、一対のスタイレットの先端部を覆うことのできるコイル状の被覆部とからなる可撓性を有する線状部材で構成されている。
【0009】
このため、一対のスタイレットをカテーテルの一対の内腔にそれぞれ挿入してその先端部をカテーテルの先端部から突出させ、さらに、一方のスタイレットの貫通路に挿入抵抗減少部材の長尺部を挿入して、カテーテルの先端部から突出した一対のスタイレットの先端部分に被覆部を被せることによりカテーテルの先端と一対のスタイレットとの間の段差を小さくすることができる。このように、カテーテルの先端と一対のスタイレットとの間の段差が小さくなることにより、カテーテルの挿入性が向上する。すなわち、一対のスタイレットは、カテーテルの腰を強くしてカテーテルの操作性を向上させるものであり、挿入抵抗減少部材は、カテーテルの挿入抵抗を小さくして挿入性を向上させるものである。
【0010】
この場合、挿入抵抗減少部材としては、断面形状が円形の樹脂材料からなる細径の線材を用いることが好ましく、このように構成された挿入抵抗減少部材の被覆部で、少なくともカテーテルの先端から突出する一対のスタイレットのカテーテル側部分の外周を覆う。これによって、カテーテルの先端側に滑らかな外周面を形成することができる。また、挿入抵抗減少部材は、可撓性を有しているため、カテーテルを患者の体内に留置したのちに、カテーテルから挿入抵抗減少部材を抜き取る際には、長尺部をカテーテルの基端側に引っ張ることにより、被覆部を順次伸長させて長尺部とともに抜き取っていくことができる。
【0011】
なお、貫通路を、一方のスタイレットの内部に形成する場合には、貫通路の先端側開口を一方のスタイレットの先端よりもやや基端側の外周面に位置させる。これによって、被覆部で一対のスタイレットの先端部分を被覆し易くなる。また、被覆部が伸長したときには、各内腔を挿通できるが、内腔だけでなく貫通路内も挿通できるように構成することがより好ましい。これによると、一方のスタイレットをカテーテルから抜き取る前に、挿入抵抗減少部材を一方のスタイレットから抜き取ることができる。
【0012】
また、本発明に係るカテーテルセットの他の構成上の特徴は、一対のスタイレットのうちの他方のスタイレットに、ガイドワイヤを通すための挿通孔を他方のスタイレットの長手方向に沿って形成したことにある。これによると、カテーテルを患者の体に挿入する際に、先端が患者の体に挿されたガイドワイヤに沿ってカテーテルを挿入していくことができるためカテーテルの患者の体への挿入が容易になる。
【0013】
また、本発明に係るカテーテルセットのさらに他の構成上の特徴は、一対の内腔が脱血用内腔と送血用内腔とであり、カテーテルが血液透析用のカテーテルであることにある。これによると、カテーテルを患者の血管に留置するための操作が容易になる血液透析用のカテーテルセットを得ることができる。
【0014】
また、本発明に係るカテーテルセットの製造方法の構成上の特徴は、一対の内腔を備えたカテーテルと、カテーテルの内腔にそれぞれ挿入される可撓性を備えた一対のスタイレットと、一対のスタイレットの先端部を覆うことができる可撓性を備えた挿入抵抗減少部材とからなり、一対のスタイレットのうちの一方のスタイレットの外周部または内部に、一方のスタイレットの軸方向に沿って延びる貫通路が形成されたカテーテルセットの製造方法であって、一対のスタイレットの先端部をカテーテルの先端から突出させた状態で、一対のスタイレットをカテーテルの一対の内腔にそれぞれ挿入するスタイレット挿入工程と、挿入抵抗減少部材を、長尺部と、長尺部の先端に連結されたコイル状の被覆部とで構成し、長尺部を一方のスタイレットの先端側から貫通路に挿入して、被覆部をカテーテルの先端から突出する一対のスタイレットの先端部に被せることによりカテーテルの先端と一対のスタイレットとの間の段差を小さくする被覆工程とを備え、被覆部をカテーテルの先端側に位置させて長尺部をカテーテルの内腔に挿入した状態から長尺部をカテーテルの基端側に引っ張って被覆部を伸長させたときに、被覆部がカテーテルの内腔を挿通可能になるようにしたことにある。
【0015】
本発明によると、一対のスタイレットによってカテーテルの腰を強くしてカテーテルの操作性を向上させ、挿入抵抗減少部材によってカテーテルの挿入抵抗を小さくすることのできるカテーテルセットを得ることができる。
【0016】
本発明に係るカテーテルセットの製造方法の他の構成上の特徴は、一対のスタイレットのうちの他方のスタイレットに、ガイドワイヤを通すための挿通孔を他方のスタイレットの長手方向に沿って形成したことにある。これによると、カテーテルを、一対のスタイレットと、挿入抵抗減少部材と、ガイドワイヤとを用いて患者の体に挿入することができるカテーテルセットを得ることができる。
【0017】
また、本発明は、一対の内腔を備えたカテーテルと、前記カテーテルの内腔にそれぞれ挿入される一対のスタイレットと、挿入抵抗減少部材とからなり、前記一対のスタイレットのうちの一方のスタイレットの外周部または内部に前記一方のスタイレットの軸方向に沿って延びる貫通路が形成され、前記挿入抵抗減少部材が、前記貫通路を挿通可能な長尺部と、前記長尺部の先端に連結され前記一対のスタイレットの先端部を覆うことができるコイル状の被覆部とで構成されたカテーテルセットの使用方法であって、前記カテーテルセットを先端側から人体の血管に挿入する挿入工程と、前記一対のスタイレットを前記カテーテルの基端側に引っ張って前記カテーテルから抜き取るスタイレット抜取工程と、前記挿入抵抗減少部材を後方に引っ張って前記被覆部を伸長させながら前記カテーテルの内腔を通過させて抜き取る挿入抵抗減少部材抜取工程とを備えたカテーテルセットの使用方法とすることもできる。
【0018】
この場合、前記一対のスタイレットのうちの他方のスタイレットに、ガイドワイヤを通すための挿通孔を前記他方のスタイレットの長手方向に沿って形成し、前記カテーテルセットを人体の血管に挿入する際に、先端部を血管に挿した状態の前記ガイドワイヤに沿って前記カテーテルセットを挿入するようにすることにより、カテーテルの挿入性をさらに向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態に係るカテーテルセットを示した斜視図である。
【図2】カテーテルセットが備えるカテーテルを示しており、(a)は平面図、(b)は(a)に示したカテーテルの先端を示した正面図、(c)は側面図である。
【図3】カテーテルセットが備える一方のスタイレットを示しており、(a)は側面図、(b)は正面図である。
【図4】カテーテルセットが備える挿入抵抗減少部材を示した側面図である。
【図5】カテーテルセットが備える他方のスタイレットを示しており、(a)は側面図、(b)は正面図である。
【図6】一対のスタイレットおよび挿入抵抗減少部材が取り付けられたカテーテルの先端部を示しており、(a)はカテーテルの内部を表した一部断面図、(b)は(a)のb−b断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係るカテーテルセットおよびカテーテルセットの製造方法の一実施形態を図面を用いて詳しく説明する。図1は、同実施形態に係るカテーテルセットAを示している。このカテーテルセットAは、血液透析に使用されるもので、患者の血管に留置されるカテーテル10と、カテーテル10の内部に挿入される一対のスタイレット20(図3参照),25(図5参照)と、挿入抵抗減少部材24(図4参照)と、ガイドワイヤ28とで構成されている。カテーテル10は、図2に示したように、細長いカテーテル本体11と、カテーテル本体11の基端部(図2(a)、(c)の左端部)に連結された接続部12から分岐した2本の分岐管13,14とで構成されている。
【0021】
カテーテル本体11は細長い可撓性の円筒体で構成されており、その内部には、脱血用内腔11aと送血用内腔11bとがカテーテル本体11内を二分する隔壁11cを挟んで形成されている。また、カテーテル本体11の先端部には、脱血用内腔11a側に位置する切り欠き15aと、送血用内腔11b側に位置する切り欠き15bとがカテーテル本体11の軸線回りに180度の間隔を保って形成されている。切り欠き15aは、隔壁11cの幅方向の一方の端部先端(図2(b)の左端部)から隔壁11cの長手方向に沿って基端部側に真っ直ぐ延びたのちに、隔壁11cの幅方向の他方の端部先端側(図2(b)の右端部側)に向かって斜めに延びる略V形の縁部を備えた凹部で構成されている。
【0022】
そして、切り欠き15aの斜めに延びた縁部は隔壁11cの他方の端部先端の手前でカテーテル本体11の軸線に直交するように切り欠かれて隔壁11cの他方の端部に連なっている。また、切り欠き15bは、隔壁11cの幅方向の他方の端部先端から隔壁11cの長手方向に沿って基端部側に真っ直ぐ延びたのちに、隔壁11cの幅方向の一方の端部先端側に斜めに延びる略V形の縁部を備えた凹部で構成されている。そして、切り欠き15bの斜めに延びた縁部は隔壁11cの一方の端部先端の手前でカテーテル本体11の軸線に直交するように切り欠かれて隔壁11cの一方の端部に連なっている。
【0023】
すなわち、切り欠き15bは、カテーテル本体11の軸線回りに180度回転すると切り欠き15aに重なるように形成されており、隔壁11cの先端は、カテーテル本体11の外周部の先端よりもやや突出している。そして、カテーテル本体11における切り欠き15a,15bよりもやや基端側に菱形の側孔16(一方しか図示していない)がカテーテル本体11の軸線回りに180度の間隔を保って形成されている。また、接続部12の内部には、脱血用内腔11aに連通する内腔と、送血用内腔11bに連通する内腔とが形成されている。
【0024】
分岐管13は、接続部12の一方の内腔を介して脱血用内腔11aに連通する内腔を備えた円筒体で構成されており、その基端部には、ルアーアダプター13aが連結されている。また、分岐管14は、接続部12の他方の内腔を介して送血用内腔11bに連通する内腔を備えた円筒体で構成されており、その基端部には、ルアーアダプター14aが連結されている。ルアーアダプター13aの開口側端部の外周にはねじ13bが形成され、ルアーアダプター14aの開口側端部の外周にはねじ14bが形成されている。なお、カテーテル本体11および分岐管13,14は、シリコーンやポリウレタン等の軟質合成樹脂材料からなっており、接続部12およびルアーアダプター13a,14aは、ポリプロピレン、ポリウレタン、ポリカーボネート等の合成樹脂材料からなっている。
【0025】
また、分岐管13,14には、それぞれ分岐管13,14の内腔を閉塞するクランプ17が取り付けられている。このクランプ17は、細長い板状体を屈曲して弾性を備えた略三角形の枠状に形成して、一方の端部側部分の内面に段部からなる係合凹部(図示せず)を形成するとともに、他方の端部にその係合凹部に係合できる係合突部17aを形成して構成されている。また、クランプ17の前後にはそれぞれ分岐管13,14を挿通させるための穴部17b,17cが形成されており、穴部17b,17cに分岐管13,14を挿通させてクランプ17は分岐管13,14にそれぞれ取り付けられている。
【0026】
さらに、クランプ17の内周面における対向する部分には、係合突部17aを係合凹部に係合させたときに、分岐管13,14を両側から押圧してその内腔を閉塞する押圧部17d,17eが形成されている。したがって、係合突部17aを係合凹部に係合させることにより分岐管13,14を閉塞し、係合突部17aと係合凹部との係合を解除することにより分岐管13,14の両端間をそれぞれ連通させることができる。クランプ17は、ポリプロピレン、ABS等の合成樹脂材料からなっている。
【0027】
スタイレット20は、本発明に係る一方のスタイレットを構成するもので、図3に示したように、スタイレット本体21とスタイレット本体21の基端部に設けられた把持部22とで構成されている。スタイレット本体21は、カテーテル10の脱血用内腔11aおよび送血用内腔11bに挿通可能な合成樹脂材料からなる細長い線材で構成されている。このスタイレット本体21の断面形状は、図3(b)(図3(b)は先端側から見た状態を示しているが、断面形状もこれと同じ形状をしている。)に示したように、略半円形に形成されており、その略半円形における円弧状の外周部分の中央に本発明に係る貫通路としての溝部21aが形成されている。この溝部21aは、スタイレット本体21の長手方向に沿って形成されている。
【0028】
また、把持部22は、スタイレット本体21の基端部に連結された把持部本体22aと、把持部本体22aにおけるスタイレット本体21との連結部の外周側で軸回り方向に回転自在な状態で把持部本体22aに取り付けられた円筒ねじ部22bとで構成されている。この円筒ねじ部22bの内周面には、ルアーアダプター13aのねじ13bおよびルアーアダプター14aのねじ14bに螺合可能なねじ(図示せず)が形成されている。
【0029】
挿入抵抗減少部材24は、スタイレット本体21の溝部21a内を挿通可能な長尺部24aと、長尺部24aの先端に形成されたコイル状の被覆部24bとで構成されている。被覆部24bの外径は、カテーテル本体11の外径と略等しくなっており、被覆部24bの内径は、スタイレット本体21の直径(図3(b)に示した直線部分の長さ)と略等しくなっている。また、被覆部24bは、伸縮可能で、収縮したときには略円筒状になる。また、引張ることにより伸長し、その伸長した状態では、カテーテル本体11の脱血用内腔11a内および送血用内腔11b内を挿通可能になる。この挿入抵抗減少部材24は、ナイロン、ポリエチレン、ポリエステル等の樹脂材料で構成されている。
【0030】
このスタイレット20は、スタイレット本体21の溝部21a内に長尺部24aを入れ、スタイレット本体21の先端外周に被覆部24bを被せた状態でスタイレット本体21に組み付けられる。そして、スタイレット本体21の先端部と被覆部24bとを脱血用内腔11aまたは送血用内腔11bの外周側から外部に出した状態で、スタイレット本体21をカテーテル10の脱血用内腔11aまたは送血用内腔11bに挿入することができる。また、円筒ねじ部22bのねじをねじ13bまたはねじ14bに螺合させることにより、スタイレット20をカテーテル10に固定できる。
【0031】
スタイレット25は、本発明に係る他方のスタイレットを構成するもので、図5に示したように、スタイレット本体26と、把持部27とで構成されている。スタイレット本体26は、カテーテル10の脱血用内腔11aおよび送血用内腔11bに挿通可能な合成樹脂材料からなる細長い線材で構成されており、断面形状の縁部が半円状に形成され内部にスタイレット本体26を長手方向に貫通するガイドワイヤ挿通孔26aが形成されている。また、把持部27は、スタイレット本体26に連結された把持部本体27aと、把持部本体27aにおけるスタイレット本体26との連結部の外周側で軸回り方向に回転自在な状態で把持部本体27aに取り付けられた円筒ねじ部27bとで構成されている。
【0032】
把持部本体27aは、スタイレット本体26のガイドワイヤ挿通孔26aに連通する挿通孔(図示せず)を備えた円筒状に形成されており、この挿通孔からガイドワイヤ挿通孔26aにかけてガイドワイヤ28を通すことができる。また、円筒ねじ部27bの内周面には、ルアーアダプター13aのねじ13bおよびルアーアダプター14aのねじ14bに螺合可能なねじ(図示せず)が形成されている。このため、スタイレット本体26をカテーテル10の脱血用内腔11aまたは送血用内腔11bに挿入して、円筒ねじ部27bのねじをねじ13bまたはねじ14bに螺合させることにより、スタイレット25をカテーテル10に固定できる。また、スタイレット本体21およびスタイレット本体26の先端部は、それぞれ脱血用内腔11aと送血用内腔11bとの先端部から突出したときに、双方で先鋭部を形成するように先細り状になっている。
【0033】
ガイドワイヤ28は、予め患者の血管内における所定部分に挿し込まれてカテーテル10を導くために使用されるもので、外径が0.5〜1.0mmのステンレススチールで構成されている。なお、ガイドワイヤ28を血管に挿し込む際には、まず、円筒状の穿刺針からなるカニューレ(図示せず)を患者の体に穿刺してその先端を血管に到達させる。ついで、カニューレにガイドワイヤ28を通し、ガイドワイヤ28の先端部を血管内に挿入する。そして、患者の体にガイドワイヤ28を残したまま、カニューレを患者の体から引き抜いて、そのガイドワイヤ28を利用して、後述する操作によって、カテーテル10の留置が行われる。
【0034】
この構成において、カテーテルセットAを用いて血液透析を行う場合には、まず、製造工程において、カテーテル10にスタイレット20,25および挿入抵抗減少部材24を取り付ける作業が行われる。この場合、図2(a)に示したように、分岐管13,14にそれぞれ緩めた状態のクランプ17が取り付けられたカテーテル10における、例えば、分岐管13のルアーアダプター13aの開口からスタイレット20を先端側から挿入する。そして、スタイレット本体21を脱血用内腔11a内に位置させて、その先端部をカテーテル本体11の先端から突出させる。このとき、スタイレット本体21の外周面における曲面側が脱血用内腔11aの内周面における曲面側に対向し、スタイレット本体21の外周面における平面側が脱血用内腔11aの内周面における平面側に対向する。
【0035】
ついで、カテーテル本体11の先端から突出するスタイレット本体21の溝部21a内に、挿入抵抗減少部材24の長尺部24aを基端側から挿入していく。そして、長尺部24aの基端側部分をルアーアダプター13aの開口から外部に突出させて、長尺部24aにおける基端側部分以外の部分を溝部21aとカテーテル本体11の内周面とで囲まれる部分に位置させる。このとき、長尺部24aは、溝部21aとカテーテル本体11の内周面とで囲まれる部分に、長手方向に挿通可能であるががたつかない程度の状態で収容され、被覆部24bは、スタイレット本体21の先端側に位置する。
【0036】
つぎに、分岐管14のルアーアダプター14aの開口からスタイレット25を、先端側から挿入して、スタイレット本体26を送血用内腔11b内に位置させ、その先端部をカテーテル本体11の先端から突出させる。このとき、スタイレット本体26の外周面における曲面側が送血用内腔11bの内周面における曲面側に対向し、スタイレット本体26の外周面における平面側が送血用内腔11bの内周面における平面側に対向する。ついで、円筒ねじ部27bをルアーアダプター14aのねじ14bに螺合させる。これによって、スタイレット25は、カテーテル10に固定される。このとき、スタイレット本体26の先端部はスタイレット本体21の先端部と、カテーテル本体11から突出する方向において略同じ位置に位置する。
【0037】
つぎに、被覆部24bを、スタイレット本体21,26の先端部に被せながら、長尺部24aの基端側部分を引っ張って、被覆部24bの基端部をカテーテル本体11の開口側端面に当接させるとともに、長尺部24aを弛みのない状態にする。そして、円筒ねじ部22bをルアーアダプター13aのねじ13bに螺合させる。これによって、スタイレット20は、カテーテル10に固定される。また、この際、カテーテル本体11の先端部は、図6に示したようになる。この状態では、カテーテル本体11の先端部とスタイレット本体21,26との間の段差の部分は、被覆部24bによって覆われて比較的滑らかな面が形成される。なお、円筒ねじ部22bには、挿入抵抗減少部材24を挿通させる挿通穴が形成されており、挿入抵抗減少部材24の基端側部分は、この挿通穴を通って外部に延びている。
【0038】
このようにして、スタイレット20,25が取り付けられスタイレット本体21,26の先端が被覆部24bによって覆われたカテーテル10は、前述したようにして、先端部が血管内に挿入されたガイドワイヤ28を利用して、血管に留置される。この場合、患者の体内から延びるガイドワイヤ28の端部を、スタイレット本体26におけるガイドワイヤ挿通孔26aの開口から内部に挿し込んでその端部を把持部27の開口から外部に突出させる。そして、ガイドワイヤ28に沿わせてカテーテル10を、スタイレット20,25および挿入抵抗減少部材24とともに患者の体内に挿し込んでいく。
【0039】
カテーテル10の先端部が血管内に到達すると、円筒ねじ部22bとルアーアダプター13aのねじ13bとの螺合を解除するとともに、円筒ねじ部27bとルアーアダプター14aのねじ14bとの螺合を解除させて、ガイドワイヤ28、スタイレット25およびスタイレット20を順次カテーテル10から引き抜いていく。さらに、長尺部24aの基端側部分を引っ張って、被覆部24bを脱血用内腔11a内で伸長させながら引き抜くことにより、カテーテル10だけを患者の体に残すことができる。つぎに、分岐管13のルアーアダプター13aに血液を吸い出すための透析回路の脱血側を接続し、分岐管14のルアーアダプター14aに浄化された血液を体内の血管に戻すための透析回路の送血側を接続する。
【0040】
そして、透析回路が接続された透析装置を作動させて血液透析を行う。この場合、血管内の血液は、脱血用内腔11aから抜かれて透析装置で浄化されたのちに、送血用内腔11bから血管内に戻される。この際、脱血される血液の一部は、カテーテル本体11の脱血用内腔11a側に設けられた側孔16を通過し、送血される血液の一部は、カテーテル本体11の送血用内腔11b側に設けられた側孔16を通過する。
【0041】
このように、本実施形態に係るカテーテルセットAは、脱血用内腔11aと送血用内腔11bとを備えたカテーテル10と、一対のスタイレット20,25と、挿入抵抗減少部材24とを備えている。そして、スタイレット20の外周部には、軸方向に沿って延びる溝部21aが形成され、挿入抵抗減少部材24は、スタイレット20の溝部21aに挿通可能な長尺部24aと、スタイレット20,25の先端部を覆うことのできる被覆部24bとで構成されている。このため、カテーテル10の脱血用内腔11aと送血用内腔11bとにそれぞれスタイレット20,25を挿入するとともに、スタイレット20の溝部21aに長尺部24aを挿入して、カテーテル10の先端部から突出するスタイレット20,25の先端部分に被覆部24bを被せることによりカテーテル10の先端とスタイレット20,25との間の段差をなくしたり小さくしたりすることができる。
【0042】
このように、カテーテル10の先端の段差がなくなったり小さくなったりすることにより、カテーテル10の挿入性が向上する。また、挿入抵抗減少部材24は、可撓性を有しているため、カテーテル10を患者の体内に留置したのちに、カテーテル10から挿入抵抗減少部材24を抜き取る際には、長尺部24aを引っ張ることにより、被覆部24bを順次伸長させて長尺部24aとともに抜き取っていくことができる。また、スタイレット25には、ガイドワイヤ28を通すためのガイドワイヤ挿通孔26aを形成したため、ガイドワイヤ28を用いて、カテーテル10を患者の体に挿入することができ、これによって、カテーテル10を留置する操作をよりスムーズに行える。
【0043】
本発明に係るカテーテルセットは、前述した実施形態に限定するものでなく、適宜変更して実施することができる。例えば、前述した実施形態では、貫通路を、スタイレット20の外周部に形成した溝部21aで構成しているが、この貫通路は、スタイレット20の内部に形成してもよい。この場合、貫通路の先端側開口をスタイレット20の先端よりもやや基端側の外周面に位置させる。これによって、被覆部24bでカテーテル本体11の先端部とスタイレット20,25との間の段差部分を被覆し易くなる。
【0044】
また、前述した実施形態では、被覆部24bが脱血用内腔11aや送血用内腔11bの内部を挿通できるようにしているが、溝部21a内も挿通できるようにしてもよい。特に、前述したように、貫通路をスタイレット20の内部に形成した場合には、被覆部24bが貫通路を挿通できることが必要になる。この場合には、カテーテル10から挿入抵抗減少部材24を抜き取ったのちに、スタイレット20,25を抜き取る操作が行われる。さらに、カテーテルとしては、前述したカテーテル10に限らず、種々の形状をしたものを用いることができる。
【符号の説明】
【0045】
10…カテーテル、11a…脱血用内腔、11b…送血用内腔、20,25…スタイレット、21a…溝部、24…挿入抵抗減少部材、24a…長尺部、24b…被覆部、26a…ガイドワイヤ挿通孔、28…ガイドワイヤ、A…カテーテルセット。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の内腔を備えたカテーテルと、先端部を前記カテーテルの先端開口から突出させた状態で前記カテーテルの一対の内腔にそれぞれ挿入される可撓性を備えた一対のスタイレットと、前記一対のスタイレットの先端部を覆うことができる可撓性を備えた挿入抵抗減少部材とからなるカテーテルセットであって、
前記一対のスタイレットのうちの一方のスタイレットの外周部または内部に、前記一方のスタイレットの軸方向に沿って延びる貫通路を形成して、
前記挿入抵抗減少部材を、前記一方のスタイレットの貫通路に挿通可能な長尺部と、前記長尺部の先端に連結され前記一対のスタイレットの先端部を覆うことにより前記カテーテルの先端と前記一対のスタイレットとの間の段差を小さくするコイル状の被覆部とで構成し、
前記被覆部を前記カテーテルの先端側に位置させて前記長尺部を前記カテーテルの内腔に挿入した状態から前記長尺部を前記カテーテルの基端側に引っ張ったときに、前記被覆部が伸長して前記カテーテルの内腔を挿通可能になることを特徴とするカテーテルセット。
【請求項2】
前記一対のスタイレットのうちの他方のスタイレットに、ガイドワイヤを通すための挿通孔を、前記他方のスタイレットの長手方向に沿って形成した請求項1に記載のカテーテルセット。
【請求項3】
前記一対の内腔が脱血用内腔と送血用内腔とであり、前記カテーテルが血液透析用のカテーテルである請求項1または2に記載のカテーテルセット。
【請求項4】
一対の内腔を備えたカテーテルと、前記カテーテルの内腔にそれぞれ挿入される可撓性を備えた一対のスタイレットと、前記一対のスタイレットの先端部を覆うことができる可撓性を備えた挿入抵抗減少部材とからなり、前記一対のスタイレットのうちの一方のスタイレットの外周部または内部に、前記一方のスタイレットの軸方向に沿って延びる貫通路が形成されたカテーテルセットの製造方法であって、
前記一対のスタイレットの先端部を前記カテーテルの先端から突出させた状態で、前記一対のスタイレットを前記カテーテルの一対の内腔にそれぞれ挿入するスタイレット挿入工程と、
前記挿入抵抗減少部材を、長尺部と、前記長尺部の先端に連結されたコイル状の被覆部とで構成し、前記長尺部を前記一方のスタイレットの先端側から前記貫通路に挿入して、前記被覆部を前記カテーテルの先端から突出する前記一対のスタイレットの先端部に被せることにより前記カテーテルの先端と前記一対のスタイレットとの間の段差を小さくする被覆工程とを備え、
前記被覆部を前記カテーテルの先端側に位置させて前記長尺部を前記カテーテルの内腔に挿入した状態から前記長尺部を前記カテーテルの基端側に引っ張って前記被覆部を伸長させたときに、前記被覆部が前記カテーテルの内腔を挿通可能になるようにしたことを特徴とするカテーテルセットの製造方法。
【請求項5】
前記一対のスタイレットのうちの他方のスタイレットに、ガイドワイヤを通すための挿通孔を、前記他方のスタイレットの長手方向に沿って形成した請求項4に記載のカテーテルセットの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−259570(P2010−259570A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−111910(P2009−111910)
【出願日】平成21年5月1日(2009.5.1)
【出願人】(000228888)日本シャーウッド株式会社 (170)
【Fターム(参考)】